プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:12

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  • CROSS HEROES reUNION
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1人目

「Prologue」

 特異点の乱戦の最中に放たれたメサイア教団の刺客・源頼朝の宝具。
運悪くその直撃を浴びる格好となった孫悟空は重傷を負ってしまった。
そこへ同じくメサイア教団の射手、エミヤオルタが出現。
動けない悟空に無慈悲にもトドメの銃口を向ける……
だがその時、悟空とエミヤオルタの間に一人の青年が立ちふさがった。
その青年の名は、シャルルマーニュ。十二の騎士を束ねる、王勇の剣士だ。
さらに「抑止の守護者」ことXIII機関のNo.10、ルクソードの能力によって
悟空はリ・ユニオン・スクエアへと帰還を果たした。
バールクスに敗れた常磐ソウゴ、逃走を試みた空条承太郎やゼンカイザー、
完璧超人たちと交戦していたテリーマンら正義超人と言った
特異点に残されたCROSS HEROESの面々の消息は分からぬままに……

 バードス島を舞台としたDr.ヘル軍団との戦いは最高潮を迎えていた。
不退転の構えで最終最後の秘密兵器、地獄王ゴードンを起動させるDr.ヘル。
戦場に乱入した完全体セルのパーフェクトかめはめ波を
防護障壁・フィンガーバリアで防ぎ切り、ウルトラマントリガーやゲッターロボ、
マジンガーZをも凌駕する巨体を持つゴードンの威容を前にして、
CROSS HEROESは絶体絶命の危機に立たされてしまう。

 ウーロンの操縦するサヘラントロプスとピッコロの共闘。
混沌とした戦場の中心でまるで熱狂に包まれたカーニバルのような愉悦に浸る
ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
そして拡大を続ける戦火は、メサイア教団の注目を集めた。
彼らの目的。それは各地から集めた兵器を使って複数世界規模の戦争を
起こそうというものだった。
皮肉にも、CROSS HEROESの存在がその企みを加速させてしまったのだ。

 意外な伏兵・ウーロンの機転と、鍛錬を重ね続けたピッコロの連携が
ついに完全体セルを追い詰めたその時、レッドリボン軍の新たなる人造人間・21号が
セルをお菓子の姿に変えて捕食。
さらにメサイア教団の幹部・シグバールが出陣。
ピッコロ、サヘラントロプスに乗ったウーロン、ブルマ、リボルバー・オセロットらを
連れ去ってしまう。

 けれども状況は止まってくれない。地獄王ゴードンは尚も暴走を続け、
CROSS HEROESは窮地に陥る。そんな中、あしゅら男爵の裏切りによって
ゴードンの内部で大規模な爆発が発生。
その隙を突いて、甲児はマジンガーZ最大最強の必殺技「ビッグバンパンチ」を放ち、
ついに地獄王ゴードンを撃破することに成功する。

 全長3000メートルと言う途方も無いゴードンの巨体が海に横転する事で生じた大津波が
バードス島全土を呑み込もうとする。各地で展開していた激闘も、因縁も、策謀も、
すべてが水底へと消えてゆく……。

 ジェナ・エンジェルの拠点に暁美ほむらが侵入し、十咎ももこを奪還したとの報を受け、
ジェナは新たな同盟者、アルターエゴ・リンボと共に撤退。
あしゅら男爵の裏切りに加担していたドフラミンゴ、安倍晴明、スウォルツらの行方も
不明のまま……かくして、戦いは終わりを迎えた。
バードス島の大地に刻まれた傷痕は深く、その代償もあまりに大きかった。

 メサイア教団によって妻・ブルマを誘拐され、
単身彼らの拠点である希望ヶ峰学園跡地改め、死滅復元界域トラオムへと赴くベジータ。
重傷を負った悟空に代わり、平和な生活を返上して戦線へと復帰する孫悟飯。
バードス島の戦いから休む間もなくさらわれた仲間たちの救出作戦に向かう
トゥアハー・デ・ダナン。

 目指すは、トラオム。復讐・絶望・希望の三界域に分かたれた、地獄の具現。



【ポイント・ユグドラシル】

 孫悟空ら、CROSS HEROESの派遣部隊が機界戦隊ゼンカイジャーの
サポートメカ・セッちゃんの能力によって特異点へと突入したのと時同じくしての物語。
完成型神精樹がそびえ立つ大樹海の中で、コードネーム「ユグドラシル」と命名された
神精樹を取り巻く各地へ散開したカルデア一行のマスター・藤丸立香と
サーヴァントたちの戦い。

 上空から偵察を行う理性蒸発の騎士、アストルフォ。
ジオン族のモンスターと戦うロマノフ王朝の皇女、アナスタシア。
勇者を目指すエリザベート・バートリー【ブレイヴ】。
恋の炎を燃やす狂乱の竜、清姫。
単独行動中に山賊に襲われている所を、特異点の各地を巡り人助けをしていた
スタンド使い・東方仗助に救われる「キラキラのアーチャー」清少納言など、
多くの英霊がそれぞれの戦場で戦っていた。



【異聞・聖杯戦線───STAMPEDE───】

 ロロノア・ゾロ、宮本武蔵、サイクス、罪木蜜柑・オルタ、トランクス。
CROSS HEROESやカルデアを始めとする既存の組織に属さない、
「第三勢力」として暗躍する者たちの影があった。
大海賊時代にその名を轟かす剣豪、特異点を巡る争いを解決する者、
歪んだ歴史を正す者、人類史を護るために召喚された者など
その出自は多種多様であった。

 罪木オルタ対仮面ライダーザモナス。
ロロノア・ゾロ対クリストファー・ヴァルゼライド。
ヴァルゼライドの居た世界に満ちたエネルギー源・星辰体(アストラル)の存在を
垣間見る丸喜拓人。
正義超人との戦いを経ても今なお最強の存在として君臨し続ける超人閻魔――
もとい、ストロング・ザ・武道。

 ここでもまた、世界の壁を超えて展開される終わらない”熱狂(STAMPEDE)”の嵐が
吹き荒れるのであった……

2人目

「堕ちた神精樹、戻る世界」

_先刻まで、特異点を埋め尽くし、その根を大地という大地に犇かせ、空をも覆い尽くさんとした樹、神精樹。
それは神のみが扱い食す事の許される実が成るという、俗世において許されざる世界樹。
一度(ひとたび)植えればたちどころに母なる大地を吸い尽くし、星の命尽きるまで成長を止めることの無い、星喰いの樹。
それこそが、無数の世界と繋がり合わんと押し寄せてくる特異点に現出した大樹の正体である。

「…グリムリパーよ、どうした?」
「ニャガニャガ、何やら神精樹がおかしなことになっているようですね?まるで、枯れ始めてるかの様な…」

そして今まさに、その大樹は、自らの性質を無視し"なけなしの命"を投げ打って、己を枯らさん勢いで生命力を放出している事を、グリムリパーは感じ取っていた。
大樹が生み出した森という森が、一斉に葉を散らし、朽ちていく。
その様たるや、正に辺獄の現出。
世界が終末を迎えんとする瞬間と言っても過言では無いだろう。
ここ、地下100mに位置する超人墓場跡、もとい丸喜パレスは、この異変をいち早く感知していた。
幾多の世界を統括したエネルギーの逆流、成程、気付かぬ筈は無い。

「…いや、もう"枯れても大丈夫"だ。」
「そうか。」

_だが、そんな世界の終わりを体現した光景を目にしても、救世主は、丸喜拓人は一切動じなかった。
何故ならその樹は、彼等にとっては既に役目を終えた物、今では目の上の瘤でしかない。

「エネルギーの大元である実は、ここに十分に集まっている。仮に元に戻ろうとしても、エネルギーの絶対量が足りないからね。元通りにはならないさ。」
「私達がたっくさん集めましたからねぇ。これをやった誰かさん、今頃エネルギー不足に悩んでるでしょうね?ニャガ~!」

けたけたと、嘲笑に、愉悦に浸るグリムリパー。
何がそんなに面白いのか、理解に苦しむ丸喜であったが、呆れかえった後に、再び口を開く。

「武道、グリムリパー。」
「はい?」
「ありがとう。君達の奮闘が無かったら、きっと今の状況には成らなかった。」

彼の口から紡がれる言葉。
それは、純粋な本心から来る感謝の意。
頭を深々と下げる仕草は、この胸の内よ届けと願う念。
それを受けて、グリムリパーは何を思ったか。

「ニャガニャガ、私はただやるべき事をやっただけですよ?」
「それでも、だよ。」
「…物好きですねぇ。」

帽子を深々と下げ、被りを振る彼の表情は読み取れない。
けれど。

「グリムよ、そう卑下せず、素直に受け取ればいい。」
「全く、意地悪ですねぇ?」

それでも武道には、グリムリパーの内に秘めた感情に、辺りを付けていた。

そうしている間にも大樹が吐き出す命の光は激しさを増し、やがて限界が訪れたのか、急激に光が弱まり始めた。
そしてそのまま消えるかと思われた光だったが、一瞬だけ輝きを取り戻すと次の瞬間には爆発的に膨れ上がり、巨大な光の塊となって地上へと打ち出される。
地上の空が白く染まる程の膨大なエネルギー。
眩い光となって朽ち、実体を失っていく大樹の世界。
救世主達は目を細めながらその様子を眺めていたが、やがて光が収まった事で視界を確保する。

「むぅ…」

そうしてモニターに映し出された外の世界の様子は、延々に広がる砂漠の風景だった。
まるで一切の命を吸いつくし滅びたかの様な、ポストアポカリプスな光景。
当然だ、つい先程まで、ここはあの神精樹によって覆われ、森と化していたのだから。
そこから森が取り払われたが故に、この変化は当然の事であり、必然の出来事と言えるだろう。
故に、彼等の心中に一切の動揺は無かった。
ただ、最初にあった世界が砂漠へと帰った、それだけだ。
これからもこの特異点に押し寄せる世界によって、上書きされて消されるかもしれない。
_そんな世界でも。

「…僕は、この世界も、全部救う。」

例え第三者の手が入ったとしても、この世界の惨状は、自分の手で生み出した物なのだ。
その事実を、丸喜は忘れてはいない。
たとえこの世界に愛着は無くとも、自分が生み出した世界の全てを、彼なりに愛しているのだ。
その為に、彼は、丸喜拓人は戦い続ける。
全てを救済(すく)う日まで。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ReWrited Record 人理定礎値:E■
 A.D.20■X  無限■食領■・神■樹
     終わり■き 吸世
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「特異点を観測していたシバからの観測値、異常変動を確認しました!」

カルデアのスタッフの一人が、突如として管制室に飛び込んで来た。
観測計器の前に居たスタッフが、即座にコンソールを操作し、数値を確認する。

「これは…大樹が、消えていく…!」

そのスタッフは驚愕すると同時に確信した。
_間違いない、これは、特異点の修復だ!
そう思うと共に、職員全員が一瞬、喜びに包まれる。

「いえ、これは…定礎値、変わらず!EXに戻りました!」

しかし、駆け込んできた男の言葉に、場の雰囲気は一気に冷え込んだ。
それは、余りにも信じ難い話。
何せ、あれだけの規模の異変が起こったというのに、特異点に変化が無いなどという話は聞いた事も無い。
だが事実、目の前に映し出された数値は、規格外のEXを映し出していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ReWrited Record 人理定礎値:EX
 A.D.20XX  無限救済神話・丸喜
     終わりなき 救世
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



救済は終わらない、幾億年掛かろうと。

3人目

「走れ、雷よりも疾く」

 特異点全土を飲み込もうとしていた完成型神聖樹は、
メサイア教団によってエネルギーを逆流させられた結果、
枯死寸前にまで追い込まれていた。最早枯れ果てるのを待つだけとなった大樹。

「それは何よりだけど……さっきの大規模爆撃は何だったんだろう……」

 源為朝の宝具が降り注ぐ様を藤丸立香達も目撃していたが、
何が起きたのかまでは分からなかった。
幸い、爆心地からは距離が有ったので、巻き込まれる事こそ無かったが……。

「……」

 その時、通信機の着信音が鳴り響く。

「はい、こちら藤丸」
『あ、ちゃんマスー? よかったー、繋がったー』
「……なぎこさん?」

 通信相手は『キラキラのアーチャー』なぎここと、清少納言であった。
完成型神聖樹が枯れ始めた影響か、これまで不自由だった通信状況も回復し始めたらしい。

『うん、あたしちゃんでございますよ~。さっきすんごい音がしたけど、大丈夫?』
「えっと、まぁ、何とか……と言うか、なぎこさんは今何処に?」

『あんね、もりおーちょーとか言う町があってね? 
ちゃんマスとはぐれた後に親切な人が助けてくれて、そこで暫く匿ってもらってたんよ~。んで、さっき外に出たらなんかすっげぇ爆発が起きてるじゃん?
ちゃんマス大丈夫かな~って思ってダメ元で連絡してみたんだけど、
無事みたいで安心したわ! ここってさ、色んな世界からこの特異点に
迷い込んじゃった人を助けて保護してくれちゃってるみたいで……』

「先輩……」
「うん、なぎこさんもいるみたいだし、その町に行ってみよう」

 通信越しで取り留めのないマシンガントークを展開するなぎこの声から察するに、
特に怪我をしている様子も無く元気そうだ。
ひとまずポイント・ユグドラシルに散開していたサーヴァント部隊をカルデアへと送還し、
立香とマシュは、なぎこと合流すべく森の奥へと進んでいった。

「乗れ、立香。何とかって言う町に行くんだろう」

 そこには、愛用のマシン「マシンディケイダー」「ゴールデンベアー号」に跨る
門矢士とライダークラスにて現界した坂田金時が待っていた。

「マシュの嬢ちゃんは俺っちの後ろだぜ! このバイクは人間のマスターにゃ
ちいとばかしじゃじゃ馬過ぎるかもしれねぇからな」

「はい! よろしくお願いします!」

 そう言って二人はそれぞれの愛車に乗り込む。

「それじゃ、行こうぜ! ピリオドの向こうへよ!」
「おーう!」
「ああ」

 そして4人は、森を抜け、新たな世界へ飛び立った。
彼らが向かう先は、奇妙な町・杜王町。東方仗助が暮らしていた町であるが、
住民達の姿は殆ど見られないと言う。
仗助たちはそこを拠点とし、特異点に迷い込んだ人々を助けるなど、
数々の事件を解決しているのだ。

「誰か来るのか、仗助」
「ああ、なぎこの知り合いだってよ。何でもこの特異点みてーな事件の数々を
解決してきたスペシャリストって奴らしい」

 仗助が応えるのは、空条承太郎。そう、クォーツァーとの戦いの最中、
ゼンカイザー/五色田介人と共に源為朝の宝具から敗走を強いられた彼は、
特異点に残留していた仗助と奇跡的な再会を果たし、共闘する事を決めたのだ。

「悟空やソウゴ、正義超人にゼンカイジャーの残りのメンバーの行方は、
まだ分からねえままか……」
「ジュラン……みんな……」

「それにしても驚いたぜ。承太郎さんと吉良吉影が別の世界に飛ばされたと思ったら、
俺や康一もこのザマだからよォ~」
「そうだ……吉良吉影は今ものうのうと生きていやがる……
奴との決着も必ず着けなくっちゃあならねえ……」

 悟空はリ・ユニオン・スクエアへと送還され、
ソウゴは囚われの身、正義超人軍団やゼンカイメンバーも
クォーツァーとの戦い、そして為朝の宝具発動の後の消息は掴めていない。

 特異点の戦いも、新たなる局面へと移行しようとしていた……

4人目

「神の演説」

~リ・ユニオン・スクエア 市街地~

「やぁやぁ、待ってたよ西園寺クン。」
黒い服に自分の身長と同じくらいの大きさを誇る計算尺を持ち、西園寺日寄子を待つモリアーティ。

「……あんたなのね。モリアーティ。」
 病院のころとは打って変わって、和服に身を包み悪態をつける元気もフルに充填されたようだ。

「その悪態つきの悪辣ぶり、ほめて遣わそう。さて、君を呼んだ理由は薄々わかっているだろうが、あそこ。」
 モリアーティは、黒い壁に指をさす。希望ヶ峰学園だったものを。



人類の覚醒には、さらに力が必要だ。そのためにここまでの御膳立てをしたのだ。
神精樹の力では足りない。

もっとだ。もっと力を。
もっとそのエネルギーを『神』にささげるのだ。



「いや~いい曲でしたね~。以上、Yesより、『Roundab.............」
「次のニュースです、今日未明スクエア動物え..........ザザー。」
「……あ……あー……………メサイア教団……交信開始……」

 突如スクエア内の全モニター、全番組、全ラジオ局をハッキングして流れる彼の演説。
「私は世界救済を掲げる『メサイア教団』の使徒、Mです。」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
|                     |
|   完全世界の救世主 メサイア教団   |
|                     |
|       SOUND ONLY       |
|                     |
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 画面に映るメサイア教団の文字。その声の主は、メサイア教団の副官魅上。
 しかし、今この場にいるすべての人間がその事実を知っているわけはない。
「本日は我らが神の意志を代弁するために参上しました。」

