プライベート CROSS HEROES reUNION 外伝 - Shared Story -

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1人目

カミングスーン

2人目

群青色の空、遥か上を白く彩る薄い雲。
澄み切った風景の下にあるせいか、相対的に荒れ果てて見えるスラム街。
その内の一件、朽ち木を並べて立てたテントの影に、私は居る。
表通りを歩くのは、金の無い貧乏人や荒くればかり。
いや、一人綺麗なスーツ姿の男が見える。
スラムに似つかわしくない背広。
整った髪に真っ黒なサングラス。
SPやボディーガードの様な姿は、スラムにおいて一見、格好の餌に見える。
例えば数で襲えば、彼の衣服を剥いで明日の日銭に出来るだろう。

_何だ、何だってこんな所に。
_袖付きだ、手を出すな。

だが、ひそひそと噂するばかりで、誰も手を出す気配は無い。
寧ろ進んで道を開け、関わらない様にしているまである。
彼等の顔色をこっそり伺えば、強い畏れと僅かばかりの憎しみに染まっていた。

_逢魔者め。

分かっているのだ、アレは手を出してはならない、触れ得ざる者だと。
それでも、憎まずにはいられない。
そんな畏怖をばら撒くスーツの男、逢魔者の人間から、私は隠れている。
この世界の権威を牛耳る一大企業から、だ。

「もうここを嗅ぎつけられたんだ、ほんとしつこいなぁ。」

悪態を付き、私は物陰に張り付いて様子を伺う。
こりゃ長居は出来ないな、するつもりも無いけれど。
地面を踏み締める音が近付いてくる。鋭い視線が周囲を撫で回す。
瞬間、目が合った。

「あ、やば。」

反射的に身体を引っ込める。次の瞬間には頭上をスーツの脚が通過していく。
間を置かずに悲鳴が響き渡る。隠れていたテントはバラバラに砕かれ、私は衝撃に身を任せ地面を転がっていく。
そして瓦礫と砂埃の中から立ち上がる頃には、視界は土煙一色に染まっていた。
服に付いた汚れを払いながら立ち上がり、周囲を警戒する。
スーツの男の気配は、感じ取れない。

「うぇ、不味いな…」

飛び散った土塊が口に入ったのか、泥臭い味がする。
溜め息を一つ。呼吸を整えながら、倒れたテントも土塊も関係ないと飛び移っていく。
背後で風切り音がする。衝撃と共にゴミ山が吹き飛び、土塊や瓦礫が私の脚を穿とうとする。
怯むことなく躱し、宙を駆け抜けてく。
騒ぎを聞きつけた野次馬達を飛び越して、って邪魔だ。
だがそうこうしている内に追いついたらしい。足音が、すぐ後ろで聞こえる。
嫌々ながら振り向くと、男が迫力ある走りで目の前まで迫っていた。

「逃げるのは、無理かぁ。」

世の中、妥協が大事な時があるというが、それが今なのだろう。
諦めて、切り替える。倒す方向へと。
スイッチが入る感覚と共に、私の背後に異形の人型が顕現する。
それは感情を糧として誕生した力『マジャ』。
その内の一つ、生きたいという願いの子『リリス』だ。
マジャの出現に伴って周囲にどよめきが走り、蜘蛛の子を散らす様に野次馬が逃げていく。
賢い選択だと思う、マジャとは本来そういう者なのだから。
マジャに動揺し勝負を急いだのか、狙いの甘い大振りの打撃を振るってくる男。
それを軽やかにいなし、返し技でリリスが踵をねじ込む。
カウンター気味に放った蹴りは男の肺を締め上げ、息の詰まった男は地面を無様に転がっていった。
だがそれとは別にもう一発。更にもう一発。

「はっ、やっ、てやっ!」

右左右左。まるで風に揉まれる木の葉の様に。
くるりくるりと踊り続ければ、足先は揺れる花弁を掴むかの如く、相手の顎を搔き上げていく。
意識を刈り取るには充分だった様で、男の身体は音を立てて地面へ伏した。

「はぁ~もう疲れた、ホンットしつこいんだから。」

また一つ、悪態を付く。
男を前に屈んでため息を漏らす私の姿はきっと滑稽だろう。
脈もあるから死んでいる訳では無さそうだ。
何故だか私も疲労が込み上げる。
もういいや。そう背を向けた時、胸の辺りで妙な熱が蠢いた。

