プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:13「燃えよ三界域」

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1人目

「Prologue」

 特異点を震撼させた神精樹は、メサイア教団の策略により徐々に枯れつつあった。
神精樹の実は丸喜拓人と同盟関係にある完璧・無量大数軍によって回収、独占。
特異点を巡る戦いは新たなる局面を迎えようとしていた。

 源為朝の宝具による被害から難を逃れたカルデア一行は、
清少納言が身を寄せていると言う奇妙な町、「杜王町」へと向かう。
そこには散り散りになったCROSS HEROESのメンバー、空条承太郎、
ゼンカイザー/五色田介人も集結していた。
為朝の宝具の直撃を受けて未だに行方不明のゼンカイメンバー、正義超人たち……

 リ・ユニオン・スクエアでは、死滅復元界域トラオムを顕現させたメサイア教団が
全世界へ向けて声明を発した。
あらゆる悪の根絶と全人類の『進化』、そして「神に等しい人類による、
犯罪のない理想の新世界」を謳う彼らの言葉に、CROSS HEROESは不信感を募らせる。
ベジータが向かった先もトラオム……ブルマ、ピッコロ、ウーロン、オセロットらを
連れ去ったのもメサイア教団だとすれば、彼らは一体何を企んでいるのか? 
疑念をはらみつつ、孫悟飯をリーダーとした先行部隊がトラオムへと突入する!

 クォーツァー/アマルガム連合、エタニティコア防衛戦、
そしてDr.ヘルとのバードス島を舞台にした最終決戦と、度重なる激戦を経た
マジンガーZ、ゲッターロボ、レーバテインと言ったCROSS HEROESのロボット軍団は
大規模なオーバーホールを余儀なくされていた。
悟飯ら先行部隊に続き、正義の五本槍からカナディアンマン、ダイヤモンド・ドッグスからスネーク、バッファローマン、そして正義超人軍団からはブロッケンJrが選出された
別働隊もトラオムへの潜入を試みる。

 トラオムと言う場所は通常空間とは一線を画した魔境であり、
その内部は空間の歪みによって超広大かつ無限に近い広さを誇る異次元世界と
なっていたのだ。希望/復讐/絶望の三界域に分断され、
何千何万と言う無名の英霊たちがひしめく中、 終わることのない戦争が
繰り返されていた。移送用ヘリを破壊され、トラオム上空から落下したCROSS HEROESは早速サーヴァント軍団の襲撃を喰らう。
数による圧倒的不利な状況に、悟飯は撤退を提案。
そこへ、希望界域の斥候・アサシンのサーヴァント「燕青」が合流し、
CROSS HEROESを援護する。燕青の活躍によって希望界域へと辿り着いた一行は
希望界域の指導者、十神白夜との対面を果たす。
トラオムの前身、希望ヶ峰学園爆破事件によって重傷を負わされた十神は
満足に戦う事ができない状態だと言う。
ようやくトラオムの状況を把握できたものの、戦力差を覆すにはあまりにも少ない
手勢しか残っていない……。
CROSS HEROESは希望界域と同盟を組み、絶望/復讐界域との戦線に加わる事を
決意するのであった。

 一方で、絶望界域の勢力圏内において、孤軍奮闘する3人の騎士が居た。
剣士ゼータ、闘士ダブルゼータ、法術士ニュー。
バーサル騎士ガンダム、騎士アレックスと同じく皇帝ジークジオンを討つべく、
ムーア界へ突入する最中にワームホールに吸い込まれて
このトラオムにやって来た彼らだったが、 元の世界に戻るための手掛かりはなく、
途方に暮れていた。

 CROSS HEROESとアルガス騎士団。お互いの存在を未だに知らずにいた両者は
奇しくも絶望界域の前線基地、アレート城塞攻略を目指す事となる。
絶望界域の頂点に君臨するシグバールと人造人間21号。
復讐界域にはベジータ王家に恨みを持つパラガスとカナディアンマン・オルタ。
アレクサンドル・デュマの改稿兵装を操る江ノ島盾子とシタールの使い手である
ノーバディ・デミックス。
荒野を駆けるダイヤモンド・ドッグス。

 各々の思惑が交錯する中で、アレート城塞内に出現したのは、
禍津星穢とブーゲンビリア。
魔殺少女ペルフェクタリアが所属していた組織「アベレイジ」が残せし
最後の計画「ブーゲンビリア・モデル・プロジェクト」。
ペルの同僚であったサイボーグの暗器使い、デフェクターの細胞から培養された
人工生命体。身体を銃火器に形状変化させる殺戮兵器。
或いは、ペルフェクタリアやデフェクターが成り果てるはずだった存在。

 忌まわしき過去を精算するため、 ペルフェクタリアはブーゲンビリアに戦いを挑む。
そして日向月美と禍津星穢の再戦が始まった。
今度こそ、決着をつけるために。
身体を気体、液体、固体とあらゆる形状に変化させて
CROSS HEROESを翻弄する禍津星穢。
悟飯と月美の合体攻撃をもってしても、致命傷を与える事はできなかった。
だが、月美は諦めない。そして、この男も。

 海賊王になる男、モンキー・D・ルフィ。彼に秘められた新たなる力……
”ギア”が発動した時、果たしてこの戦いの結末は……!?

2人目

「もしわしの味方になれば、世界の半分をお前にやろう。どうじゃ?わしの味方になるか?」

「そんな誘いに乗るものか。悪の首魁竜王よ、今こそその首もらい受ける」
「世界の半分は確かに魅力的だがな。あんたはローラ姫を怖がらせた。そんな奴の誘いに乗るつもりは起きないね!」
「俺はそんなものに興味はない。お前がモンスターの親玉なら他のモンスターより強いのだろう。それと戦うのが俺の望みだ」

勇者ロトの血を引く者が竜王を倒すという顛末が書かれた冒険の書は数多ある。
それぞれ違う勇者の違う経緯を辿った冒険譚だ。

そして他の結果を辿った冒険の書もまた数多存在する。
勇者が敗北し諦めた世界、勇者が途中で冒険を放棄した世界。そして……


「……いいだろう。今日から俺とお前は共に世界の支配者だ」

ロトの血をひく者がその魂を闇に堕とした歴史が綴られた冒険の書もまた、存在した。


ロトの盾を持った者は醜い者であった。
王が付けるような豪奢なマントを覆面のように頭に被り、目の部分にだけ穴を開けて纏っている。

しかしそれと武具以外に身につけているのはパンツと靴のみであり、大きな筋肉の上をまた大きな脂肪で包んだ肉体をそのまま露にするという悪趣味と野蛮を詰め込んだ風体をしていた。

しかし醜さはその奇妙な格好から来るものではない。
人を見る目がないものでもはっきりと感じ取れる邪悪な雰囲気が滲んでいるのである。



「ロトの盾を装備できる者はロトの血をひく者だけ…この者もアレク様の遠い親戚か何か、という事なのでしょうか」
「いえ」

アレクはこの者が何者なのか即座に感じ取った。
アレクの知識の範囲外であるものが絡んだ内容なのに、不思議な事に即座に「わかった」のだ。

「あれは言うなれば私……私ではない私です」
「クハハハハハハ!!」

盾の持ち主は突然狂ったような笑い声をあげた。

「この俺様がお前だと?わけのわからん事を言うな!俺は竜王と共にこの世界を統べる王の中の王!勇者帝王ああああ様よ!」
「ああああ?竜王と共に?」

前に悟空らと戦った経験からぼんやりと「別の世界」というものの知識を得ているローラではあるがそれでも異なる歴史の近似存在については即座に理解できなかった。

アレクは険しい顔をしていた。
この者は何者なのか、は言語で説明はできないが「わかった」。

だがそのものが何故今自分の目の前に現れているのか。何かただならぬ事が起きているのを感じ取ったのである。

「お前は竜王のあの誘いに乗ったのか」
「あの誘い?何故あれを知っている?まあいい。そうとも!ラルスなんぞの下で便利に使われるのは俺の器に似合う役割ではない!王として君臨するのが俺の運命だったのだ!!」
「役割……か」

アレクは即座にああああが何者なのかを理解したのに対しああああはアレクが自分に近い存在なのは理解しなかった。
アレクの付けているロトの装備も見えているのに何も気にかけていなかった。

「俺にこのマントと王冠と妙なボロ小屋をくれた後にとんと姿を現さなかった竜王が久々に世界を現してな!俺達の世界征服を邪魔する奴がいて、それを倒して欲しいんだと!だがお前がそんなに強い奴には見えんなぁ?うん?」

ああああはローラの存在に気付く。

「どこかで見たような顔だと思ったが思い出したぞそこの女。城で肖像画を見たな。お前ローラ姫か!ドラゴンに捕まりっぱなしだったんじゃないのか?」
「確かに私はローラですが……もう名前を呼ばないでくださいね。気に入ってる名前なのに、あなたの口から呼ばれると汚れる気がします」
「ああ??口の聞き方がなってないぞぉ」

ローラに詰め寄ろうとしたああああの前にアレクは静かに立ち塞がる。

「なんだ?王の前に不敬だぞ貴様」
「ローラをどうする気だ」
「知れた事を。生意気な口をきいたから折檻してやるのよ」
「傷つけようというんだな?」
「一時的にはそうなるが、まあいずれはこの俺直々に調教したという事に感謝するだろうよ」
「そうか」

アレクは静かにロトの剣を抜き、臨戦体勢に入った。

「殺す」
「ハッ!やってみろ!」

こうして容姿も性格も全く違うにも関わらず、極めて近い存在であるロトの血をひく者二人の戦いが始まった。



「ひとまずは成功か」

遠く離れた地にいるにも関わらず竜王は二人の激突を感じ取っていた。
この次元にたどり着いた竜王は自分が他の歴史の竜王の記憶も持っている事に気付く。

そして自分の世界から配下のモンスターをこの世界に呼び寄せた事の応用として異なる冒険の書の存在を呼び寄せるのではないかと考え、試しにああああをこの世界に呼び寄せたのである。

(ならばまだまだ面白い事が出来そうだ)

竜王は如何なる企てを思いついたか、実に愉悦そうな笑みを浮かべた。


「な……な……何者だテメェ!」

アレクとああああの戦いはアレクが圧倒していた。
勇者として確かな素質や精霊ルビスの加護を持っていたにも関わらず竜王の元に辿り着く程度の強さで満足したああああと竜王を倒し、その後も研鑽や様々な戦いを経たアレクが相手になるわけがなかったのだ。

ああああはロトの盾での防御に徹するしか出来ず、それも度重なる斬激の衝撃で指がもはや限界であった。
そしていよいよその時が来た。
幾度目かの斬激でとうとうああああはロトの盾を落とし、間髪入れずアレクはロトの剣でああああの鳩尾を貫いた。
ああああは吐血しながら倒れ込んだ。

「カハッ……くそ、ラルスの元にいたままなら復活の呪文で生き返れたのに……」

復活の呪文、それは勇者が王等にクエストを授けられる際に与えられる特殊な呪文である。
これを受けた勇者はクエストを達成するまでは戦闘の傷や冒険の中で受けた毒や病気などクエストの道程で起きた事では何が起ころうが「死ねなくなる」
正確に言えば死んでしまっても呪文を授けたものの元に生き返って召還されるのだ。
竜王の元に幾度もたどり着き、幾度も殺されて精神を病んだ者や竜王討伐のクエストを放棄し寿命で死ぬ事を望んだ者など様々な勇者が存在した。

「何度甦ろうと、ローラを傷つけるようなら何度でも殺してやる」

アレクは覆面のように被られているああああマントを荒々しく剥ぎ取った。
その顔はアレクとは似ていなかった。

「世界の半分を得た俺がこんなところで……俺は勇者で……王の中の……」

譫言のように呟いた跡でああああは絶命した。
アレクはロトの盾を手にした。
初めて持ったのに長年使い込んだような馴染んだ感触の盾だった。


「ありがとうございますアレク様……私と違う私とはどういう意味なのでしょうか?」
「……」
アレクは考え込んだ。彼の知識の範囲では説明が難しいのだ。

「今は説明がしづらいのでこういう事にも詳しそうな彼らと一旦合流しましょう」
「わかりました。その前にまだやるべき
事がありますわ」
「やるべき事、とは」

アレクは顔を引き締めた。

「お土産を買っていきしょう。この辺りのスパイスは有名らしいので」


こうして二人はロトの盾を手に入れ、一同にルーラで合流を謀るのだった。

3人目

「狂釼、再起動」

~絶望界域拠点~
「ねぇシグバール、そろそろ教えてくれるかしら?」

 玉座に座る21号が、シグバールに何か質問をしている。
 そのシグバールは外で起きているアレート城塞の戦線を見ながら、考え事をしていた。

「ああ?」
「このトラオム、一体何のために作られたの?前線基地にいる兵士たちの訓練にしては勝手が違いすぎるし、それに私気づいたのよ。前に倒された無名サーヴァント500人。それが同数召喚されている。あれはいったい何?」

 そういえば、とシグバールは気づく。
 自分はメサイア教団の一人、トラオム創造の一端を担った存在。
 そして今目の前にいる女、21号に関しては今協力している。信頼してもいい。

「ああ、ここの用途か。ここはだな……簡単に言うなら『牧場』だ。」

 牧場。
 戦場にしてはずいぶんとのどかなネーミングだが。

「そもそも聖杯戦争ってのがあってだな、7騎の英霊を殺し合わせるとかいうハナシだ。あれで負けた英霊はどこへ行くのか、と思ったときに考えた。『もし聖杯戦争で負けた英霊たちの持つエネルギーをどこか別の場所に貯め込むことができれば、そのエネルギーを兵器起動やあのお方の持つ力の発動に使えるんじゃないか』ってな。」

 本来は大聖杯に貯め込み、根源へと至る鍵とするはずの力を、兵器発動の薪として利用する。このトラオムはその薪を作るためのエネルギープラントに過ぎないと、シグバールは語った。

「俺らが必要とするエネルギーは"別の場所"のものだと少しだけ足りない、だからこのトラオムを作ったってハナシ。」

 魔力の半永久機関。
 CROSS HEROESがここを解体しない限りトラオムという英霊冒涜の悪意は止まらない。

「なるほど。いろいろ聞きたいことはあるけれど、この辺りにしておくわ。」

 21号は、まだ聞きたいことがあったようだが、満足げな表情を浮かべた。
 その表情の裏を___シグバールは理解しているのだろうか?

「はっ、それならいいんだ。」

 そうして、シグバールは謁見の間を去った。
 その廊下にて、彼は次の手を打つ。

「為朝とAW-S06の調整が終わったらしいな。」
「はい。為朝の方はもう少し時間がかかりますが、AW-S06はいつでもとのことです。感情・記憶消去による絶対兵士化も完了しております。中央病院の時のようにはならないかと。」

 その報告を受け、シグバールは悪い悪い笑みを浮かべる。

「よし、復讐界域にその刃、腹いっぱい食わせろ。」



~希望界域拠点~
「……ッ。」

 心拍数の上昇が止まらない。
 頭を駆け抜ける強迫観念『江ノ島盾子を赦すな』と『江ノ島盾子と対話せよ』という意志がせめぎあい、十神白夜の心を締め付ける。

 なんて言葉を、彼女にかければいいのだろうか?
 一歩判断を間違えたら、彼女を殺してしまいそうな____。

「この展開は何だ?いよいよもって、どうすればいいのか……?」

 相手は曲がりなりにも黒幕。
 コロシアイという名の狂気の根源。
 邪悪なる絶望を前にして、果たして自分は憎悪を押さえつけられるだろうか……?

「報告があります、十神様。」
「なんだ、手短に頼む。」

 クラス:キャスターの英霊が十神に報告をする。

「アレート城塞会戦ですが、どうやら苦戦しているようです。何しろ『ブーゲンビリア』なる存在によっての苦戦とのことで……、それと……もう一つ。」

 乾いた笑いが出る。
 苦戦の報告だけでも辛いというのに、これ以上俺の心を締め付ける気か?

「ハハ、これ以上の大変があってたまるか、……どうした言ってみろッ!!」

「"AW-S06"なる存在が、復讐界域にて出現!同界域の英霊及びベジータなる人物とリクという人物に襲っているとのことです!」

「なんだそれは!?」
「私にも詳細はわかりません!!」



~シン・復讐界域 デミックスたちが去った後の急造都市~

「……しかし何だこの兵士の数。」

 我が物顔で闊歩する、復讐界域の無名英霊たち。

 キーブレード使い、リクが廃墟の影よりその様子を見ていた。
 奴らは、リクが今まで出会った敵___ハートレスやノーバディとも違う。
 深い闇や虚の果てより生まれた彼らとは何か、根本的に違う。

「まぁいいか。気づいていないようだしな。」

 リクはこの都市の調査を始めた。
 人の気配がない。甲冑を着た兵士がいるだけで、およそ現地人とでもいうべき存在が感じられない。
 まるでこの土地自体が「戦場として」作られているかのように。

 と、考えていたら。

『絶対兵士、射出!』

 声が聞こえたのは幸運か不幸か。
 "絶対兵士"なる存在が今まさにこの地に向かっていようとした。

 絶対兵士!?なんだそいつは!?
 ……あれか!アーチャー部隊、迎撃開始!
 ダメです!あのポッド、我々の矢が通用しな……え!?斬られている!?
 総員衝撃に気をつけろ!巻き込まれ/ああああああああああ!