「神は今、あらゆる悪の根絶と人類の『進化』を望んでおります。そして今後、我らが神の声及び意思は、全世界の法となります。全世界の人民は神の法と声の下に、何一つ欠点のない完全なる存在として進化させます。そして全能や犯罪といった悪のない永続の平和を保障いたします。」

 愚かなるか、人民。
 その背後には、戦争という名の大罪が仕込まれているとは露知らず。

「神は過ちを犯す人類を裁き、完全にして全能なる存在へと昇華させるおつもりです。それこそが人類の持つ悪性の根絶へと通じるのです。」

 メサイア教団の目的、それは悪の根絶と人類の全能化。
 それは要するに「神に等しい人類による、犯罪のない理想の新世界」であった。

 かつて、神になろうとした殺人鬼___夜神月が求めた世界。その完全なる発展。それこそがメサイア教団の真意であった。

その声を聴いて、モリアーティは舌打ち交じりに。
「ありえないことだネ。人間という種が生きている限りは。」

5人目

「突入、メサイア教団」

 トラオムを目指すトゥアハー・デ・ダナンはミスリルの所有するドックに停泊していた。
マジンガーZやゲッターロボ、レーバテインなど、所謂CROSS HEROESが所有する
巨大ロボットのオーバーホールのためだ。

 クォーツァー/アマルガム連合軍との戦い、エタニティコア防衛戦、
そしてバードス島でのDr.ヘルとの最終決戦と激しい戦いが続いてきた。
そのため、各機体の損傷が激しく、オーバーホールをする必要があったのだ。

「さらわれたみんなを早く助けたいところだけど……」
「焦るな、甲児。今は機体の整備が最優先事項だ」

 宗介が冷静に言い聞かせる。
実際その通りであり、焦って整備不良で出撃して、肝心な時に動けませんでしたでは
話にならない。特にマジンガーZは度重なる激闘でかなりの消耗をしていた。

(宗介……お前だって、かなめちゃんの事が心配だろうに……)

 特異点にてクォーツァーの幹部、レナード・テスタロッサに完敗し、
目の前で護衛対象であった千鳥かなめをさらわれてしまった宗介。
あれ以来、彼女の消息は全く不明のままである。

 だが、それでも彼は一切取り乱すことなく、常に冷静沈着だった。
彼の強さの根源の一つがこれなのだ。
何事にも動じず、ただひたすら任務を果たすことだけを考える男……。
それが相良宗介という少年だった。
 ある意味では冷酷とも取れるかもしれないが、同時に鋼のような意志の強さも
持ち合わせているということでもある。

「……」

 竜馬は整備中のゲッターロボを見上げながら、ふと思うことがあった。

(ゲッターは日に日に強くなっている気がするぜ。
この世界に来たばかりの頃はロクに出力が上がんなかったが、
今ではパワーもスピードも以前の比じゃねぇくらい増している)

 リ・ユニオン・スクエアにおいては、宇宙から降り注ぐゲッター線量が乏しく、
ゲッターロボは本来の性能を発揮することができなかった。
しかし、今のゲッターは違う。光子力研究所の研究員らが調査した結果、
ゲッター線の降量が増加傾向にあるのだと言う。

(俺とゲッターがこの世界に来たことで、ゲッター線が増えてるってのか? 
このまま戦い続けていたら、一体どうなるんだ?)

 そんなことを考えていたその時だった。


『私は世界救済を掲げる『メサイア教団』の使徒、Mです』


 メサイア教団が全電波をジャックし、全世界に向けて声明を出したのだ。

「完全世界の救世主、メサイア教団……一体何者だ……?」

『神は今、あらゆる悪の根絶と人類の『進化』を望んでおります……』
「進化……進化か。けっ、何処の世界に行っても宗教屋って奴らは同じことを
ほざきやがる」

 竜馬が吐き捨てるように言った。
かつて、竜馬がいた世界においてもゲッター線を「宇宙の秩序を乱すもの」として
排除しようとする神を名乗る集団が存在し、安倍晴明も彼らの傀儡として
利用されていたのだ。
人類に進化を促す力と言われるゲッター線。だがその全容は未だ解明されておらず、
その危険性もまた未知数な部分が多い。

「ベジータさんの気は、この場所から感じますね。この気の高まりからして、
現在は無事だと思われます」

 悟飯は地図を見ながら指さしたのは、希望ヶ峰学園が謎の爆発事故に
見舞われたと言う場所だった。現在は謎の黒い壁が学園跡地を覆っているため
内部の状況は分からないらしい。
それこそが現在ではトラオムへと変貌した場所であり、メサイア教団の前線基地なのだ。

「甲児さんたちの機体はオーバーホール中のため、悟飯さん達にはこの地点に
先行していただく事になります。
場所が内陸であるため、ダナンは直接向かう事が出来ません」

 テッサの言う通り、マジンガーZを始めとする機体はまだ整備中だった。
そのため、今回の作戦には悟飯を主軸とする先行部隊としてAチームが編成された。

「ええ。元より、そのつもりで来ましたからね」
「では、悟飯さんをメインに、月美さん、ペルさん、いろはさん、黒江さん、
ルフィさんにはポイント・トラオムへの先行突入をお願いします。
くれぐれもご無理はなさらないように」

「おう! ピッコロのおっさんたちは絶対に助け出すぞ!」
「はい!」

 そして現在、一行は移動用の小型ヘリで現場へと向かっていた。

「ベジータさんなら大丈夫だと思いたいけど、敵の戦力はまったく不明だ。
急がないと……」

6人目

「生体工学(バイオニクス)の権威」

_ピッ、ピッ、ピッ…

電子音が、断続的に聞こえる。
メトロノームの如く、一定のリズムを描きながら。
音は断続的で、一瞬だけだが、決して鳴りやむ事は無い。
その音は静かに、しかし静寂の中で確かに響いていた。

そうして音の正体を探ろうと耳を傾ければ、それが心電図の刻む音だと分かるだろう。
絶対安静、そう戸に書かれた部屋は、隅々まで清潔に白く保たれている。
それがこの病室に伏した者達を、より一層際立させていた。

ベッドに男が横たわっているのは、顔の知れた正義超人の一行だった。
包帯で全身グルグル巻きにされてはいるが、顔だけは兜を付けたまま、決して素顔を晒さないロビンマスク。
同様に負傷を負い、全身に罅という傷を刻まれたベンキマン。
彼等程ではないものの、片足を失う負傷を負ったカレクック。

何れも重症と呼べる負傷を戦場で負い、生きて帰した強者達だ。
だが、そこにいる誰もが言葉を発しない。
未だ意識を取り戻さぬロビンは勿論の事、意識の戻ったベンキマンと、彼を運んだカレクックもまた、沈黙を貫いている。
彼等二人が思い、憂いているのは、かのオーガマンの事だった。

彼は、決して悪では無かった。
ジェナ・エンジェルの手に陥り、鬼の宿命を埋め込まれただけの、ただの哀れな超人。
しかしカナディアンマン達によって、その宿命に手を染める事無く討たれた。
確かにあの時、この手で討つ事こそが最善の手として戦い、彼の命に終止符を打つ事を以て勝利した。
だからこそ、今から思う事は後から付け足した指摘の様に傲慢で、既に決まったこの結末に、砂を掛ける様な事なのかもしれない。
それでも、全てが終わらせられた彼に対して、ベンキマン等の胸中に一種の後悔が渦巻いていた。
もしかしたら、別の救い方があったのではないか、と。
そしてその答えが見つからないままに、彼等は思考を止める事も出来ずにいた。

だがしかし、オーガマンを殺した事は覆しようのない事実なのだ。
だからこそ、せめて勝者となった自分達がその死を供養し、償い、思い遣らなければ。
敗者には許されない権利を、せめて勝者が行使しなければと。
そんな思考を巡らせては、陰鬱な情緒がドロリと溶けた鉄の様に、脳裏を支配していく。
やはり、何か手は無かったのか…

「あぁクソ!じっとしていられるか!!」

不意に立ち上がって叫び、壁に向かって拳を振るう男。
この病室のもう一人の住民、カナディアンマン。
彼が起こす鈍く響く打撃音は、壁を打った事で発せられた音と言うよりも、自分の内側にある苛立ちを吐き出す為に打ち込んだ様だった。
まるで感情の行き場を失った子供が、壁に八つ当たりをしている様に見えた。

「カナディアンマン、安静にしているんだ!」

そんな彼に、見舞いに来たスペシャルマンは思わず声をかける。
それは戒めなのか、それとも彼を想っての言葉なのか。

「こんな所でじっとしてられねぇって言っているんだっ!」

だが彼は、それを制止の声とは捉えなかったらしい。
振り向いた彼の顔には、怒りが浮かんでいた。
己の内で燻ぶる衝動を抑え込む術を見失ったかの様な表情を浮かべながら、ゆっくりと起き上がりだす。
まだ安静が必要な身体を起こしながら、壁の方を向き直す。
そして、力任せに腕を突き出しながら叫んだ。

「俺達が、正義超人がこんな形で終わっていい筈がないだろ!?」

先程までより、明らかに大きい音が鳴る。
それは先程とは違い、彼が強く壁を打ち付けた為だった。
壁から跳ね返った衝撃で、微かに震えている拳を見ながら、彼は言葉を続ける。

「カナディアンマン、お前…」
「オーガマン(アイツ)を殺して、このまま終わってたまるかよっ…!!」

誰が放った静止の言葉だったか。
そのまま言葉を続けようとしたが、彼の放つ次の言葉に、ベンキマン達も押し黙る事となった。

「これ以上、アイツの様な奴を増やしちゃいけねぇ。だから俺は行くぜ!」

絞り出す様に出された言葉は、とても苦渋に満ちたものだった。
しかし、芯の通った声で放った言葉でもあった。
そう、彼の心中にあるのは自己満足でも八つ当たりでもない、義憤だ。
ベンキマン達はここに来て、漸く彼の真意に辿り着く事となる。
何故、彼の中で燻っていた感情の正体を、見抜けていなかったのか。
余りにも分かり易過ぎる、正義超人としての行動原理。
そうだ、彼は己の正義の為に行動しているのだ。
ならば、止める理由は何処にも無い。
そこには確かな決意があった。
それを聞いても尚、スペシャルマンは口を開く。

「だが、無茶はしないでくれ。それに今は隻腕なのを忘れた訳じゃないだろう?」
「忘れた事なんか一度もねぇさ。だが、オーガマンの死を無駄にしたくないんだよ。」
「……!」

スペシャルマンは再び、押し黙る事しか出来なかった。
確かに今のカナディアンマンの状態では、万全とは言い難かった。
だがそれ以上に、彼の内に秘められた信念の強さを知っていたからだ。
今更何を言っても、きっと彼は止まらない。
この場で止めても、決して折れる事は無いのだと。
それは誰よりもこの男と共に居た、スペシャルマン達にしか分からない事だった。
故に彼は何も言わず、ただ彼を信じて送り出す事を決めた。

そして同時に、自分の中にあった迷いを捨て去る事を決意した。
正義を掲げる超人として、自分達の行いに悔いは無いと。
あの時、オーガマンを倒した事は、間違いじゃなかったと。
ベンキマン達は今、その答えを見つけたのだった。

結局の所、自分達はカナディアンマンと同じ胸中だったのだ。
そう思い知った彼等には最早、カナディアンマンを止める気は起きなかった。

「威勢は良いが、片腕でどうにかなる物では無いぞ。」

だがそこに、待ったの声を掛ける男が現れる。
その姿を視界に入れた瞬間、全員が息を呑む。
それは、この場にいる誰もが知らぬ男だった。
いつの間にか入って来ていたこの男の言葉に、しかしカナディアンマンも黙ってはいない。

「何者だあんた?俺を止めようったって、無駄だぞ。」
「その意気込みは買うが、その状態では無理だと言っているんだ。」
「うっ…クソッ!」

その言葉に、やはりと言うべきか苦悶の表情を浮かべるカナディアンマン。
彼等の言うように、今カナディアンマンの左腕は先の戦いで失われたばかりである。
五体満足であって初めて戦力となる次の戦い、足手纏いになるのは流石に御免なようだ。
無き左腕を幻視して、カナディアンマンは悔し気に呟く。

「まぁ落ち着け、俺はそんなアンタの為に、ある物を持ってきたんだ。」

そう言いながら、男は懐から何かを取り出し、ベッドの上に置く。
赤く塗装され、カナディアンマンの腕にピッタリとハマる様造形されたそれは、今の彼が最も欲する物でもあった。

「義手…!?」
「そうだ、超人の戦闘にも耐えうる…かは分からんがな。」
「…あんた、一体?」

そうして初めて、白衣を着た彼に話題が移る。
その答えは、肩の腕章にある『ダイヤモンドの犬』が物語っていた。

「俺は生体工学の科学者…ダイヤモンド・ドッグズの科学者だ。」

7人目

「黒き楓の戦士/」

~トラオム南西部 始点の荒野~
「ここが……希望ヶ峰学園で、合ってるよな?」
「うん、でも書き換えられてるけど。」
吹きすさぶ疾風を越え、夜想と絶望は夢の戦線へと出陣する。

そこにはかつての陰険陰湿な殺戮舞台の面影はなく、今や狂瀾怒濤の戦場へと様変わりしていた。

「マジかよ……。」
江ノ島ですら驚嘆する、風景の様変わり具合。

周辺には、荒野が広がる。
西を向けば急造の都市擬き、東には大地の亀裂を繋ぐ一本の吊り橋が。

どっちに向かうべきか。迷っていた。

「とりあえず、都市の方へといってみる?」

デミックスの一声に賛同し、江ノ島は都市のある方角へと向かった。

その様子を見る、一人の超人が背後にいることも知らずに。
「ふん、どういう了見か知らんが、あの二人は利用できる。特に『世間への復讐』のための道具には使えるな。」

~急造の都市~

そこは、廃墟だった。
ただ積み重なり、崩れていった廃墟群が隆起しているだけの、そういうものなだけの都市擬きだ。
まるで急ごしらえに作った舞台装置が如く、そこに廃墟が連なっているだけだ。

「あちゃあ、こりゃ聞き込みは無理そうだねー。」
「むすっ。」

デミックスは、それでも誰かいないのかなと思い周囲を見渡す。
その時、後ろから足音が響いてきた。

「江ノ島ちゃん。隠れて。軍隊が来る。」

それも、100人単位の無名英霊軍。

「希望界域、シン・復讐界域 急造都市攻略戦開始!」
「くそ!急襲か!迎え撃て!」

希望界域アーチャー部隊が一斉に矢を放つ。
急襲というのもあってか、そこにいたのはわずか50人余りの兵士。
シン・復讐界域 万事休す。

「ぐわぁあああああああぁぁあああ!?」

無数の矢の前に、ここは希望界域が占拠せり……のはずだった。

「なぜ……私が……?」

そこには、空中に浮く無名のランサーが、無数の矢を一身に受けていた。
その後、そのランサーはまるでゴミ箱に捨てられたゴミの如く投げ捨てられた。

「噂には聞いてたが……。」
「なんて外道な……!」

ドス黒い憎悪が、周囲を包む。
その中心に立つは、赤と黒の楓持つ超人。

「何を言う。そこにいた方が悪い。それに貴様ら無名サーヴァントはどこまで行っても人間。俺を嗤うクズの一匹にすぎん。」

これこそが、黒き楓を持つ者にして、妄念に狂った復讐者。
自分を「かませ犬」とせせら笑った人類を殺しつくし、雑魚とあざ笑う者を処刑する。
彼こそ、シン・復讐界域の参謀にして、世間への憎悪を薪にヒトを鏖殺する「外道超人」。

「外道、卑劣、クズ野郎。何とでも言え。全てこの『カナディアンマン・オルタ』の栄誉の贄にしかならんがなァ!」

邪悪な笑みが、にちゃりと零れる。

~一方 絶望界域~
「ポンコツなこったなこりゃ。」

魔弾の射手、シグバールは絶望界域の城に難なく突入。先ほど倒したであろう無名英霊の兜を手に玉座の間へと入ったのだ。

「すでに城に住まう王はおらず、あるのは光線銃持たせたマネキン一台のみと。」

バシュッ。
一発の銃撃の下に崩れる武装マネキン。

それを見守った後、シグバールは電話をする。

「21号さんよ、もういいぜ。絶望界域は俺らのもんだ。」

8人目

「飛び込め!トラオムへ!」

「……どうでしたか?」
「……駄目だ、一向に繋がらない……」
トゥアハー・デ・ダナンの設備を使い、別行動中のアレクとローラ姫にジオン族とアレク達の世界の魔物が繋がってるんじゃないかということを伝えようとするバーサル騎士ガンダムと騎士アレックス……がしかし、どういうわけかアレクの持つ通信機と繋がらないのだ。
「まさかアレク殿達の身になにか…?」
「わからない……だが、今はお二人が無事であることを信じるしかない……」



