プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:10

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1人目

「Prologue」

 特異点に突入したCROSS HEROESを待ち受けていたのは
クォーツァーの王、アナザーワールドから召喚された凶戦士たち、
そして完璧・無量大数軍であった。
リ・ユニオン・スクエアではついに開戦したDr.ヘルの居城、バードス島での決戦。
希望ヶ峰学園爆破を企てたメサイア教団の暗躍。
スカルフェイスと共謀するレッドリボン軍の新たな人造人間、21号。
世界を隔て、激突する各勢力。

 カズヒラ・ミラー救出作戦に挑むヴェノム・スネーク、リボルバー・オセロット、
バッファローマン、髑髏部隊の行方を追う正義超人軍団、
そして成り行きから同行する事になったウーロン。
人造人間21号が開発した「波動」発生装置は超人達から戦う力を奪い、
さらに孫悟空やナッパと言ったドラゴンワールドの戦士の細胞から培養したクローン兵士の試作型が戦線に投入される。
思うように戦えないため、苦戦を強いられる超人たちであったが、
何とか敵を退ける事に成功した。一方、正義超人たちと行動を共にしたウーロンには
意外な才能があった事が判明する。
直立二足歩行兵器サヘラントロプスに乗り込み、予想外の戦果を上げたのだ。

 クォーツァーの王の正体。その名は常磐SOUGO。
偽りの王であるソウゴに平成ライダーの力を集めさせた上で、そのすべてを奪い、
「平成」と言う醜い歴史そのものを消し去るという恐ろしい野望を持っていた。
これまでの戦いが仕組まれたものであったと言う事を知ったソウゴは茫然自失となる。
だがそれでも彼は諦めなかった。悟空の励ましもあり、
ソウゴはクォーツァーの王であるSOUGOとの戦いに臨む。

 ターレスと同様、アナザーワールドから召喚されたスラッグの妨害で
ソウゴやゼンカイザーと分断されてしまう悟空。
ウォズと承太郎の激突。クォーツァーによって巧みに戦力を削がれ始める。

 バードス島では鉄仮面軍団と戦うピッコロ/環いろは/黒江/日向月美、
機械獣と戦う最中に遥か遠い記憶が呼び起こされるウルトラマントリガー、
ブロッケン伯爵が乗り込む機械獣・ブロッケンV2シュナイダーと
兜甲児/弓さやか/ボスのマジンガーチームが
激闘を繰り広げていた。ボスやさやかのサポートを受け、
ついにマジンガーZはブロッケンV2シュナイダーを倒す事に成功する。
一方、Dr.ヘルは城の中枢にて不気味に何かの準備を推し進めていた。
果たして彼の目的は……?

 メサイア教団に君臨するカール大帝、それを崇拝する男、魅上照。
かつて新世界の神を目指しながらも、その大きすぎる野望と罪と共に潰えた男・夜神月が
彷徨える魂となって宇宙を漂う最中に見た「世界の終わり」。
暁美ほむらが追う「すべての始まり」。

 物語は、いよいよ根幹たる部分へと迫っていく―――。

2人目

「始動、サヘラントロプス」

巨人の脚が、甲板を、砂浜を、そして岩場を跳ねて駆ける。
重厚な見た目とは裏腹に繰り出される軽やかかつ大胆な走法が、まるでステップを踏むようにも見える。
息を付かせる間もなく戦線のど真ん中へと辿り着いた、全長35.5mの鋼鉄の巨人、その名はサヘラントロプス。
IFFに映る識別コードは、Friendly(味方)の表記。
「よぅし、こうなりゃやけだぁい!!」
そしてそれを駆るのはウーロンである。
先ずは挨拶代わりにと、コクピット両端に配置された眼の如きガトリング砲が唸りを上げる。
視線の如く薙ぎ払うように掃射された劣化ウラン弾芯の銃弾が、機械獣の鋼を穿ち、鬼の肉を抉る。
_キシャア”ァァァァ!!!
突然の蘭入者に対し、しかし一瞬の内に敵見たりと近接戦を挑む鬼
「こっち来るんじゃねぇ!」
だが、遅い。
居合の間合いに入った鬼が振り下ろす攻撃を、劣化ウラン製の盾が防ぎきる。
そして懐から抜き放たれたアーキアルブレード。
漆黒と血を綯い交ぜにしたが如きその刀身を露わにし、鬼の体へと深く、強く突き刺さる
直後に鬼の身体中へと起こる変化。
_ギジャァ”ッ!!?
身体中の至る箇所に突き出る、暗く赤黒い瞬きを放つ鉱石。
一瞬の後、より一層の瞬きを見せた鉱石は、爆ぜた。
同時に、鬼の体がバラバラと崩れて落ちる。
「うわぁ…これ、俺がやったのか…?」
身体中が爆ぜた鬼の体は、ミンチよりも醜く、不気味な死に様だった。
コクピットにまで伝わる硝煙と血の混じった腐臭が、ウーロンの気分をナイーブな物にする。
されどここは戦場、一瞬の内に意識を切り替える。
それは敵もまた同じで、先の鬼の死に様に怖気づいていた者も立て直していた。
接近が危険ならばと遠方から攻撃を仕掛けようとする者も当然出てくる。
機械獣ガラダK7が、その雄々しき角で以て引き裂かんと、投擲をする。
「うひぃ!!?」
咄嗟に構えられるアーキアルブレード。
所詮素人のその動きは、しかしこの状況において最適解となる
アーキアルブレードの刃先に鋼の角が触れた時、その角は一瞬にして腐食し、灰燼に帰す。
「…あ、あれ?」
備えていた衝撃が来ない事に気付いたウーロン。
その成果に、口元がニヤリと上がる。
「よーし、コイツを浴びせてやる!!」
そういって右腕に抱えるのは、背部に積み込まれたレールガン。
その砲身に電力がチャージされ、青い電流の輝きを放つ。
狙いは一つ、今しがた武器を失ったガラダK7。
「落ちろよぉ!!」
コクピットにて引かれる引き金と共に、レールガンの発光が最高潮に達する。
瞬間、戦場を引き裂いた青い稲妻の如き砲撃によって、ガラダK7は消し炭にされた。
跡形も無かった、そこには砲撃の跡しか残らなかったのだ。
「ま、前に出てくる奴から、やっちまうぞ!」
_ガアァァァァ!!!
そうして漸く己の力を推し量れたウーロンが、魑魅魍魎の跋扈する戦場で、自らの機体と共に雄たけびを上げ孤軍奮闘せんとする。
直後、サヘラントロプスを覆いつくす影。
上空を舞い、急降下してきたグロイザーX10の物だ。
その翼部に仕込まれた物は、紛れも無い爆弾であり、即ちこれは急降下爆撃なるものである。
「爆撃!?」
余りにも見え透いた敵の意図に、しかし小心者のウーロンは焦燥に駆られる。
先のレールガンは射角が足りず、何か手が無いかと探し回るウーロンの頭に、ふと思い浮かぶ物。
「コイツが使えるか…!」
脚部に括り付けられた腐食性アーキアルグレネード。
爆雷投下が慣行された時には、既にそれを上空目掛けて投げつけていた。
爆雷に届かんとしていたそれは爆ぜ、鉄を食らい、酸化させる極限環境微生物『腐食性メタリックアーキア』を散布させる。
それが食らいつくのは、爆雷の表層、内壁、そして衝撃信管。
一瞬の内に風化し、火薬のみの身となった爆雷だったものは、砂の如く大地に崩れ落ち、爆発しない。
そうして武装を失ったグロイザーX10は、腐食性メタリックアーキアの餌食となり、再上昇すらもままならず。
最後にもがいて、もがいて、落ちて、そして背部VLSから発射されたミサイルによってトドメを刺されたのだった。
「掛かってこい次ぃ!」
ウーロンの掛け声に、今度は敵が呼応する。
強大な質量という武器と装甲を盾に挑む者、トロスD7。
先の腐食も、アーキアルブレードも間に合わせず殺すという意思を以て、金色の角を掲げ突撃してくる。
「目には目をだぁい!」
だがしかし、有るではないか、瞬間火力。
右腕部に備え付けられたパイルバンカーが、トロスD7の突撃に合わせて撃鉄を撃ち込む。
二つの一撃が交差する。
立ち上がる粉塵、その中で、トロスD7は圧壊していた。
「こいつはおまけだぁ!!」
そして露呈した装甲内部へのガトリング掃射によって、トロスD7は爆散するのであった。
一か八かとジャイアントキリングを狙った小物は、火炎放射と脚部VLSが。
サヘラントロプスの持ち合わせる武装の尽くが、否応無しに敵の全てへと牙を剥く。
サヘラントロプス、無双、無比。
彼の操縦から繰り出される攻撃は、機械獣を、鬼を、強大な敵を一方的に蹂躙していく。
先の戦いとは打って変わり、パイロットという操舵主を得たサヘラントロプスは、臨機応変かつ的確な殺戮マシーンとして、正義の敵を恐慌に陥れていた。
『軍曹、あれは…』
「分からん、だがIFFは味方だと言っている。」
突如として戦場に乱入したそれは、味方にもまた混乱と困惑を齎していた。
「味方、なんだよね…?」
齎していたのだが、まぁ。
「どんなもんでぇい!!堕ちるもんなんだからぁなぁ!!!」
_ガアァァァァ!!!!
「あぁ、頼もしい、な。」
敵の蹂躙の対価が多少の混乱なのならば、余りにも安いものだろう。
だから雑多な敵は彼に任せよう、そう思う事にして、この困惑を収める事にした。

3人目

「再臨、ジェナ・エンジェル」

「あのロボットを操縦しているのは……ウーロンか。ふん、意外と役に立つじゃないか。
見直したぜ」

 ピッコロとウーロン。同じ悟空の仲間ではあるが、お互いに明確な接点は無かった。
戦闘要員として数えられる事は無く、単なる悟空の取り巻き程度にしか
思われていなかったウーロンと、常に最前線に立っていたピッコロ。
そんな二人が、こうして肩を並べて戦う事になるなど、誰が予想できただろうか。

「さて、では俺も、やるべき事をするとしようか……
でやああああああああああああああああああああああッ!!」

 その呟きと共に、鬼の巨体に向けて強烈なボディブローを叩きこむ。
鬼の腹部を貫通した鉄拳は、そのまま背中を突き抜ける。

「ゴアァアアアアッ……!!」

 腕を引き抜くと爆散する鬼。確認行動を取るまでもなく同時に次なる標的へ、
そして更に次へ。ピッコロのその動きには、
無駄というものが全くと言っていい程無かった。

「ぬぅンッ!! せやあああああッ!! ほおおおおおおおおおおおおおおぁたァッ!!」

 そうして数体の鬼を屠った後、彼は空高く跳躍し、敵集団から離れる。

「――つあああッ!!」
「ギャアアアアアッ……」

 時間差で続々と消滅していく鬼達。

「ピッコロさん……凄い……!」

 いろははただひたすらに感心し、称賛する。だが、その時。

「はっ……!?」

 背筋を走る怖気と共にいろはは気付く。
遥か遠くの岩場の上から、こちらを眺めている何者かの視線を。

「ふふふ……」

 見間違うものか。その真白い服装。距離を隔てても肌に感じる威圧感。
神浜市を強襲し、十咎ももこをさらい、吉良吉影、アスラ・ザ・デッドエンド、
ウラヌスNo-ζと言った異世界の強者を率いていた謎の女……

「ジェナ・エンジェル……!?」

 リンボと秘密裏に手を組み、新たなる企みを目論んでいるジェナ。
それが今、自分達の目の前に現れた。

「――ッ!!」

 身体が震える。恐怖によるものではない。怒りによってだ。
いろはは駆け出した。その足を止めようと立ち塞がる鬼の包囲網を掻い潜り、
一直線にジェナの元へ向かう。

「おい! 待て、環! 単独で動くな!!」

 背後から聞こえてくるピッコロの声を無視して、走り続ける。

「環さん!!」

 黒江も、いろはの後を追う。

「はぁ……はぁ……!」

 走る、走る、とにかく前に進む。いろはがCROSS HEROESに加入した理由。
ももこを誘拐したジェナ・エンジェルの足取りを掴むためだ。
それが今、目の前にいる。

「ンンン……おやぁ? 陣形が乱れた様子ですなぁ。一体何事が起きたのでしょうねぇ」

 リンボは愉快そうに戯けている。すべては己が仕組んだ罠である事を潜めながら。

(なるほど、彼奴が式神を使ってまで我らの目を欺こうとした理由……
朧気ながら見えてきたわ)

 そのリンボに対し、晴明は疑いの目をより一層強めていた。

「チィ……!!」

 ピッコロは舌打ちをする。
いろはが単独で突っ走った結果、戦線は崩れつつあった。

「日向! ペルフェクタリア! ここは俺が抑える、
お前達は早く環いろはと黒江を追え!!」
「でも、それじゃあピッコロさんは……!!」
「良いから行け!! このままだと奴らの方が危険だ!!」

「は、はい!」
「分かった……!」

 二人は戦場を離脱し、いろはの元へ急ぐ。

「ピッコロ殿! 加勢いたします!!」

 代わり、バーサル騎士ガンダムと騎士アレックスが救援に現れた。

「助かるぞ!!」

 二人に礼を言いつつ、ピッコロはいろは達を追撃出来ないように
鬼たちの目を惹きつける。

「あ、あれは……!!」

 黒江の視界の先に、ジェナの姿が映る。
いろはもまた、この絶好の機会を逃すまいとばかりに速度を上げていた。

「環さんは、あの女の人を……!?」
「うん……!! ももこさんを誘拐して、やちよさんに大怪我を負わせた人……!!」

 黒江といろはは、そのままジェナに向かって行く。
そして、ついに神浜以来の対峙を果たした。

「はあ……はあ……! まさか、こんな所で出遭うなんて……」
「ふふ……覚えているぞ、小娘。随分と良い顔をするようになった。
それなりに修羅場を潜ってきたようだな」
「あなたには……聞きたい事が山ほどあるんです……! 
ももこさんは無事なんですか!?」

「ああ。丁重に扱わせてもらっている。何せ貴重なサンプルだからな」
「サンプル……!? ももこさんをどうするつもりなんですか!?」
「それは機密事項だ。おいそれと教えるわけにはいかないな」
「なら……!!」

 いろはと黒江は、各々の武器を構える。そして――

「力ずくで聞かせてもらうまで……!!」
「行きます……!!」

 ジェナと相対するいろはと黒江。
だが、二人がかりであってもジェナは余裕の表情を浮かべている。

「ほう、私と戦うつもりか?」
「はい……!!」

「良いだろう。余興程度にはなる。あれからどのくらい性能を上げたのか……見せてみろ」
「人を物か、道具みたいに……!!」

4人目

「或る絶望の光と影」





「完全も度を超すと、人生から光を奪ってしまう。強すぎる力は、人生から希望をなくしてしまう。」





ああ、どこかの誰かが言った言葉だったか。
気持ちは分かる。実によくわかる。

生まれ落ちて十数年。
完全すぎた、愛されすぎた、うまく行き過ぎた。

失敗したかった。不幸になりたかった。
人並の絶望が、したかった。

いや、私は「どこにでもいる、ちょっとだけ幸せな人」になりたかった。



完全で全能なるものとして生まれ、世界にマウントを取る。
そういう宿業を背負って生まれてしまった。

あらゆる智慧を授けられた
   /そこまでいらないのに。

あらゆる愛を受けた
   /腹いっぱいだってんだ。

あらゆる才能を与えられた
   /余計なお世話だ。

一つの宿命を課されてしまった。
   /私に死ねというのか?



ああ、世界から才能を消せという両親からの宿命。
その声が精神を軋ませ歪める。

何をやってもうまくいってしまう。
人を殺しても妙にばれない。
人を苦しめても、誰も責め立てない。
それどころかみんな私を支持する。

ああ、「正史」の私ならば、きっとこれは嬉々として行っていたのだろう。
だけれども。私は______「外典」なんだ。

多くの可能性の中で、ある程度乖離した外典(アポクリファ)。

人の苦痛に生の喜びを感じる邪悪ではなく。
人の苦痛を愛せという絶対命令に従わざるを得ない哀しき悪役。

あのクソ親の操り人形。
完全才能を持った者を生んだ者として、マウントを取りたいがために。
神を作ったとして、称賛されたいがために生まれてしまったいびつな怪物。

私は、哀しい。
大人になったら、小さい家に住んで普通に働いて。
普通に褒められて、たまに怒られて。
それでも励まされて、励まして。
善悪問わず愛を受けて。善意と悪意に晒されて。
されど、心の底から笑っていたい。

そう思っていたのに。


「……ああ。」
彼女は今、壁の前にいる。
事実としてそこに在る、希望ヶ峰学園を囲う黒い壁。

自分が/両親の命令で、希望を封鎖し才能を鏖にしていった。
その結果がこれだ。

外部存在からの干渉。
大体、エミヤ・オルタってなんだ。と悪態をつきたくなる。

____超高校級の希望も落ちたものだ。
外部の人間に脅されていたとはいえ、もっとやりようがあっただろうに。


「ここにいたんだ。江ノ島ちゃん。」

少女はびくっ、と肩を震わせる。
背後にいた黒いコートの男。顔こそフードで見えないが、彼女はこのどうもチャラい男の声を知っている。
裏表があるように見えてない、やる気がないように見えてある男。

『夜想のしらべ』、ⅩⅢ機関のNo.9。デミックス。

「で、デミックス。なんであんたここにいるんだよ!?」
「いやさ、魅上ってやつについに追い出されちゃってさぁ。追放っていうの?まぁもともとやる気なかったからなぁ。クビにされるのは妥当だよなぁ。」

声こそお調子者のようだが、その声には真剣さがあった。

「やっぱりやりきれないんだろ?どうしても、悔しくて仕方がないんだろ?」

その真剣さを保ちつつ問う。

「や、やりきれないって何だよ。私様はこれで本望だぜ?」

対する江ノ島は強がる。できる限り最大の元気で。
しかし、今のデミックスには虚勢に映る。

「嘘つくなよ。じゃあなんであんたは泣いているんだ?」

え……?
驚くのも無理はない。
今まで笑いながら人を殺せと命じてきたはずだ。
自分も狂った殺人者の如く嗤った。

それなのに。
涙なんか捨てたはずなのに。
何故か、目から熱いものが流れている。

ノーバディであるデミックスには心がない。
でも、知識ならばある。

知識だけでも、彼女の涙の訳を説明するには充分であった。

「どうして……泣いているの……?」

思えば思うほど、涙は零れる。
考えれば考えるほど、今までため込んでいたものがあふれ出る。

「俺よく分かんないけど、きっとそれは『やりきれない』からだと思うぜ。今まで本当に自分がしたいこともできなかった人生だったんだろ?」

こくこく、と泣きながらうなづく江ノ島。
そんな彼女にデミックスは、まるで聖人のように手を伸ばす。

「お前の望みを叶えたいならば、今は生きろ。そしてーーーーーー」

生きろ。
生き続けろ。
途中で死ぬことは許さない。

その言葉を頭の中で反芻する。
涙と共に何度もかみしめる。

デミックスの耳打ちを聴く。
その声はまるで、預言者のように。



「____特異点のゴタゴタが終わったらCROSS HEROESに会いに行け。そうしたら、壁の先の『トラオム』が開くだろう。」

5人目

「正義の五本槍!の巻」

「若いな。」
ただがむしゃらに、脇目も振り返らず戦火の渦中へと平気で突き進んだ環いろはを、男はただ一言でそう評した。
戦場(いくさば)にての単独した突出、それも己の感情に突き動かされた衝動的な物。
ともすれば味方をも危機に陥れかねない在り方に、しかしその顔に浮かぶのは微笑みだ。
「あぁ、まだまだ青い、若い芽だ。」
その批評に答えるのは、成長を期待する言葉だった。
男の顔に浮かんだ表情の意味を知る者は、誰もいない。
あの魔法少女が、在りし日の自分達の有り様を思い出させるのだ等と、誰も。
だが、それを見て笑う者もいる。
「そう言う癖に、随分と嬉しそうじゃねぇか?」
男の隣に立つ者が、そう問いかける。
質問の体をしたセリフの割には、声色には胸の内を分かり切った様な、そんな響きがあった。
その問いに男は笑みを深めて、しかと答える。
「分かるか?俺達の、この胸に今、使命が宿ったんだよ。」
男の口元に浮かぶ笑みの形に歪められた眼が見つめるのは、遥か遠くで戦う一人の戦士(しょうじょ)。
そしてまた隣に立つ男も、同じ方向を見据えていた。
その眼に映る者は、男が先程口にした通り"若さ"だ。
やがて世界を守る為に振るわれんとする、未来の芽である。
混迷極めるバードス島攻略戦線において、より一層の可能性を秘めた若葉だ。
「よく言うぜ、嘗てのキン肉マンにあんな事言っといてよ!」
「それは言わない約束だろ!?」
鋭い指摘だったのか、慌て取り繕う男。
「冗談冗談、あの時悪いって認めなきゃ今ここに立たせてねぇよ!」
そう言って男は笑う。
しかしそこに皮肉の色は無く、むしろ楽しげですらあった。
傍らの男もまた釣られて笑いながら、続ける。
「まぁいいや、これから面白そうなものが見られそうだからな!」
そう言い放つと、男は一際大きな声で高らかに笑い始める。
それにつられる様にして、他の者達も一様に笑う。
「それで、その使命ってのは何か分かってるだろうな?」
「あぁ、この『メイプルリーフ』に誓うさ。」
男の問いに答えながら、男は胸元の紋章に腕を立てて謳う。
そうして男はもう一度笑った。
「あの若い芽は、摘ませねぇ。」
感情、独走、構わない。
走れば善し、駆ければ善し。
我等、名誉も期待も底を尽かされた身なればこそ、そのケツ持ち位はやってみせよう。
そして再び視線を戦場に向ける頃には、男達の眼からは笑みが消え去っていた。
そこに立つ5人の男は、死地に挑む覚悟をした、戦士の眼をしていた。
躊躇や怖気の気配は微塵も無い、死を恐れない者の気配だ。
「皆、同じ思いみてぇだな。」
そして5人は互いを察して、誰もが同じ表情を浮かべる。
戦いに赴く、誇り高い戦人の顔だった。
「なら行くぞ!」
その一言で十分だ。
彼等の間には、既に言葉は不要の物となり果てていた。
ならばもう、残るは一つ、行動のみだ。
超越した力を持つ者達は、戦場へと踊り出た。