_来る。

確かな直感と共に、弾かれる様にステップ。
その瞬間、鈍い風切り音と共に何かが振り抜かれ、一瞬前にいた場所が斬り散らかされる。
眼下に見えたのは、鋭い鎌状の物。
少し視線をズラして元を辿れば、意識を奪った筈の男が立っていた。
鎌を手繰るように戻し、携えてニヤリと笑う男。
ただ、その眼は笑っていなかった。

「うぅーわっ…何度見ても見慣れないや。」

内側から破られた頬は気味が悪く、同時に男の命がマジャに乗っ取られた事を示す。
背中からは青々とした骨の腕、数は左右三対六本。時折愉快そうに身体を揺らしながら私を見つめていた。
間違いない、奴はマジャに魔化した人間、即ちマカジャだ。

「仕方ない、赦してよね。恨むなら上を恨んで欲しいな、なんて。」

マジャになったなら容赦はしない。それが私のルールだ。
即席で紡いだ詠唱と共に、表情を引き締める。
『生への執着』が起源の『リリス』では力不足だ。
だから私は、捻じれ曲がった血濡れの槍、『殺意』の『ラムダ』を振るう。
これもまた、マジャだ。
鋭利な殺意を前に、男も呼応する。
大きな鎌を一振り、二振りと小刻みに振るい、じわりじわりと殺しに掛かってくる。
嗚呼、立派な戦闘マシーンだ。
それでも私は引かずに前を向く。
ラムダの内なる本能に従って、己を殺意で満たす。
まるで死ぬことを求めているかの様で、その感覚に少しだけ顔が歪んだ。
だがそれすらも押し殺して、槍を構える。
相手との距離は身体半分。ここまで近寄れば得物を振るうのは私の方が早い。
放たれた蛇行する鎌の一閃をひらりと躱し、私も駆け抜けた。

「ハァア!」

すれ違い様に腕を切り付ければ、鈍く重い感触が腕へと伝わる。どうやら裂傷が入ったらしい。
けれども相手の勢いは止まらず、振り向き様に再び鎌を振るう。
今度は飛び越えて躱し、後頭部に突きを入れる。
ラムダが男の首元を掠めたのだろう、どす黒い血が滴る。だがそれすらも意に介さず、男は鎌を振り続ける。
倒れても倒されても起き上がり戦う姿は、死と生の狭間で踊る屍人か死神の様だ。
命を弄ぶ者を前にして私はただ、思うがままに槍を振るう。
私の意識は、殺意に染まっていた。

_どれ位の時間を費やしただろうか、気が付けばマカジャは倒れ伏していた。
最早身体の原型すら留めていないのは、それだけ斬り付けたからだ。
同時に、ラムダから流れ込んだ殺意も消え失せ、本来の私に戻る。

「はぁ、終わった…」

独り言ちて頭を振るい、一呼吸置く。
今は一体、何時頃だろうか。そう考えて懐中時計を開くが、すぐにしまう。
騒ぎを聞きつけて、追手が来ないとは限らないのだ。立ち止まっている時間は無い。
それにマジャを見られた以上、二度とはここには居られない。
マジャの存在は、畏れられるものなのだから。

「さぁて、サクッと逃げちゃおうか。」

私は何事も無かったかのように立ち去り始める。
路地裏を通って、人目を避け、街を抜け出す。
何故こんな奇妙な生活を送ることになったのか、そんな事を思い浮かべながら私は歩いていく。
_私はティタリス、人々の感情の化身、マジャを使う者。
逢魔者のデザインベイベーで、被検体達の最後の希望。
世界を牛耳る逢魔者コーポレーションが行う冒涜への反逆者。
そうして思い返す内に、喧騒の音が遠のいて行き、やがて全く聞こえなっていった。