一方その頃
悟飯達の乗るヘリは希望ヶ峰学園跡地……現在はトラオムと呼ばれる場所の上空へとたどり着いた。
「ここにピッコロのおっさん達がいるんだよな?」
「はい……恐らくは……」
「けど、希望ヶ峰学園がまさかこんなことになってたなんて……」
トラオムは巨大な黒い壁で囲まれており、また霧のようなものが発生している為、上空から中の様子を見ることができなくなくなっている。
「……この感じ、どうやらあの中には結界かなにかが貼ってあるみたいね」
「結界って……あの時神浜市でリンボが貼ったのと同じ?」
「ううん……神浜市の時は街はそのまま空間だけが変わっていたけど、今回のあの結界の中は元々あったものが完全になくなって全くの別物に変わってる感じするの」
月美の言うとおり、トラオムの中はメサイア教団の手により名もなきサーヴァント達が戦争を繰り広げる地獄のような空間に作り変えられており、本来その場にあるはずの希望ヶ峰学園跡地としての面影は一ミリも残っていなかった。
「なんかよくわかんねえけどよ、さっさと降りようぜ」
「そうですね……パイロットさん、あの霧の中に着陸できますか?」
「わかった、やってみよう」
悟飯達の乗るヘリはトラオムの中へと着陸しようとゆっくり高度を下げていく。



しかし、次の瞬間
「っ!危ない!」
「へ?」
霧の中から矢や魔力の弾などが、トラオムの中で行われている名もなきサーヴァント達による戦争……その流れ弾が悟飯達の乗るヘリに向かって飛んできたのである。
「な、なんだ!?」
「回避を…!」
「駄目だ間に合わ…ウワァアアア!?」
ヘリのパイロットはなんとか回避しようとするが、間に合わずヘリに直撃してしまい、ヘリの一部が爆発してしまう。
「キャアアア!?」
「お、おい!大丈夫か!?」
「・・・」
ヘリの爆発……それをもろに受けてしまったパイロットは黒焦げの死体になってしまった。
「……駄目だ……もう死んでる……」
「そんな……」
パイロットを失い、一部が破損したヘリは霧の中に向かって勢いよく落ち始める。
「っ!まずいヘリが…!」
「クッ…!皆さん!急いでヘリから飛び降りましょう!」
「は、はい!」
悟飯達は墜落中のヘリから飛び降りた。
「ギア3!骨風船!」
ルフィはすかさずギア3を発動して自身の身体を風船のように膨らませ、悟飯は舞空術で、いろは達4人は膨らんだルフィの身体に捕まってゆっくりとトラオムの中へと落下していく。

9人目

「ダイヤモンド・ドッグズ、前へ」

けたたましく鳴り響く風切り音、ローターブレードが空気を切り裂く轟き。
市街地に響き渡る非日常的なそれは、人々の注目を一点に集め、逃さない。
音を頼りに空を見上げれば、そこには黒点の大群。
否、数機のヘリが隊列を組み、人々に影を落として過ぎ去っていく。

その異様な光景に、人々はどよめき、戸惑うばかりだったが、しかしヘリは速度を緩めることない。
まるで何かを探し求めるように旋回し、あるいは上空を通り過ぎていく。
やがて一機が高度を下げ始めたかと思えば、ある場所へと向かって降下していく。

そこは、つい先ほどまで話題の渦中になっていた、黒い壁に囲われた土地。
希望ヶ丘学園と名付けられ、世間の注目を一身に浴び、希望や夢で溢れていたはずの場所。
今では謎の壁に覆いつくされ、かつての学園の姿は見る影も無い。
そんな曰く付きの土地へと、次々にヘリが向かっていく。
やれ、自衛隊だろうか、多国籍軍だろうか、或いは噂に聞く乱立したPMCの一つだろうか。
一糸乱れぬ行軍は人々の話題を集め、一時の時間を賑わせる。
しかし暫くすると彼等の関心は薄れ、やがて各々の日常へと帰っていった。
それでいい。
これ以上の非日常など、刺激を過ぎた毒となるのだから。

それぞれのヘリに刻まれた型式番号はUTH-66。
名を、BLACKFOOT。
ダイヤモンド・ドッグズ独自の保有ヘリであり、ACC(空中指令室)。
ピークォドの愛称で知られる、彼らの母艦。
そしてこれから、歴戦の戦士達を戦場へと運ぶ方舟だ。

『こちらピークォド、ランディングゾーンまで残り1マイル。』
「おう。」

無線越しに戦士達の耳へと届く、ノイズ交じりの操縦士の声。
それに応えるかのように、機内からは微かな返答が上がる。
そこに並ぶのは、表裏問わず名の売れた顔ぶればかり。
かつて冷戦中だったソ連にてその名を轟かせた英雄、BIGBOSSことヴェノム・スネーク。
強靭な体格と図体を兼ね備え、各々の界隈で名の売れた超人達。
何れも歴戦の強者達だった。

『こちらピークォド、ランディングゾーンを視認。これは…!?』
「何て大きさの壁だ…これが、これから俺達が足を運ぶ場所か。」

ヘリはゆっくりと地上に近づいていき、その機外カメラの映像が操縦席のディスプレイへと映し出される。
同時にヘリのドアをスライドさせたスネーク達が、目の前に広がる風景に息を飲む。
映るのは、巨大な壁。
それはまさしく、希望ヶ丘学園の敷地を囲むように建てられた黒い壁だった。
その規模は大きい、端から端までの長さは優に1kmを超えるだろうか。
高さもかなりのもので、軽く3km以上はあるだろう。

『スネーク、それだけじゃ無さそうだ。壁の上を見てみろ。』

だがそれ以上に目を引くのは、壁の上から覗く内部の光景だろうか。
四方八方と余す所なく霧が掛かっている。
霧は濃く、壁の中の内情を推し量る事を叶わせない。

『恐ろしい程に濃い霧だ、何があるかまるで分からん。』

異様だった、怪奇だった。
ただでさえ東京の中央と言うだけで、否応無しに人目を引く巨大な壁。
そこに内部を覗きこませないかのように張られた濃霧が、ソレの異質さを際立たせていた。
この都会という場には、明らかに不釣り合いな存在だった。

そんな時だった、耳を疑う一報が届いたのは。
ソレは、視界の中で濃霧の上を先行するヘリの炎上。
ヘリのローターブレードの音、空気を切り裂く音が、一瞬にして途絶える。
同時に、無線のノイズ音を掻き鳴らしながら、カズヒラの声が耳に届く。

『スネーク、先行していたA班のヘリが攻撃を受けた!』

次いで見えたのは、先行したヘリの機体が大きく揺れ動く光景。
火花を散らし、回転速度を落としながらもなおも飛び続けるヘリだったが、しかしついに炎を上げる。
そのままヘリの乗員諸共落ちていくかと思われたが、中から飛び出たルフィが気球代わりとなり、乗員達をぶら下げ降下していく。
代わりにヘリは濃霧の中へと落ちていき、やがて見えなくなった
それは余りにも唐突の出来事だった。

『こちらピークォド!敵勢攻撃を感知、一時市街地に退避します!』

しかし、咄嗟の事態にもピークォドは的確な判断を下す。
湧き上がる冷や汗と共に出た焦燥を押し込め、確実に、ゆっくりと降下していく。
やがて壁より下の高度まで降り立ち、やっとの思いで落ち着いた。

『スネーク、生き残った者達だが、霧に入った途端無線が通じなくなった。この様子じゃ支援は愚か、着陸も厳しい。』
「どうする、カズ?あれじゃそう易々と壁の中には入れん。」
『その件だが、一つ情報がある。』

そうぼやくスネークに対して、カズが声をかける。
彼の言う情報とは、先ほどスネーク達が見たあの謎の黒い壁についてだ。
希望ヶ丘学園を覆うように建てられたあの巨大な壁に、穴があるという。
その穴に人が入っていったという目撃証言もまた、ダイヤモンド・ドッグズの諜報班が捉えていた。
しかしカズ曰く、あくまで噂としての情報なので確証は無いらしい。

『スネーク、罠かもしれないが…行くか?』
「虎穴に入らずんば、と言う奴だな。」
「あぁ、何があろうと俺達は行くぜ!」

だがスネーク達は既に覚悟を決めていたらしい。
躊躇い無く首を縦に振り、ピークォドへと返事を返す。
それを合図に、ヘリは再び高度を下げ始めた。
そしてヘリは壁のすぐ横へと辿り着き、徐々に地面へと辿り着く。

『ランディングゾーンまで5秒前……3、2、1、タッチダウン!』

機体が激しく揺れ、地表との距離が0になる。
その瞬間を見計らい、スネーク達が一斉にヘリから地面へと降り立つ。
一気に軽くなり、出力を上げて飛び上がるヘリ。

『どうかお気を付けて、ボス。』

その無線を最後に、ヘリの存在は遠ざかっていった。

情報に合った穴は、すぐに見つかった。
諜報班の指示した場所に、くっきりとその穴は開いてあった。
やはりと言うべきか、黒い壁の内側にあったものと同じ霧が立ちこめている。

カナディアンマンやスネークら数名が顔を突き合わせ、互いの意思を確認する。
無言の肯定の後、彼等はその霧の中へと足を踏み入れた。

直後、異変が起きた。
まるで世界が反転でもしたかのような、強烈な違和感を覚える。
辺り一面に立ち込める、白い濃霧。
その視界の全てが、一瞬にして晴れ渡った。
何が起こったのか、理解するのに数瞬の時間を要した。

だが直後に映った光景が、彼等の目を釘付けにする。
そこに映っていたのは、どこまでも続く荒れた荒野の風景。
荒れ果てた大地、枯れ切った草木。
見渡す限りに生命の気配は無く、空には暗雲が垂れ籠めている。
そして何よりも異常だったのは、明らかに壁の面積に見合わぬ広さ。

それはまさしく、先程までの壁の内部とは全く違う場所。
そう、それはまるで、世界をそのままくり抜いたかの様だった。
そこはまさしく、都会の外の光景だった。

「…どうなっている?」

あまりに異様な光景だった。
余りにも現実離れしすぎた風景を前にして、誰もが思考を停止させていた。

10人目

「波乱の幕開け! サーヴァント包囲網を突破せよ」 

 CROSS HEROES先行部隊、ダイヤモンドドッグズ、正義の五本槍……
次々と人外魔境・トラオムへと踏み込んでいく戦士たち。

「この重苦しい雰囲気……まるで魔女の結界の中みたい……」

 トラオムの地表に降り立ったいろはは、今まで経験したことのない悪寒を感じていた。
この先に待ち受ける戦いへの不安なのか、
はたまたこれから起きる惨劇の予感を感じ取ったのか。
ともかく彼女は、この場に居る誰よりも早くこの場所の危険性を理解していたのだ。

「ここに来るまでは感じられていたベジータさんの気も今は感じられない……
まるで見えない何かに遮られているような感覚がするよ」

 悟飯もまた、普段の彼からは想像もできない程の険しい表情を浮かべている。

「不信……殺意……憎しみ……
そう言った黒い感情がこの空間に渦巻いている感じがするわね」

 退魔師である月美も同様に、トラオムと言う場所の異常性をひしひしと感じていた。

「恐らくはそれが私達の感覚を麻痺させるフィルターにも似た効果を
及ぼしているのだろう」

 ペルが状況分析をしている中、「それら」はやって来た。

「ウオオオオオオオオオ……」
「!?」

 大軍勢の雄叫びが聞こえたのは、その直後だった。
振り返るとそこには、数え切れないほどのサーヴァント達がいた。
厳密には、英霊の座に刻まれる事の無かった者たち。歴史から抹消された存在。
しかし、その実力は通常の人間を遥かに凌駕している。

「あの人達は一体……!?」

 物騒な武器を手に持ち、今にも襲いかかってきそうな殺意を剥き出しにする
サーヴァントたち。
黒江の頬に冷や汗が伝う。

「待ってください! 僕らは貴方がたと戦うためにここに来たわけではありません!」

 何とか無用な戦闘を避けようと説得に臨む悟飯であったが、
サーヴァントたちは聞く耳を持たない。

「黙れ! 貴様らが何者かは知らんが、我等にとって不都合な存在であることに
変わりはない!」
「我らは主の命に従い、貴様らを殲滅するまでだ!」
「命乞いは無駄だ、死ね!」

 思い思いに言葉を並べ、襲い掛かってくるサーヴァント達。

「ダメか……みんな、僕たちの目的はあくまでさらわれた人たちを助け出す事だ。
彼ら全員を相手にする必要はない。退避しつつ、先へ進もう」
「はい!」

 悟飯の言葉にうなずき、一同は走り出した。

「ルフィくん、いろはさん達を先に逃がす。僕と君であの敵を食い止めるんだ」
「おう、任せろ!」

 二人は並び立ち、迫りくる敵を迎え撃つ構えを取る。

「はああああああああッ……!!」

 気を高めると同時に、超サイヤ人へと変身する悟飯。

「お前もそれになれんのか! 悟空みたいに!」
「ルフィくんも父さんと一緒に戦った事があるのかい?」

「ああ、悟空はすんげえ奴だった。ピッコロのおっさんもな!」

 悟空を父に持ち、ピッコロを師と仰ぐ悟飯。偉大なる2人から数々のことを教わり、
今の彼がいる。

(見ていてください、父さん、ピッコロさん)

 2人の事を思うと、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
その熱は全身へと広がり、体中を駆け巡っていく。

「いくぞおおッ!!!」

 気合いの声と共に地を蹴り、敵の群れへと突っ込む。

「ちぇえええいやあああッ!!」

 飛び蹴りを放ち、一撃のもとに複数のサーヴァントたちを吹き飛ばす。

「ぐぉあああああッ……」
「ふんっ!!」

 ルフィは覇王色の覇気を放出し、周囲の敵を怯ませる。

「う、ああ……!」

 格下の相手であれば、これで動きを止められるはずだ。

「すごいよ、ルフィくん! 効果は抜群だ!」
「しししっ、上手く行ったな!」

「僕らもいろはさんたちに続こう。殿は僕が務める!」
「わかったぜ、悟飯!」

 こうして、2人は迫りくるサーヴァントの大群の迎撃を開始した。

「とにかく、早くこの場から離れて追っ手を撒かなければ……!」

 連続エネルギー弾をばら撒きつつ、悟飯はサーヴァント達の足止めを試みる。

11人目

「急襲する無頼漢」

~希望界域拠点~

「報告です。先ほど、トラオムのつり橋エリア付近にCROSS HEROESのメンバーが。現在戦闘中のメンバーは麦わらの男に……。」

 希望界域のセイバーが、その首魁に報告をしている。

「そうか、それは願ってもない。いや、俺の願いが通じたようだな。まぁ当然のことだがな。」

 希望界域の首魁、十神白夜は嬉々としていた。
 自身の思い通りに事が進んだとでも言わんばかりに。

「しかし、問題はここからだ、どうやって協力を取り付けるか。」

 そうだ。
 いくら自分たちが友好を示しても、それはあくまでも主観での話。客である相手が敵対の意志をむき出しにして攻撃をすればこちらもやり返すしかない。
 そうなれば、協力を取り付けることができないかもしれないし、何より___。

「我らも"外"に出るには、彼らの協力が必要だ。正直悔しいが今の戦力だけじゃこの戦線を制覇するには戦力不足が過ぎる。クソッ、あの女め。この俺におとなしく病院で療養させる暇もないというのか?」

 あの女?
 セイバーが首を傾げつつも、報告を続けようとする。

「しかしまぁ、ここで止まるわけにはいかねぇわな。」

 その時、何の気配もなく男が現れた。

「お前は____。」

 中華の服を身に纏った伊達男。
 明るい笑みを浮かべ、男は告げる。

「あいつらをここに連れてくればいいんだな?じゃ、俺に任せてくれ。あんたはここで交渉の文でも考えていればいい。」



~トラオム南西、つり橋付近~

「敵だ!かかれ!」
「新リーダーたるシグバール氏の命だ!CROSS HEROESを鏖にせよ!」
「その他陣営など我らの敵ではない!攻めて攻めて攻めまくれー!」

 絶望界域は新たなるリーダー、シグバール及び人造人間21号を得て、水を得た魚のように活動が活発的になった。
 頭脳を得た界域は、その数と戦略に身を窶し、さらなる進軍を開始する!

「ーーーーーーーーーー!!」

 クラス:バーサーカーが最大目標のCROSS HEROESを捕捉した。
 狂える雄叫びと共に敵を鏖殺しようと動く___!

 しかし、その上空に___。
 正義の___。
 無頼漢が_____!

「闇の侠客、此処に参上______十面埋伏・無影の如く!」

 超高速歩法による連続攻撃を前に、絶望界域のバーサーカーは斃れる。
 その消滅を確認した無頼漢は、CROSS HEROESのメンバー、麦わらのルフィらを前に名乗りを上げた!

