プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:14「怒涛波乱のトラオム」
「Prologue」
CROSS HEROESから離脱し、リ・ユニオン・スクエアの何処かに伝わる
ロトの秘宝を求めて旅立ったアレフガルドの勇者アレクとローラ姫。
彼らの前に現れたのは、「勇者ああああ」。
竜王の誘いに乗り、「世界の半分」を手に入れた世界線のアレクの姿であった。
竜王によってアレクに差し向けられた勇者ああああとの戦いは、アレクの勝利で終わる。
私欲にまみれた勇者ああああを打ち破ったアレクは、
念願の「ロトの盾」を手に入れ、移動魔法ルーラによって
CROSS HEROES本隊の元へと帰還するのであった。
しかし、そのCROSS HEROESの内部には、クォーツァー/アマルガム連合と内通する
「裏切り者」が潜んでいたのである……
メサイア教団がトラオムを生み出した理由。それは7騎の英霊が戦い合う
「聖杯戦争」にまつわるシステムの拡大解釈。
サーヴァントたちの戦いによって生じたエネルギーを集め、
兵器転用などの目的に利用する大規模なプラントのようなものだったのだ。
そんな野望渦巻く絶望界域が送り出した新たなる刺客……
AW-S06:Eliminator、絶対兵士と化した辺古山ペコ・オルタ。
復讐界域の急造都市に出現し、キーブレード使いの少年・リクを強襲する。
同じく復讐界域を進んでいたサイヤ人の王子・ベジータも参戦し、戦いはさらに激化する。
アメリカ合衆国の都市ニューヨークでは、「スパイダーバース事件」を解決したものの、
リ・ユニオン・スクエアと言う新天地で戦う「大いなる責任」を背負った
「親愛なる隣人」スパイダーマンが活躍していた。
犯罪者を取り締まる超人、ペンタゴンとスパイダーマンの出会いが果たして
どのような未来をもたらすのか……
絶望界域・アレート城塞では、最終兵器「サヘラントロプス」が起動を開始した。
スカルフェイスによって息子のハルをサヘラントロプスにパイロットにする事を強要された開発者のエメリッヒ博士は苦悩する。
自身の半身、「カール大帝」がメサイア教団の教祖である事をルクソードより聞かされ、
その真相を確かめるべくトラオムへと乗り込んだシャルルマーニュ
とサヘラントロプスの戦いが始まる。
子どもを機動兵器のパイロットに仕立て上げる非道に怒りを覚えるシャルルマーニュ。
そこへアルガス騎士団が加勢に入り、異世界の騎士と鋼の巨人による激闘が始まった。
城塞の内と外で繰り広げられる二元バトル。
覇王色の覇気を纏ったルフィの新たなる力”ギア2”が、気体・固体・液体と
自由自在に身体を変質させる禍津星穢の特殊能力を打ち破る。
これまで、幾度となくCROSS HEROESを苦しめてきた強敵をついに追い詰める
CROSS HEROESであったが、ペルフェクタリアの必殺技を受けても尚、
超再生能力で復活したブーゲンビリアによって穢は撤退を余儀なくされた。
一方で、シャルルマーニュの宝具「王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣
(ジュワユーズ・オルドル)」が
サヘラントロプスに炸裂し、機体に乗っていた少年・ハルを救出する事に成功する。
こうして、CROSS HEROESはアレート城塞攻略に成功し、シャルルマーニュ、
アルガス騎士団、ハルを新たに仲間に加え、
一路希望界域拠点で待つ十神白夜の元へと帰還するのであった……
復讐界域と希望界域を繋ぐ吊り橋付近で
カナディアンマン対カナディアンマン・オルタの戦いが勃発したものの、
希望界域所属の狂戦士、森長可が乱入し、カナディアンマンたちに加勢した事で
戦況は一気に逆転。カナディアンマン・オルタを追い返す事が出来た。
CROSS HEROESと別行動を取っていたダイヤモンドドッグス、江ノ島盾子、デミックス、そしてベジータの手によって命からがら逃げ延びたリクも希望界域の軍勢に加入する。
カナディアンマン・オルタから送りつけられた決闘の果たし状。
その場所は復讐界域・天衝山脈。
さらにベジータも復讐界域にいると言う情報をリクから聞いた悟飯は、
次なる目的地を決定した。
特異点では、杜王町にて空条承太郎らCROSS HEROESのメンバーと藤丸立香ら
カルデア一行が合流。世界を超え、時空を超えて戦う2つの組織がついに交錯した。
両者は共に離れ離れになってしまった仲間と特異点を修復するために必要な聖杯を
捜索すべく、 手を組む事となった。
トラオム、特異点、リ・ユニオン・スクエア、揺れ動く3つの世界。
交錯する戦士たちの運命の行く末や如何に?
