プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:9

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1人目

「Prologue」

 双方共に死力を尽くしたエタニティ・コア防衛戦は、
ウルトラマントリガー/マナカ・ケンゴの復活を以って決着となった。
しかし、その裏では皇帝ジークジオンとの同盟関係を結ぶ竜王、
特異点にて成長を続ける完成型神精樹の破壊に総力戦を挑むカルデアなど、
息もつかせぬ激動の展開が続いていた。

 完成型神精樹聳える特異点に足を踏み入れたのは、カルデアだけではなかった。
「月に舞う魔人」サイクス、「有り得ざる復讐者」罪木蜜柑・オルタ。
「海賊狩り」ロロノア・ゾロ、「天元の花」宮本武蔵。
明確なる目的を持ってこの地に訪れた者、望まぬままに特異点に引き寄せられた者達……

 サイクスと罪木は世界の歪みを正す、
「均衡の守護者(ニュートラル・ガーディアン)」の使命を帯びていた。
即ち、世界の滅亡と混沌をもたらす事を使命とする禍津星穢の属する一団とは
決して相容れぬ天敵同士なのである。

 エタニティ・コア攻略に失敗したDr.ヘル一味。その体たらくに、
冷ややかな視線を向けるキャスター改めアルターエゴ・リンボは
ジェナ・エンジェルとのコンタクトを取り、新たなるコネクションを
構築しようとしていた。そして、丸喜拓人は完成型神精樹に別の価値を見出し、
ストロング・ザ・武道もまた、丸喜の悲願達成に協力する事を誓うのであった。

 リ・ユニオン・スクエアでは、さらなる強さを求めて
日向月美とペルフェクタリアが悟空とピッコロに修行をつけてもらっていた。
修行の最中、騎士ガンダムやルフィと言った別世界からの来訪者を
元の世界に戻すためのワームホール研究に没頭していたブルマの元に、
謎の集団が現れたとの連絡が入った。
味方であれば良いが、新たなる侵略者であったのなら一大事だ。
悟空は一路、常磐ソウゴを伴ってカプセルコーポレーションへと瞬間移動する。

 ワームホールを潜って現れたのは、機界戦隊ゼンカイジャー。
全並行世界を支配しようと企んだトジテンド王朝を討ち滅ぼしたスーパー戦隊だ。
サポートメカ、セッちゃんが持つ並行世界を飛ぶ機能と
ブルマのワームホール発生装置が同調してしまい、リ・ユニオン・スクエアに
招き寄せられたのだと言う。行き違いの誤解からベジータとの戦闘に
発展しそうになるものの、トジテンドの残党戦闘員・クダックを協力して撃退する事で
何とか事なきを得る。

 ゼンカイジャーの並行世界を移動する能力があれば、
キン肉マンや東方仗助が閉じ込められている特異点へ行く事も出来るのではないか?
と言う推測に行き着いたCROSS HEROESは早速行動に移る。
その結果、特異点がリ・ユニオン・スクエアを侵食し、やがては完全に破壊される可能性が
明らかとなった。

 セルに追われるウーロンを救出するブロッケンJrたち。
そんな正義超人たちを昏倒させ、連れ去ろうとする人造人間21号と共謀する
スカルフェイス。
希望ヶ峰学園爆破事件に暗躍するエミヤオルタ。
事件の謎を追うⅩⅢ機関の1人「旋風の六槍」の名を冠する男、ザルディン。
爆破事件に巻き込まれ、病院に搬送された少女、西園寺日寄子の前に現れる
悪のカリスマ、ジェームズ・モリアーティ。
かつてMSF(国境なき軍隊)に所属していたカズヒラ・ミラーの救出へと向かう
ヴェノム・スネーク。
クォーツァーの足取りを追ってリ・ユニオン・スクエアに向かう最中、
特異点へと呑み込まれてしまったタイムパトローラー・トランクス。
事態は、さらなる深淵へと突き進んでいく。

 いよいよ、これまで数多くの事件を引き起こしてきた元凶である
特異点へと足を踏み入れたCROSS HEROESの前に、
ストロング・ザ・武道、クォーツァーの王・常磐SOUGOが出現。
各勢力のトップが一同に集う。

 仮面ライダーディケイドに完勝した仮面ライダーバールクス。
テリーマンを圧倒したストロング・ザ・武道。
果たして、この強大過ぎる敵を相手に、戦力を分断されたCROSS HEROESは
勝てるのであろうか……!?

2人目

「聖杯戦記:開幕/幻肢:序章」

現在、正義超人軍団が立ち向かうべき壁は二つある。
一つは消息を絶ったロビン達の救出。
そしてもう一つの壁は、今まさにテリーマン達の眼前へと立ちはだかっている。
ストロング・ザ・武道、その人であった。
改めて相対して分かる、武道の凄まじいまでの気迫と圧力に、テリーマンは思わず息を呑む。
それは、かつて戦った時とはまた違った種類の、言わば覚悟の決まったプレッシャーであった。
あの時よりも強い、それは実力や意志だけでは無い物から来ていると思うと、テリーマンの背筋に悪寒を走らせ、一筋の汗さえ流させる。
だが、それでも。
「ふぅー…さぁ、来い!」
一瞬の震え、否、武者震いを見せた後、テリーマンは自然と笑みを浮かべていた。
(…この男もまた、己が命を賭けている。)
対する武道も、テリーマン達正義超人軍団の持つ覚悟に対し、一種の敬意を抱いていた。
特にテリーマンは先の戦いの傷が癒えておらぬ身である筈。
にも拘らずこうして明確な格上への挑戦に打って出る闘争心には、嘗ての超人達とは全く違う物を見出していた。
それこそ、かつて自分を超えさせようとした弟子達と同じ様に…
「ならば、此方もそれに応えねばなるまい。」
言うなり、一歩踏み出す武道。
たったそれだけで発せられる殺気に、テリーマンは無意識に警戒レベルを上げる。
だが、次に武道の放つ言葉は、彼の予想を上回った。
「_集え、完璧・無量大数軍よ!」
突如として彼の足元から湧き上がる様に出現した無数の人影、それは全て超人。
一体、どれ程の実力の超人を持っているのか?
驚愕し身構えるテリーマンであったが、その顔色はすぐに改められた。
何故なら現れた超人達は皆、全身を黒い布で覆われており、表情どころか性別すらも判別できなかったからだ。
そして何より異様な雰囲気を放っていたのは、その内の一人一人が持つ構えであった
一つだけ確実に言える事があるとすれば、一人一人から感じ取った力の一端だけでも、これまで戦ってきた敵の誰よりも圧倒的であり、且つ強力であるという事だ。
ぶ厚い布越しに伝わるその威圧感に。
それでも。
「掛かってこないなら、此方から行くぞ!」
それでもテリーマンは怯まなかった。
敵が何であれ、今の自分には仲間がいる。
どんな存在であろうが今の自分に出来る事は只管全力で戦うのみ、そう思い至り駆け出した。
「ウォウォーンッ!」
第一にマントを翻し立ちはだかるは、猟犬の如き風貌の超人。
「『完牙』ダルメシマンが相手をしてやるーっ!!」
その姿に違わぬ敏捷な動きで、テリーマンへと牙を剥く。
ダイヤの如き光沢を放つ凶器が、テリーマンへと突き立てられる…その寸前だった。
「アパッチのおたけびーーーっ!ウララララーーーー!!!」
「ウォ、ウォーーーン…!?」
ジェロニモの叫びを受け、空を食いしばるダルメシマンの歯。
間髪入れず、ジェロニモがテリーマンとダルメシマンの間に立ち、宣言する。
「お前の相手はオラだ!」
「小癪な奴め!」
嘗てのタッグ戦で侵した味方の見殺しの汚名を注がんと、ジェロニモがテリーマンの背を任せる。
「シュホー…ならば、『完遂』ターボメンが相手になろう!」
第二に立ち塞がるは、黒い光沢に身を包んだ鋼の超人、ターボメン。
腕に纏うリボルバーフィンからトゲを突き出し、テリーマンを刺し抉らんと迫る。
「アチョーーーッ!」
「ぬぅ!?」
しかし、これもまたテリーマンを眼前にして防がれる。
リボルバーフィンの中心へと正確に蹴りを撃ち込むは、誰あろうラーメンマンだ。
「ここは私が相手になろう。」
「良いだろう、シュホー!」
テリーマンとの距離を置き、改めて対峙する二人。
その間に割って入る様に、第三の壁が立ち塞がった。
いや、壁と言うには余りにも巨大すぎる。
「『完掌』クラッシュマン!貴様の相手はこの俺だーっ!」
マントを内から破って開かれた鋼鉄(くろがね)の巨腕。
彼の者の背中を覆って余りある、檻とも言うべきそれが、テリーマンを掌握せんとする。
「どぉーすこぉい!!」
「ぐぬぅーー!?」
だが、届かない。
風よりも早い寄り身にて金剛力を奮い、その腕を真正面から受け止めるは横綱超人ウルフマン。
「どきな、このウルフマンが相手になるぜ!」
「…良いだろう。その力、握りつぶしてくれる!」
鋼のパワーが今、ぶつかり合う。
「…グロロ~、一切振り向かずに進んでくるとは、それが友情か。」
「あぁ、これが貴様を倒す、俺達の培ってきた友情そのものだ!」
そして対面する、テリーマンと武道
かくして四者激突を果たす。
テリーマンは己が信じる正義を貫く為、その身を震わせて駆けた。
それは友情、その証明の為に一切振り返らず、自らの使命以外全てを信じる友に預けて。
対する超人達もまた、己が信ずる完璧の信念の元、全力で拳を振り上げる。
「ならばどちらの信念が真の正義か…」
「あぁ、この拳で決めてやるとしよう!」
正義対完璧、その火蓋は今斬って落とされた。

同時刻、リ・ユニオン・スクエア某所上空を駆ける2機のヘリ。
片側には再び悪魔超人として裏返ったバッファローマンと、シャラシャーシカの異名を持つリボルバー・オセロット。
「なぁ、横についてるヘリって味方なのか?」
「あぁ。」
そしてもう片側には、ウーロンとスネークを乗せたヘリ。
彼等が向かう先は、ウォーズマンのSOS信号が最後に発せられた場所。
奇しくもそれは、カズヒラ・ミラーが捕らえられていると思われる地域と一致していた。
現在、カズヒラ・ミラーが消息を絶った場所からやや離れた地点で待機をしていた。
彼等はその地の住民でも兵士でもない、言わば敵性人なのだから当然である。
一旦安全な近くの岩場に降ろした後、徒歩で目的地まで行く手筈となっている。
しかし…
「なぁ、やっぱり引き返した方が良いんじゃねぇのか?」
降り立って早々、ウーロンは顔をしかめながら言った。
無理もない、変化という特異な能力こそ持ち合わせるものの、ウーロンそれ自体の精神は未熟者に近いそれだ。
それ故、今の彼は罠かもしれないこの状況に、得体の知れない恐怖を抱いていた。
何せついさっきまでは、平和な国で平和に暮らす一般人だったのだ。
そんな彼も、今は訳あって悪魔の仲間入りだ。
本来なら、先の戦いの中でさえ怯えてしまう程、脆弱であったにも関わらず…
どうしてこんな事に、そう頭で抱え込むウーロンを、スネークは嗜める。
「怖気づいたなら、ヘリで待ってても構わないぞ。最も、何かあっても駆け付けられるか分からんがな。」
一瞬安堵した直後に、ヒェッと喉から枯らした声を発するウーロン。
そんなウーロンを横目に、スネークはヘリを降りていく。
「ま、待ってくれよ~!」
ウーロンもまた、ダイヤモンドの虜だった。

3人目

「悪辣、旋風、数理/鉄心」

特異点に多くの戦士や悪党が集中し、手薄になったはずのリ・ユニオン・スクエア。
しかして、ここにも多くの謎と、それを解決する為の人物が残っている。
そして、ここ「リ・ユニオン・スクエア中央病院」にも。

~中央病院~
「君がゆっくりと眠っている間のことだ。希望ヶ峰学園はエミヤ・オルタという男によって、爆破された。
いや、正確には爆破したのは彼に脅された苗木誠という少年なのだが、爆破の真犯人は彼だと思ってもらってもいい。
とにかく、君と希望ヶ峰学園の生徒たちの生き残りには、この事件の解決を手伝ってもらう。」

せめて弔いとして、この事件を解決する。
それが生き残った者の使命。

「……1つ聞いてもいい?その、エミヤ・オルタ以外にも仲間はいるの?」

「ああ、いる。むしろ彼らこそが君たちにとっての真の敵だ。学園を爆破し、多くの犠牲者を出した者の現在の所属がそこだ。つまり、君たちの敵だと思っていい。
そして、私は彼らの学園爆破の動機と本拠地の位置はわかっている。」
驚愕する西園寺をよそに、モリアーティは淡々と答える。


彼らの本拠地はリ・ユニオン・スクエアの裏にあると噂される「存在しなかった世界」。
元々この世界は、ノーバディと呼ばれる強い意志を持った人ならざる者たちの支配領域だったのだが、
光とでも呼べる存在によって悉く倒され、消滅した。

されど、ノーバディそのものの記録は並行世界の証明により復元され何体か現界。
これにより存在しなかった世界に出現したノーバディの手により「有り得ざる救世主」が降誕した。
その「有り得ざる救世主」と呼ばれるものの正体は私にもわからない。

___だが、私は突き止めた。
この「有り得ざる救世主」こそが、今回の希望ヶ峰学園の爆破を目論んだ、と。

何しろ存在しなかった世界はリ・ユニオン・スクエアの裏側にあり、
リ・ユニオン・スクエアに存在する希望ヶ峰学園はあらゆる方向性での天才の卵たちがいる。
自身の正体をつかませないためにも、天才児の集いたる希望ヶ峰学園生徒の存在は邪魔だったのだろう。


「有り得ざる救世主……理由もわかった。だとしても、いったい何の目的があって私にそれを教えたの?」
その質問に。

「先ほども言ったはずだが、少なくとも君には戦ってもらう。君たちもやられっぱなしは癪だろう?」
何かを考えこみ、うつむく西園寺に救いの手を差し伸べるような声で、若き悪のカリスマは語る。

「もちろん君1人だけではどうにもならん。我々も協力する。同じ悪党同士だ、握手でもしようじゃないか。」
甘言を吐き、手を差し出すカリスマ。

「嫌だ。誰があんたみたいなおっさんなんかと。」
ベッドの上で西園寺はぶつぶつと、悪辣な一言を言う。

「君とはそこまで年の差はない気がするがネ!」
ショックだったのか、声を上げるモリアーティ。

「ははは、そんな矮躯の女に言われるとつらいようだな。同志モリアーティよ。」
病室のドアを開け、黒コートを身にまとった男が入ってきた。

「ザルディンか。西園寺よ、奴が貴様を瓦礫の山から救い上げた恩人だ。礼の一つでも言ったらどうだ?」

「え?こんなムサい男が?」

「ムサいって……。」
「はは、言われたなザルディン。」

西園寺の暴言で顔に手を当てるザルディンを笑うモリアーティ。
その時だ。

ズズゥ・・・・・・ンン……。
激しい振動。その実は地震ではない。
明らかに病院への攻撃。

「おっと、時間切れのようだ。外を見てみるがいい。」
「なるほど。もう生存者を嗅ぎつけてきたか。」
ザルディンの指示で、外を見る。

「あれは、50はいるな。」

___外には、無数の兵士が。
目視できる限りでも50人はいる。

蜂の意匠が施されたヘルメット。
マシンガン、スタンロッド、ロケットランチャーといった装備。
1999年の新宿特異点で「雀蜂」と呼ばれた兵士が、軍を率いてやってきてしまった。

「どうやら、ここでぐちぐち言っている暇はないようだ。そこで待っていろ。」

そうして、若き悪のカリスマと旋風の六槍は病室より出陣した。

~中央病院1F 待合室~

モリアーティとザルディンが到着したころには、すでに惨劇の後だった。
転がるは肉片と亡骸。人の形をした肉塊。
周囲には、その死肉を喰らう虫が如く、兵士「雀蜂」のうち15人ほどが進軍してくる。

そして、それを率いるは。
「ほう、もう会うことはないかと思っていたが、早く出会ってしまったか。」

バン! バン!
2発の銃弾が放たれる。
そして、あの拳銃の形と冷徹なまなざし。間違いない。奴だ。

「奴が学園爆破を命令した『エミヤ・オルタ』で間違いないんだな?モリアーティ。」
こくり、と頷くモリアーティ。

その一言で、ザルディンは武器を顕現させる。
疾風と共に顕現するは、6本の槍「竜牙閃」。

モリアーティも、自分が持つ計算尺「スライドルール・ウェポン」を起動させる。
起動した計算尺の、ランプのような部位が蒼く輝きだす。

彼らの在り方を見たのか、それとも生徒が今以て生に執着する姿に対してなのか、鼻で嘲笑するエミヤ・オルタ。
「くだらん。死にかけの生徒数人の命の犠牲で、世界はより良くなるというのに。……それに、悪のカリスマが人助けとは随分と堕落したな。」
「生憎と、今回の私は中立でね。悪事はまたの機会に、だ。」

黒い槍使いと悪の裁定者が並び立つ。
相手は嗤う鉄心。最小犠牲で最大幸福を目論む、錆びた正義の果て。

悪と正義の戦いが、ここでも始まった。

4人目

「幻肢:本章」

リ・ユニオン・スクエアの某所、むせかえる程の土埃が舞い散る、乾いた岩場の荒野。
日照の乏しい薄暗い空に、灰色の雲が低く垂れこめている。
風は止み、ただひたすらに陰鬱な空気だけが辺りを支配しているその世界に、2人の男が現れる。
先頭を行く男は、西部劇にでも登場しそうな姿をした、赤いスカーフを口元に巻いた男。
他の誰でもない、リボルバー・オセロットである。
その後に続くのは、カウボーイハットを被った、長身の男。
こちらもまた、カウボーイ姿をボロ布のマントに包んだ、ヴェノム・スネークであった。
「へっくし!ったく、勢いで俺までこんな所についてきちまったぜ…」
そんな彼の後ろでくしゃみをするのは人型の豚、ウーロンだ。
周囲を見渡すと、そこは、かつて戦場となった場所だった。
今や見る影もなく荒れ果てた大地には、無数の岩山と、僅かばかりの遺跡があるばかり。
それはかつての世界戦争によって破壊された街であり、この場所こそがその名残りとなっていたのだ。
あの時の戦いからとうに数十年、復興も進みつつあるこのご時世において、この場所だけは未だ手付かずのまま放置されている。
その理由としては、ここが未だに危険地帯として指定されている事が挙げられるだろう。
先の大戦で使われた対人地雷の残り、ゲリラ崩れの残党、そしてそれらに対抗する軍人…
そういった者達がまだこの地に潜んでいる可能性が高く、迂闊に立ち入る事が出来ないからだ。
しかし、そういった地にこそ隠されているものがある。
例えばそう、かつて世界的な私設武装組織の副リーダーだったとされる人物。
「ホントにこんな所にいるのかよ?何もねぇ荒地だぜこりゃ。」
「間違い無い、この近くで収容されている情報を得ている…見えてきたぞ。」
2人が話しているうちに、荒野の彼方に小さな村落が見えてきた。
小さな、と言えども住宅街と呼べる程に住宅の立ち並んだものであった。
そして何より特徴的なのはその外観で、屋根の代わりに鉄板が敷かれていたり、壁の一部が崩れて中が剥き出しになっていたりと、まるで廃墟のような有様をしていた。
どう見てもまともな村ではない事は確かだが、それでも一応は人の住んでいる場所であるらしい。
最も、まともな住民は軍服に身を包み武器を持ち歩いて周囲を警備する、なんて真似はしないのが常識だが。
「おい見ろ、めちゃくちゃ警備されているじゃねぇか!」
双眼鏡でその光景を見ながら取り乱すウーロンに対し、スネークは無言のまま銃を構える。
「おいっ!?まさか撃つ気なのか?」
慌てる彼を尻目に、スネークは引き金を引く。
するとサプレッサー越しに乾いた音と共に銃弾が発射され、村の入口に立つ警備員らしき男の頭へと真っ直ぐ弾丸が撃ち込まれ、男は倒れ伏す。
ウーロンの顔が蒼白に染まっていく。
「ひぃぃ…!こ、殺し…!?」
「安心しろ、麻酔銃だ。」
へっ?と呆然とするウーロンに双眼鏡を押し付け、再度男の状態を見せつける。
そこに出血の跡は無く、緩やかに膨張と縮小する肺の動きを見て、彼が眠らされただけという事が分かった。
びっくらこいて腰の抜けたウーロンを余所に、オセロットが言う。
「近くには敵兵はいない、他から視線が通ってない今がチャンスだ。」
その言葉を聞いたスネークとバッファローマンが、ウーロンを連れてそそくさと男の元へと駆け寄る。
「お、おい?その男どうする気だよ?」
「今のうちに隠す。それよりお前、コイツに変化出来るか?」
「へ?そりゃ本人見てりゃ楽勝だけどよ…俺に何をさせる気だ?」
また前みたいな逃走劇は御免だぞ、と念入りに釘指しするウーロンに、何、大したことじゃないさと返すスネーク。
「ひとつ、陽動をして貰うぞ。」