「梁山泊は天巧星、名を燕青。此度は希望界域の斥候として、そしてCROSS HEROES。あんたらに助太刀するために参上した!」

12人目

「希望界域へ」

「チッ……希望界域の燕青だ!」
「ここは分が悪い……一旦退却だ!」

 燕青。古代中国に伝わる「水滸伝」にその名を刻む拳士だ。
彼の姿を見るなり、サーヴァント軍団は蜘蛛の子を散らすように一目散に撤退を始めた。

「CROSS HEROESの名を知っている……?」

 初対面であるはずの悟飯達の素性を既に調査済みな様子の燕青と名乗る男は、
上半身を埋め尽くす刺青、腰まで届くような黒曜石にも似た輝きを放つ長い髪。
眉目秀麗なる端正な顔立ちと、その身なりこそ軽装であるが、
無駄な贅肉の無い鍛えられた体つきからして歴戦の猛者を思わせる雰囲気があった。

(実際に姿を見るまで、まったく気配を感じ取れなかった……)

 無影の名は伊達ではない。その字の如く、まるでその場にいなかったかのように
ひとりとして気配を悟らせなかった。
悟飯、ルフィ、月美、いろは、黒江、ペルフェクタリア……
相手の気配を読むと言うスキルに関してはCROSS HEROESのメンバー内でも
トップクラスの実力を持つ者たちが集まっているはずなのに
そんな彼らですら、その存在を直前まで認識することができなかったのだ。

「その身のこなし……中国拳法……それもかなり実戦的な流派のものだな……」
「へぇ、分かるかい? おチビちゃん」
「私の流派も暗殺拳に連なるものだからな……あとおチビちゃんはやめろ」

 ペルフェクタリアと燕青。互いに古武術を扱うものとして、
何か通じるものがあったようだ。

「ご明察の通り。我が流派は燕青拳。この身を音もなく消して忍び寄る、
それが俺の戦い方さ」

 屈託のない無邪気な笑顔で答える燕青。
しかしその言葉には一片の偽りも感じられなかった。
まさにその名のとおり、彼は無影。その姿を捉えることなく、
敵の意識の外で戦う男なのだ。この男の技の冴え、もはや疑いようがない。
しかし、まだ分からないことがある。何故、CROSS HEROESの面々を援護するのか。
彼も味方のフリをして先程のサーヴァント軍団のように襲い掛かってくるかもしれない。
そう易々と警戒心を解くことができなかった。

「今の僕たちにはあまりにもこのトラオムと言う場所に関しての情報が少ない……」

 悟飯の言う通り、今の自分たちには圧倒的に情報が足りていない。
ならばここは、共闘を持ちかけるのが最善策だろう。

「この男からは「嘘」の匂いはしない。少なくとも、今は……」

 ペルフェクタリアは他者の嘘を嗅ぎ分ける能力を持っている。
彼女の嗅覚を信じるなら、目の前の男は無害だと判断したようだ。
その言葉を信用し、悟飯は燕青に共闘の提案をする。

「賢明な判断だ。先に分かりやすく言っとくと、
このトラオムって場所は大きく分けて3つの陣営に分かれて互いに殺し合ってる。
復讐・希望・絶望の3界域。俺はその中のひとつ、希望界域からやって来た」

「希望……名前だけなら良さげな印象を受けるけど……」
「まあ、復讐やの絶望やのよりはマシだわな」

 黒江の言葉に、燕青は苦笑しつつ答えた。
どうやら、トラオムを取り巻く現状はあまり良いとは言えないらしい。
希望界域、絶望界域、絶望界域の三つに分かれ、それぞれの目的は異なるものの、
お互いにお互いを潰すために戦っている。
休戦の提案を受け入れるものもほとんどいない。問答無用で悟飯たちに
襲いかかってきたあのサーヴァント達が良い例だ。

「悟飯さん、どうしましょう?」
「燕青さん……でしたよね。こうして話し合う余地があるだけ、
あなたとは協力できる気がします」

「アンタ、優しい奴だねぇ。戦いには向いてないんじゃないか?」

 燕青の率直な感想に、悟飯は困ったように頭を掻く。

「はは、よく言われます」
 
 実際、彼自身も自分が争いごとに向いているタイプだとは思っていない。
だが、だからと言って何もせずにここでじっとしているわけにもいかない。
それに、ピッコロやブルマ、ウーロン……自分の見知った大切な人たちがこのような
無法地帯の何処かで囚われている。
放っておくことなどできない。その想いは、他の面子も同じだった。

「だが、嫌いじゃあない。こんな殺伐とした環境においても
優しさを忘れずに居られるなんてな。誇りに思っても良いと思うぜ」

 そう言って笑う燕青につられて、一同の緊張も少しほぐれる。

「案内するよ。俺たちの拠点――希望界域へな」

13人目

「シン・絶望界域」

_ハイヒール特有の甲高い靴音が、静寂に響く。
音は無人となった魔城の中を静かに反響し、それ以外の音の主張を許さない。
そうして我が物顔で鳴る音の主は、腕を組み、気だるげに歩いて、一言。

「他愛ないものね。」

心底退屈な気分を欠片も隠さず、剥き出しの本能に従って無意味な独り言を零していく。
その言葉には、目の前に広がる光景に対する侮蔑と、自分以外に動くものの居ない空間に対する孤独感が同居していた。
彼女、人造人間21号の脳裏を駆け巡る軽い倦怠感は、そのまま今の彼女の心境を表していると言えよう。
それはここ、絶望界域の魔城が彼女の手中に収まった事が起因する。

それ自体は良い、元よりそのつもりであったし、上手くいかない方が困る。
ただ先程彼女が呟いた様に、余りにもあっさりと、呆気なく成功するという物も、これまた拍子抜けで味気が無い。
何せここは敵勢地、それもその親玉が住まう筈の城であり、総本山。
ここを取られれば、どの戦局が上手く行こうとも意味が無い。
故にもっと自身らへの激しい抵抗や、熟練された勇士がいるものと考えていた。
しかし蓋を開けてみればどうだ、道中出くわした英霊達は塵芥に過ぎず、全く持って張り合いがない。
いや、そもそもの話として、抵抗らしい抵抗が無かった事の方が問題であろうか?

この絶望界域は、強力な英霊が数多く居る筈であり、本来ならばその総力を持って迎撃するのが当然である。
にも関わらず、城内にはまともに立ち向かってくる兵士すらまともにおらず、数少ない抵抗も彼女の眼鏡に叶う物では無い。
これは一体どうした事か、指揮は通っているのか指揮は。
少なくとも目につく限りでは、士気の方は死んでいる様だ。
もしや既に城は陥落しているのかとさえ疑ったものだ。

そうした中で届いたシグバールからの報せには、納得がいった物だ。
シグバール様万歳、21号様万歳。
仕えるべき王を失いながら、新たな王の門出を総出で祝う者達の姿は滑稽ですらあった。
こんな者達の上に立つのかと思うと、軽く憂鬱になったものだ。

「ま、良いわ。無駄は嫌いだもの。」

だが、それならそれで都合が良い、と彼女は思考を切り替える。
彼等は王に仕えてはいない、玉座に仕えているのだ。
その程度の忠誠心しか持たぬのであれば、もはや内乱等は恐れる事も無いだろう。
無論警戒すべき点はあるにせよ、この場での戦闘行為は避けられないと踏んでいた彼女にとって、この事態は棚ぼた物だった。

こうして彼女の足取りは何の問題も無く、スムーズに進む事となった。
そして彼女は今、玉座に至る。
目の前に広がる光景は彼女の予想通りではあるが、予想以上の結果と言っても良い。
そこは、荘厳な雰囲気を放つ謁見の間。
巨大な柱が立ち並ぶ中、玉座へ続く赤い絨毯が伸び、天井からは豪華なシャンデリアが吊るされている。
本来ならそこには沢山の兵士が立ち並び、警備をしていたのだろう。
だが、今現在その場所にいるのはただ一人、シグバールのみ。

「はぁい、お待たせしたかしら?」
「お早いご足労、御苦労様って事で。」
「レディは時間に煩いものなのよ。」

軽い調子で片手を上げて挨拶をする彼の姿からは、一切の緊張感を感じさせない。
その声色も、いつも通りの気軽な物で、この状況にあっても普段通りに振る舞っていると言えるだろう。
それが逆に不気味さを覚えさせるのだが、そんな様子をおくびにも出さない彼女もまた、大概ではある。
そうして軽い談笑を交えつつ、彼女は当然の如く玉座に座り込む。
そのまま一息つき、徐に足を組んで、堂々と寛ぐ。
完成された王の仕草、見る者を惹き付ける圧倒的な存在感。
そこに居て当たり前と思わせる絶対的なカリスマ。
それはまさに、彼女の威容を端的に表していた。

「お似合いの席に付けた様で何よりだ。それで、あんたはこれからどうするんだい?」

それを前にしてなお、シグバールが動揺する事は無い。
まるでそう在るのが当然だと言わんばかりに、玉座の横に佇み、問い掛ける。
それは彼が、この絶望界域の王だからだろうか。
だがその表情から伺えるのは、困惑でも畏怖でもない。
彼女ならば何かをしてくれるのではないか、と言うそれの名は、期待だ。

「そうね、スポンサーの意向もあるし…一先ず"アレ"を戦線投入するわ。」

対して彼女は顎に手を当てて考える素振りを見せ、気負う所無くあっさりと言い放たれた言葉。
その言葉が意味する事は、計り知れない虐殺である。



「何だあれは。」

復讐界域の将が、呆然と呟く。
それは無理もない事であった。
何故なら彼の眼前には、今までに見たことの無い存在が映っていたからだ。
トラオムの一角、対絶望戦線にて発覚したそれは、それ程までに異質な物だった。

手足は細く、異様に太い胴体。
体躯を支える四肢は、大地を踏み締めているというより、胴体を支えていると言うべきか。
何より、無機質。
そのシルエットは、生物と呼ぶには余りに歪で、人型というには些か無骨。
余りにも機械的なソレは、間違いなく科学の産物だ。
そして数え切れないソレの背中に跨り駆る、絶望界域の兵士達。
それらが列を成し、土煙を上げて行軍してくる。
肩に備え付けられたガトリング砲、ロケット砲、その他もろもろ…
それら全てが火を噴き、塵殺の限りを尽くしていく。

その光景を見た時、誰かがこう答えた。

「戦争が、変わった。」

14人目

「孤軍奮闘のアルガス騎士団」 

 斥候・燕青に導かれ希望界域へと歩を進めるCROSS HEROES。
絶望界域の支配者の座に就いた人造人間21号とシグバール。
戦場に投入される新兵器……トラオムの戦況は、刻々と変化を続けていた。
一方、絶望界域の領土圏内のとある地点では……

「はあああああああッ!!」

 白き愛馬・アーガマに跨がり、額に一角獣の如き角を頂く兜を被った騎士……
剣士ゼータがサーヴァント・キャスター軍団の魔力弾の雨の中を駆け抜けていく。

「とぉぉぉぉッ!!」
 
 馬上から繰り出す剣の一閃は、瞬く間に敵陣を切り裂いて道を切り拓いて行く。

「うあああああッ……!!」
「きえええええッ!!」

 黒装束に忍び刀を携えた忍の集団。クラスはアサシン。
手に持つクナイ型の武器で以て剣士ゼータの頭上を飛び越え、背後から襲い掛かる。
しかし……

「むうっ……!」
「雷よ降り注げッ! メガファンッ!!」

 突如として空から現れた雷撃は、忍の集団を薙ぎ払う。

「ぎゃあああああああッ……」

「助かったぞ、ニュー!」
「だが、敵が多い……!」

 それは、法術士ニューの持つ梟の杖による魔法攻撃だった。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!! 
ダブルハンマァァァァァァァァァァァッ!!」

 バックパックにマウントされた二対のトゲ付き鉄球を射出し、周囲の敵を蹴散らすのは
闘士ダブルゼータ。比類なきパワーで以て、次々と敵の群れを粉砕していく。

「ぐぉあああああああああッ!! わ、我々の防衛を強引に突破された!?」

「こ、こんな事が……有り得ぬ……!!」
「ば、馬鹿な……我ら絶望界域最強のサーヴァント部隊が……!?」
「くそっ、奴等め……一体何処から湧いて来たのだ……!!」

 鎖に繋がれたダブルハンマーは自動的に回転しながら戻り、
バックパックへと回収される。
「技」の剣士ゼータ、「魔法」の法術士ニュー、「力」の闘士ダブルゼータ。
彼らこそは、アルガス騎士団。騎士アレックスの指揮の下に王国を守り抜いた
3騎のガンダム。バーサル騎士ガンダムやアレックスと同じく、
皇帝ジークジオン打倒のためにムーア界へ突入する直前、ワームホールに呑み込まれ、
長らく行方が知れぬままであった。
その彼らが、このトラオムにて望まぬ戦いを強いられている。

「ええい、キリが無い!」
「この者たち……倒すと光となって消滅していく辺り、人間ではないようだが……」
「一体ここは何処なのだ……バーサル騎士殿やアレックス団長殿は無事なのか……?」

 果たして彼らは絶望界域の包囲網を抜け、CROSS HEROESと合流する事が
出来るのであろうか?

「ニュー! ダブルゼータ! ここは一旦退く! これ以上は消耗戦になる!」
「遺憾ながら、そうぜざるを得ないか……!」
「ええい、この闘士ダブルゼータが敵に背中を見せるなどとは恥辱の極みであるが……!
死んで花実が咲くものでもあるまいか……!!」

「その通りだ、力任せに突撃するだけだったお前が、成長したなダブルゼータ!」
「無論だ、我々には果たすべき使命がある……そうだろう、ゼータよ!」

15人目

「戦場の三界域」

 一面に広がる大草原。湖畔が広がり、周囲には花畑が広がる。
 およそ戦線とは思えないほどの、美しい絶景。
 そこにポツンと建てられた、まるで旧校舎のような小さな学校。

 信じられるだろうか?ここが希望界域の拠点であることが。
 燕青に連れられたCROSS HEROESのメンバーは無事、この拠点へと到着したのだ。

~希望界域拠点 生徒会室改め、指令室~

「よくぞ来たCROSS HEROESよ。俺は十神白夜。お前たちを歓迎しよう。」

 CROSS HEROESの前に超絶美形……とはいかずとも、眼鏡をかけた美形の男が電動車いすに座っている。
 しかしその足には包帯が巻かれ、その右腕には三角巾が吊るされている。
 それでも目には炎が宿り、未だ諦めている様子はない。

 十神白夜、超高校級の御曹司にして完全になるはずだったもの。天然の完璧が歪められたもの。
 希望ヶ峰の爆破より生還した彼は、今やこうしてトラオムの戦線にて軍を指揮している。

「握手……はこのケガじゃできそうにもない。悪いな。」

 本来は傲岸不遜でプライドの塊ともいえる彼だが、さすがにこのケガじゃ堪えてしまったのか、性格は丸くなっている。
 だが、その辣腕ぶりは健在であった。

「早速で悪いが、情報共有を始めるぞ。」
「は、はぁ。」

 悟飯ですらたじろぐ、その辣腕ぶり。
 十神は気にすることなく説明を開始した。

「まず、そこの燕青から聞いた通りこのトラオムは『絶望界域』『復讐界域』、そして我ら『希望界域』の3つに分けられている。
それぞれの界域は中央にある巨大な休火山を中心に3等分されている。」

 そういって、十神の後方にあるホワイトボード、そこにでんと張られたトラオムの全体図。

 魔術によって空間が歪められたトラオムは、巨大な火山を中心に3つの界域が色分けされてあった。
 白黒の風景が支配する絶望界域。
 荒野がただ広がり続けるシン・復讐界域。
 そして、とても戦線とは思えないのどかさを持つ希望界域。

「界域別に説明すると、まず復讐界域。ここは別名『シン・復讐界域』と呼ばれ、兵士の質は界域内随一だ。ここのリーダーはパラガスと呼ばれている。
奴はサイヤ人と呼ばれる種族で、戦闘力はそこそこだが、軍略、復讐心、どれをとっても随一だ。
そして副官は……確か黒きカナディアンマンと呼ばれている。詳細まではわからんがな。」

 パラガス、ベジータ王家への復讐を誓う哀しきサイヤ人。
 その副官が血と残忍に飢えた復讐超人、カナディアンマン・オルタ。

「次は『絶望界域』。少し前まではリーダーすらいない最小勢力だったが、最近になってリーダーが入り活動が活発化した。勢力も急成長して今や最大勢力だ。
そのリーダーはシグバールという男ともう一人、名前こそはわからんがそいつは女だということはわかっている。
そいつが最近、巨大な戦闘機械を中心にいろいろな武器を運び込んだことも斥候の報告により知っている。」

 乱入せし魔弾の射手、シグバール。
 そして同盟を組んだ最悪の人造人間、21号。
 そんな彼らが戦闘機械を引き連れてやってきた。
 まさに_____絶望。

「そして我ら『希望界域』。ここは最近復讐界域にじわじわ攻められてな、戦力も少なくなってしまった。
リーダーはこの十神白夜。副官はいるにはいるんだが、今は地下にこもってある作業をしてもらっている。故に今は俺一人で運営しているわけだ。
俺は、その副官によってここに連れてこられて、今こうしているわけだ。」

