プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:11

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  • CROSS HEROES reUNION
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1人目

「Prologue」

 バードス島攻略戦に突如として降臨した邪悪なる天使。その名はジェナ・エンジェル。
環いろはと黒江がCROSS HEROESに加入した目的。
神浜市を襲撃し、十咎ももこを誘拐した張本人を前にして怒りの炎を燃やしながら
ジェナの元へ一直線に駆け出していく。

 ジェナの力は想像以上であった。自らを悪魔化させる能力を有し、
いろは達の援護に回ろうとした正義超人集団「正義の五本槍」に使い魔を差し向ける。
ペルフェクタリア、日向月美、環いろは、黒江の4人を一度に相手にしながら、
ジェナは涼しい顔で次々と襲い来る猛攻をかわしてみせる。

 いろは達の行く道を切り拓いた正義の五本槍の前に、強敵オーガマンが出現。
彼は元・超人でありながら安倍晴明が送り込んだ鬼の力に感染し、
この世ならざる存在となっていた。
自らの意志と尊厳を奪われてしまったオーガマンに対し、カナディアンマン達は
悲痛な想いを抱きながらも全力をもって応戦する。

 戦死したブロッケン伯爵に代わり、マジンガーZと激突するあしゅら男爵。
ここで、ある疑問が浮上する。兜甲児は過去にDr.ヘルとブロッケン伯爵を撃退し、
あしゅら男爵はその戦いの果てにヘルを裏切った後、行方をくらませたのだと言う。
何故、Dr.ヘルとブロッケン伯爵は蘇ったのか? 
そしてあしゅら男爵は何故再びDr.ヘルの下に付き従っているのか……
アナザーディケイドが召喚したアナザークウガとウルトラマントリガーの
超古代からの使者同士の対決を背景として語られる物語は続く。

 そして謎の組織「メサイア教団」も刻々と作戦を進行させていた。
リ・ユニオン・スクエアにて爆破された希望ヶ峰学園跡地に彼らの前線基地となる
死滅復元界域トラオムを展開。教団の総統であるカール大帝の次なる狙いは? 
大帝に付き従う男、魅上が目指すものとは?

 取り逃した獲物・ウーロンを追ってバードス島に現れた人造人間セル。
マジンガーとの激闘の果てに撃墜されたあしゅら男爵。
混沌を極めるバードス島攻略作戦もいよいよ大詰めを迎えていた。
追い詰められたDr.ヘルは最大最強の切り札・地獄王ゴードンの起動に動き出す。
そこへ、撃墜されたはずのあしゅら男爵。さらに禍津星穢と行動を共にする
不思議な少女・ブーゲンビリアが現れ、
ついに長らく謎とされてきたDr.ヘルの真実について語り始める。
リ・ユニオン・スクエアにおけるDr.ヘルは確かに兜甲児によって倒され、死亡していた。今ここにいるのは流竜馬たちと同じく別世界からやって来た
並行世界の同一人物であるのだと言う。
あしゅら男爵はその上で真実を知らずにいたDr.ヘルを利用し、
地獄王ゴードンで出撃するこの時を待っていたのだと語った。

 滅びゆくものの運命……あしゅらに傀儡として利用されていたと言う怒りと共に
Dr.ヘルは地獄王ゴードンに乗り込み、ついに地上にその姿を白日のもとに
晒すのであった。

 特異点に突入したCROSS HEROESの派遣部隊は、散り散りとなって
強敵たちと激闘を繰り広げていた。ターレス同様、神精樹の実によって
超パワーアップを果たしたスラッグと戦う悟空。
界王拳さえも通用しないスラッグに対し、悟空は超サイヤ人となって立ち向かう。

 クォーツァーの王、バールクスと平成ライダーの力を継承した仮面ライダージオウ、
45のスーパー戦隊の力を操るゼンカイザー。
ウォズと空条承太郎、星の加護を受けし者同士の対決。
正義超人軍団と完璧・無量大数軍の精鋭達が真っ向からぶつかり合う。

 バールクスに苦戦を強いられるジオウは、グランドライドウォッチを用いて
すべての平成ライダーの力を一度に行使できる究極の姿、グランドジオウへと変身。
歴代ライダー召喚攻撃に加え、そして歴代スーパー戦隊にチェンジした
ゼンカイザーと連携を組み、バールクスに挑むが、その尽くが跳ね返されてしまう。
「平成ライダーとスーパー戦隊の力に意味は無い」その言葉が意味するものとは……?

 バールクスの凶刃がグランドジオウを斬り裂き、ついに常磐ソウゴは
敗北を喫してしまう。
グランドジオウライドウォッチがクォーツァーの王の手に渡ったその時、
メサイア教団からの刺客、源為朝が上空4000mから放った宝具「轟沈・弓張月」が
神精樹周辺で戦っていた者たちの頭上へと降り注ぐ。

 重傷を負ったソウゴはウォズによって連れ去られ、
悟空、正義超人軍団、ゼンカイジャー、承太郎たちは生死不明、或いは散り散りになって
敗走を余儀なくさせられる。CROSS HEROESの運命や如何に? 
神精樹のエネルギーを拠点である「存在しない世界」へと逆流させるメサイア教団、
神精樹の実を回収するグリムリパーら完璧・無量大数軍の別働隊……

 それぞれの勢力が本格的に動き出し、 特異点はさらなる混迷を突き進もうと
していた……

2人目

「臨時インターミッション2」

鋼鉄の巨人が、大地を駆け抜ける。
遍く生命が朽ち果て乾ききった、荒野の如き無味乾燥の世界。
幾多の時間が流れたのか推し量る術も無い退廃ぶりは、その実一時間と掛からず出来上がった荒廃だ。
ここは戦場、数多の巨兵が破れ、散っていった大地(はかば)。
大地を僅かに彩る干乾びたそれ等機械獣達を見もせずに、脇目も振り返らず、巨人はくしゃりと踏みしめる。
そうして憂鬱気味の空模様を見上げ、一迅の風となって、走った。
疾駆の足取りで荒野を踏みしめ、巨人の歩幅が生み出す速度にて疾走する。
30m弱はある巨体から繰り出される歩幅の、なんと大きな事か。
音速の壁を軽々と超え、風を纏って疾風となる。
おぉ見よ、一心不乱に大地を踏みしめ駆け抜ける巨人の様を。
速きこと風の如く、見る者を圧巻させる様を。
「やっべぇよぉーーーっ!」
そりゃそうだ、現在全速力で逃走中である。
最新鋭の科学を用いて作られた鋼鉄の巨人は今、逃げる事に全リソースを注いでいた。
巨人、もといコードネーム『サヘラントロプス』を駆るウーロン。
彼は見た、人造人間セル、彼が完全体への変異を遂げる瞬間を。
嘗て世界を恐慌に陥れ、地球の命を天秤に掛けた破滅と殺戮のゲームを主犯した男の姿を。
ああなれば最早自らの手には負えまいと、彼は自らを連れてきたヘリの着陸先、トゥアハー・デ・ダナンへと逃げ帰っていた。
所謂、敵前逃亡である。
最も、己の持てるリソースを全て使い切り、出来得る限りの戦果を挙げ、そこに叶わぬ相手が現れたことを察して素早く身を引く判断をした者を敵前逃亡者と罵るのならば、それこそ戦術の読めぬ無能の類いの痴れ者であろう。
故にこれは当然の判断であり、咎められるべき事では無い。
あのまま戦いを始めれば敗北するのは自分達だと、誰よりも理解していた故の行動であった。
セルもまた、バードス島の中央で起きた異変に興味が湧き、其方へと赴いた。
その事も合わさって、結果論ではあるが撤退出来た事を、彼は誇りにも思っている。
だからこそ、ダナンを目先にして彼は叫ぶのだ。
「助かったぁーーーっ!!!」
この叫び声を聞く者が居たら、何事かと驚愕する事だろう。
とにかく、彼はこうして難を逃れ、無事な様子であるのだが。
彼の駆るサヘラントロプスに、一つ問題が浮かんでいた。
それは…
「…お、おろろ?」
ダナンの目と鼻の先にまで迫ったサヘラントロプスが、突然、ぐらりと膝を折る。
「でぇやっはあぁぁ!?」
不意に襲い掛かる揺れと墜落感と共に、サヘラントロプスが膝を付く。
そのままバッタリ地に伏せたかと思うと、そのまま口に当たる部位、即ちコクピットがぱっくりと割れ、中からウーロンの顔が現れた。
彼はそこで、ようやく気が付いていた。
「…やべ、壊れたか?」
サヘラントロプスが突如として動かなくなった理由。
そう、これこそが今サヘラントロプスを悩ませている問題、未完成という三文字。
元よりこれは鹵獲品、即ち大なり小なり破損を与えて得た者であり、今回は前者である。
さらに言えば修理は応急物、そこに直立二足歩行等という兵器としては特殊な部類に位置する移動手段だ。
こうなってくると、そもそも最後まで不便なく戦えた事自体が奇跡という物。
そこに全力疾走というトドメを刺したが故に、サヘラントロプスは動かなくなったのだ。
ゆっくりと静まっていくエンジンの駆動音。
力を失ったかの如く消灯するライト。
ここがダナンの目の前なことが、不幸中の幸いだったのだろう。
ともかく、サヘラントロプスは今、ここに完全沈黙を果たしたのだった。
「どうすっかな…これでサボれっかな?」
そんな中で阿呆な事を呟く豚。
そんな独り言を拾う、一人の博士がいた。
「ちょっとウーロン!最近見かけないと思ったらこんな所に居たのね!?」
「ひぃ!?ブルマ!?」
ドラゴンワールドの科学的権威、ブルマ博士その人だった。

「では、以前からブルマ博士とはお知り合いに。」
「あぁ、MSF時代にドラゴンワールドへの傭兵派兵をした際にな。」
倒れ伏す鋼鉄の巨人の周りで喚き周る二人をモニターに移しながら、CICでカズヒラが話す。
「今のダイヤモンド・ドッグズだってそうだ、彼女の協力無しにここまで発展させる事は不可能だったさ。」
MSF、DD、もといカズヒラ達とブルマの縁は深い。
MSF時代からドラゴンワールドに掛けての活動を行う際には、彼女の会社の技術協定を結んだ程である。
MSFが壊滅してからも、DDを立ち上げる際には技術顧問として招来したほどである。
「それで、今回はあの巨人を手土産に、此方でも進めていたワームホール技術で此方に招き入れた訳だ。」
「すっかり便利になりましたね…」
ワームホールという次元の違う技術の話を前に、テスタロッサ大佐はただただ驚嘆の声を上げるのみだった。
「まぁ、まだ不完全な技術だ。ワームホールも、あれも。」
モニターの先で倒れ伏し、ピクリとも動く様子を見せない鋼鉄の巨人。
それを見つめるカズヒラの視線には、何時に無く寂しげなものが感じられた。
「思えば、俺達も不完全なものになってしまった。MSFを滅ぼされた日から。」
それは彼が、かつて同じ場所で共に戦った友だった者を思い起こしているからか。
或いは、かの戦いで命を散らした者達へ、思い馳せているのか。
どちらにせよ、彼の中では未だ整理の付かない事であろう。
あれを作った嘗ての仲間、ヒューイ博士が、裏切りの容疑者等と疑う日が来るとは。
「俺達も、すっかり変わってしまった。」
誰に言うでもなく、一人呟くカズヒラ。
「俺は、少し軽くなったか。」
無くした手足を見つめ、自嘲する様に。
「ボスも、スネークも眼を無くした。」
彼の傍らに立つスネークが、何も言わずに静かに彼の言葉を聞く。
そうして暫しの間を置き、再び口を開いた。
「だからこそ報復する!悪党共に、あの日、俺達のMSFを滅ぼしたスカルフェイスにっ!」
そこには、今までの寡黙な男とは思えない、はっきりとした口調があった。
まるで何かを吹っ切ったかの様に。
「…レッドリボン軍、もとい人造人間達がサイファー、すなわちスカルフェイスと繋がっているのは確かだ。だからこそ申したい。」
そして告げる、その瞳に怒りと復讐の炎を燃やしながら。
「今一度、世界から悪を退ける為に、CROSS HEROESへと協力を申し出たい!」
それは宣言。
今や世界の英雄となった彼らと共に戦う事。
それは彼らの力になる事でもあり、それをもって、己が失った四肢を取り戻す事にもなるだろう。
そう、信じたい。

3人目

「ポイント・ユグドラシル①理性蒸発の少年騎士」


 孫悟空らCROSS HEROESがゼンカイジャーのサポートメカ
「セッちゃん」の力を借りて特異点へと突入した頃……
人理継続保障機関フィニス・カルデアもまた、特異点修復のために
二度目のレイシフトを決行していた。

 宇宙空間にまでその枝葉を伸ばす完成型神精樹の侵攻を防ぐため、
カルナ、イシュタル、静謐のハサン、モードレッド、フラン、アルクェイドと言った
英霊たちが限られたリソース内で協力し合い、なんとか防衛ラインを構築することに成功。
想定外の奮闘ぶりを見せた彼らだったが、それでもやはり戦力不足は否めず、
苦戦を強いられていた。

「カルナ達は実に良くやってくれている……
藤丸くん達も特異点へのレイシフトに成功したようだ」
『こちら、藤丸! ダ・ヴィンチちゃん、聞こえますか?』

 通信機から聞こえてくる立香の声に、レオナルド・ダ・ヴィンチは微笑を浮かべる。

「ああ、聞こえてるよ。そちらの様子はどうだい?」

 現在、藤丸とマシュを含めた一行は特異点に存在する神精樹を伐採するために、
まずは神精樹の元までたどり着く必要があった。
そのために、彼らは神精樹を守護する存在と戦うことになるだろうと考えていたのだが……

「ポイント・ユグドラシルからはかなり離れた座標軸に飛ばされたみたいだね」

 神精樹の根源である特異点の中心まではまだまだ距離がある。
ポイント・ユグドラシルとは、神精樹と言う真名を知らないカルデアが
暫定的に付けた名前だった。

 ユグドラシル。それは北欧神話において世界を支える大樹であり、
神々の世界アースガルドにも通じるとされている。それになぞらえて
名付けられたこの巨大な樹木こそが、今まさに人類史を飲み込まんとしている脅威で
あった。その様は、世に災厄をもたらす「許されざる世界樹」とも呼べるかも知れない。

『ポイント・ユグドラシル周辺には、正体不明の敵性体が数多く確認されている。
そのために、藤丸くんたちは目的地から少し距離を置いた場所に転移してもらったのさ』
「確かに……突然奇襲を仕掛けられたらひとたまりもありませんからね……」

 マシュは周囲に視線を配りながら呟く。
神精樹によって生み出された怪物たちの姿はまだ見えない。
だが、それも時間の問題であろうことは明白だった。
何せ、先ほどから絶え間なく爆発音が響いているのだ。
恐らく、今もなお激戦が繰り広げられていることだろう。

 しかし、カルデアの面々はまだ知らない。そこにリ・ユニオン・スクエアから
やって来たCROSS HEROESの面々も含まれていると言うことを……。

「それにしても、でっかい樹だな~。枝の上でお昼寝するにはちょうど良さそうだ」

 そんな緊張感のない発言をしたのは、桃色の髪の少女……然とした少年騎士。
イングランドの王子にしてシャルルマーニュ十二勇士がひとり、アストルフォである。
彼は今、クラス:ライダーの騎乗スキルにて
この世ならざる幻馬「ヒポグリフ」に跨がり、
空から特異点の様子を偵察していた。
馬の脚と鷲の上半身と翼を併せ持ち、天を自在に駆け巡るヒポグリフは
その姿を消滅させる事であらゆる観測に引っかからない隠密行動を可能とする。

「おんや……?」

 アストルフォはヒポグリフの背中から目を凝らして神精樹の枝を見つめる。
するとそこには、神精樹の実を回収しているグリムリパーら完璧・無量大数軍の
別働隊の姿があった。

「果物! 何か美味しそう……じゃなかった、マスターに知らせなくっちゃ……
えーと、えーと……」

「先輩、偵察中のアストルフォさんから報告がありました!」

 マシュは立香に向かって叫ぶように言う。

「で、内容は!?」
「おいしそうな果物が成っている、だそうです……」


「………」
「………」


 アストルフォは逸話に置いて度々「理性が蒸発している」と評される。
能天気にして楽天家、うっかり者と言うにはあまりに自由すぎる性格。
そんな彼の言葉は時に、真実を言っているのか冗談なのか判別出来ないことがある。
そのため、マシュは困惑した表情を浮かべていた。
一方の立香はと言えば、呆れたような苦笑を浮かべている。

「よし、報告おわりっ! えへへ、ボク、マスターの役に立ったぞぅ!!」

 完璧超人や神精樹の実と言った肝心な事は何ひとつ話していないが、
それでも偵察任務をやり遂げた満足感に浸るアストルフォであった。

4人目

「敗北の幻想」

特異点の上空、見渡せる位置の山より男が様子を見ていた。
黒いコート、金色の髪と口ひげ。ルクソードだ。
その表情はどこか憂いがある。

「___光は予想通り敗北せり、か。」

もちろん、彼には未来予知の能力はないし千里眼のスキルは持っていない。
しかし、直接この惨状を見てしまえば大体どうなっているかが分かる。

悪の陣営は第3勢力かそれ以外の災厄に襲われ撤退。
しかし一番被害をこうむった善の陣営は、敗走と言ったところか。
被害状況的に言えば、CROSS HEROESの敗北と言える。

そして、抑止の守護者である彼がこの様子を見て厭な表情をしないわけがない。


ルクソードは、かつての戦いを覚えている。

___7つの光と13の闇の衝突。
初戦は闇が勝利した。
あの時の光の勇者、ソラの慟哭を彼は忘れていない。

それでも彼らは最後まであきらめず絶望を前にしても屈さなかった。

最後には、めざめの力を行使し敗北の歴史をもねじ曲げ闇を打ち破ったのだ。
___その代償も大きく、間違った方向に力を行使したソラは世界から追放されたがそれはまた別の話。


「だが、今回ばかりはその光に賭けた。掛け金は取り返す。」


夜明け。しかし空は薄気味が悪い曇天。
光も闇も敗走。しかし光は痛手を負った。

周囲の森も、芥志木の暗躍によりエネルギーが逆流したことで次第に枯れていく。
放っておいても、神精樹は枯れてしまうだろう。

両陣営得しない、胸糞の悪い展開を天候が示している。

そんな特異点"跡地"を、黒い守護者___エミヤ・オルタが歩いている。
手に握るのは二丁拳銃、その目的は残党狩り。

「ふん、CROSS HEROESが聞いてあきれるな。」

為朝の矢を受け、路傍に倒れる悟空。
それを見下すように見る男、エミヤ・オルタ。

「うぅ……」

未だ消えぬ矢の痛みか、予期せぬ敗北の苦痛か。苦しみの表情を浮かべる。

「そこで虫けらのように野垂れ死ぬのは嫌だろう?生きてても不条理に打ちのめされ絶望するだけだ。介錯してやる。」

そう言って二丁拳銃「干将・莫邪」のうち一つの銃口を悟空の脳天に目がける。
その表情に嗜虐心はない。
機械の如き冷徹さ。善意を嗤う鉄の心。

「一撃で楽にしてやる。___死ね。」

嘲笑を込めた笑みと共にぎりぎりと、引鉄と銃身の鉄が擦れる音が響く。
幾ら歴戦の戦士たる孫悟空とて、ジェット機で救援でも来ない限り助からない。

と、その時だった。

「この男はまだ死なせるわけにはいかないからな。」
そう言って、黒い闇の中からルクソードが現れる。
その手には彼の武器でもあるカードが数枚握られている。

「……助けに来たつもりか?」
「そうだ。この男はまだ生きてもらわないと困るんだ。それに、死体蹴りなんて行為はしたくないだろ?」
「ひどい言い方だな。これは介錯だ。」

