猪子槌
あの事故から0:00を過ぎると気を失う。俺は30代で盗みで生計を立ててる。親ももういない。生きている価値がないだろう俺がまた病院の世話になるわけにはいかないので。検査しに行くことは無かった。
たまたま週一の買い出し時に居眠り運転の車と衝突した。生きていたが何かしらの後遺症が残るかもと言われ検査の日々に嫌気がさして、もういいですと医者の提案を断り家に帰ってきて1週間がたった今、こんなこと身体になった。
ピンポーン!
インターホン?ドアを開けると知らない女がいた。誰だ。俺に用があるやつなんて警察ぐらいしかいないはずなんだけどな、
「こないだの夜は助けてくれてありがとうございました。」
俺が助けた?何を言っているんだこいつは。人違いだと不愛想に伝え反応が返ってくる前にドアを閉めようとすると、待って!と足を入れてきた。
「これ、返しに来たんです。。」
見覚えのない女はポケットから見覚えのあるものを取り出した。
「え、なんで持ってんの、、」
小さく華奢な彼女の手には黄色い熊のキーホルダーがついた。俺んちのカギがあった。
いつも鍵が置いてある場所を見ると、確かにカギが見当たらない。状況を飲み込めないままとりあえず、カギを受け取った。
「どうも」
「よかったです、では」
女はそそくさと背を向けて帰ろうとしている。俺はちょっと待ってと呼び止めた。こんな真夜中に一人で帰らすわけにはいかない。せっかく俺んちのカギを届けに来てくれたのに。いや待てよ、俺はもしかしたら被害者かもしれないぞ、この女は俺が気を失ってる間にきた泥棒かもしれない。
「まあ、こんな時間だしよかったらうちに泊まっていけば?」
と言うわけで女は俺の家のソファーに今座っている。
「料理上手ですねっ」
俺が明日の朝食のために余分に作っておいたパスタを頬張ってる。なんなんだこの人は。