「幕間:一方の『正義』」
枯れ果てた砂漠、澄み渡った空、見渡す限り乾いた世界。
風が吹けば消し飛ぶような、ここは特異点。
そこに埋もれる様に立つ、朽ちた廃ビル群。
「…ここは?」
その一つ、比較的原型を保ったビルの一室にて彼、テリーマンの意識は静かに覚醒した。
眼を開けば小汚い天井が、周囲には当然見覚えの無い部屋の様相が、窓の外には同じ様な廃ビルが連なっていた。
未だ薄らぼんやりとしたでそんな事を考えていると。
「よう、目を覚ましたか。」
不意に後ろから掛けられる声
振り向くと、そこには壁に寄りかかって此方を見る男が居た。
見覚えがある、いや見間違いようが無い。その姿は。
「ウルフマン、それにラーメンマンも!」
「意識は戻ったようだな、テリーマン。」
そう言って立ち上がる見知った二人を見て、テリーマンは安堵する。
良かった、自分は一人ではない、仲間がいる。
そう思って落ち着いた頃、次いで湧いてくる当然の疑問。
「ここは一体…?」
「俺達にもさっぱりだ、だが少なくとも敵地じゃないぜ。」
「それは儂から説明しよう。」
事態を把握しようと仲間に尋ねた時だった、一人の男が部屋に入って来たのは。
その姿を見て、テリーマンは思わず息を飲む。
当然の反応だった、何故なら。
「あ、貴方は、死んだ筈の…!?」
「如何にも、ドクターボンベじゃ。」
驚愕と共にその名を呼ぶテリーマンに対し、男は鷹揚に応える。
それを聞いて、テリーマンはまず自分の正気を疑った。
しかしそれも仕方ない話である。
「何故貴方が現世に…?」
そう、ドクターボンベは死んだ身なのだ。
かつて夢の超人タッグトーナメントにおいて、切断されたキン肉マンの腕を治す大手術をしたドクターボンベ。
「うむ、確かにあの手術が体に堪えた儂は、あの後亡くなった。」
ドクターボンベの言う通り、大掛かりな手術が祟った結果、彼は人知れず死んだ。
元々老体であり、更に悪性腫瘍を抱えていたのだ。
手術完了まで持ったのが奇跡である程に。
「そして、私がその亡骸を…」
「言わずとも良い、儂は確かに今も死んだ身じゃ。」
そしてテリーマンが直々に埋葬した筈の男が、こうしてここに居る。
自分が今見ているものは幻なのか?
だが目の前の男からは確かな存在感を感じる。
何より、己の身体を見て。
「だがこの体には目立った治療の跡は無い…間違いなく貴方本人の手術で、貴方はドクターボンベだ。」
それがテリーマンの出した結論だった。
ドクターボンベの超人医師としての腕を、テリーマンは知っている。
故に、彼が治療を行ったという確証に至った。
「貴方が蘇って、私達を治療した…一体、どういう事なんだ?」
「ふむ、そこまで行きついているのならば話は早いのう。」
そう言ってドクターボンベは語り始めた。
彼の身に降りかかった事態を、超人墓場崩壊の一端となった出来事を_
◇
一頻り話を聞いた後、テリーマン達は驚愕を隠せなかった。
それもその筈。
「まさか、悪魔将軍が…!」
彼が、悪魔超人の祖たる悪魔将軍が、超人墓場を破壊したのだという。
墓場の守り人たる完璧超人の始祖の一人を葬ってから。
「不可侵条約の破棄をした時から、薄々関わりがあると思っていたが…もしや、目的は!?」
「そうじゃ。彼等は完璧超人の完全な粛清、その為に超人墓場の破壊に踏み切ったのじゃ。」
超人墓場は、超人の死後の世界。
そして唯一超人が蘇られる機会でもある。
それが無くなる事は、死んだ超人が二度と復活する事は無くなるという事だ。
「本気、なのか…何故そこまで!?」
「一部始終しか見とらん儂には、真相など分からぬ。だが、結果的に超人はもう蘇らん事には違いない。」
その言葉にテリーマンは絶句する。
それが意味するのは、未来永劫、魂諸共葬るという研ぎ澄まされた殺意。
何が悪魔超人を、悪魔将軍をそこまでさせたのか、テリーマンには検討の余地も無かった。
少なくとも、彼の知っている悪魔将軍はかつての戦いで友情の力に打ち震え、改心した筈だった。
困惑がテリーマンの胸中を占める。
そんな時だった、ウルフマンが不意に問いかけたのは。
「それなら、何でアンタは今蘇っている?」
ここに来て、最初の疑問へと話題は戻る
当然の疑問だ、今しがた『超人はもう蘇らない』という話をしたのだから。
彼もまた、その疑問は最もだと肯定した上で、こう答えた。
「それについては超人墓場そのものを語らねばなるまいが…一言で言えば、あそこが『魂が実体を得る場所』だからじゃ。」
「実体を、得る?」
その言葉にテリーマン達は首を傾げる。
だがドクターボンベは構わず続けた。
「うむ、これは儂が長い事超人墓場にいた事から分かった事じゃがな。」
超人墓場とは、死した超人達が集まる世界。
そこで超人達は生前の記憶を持ったまま、死後もまた労働に勤しむ事になる。
何故死後も働く破目に合うのか?