いろはを狙う、鬼が一人。
怒りに身を任せ、ノコノコと最前線で孤立したそれは、鬼からすれば絶好の餌であった。
棚から牡丹餅、瓢箪から駒、青天の霹靂、その思考の全てが傍若無人に帰結する。
こんな好機を見逃す訳が無いと、当然の様に手を伸ばす。
10歩、9歩、8歩すっ飛ばしてあと1歩。
伸ばされた爪がいろはの首を捉えかけた瞬間、男の視界から彼女の体が突然加速する。
気付かれたか、逃げられたか、そんな狩る側の思考では思い至らない。
そうして一瞬遅れて、彼は体の異変に気付くのだ。
己の視界いっぱいに広がる青空に。
_グギャッ?
空を舞う体、地面に落ちるまで、男は自分が殴り飛ばされた事にすら気が付かなかった。
衝撃、轟音、痛み。
それを認識すると同時に、鬼の意識はブラックアウトする。
その刹那、鬼は見た。
己を吹き飛ばしたであろう、カナダの国旗を胸に掲げた男の姿を。
「_後ろには気を付けな、嬢ちゃん!」
「えっ…」
声を掛けられ漸く男の存在に気付いたいろはが振り返った時、そこに居たのはメイプルリーフを掲げた大男だった。
「貴方は……?」
困惑するいろはに対し、男は、カナディアンマンはニカッと笑って返す。
「正義超人、カナダ代表、カナディアンマンだ!」
誇り高きカナダの国旗が示す通り、彼もまたカナダを代表する超人なのだ。
その巨躯に違わぬ、荒々しい暴力の跡が、先の鬼に刻まれていた。
「あれは、貴方が…ありがとうございます!ごめんなさい、突出しすぎて…」
それを見て己に降りかかった猛火の存在に気付いたいろはは、そこで漸く己の未熟さを自覚する。
だが謝礼と共に謝罪を述べる少女に、カナディアンマンは笑顔で返した。
「良いって事よ!子どもはそれ位元気がある方が良いってもんだ。」
彼女が戦う理由は単純明快、"友達を守りたい"、ただそれだけである。
そしてその欲求は、眼前の敵が満たしてくれそうだった。
故に、これ以上無い理由を持つ彼女を責める真似はしなかった。
「後ろは俺達に任せな、嬢ちゃん!」
そう言って、男は自分の背後を見やる。
そこにいる4人の仲間達が、多種多様な敵を相手に猛威を振るっていた。
「俺のティーバッグの餌食になりたい奴は、前に出な!」
頭に煮立った紅茶を入れ、それを含んだティーバッグを以て嵐とするティーパックマン。
「いいや、スペシャルなタックルを食らわせてやるぜ。」
稲妻の如きタックルを以て、戦場を駆けるスペシャルマン。
「このカレクックの残虐ファイト、浴びたい者から浴びせてくれよう!」
調理場で具材を刻む料理人の如く、残虐な戦闘術で敵を蹂躙するカレクック。
「辛いのが苦しかったら流してやるぜ、地獄にな!」
敵前線の全てを洗い流さんと奮闘するベンキマン。
そして最後に、メイプルリーフを掲げる大男が、戦場にて声高々に名乗った。
『我等、正義五本槍!!』
世界の誇る5人の超人が、今ここに集結した。
そうして5人は一斉に走り出す。
戦場の中央、全ての敵が集う場所へ。
その雄姿はまさに、英雄の様であった。
そしてその雄姿は、二人の少女を守らんが為に振るわれていた。

6人目

「悪魔を喚ぶ天使」

「これはこれは、正義超人がお揃いで」

 ジェナ・エンジェルはかねてより正義超人軍団からその存在をマークされていた。

「ジェナ・エンジェル! 覚悟しろ!」
「ちょうどいい。正義超人の相手には悪魔が相応しかろう?」

「何っ……」
「さぁ行け、我が僕たちよ!」

そして、彼女の掛け声に応じて現れるのは、悪魔の軍勢であった。

「うおおおおっ……!?」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアッ……」

 飛天族 アンドラス、魔族 カハク、鬼族 オンモラキ……と言った魔の者たちが
正義超人たちに襲い掛かる。

「さあ存分に殺し合え。命尽き果てるまで。それこそが私の望みだ」
「皆さん!」

 ジェナの呼び出した悪魔たちと正義超人達が取っ組み合いとなって戦い始める。

「おわああああああっ……」
「すまない、こいつらを片付けたらすぐに駆けつける!」

 いろは達と分断されてしまった正義の五本槍。
崖の下に転がり落ちていくカナディアンマンたち。
しかし、それでもなお、彼等の戦意は些かも衰えていない。
それどころか、より一層の闘志をみなぎらせて悪魔の群れに挑んでいく。

「時間はかけられない、速やかに悪魔を蹴散らし、彼女らの援護に戻るぞ!」
「おう!!」

「せっかく頼もしい援軍が来てくれたと言うのに、残念だったな?」
「くうっ……!」

 孤立してしまったいろはと黒江。

「こうなったら、私達だけでやりましょう」
「うん!」

 いろは/黒江対ジェナ・エンジェル。かくして両者の死闘の幕が上がった。

「はああああああーっ!」

 いろはと黒江は連携を取りながら、ジェナ・エンジェルに攻撃を仕掛ける。
接近戦主体の黒江。遠距離射撃戦主体のいろは。
2人の特性は真逆であり、故に2人の相性は極めて良い。
だがそのコンビネーションを以ってしても、まるで機械の様な正確さと精密さを持って、
ジェナはいろはと黒江の攻撃を捌いて見せるのだ。

「ふふふ、良いぞ。もっと攻めてくるが良い」
(くそ、強い!)

 黒江は心の中で毒づく。彼女もこれまで数多くの強敵と相対してきたが、
その中でもジェナの強さは群を抜いていた。

(まったく攻撃が当たらない……それに、
ジェナはまだ全く本気を出していないみたい……)

 いろはは冷静に状況を分析する。実際、ジェナの動きには未だ余裕が感じられた。
武装らしい武装も持たず、容姿は科学者そのもの。
にも関わらず、常人を超えた身体能力を獲得しているはずの魔法少女2人を
同時に相手にして尚、まったく涼やかな面持ちで、汗一つ流さず、呼吸も乱していない。
つまり、ジェナ・エンジェルと言う女も超人的な力を秘めていると言う事……

「えい! やああッ!!」

 黒江の方にも焦りが見え始めていた。
元々の実力差に加えて、相手は圧倒的なまでの格上である。
いくら連携が取れていても、その差を埋める事は難しかった。

「ふははは、どうした? そんなものか?」

 そう言って、黒江に強烈な裏拳を放つジェナ。
辛うじてガードするが、その威力は大きく後ろに吹き飛ばされてしまう。

「ううッ……!!」
「黒江さん!」

 身体を丸めて宙返りし、何とか着地する黒江。しかしダメージは大きいようで、
表情を歪めている。対するジェナは攻撃を加えた瞬間の体勢のまま、微動だにしていない。
追撃しようと思えばいつでも出来るだろう。
だが、敢えてそれをしないのは彼女が未だに本気を出さず、
いろはたちの力を引き出そうとしているからだ。

「おやおや、もう終わりか?」

 挑発する様に笑いかけてくるジェナ。
このままでは勝てない。それは2人ともわかっていた。
正義の五本槍が悪魔を撃退して駆けつけてくれるのを待つか? 
いや、この女が大人しく待ってくれるとは思えない。
ならば、自分たちでこの場を切り抜ける他に無い。ここが正念場だ。

(私はいつも周りのみんなに助けられてきた……やちよさん、ピッコロさん、
CROSS HEROESの皆さん……頼ってばかりじゃダメなんだ。
待っててももこさん。私は必ず……!)

 いろはの決意の矢は、「邪悪なる天使」を撃ち落とすか。

7人目

「奮起、正義超人!の巻」

ジェナ・エンジェルの張り巡らせた策謀、それはものの見事に正義超人達を手玉に取り、あれよあれよと言う間も無くいろはとの分断を現実の物とした。
若い芽を守らんとした筈が、今や自分達が摘まれる側に立たされた訳だ。
「情けねぇな、俺達よぉ…少女一人、守れやしねぇで!」
先の一声とは打って変わって、少女に見せなかった悔しさと後悔を顔に出す正義超人達。
次いで駆られる感情の名は、焦燥か…
「馬鹿野郎っ!」
そんな彼等の自責の念を一喝する声が上がった。
声の主は、誰あろういろはの元へ真っ先に赴いたカナディアンマンである。
彼は他の仲間達と同様に、今この瞬間まで少女を守る事ばかり考え、思考の大半を費やしていた。
だがしかし、思考の末にその行為自体が無意味だと辿り着いたのだ。
それを受けて、他の仲間達は怒りとも疑問とも取れる視線を向けるも、彼はそれに臆する事無く話を続ける。
その瞳には先程までの迷いは無く、確固たる決意と覚悟を宿していた。
そして彼は、こう言ったのだ。
「俺達は嬢ちゃんを守る為に最前線まで出た、それは確かだ!」
カナディアンマンの言葉に、彼の言葉に耳を傾ける正義超人達が静かに首肯する。
皆一様に同じ想いを抱いていたからこそ、その想いを否定する言葉を紡ぐ事は出来ない。
だからこそ、自分達の無力さを悔いているのだ。
だが、と彼は続ける。
「お前等は守るだけしか頭に無かったのか?あの子が俺達の何なのかを考えた上で、どう守ろうとしたんだ!?」
「それは…っ!」
「嬢ちゃんを戦わせない為か?降りかかる火の粉を全部払おうとでも思っていたのか!?」
そうじゃないだろう!
彼の放った問い掛けに、皆一様に押し黙った。
彼と同じ様な事を、各々考えていたからだ。
何故なら彼等もまた、少女を守りたい。
しかしそれは、少女を戦士として迎え、共に戦わいたいと願う意味ではなかったか。
戦う事が運命付けられたとしても、せめて少しでも戦いとはかけ離れた場所に置いておきたいと想っていた。
それが間違いだったとは思わない。
それでも自分達は、その選択肢を捨て去って『背中は任せろ』と言ってのけた筈だ。
戦いに身を投じてしまった少女に対して、何をすべきかを導き出せなかった自分達に、今一度情けなさを感じる正義超人達。
だがそれもまた一瞬のこと、己の頬をピシャリと叩くと、次の瞬間には男達の顔に後悔や遺恨の情は浮かんでいなかった。
「あぁ、確かに今回ばかりはお前の言う通りだよ、カナディアンマン!」
スペシャルマンが口火を切ると、それに続く様にティーパックマン達も言葉を紡いでいく。
そうだ、そうじゃないか。
俺達はいつだって守る事ばっかり考えて、肝心な部分を見落として来たんじゃないか!
守る為だけに戦う必要は無い。
少女が、環いろはが十全に戦える為に奮戦するんだと。
そんな彼等の表情を見て、カナディアンマンも満足気に口角を上げる。
もう大丈夫だと確信したのだ。
後は自分達が託された役目を全うすれば良い。
「俺達に悪魔をぶつけた事を、戦力を割いた事をあのニヤケ面に後悔させてやれ!俺達の役目はそれだ!」
彼はそう言って、いろはの元へ駆け出そうとしていた仲間達を引き留めてみせた。
そして彼は踵を返し、悪魔達へと再び向き直った。
いいだろうジェナ・エンジェル、お前の思惑に付き合ってやる。
あぁ確かにお前の思惑通りだ、ものの見事に分断された。
だが、いやだからこそ思う存分、悪魔と戦って、戦って、戦い尽くしてやる。
その判断を後悔させてやる。
少女は、否、戦士いろは達は強いぞ。

8人目

「Demon Slayer」

「む……」

 いろは達の後を追っていたペルフェクタリアと日向月美。
その行く先には、悪魔たちと交戦している正義の五本槍たちの姿が。

「あれは……」
「君たちは、この先に向かった少女たちの知り合いかい?」

「はい、私達はいろはちゃん達の援護に……」
「彼女らはこの先でジェナ・エンジェルと戦っている! 奴は危険な女だ」

「その名前……いろはちゃんが言っていた……! ペルちゃん!」
「ああ、急ごう」

 彼女達は悪魔の群れを掻き分けながら、いろは達が向かったであろう方向へと突き進む。

「悪魔たちの相手は俺たちが引き受けたーっ!!」
「頼んだぞ!」

 切り立った崖の上で繰り広げられている戦闘の最中、
いろは達の元に駆けつけようとする二人に向けてカナディアンマンたちの声が届いた。

「ここは任せて!」
「君たちは行けぃ!」
「ありがとうございます!」

 スペシャルマンやカレクックの言葉を受けた二人は、そのまま戦場を突っ切って、
ジェナ・エンジェルと正義超人たちが交戦中の地点へ向かう。
崖を飛び跳ねて、勢い良く飛び出した先では……

「くぅッ!」
「はあっ!」

 ジェナ・エンジェルと戦ういろはと黒江の姿があった。

「ほう……増援か」
「離れろ……! 禍忌空雨脚ッ!!」

 いろはと黒江が二手に別れた直後、上空から無数の蹴りを繰り出すペル。
その一撃一撃から繰り出される魔力弾が豪雨のように放射状に降り注いで
ジェナ・エンジェルを包み込む。逃げ場を与えない広範囲の攻撃。

「!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおッ……!!」

 ペルの怒涛の攻撃で埋め尽くされ、ジェナ・エンジェルの姿が見えなくなる。
その凄まじさからくる衝撃は、断崖の上に作られた天然の足場をも削り取っていく。

「やったか……!?」

 粉塵の舞う中でペルがそう呟いた瞬間、それは起こった。

「ふっ……!」

 巻き上がる砂煙の中から、ペル目掛けて一直線に放たれたのは衝撃波。

「ぐおっ!?」

 瞬時に引き抜いたマフラーを魔力で硬質化させ防御するも、その威力は絶大だった。
強い衝撃を浴びて硬直している隙に、ジェナ・エンジェルは一瞬にして
ペルの背後に回り込んだ。

「!?」
「少しは驚かされた。ただの人間ではないようだな」

 ジェナの両腕が変貌を遂げていた。およそ人間のものではない。
それを用いてペルの攻撃を凌いだのだろう。
そして右腕を振り抜き、ペルを弾き飛ばした。

「――!!」

 軽々と岩山をふたつ、みっつと突き抜け、岩壁に叩きつけられるペル。

「ごほっ……!!」
「ペルちゃん!」

「ふん……まだ生きているか。いいぞ。これしきで壊れてもらってはつまらない」

 自由落下で着地したジェナ・エンジェルの腕が再び元の形に戻る。

「今のは……一体……」

 それこそが、ジェナの本当の力。ペルの攻撃を凌ぎ、尚且つ一撃の元に叩き伏せる。
攻守共に飛躍的な強化をもたらした。
そう。ジェナ・エンジェルは自らの肉体を悪魔化させる力を有していたのだ。

「私に力の一端を使わせた事は褒めてやろう。
さあ、次はどうやって楽しませてくれるのかな?」
「バケモノめ……!!」

9人目

「鬼超人現る!の巻」

ジェナ・エンジェルの策謀により仲間と分断された正義超人達。
だが仲間を信じ抜く心でいろは達の健闘を祈り願い、敢えて敵の渦中へと挑まんとする決意をする。
自ら策略に突き進む様を愚鈍や阿呆と笑わば笑え。
我等正義五本槍、罠や謀略承知の上、上等なり。
例え愚かな行為だとしても、真正面から食ら破り、踏み倒し、そして貴様の喉元に食らいついてやろうぞ、ジェナ・エンジェル。
だが正面切ったは相手も承知の上、暴虐の限りを尽くされるのは想定済み。
故に此度の策略、ただの分断で終えられると思うならば、その愚かしさを命という代価を以て支払うことになるだろう。
覚悟せよ、決死せよ、一切の望みを捨てよ。
この戦い、勝者に栄誉や栄光無し。
ただ、醜悪な事実が咢をかっぴらいて待ち受けいるのみ。