 迎撃のために立ちはだかった英霊数十騎。
 その全てが、ばらばらの骸と化した。

「殺s!殺s!殺s!」

 黒いポッドすらも切断し、その手に持つドス赫い高周波ブレードと共に、奴はうなりを上げる。

 ____かつて『■■■■の■■■=辺古山ペコ』と呼ばれていた、今は名を亡くした少女。
 しかし今与えられた銘は『AW-S06:Eliminator』、駆逐という意味を持つ絶対兵士。

「死n!」
「くっ!」

 瞬間の攻撃に対し、キーブレードで防御する。
 彼女すらあまりの釼の速度に、言語化が追い付かない。

 ___昏き狂釼、辺古山ペコ・オルタ。
 無数の復讐界域の英霊、その屍を足蹴に彼女の暴走は止まらない。

4人目

「強襲」

一方その頃、アマルガムのレナードは特異点にいるクォーツァーの王常磐SOUGOと通信を行っていた。
「そうか、目的の物は手に入ったか」
『あぁ、これで全ての準備は整った……いつでも計画を開始することができる…!』
「君たちの目的である『平成という30年もの歴史を作り変える』がついに実現するということか」
『その通りだ。
……ところで前に捕まえたかなめという女はどうした?』
「あぁ……彼女のことなら心配ない。最初こそ反抗的だったが、今では俺たちの同志だ……」
『そうか』
「それで……そっちはこれからどうする?」
『そうだな……計画に必要なものは全て揃ったからな……そっちの世界に戻ったらすぐにでも計画を始動させるつもりだ』
「そうか、ならそれまでにこっちの方で俺たちの計画にとって障害となる存在……CROSS HEROESを一人でも多く排除しておこう」
『CROSS HEROESか……何人かこちら(特異点)に来ているとはいえ、やつらの戦力は日に日に増大している……我々なしで大丈夫なのか?』
「なに、こちらもかなりの戦力がある。
……それに先程あちらにいる我々の同志から聞いた話だが……どうやら彼らの持つASやスーパーロボットはここ数日の激戦により大きなダメージを受けてオーバーホール中……それ以外の戦力も希望ヶ峰学園跡地に出現した巨大な黒い壁の中へ行ってたりDr.ヘルとの戦いで大きなダメージを受け治療中であったりと……今トゥアハー・デ・ダナンにいる戦える戦力はごくわずかしかいないんだ……」
『なるほどな……確かにそれならやつらの戦力を削るチャンスと言えるな……よし、なら頼むぞ』
「あぁ、任せてくれ」



一方その頃、トゥアハー・デ・ダナンでは
「……作業はどれだけ進んでいますか?」
「そうですね……レーバテイン含めたASは全機完了していおります。
……ただ、マジンガーZやゲッターロボ、ビューナスA、ボスボロットなどのスーパーロボットはまだまだ時間が掛かってしまいますね……しかもここの設備じゃ完璧な状態にするのは難しいかと……」
「そうですか……」
ここにある設備は元々ミスリルが所有するASを整備する為のもの、その為光子力研究所のマジンガーZや別の世界のロボットであるゲッターロボを修理するにはいろいろと足りないのである。
「仕方ねえよ、そうなることも承知のうえでここでオーバーホールすることにしたんだからよ」
ここから光子力研究所へマジンガーZなどを運ぼうとするとなるとかなりの時間がかかり、更に輸送中に襲撃を喰らう可能性がある。その為完璧な状態に出来ないことを考慮してでもミスリルの設備でASと一緒にオーバーホールを行うことにしたのである。
「それで、あとどのぐらい掛かりますか?」
「そうですね……早くてもあと2、3時間は掛かりますね……」
「2、3時間か……その間になにか起きないといいけど……」
すると突然サイレンが鳴り始める。
「……どうやら、そのなにかが起こったようだな……」

「大変です大変です艦長!アマルガムのAS部隊がこちらへ向かって来てます!」
「アマルガムが!?」
「おいおいどうするんだよ!?何人かあっち(トラオム)に行っちまってるし、まだ修理が完了してない機体もあるんだぞ!?」
「……やむを得ません、今ここに残ってるメンバーのうち、現時点で出現が可能なバーサル騎士ガンダムさん、騎士アレックスさん、ゲイツさん、ツクヨミさん、そして既に機体の修理が完了している宗介さん達に出てもらいましょう
それとすぐ近くで待機しているGUTSセレクトの皆さんにも連絡しておきます」
「了解」
「皆さんすいません……」
「気にするな甲児、今回は俺たちだけでなんとかする。だから今は機体の修理に専念しろ」
(このタイミングでの襲撃……まさかやつらは俺たちの今の状況を知ってるというのか……?)

5人目

アメリカ合衆国ニューヨーク。
繁栄の見本のような街の摩天楼の合間を一筋の白い何かが颯爽と飛んでいた。

「あっ、あれはなんだ!」
「鳥か?飛行機か?」
「違うわ!あれは正義超人のペンタゴンよ!!」

そう。白い影の正体は正義超人ペンタゴンである。
一流超人として筋骨隆々たる彼だが純白の体と天使のような背中の羽、そしてそ目や鼻といった生物的な器官がなく五芒星のような部位のみがある顔からどことなく体格に似合わないスマートな印象があり物腰も柔らかく民衆からの人気は高い。
彼は今パトカーのサイレンの音を聞き付け、音の発生場所へと向かっていた。
とある路地裏にたどり着いたペンタゴンはパトカーと知り合いの警察官を見つけた。

「これはこれはミスターペンタゴン、宇宙へバカンスに行っていたのでは?」
「どうもスミス警部。何だか胸騒ぎがしてね。バカンスは早めに切り上げて帰ってきたのさ」
(胸騒ぎは的中、大事件が頻発してる。我が友ブラックホールも行方不明と来たもんだ)
「ははぁそれはそれは……で、またこれですよ」
「うん」

二人は視線を上にやる。
そこには街灯があり、数人の男が奇妙な方法で吊るされる形で拘束されていた。

「これで何件目だったかな?」
「36件目……最初のは1週間前に見つかってそれから毎日でさぁ」
「で、今日の彼らは?」
「宝石泥棒ですね」
「犯罪者を人知れず捕まえて拘束。何者なんですかね」
「わからないけれど」

ペンタゴンはフワリと浮き上がり、宝石泥棒達の拘束手段をしげしげと眺めた。

「中々スマートな性格らしいね。一見無造作にグルグル巻きにしてるように見えるけど後遺症やエコノミー症候群にならないように注意してるようだ」
「そこまで気を遣って犯罪者を捕まえるくらいなら直接警察署に連れてきてくれたらありがたいもんですな」
「確かに……気になるね」

ペンタゴンは宝石泥棒を拘束している物体を触ってみた。
それは人工的に生成された物質のようだったが、蜘蛛の糸のような性質を持っているようだった。



キャプテンアメリカもドクタードゥームもいない世界でもニューヨークはベーグルはおいしくて毎日犯罪だらけ。
手持ちのドルが使えたのはありがたいけど底が付きそうだ。

また賞金付きのレスリングにでも出ようかと思ったけど超人レスリングなんてものがあるんならそれも楽じゃなさそうだ。

スパイダーメンだらけの大騒動が終わって元の生活に戻れたと思ったらスパイダーどころか知ってるヒーローもヴィランも誰一人いないアースに来ちゃうなんてね……。



「コーヒーをありがとう。スミス警部」
「いえいえ、いつも雑魚怪獣やら災害から守ってくれてるお礼ですよ……ところで一連の拘束されてた犯罪者達の証言や監視カメラなどから奴さんの姿が大まかにわかったかも知れないんですよ」
「それはいいニュースだけど……そんなものを僕に教えていいのかい?」

スミス警部は人差し指を立てて唇に当ててニッと笑った。


「ありがとう。スミス警部」



スマホが使えないのは痛かったけど毎日新聞を読んでなんとなくこの世界の事情はわかった。
僕のアースに負けず劣らず大変な世界みたいだ。
しかしデイリービューグルがないだけでこんなに新聞売り場が見やすいなんてね。
ヒーローチームもあるみたいだけど信用できる人達なのかどうかはわからないし……と、また叫び声だ。
どんな世界だろうと僕のやる事は変わらない。
この力を持った以上は、僕は責任から逃げない。



「ゲェーッ!正義超人ペンタゴン!」
「君も運が悪いね。たまたま僕が通りかかったタイミングでひったくりをするなんて……僕のスピードを知ってるだろう」
「あ、ああ……大人しくお縄につくよ」
「まさかその人間を逮捕して終わらせるつもりじゃないだろうな下等超人!」


ペンタゴンが穏便に犯罪者を捕らえようとしたその時、月夜に一つのシルエットが浮かんだ。

「下等超人という言い回し……完璧超人か」


叫び声を聞いて来てみたらもう解決か……あの超人、なかなかの有名人みたいだな。ファンタスティック4みたいなものか。
あっちの超人は、完璧超人?最近宣戦布告したっていう……。

6人目

「絶対兵士:Stormfang」

 ___かつて、一つの計画があった。
 それは新世代の兵士を作るという目的で作られた、恐るべき計画だった。

 脳生理学のデータから設計された特殊な訓練と『調整』という方法による記憶と感情の剝奪によって任務に余計な感情を持たず、かつ一騎当千の戦闘力を持つ究極の兵士を作るというもの。

 その計画の名を「絶対兵士計画」。
 だが、その計画は頓挫、破棄されたが……。

「絶対兵士……!」

 今こうして、トラオムの地に絶対兵士が解き放たれた。
 ただしそれは、超高校級の才能を吸い取りさらに強化されたものとして___!

「殺!」

 ___絶対兵士『AW-S06=辺古山ペコ・オルタ』。
 彼女が持つ狂える赫い釼が、暴風とともにうねる。

「zqun死e!」
「ぐぐ……!」

 リクのキーブレードが、火花を上げる。
 なぜだ?と思考を広げる。
 なぜ___ここまで攻撃が「重い」!?

「ーーーーーーーー!!」
「かはっ!」

 腹部を襲う鈍痛。

 まるで黒い鞭のような蹴りを受け、リクが吹き飛ばされる。
 何とか受け身をとるも、4mは吹き飛ばされた。

 畳みかけるように、赫い死神が高速で駆け出す。

「くそ!迎え撃て!」
「邪mdtすruq!」

 復讐界域の無名英霊数騎が、彼女の鎮圧にとりかかろうとするも全て___!

「抑え「殺「撃t「あ」」」

 一刀の下に斬り伏せられ、光となって消え失せて逝く。
 この女、恐ろしく強い……!

「次homえa」

 文章が文章にならない勢いの超高速移動。
 リクが立ち上がる前にとどめを刺そうと、その刃を向ける。

「ふん、ごちゃごちゃとうるさい女だ。」

 そのとどめの出鼻をくじくために放たれた一発の光弾。
 牽制のために放たれたそれは、女の足を回避に使わせるのには充分すぎた。

 赫い嵐が足を止め、煙の向こうよりその男を凝視した。

 青い戦闘服。
 逆立った髪。
 その双眸から感じる己の力への誇りと圧倒的実力。

「誰だ……!」
「俺は……ベジータだ。」

 女の高周波ブレードを握る手が、さらに強くなる。
 とどめの瞬間、愉悦の時間を邪魔されたのだ。憤るのも無理はない。

「あ、ありがとう……ベジータさん。」
「勘違いするな小僧。お前を助けたわけじゃない。」

 そっけない態度を取るも、どこかまんざらでもない様子のベジータ。
 態勢を整え、リクもキーブレードを構える。

「二人とo纒e殺s!」

 赫い嵐に相対するは銀の勇士とサイヤ人の王子。
 復讐界域にて、嵐の如く荒ぶる戦いが始まった。



~復讐界域拠点~

「報告です。先ほどリクという少年とベジータが戦闘を開始しました。相手は女子高生で絶望界域の兵士曰く『絶対兵士』とのことです!」

 報告を聞き、男の脣が歪む。
 愉悦だ。
 どんな形でもいい。
 どんな手段でもいい。

「それは、いいな。ベジータ、今日が貴様の命日になるかもな。」

 死ね、疾く死ね。
 我が憎悪、我が怨敵よ、とっととくたばれ。

 パラガスの狂笑が、拠点中に響いたのだった。

7人目

「再始動」

けたたましく鳴り響くサイレンの警告音、それが古びた古城の奥地で鳴り響いたのは、地上の戦いが佳境を迎えた頃だった。
地を唸らせ、岩肌の内壁を揺るがすようなその警報は、その場に居た全員を身構えさせるには十分な音量で発せられている。
ここアレート城塞深部に設けられた急造格納庫では、未だ鳴りやまぬ戦火の轟音を背景に、サヘラントロプスの最終調整が行われていた。
装甲を纏い巨大となった四肢を持ち上げて、動きを確かめるように重々しい音を鳴らしながら稼働している巨人兵器は、その体躯に見合った重量を感じさせる駆動をしている。
そして同時に、まるで生ける生物のような滑らかな動きを見せる機体を前にして、この場に居る整備員達は皆一心不乱に手を動かしている。
機体からフィードバッグされるあらゆる電子情報、それら全てを隈なく洗い出し、微々たる調整を繰り返す流れは一切止まらない。

そんな幾多の整備士によって行われる調整作業の渦中で、白衣を纏い、強化外骨格の様な脚部補助機器を付けた男が一人。
彼こそがエメリッヒ博士、サヘラントロプスの開発者である。

「……よし、残りの調整も終わった。」

彼はそう呟き、コンソールから手を離した。
そのまま視線をサヘラントロプスのコクピットへ。
そこに座り込み、操縦桿を握る一人の少年へと声を掛ける。

「ハル、こっちの調整は終わったよ。乗り心地はどうだい?」
「思いのままだよ、父さん。」

まだ年端もいかぬであろう幼さが残るその顔立ちを持つ彼は、エメリッヒ博士の息子だ。
名を、ハルと言う。
本来であればこのような危険な戦場に来る事など無いはずなのだが、今は違う。

「…自分の息子を戦場に出すなんて、これじゃ父親失格だ。」

静かにそう自嘲するエメリッヒであったが、当の本人であるハルはそれを気にとめる様子も無く、手元にあるディスプレイを覗き込んでいた。
そこに映るのは、アレート城塞の地表で行われている戦いの映像だ。
怪物的な挙動で人影が入り乱れて戦う姿は、まるで映画か何かのように現実味が無いもので、しかしそれは紛れもなく今そこで起こっている出来事だった。
ハルはその映像を見ながら、無邪気に言う。

「こいつ等をやっつければ良いんだよね?」
「あぁ、そうだよハル、そいつ等が敵だ…!」

自分に言い聞かせるように、強く、仮初の憎しみを練り上げて、エメリッヒは答える。
答えて、胸の内に湧き上がる罪悪感に圧し潰されそうになっていく。
自分にとって都合の良い道具を作り上げる為だけに、息子を巻き込んでしまった。

本来ならば親として愛すべき息子に対し、自分は何をしてしまったか。
この瞬間までその事について深く考えてきたつもりだった。
それでも、この胸中を占める慟哭は…

「自分の息子が可愛いか?エメリッヒ博士。」
「……」

背後から聞こえた声に振り向く事もせず、エメリッヒは無言を貫く。
その問い掛けの意味を考える暇も無いほどに、彼の頭は既に冷静さを欠いていた。
そしてその沈黙を肯定と捉えて、声の主、スカルフェイスは再び口を開く。

「酷い父親だ。可愛い息子を、死ぬかもしれない戦場に送り出すとはな。そうして嘯いて、無垢な手を汚させる。」

格納庫内の喧騒に掻き消される事無く響き渡る低い声で、彼は続ける。
しかしその声色からは、彼がこの会話を楽しんでいる事が窺えた。
それをエメリッヒは感じ取り、一層強い怒りを抱く事になるのだが。
そんな事はお構いなしに、スカルフェイスは自身の感情のままに言葉を吐き出す。

「だが安心したまえ、彼の身は保障しよう。」

目の前にいる男は、彼にとって許せる存在ではなかったのだ。
しかしそれでも尚、エメリッヒは何も言わない。
否、何も言えない。
今ここで反論すればするほどに、自らの過ちを、他でもないサヘラントロプスを作り上げ、自らの子を乗せた罪を自覚する事になると理解していたからだ。
そんな葛藤を知ってか知らずか、スカルフェイスはただ淡々と言葉を続ける。

「そしてこれからお前達は、私の偉業の一部となる。」

自分の意思を、主張を通す為に、しかし同時にそれこそが自身の使命であるかのように。
彼は正義を語るようにそう言った。
そしてその言葉を最後に、スカルフェイスの手繰る巨人(バケモノ)は動き出す。
今一度、大気を揺るがす程のサイレンが鳴り響く。
先のとは違う、最終警告。
そのサイレンを聞いた作業員達は、蜘蛛の子を散らす様に退避していった。

まず初めに動いたのは、巨大な脚部。
踏み出した一歩で地は割れ、舞い上がった土煙と共に轟音が響き渡った。
たったそれだけで、その場に立つ全員の身体に強い衝撃を与える。
地に着いていた足が離れ、重量感のある巨体がゆっくりと浮き上がっていく。
そして、そこから更に一歩を踏み出し、遂にはその巨体を直立させた。
サヘラントロプスのコクピット内で、ハルは眼前に広がる光景を見て、思う。

(遂に、サヘラントロプスが動くんだね。)

彼の傍らに佇む『子ども』を横目に、無邪気な感嘆に打ち震え。
自分がこれから行う行為を、人殺しの意味を。
その重さを、彼は知らず、ただ呟く。

「行くよ、父さん。」

そうして操縦桿を強く握りしめ。
サヘラントロプスから、鈍く大きな駆動音が鳴る。
それに呼応するように、隔壁がスライドしていき、隙間から光が漏れる。
それが、開門(オープン・ギア)の合図だ。

『サヘラントロプス、出ます!サヘラントロプス、発進!』
_ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!