「なるほど、ここまでの話を整理すると、きっとブルマさんたちは絶望界域にとらわれていると解釈するべきですね。」
「ブルマ?誰だそいつは?教えてくれるか?」

 こうして、悟飯はブルマ博士についての説明を開始した。
 一通り話を聞き終わった十神は。

「なるほどな。優秀だなそいつは。だが博士は今、絶望界域にとらわれていると。……囚われている位置さえわかればどうにかなりそうだが。」

 少し考えたのち、十神はある指令を出す。

「分かった。急に攻めこむとやられるのは目に見えている。まずはここだな。」

 地図のある位置を指さした。
 そこに書かれていた位置。トラオムは西方にある、希望界域と絶望界域の挟間にある、絶望界域の前線基地。

「ここ『アレート城塞』の調査・制圧に出向け。この城塞は最近になって絶望界域の連中が建てた前線基地。兵士の量こそ少ないが戦闘機械がここに運搬されているとも聞く。つぶすなら今のうちだろう。」

 円形の塔のような形の堅牢な城塞。
 その周囲にはウォーカーギアなる機械と、複数の絶望界域の無名英霊。
 次の戦いは、ここにある。

16人目

「それぞれの勢力圏から」

「パラガス……まさかあの男が……」

 悟飯はその名に聞き覚えがあった。パラガス、それはかつて伝説の超サイヤ人である
息子・ブロリーを傀儡とし自らの辺境の惑星へと追放したサイヤ人への復讐、
引いては全宇宙を手中にしようとしていた狂気の男。

「CROSS HEROESの方々から聞きました。
かつて父さんが倒したはずの悪人たちが復活していると。パラガスもその類なのかも……」
「それに、黒きカナディアンマンって……」

 カナディアンマンと言えば、バードス島での戦いでいろはや黒江の行く道を
切り開いてくれた正義の五本槍の一柱だ。それが姿を変え、復讐界域に身をやつしている。

「どう言う事なんだろう、環さん……」
「確かめてみない事には、何とも……果てなしのミラーズみたいに、
姿かたちがカナディアンマンさんにそっくりな別人、とか……」

 神浜市の調整屋、八雲みたまが管理している果てなしのミラーズの最奥には
魔法少女の姿をコピーして、中に入って来た者を惑わせる「鏡の魔女」がいると言う。
トラオムも果てなしのミラーズも、人智の及ばない邪悪な結界であるならば、
その可能性はあるだろう。

「このトラオムでは、常識ではおよそ考えられないようなことが起きている。
それならば、死んだはずの悪人が蘇ってもおかしくはない」

 十神の言い分はもっともだ。
そもそも、この世界自体が非現実的で、ありえないことだらけなのだから。


――シン・復讐界域/急造都市。

 一方で、ベジータは復讐界域の勢力圏内にいた。
そこは廃墟のような建物が立ち並ぶ、いわば急ごしらえの街。
ようやくサーヴァントや雀蜂と言った追っ手を振り切ったベジータは、
ここで休息をとっていた。

「中と外で構造がまったく違う。一体どうなっていやがる……」

 希望ヶ峰学園跡地に発生したトラオム。そこは学園ひとつ分の土地面積とは
到底思えないほどの広大な空間。
これはつまり、トラオムの中と外の空間が歪められているということ。
都市、巨大山脈、工場地帯、広がる荒野……全てが一つの空間に押し込められているのだ。
加えて、瘴気にも似た霧が常に立ち込め、視覚を始めとした五感を狂わせるために
超高度を舞空術で移動する事も出来ない。
闇雲に歩いても迷うだけだと判断したベジータはまずは休める場所を求め、
この廃墟街に辿り着いたのであった。


――シン・絶望界域/エノクロの森。

「ここならば、しばらく身を隠せるな」

 鬱蒼と茂った森を抜けた先には、小さな湖が広がっていた。
アルガス騎士団の3人も、サーヴァント軍団から身を隠すためにここへ逃げ込んだようだ。

「さて、これからどうしたものか」
「とりあえず、この世界の構造を把握しなければならないだろう」
「ああ、そうだな。まずは情報を集めよう」

 CROSS HEROES、ベジータ、アルガス騎士団……皮肉にも、希望・絶望・復讐と
それぞれ別々の勢力圏内に分散された3勢力。
彼らが合流するまでには、まだまだ時間が必要だ。

「ここからでも見えるあの円形の塔……あれは重要な拠点だと見るな」
「あれを攻略出来れば、少しは状況も好転するのではないか?」
「一理ある。準備が整い次第、近くに行って様子を探ろう」

 アルガス騎士団が着目したのは、アレート城塞。森の木々を容易に超える高みの塔。
奇しくも、CROSS HEROESとアルガス騎士団が目指す次なる目的地が重なった。

17人目

「絶望を奏でて」

~復讐界域 急造都市~
「外道、卑劣、クズ野郎。何とでも言え。全てこの『カナディアンマン・オルタ』の栄誉の贄にしかならんがなァ!」

 高らかに悪徳を告げる黒き楓「カナディアンマン・オルタ」。
 その邪悪ともいえる威圧感には、敵陣営だけでなく味方___復讐界域の英霊も恐れ戦く。

「うわ、まずいなぁ。」

 そんな英霊を他所に江ノ島と共に廃墟に隠れ、顔をしかめるデミックス。
 外を見ると、そこには黒い楓と無数の無名英霊。
 下手に出たらやられる。

「これ、どうする?」
「……うーん。」

 さすがに分が悪いのか、困った顔をする江ノ島。
 と、そこに徐に外を見てみる。そこには。

「何かが堕ちてくる、パラシュートかあれ?」

 江ノ島は見た。外からこのトラオムに入る影を。
 複数人?とにかく、助けが来た。
 大規模な探索。できるだけメンバーは多い方がいい。

「……わりぃ、どうしてもここから出ないといけないみたいだわ私ら。」
「マジ?」
「マジ。」

 ここから出る方法を模索する2人。
 無闇滅多に出たら嬲り殺しに遭う。

「そこに誰かいるな!?」

 と、どっちの陣営だったか。兵士のうち一人が存在に気づいてしまった。
 他の兵士も振り向く。

「あ?おい貴様、そこを見てみろ。」
「は、はい。」

 そういって、復讐界域の兵士が声が聞こえた廃墟を覗いてみる。
 そこには。

「女!?」

 瞬間。
 炸裂する銃声。

「ぐわあああああああ!?」

 兵士が銃弾に斃れ、光に消える。
 周囲が驚愕するも勇敢に武器を構え廃墟へと進軍する。

「待て貴様ら、落ち着け!一斉に入るな!」

 カナディアンマン・オルタの声も聞かずに突撃する。
 それほどのパニックだったのか?

「おい、私様たちはここだァ!」
「「「「!?」」」」

 高らかに名乗りを上げる絶望少女、江ノ島盾子。
 その隣にいるのは、嫌々そうに、されどシタールを構えるノーバディ、デミックス。

「貴様らァ!」

 無名英霊のうちの一体、クラス:ランサーが刺突を開始する。

「食らっとけ!」

 しかしそれは___突如現れた水の柱に阻まれる!

「水!?」

 シタールの音と共に、激流の水柱に貫かれる無名の英霊。
 それも一本や二本ではない。

「気をつけろ!あの水柱、かなりの破壊力だ!」
「」


「「そんじゃあな(ね)!」」

 2人が一斉に中指を立て、後方へと撤退しながら迎撃戦を開始する!

「「「「「「……殺すッッ!!!」」」」」」

 無限の殺意を抱いて、無名英霊は2人を追う。
 その様子を、カナディアンマン・オルタと数体の無名英霊は冷ややかに見ていた。

「よろしいので?」
「ああ、勝手に行かせればいい。どうせ奴らでは勝てん。」



 走って、走って、走り続けて。
 逃げて、逃げて、逃げまくって。

「射殺せ!」
「させっかよ!食らいやがれ!」

 自分たちを撃ち抜こうとする弓兵どもを、自分の持つショットガン型改稿兵装で撃ち殺し。

「魔弾を撃て!」「ひき殺せ!」
「はっ!楽しんでるかい?」

 魔術師連中や騎兵連中を水の柱や水弾でぶっ飛ばす。
 途中で変な額の奴を見つけたけど、話している暇はなかった。

 そうこうしていると、だんだんとその目的地へと近づいてきた。

 あと少しで、合流できる。
 あと少しで、目的地だ。

「見つけたぞ!」
「貴様らは逃がさん!」
「"女神"はともかく、のこのこと戻ってきたところで貴様らに帰る場所はないぞ!」
「どの陣営についたかは知らんが、ここで始末させてもらう!」

「まずっ!追手だ!?」
「女神だぁ?私様が神様になった覚えはないぞ!?どっちかっつーと大魔王ポジだっつーの!」

 そんな淡い希望を打ち砕くように目の前に立つ、絶望界域のウォーカーギア10機とクラス:アーチャー30騎。
 どこで聞きつけたのか。絶望界域に援軍を呼ばれていた。

 あと少しで、スネークたちと合流できるのに。
 まだ試練は続く。

18人目

「目指すは堅牢なる城塞」

 アレート城塞へ向かうことになったCROSS HEROES。
希望界域拠点から北の方角に位置するアレート城塞。
道中には「狭間の森」と言う大規模な森林地帯が存在する。
そこは霧が立ち込めており、視界も足場も悪いことからあまり立ち入る者はいない。

「他のルートは無いんですか?」
「狭間の森の西にある「静かなる平原」から迂回すれば行けなくも無いが遠回りになる」

 サーヴァント軍団と出くわす危険もあるため、やはりここは森を通って行くしかない。
敵に見つかりにくいと言う意味ではこちらの方が安全だろう。

「それじゃあ、行こうかねぇ」

 燕青が道案内を務め、CROSS HEROESが後に続く。
森の中は薄暗く、不気味な雰囲気だ。時折、鳥の鳴き声が聞こえるものの、
それ以外には何の音もない。まるで、この世の終わりのような静寂さだ。

「アレート城塞は馬鹿デカい。だから、森の中からでも位置だけはわかる」
「そうか……あれを目指して進めばいいんですね」

 いろはが確認すると、燕青が静かに頷く。

「そう言う事。だが、森を抜けた後は敵さんのテリトリーだ。覚悟しときなよ」

 燕青の言葉に全員が息を呑む。
その頃、アレート城塞の東側にある岩山の頂から偵察をする者たちがいた。
アルガス騎士団だ。

「ふむ……流石に守りが堅いようだな。かなりの兵が配備されているようだ」

 法術士ニューが遠見の魔法を使い、城塞周辺の状況を確認する。
城塞の周囲を無数の無名英霊たちが巡回していた。

「正面突破は厳しそうだな」
「何かきっかけが欲しいところだ」
「あれだけの物々しい警備。つまり、奴らにとってそうしなければならないほどの
敵対勢力が他にいるということだ」

 剣士ゼータは冷静に分析する。確かに、これほどの兵力が動員されているのならば、
何らかの理由があると考える方が自然だ。
守りとは、攻めに対する備えであるが故に。

「我々の戦力は3人。まともにやり合えば勝ち目はない。今は時を待とう。
いずれチャンスは来るはずだ」

 そう言いながら、アレート城塞を睨みつけるゼータ。

「むう、もどかしいものだな」

 闘士ダブルゼータは拳を打ち付け、沸々と闘志を燃やした。

「急いては事を仕損じる、と言う奴だ。今は自重する事だな、ダブルゼータ」
「言われずとも分かっておるわ……」

 今はただ静かに、起爆の時を待つ……

19人目

「会敵する者達/地下牢にて」

晴天の広がる青空に、燦然と輝く太陽が照らし出す荒野の大地。
見渡す限りの光景は、そればかり。
頬を伝う空気はカラっぽく、痛いほど乾燥している。
吹き抜ける風は砂塵を巻き上げ、荒野の地表を波立たせている。
草木一本生えていない荒野はどこまでも広がっていて、起伏があるようにすら思えない。
本当に同じ景色が延々と続くだけで、それが逆に不気味さを醸し出している。
眼前に広がる荒野の大地は、ただただひたすらに、広大であった。

荒涼とした視界を遮るものが何もない風景から目線を上げれば、遠くに薄らぼんやりと映る村落らしきシルエット。
そして更に遠方、地平線の先には、そこに続いている筈の"巨大な壁"が、まるで見えない。
それはつまり、目の前に広がる光景こそが"未開の荒野"であるということを示していた。

「どうなっている…!?」

異常、そう言わざるを得ない光景だった。
ダイヤモンド・ドッグズが、スネーク達が突入した壁は、確かに広大な面積を誇っていた。
だがそれはあくまでも東京という土地の中ではという測りであって、間違っても10㎞20㎞もあるような地平を埋め尽くす物では無い。
1辺がせいぜいが1㎞2㎞、その程度の空間の筈である。
それがどうだ?
ここはどう考えても東京よりも遥かに広大だ。
遠景に映る山脈や村落などは明らかに本物であり、幻覚やホログラム、ましてや目の錯覚の類いでは無いように見える。
それでも、この広大な荒野そのものが現実のものとは思えないのだ。
一体何が起きているのか?
この世界自体が現実なのかすら怪しいものだ。
そんな不可解極まる状況に、彼等はただただ困惑するばかりであった。

「不気味な光景だ…とてもあの壁に収まっていたとは思えん。」
「俺もだ、まるで小さくなってウォーズマンの体内に入った時みたいだ…!」
「…体内?」

ブロッケンJr.の唐突かつ不可解な体験談に、シンプルな疑問を返すスネーク。
それを察してか、ブロッケンJr.は少し言葉を選んで話を続ける。

「あぁ、嘗て悪魔六騎士…アシュラマン達だな。アイツらがウォーズマンの体内に閉じこもって、人質としたことがあったんだ。」
「黄金のマスクの時か…」
「その時、アイツらが『リサイクルゾーン』って井戸を使って、小さくなってウォーズマンの中に入っていったんだ。」
「…???」
「俺らもその井戸で後を追ってな、体内にある『五重の塔』ってリングで戦う事になったんだ。」
「………そうか。」

だがどう言葉を選んでもトンチキな事実の前には説明不足になるようで、説明を受けたスネークの表情には若干の混乱が見られる。
無理も無いだろう。
ブロッケンJr.もまた、自分の言っていることがあまりに非現実的であることを自覚していた。
突然出てきた体の小さくなる井戸とか、体内にリングがある事とか、それも何で五重にあるのかとか、ツッコむべき事象がたくさんありすぎた。
ただ先程も言ったように事実である以上、他に言いようが無いので仕方の無い事だ。
負傷し、修理、もとい治療を受けて、ここには居ないウォーズマンの腹の内には、今もなお腸では無く五重のリングがある。
閑話休題。

「…つまり、ここはミニチュアの世界で、俺達は壁を通った時に小さくなったかもしれない、と?」
「あぁ。或いは、空間が捻じ曲がってて本当にこの巨大な土地があの壁の中に納まってるか、だ。」
「あの穴が別の世界に続いてたって可能性もあるな。最も、それならわざわざ東京の学園を爆破してまで作る意味は無さそうだが…」

ともかく、トンチキな話題なりに、目の前の不可解な事象の理解に役立ったらしい。
普段ならあり得ない、三つの憶測が表舞台に飛び交う
だが、どれ一つとして確証を得られるものでは無い。
どれとも言えるし、どれでも無いかもしれない。
少なくとも今は、結論を急ぐべきでは無いだろう。

そして今重要なことは、これからどうするかという選択である。
いずれの確証を得るにせよ、先ずは自分の脚で真実を確かめなければならない。
そして、ここで何が行われているかをも。

「どうする、スネー_」

そうして行動指針を訪ねようとした時、ブロッケンJr.は思わず息を飲む。
険しい表情で何かを見定めるスネークの姿が、そこにあったからだ。
その視線の先にある荒野に目を向ければ、朧気ながら幾つもの影が浮かび上がっている。
それは、複数の人型であった。
砂塵の向こうに薄らと見えるシルエットは、紛れも無く人のものである。
そして、徐々に近づいてくるにつれ、その実態はより鮮明なものとなる。

「…少女?」

高校生らしき少女と、黒いフードを着た青年。
その二人を追いかけ、逆に打ちのめされる、中世の騎士の様な者達。
そして、逃げ場を塞ぐように立ちはだかる、見た事も無い人型兵器と弓兵。
まるで漫画やアニメに出てきそうな、そんな構図だった。
騎士風の男達も全員人間に見えるが、どれもフルフェイスの兜を被っていて、顔は分からない。
人型兵器の操縦士と弓矢を携える兵士も同様だった。

だが、それでも。
この異様な光景を見て、少女が追いつめられていることを察するには十分すぎる状況ではあった。

「行くぞっ…!」

その瞬間、考えるよりも先に、体が動いていた。



最初に目が覚めた時、視界に飛び込んできたのは、岩肌の天井だった。
寝ぼけ眼で周りを見渡せば、自分が知らない場所にいることが分かる。
まだ覚醒しきっていない頭を振り、意識を少しずつはっきりさせていく。

「んん…ここは?」

寝かされていたベッドから身を起こし、改めて周囲を見渡す。
石造りの無機質な部屋。
いや、部屋というには余りに味気ない。
そこにあるのは、簡素な机と椅子、そして部屋を区切る鉄格子
窓は無く、代わりにドアがあるがこれもまた鉄製。
壁や床は所々が剥がれ落ちており、かなり年季の入った建物だと分かる。
部屋の中を照らすのは、壁に掛けられた燭台の灯りだけ。
そんな牢獄と思わしき場所にて、ウーロンが一人佇んでいた。

「何だよ、これ…」

呆然と呟く彼の声色は、未だ混乱の最中であることを示している。
それも当然だ、いきなりこんなところに連れてこられて混乱しない方がおかしい。
彼はつい先程まで、ダイヤモンド・ドッグズの仲間と共に、バードス島の決戦に挑んでいた筈だ。
鋼鉄の巨人を駆り、死闘を繰り広げる中で、セルとの思わぬ会合を果たした。
そこからはピッコロの援護を受けつつも辛勝を収めて。
その後の記憶が無い。

「…ダメだ、そこから先が思い出せない。」

何故ここに居るのか、ここが何処なのか、何もかもが分からない。
そういえば、戦いの後どうなったのかも聞いていない。

「よう、目覚めた様だな?」

そんな不安の中で、不意に暗闇から聞き慣れた声が響き渡る。
暗闇に目を凝らせば、そこには見慣れた壮年の男性の姿。

「オセロット!?」
「そうだ。どうやら俺達は、捕らわれたみたいだな。」

驚くウーロンに、リボルバー・オセロットは相変わらず感情の読めない表情で淡々と返してきた。

20人目

「奮戦する者たち/アレート城塞会戦-前哨-」

~復讐界域 つり橋近くの荒野~
「ちっ!何人いんだよこのストーカー騎士連中!」
「ほんと、こっちは戦いたくないってのに!」

「撃て!撃てッ!」
「この新兵器の力、受けるがいい!」

ウォーカーギアという最新鋭兵器に乗り込んだ無名英霊の群衆。
一見すると不利な状況だが、しかし二人はひるむことはない。

江ノ島の持つそのショットガンは、かのスナイパー「シモ・ヘイヘ」の伝説を改稿し作った『命中した敵を高確率で破壊する』、英霊アレクサンドル・デュマが作った改稿兵装!
英霊が作った兵装、その効果は当然無名の英霊にも覿面___!

