非公開 だから殺した。

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1人目

その骨董品屋はこの町に馴染めていなかった。
新しいビルやマンションがたくさん立つこの東京では異質な存在となっていた。
けどそんなこの店が好きだった。自分みたいだなって思ったから。

2人目

けれどある日、黒いサングラスをかけたスーツの男が3人ほどやってくると、骨董品屋の店先でガンガン音楽を鳴らし始めた。
近所の人や通行人は、一瞬だけ振り返っても、ガラの悪い男たちに怯えて目をそらす。たちまち店に客が寄り付かなくなった。
それでも嫌がらせはまだまだ続いた。シャッターに落書きをぺたぺた貼られたり、動物の糞が店先に置かれることもあった。
店主のお爺さんは困った顔一つせずそれらを片付けた。僕はそれを、いつもビルの陰から見ていた。
けれどそんな事が何週間も続く内に、お爺さんは寝込んでしまった。

3人目

僕もサングラスの男たちの嫌がらせを傍観するだけの一人だった。
かわいそうだと思ったけれど僕にはどうすることも出来ない。
会社からの帰りにチラリと見ると、お爺さんが片付けなくなった店は荒れ果て、嫌がらせはエスカレートしているようだった。もうじきこの店はつぶれるだろう。

次の日、会社で横領が発覚した。
僕は濡れ衣を着せられ会社をクビになった。
会社に未練はない。今まで無視されたり物を盗られたりしていたからかえって良かったかもしれない。
でも、じきに僕は逮捕される。
何もしていないのに、
理不尽だ。

4人目

乱暴な手つきでネクタイを緩めるように、昨日までかろうじてバランスをとっていた「日常」は崩れていった。
理不尽という目には見えない重圧に押しつぶされてしまう。
街を歩いていると、例のサングラスの男たちの一人が向こう側からやって来た。
顔を合わせないように視線をそらす。
窓ガラスに映った自分の情けない姿を見て、ふと、自分は何に怯えているのだろうと思った。
骨董品屋のように、馴染めない存在が淘汰される世の中で。
こんな理不尽な世界で、僕にできることがまだあるのなら。
この手で、守りたかったんだ。

5人目

守りたかった。守れなかった。なんで。
俺は真面目に生きてきたのに。なんで俺だけ理不尽な目にあうんだろう。こんなのおかしい。
おかしいに決まってる。


【本日午後三時 東京のスクランブル交差点にて爆破事件が起きました】



「なぜこんなことをした!」

顔を真っ赤にした中年の男が大きな音を立てながら机をたたいた

「え? だっておかしいでしょ俺だけ理不尽なの。

だから、

だから殺した。」