雄叫びを上げて、鋼鉄の巨人が今、再起する。

8人目

「幻想の騎士、トラオムへ出陣す」

 リ・ユニオン・スクエア トラオム前。
 幻想の聖騎士、シャルルマーニュは驚愕していた。

「それは本当なのか?カール大帝が復活したってのは?それに、メサイア教団の教祖だって!?」

 カール大帝の復活とメサイア教団の教祖化。
 この事実は、十分にシャルルマーニュを驚愕させた。

 事実を伝えたのは、彼と合流したルクソード。

「間違いなく彼は復活した。私が前にいた"存在しなかった世界"にカール大帝はいる。その気配を感じる。」
「そうか……。だが、なんか変だな。」

 シャルルマーニュ、即ちカール大帝。
 カール大帝の側面でもある彼は、当然英霊としてのカール大帝のことをよくわかっている。

「もし本当にメサイア教団にカール大帝がいるなら、どうしてここまであいつは慎重なんだ?いや、あまりにもおかしい点が多過ぎる。」



 あまりにも不自然だ、あいつの性格を考慮すると疑問が多い。
 前提として、月の戦いにてあいつは世界の統一を人類救済の方法として利用した。
 というより、そもそも『英霊、カール大帝』は現実主義の塊とでもいえる存在だ。

 そんなあいつが、他の組織につくだろうか?
 手段と目的が入れ替わってしまうほど人類救済に狂ったのか?だとしたらあまりにも不自然だ。

 あいつが誰かに従う?ありえない。あいつは威風堂々の化身だ。誰かを従わせる方が明らかに向いている。その証拠にあいつのクラスは『余程のことがない限り魔術師のマスターを必要としないルーラークラス』だ。

 しかもあの放送でMなる人物が言っていた『人類の進化』『神に等しい人類による理想の世界』は、大帝の本心だろうか?もしあいつなら理想の世界はともかくとして、人類の『神化』ということは考えないはずだ。

 大帝にとって『神』とは救世主ただ一人。
 しかも神なんてものよりあいつは『自由』とか『ただ幸せに生きろ』という命題を与えるはずなんだ。あの時だって。"姉上"を救うために奔走したんだから……。

 今回のカール大帝は、何かがおかしい。



「だが、事実として大帝は召喚されている。はぐれサーヴァントか均衡の守護者かはわからんが。」

 ルクソードの言うことには『嘘』は感じられない。
 彼は間違いなく真実を言っているだろう。

「うーん、やはり真相は直接、本人に聞いてみないとわからないな。」

 そして、聖騎士はトラオムの孔の前に立つ。

「行ってみるか、トラオムへ。___おっさんはどうする?」
「私は結構。この地にも直接メサイア教団の手先が来るとカードの占いに出たのでね。防衛に徹するとしよう。___それと、一つ警告しておく。」

 ルクソードは彼の誘いを断る。
 そのお詫びと言わんばかりに、一つの警告を残した。

「カール大帝は、今はまだ無事だが仮に彼が消滅したら君も消滅する。戦うことになってしまったら、その点は留意してくれ。」

 シャルルマーニュはカール大帝の影。幻想の夢。
 カール大帝が消えればシャルルマーニュも消滅する。

「逆を言えば、あいつが生きている限り俺は消えないってわけだ。戦う時はまだ遠いと思うぜ。」


~トラオム アレート城塞上空~

 黒い穴から、聖騎士が曲がり通る。
 まばゆく蒼い希望の光が、地獄の上空に輝く。
 それは、シャルルマーニュの持つ聖剣ジュワユーズの煌めきか。

 シャルルマーニュは、その上空から巨大な機械を目視した。
 サヘラントロプス。最悪の兵器。

「アレは、まずいな……!」

 目標はアレート城塞、サヘラントロプス。

「行くぜデカいの____ッ!」

 幻想の騎士、サヘラントロプスに突撃する____!

9人目

「殺戮兵器対魔殺少女」

 動き出すサヘラントロプス、対するは幻想の騎士、シャルルマーニュ。
アレート城塞を巡る戦いも、遂に終盤へと差し掛かっている。

「とびちれ」

 殺戮兵器ブーゲンビリア対魔殺少女ペルフェクタリアの戦い。
ブーゲンビリアの背中から12連装ロケットランチャーが一斉発射される。

「絶縁刀ッ!!」

 ペルフェクタリアは右手に集めた魔力を刃に変換して振り払うことで、
飛んできたロケット弾を全て打ち落とした。
弾頭を分離されたロケット弾の爆発を背に、そのままブーゲンビリア本体に
向かって突進する。

「おねえちゃんはわたしにはかてないよ。わたしのほうがつよいから」
「どうかな……!?」

 ペルフェクタリアは更に加速して、ブーゲンビリアとの間合いを詰めていく。
するとロケットランチャーがブーゲンビリアから分離し、自律飛行を始める。
形状を変化させて、速射砲のような形になっていく。その数4基。

「うて、チェリーブロッサム」

 上下左右に散開して弾丸を連射する自律型機動兵器・チェリーブロッサム。
その名のごとく、四位一体に展開する様は開花した桜の花弁のように見える。
ブーゲンビリアの意志によって縦横無尽に飛び回り、敵を包囲する戦法を得意とする。

「くっ……!?」

 行く手を遮るかのように放たれた弾幕を避ける為に、ペルフェクタリアは
急ブレーキをかける。そこから垂直に飛び上がり、
空中で回転し降り注ぐ弾丸を避けながら、ブーゲンビリアに接近しようとする。

「……ッ!」

 しかし、その瞬間、ペルフェクタリアは気付いた。
いつの間にか、四方八方囲まれていることに。

「……これは」

 ペルフェクタリアは、周囲を見渡す。
すると、いつの間にかチェリーブロッサムの銃口が彼女を向けられていた。

「ふふ。うごけないでしょう? もう、にげられない」
「……」

「あなたのうごくみちは、きまってる」
「ならば当ててみろ。私の次の行動が分かるのならな……」

 姿勢を低くして、走り出す。チェリーブロッサムは即座に射撃を開始した。
ペルフェクタリアは走る勢いを弱めることなく、ジグザグに走って全ての銃弾を回避する。

「むだだよ。おねえちゃんのこうどうはすべて、みえているんだもの」
「その割には一発も当たっていないようだが」
 
 壁を走るようにして、天井まで駆け上がる。
そして天井を蹴って急降下。再びブーゲンビリアに接近を試みる。

「夜舞蛇ッ!!」

 闇夜に牙を光らせ、敵の喉元に飛び掛かる蛇が如く撓る脚撃を放ち、
チェリーブロッサムの1基を蹴り砕く。さらにマフラーを伸ばして、
遠方のチェリーブロッサムを絡め取る。
ペルフェクタリアはマフラーを引っ張り、チェリーブロッサムを引き寄せると、

「はぁあああッ!!!」

 反対方向に飛行している最中のもう1基を巻き込み、思い切り壁に叩きつける。
激しい音を立てて、2基のチェリーブロッサムが機能停止した。

「あー、こわした。わたしのチェリーブロッサム」

「まだあるんだろう。お前の武器は」
「もちろん。まだまだいっぱいあるよ」

 身体の至る部分から、次々と武装が生えて来る。
両腕からはガトリングガン、両肩にミサイルポッド、背中に大型キャノン砲、
腰部にはグレネードランチャー、太腿にワイヤーアンカー、両足にローラーブレード、
腹部には多弾頭ミサイルが収納されている。
そしてそれらが何も無かったかのように再び体内へと戻っていく。
ブーゲンビリアの意志ひとつで自らの細胞を変質させ、銃火器へと変換する力。

「おねえちゃんをころすためにあつめた、たくさんのぶきたち」
「随分と物騒なものを持っているな」
「これでぜんぶじゃないよ。ほかにもいっぱいあるけど」

「そうか。では、全て破壊させてもらおう」
「できるかなぁ?」

10人目

「兵器と騎士」

人々の喧騒とサイレンの音。
暗く、しかしとても広い、格納庫と呼ばれる空間。
その中心に立つ巨人、サヘラントロプスの中に、僕は居た。

「眩しい…」

ゆっくりと開いていく、格納庫の隔壁。
そこからコクピットのモニター越しに、力強い太陽光が覗いてくる。
つい一瞬前まで薄暗かった視界を、眩いばかりの白一色に染めてくる。
その光につい、眼が眩んでしまう。

「んっ…」

だが、それも少しの間だけ。
白紙の視界に、段々と彩りが成されていく。
遠く晴れ渡る空、薄暗い群青雲、年季の入った城塞の壁面。
見下ろす限りに広がるのは、押し退けられた機材の数々が作り出した、外へと続く道。
そこに並ぶ人々は、僕とサヘラントロプスの門出を祝う様に整列していた。

「わぁ…!」
『大丈夫かい?』

心配する声が、外から聞こえた。
父さんの声だ。

「うん、大丈夫。ちょっと、眩しかっただけ。」

そう答えて僕は目元に手を当て、影を作る。
お手製の日陰から覗く先に居るのは、城塞のカメラに映っていた少女達が戦う様。
その様子を目の当たりにして、言葉を失う。
少女達の戦いはまるで映画の様に派手で、華麗で、美しく、それでいて痛快なものだった。

「凄いな…」

思わず漏れた呟きと共に、無意識の内に手を握り締めていた。
あれを、今から討つんだ。
そう思うと。

「ちょっと、怖いね。」

ぽつりと零れた不安な気持ち。
きっと、今の僕は怖くて震えているんだ。
だってほら、手汗がじんわりと浮き出てきてるのに、手は操縦桿に吸い付いて離れない。

「ふぅ。」

気付けば、息もちょっと早くなったかな?
呼吸を整えながら僕は深呼吸をして、心を落ち着かせる。
そうして漸く落ち着いた頃に、隔壁は完全に開き切った。
いよいよだ。

「…行こうか、サヘラントロプス。」

一歩踏み出した瞬間、全身を襲う重圧。
一瞬の浮遊感の後、地面に着地する足裏の感覚。
鉄の軋む音を伴うソレを、僕は繰り返す。
最初は戸惑ったこの動作にも、もう慣れたものだ。
皆の声も、喧しいサイレンも、今はもう気にならない
機体と一体になった気持ちで繰り返されるその一連の動作が、僕には心地よく感じた。
気付けば、あっという間に外へ出ていた。

「うっ…」

コクピットのモニターに表示された外の様子に、僕の心がざわつく。
そこはまさに戦場だった。
広大な草原や閉塞とした城内を駆け回る兵器の数々、異形の姿を持つ機械人形、そしてそれらと戦う少女達。
映像越しに見た以上のその迫力に、僕は一瞬、気圧される。

「いけない、これじゃ駄目だ。」

これから僕は、あの戦場に出るんだ。
両頬をパシッと、軽く叩く。
そうして、まだ少しだけ緊張している自分を戒め、今一度操縦桿を強く握り締める。
大丈夫だ、今度はちゃんと自分の意志で掴んでいる。
だから。

「はぁ!」

足音と言うには些か豪快な音を立てて、僕は、サヘラントロプスは走る。
一歩、また一歩と進む度に大地を踏み締める脚部からは、振動が伝わってくる。
一歩ごとに加速するその速度は、段々と速度を増していく。
あっという間に、城塞の外だ。

「…見えた。」

そうして視界内へと鮮明に、即ち射程内に少女達を捉えた。
気付いている様子は…感じられない。
ならば、やる事は一つ。

「レールガン、用意…!」

サヘラントロプスの右背部に取り付けられた、レールガンを構える。
砲身に走る紫電、行われるチャージ。
同時並列で、僕は一人の少女…ペルフェクタリアと言うらしい…に照準を合わせていく。
HUDの照準に定まる少女。
そのまま、一発目…

『_させねぇッ!』

_トリガーを引く瞬間だった、機体が大きく揺れたのは。
何かが掛け声と共に、砲身へと一筋の光を打ち込んだ。
その衝撃で照準は大きく逸れ、撃ち出された砲弾はすぐ近くの城壁を穿った。

「誰ッ!?」

僕とサヘラントロプスの視線は、すぐに乱入者を捉えた。
それは空から降りてくる、一人の男。

『不意打ちなんてだせぇ真似、この俺が許さねぇ!』

一体全体どんな手品を使ったのやら、彼が邪魔をしたらしい。
何者かは知らない、けれど。

「敵なら倒す!」

即座に迎撃態勢に移行する。
先ず一手、サヘラントロプスの頭部ガトリング砲から銃弾の雨をお見舞いする。
一発一発が戦車の装甲をも穿つソレを、何千発と。

『効くかよっ!!』

だがしかし、乱入者はそれを意に介さない。
その言葉通り、奴は直撃コースの弾丸を全て斬って弾いていた。
奴の身に傷一つなく、そして、剣にも損傷はない。

「嘘!?」

まるでアニメの様な芸当のソレに、溜まらず僕は驚きの声を上げた。
あれだけの攻撃を全部、全て防いだのか?
凄い、けど…!

「まだまだ!」

攻撃の手は緩めず、寧ろ激しくする。
背部VLSから幾多のミサイルを撃ち出し、彼へと向かわせる。
これならば斬っても爆発に巻き込まれるのみ、そう考えて。

「そこだ、行け!」

いつの間にか、彼の周りに漂っていた幾多の剣。
それが、ミサイルを一つ残らず撃ち落とす。
ファンタジーめいた光景に、思わず息を呑む。

「あれが、さっきレールガンを逸らした…!」

彼の力の一端を見て、僕は気を引き締め直す。
あの力がどこから来ているものなのかは分からない。
けれど、ただのハッタリであんな事をできるとは考えにくい。
つまり、彼は何らかの異能の存在だ。
だとすれば尚更、油断ならない相手だ。

「だったら、格闘戦に!」

胸元から、僕の、サヘラントロプスの『剣』を抜き放つ。
メタリックアーキア製の、黒く淀んだ、けれど何処か惹かれる輝きを放つ剣(つるぎ)。
その刀身が、彼へと振り上げられる。
これで…!

『_ッ!』

受け止められた。
剣一つで、このサヘラントロプスの剛力を。
それだけじゃない、寧ろ押し返してくる。

『てやぁぁぁぁぁぁっ!!!』

彼の雄叫びと共に繰り出される連撃を、僕は捌き続ける。
シュミレーターでは、こんな事は無かった。
その速さも、重さも、僕の知る限りではトップクラス。
正直、僕の手に負えるとは思えない。
だけど、引く訳にはいかない。
だから。

「お願い。」

その思いに呼応して、傍らに『子ども』が現れる。
直後、切り返しの一撃が、彼の攻勢を上回って弾き返す。
体勢が乱れた、形勢が逆転した。

「今だ!」

チャージを終えたレールガンが、唸りを上げた。

11人目

「聖騎士、正義に震えよ」

「さっきのが来る!」

 唸りを上げ放たれるレールガン。
 超高圧の電流を纏い、幻想の騎士シャルルマーニュを貫かんとその牙をむく。

 12本の聖剣で円陣を組み、防御態勢を整える。

「疑似勇士・円陣!」

 円陣を組まれた剣12本が、近代兵器という矛に仇なす大盾となる。
 まばゆい閃光と雷鳴が周囲を走る。
 しかし、さっきのよりも威力が増している。

 ___じりじりと押されているのは、シャルルマーニュの剣の方だ。

「これじゃ足りないか、ちくしょおおおお!」

 己を鼓舞する咆哮と共に、さらに魔力を注ぐ。

(後方にいるあの少年、あいつがどういう理由かわからないが力を与えている。___これは防御じゃだめだ!)