この村落には、重要人物が収容されている。
具体的な内容を知る者こそ少ないが、噂によれば世界を救った英雄だとかなんとか。
そんな訳だから、当然警備も厳重である。
2人ペアを基本的とした巡回部隊、要所に設置された高台、サーチライト。
それが村の規模に合わせてそれぞれ数か所配置された要塞だ。
そんな場所に忍び込むというのは、正に命知らずの大馬鹿野郎共くらいなものだろう。
だからこそ、こんな場所に『サメ』が現れた等という報告があった時は噴飯物であった。
ここはオアシスもろくにない荒野であって、間違っても海洋生物が現れる場所ではない。
ついでに報告者がその大馬鹿野郎かどうか疑ったが、複数人の目撃証言もあるという。
次いで聞こえた銃声を追って外へ出れば、確かにそこには『サメの背びれ』らしきものが地中を這いまわり、我々の村を縦横無尽に駆け巡って兵士達を脅かしている光景が見えた。
頬を抓る、痛い。
畜生、俺も大馬鹿野郎の仲間入りらしい。
B級サメ映画のキャストにされた俺達は、ただひたすらに『サメの背びれ』目掛けて銃弾を撃ち込み続けた。
奴も銃弾を脅威に感じているのか、周囲の住宅を掻い潜り盾にしながら、兵士達の足元を掬ってくる。
小賢しくも素早いそれには中々当たらなかったが、仲間が当てたと思わしき『夥しい数の傷』がある、その内落ちるだろう。
そう思っていたのだが、
「……あれ?あいつどこ行った?」
ふと見渡せば、『サメの背びれ』の姿が無い。
一瞬倒せたのかと思ったのだが、あれだけの大暴れをしておいて、簡単にくたばる玉とは思えない。
「…っ!?」
そう思い何処に行ったのか探していた俺は、背後から近寄る『奴』の足音に気付くのが一瞬遅れた。
その一瞬で背中からピッタリと組み付かれ、首元にナイフを当てられた俺は生殺与奪の権を握られた。
間抜けな話だ、冷静に考えれば、先のサメ騒ぎは分かりやすい陽動であっただろうに。
『兵士の1人』が執拗に「サメが出た」と騒いだが故に、すっかり気分もB級サメ映画にのめり込んでいたらしい。
コマンダーたる俺らしくも無いと猛反する間もなく、奴はナイフの刃先を頸動脈に当て、言う。
「カズヒラ・ミラーは何処だ?」
どうやら、俺の負けらしい。
素直に喋った後、首に掛かる猛烈な圧力を最後に、俺の意識は途絶え…
次に気付いた時、俺は、天国の外側(アウターヘブン)にいた。

「悪魔殺法デビルシャーク、こんな使い道があるとはな。」
「あんな手に掛かるとか、映画の見過ぎだろ。よっぽど暇だったんじゃねぇかな?」
一仕事終えたバッファローマン達が、人気の無い村の外れで話し合う。
3人が背中に抱え込むのは、カズヒラ・ミラーと、一緒に囚われた正義超人達。
ロビンマスクとウォーズマン、そしてブロッケンJr.であった。
「しかし悪魔に寝返ったっつっても、結局助けるんだな。」
「…成り行きで助けただけだ。」
ウーロンの言葉に、双肩に抱え込む意識の無いロビンとウォーズマンを軽く叩きながら、バッファローマンはそう言う。
「なんでぇ、結局根は…」
「ウーロン、それまでにしろ。」
茶化そうとするウーロンを、スネークは戒める。
「奴には奴なりの理由がある。」
「…へいへい。」
分かった分かったと言わんばかりに口を閉じ、ブロッケンJr.を運ぶ事に専念するウーロン。
そしてカズヒラ・ミラーをも抱えて帰路に付くスネーク達。
その前方に霧が迫っている事には、今はまだ誰も気付かなかった。

5人目

「解き放たれた狂釼」

___神精樹を伐採する?バカめ。そんなことできるわけがない。
あの規模までに成長してしまった以上、伐採は不可能だ。
今特異点にいる連中が何らかの形で結託し攻撃を仕掛けたとしてもできないだろう。
しかし現実問題として、世界を少しずつ浸食してしまっている以上、
我々のいる世界までも浸食されるのは困る。
なら、どうするか。

___オレが思うに、だ。
あの樹は惑星やそこに住む人間のエネルギーを吸収して成長する。
ならば、そのエネルギーに「穴」を開けることはできるだろうか?
或いは、そのエネルギーを______。

_____それがいい。
奴らにも都合がいいし、何より100%の善意によるものだ。
誰も我々の真意には気づかないし気づけない。

では、行こうか。
「永枯勢衰」の時間だ。

~中央病院にて~
エミヤオルタの放つ弾丸。それは全て通常のライフル弾のそれを超越する。
そんな威力の弾丸が何発も何発も放たれるのだ。
周囲の壁やフェンス、小道具から死体まですべてを破壊していく。

「奴らは……外か。」

エミヤオルタが外を見る。
外では雀蜂とリ・ユニオン・スクエアの機動隊が戦闘を行っている。
とてもここへは来れそうにない。

「よそ見している場合か?」

ザルディンが6本の槍を射出する。
風の加護により、その速度はスナイパーライフルのそれよりも、早い。

「下らん。」

放たれた槍を回避し、攻撃を仕掛けようとする。

槍、それも投擲による攻撃には弱点がある。
一度放たれた槍は自分で回収でもしない限り使えない。

___しかし、それを超えてこそが旋風の六槍……!

「今回の槍はちょっと違うぞ?」

直線に飛んで行った藍色の槍は物理法則を超え、逆方向へと巻き戻る。
まるで、磁石か或いは重力に引き寄せられたリンゴのように。

「……ッ!」
戻りゆく槍が、防弾加工の皮膚すら切り裂く。

「……改稿兵装か。ニュートラル・ガーディアンに奴がいることはこちらも把握していたが、もう動いていたとはな。」

何かを見抜いたのか、ニヒルな笑みを浮かべる。
「改稿兵装などというモノを作れるサーヴァントなんざ「アレクサンドル・デュマ・ペール」くらいしか知らない。
調べてみたところ、奴は今回ニュートラル・ガーディアンとして現界したことは知っている。
そして、そんな兵装を持っているザルディン。貴様もその一人であることはよくわかった。恐らくお前の仲間もすでに持っているだろう。モリアーティ、貴様はどうかはわからんがな。」

アレクサンドル・デュマ・ペール。
「巌窟王」「三銃士」の作者であるその男はアメリカ・スノーフィールドという都市にて、警察署長に召喚された経歴のあるキャスタークラスのサーヴァント。
その能力は「伝承・逸話の改稿による武器・防具の製造」と「人間の戦闘力強化」。
これにより、警察署長とその仲間は"人の手によるサーヴァントの打倒"を目指して戦ったとされている。

「それが分かったからなんだ。」
図星を突かれたのか、悔しそうな顔を浮かべるザルディン。

「なに、見つけて殺せば貴様らなど烏合の衆だというわけだ。」
フン、とザルディンは強気な表情となる。

その時。
「油断したな!」
モリアーティが不意打ちを仕掛けた。

防御を試みるも、追いつかない。
「物理で戦え!」
計算尺での打撃。
「穴だらけだ!」
拡散レーザーによる攻撃。
「悪に従え!」
空を切るようなムーブから放たれる、強烈無比な衝撃波。
圧倒されるエミヤオルタに、とどめと言わんばかりにモリアーティが手にした計算尺から光線が放たれる。
「ゼロ距離モリアーティ光線!」

ここまで押し負け、さらに超近距離からのレーザー光線。これを喰らえば敗北は必至。

___されど、これを超えてこそ、嗤う鉄心……!
「下らんな!」

元々、彼の持つ二丁拳銃は「干将・莫邪」という名を持ち、剣であった。
それは二丁拳銃として改造されてもその機能自体は残っている。
計算尺を攻撃し光線の方向をずらすことで回避、さらに二丁拳銃から弾幕を放つ。

「風よ守れ!」
ザルディンの周囲に吹き荒れる風が、弾幕の勢いを減衰させ、受け流す。

(これでは宝具を使っても受け流されるか……。)
エミヤオルタが思考する。その時。

『中にいるテロリストに通告する!お前たちは完全に包囲された!今すぐそこから出てきなさい!』
突入した機動隊が周囲の雀蜂やあらかじめ侵入させた暗殺部隊を制圧したことが伺える。

「時間切れだな。囲まれてはここから出れまい。」
モリアーティの挑発に……エミヤオルタは屈していない。
「果たしてそうかな?」

嗤う鉄心はおもむろに無線を取り出し、どこかへと連絡を取る。
「アレを放て。位置は急病患者用玄関だ。」
『し、しかしアレはまだ完成したばかりで調整が……。』
「完成はしているのだろう?テスト段階での投入は不本意だが仕方ない。"AW-S06"を解き放て。あとは奴に任せるとしよう。」

「AW-S06?何かの兵器か?」
まるで兵器の型番のような銘を持つ謎の存在。

「希望ヶ峰の連中、これを見たら絶望するだろうさ。たとえ絶望の名を冠するあの女がいたとしてもだが。」
「待て。何の話をしている!?」

ザルディンが狼狽した次の瞬間。

「死だ。」

ビュッ_____。
瞬きよりも早い一閃。
後0.0001秒でも槍での防御が遅れていたのならば。ザルディンの首は胴と切り離されていただろう。

「……貴様は。」

そこにいたのは。
_____血に濡れた黒刀を持ち、白黒反転の目で二人を睨む少女。

銀髪赫眼を持つ別空の剣聖。
反転するは黒の釼。
絶望よりも昏い、無尽にも等しき殺意。
"彼女"は正典にては狂わず、外典でのみ存在を許された。
血染めの死に装束を身にまとい、狂おしい笑みを浮かべる姿は、まさに死神。

___「存在せぬ殺戮剣豪 "AW-S06:Eliminator"」改め。

「遊んでやれ、『辺古山ペコ・オルタ』。」

6人目

「目指すは決戦の地、バードス島」

 ――リ・ユニオン・スクエア/トゥアハー・デ・ダナン。

「……そうか。カプセルコーポレーションに現れたのは味方……
そして孫の奴は特異点とやらへ向かったか」

 帰還したバーサル騎士ガンダムから、ピッコロは事情を聞く事ができた。

「孫や常磐ソウゴに空条承太郎、正義超人が抜けたのは痛いが、
俺たちは俺たちで、この世界で戦うしかない」

 悟空、ソウゴ、承太郎は特異点へ、正義超人は悟空と同行、
或いは髑髏部隊の行方を追っていった。
即ち、今のCROSS HEROESは戦力が半減しているのだ。

「こうなったからには、お前たちの力もアテにさせてもらう。
女、子どもだからと言って甘ったれた考えでいると死ぬことになるぞ! 分かったか!?」
「……!」

 環いろは、黒江、日向月美、ペルフェクタリア……現状のトゥアハー・デ・ダナンには
年端も行かぬ少女の顔ぶれが目立つ。

「はい! 頑張ります!」

 しかし、その声音からは悲壮感など微塵もない。むしろ、覚悟を決めた戦士の声だった。

「ピッコロのおっさんの声、何だかエースを思い出すんだよな」
「エース? 何者だ」
「俺の兄貴さ。もう死んじまったけど……」

 エースとは、ルフィの世界において最大規模の勢力を有する白ひげ海賊団に所属していた「火拳」の使い手、ポートガス・D・エースの事だ。
ルフィと契りを交わした義理の兄弟であったが、海軍に囚われの身となり、
彼の目の前でその命を落とした。

「そうか……」

 ルフィの言葉を聞いたピッコロは、それ以上は何も聞かなかった。

「そんでよ、そのドクター何とか言う奴の所にドフラミンゴがいるかも知れねぇんだろ?」

 エタニティコア防衛戦において、Dr.ヘルの側近・あしゅら男爵と共に
安倍晴明の姿があった。
つまり、晴明と共謀して神浜市を襲ったキャスター・リンボ、
ドンキホーテ・ドフラミンゴもDr.ヘルの元に居ても不思議ではないと
CROSS HEROESの面々は踏んでいた。

「ああ。敵の戦力は未知数だ。くれぐれも油断するなよ」

 一方その頃、トゥアハー・デ・ダナンから遠く離れた海に浮かぶ、バードス島。
Dr.ヘルの本拠地である。

「ウルトラマントリガーは復活したようだな……」
「面目次第もございませぬ、Dr.ヘル……」

 玉座の間にて、膝を突く影がある。あしゅら男爵だ。

「フッフッフ……CROSS HEROESとやら、順調に戦力を拡大しているようだなァ……
神浜とか言う街で戦り合った時とは比べ物にならねェくらいに強ぇ連中が
揃ってるみたいじゃねェか。俺が直々に出向いてブッ潰したくなるぜ」

 その背後では、ドンキホーテ・ドフラミンゴが腕組みをしながら不敵な笑みを
浮かべていた。

「その必要は無いだろう。恐らく奴らはこの勢いに乗じてこちらに打って出るはずだ」

 スウォルツは冷淡な口調で言う。
Dr.ヘルとドンキホーテ・ドフラミンゴの視線が同時に彼に注がれ、沈黙が流れた。

「そうであろうな。奴らの戦力は日に日に大きくなっている。
兜甲児もまた、我々との決着を着けるべくここへやってくるはず……」
「ンンンンン、何とも! 血湧き肉躍るとはこの事ですなァ。
拙僧、武者震いが止まりませんぞ!!」

 戯けた様子で両手を広げるリンボに対し、スウォルツは眉ひとつ動かさず続ける。

「リンボ、貴様……何処へ行っていた?」
「ンン? はて、何の話でしょうかな? 拙僧はここで留守を預かっておりましたが?」

 とぼけるような態度を取るリンボに、スウォルツは苛立ちを募らせていく。

「しらを切る気か? 我は既に看過しておったぞ。
この場にいたのは貴様に似せた式神であった事を……」

 同じ陰陽師である晴明とリンボ。彼がその正体を見抜けない訳が無い。

「ンン~……! 流石は晴明殿! 見抜かれておりましたかお恥ずかしい」
「何故、そのような事をしでかしたのか……答えろ、リンボ……!」

「ククク……そんなに怖い顔をなさらないで下さい。皆様が仰っている通り、
此度の相手はかつて無い程の難敵……それこそ、今までのように拙僧ひとりの力で
どうにかなる程甘いものではないでしょう。それ故、より強い力を得る必要が
あったのです。なればこそ、拙僧もさらなる戦力のスカウトのようなものが出来れば、と
東奔西走していた次第でして、はい」
「何だと?」

「ンン! そのお顔を見るに、まだご理解頂けていないようですね。
拙僧は、あなた方と志を共にしているのですよ?」

 口を開けば開くほど、リンボの言葉からは嘘の臭いしか感じられない。
だが、これ以上問い詰めても無駄だろうとスウォルツは判断した。
今は、トゥアハー・デ・ダナンとの戦いに備えるべきだ。

「……まあいい。だが、これだけは言っておく。裏切るなよ? リンボ……」
「これはまた心外な。拙僧はいつだってスウォルツ氏や皆々様の為に
尽くしてきたつもりですが……」

 リンボはわざとらしく肩をすくめる。
その仕草が一層胡散臭さを際立たせていたのだが……。

(さてさて、この戦いがどう転ぶか……楽しみでございますねぇ)

 当の本人はまるで気にしていない様子だった。嘘は言っていない。
ただ、本当の事も話してはいない。
そう、リンボが秘密裏にジェナ・エンジェルをバードス島に招き入れ、
新たな戦力として加えた事など……

 その後、司令室にて、ドクターヘルとあしゅら男爵、ブロッケン伯爵は、
モニター越しにトゥアハー・デ・ダナンの様子を観察していた。

「Dr.ヘル! 敵艦に動きアリ! このバードス島を目指していると思われます!」

 オペレーターの報告を聞き、Dr.ヘルはニヤリと口角を上げた。

「やはり来たな……来るが良い、兜甲児。今度こそ決着をつけてくれる……!」

 決戦の地は、バードス島。波高し……

7人目

「或る慟哭」

~中央病院 待合室~
「遊んでやれ、『辺古山ペコ・オルタ』。」
そういって、エミヤオルタは外へと逃げ帰った。

「くそ、逃げられたか。」

愚痴る2人を他所にエミヤオルタとは打って変わって現れた女。
白い死に装束を鮮血で赤く染め、乾いた部位はもはや辺獄焔の如く、赤黒く染まり切っている。
赤黒い刀は、まるで修羅が鍛造したかと言わんばかりにまがまがしく光る。
その瞳も白目が黒くなり、一層鮮血の淦が黒く輝く。

正史において「超高校級の剣道家」と称された寡黙なる若き剣豪、辺古山ペコ。
そんな彼女が今、こうして反転した、狂い咲きの鏖殺者とかした。

「オルタ……なるほど。ザルディン、どうやら私たちが今対峙しようとしている敵組織は思った以上に危険なようだ。何しろ、無辜の少女をあそこまで強くしてしまえるとは。」
「ああ、戦闘力が尋常じゃないのは肌で感じられる。……来るぞ。」

しかし、モリアーティの予測は。
「いや。すでに来てる。」
「!」



斬撃とは思えない破裂音。
その正体は、ザルディンの槍の1つをへし斬り、それを以てしても神速を超えた斬撃を放ったことを知らせる音。

「 突 」
赤黒い風になった少女は、その一言と共にザルディンを蹴り、はるか向こうまで吹き飛ばした。

(あの女は自分たちにとって一番危険な方を攻撃している。今回の場合はザルディン。私は攻撃してきていない。ならば不意打ちが……)
不意打ちによる鎮圧を目論み、計算尺のランプ部位から光線を放とうとする。

「姑snk死n」
その不意打ちすらも。この女は。

ブォン

「ぐああぁぁあああ!?これは……高周波ブレード!?」
ただの軽いはずのなで斬り。
それなのに、この激痛は。この恐るべき切れ味は。

ザルディンの槍をへし折った刀剣、その正体は高周波ブレード。
刀剣に電磁パルスと超振動を与えることでコンクリートの塊ですら切断を可能とする、近未来の兵装である。
スネークたちが生きた世界では、PMC達に実戦配備されていることが増えたとして有名な兵装。

「鏖。」
「そこか!」

右方向への薙ぎ払いに対する、最高のタイミングで、最良の位置、最良の体制での後方回避。歴戦の剣豪ですら、不発は免れられぬ。
しかし。

「k癪u」
数理は狂える技術によって看破され、熱狂的殺戮思考によって物理法則と摩擦係数は踏み倒される。

「うあぁあああぁぁぁあああ!!!熱いッ熱いぞォォッ!?」
電磁パルスによって赤熱した刀身が、必死の防御で差し出した右腕の皮膚と肉を焼き切る。

「拙i 故sne」
一方的、あまりにも一方的な蹂躙。
これがあの、爆破に巻き込まれたはずの女?
希望ヶ峰爆破の前に拉致し、洗脳をかけ強化したのか?