崖下にて繰り広げられる、正義超人と悪魔との熾烈な戦い。
今正に激戦が繰り広げられているこの戦、ルール無用、選手不問のデスマッチ。
「スリャーーー!!」
故に、一方的な質の暴力と、稚末ながらも数の集団という悪夢の組み手模様が繰り広げられるもまた、有り得るのだ。
現に、奈落の底へと落ちてくる者達は数多。
その誰もが、何一つとして人にはあらず。
各々異形の姿を晒し、異形の力を振るい、そしてその異形さ故、最早人間と呼ぶに値しない程に堕ちた怪物共ばかり。
しかして彼らは、その堕ちた姿こそが自らの真の姿であると思い込み、偽りの誇りを持ち、負の信念を持ち、己が強さに歪んだ自負を持って立ち向かう。
何故なら自分は選ばれた特別な存在だから。
何故なら自分は世界を圧巻する選ばれし英雄(バケモノ)なのだから。
そんな根拠なき自信が、彼らの背中を押していた。
だがそんな自信と強さ、全てが今、真なる正義の前にはまるで赤子同然だった。
奈落へと次々に打ち捨てられていく異形の数々、その渦中に立つは、正義五本槍。
「へっ、前より投げが上手くなったんじゃねぇか?」
その一角、カナディアンマンが、自身目掛けて飛んでくる肉塊(バケモノ)を、軽々と受け止める。
「そういうお前等も、随分ビルドアップしたもんだな!」
それらを投げ返すこともせず、そのまま捻り潰して言う彼に対し、ベンキマンは感嘆の声を上げる。
彼自身も、他の四人も、以前より格段に腕を上げていることを実感していた。
かつて栄誉の底が尽きた日から始まった修行の日々は決して無駄ではなかったと、思わず頬が緩む。
しかし、同時に、そんな彼らだからこそ、こう思うのだ。
努力根性当たり前、数えるのも億劫な失意の数々、最早取り返しのつくものでは無い。
それでも尚、まだこんなにも強くなれるものなのか。
これ程の力を得るまで、どれだけの時間を費やしたかは分からない。
けれども、自分達はまだ強くなることができるということだけは、分かる。
その証拠に、今の自分達は以前とは比べ物にならない程に強くなっている。
「あぁ、そりゃあな…」
そんな彼等にとって、稚多な敵への一方的な勝利を続ける事は、同時にどれだけ嘗ての自分達が怠惰であったかを突き付けられる罪状読上げにも等しい行為だった。
あの日からの屈辱を晴らしたい、 そんな渇望を胸に抱きながら、迫り来る敵を次から次へと叩き落とす。
最早これは虐殺であり、彼等の心を憂鬱とさせるものだった。
だからこそ、より高みを目指せるだけの試練を得たい。
敢えて茨の道を突き進まんとする精神が、乾いていく。
_ドスンッ。
だが、そんな無常の世界にも神が蜘蛛の糸を垂らしたらしい。
最も、これから行われる所業を顧みれば、鬼神や魔神の類いである事は疑いようのない事実となるのだが。
「ムッ、新手か!気を付けろ!」
崖上から新たに落下してきた新たな怪物の存在にいち早く気付いたのは、ベンキマンだった。
彼が咄嵯に注意喚起をした直後、その言葉通りに、落下物は地に激突する直前で体勢を整えて着地をする。
「あの姿は…?」
その筋骨隆々としながら引き締められた姿は、いわば彼等超人レスラーと同類の様にも見える。
だが、額に生やした一角の角と、理性無き悪魔の眼が、彼を鬼だと裏付けていた。
「どうやら、少しは倒し甲斐のある奴が来たようだな…」
そう確信を持ったカナディアンマンは、直ぐ様仲間達と共に臨戦態勢を取る。
鬼は、まるで不適に笑っているかのように歯を剥き出しにして、口元を歪ませると、突如として雄叫びを上げた。
そのあまりの轟音に、耳を抑えたくなる衝動に駆られるが、堪えて攻撃に打って出る。
「グゥ……これしきぃ!!」
寧ろこれまでの成果を見せる好機と言わんばかりに、開幕から超人ロケットが撃ち込まれる。
_ウガァ!!
しかし、先程迄戦っていた畜生共とは異なり、鬼はその巨体からは想像もつかない様な俊敏さで飛び跳ね、回避していく。
「何!?」
一瞬の出来事である
空中にて身を翻し滞空時間を縮め、息も付かせぬ俊敏さで背中を取る鬼。
「ガハァッ!!?」
その身のこなしの素早さに加え、拳から繰り出される攻撃の威力は桁違いだった。
「カナディアンマン!?」
「下がれ!」
下手に間合いに入ってしまえば、此方が返り討ちに合う。
そんな警告を飛ばしながら、カナディアンマンは目の前の敵を、戦い方を見て分析する。
それこそ、今までに戦ったどんな怪物よりも危険な相手だ。
そう、どんな今まで戦ってきたどんな超人よりも…
(超人?)
今、自分は奴を何と比べた?
何故、奴は自分達と同じ存在と錯覚してしまったのか。
いや、それ以前に、何故こんなにも心揺さぶる恐怖と同時に、奴に一種の親近感を感じるのか。
分からない、理解出来ない?
違う、分かってしまった、理解してしまった。
「そうか…」
如何にも、コイツは鬼というだけでも、悪魔でもない。
「この男は…元超人だ。」
「何だって!?」
瞬間、頭の中で全てのピースが揃った音がした。
同時に、ジェナ・エンジェルに対して義憤とも言うべき憤怒も湧き上がる。
そして、同時に、奴に対する憐れみとも取れる同情が、彼を襲った。
「聞いた事があるだろう…鬼に噛まれたりした者は、鬼になると。」
この男もかつては、自分達と肩を並べる正義の戦士だったのだろう。
栄光の将来が約束されていたのかも知れない、幸せな家族との生活があったのかも知れない、或いは我々を超えて彼の者達と覇権を駆けた争いに立っていたのかも知れない。
「つまり、アイツは…!」
しかし、現に今、その全ての道筋を否定され、彼は理性無き鬼として我等の前に立ち塞がされている。
それはなんと悲しく、残酷なことだろうか。
その結末に至った理由は分からない。
だが、その過程は、手に取るようにわかる。
「あぁ、無理矢理鬼にされちまったんだ。」
きっと、奴もまた、あの女に狂わされた一人なのだろう。
だからこそ、あの女の影を追う我々の前に姿を現したのだ。
ならば、やるしかない。
救うなんて大層な真似はできない。
けれどせめて、一撃でも喰らわせて、終わらせてやりたい。
そんな哀愁と慈悲が、彼等の心中に渦巻いていた。
「いくぞ皆!これ以上の悲劇を止める為に!!」
「「「「おう!!!」」」」
決意を固め、鬼人に挑む彼等を他所に、女狐はほくそ笑んでいた。

10人目

「悟空危うし! 凄まじき強敵・スラッグ!!」

 月美、ペル、いろは、黒江を一度に相手取りながら、
未だ真の力を隠しているジェナ・エンジェル。
正義五人槍の前に立ち塞がる鬼と化した元・超人……
大混乱のバードス島を舞台に、怒濤のバトルが展開されていた。
その頃……

「でぇあだだだだだだだだだだだだッ……」

 特異点。
完成型神精樹の樹海を破壊しながら、
悟空とスラッグのラッシュバトルが繰り広げれていた! 

「ぐはははははははっ、どうした、孫悟空! それで全力か!?」
「まだまだぁッ!」
「ならば、こちらからも行くぞぉおおおッ!!」

 そう言うと、スラッグは全身に気合を込めた!!

「うりゃあああっ!!」

 力任せの強烈なナックルパート。

「ぐわああああッ!?」

 スラッグの鉄拳が悟空の顔面を捉えて吹き飛ばす。
地面を削るようにして、勢いよく吹き飛ばされた悟空は、そのまま倒れ込んでしまう。
しかし、それでもすぐさま立ち上がった。

「くっ……!!」

 口元から垂れる血を拭い去りながら、構え直す悟空。
そんな彼に対し、スラッグはニヤリと笑みを浮かべた。

「まだまだ元気そうだな? だが、それもいつまで続くかな?」

 余裕を見せるスラッグ。
やはり悟空が知るスラッグとは桁外れのパワーを有していた。

「くそっ……! こりゃあ結構やべえかもしんねぇな……けどよ……」

 ぐっ、と歯を食い縛り、悟空は腰を落として気を高め始める。

「はあああああああああああああ……!!!」

 真っ赤なオーラが燃え上がるように立ち昇り、その身体に纏わりつく。
そして、次の瞬間……

「界いいいいいいいッ! 王ううううううううううッ!!
拳だあああああああああああああッ!!」

 全身の気をコントロールする事で
攻撃力、防御力、スピードを通常の何倍にも高める事が出来る反面、
制御を誤れば己の身を滅ぼしてしまう諸刃の剣でもある。
そんな危険極まりない技ではあるが、出し惜しみが出来るような状況ではなかった。
今こそ使うべき時であると判断したのだ。

「ふっ、ならば俺様も力を見せようか。むゥんッ!!」

 しかし、そんな悟空に対して、スラッグも負けじと力を解放させる。
全身に凄まじい闘気が渦を巻き、見る者を圧倒するかのような迫力だった。

「あいつ……! さらにパワーを上げやがった……!!」
「ははははは……! 何をするつもりか知らんが、受けて立ってやる。来い!!」
「ずぁりやああああああああーッ!!」

 雄叫びを上げながら突進し、拳を振り上げる悟空。
それに対して、スラッグもまた右腕を大きく振りかぶった。

「うぉおおうりゃあああああッ!!」

 両者の拳が激しくぶつかり合う!!
激しい衝撃音と共に大地が大きく揺れ動いた。
あまりのエネルギーの余波によって生じた衝撃波は周囲の木々を薙ぎ倒し、 岩場を破壊し尽くしていく。
それはまさに天変地異と呼ぶに相応しい光景であった。
やがて、互いの攻撃による反動によって両者は大きく弾き飛ばされる。
しかし、すぐさま空中で体勢を整え、再び激しく激突した。

「だりゃあああああッ!!」
「ぐわははははははッ! いいぞ、もっと攻めてこい!!」

 何度も、何度も繰り返される打撃戦。
その度に大地は裂け、空には暗雲が立ち込めていく……。
そうして幾度目になるのか分からない衝突の後、両者は互いに距離を取った。

「ぐふふふふ、さっきよりは歯応えが
出てきているじゃないか」

 笑うスラッグだったが、対する悟空は肩で息をしている。

「はあっ、はあっ……」

 界王拳とはかくも消耗が激しいものなのだ。
しかし、それでもまだスラッグには余裕が窺えた。

(くそっ……界王拳も通じねえ。
オラの全力をぶつけねえと……勝てねえか……!)

 この程度では奴を倒す事は出来ない。
ならば、更に限界を超える必要があるだろう。

「知っているぞ。まだ取って置きを隠しているんだろう? 
見せてみるがいい!」
「ちぇっ、仕方ねえか……! はああああああああああッ!!」

 悟空はさらなる変身……超サイヤ人へと変わった。

「そいつが噂の超サイヤ人とやらか。出し惜しみなどしおって……」
「ソウゴたちを助けに行かなきゃなんねえからな。
けど、そうも言ってられねえらしい。勝負はこっからだ……!」

11人目

「理性無き野獣のファイター!の巻」

彼等の前に見据えるは、稚冊な雑魚と、その親玉。
呼称するならば、オーガマンだろうか。
鬼とされた彼の名誉を守る為に、速やかに打ち倒さなければならない。
目の前にいるこの怪物を、何としてでも討ち滅ぼすのだ。
それこそが、彼を結び付けた忌まわしき縁を断ち切り、前に進む事なのだから。
そして、戦いは再び始まる。
この世の地獄が如く凄惨を極める、最悪の血祭りが。
おぞましい死闘の幕が再び上がる。

最初に動いたのは、やはりカナディアンマンだった。
鬼の剛力が加わった一撃を背中に受けて尚、鍛え上げられた彼の体は一歩も引かなかった。
寧ろ、先の一撃が牙や顎によるものでは無い事を安堵するばかりである。
ならば、次はこちらの番だと言わんばかりに、大柄な体躯を活かしたタックルを仕掛けたのだ。
対するオーガマンは、それを易々と受け止める。
_ウガァァァ!!
「ぬおぉ!?」
恵まれた体格に鬼の筋力を兼ね備えた鬼は、そのままカナディアンマンを持ち上げると、力任せに叩き付ける。
「がっ…!!」
岩肌へと叩き付けられ、勢いのままに体が跳ねたカナディアンマン。
全身を貫く打撲の衝撃、骨の軋む音。
特訓前ならばとっくにくたばっていただろうと錯覚するほどの痛みだ。
だが、今のカナディアンマンには苦痛に身を任せる真似はしない。
空中で身を翻し、見事に着地をせんとする。
しかし、そうしている間にオーガマンは投げ飛ばした彼に向かって猛然と駆け出していた。
速い、自ら投げた投擲物に足で追いつく等、既に人間業では無い。
彼は再び降り立つ間も無く、オーガマンの拳によって沈められてしまうだろう。
「舐めるなよ!俺を投げたのは失敗だったな!」
しかし、カナディアンマンが叫ぶと同時に、颯爽と駆ける影が二つ。
一つはスペシャルマン、タックルは自身のお株だと言わんばかりに、オーガマンへと真正面からぶつかる。
相対速度も合わさった極めて激しい巨漢同士の衝突に、流石のオーガマンも苦悶の声を上げる。
だが、止まらない。
寧ろ振り上げた爪の矛先を、スペシャルマンへと変え、今にも引き裂かんとしている。
だがもう一つ、小柄な影がそうはさせまいと彼の腕を背後から絡め取る。
その正体はティーパックマンのティーバッグだ。
熱湯をたっぷりと含んだ茶葉が、さながら鉄球の付いた鎖の如く腕を振り下ろさせない。
_ウゴォッ!?
タックルとの組み合わせによる妨害を受け、オーガマンはそこで漸く、動きが止まった。
それは一瞬だが、勝負の行方を大きく左右させる程の決定打となった。
その隙を逃す筈が無いと言わんばかりに、今度はカナディアンマンが地表スレスレを這うように跳躍した。
中国拳法における瞬歩の様にオーガマンまで一瞬にして距離を詰める。
咄嗟にもう片方の手を振り回し、迎え撃たんとするオーガマン。
だが先のタックルの苦痛に夢中だったが故に、その手は既が塞がっていた事実に気付けなかった。
「お探しの手はこれかな?」
彼の手の先が埋まっているのは、ベンキマンのベンキの底だ。
激しい水流を以て引き抜かせまいと拘束している。
ベンキという無機物系の超人だからこそ、鬼という有機物を同類に変える相手に怖気ず出来た戦法。
ならば、と振り上げていた手に全力を込め、ティーパックマンごと拘束を振りほどかんとする。
拮抗は一瞬、しかしティーバッグの拘束を振り払う頃には、カナディアンマンは既に腕の内側、死角へと潜り込んでいた。
そして、渾身の力を右腕一点に集中させた肘打ちが、鬼の腕へ突き刺さる。
_グギャアァァァァ!!!
腕が縦に裂け、赤黒い血液が吹き出す。
鬼と言えど痛覚は健在、思わず悲鳴を上げる。
苦しみ悶え、ゴロゴロと転がる様は、見ているだけでも悲痛なものだ。
その隙にと、オーガマンの両腕を掴んで離さない二人。
「今だ!カレクック!!」
「スリャーーー!!!」
せめて苦しむ間を与えず介錯してやろうと、カレクックがトドメの蹴りを放たんとする
しかし、彼等はまだ知らなかった。
この世には己が身を砕いてでも相手の息の根を止める事のみを本能とした怪物がいる事を。
オーガマンの両手を掴んだまま硬直する二人の脇腹を、凄まじい衝撃が襲った。
まるで砲弾のような勢いで、オーガマンが飛び上がったのだ。
両足だ、カナディアンマンとスペシャルマンを踏みつけ、踏み台として利用したのだ。
常人なら全身の骨が砕け散り踏み抜くだけのそれは、リビルドされた彼等の肉体強度を以て跳躍行為へと昇華される。
最悪絶命しかねない勢いに、カナディアンマンとスペシャルマンは堪らず吹き飛んでいった。
_ウォオオオオッ!!
だが、オーガマンの怒りはそれで収まるものでは無い。
激情に駆られるままに腕を振るい、降ってきたカレクックを張り手で迎え撃つ。
_ドゴォーーーーォオン!!!
「ガァアアァァァ!!?」
まさに砲撃。
衝撃でオーガマンの足元の岩山が崩れ、地面が割れる。
それだけでは無く、大地そのものが揺れ動いてるかのようだ。
その力、推し量るだけでもカール・グスタフ砲に匹敵するか。
斯様な一撃を受けたカレクックの脚が粉砕され、血飛沫をまき散らす。
無論、その様な一撃を放ったオーガマン自身も無傷では無く、彼の裂けていた腕も同様に砕けて散った。
だが、本能で覚悟していた彼はその痛みを気にしない。
そんな事はどうだっていいと、そのまま再び飛び上がり、カレクックを踏み潰さんとせんとする。
一方、吹き飛ばされた二人は、全身が痺れながらも何とか身を起こし、カレクックへと駆け寄っていく。
あれほどの攻撃を直撃したのだから、無事では済まない筈だ。
そんな状態で攻撃を受ければ、致命傷は確実だ。
ならば尚更、彼の死を見過ごす訳にはいかない。
だが、そんな彼等の前に、更なる絶望が立ち塞がる。
__オオオオオ……ッ!!!
ここに来て、稚拙な雑魚が障害となって立ちはだかる。
今までのリソースを全てオーガマンに回していたツケが回ってきたのだ。
残った全ての悪魔達が、一斉に彼等へと襲いかかる。
先程まで散々痛めつけられた仕返しだと言わんばかりの猛攻が彼等に浴びせられる。
悪魔は魔法を浴びせては離脱し、また魔法を浴びるを繰り返し、オーガマンの攻撃の邪魔をさせない。
最早これまでか、そう思った時、オーガマンは失念していた。
「誰か忘れてないか?」
そう、残った片腕を拘束しているベンキマンだ。
彼は先の一撃と跳躍の衝撃を受けながらも、しっかりとその手を離さず、耐え忍んでいた。
そして、遂にその時が来た。
オーガマンがバランスを崩す。
彼の体が大きく傾き、カレクックを踏みつけようとした足が止まる。
_ガギャッ!?
何が起きたのか、オーガマンは全く理解出来ていなかった。
突然右足首に強い圧迫感を感じ、そちらを見てみれば、関節を無視して丸まっている。
それだけでは無い、球体化が右脚全体へ、左脚へ、そして全身にまで波及している。
「これだけの跳躍、空気抵抗を壁に出来る程だ!ならばできる!」
誰あろう、ベンキマンのアリダンゴ固めだ。
やがて全身を球体とされたオーガマンは成す術も無くベンキマンに取り込まれた。
「恐怖のベンキ流しーっ!!!!」

12人目

「偉大なる継承・グランドジオウ光臨!」

 超パワーアップを果たしたスラッグに苦戦する悟空。
クォーツァーの巧みな策略により悟空や承太郎と言った歴戦のベテラン戦士たちと
分断されてしまったジオウとゼンカイザーは強敵・仮面ライダーバールクスを
相手に奮闘していた。

「だああああああああああああああッ!!」

 ジオウがジカンギレードでバールクスに斬りかかる。
だが、バールクスは素早く魔王剣リボルケインで防ぐと、そのまま押し返してきた。

「く……っ」
「お前は俺を倒せない!」

 パワーも技も数段上……バールクスはジオウのジカンギレードを弾き飛ばすと、
リボルケインを振り下ろす。

「がああああッ!!」

 ジオウの装甲から火花が散り、吹き飛ばされたジオウはそのまま地面に叩きつけられた。

「ぐはっ!! はあ……はあ……!!」
「死ねいッ!!」

「ソウゴ!! でやあッ!!」

 ジオウの窮地にゼンカイザーがギアトリンガーで銃撃する。

「チッ、邪魔立てを……!」
「ソウゴはやらせない! ちょわーっ!!」

 バールクスとジオウの間に割って入り、ゼンカイザーが接近戦を挑む。

「小癪な……!」
「介人……くっ……!」

 ゼンカイザーが時間稼ぎをしている間に、ジオウは何とか起き上がる。

「クォーツァーの王……強い……!! 
ディケイドがやられたって言うのも分かる気がする……!」

「そうだとも。だから、さっさと諦めろ」
「だけど! 俺は負ける訳にはいかないんだ!!」

 バールクスに負けてしまえば、世界は破滅してしまう。
それだけは何としても阻止しなければならない。

「どけいッ! スーパー戦隊!!」
「うわっ!?」

 ゼンカイザーを難無く退け、ジオウと向き合うバールクス。

「その意気込みだけは認めよう。だが、どうする? 
この如何ともし難い実力の差をどうやって埋めるというのだ?」
「これを使うしかない……!!」

 今のソウゴが持つ、最大最後の切り札。グランドジオウライドウォッチ。

(くくく……そうだ。それでいい。そいつを持ち出すのを待っていたぞ)

 仮面の下で、バールクスは不敵な笑みを浮かべていた。

「――変身ッ!!」

【グランドタイム!】

【クウガ! アギト! 龍騎! ファイズ! ブレイド!】

 受け継がれてきた意志。

【響鬼! カブト! 電王! キバ! ディケイド!】

 人間の自由と平和のために戦ってきた仮面の戦士の系譜。

【ダブル! オーズ! フォーゼ!】

 その歴史が今ここに集約される。

【ウィザード! 鎧武! ドライブ!】

 おお、見よ。刮目せよ。ジオウの背後に並び立つ、19人の平成ライダー。
雄々しきその勇姿を。

【ゴースト! エグゼイド! ビルド!】

 それらが光となってジオウを包み込む。光臨せし、偉大なるその姿。その名も!