「超人墓場での労働は、言ってみれば『超人パワーの生産』なのじゃ。」
「生産?超人パワーをか?」
テリーマンが怪しげな表情を浮かべながら尋ねる。
「うむ、もっと言えば超人墓場に来た時点で死者は超人パワーを貰い『実質的に蘇っておる』のじゃ。利子付きで前借りする形での。」
超人墓場では、死んだ超人達が労働力として起用される。
その為に一度、蘇るという。
「そして借りた分を働いて返済した者が、晴れて現世に戻れる、という事じゃ。」
ドクターボンベの説明を聞き、テリーマンは合点がいった。
そして、彼が前述した悪魔将軍による超人墓場の破壊。
「奴等守り人は言っておった、奴の所業で『あの世と現世が繋がってしまう』と。」
つまりそれは、死者の世界にいる暫定生者が、本当の生者になるという事だ。
こうして崩壊した超人墓場から出る形で、ドクターボンベは蘇ったのだ。
「…成程、話は分かった。治療してくれたこと、感謝する。」
「何、職業病の様な物じゃ。」
ドクターボンベの話を聞いて、テリーマンは完全に納得した。
しかし同時に、一つ疑問が湧いた。
「所で、先の話に出た完璧超人の始祖、だったか…?」
完璧超人にも始祖が居ること自体は不思議では無かった。
だがそれが超人の生命の輪廻たる超人墓場に関わってくるとなると、話は変わってくる。
「うむ、何でも何人かいる内の一人というらしいが…」
テリーマンの言葉に、ドクターボンベは顎に手を当てて考え込み。
「もしや、悪魔将軍の真の狙いはその人物達では…?」
「さぁな、儂が知ってるのはここまでじゃ。」
後の事を知りたくば、自分で調べろと、ドクターボンベは話を締め括る。
そして彼は一つの方向に指を向ける。
そこは、ウルフマンとテリーマンにとっては見覚えのある因縁の地。
「あそこは、さっき戦った…」
「あの先に、超人墓場の跡地がある。」
神精樹の中枢、その真下だった場所。
ストロング・ザ・武道と戦い、破れた地。
その先に、この一連の事態全ての原因が、少なくとも手掛かりの一つがあるに相違ない。
そう確信したテリーマンの決断は、早かった。
「行こう、悪魔将軍を止める為、そして真相を突き止める為に!」
「幕間:抑止の守護者の考察」
~モリアーティ、トラオム突入の数時間前~
「同志モリアーティよ、一つ報告すべきことがある。」
鉛色の雲に覆われた、リ・ユニオン・スクエアのビル屋上。
普段はサラリーマンやOLが自らの仕事に励む仕事場。
ここの屋上は普段は締め切られており、清掃員や作業員以外の者は入れないようになっている。
誰も入れない領域。だからこそ、秘密を話すならばここが良い。
そういわんばかりに、黒いコートに身を纏ったルクソードとその後ろに立つ若きモリアーティが談合をしていた。
「何か。」
「トラオム、否、希望ヶ峰学園の土地と、我々ⅩⅢ機関メンバーが元々いた『存在しなかった世界』、最近になってお互いの繋がりが強くなっている。」
「土地の繋がりか?それはつまり……。」
「近いうちに教団の連中は、希望ヶ峰を通じて存在しなかった世界から本格的に、此処へ進軍をするつもりだろう。トラオムの用途の一つはそのためだ。」
トラオムを通じた、存在しない世界という虚数と希望ヶ峰という実数の接続。
メサイア教団が用意した兵士とリ・ユニオン・スクエアにいるCROSS HEROESとそこの原住民たちをぶつけあうことで、土地的にも、人間的にもつながりを深める。
そうしてできた『繋がりの路』を通じて、メサイア教団をリ・ユニオン・スクエアに進軍させやすくするつもりだという。
「機関メンバーならば、強引に接続を断つこともできそうだが。」
「私には無理だな、ゼムナスかゼアノートの力があれば強引に接続を断つこともできるが……。」
そう。ルクソードが上げた両者は既に消滅している。
ソラの『自分が世界から追放される結末』をも厭わない大逆転劇によって、巨悪___ゼアノートは敗北。改心した後に成仏、消滅した。
そして、ゼアノートの分身___アンセムのノーバディであるゼムナスも消滅した。
「そうだろうとは思ったが。___こちらからも一つ質問がある。」
「ほう、気になるな。」
「『なぜ、連中は希望ヶ峰学園を狙った?』という質問に対し、君はどう考察する?」
モリアーティの言うことももっともだ。
別に、存在しなかった世界とリ・ユニオン・スクエアを繋げるだけならば、位置はさほど問題ではない。
極端な話、近くの廃工場やその辺の公園でもいい話だ。
ただメサイア教団と原住民との間に何かしらの関係を作らせればいいのだから。
「それはもう……希望ヶ峰学園の誰かに用があったとしか言いようがないな。」
「では、それは誰だ?」
「予想される人物なぞ、江ノ島盾子しかいないだろう。何しろ彼女は絶望の化身。悪としてのカリスマ性も十分だ。」
「そうか?___私は『彼女の全能性を欲している』という可能性を考えていたのだが。」
「ちょっと待て、全能性があるのは知っているが、それとメサイア教団に何の関係が……。」
才能の破壊という命令に従う従順な兵器と、人類の進化という命題を解く狂気の教団。