打ちのめされた自尊心と共に思考を広げる。
せめてこの謎だけでも解かねばと。

「あぐっ、ダメだ・・・・・・この距離からは届かん……!」
ザルディンも、槍による投擲を試みるも哀しきかな。射程の外まで蹴り飛ばされては意味をなさない。

絶体絶命。
もし、これが他の人間や戦士だったとしても、8割方匙を投げるほどの絶望的状況。
奇跡を願う時間はない。

「くっ、せめて一撃……」
モリアーティが、せめてもの一矢を放とうと試みる。
しかし、そんな奇跡は。ついに起きなかった。
「あ」
意識が分断される。頭に霞がかかる。
死んだ。そう思った。

その瞬間だった。
「あ……あああ……ああああああああああああああああああ!!!」
慟哭と共に、狂い咲きの少女は突如追撃を止めた。

「やはりダメだったか!」「洗脳が甘かった!」「こいつはどうする?やるか?」
「いや、満身創痍だ。放っておいても問題あるまい。」「今はこいつを鎮静させろ!」
その後、雀蜂数名に取り押さえられ、少女はどこかへと連れ去られていった。

「な、何だったのだ奴は……?なぜ、攻撃を止めた……?」
そうして、

~中央病院 廊下~

「あ、あ……。」

壁を這って歩く。脚は折れて、まともには歩けないけれど。
周囲は吐き気を催す死体と腐乱臭であふれているけれど。
松葉杖が手元になくとも、それでも確かに、前を向くことはできる。

「くっ……エミヤ……オル……タ……。あいつだけは……。」

あの男が許せない。
多くの友を殺した、あいつの存在が許せない。
自分を助けてくれると信じた希望も打ち砕いた。
あのどうしようもないバカ女も殺した。
目覚めたら一発、殴ってやろうかと思ったのに、そんな願いすら破壊したあいつを許すわけにはいかない。

「許せない……許さない……。」

怒りか?愛か?それとも憐憫か?
違う気がする。
分からない。
でも。

「ちく……しょう……。」

斃れたい、終わりにしたい。
けれども突っ伏すわけにはいかない。
ここで倒れるなんてことはできない。
死んでいったともに顔向けができない。
むざむざ友を殺され、自分も死にゆくなんて胸糞悪い結末なんか御免被りたい。
せめて一発、いけ好かないあいつを殴ってやりたい。

「まだ死ねるか……こんな結末で……終わって……たまるか……………!」

1Fに着く。参戦には、もう時間がかかりすぎていた。
戦場には、すでに敗北した2人が倒れている。
しかし、まだ生きてはいる。

「大丈夫……?」
倒れているザルディンに声をかける。

「ああ、はは……西園寺か。頼む、これであいつを呼んでくれるか?」
「あいつ?」

「罪木蜜柑を、呼んでくれるか?」

8人目

「上陸!バードス島!」

今よりも少し前、GUTSセレクトはクルーゾー大尉とツクヨミと合流しバードス島へと向かっていた。
「あなたがツクヨミさんね、今回はよろしくね」
「ええ、エタニティコア防衛戦にはトラブルがあって参加できなかったけど、その分頑張るわ」
「お久しぶりですクルーゾーさん」
「久しぶりだな兜甲児……前にDr.ヘルと戦った時以来か?」
「そういや前にもそのヘルってやつと戦ってたんだよな?」
「あぁ、前に戦った時はミスリルやGUTSセレクト、更に正義超人達や悟空さん達と一緒に戦ってくれたんだ」
「なるほどな」
「けど、今回はあの時とは違ってDr.ヘルにも協力者がいるわ」
「しかも今回はマジンガー軍団や科学要塞研究所は使えないんだろ?」
「あぁ、マジンガー軍団はまだ修理が完了してないし、科学要塞研究所は下手に動かすことができないからな……」
すると
「あの皆さん少しよろしいでしょうか?」
「どうしたんですか騎士アレックスさん?」
「……実は先程からルフィ殿を見かけないのですが……」
「え?」
「あっ!ホントだアイツ居ねえ!?」
「……まさか……」
「……恐らくは、先程バーサル騎士ガンダム殿がテリーマン殿達と一緒に『ターン』を使った際に、それに巻き込まれてトゥアハー・デ・ダナンに飛ばされてしまったのかと……」
「なんだって!?」
「おいどうすんだよ。ドフラミンゴとか言うやつはアイツの世界の敵なんだろ?」
「その心配はない」
「トキオカ隊長?」
「それってどういうことなんですか?」
「急遽ではあるがトゥアハー・デ・ダナンにいるCROSS HEROESのメンバーもバードス島での決戦に参加してくれることになったんだ」
「本当ですか!?」
「あぁ」
「となると特異点に行ってるメンバーと別行動中のロビンマスク殿、ブロッケンJr殿、ウォーズマン殿、そしてアレク殿とローラ姫以外CROSS HEROESのメンバーが全員揃うということですか」
「そういうことだ」
「総力戦ってことか…!」
「これは負けられないわね」
「そうね」
「トキオカさん、トゥアハー・デ・ダナンとはどこで合流するんですか?」
「トゥアハー・デ・ダナンは現在我々と同じでバードス島へ向かっている。彼らとは現地で合流する予定だ」
「わかりました」
「……トキオカ隊長、ケンゴはどうするんですか?」
「……彼はまだエタニティコアの中に居た時の疲労が残ってるうえに変身に使うハイパーキーを一本を残して失っている以上、無理はさせられない……それに、相手が極悪人とはいえ地球人同士の戦いに彼の力を使うわけには……」

「行かせてください!」
「っ!」
「ケンゴ、大丈夫なのか?」
「僕は大丈夫……それより、次の戦いは僕も参加させてください。
どんな理由であれ……皆の笑顔を奪うようなやつは許せないんです……」
「しかし……」
「行かせてやれ」
「竜馬さん……」
「そいつがどうしてもやりてえんのなら、やらせてやったほうがいいだろ?」
「……わかりました。ですが無理はせずになにかあったらすぐに戻ってくるように」
「ラジャー!」

そして現在
『ナースデッセイ号、バードス島に上陸成功!』
『こちらも上陸に成功しました』
『よし、全員出撃!』
『了解!』
ナースデッセイ号からはマジンガーZ、ビューナスA、ボスボロット、ガッツファルコン、ウルトラマントリガー、騎士アレックス、ゲッターロボ、ツクヨミ、そしてクルーゾーの乗るM9Dファルケが、
トゥアハー・デ・ダナンからはピッコロ、バーサル騎士ガンダム、ルフィ、ゲイツ、ウルズ小隊、環いろは、黒江、日向月美、そしてペルフェクタリアが出撃した。
「バーサル騎士殿、アレク殿との通信は?」
「残念だがまだ繋がってない……この戦いが終わったらもう一度連絡を取る予定だ」
「久しぶりねゲイツ」
「あぁ、いろいろ話したいことはあるがそういう場合ではないようだな」
「……来るか!」
バードス島に上陸した彼らを迎えるように大量の機械獣軍団に鬼の軍団、そしてあしゅら男爵の乗る『機械獣あしゅら男爵』にブロッケン伯爵の乗る『ブロッケンV2シュナイダー』、更にスウォルツの変身するアナザーディケイドとキャスター・リンボ、晴明にドンキホーテ・ドフラミンゴが現れた。

「待っていたぞ兜甲児!」
「ここを貴様らの墓場にしてやる!」
「あしゅら!ブロッケン!」

「晴明!今日こそ決着をつけてやる!」
「いいだろう、ここでお主との因縁を断ち切ってくれようぞ!流竜馬よ!」

「麦わらァ!今後こそテメェらをぶっ潰してやる!」
「ドフラミンゴ…!」

「ンンン、また会えて嬉しいですぞ」
「……」

「久しぶりだなツクヨミ。
いや、アルピナ…!」
「兄さん!?」
「どういうことだ!?クォーツァーの協力者である貴様が何故ここに!?」
「神浜市でのあの戦いの後、俺はやつらに捨てられた。そんな時にあしゅら男爵から誘いを受けてな、今はDr.ヘルの協力者ってわけだ!」
「そんな……」
(と言っても俺はヘルの計画自体には興味はない……俺の目的はあしゅらの言ってたミケーネ神とやらの力……ただそれだけだ…!)

「Dr.ヘル本人は見かけない……恐らくはなにかあるのでしょう」
「なら、こいつらを全員倒してヘル本人を引きずり出すとするか」
「やれるものなら、やってみるがいい!CROSS HEROES!」
「いくぞ皆!今後こそ、Dr.ヘルとの決着をつけるぞ!」

9人目

「幻肢:激変」

『こちらピークォド、間も無くランディング地点(ゾーン)に到達する。』
無線機越しに聞こえる、ヘリの騒音交じりの声。
「了解、到着次第待機しろ。」
スネークはそう言い、横に立つウーロンと目を合わせ、微笑み合う。
「簡単な仕事だったな?」
「おぅ、最初はどうなるもんかと思ったけど楽勝だな!」
大声で笑いながら、三人は並んでランディング地点へ歩いていく。
声高らかに喜声を上げるウーロンを戒める様な存在は、今はここには居ない。
敵のいない無人の荒野(ウェスタン)に、ただただ響き渡るだけだ。
『こちらピークォド、ランディング地点に到着。待機する。』
無線で聞こえたヘリのパイロットの言葉を聞き、スネークは言う。
「さて、そろそろ帰るとするか。」
「そうだな!さっさと帰って寝ようぜ。」
その言葉を聞き、ウーロンが応える。
最早障害は無く、二人の言うように帰るだけである。
そんな時だった、彼等に担がれていたウォーズマンが不意に目を覚ましたのは。
彼は二人を見て、声を絞り出す様に言った。
「…俺は、一体?」
まだ意識が混濁しているのか、彼はぼんやりとした声色だ。
しかし、すぐに彼はハッとし、慌てて身体を起こそうとする。
「お、もう目が覚めたか?もう少し休んどけよ?」
そんな彼を落ち着かせる様に、ミラーを背負ったウーロンが声を掛ける。
「その声は、ウーロン。無事だったか…いや、それよりここから離れた方が良い!」
その声に一瞬安堵しそうになるウォーズマンだったが、直ぐに我に返って言う。
それは彼の本能による警告なのか。
否、ファイティングコンピュータたる彼の目は、双眼鏡と同等の精度を以て周囲を見渡せる。
そんなハイテクな目に『霧』が映った時、彼のハイテクコンピュータが導き出した忠告だ。
「離れるったって、もうじきヘリで帰れるぜ?安心しろって!」
だがウーロンの言うように、ヘリは既に着陸態勢に入りつつあった。
後は乗り込むだけであり、脱出も容易である。
それに敵の姿はなく、この近くにいる気配もない。
そんな状況にも関わらず、ウォーズマンは言う。
だがその時だった、彼の忠告が現実の物となったのは。
『こちらピークォド!ガスが充満していて着陸出来ない、一時退避します。』
「へ?退避って、ちょっと待てぇ!?」
彼の呼び声も虚しく、ヘリはランディング地点から離れていく。
「ウーロン、静かに…!」
同時に、周囲の異変にスネークが気付く。
辺りに立ち込める異様な霧…これはただの霧ではない。
そう悟った瞬間、スネークはウォーズマンを立たせ、周囲を見渡す。
同時に、ウーロンもまた同じ感覚に陥っていた。
それが経験から来るものだと気付いた時、ウーロン達の周囲の視界は数m先も見えない状態となっていた。
そして同時に、ウーロンとバッファローマンはある事を確信していた。
この蒼白いガスの様な霧が出た時、決まって異形の者がいる事に。
「…髑髏が、来る。」
いつの間にか気が付いていたのか、ウーロンが抱えていたミラーがそう呻く。
同時に、スネークの直感が、ウォーズマンのセンサーが、何かを捉える。
それは、無機質で強大な足音だった。
或いは、立っているのもやっとのような、すり足の様な足音だった。
または、何かが燃え盛る様な音だった。
そして、何かが空の彼方から風を切って飛翔してくる音だった。
四者四様の何かが、彼等を囲うように迫りつつあった。
「どうする、スネーク?」
ウーロンは、不安気にスネークに尋ねる。
どうするもこうするも無い、彼等はこの状況を理解していた。
今すぐここを離れなければならない事を。
だがしかし、霧越しとは言えこうも見事に囲まれてしまっては、退路は愚か進路も見いだせないでいる。
「そ、そうだバッファローマン!お前なら何とかならねぇか!?」
機転を利かせたウーロンが、バッファローマンに問いかける。
だがそこでようやく、先程から無口なバッファローマンの容態が可笑しい事に気付いた。
まるで死人の様に青ざめ、全身を小刻みに震わせているのだ。
その震えは、今この状況が作った恐怖によるものだけではないだろう。
明らかに異常な様子に、二人は困惑する。
「お、おい。どうしたんだよ?」
「分からん…何故だか知らんが、力が、出ん…」
小さくだが息を荒げ、肩で呼吸する様は、とても正常とは思えない。
「バッファローマン!?もしや…」
その異常さの原因に思い当たる節があるウォーズマンが、彼に近寄ろうとする。
だがその刹那、霧の向こうに巨大な影が浮かぶのを見た時、自然と体が身構えていた。
その巨体は、かつて彼等が見たあの巨人。
そして霧の向こうから現れる、死人の如き肌を持つ髑髏の兵と、燃える男。
更にはウォーズマンが気を失う原因となった女性と、黒服の胴着を着た男。
彼等を取り囲む様にして現れたその姿に、三人は言葉を失う。
その異様さに、その威圧感に、その存在感に。
ただ1人、ウーロンを除いて、身動ぎ一つ取る事さえ叶わなかった。
「お、おい?悟空、だよな…?」
ウーロンにとって見知った顔である胴着の男へと、ゆっくりと近寄る
その男は、間違いなく孫悟空の顔をしていた。
「おい、ウーロン!?」
「だ、大丈夫だって!悟空が来てくれたならこんな状況なんか…」
引っ繰り返せる、そう言おうとして振り向いた時。
自分の一歩先に攻撃が振り下ろされ、その衝撃波でウーロンが紙切れの様に吹き飛ばされる。
気こそ失って無いものの、意識に大きな揺れが生じて倒れそうになるウーロンを、スネークが受け止める。
「ウーロン!!」
「あらあら、本人じゃなくて"早期生産型"が来ちゃったのね?ざーんねんでした!」
そして胴着の男の由来を知っているであろう、白衣の女性が、演劇でもしているかの様にわざとらしく手を広げ、肩を竦める。
「貴様、人造人間21号と言ったか。貴様の目的を教えて貰おうか?」
ウーロンの代わりに前に出たウォーズマンが、無事な方のベアクローを構えて問う。
「そうね、冥途の土産に教えてもいいわ。た・だ・し…」
彼女の声に合わせて、髑髏が、燃える男が、悟空に似た何者かが。
「一度痛ぶってからにしちゃおうかしら!」
号令一つで、一斉に襲い掛かった。

10人目

「遺された未来たちは嘆き、迷い、動く」

~中央病院~
「罪木蜜柑を、呼んでくれるか?」

西園寺の表情が曇る。
なぜ?だってあいつは……すでに。
正史における罪木蜜柑は、忌まわしき爆破に巻き込まれもうこの世にいない。

「無理にとは「そうじゃなくて……だってあいつはもう……!」」
現実と虚構の乖離。
正史と外典の違い。その露出。

___均衡の守護者たちの知る罪木蜜柑と、西園寺日寄子の知る罪木蜜柑には明確な違いがある。
迫害の果てに讐心と憎悪に塗れた白い罪木。
絶望の果てに希望と明日を捨てた黒い罪木。

「ああそうか。すまない。こっちの陣営にいる彼女の前提で、話をしてしまっていたな。」
「どういうこと?」
「一言で言うと、「西園寺君の知らない罪木君が、均衡の守護者として共に行動しているのだ。」……モリアーティか。怪我はいいのか?」

かつかつと、悪の卵たるモリアーティが歩いてくる。
「けがは修復できた。回避したおかげで斬撃による傷が浅かったから、大事ではなかった。腕の出血は激しかったがネ。」

ザルディンは安堵する。
「それは良かった。……西園寺よ。さっきの話は忘れてもいいぞ。むさい男で良ければ病室まで送ろう。」

しかし。ちょっと悩んだ顔を浮かべた少女は。
「ちょっと待って!じゃあ、あんたの知ってる罪木は、今も生きているの?」
「ああ、今は急ぎの用事があって呼んでも来れそうにはないが、間違いなく生きている。」

そっか。とつぶやく。
そして、安堵か悲哀か憐憫か、西園寺は涙を流すのだった。

~西の都 レストラン~
最近建てられたレストランにて、

「あいつ、随分とお高級な服してるけど……」
「大衆向けだぞここ。」

ざわざわ、ざわざわ。
その店にいた客は妙な風貌の男をちらちらと見ながら、その男について話していた。

男はそんな状況を気にすることなくおいしそうに焼けたステーキを食べる。
「やれやれ、安い割にはうめぇな。」

大衆向けレストランには不釣り合いな、高級そうな服装を着た男。
そんな服装とはこれまた不釣り合いな坊主頭と白黒の歯。
この男こそ「巌窟王」「三銃士」の作者兼改稿者にして"均衡の守護者"の一人「アレクサンドル・デュマ・ペール」である。

食事を終えたデュマは端末を起動し、電話をかける。
「いよう!兄弟!完成したぜ。」

仲間に対してかなりフランクに。しかし乱暴に。

『ご苦労だ。武器のエンチャントは済ませたか?』
「おう。すでに終わってるしもう使えるぜ、白髪の方も済ませといた。」

電話の相手は、特異点にいるサイクス。
サイクスと罪木オルタ、両方の武器に強化を施したとの報告だ。

『そうか。助かった。しばらく休憩しててくれ。』
「へいへい。もちろんそのつもりだぜ。じゃあな。」

通話を終える。ぐちぐちと言っているが、やはり仲間は信頼しているのだろう。

「さてと。お前がその……コロシアイ事件の黒幕にして学園爆破から無傷で逃げ切った女と、解釈して良いんだな?」
彼と相席している女。

巨大なツインテールに黒い服。白黒の熊の髪飾りと青い慧眼。
シグバールによって安全な場所=西の都に転送された絶望少女、江ノ島盾子。

「そうだよガーディアン。そして私様はオマエに……」

また、一波乱の予感。

11人目

「幻肢:激戦」

スネーク達の前に現れた、孫悟空に似た何者か。
その者は人造人間21号の側に付き、髑髏部隊、燃える男と共に襲い掛からんとする。
対するは、未だ目を覚まさぬロビンとブロッケンJr.を庇い、謎の不調に見舞われるバッファローマンとウォーズマン、そしてスネーク。
霧の向こうで巨人が見守る中、今、戦火が舞い上がる。
_ウ”ア”ァ”ァ”ァ”!!!
「くるぞ!」
燃える男が叫ぶと同時に、スネークの体が弾かれたように動いた。
直後、彼が一瞬前まで居た大地を炎が駆け、焼き尽くす。
しかしスネーク本人は地を這うようにして躱し、駆け抜けていく。
まるで蛇のようにしなやかであり、また稲妻のような速さでもあった。
「不味い、後ろだ!」
だが、それを上回るスピードで追いすがるは髑髏部隊。
ウォーズマンの警告と同時に、既に髑髏部隊の1人は握り締めたマチェットで以てスネークを両断せんとする。
「スネーク!!」
次の瞬間に想起される、スネークの末路。
しかし、それは叶わなかった。
振り下ろされた刃は空を切り、次の瞬間には宙へと舞っている。
何が起きたのか理解できぬままに落下した髑髏を襲うは、己の鳩尾に刺さる熱い感触。
それが振り向き様に奪われたマチェットの刺突である事に気付くまで、数秒を要した。
その数秒の隙が、自らを投げ飛ばされる時間をスネークに与えた事には、更に時間を要するのだった。
「良いぞスネーク、やっちまえーっ!」
一瞬の逆転劇に奮起したウーロンが激励を浴びせる。
だがその声に反応したのは、悟空に似た黒い胴着の男だ。
踏み出しの一歩で音速を超え宙を駆けた男は、己の拳で以てにてウーロンを突き飛ばさんとする。
「へ?うひぃ!!?」
「ハリケーンミキサーッ!」
悲鳴の直後に轟く迎撃の一声。
バッファローマンの1000万パワーのヘッドタックルが、暴風撒き散らし男へと迫る。
咄嵯に反応できた男は間一髪で直撃を避けたものの、掠っただけで宙を舞い、地面を転がり落ちる。
「後ろに下がってな、巻き込まれても知らんぞ!」
先の一撃で大地に刻まれるは猛牛の足跡。
不調と言えどもその剛力は健在、直撃すれば即ダウンは免れないだろう。
「ぐぅ…!」
だがそれがどうしたと立ち上がり、全身から蒸気を発し怒りの形相を見せる胴着の男。
対するバッファローマンもまた不調など知った事かと、その場で足を駆け息を荒げる。
(この男、髑髏の奴等と同じ感触がしやがる。ロングホーンに収めたサンプルも反応しているが、何故だ…?)
内心では、冷静な疑問を抱きながら。
髑髏部隊とスネーク、胴着の男とバッファローマンという拮抗する戦局の一方で、燃える男がスネークへと迫る。
まるで、何かの執念に駆られているかの様に。
「忘れて貰っちゃ困るぜ、お前の相手はこの俺だ!」
だが当然、それを黙って見過ごすウォーズマンではない。
その行く手を、ベアクローを以て阻まんとする。
片方のベアクローは先の戦いにて腐食したが、もう一方は健在だ。
「とぉーーーっ!」
燃える男のがら空きの胴体へとベアクローを差し込み、そのまま力任せに持ち上げる。
「おおおぉぉぉぉぉ!!!」
そして燃え盛るその体の熱をベアクロー越しに浴びながら、それでも見事に弧を描く投げ飛ばした。
_ウ”ァ”…!?
受け身も何もなく、地面に叩き付けられた男の口から嗚咽が漏れる。
だがそれも一瞬の事で、何事も無かったかの様に男は再び立ち上がらんとする。
_ジュウゥ…
「ベアクローが…!」
先の突き刺しだけで、先端が解けかけているベアクロー。
恐らく次の攻撃からは、その熱を直に浴びる戦いとなるだろう。
ファイティングコンピュータたる彼の弱点、戦術計算による発熱から来る30分という制限時間。
それが、燃える男の熱によって一気に削られていく。
それでもウォーズマンは、ファイティングコンピュータは容赦もなければ躊躇もしない。
地に伏す彼の頭部目掛けて飛び掛かり、渾身の蹴りを叩き込む。
_ウ”ア”ッ!!
再度地面へと叩き付けられる燃える男、一気に跳ね上がるウォーズマンの体温。
一見優勢に見えるウォーズマンであるが、その実、状況は芳しくない。
何度も叩きつけて分かるその手ごたえの無さに、内心焦りを感じていた。
(まるでサンドバッグを殴っている気分だ、ダメージを与えられている気がしない…!)
事実、燃える男は叩き伏せられはしてもその動き自体に乱れは無い。
否、寧ろ段々と起き上がり慣れ始めているまである。
このままではウォーズマンが先に限界を迎えるであろう。
だがその時、背後より響く声があった。
「…ウォーズマン、今のままでは駄目だ。」
それは、意識を取り戻したロビンマスクの声だ。
彼は未だ覚束無い足取りながらも、確かな声で叫ぶ。
「ロビン…!」
「お前は今、焦りを胸に抱いて戦っている。それでは勝てない…!」
胸中に渦巻く焦燥、それを言い当てられたウォーズマンは動揺する。
ならばどうすればいいか、そう言いかけた時だった。
燃える男に、異変が起きたのは。
_ウ”ア”ァ”……!
その場で蹲る様を見せ、唸りを上げる燃える男。
漸くダメージが出てきたか、その実感を確かめようとして、不用心に近づいた時だった。
「不味い、ウォーズマン!」
_ア”ァァァァァ!!!!!
ウォーズマンを押しのける様に庇って飛び込んできたロビン。
突き飛ばされるウォーズマン。
直後に巻き起こる、爆発的な業火の熱風。
「な…!?」
立ち直ったウォーズマンの視界に映ったのは、業火に焼き焦がされたロビンの姿だった。
「ロビン!?」
サファイアの硬度を持つ鎧越しに立ち込める、焼け爛れた血肉の匂い。
あの時ロビン達を気絶させた『何か』の影響か、まともな防御も取れなかったのだろう。
熱風は全身を隈なく焼き尽くしている。
「ロビン、どうして…」
「最後まで、油断、するな。我が弟子よ…ゴポッ!」
それだけではない、肺も焼かれたのか、吐血さえ伴う重症だ。
「あんたが…あんたが代わりに食らう事は無かっただろう!?」
「必要な、事だった。それに…」
そんな様子に慌て取り乱すウォーズマンを、片手で制するロビン。
「弟子を導くのが、師匠の、勤め、だ…」
そう言ったきり、ロビンは力無く地面へと伏した。
「ロビン…ロビーーン!!?」