【祝え! 仮面ライダー! グ! ラ! ン! ド! ジオウ!】

 全身に歴代平成ライダーを象ったレリーフが埋め込まれた姿。
金色に光り輝く菩薩像のようなその佇まい。
これまでの旅路の中でソウゴが出会い、継承した全ての平成ライダーの力を行使する
最強フォーム、グランドジオウ誕生の瞬間である。

「うわあ……! すっげぇ……何だか拝みたくなっちゃうなぁ……!」

 ゼンカイザーも思わず感嘆の声を上げる。

「ほう……それが貴様の最終形態というわけか。面白い」

 一方のバールクスはグランドジオウの姿に気圧された様子は無い。

「……これでお前を倒す!」
「やってみろ。そして絶望するがいい……!」

 依然として余裕の態度を見せるバールクス。その真意は……?

13人目

「暴威の矢、戦線に闘争(しんこう)を求めよ」

特異点の戦いの混沌は、さらに苛烈さを増す。
その前にはいかな熱狂も打ち砕け、理性は虚空の彼方へと追いやられる。

この男を除いて。
「よし。終わったぞ。24時間後には樹の内部のエネルギーは全て星へと還る。」

作業を終えて、一服のタバコを吸う男。芥志木。
天より降り注ぐ赫矢の雨を、まるで通常の雨の日の通学路を通る学徒が如く歩き去る。

「おいシグバール。終わったぜ。」
『おう、ご苦労様。』

仕事はクールに。いたって冷静に。
隠密、暗殺、破壊工作。いたって冷静で冷徹無比でなければできない仕事だ。

「このまま帰投する。お前がついでに送ったAW-B03。奴らに遊ばせてもらおうか。」

その不敵な笑みは、まるで死神の如く。

~特異点 森~
その機械の歩みを聞け。
その怪物の慟哭を聞け。
「ーーーーーーーー!」

英雄ヘラクレスの肉体。
再新鋭の機械兵器の融合。

異形にして最悪。
醜悪にして最狂。

幾たびもの改造と研鑽の果て、一日36時間はやったのではないかという鍛錬を条件に顕現する肉体。
更には洗脳と肉体強化改造を加えて、暴走兵器として運用する非情さ。
背中の対軍・対城ミサイルポッド24門にその右肩には魔術式レールガン、
装甲の厚みは何と23cm~42cmと規格外。
とどめに地表貫通中型ミサイル1丁を左肩に添えて。

狂える殺戮兵器AW-B03ヘラクレス・メガロス、動く。

「ーーーーーーーーーーーーー!!!」
狙いは最前線。CROSS HEROESもヴィラン連中も均衡の守護者も知ったことか。
全殲滅開始。一切鏖殺!殺!殺!殺!

全24門小型魔術ミサイル、掃射!

~特異点上空~

はじき返された矢は数十本。天空へと帰る鳥の如く飛んでいく。
為朝も数発の矢を受けるも、反射された矢に彼の霊核を打ち砕く威力はない。

「軽傷 気にすることなく次弾装填 定義開始」

しかし、露払いとは言えあの量の矢をはじき返したあの男は一体何者なのか?
為朝は驚きと共に、さらに攻撃の定義を行う。

「先の防御行動より 反射術式の術者を『怪盗』と定義 『怪盗』への集中攻撃 及び周囲撤退のための殲滅 再試行」

怪盗。
為朝にはその真名こそ知らずともその意味合いはあっていた。

悪党の心の中に華麗に侵入し、お宝を盗んで改心させる。
まさに『真なる正義の怪盗』。
何しろ、悪を鏖にするのではなく改心させ更生の機会を与えるのだから。

しかし、今の為朝に考察の余裕はない。機械的に次の矢を装填する。
今度は、本気で。

「無敵貫通術式及び防御無視術式 限定解除 拡散砲Lv.3 次弾装填完了」

彼の手元で、黒赤の矢がつがえられる。
今度はその防御術式すらも貫かんと、その矢の輝きは鋭く輝く。

先ほどは神精樹の周辺全体を撃っていたが、次は『怪盗』を狙う。
何しろ怪盗さえ再起不能になれば露払いどころか殲滅自体が楽になる。

「我が弓は月光を浴びて極限へと至る______」

赤い絶望の月、再び。
「轟沈・弓張月__________発射!」

次の矢は範囲こそ戦線内部及び雨宮蓮の周囲100mと狭いが、その威力は今までの数十倍となる。
そんな矢が、約4000m上空から放たれてしまった。
月光と殺意を帯びた矢は、特異点の重力に引かれて更に威力を増す。

「ははははは!!!この殲滅と殺意!メサイア教団の信仰の加護を思い知れ!そして絶望と歓喜と共に、我らに平伏し靴をなめろ!」
芥志木の狂笑が森の中へと響くのだった。

14人目

「驚異の生存本能!の巻/降臨、救世主」

「恐怖のベンキ流しーーーっ!!!」
決まった、ベンキマン最大の必殺技(フェイバリット)が今、炸裂した。
抵抗する間も無くアリダンゴとして固められたオーガマンが、成す術も無くベンキの底へと流されていく。
片腕を失い、もう片方の腕もベンキの底だ。
そして…
ボチャン! ボコボコボコボコ!!
水音と共に巨大な気泡が浮かび上がってくる。
シャボン玉のようなソレは、やがて小さくなっていき、完全に消えた。
後には、何も残っていなかった。
ベンキマン達は勝利した。
即ち彼の、オーガマンの名誉は、誰の尊厳も凌辱せず、静かに守られたのだ。
「…………」
しばしの沈黙の後、ベンキマンは空を見上げた。
そこに立つ切り立った険しい崖の更に上。
青く美しい、どこまでも続くような澄み切った青空が、彼等の清々しい気持ちを代弁する様に広がっていた。
その青空に向かって、彼は呟いた。
「…終わったぞ。」
それは誰に向けて言った言葉だったか、他の誰にも分らなかった。
ただ一つだけ確かな事は、彼は心から満足していた事だ。
これでいい、俺にはもう、この空の様な気持ちがあるだけで充分だ。
そう言ってベンキマンは空に手を伸ばし、片足の欠けたカレクックの手を取らんとする。
しかし、そんな彼とは対照的に、カレクックは悔しさに歯噛みしていた。
自分はあの男を仕留められなかった。
元残虐超人として、溺死という死に方がどれだけ悲惨で苦しい物か、身に染みて分かっていたからだ。
カレクックの心に満ちているのは、オーガマンを楽に死なせられなかった後悔と、己に対する怒りだけだ。
自分への失望が、彼を俯かせていた。
「そんな顔をするな、カレクック。」
そんな彼の気持ちを察してか、ベンキマンが彼の肩を叩く。
慰めてくれるのだろうか?
いや、そうでは無い。
「お前が責任を感じる必要は無い。元より一人で片が付くような相手では無かったんだ、気に病む必要はない。」
「だが…」
それでも食い下がろうとするカレクックの言葉を遮り、ベンキマンは言う。
「私はベンキマン、汚れ仕事は私の担当だ!だから、これ以上は何も気にするな!」
力強く言い切る彼の表情を見て、カレクックはようやく納得した。
自分は最善をつくして、己の役目を果たしたのだと。
ならばこれ以上は、自分の出る幕ではない。
「…あぁ、分かったよベンキマン。」
カレクックは、吹っ切れた顔で笑った。
「ベンキマン!カレクック!」
吹き飛ばされた先で漸く悪魔達を倒し終えたカナディアンマン達も合流し、
後に残ったのは、誰の眼も無い静けさだけだった。
「これからどうする?」
「そうだな、まずは此処を離れよう。嬢ちゃん達の健闘ぶりを、俺も楽しみにしているんだ。」
そう言うと、ベンキマンは片足を失ったカレクックの手を取ろうとする。
重力下で飛行出来る超人とはいえ、片足を失う激痛を受ければまともな航行は難しい。
そうしてカレクックもまた、ベンキマンへと手を伸ばす。
_スカッ
だが、彼の手が握られる事はなかった。
余りの激痛に平衡感覚まで失い、手を握り損ねたか?
そんなカレクックの疑問は、眼前の光景を前に泡と果てた。
先程まで隣にいた筈の男が、ベンキマンが居ないのだ。
一体何処へ行ったのかと辺りを見回せば、ベンキマンが遠くへ飛び去って行く所だった。
否、彼は飛んだのでは無い、吹き飛ばされたのだ。
惑星間航行を可能とする超人と言えど、あの初速は異常だ。
_ゴォン!!
まただ、今度は別方向へと一気に吹き飛ばされた。
まるで念力で振られるかの様な動きは、とてもベンキマンの意志とは思えない。
「グアッ!!?」
そして何より、あの動きが彼の意志ではない事は悲鳴が告げていた。
「ま、まさか…!」
ベンキマンが揺れ動く度、彼の奥底から響いてくる衝撃。
そう、この声には、衝撃波には、今しがた覚えがある。
_ウ”ア”ァ”……!
衝撃に乗って轟く、地獄からの呼び声。
「くっ…抑え、きれん!?」
必死の形相で水流を強めるベンキマンだが、最早間に合わない。
_ウ”カ”ア”ァ”ァ”ァ”!!!
ベンキの奥底から、恐怖の水流の果てから。
今、オーガマンが飛び出した!

「先程から、第三者の邪魔が入っているようだな。」
空に浮かぶ暁を見上げながら、ネメシスはそう呟く。
「言っとくが、ワガハイ等では無いからな!」
「そんな事は分かっている。」
モルガナ達もまた、空を見上げてその言葉を暗に肯定する。
だが彼は、その表情に不安の色を浮かべている。
その胸中に去来するのは、先の一撃。
キン肉マンが駆け付けてくれたからこそ、反射へと持ち込むことの出来た威力だったのは間違いない。
それも無作為な狙いの上でだ。
今の一撃が一点集中ならば、或いは反応出来ず直撃を喰らっていたかもしれない。
そう考えてしまう程の、恐ろしい一撃であった。
あれほどの力の持ち主がまだいるのか。
モルガナは、ただでさえ不利な戦況に一層の危機感を募らせる。
そんな彼等の心中など露知らず、ネメシスは徐に語る。
「この勝負、一旦預けた。」
「おい、逃げる気か!?」
突然の一方的な提案に、モルガナが抗議の声を上げる。
だが、ネメシスは気にする事なく空へと飛び去ってしまった。
「…行っちまったぜ、あの野郎。」
後に残されたのは、キン肉マン達だけである。
「失礼。」
「おわぁ!?」
そんな彼等の前に、突如として人影が現れる。
何時の間に隣に現れたのか分からぬその白髪の青年は、戦闘の渦中にいるとは思えない程の穏やかな顔をしていた。
「誰だ?」
「おおっと、その様な怖い顔をしないで頂きたい。私、気付けばここに居た身で。」
迷い人か、そう判断して矛を収める蓮。
だがこんな戦乱の場に現れるとは、不運というべきか。
「それよりも…空の彼方より先の一撃が来ております。」
そんな思いも、彼の忠告を前に吹き飛んだ
再度空を見上げれば、今しがた己を襲った轟射が、明らかに此処へと狙いを定め一直線に迫ってきている光景。
不味い、これほどの密度は"今の力では"先の様には弾き返せない。
そう思った矢先、蓮の両肩に青年の手が添えられる。
「これは?」
疑問と共に湧き上がる、己の底から湧いてくる力。
「何、先程助けて頂いたお礼、とでも思っていてください。」
理屈は分からぬが、これならば、行ける。
反撃の準備は整った。
「助かった。」
「いえいえ、此方こそ。」
何はともあれ、一先ずは迫る敵を迎撃するのみ。
空を埋め尽くす、光弾の群れ。
一つ一つが必殺の力を持つそれらが、今や一筋の光脈となって降り注ぐ。
「だ、大丈夫か、蓮!?」
「あぁ、」
しかし、蓮は臆さない。
手を大きく広げ、仮面を紡ぐ。
「_サタナエル!」
その名は魔王、堕天した悪魔の王。
嘗て神を穿った力が、銃撃が、今再び放たれる。
_ドォー……ォン!!!
七大罪を練り上げ作り上げられた一撃が、空を穿つ。
幾多もの轟射が、塵芥の無に変える。
そしてその先に御する戦闘機構へ、今、突き刺さる_!
「…そういえば、名前を聞いてなかった。」
「名前、ですか。私は_」
シロウ・コトミネ、彼はそう名乗った。

15人目

「負けをかみしめ、幕間の夢を見る」

~特異点~
「_サタナエル!」
放たれたモノの名は魔王、堕天した悪魔の王。
嘗て神を穿った力が、銃撃が、今再び放たれる。

_ドォー……ォン!!!
七大罪を練り上げ作り上げられた一撃が、空を穿つ。
幾多もの轟射が、塵芥の無に変える。
そしてその先に御する戦闘機構へ、今、突き刺さる_!

「……損傷45%、これ以上の反撃によるダメージを想定 不屈システム起動 次の掃射の後 撤退する」

しかし、それでも。
戦闘機構は矢をつがえる。

____不屈の弓射。
たとえ腱を切られようとも、そいつはその腕を強く、長くしてまた矢をつがえた。

「轟沈・弓張月 最終一射_____!」

特異点に放たれる、現在放てる限り最大威力の矢。
今度は掃射ではない。まるで長距離弾道ミサイルかの如く放たれる渾身の矢!

着弾してしまえば、神精樹周辺はただでは済まないだろう。

「撤退システム 緊急起動」
この一矢を放った後、彼は黒い穴へと消えていった。
さらなる暴威に後を託して。

「……次は、倒しきる。」
機械に身を窶したとはいえ、元々は一人の武士であり人間。

洗脳されてもなお、悔しさは残る。
しかし、その声はどこか嬉々としていた。
その歓喜をかみしめながら、一人の機械は闇へと消えていった。



西園寺(わたし)は、夢を見た。
哀しい夢だった。


どうして?
どうして皆私をいじめるの?


無垢な心持で、誰かがいじめられるのを見ている。
嫌な思いしかできない。辛い。心が軋む。


たすけて


心の軋みに耐えられず、手を伸ばす。
しかし、その手はついに届かない。
失意に、意識が途絶える。



また夢を見た。
心が軋む夢だった。

暗闇の中、あいつがそこにいた。
ぼろ雑巾のようにくたびれたあいつ。


西園寺さぁん。見てくださいぃ……。
私、こんなになってしまいましたぁ……。


いつものように、近寄るなと声を荒げる。
来るなゲロブタとさげすむ。

でもそれでもあいつの進撃は止まらない。


でも、これって全部
・・・・・・・・・・・
あなたのせいなんですぅ……!


やめろ、やめろ。
これ以上私の罪悪感を傷つけるな。

必死に心を保とうとする。
持ち前の悪辣さで心の中の矮小さをつなぎとめる。


謝ってくださいぃ!
もう絶対に……許さないですからぁ……!


次第に奴の殺意が強くなる。
/来るな来るな来るな!

ああ、私はなんてことをしてしまったんだ。
/私は何も悪くない!悪いのはあんただ!


・・・・・・・・・・・
あなたが悪いんですよぉ!!こうなってしまったのは全部!
死んでわびてください!!!


ああ、ああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
なんてことをしてしまったんだ!
/悪いのはあんただろうが!
/そんなバカなことがあるか!
/お前のせいだ!お前のせいだ!お前のせいだ!お前のせいだ!お前のせいだ!お前のせいだ!

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい


許さない殺してやる許さない殺してやる許さない殺してやる許さない殺してやる許さない殺してやる許さない殺してやる許さない殺してやる許さない殺してやる許さない殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺…………


失意の闇、殺意の慟哭。罪悪の絞首台。民衆の義憤残響。
罪悪を前に必死に頭をさげ、平身低頭の土下座をする。
それでも、彼女の殺意は止まらない。


死ね殺す怨めしい滅べ惨死しろ悪即斬だ処刑する罰だ復讐だ鏖だ破滅を切望する地獄行だ無間地獄だ煉獄だ蛇蝎だ……許さない。


ああ……わたしは…………



__________。





優しい風の感触で、目を覚ます。
気が付いたら、そこは病室だった。
静かな空間がそこに在った。

今までの義憤の声がすべて、幻聴であったと知る。
しかし、その目からは涙が、その心には罪の意識が重くのしかかる。
自分は大罪人だと自覚させてくる。

事実として、重くのしかかる罪。
虚ろな目で、自分の心の欠片をつなぎなおす。

「私は……。」

なぜだろう、それなのに。
罪塗れの心で、今をつないでいるのが精いっぱいなのに。

「安心している……?」

そうだ、中央病院で聞いたザルディンの言葉。

「罪木蜜柑は生きている」

あの一言を聞いた時、妙に安心した。
そうだ、言わないと。

どうしても、言わないと……。

16人目

「復活のオーガマン!の巻」

「何ーーーっ!?」
_ドオオオオンッ!!!
それはもう、圧倒的なまでの水柱だった。
勢い良く巻き上がったその威力は、そのまま空へと伸びて青い天井を貫く。
まるで火山が噴火したかのような、天にまで届く巨大な水の柱。
それが意味する事を、カレクック達は分かっていた。
帰ってきたのだ、数多の超人を恐怖と共に陥れた水流から、オーガマンが一人脱出してのけた事を。
そして同時に理解する、先の衝撃はオーガマンがベンキマンの内部を駆け上がる衝撃だったと。
――ゴオオォッ……!
天まで届かんとする水柱の中で、オーガマンは呼吸を整える。
己の中に残った全ての力を出し尽くし、そしてまた全てを蓄える為に。
そんな彼は、鬼神の如き形相で身体中から蒸気を上げている。
そしてその蒸気を片腕で振り払った時、オーガマンの肉体に変化が生じていた。
「な、治りかけている!?」
先の一撃で完全に消滅した筈の腕、それが今まさに元の形へと戻らんとしていた。
話には聞いていた鬼の再生力だが、まさかこれほどのものなのか。
驚きつつも警戒を強めつつ、カレクックは拳を握る。
そう、まだ終わっていない。この戦いにはまだ先が有る。
今の脱出劇で内側からボロボロに破壊されたベンキマンの弔いの為にも、負けられない。
気を引き締め直し、そして構えを取るカレクック。
そんな彼に向けて、オーガマンもまた唸りを上げた。
カレクックと同じく、相手を倒す事のみを考えて必殺の意思を放つ。
――ウオオオォオッ!!!
先に動いたのは、オーガマンだ。
先手必勝とばかりにカレクック目掛けて飛びかかる。
「……ッ!」
咄嵯に反応したカレクックも負けじと動き出し、二人は互いに距離を詰めていく。
両者の間合いに入った瞬間、二人の間で激しい攻防が始まった。
それはさながら、暴風雨の中で互いに打ち合うガレオン船のようであった。
風圧によって波が起こる程の嵐の中で、オーガマンとカレクックは相手の攻撃を打ち払う。
「ヌアァアッ!!」
_オォオオォッ!!
オーガマンの一撃を受け止めれば、次はカレクックの反撃が迫る。
それをオーガマンが避けようとすれば、またカレクックの攻撃が繰り出される。
「ハァッ!!」
_ヒュンッ!
_ズドンッ!!
二人の間で繰り広げられる激戦の中、オーガマンは幾度もの傷を受ける。
しかしそれでも決して膝を付かず立ち上がり、果敢に攻め続ける。
「ハアァッ!!」
そうなると苦戦するのはカレクックの方である。
彼は先の一撃で右足を失っており、地に足付かぬ戦いを強いられている。
加えて、先程までのオーガマンの動きを考えれば分かる通り、ダメージの影響など感じさせない。
このままではジリ貧になると判断し、何とか打開策を考えるカレクック。
しかしその思考すら許さないと言うように、オーガマンは攻勢を強める。
そして遂にはカレクックを押し退け、彼を壁際へと追いやった。
もう逃げ場は無いぞと言わんばかりのオーガマンを前に、カレクックの頬を冷や汗が伝う。
「くっ……」
万事休すかと思われたその時、突然、オーガマンの顔色が変わった。
何かに気付いた様子で背後を振り返ると、そこには彼の必殺技が迫っていた。
それは音速の壁を突き破って空気を切り裂き突き進む、ビッグボンバーズの二人のだった。
「いけえぇっ!!ダブルフットボールタックルッ!!」
渾身の一撃を振りかぶるその姿に、オーガマンは僅かに表情を変えた。
_ドオオンッ!!
凄まじい衝撃音が響き渡り、周囲の壁や床が崩れ始める。
カレクックは咄嵯の判断でベンキマンを抱えてその場を離れた。
「はぁ…はぁ…!」
やがて衝撃が収まり、瓦礫の山となった岩山でカレクックはベンキマンの様子を見る。
その傍らで、ティーパックマンが叫ぶ
「お前達は先に戻れ、その体じゃ無理だ!」
どうやらベンキマンは気絶はしているが、命に別状は無さそうだ。
であれば、片足を失った自分達は足手纏いでしかない。
「…分かった、後は頼む。」
そう思った時、彼はベンキマンを抱えたまま踵を返した。
その背はまるで、自分を置いて行けと言っているようでもあった。
ベンキマンを連れて立ち去るカレクックを見送るオーガマンだったが、不意にある事に気付く。
手負いの相手から流れる血を、本能的に欲しがっている自身に。
であれば、その力を抑え込む道理は無い、ある筈が無い。
今まさに己の中に芽生えた衝動に突き動かされ、その本能のまま、カレクックへと襲い掛かる。
「な、テメェ!?」
やはり速い、カナディアンマン達が追いつけぬ速度で、カレクックへと迫る。
そしてオーガマンは、一瞬にしてカレクックとの距離を詰めた。
そのまま彼の欠けた目掛けて、牙を剥きだし食らいつかんとする。
「不味いっ!」
カレクックは今、気絶したベンキマンを抱え負傷している身だ。
とても躱せたものでは無い。
咄嗟に防御姿勢を取る物の、最悪の事態を覚悟して、思わず眼を閉じてしまう。
_グチャッ!!
だがそれは起こらなかった。
眼を見開くと、カレクックを噛み砕こうとしたオーガマンの顎が、寸前の所でピタリと止まったのだ。
否、止まったのではない、止められたのだ。
ティーパックマンのティーバッグによって。
――ガアァアッ!?
突然の痛みに悲鳴を上げるオーガマン。
見れば、口元を焼き尽くす程の火傷が鮮血を噴き出していた。
それはティーパックマンのティーバッグが、グツグツと煮えたぎった紅茶を浴びた跡だ。
鼻を突き抜けるような痛みに悶えるオーガマン。
代償として、ティーバッグは粉砕され、そこには茶葉無き空の紙が残るのみだ。
ティーパックマンは無力化された。
だが、まだ戦える有志がここに居る。
「「せりゃーーーーーっ!!」」
カナディアンマンとスペシャルマン、二人のタッグ『ビッグボンバーズ』の猛攻が今、火を噴いた。