全能の才、威風堂々の大帝。その関係性を答えよという命題。
モリアーティは、黙して語らない。
この先は自分で考えてくれとでも言わんばかりに。
~存在しなかった世界 メサイア教団本拠地~
教団員と信徒が日々、神の使徒になるために祈りをささげている。
その様子を、無感動に見つめている者もいる。
そんな教団の本拠地地下。そこは、祭壇だった。
否、祭壇というよりかは、実験室。
実験室というよりかは、魔術工房。
『おかえりなさい、M』
そんな工房の中に大帝の副官、魅上照が入ってきた。
工房には、白衣を身に纏った数人の研究員がパソコンを前ににらめっこしている。
「『女神』の調整はどうだ?」
「調整完了です。トラオム及び特異点のエネルギー、いつでも装填可能です。」
工房の中心には、大変美しい女性が水槽の中に収められている。
苦しそうな様子はない。まるで聖像のようにそこで『女神』は眠っている。
教団の選ばれし者たちが『女神』と呼ぶ存在。
その姿は___絶望の化身、江ノ島盾子に瓜二つであった。
『女神-江ノ島盾子に無名英霊の霊基エネルギー及び神精樹のエネルギーを注入しますか?(推定完了時間 地上時間にして30日15時間31分8秒) Y/N』
「ああ、当然だ。そしてもう一つ。」
魅上が、スーツのポケットから一つ小さな何かを取り出した。
それは金色に輝く小さな指環だった。
それを、水槽の横にこれ見よがしに置かれた小さな祭壇に配置する。
「ある魔術師一族の悲願の結晶___この『全能者の指輪』を後9つ集めれば、神、あなたの意志は果たされます。あなたの悲願は、この『女神』の手で果たされるのです___!」
魔術師一族の悲願。
根源到達への鍵。何代にもわたって作られた、10の指輪、その一つ。
魔術王ソロモンの全能性を見て、憧れを抱いた或る魔術師のユメ。
『全能者の指輪』。全てを装着した者を文字通り『神』にする奇跡のアーティファクト。
この指輪と、女神の聖像を前に魅上は狂った笑いを抑えられなかった。
「『女神』よ、あと少しだ!あと九つで君は真の希望の女神となるのだ!善性と全能、そして魔術王ソロモンがかつて得たとされる力!そして、大帝の天声同化さえあれば新世界が……あのお方の新世界がァァァアアアアアア!!!ハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
「勇者の帰還/いざ、復讐界域へ」
アマルガムの襲撃を受けたCROSS HEROES本隊。
特異点、トラオムと戦力が分散された事で、戦況は悪化しつつあった。
極めつけとなったのは、ミスリルのコマンド司令官、
アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンの裏切りである。
「CROSS HEROESの戦力が半減していたのは幸運だった。
特にトラオムへ向かったあの魔殺少女ペルフェクタリアなる娘は
嘘を見抜く力があると聞いていた。面を合わせていれば、
或いは私の真意にも気づいていたかも知れないな」
物陰に身を潜める甲児や竜馬。マジンガーZやゲッターロボが整備中の今、
目の前に立ち、銃口を向けているのはプロの軍人だ。
生身でまともにやり合っては到底勝ち目は無いだろう。
「カリーニン少佐、どうしてなんだ。どうして……」
「だが、こうして考えてみれば納得が行くぜ。今までCROSS HEROESが行く所に
敵が待ち伏せているような感覚は何度となくあった。
アンタが敵に情報を流していたって事かよ!」
「……次は外さない」
「……!!」
カリーニンの眼を見た甲児は一瞬にして悟った。
この男はもう自分の知っている男ではないということに……。
「さようならだ、諸君」
ガキンッ!! しかし、間一髪のところでカリーニンの放った銃弾を盾で防いだのは……
「ほう……」
「!! アレクさん!」
「ロトの盾」を手に入れ、CROSS HEROESへの合流を果たした勇者アレクであった。
「皆様……これは一体どう言う……」
アレクと共に帰還したばかりのローラ姫はこの状況に困惑するが、
アレクは真っ直ぐにカリーニンから視線を逸らさない。
「流石だな、勇者アレク。今自分が成すべき事を理解しているようだ」
「……カリーニン少佐。貴方たちミスリルには感謝している。俺とローラ姫を保護し、CROSS HEROESの一員として迎え入れてくれた事。だが……」
アレクは静かに剣を構え、その切っ先をカリーニンに向ける。
迷いの無い、覚悟を決めた瞳だ。
――トラオム、希望界域拠点。
CROSS HEROES本隊が襲撃を受けている事など知る由も無い悟飯達は、
次なる目的地を決めるべく話し合いを続けていた。
「僕はベジータさんと合流するために復讐界域に向かおうと思います」
「なら、俺たちビッグボンバーズも一緒に行こう」
「やはり、カナディアンマン・オルタとやらの決闘に応じるんですか?」
悟飯の言葉に、カナディアンマンも力強く首肯する。
「当然さ。勝負を挑まれたからには受けて立つ。それが男の美学ってもんだろ?