2人は、お互いに虫の息の悟空を譲らない。
有限な時間はいつまでも待ってはくれない。

と、拮抗した状況に一声が響く。

「悪いな黒いの。ここで倒れてもらうぜ!」

瞬間、幻想の剣が放たれる。

光。曇天を貫くほどの、まるで気持ちのいい朝日が訪れたような。
悪を滅し、正義を癒す加護の光。

「悟空、だったか。ただでさえカッコいいお前のことだ、まだカッコよくなれるはずだぜ?ここで倒れている暇はあるのかい?」

さわやかな声と共に、その勇士は現れる。
耀く聖剣を手に、悪しき守護者の前に立ちはだかる。

「貴様……名は何だ!」

その勇士は、高らかに名を宣言する。

「我が名はシャルルマーニュ!勇敢なる戦士、孫悟空を救うため、果てに世界を救うために現れた!」

シャルルマーニュ。
かつて、月の戦いにてカール大帝と激闘を繰り広げ、遂には勝利した者。
幻想の聖騎士でありながら、現実に立ち向かった者。

___皮肉にも、またカール大帝の陣営と戦うことになるとはこの時は露も知らず。

「抑止の守護者、ルクソードよ!貴公に命する!そこに倒れし勇者孫悟空と共に、この場から離れよ!」

撤退命令。
これはあくまでも、悟空の命を助けるために。
そして、この後に始まる戦いに彼を巻き込まないようにするために。

「ふ、ふふ。はははははははははは!その死に体の男を救うために、だと?どうせ放っておいても虫の息のそいつは息絶える。もはや救えぬ命だ。」

エミヤオルタの挑発にも屈さず。

「でも救うんだよ。目の前の命を見捨てるなんてダサいことは、俺にはできない。」

「う、う……ぁあ……?」
ボロボロの体を起こし、悟空が目覚める。

「シャルル……マーニュ……?」

そのか細い声と共に、彼は気絶する。
その様子を遠くから見たルクソードが来た。

「騎士よ、この男は間違いなく、リ・ユニオン・スクエアのブルマ博士のところまで送ろう。」

その様子を見て、シャルルマーニュは。

「わかった、ありがとう。」

ルクソードに感謝を伝え、リ・ユニオン・スクエアに運ばれる悟空を見守る。
そして、殺意を向けるエミヤオルタに向き直り、シャルルマーニュは剣を構える。

「____行くぜ、黒いの。あんたはさっき悟空を救えない命と言って侮辱した。それだけは___許さねぇ!」

闘志と正義の心を胸に。幻想の聖騎士は鉄心に立ち向かう。

「ふん。能無しの理想主義者共が、雁首揃えて……!」

5人目

「ポイント・ユグドラシル②王と軍師と墓守と」

「ぷっ……あははははは、流石はアストルフォ殿だ。美味しそうな果物。
うんうん、それは大切な情報だ」
「くだらん……」

 マスターに先んじて特異点入りしていたグループのひとつ。
諸葛孔明と司馬懿。古代中国に名を馳せた智将ふたり。
その2騎が依代にしているのが、ロード・エルメロイ二世と
ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの兄妹だ。
魔術師の名門、エルメロイ家の跡継ぎ候補であったライネスが時計塔出身の魔術師であり
亡き叔父・ケイネスの教え子でもあったウェイバー・ベルベットに
ロード・エルメロイの称号と義兄の立場を与えた。
所謂疑似サーヴァントと言うものだが、孔明も司馬懿も普段は潜在意識に潜み、
メインとなる人格はエルメロイとライネスに委ねられ、
「表」に出て来ることは滅多にない。

「ふぅ……」

 眉間に深々と刻まれる縦ジワ。不機嫌そうに愛用の葉巻を燻らせるエルメロイ。
苦労とストレスに晒され続けた事が窺える。

「この取り留めのないパッチワーク……継ぎ接ぎだらけの世界。
いつぞやの事件を思い出さないかい? 兄上」
「お前がカルデアに召喚されるきっかけになった、あの件か?」

 カルデアがこれまでに辿った冒険の記憶を呼び起こす、特異点で発生した事件。
魔眼蒐集列車にまつわる一連の騒動。

「だが、今回はアレを遥かに超えたデタラメさだ。あまりにも脈絡がない」
「ああ、そうだね。まったく、これではまるで───」

 エルメロイとライネスが言葉を交わしている間にも、
フードを深々と被る墓守の少女・グレイは前線で戦っていた。

「罠だッ!!」

 エルメロイが扇を振るうと、グレイが交戦しているモンスターの頭上に岩石が出現し、
そのまま落下して粉々に砕け割れる。

「ギャッ!?」
「敵は怯んだ。今だ、グレイ!」
「私の魔力ブーストも受け取るが良いさ」

「はい! 師匠、ライネスさん……! はああああああああああああああッ!!」

 ライネスの魔眼が赤く輝くと同時に強化魔術が施され、グレイの身体に力が漲る。
死神の鎌「グリム・リーパー」で敵を切り裂くと、黒い粒子となって消滅した。
アタッカーとサポーターの連携が見事に機能している。

「グギャアアアアアアアッ……」

「やったな」
「はい……!」

 エルメロイの内弟子であるグレイ。彼女もまた、不思議な縁に導かれ、
こうしてエルメロイやライネスと肩を並べていた。

「我々が今まで戦ってきたものとはまるで別の怪物だったな」
「この特異点が手当たり次第に別の世界と接続し、ごちゃ混ぜになっている影響だろうね。
ほら、あれを見てみたまえよ」
「む……?」


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぅッ!!」


 その猛勇、宛ら嵐の如し。
愛馬・ブケファラスに跨り、神速で戦場を駆け抜けるライダー「征服王」イスカンダル。
彼が大剣を一閃させる度に、無数のモンスターたちが吹き飛ばされていく。

「うおおおおおおおおおおおぉーっ!! 疾きこと風の如くゥゥウウッ!!」
 
 彼の雄叫びと共に放たれるのは、強烈な衝撃波。
暴風を纏いしその一撃は、周囲のモンスターたちを一掃する。

「ハッハァァァァーッ! 見渡す限りの敵、敵、敵! 
血沸き肉躍るとはこの事よォオオッ!! 征服と蹂躙! それこそ我が誉れなれば!!」
「相変わらず無茶苦茶な奴め」

「だが、頼もしいではないか。なあ兄上?」
「ふん……まぁ、否定はしない」

 イスカンダルとエルメロイ……いや、ウェイバー。
因縁浅からぬ彼らがこうして共闘していると言う事実も、また得難いものであった。

「凄いです、ライダーさん……!」
「ライダー! 分かっているとは思うが、今はマスターからの魔力供給が断たれてるんだ。
あまり無理をするんじゃないぞ!」

「応ともさァッ!!」
「分かってるのか本当に……」

「なあ、小僧よッ!!」
「?」

「愉しいものだのう、こうして貴様と共に戦えると言うのはッ! 
負ける気がせぬわッ!!」
「……ああ、然り。当然だ」


「アァァァァァラララララララララララァァァァァァァイッ!!」

6人目

「臨時インターミッション3」

「うーん…?」
倒れ伏した鋼鉄の巨人、サヘラントロプスが修理されている傍らで、PCとにらめっこをする女性、ブルマ。
彼女の見つめる先には"常人であれば難解"な文字や数字の羅列、所謂コードが幾多にも陳列されている。
そのPCのコードケーブルが伸びる先は、サヘラントロプスのコクピットから覗く制御盤であった。
「これが、こうで…」
無論、彼女が唸っているのは理解が及んでいないからではない。
かの天才ブルマ博士であれば、この程度のコードを読み解くことなど朝飯前であり、最早手馴れた物である。
_カタコトッ、タン。
慣れた手つきでキーボードに指を滑らせ、コードを入力するブルマ。
直後にサヘラントロプスのシステムが立ち上がり、機体ステータスを表示させてみせた。
「おぉ~、やるじゃねぇか!」
「当ったり前よ!私を誰だと思ってるの?」
画面から眼を逸らさず、さぞ当然の様に言ってのけるブルマ。
そんな彼女とつい先程までやいのやいのと不毛なやり取りをしていたウーロンは、PCに立ち上がったステータスを見て、うへぇと怪訝な表情で呟いた。
「何だか良く分かんねぇけど、あちこち真っ赤だな。こんな状態で戦ってたのか俺…」
真っ先に映ったのはサヘラントロプスの各部位のダメージレベル。
細かい表記こそ分からぬが、どこもかしこも破損だらけでエラーを吐いている事実が、ウーロンを静かな恐怖に染め上げていく。
「ホント、良くここまで持ったわね。戦えたこと自体が奇跡みたいなものよ。あんた、付いてるわねぇ。」
おまけに解読出来ているであろうブルマからの後押しだ。
まさに薄氷の上で成り立っていたのだろう、このサヘラントロプスというガラスの靴は。
壊れたのが味方の目と鼻の先で、本当に幸いだった。
そう思わざるを得ない。
「ところで、これって直るのか?見た感じ、どう見てもヤバそうなんだが…」
恐る恐る聞いてみるウーロン。
そもそもこの現状は、自分が乗ったが為に無理をさせたせいでもあるのだ。
これからまた乗らされるかもしれない、得体の知れない機体の異常さを見て、不安を覚えるのも仕方のない事である。
「確かに、普通の科学者じゃまともに動かすまで持って行くのも難しいわね。」
そしてウーロンの言葉に困った様に頬を掻いて苦笑するブルマ。
「駆動にも特殊な機構を使っているみたいね。微生物、かしら?」
加えて、この機体は"本来有り得ない事を可能にしている"節があった。
現に、動力炉の出力調整や脚部・腕部のロック解除に至るまで、あらゆる面で詳細不明の微生物、もとい極限環境微生物(メタリックアーキア)が使われている。
最新鋭と言えば聞こえの良く、悪く言えば調整の難しい機構が、彼女を悩ませていた。
「おいおい、大丈夫か?」
そんな様子に、ウーロンが少しの焦燥に駆られながら問う。
だが。
「私を誰だと思ってるの?Drブルマよ!」
彼女はドラゴンワールドの科学者なのだ。
天才的な頭脳を持つ博士であり、同時にメカニック。
そんな自負があるからこそ、ブルマは不敵な笑みを浮かべて言い放つのだ。
「任せなさいよ!私の手に掛かれば、直るどころかバージョンアップよ!」
直立二足歩行、膨大な関節、高度なメンテナンス?
そんなもの、全ては彼女の前では些末な障害に過ぎない。
最新鋭兵器ドンと来い、自らの手でそれを上回って見せようぞ。
つまるところ、その辺の小細工は天才的頭脳を以てすれば、ちょちょいのちょいで何とか出来るのである。
「なぁんだい、驚かせやがって!」
それを見越してか、ウーロンはブルマの自信満々な言葉を聞き、安心した様に胸を撫で下ろした。
「でもちょっと問題が一つあるのよね…」
直後、ブルマの呟きに眉根を寄せるウーロン。
問題とは何だ?と聞くより先に、彼女が口を開く。
「この微生物?が全体的に欠けているみたいでね、それで荷重に耐えきれなくなって倒れたのよ。微生物のデータさえあれば培養して増やせるんだけど、今から解析じゃ時間が掛かるわね…」
詰まる所、サヘラントロプスは微生物無しで動かす事が出来ない。
その為、この機体の損傷具合をどうにかするには、外部から新たな微生物を補充する必要があるという事だ。
しかし、それは非常に手間のかかる作業である。
何しろ未知の微生物だ、どんな特性があるかも分からない。
だが少なくとも、この機体の如何を左右するに等しい力があるのは確かだ。
最悪、下手を打てば培養土ごと自滅してしまう可能性すらある。
そう言った意味も込めて、ブルマは困った様に肩をすくめて見せた。
「ブルマ博士とお見受けする。」
そんな時だった、二人に声が掛かったのは。
二人が振り向くと、そこにはオセロットが書類を持ち合わせて来ていた。
「あら貴方は…確かダイヤモンド・ドッグズの。」
「あぁ、裏方をやっている。必要な限りの協力の為に、サヘラントロプスに関するデータを持ってきた。」
そう言ってオセロットが手渡したのは、数十枚の資料。
そこに書かれていたのは、サヘラントロプスに関しての簡単なデータだ。
機体スペックから始まり、これまでの戦闘履歴、破損部位の写真等など。
そして、それらの情報はブルマにとって喉から手が出る程欲しいものだった。
「ありがとう、後は微生物をどうにかすれば良いんだけど…」
手間が省けたと言わんばかりに、微生物の解析に掛かろうとした時、ふと一枚の書類が眼に入る。
「あら、これは…?」
「おっと、これは"バッファローマンが髑髏部隊から得た微生物のデータ"だな、間違えて持ってきたようだ。」
うっかり取り違えたと、静かに引っ込めようとするオセロット。
だが、既にブルマはその書類の内容を目にして、待ったをかける。
「これよこれ!今一番欲しいデータよ!」
「そうなのか?」
「何でもコイツ、微生物で動いてるんだとよ。」
「成程、道理で強い訳だ。油圧で動いてる様な物だったのか。」
ウーロンがサヘラントロプスを親指で差すのを見て、髑髏部隊の強さに納得がいったようだった。
それはそうだ、これほどの機体を動かす謎の微生物、言わば天然の油圧機構だ。
そんな物を人間に適応出来れば、見事な強化兵士の出来上がりだろう。
正体が何にせよ、兵器として運用可能なレベルにある事だけは確かなのだ。
それが分かっただけで十分。
そして次の瞬間、ブルマは書類と実物の解析を始めていた。
顕微鏡越しに見る微生物は、まるで砂粒の様な小さな粒子だ。
「…ちょっと、これまさか!?」
そして彼女は、微生物の"性質"に気付いた。
気付いて、それが何を意味するのか、何に転用出来るかを理解してしまった。
思わずブルマは顔を上げ、驚きの声を上げる。
そんな彼女に対し、二人は不思議そうな表情で視線を向ける。
「どうしたんだ?」
「どうもこうも無いわよ!?とんでもないものよこれ!」
彼女が指差す"少量の微生物"を、彼女はまるで爆弾でも見るかの様に驚愕の瞳で見つめていた。
この微生物は、ただの微生物ではない。
極めて特異な性質を持つ、メタリックアーキアの変異種。
その性質とは。
「これ、装甲の"劣化ウラン"を濃縮して巨大な"核爆弾"になるわよ!?」
_核兵器となる微生物だったのだ。

7人目

「最後の戦い、ゴードンVSセルVSCROSS HEROES 開戦」

一方その頃、穢達もいなくなり、地下にはあしゅら男爵たった一人
「今回ばかりは助けてくれて感謝するぞ滅びの現象を起こす者達よ……
だがしかし、貴様らの野望は永遠に叶わぬ。
いや、貴様らだけではない……我々を裏切ろうとしているリンボに、そのリンボと手を組もうとしているジェナ・エンジェル一味、クォーツァーとアマルガムに最近活動が活発化しているメサイア教団、そして完璧超人共にかつてミケーネと敵対関係であったジークジオン…!その他我らの知らぬ多く者達……この儀式さえ完了すれば貴様らの野望は永遠に叶わぬことになる……なぜならば、全ての世界は我々ミケーネ神のものとなるのだからな…!」
他に誰も居ない中で独り言を呟くあしゅら男爵の前に、下半身が虎の男が現れる。
「あしゅらよ、儀式の準備は全て整った。あとはCROSS HEROES共がDr.ヘルを殺しさえすれば、儀式を始めることができる」
「感謝するぞ、ゴーゴン大公よ…!」



一方地上ではDr.ヘルが乗る地獄王ゴードンが現れた。
「地獄王ゴードン…!」
「前回の戦いでDr.ヘルが使った最凶最悪の機械獣…!」
「そんなに強いのか?」
「あぁ、前回はマジンガー軍団の中に隠していたロケットパンチを全部ぶつけてなんとか倒せたが……流石に今回ばかりは同じ方法は使えないぞ……」
『待っておったぞ兜甲児!そしてCROSS HEROESよ!』
「その声は…!間違いない!今回も乗っているんだなDr.ヘル!」
「あれの中にDr.ヘルが!?」
「どうやら親玉が直々に出てきたようだな」
「Dr.ヘル!あの後どうやって生き残ったか知らないが、今日こそ決着をつけてやる!」
『まぁ待て、その前に貴様らに話がある』
「話だと?」
『……兜甲児、流竜馬、そしてマナカ・ケンゴよ。ワシの仲間になれ』
「なに!?」
「どういう風の吹き回しだ!?」
『……貴様らも知っているだろう、滅びの現象を起こす者達のことを……』
「それって…!」
「……禍津星のことか……」
『そのとおり、やつらの存在はワシにとっても邪魔な存在……そんなやつらを倒すために、光の力が必要なのだ』
「光の力…?」
『やつらの力と対をなす力であり、多くの世界の神々が恐れる力だ。貴様らの知る光子力やゲッター線、エタニティコアといった超エネルギーは全てこれに当てはまると言っても過言ではない…!』
(神が恐れる力か……俺が戦った神のやつらがゲッター線にビビってたのはその光の力とかいうのだったからか…!)
「……なるほどな、それで俺たちをスカウトしようってことかよ」
『そのとおりだ。光の力を持つお前達がワシと手を組めば、やつらに勝てる可能性がある。だから……』
「断る!」
『なんだと!?』
『僕たちの力は、皆を守るための力だ!
それをあなたみたいな人に渡すわけにはいかない!』
『クッ…!ならば、力ずくで奪うまで!
喰らえ!サイクロンファイ…!』
地獄王ゴードンが攻撃をしようとした次の瞬間、突如としてどこからか数発の気弾がゴードンに直撃する。
『っ!?な、なんじゃあ!?』
「なるほど……中々に良さそうな力を持ってるじゃないか……」
気弾を飛ばしてきた人物、それはセルだった。

8人目

「地獄王ゴードンvsセル、衝撃の嵐!」

混迷を極めたバードス島もいよいよ頂上決戦を迎えていた。
Drヘル自らが地獄王ゴードンとなって姿を現したのだ。
いざ決戦始まらんとしたその時、最中に飛び込んできたのは、完全体となった人造人間セルであった。
「クックック…お揃いでどうも、そしてお初にお目に掛かる…」
不敵な笑みを浮かべ、紳士的な口調とは裏腹に醜悪な声色に満ちており、眼光はギラリと鋭く輝いている。
「私が人造人間セルだ。最も、久しい顔ぶれもいるようだがな…」
その迫力たるや、鬼気迫るものがある。
セルの姿を目の当たりにした者の多くは驚きを隠せなかった。
何故なら彼の外見が、嘗て戦った完全体のセルの気そのものと全く同じであったからだ。
即ち、死んだ筈の、殺した筈の人間が、笑みを浮かべて立っているのだ。
それは正に悪夢の再来だった。
あの時の惨劇を再び起こしてはならないと、多くの者が身構える。
しかしセルが次に放った行動は、その決意を揺るがせるものとした。
「ぬぅ!?」
咄嗟に剣を構える地獄王ゴードン、その切っ先には、何時の間にやら蹴りを放っていたセルの姿があった。
即ち、セルの目標は地獄王ゴードンであったのだ。
「ほう?反応できるか。」
「このワシを、Drヘルを、舐めるでないわぁ!」
不意打ち同然の攻撃を、その巨体に見合わぬ運動能力で以て彼は見事に受け流していた。
そして次の瞬間、セルは地獄の業火に包まれる事となる。
「_!」
「これ以上の…邪魔は許さぬ!」
山と見間違うが如き巨脚を大地へと踏み沈め、地下深くよりいでし灼熱の竜巻が、セルを捉えていく。
否、一つではない。
「そして思い知るが良い!地獄王の名の意味を、ワシがDrヘルと呼ばれる所以を!」
立ち上る事3つ、4つ、5つ。
炎の嵐が、セルを、辺り一帯を蹂躙せんとする。
「っ来るぞ!」
甲児の叫びと共に、吹き荒れる地獄の業火。
セルを、CROSS HEROESを諸共に壊滅させんとする、灼熱の息吹。
「吹き荒れろ、ゴードン!サイクロンファイヤー!」
3㎞にもおよぶその巨体から繰り出される業火、否、最早熱線とも言うべき赤き奔流が、セルへと向けて放たれる。
竜巻に囚われたセルはその奔流に飲み込まれ、姿を消し去り…その先にある海が、割れた。
「嘘、だろ…!?」
否、直線状にあった海が蒸発し、一瞬だが海の底が見えたのだ。
その巨体、エネルギー量、決して見掛け倒しの類いではない。
確かな質量を以て、戦場を地獄に染め上げる王として君臨していた。
立ち上る黒煙に染まる暗雲の空、吹き荒れる火の粉の嵐、まさに地獄模様。
…だが。
「…姿を現せ、セル。貴様にはこの程度、挨拶代わりにもならんだろう?」
黒き羽を翻すように揺らしながら、セルは悠然と佇んでいた。
燃え盛る炎の中心にて、まるで己の身など意に介さず、自然現象のように微動だにしないその姿。
「流石にやるではないか、DRヘルよ。今の一撃で私を殺さなかった事を後悔する事になるだろうがな…」
不敵な笑みを浮かべるセルに、誰もが戦慄を覚えずにはいられなかった。
そしてその恐怖は、すぐに現実のものとなる。
_ゴオォォォ!!!
「かぁぁっ!!」
怒り狂った獣のような雄叫びと共に、セルは構える。
直後に吹きすさぶ、気の嵐。
「めぇぇっ!!」
それは先の灼熱にも負けず劣らず、凄まじいエネルギー量を以て。
「はぁぁっ!!!」
そのエネルギーの全てが、構えられたセルの両手の中に収束されていく。
「めぇぇっ!!!」
そして、構えが変わる。
即ち、蓄えられたエネルギーが指向性を持って放たれる合図だ。
「波ァァァーーーっ!!!」
撃ち出されたパーフェックトかめはめ波。
その気の奔流が今、地獄王ゴードンただ1人へと向かって伸びていく。
地獄王ゴードンの腕力を以ってしても、受け止めきれない程の衝撃を伴ったそれは、見事目標を捉え、着弾する。
_ドォーーーーォン!!!
天を衝くような大爆発が起こり、爆炎が舞い上がる。
それだけでは無い、ゴードンを包み込んだ気の奔流は辺り一帯へとばら撒かれ、光の雨霰を降り注がせる。
砕け散る大地、噴煙する火山、隆起する世界。
その中心で、地獄王ゴードンは煙に包まれていた。
_今ので蒸発したか?
その光景を目の当たりにした者は皆、セルの勝利という文字を胸に抱く。
しかし、そんな希望は絶望によって塗り潰された。
爆風の中から姿を現したのは、無傷のままの地獄王ゴードンであったのだ。
「…ほぅ、傷一つは負わせられると思っていたのだがな?」
Drヘルの完全たる防御力を前にして、セルの技は通用しなかったのだ。
だからこそ彼は、敢えて直撃を受けたのだ。
「このフィンガーバリア、破れるとは思わぬ事だ!」
地獄の業火とて、所詮はかがり火に過ぎない。
セルは、Drヘルの真なる実力を見極めんとしていた。
そして、彼の目論見は成功した。
(成程…これがDrヘルの真の戦闘力と言う訳だな)
セルの予想通り、地獄の王は伊達ではない。
「この私のウォーミングアップに、付き合って貰うぞ…!」
「抜かせ、このワシにこけおどしの技は通用せん!」
剣の切っ先を向け、その巨体を以て突撃するゴードン。
「ぬぅん!」
そして繰り出される真っ向唐竹割りに、流石のセルも回避を迫られる。
だが、回避先に向けられた腕を見て、己の失態をセルは悟る。
「フィンガーショックッ!!」
「ぬぅ…!?」
4つある内の2つから放たれる、雷の一撃。
光速にも達する雷鳴の瞬きに、セルも負けじとバリアで対抗する。
「ぬはははっ!どうする?今なら先の無礼を許し、手を取って仲良くやっていけると思うが?」
確かに、Dr.ヘルの言う事は尤もだ。
だが、それでは意味が無いのだ。
セルが真に求めているものは、支配でも共存でもない。
そう、セルが求めるのは真の闘争。
己を高め、やがて来る"奴等"に勝つ為の…
「でえぇぇぇい!!!」
「ぬぅ!?」
直後、鳴り響く巨大な雷鳴と共に、セルが吹き飛ばされる。
セルはその両腕に攻撃を受けた。
否、正確には、両腕を交差させてガードしていた。
だが、それでも尚、セルを後退させるには十分過ぎる威力だった。
_バキィ!!
鈍く、それでいて大きな音が響き渡る。
それは、セルの表皮が砕け散る音。
彼の腕は、表層だけだが粉微塵に砕け散っていた。
「…誰だ?この一時を邪魔する酔狂な輩は?」
下手人を探さんとするその眼が捉えたのは、山の頂上でレールガンを構える鋼鉄の巨人、サヘラントロプス。
「お前の相手は、この俺だぁ!」
そしてそれを駆る、ウーロンであった。
(ホントは戦いたくねぇけどよ!)