特異点上空、4000m。
置き土産と言わんばかりに放たれた渾身の轟射という暴威。
これまでとは違う、真に一筋とも言える一射を前に、『完肉』ネメシスは立っていた。
「なるほど、今の一撃を最後に尻尾を巻いて逃げ遂せたか。引き際の見計らいが上手いらしい。」
己に迫る死神の槍を前にして、尚も不変の表情を崩さないネメシス。
「であれば、これは陽動か、或いは策の一つか。いずれにせよ、私がここに引っ張って来られた事実には変わりないな。」
全く良く出来た連中だとまだ見ぬ第三勢力をそう評価し、肩を竦めた。
そうこう呟いている間に、既に眼前まで迫ったソレは、血の輝きの如き眩いばかりの輻射熱を放ちながら、ネメシスを、その先の神精樹目掛けて迫り来る。
そこに来て漸く、ネメシスの眼がソレを捉えた。
「さて、いずれにしろ今神精樹に壊れてもらっては困るのでな…『パーフェクトディフェンダー』」
そうしてたった一言で紡がれる奥義。
着弾と同時に展開され、ソレとぶつかった防御の構えは、激しい火花を撒き散らして特異点を輝き照らす。
鍔競り合いの如き眩い拮抗は一瞬。
次の瞬間を迎える頃には、砕けたは轟射の方だった。
遍く流星群となって降り注ぐ一射だったモノは、今特異点の渦中へとばら撒かれる。
しかし、神精樹を傷つける程の威力は、最早無かった。

17人目

「リバイブ」

一方その頃バードス島では
「ルストハリケーン!」
「クッ…!」
マジンガーZと機械獣あしゅら男爵の戦いはマジンガーZが若干優勢の状態であった。
「あしゅら!あの時の戦いでDr.ヘルを裏切ったお前が、何故またDr.ヘルの手下になっているんだ!」
「フッ、貴様に言うつもりはない…!」
「そうかよ……だったら話は早え!お前をさっさとぶっ倒して、Dr.ヘルの野郎を引っ張り出す!」
そう言いマジンガーZは機械獣あしゅら男爵は攻撃しようとした次の瞬間
「キシャァァァァァァッ!!」
「っ!?」
突然昆虫のような見た目をした巨大な怪人、アナザークウガが出現し、マジンガーZへ襲いかかる。
「な、なんだこいつ!?」

「あれは……アナザークウガ!?」
「フッフッフッ…!」
「スウォルツ!あのアナザーライダーを召喚したのはお前か!?」
「そのとおりだ、あしゅらのやつにはまだ死なれては困るからな…!」

「クソ…!話しやがれ!」
「キシャァァァッ!」
アナザークウガはマジンガーZにのしかかり、何度も殴って攻撃してくる。
「ハァッ!」
「!?」
そこへトリガーが飛び蹴りでマジンガーZにのしかかっているアナザークウガを蹴り飛ばす。
『大丈夫ですか!?』
「ありがとうございます、ケンゴさん」
「キシャァァァァァァッ!」
『この怪物は僕が相手します!』
「すいません、頼みます!」
甲児はウルトラマントリガーにアナザークウガの相手を任せ、自身は再びあしゅら男爵と戦い始めた。
(ウルトラマントリガー……我々ミケーネと敵対関係であった超古代文明を滅ぼした闇の巨人の一人……それが今や光の巨人として人間共に味方するとはな……)



『ジカンザックス!』
「ハァ!」
一方その頃、ゲイツとツクヨミはスウォルツが変身したアナザーディケイドと戦っていた。
「スウォルツ!何故貴様がDr.ヘルに協力している!」
「決まってるだろ?力だ!ツクヨミやクォーツァー、そしてオーマジオウをも超える力を手に入れる為に、俺は奴らに協力している!ただそれだけだ!ハァ!」
「がぁ!?」
「うぅっ!?」
アナザーディケイドは紫のエネルギー弾を飛ばして攻撃、ゲイツとツクヨミはそれに直撃してしまいふっ飛ばされる。
「チッ……大丈夫かツクヨミ!?」
「えぇ……」
「この強さ……前の世界の時同じか…!だったら、出し惜しみはしていられないな…!」
そう言いゲイツはまるで砂時計のような見た目のライドウォッチ、『ゲイツリバイブライドウォッチ』を取り出した。
『GEIZ REVIVE!GORETSU!』
スイッチを押し起動したゲイツリバイブライドウォッチをジクウドライバーの左側のスロットにセットし、ベルトの真ん中のスイッチを押す。
「……変身!」
その叫びと共にゲイツはジクウドライバーを思いっきり回した。
『REVIVE GORETSU!GORETSU!』
ゲイツは仮面ライダーゲイツリバイブ剛烈へと強化変身した。
「出し惜しみはしていられないと言っておきながら……例のゲイツマジェスティとやらの力は使わないのか?」
マジェスティ、それは今の世界にて、アナザーディエンドを倒すために海東大樹の持ってた2号ライダーのライダーカードから生み出したゲイツマジェスティライドウォッチを使って変身する形態のことである。
「残念だが、その力は今は使えない……が、それでもツクヨミとの二人がかりでなら、貴様にも負けはしない…!」

18人目

「再起、ビックボンバーズ!の巻」

後方からの同時ドロップキックに、オーガマンは避ける事も出来ず、背面からそれらを受ける。
_ウゴオオォッ!!?
二人の合体技を受け、再び血飛沫に塗れるオーガマンの身体。
肉が裂け背骨が露出する様は、見ているだけでもその痛みが伝わってくるかのようだ
だが直ぐに立ち上がり、ダメージによる苦しみを見せる事も無く、反撃を開始する。
拳を振るい、迫りくるオーガマン。
そんな彼に対し、カナディアンマン達も怯む事無く迎え撃つ。
おぉ見よ、荒れ狂う猛攻の中を、息を合わせて潜り抜ける様を。
とても一昔前までやられ超人等と呼ばれていたとは思えない戦いぶりを。
思えば、カナディアンマンとスペシャルマンという超人は、その恵まれた体躯から繰り出されるパワーファイトが得意なファイターだ。
反面、テクニカルなファイトを苦手としていた。
対してオーガマンは巨体である上に、攻撃自体は重く、かつ動きが俊敏だ。
さらに言えば本能的な攻撃の種別を行う事ができ、危険な攻撃のみ避けると言った攻めのファイトが行える。
つまり、この二人にとっては天敵とも呼べる相性の悪さがある。
事実、今日に至るまでの戦いにおいても、そういったハイパワーファイトやテクニカルファイトを相手に苦戦を強いられている。
「「負けるかぁーーっ!!」」
だがどうだ、彼らはそれでも挫けず戦い続けている。
オーガマンがカナディアンマンに蹴りを繰り出せば、スペシャルマンがカットに入り。
スペシャルマンが狙われれば、カナディアンマンがすかさずブロックする。
本能に身を任せ諸共に薙ぎ払わんとすれば、二人掛かりの同時攻撃がその暴虐を防いで見せるではないか。
その息のあったコンビネーションこそ、彼らが今にいたる多くの危機を乗り越えて来た証左だ。
_ウガァ!!
しかし、オーガマンは彼らの想像を上回る強さを持っている。
確かに彼等の連携には、一切の隙が無い。
だが、それでもこの世に完璧な物が無い様に、少しずつだがオーガマンの攻撃が彼らを捉え始めていた。
カットのカウンターを狙い敢えてスペシャルマンを自由にしたり、ワンテンポ遅れた攻撃を仕掛けたりと、次第に戦いの主導権を握り始めている。
「くっ…こいつ、戦いの中で段々と知性が付き始めている!」
度重なる攻防の中、ついにカナディアンマンを捉えたオーガマンの拳が、その体に深い傷を負わせる。
その口から鮮血を吐き出し、よろめく彼に止めを刺さんとオーガマンが迫る。
_ガシッ!!
だがその時、彼の身体が突如として宙に浮く。
カナディアンマンに気を取られていた隙を突き、スペシャルマンがオーガマンを持ち上げる。
「うおおぉ!フライング・ジャーマンスープレックス!」
そのまま空中で一回転させ、勢いをつけて地面に叩きつける。
そしてそのまま、倒れたオーガマンの上に馬乗りになり、両腕を掴み上げる。
その腕関節を極めながら、カナディアンマンに合図を送った。
意図を理解した彼は、すかさずオーガマンの頭部へと組み付き、渾身のヘッドバッドを見舞う。
それはまさに鉄槌の如き一撃だった。
額から血を流しながらも、カナディアンマンはオーガマンの角を負ってみせた。
鬼の象徴たる角を折られ、さしものオーガマンも動揺を見せたのか、明らかに立ち直りが遅い。
そこにすかさずスペシャルマンの腕極めが追い打ちをかける。
必死に逃れようと暴れるオーガマンだったが、カナディアンマンが組む事でさらに力が増した組み付きから逃れる事は出来ない。
「とりゃーーーーっ!!!」
雄叫びと共に極まる両腕。
やがて、彼の両肩はポッキリと脱臼した。
「どうだ、これでもう満足に戦う事すら出来まい!」
そう思った時、オーガマンは全身をバネのようにして跳ね上がり、そのままカナディアンマンとスペシャルマンを払いのけた。
「くそ、まだピンピンしていやがるのかよ!?」
だが、すかさず二人は最小の受け身を取って素早く立ち上がる。
_ガアァッ!!
何度でも再生するその体に、脱臼程度等数瞬の間もあれば治る程度の傷だ。
されどその痛みはこれまでに無い類いのものであり、苦悶と怒りに声を荒げるオーガマンが、肩の違和感にのたうち回っている。
それをチャンスと捉え、カナディアンマンとスペシャルマンは畳みかけんと駆け出す。
オーガマンも立ち上がり迎え撃たんとするが、先程とは打って変わり動きに精彩が無い。
見え透いたラリアットを二人同時に避け、両サイドから挟む様に繰り出される延髄蹴り。
たまらず膝をつくオーガマン。
そこへ容赦なくカナディアンマンとスペシャルマンが圧し掛かり、エルボーストームを浴びせる。
二人がかりの、全力の猛攻だ。
最早先の様な楽に死なせる戦法は通用しないと分かり切っていた。
ならばせめて、確実に。
だが、それをもってしてもオーガマンは倒れない。
否、逆に自ら反転することで、二人相手にマウントを取り、攻勢に出始める。
しかし、ビッグボンバーズもまた息を合わせて入れ替わり、再びマウントを取り返す。
己が肉体をフルに使い、目まぐるしく攻守を入れ換えながらの戦いは、まるで嵐の中に放り込まれたかのようだ。
それでも二人の攻撃は幾度もヒットするが、そのどれもが致命打に成り得ない。
そして、とうとうカナディアンマン達が劣勢に立たされ始めた。
いくら体力があろうとも、所詮は生身。
超人同士の戦いにおいて、体力の限界という物があるが故に、このように膝を付き方で息を付く様を見せるのも当然だ。
一方オーガマンは既に、全身から血を流している。
だがそれでも、強靭な回復力が、尋常ではない野生が、彼を立たせ続ける。
その眼は未だに輝きを失っていない。
そして、そんな彼が放つ拳がスペシャルマンの顔面を打ち抜いた。
咄嵯にカナディアンマンは、彼の下へ向かおうとする。
だが、その目の前には既にオーガマンが居た。
カナディアンマンにとって、それはあまりにも速すぎた。
振り上げられるオーガマンの腕。
もはや避けられぬ状況だ。
その時、視界の端に映ったのは、オーガマンに向かって一直線に飛んでくるスペシャルマンの超人ロケット。
そうだ、今自分の為すべき事は仲間の安否を気にする事じゃない。
何が何でも、オーガマンにその手を汚させない為だ。
_うおおおぉぉぉぉぉぉ!!
迫り来るオーガマンの腕。
それに自らの左腕を叩きつける。
直後、襲い掛かる激痛。
反動に耐え切れず、左腕が肘から引き千切れてしまった。
だが、その献身は今、生きた。
_ウガァ!?
苦痛の声を上げるオーガマンの後頭部には、スペシャルマンの頭突きが突き刺さっている。
彼の捨て身のタックルを受け、オーガマンは一瞬バランスを崩す。
それはほんの数秒の事だろうだが、彼等のコンビネーションから言わせれば、一秒でもあれば十分だった。
「行くぞスペシャルマン!」
「おう!」
二人は息を合わせ、走り出す。
「クローーース_!!」
そして、そのままオーガマンを挟み込んで空中で交差する。
「_ボンバーーーッ!!!」
カナディアンマン達の右腕が、超人ロケットで傷付いた首へと食い込む。
一瞬の抵抗、後に肉と骨が圧壊する音が響き渡る。
そうしてオーガマンの首は、胴体と袂を別ったのだった。

19人目

「メサイア教団よりの刺客」

 超サイヤ人と化した悟空とスラッグ。特異点での戦い。第2ラウンド開始。

「くたばれぇえええっ!!」
「でりゃあああっ!!」

 互いに突進し、拳が衝突する。だが、僅かながらに悟空の方が押していた。

「ぐぬぅッ!?」
「だあありゃッ!!」

 すかさずスラッグに延髄斬りを浴びせる悟空。

「うごおぉ……ッ!?」

 衝撃は脳にまで達する。そして、そのまま前のめりになって昏倒するスラッグ。
そこへ息をつかせぬ追撃の回し蹴りが炸裂した!

「つああありゃああああああッ!!」
「ぐぶぁああああーッ!」

 吹っ飛ぶスラッグ。地面に激突し、顔面を強打して倒れ伏す。

「ぐうう、お、おのれ……!! がああッ!!」

 しかし、まだ戦意は失われていない。
拳を地面に打ち付けた反動で無理矢理に起き上がる。

「まだやるか?」

 油断なく構える悟空。

「こ、これが超サイヤ人……なるほど、ターレスが手も足も出んはずだ……
くく……ぐふふふふふふふ……」

 不気味な笑い声を漏らすスラッグ。ギロリ、と悟空を睨みつけ、

「面白くなってきおったわ! ――ぐばああああああッ!!」

 そう呟いたかと思うと同時に大口を開いてエネルギー弾を吐き出す。

「ふんッ!!」

 悟空はそれを容易く片手で弾き飛ばす。だが、今度はスラッグの方から突っ込んできた!

「でぃいいいやあああああああッ!!」

 先程までとは比べものにならない速度で拳を打ち込んでくる。
だが、既に悟空はその攻撃を見切っていた。余裕を持って捌いていく。

「ぬおおおおッ!! な、なぜ当たらん!?」

 驚愕するスラッグ。
変身ひとつでここまで変わるのか? と、驚くと同時に焦燥感を覚える。

(このままではまずい!)

 そこで、不意打ち気味にエネルギー波を放つ。

「食らええええええええええええいッ!!」
「……!」

 しかし、これもあっさりかわされてしまう。

「どうした、もう終わりか?」

 挑発してくる悟空。焦りはやがて怒りへと変わる。

「ちょ、調子に乗りおって……!!」

 両手にエネルギーを溜め、さらに連続でエネルギー弾を撃ち込むスラッグ。

「だららららららららァアアアアッ!!」

 だが、それも全て回避されてしまい、逆に反撃を食らう羽目になる。

「だあありゃあああッ!!」
「ぐわああああッ!!」

 高速移動からのドライビングエルボーがスラッグの顎をかち上げるようにヒットする。
あまりの衝撃に意識を失いかけるスラッグ。

「ば、馬鹿な……! こ、ここまでやりおるとは……!!」
「時間はかけらんねえ。一気に決めさせてもらうぞ!」

「な、舐めるなよ……この程度でオレ様を倒せるなどと思っているなら、
それは間違いというものだ!!」

 全身から気を噴き出し、身体強化を行う。そして、再び悟空に向かっていく。

「だらあぁぁぁぁッ!!」

 しかし、両者の戦いを遮るかのように天から飛来するものがあった。
不意に悟空とスラッグは急停止し、空を仰ぐ。

「なんだありゃあ……?」

 突如として降ってきた物体を見て眉根を寄せた悟空だったが、
その正体を知ることになる。
紅蓮に輝く光の矢。ひとつやふたつではない。視界を埋め尽くす程の数。
源為朝が神精樹周辺に展開する戦力を一掃すべく撃ち放った宝具だ。

 メサイア教団からの刺客……CROSS HEROESともクォーツァーとも異なる
思想と戦力を有する未だ謎多き組織だ。

「なっ、何いいいいいいいッ!?」

「う、ウソだろ……一発一発がとんでもねえエネルギーの塊だ……!
こんなもん全部撃ち落としきれねえぞ……!! おめえの仕業か、スラッグ!?」
「馬鹿を言え! 俺とてあんなものは知らぬわ! 一体誰があのような……」

 悟空も、スラッグも、森も山も、
目に移る全てのものを消し去ろうとでも言うかのような勢いで降り注いでくる。

「く、クソッタレめえぇェーッ……」

 スラッグは悲鳴じみた叫び声を上げながら光の矢の雨に呑み込まれ――
遂にその姿が見えなくなる。

「そ、ソウゴ、テリーマン、みんなァッ……! 
無事でいてくれよ……おわあああああああああッ……!!」

 次々と降り注ぎ続ける宝具を前にして、悟空もまた消えゆく……
果たしてその生死の行方や如何に……!?