そして、デミックス。
彼の持つ属性は水。
当然のことだが、機械に水は最悪の相性。

「あああああああああ…感電……し……!」
「クソ!あの黒コートを撃て!」

「効かないっての!」
シタールの音色と共に招来する水柱が、豆粒のような弾丸を無効化し打ち落とす。

「ちきしょう!後ろから変な連中が来ちまっているし!こうなったら徹底抗戦だ!」

英霊の群衆はそれでも、諦めることなく蛮勇の進軍を実行する。

~絶望界域 アレート城塞~

まるで冬の森___にしては白黒がいささか濃すぎる異質な森。
そこに聳え立つは、これまた異質な円形の城塞。

これこそは、絶望界域の侵略。その第一歩となる前哨基地。
依然、多くの機械や兵器が秘密裏に運搬されている。その目的は当然、希望界域を制圧すること。

城塞の名は「アレート城塞」。
名前なんざに意味はない。ただ、侵略さえできればそれでいい。

「しかし、寒いな。」      ・・・
「おいおい、俺たちは英霊、それも勝ち馬の英霊だぜ?風邪なんか引いている暇があるか?油断してんじゃねーよ。」

CROSS HEROESのメンバーと燕青が今向かっていることは露知らず。
そしてアルガス騎士団が近く、狭間の森に待ち伏せていることも露知らずに談話に更けている。

「……そういえば、アレってどうなったんだ?ほら、お前がシグバール様から聞いたアレ。」
「ああ、何とかアーキアってやつか?まだ解析が続いているみたいだけど、如何せん構造がまだわからない部分が多くてだな。苦労しているみたいだぜ?」
「マジかぁ。でも完成したらそれこそメサイア教団の完全勝利だよな?」
「おそらくは、だがな。」

 サヘラントロプスの鹵獲、その際に自動的に得た『メタリックアーキア』なる微生物の存在。金属を代謝、腐食させたり、時には放射能物質すら代謝しその身を核弾頭のそれへと変質させる。

 今後、メタリックアーキアの解析が進み、サヘラントロプスのような超兵器が量産でもされたら……最悪なのは間違いない。

「……?誰かいるのか!?」

 見回りの兵士、その一人が隠れていたアルガス騎士団の存在を察知してしまった。
 位置こそが分からないが、それでも、こちらへと向かってくる。

 ___絶体絶命。

21人目

「祭りの始まり/アレート城塞会戦 -突入-」

 じわじわと見回りの兵士が近づいてくる。決断の時を迫られる。

「チッ、思ったより早かったな……」

 剣士ゼータは鞘に収まった剣に手を掛けた。

「どうする?」

 簡易詠唱を始める法術士ニューが問いかけた。答えはひとつ。

「仕方がない、やるしかないだろうな……」
「俺も戦うぞ!」

 闘士ダブルゼータが立ち上がり、構えた。

「……わかった。では、行くぞ!」

その時である。

「!? 爆発!?」

 アレート城塞の方角から爆発音が響いた。

「なんだあれ……煙……か?」
「敵襲! 敵襲! 侵入者だ!」

 兵士の一人が叫び声を上げた。急いで城塞へと引き返していく。

「何だと!? すぐに引き返すぞ!」
「アイアイサー! ……ってね」

 一目散に走り去る兵士。その後ろ姿を見送るもうひとりの兵士の姿が変容していく。
燕青だった。彼にはドッペルゲンガーの能力が備わっており、
千変万化に変装する事が出来るのだ。

「さぁてと、祭りの始まりと行きますか」

「……チャンスだ! この機に乗じる!」
「「おう!」」

 幸運にも難を逃れたアルガス騎士団の三人もすぐさま走り出した。

「ゴムゴムのォォォォォォォォッ……!! 
風車ああああああああああああああああああッ!!」

 怪力でアレート城塞に配備された戦車を振り回し、周囲の敵を一気に薙ぎ払う。

「おぉおおおりゃああああああああああああああああああああああああああああッ!」
「ぬわあああああああッ……」

 ルフィだ。いち早く森を抜けたCROSS HEROESがアレート城塞に本格的な攻撃を
仕掛け始めたのだ。

「な、何だこいつらは……!」
「構わん、殺せ! 殺せば英雄になれる!」
「「おおっ!」」

「おりゃああああああああああああああああ!」

 ドゴオオオッ! ルフィの鉄拳が門番の鎧を砕く。拳の形がくっきりと残るほどの
威力で殴り飛ばした。

「ぐっへぁ……ッ……」
「ひいぃ! 化け物めぇ!」

「待て逃げるな! 俺を置いていくな!」
「うわあぁああ! 助けてくれええええ!」

「……! あいつら逃げていきやがった」
「戦わないで済むなら、それに越した事は無いですよ」

 月美はそう言って微笑む。

「ほぉう、流石。手際のよろしい事で」

 燕青が合流する頃には、城塞前の防衛線は半壊していた。

「じゃあ、行きましょう!」
「はい!」

 悟飯の号令と共に歩を進めるCROSS HEROES。
かくして、アレート城塞攻略は本格的に始動するのであった。

22人目

「幕間:混迷する者、驚愕する者」

~復讐界域拠点~

 廃墟にポツンと建てられた、近未来的な城。
 その玉座に座るは復讐と狂気の狭間に立つ男、パラガス。

「此度の戦いは俺にも責任がある。自拠点を守れないとは情けない限りだ。」
「いえ、そんなことは……我々にも責任があります。」

 急造都市の一戦、完全に油断した。
 どこの陣営かはわからないが、あの2人があそこまで強かったとは。

「いや、完全に俺の判断ミスだ。……少し一人にさせてくれ。お前らは都市部の警戒を強化させろ。それと、この近くにベジータという男が来たら俺に知らせろ。」
「は、はぁ……。」

 パラガスはベジータの写真をその兵士に渡し、一人どこかへと去っていった。



「……どういうことだ?」
 自室にて、パラガスは悩んでいた。

(カナディアンマン・オルタの報告では「あの2人を見た兵士は一部を除き、自分の命令を無視して一目散に追いかけてきた。そのうちの一人は2人のうち女の方を『女神』と呼んでいた。」という報告が上がっている。あの兵士どもは前々から思っていたのだが、どこからきたのか?一体何者なのか?)

 カナディアンマン・オルタからの報告。
 そして自分の考え。

 あの兵士の正体は、一体……?

~希望界域拠点~

「……燕青達、うまくやっているだろうか。」

 十神は、心配と己が惨めさに苦心していた。
 情けない。
 自分のこの脚が動かせるようになっていれば、自分も加勢に出向けたというのに。

 あの忌々しい爆発。
 あれさえなければ、みんな笑いあえたというのに。

 何が十神財閥の御曹司だ。
 その果てがこれか?笑い話にもならない。

「俺は……。」

 ああ、弱い。
 現実問題、俺はあまりにも「弱い」。

 でも。

「弱音を吐いている暇はないな。俺には俺のすべきことがある。」

 たとえ誇りを挫かれても。まだ戦えるというならば戦うまで。

「十神様、報告です。」

 斥候、クラス:アサシンのサーヴァントが生徒会室に入ってきた。

「どうした?」
「つり橋エリアにて戦闘発生。その中に……実は……信じられません……。」
「歯切れ悪いな。何かあったのか?はっきり言え。」

 斥候は続ける。
 しかし次に放たれた名前は、十神の心を大きく動揺させた。

「その中に、江ノ島盾子がいます……!」

「_____なんだって?」

「繰り返します。このトラオムにあの『江ノ島盾子』が来ています!確かに、私がこの目で確認しました!」

 恐れ戦き、震える。
 まさか。そんな。

 コロシアイの黒幕。奴がこのトラオムにいるだと!?

23人目

「戦場に咲く花」

 アレート城塞内部に突入したCROSS HEROES。
無名の英霊たちは突然の敵襲に混乱し、驚き戸惑っていた。

「抵抗しなければ、危害は加えない」

 悟飯はそう告げると、抵抗する英霊たちを峰打ちで気絶させていく。

「お優しい事で」
「!?」

 冷たく、それでいて美しい声が聞こえた直後、無数のミサイルが降り注いだ。

「くっ!」

 月美は咄嵯に結界を張り、防御態勢を取る。ミサイルが直撃した瞬間、
爆発して周囲に煙幕が広がる。

「……」

 煙幕の中、姿を現したのは少女だった。両腕を華奢な身体には不釣り合いな
多連装ミサイルポッドに換装しており、先ほどのミサイルはそこから放たれたようだ。
その隣にいるのは……

「禍津星穢……!!」

 日向月美とペルフェクタリアの世界を滅ぼし、リ・ユニオン・スクエアにも
その魔の手を伸ばす謎の男。

「やあ、しばらくぶり。あれから少しは強くなったかな?」
「こんな所にまで現れるなんて……」

「メサイア教団とやらの存在はなかなかに僕らにとって都合が良いんでね。
実際、こうして君らとも再会できたわけだし?」

 そう言うと、禍津星穢は邪悪な笑みを浮かべる。

「何者です?」
「敵だ。一切の容赦も慈悲もなく、ただ殺すためだけに存在する」

 悟飯の問いに、ペルフェクタリアは凍り付くような声で答えた。

「怖いなあ、魔殺少女。せっかくのご同輩との再会なのにそんな目で睨むなんて」
「黙れ! 貴様らの悪行を忘れるものか!! 
貴様らに殺された者たちの無念を思い知れッ!!!」

 怒りに任せてペルフェクタリアは突撃する。

「ふーん。このひとがペルフェクタリア……」
「!?」

 ミサイルを撃ち放った銀髪碧眼の少女……ブーゲンビリア。
その顔を覗き込んだ瞬間、ペルフェクタリアの顔色が変わる。

「……デフ……!?」

 驚愕の声を上げるペルフェクタリア。だが、それを聞く間もなく、
ブーゲンビリアは右腕を大型カッターに換装するとそのまま斬りかかった。
ペルフェクタリアはそれを避わしすぐさま飛び退くが、その表情は困惑に染まっている。
思考停止に陥りかけるペルフェクタリア。

「気づいたようだね、摩殺少女」
「何故……何故あの女と同じ顔をしている……」

 デフェクター。ペルフェクタリアと同じ組織に所属していた幹部の一人。
生体改造によって肉体の大部分をサイボーグ化しており、
全身に武装を施していた暗器使い。組織の首魁を実の父親以上に心酔していた彼女は、
組織にも絶対の忠誠を誓っており、
ペルが組織を脱退した際には裏切り者、組織の面汚しだと罵り、執拗に追い回してきた。
だが、そのデフェクターもまた、組織の駒として利用されていた事を
否応なく突きつけられたのだ。

 それを決定づけた出来事こそ、「プロジェクト・ブーゲンビリア・モデル」。
デフェクターの細胞から、生体兵器「ブーゲンビリア・モデル」を
大量生産する計画だった。
彼女はその事実に絶望し、組織打倒の手助けとなる助言をペル達に残して
姿を消したはずだったのだが……。
目の前にいるブーゲンビリアと、かつての同僚であるデフェクターは
年齢と容姿こそ若干異なれど全く同じ顔をしていた。
まるで同一人物を若返らせたかのように。

「そう。こいつこそ、計画の唯一の成功例ってわけ。
こいつを造るのに随分と苦労したんだよ? 君らが組織を裏切って
計画を潰してくれたおかげでこいつの完成が遅れちゃったんだからさぁ?」

 ブーゲンビリアの隣で禍津星穢は嘲笑うように言った。
禍津星が属する組織こそ、ペルフェクタリアやデフェクターが所属していた
「アベレイジ」を影で操っていた黒幕。
彼らは目的のためならどんな手段でも使う外道どもだ。
自分の手駒を増やすために、クローン技術を用いて複製した人間を
人体実験の材料にしていたという事だろう。

 魔殺少女、ペルフェクタリア。彼女もまた、忌まわしき過去と向き合う時が
やって来た。

「あそぼうよ、おねえちゃんたち」

24人目

「荒野の激戦」

荒野の大地を、足音を立てて駆け抜ける。
僅かばかりの起伏の谷間を、縫う様に。
そうして岩場に隠れた一瞬の後、つい先程まで居た射線上に銃弾の雨霰が叩き込まれる。

「…厄介だな、あの兵器は。」

舌打ちしながら、身を潜めるスネーク。
だが、その顔には焦りの色は無く、ただ冷静に物事を俯瞰していた。

彼の視線に映るものは、過去に類を見ない新型の人型兵器。
人の丈と同じくらいか、少し上回る程度の大きさだろうか。
見た所、人が後ろにしがみ付く形で操縦するようだ。
少々不格好に見えるそれは、しかし兵器全体を丸々正面装甲に出来るという面で搭乗者の安全性を保障している。
詰まる所、正面切った戦闘では明らかに此方が不利だった。

「あれでは、迂闊に近づけんか。」

事実、あの少女らを包囲していた内のたった数機を向けられただけで、この拮抗状態である。
腕部に備え付けられた巨大な機関銃、恐らく連射速度は、マシンガンよりも速いだろう。
しかし、何より厄介なのはあの射程距離だ。
遮蔽物の無い平野で、こちらの射程外から、一方的に攻撃出来る。
その上、あの射撃は移動しながらでも恐ろしく正確に狙った場所を穿つ事が出来ている。
あの兵器を生んだ科学者の優秀さが伺える。

(…いや、まさかな)

ふと湧いたその者の姿を、頭を振って振り払う。
今は余計な事を考えている時ではない。
迂闊に反撃出来ない状況の中、スネークは徐々に追い詰められていると言っても過言では無い。
遮蔽物に身を隠している今も、相手からすれば位置は筒抜けなのだ。

だから、ほら。

「危ない、スネーク!」
「っ!」

一瞬の油断が、命取りになる。
他の人型兵器に搭載されたロケット砲が火を噴いて、弾頭が噴煙を描いてスネークへと迫る。
岩場諸共吹き飛ばさんとしたソレは、見事狙い通りに炸裂した。
巻き起こる爆炎、立ち昇る土煙、大気を揺るがす轟音。
それらが辺り一帯を支配する。

やがて爆風が晴れて行く。

その場に佇む者は、居ない。

「スネークッ!?スネーーークッ!!」

思わず叫ぶブロッケンJr.の声に応えるものは、何も無い。
沈黙が支配する中、徐々に視界がクリアになって行く。
果たしてそこにあったのは、無残にも砕け散った岩塊の数々だった。
だがしかし、それ等は既に誰からも興味を失ったように、誰にも見向きもされない。

「止せ、ブロッケン!」
「離せ、行かせてくれっ…うわっ!?」

代わりに、叫びを上げて身を乗り出したブロッケンJr.の元に、先程の銃弾が撃ち込まれる。
咄嗟にカナディアンマン達が彼の身を引かなければ、超人の蜂の巣の出来上がりだっただろう。
忘れてはならない、危険な状況は今も続いているのだ。

「クソッ、畜生…!」

だがそれでも、ブロッケンJr.はその惨状を見て我慢出来なかった。
あの伝説の戦士が、こんなにあっさりと。
彼には、内に湧き上がる慟哭を抑える術が、ひとつしか見つからなかった。