9人目

「完璧なる人造人間と破滅を望む天夜叉」

「ふん、雑魚は雑魚らしく物陰にでも隠れて震えていれば、
もう少しは長生きできたものを。貴様のそれは勇気とは呼べんぞ。
無謀と勇気を履き違えた者から早死にする。
どうれ、ジンジャータウンでの借りを返させてもらおうか!」

 セルが標的をウーロンに定め、一直線に向かってくる。

「ひ、ひええええええ~ッ!! やっぱりやめときゃ良かったかも~!!」

 ウーロンの想定外の快進撃も、ここまでか……と思われたその時。

「はあああああああああああああああああッ!!」

 セルの側面から放たれる気弾。

「むうッ……」

 すぐさま手刀で弾き飛ばす。それを放った主は……

「ピ、ピッコロォ!!」
「そいつは今回の殊勲賞だ。黙って貴様に殺らせるわけにはいかんな……」

 ウーロンの窮地を救ったのは、ピッコロであった。

「フン、ピッコロか……随分と腕を上げたようだな。セルゲームの時とは別人のようだ」
「貴様がくたばっている間、俺がただ何もせずに過ごしていたとでも思ったか。
そっちは相変わらず嫌な状況で出てきやがる所は変わっていないようで、辟易とするぜ」

「Dr.ヘルの取り巻きとの戦いで消耗しているようだが、
そのザマで私を止められるかね?」
「チッ……そこまで分かっていて、つくづく嫌な野郎だ」

(ピッコロも疲れちまってる……俺だって、俺だって少しは役に立たねぇと……!)

 セルと対峙するピッコロとウーロン。この組み合わせを誰が予想できたであろう。
最終局面が近づいている……・

 セル、そして地獄王ゴードンの出現。
バードス島を舞台とした戦いも、佳境を迎えようとしていた。
そしてその最中、ドンキホーテ・ドフラミンゴは興奮気味に語り出す。

「フフフフフフ……楽しいなァ、麦わら! 見ろよ、この惨状! この混沌!
海賊だ、海軍だ、七武海だ……そう言って互いにいがみ合っていた
俺たちの世界の外に出てみれば、それ以上の地獄があったとは! 
そうとも、ここは現世の地獄さ!」

 ドフラミンゴとルフィの激しい戦いは続いていた。
思えば生まれ落ちた世界を同じくしながら次元の壁を飛び越え、属する組織を違えた2人。
CROSS HEROESとDr.ヘル陣営。
その頂上決戦において、両者は共に最も苛烈な戦闘を繰り広げていた。

 その言葉が示す通り、彼らは今、地獄の中にいる。
永遠に終わる事の無い戦いの坩堝に飲み込まれようとしている。

「なぁ、わかるか? 麦わら。俺たちは今、新世界にいるんだ。
手に追えねェうねりと共に次々と湧いて現れる豪傑共による”新時代”がやって来るのさ!! フフフフフフ! お前らを片付けた後は、この新世界を俺の手に収めるのも悪かねェ!」

「そうやってお前は何もかもを自分の手の中に押し込めちまうのか!? 
それが本当の自由か? そんなもん、俺は認めねェぞ!!」
「俺はこの世界の王になる。王になるために生まれて来た男だからなァ!!
そしてお前らみたいなゴミは、俺に支配されるために生まれてきたわけだ!!
こんな風になァ!!」

 そう叫ぶと同時に、ドフラミンゴはイトイトの実の能力で身体から糸を発し、
既に朽ち果てた鬼たちの死骸に絡みつける。

「”寄生糸(パラサイト)”!!」

 操り人形のように鬼たちを糸で動かし、武器として利用しようというのだ。

「フッフッフッ! あちらこちらに転がってるな。これならいくらでも戦えるぜ! 
さあ、もっと楽しもうじゃないか!」
「お前ェ……!」

 既に意志のない屍たちとはいえ、ドフラミンゴの道具同然に扱われる姿に、
ルフィは怒りを覚える。
四方八方から迫る攻撃を必死にかわし続けるルフィだったが、
遂に1体の鬼が放った棍棒の一撃を受けてしまう。

「ぐあっ!」

 間髪入れず、他の鬼たちも襲い掛かる。

「ゴムゴムのぉ……!」

 反撃すべく拳を振り上げるが、そこへまた別の方向から攻撃が来る。

「!?」
「おおおおおおおおおおおおおッ!!」

 ルフィの窮地に、背部のウイングを展開したバーサル騎士ガンダムが
空を滑空しながらドフラミンゴの操り糸を切り裂く。

「………」

糸の支配から解き放たれた鬼たちは、そのまま地面に落下していった。

「騎士ガンダム……悪ィ、助かった!」
「フッフッフ……お前も別の世界からやって来たクチだな」

「ドンキホーテ・ドフラミンゴ……ルフィ殿の世界で悪事の数々を働いていたと
聞いている。騎士として、断じて見過ごす訳にはいかない!」
「なァるほど……お前も正義だ、悪だと、そんなクソの役にも立たねェ価値観で
動いているようだな。いいか? そんなもんはな、頂点に立った者の指先ひとつで
いくらでもひっくり返るんだよ」

「ならば尚の事、私はお前を止めねばならない!」
「やれやれ、馬鹿は死ななきゃ直らねェか。だったら、思い知らせてやるよ!
この俺の、圧倒的な”力”って奴をなァ!!」

「ドフラミンゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

10人目

「秘密兵器発動、打倒セル!」

「はぁーーーっ!!!」
打ち乱れぶつかり合う気弾と銃弾の嵐、その渦中で衝突する人間と巨人。
ピッコロとウーロン対セルの戦闘劇は、尚一層の激しさを増していた。
「どうしたぁ!消耗した俺じゃ止められないんじゃなかったのかぁ!?」
「貴様の後ろにいる巨人が鬱陶しい…!」
地鳴りの如き轟音を掻き鳴らして銃弾を撃ち込んでくるサヘラントロプス。
重戦車をも貫通し破壊しつくす暴虐の嵐を前に、二の足を踏むセル。
そこにピッコロが自身の身を顧みぬ怒涛の攻めを打ち込んでくる。
速い。
音をも置き去り、残像すら残さぬ素早さは、最早亜光速にも達する勢いだ。
「消耗したと言えど、スピードは更に増したようだな!」
「貴様が完全なら俺は無限だ!進化の袋小路に入った虫ケラめぇ!」
「貴様、言わせておけばぁ!!」
口舌戦と共に繰り広げられる殴り合い。
拳で語り合うとはまさにこの事だろう。
そしてそこに横槍を入れるかのように、ウーロンの放った銃弾が飛来する。
二人の会話中にも間断なく撃ち込まれてくる銃弾を、ピッコロとセルは左右に分かれて回避する。
瞬間、巨人の背部から火を噴くVLSが、セル目掛けて殺到する。
無論、ただ食らってやるつもりも無く、次々に撃ち落とされるミサイル。
だがそこで生まれた一瞬の隙を突いて、ピッコロは再びセルに追いすがりラッシュを仕掛ける。
その猛攻に一瞬たじろぐセルであったが、そこは戦闘のプロである。
即座に体勢を立て直すと、ピッコロの攻撃を捌きつつカウンター気味に掌底を放つ。
それを辛うじて避けつつ距離を取るピッコロ。
そこに追撃の回し蹴りを叩き込もうとするセルだったが、次の瞬間足元の大地が大きく割れた。
地中からの狙撃。
何時の間にやら崖下に移動していた巨人の、壁越しレールガンだ。
一筋の光となって飛来する砲弾が、セルを捉える。
だが、だがしかし、当たらない。
思考を止めない、移動を止めない、決して気を緩めない
されど辛うじて躱したソレに気取られた事実が、ピッコロに攻めのチャンスを作らせた。
死角から放たれたのは、魔気を練り上げ撃ち出される必殺の一撃、激烈光弾。
それは吸い込まれるようにセルへと直撃…しない。
僅かに身を沈め、辛うじて、紙一重の差で回避する。
だがしかし、片腕の半分は持って行かれた。
端から見れば重症のそれは、セルにとっては捨て置く程度の損傷。
けれど。
「貴様も、ピッコロも、つくづく私の想定を上回ってくれるな…」
淡々と答えるセルの声色は、決して愉快な物では無い。
寧ろ全くの逆、憎悪とも言うべき怒りを孕んだ声だった。
(…掛かった!)
その様子に、ウーロンは内心でほくそ笑む。
それは、自分の思い通りになっていると言う確信と優越感が混ざった様な感情だ。
ウーロンにとってはこの程度の挑発など日常茶飯事、相手が激高すればする程、自分が有利になる事も知っていた。
そして目の前の男にとって、自分の命と同じ位に大切な闘争が奪われることが、何よりも激昂させる手段だと言う事も。
ウーロンの思う通り、今の彼は冷静さを完全に欠いている。
彼の頭の中にあるのは、たった一つ。
自身のプライドを傷つけられた事に対する憤怒、即ち怒りだ。
「テメェーの相手なんざ、俺等で十分だ!」
「調子に乗りおって、そんな玩具に乗って血迷ったか!!」
セルもただやられるだけではない。
彼は舞空術を駆使し、一瞬にして空高く舞い上がり、一瞬の内にサヘラントロプスの懐へと飛び込む。
「狙いが丸見えだぁい!」
だが、先述の通り、来ると分かれば怖い物では無い
その怒りが判断を狂わせ、セルの攻撃の軌道を的確に見抜かせていた。
一瞬の内に交差するのは、拳と剣。
まさに居合の一撃。
サヘラントロプスの懐から抜き放たれた、メタリックアーキア製の刀身が、ギリギリと火花を立ててセルへと食い込んでいく。
「何とっ!?」
己を侵食する未知の感覚を前に、大きく距離を取るセル。
「隙だらけだぁ!」
だがそれすらも予測していたのか、間髪入れずにピッコロの魔貫光殺砲が迫り来る。
紙一重でそれを躱そうとした瞬間、突如として謎の感覚が襲い掛かる。
「ぬ、ぅ…体が、重い…!?」
まるで鉛でも塗り付けられたかのように、全身の動きが鈍くなる。
お陰で肩に食らう羽目になったが、原因がピッコロとは思えない。
であるならば、必然的に原因はあの巨人。
対象の動きを遅くするだけではなく、体全体にかかる重力が増大する様にも感じる謎の力。
(ブルマが言うには指向性波動装置、だったか?それが効いたみたいだな!)
そんな異常に気付いた頃には、既に遅かった。
動揺し、完全に動きの止まった所へ、ウーロンの駆るサヘラントロプス渾身の一撃が炸裂する。
「う”お”ぉぉぉぉぉ!!?」
振り下ろされた巨木の如き剛腕による一撃が、大地を揺るがす轟音と共に、セルを吹き飛ばす。
衝突先の地面を咄嵯を叩き割り、衝撃を逃がす事で致命傷は免れた。
だが、それでも明確にダメージを受けており、体の至る箇所に亀裂が入り、血が稲妻の様に吹き出ていた。
「貴様等ぁーーーーっ!!!」
セルはこの上なく激昂していた。
この世に再誕して初めて深手を負った事。
それがウーロンという腰巾着如きとの戦いの中で生じた事実が、更に彼の苛立ちを募らせていった。
対するウーロンとピッコロは完全に冷静だった。
相手が感情的に動く事を先読みし、敢えて怒らせる挑発を行いながら戦っていたのだ。
その結果、セルはまんまとその策に乗せられてしまった訳だ。
怒りに囚われたセルの猛攻を掻い潜り、ピッコロは魔貫光殺砲の体勢に入る。
そして同時に、姿勢を砲撃モードへと切り替えたサヘラントロプスのレールガンが唸りを上げる。
ピッコロが放った魔気を纏った光弾が、巨人から撃ち出された砲弾が、その射線上に居るセルを捉える。
だが二つの攻撃がセルに当たる事は無い。
容易く身を翻し、回避される。
「馬鹿め、見え透いた攻撃を…」
先程と打って変わり、余りにも分かりやすい攻撃。
普段のセルなら、攻撃の裏の意図をも読んで、ソレに気付いたであろう。
しかし、怒りに我を忘れている今、そんな事に思考を割く余裕は無い。
その一瞬の油断こそが、命取りだった。
瞬間、重なりあう攻撃が生み出した一瞬の閃光。
「なっ」
「「喰らえぇ!」」
弾け散る砲弾、放たれる雷鳴、尚一層迸る閃光。
「炸裂!」
「魔貫光!」
「「殺戮陣!!!」」
重なり合った二つの攻撃は、花火の如く、セルの傍で、弾けて混ざった。
それはさながら、巨大な爆裂魔法の直撃だ。
爆発音が辺りに響き渡り、爆風が砂煙を巻き上げる。
直撃したセルは勿論、周囲一帯をも灰燼に帰する一撃。
「にぃぃーーーっ!!?」
その閃光と暗雲の渦中の中へと、セルの姿は消えていった。

11人目

「幕間:気づかれた秘密」

~存在しなかった世界 元ⅩⅢ機関の城にて~
「シグバール様。バードス島に派遣させました斥候の報告によりますと……」

兵士の一人が、シグバールにバードス島での一戦の報告をしている。
それを、椅子に座り退屈そうに聞いているシグバール本人。

「どうやらその島にて大規模な戦闘が勃発したのこと。そこで用いられている兵器は以下の通り。『地獄王ゴードン』なる兵器はともかく、この『サヘラントロプス』なる兵器はなかなかなものですね。かなり強力で今後実行する対世界間の戦争でも量産すれば通用するものかと。」

メサイア教団は、どうやら集めた兵器を使って複数世界規模の戦争を起こそうとしている。
救済とはかけ離れた戦争という行為。
ここまでくるとまるで、危険なカルト教団だ。

「んで?どこが強いんだこのサヘラントロプスは。俺としてはこの地獄王ゴードンの方が強そうに思えるんだが……。何しろ地獄だぜ?弱いわけないだろってハナシ。」

その声に返すように、淡々と兵士は続ける。

「確かにこの地獄王ゴードンの方も強いのですが、操縦者がDr.ヘルという人物で彼なりの強固な目的があるために懐柔及び同化は難しいかと。」

つまんね、という顔をするシグバールを他所に、兵士はまた続ける。

「話を戻しますと、このサヘラントロプスはどうやら『メタリックアーキア』なる微生物を利用しており、これを入手及び解析、そして我々の方で繁殖さえ成功させればさらに戦力の増加ができるかと。」
「なるほどねぇ……。んでそのアーキアの性能はまだわからないのか?」
「そこまでは、わからないですね。」

 金属を腐食させる種と核爆弾の原料たるウラン235を濃縮する種を持つ、サヘラントロプス。確かに、これを入手し量産さえさせればさらに教団の武力兵力は増大し、大国以上の脅威となりえるだろう。
 人間やサーヴァントを対軍兵器として改造・洗脳させたAWシリーズ、サヘラントロプス、そしてカール大帝のカリスマ性。こんなのが揃ってしまったら世界征服は間違いなく行える。

そう考えたシグバールは悪い笑みを浮かべる。

「今、トラオムはどうなっている?」
「はい。『無名英霊用駐屯地兼"■■"用エネルギー牧場・トラオム』はすでに稼働中で、三界域もすでに構築されております。後は時を待つのみです。」

「じゃあ、俺の出番だな。……俺もバードス島に連れていけ。」
「できますが……それは、つまり。」

にやり、と嗤ったシグバールはおもむろに立ち上がり。

「今からサヘラントロプスを"捕獲"しに行くってハナシだ。」

~リ・ユニオン・スクエア 市街地~
「いよぅ!また会ったな盾子ちゃん!」
2回目の逢瀬というのに、また気さくに話しかける男。アレクサンドル・デュマ。

「お前なぁ……。」

これには、さすがの絶望の具現も頭を抱える。

「なぁに、今日はお前さんにプレゼントがあってだな。ありがたく受け取ってくれよ?」
そう言って、デュマは自分の身長の3分の2はある箱を、盾子に渡す。

「お前さん専用の兵器、完成したぜ。」

12人目

「ポイント・ユグドラシル③皇女と勇者と恋の炎と」

 ポイント・ユグドラシル。立香とマシュが位置する場所とは反対側の地点にて、
一際大きな泥細工の怪物が暴れていた。

「マッドォォォォォォ……!!」

 巨人マッドゴーレム。
ジオン族が伝説の巨人サイコゴーレムを模倣して作り出したものである。
力任せに神精樹の樹海を殴りつける様は、まさに暴力の化身と呼ぶに相応しい。
特異点にはジオン族のモンスターたちも数多く流入していた。

「………!?」

 しかしそんな破壊的な光景の中、その巨体は一瞬で動きを止めてしまう。
理由は簡単だ。突如として現れた氷柱によって、マッドゴーレムの脚を凍結させ、
完全に封じてしまったのだ。

「ヴィィ、すべてを凍てつかせなさい」

 顔のない人形を掲げながら、白き魔女――
アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァがそう呟く。
すると彼女の周りから冷気が溢れ出し、巨大なマッドゴーレムすらも包み込んでしまった。

「マッ……ドォォォォ……」

 氷漬けとなったマッドゴーレムは、そのまま粉々になって崩れ落ちていく。

「次に氷漬けになってバラバラになりたいのは誰?」
「……!!」

 アナスタシアの前髪の裏に潜む冷酷な視線を前にし、
ジオン族の兵たちは恐れおののいた。

「お、恐れるな! 相手は小娘一人だぞ!」
「いや、あの女……魔女だ!! 魔女がいるぞぉぉっ!!」
「魔女めぇぇっ!!」

 ジオン族の兵たちはやぶれかぶれになって一斉に襲いかかってくる。
しかし彼らの攻撃が届く前に、アナスタシアの周囲に大量の氷塊が現れ、
それらすべてが発射される。

「!?」
「撃て」

「ぐぎゃああああああああああーッ……」

 無数の氷弾は正確にジオン兵の身体を貫き、彼らはあっという間に絶命してしまった。

「この森には虫けらしかいないようね」
「悪いモンスターを退治するのが、勇者の役目! とぉりゃ~っ!!」

 寸法の合っていないビキニアーマーを身に纏う少女――
エリザベート・バートリー(ブレイブ)は飾り気の無い剣を振り回す。
逃げるジオン族のモンスターたちを追い回して、気分はRPGの主人公のようだ。