それに、カナディアンマンを名乗って悪事を働く奴を放っておくわけにもいかねえしな」
「分かりました。それじゃあ皆さん、出発の準備をしましょう。
ルフィくん、いろはさん、黒江さん、ペルさん、月美さんは希望拠点に残っていて下さい。傷ついた兵士の治療などをお願いします。ベジータさんと合流出来たら
またここに戻ってきますから」
「おう!」
「はい! 任せてください!」
「承知した」
「復讐界域とやらには我々は足を踏み入れた事が無い。
悟飯殿、後学のために我らアルガス騎士団も同行しよう」
「助かります、よろしくお願いします」
「よし、そうと決まれば早速準備を始めよう!」
「ああ!」
「はい!」
こうして、一行は新たなる戦いへと赴く事になる。
「復讐界域にて、お前を/絶望界域にて、俺は」
~復讐界域 拠点~
「何?希望界域の連中が迫ってきているだと?」
拠点の場内にて、首魁のパラガスが頭を抱えていた。
ベジータを倒すと考えていた絶対兵士=辺古山ペコ・オルタも結局暴走の果てに帰還してしまい、絶望界域の連中も日にその勢力を増してきている。
残された復讐界域には、これといった切り札がない。
「我が息子、ブロリーがいればベジータはおろか他の界域の連中も全員始末できるというのに……。」
パラガスは、自身の息子の存在が今、トラオムにいないことにも苦心していた。
確かに「無限の戦闘力」、「伝説の超サイヤ人」とも呼べるブロリーが復讐界域にいれば一騎当千の切り札になりえることは間違いない。
しかし、現実は甘くなく彼はトラオムの地に召喚されなかった。
今、パラガスに残されたカードは少ない。
「俺は『奴』との決闘の約束がある。たとえ拠点が襲われようとも手出し無用嘲笑無用で頼むぞ。奴との決闘は神聖なものでなければならんのでな。」
カナディアンマン・オルタは本物のカナディアンマンと決闘のために手出し無用と来た。その真剣さから見ても、とても援護は頼めない。
「そうか。世界に相当の恨みがあるお前のことだ、好きにしろ。ならば……。」
パラガスは、悩みに悩んだ果てに。
「入口に配置した復讐界域の雀蜂と、この復讐界域にいるすべての兵士を集められるだけ集めろ。死ぬ気で奴らに戦いを挑むぞ。」
最後の防衛戦に挑むことにした。
◇
~ところ変わって、絶望界域~
絶望界域のシグバールは、電話で誰かと話をしていた。
電話の相手は、魅上照だ。
「よう!魅上のダンナ。こんな時間に何の用だ?」
「シグバール。2日後トラオムから一旦こちらへと帰ってこれるか?」
「ああ、できるぜ。」
「よかった。やはり大帝の『天声同化』は発動できない。完全に破壊されてしまっている。」
「へぇ、じゃあ、トラオムな何の意味もなかったってハナシか?」
「違うな、トラオムに意味はある。そして『天声同化』の機能そのものは生きている。カール大帝が発動することはできないが。」
かつての月の戦い。
シャルルマーニュによって打ち倒されたカール大帝は力の一端、異星の贈り物である『天声同化』を破壊された。
もう、大帝には誰かをその声で洗脳することはできない。
しかし、魅上が言うには『天声同化』のシステムはまだ生きていて、カール大帝は撃てないが別の誰かに撃たせることはできるという。
それを踏まえたうえで、魅上は続ける。
「私は、カール大帝を暗殺する。」
「な……!なんかの冗談だろ?」
魅上が告げた『計画』は、心のないシグバールの顔を強張らせ曇らせるには、十分すぎるショックだった。
「『カール大帝』を……本気で……?おいおい!オタクなんか勘違いしてんじゃないか?そもそもお宅の言ってた『デスノート』は死神ってやつらが全部回収したらしいじゃねぇか!それに、仮にデスノートをなんかの間違いで手に入れたとしても英霊は殺せない!どうやって殺すってんだ!?」
魅上には、何かの計画があるようだ。
シグバールが知らない、別の方法で教団の本懐を果たす計画が。
◇
~そして 午前2時30分 天衝山脈~
ごつごつとした岩肌。
降り注ぐ落雷と、転がる動物たちの骸がこの環境の過酷さを物語る。
超人のみが立ち入ることを許された地獄の領域。
そんな地獄の山の頂上に一つ、これ見よがしに置かれたリング。
そのリングにて、カナディアンマン・オルタが腕を組んで待っていた。
「疾く来るがいい真なる俺よ。貴様の最期の墓場には、この地獄こそがふさわしい。」
「出立準備」
希望界域拠点、旧校舎にある教室の一角。
少しばかり埃臭いその場所で、五人の男達が作業に勤しんでいた。
見れば、彼らが手にしているのは様々な布製品や金属製品だ。
彼等はそれを一つ一つ、手に取って点検する様に確認している。
「こっちは一式揃ってるぜ、さっきの戦闘での損耗も予想の範囲内だ。」
男の一人、ブロッケンJr.は手早く作業を終えた様で手を止めた。
彼の周りには防弾ジャケットやベルト式ポーチ、メットや軍服など戦闘に必要な装備が一式揃って並べられている。
「ブロッケン、それは?」