3人目

「Prelude:Alterworld-Avenger」

 地獄を見た。
  /「お前なんか産まなければよかった。」
 地獄を見た。
  /「お前、こっちみんなよ。」
 地獄を見た。
  /「死ねよ。バーカ。」

 自分がなくなるという、地獄を見た。
  /「みんな、死ねばいい。」



 遥か遠い並行世界、およそ「偽典世界」と呼べる並行世界にて。

 5年前

「ーーーーー……!!」

 意識が消える。
 己の首にかかる重圧、喉を裂かんとする鈍痛に苦しむ。
 自分の意思で、この世に別れを告げる。

「もう、生きる理由なんてない。」

 数多もの人間にいじめられた。
 親すら私を敵視した。
 理由なき理由で、私は人間種に凌辱された。
 全てを踏みにじられた。

 ならば、この世界なんかに望みなんてない。
 故に、私は自ら命を絶った。


 汝の願いを告げよ。
 その願い、世界は叶えん。


 ……いや、思えば一つだけあった。
 消えゆく意識を無理やりにつなげ、聞こえないはずの声に耳を傾ける。


 その願い、聞き入れよう。
 故にその魂、世界に召し上げん。


 私の願いは―――――。



「■■!何よ、何でこっちを見てるのよ!!」
「……あ?」

 "あたし"の望みは、即座にかなう場所にいた。
 ぼやけかけの視界、再起動する意識と指定に己の体を動かす。
 朝、目覚めたての身体を無理やりに動かすように。

「何よその眼!なんなの!こっちくんな!!」
「……だまれ。」

「痛い痛い痛い痛い痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛!!!」
「痛い?痛めつけてきた人間でも、痛みは感じるのか。」

「だ……!あんたになにg」

 あたしの目の前で、骨肉が咲く。
 人間の頭蓋骨、固いはずの頭がまるでくしゃくしゃになった紙きれのようだ。
 炸裂する暴力の感触。

 初めて、自らの手で誰かを殺めた。
 しかして、直後に去来したのは―――――。

「ざまあみろ。」

 ちっぽけな愉悦と、無限量にも等しい罪悪感だった。



 その後も乾いた心で、クズ共を鏖殺する。
 血、血、血。
 産んでおきながら虐待まがいの行為をする世の毒。
 毒なら毒らしく浄化されろ。

「クソが、どいつもこいつも……。」

 その道中あたしが見たのは、燃える地獄だった。
 古ぼけた木材が燃え、悲鳴が上がり、鮮血と慟哭がかつての地獄を覆っている。
 醜いクズの嘆き。
 自己愛に塗れた汚物の叫び。
 むせ返る邪悪の涙。

 望んだはずの復讐に、無感動になってしまっていた。

「ま、待ってくれ!俺が悪かった!!■■、頼む!俺達、友達だろ!?」

 不愉快な声は焼け焦げ、その臓物は圧死した。
 その腐敗した命ともども灰として逝った。

「……胸糞悪いんだよ。クズ野郎。」

 赤く汚れた手を見、冷徹な想いが心を巣食う。
 そこに軽蔑の念も嘲笑の念もなく。純粋な殺意のみがあたしを支配した。

「ごめん待って!嫌だ!死にたくない!」
「喋んな。」

 今更謝るのか?

「お願い!今までしてきたこと謝るから!!」
「うるせぇよ。」

 散々、あたしをいじめたくせにか?

「あんたなんかに殺されるくらいなら……ッ!!」
「そうか、死ね。」

 クズはどこまで行ってもクズか。

 機械的に悪(クズ)を殺してゆく。
 そうだ、悪党に生きる価値などない。
 悪を無駄口叩かずに殺す作業、そこに憐憫も嗜虐もあったもんじゃない。

「は、はは、はははははははははははははははははは……!これが、これがあたしの望みの果てか!!まるで救いようがない!!」

 その慟哭は、どこに向いていたっけ……?
 両親に?
 友人に?
 先生に?
 世間に?
 人間に?
 それとも、自分に?

 バカバカしい、馬鹿馬鹿しいったらありゃしない!!
 あの時確かに「自分を迫害した連中への、死を前提とした復讐」を願ったのにか!?
 今更後悔ってか!?

 何 を い ま さ ら ! ?



「……。」

 その後も、あたしは世界からの派遣で多くの人間を殺してきた。
 と言っても、高笑いしながら多くの善人を殺す悪党どもを、情け容赦なく暴力で磨り潰すだけ。
 そこに一切の私情はない。

 人間はみんなこうなのか?と思ってしまうくらいに多くの人間の悪性を見続けた。
 そして、彼ら彼女らを殲滅するたびにそこに虚しさを感じた。
 これだけ殺し続けても、人は何一つ変わらない。
 人が人である以上争い、抗い、迫害し、破滅し続ける。