「ほらほら、QP落としなさいよ、QP! イベント礼装でもいいわよ!」
「うわぁぁぁっ!! 何だよQPって!?」
「ひぃぃぃっ!?」

 逃げ惑うジオン兵を次々に斬り捨てていくエリザベート。

「ええええーいッ!!」

 剣を勢いよく振り下ろすと、斬撃波となって敵を薙ぎ払う。

「ぐわああああっ!!」
「ふふん♪ やっぱりアタシってば最強ね!」

 自慢げに胸を張るエリザベートだが、その背後から突然、黒い影が現れる。

「キエエエエエーッ!!」

 怪鳥ガゥーダを駆って空を舞うモンスターレッサーギャプランが襲ってきたのだ。

「ひゃあ!?」

 驚いた表紙に尻もちをつくエリザベート。

「あ痛~っ……」
「もう、お調子に乗るからですよ」

 広げた扇子で口元を隠しながら、着物姿の少女――清姫が嘆息する。
モンスターレッサーギャプランは続けざまに爪を振るってくるが、
清姫はそれを軽々と避けていった。

「ちょこまかと……!!」
「安珍様以外の男などに触れたくないのですけど……仕方ありませんね」

 扇子をパチンと閉じると、清姫の周りに炎が巻き上がる。

「燃やします……しゃああああああああああああああああああッ!!」

 灼熱の業火に包まれた清姫は、モンスターレッサーギャプランに向かって突撃した。

「ギェアァァーッ!!」

 吐瀉物を撒き散らしながら、モンスターレッサーギャプランは墜落していく。

「あら、ごめんあそばせ」
「うぅ……美味しいところを持っていかれたわ……!」

 エリザベートは悔しそうに地団太を踏んでいた。

 カルデアの斥候部隊である彼女たちは、立香たちのいる地点から離れた場所にて、
着実に敵の戦力を削っていたのであった。

「ああ、待っていてくださいましね、安珍様! 
今すぐに私達の恋路を邪魔する者たちを皆殺しにしてみせますから♡」

 バーサーカーである清姫は、想い人であった僧侶・安珍に欺かれ、
裏切られた悲しみと怒りのあまり、蛇に変身してしまうほどに狂ってしまった。
しかし彼女は、安珍への愛を捨てることなく、縁を結んだマスターである立香を
安珍の生まれ変わりと信じて疑わない思い込みの激しいヤンデレヒロインなのである。

13人目

「新たなる人造人間、その名は21号!」

吹き荒れる嵐に雷鳴轟き濛々と黒煙を上げる、科学と魔術の弾丸が交差した爆心地。
その中心で、人の形をした漆黒の塊は、轟々と鳴り響く風の中で、静かに佇んでいた。
顔も見えず輪郭も曖昧な。ただ闇を固めて人型にしただけなシルエット。
それをピッコロは、黙って睨み続ける。
立ち上る煙の向こうに隠れた挙動の一つ、決して見逃さないように。
そうして漸く、音もなく、黒い影が動き出す。
一歩踏み出した足元から、ぐずりと泥沼のように地面に沈んだ。
構わず二歩目を踏み出し、更に沈む。
三歩目を踏めば膝まで沈み込み、四歩目には完全に腰まで沈んだ。
そして五歩目らしき動きを踏み込んだ瞬間_
_ドッ……!!
爆発的な勢いで、影が跳躍する。
それは真っ直ぐ、迷いなく、一直線に飛ぶ漆黒の砲弾となって、ピッコロへと迫り来る。
即ち、襲い掛かってくる。
だが、ニヤリと笑ったピッコロの表情には余裕があった、既に勝利を確信していたからだ。
今まさに眼前に迫った人型の闇。
それが纏う闇からは、力を感じない。
詰まる所、こいつは_
「既に死に体の身体、だろう?セル。」
_黒煙の闇を取り払って、ピッコロに頭を掴まれたセル。
炭化した全身を軋ませながら、忌々しそうに、憎悪の籠った眼差しをしていた。
だがそれも当然のこと、今セルにとって最も屈辱的で憎むべき相手の1人なのだから。
「どうした?もう終わりか?」
頭を掴んだまま持ち上げると、欠けた手足をバタつかせて抵抗してくる。
その度に右へ左へと、肉片だった欠片が飛び散りピッコロの身体へ掛かる。
そんな些細な抵抗すら鬱陶しく感じたピッコロは、無雑作に放り投げた。
_ドスンッ。
弧を描いて地面に落ちたセルの身体から、血飛沫の代わりに灰が舞い上がる。
声は、無かった。
「ククッ、何だ貴様、もう口も利けんのか?まぁ、その身体では再生すらままならんだろう。」
ピッコロが笑い飛ばす先で、セルは既に虫の息であった。
まともな顔も無い胴体に、辛うじて原型を残った四肢。
最早、生きている事の方が不思議なくらいである。
「…しかし妙だな、以前の貴様なら、ここまで功を焦る様な真似はしなかった筈だ。」
それは、ピッコロの本心からの疑問であった。
確かに目の前の男は戦闘を好む性質ではあったが、無駄に戦いを続けようとする程愚かではない。
それに何より、今この場に現れた事が何よりも疑問であった。
一刻も早く強くならねばならなかったかの様な、それほどまでの焦燥を、彼から薄々感じ取ってはいた。
ならばこの戦いは、セルにとって強くなるための賭けだったのかもしれない。
(だとしたらソレは"誰の戦闘力"を想定していたんだ?いや、そもそも…)
「へ、へへ!やったぜぇイェーーーイ!!!」
サヘラントロプスを通して喝采を上げるウーロンを横目に、ピッコロは思案する。
(最初、セルは"アレ"に用があると言っていた。そもそもあれは何だ?)
その問いの答えを得る為には、今此処で全ての謎を明らかにしなければならない。
何故セルはあそこまで強さを求め、今になってこの場所に現れたのか?
あのロボットは、どう見てもカプセルコーポレーション社製の物とは思えない。
正確に言えば作れはするだろうが、明らかにブルマのデザインする様な見た目ではない。
余りにも無骨すぎる、まるで試作機の如く無機質な巨人。
この場において、あの鋼鉄の巨人は余りに不自然な存在だった。
そして何故、セルがソレを狙っているのかも分からない。
ここに来て、いよいよ理解に苦しむ状況に陥ってしまった。
「…致し方あるまい、おいセル!」
徐にセルの黒焦げた四肢へ気弾を撃ち込む。
先程までと違い、炭化した表層を突き破って出てきた四肢の断面からは、鮮血が舞い上がっていた。
「目敏い奴だな、コッソリ回復してたとは。」
「ぐっ…貴様、見抜いた上で…!」
「俺の力だからな。さて、質問に答えてもらう。抵抗は無駄だぞ?」
再度無力化したセルへと気弾を向け、脅しを掛ける。
セルの身体には既に無数の穴が空き、最早身動き一つ取れない状態である。
そんな状態で、ピッコロの尋問は始まった…筈だった。
_ボゴッ、メキィッ!!
鈍い音と共に、突然ピッコロの視界が大きく揺れる。
唐突な衝撃と痛覚の元、視線を下にずらせば、そこには自分の腹部へと突き刺さった脚があった。
そうして漸く、今自分が何をされたのかを理解する。
同時に、自身の視界からセルが遠く離れていく…否、自身がセルから吹き飛ばされたのだ。
だが何故?
既にセルには指一本動かせるだけの力も残っていない筈。
そう思い視界を戻した時には、白衣を着た謎の女性が、己を蹴り飛ばしたであろう姿勢のままで鎮座していた。
奴だ。
気配は無かった、気も感じなかった、思案していたとはいえ、攻撃の前兆さえ読み取れなかった。
その事実が、彼の警戒心を否応無しに跳ね上げさせる。
何とか空中で踏み止まったピッコロ、ソレを見て漸く事の異常さに気付いたウーロン。
2人の困惑を他所に、彼女はゆっくりと口を開く。
「セルはここまでね、御苦労さん。」
その言葉を聞いた瞬間、セルは焦燥に駆られ無くした手足を動かして藻掻きだす。
「あぁぁぁぁぁ!この私が、そんな!!」
ピッコロはそのみっともなく命乞いする様を静かに眺め、ただ静かに睨み付ける。
それは彼女の、その不気味な程の落ち着き払った声色に底知れぬ何かを感じたからだろうか?
或いは、今目の前にいる得体の知れない異様な威圧感故か?
何にせよ、ピッコロの心中は穏やかではなかった。
「貴様、何者だ…?」
「……私?私はDrゲロ。」
「ふざけるな…ッ!」
その答えに激昂するピッコロ。
当然である、セルとの戦いで疲弊しきっている彼に、余裕など一切無いからだ。
だが怒り狂う彼を前にしても尚、Drゲロと名乗る女は一切動揺を見せない。
「冗談よ冗談、私の名は…」
ただ静かに、冷たい眼差しでセルを見つめていた。
そして。
「人造人間21号。」
その名を告げた時、セルに向けてマゼンタ色の光線を指から放ち…
「チ、チクショーーー!!」
絶叫が木霊する中、セルは跡形も無く消え去った。
代わりに残ったのは、一つのお菓子。
余りにも呆気なく、一瞬の出来事であった。
セルを倒した21号は、無言のまま立ち尽くしている。
対するピッコロは、セルが死んだという事実よりも、セルを消したこの女の異常さに戦慄を覚えていた。

14人目

「魔弾の射手、強襲せり」

セルの断末魔が響き、そして消失する。
一瞬の出来事に周囲は困惑し恐怖した。
相当の手練れであるピッコロですら、その威圧感、実力、戦闘力に震える。

「くそ!こうなったらこいつで……!」
ウーロンが21号に攻撃を仕掛けようとした。その時だ。

「悪いなぁ、そのロボットはもらうぜ。」

突如空中に出現した、黒いコートの男。
その風貌は白と黒の入り混じった髪に眼帯と頬の傷が特徴の、飄々とした雰囲気の男、シグバール。

重力とはさかさまに、空に足を向け浮いた状態で攻撃を開始する。
ガンアローと呼ばれる銃型の武器から放たれるひし形の光弾。
光弾はしばらく空を切って飛んでいたが、空中で炸裂する。

ドーム状の結界が広がり、サヘラントロプスが、ウーロンが、ピッコロが、そしてその周囲の人間が結界に飲み込まれていく。

(これは……動けない……!)

意識はあるのに、肉体が全くもって動けなくなる。
サヘラントロプスの周囲が、まるで時間が静止したかのよう……。
或いは、その場の空気が、空間が凍り付いたかのような。

「サヘラントロプスに、その操縦士の……豚?まぁいいか。後は緑の穀物擬き。トンチキな連中だが別にいいか。」

「よし、転送だ。」

周囲を黒い靄が覆う。
___シグバールの能力は空間操作。
物を近くに引き寄せる、自分がいる範囲内の地形を変える、自分だけさかさまに浮くなんてことは造作もない。

そして、結界内部の全ては靄と共にどこかへと転送されていった……。

「あとはブルマ博士とかいう女だな……まぁあいつは他の連中が探しているんだろうが。」

その時、無線が鳴る。
「シグバール様、こちらも、サヘラントロプスに搭載された微生物のデータを持っているであろう人物、ブルマ博士の確保に成功しました。さすがに大きさが大きさなので潜水艦までは鹵獲できませんでしたが……。」
「いや、潜水艦は放っておけ。俺らの目的はあくまでも例のロボットだ。」

と言って無線を切る。その様子を見ていた女が。

「素晴らしい手際ね。」

拍手と共に、一仕事終えたシグバールに喝采を送る。
そして淡々と続ける。

「あなたがメサイア教団の使徒ね?シグバールさん?」
「そうだぜ女。そういうあんたは誰だ?」

魔弾の射手と最新の人造人間。最邪悪の組織と最凶悪の組織が邂逅してしまった。



~そのころ、リ・ユニオン・スクエアの西の都では~
「な、何だこれは!?」

ベジータが散歩から帰ってみたら発生してしまった惨劇。
ラボが煙に包まれ、天井に巨大な穴が開いている。

『アーアー、聞こえますかーどうぞー。』

挑発的な声が煙に包まれるラボの内部に響く。
その主はテーブルの上に置かれた無線機からだった。

『クソザコでかませのクソベジータちゃん?聞こえてますかー?どうぞー?___俺は「クレイヴ」、メサイア教団の特使ですぅ、ヨロシクネー。』
「おい貴様!俺のブルマをどこへやった!?」
『へぇーそんな名前なんだー。ま、お宅がちんたらしている間にお宅の妻とおっさん一人、あと喋る豚1匹とムシケラ1匹と巨大ロボットを誘拐させてもらったぜ。お宅はさぞ悔しいだろーなー。』
「くッ……!」
『なぁに、少なくともお宅が生きている間は殺しやしないぜ。俺はこれでもお宅を尊敬しているんだ。』

まくし立てるように挑発を繰り返すクレイヴ。

『でもな、もしお宅が?変に俺らの意に反することをしたら?ぶっ殺しちゃうかんな~!』

歯ぎしりが止まらず、唇をかみしめ血が噴き出る。
プライドの高いベジータとて、本来こんな小物じみた挑発には乗らない。
しかし、妻であるブルマをさらわれ黙っていられるほどお人よしでもない。

「どこへ連れていく気だ……!」
『おーおーお怒りですかぁ!?じゃあ教えてあげるから取り返しに来いよォ!監禁場所は希望ヶ峰学園跡地改め『トラオム』だぜ。黒い壁が目印ですのでお忘れないように~!では!』
ガチャり、怒りと殺意に震えるベジータを前に、残酷にも静寂が襲う。

また、一波乱始まる。

15人目

「Dr.ヘル、最後の日」

一方その頃
「フン、余計な邪魔者が入ってきたがまぁよい……今度こそ貴様らを倒すとしよう!」
地獄王ゴードンは先程セルに向かって放ったフィンガーショックを今度はCROSS HEROESの方へ放った。
「避けろ!」
CROSS HEROESの面々は地獄王ゴードンから放たれる雷を避ける。
「野郎!ゲッタートマホーク!」
竜馬の乗るゲッターロボはゲッタートマホークを取り出し、ゴードンへ接近
「うぉりゃああああああっ!」
そしてトマホークをゴードンへ向かって思いっきり振り下ろした。
「効かぬわ!」
しかしゴードンのフィンガーバリアによりトマホークは防がれてしまう。
「チッ…!」
「あのバリアをなんとかしなければ、我々の攻撃はやつに通じないぞ」
「なんとかって……どうすりゃいいんだよ!?」
「全員で攻撃すれば破壊できるかもしれないけど……」
そう、全員でなら破壊できる可能性がある……がしかし、一部のメンバーは他の敵との戦闘中で攻撃に参加することができない、つまりは今いるメンバーだけでは破壊することが困難なのである。
「ふん、そろそろトドメを刺すとしよう…!」
「っ!来るぞ!」
地獄王ゴードンが次の攻撃を撃とうとしたその時…!
「っ!?な、なんじゃ!?」
「ご、ゴードンが…!」
「爆発した…!?」
そう、突如としてゴードンの一部が爆発し、バリアが消滅したのである。



ゴードン内部
「こ、こりゃいったいどういうことだ…!?」
ゴードンがなんの前触れもなく突然爆発したことに困惑するDr.ヘル
『フッフッフッ……』
「その声はあしゅら!?まさか貴様が!?」
『そのとおりだDr.ヘル。あなたが別の世界から来た以上、その世界の技術によって地獄王が本来よりもパワーアップしていてもおかしくはない……そう考えた私はスウォルツに頼んでゴードンの中に爆弾を仕込んでおいたのだ』
「スウォルツだと!?まさかやつは最初から貴様の方に…!」
『やつだけではない……晴明やドフラミンゴも最初からこの私の目的を知ってたうえでこちら側に協力してくれたのだ。
……もっとも、いつ裏切ってもおかしくはないリンボにだけはなにも伝えてなかったがな……
……さて、今の爆発でバリアもほとんどの武装も使えなくなった。この状態で勝てるCROSS HEROESに勝てますかね。別の世界のDr.ヘルよ…!』
「お、おのれ…!」



場面は地獄王ゴードンの外
「な、なんだ今のは…!?」
「わからない……だがバリアは消えた!今がチャンスだ!」
そう言い甲児が乗るマジンガーZは地獄王ゴードンに向かって突っ込む。
「ええい!まだじゃ!まだ終わっておらん!」
地獄王ゴードンはまだ動く腕を振り下ろしてマジンガーZを攻撃しようとする。しかし
「させるか!」
「総員!あの腕を撃ち落とせ!」
他のCROSS HEROESが一斉射撃を行い、腕を破壊する。
「くっ…!おのれぇ!」
「Dr.ヘル!今度こそトドメだ!」
甲児がそう言うと、マジンガーZと背中に装着された『ゴッドスクランダー』が変形し、巨大な拳になった。
「っ!?」
(な、なんじゃあの姿は!?)
突然拳に変形したマジンガーZに驚くDr.ヘル、それもそのはず、別の世界からこのDr.ヘルが本来居た世界のマジンガーZには存在していない機能、言ってしまえば彼が知らない武装なのである。
「輝くゼウスの名のもとに!全てを、原子に打ち砕け!
ビィイイイッグバァアアアン!パァアアアアアアアアアンチッ!!」
甲児の叫びと共に黄金になった巨大なロケットパンチが地獄王ゴードンを貫いた。
「ば、馬鹿な……こんな……ウワァアアアアアアアアアアアア!?」
ビッグバンパンチでドデカイ大穴が空いた地獄王ゴードンは中にいるDr.ヘルごと爆散した。

16人目

「忘却の海」
 
 ブロッケン伯爵、Dr.ヘルの駆る地獄王ゴードン、人造人間セル……
死闘の果てにバードス島を巡る強敵たちを撃退する事に成功した
CROSS HEROESであったが、その代償は余りにも大きかった。
仲間達の半数以上が重傷を負い、CROSS HEROESも半壊状態と化していたのだ。

 そして新たなる強敵……人造人間21号、メサイア教団よりの刺客が彼らの前に現れる。さらには……

「やった……!」

 ジェナ・エンジェルと戦闘中であった環いろはたち。
崩壊して行く地獄王ゴードンを目視し、いろはたちは思わず声を上げる。

「フン……将が落ちたようだな」

 ジェナは鼻で笑うようにそう言うと、いろはたちに視線を向ける。

「さて……どうする? まだ続けるか?」

 ジェナは両手を広げながら挑発的な笑みを浮かべていた。

「…………」

 いろはは何も答えず、ただジッとジェナを見つめている。
Dr.ヘルは倒れた。しかし、肝心のジェナ・エンジェルから
十咎ももこの居所を吐かせる事は出来ていない。
その時である。

『ジェナ殿』

 ねっとりとした男の声が響く。アルターエゴ・リンボの念話だ。
遥か遠くの岸壁の先で安倍晴明と共にバードス島の戦いの一部始終を見物していた
リンボが、ジェナに語りかける。

『ジェナ殿、どうやら賊が入り込んだようですぞ?』
「何……?」
『囚われの姫君が奪還されたようでございますれば』

 ジェナの拠点の場所は未だ誰にも知られていない筈だが、そこに侵入し、
あまつさえ拠点にはアスラ・ザ・デッドエンドやウラヌス-No.ζと言った剛の者がいたにも関わらずももこを奪還したとなると……。

(奴か……)

 ジェナは心当たりがあったのか、フッと口元を緩ませる。

「……今日はここまでとしよう」

 ジェナは両手を下げ、背を向けた。

「待って! 十咎さんの居場所を教えてください!!」
「その必要は無い」
「え……!?」


ーー神浜市。

「……あれ?」

 気がつくと、ももこは見慣れた街にいた。

「ここは……」

 キョロキョロと見回すと、そこは確かに自分のよく知る神浜市の街並みだった。

「戻ってきた……?」

 ももこは呆然としながら呟く。

「……ももこ!?」
「ももこちゃん!?」

 背後から声をかけられ振り向くと、
そこには親友の水波レナと秋野かえでの姿が有った。

「アンタ……一体今まで何処に行ってたわけ!?」
「うわぁん!! ももこちゃ~ん!!」

 二人は駆け寄るなり、泣きながら抱きついてきた。

「ちょっ……ちょっと!?」

 ももこは慌てて二人を引き剥がそうとするが、
二人の勢いに押されてたじろぐ。

「変な奴らにさらわれたって言うから心配したんだからね!?」
「うんうん! わたしたちもみんな心配してたんだから!」
「あ、ああ……悪かったよ」

 ももこは申し訳なさそうな表情を浮かべると、「それより……」とももこは
話題を変える。

「あたしがいなくなってから、一体何があったんだ?」

 ももこの問いに、レナとかえでは顔を見合わせると、言いづらそうに口をつぐむ。

「何か……ヤバい事でも起きたのか?」
「……まぁね」
「とにかく、やちよさんたちのところに戻ろう? 
色々と説明しないといけない事があると思うから」

 三人は連れ立って歩き出す。
その姿をビルの屋上から眺める影がある事に誰も気がつかないまま……

「それで良い。貴女は魔法少女としての生を全うする事ね……十咎ももこ」

 その手にはジェナの拠点にいたキュゥべえがボロ雑巾のような姿になって
ブラ下がっていた。

「世界を違えても、貴方たちが行き着く果ては同じだったようね、インキュベーター。
魔法少女のソウルジェムを解析し、円環の理へと至る道標とする」

「ぶぎゅっ」

 放り投げられたキュゥべえは空間ごとねじ切られ、
肉塊と化した後に塵芥となって風にさらわれた。
そして朝焼けの光の中に漆黒の羽根を散らして、暁美ほむらも消えていく。
忘却の魔法でももこの記憶をも失わせて。

 かつて、あの見滝原の少女たちにそうしたように……

ーーバードス島。

「それって、どう言う……!?」
「危ない!」

 ジェナに追い縋ろうと一歩踏み出した瞬間、その行く手を遮るリンボの式神。
それを日向月美の神具「織姫・彦星」が斬り裂く。

「ンンン、月美殿。腕を上げたようですなぁ。これは何より」

 リンボが転移し、ジェナの前に降り立つ。

「ジェナ・エンジェルと手を組んでいたのね……」
「ンフフ、Dr.ヘル殿は倒れましたが、他のお歴々も思うところは
別に有るようでしてねぇ」

「折角拾った命だ。大事にする事だな。これから始まる更なる地獄を味わうためにも……
フフフフ……」
「またお逢いしましょうぞ。生きてこの地を脱せれば、ですが」

 不気味な笑い声と共にジェナとリンボは姿を消した。

「……ッ!」
「……大丈夫!?」

 張り詰めていた気が抜けて、倒れ込むいろはを黒江が支える。

「えぇ……ありがとうございます」
「あの人……本当に強かったね……」

「奴がその気になれば、私たちは今頃殺されていた」

 ペルフェクタリアはジェナの強さを思い出し、苦々しい表情を浮かべている。

「!! いけない、あのロボットが海に倒れ込んで、大きな津波が……!」
(リンボ……あの人が言っていた事って……!)