 思考する。あの少年は何なんだ?あいつが操っているのか?
 あいつを無力化すればいいのか?わからない。

 しかし、今はこの電撃だ。___これは防御じゃ防ぎきれない。ならば。

「___トルナード!」

 五大元素のひとつ、氷を纏った旋風を引き起こしレールガンの弾丸をはじき飛ばす。
 電磁砲の弾丸を弾き飛ばすという荒業。それは操縦士___ハルに驚きを与えるには十分だった。

『うそ……弾かれた!?』
「逆転、ってな。___いくぜ!」

 シャルルマーニュの攻撃ターンに突入する。
 負けじとサヘラントロプスも機銃攻撃を放ち、さらにアーキアルグレネードを放つ。

『これなら、あの剣を無力化できるはず……!』

 金属を腐食させるメタリックアーキア。
 確かに、普通の剣ならばこの一発でシャルルマーニュの剣を無効化できる。

 だが、当のシャルルマーニュの持つ剣は『聖剣』ジュワユーズ。
 星が鍛造せし剣、その輝きは決して失われない___!

『腐ってない!?』

 格闘戦へと持ち込む。
 再びミサイル攻撃と共にその剣を振るう。

 先と同じ展開が再び起きる。
 お互いに拮抗しあう状況。

 しかし、そこに唯一違う点があるとしたら____。

「……乗っているのは、子供!?」

 搭乗者が誰なのか、ということを見た点である。

 その瞬間、シャルルマーニュは悟った。この状況の全てを。
 このロボットをこのトラオムに呼んだのが誰であれ、この子供を乗せたのが誰であれ、こんなむごいことを、「無辜の市民、それも子供に人殺しをさせる」だなんて、騎士として、そして人間として許せない。

「なんてことしやがるんだ……!」

 怒りで唇をかむ。
 そして、一条の決意と共に、聖騎士は剣を握りなおす___!

「そうか。今助けに行くぜ!___じっとしてろよ!」

 シャルルマーニュの剣、その一本が変形する。
 その形は___黄金の馬上槍。

「借りるぜ、アストルフォ!」

 ___アストルフォの宝具でもある黄金の馬上槍には、一つの効果がある。
 この槍の攻撃を受けた者は転倒する、という点だ。
 そして、シャルルマーニュは十二勇士の武器を借り受けるという能力を持つ。

 確かに、この武器ならばサヘラントロプスを転倒させられ、無力化できる___!

『させるか!』

12人目

「シャルルマーニュとアルガス騎士団」
 
「むうっ……!?」

 アレート城塞内部を一望できる回廊を進むアルガス騎士団は見た。
二足歩行する巨大機動兵器サヘラントロプス。それにたったひとりで挑む人間の姿を。

「なんだ、アレは……」
「馬鹿デカいと言うレベルでは収まらんぞ……」
「あのようなモノが存在するなど……」

 驚愕と困惑を口にする騎士達。

「やべっ……!!」
「危ないッ!!」

 シャルルマーニュと剣士ゼータが直感的に叫ぶのと同時、サヘラントロプスから
放たれるレールガンが巨大な質量を伴って城塞の一角を吹き飛ばした。

「何と言う威力か……!」

 まるで空間ごと削り取るかのように、着弾点を中心とした一帯がごっそりと消え失せる。
その余りの火力に、誰もが絶句していた。
射角が僅かでもズレていれば、射線上のアルガス騎士団とてひとたまりもなく
消滅していたところであろう。

「おっ……? 誰かいる……おい、アンタら! 大丈夫か!?」

 シャルルマーニュは回廊からこちらを見ていたアルガス騎士団に気付く。
彼らは、突如現れた異形の巨躯を前にして固まっていたのだ。
そんな彼らに向けて、声をかける。

「あ、ああ、我々は大丈夫だ」
「しかし一体、これはどういう状況なのだ?」
「そうです、何故このような場所に機械仕掛けの巨人が……」

「正直言うと、俺もよく分かってない! 今しがたここに来たばかりでね!
だが、このデカブツは放っておくわけにはいかねぇ。それに、あれにはどうやら
子どもが乗っているようなんだ」

「何だって……!?」
「経緯は定かではないが、明らかに危険だな」
「えぇ、あれほどの火力を有する兵器は、放置できませんね。子どもが中にいるのならば
尚更でしょう。彼は信用に値する人物とお見受けしました」

 剣士ゼータ、闘士ダブルゼータ、法術士ニュー……彼らの同意を受けて、
シャルルマーニュはサヘラントロプスの方へ向き直る。

「我が名はシャルルマーニュ! 貴殿らの協力に感謝する!!
これより、あの化け物を破壊するッ!! ただし、中にいる子どもは絶対に助け出す!」
「我ら、アルガス騎士団! 義によってシャルルマーニュ殿に助太刀いたすッ!!!」

「おぉーっし、そうと決まれば、行くぜッ!!」
「「「応ッ!」」」

 シャルルマーニュを先頭に、サヘラントロプスへと向かうアルガス騎士団。
異世界の誇り高き騎士たちが、機械仕掛けの暴竜へと挑む。

『ちょろちょろと……! 邪魔をしないでよ!』

 サヘラントロプスの頭部ガトリング砲が唸りを上げて火を噴いた。
4人の騎士たちは散開し、各々回避行動を取る。大地を蹂躙するつガトリング砲の弾幕。
高々と土煙が上がり、大量の薬莢が転がり落ちた。

「くぅ……! なんという威力……!」
「だが……!」
「当たらなければどうということは……!」

 守りに回っていては埒が明かない。
攻めに転じるべく、アルガス騎士団は一斉に駆け出す。

「このまま一気に距離を詰める!」
「うむ!」
「分かった!」

 先陣を切ったのは、闘士ダブルゼータ。

「ハンマーアレイだッ!! ぬおおおおおおおおおおおおッ!!」

 パワー自慢のダブルゼータが両端にトゲ付き鉄球を備えた棍棒を横薙ぎに振るう。
狙うはサヘラントロプスの脚部。巨体であるが故に、その支えとなる脚を破壊すれば
たちまち自重を支えられなくなり無力化出来るであろうと言う算段。
が、ダブルゼータの攻撃は見えない電磁バリアに阻まれて弾き返されてしまった。

「なんとッ!?」
「邪魔をするなァァァァァァッ!!」

 一瞬、無防備状態となった闘士ダブルゼータはサヘラントロプスの
パイルバンカー付き右腕部に殴り飛ばされ、城壁の石レンガへと派手に激突した。

「ぐおあっ!」
「大丈夫か、ダブルゼータ!」
「あ、ああ、何とかな……」

 打たれ強さには自信のあるダブルゼータ。大ダメージには至っていないようだったが
気を取り直す暇もなく、サヘラントロプスの脚部から誘導ミサイルが発射された。

「危ない!」

 咄嵯に飛び込んだ法術士ニューが展開した障壁でミサイルを防ぐ。

「くっ……!」
「ニュー!」
「大丈夫です! これくらい、平気ですよ!」

「気を付けてくれ! 奴の攻撃は強力無比だ!」
「全身武装の大火力にバリアと来たか、こいつは随分と骨が折れそうだぜ……」

13人目

「死闘、サヘラントロプス」

数多の兵器を以て猛威を振るい、アルガス騎士団を加えてもなおシャルルマーニュに対し優位を取るサヘラントロプス。
一人の男が執念を練り上げて作り出し、ブルマ博士がチューニングを加え、そして最終調整を行った完全体故の現状。
それは正しく、暴竜と呼ぶに相応しい脅威だった。

「何か、手掛かりが有る筈だ…!」

だが、それは無敵を現す物ではない筈だ。
それを証明する為に、騎士シャルルマーニュは死闘を繰り広げる。
サヘラントロプスの繰り出すあらゆる攻撃を防ぎながら、その隙をついて反撃へと転ずる。
懐に飛び込み、振るわれた聖剣の煌めきが走る。
だが…

_ガギンッ!
(くっ! やっぱこのバリアを破るには火力不足かよ!!)

奇妙な手ごたえ。
何度切りつけても、刃が機体そのものへと届いていない。
あの少年が作り出した分厚いバリアの前に阻まれる。
シャルルマーニュが持つ聖剣『ジュワユーズ』でも一撃で切り裂けない防御力に、歯噛みせざるを得ない。

「けどなぁっ!」

だからといって、このまま手をこまねいているわけにもいかない。
誰の意図かは知らぬが、まだこれからの未来がある子どもが、このような兵器で殺しに手を染める事などあってはならない。
そして、サヘラントロプスの背後で彼に手を貸す少年。
彼もまた保護して連れ帰らねば、恐らく取り返しのつかぬ事になってしまう。
故に、シャルルマーニュとアルガス騎士団はその身を削ってまで、抗い続ける。

『あぁ、もう!』

そんな彼等の覚悟を知らず、ハルは苛立たしげにサヘラントロプスの両腕を振るう。
ジャブ、ストレート、エルボー、パイルバンカー。
純粋な運動エネルギーによる暴力の嵐が、無慈悲に襲いかかる。

「くっそぉーーーっ!!!」

剣撃から一転して繰り出される質量攻撃に、今度は防戦一方を強いられる。
振り回される拳を避ける為、体勢を整える暇がない。
戦闘で生じた衝撃で城塞が崩れ落ちる音を聞きながら、必死に身を捩る。

『いいぞ…!』

ハルにとってシャルルマーニュはあくまで敵であり、情けをかける理由もない。
当然、容赦もしない。

『そこだ!』
「っしま…!」

故に、回避で生じた刹那の隙を突く追撃の蹴りにも、一切の手加減は無い。
サヘラントロプスの全重量を武器とした、渾身の一撃が、今、突き刺さる…

「させるかぁ!!」

瞬間、横合いから飛び出した闘士ダブルゼータの、獅子の斧が拮抗する。

『何だって!?』
「白兵戦ならば、此方に分がある!」

一瞬、両者の力が合わさり、力比べが始まる。
そして同時に、シャルルマーニュの窮地を救った。

「ッサンキュー、助かったぜ!」
「礼は良い、ここからだ!」

今、この時、サヘラントロプスの姿勢は不安定だ。
これを逃すまいと、一気に攻勢に転じる。

「あぁ、行くぜ!」
「存分にやらせてもらうぞ、ハァ!」

蹴りを切り返され、大きく体勢を崩したサヘラントロプスに、聖剣の一振りが突き刺さる。
再び顕現するバリア。
だが、その上から振り下ろされる獅子の斧を前に、バリアが限界を迎える。

_ア”ァ”ァ”ァ”!!?
『うわぁ!!?』

遂に、一撃。
胴体に打ち込まれた一撃が、バリアを超えて機体へとダメージを波及させる。
悲鳴の如き爆発を伴って、ふわりと、機体が浮き上がった。
そのまま後方へ、弾き飛ばされる。

『…まだまだぁ!』

だが、ハルもただサヘラントロプスに乗っているだけではない。
咄嗟の機転でアーキアルブレードを逆手で抜き放ち、着地と同時に地面へと突き立て、体勢を取り戻さんとする。
強大な質量慣性が、城塞の地面に三本線を描いていく。

「今がチャンス…っ!?」

追撃を仕掛けんとした二人。
だがその周囲に、突如として奇妙な岩石がせり上がる。
アーキアルブレードと同じ輝きを放つ、黒濁色の岩。

「何か、不味い!?」

四方八方を塞ぐソレは、明滅しながら膨張している。
今にも爆発せんとするその岩に、危機感を覚えた。

「させるか、せいっ!」

その時、投げ込まれた剣が岩の一角を穿つ。
剣士ゼータの剣だ。
包囲の外側へと突き刺さったソレは、爆発を外に逃がし、同時に退路を作り出す。

「あっぶねぇ!」

思考は刹那。
二人は岩の包囲を抜け出す。
直後、岩は爆炎を上げ、巨大な土煙が立ち昇る。
その光景に、ひやりと悪寒が走る。

「あんな恐ろしい手も持ってたのか…!」

シャルルマーニュの言葉通りだった。
あれでさえ、サヘラントロプスが持つ切り札の一つでしかない。
危険すぎる、子どもの手に委ねるには。

「…ますます、逃す訳には行かなくなったっ!」

決意を新たに、シャルルマーニュが駆ける。
だが突如として飛んできた銃弾によって、またも追撃は阻止される。
振り向けば、城塞から次々と現れる、戦車とヘリ、人型兵器の入り乱れた機械化兵団。

「放てぇ!」

鉄喰らいの霧が晴れたこの瞬間を待っていたのだろうそれは、存分に猛威を振るう。
強大な数の暴力を前に、思わずたたらを踏む事態になる。

『今だ!』

ハルもまた、この好機を逃さない。
機体を跳躍させ、一気に距離を取る。
恐るべきはその身体能力か、40~50m近くは飛んで見せた。
流れる様に変形し、砲撃体勢に入る。

「不味い、今あれが来るの不味いっ!」

紫電が走るレールガンを見て、冷や汗が流れる。
今は機械化兵団の砲火に晒され、とても防御や迎撃どころではない。
懐に飛び込むにも、距離が開きすぎた。

「やられる…!?」
「…メガファン!!」

奇跡の連続もここまで。
そう思った時、詠唱と同時に雷の嵐が機械化兵団へと降り注ぐ。
天からの連撃を前に、機械化兵団は防御を迫られる。

「行け、シャルルマーニュ殿!ここは我々が!」
「…任され、たぁ!!!」

銃弾の雨が止んだ今、シャルルマーニュの取るべき行動は一つ。
サーヴァントとしての身体能力をフルに駆動させ、一気に迫る。
唸りを上げるレールガンも、来ると分かれば怖い物では無い。
聖剣の煌めきが、今一度駆ける。

「『トルナード』!そしてぇ!!」

一撃、撃ち込まれた砲弾を薙ぎ払う。
返す刀で狙い澄ました一閃が、サヘラントロプスへと襲い掛かる。
迎撃、防御、最早遅い。

「オ”オォォォ!!!」
_ア"ァ"ァ"ァ"ァ"!!?

奇妙なバリアの手ごたえは、無かった。
一瞬の間に走る閃光、直後に斬り裂かれる胴体。
爆炎を上げて、サヘラントロプスの体勢が崩れる。

「やったか!?」
「…いや、まだ動くぞ!」

ダブルゼータから飛ぶ警告を聞き、弾かれた様に跳躍。
直後、そこに打ち込まれるパイルバンカー。
深手を負えども、サヘラントロプスは未だ健在の様だ。

「しぶとい…!」
「どうやら、こっちも同じようです!」
「…何だって?」

ニューの声に、困惑が生じる。
見れば、機械化兵団もまた大したダメージを受けた様子は無い。
兵器はともかく、生身の人間まで被害が少ないとはどういった事か。

「…なるほど、読めたぜ!」

その答えは、機械化兵団の中心で指揮を執る髑髏の男、その傍らに佇む『子ども』が物語っていた。

「…チャンス到来!」

14人目

「転倒、アレート城塞/デミックスの独白」

~絶望界域 アレート城塞~

「……チャンス到来!」

 バリアは消えた、あのガスマスクの少年は倒れ、動いていない。
 周囲の状況から髑髏の男に謎の"能力の優先権がある"とも分かった。

 だが、髑髏の男にもバリアを張る能力があるとしたら……!

「やられる前に、倒す!___アストルフォ!今度こそ借りるぜ!」

 聖剣の一振りが変形する。
 幻想と黄金に煌めく馬上槍に。
 バリアをまた張られる前に、あいつを___!