20人目

「でりぇえあぁぁ!!」
人生に幸福と定義される瞬間があるのだとしたら、ウーロンが今味わっているこの時間こそが、まさにそれなのだろう。
自分は、今この時のために生きてきたのだと、そう確信出来る程の満足感。
それを叶えさせてくれたのが、このサヘラントロプスという無敵の兵器(スーパーロボット)であり、それを駆って戦場を蹂躙する事が、今の彼にとっての人生の最高潮とも言えるべき瞬間だった。
_だが、そんな至福の時間も終わりを迎える。
人生において幸福が最高潮を迎えるという事は、後は下るのみだという事の裏返しでもある。
恋愛が破局する様に、友との距離が離れる様に、ジェットコースターが頂上へと昇った後、落下する様に。
_カチッ、カチッ。
「…あ、あれ?」
カチカチとボタンを押す音が響くコクピットの中、突如として訪れた違和感に、彼は戸惑いの声を上げる。
つい数瞬前まで機械獣達を穿っていた劣化ウラン弾の猛火、それがいつの間にか収まっているのだ。
刹那の思考の後に導き出される、弾切れというごく単純な回答。
無論の事、連射を続けていた彼の機体に搭載されているあらゆる残弾は、一発たりとも残っていない。
背部、脚部のVLSはとうにミサイルを使い果たし、股関節部の火炎放射は火力は元より低く、遠距離戦闘適性もまた皆無である。
「やっべぇ…」
その事実と同時に、ウーロンの身体から血の気が引くのを感じた。
弾切れにより射撃を止めたという事は、すなわち今現在敵との距離は10メートル程度にまで縮まった事になる。
そしてその先に待ち構えるのは、今までの戦闘経験上、例外なく雑魚ではあるがタフな集まりである戦闘集団。
即ち、目の前に居る機械獣や鬼といった数の暴力という壁との正面衝突である。
加えて彼にとって最も絶望的なのは、この場で迎え撃つにしても、母艦まで後退して補給を行うにしても、どちらにせよ彼は逃げられないという事だ。
敵を引き連れて母艦の元へと帰ればどうなるか、子どもでも分かる戦犯行為だ。
必然的に選ばれるのは前者、つまりは死への道のみとなる。
当然の事ながら、この窮地をどうにか脱しようと思案するも、ウーロンには良い策など何も思い浮かばない。
むしろ何か行動を起こした時点で、敵の射程圏内に入ってしまう可能性すらある。
だが、彼が幾ら頭を悩ませても時間というものは有限である。
刻一刻と迫る、絶対的な死という名の終着点を前に、ウーロンの顔色は見る間に悪くなっていく。
その顔色の悪さが最高潮に達した時、動き出したのは敵の方だった。
今までの仕返しと言わんばかりに、ガシャリと音を立てて一斉に飛び掛ってくる機械獣の大群に対し、彼に残された道はたった一つだけ。
もはや覚悟を決める他なく、アーキアルブレードを両手に電光石火の一撃を浴びせんとする。
「こなくそぉーーーっ!」
瞬間、交差するアーキアルブレードと機械獣達。
だがしかし、その瞬間に鳴り響いたのは断末魔ではなく、乾いた血肉が裂ける音。
それと共に、飛び掛かった筈の機械獣達が次々に枯れ果てる光景が視界に飛び込んでくる。
何が起きたのか分からず混乱するウーロンであったが、ふとある男がモニターに映りこんできた。
それは、ついこの間自らに絶望を与え、そしてスネークとの遭遇の機会を与えた者。
我等一般人に絶望を運ぶ、死神。
「あ、あわわわわぁ…!何でここに!?」
「_ふ、ふふふ、ふはははは!」
まるで高笑いするかの様な笑い声を上げ、光に包まれるその男。
その名はセル、人造人間セル。
それが機械獣達の生体エキスを取り込み、完全体となる瞬間だった。

特異点中枢にて激戦を繰り広げる死闘。
その渦中にて互いの視線をぶつけ、睨み合う武道とテリーマン。
どちらもが構えを取り、次なる攻撃に備えていた。
そんな中、先に動きを見せたのはテリーの方だった。
「…ハァッ!!」
裂帛の気合いと共に繰り出された拳は、音速を超えてソニックブームを引き起こす。
凄まじい風圧を伴いながら突き出されたそれを、しかし武道は身を捻って避けた。
だがこれは序の口、ジャブの一発目に過ぎない。
直後、二発目の正拳突きが武道を襲う。
それもまた避けられたものの、テリーマンは止まらない。
今度は左右交互に繰り出した左右の連打、それはさながらマシンガンの如く撃ち放たれていく。
常人であらば瞬時にミンチになるであろう連撃を前に、それでも武道はギリギリを見極め回避し続ける。
「グロロ~、無駄な事を続けるのはやめるのだな。」
その動きはもはや、人外の領域。
超人である彼のスペックを持ってしても、容易く躱し切れるものでは無い。
1m以上の体格差を以てすれば尚の事。
それが、それこそがテリーマンと武道との絶対的な実力差を現していた。
「敢えて避け続けるその技巧、見事だ、武道。だが…」
_だが、それでも彼は退かない。
たとえ相手がどんな相手であろうとも、逃げる事無く真正面から受け止めて見せる。
そんな彼の生き様が、彼の心の強さが、彼を更なる境地へと、極限を超えた先の、極致へと導いて行く。
例え相手がどれほど強大であったとしても、例え周りがどれだけ不条理な世界だったとしても、己の道を突き進むその姿は、まさに真性のヒーロー。
そう、彼こそは人類最後の希望にして、地球一の戦歴を持つ男、テリーマン。
その名に恥じぬ、真の漢の姿が其処にあった。
「_俺はまだ、負けちゃいないぜ!」
刹那、突如として武道の身体に激振が走る。
一体何処からの攻撃か、言うまでもない。
眼の前に居るこの男以外にはあり得ないのだ。
その証拠に、彼の姿は今しがた目の前から消え失せている。
それは、一瞬の間に距離を詰められる程に加速した証左。
そして自らの体に突き付けられた拳は、渾身の右ストレートが放たれたという事実だ。
「_それが。」
しかし、絶望的な体格差からくるものか、
そんな一撃を食らってもなお、武道の表情には余裕があった。
「それが貴様の限界だぁーーーっ!!!」
瞬間、テリーの身体は勢い良く掴み上げられ、視界が反転する。
そう、武道が放った超速の貫手によって、彼の体は真っ逆様に掲げられていた。
テリーマンが油断していた訳では決して無い。
むしろ彼は、この攻撃の直前まで、武道の放つ強烈な闘気に気が付いていた。
むしろ、彼の様な格闘家にとって、油断しないという事は呼吸をするよりも簡単なことだ。
だか、彼は反応が遅れた。
否、正しくは反応できなかったというべきか。
彼が想像する以上に、彼の動きは速く、そして鋭いものだった。
まるで達人の剣技の様に。
「やるではないか、下等超人よ。お前は強い、本当に強かったぞ。だが…」
その言葉と同時に、テリーの体は大きく揺れる。
「やはりそれは下等超人での尺度の物、我等完璧・無量大数軍に叶う物ではないわーーー!!!」
言うが早いか、言葉と同時に跳躍する武道の体。
そこから繰り出されるのは、テリーのお株を奪う必殺の一撃。
技に気付き、藻掻くこと一瞬、しかし抜け出すことは叶わず_
「ワンハンド・ブレーンバスター!!!」
_直後、テリーの体は大地へと叩き付けられた。
視界の端に映る、赤い閃光を見ながら。

21人目

「幕間:死滅復元界域 希望ヶ峰=トラオム」

~リ・ユニオン・スクエア ビル屋上~

特異点の一件が佳境へと進んでいる途中。
黒コートの男はそのフードを外し、外の壁を見ていた。

「全く、彼らも愚かなものだ。」

金髪に口ひげ、知的な風貌の男。
その正体はⅩⅢ機関の一人「ルクソード」。
時を制御する「運命を賭す者」。

「英雄は目先の利益にとらわれ、遂に持ち金をかすめ取られ始めてしまった。」

CROSS HEROESの今のあり方を皮肉ったのか、遠くに映る壁を前にして言う。

「英雄よ、早く戻るといい。さもなくばすべてを失うことになるぞ。」



壁の奥は今。戦場と化していた。
そこにいるのは数多もの兵、兵、兵!

その数は実に1500人。

白い鎧に身を包み、白い武器を手にした兵士が徒党を組み、軍団を成し、戦列を組んで進軍する。
相対するのは、風貌こそ似るがその色が違う。

黒い鎧、黒い紋章、黒い武装。
その人数は、白い軍団と同じく1500人。

どこか遠い世界、或る男が見た夢。
3つの界域が三国志の如く争った特異点。
その再現が今、ここ希望ヶ峰学園跡地で行われようとしていた。


存在しなかった世界

「為朝は今、霊基修復ポッドの内部で休ませています。損傷は消滅ほどではありませんが、しばらくの出陣は無理そうですね。」

魅上が、カール大帝に為朝の損傷を告げる。
その声は依然冷静だ。

「うむ。相手がかなり強力なのがわかっただけでも、十分すぎる収穫といえよう。___ところで。」

カール大帝が魅上に問いかける。

「もう希望ヶ峰の準備は整っているのか?あの建物を解体し、我らの前線基地及び魔力牧場を生成するための戦場。」

その問いに、悪い表情を浮かべて。
「ええ、すでに整っておりますとも。トラオムの準備は。」


ReWrited ReCord   人理定礎値:EROOR
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 A.D.20XX 死滅復元界域 希望ヶ峰=トラオム

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その副題は「或る■■の生と死」。

22人目

「荒れ狂う特異点」

それはまさしく、完璧なまでに決まった一撃だった。
武道の放ったワンハンド・ブレーンバスターは、テリーマンが叩き付けられた大地が抉れ捲り上がる様を以て、その凄まじき威力を体現してみせた。
彼の肉体とてまた超人、それ故に即死は免れたが、しかし受けたダメージは深刻そのもの。
背中のあちこちからは血が流れ出し、既に動くこともままならない有様だ。
もはやこれまでか、技を放った武道さえもがそう思ったその時、不意にテリーが呟く。
「まだ、まだだ…!」
ヨロヨロと、しかし確かに再び立ち上がるテリーマン。
その光景を目の当たりにして、流石に武道も驚きを隠せない。
武道面の奥底から覗く眼を怒りに歪めて、武道は問いかける。
「馬鹿な、何故立てる!?今の一撃を受けて尚!何を支えにしていると言うのだ!」
テリーマンは、その問いに対してフッと笑みを浮かべた。
それは、まるで獰猛な猛獣が狩猟を成さんとする顔。
「俺を支えているのは、今も俺の後ろで戦ってくれている仲間達だ!今ここで俺が倒れちゃ、あいつ等に申し訳が立たねぇ!」
彼等の後方で、今もなお戦い続けている正義超人と完璧・無量大数軍。
その両者をテリーはチラリと見やった後、大きく息を吸い込んだ。
「だから俺は負けられねえんだよ!!たとえ相手が何者だろうとな!!」
「…やはりその意志、その友情という病原菌か!完膚なきまでに打ち砕いてくれるわ!!」
テリーの叫びに呼応するかの如く、武道もまた叫ぶ。
そして同時に両者は地面を踏み込み、全力を持って駆け出した。
先程までの比では無い速度、まさに音速を超えた超速の世界。
二人の男は互いに拳を振りかざし、相手目掛けて突き出す。
「「オオオォォッ!!」」
ぶつかり合う両者の拳は、凄まじい衝撃波を生み出し、周囲の景色が弾け飛ぶ。
それはまるで世界の終わりか、或いは世界の始まりの様な、壮大にして残酷な光景であった。
そして、その果てに、ついに決着の時が訪れる。
「_これで、終わりだぁあああっ!」
渾身の力を込めた、テリーの右ストレート。
それが、武道の顔面を捉え、彼を遥か後方へと吹き飛ばした。
「…ぐっ、おぉおおおっ!!!」
だが、それでも
そのまま地へと伏してはくれない、武道は膝をつくことは無い。
凄まじき体躯、一糸乱れぬその姿勢。
テリーの全力を以てしても崩れぬ、ストロング・ザ・武道という要塞。
だが、テリーの表情に絶望は無い。
「これが、これが貴様の答えだというのか!この圧倒的な実力差を前に、諦めないというのか!」
ギリギリと腕を握り締め、
「ああ、そうだ!この程度で折れちまう程、俺のヒーロー魂はヤワじゃ無いんでね!」
「この程度の絶望では、貴様の心は折れないだと!戯言を言うなぁっ!!」
そして、武道の怒号と共に、一瞬にして距離を詰める武道。
そこから繰り出される強烈なアッパーを前に、テリーの体は勢い良く宙へと放り投げられる。
有り余る剛力から繰り出された衝撃に、テリーの口から鮮血が溢れ出す。
「グフッ!」
もはや、彼の身体には体力というものは残っていない。
そんな彼に、もはやこれ以上戦う力は残されていない筈である。
だが、それでも、彼の心には希望があった。
テリーは己が身体に鞭を打ち、辛うじて身体を起こそうとする。
「ぬぅ、その力…!」
途端に、テリーの体から放たれる金色の光に眼を眩ませる武道。
そうして奇跡が舞い降りたのか、眩い光と共に彼は立ち上がった。
「まだ、まだ終われねぇ!俺の戦いは終わっていない!俺達の正義の為に!!」
その瞬間、テリーは悟った。
武道の顔に浮かぶ焦燥の色を。
そして同時に、テリーは思い出した。
彼も、自分と同じなのだと。
テリーマンという男もまた、自らの信じる正義の為に戦っている。
だからこそ、分かるのだ。
目の前の男の気持ちも、彼が何をしようとしているかも。
「ならば、我は我が正義をもってそれを止めようぞ!!」
再び動き出す超人二人。
両者の拳が交わるその刹那、テリーは再び叫ぶ。
「_危ない!」
咄嵯のテリーの声に反応する武道。
その僅かな一瞬に生じた隙。
武道の拳が僅かに遅れたその刹那に、テリーの体が武道を通り抜け、背中を遮る。
直後、テリーの体に叩き付けられる赤い閃光の雨霰。
「うぐ、ぅああぁぁ!!?」
そう、テリーマンは武道を庇って自らが盾となったのだ。
「何を、している…?」
困惑する武道の言葉を余所に、今度こそ倒れ伏すテリーマン。
見上げれば、空の彼方より降り注ぐ轟射の五月雨が、この特異点の空を埋め尽くさんばかりに犇いていた。
「あれだけの攻撃を受け続ければ、いくらお前でも無事では済まない!何故だ!何故、そこまでして奴を助ける!何を支えに立ち上がる!答えろ!!」
武道の問いかけにも、テリーは伏して応じない。
ただ一つ言えることは、彼は何よりもヒーローとしての行動を取ったということだけだ。
そうして降り注ぐ第二波を前に、武道は、何を思ったか_

「全く、勝手に行っちまったぜ…」
飛び去ったネメシスの事を思い浮かべてそうぼやくモルガナの顔には、困惑の表情しかない。
彼が困窮のも無理はないだろう、出会いも別れも唐突過ぎた。
此方を一方的に狙う第三者という存在が無視できないのは分かるが。
そんな鬱蒼とした気持ちを吐き出すモルガナを余所に、蓮は宝具の飛来した空の彼方から瞬きが生じるのを見て、呟く。
「第二波が来るぞ。」
「ゲッ、マジかよ!?」
言うが早いか、辺り一帯に走る、打ち砕かれた矢が着弾する衝撃。
「マカラカーン!」
そうして、やがて自身にも迫るであろう時雨の如き矢の雨霰を前に、再び一唱を紡ぐ。
「に、肉のカーテ…ひぃいいぃぃぃ!!?」
咄嗟に防御を構えたキン肉マンの悲鳴を最後に、彼等の姿は土遁にまみれ見えなくなっていた。

「ニャガニャガ、外が騒がしくなってきましたねぇ?」
戦闘機構達の絨毯爆撃を受け、揺れ軋む神精樹、その中心。
特異点中枢、その内部にて、男は薄ら悪い笑みを浮かべていた。
「全く以て滑稽な連中ですねぇ、この戦いの全てが無駄に帰するというのに。」
クスリと微笑む彼の姿は、『完幻』グリムリパー。
そして、彼の周囲に佇むのは、マントを被った幾多の完璧・無量大数軍達。
その腕には、神精樹中に成った幾千もの果実が、神精樹に蓄えられていたエネルギーの成れの果てが抱えられていた。

23人目

「一挙大公カイ! 平成ヒーロー対バールクス!!」

【DRIVE!】

 グランドジオウが左足にあるレリーフに触れると、仮面ライダードライブが召喚される。
刑事にして仮面ライダー。最速のスピードを誇り、専用マシン「トライドロン」を有する
「車に乗るライダー」だ。

 全身に施されたレリーフは「ライダーズレコード」と接続し、
歴代のライダーを各々の時系列から呼び出す事が可能となる。

「うおお、凄い! それじゃあ、俺も……!!」

 ゼンカイザーも負けじと、ギアトリンガーにセンタイギアをセットする。

【13バーン!】【タァァァァァァァボレンジャ―!!】

 ギアトリンガーから撃ち出した光を浴びて、ゼンカイザーは13番目のスーパー戦隊
「高速戦隊ターボレンジャー」のレッドターボに変身した。
44のスーパー戦隊の力を閉じ込めたセンタイギアを使い分ける事で、
ゼンカイザーは様々なヒーローの姿に変化できるのだ。

 ドライブとレッドターボ。お互いに車に由来を持つヒーロー同士の共闘だ。

「ひとっ走り付き合えよ……!」【OK,START YOUR ENGINE!!】
「若さゼンカーイ!!」

 ドライブとレッドターボが同時に駆け出し、超高速移動でバールクスに接近する。
トライドロンが円陣を描き、ピンボールのように弾かれる反動を利用して
一撃一撃を繰り出す度に威力とスピードを増していくドライブと
その狭間を縫うようにしてレッドターボの波状攻撃が叩き込まれる。
超スピードを誇る2人だからこそ成し得る連携だ。

「ふんッ! ふんッ! ふんッ!! どりゃああああああああああッ!!」

 目に止まらぬ連続攻撃でヒットアンドアウェイを繰り返す二人の猛攻を受けた
バールクスの動きは次第に鈍くなっていく。

「どうだ!?」
「ふふふ……!」

 否、違う。
鈍くなっているのではなく、敢えて攻撃を受けているのだ。

「!? 効いてない…!?」
「こいつ……わざと攻撃を受けてるのか?」

【ロボライダー!】

 バールクスもまた、ジオウと同じく複数のライドウォッチを装填し、
強化形態へと姿を変える能力を持っている。
ロボライダーとは、「哀しみの王子」の異名を持つパワータイプの戦士だ。
さらに、堅牢なる耐久力をも備えており、近接戦闘では無類の強さを発揮する。

「ふんッ!!」
「うわっ!?」

 周囲を駆け回るドライブとレッドターボの首を鷲掴みにしたロボライダーは
そのまま力任せに投げ飛ばしてしまう。
ハイパーリンクによって敵の攻撃を分析し、その対策を自動構築したのだ。
地面に叩き付けられた二人は、それでも何とか起き上がる。

「ぁ痛たたたた……!!」
「ボルテックシューター!!」

 だが、そんな二人に追い打ちをかけるように、
バールクスは銃口から光弾を連続して撃ち放ち、ドライブに集中砲火を浴びせた。

「ぐわっ……ああああああッ!!」

 近距離戦に長けるパワーと、遠距離戦をフォローするボルテックシューターによる
正確無比の狙撃を併せ持つ。それがロボライダーの強みだ。

「うわああああああああああああああああっ……!」

 紅蓮の炎に包まれ爆発するドライブ。
グランドジオウが召喚したライダーは実体を持たない。故にオーバーダメージを浴びると
消滅してしまうのだ。

「ドライブが……!?」
「くそっ、まだまだァ!!」

 グランドジオウは続いて、別のレリーフにタッチする。

【HIBIKI!】

 すると今度は、仮面ライダー響鬼が召喚される。
清めの音にて現世に巣食う魔化魍を鎮める鬼の戦士だ。

「それならこっちも!」

【33バーン!】【シィィィィィィンケンジャー!!】

 続いてゼンカイザーも33番目のスーパー戦隊「侍戦隊シンケンジャー」の
シンケンレッドに変身。火のモヂカラを操る炎の剣士である。

「はああああああああッ……!! はああああああッ!!」

 二振りの音撃棒・烈火から繰り出される鬼棒術・烈火弾の連撃を浴びるバールクス。

「よし! 決まった!!」
「一気に畳み掛けるんだ!」
「ちょわーっ!!」

 シンケンレッドが飛び掛かり、真っ向両断の唐竹割りでバールクスを攻め立てる。
しかし、その瞬間だった――。

「ふんッ!!」

 振り下ろされたシンケンマルの斬撃を肩で受け止めながら、
バールクスは拳を突き上げる。そして、そのままシンケンレッドに強烈な一撃を
叩き込んだ。

「ぐおっ!?」
「何ィ……!?」

 怯む両者を前にして、バールクスは高らかに笑い声を上げる。

「ハッハハハ……わざわざ俺に力を与えてくれるとはな!」

 ロボライダーのもうひとつの特性……それは炎のエネルギーを吸収し
自らのエネルギーに変えるというものだ。
これにより、バールクスは響鬼の烈火弾、そして火のモヂカラを操る
シンケンレッドの攻撃を糧としたのだ。