 地獄王ゴードンが倒れた事で巨大な水柱が立ち昇り、海が荒れ狂っている。

「まずいわね……この辺り一帯が水没するかもしれない」

 その衝撃と海水の流入で、バードス島全体が水底へと沈み行こうとしていた。

「艦長!」
「直ちにCROSS HEROESのメンバーを回収! バードス島海域より緊急離脱します! 
急いで!!」

 荒波は全てを洗い流していく。
裏切りも、妄執も、策謀も、戦いの痕跡も……

 CROSS HEROESの面々は?
そしてDr.ヘルに与していた者たちは……?

17人目

「幕間:邪悪な会合」

荒れ果てた大海原に浮かぶ孤島、そこに響き渡る崩落音、波及する地割れ、立ち昇る水飛沫、暗雲立ち込める空。
轟音を轟かせ、血に乾いた大地が渦潮に呑まれ、永遠の潤いと引き換えに水底へと溶けていく。
人の身では到底抗えぬ巨大な力によって生み出された戦場も、間もなく終焉を迎えようとしている。
ここ、バードス島という頂上決戦の終着駅は、今まさにその主の崩御を以て、崩壊を厳としていた。
静かな物は一つと無く、全てが狂おしいまでに踊り回り、悲鳴の如き叫びを上げ、慟哭の限りを尽くしているようだ。
だが、それもまたある意味では必然。
この世に不変のものは無く、全ては移り変わるものなのだから。
嘗て完全体と謳われた者と言えども、時の流れは無情にもその存在を打ち砕く。
例えば、この"マフィン"の様に。
「う~ん、美味しい!70点はあげちゃおうかしら?」
サクサクとマフィンをぺろりと平らげ、舌先から染み渡る甘味と全能感に歓喜に打ち震える女。
そんな態度に男は渋々と呆れ顔で悪態をつく。
「全くこれだから女ってのはこれだ、マイペースでいけ好かねぇ。誰だって聞いてるだろ?」
肩を竦め、やれやれと言った様子だ。
二人共、先程まで死闘を高みの見物で見下ろしていた者達である。
最もその戦場が崩壊を遂げる今、戦う必要も無いと判断しているのか、互いに武器を手にしてはいない。
だが男からは微かな殺気が漏れ出ており、その目は油断なく女の挙動を見据えていた。
「ふぅ…全く本当に野蛮な子ね」
しかし、当の女は全く意に介していない。
何食わぬ顔でマフィンの包み紙をペロリと舐める様は妖美で、かつ魅惑的だ。
だが同時に、女が醸すその余裕と自信に満ちた態度は男の警戒心を一層強くさせるには十分だった。
「良いわ。お腹も膨れて気分が良いから、答えてあげるわ。」
そこでようやく、女は語り出す。
男を見下したような視線を送りながら、その口調は不遜そのもの。
それがより一層、彼女の不気味さを際立たせていた。
そして女は答える、自らの名を。
「人造人間21号よ、これで満足かしら?シグバールさん。」
「そりゃ名前じゃなくて、製造番号とかだろ。」
名前にしては些か語呂が悪いように思える。
少なくとも、男にとってはそう感じられた。
そもそも、そんな名前の人間は聞いたことも無かったのだ。
それでも、21号は傍若無人といった様子であり、その真意を測ることは出来ない。
だからこそ、シグバールの勘が告げる。
目の前にいるこの女は決して油断していい相手ではないと。
改めて問う。
「それで、一体俺に何の用なんだ?まさかとは思うが、あのロボットがあんたの差し金ってハナシか?」
「あら、気づいてたのね。でも安心なさい、別に取られたからって怒ってる訳じゃないわ。私が興味があるのはもっと別の事。」
それを聞き、安堵すると同時にシグバールは再び戦慄を覚える。
自分がただの標的であることへの恐怖からではない。
女の言葉の端々に感じる確かな狂気にこそ恐れを抱いていた。
シグバールは既に理解していたのだ。
眼前の女は自分の想像を超えた、得体の知れない存在だと。
「私はただ、力に興味があるだけよ。とっても美味しい、強い力に…!」
シグバールはその笑みを見た瞬間、何か良くない予感を感じた。
それはまるで蛇に睨まれた蛙のような感覚に近いだろう。
足が空に縫い付けられたかのように動けず、背筋に走る寒気に、体が自然と震え上がる。
そして次の瞬間、女の右手から放たれた光線が、シグバールの脇を掠めた。
その威力たるや凄まじく、シグバールの背後の岩壁に大穴を空ける程であった。
一瞬遅れて、その破壊音に驚きを隠せないシグバール。
だが同時に、女の行動の真意に思い至り、表情が険しくなる。
「…おぉ怖い怖い、今のはその気になればいつでも遣れるぞってハナシ?」
「えぇ、だけどちゃんと外してあげたでしょ?」
口ではそんな事を言っているが、ジグバールの内心は穏やかでない。
今のは事実上の脅迫。
そう、要求を呑ませる為の。
「へっ、確かにな!そんで、単刀直入に聞くぜ。アンタ、何が狙いだ?」
シグバールは敢えて軽口を叩くことで平静を装いつつ、武器を構えて問い掛ける。
その質問の意図は、単純に女の目的を探ることにあった。
この女が何を求めているのかを知れば、或いは対策を練ることが出来るかもしれない。
だが、21号の口から語られたのは、またしてもシグバールの予想を大きく裏切るものであった。
「トラオム、だったかしら?」
「…あんた、何時からそれを知っていた?」
それはロシア語で夢を意味する、ただの単語。
しかしメサイア教団にとっては、ある種の意味を持っている。
それを耳にした時、シグバールの目は静かに、しかし然りと見開かれていた。
「それはどうでもいい事だわ、私はソレに一枚噛ませて貰いたいってだけよ。」
21号は妖艶な微笑みを浮かべながら、そう返答する。
しかしその言葉には有無を言わさぬ迫力があり、思わず気圧されそうになる。
しかし、ここであっさりと引き下がるわけにもいかない。
シグバールは言葉を慎重に選びながら、対話を試みる。
「おいおい、せめてWhy done it(動機)位教えてくれても良いじゃないか?」
「洒落た言葉を使うのね。まぁ、ソレ位は教えてあげても良いわよ。」
そこでようやく、シグバールは内心の緊張を解いて胸を撫で下ろす。
少なくとも、対話の余地はあるようだと踏んだからだ。
その考えが間違いではないと実感したのは、次に女の放った一言だった。
「私は別として、私のスポンサーはどうもあのロボットにご執着みたいなの。」
「スポンサー…つまりあのロボットの出資者ってハナシか。」
それを聞いたシグバールは思わず眉をひそめる。
21号が告げたのは、シグバールにとって予想外の答えだった。
だがそれも無理はない、こんな狂人に進んで手を貸す輩が居るとは思えなかったからだ。
「ま、そんな所ね。それでさっきの提案になるんだけど…」
提案、という割には、その物言いは随分と強引であるように感じられる。
仮にそれが自分の利益の為ならば、手段を選ばないタイプであろうことは想像に難くない。
それでも、この場をどうにか切り抜ける為には話を聞く他なかった。
「一枚噛む、というと?」
「簡単よ、私達はあのロボットの元、手を組むの。___の為にね。」
「_それはそれは。」
_何とも刺激的な事で。
邪悪な会合は、崩壊するバードス島の渦中で、静かに執り行われていた。

18人目

「王勇の聖剣」

~特異点~
悟空が西の都へと送還され、エミヤオルタと戦闘を繰り広げるシャルルマーニュ。
二丁拳銃「干将・莫邪」による一斉掃射を、光の如き剣捌きで弾き落としていく。

「チィ!英雄風情が……ッ!」

「おおおおおおお!」

悪態をも裂く剣。
弾丸は全て弾かれてしまう。

「これでは埒が明かん……!」

そう思った彼は躊躇もなしに、拳銃に弾丸を込めリロードする。
ただし、そんじゃそこらのただの銃弾ではない。

「I am the bone of my sword.」

身体は剣でできている。
自らの在り方を示す詠唱。

「……来るかッ!」

瞬間、シャルルマーニュはその弾丸が何たるかを悟った。
宝具だ。喰らえば自分は間違いなく死ぬ。
否、死ぬとは言わずとも重傷は避けられない。

「So as I pray......Unlimited Lost Works____!」

赫黒の魔弾が放たれる。
ライフリングを通り、超高速回転を繰り出しながら突撃する。

それは、敵の肉体内部から自身の固有結界を炸裂させ、一撃の下に敵を葬る絶殺の弾丸。
その銘を「無■の剣製」。

その本来のあり方すら唾棄し、自らを生んだ社会すら虚仮にし、
英雄すら侮辱し、心すら捨て去った無銘。

そんな彼を、シャルルマーニュはどうしても……。
「過去、お前にどんなことがあったかは俺はわからない。でも、今のお前の在り方は、悟空ってやつを『どうせ死にゆく奴』と馬鹿にしたことは許さねぇ!」
「躱されたか!」

固有結界の炸裂はとうに読まれ、回避されていた。
次弾を装填しようにも、時間と魔力が足りない。
回復にはかなり時間がかかる。

「________行くぜ!!」

来る。
彼の持つ剣が、闇を照らす30の閃光となって。

「永続不変の輝き。千変無限の彩り!我が王勇を示すため、この刃に我らの伝説を刻み給え!」

一夜一幕の幻。十二勇士との縁を辿りに辿って、世界の悲鳴を聞きやってきた者。
幻想の聖騎士が振るう聖剣、それは眩く煌めき今闇を穿つ!

「王勇を示せ、遍く世を巡る十二の聖剣(ジュワユーズ・オルドル)!!」

12本の剣が、まばゆい閃光と共にエミヤ・オルタを貫く。
聖剣に刺し貫かれ、今以て消滅が確定した。

「こんな……ところで……。」

光の中、エミヤ・オルタは何か言いたげに消滅した。
シャルルマーニュはその様子を見ていた。そして。

「……じゃあな。……さて、どうしようかな。」
ちょっと考えたのちに、何か思いついた顔で。

「ルクソードの後でも追うか。」
その眼に決意を抱いて。聖騎士は走る。

19人目

「受け継がれる意志! おめえの出番だ、悟飯!」

 地獄王ゴードンが引き起こした大津波によってバードス島が飲み込まれる。
CROSS HEROESの面々は傷ついた身体を引きずりながら、
何とか島から脱出しようと奮闘していた。

「急げ! 早くしないと流されるぞ!」
「おいおい、いくらなんでもこれはマズいだろ!」

 トゥアハー・デ・ダナンへと続々と避難していく。

「収容を確認出来た者はこれで全員か!?」
「待ってください、まだ何人か姿が……!」

「艦長、これ以上留まっては危険です! 急いで下さい!」
「……全艦、退避開始!」

 テッサは苦渋の決断を下す。

「くっ……! 皆、無事でいてくれ……!」

 何とか、生き残ったメンバーを乗せてダナンは水中を進む。
濁流に煽られ、艦内は大きく揺れ動く。

「ピッコロさん……ピッコロさんは艦に収容できたんですか?」

 不安そうな声でそう呟くのは、いろは。
ピッコロの姿が見当たらないのを心配していた。

「――くそぉぉぉぉぉッ!!」

 突如、怒声が響く。ルフィの声だった。彼は怒りに任せ、床を思い切り殴りつける。
その拳からは血が滲み出ていた。それを見たいろはは慌てて駆け寄る。

「ど、どうしたんですか、ルフィさん……!?」
「ピッコロのおっさんは……! 変な奴に捕まってた……!!」

 それは、津波が押し寄せる直前……ルフィとバーサル騎士ガンダムが
ドフラミンゴと戦おうとしていた時。

『!? ピッコロのおっさん……!!』

 ルフィは見た。突如出現したシグバールによって、
ピッコロやウーロンが操縦しているサヘラントロプスが囚われ、
その姿が掻き消えていくのを……

『余所見してんじゃねェぞ、麦わらァ!!』

 そこへドフラミンゴの容赦の無い攻撃がルフィに突き刺さる。

『ぐふっ……!?』

 ゴム人間であるルフィの防御をも容易く貫通するその一撃。
ルフィは岩壁に激突してしまった。

『ルフィ殿!!』
『フフフフフ……ここらでお開きか……!』

 頭上に迫るは巨大な水柱。

『おい、騎士野郎。良い事を教えてやる。悪魔の実の能力者はな、海に嫌われる。
つまり……』

 そこまで言いかけて、津波が二人を飲み込んだ。

『ぐぼぼぼっばばばばばばば……!!』

 そう、ルフィは悪魔の実の力を得た代償に、海賊でありながら海から拒絶された。
一度海に飲まれれば全身の力が失われ泳いで逃げることも出来ず、
ただ溺れるだけの存在になってしまったのだ。

『ルフィ殿……!! 今すぐ助けに……』

 バーサル騎士ガンダムはすぐさま救出に向かう。

『フフフフフフ……弱ェから失う! 弱ェから奪われる! 
大事なもんならしっかり守んな! でないと自分の命さえ落っことしちまうぜ、
麦わらのルフィ!! フフフフフフ……生きてたらまた会おうや……』

 薄れゆく意識の中で、ルフィはドフラミンゴの言葉を聞いた。
その後、バーサル騎士ガンダムと共に何とかルフィはトゥアハー・デ・ダナンまで
戻ることができたが……肝心のピッコロやウーロンの安否は不明のままであった。

「……俺゛は゛……!! 弱゛い゛ッ……!!」

 ルフィは己の無力さを悔やむ。
兄・エースを目の前で失い、もう二度と大切な人を失いたくないと誓ったはずなのに……。
そして今再び、一番守りたいと思った仲間を守れなかった。
それが悔しくて仕方がない。

(ちくしょう……!)

 何度も、床を叩きつける。その度に血が滴り落ち、艦内の床を汚す。

「……そこで這い蹲って、泣き言を漏らすのが、今のお前がやるべき事なのか……?」
「!?」

 音も無く、突然現れたのは……

「!? オーマジオウ……」

 アマルガム・クォーツァー連合軍との戦いに降臨し、
謎の戦士に重傷を負わされた未来のオーマジオウ……
トゥアハー・デ・ダナンの医務室で治療を受けていた、本来の歴史ならば
この時代にはいない筈の人物。
その身体の各所がモザイクのように欠損しており、時折ノイズで乱れている。

「若き日の私の身に……何事かが起こっているようだな」
「!? ソウゴ……確か、悟空さんたちと一緒に特異点とか言う所に
行っていたはずだ……」


――西の都。

「う、うう……」
「父さん、しっかりしてください、父さん!」

 全身傷だらけで、特異点からひとり送還されてしまった孫悟空。
息子・悟飯の声を受け、ベッドの上で目を覚ました。

「悟飯……!? それに、ここは……
みんなは、CROSS HEROESのみんなはどうなったんだ!?」

 ようやく意識がはっきりしてきたのか、辺りを見回す。
部屋の窓から見えるのは、見覚えのある風景だった。
西の都。ブルマの住むカプセルコーポレーションの近くだ。

「落ち着いてください、僕もクリリンさんから連絡を受けて、急いでここに来たんです。
そうしたら父さんがボロボロの姿で倒れているのを街の人が見つけて、
病院に運んでくれたんですよ」

 特異点にて源頼朝の宝具による強襲を受け、悟空は瀕死の重傷を負っていた。
動けなくなり、メサイア教団の一員・エミヤオルタに襲撃された所を
王勇の騎士・シャルルマーニュに救われたのだ。

「みんながまだ……特異点に取り残されてんだ……!」

 その言葉を聞いて、悟飯は驚愕した。
あの後、どうなってしまったというのだろう? 無事でいてくれるといいのだが……

「ブルマ……ブルマを呼んでくれ、もっかい特異点に行って、
あいつらを連れ戻してくる!」

 しかし、悟飯は首を横に振る。それは出来ない、と。何故なら……

「ブルマが……さらわれただって……!?」

 悟飯が西の都に訪れた理由が、それであった。
なんと、ブルマがメサイア教団によって攫われてしまったのだという。
ブルマのラボは破壊され、彼女の夫であるベジータはそれを追っていったらしい。

「僕もこれから、ベジータさんの後を追おうと思っていたのですが……
まずは父さんの手当てをと思って、ここに来ました」
「ちくしょう……次から次に一体何がどうなってんだ……頭が追いつかねえぞ……」

20人目

「異聞・聖杯戦線───STAMPEDE───(後編)」





「幸福を取りこぼした彼らを、ずっと見てきた。ずっと、ずっと、ずっと。椅子取りゲームに負けた彼らに救いはないのか?どうすればいいのか、分からなかったんだ」





 狭く乱立する木々の隙間から、酷く、不快なものが映った。


「ハ、なに見せびらかしてんだ、あいつら」
 
 それは因縁だった。
 それは物語だった。 
 
 時空と運命が絡まり交錯する異聞の地で結ばれた絆、正史とは異なり早くに伸ばされた手。
 虚仮にされて、踏みにじられた信頼。口頭で伝えられた仲間の死。心が受け付けない真実の開示。
 人心を腐らせる絶望という病は、時として神経を解した実体の痛み、肉体の苦痛のそれを凌駕する。可視化できない精神の傷に薬などなく、病状に伏せることすら許されない。
 誰も顧みられることなく、傷を膿ませて壊死していくだけ。


「………なんだな、やっぱり見ていい気分にはなれないもんだね」

 それを自ら味わったからこそ──────ただ、目にしたものを見て、特大に苛ついた。 

 黒い熱を帯びた心臓が、身体の内側から臓腑を焦がしていく錯覚。
 四肢の末端にまで伝播された熱が、表皮から抜けて蒸気をくゆらせていく錯覚。
 
 現実ではない。
 余りにも気に食わないものを見せつけられたからか。情動が急性のショックを起こしてる。
 現にサーヴァント・罪木蜜柑を構成するエーテルに変化はなく、また熱を繰る術を彼女は有していない。あったのは、心の底からこみ上げてくる激情だ。
 束の間の協力者、孫悟空に差し伸べられた手を取る常盤ソウゴの姿を見て、突き動かされるそれに名前はない。
 ただ漠然と、心を軋ませる何かが暴れ回ってる。
   
 CROSS HEROESを名乗る集団に協力したのは利害の一致から来るものに過ぎない。
 彼らと言葉を交わす時間が比較的少なかったこと、数えるのも億劫になる人数が一度に押し寄せてきたこと。
 それらの要因が重なったこともあり、サイクスと共に最低限の情報交換を交わした以外に、罪木とCROSS HEROESの関係に特筆すべき事項は存在しない。
 だから、常盤ソウゴという一人物に対して感じ入るものなどない。微塵の興味、好奇心すら抱くことも無く、混戦に巻き込まれてしまった。


