愛憎雨
世界が彩度を落としたのかと疑うほど、厚い雲と雨が町を覆いつくす日。
こんな日には必ず思い出してしまう相手がいる。
同じように雨が絶え間なく降り続く日。誰もが部活をさぼって帰る中暗い部室で二人きり、あなたの肩で寝たふりをした日。
あなたの存在と消化しきれない恋心を雨の日が来るたびに思い出してしまうのは、片頭痛よりも厄介なのではないだろうか。
もっともあなたの存在、一緒に過ごした思い出、未だ消化不良の恋心、あなたに関する全てを腫れものに変えてしまったのは私自身の行動なのだが。
だからこそこのままではダメだ。
後悔するのも、思い悩むのにも飽きた。
止まない雨の中を闇雲に進むような感覚を味わうのはもうごめんだ。
雨からから脱するにはただ突っ切るしかない。雨雲の更にその先に、一心不乱に羽ばたくだけ。
そうと決まれば後は行動するだけ。
あの日私が寝たふりしている時に起きた事は覆らない。
でも自分の気持ちに決着をつける事なら出来る。自分の臆病さが招いた雨を振り切る。
吹っ切れた感情のまま私は彼がいるであろう部室に足を進めたのだった。心に翼を携えて。
震える手でゆっくりと部屋のドアを開けると、明かりのついていない何もない部屋が視界に現れる。
そう、ここには初めから何もなかった。私と彼以外は。
でも、私はちっとも淋しくも怖くもなかった。だって、私は彼が傍にいてくれればそで良かったから。
だけど、彼はある日忽然と姿を消してしまった。まるで、初めからそこに誰もいなかったかのように。残されたのは私の中の記憶と想いだけだった。
「…探さなきゃ」
溢れそうになる涙を必死に堪えながら、彼の手がかりを探すために何もない部屋へと足を踏み入れた。
次の瞬間、後ろから何者かに手刀で腹を貫かれた!
「ガハぁッ!」
振り向くと、そこには全身白タイツの彼がいた。
「ホッホッホ、お馬鹿さんですねえ…。後ろを警戒するくらい、常識ですよ。」
「フリーザ…!!!」
フリーザは私を部室に押し込むと、もう片方の手で首根っこを掴んだ!
やばい!やられる!
私は咄嗟に2本の指でフリーザの両目を抉った。
「ぎ、ぎいいいぃぃぃやあああぁぁぁっっっ!!!」
フリーザは私から手を離して床をのたうちまわった。
今だ!
私はあらん限りの力を込めて、フリーザの頭を踏み砕いた!
その判断が正しかったのかどうかは、定かではないけれど...。
結果として、私の心に渦巻いていた乱層雲は、散った。
彼を忘れられないのならば、求め続けてしまうのならば、いっそ無くせばいい。
それで、どうなる?
どうなった?
空は、快晴とは言えない、日常、という言葉が似合うような晴れ。
公園の子供は、青空、と指を指すけれど、それは薄い巻雲のベールで隔たれていること。
今は多分、私だけが知ってて。
只管に渦巻く空虚は、空を眺める、その、心の安らぎをも吞み込んだ。
後悔している。