「じっとしてろよ!」

 シャルルマーニュの振るう槍が、サヘラントロプスの足元で薙ぎ払われる。

 ___アストルフォの持つ馬上槍には、ある効果がある。
 「トラップ・オブ・アルガリア」と称されるその効果は相手の足を霊体化させ、転倒させるというもの。
 そんな代物、当然十二勇士を率いるシャルルマーニュも___扱える!

「触れれば転倒!ってな!」
『うわあああっ!?脚が!?倒れ……!』

 機体がゆっくりと後方に傾き始める。
 その余波で森にたたずむ鳥や、アレート城塞の外壁が悲鳴を上げ始める。

 それでも、サヘラントロプスは倒れない。

「さすがに倒れないか……!」
「今これを破壊させるわけにはいかんのでな。」

 髑髏の男の超能力が、サヘラントロプスの転倒を防いでいる。
 超能力という未知と自然の摂理__重力がぶつかり合う。

 足元にはアルガス騎士団が機械化兵士に押され始めている。
 時間がない。やるなら今だ。

「こいつを操縦している”少年”は、ここで助ける!」


~復讐界域 つり橋前~

 戦闘の最中、デミックスは悩んでいた。
 ある事実を今後合流するであろう誰かに言うべきであろうか、と。

 言っても信じてくれなさそう。
 だけど、言ったら言ったで江ノ島が大変だ。

 何しろ、あの廃墟にて彼女が教えてくれた事実があまりにもむごすぎる。



「皆には、まだ言わないでほしい。余計な心配をかけさせたくない。」

「え?いいけど……何?」

「私は____両親に完全完璧で全知全能の存在かつ『全てを見抜く瞳』を与えられ、いや、そう望まれて造られた子供。要するに、デザイナーズベイビーなんだよ。」

「……なんだって?」

「両親の目的は『完全な私を利用して、この世全ての才能を完全に破壊すること』『私の才能を抽出し、全人類に与えることで人類を全能の神にすること』。私はただ、そのために改造されたいびつな生き物(メアリー・スー)なんだ。」

「にわかには信じられないけど……。」


 そんなむごい話が、あってたまるか。
 彼女の両親がどういう思想でこのような結論に至ったのか。今やわからない。
 人類を絶対なる神にするために、実の娘を利用するという最もドス黒い悪。

 完全者となれば、江ノ島が絶望してしまうのも得心がいく。
 何もかもを完全にこなし、全知全能で最強の存在。
 そんな奴の人生が幸福なわけがない____!



「それで、改めて自己紹介するけど……、俺はデミックスで、こっちのかわいい子が……。」
「江ノ島盾子。このトラオムを消すために動いているんだ。それで……そっちは?」

15人目

「ルフィ猛攻! これが”ギア”の力だ」

 アレート城塞の外で繰り広げられる、サヘラントロプスと
シャルルマーニュとアルガス騎士団の死闘。
そして城塞内ではCROSS HEROESと禍津星穢/ブーゲンビリアの戦いも
最高潮に達していた。

「”ギア”! ”2”……!!」

 血液とは、絶えず人体を循環している。
血液は酸素や栄養分などの物質を運ぶ働きがあり、その流れを早めれば早くするほど、
身体能力が飛躍的に向上するのだ。
しかし、それは血液を送るポンプの役割を果たしている血管に負荷をかけることにもなる。

 だが、全身ゴム人間であるルフィはその血管さえも柔軟性の高いゴムで出来ている。
常人なら心臓が破裂してしまう程の血液量を循環させても耐えられる身体なのだ。

「ルフィさん……!」

 いろはが心配そうな声を上げると、ルフィはニッと笑みを浮かべた。
血液の巡りが加速しているために肌が紅潮し、体温上昇による蒸気が噴き出す。

「まだ何かやろうってわけ? いいよ、来なよ」

 禍津星穢は余裕綽々といった様子だ。

「う……おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉッ!!」

 ルフィは駆け出した。地面を踏み砕かんばかりの勢いで飛び出し、一気に距離を詰める。
ギア2の発動により、ルフィの身体能力が飛躍的に向上している証だ。

(速い……だが……!)

 穢は冷静に対処した。身体を煙にして物理攻撃を無効化する技――
「惡霧」を発動させる。再び穢の姿が完全に消え去ろうとした瞬間……

「おおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 ルフィの鉄拳が空気を引き裂いた。
一瞬遅れて、穢の顔面にクリーンヒットする。

「ごはっ……!?」

「当たった!?」
「ルフィくんの攻撃が……!」

 月美や悟飯を散々苦しめた穢の技を打ち破ったことに驚く一同。

「へへっ……思った通りだ。お前の技、悪魔の実の能力みてェだからよ……」
「な、にィ……!?」

 ゴム、煙、砂、炎……ルフィを始めとする悪魔の実の能力者には、
身体を変質させ物理攻撃を無効化する者が数多く存在し、それらは主に「超人系」と
カテゴライズされる。使い手の応用次第でほぼ無敵を誇るかのような権能ではあるが、
ルフィのように覇気を極めた者は悪魔の実の特性を凌駕し、
攻撃を命中させることができるという。
そして、それこそがルフィの狙いだった。

 穢の力が悪魔の実のもたらす力と類似した自らの肉体を変質させるものであるならば、
覇気によってそれを打ち破ることができるのではないかと見抜く。
ギアと覇気の併用……それはルフィに戦闘力アップと敵の属性変化を無効化する力を
もたらしたのだ。

「ぐぅ……おのれえッ!!!」

 怒り狂った穢は両腕を伸ばし、ルフィの首を掴みにかかる。
しかし、ルフィはそれを振り払うように跳躍して回避すると、空中から回し蹴りを放つ。

「ゴムゴムのォォォォォォォォォッ……!!
JET鞭(ジェットウィップ)ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
「があああッ!!」

 穢の頭部に撓る鞭のような蹴りによる強烈な一撃が入り、
そのまま地面に叩きつけられる。
さらにルフィは間髪入れず、落下しながら追撃の一打を見舞った。

「ゴムゴムのォォォォォォォォォッ……
JET銃(ジェットピストル)ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 左手から繰り出される掌底突きが、穢を城壁まで吹き飛ばした。
ドオオオオン!! と轟音を立てて激突し、壁が崩れ落ちる。

「――……!!」

 瓦礫の中から姿を現した穢は血を流しながら、信じられないといった表情を
浮かべていた。

「馬鹿、な……この僕が……!」
 
 形勢逆転。ルフィの新たなる力が、これまで有効なダメージを与えられずにいた
禍津星穢を明確に追い詰めている。

「行ける……!」

16人目

「シャルルマーニュが押し通る」

「行くぞ、今そこから出してやる!」

目指すは救出、その意志に変わり無し。
目的のサヘラントロプスは、這いつくばる様な姿勢で転倒を無理矢理抑え込んでいる。
30m強ある体躯が倒れ込もうとする力を、脚部の踏ん張りが失った今、腕部だけで支えている。
人型兵器故の芸当、というには、余りにも異常だ。
無力化にはまだほど遠い、だが。

「その手足はもう使えねぇだろ!」

巡り巡って訪れた、千載一遇のチャンス。
これを逃せば、二度と機会は訪れまい。
そう決心し、シャルルマーニュは決意を新たに、高らかに叫ぶ。

「我が名はシャルルマーニュ!己が王道を指し示す為、今押し通る!」

一歩、力強く踏み出すと共に、その身体が音速を超える。
踏み締めた大地が爆ぜ割れ、踏み砕かれた瓦礫と土砂が舞い上がる。
そして更に加速した。
音速を超えたまま突撃を敢行する。
相対する巨体へ、一直線に迫る聖騎士。

『黙ってやられてたまるか!』

対するサヘラントロプスも受けてやるつもりは無い、頭部ガトリング砲を以て応戦する。
しかし、その全てが当たらない、回避行動など取る必要すら無い。
彼の行き去った跡地に、土埃の花を咲かせるばかりだ。

『あ、当たらない!?』
「もう見切ったぜ、それは!」

既に超音速機動の領域にあるシャルルマーニュにとって、満足に照準を定める事も出来ない銃弾を避ける等、造作も無い。
何より、彼自身の戦闘経験は常人の比ではない。
戦場にて磨き上げられた本能が、銃口から射線を割り出し、最適解の行動を取らせる。
そうして息も付かせぬ間に、懐へと飛び込んだ。
決めるのならば、今。

『ひ、ぃ。』

モニター越しに伝わる気迫を前に、ハルの口から、畏怖の念が漏れ出る。
それはサヘラントロプスのスピーカーを通じて、シャルルマーニュの耳へと届いた。

「…怖いか?」

支えにしていた内の片手を振るって、追い払わんとするハル。
怯え切った人間のそれと同じ行動をする彼に、シャルルマーニュは語りかける。

『だ、誰が!?』
「テメェ自身だ、感じてるんだろ?だけどな…!」

稚拙な薙ぎ払いが生み出す風切り音に負けぬ声量で。

「お前は、その兵器で同じような恐怖をばら撒く所だったんだ!」

彼は叫ぶ、自らが犯そうとした罪を自覚させんとして。
ハルからすれば、何を言うのかと思うところだった。
生まれた頃から周りの大人に従う、それだけが当たり前だった彼からすれば。
シャルルマーニュも、薄々その事情には勘付いていた。
故に、聖騎士は憤るのだ。

「何も知らない子どものお前が、言われるがままに手を汚す?」

言葉と同時に、聖剣が今一度力強く煌めく。

「そんなむごいことが、許される訳ねぇだろ!!」

瞬間、放たれた光熱の一閃が、サヘラントロプスの腕を焼き焦がす。
先程までとは比べ物にならない威力、それは彼が抱く王勇の証左であり、そして同時に、義憤による激情でもあった。

「テメェは何もわかっちゃいねぇ!それがどんなに残酷なことなのか!」
『ぼ、僕は…!?』

激流の如く押し寄せる感情の前に、たじろぐハル。
ただ大人に従うのみだった彼に、シャルルマーニュの正義と相対する意志や覚悟がある筈も無し。
故に。

「だからそこから救い出してやる!答えろ、ジュワユーズ!!」

彼の決意に、聖剣の煌めきが迸る。
彼が空へと舞い上がる。

「これぞ永続不変の輝き、これぞ千変無限の彩り!」

その閃光から出でるは、十二の連なる剣。
彼の威厳に集いし騎士達の顕現。
それ等を従えて、シャルルマーニュは叫ぶ。

「万夫不当の騎士達よ、今こそ我が王勇を指し示せ!」

この日この時この場所こそが、己が往くべき王道であると。
そう、今こそ示す時なのだと。
聖剣より溢れる光の翼が、彼の姿を照らし上げていく。
その威光を見上げ、ハルは思う。

(これが、王。)

自分が従っていた大人達とは似ても似つかない、まさしく王の形だと。
同時に理解する。
自分の今までの人生において、従う事以外に価値など無かったと。
それを悲観するつもりは無い、ただ当然の事と思っていただけなのだから。
だが。

(僕、本当はどうしたかったんだろう?)

今はそれが、知りたい。
目の前の騎士は言う、自分を解き放つと。
なら、それに従おう。
自らの意志で、初めて己が意思を、ハルは願った。
そして。

「『王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)』!!!」

シャルルマーニュの叫びと共に、十二の剣が一斉に振り下ろされる。
天地を別つ閃光は、サヘラントロプスの装甲を貫き、穿つ。
轟音が鳴り響いた、爆炎が巻き起こった。
それを背景に、彼の意識に様々な憧憬が流れ込んでくる。
それは今迄の、ただ大人に従って生きてきた日々。
そして。

「ハアァァァァァァッ!!!」

高らかに聖剣を掲げ、迫り来る聖騎士。
彼との闘いが、今、憧憬と重なりあう。
シャルルマーニュの振るう剣技が、聖剣の煌めきが、記憶に刻まれていく。
同時に、ハルの胸中に渦巻いていた疑問が晴れていくような感覚があった。
ソレが何かはハルには分からない、けれど。

(…綺麗。)

彼の見せる王勇の姿は、ハルに取っては眩しく見えた。
同時に、ハルは羨望を抱いた。
あの人のようになりたかったと。
だからこそ。

『…ごめん、なさい。』
_ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!

その介錯を、ハルは受け入れた。
瞬間、十三番目の閃光がサヘラントロプスを穿つ。
爆音を、唸りを、雄叫びを上げて、サヘラントロプスが崩れ落ちる。
動力部が損傷し、機体のあちこちから火花が散っている。
もう動く事は叶わないだろう。

(これで良いんだ。)

その渦中で、ハルはただ静かに自分の行いを自覚していた。
そこにあるのは贖罪の意志。
そうして巻き起こった爆風に巻き込まれた身体は、コクピットの外へと投げ出され、宙を舞う。
10m弱は吹き飛んだその身体は、そのまま重力に従って地面へと向かい…

「…っぶねぇーーーっ!!!」

横合いから飛んできたシャルルマーニュの手の内に、ハルはすっぽりと収まった。
勢い余って尻餅を着く形で、地面に落下する。

「いってぇ~…はぁ、怪我はねぇな?」

痛みを訴える彼は、その顔に安堵の表情を浮かべる。
そうして暫くしてから、彼の無事を確認するかのように、問いかけた。

「…うん。」

帰ってくるのは肯定の意。
代わりに訪れたのは静寂。
暫しの間を置いて、口を開いたのは、ハルだった。

「どうして、助けてくれたの?」
「あぁ?そんなもん決まってるだろ?」

シャルルマーニュは、当然だと言わんばかりに答えた。

「俺が、俺だからだ。」



「俺達はCROSS HEROESのスネークだ。こっちは…言うまでも無いが超人だ。」
「雑ぅ。」

江ノ島と合流したスネーク達。
互いの素性を明かしながら、スネークが問う。

「ここがトラオムだと言ったな、それを消すには…」

直後、遠くより響き渡る二つの轟音。
片方は江ノ島が来た方角、もう片方は遥か彼方に見える城塞。

「…どっちに行けばいい?」

17人目

「崩壊、アレート城塞/黒と赤と、鎧」

「ーーーーーーー!」

 大地が唸りを上げ、ゆっくりと倒れるサヘラントロプス。
 アレート城塞がの倒れゆくサヘラントロプスに巻き込まれて砕けていく。 

 周囲の無名英霊が衝撃波と崩壊に飲まれ消滅していく。

「……。」

 しかしすんでのところで、サヘラントロプスが再び立ち上がる。
 その傍らに、第三の少年が再び浮き上がっている。攻撃の様子こそない。
 サヘラントロプスはゆっくりと後方の絶望界域の方角へと向き直り、移動を始めた。

「城壁が崩れ、サヘラントロプスが動かなくなってしまっては仕方あるまい。撤退だ。」

 そう言い残し、髑髏の男=スカルフェイスはガスマスクの少年と、動かなくなったサヘラントロプスと共に絶望界域の拠点へと消えていった。



「とりあえず、生きててよかったぜ。……立てるか?」

 半壊するアレート城塞を背にシャルルマーニュが、さっきのとは打って変わって優しく少年___ハルを立たせる。
 ハルは何かを心配している。

「パパは?」
「お前の父さんか?大丈夫、きっと生きているぜ。俺が助けてやる。」

 この時のシャルルマーニュは知らなかった。
 彼の父親、ヒューイこそが彼をサヘラントロプスに乗せ、恐るべき破壊を実行させようとした張本人だということを。

「そうだ、でもまずはお前を保護してくれる場所を探さないとな……。どこか安全そうなところを知っているか?」

「……あっちに学校が見えた。そこに行ってみたい。」

 ハルが指をさす方向。そこは、希望界域の拠点だった。


~復讐界域 つり橋付近~

「どっちに行けばいいって……とりあえず、あの橋渡ってみる?俺たちあそこから来たんだし。」

 デミックスが江ノ島が来た方角、即ち復讐界域の方に指をさす。

「とりあえずあの城塞へと向かってみるか。」
「そうだなぁ、絶望的に気になるし行ってみようぜ?」

 スネークを先頭に、全員でつり橋を渡る。
 その道中に、スネークが合流した2人に質問をする。

「なぁ、その武器は何なんだ?シタールに……ショットガン?」
「ん?コレ?これは……なんて説明すればいいかな。魔法のシタールってやつ?演奏するだけで水が出るんだよねこれ。」
「こいつはアレクサンドル・デュマってやつが作ってくれたショットガンで、『必中効果付きの、当たったら問答無用であらゆるものが破壊される』って能力のショットガン。私様でも使えるんだぜこれ。」

「信じがたいな。」

 にわかには信じられない幻想。
 そんなことがあっていいのか。

 そんな幻想の夢を、スネークがかみしめていた。その時だった。

「見つけたぜゴミ共!」

 空中に舞う、ドス黒い楓。
 殺意と復讐心の塊、この世全ての憎悪の具現。

 ___カナディアンマン・オルタが襲撃してきた。

「誰だ!」

 すかさず、本物のカナディアンマンがスネークたちを守ろうと立ちはだかる。

「俺はお前の影だ、弱き超人!かませ犬!役に立たないクズ超人!そういわれ続けたお前の心に宿る世界への強い復讐心がトラオムの地に焼き付き具現化した存在!お前の悪性の具現!それが俺だァ!」
「なんだそれはーーー!俺は復讐なんか知らねぇーーーー!」

 取っ組み合いを始める2人のカナディアンマン。

「お前が死ねば!俺が真なるカナディアンマンとして、世界への復讐を実行できる!さァ死ね!」
「黙れーーっ!」

 その力は、復讐心を吸い続けたカナディアンマン・オルタの方が上だ。
 腹を蹴り飛ばされ、空中で首を絞められる。

「やはり復讐心を燃やせぬお前はこの世のゴミクズにも等しい。そんな貴様如きが!俺の敵になるとでも思ったかヴァーカ!せめてもの手向けだ、一撃で終わらせてやる___!」
「く……クソがーーーーっ!」

 圧倒的パワーで投げ飛ばそうとする。
 万事休すの大ピンチ。

「お前ら、先に行けーー!」

 意識が遠のく。
 もはや救えないのか、とその場にいる誰もが思った……。

「ヒャッハー!首だァァァァァ!」

 しかし、運命は変転する。
 鎧を纏った男が、槍を持って空中から奇襲を敢行する!