「そら、受け取れ!!」

 シンケンレッドを響鬼の元へと殴り飛ばし、激突させる。

「うわっ!?」
「ぬおおっ……!」

 体勢が崩れたところへ、バールクスは通常形態へと変身。
足先を真っ赤に赤熱化させたライダーキックを、まだ起き上がれずにいた響鬼に放った。

「はぁあああああッ!!」

 凄まじい衝撃と共に、爆煙が上がる。

「ぐわああああああああああああああああッ……!!」
「響鬼まで……!」

「こ、こいつ、強過ぎでしょ……!?」

 爆発に巻き込まれてジオウの足元に倒れ込むゼンカイザー。

「この程度の力で俺に勝てると思っていたのか?」

 バールクスは悠々と歩き、ジオウとゼンカイザーを見下ろす。

「平成ライダーとスーパー戦隊の力に、意味は無いからな……」
「平成……!?」

 そう、ドライブ、レッドターボ、響鬼、シンケンレッド……
これまでジオウとゼンカイザーが行使した力はすべて、
平成の時代に生まれたヒーローたちの力だった。

「そろそろ余興も終わりだ。2人まとめて引導を渡してくれるぞ……!」

24人目

「ジェロニモvs『完牙』!の巻」

紅に染まる戦場、その一角にて、2人の超人が佇む。
「お前の相手はオラ、ジェロニモだ!」
勇ましく名乗り出る1人の超人は、正義超人の若人にしてアパッチの申し子、ジェロニモ。
神話上の巨人ヘラクレスを彷彿とさせる巨漢。
いや、巨漢という表現すら相応しくないその肉体は、嘗て人間として超人と戦ってみせた名残。
それは勝利を勝ち取った若々しくもメリハリの鋭い鋼の肉質が、それを物語っていた。
「ウォウォン、そうか貴様がジェロニモか。聞いたことがあるぞ。人の癖に、下等超人とタフに戦ったらしいじゃないか?」
相対するは、完璧・無量大数軍にして『完牙』の異名を持つ完璧な猟犬、ダルメシマン。
彼の前では全ての武器が、己の存在を恥じて塵と化すだろう。
それ程までに研ぎ澄まされた鋭利な牙は、鋼鉄をも容易く引き裂き、その牙は戦車の装甲に穴を空けることなど造作もない。
「だが、それも所詮は下等超人のレベル。俺の牙に掛かればイチコロだぜ。」
だがその鋼鉄さえも、この男の前ではただの獲物でしかないのだ。
ギリギリと音を立てて、ダルメシマンの牙が唸って煌めく。
「イチコロかどうか断言するのは…」
そして、そんな最強の牙にも勝るとも劣らない眼光を放ちながら、ジェロニモとダルメシマンは睨み合う。
しかしここは戦場、レフェリーも居なければゴングを鳴らす審判も存在しない。
「戦ってからにするズラーーーッ!」
「威勢の良い、掛かってこい!」
故に、二人の雄たけびを以てゴングとし、このファイトは始まりを告げた。
先制攻撃を仕掛けたのはジェロニモ。
その巨体からは想像もつかない程の身軽さで跳躍を果たし、ダルメシマンの頭部目掛けて拳を振るう。
開幕から撃ち込まれるのは、跳躍トマホークチョップだ。
「トロいトロい!チワワより遅いぜ!」
しかしダルメシマンは余裕綽々といった形相を浮かべ、敢えて紙一重で回避。
隙だらけになったジェロニモの喉元にその顎を突き立てる。
開幕から決まったのは、ダルメシマンの喰らいつきの方だった。
「ズラ、ァ…!?」
ダイヤの如き硬度を誇る白銀の牙が、喉元の肉を裂いて突き破っていく。
1cm、2cmと食い込む毎に、血飛沫と共に苦悶の声を上げ、苦痛の色に染まるジェロニモ。
その返り血をものともせず、ダルメシマンは息を付かせる間もなく追撃を仕掛ける。
「ウォウォーーーン!!」
ゼロ距離から繰り出される爪の連撃が、今度は鋼の肉体を紙切れの如く斬り裂き抉る。
更にはその傷口から鮮血が飛び散り、辺り一面に飛び散った。
血飛沫舞う演舞劇、まさに、神速と呼ぶに相応しい攻撃速度である。
常人であれば、この時点で勝負は決していたであろう。
だが相手は超人の中でも屈指の耐久力を持つジェロニモ、ダルメシマンが繰り出す連撃に必死で耐え抜く。
「今だズラーーーッ!」
耐えて、耐えて耐えて、そしてダルメシマンの両腕をその眼で捉え、掴みかかった。
がっしりと、確かな腕の感触、紛れも無く捕えられたダルメシマンの両腕。
「ウォッ!?」
ここに来て、ダルメシマンの攻勢は終わりを告げたのだ。
であるならば、後は反撃あるのみと言わんばかりに、ジェロニモは渾身の力を込めて締め上げる。
ミシミシと音を立て、ダルメシマンの腕を握り潰さんとする勢いだ。
このままでは骨ごと砕かれてしまうと察したのか、ダルメシマンも必死の形相で振りほどきに掛かる。
だが掴まれた腕は決して解けず、次第に捻り上げられていく。
ならばと喰い付きを強めるも、時すでに遅し。
「閂アームロックーーーッ!!」
「ウォウォーーーン!!?」
バキリ、とダルメシマンの両腕が音を立てる。
骨の軋む乾いた音と、血肉の抉れる水っぽい音が濁音と悲鳴に混じり、遠吠えとなって戦場に響き渡る。
それは、まさしく断末魔であった。
喰いついていた牙を離してまで、2歩3歩と後退りをするダルメシマン。
だがそれでも尚、彼は戦いを止めようとしない。
その眼に宿った闘志はいささかの衰えも見せず、その兆候すら皆無。
寧ろ今の一撃で喰い甲斐が増したと言わんばかりに、その眼光をより鋭く光らせてみせた。
その様子にジェロニモもまた、不敵な笑みを浮かべてみせる。
この程度でくたばる様な男ではないことは、百も承知だとでも言いたいかのように。
「ウォウォン、やるじゃねぇか下等超人…俺の腕をこんなにしちまったのは、お前が初めてだ。」
プランプランと揺れる腕を差して、それでもなおダルメシマンは獰猛に嗤う。
「ギブアップするなら今の内ズラ、これ以上痛い思いをする前に…」
「ギブアップだと?」
その言葉がトリガーだったのだろうか、ピクリと耳を立て、闘争に満ち満ちていた顔が、怒りの形相へと変わっていく。
「誰に向かって言っているーーーっ!!?」
そして次の瞬間にはダルメシマンは、その巨体からは想像もつかない程俊敏に動き、ジェロニモの懐へ潜り込んだ。
一瞬の出来事、何が起きたか理解できないまま、気付けばジェロニモの視界は逆転し、天高くそびえる神精樹の空を映し出す。
ジェロニモの体は、宙に舞っていた。
「ズ、ラァ…!」
刹那の衝撃で蹴り上げられたと理解する頃には、その巨体は空中で見事な一回転半をしていた。
そこに、隙が生じる。
「貴様等下等超人が、完璧な猟犬に物申すなーーーっ!」
その隙にダルメシマンは狙いを定め、今度こそ喉元を噛み千切らんと牙を剥き出した。
だがジェロニモとて、やられっぱなしのサンドバッグでもなければ、練習台のデク人形でもない。
喉元こそ傷が突かれたものの、空中という場で今もなお使える技がある。
(アパッチのおたけびズラ!)
胸元の引っ掻き跡に突き付けられた蹴り痛みを無視して、食いしばり、大きく息を吸う。
膨張する横隔膜、膨れ上がる肺、そして。
(今だ。)
アパッチのおたけびの存在を、ダルメシマンもまた、人間の1京倍の嗅覚で以て察知していた。
故に、手を打って対処するのは当然だった。
ただし、誰しもが予想だにしない奇想天外な方法で。
身体中の黒い斑点が、腹部の一点に集中する。
そして腹部に出来上がる、一つの黒い巨大な斑点。
「スペクルボム!」
それは実体を持って生成され、黒い球状の物体となって打ち出される。
それが狙う先は、ジェロニモの…
「アパッチの…!?」
おたけび、その金切り声が轟かんとした時、ガコリと喉に突き刺さる黒い物体。
アパッチのおたけびは今、ここに封じられたのだった。

25人目

「地獄の王」

一方その頃バードス島では
「馬鹿な…!?セルだと!?」
「ほう……久しぶりだなピッコロ……」
(何故やつがここにいる?やつはあの時……)



何年も前のドラゴンワールドにて

『今だぁ!』
『ウワァアアアアアアアアアッ!ダァアアアアアアアアアアアアッ!!』
『そんな……ウヴォアアアアアアッ!?』



そして現在へ
(あの時悟飯がトドメを刺したはずだ……まさか、スラッグやターレスと同じように……)
「悪いが、今回用があるのはお前ではない……」
「なに!?」
「今回私がここに来たのは……あのロボットに用があるからだ」
セルはそう言いサヘラントロプスを見つめる。
(あ、やべえ……完全に狙われてるよ俺……)



一方、トリガーはスウォルツが用意したアナザークウガと空中で戦闘を繰り広げていた。
「キシャァァァァァァッ!」
「デァ…!」
『クッ…!なんて強さだ…!』
アナザークウガは、人間サイズには収まりきらないほどの巨体から繰り出されるパワーや背中の翅による飛行能力、ルフィやボスボロットのように伸びる腕、更には口から火炎を放つなど、他のアナザーライダーとは見た目と能力も大きく異なる。しかも今回スウォルツが用意した個体は通常のアナザークウガよりも大きく、マジンガーZにのしかかれるほどの大きさであり、それはすなわち通常個体よりもパワーが高いということである。
『せめてスカイタイプかパワータイプになれさえすれば…!』
トリガーには今変身しているマルチタイプ以外にも力に特化したパワータイプ、速さに特化したスカイタイプ、更にはエタニティコアの力によってパワーアップした最強形態のグリッタートリガーエタニティやメガロゾーアとの最終決戦の際にイグニスが持つトリガーダークの闇の力を借りて変身したトリガートゥルースなどがある。
……がしかし、ケンゴが復活した際にはマルチタイプ以外のキーはなかったため現在はマルチタイプ以外の形態に変身することができないのである。
「キシャァァァァァァッ!」
「デュア!?」
アナザークウガは腕を伸ばしてトリガーの首を締める。
『うっ、ぐぅ……』

『ケンゴを離しなさい!』
そこへガッツファルコンがアナザークウガの背中を攻撃し、背中の翅を破壊する。
「キシャァァァァァァッ!?」
「っ!デュア!」
怯んだ隙にトリガーもアナザークウガの腕を破壊して脱出、飛行能力を失い掴むものもなくなったのはアナザークウガは地面を落下し、その衝撃により大ダメージを受けて爆散した。
『大丈夫ケンゴ?』
『ありがとう、助かったよ』



そして……
「ハァ!」
「ガハッ!?」
マジンガーZと機械獣あしゅら男爵との戦いも決着が着こうとしていた。
「これで終わりだあしゅら男爵!光子力!ビィイイイイイイ厶ッ!!」
マジンガーZは光子力ビームを放ち機械獣あしゅら男爵を攻撃。
「お、おのれぇええええええ!?」
光子力を受けた機械獣あしゅら男爵は爆散した。
「よっしゃ!」
「やったわね!甲児君!」
「・・・」
「……甲児君?」
「あ、いやなんでもない……」
(……なんだこの違和感は?今倒したのは本当にあしゅら男爵だったのか?)
甲児の中に残る謎の違和感……それはすぐにどこかへ吹き飛んだ。
「っ!?な、なんだ!?」
突如してバードス島全体が揺れ始めたのである。
「じ、地震か!?」
「いや違う…!これはまさか…!?」
「お、おい!あれを見ろ!」
すると島の中央から約3000mにも及ぶ超巨大なロボットが現れた。
「で、デカい…!?」
「ゲッターロボやトリガーよりもデカいぞ!?」
その大きさに驚くCROSS HEROESの面々、しかし、一部のメンバーはその超巨大ロボットがなんなのかを知っていた。
「アレって…!」
「あぁ、間違いない…!」
「地獄王…!ゴードン…!」

26人目

「封じられたおたけび!の巻」

「あが、が…!?」
喉奥につぎ込まれた、強烈な嘔吐感を伴う物体。
ダルメシマンの放ったスペクルボムは、顎の内へと確かに入り込み、喉奥から離れない。
そしてそれは口呼吸すら困難な状態を発生させ、見事ジェロニモのアパッチのおたけびを封じてみせた。
一連に至るまでの動作は流れるような無駄の無い動きであり、ジェロニモもただ驚愕するしかない。
逆転の一撃に対し的確に狙いすまして放たれたスペクルボムが、此方の動きを手玉に取った様に見えて、精神的動揺を隠せない。
対するダルメシマンは、この瞬間を狙っていたと言わんばかりに、更なる追撃を仕掛けんと拳を握り締める。
完璧なる猟犬の意地、ここに極まれり。
「所詮貴様はそこまでだ!ウォウォーーーンッ!!」
振りかぶった脚部を、渾身の力を込めてジェロニモの顔面目掛けて振り下ろす。
「く、ズラァ!?」
迫り来るシザースキック、それに対する防御は間に合わない。
この勢いでは回避もままならないと悟り、せめてもの抵抗として両腕で顔を庇って見せる。
だがそんな小細工も、ダルメシマンの前では何の意味も成さない。
「これで終わりだーーーっ!」
そう叫びながら振り下ろされた脚は、確かな肉を潰す音を立てて、ジェロニモを肉塊へと変える。
ガキリ、骨肉を砕く音が響いてから、ダルメシマンは異変に気付く。
ジェロニモを倒す筈であった脚を振り下ろしたその先に、肉の感触は無かった。
あるのは、まるで鋼鉄の壁を殴っているかのような、硬い手応えだけ。
一体何が起きたのか、ダルメシマンは理解が追い付かない。
だがその疑問も束の間、すぐに答えへと行き着く事になる。
「ウォウォン、俺のスペクルボムを盾代わりに使った訳か。」
ダルメシマンのシザースキックが直撃した箇所は、丁度スペクルボムを打ち込んだ口内だった。
「いや、それだけでは無いな?全身をバネの様に縮めて威力を殺したか。」
顔を覆った両腕は、確実に口内へと導く為の誘導兼サスペンション。
そして、直撃したところで体を順次縮退させれば、衝撃を殺す事が可能だと見抜いたのだ。
なるほど、それだけの大細工であれば、確かに通じる。
まさに、ジェロニモの超人的身体能力があってこそ可能な神業である。
「ウォウォーン!!それでこそ喰い甲斐があるってもんだ!」
ダルメシマンは、その神技を前にしてもなお、闘争心を燃やしてみせる。
この程度で倒れる様な男ではない、と。
ならばこそ、今度こそ息の根を止めると、互いに着地する中で再び構えを取る。
対するジェロニモもまた、迎撃の体勢を取り直す。
(下手に動けばさっきの二の舞ズラ、どうする…?)
お互いの距離は、数メートル程離れている。
逆に言えばたった数メートル、一手詰めれば無くなる距離だ。
次の一手、どちらが仕掛けるか、緊張が走る。
「仕掛けないならこっちから行くぜ、ウォウォーン!」
そんな中、先に動いたのはダルメシマンだった。
一歩前に踏み出したその巨体は、まさに弾丸の如く、一瞬にしてジェロニモとの距離を詰める。
狩りは既に始められている、そして今、ジェロニモはその餌食とならんとしていた。
(来るなら来いズラ!)
しかしジェロニモとて、いつまでも受け身のままという訳ではない。
即座にジェロニモもまた、ダルメシマンと同じくして前進し、その距離を一足飛びに埋める。
片足を軸に放たれる延髄蹴り、対してジェロニモは屈んで回避し、その足を掴み取って、脇に抱えてみせた。
それは奇しくも先程の焼き増しのような光景。
違いがあるとすれば、ダルメシマン側から仕掛けた事、そして何より。
(アパッチのおたけびーーーっ!)
「ヴラ”、ラ”…!!」
喉奥にて封じられているおたけび。
つまりそれは、今もなお喉奥にあるスペクルボムの存在だ。
「何だぁ?俺がその喧しい声を封じまったのをもう忘れたか?それとも…」
ダルメシマンは捕まれた足を軸に回転、ジェロニモを捻り倒し、マウントを取る。
(吐き出せ、無い、ズラ…!)
「吐き出そうったってそうはいかねーぜぇ!!ウォウォーン!!!」
そして未だプランプランと揺れ動く腕を振り回し、爪先を掠める様にジェロニモへと叩き付ける。
図星を突かれ、動揺したジェロニモは成す術も無くその体を斬り裂かれていく。
「ヴラ”ラ”ァ”…」
悲鳴か、おたけびか。
苦悶の声が、辺り一帯に響き渡る。
「小賢しい真似をしてくれたものだ、簡単には殺さんぞ!」
ジェロニモが苦痛に喘ぐ度に、歓喜の声を上げて何度も何度も爪を立てる。
獲物を前にして舌なめずりし、されど決して油断はしない、猟犬たる有様を見せんとする。
「このまま嬲り殺しにしてくれる_!」
_キィン。
だからだろうか、不意に響いた金属音を、超人的聴覚が聞き取ったのは。
「ウォン!?」
振り向いた先には、ただのガードレール。
それも根に覆われ、最早朽ちる運命にあったもの。
音の発生源は、間違いなくそこだった。
「…何だ、ガードレールが朽ちる音か。」
その音が耳に入った瞬間、ダルメシマンは急に冷静になった。
そう、音は確かに聞こえた。
(い、いや。今のは朽ちる音じゃないズラ!)
その事に気付いて、ジェロニモは理解する。
その朽ちた金属音が、逆転の一手になると。
「ヴラ"ラ"ラ"ラ"…!!」
言うが早いか、くぐもったおたけびを上げ続けるジェロニモ。
喉奥からこみ上げてくる"熱い感触"を無視して、声を震わせ続ける。
「…やめろ、耳障りだ。」
未だにおたけびを上げるジェロニモに嫌気が差したのか、徐に自らの腕を地面へと叩き付けるダルメシマン。
ゴキリ、と音を立てる腕は、試合前の様にしっかりと体と繋がっていた。
「ヴラ"ッ!?」
一瞬、止まる叫び声。
「驚いたか?さっきの閂アームロック、確かに効いちゃいたが…ただの脱臼程度なのさーーーっ!!」
その証拠にと、両腕を駆使した引き裂きを敢行する。
再び始まる血の演舞劇、紅に染まる舞台。
「…ヴラ"ラ"ラ"ラ"ラ"!!!」
それでも、何度斬り裂かれても。
ジェロニモは止めない、おたけびを上げる事を。
「…止めろと言っているのが分からんのか!?」
直接的な害は無くとも、彼の脳裏に響き渡るそれは、黒板を引っ掻く音の様に、不愉快な事は確かだ。
故に、お遊びは止めた。
「変更だ、今すぐにでも息の根を止めてやる!!」
次いで放たれる、喉元を狙った鋭い噛みつき。
『完牙』の異名に相応しい凶牙が、今再びジェロニモの喉元へと食らいつかんとする。
「ヴラ"ラ"ラ"ァ"!!!」
だが、首を捻って回避してでもおたけびを止めない。
「耳障りだと言っているーーーっ!!」
切れた、彼の中で、確かに何かが、いや理性が切れた。
切れた猟犬が放つはストームエルボーの嵐。
「そんなに叫びたければ、断末魔を上げさせてやるぜーっ!」
そして彼の肘が顔面に叩き込まれる。
_ジュウ。
「ウォォン!?」
何かが焼ける音。
音の元を見れば、自分の肘。
「ウォウォーン!?」
否、ジェロニモの体中から、灼熱が迸っていた!
「ヴラ"ラ"!!ヴッラアァァ!!」
瞬間、彼の口から灼熱の火球が吐き出され。
「ヴォヴォーン!!?」
直後、彼の体は炎に包まれた。