「…行かせてやれ。」
「バッファローマン!?お前、何を言って…!?」

その背に投げ掛けられた言葉に、思わず振り返って食って掛かるカナディアンマン。
対するバッファローマンは、何処か呆れた様子さえ窺える。
それはきっと、彼の内心を知っているからだ。
そして、彼が今何を思っているのかも手に取る様に分かってしまう。
故に、彼は敢えてこう告げた。
まるで諭すかのように。

「行かせてやれ、と言ったんだ。」
「正気か!?あの銃弾の中を…あっ!」

そうして拘束の緩んだ一瞬の内に、ブロッケンJr.は走り出していた。
未だ残る爆煙の中へ突っ込んで行った彼を、止める事はもう誰にも叶わなかった。

「あぁ、行ってしまった…!」

残された者達に出来る事と言えば、ただ無事を願う事のみ。
しかし、その心中は決して穏やかではなかった。

「そら、お前等も行け!」

だからだろうか、その言葉と同時に来た、背中を押す衝撃に一切の踏ん張りが出来なかったのは。
そのまま数歩進まされ、射線の通った場所に立たされたのは。

「…へ?おわぁ!?」

当然だが、射線上に立った者は狙われる。
状況を把握、直後に飛来した銃弾を避けれた事は、奇跡だった。
次いで襲い掛かる弾丸と弾頭の嵐を、カナディアンマン達は慌てて走り、避ける。
避ける避ける、今までの空気は何処へやら。
一瞬にして悲壮感は消え去り、そこにはコメディチックに逃げ回る正義超人が二人。

「バッファローマン、お前ーーーっ!」

二人の悲鳴と銃声が、荒野に虚しく木霊した。

それはさておき、彼等のお陰で薄れた弾幕の中を、ブロッケンJr.は駆け抜ける。
耳元を掠める弾丸、ソレが生み出す風切り音を頼りに、銃弾の嵐を潜り抜ける。
そうだ、この程度の弾幕、何てことは無い。

思い出せ、嘗て祖国の厳しい演習において、装甲車の弾幕を潜り抜け、見事懐に入り込み破壊してみせたではないか。
それに比べればこの程度。

「な、何だコイツ…!?」
「俺の、俺達の敵じゃねぇーーー!!!」

一際大きな岩塊に飛び乗ると、そこから更に跳躍し、空高く舞い上がる。
雲間から覗く太陽の光を背に浴びながら空中で身を翻すと、勢いをそのままに人型兵器へ向けて、飛び掛かる。

「ま、眩しい…ヒィ!?」

彼を追いかけた目が逆光を浴び、眩んだ一瞬。
影が差した時には、ゼロ距離、目と鼻の先に彼は居た。
逆立ちで、人型兵器の上に立つ彼と、視線が合う。

「ハンブルグの黒い霧ーーーっ!!!」

瞬間、後頭部に炸裂する足蹴りの衝撃を最後に、操縦士の意識は消し飛んだ。
フルフェイスマスクの装甲を凹ませて余りある、高位置エネルギーを利用した一種の回し蹴りだ。
如何に英霊と言えど、即死だ。

「とりゃーっ!!」

しかし、それで終わるブロッケンJr.ではない。
即座に兵器を持ち上げ、近場の敵に投げつけた。
兵器は弧を描き、敵に叩きつけられ、爆炎を上げる。
巻き起こる爆風を受け流しながら、その熱量を全身に感じつつ、彼は唸る。

「まだまだぁ!!」

己の肉体に鞭打って、更なる猛攻を仕掛ける。
体勢を立て直そうとした敵陣に、容赦なく切り込む。

1機、2機、3機と、次々に人型兵器を破壊していく。
その拳に宿った力によって、鋼鉄はひしゃげ、引き裂かれ、打ち砕かれる。
超人的なパワーに物を言わせた単純な暴力が、戦場を支配する。

「こ、こなくそーっ!」

そんな彼に照準を合わせる、一人の操縦士。
やっとの思いで立て直し、今にも彼を撃ち殺さんとしていた。
その時だった。

「よう。」
「へっ…?」

気付けば、後ろには角の生えた巨漢、バッファローマンが肩に手を添えていた。
その後ろでは、彼に壊滅させられたであろう弓兵と人型兵器の残骸。

「ま、まさかアレは陽動…!?」
「悪魔は何でも使うのさ、オラァ!」

フッと一瞬悪魔的な笑みを浮かべ、直後に片手で操縦士をぶん投げた。
そして数秒の後、地面に激突した音と共に、彼は気絶した。

「…ご要望通り、数機は残したぜ?」
「…後でブロッケンに謝らんとな。」

そんな様子を、ひっそりと生きてた蛇は見た。

25人目

「江ノ島盾子の憂鬱」

~西の都 デュマの部屋~
「んで、これをこうしたら、面白くなるわけだ!」

 西の都にあるデュマの部屋。
 彼が闘いに参戦することはない。

 ただ、こうして物語を執筆し、現在進行形で彼らが紡ぐ戦闘冒険譚を文章として紡いでいる。

「んで、お宅は何の用だ?入るのはいいんだが少なくともノックしてから入りやがれ。
近頃の暗殺者でもんなアホやらねぇってんだ、馬小屋育ちか?ふざけんな。」

 ノックもなしに入ってきた黒いコートの男、ルクソード。

「ノックはしたつもりなのだが。留守を疑ったが中のランプがついていて、入らせてもらった。」
「けっ、めんどくせぇ。で___何の用だ?」
「なぜトラオムに江ノ島を送り込んだ?」

 意外な質問。
 いくら絶望の化身とでも言えるべき存在とて、その実はただの女子高生。
 ちょっと頭がいいだけでは、地獄の戦場を駆け抜けることはできない。

 ___一考した後、デュマはルクソードを小ばかにしつつ答える。

「ハッ!だってみんな好きだろ?苦しみもがいた挙句に、栄光をつかむ物語がよぉ?」

~復讐界域 つり橋近くの荒野~
「ちっ!何人いんだよこのストーカー騎士連中!」
「ほんと、こっちは戦いたくないってのに!」

 ウォーカーギアの軍勢をなぎ倒していく2人。

「舞い踊れ水たち!」

 片やデミックスは水のシタールの旋律を奏で、ウォーカーギアを漏電させて破壊、搭乗していたアーチャー連中を吹き飛ばす!

「邪魔だってんだ!絶望的に死ね!」

 江ノ島は空中に吹き飛ばされた無名英霊を、デュマに渡されたショットガンでその脳天を撃つ!
 そのショットガンは、かのスナイパー「シモ・ヘイヘ」の伝説を改稿し作った『命中した敵を高確率で破壊する』改稿兵装!
 英霊が作った兵装、その効果は無名の英霊にも覿面___!

「くそ!撤退!引け引……ぎゃあああ!」

 2人の無双。
 その前には無名英霊どもが立ち入るスキなどない。

 そのうちの一人が、江ノ島の脚に縋り付き何かを言い始めた。

「た、助けてください……!私たちは『女神』である江ノ島様、あなたを待っていたのです!過去、女神として鋳造されたあなたさえいれば、我らの目的は果たされる!人類を救済、否、神化だってできる!それなのに……それなのに!」

 まるで英霊とは思えない命乞い。
 当然そんな言葉を聞いている暇なぞ、彼女には____ない。

「あ゛?うるせぇよ。」

 江ノ島の表情が、静かなる怒りに曇る。
 過去を相当に忌み嫌っているかのように。

「ぐへ。」

 銃声と共に、無名のアーチャーは消滅した。

「ご生憎だが、私様の過去を詮索しようとするやつは、例外なくぶち殺すって決めてんだ。」

 その表情は、憤っている。

26人目

「共同戦線」

数機の人型兵器に、バッグが括り付けられていく。
一機を残して付けられたソレは、合図と共にバルーンを噴出。
膨大な浮力を得た人型兵器は、当たり前の様に飛翔し、空へと上がっていく。
科学の神秘が織りなすその光景を背景に、叫ぶ男が一人。
当然、ブロッケンJr.である。

「生きてたならそう言えよ!」
「いやスマン、職業柄隠れるのが癖になっててな…それで伝える暇が無かった。」

対するスネークは、湧き上がる罪悪感と共に謝罪する他無い。
そもそも、死んだと勘違いされていたとは。
確かに自身としても、あの爆発の中で即座に離脱し潜伏出来たのは、熟練された技術と一種の運だったと思っている。
だから死んでない事を伝えなかった自分が悪いと思ってるし、それで彼を銃声下に晒した事が、更に罪悪感を加速させていた。
まあそれでも、自分の生存を伝える事で混乱が起きるだろうと考え、伝えずに潜伏した判断もまた正しかったと確信しているのだが。

「よし、全部上がったぞ。」

そんなこんなをしている間に、バッファローマン等がフルトン回収装置を括り付けた機体は上昇し終えた様だ。
後は、この壁の外にあるヘリがかの兵器の詳細を解明してくれるだろう。
とすれば、残る問題は一つのみ。

「あ”?何だお前等?」

あの包囲網を真正面から食い破って現れた、当初の救助目標との接触である。
近くで見ても、やはりと言うべきかその姿は女子高生そのもの。
しかし、見た目で侮ってはいけない事は先の戦闘で思い知らされている。
彼女がショットガン一つで機械化兵団の包囲網を突破してきたという事実。
それが彼女へ対する警戒心を、一段と引き上げていた。

「君達は…どうやら僕達と戦いに来た訳じゃ無さそうだね。」

そしてそれは、隣に立つ男も同様らしい。
如何なる原理か分からぬが、シタールで以て水を練り操り、鋼の装甲を持つ敵兵共を打倒してみせているのだ。
恐らく何らかの魔道具なのだろうが、それを用いても尚、常軌を逸していると言っていいだろう。
加えて、戦車をも食い破る威力を秘めたガトリングに対しての防護壁としても活用できるようだ。
要するに、彼女は戦車砲すら弾き返す機械兵器を銃一つで撃ち倒し、男は不可思議ながらも鋼鉄を砕く程の力を秘めている訳だ。

それだけの力を持っている彼等だが、どうやらこちらには明確な敵意を向けている様子は無い。
であるならば、一先ずは対話を、その為の下準備を試みる事としよう。
そう、追撃に来た包囲網の片割れ…復讐界域から来た兵士の迎撃を。

「二人とも、話してる時間は無い。来るぞ!」
「んなもん、言われなくても絶望的に分かってるっつーの!」
「いきなり現れて仲間面は何とも言い難いですが…」

渋々ながらも、一応は共同戦線を張れたらしい。
そうして立て直した瞬間、戦闘は再開された。
敵と味方、双方から放たれた矢と銃弾が両者の間合いへと殺到し、爆音と金属音を響かせる。
それを縫う様に走るのは、ブロッケンJr.とバッファローマンだ。

「「うおぉーーーーーっ!!」」

弾丸の嵐を何事も無く駆け抜けるブロッケンJr.。
当然だ、先の弾幕に比べればこの程度、月と鼈である。
足軽に、滑らかに、のらりくらりと交わしていく。
対して超人の中でも突出した超人強度を誇るバッファローマンは、その屈強な肉体で以て銃弾の雨を食い破っていく。
彼に対して打ち込まれる幾千もの弾丸は、彼の表皮やロングホーンにその進撃を拒まれ、決して貫くことは無い。

「な、何だコイツら!?」
「う、撃て!撃てぇ!」

これには敵も、思わず驚きの声を上げる他無かった。
何故なら、サイボーグ化どころか肉体改造もされていない男が、己の放つ弾丸に耐えているのだ。
信じられない事実を前に、敵の攻撃の手は鈍ってしまう。
だがそれも無理はあるまい。
そもそも普通の人間であれば、銃弾を一発受けた時点で絶命は免れないのだ。
そんな威力を秘めた攻撃を、超人とは言え生身で耐えきっている。
それがどれほど異常な事なのか、分からない者は居ないだろう。

「とりゃーーーっ!!!」

そうこうしている内にあっという間に敵陣に切り込んだブロッケンJr.とバッファローマン。
ここからはもう彼等の土俵、インファイト戦である。

「もうお前等の好きにはさせねぇぜ!ベルリンの赤い雨ーーーっ!」
「散々撃ち込んでくれたなぁ?ハリケーンミキサーーーーっ!」

次々に舞い上がる、鮮血と人体。
二人の攻撃は、たった一振りにて敵を数人纏めて薙ぎ払っていた。
勿論、相手も黙ってはいない。
銃を乱射し、剣を抜き放ち、反撃を試みる。
だが、彼等の攻撃が二人を捉える事は無い。
どれだけ優れた武器を持ち、優れた身体能力を持っていたとしても、当たらなければ意味が無い。
特に超人との戦いに於いては、だ。
そして超人は、ただ単に強いだけではない。
彼らは、ただひたすらにタフなのだ。
如何なるダメージを受けようと、それを即座に回復出来るだけの体力を備えている。
ならばもう、無名の英霊程度では、最早太刀打ちできるようなものでは無かった。

やがて打ち止む血と人間の雨。
決着は、言うまでも無くブロッケンJr.達の完勝であった。



空高く打ち上がった幾多の人型兵器群。
ヘリはそれ等をアームで捉え、収納していく。
即座に行われる解析、そして報告。
どうやら、あの兵器の詳細が分かった様だ。
だがしかし、それは同時に新たな問題の発生を意味する事になる。
あの兵器群は、既存のどの国のものでも無い。

「この兵器の構造は…まさか。」

だが、彼等ダイヤモンド・ドッグズには思い当たる節があった。
以前、同じ様な構造を持つ巨大兵器が現れた事があるのだ。
その時は、敵側の技術が優れていた事もあり、苦戦を強いられた。
結局はスネークがそれ等を討ち取る事で解決したが、それでも多大な被害を被ったのは事実である。
だから、今回ももしそれと同等レベルの兵器だとしたら、相当厄介な事になるだろう。
そして、その兵器を作った科学者にもまた、カズヒラには心当たりがあった。

「やはり、ヒューイ…エメリッヒ博士か?」



疑念は、当たっていた。

「サヘラントロプスの整備は済ませたな、エメリッヒ博士?」
「あ、あぁ!勿論だとも。」

戦火の渦中に晒されたアレート城塞内部、その地下深く。
そこに建築された、急造品の巨大な格納庫の中に、巨人は居た。
そこでは、とある人物達が慌ただしく作業に追われていた。

彼の名はエメリッヒ博士。
嘗てMSF…ダイヤモンド・ドッグズの前身にあたる組織に所属していた身であり、巨人、サヘラントロプスの開発者。
そして同時に、スカルフェイスがMSFを滅ぼしたあの日に、彼等と共に姿を消した、裏切りの容疑者である。

27人目

「Paint It Black」

 CROSS HEROESの進撃により指揮系統が混乱したアレート城塞。
その機に乗じてアルガス騎士団も城塞の敷地内への突入を決行した。

「これはどうやら、かなり荒れているようだな」

 剣士ゼータが城壁から内部の様子を伺うと、そこには凄惨たる光景が広がっていた。
戦車が横転し、辛うじて生きていた者達も必死に逃げ惑っている。

「おい、何が起こっているのだ。攻め込んできたのは誰だ?」

 逃亡する無名の英霊をひっつかまえて闘士ダブルゼータが問うた。
すると無名の騎士は恐怖に顔を引きつらせながらも答えた。

「き、希望界域の連中が凄腕の戦士団を引き連れて……」
「なんだと!?」

 無名の英霊の言葉にダブルゼータが顔をしかめる。

「ふうむ、この城塞もかなりの戦力を備えていると見たが……
希望界域の連中とやらは一体どれ程の力を持っているというのか……」

 法術士ニューが興味深げに呟く。だがその時、頭上を矢が掠めていった。

「ちっ! またか!!」

 舌打ちしてゼータが剣を振り回す。見事に矢を叩き落とし、
ニューが魔法を唱えて高台の弓兵を炎で焼き尽くした。

「うわあああッ……」

 光の粒子となって消えていく射手を見届けると、ゼータは背後を振り返る。

「城塞内ではまだ戦いが続いているようだ……この地響き、かなり激しいな」
「希望界域の戦士団……敵か味方か、確かめねばなるまい」

 そう言うなり、彼は走り出した。
ゼータの後を追ってダブルゼータとニューも続く。
こうしてアルガス騎士団は、まだ見ぬ希望界域の戦士たちの素性を求めて
城内へと侵入を果たしたのである……。

 一方、その希望界域の戦士団……CROSS HEROESと禍津星穢、ブーゲンビリアによる
戦いは未だ続いていた。

「酷い……あんな小さな女の子なのに……」

 生体兵器、ブーゲンビリアの出自を知らされた黒江は思わず息を飲む。

「見た目に騙されるな。見ただろう、奴の身体が刃やミサイルポッドに変容する様を」

 そう言いながらペルフェクタリアは構え直す。

「あれはヒトの形をした兵器だ。殺戮のためだけに造られた存在なんだ」
「……!」

 黒江には返す言葉がなかった。それはあまりにも非情すぎる現実だったからだ。

「ははっ、君たちだってそうじゃないのか、魔法少女。
魔女を殺すための道具として契約したんだろ? あの白まんじゅうとさ」

「……ち、違う! 私は……私は……!!」

 穢の巧みな挑発に乗ってしまいそうになる黒江。
だがそんな彼女を救うべく、いろはと月美が立ち塞がった。

「それ以上喋らないでください!!」
「そうよ! あなたみたいな外道が魔法少女を語るなんて許せない!!」

「おうおう、もうちょっとで落とせたっぽいのに、残念」
「あなたと言う人は……!!」

「……」

 滅ぼすために生まれた穢。殺すために生まれたブーゲンビリア。
運命の歯車の廻りが僅かでも違っていれば。
アベレイジの在り方に疑いを抱かずにいたのなら。
きっとあそこに立っていたのは自分やデフェクターであったのだろうと、
ペルフェクタリアは心の中で思う。