「自分の未来も明け渡してやった、はずじゃんか。なんであんな、名前も知らないやつなんかに調子狂わされてる?ああ嫌だ嫌だ、らしくねえだろ」

 かぶりを振る。
 胸中を満たす不快感に耐え切れずに起こした行動だ。
 脳裏に再生される記憶が、絶えず意に沿わないエラーを起こしてる。

 不思議だった。
 不可解だった。 
 十数年の短い障害に影の如く付き纏った糾弾に晒されることもなく、新たな愉しみに浸る余裕だってある。
 酒に酔って得られる浮遊感と酩酊感は爽快ですらあったし、現世で覚えた煙草の苦味も慣れれば悪くない。往来を歩く子供が振り撒く屈託のない笑顔一つでこちらも温かい気持ちになれた。
 自身の少ない語彙で言い表すなら、真っ先に浮かぶ言葉は天国。
 これ以上、何を望めばいいというのか。受けた二度目の生で漸く始めて、”楽しい”という感情を知ることができた筈だ。
 故に、疑問を抱く。

 覚えのある感覚だ。
 記憶にある限りは二度、沸き上がったもの。
 一度目は、生前。自ら命を絶つ直前に胸中を占めた。
 二度目は、死後。復讐を終え、本懐を果たした直後に胸中を占めた。
 その何方もが、己の憎悪に起因するものだと結論付けていたし、二度目に至っては酒浸りだったこともあってか対して考えることすらなく消えて行った。
 だから、分からない。果たして何にかき乱されているのか。
 罪木蜜柑に向けられる謂れのない悪意はもうない。総て殺したはずだろう。
 
 ──────なのにどうして、こんなに■■なんだろう。
 
 

「ああ、もう。クソが!どうでもいいじゃないか今は………!とりあえず、あたしも組んだ以上は働いてやらねえと──────」 

 益体もない思考を切り替える。
 抑止力として招かれた以上は、CROSS HEROESに曲がりなりにも協力する以上は手をこまねいている訳にはいかない。
 草花を踏みしめた両脚に力を込め、跳躍を果たす直前。
 

「────────────あ”?」

 視界を遮る豪射がひとつ。
 風を裂き、一重二重に遮る木の幹を貫通して罪木の心臓を照準するそれを、飛び退いて躱す。
 肢体の上昇に使った脚力のベクトルを後方に向けるイメージ。咄嗟の奇襲すらも、英霊とその身を変えた五感は感知してる。
 回避してすぐ、罪木を襲った攻撃が”矢”であると看破した。
 

「別に、さあ」

 声。
 距離はそう近くない。
 曇天に淀んだ夜空に目を向ける。

 『ライダー』が見ていた。
 言葉通り、覆面に載せられた文字が彼女を阻む相手を表してる。
 視点は斜め上。罪木から少し離れた木の枝に、睥睨する影、ひとつ。
 襲撃者と視線を合わせて理解する。バイザーを隔てていようがその本性は簡単に透けて見えるようだった。


「CROSS HEROESにニュートラル・ガーディアン、だっけ。そんなものを俺たちクォーツァーがわざわざ相手にしてやる意味なんてないんだよね。本来は」

 返答など期待していない、投げやりな言葉。
 つい先ほどまで殺意を込めた一矢を放ったとは思えない冷酷さ。


「俺たちの目的ってのはきったなく汚れた平成っていうゴミ山の掃除なわけで。ああ。お前には関係ないっけ」

 罪木は、その眼光に獣の面影を見た。
 弱弱しい草食動物(ゲロブタ)の肉を貪り喰らう、狩りの手並みを覚えた獣。 
 今宵は見えない弓張月の片割れの名を冠したクォーツァー。赤青に分かたれた半身は果たして交じり合わない平行線のようでもあった。
 或いは。化生と人で分かたれた父子の末路を端的に表しているのか。


「別に、サーヴァントなんてのに興味何てないし…………前菜はさっさと平らげちゃうか」
「おい」

 ジョウゲン、仮面ライダーザモナス。
 CROSS HEROESと真っ向対立するクォーツァーの尖兵に、罪木はここで始めて口を開いた。


「下っ端のあんたに前菜呼ばわりされるくらいあたしは落魄れたかよ。なあ、おい。本命とは関係ないからあたしには興味ありません、ってか」

 本能が叫んでいる。
 復讐者という器に注がれた罪木蜜柑の魂の叫びだ。
 殺す、殺せ、殺さなくちゃならない。ほんの一秒でも、相手の生存を認められない。


「………ムカつく。はっきり言って不快だよ、あんたら」

 悪党は、嫌いだ。
 生前の記憶から引き継がれたそれだけは、変わらない。
 だけど、おかしい。あれを見てから、やはりどこかがおかしい。
 
 嫌いとはいえ。
 憎いとはいえ。
 ここまで──────、心が平常を保てないことが、あったか?

21人目

 罪木蜜柑は、気が付かない。
 数多の世界、数多の選択に枝分かれする多元世界(マルチバース)。
 正史。こうあるべきと因果が定めたそれと世界線を隔てる最も大きな変化が何であるかを全くもって気に掛けていない。
 十数余年で焼け落ちた未発達の精神は、歪んだ性(サガ)から彼女を遠ざけた。

 己の死因が周囲から与えられた苦痛ではなく。
 罵詈雑言、傍若無の限りを尽くした彼らにすら”飽きられた”上での自殺であることを。復讐の果てに去来したのが、”誰も己を見ない”という苦痛であることも。まさか、”常盤ソウゴの心の傷を癒すのが自分であれば良かった”という嫉妬であることも。
 彼女は、まだ。


「ああ、駄目だ。どうしてくれるよ、これで”四度目”だよ…………こりゃあ、殺すしかないね。この気分を鎮めるにはさあ──────!」

 さあ。殺し合いだ。
 憎悪が蠢く猟奇劇(グランギニョル)の始まるブザーが、人知れず鳴った。

 




 迫り来る激流を。
 莫大な闘志の塊を、察知して。
 男は、その口元を緩ませる。

 空気が移り変わった。
 ここは、感染している。
 この世の有象無象を踏破せんとする純粋な意思に染め上げられている。

 脳髄を駆け巡る悪寒には覚えがあった。
 偉大なる航路(グランドライン)で刃を交えた、その中でも極上、至極の域に達した武芸者だ。”海賊”に通ずる夢追い人(ドリーマー)そのもの。
 世界こそ違えど、世界を繋ぐ大秘宝に手を伸ばした戯け者で、愚かしくも狂える者だ。
 
 四皇の二柱。
 百獣の王(カイドウ)と偉大なる母(ビッグ・マム)。
 
 そして、モンキー・D・ルフィ。 
 海賊、ロロノア・ゾロという一振りの刀剣を唯一意のままに繰れる新世代の王。

 肌を通して感じたものは、その誰もが持ち得た才覚だ。
 異なる世界に於ける、”覇王”。万が一、或いは、億が一の資格を持つもの。
 

「──────へぇ」

 CROSS HEROESとクォーツァーの堂々開戦。
 その号砲を見届けたゾロは、手頃な木の幹に寄りかかりながら、それを感知していた。
 協力関係を結んだ常盤ソウゴらの戦況については関与しない。この身はただただ偶然同じ船に乗り合わせただけの薄い縁。
 互いに細かい事情を知らない間柄で盟主たる彼らの因縁に手を出すことこそ無粋の極みであるとすら思ってる。
 だから、ゾロは手を出さない。加勢もしなければ手助けもしない。
 負けてしまったらそれはそれ。肩を並べて戦う以上は仇討ちに動くつもりでこそあれ、基本的に突き放した対応を心がけてる。
 特異点を巡る騒動の最中、他と比べて付き合いが長い罪木は感情に突き動かされがちの一面が見られたこと。武蔵とサイクスにしても、現実主義(リアリスト)の側面とは別に、情に流されやすい一面があるのは分かった。

 だからこそ、己くらいは完全に俯瞰して物事を捉えるべきだという自負が、ある。

 当初にあった物見遊山気分は既に消え失せ、大集団に属しての戦いを心がけてる。
 本来、彼らの中で最も責任ある立場にあったゾロだからこその視座だ。
 故に、神精樹から少し離れた場所から見るだけに留めようと、闘気を抑えるべき。

 そう思案を重ねていた直後の出来事だ。
 この戦場の付近、視認するには遠く、闘気を感知するには近い距離。
 ゾロの”見聞色”は、確かに感知した。
 

「ちょうどいい。正直、暴れ足りねェと思ってたんだよ。おれもな」

「暴れ足りぬなら──────」

 ──────不意に、景色が暗がりに移り変わった。

 曇天の中、しかし煌々と照らす天体の名をゾロは知らない。異世界を跨ぐという経験はこれが初めてであるので、曇り空になっても絶えず輝くそれについては思考から排してる。
 ただ、夜であっても多分に明瞭な視界を齎すそれに、ほんの僅かに不思議なものだと頭を傾げる程度。
 
 だから、これは曇天が及ぼすものではない。輝く昴を雲が遮ったからではない。
 
 これは本来訪れるべき夜の闇ではなく、誰かの影だ。
 木の幹で塞がれた筈のゾロの背後に立ち、その背丈が覆いになって、光を塞いでる。
 溜息を零して、視線を上へと寄越す。先ほどまでの笑みは搔き消えて、代わりに浮かべた真顔には悦の感情の一切が抜け落ちていた。


「我が相手になってやろう!!!」

 それは、巨体だった。見上げる程に巨大だった。
 朱い装甲、はためく両羽、地を踏みしめる後ろ足。
 ヒトの造りと同じ四足と言葉を持ちながら、持ち得る体躯は甲虫そのもの。
 

「くくく、はっはっはっ──────!!」

 アナザークウガ。
 その巨体を活かした一撃が、ゾロを圧し潰さんとし。


「やめとけ虫野郎。悪ィがお前じゃおれの相手には役不足だ。退屈凌ぎにもなりゃしねェ」
 
 果たして、彼は何もしなかった。腰に帯刀された三刀に指をかける素振りすらない。かと言って背を向けるわけでもなく、木に体重を預けたままだ。
 その顔色に一切の動揺、なし。
 最早見上げることすら億劫なのか、顔は正面を見据えたままに不動を貫いてる。
 大きく右腕を振りかぶったアナザークウガに一瞥もせず、返答とも言えない一言を零したきり、興味をまるっきりなくしてしまった。


「ふん、口と態度は達者のようだ。だが所詮は生身。ライダーですらないものなど、我らの敵ですらないわッ」

22人目

 生身と仮面ライダー。相対する二者には大きな差が横たわってる。
 現代兵器を通さない表皮、装甲。各自で保有してる特殊能力。人間の身体能力に於ける限界を軽く一蹴できる機能(スペック)。
 そも、仮面ライダーという概念の発祥とするは怪人だ。
 高度に発展した人間社会をも征服に足ると、裏に潜む一大組織であるショッカーが太鼓判を押した兵器であり。
 昭和から年号を跨ぎ、平成からまた幾年も過ぎて英雄(ヒーロー)として形骸化されていてもなお、人間にはどうすることもできない領域に立つリーサル・ウェポンの役割を担ってる。
 仮面ライダーという存在は、いつだって世界を左右する立役者であり続けてきた。
 
 ならばこそ、クォーツァーを斃しうる相手というのは、自ずと仮面ライダーだけであると何処かで思っている。
 それは、このアナザークウガの変身者とて同じこと。サーヴァント、アーム・スレイブ、魔法少女、ゲッターロボ、スタンド使い。
 そのどれもが、仮面ライダーに足る敵ではないと、確かな慢心として心に巣食っている。
 
 ロロノア・ゾロにしても。このアナザークウガを破るに値しない。そう判断して、腕を振り下ろし。








「邪魔だ」






 稲光。
 暗転。
 焼失。

 そこで、アナザークウガは一瞬にして溶解した。
 その一瞬で、地獄のような苦痛を感じたが──────その苦悶も、一切も世界に遺すことはなく。
 加速度を加えられた右腕も、変身者の意識も、核熱に焼かれる悲鳴も、星の輝きを覆う巨躯も、ライダーでないものに斃される気づきも、全てを極光は吞み込んで。
 特異点の夜空に煌めいた一条の光は、アナザークウガという存在の一辺をも残さずに消し飛ばした。
 あるべきものを、あるべきままに。 
 歪められた過去を起点とした、どうしようもなく不要で、間違ったものなど必要ないと。放たれた雷霆は審判を下した。


「おう、待ってたぜ……………おれの”敵”でいいんだよな。お前は」
 
 木肌から背が離れ、隻眼が剥かれる。十指は剣の柄に添えられ、再び口角が持ち上がる。
 先のアナザークウガとの接触では見られなかった笑みが、顔色を溢れんばかりの野生と獰猛さに染め上げている。
 ゾロの意図ではない。心胆から湧き上がる闘争心と来たる死闘への期待からくる、無意識の発露だ。
 これから戦う相手を己の剣が超えたら──────どのくらい、強くなれるだろう。どのくらい、あの男に近づけるのだろう。


「ああ、そう考えて構わない。俺の目的はおまえ達のそれとは相反するものだ」

 返答が木霊する。
 巌の如く重みを湛えた声は、ただの返事一つですら、威厳に満ちて浸透していく。
 光に当てられ、輝く金髪。眩い威容。そして、帯刀された刀、七つ。
 それは、ゾロの正面に立つ、軍服の男の声だった。


「その眼光、その闘志。生来の才覚とそれに見合った鍛錬を行って培われたものなのだろう。大した剣士だよ、おまえは」

「………あぁ?」

「この星辰光(アステリズム)が封じられていたならば、俺に勝ち目は到底無かった。互いに敵とはいえ、賛辞の一つは贈らせてくれ」

 放たれた賞賛に偽りはない。
 真剣に、真摯に、ロロノア・ゾロという一個人への敬意を示す。
 刀を抜きながら、その勇士を脳に焼き付けんと、見据え。


「しかし、俺には成さねばならぬことがある。悪いが加減は出来そうにない。許せよ」

 息つく間もない”覇気”が押し潰す。男から発せられる稲妻の網が、乱立する木々に罅を入れていく。
 実体はない。真実この軍服から発せられる圧はただの錯覚に過ぎず、現実に干渉する力はない。
 けれど、そうゾロは確かに錯覚した。一目見て、直にその闘気を浴びた、鮮烈なイメージが実体であると。

 男──────クリストファー・ヴァルゼライドを見て、ゾロは確かに一瞬、圧倒されたのだ。

「へへ……そいつァいい。おれも、少し燃えてきたところだ………!!」

 苦難上等。
 この身が歩むは修羅の道。
 
 少しの間違いが死に直結する修羅場であればあるほど、剣筋は研がれ、磨かれ、更に上へと進めていく。


「その武勇、その信念。確とこの目に焼き付けよう。さあ、来るがいい異邦の剣士。だが忘れるな──────」

「ああ、行くぞ──────」
 
 剣気と剣気が相対する。
 ならばこそ、闘争の幕が上がるのは必然。
 何方も負けられぬ願いを持ち、何方もそれに執着するもの。
 たった一度の敗北がその身を砕くまで、もっと、もっとと前へ進む勇士であるのだから。 
 だから、互いに命をかける。追い求めた、ありったけの夢を、掴むために。
 

「「──────”勝つ”のは俺だ!!!」」





 轟音が聞こえる。
 轟音に揺られる。
 
 ひっきりなしに響くそれを尻目に、丸喜拓人は思考を始めた。
 ここは研究所。ここは研究室。壁も、床も、天井も白く塗られてる。
 白。
 特異点に居を構えて、漸く考えていた計画(プラン)が動き出してる今も、落ち着いて考えることができるのも、それのお陰。
 
 清潔感、だとか。
 透明感、だとか。
 
 どうしても目に入る研究室の風景は、無駄な思考の入り込む余地を許さない。
 研究者は、研究のことだけ考えてるのが幸福だから。
 研究者は、やりたいことだけ考えてるのが幸福だから。

 けれど、そういう意味で言えば。
 だから、やっぱり落ち着いてない。
 精神の不調。情けない。

 あんなに武道に頼ってるくせに。
 あんなに雨宮くんを否定したくせに。

 どうしても、幸福について考えてしまう。
 丸喜拓人の研究は、自分だけを幸せにするものじゃないから。みんなを幸せにしたいことだから。
 やりたいことだけ考えちゃいけない。やりたくないことも考えないと。

 自分のあげられる幸せは正しい。
 認知の改変、集合的無意識の掌握。
 取りこぼした過去を、あげたかった未来をあるべきものへ。
 

23人目

「大丈夫………僕は、間違ってない」
 
 脱力。
 深呼吸。
 胸に溜まった蟠りを、吐き出す。指先に意識を集中させて、手を開閉する。
 駄目だな。意味もなく考えを煮詰めすぎてる。改善点いち。
 

「君がここにいたら、こんな僕をどう思うかな、武道」

 上を向く視線。
 未だに収拾の目が見えない混戦の舞台と化した地上に、彼はいる。
 抱いた願いを絞り出した末に、自らの手を取ってくれた男が。己と同じ地平に立ってくれる仲間が。深い信頼と絆で結ばれた相棒が。
 そして、誰よりも永い時を一人で苦しみ続けた、友人が。

 ──────ストロング・ザ・武道が、そこにはいる。
 
 恐らくは戦闘の余波であろう振動。それは地下深くにある丸喜のパレス全体をすら揺らしている。
 最上部マントルの下。百キロの距離を大地に遮られていながら、揺れ、どころか轟音が届く。
 人間が掘り進めた最大の深度が十二キロだと言えば、この異常ははっきりと伝わるだろうか。
 戦闘に対する経験を一切積んでいない丸喜をして驚愕させたこの余波は、そのまま闘いの鮮烈さを訴えてる。
 酔狂の殴り合いではない。
 国家間での戦争ではない。
 異なる世界が、異能が、超常が、鎬を削る前代未聞の大混戦。
 比べれば、世間では突飛なものと扱われた認知訶学ですら現実味を帯びかねない。常識の枠を二つも三つも飛び出している。

 そこに唯一無二とすら言える友人が参戦しているのだから、正直に言えば気が気でない。
 彼に親愛を向けるのであれば、自らも共に戦場へと足を運ぶべきではないのかという後悔が、今になって心を刺した。


「君が思ってる程、僕は凄くなんかないんだよ。君が歩いた道がどんなものだったか、君が抱いた苦悩がどれくらい重いのか、測ることもできない」

 人類という種の芽吹きの遥か前、文字通り億年もの月日を一つの命題に費やした零式(パーフェクト・ゼロ)。
 超人の在り方を裁定する管理者、或いは神(ザ・マン)。
 完璧にして完全。最強にして唯一。
 地上に降り、ストロング・ザ・武道と名を変えた今でも、その一切の翳りのない実力と、規格外の超人強度。超人閻魔の名はその存在を傲岸に誇示し続けてる。

 実際に耳で聞いた武道の経歴の数々は、人間が理解できる範疇を超えていた。
 今までヒトが積み上げて来た数千の年月は、未だその存在を立証できていない。現代では神々の信仰が薄れ、関心すらもが雲散霧消してから久しい。
 武道と行動を共にする、丸喜拓人にしても同じことだ。
 ”神”などと。”超人”などと。
 ペルソナに目覚め、認知世界メメントスを知って尚、果たして信じていたかどうかは定かではない。
 パレスの実体化、特異点による世界の融合。この騒動を通じて出会わなければこうして心を通わせ、絆を育むことなどを出来なかったろう。

 だからこそ、武道の向ける信頼に応えられない自分が、こうして酷くもどかしく感じてる。


「君がどれだけ、孤独だったか。この世界に来てから、ずっとそれが頭から離れないんだ」

 神とは、総じて人間の理解を超越するもの。
 書物に伝わる逸話の数々が、それを証明している。
 ならばそれと同じ土俵(リング)に立つ、武道にしても同じこと。

 天才なりの苦労。持つ者が故の責──────その一言で片付けられる問題ではない域にまで、武道の捧げた時間は到達してる。
 実力主義。成果至上。───────────隣に座るようになってよく耳にする、武道の掲げる願いの大義の重さは、如何様にして測ればいいのか。

 理解不能。推し量れない。
 認知訶学を研究するにあたり、人心への理解に精通した丸喜の脳では、当然のように神の心を見ることはできなかった。
 だから、不安になる。
 丸喜拓人の掲げる救済は、果たして武道の心を救えるのか。