12人目

「滅びに咲く花/悪夢の再戦! ベジータVSナッパ!」

 特異点にて巻き起こる、神精樹を壊す者/護る者/利用する者たちによる三つ巴の死闘。
CROSS HEROES/GUTSセレクト連合が挑むはDr.ヘルの居城・バードス島の決戦。
スカルフェイスと共謀するレッドリボン軍の新型人造人間・21号が繰り出す
クローン戦士。
特異点の融合侵食の影響か、リ・ユニオン・スクエアにまで進出し始めた
均衡の守護者たち。
希望ヶ峰学園爆破の影に蠢く「有り得ざる救世主」の正体は果たして何者か……

 それぞれの場所で戦いを続ける者たち。

「ははははは、だから言ったろう? 僕が直接手を下さなくても……
君たちは勝手に滅ぼし合う、ってね」

 眼前で繰り広げられる戦いを高みから見物しながら、葬儀服の少年……
禍津星穢は笑った。

「増え続けるイレギュラー。繰り返される戦い。やがて世界はその許容量を超えて、
自壊を始める……この惨状はその結果さ。もう何度目だ? 
いつになれば気づく? どれだけ足掻いても、何も変わりやしない事に……」

「……」

 傍らで沈黙を保つ、黒衣の少女へと視線を向ける。

「……お迎えか。もう少しここで楽しいお祭り騒ぎを眺めていたかったんだけど」

 少女が差し出した手を取ると、彼はゆっくりと立ち上がった。

「で? 僕を呼びに来るって事はそれなりに価値のある用事なんだろう?」
「…………」
「おい、何とか言えよ」

 苛立たしげにそう言っても、彼女は変わらず無反応だった。

「ひみつ」

 それだけ呟いて歩き出す少女の後を追うように、彼もまた歩みを進める。

「……なーにが『ひみつ』だよ。どうせまたくだらない事でしょ。
お前いつもそうだもんな」
「いってのおたのしみ」

「はいはい。まあ、何でもいいけど。退屈してたんだ。少しは楽しませてよね……
ブーゲンビリアちゃんよ」

 二人の姿は徐々に薄れていき、やがて完全に見えなくなった。
一方、カプセルコーポレーションでは……

「ベジータも孫くんたちに力を貸してあげれば良かったんじゃないの?」
「ふん、俺の知った事ではない。あいつらで勝手にやってればいいだろう……む?」

 ブルマの言葉にそっけなく返すベジータだったが、妙な気配を察知して窓の外を見た。

「? あれは……」

 西の都の上空に、見慣れた人影。
そしてそれは、既にこの世には居ないはずの人物でもあった。

「!? ナッパ……だと……!?」

 そう、かつてのベジータの側近にして数少ないサイヤ人の生き残りであった男である。
目が合うなり、ナッパと思わしき男はニヤリ、と笑みを返す。
そのスキンヘッドと髭面。その巨軀。そして何よりサイヤ人特有の戦闘服。
見間違えるはずもない。

「まさか……! 何故、奴が……」

 ベジータはすぐさま舞空術で飛び上がり、ナッパの元へと飛んだ。

「ふふふふふ……」
「や、やはりナッパに間違いない……何故だ? 貴様は、確かにこの俺が……」


『ベジータ……!! ベジータァァァァァァァァァァァァッ……!!』
『動けないサイヤ人など、必要無い!! 死ねえええええええええええええええッ!!』
『ベジ……ぐぎゃああああああああああああああッ……』


 ナッパを死に至らしめたのは、誰あろう、他ならぬベジータ自身なのだ。

「貴様……どうやって化けて出やがった。
まさか、ドラゴンボールで蘇ったとでも言うのか……」
「ふふふふふ……」

 言葉らしい言葉は発しない。
それに、よくよく気を探ってみるとベジータが知るナッパとはやや異なる。

「ナッパの姿をしているが、中身は全く違うようだな……」
「ふふ……」

 しかし見た目は完全にあの頃のナッパそのもの。
それが余計に不気味さを際立たせていた。

「ははァッ!!」

 ナッパが突如、足元に広がる西の都に向かって掌をかざしたその瞬間、
巨大なエネルギー波が発生し、街へと降り注いでいく。

「!! チッ……!!」

 ベジータは高速移動でエネルギー波の軌道上に回り込み、両手を重ねて受け止める。

「でぇぇぇえッ……りゃあああああああああああああああああああッ!!」

 エネルギー波を押し出し、空の彼方へと打ち消した。

「…………」
「ふざけた事をしやがって……かあああああッ!!」

 今度はベジータが衝撃波でナッパを攻撃。
ブルマ達がいる西の都から遠ざけようと言うのだ。

「!!」

 猛スピードで吹き飛ばされるナッパだが、空中で体勢を立て直す。

「ちぃ……!」
「ふふ……」

 再び、両者は対峙する。辺りは人気の無い無人島が点在する海の上だ。

「ここなら思いっきりやれるだろう。さあ、かかって来いよ、ナッパ。
俺に殺られた恨みでも晴らしたいのか何だか知らんが。
もっとも、貴様如きが今更ノコノコ現れた所でこの俺様の相手になれるとは思えんがな」

「……」

 ベジータの前に現れたナッパもまた、レッドリボン軍が収集した戦闘データから
人造人間21号が培養したクローン戦士のひとりであった。

13人目

「幻肢:強襲」

「ロビーーン!!」
ウォーズマンの機械らしからぬ叫びが、霧の立ち込める荒野にいやになるほど木霊する。
しかし当然のことながら、彼の叫びにロビンは答えない。
ウォーズマンは悲嘆のあまり両膝を大地につき、力なく両手で顔を覆うと、そのまま天に向かって絶叫した。
無豹の筈の仮面が、今は涙に歪んで見えた。
だが彼の嘆きは終わらない。
彼が何より守ろうとした師匠が、何よりも己の不覚によって失った事が、許せなかった。
その死は、まるで犬死の如く、あまりにも悲劇的だ。
不意に、ウォーズマンの顔から手が剥がれる。
大きく見開かれた様にも見える涙に濡れた双眼が、焦点の定まらぬその眼が捉えるのは、師匠か、その仇か。
だが、敵は彼を待ってはくれない。
彼の名に刻まれた『ウォーズ(戦争)』の文字が、彼を否応無しに戦いへと駆り立てる。
現に、ロビンを焼き尽くした燃える男は今一度立ち上がり、ウォーズマンの悲嘆など知った事かと襲い掛からんとしている。
「_お前は。」
故に、ウォーズマン(戦争の男)は止まらない。
「私が、このベアクローでねじ伏せる!」
ジャキン、と爪を唸らせて、突き出た刃が鈍く光る。
「とぉーーーっ!!」
瞬間、燃える男へ螺旋を描いて飛翔する鋼鉄(くろがね)の戦士。
「スクリュードライバーーー!!!」
その雄々しい雄叫びと共に、燃える男の胸板が貫かれた。
胸に突き刺さった左腕を基点として錐揉み回転し、やがて勢いよく突き上げられる男。
「熱は、上に行く!ならば下から攻めれば熱が伝わる道理は無い!」
事実、彼のベアクローは燃える男に突き刺さってなお形を保っている。
つまりそれは、確かに熱を伝える道理を抑えているのだ。
「そしてロビン!あんたの技、使わせて貰うぜ!」
次いで彼のコンピュータがこの状況で最適に導き出した技を、彼は実行する。
流動的な軌道を描く引き裂き攻撃、否、目にも止まらぬ突きの嵐。
穿たれ、突かれ、男の体が無抵抗に浮き上がる。
その技が生み出す空気の奔流が、今燃える男を冷凍し得るほどの冷気を生み出していく。
これぞ師弟技。
「ウォーズマン流・アイスロックジャイローーー!!!」
_ウ”オ”ォ”ォ”ォ”!!?
男の体は見る間に氷結していき、遂に至る果てには粉々に打ち砕かれてた。
跡形も無く消え去った地には、一筋の傷痕だけが残った。
そして、ウォーズマンは静かに着地する。
師の無念を背負って。
…だが彼は知らなかった、彼の執念を、妄執を、怨讐の深さを。
_ボオォッ!
「なっ!?」
_ウ”ア”ァ”ァ”ァ”!!!
三度、燃え上がる業火の中から、爆炎と共に燃える男が再誕する。
今の狙いはただ1人、ウォーズマンへと移り変わって、彼を焼き尽くさんと襲いかかる。
咄嵯の判断で身を翻してかわすウォーズマンだったが、今度は完全に避けきれず、肩口が僅かに焦げてしまう。
それでも彼は諦めない。
どんな姿になろうとも、必ずやあの燃える男が倒れるまで、何度でも立ち上がると決めた。
(それが例え、刺し違える形となろうとも…!)
持てる力の全てをぶつける決死の覚悟を以て、燃える男へ襲い掛かる。
そして今、素早く後ろに回り込み、組み付いた体勢はウォーズマン最大の必殺技。
「パロスペシャルーーーッ!!!!」
今、ウォーズマンは互いを刺し違える覚悟でこの技を掛けた。
先の熱理論を真っ向から無視するこの技は、同時にウォーズマンの最大火力でもある。
今、ウォーズマンの全エネルギーが、燃える男の全身へと行き渡る。
_ウ”ア”ァ”ァ”ァ”!!?
燃える男は苦悶の声を上げ始めた。
ウォーズマンが放った必殺のパロスペシャルは、確実に燃える男にダメージを与えている。
だが、同時に毎秒ごとに分単位で失われていくウォーズマンの活動時間。
遂に、ウォーズマンを振り払おうと暴れ始める燃える男。
このままでは、ウォーズマンの方が先にガス欠を起こしかねない。
だがウォーズマンは決して離さない。
死ぬつもりだ、その意志は誰の眼から見ても明らかだった。
「…ウォーズマン!」
故に、彼がウォーズマンを止めるのも当然だった。
不意に打ち付けられるタックルに、フィニッシュホールドが解除される。
それを行ったのは誰あろう、ブロッケンJr.だ。
「な、ブロッケン…!?」
「ったく、あんまりうるさいもんだから、目覚めちまったぜ。」
そう言いながら、彼はウォーズマンの手を掴んで立たせる。
だが、ウォーズマンはすぐに理解した。
彼の手は、震えていた。
それは恐怖ではない。怒りでもない。
彼もまた、不調の中で自らの為に駆け付けてくれたのだ。
「捨身の覚悟なんざ、ロビンは望んじゃいねぇぜ」
そして彼はロビンの意志を告げる。
「…すまない。俺が不甲斐無いばかりに。」
「謝るんじゃねぇよ。それより、奴を倒す方法を考えろ。」
「…ああ!」
2人は並び立ち、燃える男を見据えた。
ロビンが繋いでくれた命、無駄にする訳にはいかない。
そんな2人の闘志を感じ取ったのか、燃える男は再び雄叫びを上げると、その体をより一層激しく燃やす。
しかし、2人に迷いは無い。
彼らは互いの拳を合わせ、今燃える男へと立ち向かった。

そんな彼等の死闘を特等席で見る、スカルフェイスと人造人間21号。
既に戦いは終盤に差し掛かっている様に見える。
そして、人造人間の少女はその光景に思わず見惚れてしまった。
だからこそ、彼女の"食欲"はもう抑えきれんとばかりに盛りだしている。
「_21号。」
スカルフェイスの声掛けに、彼女はハッとして我に返り、しかし本心を隠さず言った。
「あぁ、もう我慢できない、あの人達を食べたいわ!」
その言葉に、髑髏のマスクの下に剥き出た表情が歪む。
不快だ、そう言わんばかりの顔は、幸か不幸か彼女の眼には止まっていなかった。
代わりに、スカルフェイスに巣食う虫の知らせを、忠告代わりとして飛ばす。
「それよりも、お前に来客だ。」
「うん、誰かしら?」
その者は上空より飛翔し、21号目掛けて真っ直ぐ突撃してくる山吹色の戦士。
その名は。
「あら、セルじゃない?」
「如何にも、貴様によって蘇らせられたセルだとも。」

14人目

「轟沈の矢は雨の如く」

必要なのは、星の加護である。
女神に必要なのは星が持つ力である。
人間程度の力では、目覚めには足りない。
故に、星の持つ力を得る必要がある。

~神精樹特異点~
特異点上空にて。
一基のヘリが飛んでいる。
その中で、兵士が双眼鏡で様子を見ていた。

「___様子は?」
ヘリの内部で、一人の男が外の様子を聞きこむ。

「アレは……孫悟空に正義超人が何人か、それにターレスらしき人影と……あれは……隊長。ニュートラル・ガーディアンがいますね。2名です。」

はぁ、とため息をつき。考え込む。数十秒考えた後。
「なるほど、作業には少々厄介だな。___仕方ない、AWを放て。」
「隊長、申し訳ないのですがAWってなんですか?」

「そうだった、お前はまだ聞いてなかったな。AW、即ち『Alternative Weapons(別可能性兵器)』。人間が持つ暗黒面や殺意、復讐心を強制的に引き出し強化を施すことで誕生する兵器だ。
偉大なるあのお方が現在製造・量産しているとは聞いたのだが、俺も型番くらいしかわからん。」

あまりに外道。
あまりにも非人道的。
中央病院でエミヤオルタが解き放った「辺古山ペコ・オルタ」も、AW-S06の型番を冠していた。

つまり、人間の闇を具現化させて作る、もっともドス黒い兵器。

「はぁ。分かりました。直ちに手配させましょう。____芥隊長。すべては救世主のために。」
「_____俺はこの神精樹のエネルギーを"逆流"させる準備に取り掛かろう。全ては救世主のために。」

赤い短髪と鋭く朱く輝く三白眼が、まるで獣の如き恐怖と威圧感すら思わせる。
シグバール、エミヤ〔オルタ〕たちと同じ「メサイア教団」の隊長。

名を「芥 志木(あくた しき)」。

その目的は神精樹のエネルギー逆流による破壊だそうだが、敵か味方かは、果たして。

~神精樹 根元にて~
「んで、サイクス。これからどうするよ?みんなとは合流したけど、この様子じゃ交渉は無理そうだよ?」

「そうだな、では我らは我らで空想樹を破壊するとしよう。逆に考えれば、我らはノーマークだs……ん!?」
サイクスは、上空に空いた黒いワームホールを覗く。

「おい、サイクス?どうした!?」
罪木オルタは状況についていけてない。仕方なく上空を見ると。
「アレは……!」
罪木オルタは、その正体を見た。


月光に照らされる黒い鎧。赤い兜。巨大な弓。
『目標勢力 確認』
その姿は、人間とはあまりにも乖離していた。
『全勢力 殲滅準備完了』
かつて船一隻を、その一矢で切断、轟沈させた逸話を持つ者。
『宝具稼働 バスターアローシステム 96%装填 対軍掃射用拡散矢 装填』

その兵器の銘を______源為朝改め『AW-A01:MoonBreaker』。

『轟沈・弓張月 掃射____!』


降り注ぐ赫矢の雨霰。
それをいち早く察知した均衡の守護者は、全速力で戦線へと突撃する。

「おいお前ら!上を見ろ!あの矢は危険だ!!」
サイクスは、できる限り限界の声を張り上げ、危険信号の叫びをあげていた。

15人目

「レッドリボン軍の野望」

「ずあああああッ!!」

 ナッパが気合いの声を上げると、大振りのハンマーパンチをベジータへと繰り出す。
その攻撃を、ベジータは真正面から受け止めた。

「ぎっ……! ぎぎぎぎぎ……!!」

 ベジータよりも一回り大きな巨体を誇るナッパでさえも、それ以上前へ踏み込めない。

「どうした? こんなものか?」
「ぐぬぅ!」

 余裕を見せるベジータに対し、ナッパがさらに力を込める。
だがそれでもベジータを押し込むことはできない。

「ぬうううううう……!!」

 やがてベジータが徐々にナッパの拳を押し返し始めた。

「う……お、お、お……!!」
「はああああああああッ!!」

 ナッパの腕を放り上げて、ガラ空きになった腹に蹴りを入れる。

「――!! ――――!!」

 声にならない呻きを漏らしながら、ナッパの身体がくの字に折れ曲がる。

「ぐ、おおおおお……!!」
「むんッ!!」

 そしてベジータは素早く背後に回り、強烈なエルボーをナッパの脳天に叩き込んだ。

「ごああっ!?」

 ナッパの首が大きく曲がり、地上へと急降下。
そのまま地面に激突し、轟音と共に土煙が上がる。

「う、ぎ、ぎ、ぎ……!!」
「タフさだけは相変わらずか」

 腕組みをしながらゆっくりと降下してくるベジータ。

「さあどうした? この程度じゃあ、ウォーミングアップにもなりはしないぞ」
「うがあああああああああッ!!」

 ナッパは大口を開き、喉の奥から強烈なエネルギー弾を発射する。

「ふっ……」

 ベジータはその攻撃を避けようともせず、
そのままナッパのエネルギー弾の光の奔流に呑み込まれていった。

「…………!!」

 ナッパは勝利を確信した。至近距離の不意討ち。避ける暇さえ与えなかった完璧な一撃。
ひとたまりもあるまい。いくらヤツでも……。
しかし次の瞬間、ナッパの目の前には無傷のベジータの姿があった。