「クソ!このバケツ野郎がァ!」

 せき込む白い楓。
 憎悪に震える黒い楓。

「あ、ありがとう……!」
「この先の学園が俺ら希望界域の領域だ!先に行けや!」

 謎の鎧の男が、カナディアンマン・オルタの攻撃を防ぐ。
 あまりにも無骨な鎧、背中についたチューブと巨大な十文字槍。
 およそ武者とは思えない風貌。

「俺の愉悦の邪魔をするか、鎧武者ァ!」

 鎧の男は、十文字の鎗の唸りと共に名乗りを上げる。

「俺は希望界域の『森長可』だ……行くぞオラァ!」

18人目

「勝利の凱旋」

――アレート城塞。

「馬鹿な、この僕が……!! 有り得ないだろ……!!」

 禍津星穢への大逆転を決めたルフィ。

「あーあ、だらしない」

 追い詰められた穢を見てブーゲンビリアは呆れたような声を出す。

「次はお前だ……!」

 ペルが鋭い眼光を向けると、ブーゲンビリアは肩をすくめて嘆息した。

「おねえちゃん、こわいかお。だめだよ?」
「その呼び方はやめろ。今からお前を殺す相手だ」

 すう、と深呼吸をして構えを取るペル。

「相克剄……!!」

 掌底に魔力を集中させ、ブーゲンビリアに狙いを澄ます。

「……覇あああああああああああああぁっ!!」

 一直線に突き出された魔力がブーゲンビリアを襲う。

「――!!」

 危険を感じ、咄嗟に身を捩るブーゲンビリアだったが、
完全に避けきれずに被弾してしまう。直撃を受けた腹部が焼けるように熱くなる。
ペルの攻撃が脇腹を貫通し、だらり、と重心が崩れた上半身が垂れ下がっていた。

「うっ……」

 そのショッキングな光景にいろはや黒江たちは絶句する。
唯一、燕青は目を逸らす事なく冷静さを保っていた。

「――勝負あった、かな?」
「あらー」

 当のブーゲンビリア本人は自分の傷口を見ながら呑気に呟いていた。

「……!?」

 一方、ペルは目を大きく見開き、愕然としていた。
確かに手応えはあったはずなのに、全くダメージを負っていない様子なのだ。

「いまのがおねえちゃんのひっさつわざ? きたいはずれ」
「何だと……!?」

 すると、ブーゲンビリアの損傷箇所が泡立つようにして修復されていき、
瞬く間に元通りに再生してしまった。

「馬鹿な……!」
「ざんねんでした。わたし、にんげんじゃないもん」

 そう言って、ブーゲンビリアはクスリと笑みを零す。
肉体を銃火器に変換する能力の応用……超再生による自己治癒だ。

「くそ……」
「んー。もうちょっとあそびたいけど、けがれくんがまけちゃったからなー」
「おい、クソガキ! 僕は負けてなど……!」

 穢が抗議の声を上げるが、ブーゲンビリアはそれを無視して、いろはたちに視線を移す。

「……!!」

 思わず怖気が走るも、いろはたちは即座に警戒レベルを引き上げ、身構えた。

「じゃあ、またね。おねえちゃんたち。かえるよ、けがれくん」

 右腕をガトリングガンに変形させると、それを掃射し、地面や瓦礫を破壊していく。

「うわっ!?」
「きゃあっ!?」

 巻き上がった粉塵が視界を遮り、ペルたちの姿を覆い隠していく。
やがて煙が晴れると、そこにブーゲンビリアと穢の姿はなかった。

「逃げられた……」
「……仕方ないさ。今はとにかく、全員無事でいられたことを喜ぼう」

 悟飯の言葉にいろは達は「はい」と短く答えた。

「ここか、一際激しい戦闘音が聞こえたのは」

 そこに現れたのは、サヘラントロプスとの戦いを終え、
城塞内の調査をするためにやってきたアルガス騎士団の面々だった。

「あっ……騎士ガンダムさんやアレックスさんにそっくり……!」

 いろはは彼らが、CROSS HEROS本隊に残してきた仲間である「ガンダム」たちに
似ていることに気付いた。

「何っ……!? 何故その名を……!」
「環さん、この人? たち、もしかして……」
「うん、きっとそうだよ黒江さん。騎士ガンダムさんが探してた仲間って、
この人たちだよ」

 アルガス騎士団はCROSS HEROSの存在、騎士ガンダムやアレックスとの出会い、
そしてこのトラオムにやって来た理由などをいろはたちから聞かされた。

「なるほど……そういうことだったのか」
「何と言う運命の導きか……」
「我々も、貴公らの力になろう。ともに戦おうではないか」

 アルガス騎士団の申し出に、一同は感謝の意を示した。

「ありがとうございます、皆さん。どうかよろしくお願いします」

 こうして、いろはたちCROSS HEROESとアルガス騎士団は共に戦うことになった。

「それで、これからどうするんです?」
「まずは希望界域の拠点に戻り、アレート城塞を攻略できた事を十神さんに報告しよう」

 外にいたシャルルマーニュとハルとも合流したCROSS HEROESは
見事アレート城塞を攻略し、希望界域拠点への凱旋を果たすのであった……

19人目

「希望界域にて/ヒューイの心境」

「…クソッ!」

悪態を付くカナディアンマン。
彼は地団駄を踏む様に、大地を力いっぱい蹴りつける。
何時もなら陽気な面が浮かぶその顔には今、憤怒と羞恥を綯い交ぜにした様な表情が浮かんでいた。

「オイオイ、何時もの呑気さはどうした?」

そんな彼に背後から声を掛けるのは、バッファローマンだ。
彼の声に一瞬反応するも、すぐに無言で俯いてしまう。
それもそうだ、先の様な事があれば、誰でもこうなる。
自分によく似た、黒いカナディアンマン。

「復讐、か…」

彼が言い残した言葉を思い出し、呟く。
『強い復讐心がトラオムの地に焼き付き具現化した存在、お前の悪性の具現。』
言葉通りに鵜呑みにするならば、確かにもう一人の自分と言えるだろう。
だが。

「俺はそんな物、認めちゃいねぇ。認めてたまるか…!」

苛立ちと共に出た言葉は、拒絶。
自分自身を否定しかねないその発言に、当人は気付いていない。
だがそれも当然か。
斯様な醜態を巻き散らす存在をもう一人の自分だと、誰が認められるだろうか。
それに彼もまた正義超人である故に、己の悪性等と言う存在を認める訳にはいかないのだ。

(そうさ、俺は世間に復讐するつもりなんざねぇ、ただ見返したいだけだ!)

故にカナディアンマンは、彼という感情を否定する。
アレは己ではない、己の一側面を好き勝手に解釈して模倣した贋作(アルターエゴ)。
であるならば、そんな不埒な輩は有無を言わさず倒さねばなるまい。
そう考え、改めてあの黒き偽物を倒さんとする決意を新たにする。

(それに、その為の特訓の日々だったじゃねぇか!)

思い返すは、これまで積み重ねて来た己の努力。
それを思えば、あのような偽物に負ける道理はない。

(復讐心が何だ、一時の感情が何だ!)

先は奇襲故に不覚を取ったが、結局は技量がモノを言うのだ。
真正面から打ち合えば、勝利をもぎ取る等造作も無い筈だ。
そう自分に言い聞かせていく内に、段々と表情に余裕が戻ってくる。
そして。

「見てろよ……俺の強さを、アイツに見せつけてやるぜ!」

ニヤリと笑みを浮かべながら、意気揚々と言い放つ。
その姿は、既にいつも通りのカナディアンマンであった。

「ふん、いい加減立ち直った様だな?」

その様子を見て、安堵した様子を見せるバッファローマン。
悪魔超人に寝返ったと言えども、性根の良さは正直な様だ。

「バッファローマン…さっきは悪かったな。」
「構わん。」

先の立ち振る舞いを思い出し、謝罪も忘れない。
すっかり毒気が抜けたようだ。

「案外立ち直りが早かったじゃねぇか、これなら心配ねぇな!」

そんな彼に、ブロッケンJr.もまた安心した様子だ。
和気藹々、そんな様相が彼等を包んでいた。

「…絶望的に下らねぇ、何見せつけてんだか。」
「そう言うな。アイツにとって、それだけの事だったんだ。」

江ノ島盾子も、呆れた様子ながら遠目で見守っていた様だ。
スネークもまた同様で、フォローを飛ばした。
とはいえ、内心では二人とも少し安心していた。
あの程度で折れるような柔な精神ではないだろうとは思っていたものの、やはり不安もあったのだ。
何より先程の状況では、下手したらそのまま暴走しかねない状態だった事も事実なのだから。

「だが、もう大丈夫そうだ。」

しかし少なくとも現状は、そういった様子は見られない。
声をかければすぐに反応している辺り、問題は無いだろう。
そう判断し、彼等は再び希望界域を歩む。
目指すは先の男に言われた学園。
思わぬ遭遇や邪魔こそ入ったものの、彼等の旅路は順調そのものだった。

(…カナディアンマン。)

ただ1人、彼の相棒とも言うべきスペシャルマンの心境を除いては。



所変わって、絶望界域の真っ只中。
アレート城塞防衛戦からの敗走を余儀なくされた絶望界域の機械・英霊混合部隊。
前線の崩壊と諸々の事情から幾分か数を減らてはいるが、撤退の判断をすかさず下したスカルフェイスの采配によって、その脅威は未だ健在だった。
そんな兵団を構成する一つ、中枢に近い装甲車両に揺られ、スカルフェイスは呟く。

「随分と顔色が悪そうだな、エメリッヒ博士?」

対面するは、エメリッヒ博士ことヒューイ。
その表情は焦燥感に満ちた物で、とてもではないが芳しくない。
無理もない事ではあるが。

「ハル…」

先の戦いで彼の息子、ハルが乗ったサヘラントロプスが破れた。
撤退する部隊の中にハルが居るという報告も上がっていない。
この報せは彼の心に深い傷を残しており、未だにその動揺は隠せていない。
ヒューイはシャルルマーニュがハルを保護した事は知らない。
故に目の前にいるスカルフェイスとまともに話す余地も無いほど、彼の心は焦燥していた。

「どうか無事でいてくれ…!」

静かに漏らすは息子の安否
父親としては、当然の態度だ。

「道化だな。自分で戦場に立たせておきながら、そんな言葉が吐けるのだから。」

だが、その息子を戦地に送り出した者としては矛盾している。
故にスカルフェイスはその言葉に対して嘲笑を以て返す。
それがヒューイの心を限界へと迎えさせた。

「…お前が、それを言うのか!?」

激昂し、スカルフェイスの胸倉に掴みかかるヒューイ。
元を辿れば、元凶はスカルフェイスである。

「お前がハルを人質にしてなければ、戦場になんか…!」
「だがお前は送り出した、それもあれだけの兵装を持たせてな。一体どれだけ手を汚させるつもりだったんだ、ん?」

スカルフェイスは否定はしない。
しかし同時に、真理を突く。
なまじ否定できない事実なのだから、ヒューイはただただ息を呑むばかりだ。
そんな態度に心底呆れ返ったのか、胸倉を掴む手をはたく様に退かす。
しかし、それでも。

「ハルを、死なせない為だ…!」

このまま引き下がる訳にはと奮起し、言葉を紡ぐ。
その瞳には、僅かながも反抗の意思が宿っていた。
それを見抜いたからか、スカルフェイスは薄く笑みを浮かべながら問いかける。

「ハッ、シェルター代わりとでも?その結果、幾多の屍を築き上げさせてもか?」
「あぁ、お前からハルを引き離す、無敵のシェルターだったんだ…」

だが、それも過去のもの。
サヘラントロプスが討ち取られた今、最早ヒューイに残っている物は何も無い。
その事実に、再び彼は俯くのみだった。

(…ハル、こんな父を憎んでくれても良い。)

被れるのならば、自分一人で被るつもりだった罪。
子どもしか乗れないという己の技術力の無さが生んだ欠陥、それが罪を息子に被せる羽目になった。
己の自慢だった機械工学も、今はただ憎たらしいばかりだった。

20人目

「復讐界域・攻略前夜 その1」

~希望界域拠点~
「よく戻ってきた。うぐっ。」

 十神白夜と希望界域の兵士がアレート城塞と復讐界域から戻ってきたみんなを歓迎した。
 電動車いすを動かし、CROSS HEROESと燕青、新たに来たメンバーとしてアルガス騎士団、シャルルマーニュとハル、正義超人たちとスネーク、江ノ島とデミックスの姿を確認した。

「……いろいろ言いたいことはあるが、まずは素直に『よくやった』と言おう。そして、ありがとう。」

 拍手をしつつ、十神は続ける。
 しかしその表情はどこか曇っていた。無理もない。
 彼にとっては不倶戴天の敵、江ノ島盾子がいるのだから。

 その様子を悟った江ノ島は、その場をひっそりと離れていった。
(江ノ島ちゃん……。)
 デミックスは、その様子を黙って見ていることしかできなかった。

「……次に攻める場所だが、さっき斥候の兵士から情報が入ってきて『復讐界域の兵士の人数が一気に減った』という情報が入ってきた。攻めるならば今のうちだと思うが、どうだ?」

 復讐界域兵士の激減。
 それはすなわち、復讐界域に何かがあった、ということだ。

「復讐界域、パラガスのところですよね?」

 勘の鋭い悟飯が、復讐界域の謎について聞いてみる。

「そこなんだが、その斥候も詳しいところまでは分からなかったそうだ。だが、唯一分かっていることは、代わりに絶望界域の兵士が増えたという点だ。」
「自然に考えるなら、その絶望界域に一気に寝返ったというのが自然だろうな……。」

 まだまだ謎の多い、このトラオムの地。
 復讐界域は、なぜいきなり戦力が減ったのか?
 なぜこのタイミングで絶望界域が息を吹き返したのか?