「こいつは組み立て式のテントだ。戦いは佳境になるかもしれねぇからな。そっちにもあるだろ?」
「あぁ、こいつテントだったのか。通りで妙にかさばるなと。」
疑問を呈した男、カナディアンマンの方は手こずっている様子だ。
金属製の長い筒状の物体を分解して整備していたのだが、その正体が何なのか分からずにいたのだ、ある意味当然である。
だが正体が分かればと手早くなり始め、あっという間に作業を進めていく。
手詰まりだった作業に終わりの兆しが見えた事に気を良くしたのか、カナディアンマンはふいに口ずさむ。
「いやぁ、テントなんて修行の初日を思い出すぜ。結局使わなかったもんなぁ。」
「そうだね、あの時は山にあの人の小屋があったから…」
同じ特訓をしていたスペシャルマンも、その日々を思い浮かべ、頷いて同意し。
「おいおい、無駄話なんかしている暇はあるのか?」
その先の言葉を遮る様に声を上げたのは、バッファローマンであった。
彼もまた作業を終わらせた様子で、既に道具を纏めに掛かっている。
その傍らで、呆れた様な表情を浮かべて二人を見つめていた。
「何だよ?別にいいじゃねえか、もうすぐ終わるんだからさ。」
そう言いながらもブロッケンJr.の手の動きには淀みが無く、彼の方は既に準備を終えようとしていた。
その様子を見て、他の者達も各々準備を進めていく。
「しかし、スネークの奴はもう終わらせたのか。流石現役というか…」
中でもスネークの作業ペースは別格で、一つにかかる点検時間は3秒と掛からず、次の作業への移行も一切の躊躇は無い。
この中で唯一人間であるが為に整える装備も多い筈なのだが、四人に先んじて既に彼は準備を終えていた。
_ガラッ
「ん?」
そんな彼等の元に、引き戸の開く音が届く。
見れば、一人の少年が教室の中に入ってきた所だった。
その顔を見て、スネークは静かに驚きの声を上げる。
「…エメリッヒ博士?」
その顔つきは、嘗てのMSFにおいてロボット工学の権威であった、エメリッヒ博士に瓜二つであった。
対する少年も、エメリッヒという言葉に反応を返す。
「…父さんを知ってるの?」
「あぁ、良く知ってる。今はどうか分からんがな。」
スネークの言葉に首を傾げる少年。
だが、目の前にいる男が父の知り合いである事は理解できたらしい。
ならばと、少年は自己紹介を行う。
「僕はハル、ハル・エメリッヒ。」
「俺はスネークだ、宜しく頼む。」
陽気な声で、笑顔と共に名乗る少年、ハル。
それを聞いて、スネーク達もまた名乗りを返した。
ブロッケンJr.とカナディアンマンもまた普段通り、そしてスペシャルマンに至っては恭しい態度で挨拶を済ませる。
それに対して、ハルは少しばかり面食らった様子を見せたものの、すぐに平静を取り戻して自らも名乗りを返した。
そしてこの五人の中で一人、最も大柄に見える男に視線を向け、そして気圧された。
全身に刻まれた無数の傷跡、気迫のある白眼、悪魔の如きロングホーン。
「…………」
「ん?なんだ坊主、俺の顔に何か付いてるか?」
思わず凝視してしまった事に気づき慌てて謝罪するも、バッファローマンは気さくな態度で応じた事で安心したのか、そのまま会話を続ける。
「あの、皆さんは何をしてたんですか?」
「見ての通りさ、武器の整備や調整、後は簡単な点検とかかな。」
「へぇ……」
スペシャルマンの答えを聞き、感嘆の息が漏れる。
ハルにとって、それは未知の経験だった。
既に戦いへと赴いた兵士を後ろから見送る事ばかりだったか。
だからこそ、彼の興味を引くのも必然だった。
「あの、僕にも手伝えることはありますか?」
「そうだな、なら…」
そう言うと、スネークは考える素振りを見せて、ふと妙案を思い立つ。
ここトラオムに立ち入る際に遭遇し、鹵獲した人型兵器。
もしもあれがエメリッヒ博士由来の物であれば…
「…坊主、機械弄りは得意か?」
「え?は、はい…」
そう思うが早いか、その案を口にしていた。
◇
「これ、もしかしたら…」
「知ってるのか?」
スネークに言われるがまま、校舎近くに止めておいたソレの元へと辿り着いたハル。
それを見て、ハルは真っ先に思い当たる節があったようだ。
「これは父さんが作った兵器、ウォーカーギアだ。」
「そう、か…」
そこにあったのは間違いなく父が作ったロボットだと断言できた。
囚われの身であった時、僅かな自由時間で垣間見る事が出来た兵器、その内の一体。
それが今、目の前にあるという事実が彼を動かしていた。
「間違いない、父さんのだ…」
無言のまま機体を見つめるハルの瞳は輝いており、好奇心の塊となった子供そのものだ。
そして彼は、恐る恐ると言った様子で、機体の表面に手を触れる。
所々に見受けられる傷や凹みが歴戦の証と思わせるが、それもまた味わい深い雰囲気を感じさせる。
そんな感傷に浸った所で、スネークは一つ提案を持ちかけた。
「この兵器、弄ってみる気は無いか?」
◇
「さて、そろそろ出発の時間だな。」