「!?」
「……まあ、その程度だろうな」

 呆れたように呟くと、ベジータはナッパの顔目掛けて強烈な右ストレートを繰り出した。

「ぶげえっ!?」

 頬骨が砕ける音が響き渡る。同時に血飛沫が上がり、ナッパの頭部が激しく揺れ動く。

「がばあぁッ!!」

 口から大量の血液を吹き出しながら、ナッパは倒れ伏した。

「じゃあな。二度と化けて出てくるんじゃあないぞ」

 ベジータが掌をかざすと、先程のナッパの攻撃をも凌ぐ強烈なエネルギー波が
放出された。

「ぎゃびいいぃィッ……」

 断末魔を残し、ナッパは跡形もなく消え去った。

「あの頃よりも戦闘力は上がっていたようだが、俺との力量差は絶望的だったな」

 戦いを終えて飛び去っていくベジータ。
その一部始終を、レッドリボン軍のスパイカメラが捉えていた。

『ベジータ。レッドリボン軍の要マーク人物リストに該当アリ。
既存の戦闘データを大幅に更新する必要性を認める』

 人里離れたレッドリボンの秘密基地のラボにて、コンピュータは密かに分析を続ける。

16人目

「幻肢:終局」

先の騒動で突如として街一つを壊滅しせしめた人造人間セル。
彼は同じ人造人間たる21号の手で復活したクローンの一体であることが、彼女自身の口から告げられたのであった。
そのセルが如何にして霧中の戦火を嗅ぎつけ辿り着いたのか、21号には分かっていた。
「その顔にここへ辿り着いた事、もしかしなくても『波動』の事、何となくでも分かってるんじゃないの?」
「ほぉう、『波動』と言うのだな。この私を、いや力ある戦士を押さえつけるこのエネルギー波は…」
霧に浮かぶ巨人のシルエットを見据え、セルは言う。
「苦労して辿った甲斐があったわ。大元は、それか。」
そして難解なパズルが解けた時の快感を味わうかの様に、不敵な笑みを浮かべて嗤う。
セルや21号の言う『波動』とはただのエネルギーではない。
彼女の言葉通り、その存在自体が脅威そのものなのだ。
セルは今一度巨人を見上げる。
「しかし、デカいな。これは骨が折れそうだ…」
霧の中に浮かぶ巨人の姿は、巨大であるが故にその全貌は未だ計り知れず、より一層異質さを放っている。
内心でため息を漏らすセルを前に、スカルフェイスが煽る様に告げる。
「左様、このサヘラントロプスは今の貴様には十分脅威になるだろう?」
この巨体、サヘラントロプスを前にしては、セルと言えど今の状態では容易く打ち倒せる相手ではない。
肉弾戦による接近戦が主なセルにとって、体格差という壁は大きく、このサイズの敵に接近するのは至難の業だ。
また、仮に今のセルの力が充分に発揮されたとしても、果たして勝てるかどうかは微妙なところである。
「…それにしても貴方、何時の間にそんな顔をするようになっのね?」
不意に、21号がセルの容姿を見て呟く。
彼女の言うように、ここに来てセルは既に第二形態へと変異を遂げていた。
「生きの良い兵士が居たものでな、来る途中で頂いたのさ。」
「…なるほど。警備に当たらせていた部隊か、これは誤算だったな。」
今度はスカルフェイスが溜息を付く番だった。
カズヒラ・ミラーを捕ら、監視させていた部隊の事だろう。
「私を止めるつもりなら、もっと強い者を置いておくんだったな。」
「あら、それなら丁度居るわよ?」
セルが挑発のつもりで言った言葉に、21号が返す。
「ほぅ?誰の事かな?」
「こういう事よ。」
興味深そうに聞き返したセルに対し、彼女は答えの代わりに指を差し示す。
そこからあふれ出る猛烈な気の奔流が、収縮し塊となる。
それが一筋の弾丸となってセルへと撃ち込まれた。
「なっ…」
間一髪、まさに紙一重のタイミングを自前のセンスで以て躱すセル。
「…にぃ!?」
_ドゴォーーーーォオン!!!
一瞬の後、彼の後方から鳴り響く破砕音と爆発の光。
振り返れば、そこには村一つ収まりそうなクレーターが出来上がる瞬間と邂逅することになった。
「な…!?」
波動下でそれ程の威力を持つ攻撃を行える事実を前にして、セルの背筋に悪寒が走る。
「ね、わかったでしょう?」
絶句するセルに対して、21号は事も無げに言い放つ。
(こんな化け物だとはな、飛んだ食わせ物だ。)
隠し切れない同様に軽い冷や汗をかきながらも、それでもセルはその闘志を収めない。
寧ろ、更なる闘争を求めて彼は口を開く。
「ふん、確かに丁度いい相手になりそうだ。」
それは、彼にとっては最早挨拶代わりの様なものだったからだ。
そして、今の彼女もセルを相手に無傷ではいられない事を分かっているからこそ、敢えてその言葉を遮らない。
「良いわ、相手してあげる。」
代わりに、闘争心で以て返答とした。

「連続ぅ!!」
荒野の大地を、角を掲げた闘牛が、バッファローマンが駆ける。
「ハリケーンミキサーーー!!!」
目にも止まらぬ速度で繰り出される高速回転の頭突き。
成す術も無く宙をクルクルと舞う悟空のクローン。
そのまま受け身も取れず、背中から地面に叩きつけられ、衝撃で地表の砂塵が舞い上がる。
うつ伏せになったままピクリとも動かないクローン。
しかしそれも束の間、すぐにむくりと起き上がり、服についた土埃を払う様にパタパタと叩く。
そして、何事も無かったかのように再び構えを取り出した。
「クソ、やはり調子が出ねぇ…一体何が起きてるんだ?」
自身の不調を疑うように呟くバッファローマン。
しかし、その問いに答えるものは誰もいない。
代わりにクローンの正拳突きが、バッファローマンへと襲い掛かる。
眼では追えてはいたものの、不調下での全力行使を続けた体に、避けられる道理は無かった。
「ぐぅ…!?」
直撃を受け、膝をつくバッファローマン。
そこへ、更に追撃を加える様に放たれる蹴り。
しかし、今度は足でブロックする。
どうやら、先程よりは多少なりとも調子を取り戻しているようだ。
それでもまだ万全には遠く及ばない。
「考えても仕方ねぇ、ハリケーン…!」
何とか防ぎ切ったところで、すぐさま反撃を試みる。
だが、それを見越していたのか、素早く距離を詰めるクローン。
「がはぁ…!!?」
反転の一瞬に生じた隙を突く形の攻撃は、バッファローマンに深く突き刺さった。
そのまま勢いよく投げ飛ばされ、岩肌の壁に激突して崩れ落ちる。
その体は、既にボロボロであった。
体中至るところに打撲による青アザが出来ており、内出血による赤黒い色に染まっている。
辛うじて原型を保っているのが奇跡と思える程の、満身創痍の状態だった。
息絶え絶えに呼吸を繰り返す彼に向けて、クローンは無慈悲な攻撃を繰り出す。
助走をつけて大きく跳躍し、飛び蹴りの姿勢を取った。
そこから捻りを加えての一撃が、無防備なバッファローマンの胴にめり込むように振り下ろす。
これが決まればトドメは確定、そんな一撃を前にして。
バッファローマンは、ニヤリと笑った。
「オリャーーー!」
撃ち込まれた飛び蹴り、それはバッファローマンの脇下へと流され。
クロスカウンターの形で、彼のロングホーンがクローンの体を貫いていた。
「へへ…やってやった、ぜ…」
どさりと、クローンの体が崩れ落ちる。
今度こそ、起き上がる事は無かった。

17人目

「幕間/塞がれた希望」

~リ・ユニオン・スクエア 中央病院~
一波乱が終わり、凄惨きわまる地獄と化してしまった中央病院。
機動隊及び救護班が未だ生きている患者を別の病院に移す作業や死体の回収をしていた。

その様子を、屋上で見ている男が。
「……。」

黒いコートで顔を覆っている。彼もまたノーバディであるようだが。
「仕事は終わったようだな、モリアーティ。」
「何を言い出すかと思えばここで傍観していたというわけか、■■■■■。」

モリアーティは黒コートの男に話し始める。
「我ら2名はこの地にもうじき現れる脅威のために召喚された抑止の守護者。だというのに働かない気か?」

均衡の守護者とは異なる、リ・ユニオン・スクエアに根付いた正真正銘「抑止の守護者」。
特異点の干渉や聖杯の出現、多くのサーヴァントの召喚により、ここにも抑止力の概念が目覚めたのだ。

「いや、私は戦闘よりも相手の考えを読むことに長けていてね。ここでエミヤ・オルタらの考えを読んでいた。」
「ほう?聞かせてもらおうではないか。」

黒コートは、空を見上げたのち口を開ける。
「エミヤ・オルタないし彼の仲間は希望ヶ峰学園を爆破した。その理由は『自分たちとは無関係の場所でかつ自分の正体をつかむ可能性のある者たちを一斉に葬るため』。というのがまずある。」

モリアーティもその点は同意だ。何しろ同じ推理をしているから。
しかし、黒コートはさらにその先の推理を展開する。

「だが、なぜあの場にいるべき人物がいなかった?ザルディンからあの音声データは聞いていた。今はブルマとかいう女の手に解析のため渡したと聞いているが、お前もその音声データは聞いているはずだ。内容は「コロシアイの記録の一部と爆破時の話の内容」。」
「音声データは聞いているとも。江ノ島盾子という女が黒幕であることも知っている。おそらくエミヤ・オルタの一派が彼女を利用するために連れ去ったのだろう?」

モリアーティは思考を張り巡らせ、ある推論にたどり着く。
その様子を見た黒コートは続ける。

「その後、彼女から手がかりを消すために生徒全員と未来機関に突入した者たちを学園ごと爆破した。だが妙に解せない。
学園を破壊するなら、それこそ襲撃するなり強行突入するなりといろいろな方法があった。なのになぜ、爆破なのか?」

うんざりした顔でモリアーティは問う。
「何が言いたい?」

「おそらく学園があった"土地"に用があるのだろう。希望ヶ峰学園の広大な土地を利用したいが希望ヶ峰学園そのものは邪魔で仕方がなかった。その証拠に、これを見ろ。」

黒コートの男はモリアーティに端末の画面を見せる。
そこに映っていたのは。

「これは……学園跡地で撮ったのか?」
「そう。この『壁』は学園の土地を囲うように出来上がっている。中で何が起きているのかは私にもわからん。」
そういって黒コートの男は遠方に指をさす。

「あれが『希望ヶ峰学園"だったもの"』だ。CROSS HEROESは特異点攻略という賭けに赴いている間に、その賭け金の一部を盗まれていたようだ。」

_____そこには、都市にしては異質な、無機質な黒い壁が我が物顔でそびえたっていた。

18人目

「幻肢:終章」

バッファローマンのロングホーンによってトドメを刺された悟空のクローン。
しかしバッファローマンもまた満身創痍の体を地に置き、倒れ伏していた。
一方で、スネークと髑髏部隊の戦闘はスネーク優勢の戦況であった。
いや、一方的と言っても良い。
髑髏が襲い掛かればスネークはそれを難なく避け、カウンターに奪い取ったマチェットを叩き込んでゆく。
かと言って距離を取ろうとすれば、いつの間にか回り込まれCQCを叩き込まれる。
蛇のように音もなく忍び寄り、相手の息の根を止める。
そんな戦い方を体現したかのような、凄まじい戦闘力。
髑髏達は次々と打ち倒されてゆく。
そして最後に残った髑髏もまた、瞬く間に打ちのめされた。
最早戦いと呼べるものでは無く、一方的な虐殺とも言えるものであった。
この光景を目の当たりにした者達には、こう見えていた事だろう。
まさしく、これこそが"狩り"だと。
弱者が強者に狩られるだけの末路。
『スカルズを倒した…!?』
「つえぇ…」
オセロットやウーロンが畏怖の念を口から漏らすのも当然の事であった。
今やスネークの足元に転がる髑髏達は、ピクリとも動かない。
スネークの完全勝利であった。

燃える男は、強敵だった。
ウォーズマンとブロッケンJr.の攻撃をものともせず、何度倒れ伏しても起き上がる執念は、最早狂人と言っていい。
だがそれも、やがて終わる時が来た。
何度目になるかも分からない打撃で脳天を打ち抜かれた男の体がぐらりと揺らぎ、そのまま前のめりに膝を付く。
燃えさかっていた炎も鳴りを潜め、今は燃え尽きた灰の男と言えるだろう。
そんな様子を見て、二人はトドメを慣行する。
「ブロッケン、俺を投げろ!」
ベアクローを突き出し、構えるウォーズマン。
その意図を感じ取ったブロッケンJr.が、返答代わりにウォーズマンを担ぐ。
「よし、行ってこい!」
せりぁ!と声を上げ、勢い良く投げつけられたウォーズマンは、男の胴へと回転しながら突撃する。
「スクリュードライバーーー!!!」
無抵抗の体へとベアクローが突き立てられ、男の肉体を粉々に打ち砕く。
代償としてベアクローは溶けて無くなったが、トドメの代価としては安いものだった。
飛び散った肉片は炎を巻き上げながら地面に落下し、小さな火種となって燃え上がった。
これで、決着だ。
ブロッケンJr.がマスクの下で笑みを浮かべた瞬間、再び男の体が燃え盛って立ち上がる。
「クソ、まだやろうってのか!?」
だが、男は踵を返すと霧の中へと消えていく。
気付けば、髑髏部隊もまた倒されていた。
やがて髑髏が生み出していた霧が晴れると、そこにはもう燃える男は居なかった。
「…どうやら、諦めてくれたみてぇ、だ…!?」
「あぁ、これ以上は勘弁願いたかった…ぜ…!?」
そうして上を向いた時、漸く明らかになる霧の巨人の全貌に、絶句する。
人を模したシルエットの通りに、しかし明らかに兵器としては大型な直立二足歩行機。
「ほう、燃える男を退けたか?」
静かに、しかし確かな驚愕を伴った言葉をスカルフェイスが発する。
「ならば、次は此方と行こうか!」
改めて、この巨人を相手にする事実に二人の心に警戒心が生まれる。
巨人もまた、敵であることに違いない。
二人は巨大化を試みて、対抗せんとする。
だが。
「…体がデカくならねぇ!」
「どういうことだ、これも謎のエネルギーの影響か…!?」
己の体を確かめる様に、両手を見る二人。
その視界にはいつもの大きさの自分達が映るのみだ。
つまり、この場で大きくなることは出来ない。
そしてそれは、同時にあの巨大な敵に今のサイズで戦わねばならぬ事を示していた。
焦燥感が沸き起こる、どうにかせねばと思うが、贅沢は言っていられない。
ならば先手必勝とばかりに、二人は駆け出した。
サヘラントロプスの機銃掃射を潜り抜け、まずは小手調べと言わんばかりに頭部への蹴りを試みる。
「とりゃーーー!!」
ブロッケンJr.によるドロップキックは見事に決まり、巨人は大きく仰け反る。
続けてウォーズマンが追撃を仕掛けようと接近する。
だが、突然の衝撃がウォーズマンを襲う。
まるで横から殴られたかのように吹き飛ばされたのだ。
否、巨人が腕を振り回し、殴りかかってきたのだと。
先程の一撃も、その豪快な見た目とは裏腹に繊細かつ素早い動きで繰り出されたものだと言うことを理解させられる。
そしてその巨体に似合わぬスピードとパワーを持つ相手に、二人掛かりでも苦戦する事となる事を確信していた。
それでも、やるしかない。
二人が覚悟を決めたその時だった、巨人が前触れも無く膝を付いたのは。
否、正確には『背後からの爆発』で前のめりに倒れかけたのだ。
それを行ったのは誰あろう、スネークだ。
彼は走りながら手榴弾を複数個投擲すると、そのまま巨人の股下へ滑り込み、関節部分へと正確に射撃を叩き込む。
まるで手馴れたその動きに、ウォーズマン達も奮起する。
「負けてはいられんな!」
「あぁ!」
二人は立ち上がり、再度攻撃を仕掛ける。
今度は正面から左右対称に拳を繰り出し、挟み撃ちにする。
流石にこれは効いたのか、巨人は再び大きく体勢を崩す。
だが、倒れない。
踏み止まって耐えた巨人の反撃が、ブロッケンJr.へと襲いかからんとする。
しかし再び巻き起こる爆発により、攻撃そのものを阻止させられる。
今度は、先の帰還用ヘリからの援護射撃であった。
『こちらピークォド、火力支援を開始する!』
『ボス!上からの攻撃は任せろ!』
空を自由に駆けまわる敵を相手に、巨人は手も足も出せない。
代わりに、背部VLSからミサイルを掃射しだす。
「不味い!」
落とされる、そう思った次の瞬間には、逆にミサイルが撃ち落とされていた。
撃ち落としたのは、スネークとウーロンだ。
「へへ、どんなもんだい!」
「やるな、ウーロン。」
そんな会話をしつつ、二人は巨人へと肉薄する。
狙いは一つ、波動装置の動力部だ。
そこを破壊すれば、少なくとも超人達は動けるようになる筈だ。
ウーロンは倒れ伏した巨人の足元へと飛びつき、そのまま肩までよじ登る。
ウーロンを振り払わんと藻掻く巨人だったが、それも叶わず。
「コイツをくらいなぁ!」
ウーロンが持ち出したバズーカの一撃が、レドームに突き刺さる。
レドーム部分に内蔵された波動装置は、呆気なく破壊されるのであった。
「…潮時か。」
まだ破壊されていないサヘラントロプスを見ながら、しかしその顛末を予期したスカルフェイスが、踵を返して去っていく。
その動きに気付く者はおらず、事実サヘラントロプスはこの後破壊されるのであった。

19人目

「バードス島上陸! 鉄仮面軍団の人海戦術」 

 リ・ユニオン・スクエア/バードス島を舞台とした
Dr.ヘル軍団とCROSS HEROESの最終決戦が始まった。

「鉄仮面部隊よ! 出撃せよ!」

 鉄仮面の歩兵部隊が一斉に襲いかかってきた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ……」
「行くぞッ!! ついて来いッ!!」

 ピッコロの指揮のもと、いろは、黒江、ペルフェクタリア、月美が
トゥアハー・デ・ダナンから飛び出す。

「痩馬鞭ッ!!」

 口火を切ったのは魔殺少女ペルフェクタリア。
魔力を込めて強度を上げたマフラーを鞭のように振り乱して
バードス島の地表ごと敵をなぎ倒す。

「ふんッ! ふんッ!! はあああああああッ!!」
「うわあああああああッ……」

 先制攻撃は見事に決まり、一気に敵陣中央に穴をあけた。

「よし! いいぞ!!」

 そこへピッコロ達が着陸。

「かかれぇッ!!」

 鉄仮面たちが四方八方からピッコロに襲い掛かる。

「ふんッ!! ずあッ!! でぇあああああッ!!」

 長身を活かした鋭い脚技で敵の攻撃を捌きながら、
反撃の蹴りや拳で次々と蹴散らしていく。その背後でいろはが弓を引き絞っていた。

「この人達……人間じゃない?」
「あ……が……」

 ピッコロに倒された鉄仮面。彼らは脳改造されたサイボーグであり、
その素顔は機械と脳髄が剥き出しになっていた。

「怯むな!! 撃てえーっ!!」
「はっ……!」

 我に返ったいろはは咄嵯に弦を振り絞り、矢を放つ。
放たれた光の矢は正確に敵の頭部を撃ち抜いた。

「これが、戦い……」

 覚悟を決めたつもりだった。魔女やウワサ、スダ・ドアカ・ワールドのモンスターとは
また違う、人に近い姿をした相手と戦うのは初めてだったいろはは恐怖を覚えていた。

「戦いの前に言っただろう、甘ったれた考えでいるなと! 
敵は情けなどかけてくれんぞ!」

 鉄仮面達を複数相手取りながら、いろはを叱咤するピッコロ。

「す、すみません……!」

 しかし、ここで退くわけにはいかない。
月美やペルが戦っている。そして、ゲッターロボやマジンガーZも。
ウルトラマントリガーとて、人類同士の争いに加担する事に戸惑いを覚えながらも、
この作戦への参加を志願した。自分も負けていられない。
そう思っていろはは戦う決意を新たにした。

「やああああああああッ!!」

 黒江も二振りのクラブを武器に、鉄仮面と懸命に白兵戦を展開していた。
機敏な動きと巧みな体術を駆使して敵を倒していく。

「黒江さん……!」
「こないだの戦いでは、私が足を引っ張っちゃったけど……
ひとりで無理しないで、環さん! 私も一緒に戦うから……!!」

 いつの間にか、黒江も成長していた。
彼女は自分の事を過小評価しているところがある黒江は自分が仲間たちの足を
引っ張らないようにこっそりと訓練を続けていたのだが、
いろはは彼女の努力に気づいていた。

「ふッ!!」

 そして、いろはの光る弓矢による攻撃が、鉄仮面たちの連携の隙を突き、
次々に彼らを仕留めていった。そうだ。自分はひとりではない。
黒江を始めとした、支えてくれる仲間が居る。こんな事に、今更ながらに気づくなんて。

「撃ち貫く……!!」

神刀・星羅に霊力を込め、額に角を持つ一角獣が如く
突き出す切っ先から真っ直ぐに霊力の波動を放射する。

「星海翔ける一条の煌めきよ……!!
はああああああああああああああああああああああああッ!!」

月美の必殺奥義「星座閃」が炸裂。
直線に貫くエネルギーの奔流が、バードス島の地表を焼き払い、 敵を殲滅していった。

「うおわああああああああああああああああああッ……」
(ほう……腕を上げたようだな。孫との修行の賜物か)