「それはそうと、森はどうした?」
「森?確か……」

 つり橋にて、カナディアンマン・オルタの襲撃から守ってくれた狂戦士、森長可。

「おう!呼んだか大将!あーあいつか!カナディ何とかってやつ!強えぇ相手だったぜ、撤退させてやったけどよ!」

 カナディアンマン・オルタの急襲、その迎撃から戻ってきた妙にボロボロの鎧武者、森長可。彼は頭から出血をしてもなお、まるで何事もなかったかのように高笑いをする。

「おいどうした!?その怪我、何があった!?」

 十神が心配をする。
 森長可は、依然楽しそうに何があったのかを伝えた。

「いやぁ強かったぜあの黒いの!ネジがぶっ飛んでいる奴ってあそこまで強いのな!がはははは!」

 笑っている場合か!と総ツッコミが入る。
 しかし、いきなり真剣な表情をしてカナディアンマンを指さす。

「それはそうと、さっきの黒いのからカナディアンマン、お前に伝言がある。」
「伝言!?」

 森長可は、カナディアンマン・オルタからの伝言を伝える。

「『今日の夜3時、お前一人で復讐界域の天衝山脈に来い。』ってな。」



 江ノ島盾子は、珍しく悩んでいた。
 何しろ自分は超高校級の絶望。コロシアイの黒幕。人類の敵。

 そんな自分が、どんな顔をしてこの地に立っているのか。
 どの面下げて十神白夜に話せばいいのか。
 どの面下げて正義の側に立てばいいのか。

「そりゃ申し訳ないとは思っているけれども……今更どうすればいいんだよ……。」

 救いようのない悪でも、改心できるのか?
 努力さえすれば、誰でもいい人になれるのか?
 全能である彼女にも、それだけは分からなかった。

 そんな悩みが、江ノ島の心をむしばんでいた。

21人目

「奇妙なる町、杜王町」

 ――アレート城塞が陥落し、希望界域の戦力も大幅に増強された。
しかし、残る絶望界域と復讐界域の勢力図も変わりつつあった。

 その頃、神精樹無き後の特異点。清少納言が待つ杜王町へ向かう
門矢士、藤丸立香、マシュ・キリエライト、坂田金時の4人。

「しっかし、あの馬鹿デカい樹は何だったんだろうな?」
「さあ……でも、枯れてくれたのなら良かったんじゃない?」

 マシンディケイダーとゴールデンベアー号を走らせるその風景には、
刻一刻と枯れ落ちる大樹の姿があった。
一時期は宇宙空間にまでその枝葉を伸ばした巨大な樹木も、今や見る影もない。

「見えてきたな……あれじゃないのか?」

 士の言葉に全員が顔を上げる。
生い茂る森の向こうに小さな町が見えて来たのだ。

「あそこだね!」
「はい! 間違いありません!」
「おっしゃァッ!! 行くぜェッ!!」

 不思議な事に、特異点全土に広がっていた神聖樹の侵食も
その町だけを避けているかのように途切れていた。

「お~い、ちゃんマス~! みんなぁーっ!!」

 町の入口で手を振っている少女がいる。
それは紛れもなく、カルデアの仲間である清少納言こと、なぎこであった。

「なぎこさーん!!」

 その隣には、なぎこと仲良くなった仗助が立っている。

「ふーん……あれがなぎこの仲間か」

 マシンを停車させ、一行はなぎこと合流を果たした。

「無事だった? ちゃんマス~! なぎこさん、超嬉しいんだけど!!」
「うん、元気だよ! なぎこさんも無事で何より!」

 立香となぎこは手を取り合って再会を喜んだ。

「あ、こっちはね。仗助! あだ名はジョジョだよ!
あたしちゃんを助けてくれたんだ~」

「……」
「……」

 金時と仗助。強面の長身の男同士、見つめ合う視線の間には火花が散っていた。

「アンタ……その髪型……」
「あァン……!?」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……


(あっ、ヤバ! ジョジョは髪型を馬鹿にされるとプッツンイッちまうんだぜェーッ!!)

 なぎこは慌てて2人を仲裁しようとする。

「ちょちょちょ、ストップストォップ!! 会っていきなり喧嘩なんてさー……!!」

「――ゴールデンじゃねェのよ、イカしてんぜ、アンタ……」
「ゴ、ゴールデン?」

 予想外の金時の言葉に、仗助は思わず首を傾げる。

「ああ、俺っちが思いつく限りの最上級の褒め言葉って奴よ。
これからよろしく頼むぜ……仗助サンよぉ~ッ! 俺は坂田金時ってモンだ」

 ガシィッ! 2人は力強く握手を交わした。

「ははっ、何だ……話が分かンじゃねえのよ。なぎこの仲間ってのはよォ~~~。
こちらこそヨロシクゥ!」
「えぇ~……? なんか良く分かんないけど、和解したっぽい?」

 なぎこの言葉に金時は笑顔を浮かべて応える。

「おうよ! 男同士の友情って奴だな! はははははっ!!」
「そっか! ならいいや! 良かった良かった! ぶはははははははは!!」

 こうして、ひとまずの平和を取り戻した一行だったが……。

「まあ、こんな所で立ち話も何だ。アンタらに会わせてえ奴らもいる。
まずはそこまで移動しようぜ」

 仗助の案内で、一行は杜王町に足を踏み入れる……

22人目

「ベジータ&リク vs. 絶対兵士:辺古山ペコ・オルタ/叛逆の兵士」

~復讐界域 急造都市~
「死!死!   死!」

 死の音頭を上げる絶対兵士___辺古山ペコ・オルタ。
 彼女が振るう連続の斬撃。

 ただでさえ超高校級ともいえる剣術が、狂気の改造によってさらに暴威を振るう。

「くそ!」

 リクも負けてはいない。
 キーブレードによる斬撃を喰らわせ、何とか彼女を上空へとかち上げようとする。

「弱i___zn!」

 撫で斬りにしようと、赫い高周波ブレードを振り下ろす!

「どこを見ている!食らえビッグバンアタック___!」

 ベジータの掌から放たれる、高火力の気弾。
 常人ならば塵一つ残らない爆発力を秘めている一撃。

「____不iuiだt___温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温い温いぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!!」

 狂える嘲笑交じりの叫びと共に___辺古山は高周波ブレードでこの気弾を滑らせて不発に終わらせた。

「な……!」

 驚愕の表情を浮かべるベジータ。
 その真意は、驚嘆と強敵を相手にしている恐怖から来るものである。

「く た ば れ ___!」

 狂った動きをしつつ、絶対兵士がベジータに斬りかかる。
 ベジータも負けじと、体術によって斬撃を捌き続ける。

「こっちだ!」

 リクが援護射撃と言わんばかりにキーブレードから黒い炎を放つ。
 それを察知した絶対兵士は、それすらも斬撃で返す。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!死 に 尽 く せ ! !」

 こちらを向き直った絶対兵士による、狂おしく繰り出される無数の剣戟に押されていく。

「くっ、逃げられない……!」

 壁際まで追い詰められたリク。
 それでも、彼はあきらめずにキーブレードを向ける。

「うおおおおおおおおおおお!!!」

 勇猛果敢にキーブレードから炎を放とうとする。
 ベジータも、手から再びエネルギー波を放とうとする。

 その時、異変が起きた。

「あ…………ぶほっ。」

 嵐の如き攻撃を止め、血を吐き突如苦しみだす絶対兵士。

「う……くぐ……ああ……頭……が……!」

 頭を抱え、動きが荒ぶっていく。

「ぐぐ……ぐわああああああ!頭が痛いいいいいい!」

 絶対兵士を襲う苦痛の叫び。
 タイムオーバーを告げる激痛のアラーム。

「がふっ、はぁ、はぁ……痛っ……ぁぁぁぁああああああ!!きえる……私が消え……てしまう……!!brrrrrrrrrrrrr!!wwwwwwwooooooooooaaaaaaaaaaAAAAAAA!!!」

 とても人間が放てるとは思えない、異形の怪物の如き呻き声。
 血が出ようともお構いなしに、何度も何度も頭を打ち付ける。
 そのうち体をまるで獣のように震わせ、超高速で飛来する赤い光と化して消滅した。

「な……何だったんだあいつ……!」
「薄気味悪いぜ……とても人間とは思えない動きで消えやがった。」

 ベジータとリクは、そんな彼女を驚愕の中見ていることしかできなかった。
 とても行方を追おうとは思えない、それほど奇怪な挙動を見せつけられたのだ。

「とりあえず……どうしますか?別の場所に移動しますか?」

 リクが指をさした方向は、希望界域を示した。

「ふん、貴様は勝手にどこにでも行け。俺にはやるべきことがある。」

 そう言い残し、ベジータはパラガスのいる拠点に再び足を進めていった。
 それを見届けたリクは、希望界域へと走っていった。

23人目

「インターミッション:希望界域・作戦会議」

――希望界域拠点。

「次なる目的地は復讐界域か……」
「一体どんな場所なんだ?」

 アルガス騎士団とシャルルマーニュは、新たなる目的地に思いを馳せる。
復讐界域とは、どのような場所なのか?

「これは、有志が作成したトラオムの全体図だ」

 十神は作戦会議のために用意していた地図を広げる。

 まず現在地を指し示す。そして、

「ここから北上した所にあるのが、今回諸君らが攻略したアレート城塞。
ここは絶望界域の勢力下にあった。希望界域拠点の西にある吊り橋を越えると、
復讐界域の勢力圏となる。
敵に追われていた江ノ島盾子……と、デミックスを森が救い出した」

 江ノ島の名を口にする十神の眉間にシワが寄る。

(何やら因縁がありそうな感じですね……)

 法術士ニューは十神の反応から揺れ動く心理の波を人知れず推察した。

「復讐界域には急増された都市群の先に復讐界域の拠点、
そしてその背後には天衝山脈がそびえたつ……ここだな」

 十神は天衝山脈のふもとに指を置く。

「ここが天衝山脈。例のカナディアンマン・オルタとか言う奴が
決闘の場所に指定した場所だ」
「時刻は深夜3時……ならば、夜襲を仕掛けるか?」

「決闘に応じ、尚且つ復讐界域に攻め入る事を両立させるなら、それがベストだろう。
問題は、敵の規模と、目的だ」
「敵の目的、ですか?」
「ああ。アレート城塞を落としたとは言え、奴らの戦力は今以て不透明だ。
そこにこちらから飛び込んでいく形になるからな。
敵がどういう形で我々に襲い掛かってくるのか分からない以上、こちらも対応しにくい」

 十神は腕を組みながら頭を悩ませる。

「まずは斥候を放ち、敵戦力の分析。そして敵の動向を探る。
その上で、攻め込むかどうかを決める。これが基本戦略だが、どう思う?」

 十神は一同を見回す。その視線は、主に正義超人たちに向けられている。
正義超人たちは顔を見合わせ、お互いの意思を確認し合う。
その表情からは迷いは一切見られない。
彼らの意思は既に固まっており、後は行動に移すのみ。

「しかし、もうひとつの勢力、絶望界域が急激に戦力を増やしたと言うのも気になる。
奴らも自分たちの拠点のひとつだったアレート城塞を落とされた事で、
否が応にも希望界域への敵視の目を厳しくせざるを得ないだろう。
もしかすると、我々が復讐界域に攻め入っている隙に絶望界域が我々に対して
大規模な侵攻を行っている可能性もある。
敵の兵力は未知数だ。この辺りの情報も探りたい」

 正義超人の意見を聞き、十神は顎に手を当てて考える。

「なるほど。悩ましいところだな……」

 作戦会議が煮詰まっていると、兵士が十神の元へとやって来る。

「十神さん! 西の吊り橋に、リクと名乗る少年が現れたとの報告が……
抵抗の意志は無いようなので、現地兵がその場で待機させているようですが……」
「何……? そうか、分かった」

 一旦会議を切り上げ、十神はリクとの接触を試みる。

「済まないが、誰か吊り橋まで向かってもらえないだろうか?
そのリクと言う少年の素性が知りたい」
「復讐界域から送り込まれたスパイかも知れんぞ」

「私が行こう。私には”嘘”の匂いが分かる……」
「それじゃあ、僕も」
「女の子を護衛すんのは、騎士の務めってな! 俺も付き合うぜ」

 こうして、他人の嘘を見抜く事が出来るペルフェクタリアと悟飯、
そしてシャルルマーニュが代表して吊り橋まで向かう事になった。

24人目

「トラオムの謎/目覚める希望」

~少し前 つり橋エリア~
「ひぃ!分かった!ここのこと話す!話すから!」
「よし話せ!あ、勘違いすんじゃないぞ?元をたどればお前が暗殺を決行しようとしたのが悪いんだからな!」

 復讐界域のアサシンを、リクが脅している。
 そのうち勝ち目がないと悟ったアサシンが、トラオムのことを話し始めた。

「質問が複数ある。全て答えろ。……まず1つ、ここの兵士はいったいなんだ?」

 リクは鬼の形相で、アサシンに詰問を開始する。

「分かった、全て話すから!……まず、俺たちを召喚したマスターは……メサイア教団の連中だ。俺たちはそのサーヴァント。要するにメサイア教団という組織に仕える兵士だ。」

 メサイア教団の前線基地。
 その事実を、外界より来たリクは知らなかった。

「そうか。次にここはトラオムと言ったな、何の目的でここを作った?」
「……メサイア教団がこれから起こす"聖戦"に備えての前線基地としてここはある。ここでの戦争なぞただの演習でしかない!俺らみたいな……名もなきサーヴァントなぞ再召喚すればいくらでも替えが利くからな……。まぁ希望界域だなんていう外からの乱入勢力は……予想できなかったがな!」

 すべてはメサイア教団が仕組んだ出来レース。
 三界域の戦争なぞ、ただの演習でしかない。

 アサシンもこの隙に乗じて反撃をするも、リクのキーブレードによって弾かれてしまう。

「ぐわあああぁ!」
「よし次だ、どうすればここから出れる!」
「分かった!もう反撃しないから!…………出る方法は俺も……わからない、でも噂として……あそこだ。トラオムの中心にある山。あそこにある工場を破壊すればトラオムは消滅する……あくまで噂だ、本当かどうかはわからんけどな……。」

 トラオム中心の休火山。
 そこにある『工場』を破壊すればここから出れるようだ。

「もういいだろ……!パラガスを殺させてくれ!あいつの治世にはもううんざりなんだァーーーー……」

 パラガス?
 リクの脳によぎる疑問。

「ちょっと待て、パラガスって……!行ってしまった。」

 リクを置き去りに、アサシンはどこかへと消えて行ってしまった。

「クソッ、もう少し聞きたかったが……橋を渡るか。」

 橋を渡ろうとするリクの前に、また一人の兵士が。

「失礼、リクさんですね?少しここで待っててもらえますか?今使いの者を呼びますので。」

 不愛想な兵士が、ここで待っててくれと言ってきた。
 攻撃の意志がないと悟るリクは、素直に待っている。

 待っているうちに、使いの者であろう3人がやってきた。
 ペルフェクタリアと悟飯、そしてシャルルマーニュの3人だ。

「リクはここだ!抵抗の意志はない!言える情報は全部言う!」

 リクは両手を上げ、つり橋に向かう3人に無抵抗の意志を見せている。
 嘘偽りのない、完全なる無抵抗だ。


~リ・ユニオン・スクエア 某病院~

 点滴が自分の肉体に入る感覚と、機械の音で目を覚ます。
 体を覆う包帯とギブス。
 全身が痛い。
 あの爆発以降、何があったのか_____記憶がない。

「僕は……誰だ?」

 目を覚ました希望___苗木誠。
 しかし、その記憶はない。
 苗木が目覚めた瞬間を、医師がその様子を哀しそうな目で見ていた。

「いいですか、落ち着いて聞いてください。」

 次に医師が言った言葉は、苗木の心を傷つける一言だった。

「あの爆破の後生きてここに担ぎ込まれたのは、あなただけです。他の生徒及び未来機関のメンバーは未だ行方不明の者を除き全員、爆破に巻き込まれ死亡しました。」

25人目

「リクとの出会い」

 ――吊り橋。

「すみません。十神さんの指示で来たのですが」

 リクと名乗る少年と会うため、悟飯、ペル、シャルルマーニュは
吊り橋の見張り兵のもとへやって来た。

「ああ、君たちが。さっき連絡が入った。アレート城塞攻略の噂は聞いているよ」
「はは、そりゃ、どうも……」

 どうやら、話は通っているらしい。

「それで、彼は?」
「ああ、向こうにいるよ。案内しよう」

 兵は、リクがいると言う場所まで三人を連れていく。

「君が、リクくんかい?」

 悟飯がリクに話しかける。彼は何も言わず、黙ったまま首を縦に振った。
銀色の長い髪。憂いを帯びた蒼き瞳。そして鍵を象った剣……キーブレードの持ち主。

(邪気は感じない……)
(みたいだな)