ブロッケンJr.がそう切り出す頃、超人全員は支度を整えていた。
カナディアンマンとスペシャルマンは復讐界域に、ブロッケンJr.とバッファローマン、遅れてスネークが絶望界域に行く手筈となっている。
ここに来て、外部からの勢力たるCHは二手に分断する道を選ぶ事となった。
今、この瞬間から互いに出来る事は、相手の無事を祈り、自らの使命を果たす事に全力を注ぐのみである。
「じゃあ、先に行かせてもらう。精々無事を祈ってるぜ。」
バッファローマンが、いつも通りの調子でそう告げる。
それに呼応するように、カナディアンマンもまた口を開いた。
「あぁ、お前も気をつけてな。」
別れを惜しむでもなく、あっさりとした様子で言葉を交わす二人。
しかし、それでいて互いの気持ちを理解し合っているような、奇妙な一体感がそこにはあった。
そして最後にブロッケンJr.は、スネークの元へと向かっていく。
そんな時だった、かつて湧いた疑問が再び浮かび上がってきたのは。
「…そういえば、結局お前が悪魔超人に寝返った理由を聞いていなかったな。」
そうバッファローマンを問い詰めるブロッケンJr.の声色には、憤怒の色は無い。
ただ純粋な好奇心と、これが最後になるかもしれないという気持ちから来るものだった。
対するバッファローマンは、いつも通りといった様子で応じる。
「ん?あぁその事か…」
そう言って一呼吸置いた後、彼はこう告げた。
「キン肉マンともう一度戦って、勝ちたいからだ。」
「復讐界域決戦 序章」
~午前2時45分 復讐界域~
夜の闇と静寂が、周囲を包んでいた。
復讐界域の兵士は、その闇の中で目を輝かせていた。
兵士たちは、拠点をぐるっと囲うように鉄壁の陣形を組んでいる。
全方位を囲い、急造都市にも兵士たちが目を輝かせている。
「いいか、奴らが来たら徹底的につぶせ!手加減なしだ!」
兵士たちの空気は緊張に満ちていた。
迎撃準備はいつでもできる。
できるからこそ、逆に空気を張り詰めらせる。
できるからこそ_____!?
「ひゃーははははは!くたばれェ!人間無骨!!」
「ぎゃああああ!!」
復讐界域に響く狂ったような笑い。
巨大な槍、人間無骨を手に暴走をする鬼武蔵、森長可。
「死にてぇ奴から前に出やがれ!!」
これにより、鉄壁の夫人は打ち砕かれた。
その隙を見計らい、悟飯達は一斉に突撃をする。
「ほう、お早い突撃だな。」
瞬間、急造都市空中にモニターの術式が展開された。
そこに映る男は、悟飯とベジータには見覚えのある男の顔だった。
「お前は……!パラガス!」
立体映像に映る、パラガスの姿。
暗闇の拠点にて、彼はなおも玉座にてふんぞり返っていた。
まるで自分には切り札があった、これならば勝てると言わんばかりに。
「随分と、兵士をそろえたようだな。いろいろと話でもしたいのだが……生憎とこちらには時間がなくてな。貴様らを早く始末しメサイア教団の幹部にならねば。」
「そのメサイア教団の目的は何だ!」
「それは言えんな。そして、貴様らは我が人生再開前のケジメだ。この俺の手で抹殺しなければならない!」
一蹴される目的。
もはやパラガスの顔はベジータの顔を見て復讐の歓喜に歪んでいた。
「何を言ってやがる!」
「今度こそ、俺と我が息子ブロリーの手で、貴様を破壊し尽くしてやろう……!」
そういって、パラガスが右腕を掲げる。
その手に装着された制御装置が、緑色に輝く。
「ーーーーーーーー!!」
輝きの消失と共に宵闇に響く、異形の慟哭。
泥にまみれたその怪物を、パラガスが、周囲の兵士が、都市の廃墟にいたベジータが、そして悟飯が凝視した。
告げられた銘は、戦慄と絶望と殺戮の具現だった。
「さぁ、目覚めるがいい……ブロリー!」
~天衝山脈 頂上リング~
悟飯達とは別ルートを通り、2人の超人が天衝山脈の頂上に到着した。
そこで待っていたのは、つり橋にて出会ったあの、黒いカナディアンマンだった。
「そこにいるのか!カナディアンマン・オルタ!」
「ふ、ふはははは!待っていたぞ、真なる俺よ!」
山岳の頂上、岩肌が広がる生物の地獄にて、黒い楓が2人を見下ろしていた。
しかし、その声はどこか嬉々としていた。
まるで、旧友との再会でもしたかのような……。
そんなカナディアンマン・オルタは、彼の友人、スペシャルマンの姿を見た。
「スペシャルマンもいるのか。約束と違うぞ?」
「そんな無粋なことを言うな。こいつは俺の……相棒だ。見届けさせてやってくれ。」
相棒。
極限まで信用できているからこそ言える言葉。
さすがの復讐の狂戦士も、思うところはあったようで彼の存在を認めた。
「……好きにしろ。スペシャルマン、貴様はこの神聖な戦いのただ一人の観客としてそこで相棒の最期を見届けるがいい!」
その一声と共にせりあがる山脈の数々。
一つ一つが、リング周辺を囲っていく。
そして出来上がった、何人をも寄せ付けない究極の檻。
どちらかが斃れ死するまで、この檻は消えない___!