 その様子を横目でピッコロは見ていた。
ペルフェクタリア、いろは、黒江、月美。四人の若き戦士達の成長に
満足げに笑みを浮かべると、彼は再び正面を見据えた。

「さあ、どんどんかかってこい。大方、身なりで容易く倒せると踏んだのだろうが、
あいつらは貴様らが思っているよりもずっと強いぞ」

 不敵に笑うピッコロ。暗に自分たちを評価してくれているかのような言葉に、
いろは達は胸を熱くさせた。

「ピッコロさん……!」
「ぬうう……怯むな! 数ではこちらが上回っているのだ!!」

20人目

「幻肢:幕引」

濛々と爆炎を上げ、崩れ落ちる巨人、サヘラントロプス。
波動発生装置を破壊され、巨大化された超人によって打ちのめされる光景は、一方的な物だった。
原型こそとどめているものの、機体各所から走る火花からは最早満身創痍といった様相だ。
そしてその様を目にし、誰もが理解する、この勝負は決したと。
_ズズン!
まるで地響きのような轟音を立てて倒れ伏すサヘラントロプス。
今ここに、サヘラントロプスは堕ちたのだ。
「…ほう、奴等はやり遂げたか。」
その様子を戦いの節目に見ていたセルは、己の力が戻る事を確信する。
事実、『波動』が抑え込んでいた力は、彼の身体へと流れ込み、再び全盛期に近い力を取り戻していた。
そんな彼が、これから行う事など一つしかない。
「では、私達も決着を付けるとするか?」
セルは自身の力を取り戻した喜びも早々に、21号へと襲い掛かる。
彼にとっての戦いはまだ終わっていない。
むしろここからが本番なのだと。
だが。
「…うーん、まだ全然駄目ね。」
そんなセルの猛攻を、21号は一蹴する。
先程までの善戦が嘘であるかのように、軽々とあしらう。
まるで赤子の手を捻る様に。
だがそれは当然の結果でもある。
今の彼女は、セル同様に力を完全に取り戻し、遊び半分に抑えていた力を全力にして行使しているのだから。
そんな彼女に、セルが敵う道理はない。
そもそもが、21号は人造人間という枠組みの中でもトップクラスの戦闘力を誇る存在だ。
それが本来の実力を発揮した彼女と戦うという事は、そういう結果になるというだけの話に過ぎない。
そうして暫くの間、一方的に弄ばれるセルだったが、その表情には焦りの色は無い。
ただただ冷静に、己と相手の彼我の差を差し測る。
(…勝てんな、これは。)
そして察する、絶対的な壁という物を。
少なくとも、全盛期ではない今の自分では叶わぬ事を理解した。
セルは考える。どうすればこの状況を覆す事が出来るのかと。
しかし、いくら考えても結論は同じ、出来ることはただ一つだけだ。
「あら、逃げるのかしら?」
「ふふ、卑劣と罵るか?」
「いえ、的確な判断よ。そうでなくては困るもの。」
困る、というまるで泳がされているかのような言葉に眉を顰めるも、みすみす見逃して貰えるというのならば遠慮はしない。
セルは真っ直ぐその場を後にしようとする。
だが、ふと振り返った時に見た光景が、彼女の言葉の意味を理解させた。
「それじゃ、運動の後の食事と行こうかしら!」
倒れ伏した悟空のクローンに近付く21号。
食事、というワードを出しながら、彼女の指先から一筋の輝きがクローン目掛けて放たれる。
「なっ…!」
驚いたのは、味方を殺した事ではない。
クローンの体が、デザートパフェへと変化したことであった。
驚くセルを横目に、21号はパフェへと在り付く。
「ん…運動の後なのにあんまり美味しくないわね、せいぜい20点ってところかしら?」
そんなことを言いながら、パクパクと平らげていく。
その様子はまさに暴食そのものと言えるだろう。
そして全てを食い尽くし、不満気な顔をすると、21号はセルへと向き直る。
その視線の先には、怒りに満ちたセルの顔があった。
セルは理解したのだ、彼女の目的を。
「私に力を与えて、完全体になった所を食べるつもりか…!」
それは、全盛期だろうと捻り潰せるという宣戦布告と同義であった。
だが、今は引くしかないこともまた理解していた。
故に彼は逃げる、逃げ切る事だけを考える。
21号の気配が無くなった事を察知すると、ようやく安堵のため息をつくセル。
だが、彼は知らなかった。
自分がこれから先も、決して安寧を手に入れられないことを。

倒れ伏したサヘラントロプスを、複数のヘリがワイヤーで以て吊り上げる。
そのヘリに刻まれたマークはダイヤモンドの囲いに犬のシンボル、ダイヤモンド・ドッグズの部隊マークだ。
そんなヘリの軍団の中、一機のヘリにカズヒラとオセロット、スネークにウーロンが乗っていた。
「スネーク、あんなものどうするつもりだ?修理してもまともに扱えたものでは無いぞ?」
サヘラントロプスを調べたところ、修理は出来れども操縦が不可能、という判断が下されていた。
いや、正確には『コクピットが大人の入れるスペースではない』という事実があった。
操縦こそ出来れば戦力になる事は間違いないが、その操縦方法が問題であった。
「俺も同意見だ、ボス。確かに使えれば彼等と対等の戦力にはなるだろうが、子どもを使うわけには…」
「何、居るじゃないか?子どもで無くとも操縦できる人員が。」
その言葉を待っていたと言わんばかりににやりと笑うスネーク。
彼の視線の先に居たのは。
「…え、俺?」
誰あろう、ウーロンであった。

流れるままにコクピットへ乗せられたウーロンは、今し方行われたやり取りを思い出していた。
空中輸送をしながらの機体修理という文字に起こさなくても分かる頭のイカれた狂行、それは今もなお行われているバードス島攻略作戦へ間に合わせるための苦肉の策。
ウーロンはその身長の低さを活かして直接操縦し、破損個所の修理状況、及び動作確認という大役を任せられていた。
「全く、何でこうなっちまったんだろうな…」
思えば、彼と出会ってから今に至るまで、怒涛の流れであった。
病院では死にかけた、病院を出てからもまた死にかけた。
今度は荒野の大地で機械仕掛けの巨人と戦った。
そして今は、その巨人の中に居る。
頭の可笑しい事態の連続で、最早感覚は麻痺しているも同然だった。
だが、まぁ。
「…悪くはねぇな。」
機外にアンカーを繋いで修理するダイヤモンド・ドッグズの人員を見ながら、ウーロンはそう呟いた。

「ダイヤモンド・ドッグズが此方に、ですか?」
戦闘態勢に入っているトゥアハー・デ・ダナンのCICにて、テスタロッサ大佐が困惑気味に呟く。
それはそうだ、つい先程まで通信すら出来なかった相手が突然現れ、しかも此方と共闘したいと言ってきたのだから。
そんな彼女の疑問に答えるかのように、シズマ会長は続ける。
要約すれば、こうだ。
まずはあの後、彼等は新兵器を得たという。
そして、敵側の主力が撤退した事によって、此方に加勢できるようになったという。
更には、こちらにもそれなりの損害が出ており、今は一刻も早い策が欲しい状況で、戦力増強という魅力的な案は捨てがたい、という事だ。
ダイヤモンド・ドッグズも、元を辿ればMSFという腹の内の知れた仲だ。
これを断る理由は無いと、シズマ会長は言ってのけた。
テスタロッサ大佐もそれには同意だった、しかし。
「カズヒラさん、ですか。たはは…」
『テスタロッサちゃ~ん!』
『きゃあ!?』
『ふんっ!』
『ひでぶ!?ボスゥ!!?』
在りし日の彼の様相に、彼女は苦笑するのみだった。

かくしてダイヤモンド・ドッグズは、CROSS HEROESへの加入を果たさんとする。
彼等が目指す目的が何か、それは未だ誰も知らない。
だが、この邂逅が何かしらの意義を齎すのは、間違いないだろう。
(待っててくれ、テスタロッタちゃ~ん!)
…恐らく!

21人目

「誰も知らない旧世界、その顛末」

「ンンン、CROSS HEROESもなかなかに戦力を拡充してきた様子ですな」

 島の岸辺でピッコロ達と鉄仮面軍団の死闘が繰り広げられている中、
戦況を一望できる小高いバードス島の中腹にて高みの見物を決め込んでいる
アルターエゴ・リンボと安倍晴明。

「日向月美殿、でしたか。なかなかどうして。
神浜で相まみえた時とは比べ物にならぬほどに腕を上げていますなァ!」

 美しき肉食獣は、活きの良い獲物を前に舌なめずりをする。
そんなリンボを他所に、晴明は先程から黙ったまま。
それを不審に思ったのか、リンボは晴明に流し目を向ける。

「どうかなさいましたかな? 晴明殿」

 エタニティコア防衛戦以降、晴明はCROSS HEROESと言う存在について考えていた。
晴明は無限の死と再生を繰り返している。そして蓄積された記憶。
その中には別世界のCROSS HEROESと交戦した体験も含まれていた。
リンボによって再び現世に蘇った直後には朧気だったその記憶も、
今でははっきりと思い出せる。

『俺が相手だ! 晴明!!』

 その膨大なる記憶の一片。炎上する街中で、晴明に挑みかかる流竜馬の姿。
ここではない、どこか。そう。彼もまた、晴明のあるところに現れる。
どれだけ世界を隔てても、どれだけ死と転生を繰り返しても、
流竜馬と安倍晴明は必ず戦う運命にあったのだ。
それと同じように、こうして再びCROSS HEROESを名乗る一団と
別世界にて戦う事になったのも、また必然と言えるのかもしれない。

「……いいや。少し考え事をしていただけの事。CROSS HEROESなるもの。
それと刃を交えるのは初めての事ではない」
「ほう? それは何とも興味深いお話。拙僧にも是非ご教授願いたいものですが?」
「別に大したことではあるまい」
「ふむ……」

 記憶の引き継ぎ。それはリンボと浅からぬ関わりのあるサーヴァントたちには
ほぼ見られない現象である。
サーヴァントは召喚される度に記憶がリセットされる。
英霊の座に刻まれた「記録」が人の姿をした器に投影されているに過ぎず、
故に姿かたちは同じなれど、その中身は殆ど別人と言って差し支えはない。

 だが、晴明は違う。同一個体にして輪廻転生を繰り返す存在。
故に、その身に蓄えられた知識も経験も、
全て「次代へ継承させる」という性質を持っている。
リンボはそのプロセスを早める手助けをしただけに過ぎない。

「して、貴方が知る『CROSS HEROES』と、今現在目の前にいる『CROSS HEROES』。どちらの方が手強いとお思いですか?」
「さて、な。我が前世で遭遇したCROSS HEROES……
その全容、そして如何な結末を迎えたのか……そればかりは我にも分からぬ。
記憶が欠落している。恐らくは我がそれを見届ける前に我が生命を終えたか、
或いは……我の知らぬ『何か』が起きたか、だ」
「ンン……」

 安倍晴明の前世に存在していた旧世界のCROSS HEROES。
その顛末を知る者は存在しない。あの暁美ほむらでさえ、旧世界のCROSS HEROESと
接触こそすれども、その末路については何も知らない。

 鹿目まどかを魔法少女にさせないと言う目的を達成する事に失敗し、
ほむらは時間遡行を行って世界線からの離脱を計った。
それはつまり、ほむらの辿ってきた歴史にも、旧世界のCROSS HEROESが
どのような結末を辿ったのかが記されていないという事に他ならない。

「ならば、確かめるとしましょうぞ。その手で、その目で。
それが何よりの早道かと存じ上げますゆえ。此度こそ、我々の勝利にて
幕を下ろすと致しましょう」
「ふん。貴様が言うと実に胡散臭いものだ」
「ンンンンンン! これは手厳しい!」
「だが……」

 晴明はそこで一度言葉を切ると、呪符を複数枚取り出し、印を結ぶ。
そして、呪文を唱えると同時にそれを空高くへと放った。

「それもいいだろう」

 放たれた呪符は屈強なる鬼と化す。

「新手か……」
「ピッコロさん! あれは安倍晴明が……敵が召喚した式神です!」
「ほう……面白い!」

 ピッコロは一足跳びで鬼の顔面付近にまで飛び上がると、そのまま飛び回し蹴りを放つ。

「つあああああああああああああああああああッ!!」
「――……!!」

 しかし、その一撃にて決着とはいかなかった。

「チッ、デカい図体に見合う打たれ強さと頑丈さだな」

 すぐさま飛び退き、空中で回転しつつ着地する。
一方、鬼の方はと言えば、多少のダメージは負ったものの、
即座に体勢を立て直すと再びこちらに向かってきた。

「グオオオオオッ!!」

「神浜の時より強くなっている……!」
「我が望む至上目的は流竜馬を血祭りに上げる事だが……貴様らを『敵』と認めよう。CROSS HEROES。何故再び我がその名を謳う者たちと戦う事になったのか……
その意味を知るのもまた一興であろうと言うもの」

22人目

「臨時インターミッション」

巨大な人型兵器を吊り下げた輸送ヘリの軍勢が、大型の潜水艦へと向かってゆっくりと降下していく。
近未来的で、見る者を圧巻させるその光景は、まるでSF映画のワンシーンのようだ。
だがそれは映画のワンシーンでもなければハリボテの設置作業でもない、紛れもない兵器の移送という現実だった。
そしてそんな現実の中心、直立二足歩行兵器サヘラントロプスのコクピットに身を置くウーロンは、輸送ヘリから送られてくる映像を眺めながら、口元を歪めていた。
どうしてこうなった、今更ながらに出てくるその感想には、後悔の色はない。
一種の呆れと諦めが混じった諦観だけが、その言葉には乗っていた。
結局はそんな状況を受け入れている自分が居るからこそ、彼は操縦桿を握る手を緩めないのだ。
そうして眼前にある巨大なモニターの映像を眺めていく中で、次々と武装した兵士たちが飛び降りていく。
そして同時に、大型輸送機から出てくる命の恩人であり、そして全てが変わった元凶でもある蛇の名を冠する男を見て、溜息を付く。
思えば、あの日病院でヤムチャの見舞いに向かったのが全ての始まりだった。
武者修行の旅と言って、治安の良いドラゴンワールドから、未だ紛争のあるリ・ユニオン・スクエアへとやってきたヤムチャ。
武闘家を辞めた身とはいえ彼の戦闘力は並の人間を凌駕する者だ。
そんな彼が病院送りにされたと聞いた時は、それはもう驚愕したものだ。
その驚嘆からか、見舞いにでも行ってやろうと思ってあの病院に入ったのだ。
仙豆を拵えてヤムチャのいるという病室に行ったとき、彼の容態と行ったらそれはもうすさまじいものだった。
全身包帯巻きの状態で、起きる力も無いのか"いつの日か見たであろう半ばうつ伏せに近い寝相"をしながらベッドに突っ伏していたのだ。
仙豆を喰わせて元気にしてやった後で話を聞いた所、なんでも夜間に黒い胴着を着た何者かに襲われたらしい。
その者はドラゴンワールド特有の気力を使った戦闘術で襲い掛かってきて怪我を負ったとかなんとか。
今にして思えば、あの時の悟空に似た黒い胴着の男…もとい、クローンだったのだろう。
点と点が線で繋がってしまった。
別に嬉しくないし、何なら巨大な陰謀に巻き込まれた気分になるので繋がって欲しくなかった。
閑話休題。
そんなこんなで怪我の容態が回復したヤムチャは、自分をこんな目に合わせた相手にリベンジせんと即日退院、自分は奇跡の豆を届けてくれた者として歓迎された。
そこで病院に留まったのが運の尽きだったのだろう、次の日にはセルに襲撃された。
そしてあの男、スネークに助けられたのだ。
そこから先はもう、夢にも出てきそうな程の怒涛の展開の連続であった。
慣れないバイクに乗っての必死のチェイス劇、燃え盛る騎兵、正義超人…あとはもう皆の知っての通りだ。
そういえば、あの子どもや燃える男は結局何者だったのだろうか?
子どもはコクピットに乗っていた訳でも無し、そも舞空術の様に空を飛んでは姿を消していた。
コイツが、サヘラントロプスが現れたのは、丁度その直後だった気もする。
さらに言えば、結局このサヘラントロプスが人手も無しにどうやって動いていたのかも分かっていない。
何か、重大な事を見落としている、そんな気がして、ウーロンの中で一つの疑問が生まれる。
そもそも何故、自分は助かったんだ?
事前にセルの手であれだけの事態が起きて助けが来るとも思えない。
だが実際、あの男は、スネークは閃光手榴弾なんてものを携えてやってきた。
思えば、ヤムチャ以外に入院している人物は極端に少なかったし、元からやけに周囲の人気も少なかった。
何か、あの病院自体が胡散臭く感じてきて…
「…あー、駄目だ!わっかんねぇ事だらけだし考えたくもねぇ!」
自分はウーロン、身に起こる事は良くて小事であって欲しいし、間違っても陰謀に巻き込まれているなんて考えたくも無い身なのだ。
だからうだうだ考えるのはやめる、結局はその結論に辿り着くのであった。

輸送ヘリからトゥアハー・デ・ダナンの甲板へと降り立ったスネーク達が、真っ直ぐCICへと向かって行く。
そしてその道中、艦内マップを片手に持つ兵士の一人から、今回の作戦の概要を説明されていた。
そんな中で、不意に彼と共に歩いていたスネークが言う。
「あまり無理をするな」
その言葉に、彼は自嘲気味に笑って返す。
そして続けて言った。
自分の為に、ボスの時間を割いて貰って申し訳ない、と。
それに対して、スネークは何も言わずに首を横に振った。
良いんだ、と言う彼の言葉を最後に、二人の間から会話は無くなっていた。
言葉はもう不要だったのだ。
そうしてCICへと辿り着いた彼らは、そのまま中にいるテスタロッサ大佐と対面したのだった。
「久しいな、テスタロッサ大佐。」
「お久しぶりです、スネークさんにカズヒラさ…ん…えっ?」
スネークの声を聞きCICのモニターからカズヒラ達に目線を映した時、テスタロッサ大佐の顔に驚愕の表情が浮かび上がる。
嘗ての姿からのカズヒラの変貌ぶりに、驚嘆の声が上がるのは当然の事であった。
右腕と左脚を失い、杖を突いて歩くその姿にだ。
彼は捕虜として捕らわれていた村落での尋問、もとい拷問によって、四肢の半分と視力を、そして何より生きる力を失っていた。
ウーロンから貰った仙豆によって、消耗した体力と無くした視力こそ回復したものの、四肢の再生にまでには至らなかった。
通す物の無くなった右袖口が揺れる姿には、在りし日のカズヒラには無かった哀愁が漂っていた。
「久しぶり~!テスタロッサちぁ~ん!!」
「えぇ…」
だが、そんなカズヒラがピョンピョン跳ねながら満面の笑みで挨拶を交わす姿に、先程までの悲壮感は吹っ飛んだ。
余りにも変わり果てたその容姿とのギャップに呆然としてしまうのも、致し方なしといった所だろう。
しかし、そこはテスタロッサ。
彼女は直ぐに正気を取り戻し、そして大きく息を吸って、一言。
「…お帰りなさい、カズヒラさん、スネークさん。」
「あぁ、ただいま帰任した。」
積もる話は後にして、今はただ、互いに敬礼を交わすのであった。

「さて、早速で悪いが状況を聞かせてくれ。」
「分かりました。では…」
そして始まる状況報告会(インターミッション)。
内容は、今まさに繰り広げられているバードス島攻略作戦の内容についてだ。
「現在、我々は島の外縁部、北に位置する港付近にて待機中です。そして戦力は島の内部へと。」
「分かった。引き続き、状況は監視を怠らないようにしてくれ。」
「了解しました。それで、スネークさん達はどうなさるのですか?」
そう言って彼女が見たモニターには、既に甲板の端の方まで歩き、そこで海原を眺めていたスネークだった。
「スネーク達も、彼らと同じ戦線に出る。」
「それは、頼もしいですね…あら?」
モニターに映るのは、ヘリからアンカーを抜かれたサヘラントロプスの姿。
「どうやら、応急処置が終わったようだ。よしウーロン、動かしてみろ。」
手元の通信機からサヘラントロプスへと通信を送る。
『OK、やれるだけやってやるぜ!』
通信機から返ってくるウーロンの声。
そして今、鋼鉄の巨人が動き出した。

23人目

「幕間:黒い闇のなかで」

「おい、何だよあの壁は!?」
「希望ヶ峰が……!」
「どうなっている!?いつからこの壁ができた!?」
「それが……昨日の段階ではあの壁はなかったんだ!」

希望ヶ峰学園だったものを囲うように、巨大な壁が立ちふさがっている。
目視だと、おおよそ60mはあるんじゃないかと思えるほどの巨大な壁だ。
不気味がって、誰も壁に触ろうとはしない。

昨日の段階ではこの壁は影も形もなかった。魔術でも使ったんじゃないかとでも言わんばかりに、一夜にしてこの壁が出来上がっていた。
この先に何があるのかは住民や来訪者にはわからない。

閑話休題。
~西の都 レストラン~
「……なんつった今。」
 食事を済ませコーヒーを手に会話をしている男、アレクサンドル・デュマ・ペールはその発言に驚愕せずにはいられなかった。

「だから、武器を作ってほしいのよ。」
その前にいる女、江ノ島盾子はいたって真剣だ。まるで策ありとでも言わんばかりに。

「あんたの……能力ならできるはずだって聞いたけど。」

___確かに、デュマの宝具『遥か終わらじの食遊奇譚』ならば、既存の伝説・逸話を改稿して武器を生成、並大抵の英霊ならば人間でもまともにやりあえるくらいには強くなれる。

しかし。
「ファンの人間か誰かに俺の能力を知らされたんだろうな、ちきしょー『原作寄り俺の方が面白いだろ?』なんてジョーク言わなきゃよかったぜクソッタレ。」

過去のジョークに愚痴りつつもデュマは続ける。

「……で、俺が武器を作ったとしてお前はその武器、何に使うんだ?」

そうだ。
武器を作る、何かを買ってもらう、何かを頼む。大小善悪問わず何かしらの理由がなければ頼み事はできない。
今回のようなことでさえも、江ノ島には何かしらの考えがあってのことだ。