 ペルはリクから邪悪なものは特に感じられず、
シャルルマーニュも、リクに敵意がないことを見抜いていた。

「もしや君も、どこか別の世界から来たのか?」

 サーヴァント特有の魔力反応もなく、リクの身なりからして、
この世界の人間ではないことを察したシャルルマーニュ。

「僕たちと同じ、別世界からの来訪者……って事なのかな」

 続いて、悟飯が質問をする。

「……そうです。俺はソラを……友達を捜すために旅をしていて」

 やはり、リクは別世界から来ていたようだ。
そして、彼の目的は友を探すこと。

「気がついたら暗闇の中にいて、不思議な声を聴きました」

 堰界竜ヴリトラ。リクをトラオムへと導いた謎多き存在。
リクがその名と姿を知る事は叶わなかったが、復讐界域を訪れるなり突如として
巻き込まれたトラオムでの戦争。

「ベジータと言う人が助けてくれたのですが、俺だけをここへ逃がして……」
「!? ベジータさんが復讐界域に……?」

 リクの言葉に、悟飯の顔色が変わる。
単身トラオムに突入し、その後の行方が分からなくなっていたベジータ。
ようやくその消息が掴めたのだから。

「それが本当なら、やはり復讐界域に向かわないと……」
「……この男からは”嘘”の匂いがしない。恐らく本当なのだろう」

 ペルはリクから嘘の気配を感知しなかった。疑念は杞憂に終わったようだ。

「これで、疑いは晴れたってわけだな。
俺たちも、これから復讐界域に向かう所だったんだ。リク、一緒に行こう」

 シャルルマーニュは、リクを仲間に加えようとする。

「ありがとう。あなたたちなら、信頼出来る。そんな気がします」

 トラオムに召喚されてからこっち、気を張り詰めるような状態が続いていたリクは
悟飯達の優しい対応に、ようやく落ち着く事が出来たようだ。

「さっそく、十神さんにこの事を知らせよう」

26人目

「それでも、生ききる」

___夢を見た。

誰よりも人間らしく生きる夢だ。
何でも、私が人並の人生を歩んでいるという。

普通に失敗して、普通に怒られて。
普通に褒められて、普通に愛される。

いたって普通の、人間として当たり前の日々。

それさえも、私はさせてくれなかった。

___何が完璧だ、バカバカしい。
地に足をつけ、恋人を作り、友達を笑いあって最後に斃れる。
それの何が悪いというのだ。

だから私は。あいつが来てくれたのがうれしかった。
デミックスという存在が来てくれたことが、泣きたくなるほどうれしかった。

メサイア教団だがなんだかは知らないけれど、それでも人並の幸福を得れるのならばそれでいい。

両親から与えられた完全性だの、全知全能だの、千里眼だのという胸糞悪いものを捨てる。
それさえすれば、私は___否。みんな救われるのだ。

_____それが、江ノ島盾子としての全てを終わらせる結果になったとしても。


「……やっぱ、許せないよな。」
「ああ。外部からの乱入者がいたとはいえ、お前のしたことは大罪だ。正直、どの面下げてここへやってきたと言いたい気分だよ。」

 生徒会室にて、十神と江ノ島が会合していた。
 因縁浅からぬ仲だというのは、その場の空気が示していた。

 仲介役としてデミックスがその場にいたのだが、その脳内はかなり複雑であろう。

「それを踏まえて正直に答えてほしい。なぜおまえはここに来た?」

 江ノ島は、うつむきながら考え、答える。

「償い、って言っても信じてもらえないか。」
「そうだな。にわかには……な。」

 十神が続ける。

「だが、お前の気持ちもわからんでもない。そこのデミックスから聞いたよ。」
「え?」

 江ノ島がきょとんとする。
 当のデミックスは、申し訳なさそうな顔をうわべだけでしつつ謝罪する。

「2人が話するときについ言っちゃった。ごめん。」

 ため息が出る。

「まぁ言っても信じてくれるかって話だからな。与えられた完全性と、両親から植え付けられた命令か。だからとて抗わなかったのか……というのは、無茶な話だな。」

 そういって、今まで堅苦しかった顔に笑みがこぼれる。
 そして、江ノ島を指さして。

「とはいえ、お前の罪は消えない。___本当に申し訳ないと思うのならば、せめてこの十神白夜には見せてくれ。お前の贖罪、その行動を。」

 江ノ島は、こくりと頷いた。

「おーい!リクくんを連れてきたぜ!」

 重苦しい空気を打ち飛ばす、さわやかな一声。
 シャルルマーニュの声が、拠点内に響く。

「ああ、また機会があったら話し合おうか。」
「……うん。」


 廊下にて、江ノ島は考えていた。
 でも、そこに憂いはなかった。

「償い、かぁ……絶望的につらいけど、これくらいはやんないとな。これは……贖罪の旅路だ。」

 人が一度犯した罪は、そう簡単には消えない。
 それが冤罪でも、裏にもっと暗い悪がいたとして、自分はその操り人形であったとしても。罪は消えない。

 もしかすると、一生かかっても消えないのかも。

 ___それでも、生ききる。否、生ききるしかない。
 自分が殺めていった者の償いのために。

 自分が犯した罪の、贖いのために。
 そして、浅ましくも確かにある、救いのために。

27人目

「次なる戦場へ」

 十神は、悟飯たちに連れられてやって来たリクに関する経緯を聞いていた。

「なるほど。事情はわかった。ここは君のように訳ありの者が多くいる場所だ。
あそこにいる女のようにな」
「……チッ。嫌味な奴」

 部屋の隅で罰の悪そうに舌打ちをする江ノ島盾子。

「……」

 ペルフェクタリアはそんな江ノ島をじっと見つめていた。

「ンだよ、おチビ」
「私たちが吊り橋に向かう前とは雰囲気が違う……と思っただけだ」
「……そっか」

 江ノ島はそれ以上何も言わず、目を閉じた。

「ここに来たばかりのお前の瞳は、罪悪感に満ちていた。だが今のお前の目は違う」
「…………」

 ペルの言葉に、十神は同意を示すようにうなずく。
そんなふたりを見て、江ノ島はふっと微笑んだ。

「……ははっ、おチビが生意気な口利きやがる。かわいいじゃん」
「おチビではない。私にはペルフェクタリアという名前がある」
「何だか小難しい名前だな。おチビの方が簡単でいいだろ」
「だから私は……何故どいつもこいつも……」


『おチビ! 行きますわよ!』


 その呼び方。あの女も私をそう呼んでいたっけ。
不意に過ぎた過去がフラッシュバックする。

(……デフ……お前はあれから、何処でどう生きた……)

 ペルフェクタリアと江ノ島盾子。
共に他者から望まぬ力と宿命を背負わされ、暗い過去と罪を背負うもの同士。
それでも、己の罪と向き合い、前に進もうとする姿勢は、互いに似ていた。

「リクくんの話によれば、復讐界域にはベジータさん……
僕の仲間が来ているらしいんです。僕も、そこへ向かおうと」

 悟飯は真剣な表情を浮かべて言う。

「俺は絶望界域に向かうぜ。アレート城塞を潰された事で、
連中も動きを見せるはずだ」

 シャルルマーニュは絶望界域の前線に位置するアレート城塞の崩壊によって
敵は何かしらの動きを見せるだろうと踏んでいた。

「ベジータさんを、頼みます。ロクに助けてもらったお礼も言えてないから……」
「うん。任せておいて。それにベジータさんはとっても強い人なんだ。
きっと大丈夫さ。シャルルマーニュさん、彼の事を頼みます」
「ああ、任せときな!」

 リクをシャルルマーニュに託し、悟飯は復讐界域へと向かう決心をする。

「あたしは……デミックスと一緒にここに残るよ。
拠点を守る役目も必要だろうしさ」

 江ノ島は、デミックスと共にこの拠点に残る事を選んだ。

「……いいだろう。お前の覚悟が本物かどうか、この目で確かめさせてもらおう」

 それは、十神に自分の贖罪の意志を示すためのもの。
そして十神もまた、それを見極めようとしていた。

「よし、他のメンバーも集め、これからの配置を通達する」

28人目

「トラオムのあとさき」

~トラオム 黒い匣~
「……ぐっ、さすがに魔力が持たなくなってきたのう。」

 黒い匣の中心、かの竜は己を鎖で縛り、極限まで魔力をトラオムの浸食を防ぐ壁の維持に利用している。
 堰界竜ヴリトラ。苦難と試練の竜。そして、抑止の守護者。メサイア教団のトラオム浸食によるリ・ユニオン・スクエアの消滅を防ぐために現界した。
 そんな匣の中に、一人の男がやってきた。

「いやはや、まさか君ともあろうものが人類の味方をするとはな。」
「む……お前か、若き日の教授よ。」

 黒い服に長い計算錫、悪辣と悪性の者。ジェームズ・モリアーティ。

「わえはわえ以外の者が苦しみのたうち回り、その果てに栄光を掴む姿が見れればそれでよい。そのためならばこれくらいは、のう。」
「なるほど、実に君らしい悪辣だ。」
「そんなことより、ここに何の用だ?」

 ヴリトラの質問にモリアーティは続ける。

「決まっている。トラオムの外に出た後どうすればいいのかを伝えるためだ。そもそも私の現界理由は彼らを導くためにここにいる。メサイア教団、クォーツァー・アマルガム軍、その他諸々の悪の組織に対抗するCROSS HEROESと、彼らに協力する者のために。」
「ほう。」
「彼らは『トラオムを破壊したらメサイア教団は終わりか?』という問いの答えを出せていない。」

 ___メサイア教団の侵略は、トラオムを破壊したところで終わらない。むしろトラオムは始まりに過ぎないという。

「奴らの目的は、教団の本隊がいる『存在しなかった世界』と『リ・ユニオン・スクエア』をトラオムを通じて繋げることでいつでも侵略できるようにすること。もう一つは1000万体の無名英霊の霊基及びその魔力を利用し、カール大帝のある能力を起動することだ。」
「つまり……。」

 モリアーティは暗闇の中嗤う。

「そう、トラオムを叩いても彼らの『計画』には何のダメージにもならない。彼らが『存在しなかった世界』へと向かわない限りは。その事実を彼らに伝えに来た。」


~トラオム 中央地下工場~

 そのサーヴァントは、そこにいた。
 工場内部で、ただひたすらに培養槽に懺悔をしている。

「すみません……すみません……!」

 培養槽の数は1000万。
 内部には、人型の何かが入っていた。

「私は……またあなた方を……利用してしまった……!」

 絶望に打ちひしがれる。
 子殺しの罪が、彼の心を襲う。

「何を懺悔しているんだ?パラケルスス先生?」
「あ……シグバール……!」

 彼の名は、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。
 ホムンクルスの開祖たる近代魔術師。
 そして今は、メサイア教団によって召喚された魔術師。

 彼の懺悔を背後にいる男___シグバールは嗤う。

「大帝の『天声同化』が再起動すれば、彼らホムンクルスも報われるさ。何も懺悔することないってハナシ。」
「分かっています。しかし……私は彼らを見ているうちに……実の子供のように感じてしまったのです。……彼らはしょせん、地上でサーヴァントを召喚するための道具に過ぎないこともわかっています。ですが……トラオムが停止してしまったら彼らも死んでしまう。そう考えてしまうと私には……耐えられないのです。」

 それは、情だったのか。
 名もなき無垢。子供のような道具。されど、自分が生んだ者。
 そして___それを壊される絶望。

 パラケルススら魔術師は人の心がない人でなし集団とよく揶揄される。されど、完全に人の心を捨てたわけではない。

 本当に心のないノーバディであるシグバールには、とても理解できないものであった。

「俺にはよくわからないが、気にすることないぜ。」
「はい。そうですね……。」

 ゆっくりと立ち上がるパラケルスス。
 その顔は、浮いていなかった。罪悪感に打ちのめされていた。

29人目

「復讐の姉妹、そして裏切り《前編》」

一方その頃、アマルガムのAS部隊を迎え討つ為にバーサル騎士ガンダム、騎士アレックス、ゲイツ、ツクヨミ、宗介、クルツ、マオ、クルーゾーの8人はトゥアハー・デ・ダナンを停めてあるドッグのすぐ近くで待機していた。

『すいません皆さん、こんな時に力を貸すことが出来なくて……』
「気にしないでくださいトキオカ殿」
「ナースデッセイ号もガッツファルコンもまだ修理中である以上、無理して出撃してもらうわけにはいきませんからね」
「それに、ケンゴもDr.ヘルとの戦いの時に若干無理しているみたいだったからな。今回ばかりは休ませてやらないとな」
『……わかりました。皆さんのご武運を祈ります』

「……さて、どうやら来たようだな」
クルーゾーがそう言うと、一同の目の前にアマルガムのAS部隊が出現、その先頭には夏玉蘭と夏玉芳が乗る2機のコダールmがいた。
「っ!あのASは……」
「……ガウルンのところの双子か……」

「相良宗介……先生の仇…!」
「殺してやる!あんただけは、絶対に…!」

「……いいだろう。
皆、あの2機のASは俺1人で相手をする」
「……わかりました」
「なら、他のやつらは俺たちが相手をしておこう」
「あぁ……頼む」
宗介は他の敵を仲間達に任せ、自身は夏玉蘭と夏玉芳の二人と戦うことにした。



一方その頃、甲児達はミスリルの職員と共にマジンガーZなどの修理を行っていた。
「………」
「……甲児くん?」
「あっいや、なんでもないよさやか」
「……あいつらのことを心配してんのか?」
「そういうわけじゃないですよ竜馬さん。
宗介達なら大丈夫だって信じてます。
……ただ……」
「ただ?」
「……何故かわかりませんが、さっきから嫌な予感がするんです……」
「嫌な予感…?」
「なんだ甲児?お前らしくねえな」
「……だがその気持ちもわからなくねえな」
「竜馬さん?」
「俺も感じるんだよ、その嫌な予感ってやつをな……」
甲児や竜馬が感じている嫌な予感……それはすぐに当たってしまう。
《カチャッ》
「っ!避けろ!」
「え?」
次の瞬間、どこからか一発の銃弾がさやかに向かって飛んでくる。
「危ない!」
「キャッ!?」
すかさず甲児がさやかの身体を地面に押し付け、銃弾が当たらないようにする。
「大丈夫かさやか?」
「え、えぇ……けど今のはいったい……」

「……今のをかわすとは、流石だな……」
「っ!あなたは…!」
そこへ現れたのは、さやかを撃つの使ったと思われる拳銃を持ったカリーニン少佐……宗介の育ての親でありミスリルのコマンド指揮官である人物、甲児達CROSS HEROESにとっては味方であるはずの人物であった。

30人目

「世界を渡る英雄たちの交錯」

 混沌渦巻くトラオムの攻防、
カリーニンの裏切りに揺れるトゥアハー・デ・ダナン、
そして特異点・杜王町では……

「俺の名は空条承太郎……アンタらは特異点……
つまり今回のようなブッ飛んだ状況を何度も解決してきたエキスパート……ってワケか」
「まぁ、そう言う事です」
「私達のように、世界や時空を飛び越えて戦っている組織がいたとは驚きですね、先輩」

 カルデアからやって来た藤丸立香やマシュ・キリエライトたちと空条承太郎ら
CROSS HEROES。長らく世界を隔てて戦い続けてきた2つの組織がついに邂逅する。

「アンタもソウゴと同じ仮面ライダーなんだ」
「まあ、一緒に戦った事もある。しかし、結局あいつは再びライダーとして戦う道を
選んだようだな。それに並行世界を行き来する俺も知らないスーパー戦隊とは……
どうやら時代が変わったらしい」

 五色田介人と会話しているのは、門矢士/仮面ライダーディケイド。
クォーツァーを追い、時空のオーロラを飛び越えた事でカルデアと接触し、
「カルデアの一員として特異点の問題を解決する」と言う「役」を割り当てられ、
特異点を巡る旅に同行している。

「あの馬鹿デカい樹は神精樹……クォーツァーに与する輩が植えたらしい」
「私達がコードネーム・ユグドラシルと名を付けたアレだね」

「この特異点にはあちこちの世界から無作為に呼び込まれた存在がいる。
俺たちのような人であったり、この杜王町のようにまるごと別の世界から飛んできた場所もあるようだ。そう言ったものからエネルギーを吸収し、
神精樹はあれほどまで巨大化したってわけだ。だが、どう言うわけか神精樹は
突然見る影もなく枯れ果てた。あれはアンタ達がやったわけじゃあないのか……」
「私達もあの大樹を放置してはおけないと、カルデア総動員で
対処している途中でしたので……」

「相良宗介は生き延びていたようだが、千鳥かなめはアマルガムに連れ去られたのか……」

 一時期、特異点にて士やカルデアと行動を共にしていたが、
消息不明のままだった宗介やかなめの安否を聞かされ、士は複雑な表情を浮かべる。

「アレックスも向こうで元気にやってるみてーだな」

 騎士アレックスと宗介をリ・ユニオン・スクエアへと送り出した仗助は
安堵したように息をつく。

「俺たちがやるべき事は、この特異点の何処かにいる仲間たちを探し出し、
CROSS HEROES本隊と合流する事だ。アンタらカルデアと接触できたのは幸運だったぜ」
「こちらこそです。我々の目的とも合致しますし、共に行動できる事を光栄に思います」
「この特異点を修復するには、聖杯が必要です。竜王が持っていた、あの黄金の杯です」

 士とカルデアが目の当たりにした、黄金に輝く杯。
無限の魔力を秘めたそれは、確かに特異点の修復に必要なものだった。
しかし、竜王、バールクス、レナード・テスタロッサに敗れ、
一度は特異点から弾き出されてしまった士とカルデア。
その後、神精樹によってすっかり荒れ果ててしまった特異点の何処に竜王達がいるのか、
手がかりすら掴めない状態が続いていた。

「とにかく情報を集めよう。ヤツらの居場所を突き止める事から始めるぞ」
「そうですね……CROSS HEROESの皆さんの消息を突き止める事、
そして聖杯を手に入れる事。それが今回の任務です」

 神精樹が枯れ果てた事で、小康状態となった特異点。
離れ離れになってしまった仲間の捜索と聖杯探索を再開するには、
今が好機と言えるだろう。
CROSS HEROESとカルデアによる特異点の旅は、今再び動き出そうとしていた……