27人目

「暴かれる真実」

 バードス島との戦いは熾烈を極めていた。
ブロッケン伯爵の戦死、ジェナ・エンジェル、セルと言った強力な敵の乱入、
文字通り総力戦となったこの戦い。
そしてついに最終最後の切り札・地獄王ゴードンが出現する、その数分前……

「ええい、何をやっているのだ……! 
早くあの忌々しいCROSS HEROESの連中を始末せぬか!」
「そ、それが敵は想像以上に手強く……」

 地下深くに潜むDr.ヘルは、苛立ちを隠しきれずにいた。
鉄仮面軍団を始めとするヘルの部下たちは、既に大半が命を落としている。
機械獣も、半数以上が倒され、残ったものたちも疲弊していた。

「焦っておられますな、Dr.ヘル様……」
「!? なっ……」

 そんなヘルの下に現れたのは、地上で戦っていたはずのあしゅら男爵だった。
マジンガーZの攻撃によってその搭乗機もろとも、爆散したはずだが……

「き、貴様……戦いを放棄してここへ来たのか!?」
「ブロッケンの奴めは死にました。予定通りにね」
「今、何と申した!?」

「そして……次は貴方様の番です。そうして儀式は完遂される」

 ヘルの前に立つあしゅら男爵の顔には、狂気に満ちた笑みがあった。

「お、おい……何を言ってるんだ?」

 その言葉の意味するところを理解したヘルの部下たちがざわめく。
だが、あしゅら男爵はそれを一睨みで黙らせた。
この者は狂っている。ヘルは直感的にそれを理解した。
同時に、このあしゅら男爵を生かしておいてはまずいことも……。

「おのれ! 謀反を働くつもりか、あしゅら男爵ーッ!!」

 Dr.ヘルの杖から発せられた光線が、あしゅら男爵を襲った。
しかしそれは寸前で弾かれてしまう。

「……なるほど、こう言う事か」
「き、貴様らは……!?」

 ヘルの光線を弾き返したのは、禍津星穢のマントであった。光線を吸収できるらしい。
マントの中から、ブーゲンビリアがひょこりと顔を出す。

「確かに、盛り上がる展開ではあるかな」
「そう」

「Dr.ヘル……よもや、ここにも滅びた世界からの生き残りがいたとはね。
随分と仕事が雑な事だ」
「一体、何の話をしている!?」

 訳が分からないという表情を浮かべながら、Dr.ヘルは叫ぶ。

「アンタもミケーネの遺産に関わっていたのなら、知っているはずだよ。
世界を作り変えてしまえるほどの力を持つ、『無限』の名を持つ存在をね……
その世界も滅びを迎えたはずだが、アンタはその力の一端に触れる事でここに顕現した。
既に次元を隔てる壁は無いにも等しい。だから何が起きても不思議じゃないのさ」

 穢は淡々と語る。本来リ・ユニオン・スクエアに存在したDr.ヘルは
ブロッケン伯爵と既にマジンガーZに倒されていたのだ。
つまり、今ここで生きているDr.ヘルは別世界からやって来た並行世界の同一人物と
言う事になる。

「そう……それ故に貴方が……いや、貴様に存在してもらっては困るのだよ。
例え、我ら夫婦の五体を引き裂き、この身をサイボーグに仕立て上げたDr.ヘルとは
異なる存在であったとしても! 今まさに、貴様が用意しようとしている
地獄王ゴードンこそ、その証拠だ!! 
やがて貴様は同じ道を辿る! 滅びへの道をな!!」
「ええい、もう良いわ!! この地獄王ゴードンで、全てを終わらせてくれる!!」

 ヘルの言葉と共に、地獄王ゴードンが動き出す。

「ああ、それでいい。そして滅びを享受するがいい。だが、それは新たな始まりでもある」

 その言葉を残し、穢とブーゲンビリアもその場を去って行った。

28人目

「解き放たれた声!の巻」

「も、燃え上がった!?」
クラッシュマンを相手取っていたウルフマンが、驚愕の声を上げる。
それはそうだ、自然の申し子とも言えるジェロニモが、超常的現象で燃え上がる所か、火球を吐くといった理に外れた行為を駆使してみせたのだ。
驚きの一つや二つでは言い表せない程に、その現象は異常であった。
対してラーメンマンは、ジェロニモの変化に思い当たる節があった。
「あれは、共振か!」
「知ってるのかラーメンマン!?」
ターボメンを相手取りながら、ラーメンマンが解説する。
「物体には、ある一定の周波数を当て続けると、その周波数帯域が増幅され続けるという性質がある。簡単に言えば、音エネルギーを無限に溜め込むんだ。理論上はな。」
ウルフマン達の頭に浮かび上がる、グラスに声を当て続けられるイメージ。
「しかし、実際は溜め込んだエネルギーがある一定のラインを超えると物体は破砕される。これが共振だ。」
そして、声を当て続けたグラスが砕け散るイメージが頭に広がった。
「そ、それは分かるが…燃え盛って火を吐くってのはどうなってるんだ!?」
「それはシバリング、或いは熱力学第二法則だろう…!」
ターボメンの攻撃をいなしつつ、解説を続ける。
「人間が寒い時に小刻みに震える動作、あれは体の熱生産効率を上げるシバリングと呼ばれる行為だ。ジェロニモは、それをおたけびで行って一気に熱を作ったんだ。」
「何だって!?燃え盛る程の熱をか!?」
「それを可能にしたのは…」
ラーメンマンの視線の先には、燃え盛って身を焦がすダルメシマンの姿。
正確には、彼の体中に戻った"黒い斑点"だ。
「彼の放ったスペクルボム、あれがどれだけ硬いかは分からないが、大量に熱を溜め込んでから破壊され、彼の体に戻ったのだろう。それこそ、自然発火するレベルの熱を。」
成程、ラーメンマンの言った通りであれば、ダルメシマンが燃え盛るのは道理だろう。
先ほどまでの彼は、ただの火傷だった筈なのだ。
それが急に、炎を吹き出す様な力を得た。
恐らくは、体内にあったエネルギーが、今になって爆発したのだろう。
つまりは、シバリングによる発熱。
それはさながら、内燃機関を積んだ自動車の様なものだ。
そこに熱力学第二法則、即ち「あらゆるエネルギーの移動にはロス(熱化)が発生する」という事が加わり、炎上するに至ったのだ。
で、あるならば。
「おいちょっと待て!じゃあ、つまりジェロニモの体は…!?」
「あぁ…」
視線の先は、ダルメシマンからジェロニモへ。
そこには、ダルメシマンよりも燃え盛り、血の様に赤い蒸気を上げる男が居た。
そう、今のジェロニモは陽炎を揺らめかせ、文字通り燃えていた。
「…オラは、人一倍丈夫なのが取り柄な超人ズラ。」
燃え盛る男は叫ぶ。
「だったら、耐えて耐えて、相手より耐え抜いて勝ちを得るズラ!ウララーーーッ!」
獣の様に、いや最早、狼の様に。
吠えて吠えて吠えまくる。
その様を見て、最初に動いたのはジェロニモだ。
全身を燃やしながらも、一直線にダルメシマンへと撃ち込まれる灼熱の咆哮。
対するダルメシマンは迎え撃つべく、炎に包まれた腕を振るう。
「ウォウォーン!やめろぉ!熱い!見えない!?」
だが、それはただただ空を切るだけ。
そして、ジェロニモの燃える拳が、ダルメシマンの顔を打ち抜いた。
吹き飛ばされる巨体。
それでも、ジェロニモの攻勢は止まらない。
「アパッチのおたけびーーーっ!!!」
追撃とばかりに、灼熱の咆哮が、アパッチの爆撃が鳴り響いた。
「あぁぁぁぁ!!うがああぁぁぁぁ!!?」
悲鳴、苦痛、苦悶、あらゆる負の感覚を綯い交ぜにした叫びが、ダルメシマンから上がる。
「ウラララララーーーッ!!!」
そうしておたけびが最高潮に達した時。
「あっ」
ダルメシマンの両耳から吹き出る鮮血、鼓膜の割れる音。
その瞬間、ダルメシマンは糸が切れた様に気を失い、そのまま倒れ伏した。
目が覚める事は、無かった。
「や、やりやがった!」
ジェロニモのKO勝ちであった。
だが、ここは戦場、祝福のゴングも、整えらえた医療設備も無い。
やがてジェロニモ自身も燃え尽き、倒れてしまった。
「いかん!」
倒れたジェロニモの元へと駆け付けるラーメンマン。
その表情は真剣そのもので、勝利に喜ぶ様子は一切無い。
「馬鹿野郎…燃え尽きるまでやりやがって…!」
ウルフマンも同じ思いだ。
ターボメンとクラッシュマンを相手にしながら、横目でジェロニモの戦いを見ていたが、彼は自分の体を省みず、全力で戦った。
しかし、だからといってそれが褒められる事だろうか? 否、断じて否だ。
戦いとは命を賭した物であり、それを軽んじる事はあってはならない。
そこに生死を分ける何かがあるからだ。
それは、この男を見れば一目瞭然だろう。
ジェロニモは、己の命を燃やす事で、相手に致命的なダメージを与えた。
それは果たして、讃えるべきなのか、それとも叱責すべき事柄なのだろうか。
ラーメンマン達の答えは決まっていた。
故に、彼の口から放たれた言葉は、ある意味当然のものだった。
燃え落ちたジェロニモを抱えながら、ラーメンマンが口を開く。
「生き急ぎおって…!」
その声色は、怒りに震えていた。
「シュホー、お涙頂戴な展開の最中で悪いが…」
そんな中で、ターボメンが警告を飛ばす。
「"横槍が入った"のでな。この戦い、一旦預けたぞ。」
ターボメン達は、一気に飛び立った。
そして一瞬の内に、空の彼方へと飛び去って行った。
その先には、幾多の閃光の雨霰。
「む、いかん!私達も離れるぞ、ウルフマン!」
「お、おう!」
ウルフマンは燃え尽きたダルメシマンを抱え上げ、一気に離脱する。
直後、宝具の一撃が辺り一帯を破壊しつくしたのは語るまでも無かった。

「久しい、という程でもないなぁ、豚よ…」
「あわわわわ…!」
バードス島の一角にて、セルとの思わぬ再開を果たすウーロン。
その声色は恐怖の一色に染まり、縮こまっていた。
「私の手を煩わせた小賢しい奴と思っていたが、まさかそのロボットで暴れてるとは思わなかったぞ?」
今まさに、ウーロンの目の前には完全体となったセルの姿があった。
その姿は見る者全てを圧巻させ、威圧していた。
そして、彼の手にはエネルギーの塊。
「ここまで運んでくれた礼だ、楽に死なせてやる…!」
巨大なエネルギー弾が凝縮され、真っ直ぐにウーロンへと向けられる。
だがその時、バードス島に激震が走る。
「…ほう?」
セルが視線を移せば、そこには超常現象が起きていた。
島の中央に位置する火山の噴火である。
まるで、この島の運命を司るかのように。
天より降り注ぐ熱線。大地より湧き出る溶岩。
そして表す、地獄王ゴードンの姿。
「…貴様は後回しだ、奴に興味が湧いた。」
そう言い残し、セルはゴードンの元へ飛び去って行く。
後に残されたのは、抜け殻の如き機械獣達と、母艦へと逃亡する一機のロボットだけだった。

29人目

「救世主は来たれり」

~リ・ユニオン・スクエア 中央ショッピングモール地下駐車場~
「なぁシグバール。なぜ俺をここに呼んだ?」

特異点から帰還した芥志木を、シグバールが呼び寄せた。
誰にも気づかれないように。
誰にもこの密談を悟られないように。

「不自然だと思わないか?」

おちゃらけた身振りをしつつ、シグバールは答える。

「何が悲しくてカールのおっさんは、あんな邪悪と絶望の化身みたいな女を利用したいと思うんだ?」

そっけない表情で、志木はその問いに答える。

「性格はどうあれ、カール大帝はあの性能を欲しがっている。中身とか、性格とかはどうでもいいんだろ。」

しかし、その問いにシグバールはあえて違うと言った。
                  ・・・・・・・
「違うな。俺が思うに、あのおっさんは利用されている。江ノ島の嬢ちゃんの力を放つための砲台としてな。」

志木は、きょとんとした顔を一瞬浮かべるも、すぐに冷静さを取り戻して問いかける。

「どういうことだ?まさかあのカール大帝が、誰かに利用されているとでも?」

過去、多くの「王」「支配者」「皇帝」と呼べるものが傀儡として、別の誰かに操られているケースがあった。
紂王、ローマ皇帝、数えだしたら数十人はくだらないだろう。そして、その悉くが反感を買った国民によって、王も黒幕も皆破滅の末路を迎える。

だとしても、あの「威風堂々の権化たるカール大帝が、まさか操られている」なんてことは、果たしてあり得るのだろうか?
            ・・・・・
「バカなこと言うな、あのカール大帝だぞ?自分の意志で操られているならいざ知らず、何者かに傀儡にされているなどイメージ的にも性格的にもありえない。そんなクソ馬鹿な話をするために俺を呼んだのか?」

「ああ、一応な。」

不満げな顔をする志木に対しシグバールは、まるで悪びれる様子もなく。

「……でも、なんか薄々は感じているだろ?この計画は胡散臭いって。」

「けっ。バカらしい。だが妙にお前のカンは当たるんだよな。いいぜ、頭の片隅にくらいは覚えておいてやろう。」

そう言って、志木は踵を返す。



かつて、救世主を見た。
世界の腐敗を掃除していく様を見た。

私は、ひどく感激した。
ひどく、感涙にむせびいた。

そして、遂には神に認められ、
その力を貸し与えられた。

だが_____彼は失敗してしまった。



今度こそ、あなたの失敗を取り戻して見せましょう。
私の罪を以て、あなたの栄光を再び輝かせましょう。

今度こそ、あなたの意志をーーーーーー!

闇夜にて、狂信者は存在しなかった世界で崇拝を掲げる。



特異点にて、狂えるヘラクレスは。
「ーーーーーー!」

咆哮と共に周囲に無限の破壊をもたらす。
『対軍/対城破砕ミサイル「射殺す百頭・機神式(ナインライブズ・メクロード)」、攻撃開始』

その一声にて、100発の中型ミサイルが天空に放たれる。
為朝ほどの殲滅力こそなかれど、彼が放った矢によって散り散りとなった戦線を各個撃破するには十分すぎる。

いよいよもって、特異点の戦いは佳境へと至るのだった……。

30人目

「魔王、凶刃に倒るる」

 グランドジオウとゼンカイザー。
平成仮面ライダーと歴代スーパー戦隊の力を宿す二人がかりでも、
バールクスには敵わないのか。

「く、くそ……!」

 膝をつくジオウの前に立ちはだかるバールクス。

「終わりだな。お前たちの戦いも……醜き平成と言う時代も」
「……まずい……!」

 ウォズと交戦中だった承太郎が、ソウゴと介人の危機を察知する。
だが、今からでは間に合わない。

「邪魔はさせないよ」
「チィッ……!!」

 承太郎の行く手を阻むウォズ。だがその声色には、
心なしか憂いが滲んでいるように思えた。

(常磐ソウゴ……これでさよならだ)

【ギンガ!】【アクション!】

 ウォズがビヨンドライバーにギンガミライドウォッチを装填する。

【投影! ファイナリータイム!】

「空条承太郎……星の力を操るのは君だけではない」

【ギンギンギラギラギャラクシー! 宇宙の彼方のファンタジー! 
ウォズギンガファイナリー! ファイナリー!】

 仮面ライダーウォズの最強形態、その名はギンガファイナリー。
宇宙空間をイメージさせるマント「ギンガセイル」を靡かせる。

「ゴチャゴチャと騒がしい事だぜ……」
「それは失敬。だが、すぐに静寂が訪れる。君たちの敗北を以ってね」

「!?」

 ギンガファイナリーの力。それはまさに宇宙を体現する。その能力のひとつとして
指向性の超重力を発生させる事も可能だ。

 それにより、ゼンカイザーや承太郎は一瞬にして身体の自由を奪われてしまった。
まるで全身を見えない力で押さえつけられているようだ。

「う、おおおおおおッ……!?」
「う、動けない……!」

 指一本動かせない状況の中、ウォズは静かに語り出す。

「今です、我が魔王。トドメを」
「よくやった、ウォズ……リボルケインッ!!」

 バールクスが魔王剣・リボルケインの切っ先を2本指でなぞると、
蒼白く輝く光刃が伸びていく。
バールクスはゆっくりと歩み寄りながら、ジオウに言った。

「今までご苦労だった。せめてもの情けとして、痛みを感じる間もなく葬ってやる」
「くっ……うう……!!」

「そ、ソウゴッ……!!」

 バールクスの凶刃が迫る。

「はあああああああああああああああああああああああああッ!!」

 リボルケインによる袈裟斬りがグランドジオウの右肩を捉え、
そのまま左脇腹までを切り裂いた。

「――――……!!!!」

 激しい火花を散らし、その勢いのままに吹っ飛ばされるジオウ。
地面を転げ回りながら変身解除されてしまい、ソウゴは意識を失った。

「ソウゴーーーーーーッ……!!」

 ゼンカイザーの声だけが虚しく響く。
ジクウドライバーは破損し、地面に転がるグランドライドウォッチを
拾い上げるバールクス。

「ふふ、ふふははははははははは……ついに手に入れたぞ、
すべての平成ライダーの力を……!」

 手中に収めたウォッチを握り締め、高らかに笑う。
そして、今度は超重力によって動けない承太郎とゼンカイザーに目を向けた。

「では、貴様らも後を追わせてやろう」

 バールクスはリボルケインを振り上げ、
承太郎とゼンカイザーに向けて振り下ろそうとする。その時。

「あれは……!?」

 悟空や完璧超人たちと同じく、源為朝の宝具がこちらにも届いていたのだ。
天より降り注ぐ、光の矢。

「何者の仕業だ、あれは……?」
「現時点で不明です、我が魔王。しかし、あの攻撃からは凄まじいエネルギーを感じます。
ここに留まっていては危険かと。
グランドライドウォッチは手に入りました、ここは撤退を……」
「ふん、まあ良いか。俺が直接手を下すまでもない。さらばだ、CROSS HEROES。
もう会う事も無いだろう」

 重傷を負ったソウゴを肩に抱きかかえたウォズは、バールクスと共に姿を消した。
超重力から解放された承太郎とゼンカイザーも為朝の攻撃を避けるべく、
その場からすぐさま離れようとする。

「くそっ……いくらスタープラチナの超精密な動きでも
あれを全部撃ち落とすのは無理だ……ここは全力で逃げるしかねえ!」
「ジュラン! ガオーン! マジーヌ! ブルーン!」

「あいつらも上手く逃げ果せるのを祈るしかない! 悟空の奴も無事なのかどうか……
とにかく走れ!!」

「介人ぉぉぉぉぉぉぉぉッ……!!」

 特異点に挑んだCROSS HEROES。しかし、立ちはだかる壁はかくも分厚いものだった。
悟空は生死不明、ソウゴも完全敗北の後にクォーツァーに連れ去られてしまった。
メサイア教団の刺客、源為朝の宝具によって分散を強いられる承太郎、
ゼンカイジャーの面々……果たして彼らの運命は……!?