「おしゃべりはおわった?」

 ブーゲンビリアの全身からガトリング砲が現れ、銃口を向ける。

「危ないッ!!」

 一斉に放たれる銃弾を避けつつ、ペルフェクタリアたちは散開する。

「いいね、そうこなくっちゃ」

 楽し気に笑う穢に、悟飯が叫ぶ。

「お前たちの目的は何だ!?」
「目的? ……そうだねぇ、強いて言えば……全てを黒く塗り潰す事かな」
「黒い、世界だと?」

「そうさ。何もかもが真っ黒に染まり、やがて無に帰する。それこそが僕の望みだよ。
絵の具の色を全て混ぜ合わせるようにね」

 穢の答えを聞いた途端、一同の間に緊張が走る。
こいつはただ狂っているだけではない。この世界の終焉を望んでいるのだ。
そして、そのためにこの世界に生きる全ての命を犠牲にするつもりなのだ。
それは絶対に止めなければならない。

「そんな事はさせない! でやあああありゃあああああああッ!!」

 超サイヤ人となった悟飯が穢へと迫る。
煙のように消え失せる穢の姿。しかし、悟飯は既にその位置を把握していた。

「そこだッ!!」

 右斜め後ろ。そこに向かって拳を突き出すと、腕に衝撃が走った。

「まだまだァッ!!」

 どうやら攻撃を当てられたらしい。
続けて放った蹴りも見事に命中した。だが。

「ーー!?」

 まるで岩を蹴っているかのような感触に、思わず目を見開く。

「気をつけて、悟飯さん! そいつは身体を自由自在に
変化させる事ができるんです!!」
「何だって……!?」

 月美の声を聞き、慌てて飛び退く。

「その金キラ……嫌いだなぁ。眩しくていけない」

 穢の状態変化。液体、固体、気体。あらゆる状態に変化できる能力。
厄介なのは、そのスピードも常軌を逸しているということだ。

「だが、分かるよ。君の中にある『獣性』って奴をね」
「何……!? 何の事を言っているんだ……」

「人間の負の感情。それは僕の糧となる。
怒り、憎しみ、悲しみ……世界を壊す度にそれらが僕を満たしてくれる」
「……!!」

 怒り。幼少時より悟飯が幾度と無く垣間見せた、
激しい怒りによる爆発的な戦闘力の向上。

(奴はその事を言っているのか……)

 魔法少女の背負う悲しみ。
世界を滅ぼした者への憎しみ。
全てを燃やし尽くす怒りの炎。
間違いない。
穢はそれらを黒江、ペル、月美、悟飯らから引き出そう としているのだ。

「選り取り見取り……って奴? ふふふふ、はははは!
退屈しないねぇ、君らってばさぁ!!」

28人目

「幕間:匣の中」

~トラオム 謎のエリア~
「……ここは?」

 その少年が気が付くと、そこは常闇だった。
 いや、ただ深く、暗いエリアにいるだけなのか。
 幸い、足元は見えるし手の輪郭は見えている。

「確か、ソラの行方を追ってたら……そうだ、此処にいる時間はない、出ないと。」

 闇の中でも自分を鼓舞させ、脚を動かして走り出す。
 しかし、それをせき止めるかのような声が、彼の足を止めた。

『ほう、人探しか?しかし残念だったのう。わえがいる限り貴様はここへは出れないし、そも、ここには貴様の望む者はいないぞ。』

 少年の背後から聞こえる女の声。
 堂々としていて、かつ傲岸な声が。

「誰だ!?」

 しかし、声が聞こえた後ろを見ても、そこには誰もいない。
 あるのはただ、恐ろしいまでの闇だけ。

『く……、生憎とそこをまっすぐ行けばこの匣からは出れる。後はどこへでも行くがよい。最も……うっ、このトラオムの先へは出れんが。』
「……苦しそうだな、何かあったのか?」

 声の主は堂々としていながらも、どこか苦しそうだった。
 まるで、無理をしているかのような。

『わえの事情なぞ貴様が知ることではない。さぁ疾く行くがよい。わえはここで見ておるからのう……!』
「……わかった、終わったら助けに行く。」

 何かを悟った少年はそういって匣の外へと駆け抜けていく。
 その様子を、女は追いかけることはなく見送っていた。

 ___銀色の髪、その手には一振りの鍵(けん)を。
 たとえソラが絶望に打ちひしがれようとも、希望を信じ続けた彼。

 空と繋がり、今以て手を伸ばす光の勇者。
 その少年の名は___『リク』。

「ここが……トラオム!?」

 空中に飛び出るリク。

 匣の外は一面に広がる荒野と、地平線の前にでんとある地割れ。
 リクの足元には復讐界域の急造都市が。

「……とりあえずは、あの都市だな。誰かいるみたいだ。」

 そういって、リクは急造都市にいるベジータの下へと向かった。



 その竜は、リクの背を見送っていた。

『よい、実によいぞ、異界の勇者よ。世界の悲鳴が貴様を選んだのも納得がゆく。』

 その匣の奥にいたのは、鎖で己を縛り、一歩も動けないように律している竜が一体。その鱗は全てを塞ぐかのように硬い。

『しかし、世界より「浸食するトラオムを堰き止める」という命を受けたが、案外長くは持ちそうになさそうじゃ……!長くもって、後11日か___!』

 堰界竜ヴリトラ。
 世界の悲鳴が呼んだ、幻想(トラオム)を堰き止める抑止力。

 その正体はルクソード、ヤング・モリアーティと同じ「リ・ユニオン・スクエアの抑止力」である。

29人目

「幕間:迫る、ショッカー」

_場面はトゥアハー・デ・ダナンの病室、その一つに移る。
ベッドに横たわるその男の名は、オーマジオウ。
壮年のその男は白髪と年相応の皴を持ちながら、威厳を決して絶やさない。
その存在感は他を圧迫して追随を許さず、見る者を否応無しに畏怖させる。
乾いた口から紡がれる言葉は、普段であれば一字一句が重みを持ち、聞き届ける者を平伏させるだろう。
だが今はその重圧は消え失せ、顔色は死人の様に青白く、繰り返される呼吸も荒い。
額には脂汗が浮かび上がり、苦悶の声を上げている。

あの、オーマジオウが、である。
魔王と呼ばれ、恐れられた存在が、だ。
彼を知る全ての者達にとっては、信じられない光景だったろう。
しかし、事実として彼は苦しみ続けているのだ。
彼に繋がれた医療機器は異常を知らせる電子音を静かに鳴らし続け、医師達は忙しなく動き回りながらも、何も出来ないでいる。
誰もがどうすれば良いのか分からない。
当然だ、"身体中にカラーノイズが引っ切り無しに掛かる病状"等、誰もが見た事も聞いたことも無い。
ただ一つ分かっている事は、彼が命の危機に晒されているという事だけだ。
だから出来る事と言えば、彼の命が尽きぬ様ただただ祈り、安静にさせるのみだ。
そんな彼の傍らで彼の手を握る女性がいた。

「大丈夫ですか!?」

まるでこれから死にゆく者を見るかの様な声色で彼の安否を確かめる、銀髪の長髪を巻いた軍服の女性。
トゥアハー・デ・ダナンの艦長にして総司令官、テスタロッサ大佐だ。
彼女はベッド脇の椅子から、心底心配そうに魔王を見つめる。
そして、手を握り締めたまま魔王に語りかけた。

「どうして、病室から出たりなんか…!」

先刻、病室から姿を消したを咎めるテスタロッサだったが、途中でその言葉は途切れる。
それは怒りの為ではなく、焦燥によるもの。
彼女が見下ろす魔王の顔は酷く歪んでおり、荒い息遣いを繰り返している。
とてもこの先、永らえるとは思えない。
それでも、彼の口からはズシリと重圧の掛かった言葉が告げられる。

「私が導かねばならぬ者がいた、それだけのことだ。」

苦しげな表情を浮かべながらも、いつも通りの声音で話すオーマジオウに、テスタロッサは悲痛な面持ちを浮かべるばかり。
それは分かっている。
彼が、失意の中にあるルフィの為に立ち上がった事は。
だが、彼が今異常に晒されている原因がそれとは思えない。
だからこそ、彼女は聞かずにはいられなかった。

「…未来で、何があったのですか?」

オーマジオウはその問いに少し考え込む様な素振りを見せた後、ゆっくりと口を開く。
そして息を大きく吸って、重く響く声で呟いた。
少し、長くなると。



世界を覆いつくす鉛色模様の空、何処までも広がる荒れ果て枯れた大地。
人の気配は一切無く、生けるものの姿も見られない世界。
生命力の一切を感じられない世界の只中で、唯一存在する者がいた。
巨大なライダーの像が立ち並ぶ中で、その一角にに立つ一つの影。
その存在は漆黒に塗りたくられた装甲に黄金の装飾が施された鎧に身を包み、顔面にはライダーの文字が赤熱している。
それは王の姿を象った、神々しい程の威容を持つ存在。
そして、最低最悪の魔王と呼ばれた男。
その存在はこの世界に佇む誰よりも王たる風格を放っていた。
そう、王の名はオーマジオウ。
最強最大の魔王である。

しかし、今この場にいる彼は、以前までの彼とは大きく変わっていた。
魔王の名に相応しい禍々しさを抱き、圧倒的な覇気を放っていたあの頃の彼はいない。
今の彼が胸の内に抱く物は、即ち期待。
今目の前に映るのは、自分が待ち望んだ可能性だ。
その男は自分と同じ存在である事を示しながら、自分とは違う答えを示すであろう事を彼は知っていた。
だからこそ、彼は邂逅の瞬間を楽しみにしていた。

「…ほう、この場所に踏み入れれるとは。」

だがふと、魔王は独り言の様に、しかし確かに誰かに向けて呟く。
彼の視線の先には誰もおらず、しかし何かがいる事は間違いない。
それが何者かを知ってか知らずか、彼は笑みを浮かべ、その存在へと語りかける。

「姿を現せ。私がお前達の存在に気がつかないと思っているのか?」

彼のその言葉に応える様に、彼の視線の先で空間が歪に歪んでいく。
まるで霞の様に消えていく風景はやがて、一人の人物へと姿を変えていった。
そこに現れたのは、一人の戦士。
漆黒のボディに白銀の装飾が施された、赤いラインが特徴的な装甲。
仮面を被るその姿は、仮面ライダーと呼ばれる者のソレに限りなく似ている。
だが、その戦士が放つ存在感は、今まで相対したどの者達とも違う異質な物だった。
例えるならば、底無しに深い闇。
そして同時に、見る者を魅了し、心を奪う、常闇の中の一点の光。
そんな、一種のカリスマ性にも似た威厳を纏う闇の戦士だった。
その仮面の奥底から、大気を震わせるが如き声が響く。

「貴様が、オーマジオウか。」

彼の問いに対し、如何にも、と魔王は答える。
すると、闇の戦士は望み通りの答えを得たと言わんばかりに満足気に嗤う。
魔王の回答を聞き届けると、徐に彼は名乗り出た。

「我々は、ショッカー。あらゆる世界の征服者だ。」



「ショッカー。それが、貴方を襲った組織…」
「あぁ、そして私は破れ、この時代にむざむざ逃げ遂せた。その時の傷が、これだ。」

そう言って魔王は自分の胸元に手を当てる。
そこには先程から異常を知らせる電子音が鳴り続けている医療機器が取り付けられている。
それらを取り払った先に刻み込まれているのは、決して癒えぬ蹴りの跡。
その傷跡は、今もまだ生々しく残っている。
魔王の言う通り、それは彼が受けた致命傷だ。

それを見て、テスタロッサは顔を歪める。
彼女の目に映る魔王の姿は、あまりにも痛々しい。
だが、魔王はそんな彼女の様子を意に介す事無く、力強い声を振り絞って話を続ける。

「気を付けるが良い、CROSS HEROESよ。奴等はこの世界の、この時代に目を付けた。いつか必ず、お前達の前に立ちはだかる。」

それは、最低最悪の魔王からの、史上最大の忠告だった。

30人目

「すべてを超越する力」

――トラオム・アレート城塞。

「はああああああああッ!!」

 神刀・星羅を握りしめ、月美が斬りかかる。
対する穢は、黒いエネルギー体で構成された鎌を生み出して迎撃した。

「あなたは……! ここで倒します!」
「へぇ、言うじゃないか。じゃあやってみせてよ」

 刃がぶつかり合う度、火花が散る。

「月美さん! 退くんだッ!!」

 悟飯が援護しようとエネルギー波を飛ばすが、 穢は瞬時に煙となって回避する。

「消えた……!?」
「こっちだよ」

「悟飯さん!! 危ないッ!!」

 側面に現れた穢。大鎌を振りかざしたところで、月美が神具・織姫、彦星を射出した。

「おっと」

 間一髪で避ける穢。だが、織姫と彦星の追撃は止まらない。
縦横無尽に飛び回りながら穢を狙い撃つ。

(情けない……対応出来なかった……! やっぱり勘が鈍ってる……!!
月美さんがフォローしてくれていなかったら、今頃……!!)

 長らくトレーニングを怠っていた事による弊害を否応なく思い知る。

「織姫と彦星はあなたの邪気を感知して自動で攻撃します。
これであなたは逃げられないはずです!」
「成程ね。確かにこれは面倒だ」

 穢はそう言いながら、余裕の表情で攻撃を避わし続ける。

「逃がさない……!!」

 織姫・彦星を操るには月美の意識が必要となる。
月美は戦闘に集中しながらも穢の動きを観察し、 攻撃のタイミングを掴もうとしていた。

「……! そこ!!」

 ついにチャンスが訪れる。
穢の次なる出現先を捉えた月美は、即座に攻撃に移った。

「おおっと、残念♪」
 
 しかし穢はまたしても煙へと変化して回避してしまう。

「くっ……」
「いい加減諦めたらどうだい?」

「まだよ!!」
「無駄だって分からないかな?」

「――そうでもないかもよ?」
「……!?」

 穢が月美だと認識していたのは……ドッペルゲンガーの能力で月美に化けていた
燕青だった。

「姿をコロコロ変えられるのは、お宅だけじゃない、ってね」
「はああああああああああああああああああッ!!」

 本物の月美は上空から急降下し、穢に星羅による唐竹割りを浴びせた。

「ぐッ!?」

 不意打ちを食らい、よろめく穢。そこへすかさず悟飯が追い討ちをかける。

「今だ! 決めるぞ、月美さん!」
「はい!」

 二人は同時に構えを取り、気を高めていく。

「魔閃光おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「東方青龍……!! 角宿咆哮ッ!!」

 ピッコロから伝授された悟飯の代名詞とも言える必殺技と
真っ直ぐに突き立てた星羅の切っ先から放たれる青白い龍の姿を象った光の奔流。
二つの技が一つとなり、穢へと炸裂する。

「ぐ、あああああああッ……」

 まともに食らった穢は絶叫を上げ、光の中へと消滅した。

「やったか……?」
「……いえ、まだです!!」

 月美の言葉通り、穢は再び姿を現した。

「おう、危な。今のは効いたよ」
「しぶといな……」

「せっかくの服がボロボロになっちゃったよ」
 
 そう言って穢は全身に付着している土埃を払う仕草を見せた。

「服だけ……? あれだけの攻撃を受けても無傷とは……」
「どうやらあいつは、完全に倒すまで消えないみたいですね」

「出来るかい? 君たちに」
「当たり前だ!!!!」

 穢に威風堂々と宣言するのは、ルフィだった。

「ルフィさん……」
「俺は! ピッコロのおっさんたちを助けなきゃいけねェんだ! 
こんなところで負けてたまるか!!」

 拳を握りしめ、闘志を剥き出しにする。
そんな彼の姿を見て、穢は呆れたように肩をすくめた。
そして、まるで嘲笑うかのような口調で。

「君も大概だよね。どうしてそこまで頑張るんだろう。僕には理解できないなぁ」
「俺もお前の言ってる事は何ひとつ分かんねェから安心しろ」

 穢の挑発にも動じず、ルフィは淡々と返す。
すると、穢はため息混じりに指を鳴らして服を新調させた。

「お互い、理解出来ないってわけか。なら、後は殺しちゃうしかないよね?」
「やれるもんならやってみろ。俺は死なねェ。やんなきゃならねェ事が山ほどあるからな」

 腰を落とし、拳を地面に打ち立てる。
ルフィの全身から蒸気が発散され、闘気が高まっていく。

「へぇ……まだ何か隠し技でもあるのかい?」
「見せてやる……! “ギア”!! “2(セカンド)”!!!」