嘘と本当

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1人目

謙虚に生きると決めた矢先目の前の羊がおれ様にこう言った。
「嘘つきのオマエは今日からぼくの敵だ。今まで信じてたのに。よくもまああんな嘘を言えたもんだな。ホラを吹いてなにが楽しいんだよ」
そう言うと羊は目を涙で濡らし、もこもこの毛をぎゅーっと握りしめるとおれ様を睨んだ。
謙虚に切実に生きると昨日の夜決めて今までの事が嘘だったと告げるつもりだったがそれは何もかもが手遅れだった。
うまくいくと昨夜ベットの中で期待に膨らませていた胸は今は萎んだ風船のように縮んでしまっている。
「狼のオマエは結局ぼくの事を馬鹿にしていたんだ」
その言葉におれ様は反射的に言葉を発した。

2人目

「違う!! お前はおれ様が狼だから信じてないだけだ!!」
感情的になって、ひどいことを言ってしまったと思う。だがそれは、おれ様が心の奥底でずっとずっと感じていたことだった。
狼だから悪いことをする、狼だから独りでいる、狼だから……。
そう言って皆が好き勝手言ってきた。子供の頃からずっと。
羊は先入観無しで接してくれた、唯一の存在だったというのに。
自業自得とはいえ、おれ様はその唯一を失おうとしているのだ。
後悔と失望が入り混じり、複雑に絡み合った心を、おれ様は一体どうすれば良かったのだろうか。

3人目

「狼だからとか関係ないでしょ!オマエはぼくの事どう思ってたの、どうしてこんな……」
そう言うと羊はとぼとぼと自分の家の方角へと歩いていった。
おれ様は羊の後を追おうとした。
でも足が動かなかった。
かける言葉が…。
おれ様の口から出る音の意味が……。
あいつに伝わる自信がなかったから。
嘘ってもんは本当に厄介なものだ。
一度信用を失えば全部が全部真逆の意味で伝わっちまう。
あいつの中のおれ様がどれ程のものになってしまったのかもわからねえ。
その事がとても怖い。
おれ様が……、いやおれがあいつに言える言葉なんて、もしかしたら存在しないのかもしれない。
もう取り返しのつかない所まで来てしまった。
おれはその場を動く事もできず。ただカカシのように突っ立っていることしかできなかった。