「実は、名前は言えないけどある人物に『メサイア教団』なんていう組織を解体してくれって頼まれて、そのためにあんたに会いに行けって言われたのよ。」

メサイア教団。
エミヤ〔オルタ〕や数多ものAWを内包する強打にして、希望ヶ峰学園爆破の主犯組織。
学園爆破の主犯となる組織の解体を託されたのは皮肉にも、その学園の生徒であり同じ生徒の鏖殺と絶望的殺人を目論んだ邪智のカリスマだった。

「はッ! その飯屋だが何だか知らんが俺が知らねぇ女のために武器を作ると思ってんのか?俺も残念ながら事情があってな。そこまで手が回んねーんだよ。」

そんな願いに対しぶっきらぼうに返す。
江ノ島はうつむきながらも、迫真かつ真実味のある声で話す。

「_______!」

デュマは、衝撃が走った。
これほどまでに、残酷なことがあってたまるか。
実の娘に対して、そんな目的とエゴをぶつけたとでもいうのか。

もちろん、疑った。
そんなわけがないと思ったが、その表情を見ればまるで嘘がない。

その理由なら。
超高校級の絶望と言われても仕方がない。
世界に絶望し、世界を破壊しようとしたファム・ファタールと言われても仕方がない。

否。その宿命を背負わされてしまったのならば、納得いく。

「気が変わった、お前のその思想と生涯は、面白れぇ気がする。いいぜ、1つだけ作ってやる。渡せるのは相当後になるかもだがな。___会計はしておく。帰っていいぜ。」

そう言って、席を立つ。
それを見た江ノ島は黙ったままうつむくのだった。

「今度こそ、私は。この力を天に返すんだ。そして、まともな『人として生きる』んだ。」
クズどもに押し付けられた"コレ"に苦しめられ、救いなく死んでいくなんて。

___胸糞悪い。

24人目

「異聞・聖杯戦線───STAMPEDE───(前編)」








「幸せの定義は様々だ。時には、それを求めてぶつかり合う。等しく与えられない、限りある幸福を今の人々は奪い合っている」







 轟く雷鳴。
 凪いだ風。
 静寂と轟音とが合わさったこの地こそは混沌の渦中であるこの地の様相をこれ以上なく体現してる。
 数多もの世界が交錯して、数多もの超常が飛び交い、数多もの理が混ざり合う。

 実例が、この一幕だ。
 荘厳なりし大樹の麓に立つ兵共。

 その、更に一場面。
 時を統べる二者の激突。
 開始(はじ)まる大一番、これはその前座にして、しかし立ち入る者はその望みの一切を捨て去る領域である。

 その中で、相対するは一組の男女。

 一人は女。新免武蔵守藤原玄信。纏めて宮本武蔵。
 歴史の枠に囚われながらも世界の枷を逸脱した、赤き彼岸に咲く天元。異邦人(ストレンジャー)。

 一人は男。カゲン。またの名を仮面ライダーゾンジス。
 歴史の枠の外側にあって、その魂を王(たいよう)に囚われた月の片割れ。下弦。

 
「ねえ、一応聞いておくけど」

「何だ」

「貴方たちの目的って、何?こーんな大所帯で、戦国の合戦もかくやといった具合にドンパチやっちゃって」

「ふん、何を言うかと思えば」

 武蔵は聞いた。確と、この耳で。
 先の遭遇から数分も経たずして、何やらまあ個性的な集団がまたぞろぞろと。
 四人集って丁度良いと感じていた森林の一帯に増えていく奇怪極まりない一行。
 事情やら目的やらを大して聞けず、知らず、あれよあれよと状況に流されて行く間に、こんな合戦に招かれる羽目になってる。
 
 いやまあ、それ自体は流してもいいけど。
 優に十数を超える大所帯に紛れての戦など、あのインフェルノとの死合い以来か。
 あの時でさえ、強敵と定めた相手を討つための策を入念に練った上で漸く死合えたようなものだ。それを、これほどの人数が集まっていて、尚且つこちらに策の打診も何もなく、いきなり決戦だ、などど。
 無謀極まりない愚行であるが、まあ良し。合流してから直ぐの強襲、碌に話をする猶予は一切無かった。
 それでも一言二言は、何かあってもいいもんじゃない、とは思ったけれども。
 

 何やら渋みを湛えた精悍な顔つきに熱血で瑞々しい顔つきだったりと、中々に美形揃いなのもまあ、あるけども、そりゃありますけども!
 う~ん、あの白服の偉丈夫殿はともかく、あの赤青の子はまあ、十年前に期待かな!
 
 …………理由は如何あれ、訳も事情も解らずとも、この戦場にて刃を振るう事にはそれなりに納得してる。 
 だから、そう。武蔵が言いたいことは別のところだ。
 一言も言葉を交わす事無く、大した縁もまるでなく。
 如何にも深い因縁が交錯する戦に鯉口切って参入するのも構いやしない。

 
 けれど。

 何処か、引っかかることがある。
 相手の闘気はこれ以上なく昂りを見るどころか、既に底を割っている状態だ。
 詰まりは、一触即発。武蔵が一瞬でも刀に手を掛ればその時点で死合は幕を開ける。
 その段になって、無頼の武芸者たる宮本武蔵が迷い事とは。
 
 理由は明白だ。
 まだ武蔵は、眼前の男らが断ずべき悪であると定められていない。
 予感はある。予測はしている。彼らを指揮する名も知らぬ男、管理者の主はろくでなしだ。けれど、その在り方は如何にも覚えがあるもので。

 一目見て、分かった。
 あれは未来を見据えるものだ。明日を、望むものだ。
 ……きっと、相違はある。探そうと思えばいくらでも見つかる。
 当然のように味方の犠牲を容認するようなその在り方が、この新免武蔵の惚れた”正しさ”であるものか。呵責なく刃を預けられる主(マスター)などであるものか。
 こんな抜き身の人斬り包丁に信を置き、また自らも信を預けた藤丸立夏とはその歩んだ道筋に欠片も当てはまらない。
 
 だが、在り方はどうしようもなく似通ってる。
 特異点。歴史の修復。世界の救済。
 正史との掛け違いか、数多に枝分かれした歴史(へいせい)か。
 過去の修正の果てに、望んだ明日(みらい/れいわ)を得んとする意思。 

 藤丸立夏と常盤SOUGO。
 只人と管理者という二者に於ける、唯一の共通点。
 それが、未来へと、明日へと手を伸ばす確固たる意思であったから。
 
「我らクォーツァーの、そして俺の求めるものは一つ。醜い平成を潰すこと」

 だからこそ、柄にもなく武蔵は迷い、己なりの善悪の測りにかけ。

「それを阻むものは、俺が潰す!お前も、お前の仲間も、障害となるものを総て、俺が殺してやる!」

 
 (まあ、そうよね。わかってる)

 ──────そして、天秤は傾いた。
 只今を以て、武蔵の迷いは露と消えた。
 これは、駄目だ。武蔵が最も嫌う類の外道だ。
 己が望む未来のために、何もかもを踏み台にしてしまう存在だ。踏みつけた何もかもを顧みない化生の類だ。
 面影を重ねた藤丸立夏との埋めがたいその差異を見逃すことなど、できない。

 
「………………そう。でしたら、私から言う事は、なにもない、わね」

 刀を構える、武蔵。
 迸る殺気が、その首寄越せと告げている。滾る剣気が、愉しませろと叫んでいる。何を隠そう、この武蔵も突き詰めればろくでなしの類だ。
 間違っても、この血を吸い上げた身は憧れたあの正義なんて語れる身じゃない。

「そんな狼藉、私の主(マスター)も決して許したりはしないでしょうし。なのであなたはここで止めます」

 正義は語れないが、非人間なりに正義感は持ってるのだ。そのなけなしの正義が胸の裡を衝き動かす。
 正義を語れないのだから、ガキ大将めいた理屈で迷惑に黙らせてもらう。
 正義を語れずとも───信じた誰かの正義の力になってやる事は、出来るのだ。


「ふん、来るかッ」


<ゾンジス!>


 
 さて、お立ち会い。
 いざ、覚悟召されよ。
 之よりご覧になるは魂震わす果し合い。
 空前絶後、驚天動地、我らが我らである証を立てんとす武の権現。
 まことの真剣勝負────その結末が如何なるものになろうとも、決して瞬きなきよう、お願い奉り候。

「いざ──────」

 いざ───

 いざ───

 いざ覚悟めされよ新免武蔵!


「──────尋常に、勝負!」


25人目

──────肉体に染み渡る力を感じる。
 澄み渡る思考。漲る活力。増強された筋力。
 星の生命そのものを取り込む外法、神のみが持つはずの禁断の果実は下級に類する一戦士を高みにまで押し上げてる。

 千の鍛錬をひと噛みによって超越する神秘を、この男は果たして幾つも積み上げた。
 そうして苦も無く手にした力によって作り上げた千の軍団と全能感に酔い痴れてる。
 ターレスという男の経歴を語るのならば、圧倒的な力とその元手である神精樹なくして語れない。
 
「神精樹の根本が何か光ったと思えば……………こいつは驚いたぜ」
 
 そんな、彼にとって。
 己の大願成就に神精樹の存在が依存しているターレスにとって。
 真下に広がる戦火を放っておく訳にはいかない。

「さてはあの小僧の差し金だな。こいつは俺の失態だ。サイヤ人の血を引く者だからか、殺さずに済ませた俺が柄にもなく甘かったのだ………!」

 回顧する。記憶の海から手繰る場面は現在とそう遠くない過去だ。
 数分前に遭遇した少年、トランクスに下した対応は攻撃。自らの実力に及ばない小蠅をはたきおとすように撃ち落とした。
 そこに呵責が無いと言えば噓になる。
 問答無用で振るわれる害意こそは悪辣と呼んで差し支えないものではあれど、ターレスからすればこれは同族に於ける温情だ。
 先の交戦で煮え湯を飲まされた憎きカカロットの仲間を殺しもせずに一撃で済ませる。
 粗忽な侵略者の長にとってあるまじき、とっても寛大な処置。
 
 事実、ターレスはトランクスに対して余り脅威というものを抱いていなかった。
 更に強く、大きくなった力の試し撃ち。
 トランクスに放った気弾。それは過去の伝説すらもその身に宿したカカロットを仮想敵と定めたターレスは、避けられ、いなされることを前提として放った一撃だ。
 攻撃を回避されたものとして、幾重ものパターンを予測し、如何にして反撃を迎え撃つかさえ考えていたからこそ。
 力の本領にかすりもしない一撃を防御すら間に合わずに墜落してしまったトランクスを意識する必要がない相手であると認識したのも、ターレスを殺害にまで動かさなかった理由の一つだ。

 だからこそ。相手にならないと思ったトランクスが、こうして味方を引き連れている事実に少しばかり驚愕する。

「だが、所詮は神精樹の実を喰った俺に敵う相手じゃない……むろん、あの超(スーパー)サイヤ人になったカカロット、貴様もだ!」

 笑みを深める。
 際限なく全身を伝う力の奔流は、これ以上ない全能感を醸造してる。世に出回るどの酒精よりも人を酔わせる、負の快楽を。

「さて、クォーツァーの連中の援護でもしてやるか……まだ連中が倒れちゃ、俺も困っちまう」

 込められる力。
 動乱の最中である戦場に、絨毯爆撃を敢行せんと狙いを定め。

「……………ほう、俺に気づいていやがったか」

 その前工程の全てを中断し、地上から撃ち上げられた刃を回避した。
 紙一重だった。ターレスの半身を両断せんと直進する大剣は、その刀身を回転させている。その勢いたるや、寸前で回避したはずのターレスの頬に裂傷を与える程だ。
 けれど、避けた。凌いだ。
 さて、無礼にも己に狼藉を働いた下手人を探そうと視線を落とし。 


「避けたか」

 ――男の。
 ――姿が。
 ――舞い降りて。

「だが、これは避けさせん」

 ―――蒼き斬閃、瞬いて。
 眩い光が奔る。
 それは蒼白色をした輝きだった。
 それは遥かな果ての輝きだった。

 銘を、クレイモア。今宵も輝く月光を纏う大剣。
 名を、サイクス。闇を引き裂く眩い輝き。

 音速を遥か超越した一閃が、ターレスへと放たれた。

「なに………………っ!?」
 
 ターレスの立つ虚空から更に上。
 戦場の渦中に居ながら、誰の目にも留まらぬ速さで飛翔を果たしたサイクスは、そのまま投げたクレイモアを掴み、振り下ろす。

「く、舐めるな!!」

 咆哮。拒絶。
 遥か高みへ至った力への自負が、この窮地にターレスを突き動かした。断頭台の如く落ちる刃を、ダメージ覚悟で掴み、押しとどめる。
 掌に感じる痛みを代償にこの急襲にも対応したターレスは、けれど自らの身体の落下までもを防ぐ事は、できない。
 重くのしかかったサイクスの膂力が、ターレスの武空術を強制的に解除させ、刃を掴み、掴まれながらも墜ちて行く。

「これほどとは………!」

「く、そがぁーっ!!!」

 墜落の衝撃に体内が混ぜ返される感覚がある。
 それを、ターレスは忌々しく思いながら立ち上がった。どうやら彼の身体がクッションの役割を果たしたのか、相対するサイクスに怪我の類は見られない。

「やってくれるじゃねえか。あの小僧といい、カカロットといい、どいつもこいつも………!」

 殺意が大気を汚染する。
 噴出する怒気はこれまでに立て続けて起こった予想外を纏めてのもの。
 緒戦として拳を交えたカカロットは姿を見ぬ間に差をつけられ、取るに足りぬと驕ったトランクス相手に意識を取られ、一方的に嬲るはずだった自らの立ち位置も無に帰した。
 掌と頬に走る痛覚は秒ごとに怒りを乗算してる。

「もう泣き喚いて許しを乞っても無駄だぞ…………貴様らを一人残らず俺が殺してやるっ!!!」

 有り余る激情と傷のついたプライドが闘争心に火をつけた。
 この戦意を留める方法は一つ。彼の不興を買った生命全ての死に他ならない。
 頭の天辺から爪先までを他者の血で浸した侵略者の嚇怒は、それだけで空間を軋ませる。

 そんな、真っ只中に居ながら。
 サイクスの目は何処か悲壮の念を湛えてる。
「お前にはあるんだろう。心が」

「だから何だ」

───俺は奴らの味方になってまで真面目に探してるのに───

 思い返す。
 それは記憶。

───お前は忘れたかのように他の友達を作り、楽しそうに過ごし始めた───


 自身の消滅。敗北の結果。
 夕焼けに照らされ、膝を折りながら。


───たぶん、羨ましかったんだ───


 友達に、見送られながら。
 消えていく喪失感よりも、こんな事を口走ってしまう己への羞恥が強く残ってる。


───またな、アイサ───

───またな、リア───


 ハートレス。ころろを亡くした生き人形。
 他者を傷つけることでしか己を確立できない、怪物そのもの。
 そんなものに成り果てていながら、サイクスというノーバディは心への執着を他の誰よりも抱いていた。


「悟空とトランクスから聞いた通りだ。お前のやろうとしている行いは容認できない。何としてでも止める」

「何が言いたい」


 そんな、彼だから。
 
「だが、最初から心がありながら。友達を持てない、持とうとすらしないお前を。ただ、哀れとは、思う」

 眼前に立つ、ターレスという男にどうしようもなく悲しみを覚えてしまう。
 だって、サイクスの心を支えていたのは。

「ふん、何を言うかと思えば」

 憐憫と殺意が交錯する。
 剣気と暴威が激突する。
 
「話は終わりか?ならば死ね!!」

「来い、お前はここから進ませはしない」

 死闘の幕開けの轟音が、一際大きく鳴り響いた。

26人目

「『完肉』ネメシスの謎」

大樹の彼方へと駆ける一筋の剛射、それは雷光の如く。
しかしてその矢は、放たれると同時に無数の鏃へと膨張し、紅色の濁流となりて降り注ぐ。
_名を、対軍宝具『轟沈・弓張月』
人類史上の正史より外れし異間の戦闘機構が放つ、バトルシップキラー。
いかに神代の樹木といえど、これを受け続けて耐えうる道理は皆無。
大地を穿ち、天を貫く紅蓮の大瀑布を前にして、地響きと共に幾多の巨根が一瞬の内に風化し、崩れ落ちる。
混沌の地理模様を描いた特異点を一色に染め上げ犇いていた根が灰塵に帰す。
_それでもなお、威容として存在を保つ大樹、神精樹。
地表を覆い隠していた己の根を焼き払われ、粉塵の中、尚も健在。
その根は深く、広く、そして強靭であった。
この程度で倒れるほどヤワではないぞと、大海原のごとく広大な根を以てその存在を確たるものとし続ける。
それは同時に、神精樹から源為朝への挑戦状でもあった。
そんな神精樹へ、今一度確たる破壊の意志を以て矢が射られる。
先ほどの比ではなく巨大な魔力で編まれたそれ。
その数は、一つや二つどころではなく。
轟く弦音は幾重にも重なり、重なり、折り重なること数十重。
それら全てが、宝具の名に恥じぬ一撃必殺の破壊力を秘めていることを確信させる。
そして轟音を伴い放たれた。
無慈悲なる死の矢の豪雨が、天空より今一度降り注ぐ。
狙いは一点、神聖なる大樹の麓にして、混沌の渦中たる決戦の地。
成程、真に根切りを果たさんとするならば、これ以上無いほどの策と言えよう。
事実、この艦砲撃とも言うべき一点掃射は、諸共を無に帰して余りある威力で神精樹を伐採してみせるだろうとも。
_されども、この策には決定的な欠点がある。
「_マカラカーンッ!」
かの戦場、その渦中の一角に、稀代のトリックスターにして切り札(ジョーカー)が伏せられていた事は、誰しもが予想だにしなかった。
そして…
直撃する、十数撃の轟射。
それら全てを悉く弾き飛ばして見せる、巨大な四季彩色の障壁。
神精樹の幹の中心にて煌々と輝く魔導陣から発せられる、絶対防御。
意識外からの即死の連撃を、雨宮蓮はたった一唱の魔法で以て凌ぎきったのだ。
だがそれだけでは終わらない。
攻撃を防いだ後も尚残る膨大な熱量にが生む蒸気が視界を覆う土煙の中から打ち出される、紅色の掃射。
否、それは先の一撃と遜色無き一射であり、これ即ち"打ち返された"という事実を言い表していた。
空の彼方へと駆けて帰っていく無数の鏃を見つめながら、一人呟く。
否、そこに居るは二人の有志。
「_キン肉マン」
「…今回ばかりは無茶をしたのう。だがよくやった、蓮!」
雨宮蓮を背に腕を構え、キン肉一族に伝わる『肉のカーテン』にてかの轟射を一身に請け負っていた張本人。
「にしても危なかったな!私が間に合って無ければ、打ち返す事もままならんかったわい!」
「あぁ、助かった。」
そして先の詠唱効果を相殺から反撃まで押し上げる時間を稼いだ、影の立役者でもあった。
彼もまたこの特異点にて、戦乱の渦中へと辿り着いた戦士の一人なのだ。
「ありがとう。」
「何、へのつっぱりは要らんですよ!」
「相変わらず何言っているかさっぱりだな…ま、気合は感じるけどな!」
この場にあって二人と一匹に言葉は無くとも、共に同じ思いを抱いている事が分かった。
それはそうだろう。今此処にある命は奇跡そのもの。
今一度この瞬間を生きるという事そのものが、何よりも得難きもの。
その奇蹟を享受出来るからこそ、この場に立つ者は皆戦えるのだ。
だからこそ二人は、再び大地を踏みしめる。
この場に在れる幸福を噛み締め、次の一手を思案する。
「にしても何だったんだ、今の一撃…あいつら、巻き込まれてねぇだろうな?」
モルガナの言うように、此度の掃射は全くの意識外から不意に撃ち込まれた、と片付けるには余りにも秘められた威力の桁が違っていた。
加えて、その掃射を放ったと思われる何かも、それを駆る者達の存在も謎である。
斯様な大技を、ただでさえ敵の多い状況で無闇矢根に放つ理由が見当たらない。
だが先の一撃を返したからこそ、次がすぐには来ない事は確信できたものの、この一手のみで終わる筈が無い事を、誰もが理解していた。
であれば、次はどう来る、どのような手を打てば良いのか?
そんな思考に耽る二人の傍らで、モルガナはふと思い返す。
「…そういえば、あのネメシスってヤローはどうなったんだ?」
言われて再び思い返す、キン肉マンに似た完璧・無量大数軍の刺客。
会敵した時に感じていた猛者の気配が、今は鳴りを潜めている。
よもや、今の一撃にて蒸発したか。
そう考えた矢先の事であった、 突如として、地響きが辺りを揺るがしたのは。
神精樹の根元より立ち昇る、強烈な蒸気の波動。
そして、大気を震わすような怒号が、天高く轟く。
「フゥー…今のは、貴様等の仕業ではない、という事か。」
それがたった一度の溜息である事に気付くには、数秒を要した。
伊吹の如き吐息を以て己が肉体を震わせ、蒸気に満ちた大気を無色へと塗り替えるのは、誰あろうネメシスだ。
先の一撃を、彼もまた防御で以て防いでいたのだ。
「なっ、その構えは…」
そして彼の構えは、キン肉マンの『肉のカーテン』に酷似していた。
「我が一族に伝わる『パーフェクトディフェンダー』だ。私にこれを切らせるとは、恐ろしい者もいたものだ。」
言いながら、ネメシスは己が肉体に視線を落とす。
その全身を覆うのは、半透明の薄い膜。
これこそが、かの絶対防御の真相。
全方位を覆い尽くすバリアにて身を包み込み、飛来する攻撃を防ぐ。
一見すると単純なようではあるが、ただの素人が行っても何も起きない構えでもある。
それ即ち、超人的強靭さを持ち得る者のみが習得する絶技であるという事。
だが、それだけでは無かった。
ネメシスの肉体は、先程の一撃を受けて尚、無傷。
神精樹の根が生み出した水蒸気が晴れ、その奥から覗かせるのは、一切のダメージを受けていない無傷の肉体。
それは即ち、彼の『パーフェクトディフェンダー』は『肉のカーテン』と同様の防御力を有しているという事を示していた。
それも、攻撃が貫通しない程に強固に。
故に、尚更に彼がキン肉マンと酷似している謎は深まるばかりである。
「なんじゃい貴様!初対面の癖に私に似た姿をしおってからに!」
「フフフ、初対面か…確かにお前からはそうだろうな。」
対するネメシスの笑みには、嘲笑とも取れるような余裕の色が垣間見えた。
謎は、深まるばかりである。