「……なんだよ、これ。」

 気が付くと、あたしの髪は真っ白になっていた。
 まるで燃え尽きた灰のような白髪。
 眼も充血しすぎたのか、瞳孔が真っ赤になっていた。

「救いなんかないのか、くそったれ。」



 唯一救いだったのは、あの日以降子供を殺すことがなかったくらいか。
 あたしがあたしになった日。
 「抑止の復讐者 罪木蜜柑〈オルタ〉」が生まれた日。

 あの日以降、あたしは子供を殺すことはなくなった。
 でも。
 あの子たちの笑顔を見ていると、何処か胸が締め付けられる。
 路傍で笑う、無垢な子供たち。

「そうだ、せめて。」

 子供たちだけは今後何があろうとも殺さない。
 己への罪滅ぼしじゃないけれど。せめてあたしの手で殺めていった者たちへの手向け程度にはなるだろう。
 最も、許されるかどうかは分からないが。

 そう思いながら、あたしはまたどこかへと呼ばれる。
 多くの悪を、殺すために。



「……。」

 また、あたしは召喚された。
 世界の叫びによって、この地に召喚される。
 また、誰かを殺すのか?

「問おう。お前も俺達と同じ、"均衡の守護者"か?」

 あたしの眼前に現れる、黒い外套の男。
 顔に着いた×字の傷痕が特徴の、何処か無機質な感じの男だ。

「俺はサイクス、お前は?」
「ああ、あたしは……アヴェンジャー。」

 己の真名を、同胞に告げる。

「真名を『罪木蜜柑・オルタ』。よろしくな。」

4人目

「ラグナロク、もう一つの元凶」

「死ぬがいい!」
「ギャアアアアアアアアアアアア!?」
「フン、所詮はこの程度か……」
ミケーネ帝国、かつて全ての並行世界を巻き込んだ大戦争、最終戦争(ラグナロク)を引き起こした元凶であり、現代に復活した奴らは現在進行形で多くの並行世界に対して侵略戦争を行っていた。
「これで30個目か……」
「ハーデス様、報告がございます。ガラダブラ様や暗黒大将軍様率いる別働隊もそれぞれ15個目の世界の制圧を完了しました」
「そうか」
「所詮、ビルス級の破壊神がいない世界などこの程度よ」
「この調子で他の世界も全て手に入れましょう」
「あぁそうだな。……ところでゴーゴン大公よ、我が頼んでおいた用件の方はどうだ?」
「あぁ、この時代の『逢魔』との接触ですね」
『逢魔』、それはかつて旧CROSS HEROESと戦った敵勢力の1つで、「ゆらぎ」と呼ばれる空間の歪みを起こしてあらゆる異世界を融合させ、人工的に作り出した新世界の神たる存在に支配させることを目論んでおり、その目的のために現CROSS HEROESも戦った安倍晴明を始め、あらゆる世界や時代の様々な者たちと手を組み暗躍していた。
奴らの『九十九計画』と呼ばれる計画は敵対関係であった特務機関森羅や旧CROSS HEROESの手によって阻止されたが、一時期は全ての世界が融合しかける状態になってしまい、その結果ミケーネ帝国による全ての並行世界への侵攻を許してしまった。
言ってしまえば最終戦争(ラグナロク)を引き起こしたもう1つの元凶とも言える組織なのだ。
「あの時と同じように、奴らが全ての世界を1つに融合してくれれば我らの全並行世界の征服も素早く済む」
「ですがハーデス様、我々が復活するまでに3000年ほど掛かっている以上、奴らはもうこの時代には存在してないのでは?」
「それは問題ない、逢魔の連中は妖魔で構成されている。妖魔は人間共とは比べ物にならないほどに長い時を生きられる生命体だ、3000年程度なら問題なかろう」
「……ハーデス様、その……申しにくいのですが……」
「なんだ?」
「……この時代には逢魔もとい敵対関係であった森羅を始めとしたかつてのCROSS HEROES共のいた世界は、もう残ってないようです」
「っ!?なんだと!?」
そう、この時彼らは知らなかったのだ。ミケーネ帝国が滅びこの時代に蘇るまでの間に、旧CROSS HEROESの世界がグランドクロスの手によって封印されてしまったことを…!
「ハーデス様、どうします?」
「……奴らのいる世界がもう既になくなってることは想定外だったが……まぁいい、少々時間は掛かるが、我らミケーネの力を持ってすれば世界の融合を行わずとも全ての並行世界の支配を成し遂げられるだろう…!」

全ての並行世界を巻き込んだ大戦争、最終戦争(ラグナロク)を引き起こした2つ元凶、逢魔とミケーネ帝国。
今回の戦いでは実現はしなかったもの、今よりも少し先の未来で奴らが手を組むことになるのだが、
それはまた別の話。

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