「僕は、どこまでもただの”人”なんだ。まだ、君を理解することだってできない、ただの人間なんだ」

 そんな、武道が。
 神そのものである、そのストロング・ザ・武道が。


「それでも。君の姿に僕がどうすべきか気が付いたから。そんな君が僕を信じてくれているんだから。君も、僕に希望を抱いてくれたから」

 怒りに血走った目が、一瞬、ほんの一瞬だけ。
 
───相分かった、貴様の理想が叶う日を待ちわびているぞ。グロロ~…───

 和らいだ。
 まるで、生まれたての赤子のように。
 まるで、世の無情を知らない、幼子のように。
 あんなに、輝いた目をするものだから。


「…………僕は、僕を信じることが出来たんだ。こんな、成功するかも解らない賭けを実行する勇気が貰えたんだ」

 特異点の上空。
 夜空であるのに太陽の如く輝いている一つの星。曇天を貫く、光の源。


「君が戦いを終えて、ここに戻ればすぐにでも始められる」

 あれは、星ではない。天体の体を成してすらいない。
 あれは──────極大の、エネルギー源だ。無尽蔵にエネルギーを降り注がせてる。
 その名を、第二太陽(アマテラス)と呼ぶことなど、丸喜拓人はまだ知らない。


「あの星から降り注ぐエネルギー、僕は科学者じゃないから解らないけど、確かに聖杯を起動する魔力の代わりになる。あの”実”と併せて使えば、成功率は今より上がる」

 星辰体(アストラル)。
 アマテラスから降りそそぎ、大気を始めとするあらゆるものに吸収されたそれは、神精樹ですら一度に養分にできないほどだ。
 原理は知らない。法則は解らない。
 高濃度のエネルギーが、聖杯を動かすに足る、燃料になるかもしれないという、仮定のみ。
 それでも。
 ストロング・ザ・武道の背中を見て、胸に懐くものを感じた者として。


「救ってみせる。留美も、雨宮くんも──────武道も、誰一人、あぶれることなく。どんなに、苦しんででも」

 人々を苦しめる、この世界を。必ずや。
 この先にどんな壁があっても。この先にどんな障害があっても。


「それでも───────」










「それでも、僕は諦めない。世界を救うと決めたのだから」









   ──────熱狂(スタンピード)は、止まらない。

24人目

「嵐吹き荒れるトラオム」

――トゥアハー・デ・ダナン。

「――えっ!? ももこさんが!?」

 神浜市にいるやちよからの電話を受けたいろはの口から、素っ頓狂な声が漏れた。

『ええ。突然にね。本人はどうやってジェナ・エンジェルの元から逃げてきたのか、
覚えていないそうよ』

 バードス島にて、ジェナ・エンジェルが去り際に言った言葉を思い出す。

『その必要は無い』

 恐らく、あの時点でジェナはももこが逃げ出したことに気づいていたのだ。

『念のために、みたまの調整屋でももこのことを診てもらったけど……
特に異常は無かったわ』
「そうですか……」

 いろはは安堵の息を漏らした。これまでCROSS HEROESの一員として戦ってきたのは
ももこをジェナ・エンジェルから救い出すためだ。
思いもよらぬ結末だったとはいえ、目的を果たすことができたことは喜ばしいことだった。
だが、その一方で心の中に引っ掛かりが残る。

『ねえ、いろは。神浜に戻っていらっしゃい?』
「え?」

 やちよの提案にいろはは再び驚いた。

『あなたはよく頑張ってくれたわ。ももこも戻ってきたし、
何よりCROSS HEROESの戦いはこれからさらに激しくなるかもしれない。だから……』
「……」
『……ごめんなさい、急かしすぎてしまったようね』

 沈黙してしまったいろはの様子を察して、受話器越しのやちよもまた、
謝罪と共に押し黙る。

「いえ……ただ……」
『何かしら?』

「ちょっとだけ考えさせてください」
『分かったわ』

 いろははそう言うと、静かに通話を切った。

「……」

 自室に戻ったいろははベッドの上に横になると、仰向けになって天井を見上げた。
脳裏に浮かぶのは、バードス島での出来事。

「ピッコロさん……」

 いろはを叱咤し、共に戦った存在のことを呟く。
いろはにとってCROSS HEROESでの戦い方を教えてくれた師でもある。
その彼が今はいない。

「一体誰がピッコロさんを……」

 厳しくも、誰よりも強くて頼りになる人だった。
特異点に向かった悟空が信頼を置いていたのも理解できる。
そんな人が突如として姿を消してしまったことが、いろはに神浜へ戻ることを
躊躇わせていた。

(どうしてこんなことに……)

 同時刻、テッサは悟空がボロボロの状態で特異点から戻って来た事を知らされた。
さらにブルマが誘拐されたことも。

 完成型神精樹、クォーツァー、完璧・無量大数軍、モンスターの群れ、
そしてメサイア教団……特異点は想像以上に危険極まりない場所と化していた。

「せっかくDr.ヘルを倒したと思ったのに、これじゃあ素直に喜べないな……」

 甲児は眉間にシワを寄せると、深い溜め息をつく。

「悟空さん以外のメンバーは特異点に取り残されたままか……」
「ソウゴ……」

 オーマジオウの預言は的中した。嫌な予感がツクヨミたちの胸の内に去来する。

ーー西の都。

「それじゃあ、父さん。僕も行ってきます」

 悟飯はベッドで横になっている悟空に別れを告げ、病室を後にしようとする。
出撃の時だ。

「すまねえな……おめえには小っちぇぇ頃から苦労ばっか掛けさせてるってのによ……
痛ちちち………!!」

 源為朝の宝具によるダメージは魔力を伴うものであり通常の物理攻撃とは一線を画す。
直撃の瞬間、悟空は咄嗟に気を全開放して全身を覆うバリアを生成して
攻撃を相殺する事で何とか即死を免れたのだ。
とは言え、宝具によるダメージは治りが著しく悪く、
流石の悟空も療養を余儀無くされている。

「そんなこと言わないでくださいよ。僕は大丈夫ですから。
それに、僕は甘えていたんです。父さんやみんなが戦っている事も知らずに、
のんびりとしていたなんて……」
「平和で過ごせんならそれに越したこたぁねえさ。偉い学者になりてえって言ってたろ?」

「はい……でも、もう迷いません。僕もこの世界を守るために戦います」
「ああ。だが、無理だけはすんじゃねぇぞ? 今度の敵は今までのとは
訳が違うみてぇだからな……」
「わかっています。それじゃ」

 そう言うと、悟飯は病室の窓から飛び立つ。
彼の後を追うように空の彼方へ消えていく悟飯の姿を窓越しに見つめながら、
悟空はポツリと呟いた。

「頼んだぜ……悟飯……」

 しかし、悟飯はここしばらくトレーニングらしい
トレーニングも行っておらず、戦いの勘が鈍っているのは否めなかった。

(今の僕の力で何処までやれるか……駄目だ、こんな弱気じゃ。父さんが戦えない以上、
僕がやるしかないんだ……!)

 決意を胸に、悟飯はベジータの気を頼りにメサイア教団が待ち受ける
死滅復元界域トラオムを目指すのであった。

「ーーぐぎゃああああッ!!」

 メサイア教団の特使、クレイヴ。鼻の骨をへし折られて踠き苦しむ。

「てっ、てっ、てめへぇァッ……! この俺にィッ……!!
クレイヴ様の美しい顔にな、何してくれッ……」

 胸座を掴み、クレイヴを無理矢理に立ち上がらせるのは……
単身トラオムに突入してきたベジータ。

「さっきは世話になったな。拐った連中は無事なんだろうな?」
「ぐっ、ぐるじいッ……お、俺にこんな事じでッ……た、タダで済むと……」

「何だ? 聞き取れんな。もっとハッキリと喋れよ」
「うぎぃいいいッ……」
「ふん」

 クレイヴを投げ捨て、ベジータはトラオムの内部へと進んでいく。

「おっ、お前ら! 何ボーッと突っ立ってんだ!!
殺せ! そいつを撃ち殺せへァッ……!!」

「ーー!」
「ーー!!」

 銃火器を携えた雀蜂の軍勢が一斉にベジータへと銃口を向けた。
トラオム、早くも波乱必至の幕が上がるーー!

「けひ、けひひひ、絶対に生かしちゃ帰さねえぞ、ベジータちゃんよほォォッ……!!!」

25人目

「待ち構える3つの界域」

希望ヶ峰学園。
かつて未来をつなぐために作られた才能の蒐集。
それが今は。

「なんだあの壁?」
「数日前からずっとこんな調子なんだよ。」
「救援隊はどうなってんだ!救援隊は!クソッタレ!」
「この壁は何?もしかして爆破解体?」
「ないってそりゃ。」
「あの黒い壁の奥にはいったい何があるのか……。」
「なんか、ここ変な感じしないか?皮膚がむずむずする感じが……。」

周囲にはすでに壁を見たさに観客共が集まっている。
では、この奥はというと。



うおおおおおああああああああ!!!!
咆哮、発破、慟哭、雄たけび。

かつて学園だったものは魔術によって荒野へと書き換えられ、その中を無数の兵士が走っていく。
黒い壁の影響で違和感こそはほんの少し感じられるが、それでも外には影響は皆無。
そして、内側にいるキャスト___兵士たちは一兵卒というにはいささか強すぎる。

「宝具装填開始!順番は幻霊級、英霊級! 撃て!」
「迎撃せよ!こちらは英霊級前列一斉発射!中列は装填の準備を!」

「戦列を崩せバーサーカー!」
「させるか!シン復讐第1騎兵部隊 防衛!」

何という戦線。
一兵卒すべてが無名とて英霊。サーヴァント。

それが。

「希望界域、突撃!目標はシン・復讐界域!」
「しまった!希望界域の連中め!」
「絶望界域アーチャー部隊、抵抗せよ!」

トラオム中心にある巨大な山を中心に、3つの界域が内部で抗争を繰り広げている。


白黒の世界。乱立する都市だった廃墟群。
廃墟と湯山のゴミ山に一つ聳える、白い無機質な魔城。

「……前に。」

無名の英霊には、逆に不気味だった。
普通、戦場には無駄な感情はいらない。
情だの慈悲だの、そういった甘さは死へと直結する。
だからこそ、心を殺すほどの無機質さこそが勝利へとつながる。なのに。

「アーチャーは、深追いによる部隊壊滅。セイバーは戦場とは無縁の場所で見回りの雀蜂数人と遊んでいた。そしてキャスターは常日頃ライダーをいじめていた。___弁解を。」

「戦果を更に上げるために深追いしてしまいました。弁解の余地はありません。」
「補欠だったのでつい、遊んでしまいました。」
「だって、あいつやる気なかったし……。」

帳の奥、玉座に座る少年。
シルエットだけとはいえ、その髪はまるで白日に燃える太陽の如く。しかしてその奥にはどこか狂気を感じるような雰囲気を感じさせる。

「そうか。」

「「_____あ。」」

刹那、アーチャーとキャスターは見た。
セイバーがすでに、玉座の少年の指から放たれる光線によって消滅した瞬間を。

「補欠とて兵士が遊んでいい理由はない。」

びゅん。__2発目。
次はキャスターが霊核を撃たれ消滅。

「人をいじめるクズなど論外。___そして。」

「待ってください。私も……殺すのですか……?」

その命乞いもむなしく。光線が放たれる。
放たれた光線はセイバーの霊核に命中し、セイバーをこの世界から突き放す。

「ふざけてる……なぜ…こうも無慈悲に……!」

「___自部隊も守れぬ無能に用はない。」

無感情に少年は英霊を殺せる。
無慈悲。無残、残酷性十分。
その旗には白黒のエンブレムを。

我々こそが、絶望界域であるがゆえに。



ところ変わって、荒野の大地。
界域の境目を、巨大な大地の割れ目が妨害する。
ここを唯一通るにはその奥地にある山岳地帯を越えるか、巨大なつり橋を通るしかない。
まさに自然が作った巨大城塞。

そんな荒野の奥地、山岳の上に建てられた城。
その奥に、男が王として君臨していた。

「ランサー、アサシン。お前らが喧嘩していた兵士だな?」

「面目もございません。パラガス様。」
「激情にゆだねてしまった我々をどうか、お許しください。」

褐色の肌。痛々しく残る左目の疵。
白いマントに身を包み、依然ベジータ王家への復讐に身を窶す者。

パラガス。かつてサイヤ人として活躍をしていたのだが、息子ブロリーの戦闘力を恐れたベジータ王によってついには郎党追放の憂き目にあった男。
復讐を誓ったのも無理はない、と言えるだろう。

「分かった。しばらくの宝具封印を施せ。それで許すことにしよう。私は自室に戻る。」

掲げるエンブレムは紫と白。
一切の容赦を許さぬ絶望界域と比べると穏やか。

されど、昏い復讐を胸に秘め男は立つ。

「くそぅ。早く他の界域をつぶさなければ、メサイア教団との"約束"を果たせないではないか。」

シン・復讐界域。
大罪たる復讐を、新たに誓う者が集う界域。

「……失礼する。」

「おお、これはこれは黒き■■■■■■■■よ。どうかしたのかな?」

ローブに身を包んだ男は語る。

「斥候の報告によると、希望界域は先の絶望界域との戦いで壊滅状態になっている。後は聖杯と"鍵"をもらえば希望界域はこっちのものだ。」

この報告を聞いたパラガスは一考する。

「そうか。十神くんには早々に我々と協力したいだろうな。我々も戦力が増えるのはいいし、若い芽をつぶすほど鬼ではないからな。」

「それとパラガス。もう一つ報告が。」

そう言って、ローブの男は耳打ちをする。
パラガスは、ひどく驚愕して。

「まさか……ベジータが。」



草原に広がるのどかな空気。
森林とちょっとの都市の残骸。
とても戦場だったとは思えない空気。

その中心にある、小さい城。
というよりも、城としてはあまりにも矮小な旧校舎。

「……キャスター。報告を。」
「はっ、先日の戦いでの被害数値は全兵士1031人のうち英霊級4人。幻霊級12人。計16人の消滅を確認。」
「分かった、下がれ。」

生徒会室の中、少年が偉そうに足を組みながらキャスターからの報告を聞いている。

傲岸不遜にして冷静沈着。
壊滅した御曹司とて、心はくじけず。
最後にはコロシアイという絶望からも生還してしまった。

希望ヶ峰爆破の傷は浅かったもののその傷は未だ癒えず、右腕の三角巾と車椅子がその惨状を物語る。
彼の名は十神白夜。

掲げる界域の名は「希望界域」。
緑と黄金のエンブレムを旗に描き、曇らぬ瞳が依然耀く。

少年は、ふとつぶやく。

「……早くここへ来い、俺の知る限りここだけがお前らの希望だ……外よりの英雄共。」


~トラオム前 壁付近の路地裏~

デュマに渡された、ショットガン型の改稿兵装を持った少女__江ノ島が壁の前に立つ。
その横には、教団を追放されたデミックスが待っていた。

「待ってたよー。」
「うるせぇ、早く行こうぜ。」

デミックスは自身の武器である水のシタールを手に持ち、壁の前の穴に入っていく。
「早く行こうよ。」

江ノ島は、少し深呼吸をした後。

「それじゃあ行きますか。トラオム。」

覚悟を舌をペロッと出す笑みで決めて、江ノ島は今贖罪の戦いへと挑む。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ReWrited Record 人理定礎値:ERROR

A.D.20XX  死滅復元界域 トラオム

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      或る女神の善と悪

26人目

「捕らわれの山猫達」

信頼とは何か、と問われれば、様々な論争や議題が飛び交う事になるだろう。
仕事の成功率であったり、依頼主からの信頼度だったり、本人やその人脈の持ちうる能力だったり。
人によっては金品や女といった分かりやすいモノを答える者もいるかもしれない。
或いは、それ等全てを差し置いた人格や性格、生き様そのものだったりするだろう。

だが何よりも信頼されるということは『この者であれば大丈夫だろう』と、無条件に信用されるに値する何かを持っているのだ、
信頼に値する人物像とは総じて何かに極めて秀でており、凡そ常人が持たざる何かを有しているものだ。
それが例え非人道的な手段だとしても、結果を出してしまえばそれはもう肯定されるのだ。
だからこそ、そんな人間の凶報は応報にして受け入れがたく、やっとの事で飲み込んだ上でこう呼ぶのだ。
異常事態だと。

「カズ、何かの間違いではないんだな?」

寝耳に水、とはこの事か。
配下を通して届いた一報に、普段のポーカーフェイスは何処へやら。
普段は内に秘めている情緒さえを剥き出して、何かの間違いであって欲しいとさえ願う様は、正しく彼の焦燥が見て取れる。
それ程までに彼、スネークにとっては予想外の情報であり、天地がひっくり返るよりも信じ難い出来事であった。

「戦線に居る部下から届いた、確かな情報だ。誘拐されたんだ、アイツ等が…オセロット達が!」

そう答える彼も些か平静さを失っている様子ではあるが、それでも自身の役目を全うするべく淡々と返答をする。
だが彼の内心もまた、想定外の事態に直面したソレに等しい。
それほどまでに、誘拐された男に一人、リボルバー・オセロットという人物の信頼は根付いていた。
故に、ダイヤモンド・ドッグズのトップたるカズヒラ・ミラーや、嘗てBIG・BOSSと謳われたスネークにとってでさえ、決して無視できない問題であると言える。

「あいつが好んで誘拐されるとは思えん、余程の事があったに違いあるまい。」

オセロットと言えば、その卓越した技術や知識を持ってしても尚、その存在は未だ謎に包まれている。
それに加えて彼の生い立ちや過去は誰にも知られておらず、その素性や素顔を知る者はごく僅かな存在しかいない。
更に言えば彼自身も自分の正体を語ろうとせず、その経歴は謎が多い人物でもあった。
加えて言うならば、彼の所属する組織や立場に関しても一切不明。
唯一解っていることは、スネークの知る得る限りの中でも極めて特殊な立ち位置に属しているという事のみ。
そんな謎の多いオセロットだからこそ、スネークは彼の安否を心配せざるを得ない。

オセロットとの関係は複雑怪奇の一言に尽きる。
嘗ての冷戦下における極秘ミッションから始まったソレは、初めはただ相対するだけの敵対関係だった。
しかし、同じ戦場を経験した事でお互いを認識し合う機会を得た。
そしてお互いがそれぞれの死線を潜り抜けた中で、彼はいつしかのスネークの背中を追い求め、心酔する間柄になった。
先の病院における騒動では、共に窮地を乗り越える事によって、確固たる絆が結ばれていた。
そうして気付けば奇妙な縁とも呼べる物が出来た彼が今、何者かの手によって誘拐されてしまった。
当然の事ながらスネークの心中も穏やかではない。
彼を焦燥に駆らせたのは、オセロットの誘拐という事実一つだった事には相違なかった。

「それだけじゃない。ブルマ博士やウーロン…つまりメタルギアまでもが、だ。」
「あぁ、核が奪われた訳だ。」

無論、サヘラントロプスやそれを駆るウーロン、ブルマ博士といった面々も誘拐された事実は非常に遺憾である。
ドラゴンワールドに名立たる名博士ブルマが攫われたのは勿論重大な異変であり、彼女ほどの技術力がテロリスト或いはそれに準じる者に渡るのは避けねばならない事は、言うまでもない。
そして何より、ソ連製のメタルギア・サヘラントロプス。
核兵器という、この世界において最大級の禁忌の存在さえもが強奪されている。
名立たる博士と最新鋭の核兵器、そしてテロ。
最も組み合わさってはならない存在だ。
世界の秩序を脅かしかねない最悪の事態、一刻を争う状態と言えよう。

「それに、ウーロンもだ。あのメタルギアの強さは、ウーロン無くして成り立たない。」
「あぁ。ただの少年兵では、アレほどまで扱いこなす事は出来ない。それにウーロンの事だ、脅されたりすれば従う他無いだろう。」

そこに拍車を掛けるのが、ウーロンという如何様にも変化でき順応できるという天性の素質を持つ、人型兵器の運用には持って来いの人物だ。
前者二つならまだしも、ウーロンまで加わればスネークとて止められる自信は無い。
その戦闘力の高さは、スネークとて間近で痛感している。
拉致された面々に対して、今のダイヤモンド・ドッグズの戦力を鑑みれば、戦力不足は否めない。
だからこそ、スネークとカズの両名が焦燥に駆られるのも無理はないのだ。

「…カズ、どうする?」
「そうだな…ブルマ博士が攫われたんだ、その夫のベジータ氏も黙ってはいないだろう。」

事実、既に事態はスネークの想定以上に深刻化しており、ベジータもまた動き出している。
だがそれでもカズヒラはまだ冷静さを保ち、淡々と会話を続ける。
そうして彼の言葉を聞き、暫く思案する素振りを見せた後、何かを思い付いた様子で語りだす。

「そこから悟空氏か御飯氏経由で、CROSS HEROESに召集が掛かる筈だ、そこに乗っかろう。」

そう答えるカズは何処か確信めいた表情を浮かべ、力強く拳を握る。
確かに、彼等にはその道しか残されていないのかもしれない。

「…利用する様で気が引けるが、今の俺達には、それしか手掛かりが無い。何、交渉は任せてくれ。」
「カズ。」

利用だのの汚名を被るのは、自分一人で十分。
そう自嘲するカズヒラに、スネークが待ったを掛ける。
その先の言葉を、カズヒラは分かっている。

「俺も頭を下げる覚悟だ、一人で抱え込むな。」
「ボス…!」

やはり、と。
今までどんな時でも彼は、常にスネークに護られ続けてきた。
その事がカズヒラにとって複雑で、しかし今も尚心強く、そして嬉しかった。

「ありがとう、スネーク。なら早速だ、準備に取り掛からせて貰うぞ。」

そうして二人の男は固く握手を交わし、共に決意を固める。
その固い意志の元、CROSS HEROESの元へと足を進めた。

(…しかし、ブルマ博士やメタルギア、その操縦士はともかく、何故オセロットまでもが?)