27人目

「Yes My Lord,You're my KING!」

 ゾンジスVS宮本武蔵。
ターレスVSトランクス/サイクス。
「完肉」ネメシスVSキン肉マン/ジョーカー。

 特異点の至る所で勃発する戦闘は、留まるところを知らない。

「さて、ではこちらも始めるとするか」

 仮面ライダーバールクスへと変身したクォーツァーの王、常磐SOUGO。
虎縞の玉座を頂く長い階段の上からこつ、こつ、と足音を立ててゆっくりと降りてくる。
悟空、承太郎、ゼンカイザー……そしてジオウは警戒を厳にしてそれを待ち構えていた。

「あいつ……すげえ気だ……!」
「君は知っているはずだよ、孫悟空。バールクス……その力の根源たる存在……
仮面ライダーBLACK RXを。おっと、今は違うんだったか……こっちの話だ。
気にしないでもらえるかな」

「何?」
「まぁいい、どちらにせよ君達の知る歴史とは違う道を歩んでいるのだからね」

 意味深げな言葉を並べ立てるウォズ。その真意を知る者はいない。
しかし、SOUGOから放たれる威圧感は、これまで相対してきたどの敵よりも
強力かつ邪悪なものだった。

「ウォズ! どうしてクォーツァーに……
俺やゲイツたちと一緒に戦って来たじゃないか!」
「我が魔王……いや、常磐ソウゴ。私は真なる魔王に仕える身。
今はここにおわすクォーツァーの王こそが、私の仕えるべき王なのだ」
「……ッ!?」

「そう言う事だ。すべてはこの時のため。影武者たる貴様が
全ての平成ライダーの力を継承し、それを奪い取る事で我が悲願を達成する。
ウォズはそのために貴様に近づいただけに過ぎない」
「嘘だ!!」

「そう、嘘だ。貴様は偽りの王。何もかもが虚構。俺の替え玉。
今までご苦労だったな。ふふ、はははははははははは……!!」

「う、うう……」
「ソウゴ、大丈夫!?」

 戦意を失っていくソウゴを気遣うゼンカイザー。
今まで積み上げてきたもの全てが、嘘偽り……ならば自分は一体何のために
ここまで必死に戦い抜いてきたのか……

「なるほど……事情はよく分からんが、あのクォーツァーの王とか言う奴も
人を利用するだけ利用して、自分は背後で踏ん反り返ってるばかりのクズのようだ。
そういうのは俺は好かんな」

 そう言い放った後、承太郎のスタープラチナが一瞬で間合いを詰めて拳を放つ。

『オラァァァァァァァァァッ!!』
【投影! フューチャー・タイム!!】

 しかし、ウォズが瞬時に仮面ライダーウォズへと瞬間変身し、
バールクスの盾となってスタープラチナの攻撃から守護した。

「何……?」

「大義である。ウォズ」
「ありがたきお言葉。では、CROSS HEROESの諸君。見せてあげよう。
我が王の御前にて、私の力が如何なるものかを。
君の相手は私が務めさせていただく、空条承太郎」
「野郎……上等だぜ……! その顔面の文字が読み取れなくなる程に
ブチのめしてやるから覚悟するんだな……」

 その言葉を皮切りに、承太郎とウォズは同時に飛び出して行った。

「ソウゴ! しっかりしろ! 敵は待っちゃくんねえぞ!!」

 呆然自失となっているソウゴに、悟空が喝を入れる。

「……そうだよね……こんなところで、負けられない。
みんなが頑張ってるのに、俺だけが頑張らないなんて事は出来ないもんな」
「ああ。それに、おめえが信じてきた仲間もきっと同じ気持ちだと思うぜ。
おめえが諦めちまったら、それこそあいつらも報われねぇんじゃあねえか?」

 そう。こうしている間にもゲイツやツクヨミはDr.ヘルの居城・バードス島にて
決死の戦いを挑んでいるのだ。仲間を信じる心、それだけは誰に用意されたわけでもない。
ソウゴ自身が選び取ったものだ。

「……ありがとう、悟空さん。おかげで目が覚めたよ」
「おう! それで良いんだ!」

 笑顔を見せる悟空に、ソウゴも思わず笑みがこぼれる。

「ぐわはははははは! 友情ごっこもそこまでだ!」
「!?」

 突如、彼方から伸びてくる緑色の腕。それが悟空に掴みかかる。

「こ、こいつは……うわっ!?」

「孫悟空……! 久しいな!!」
「おめえは……スラッグ!!」

 ターレスと同じく、アナザーワールドから召喚された悪のナメック星人・スラッグ。

「そう言や、ピッコロが言ってたっけ……!! こいつもクォーツァーに……」
「くくく、ターレスの奴は他の連中の相手で足止めを食らっているようだ。
一番の獲物はこの俺様が頂いて行くぞ!」
「くっそ……! 介人! ソウゴを頼む!!」
「悟空さーん!!」

 最悪のタイミング。
精神的に弱ったソウゴをフォローせねばならないと言う場面で、
悟空はスラッグの腕に引き寄せられ、陣形を崩されてしまう。

「この時を待ちわびたぞ、孫悟空!!」
「おめえに構ってる暇は無えってのに、ちくしょう!!」
「神精樹の実の力で、この俺も遥かにパワーアップした! ぐふふふふふ、
素晴らしいものだな、こいつは!!」

「おめえもか……ッ……!! くっ、確かにオラが倒した時とは比べ物になんねえ気を
感じる……こりゃさっさと終わりそうにもねえぞ……!!」
「くっそぉ、一体どれだけの敵がいるんだ!!」

 承太郎、悟空……そしてジュランを始めとしたゼンカイジャーの面々も
カッシーン軍団に行く手を遮られ、ジオウとゼンカイザーの援護に向かえない。

「介人ォッ……今、行くからなァッ……!!」
「それにしても! こいつら機械じゃん! 動物ちゅわんでもないのに
こんなにワラワラ出てきてくれちゃって! あーやだやだ!!」
「次から次に新たなる敵! 理解が! 追いつきません!」
「ぬぬぬーっ! コミケ会場の待機列だってもうちょっと整然としてるすよ!?」

 だが、彼らはまだ知らない。天より放たれし剛弓の矢が
この混沌とした戦場に迫りつつある事を……

28人目

「激戦のバードス島」

一方その頃、バードス島の地下ではDr.ヘルがなにかの準備をしていたり
「……どうやら、やつらも動き出したか……
……滅びの現象を起こす者達、そしていつか蘇るであろう奴らに対抗する為にも……手に入れなければならない……光の力を……」



そして場面は地上に戻り、バードス島の各地でCROSS HEROESとDr.ヘル一派による激しい戦いが繰り広げれていた。
「ギャオオオン!」
「デェヤッ!」
複数体の機械獣を同時に相手するウルトラマントリガー
『クッ……』
(これが機械獣……僕が居ない間にこんなのが暴れてたなんて……)
2年間エタニティコアの中に居たケンゴにとって、その間に活動していたDr.ヘルの機械獣や別の世界からやって来た晴明が召喚する鬼などは彼にとっては未知の敵なのである。
(けど何故だ?この機械獣という兵器……どこかで見たことがあるような……)
「グオオオオオオッ!」
「ッ!」
機械獣の相手にしてるウルトラマントリガーを背後から鬼が襲いかかる。
『しまっ…!』
次の瞬間鬼の頭は一発の弾丸に撃ち抜かれ破裂した。
『え?』
「大丈夫か?ケンゴ」
『クルツさん!』
「援護するぜ!」
そう言いクルツの乗るM9ガーンズバックはウルトラマントリガーと戦っている機械獣のうちの1体を撃ち抜いた。
『ありがとうございます!』
《サークルアームズ!マルチソード!》
「デェヤッ!」
ウルトラマントリガーは専用武器のサークルアームズで機械獣を斬り裂いていく。



「兜甲児!このブロッケン伯爵が相手をしてやる!」
「来い!」
「はぁ!」
ブロッケン伯爵が乗るブロッケンV2シュナイダーは何本もの触手を伸ばしてマジンガーZを攻撃する。
「そんな攻撃が当たるかよ!」
マジンガーZは飛び回って触手をかわしていく。
「今度はこっちの番だ!ロケットパァァァンチ!」
マジンガーZは両手の腕を飛ばしてブロッケンV2シュナイダーを攻撃する。
「効かぬわ!」
が、ブロッケンV2シュナイダーは触手でロケットパンチをキャッチしてしまう。
「なに!?」
「スキアリだ!」
ブロッケンV2シュナイダーは触手でマジンガーZの両足を掴んで動けなくさせる。
「しまっ…!」
「死ねえ!兜甲児!」
ブロッケンV2シュナイダーが、アゴに付いたドリルを回転させながらマジンガーZに突っ込んでくる。
「そうはさせるかよ!」
ボスボロットが腕を伸ばしブロッケンV2シュナイダーを捕まえる。
「なっ!?は、離せ!」
「今ださやか!」
「ええ!Zカッター!」
ビューナスAはZカッターを発射し、ブロッケンV2シュナイダーの両手やドリル、触手をバラバラに切り落とす
「し、しまった!?」
「サンキュー!ボス!さやか!」
「へっ、うおおりゃああああああ!」
武装がなくなったブロッケンV2シュナイダーをボスボロットが思いっきり空中にぶん投げ
「ブレストファイヤー!」
空中に投げ飛ばされたブロッケンV2シュナイダーに向かってマジンガーZがブレストファイヤーを浴びせる。
「Dr.ヘル様!お、お許しをぉぉぉっ!!」
ブレストファイヤーを浴びてどろどろに溶けたブロッケンV2シュナイダーは中にいるブロッケン伯爵もろとも爆散した。

「よし、次はあしゅら男爵!お前の番だ!」
「フン、いいだろう!かかってくるがいい!兜甲児ぃ!」



「ハァ!」
「もらったぁ!」
騎士アレックスが鬼の頭部を斬り裂き、バーサル騎士ガンダムが電磁ランスで機械獣を貫き破壊する。
「アル、残りの敵の数は?」
『鉄仮面は既に全滅させることに成功しましたが、機械獣はまだかなり数が残っており、鬼にいたっては無限に湧き続けている模様』
「流石敵の本拠地、数が今までと比べ物にならないほどに多い…!」
「鬼の方はあの晴明という男さえなんとかすれば、これ以上増えるのを阻止できるが……」
すると突然『ズドーン!』という大きな音と共に地面が揺れる。
「な、なんだ!?」
「地震!?」
「いや違う……これは……」
『軍曹、なにかがこちらに近づいて来ます』
「なに!?」
「あれは…!」
次の瞬間、一同の目に写った光景、それはこちらへ向かう鋼鉄の巨人、サヘラントロプスだった。

29人目

「ありえざる救世主」

〜存在しなかった世界〜
特異点とはかけ離れた位置に存在する、裏の世界。闇と悪と。
「救世主様万歳!」「救世主様!どうか我々をお救い下さい!」
無限に等しい崇拝が、そこにはある。
救世を唄うように、永続不変の平和を謳うように。

そんな世界の中心に聳えるは、大聖堂の如く高く立つ白銀の城。
元々はノーバディという心亡き人形がいて、大いなる心を巡る戦いを繰り広げて、遂には敗北した。

しかし今は、そんなことはつゆ知らず。
「うむ、任務ご苦労だった。シグバールよ。」

魔弾の射手。その眼前。
威風堂々の大帝が、そこにいた。

「すでに芥の兄ちゃんと為朝は特異点にいるぜ。だが、案外苦戦しているようだ。」

「そうか。奴らも我らが同胞、無くすには惜しい。」

薄く耀く帷の奥にて、大帝の一声が響く。
筋骨隆々にして大胆不敵、まさに威風堂々。

「んで、どうするんだ?カールの旦那?」

カール大帝。
その名を知らぬ者などいない、最大最強の帝王であり、ある月の世界で戦いを繰り広げた裁定者。

そして、今はメサイア教団の救世主。その座に就いている。

「シグバール貴様、不遜だ!言葉を慎め!神の前だぞ!」

隣で、黒い眼鏡をかけた男が吠える。
相当の崇拝者であるようだ。

「まあ良いではないか、魅上よ。この男のサガだ。」

カール大帝に諌められた男。魅上照。
彼もまた、かつて死神より貸し与えられた力で世界から悪を一掃しようと試み、その根源たる歪み切った正義に心酔、崇拝した男である。

「た、大帝がそう仰るならば…。」

魅上は、慎ましやかに黙り込む。
それを見たカール大帝は。不敵な笑みを浮かべて。

「シグバールよ、神精樹の力を逆流させる準備は出来ているのだな?」

「ええ、出来ておりますとも。既に担い手たる芥志木は準備が出来ているとのことです。あとは為朝が周りの奴らを撤退させれば……。」

淡々と答える。その声を聞き。

「そうか。だが今回は相当に苦戦しているようだ。為朝はまだ死なせてはならん。もう一体、送り込め。今すぐに。」

シグバールもまた。不敵に笑う。

「ええ、準備はできていますとも。救世主様。」

〜特異点 神精樹根本〜
芥志木は、そこにいた。
「ちょちょいのちょいと。よし、後はAW-A01がつゆ払いをしてくれるまで待つか。」

樹の内側に右手を突っ込み、まるで壁に寄りかかるようにしている。

「俺の持つエネルギー反転。昔はこの異能に苦しめられてきた人生だったが、今では俺の誇りだな。何とかもハサミも使いようってやつだ。」

樹に汲み上げられるエネルギーを大地に還し、神精樹をゆっくりと枯らすつもりなのだろう。
しかしその時、通信が入る。

「はい、もしもし。」
『シグバールだ、そっちは済んだか?』
「いや、後少しかかりそうだ。成長しすぎて内部構造が厄介だな。どうした?」
『そっちにもう一体送るぜ。AW-B03だ。』

ふっ、と志木は笑う。

「おいおい、これはまたヘビーなのを……巨戦機英雄ヘラクレスを送るってか?」

地底特異点アガルタにて、ある征服者によって操られた英雄。
暴虐の嵐の如き、狂える化身。

巨英雄。またの名を、ヘラクレス・メガロス。

それが今、送り込まれようとしていた。

「ーーーーーーーーー!!」
黒穴より来る。暴威の化身。

しかし。妙なり。
黒い体躯はいい。しかし待て。
肩に巨大ミサイルポッドを搭載しているのは、いかに!?

30人目

「新世界の神と悪魔 - 終わりを見た者 -」

 ヒトの歴史には、神に近づかんとした傲慢さを罪とし、
罰を科されたと言う逸話が数多く存在する。

『僕は……新世界の神となる……!』

 死神によって現世に持ち込まれた一冊のノート。
それに人の名前と死因を書き込めば、書かれた者は必ず死ぬのだと言う。
その名はデスノート。大抵の人間であれば、恐ろしさのあまり手を出さないであろうが、
生憎彼は普通の精神性を持ち合わせていなかった。

 夜神月。
成績優秀、容姿端麗、警視総監の父を持ち、何一つ不自由の無い人生を送ってきた
大学生であったが、デスノートの存在に触れた日から、彼は変わった。
ニュースを賑わす凶悪な犯罪者。不正を働く公権力者。
そう言った者たちを「悪」と断じ、月は次々とデスノートを使って
「悪人」を裁いていった。
やがて月は「キラ」の異名と共に世間で都市伝説として囁かれるようになる。
悪を正す万能者。「新世界の神」と崇め奉る狂信者までもが現れている始末だ。
そして今宵も、「悪」に魅入られた哀れな男が一人、死の淵へと誘われていく。

「さぁ、僕のために死んでくれ……」
「うぐっ……あ……」

 月の手でデスノートに記された名前が光を放つ。
その瞬間、男の全身から力が抜け落ち、地面に倒れ伏した。
「キラ」によって次々と目に見えぬ殺人が繰り返されていく異常事態を察した
警察も黙ってはいない。数々の難事件を解決してきた天才探偵「L」を
海外から呼び寄せたのだ。
Lはやがて捜査の中で知り合った月と友人関係を築きつつも、月が「キラ」であると
看破した。しかし、あと一歩と言うところで月の策略に嵌り、
デスノートに本名を書かれてしまう。

 結果、Lもまた死を迎える事となり、その後、
月は再び「新世界の神」の階段を上り詰めていく。
しかし、Lの遺志を継ぐ者達によってキラの捜索はその後も続けられていた。
そして……

「月……何故だ、何故お前が……『キラ』なのだ……!」
「し、死ねない……僕は……こんな……ところで……僕は、新世界の……神に……」

 その結末は、新世界の神などとは程遠い、惨めなものだった。
かつての仲間に銃口を向けられ、地べたを這いずる惨めな男の姿。
それは紛れもなく夜神月であった。

『あーあ、みっともねぇな、月。瀕死の芋虫みてえだ。
そんなザマじゃ生きてても辛いだろう。何より、俺が見ててつまらねえ』
「リュ、リューク……何を……やめ、やめろ……
やめろおおおおおおおおおおおおおおおお……」

 これまで、多くの人々の命を奪ってきた者の末路。大罪への裁き。
デスノートを使用した者の魂は死後、決して浄化される事は無い。
永遠に天国にも地獄にも行けず、未来永劫虚無を彷徨い続ける。

「な、何だ……これは……」

 魂だけとなった月は見た。数々の世界が終わりを迎えていく光景を。
それはまるで、デスノートに名前を書き込まれた者が死んでいく様にも似ていた。
誰の仕業だ? 誰がこんな事をしている? 
殺人どころではない、世界そのものを殺していく存在。
そんなものが本当にいるのだとしたら、それは――

「そう。貴方もまた、許されざる罪人なのね」

 声の主は女性だった。
漆黒の髪を持つ美しい少女。だがその瞳には、一切の光が宿っていない。
暁美ほむらだった。

「な、何だ、君は……」
「貴方と同じように、自らのエゴで神を引き裂き、世界を塗り替えた……
ある意味、貴方と私は同じ存在なのかもね」
「それは一体、どう言う……」
「ありがとう。貴方のおかげで、識りたかった根源に辿り着けそうな気がするわ」

「待ってくれ! 君が何を言いたいのか分からないけど、僕はまだ消えたくないんだ!」

 必死になって手を伸ばす月だったが、
既に肉体の無い彼に出来る事は、もう何も無かった。

「心配ないわ。もうお迎えが来ているみたいよ」

 ほむらの言葉通り、彼女の背後からは無数の怪物が姿を現し始めていた。
月はその絶望的な光景を前にして理解した。
彼女はヒトではない。悪魔なのだと。

『おい、月。世話を焼かせるな。お前のせいで余計な手間が増えたじゃないか』

 怪物たちの中には、月にデスノートを授けた死神・リュークの姿があった。

「リュ、リューク……」
『さあ、お前にもう自由なんか無いんだ。来い』
「い、嫌だ……き、君! 助けてくれ! 僕は……」

「ごめんなさい。私には、貴方を救う立場にはない。だから、その手を取る事も出来ない」
「そ、そんな……うわあああああああああああああ……」

 そして、月は常闇の彼方へと引きずり込まれていった。

「ふぅ……」

 多くの命を見捨ててきた。自ら生み出した偽りの希望に縋り、
醜く生き長らえようと足掻いて来た。
その結果、この身を滅ぼしたとしても悔いはないと思っていた。
だけど、たった一つだけ心残りがあるとすれば、それは……

「いずれ来たる滅びの時。その始まりが、あの世界にあっただなんてね……」

 旧世界のCROSS HEROES。
その結成の地。そこに、すべての謎を解く鍵が隠されているような予感がしていた。

「もう、二度と訪れる事は無いと思っていた。
私にとっては単なる通過点でしかなかった筈だったから」

そう呟いたほむらの顔に、初めて感情らしきものが浮かぶ。
それはどこか懐かしむ様な表情であり、悲しげな微笑みでもあった。