その道中でふと抱いた疑問は、CROSS HEROESとの対面までには失せていた。

27人目

「復讐するは我にあり! パラガスの影!」

「あれか……! 父さんが言っていた、CROSS HEROESの潜水艦……」

 悟飯は上空から航行中のトゥアハー・デ・ダナンを発見した。
気のオーラを発散し、弧線を描いて甲板へと降り立つ。

「悟空さんの……息子さん?」
「はじめまして。孫悟飯と言います。よろしく」

 いろはと握手を交わす悟飯。お互いに情報交換を行う。

(やっぱりお父さんに似てるなぁ……)
「……そうですか。ブルマさんのみならず、ウーロンさん……
それにピッコロさんまで……!」

 優しげな好青年かと思われた悟飯の表情に、激しい怒りを湛える。

「ピッコロさんとはお知り合いなんですね?」
「えぇ。僕の師匠であり、誰よりも尊敬している方です」

 悟飯の瞳を見ればわかる。その言葉に嘘偽りはないということが……。

「ピッコロさんには私も大変お世話になりました。
「彼らを助ける手助けをさせて欲しい」
「ありがとう。助かるよ。きっとみんなを救い出そう」

 月美、ペルフェクタリア……ピッコロを師事する者たちの姿に、
悟飯は誇らしげな気分になる。

(やっぱりピッコロさんは凄いや。こんなに多くの人に慕われていたんだな)

「孫悟飯氏からの情報だ、スネーク。ブルマ博士を取り戻すために先行した
ベジータ氏を追う事になった」
「そうか……」

 カズヒラ・ミラーからの通信を受けたスネークは決断する。

「オセロットやウーロンもそこにいるのか?」
「可能性は高い。スネーク、頼むぞ」
「救出任務か。俺の潜入技術が役に立てばいいがな……」

 トゥアハー・デ・ダナン、そしてダイヤモンドドッグス。
囚われの仲間たちを救うため、トラオムへとその針路を進める……

――トラオム・入口付近。

「つあああああああああああああああああッ!!」

 ベジータの鉄拳が雀蜂部隊を薙ぎ払う。
特殊防弾ジャケットがまるで役に立たないほどの衝撃を受け、吹き飛ばされていく。

「くそっ! 撃てっ! 撃てーっ!!」

 全方位からのマシンガンの一斉掃射。だが、その全てが空を切る。
銃弾の軌道を読みきり、全て回避していたのだ。
弾丸を回避しつつ、一気に距離を詰めるベジータ。そして、回し蹴りで敵を一掃していく。

「はああああああああッ!!」
「うぐおわあああああああああああああッ……」

 圧倒的戦闘力の差を見せつけられ、敵兵たちは戦意を喪失しつつあった。

「つ、強い……! サーヴァントでもないはずなのに……」
「本当に人間なのか、こいつ!?」

「チッ! まったく数だけは一丁前にウジャウジャといやがる……雑魚どもめ……」

『なかなかやるではないか、ベジータ!』
「!?」

 突如響いた声の主を見やる。それはホログラフィによる立体映像だった。
映し出されているのはトラオムの3大界域「シン・復讐界域」に属するパラガスだ。

「誰かと思えば貴様か……ナッパと言い、貴様と言い、
会いたくもない奴とばかり会うものだ」

 ベジータは不機嫌そうな表情を浮かべた。
その態度が気に食わなかったのか、立体映像のパラガスは怒りの形相を見せる。

『ぐぬぬぬ……!!』
 
 そして、次の瞬間には凄まじい殺気を放ちながら言った。

『俺の復讐の念が、このトラオムの大地に宿ったのだ! 貴様らベジータ王家への恨み、
ここで晴らしてくれるぞ!!』
「知った事か! どう言うカラクリなのかは知らんが、そんなに地獄を見たければ
望みどおりにしてやるぜ!」

 パラガスの立体映像に向かってエネルギー波を放つ。宣戦布告だ。
立体映像をすり抜けて、背後の岩山が吹き飛ぶ。

『ふふ。まあ、せいぜい頑張る事だな……』

 捨て台詞と共に、パラガスの立体映像は消え失せていった……

28人目

「幕間:武道という超人、丸喜という人」

「ニャガニャガ、全く煙たいったらありゃしませんねぇ。」

樹々の隙間から垣間見える、延々と塵楳と火の手が立ち昇る光景。
そこに尚も矢の降り注ぐ光景は、まさに世界の終焉と呼ぶに相応しく。
しかしそんな景色も今や、彼にとっては最早ただの風景と化しているようだ。
あまつさえ笑い混じりに見やるとは、慣れとは実に恐ろしいものだ。
いや、そもそも"この程度"が世界の終わりならば、これから彼等が行う事は世界の始まりとも呼べる程の事なのだろう。

「さて、閻魔サマに起こられる前に、ちゃっちゃと済ましちゃいましょう。」

そんな事を考えながら、彼、グリムリパーはゆっくりと、その巨体を以てして手にあり余る数の果実が入った袋を運んでいく。
彼の周りのマントを被りこんだ者達もまた同様に、何処か楽しげであった。
これから行われる事、そしてこの先に待っているものを考えたなら、それも当然の反応だろう。
そうしている内に、彼らは大樹の奥底に座する山へと辿り着く。
これより先は、完璧超人の領域。
故にずけずけと踏み込む彼等もまた完璧超人であり、そんな彼等だからこそ、この場への出入りを許されているのだ。
そしてその中へ踏み入れれば、先程までの雑踏とした空間からは一変して静寂に包まれた世界がそこにはあった。
その様はまるで別世界であるかのような錯覚さえ感じさせるが、それを成しているのが、視界一面に広がる太古からの遺跡の入口。
名を、黄泉比良坂(よもつひらさか)。
通称『裁きの門』と呼ばれる、完璧な者のみが訪れるとされる場所。
そんな遺跡の入り口には、今は門番は居ない。

「彼にも困った物ですねぇ、己の役割を放棄等と…」

姿の無い彼を、どこか冷笑するかのように吐き捨てるグリムリパー。
しかしその言葉とは裏腹に、彼自身の表情もどこか笑みを含んでいた。
それは嘲笑といった類で、自嘲する様な声色も混ざってて…

「グリムリパー。」
「おっと、いけませんねぇこんな所で考え事等。私らしくも無い。」

背後より響く声に、ふと我に返る様を見せるグリムリパー。
大袈裟に肩を竦めて、やれやれといった有様を見せる彼の心情を推し量る術は無い。
ただ彼自身の行動とそれが引き起こす結果が全てである。
だからといってそれが何を意味するのかといえば、それすらも意味を持たないのかもしれないが。

「さて、お望み通り持ってきましたよ、丸喜サン?」

そうこうしている間に、目の前に現れた一つの人影が彼に声をかける。
無論、彼の知る人物、丸喜拓人その人なのだが。
そんな彼は、普段通りの優しげな風貌を見せながらも、どこか暗い感情を押し殺したような面持ちで何処か遠くを見つめていた。

「あぁ、ありがとう、グリムリパー。」

その礼の言葉と共に、呼応して扉が開かれていく。
その奥にあるものは、全てを知り尽くした彼にとっては、もはやどうでもいいものである。
故に、彼の視線の先へと話題が移るのは必然だった。

「お礼は目と目を合わせて言う物ですよ丸喜サン、そんなに彼が心配ですかね?」

彼が見つめる先には、先と同じく、立ち昇る塵楳に包まれた戦場跡地。
時折爆炎を上げるそこは、正に煉獄と呼ぶに相応しい光景だ。
だがそれでも、尚も続く戦いの音は止まず。
今この時、地獄のような戦渦の中心で、彼が、武道が戦っている。

「…済まない、どうもいてもたってもいられなくてね。」
「貴方らしくも無い。それに彼なら勝ちますよ、ニャガニャガ…」

そんな彼の心中など、知ったことではないと言わんばかりに嘲笑うように返すグリムリパー。
それは彼なりの気遣いなのだろう。
誰よりも、何よりも強い彼が、その強さ故に負ける事なんてあり得ない。
そして同時に、誰よりも優しい彼が、そんな相手に傷つく事さえも無い。
それを分かっているからこそ、彼、グリムリパーは余裕を持ちながら見守れるのだろう。
その筈なのに、どうしてか今日に限って丸喜は胸騒ぎを感じてしまう。
まるで何かを見逃しているかのような、言い知れぬ不安感。
そんな矛盾する想いに苛まれながら、再び視線を向ければ、その瞬間、武道の姿が現れる。
否、正しく表現するならば、戻ってきたと言うべきか。
だが、その姿は。

「…グロロ~、戻ったぞ丸喜。」
「あぁ、武道…武道、その傷は…?」

無事というには余りにも煤に塗れたその姿。
無傷というには程遠い、傷だらけの身体。
ボロボロになり、満身創痍な姿で佇む武道を見て、思わず動揺を隠せない様子の丸喜。
そんな彼に、ただただ淡々と語る様に、武道は語る。

「気にするな、丸喜。ただの、気まぐれだ。」

丸喜は知らない、武道が何をしてから、戻ってきたか。
戦場だった渦中で倒れ伏す、"火傷の跡無きテリーマン"の姿のみがソレを知るだろう。
その先を語る必要も無いと言わんばかりに、武道は何食わぬ顔付きで歩く。
彼からすれば軽傷なのだろう。
確かに、見た目の割にのダメージは負っていないように見える。
だがしかし、それはあくまで見かけ上の話。
例えそれが些細なモノであったとしても、積み重なれば致命的となり得るのが道理である。
だからこそ、丸喜はその腕を伸ばし、その手を握り締める。

「大丈夫かい?武道、痛くないのかい?」
「平気だ、こんなもの…」
そう言いかけて、一瞬、言葉を詰まらせる。
彼が握り締めた手の痛みに耐えかねて、表情が歪んだのだろうか。
それとも…

「…いや、良い。それよりも早く、終わらせるとしよう。」

彼は思う。
彼の下等超人の、正義超人の生き様を。
そして、己の力の在り方を、その身に宿した力の意味を。
だが、彼の進むべき道は既に定まっていたのだ。
故に、彼の道筋に迷いは無く、彼の答えは決まっている。
だからこそ、あれを聞いたのは。

_何を支えに立ち上がる!答えろ!!

「…気の迷いだ。」
「?」
「何でもない。」

二人は進む、遺跡の奥底へ。
彼等の望む研究の在り処へ。
その背中を、心中穏やかではない顔つきをしたグリムリパーが見守っていた事は、誰も知らなかった。



「ほう、あれが今のミサイルの元凶か。」

特異点上空、遥か彼方にて浮かぶ超人が一人。
誰あろう、ネメシスである。
彼の視線の先は、ミサイルの軌跡の大元へ。
そこ鎮座するは、ヘラクレス・メガロス。
先と同じく戦闘機構となり果てた英霊の成れ果て。
だが、戦闘機構も人間も、彼にとっては分別は無い。

「これ以上、暴れられては困るのでな!」

彼は駆ける、特異点の空を。
その先に居るメガロスの元へと。
死闘は、尚も続く。

29人目

「ポイント・ユグドラシル④東方仗助! キラキラのアーチャーと出会う!」

「どぉぉっらしゃああああああああああああいッ!!」

 野太い声が響き渡る。赤、青、黒の3色カラーで彩られたツインテールの髪を振り乱し、
涅槃仏の構えで空中を横スライドしながら飛び込んでくる少女が、肘鉄一閃。

 セーラー服と着物をミックスさせた独特の服装と言い、
きらびやかな装飾具の数々といい、明らかに普通の女子高生ではない。

「ぐぎゃあああッ!」

 山賊Aが悲鳴を上げる。その脇腹に少女の肘が突き刺さっていた。
そのまま、ぐるんっとコマのように回転したかと思うと、
今度は蹴鞠をボレーシュートで打ち出してみせた。

「うげぇええ……ッ!?」

 山賊Bは顔面に直撃を食らい、仰向けに倒れ込む。

「へっへーん、いくらあたしちゃんが魅力的だからって、
追い剥ぎキメる相手を間違えちゃったね~♪」

 腰に手を当ててふんぞり返る少女。しかし、その背後から忍び寄る影があった。

「このアマぁ! よくもやってくれたなぁ!」
「きゃあっ!」

 山賊Cが、両手で少女の首を掴み上げたのだ。

「ぐげげ……」

 少女の顔色がみるみるうちに赤く染まっていく。

「おいおい、女の子1人相手に随分と卑怯じゃねぇか」

その言葉に、山賊たちは一斉に振り向いた。長身の学生服の男……

「うるせぇ! お前には関係ないだろうが!」
「そうだぜ兄ちゃん、すっこんでろよ!」
「そいつはもう、俺らの獲物なんだからよぉ! 変な髪型しやがって!」

「あァ……!?!?」

 瞬間、大地を揺るがさんばかりの殺気が辺り一面に立ち込める。

「てめえ……今俺の髪型のことなんつった?」
「ひっ!?」

 山賊たちが恐怖に顔を歪めた。それは比喩ではない、少女の首を掴んでいた山賊の顔面が
本当に何かに殴られたかのように陥没し、血飛沫を上げながら弾け飛んだからだ。

「げぇーっほ、げほげほ……油断しちった……え?」

 解放された少女が咳き込みながら跪く。

「今、何か見えた……」

 少女にはその現象の正体が見えていた。
学生服の男の……東方仗助の背後に立つ何者かの姿を。
どうやら山賊たちには見えていないらしい。

「い、一体何が……」
「俺の髪型がハンバーグみてェだとォ~~~ッ!?」

 怒り心頭の仗助が再び拳を振り上げる。

「ヒィイイッ!  い、言ってない! 誰もそんなこと言ってません!」
「嘘つけコラァアアッ! 確かに言ったろうがァ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 謝る! 謝るからァァァァッ……!」

 瞬く間に山賊を全員叩き伏せてしまった男を見て、 少女は呆然と立ち尽くしていた。
だが、ハッと我に帰ると慌てて駆け寄ってくる。

「あの~、助けてくれてありがとね」
「おう、気にすんなって。それより怪我はないか?」

「うん、大丈夫。あたしちゃんは清しょ……あ~、じゃなかった。
『キラキラのアーチャー』とでも呼んどいて」

「へ? なんじゃそりゃあ?」
「だから~、通り名みたいなもんよ。それか~、『なぎこ』でも良いよ」

「そっか。そっちのが分かりやすいや。俺は東方仗助。
アンタもこの特異点に迷い込んだってクチかい?」

「え? 特異点? どうしてそれを……」
「やっぱりそうなのか! 実は俺たちもそうなんだ」

「え~ッ! マジ!? 仲間じゃん! やったね!」

 なぎこと自称した少女は満面の笑みを浮かべてハイタッチした。

「ところでさっきのは何だったの? 背中になんか居なかった?」
「ああ、あれは俺の能力だぜ……って言うかアンタ、見えるのか。俺の後ろにいる奴を」

「能力ってことはサーヴァントってヤツ!? マジ!? 凄くね!?」

「さーばんとってなんだ?」
「え~っと、簡単に言えば英霊を召喚して使役するって感じかな~」

「えーれい。しょーかん。
へぇ……よく分かんねーけど、俺のは『スタンド』って奴さ。
普通の人間には見えないって聞いてたけど……」

 仗助は完成型神精樹の出現後、各地を回って
自分と同じように特異点に取り込まれた人々を助けて回っていた。
中には先程の山賊のように悪事を働く輩もいるため、
こうして出会う度に懲らしめているのだ。


「あたしちゃんも、この特異点をどーにかするために来たんだけど、
どうやら仲間とはぐれちゃったみたいで……」

 なぎこの言葉を聞いて、仗助は少しだけ胸を痛めた。
この少女もきっと、自分のように 元の世界に戻りたいと思っているに違いない。

「そうか。そりゃ大変だったな。良かったら俺たちと一緒来ねぇか?」

「おー! そりゃ助かる! よろしくね、ジョジョ! 
『じょうすけ』だから、ジョジョね!」

「はは、なんだそりゃ。おもしれー奴だな」
「グレートだぜィ、ジョジョ!」

 くしゃっと笑うなぎこにつられて、仗助もまた笑顔を見せた。

(ちゃんマスとはぐれてどーしようかと思ってたけど、ラッキー!)

 彼女の真名。アーチャー:清少納言。
それは遥か昔、日本で最も高名な女流作家の名前である。
彼女もまた、カルデアからやってきたサーヴァントの1人だった。

30人目

「紡がれる終演のAfterword」原文:AMIDANTさん

 ――争いにおける、決着の定義とは何か?

それは、相手の死だったり、降参だったり、目的の達成だったり、
因縁に終止符を打つ事だったり。
いずれにしろ、決着という物には勝利という概念が付き纏い、決して離れないものだ。
或いは、復讐の連鎖を止め得る献身だったりするかも知れないが、今はさておこう。

 であるならば、CROSS HEROESの勝利とは何か?

 それは、無論、自分達の目的――即ち、この世界から争いの種を取り除き、
世に平穏を齎す事に他あるまい。
では何故、彼等は敢えて戦火の口火を切って渦中に飛び込まねばならなかったのか?
理由は単純明快。
それこそが世の平穏を掴み取る最短にして最大、かつ最善の手段だからだ。
少なくとも、当時における決着の定期がソレであった事には、真実と相違無かっただろう。
生きる事は戦う事は同義と言うが、彼等はまさしくその言葉通りの戦いぶりであった。

 だが、彼等の戦いの果てに辿り着いたものは、決着と言うには余りにも
不可解な物であった。



 バードス島を発端とした、CROSS HEROESとDr.ヘル一派の頂上決戦。
後にバードス島事変と呼ばれる、一世一代の大戦争。
初めは全ての因縁に、終止符を打つ為に。

ナースデッセイ号が。
トゥアハー・デ・ダナンが。
大御所が、鎌首揃えて揃い立つ、これぞ正しく、聖戦の列。

 しかし往々にして策謀とは張り巡らされる物であり、
それによって聖戦も長期化すれば、否応なく消耗戦となる。
例えば、ジェナ、エンジェルの存在。
彼女の降臨は思わぬ因縁との遭遇を意味し、オーガマンなる悲劇の存在をも生み出した。
そして疲弊した所へ付け入られる様にして、彼等は窮地へと追い込まれていった。
だが、それでも尚、諦める事無く抗う者達がいた。
それは例えば、鬼の宿命を絶たんとする正義五本槍であったり、
ただ友の為に全てを捧げられる魔法少女達であったり。

 かくしてこの争いは熾烈を極め、双方共に多くの血を流す事となる。
しかし、それでも尚、両者は一歩も引かずに戦い続けた。
戦場は血に染まり、血で血を洗う様な激戦は、しかし最後はあっけなく決着が付いた。

 満を持して現れた、Dr.ヘルの駆る地獄王ゴードン。
かつて地球を征服せんとした怨敵の出現により、戦況は大きく傾くかに思われた。
これに動いたのは、意外にもDr.ヘルを裏切ったあしゅら男爵である。
彼は己が宿命を果たす為、彼の地獄王ゴードンに策略を仕組み、
その完全性に罅を入れてみせた。
かくしてCROSS HEROESは見事これを討ち取る事となる。
だが、真の意味でこの戦いに幕を引く者は、いなかった。
宿敵を討ち果たす事で終結する筈だったこの戦争は、サヘラントロプスという核兵器と、
それにまつわる各要人の誘拐という異変にて新たな戦いの幕を上げる事となったのだ。

 暗躍するは、人造人間21号。そしてメサイア教団。

次なる段階(うんめい)の地は、トラオム。
争いの幕は、未だ降りそうにない。



 特異点を発端とした争いは、源為朝とヘラクレス・メガロスと呼ばれる、
メサイア教団の一派による策略が全てを決めたと言っても過言では無い。
灰燼に染まる戦場、爆炎吹き荒れる大地。
CROSS HEROESの、事実上の敗北。

 だが、カルデアや特異点に残された各々の正義を信じ戦う存在が、
まだ今もここに居る事も確かである。
希望の芽は、未だ摘まれず。

「イテテ…大樹の中に落ちてしもうたわい。」
「大丈夫か、ジョーカー?」
「問題無い、それよりも…」
「あぁ、ワガハイ等、完全に孤立しちまったな…ん?おい、ここって…」
「な、なんじゃこの遺跡は!?」

 そして、ここにもまた。
場の名を、黄泉比良坂(よもつひらさか)。
既に人気の無い裁きの門は、既に誰かの手によって開かれていた。

事態は、新たなる段階へと進む…