「さぁ、これで邪魔な乱入者はいなくなった!誰かが入る余地はない!スペシャルマン、貴様もこのリングには入るな!」
「……スペシャルマン、手出し無用だ!俺に任せろ!」
「ふっ、我らの戦いにゴングは不要……さぁ、来い!」
「バイオブロリー襲来!! 復讐鬼の叫びを聞け」
「ブロリー……!? あれが……」
かつて、悟飯やベジータを苦しめた伝説の超サイヤ人、ブロリー。
しかし、今ベジータや悟飯の目の前にいるその姿は、あまりに異質であった。
泥人形のように全身の皮膚が崩れ落ちており、身体中の筋肉が脈動している。
後頭部からまばらに生えた超サイヤ人特有の金色の髪。
爛々と輝く真っ赤な瞳からは理性を感じられず、ただひたすらに血を求める獣のような
殺意を放っていた。
「似ても似つかんバケモノじゃないか……パラガス、貴様一体何のつもりだ!?」
「フフ……あれはブロリーの細胞を元に培養したバイオ戦士……
言うなればバイオブロリーとでも言ったところかな。
急造品であるために本来のブロリーほどの力はない……メサイア教団で
研究が進んでいると言うホムンクルス技術があれば、もっと精巧なものが
量産できたかも知れぬがな……さあ、やれ! バイオブロリーよ!
今度こそベジータ達をこの世から消し去ってしまえーッ!!」
「狂ってる……! 自分の息子だろう!? それを道具か何かみたいに……」
「俺が狂っていると言うのなら、そうさせたのは貴様らだ!!
俺は貴様らに復讐するためにここまで来たのだ! もはや後戻りなど出来ぬわ!
さぁ、殺せぇ! 奴らを皆殺しにするんだァ!」
パラガスの怒号と共に、バイオブロリーは動き出した。
「カカァ……!! ロッ………トォォォォォォォ……!!」
声帯もロクに機能していないまま、怨敵の名を呼ぶバイオブロリーは
怒りに身を任せてエネルギー弾を乱射する。
カカロット――孫悟空の息子である悟飯にその面影を見ているのだろうか。
もはやブロリーとしての記憶も人格も理性も無きに等しいはずなのに、
悟空に対しての復讐心だけが遺伝子レベルで刻まれた生体兵器。
それがバイオブロリーを突き動かす衝動となる。
「ぐわあああああッ……」
「ぎゃあああああッ……」
地上にいる復讐界域の兵士たちもろとも、ベジータと悟飯を攻撃する。
敵味方の区別もなく、ひたすらに破壊の限りを尽くすつもりだ。
「チッ、なりふり構わず暴れまわりやがって……!
そう言う所はブロリーそのものだぜ……」
「うおおおおおおおおおっ、あっぶねぇ!!
暴れるのはバーサーカーの俺の専売特許だっつうんだよ、タコが!」
「ハイヤーッ!!」
ブロリーのエネルギー弾の雨の中を逃げ回る森長可、
そこへ愛馬アーガマに乗った剣士ゼータが並走する。
「後ろに乗れ!」
「おう!」
「ヒヒィィィィーーーーーンッ!!」
長可とゼータを乗せたアーガマが、ブロリーの攻撃を避けながら爆発の中を駆け抜ける。
「ヒューッ、なかなか良い馬じゃねえの!」
「俺の自慢の愛馬だ」
悟飯、ベジータ、そして闘士ダブルゼータと法術士ニューの元へと合流する
剣士ゼータと長可。眼前の怪物を見据え、その暴虐ぶりに戦慄する。
「悟飯殿、あの怪物は一体……」
「以前、僕の父さんやベジータさんによって倒したはずの敵……その成れの果てです。
もはや、人の姿さえ捨てている。心でさえも……」
「なるほど、それならば……ここで倒さねばならぬ相手ということですか!」
「ええ、そうです……!」
「人の世に仇成すものであるならば、アルガス騎士団の誇りにかけて倒す!」
「ありがとうございます……! さぁ、行きましょう!」
「「「応!!」」」
「ふん、妙な姿をしているが、実力はありそうな連中らしい。
せいぜいアテにさせてもらうぞ」
ベジータと悟飯、アルガス騎士団と森長可。
復讐界域の急造都市を舞台に、バイオブロリーとの壮絶な戦いが始まる!!
「いつぞやの借りを返してやるぜ、バケモノめ……悟飯、遅れるなよ!!」
「はい、ベジータさん! 行くぞぉぉぉぉぉぉぉーーーーッ!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォーーーーーーッ……!!」
「潔白か黒か、審判の時!の巻」
「さぁ、来い!」
ゴング代わりの叫声へ応、と答えんばかりに、カナディアンマンはリングの上を駆けていた。
狙いは当然、ただ1人、オルタしかいない。
1対1、何人も寄せ付けぬ由緒正しき超人プロレスの火蓋は、既に切って落とされているのだ。
とうに戦士の顔付きとなったカナディアンマンに容赦はない。
挨拶代わりのライナータックルが、強烈な打音を立ててオルタへと突き刺さった。
「ぐぅっ!?コイツ…!」
「来いと言ったのはお前だぜ?こいつも食らいな!」
腹部から駆け巡る鈍痛と衝撃によろめくオルタ。
ぐらり、と揺らいで生まれた二人の合間を、巨腕が突き抜ける。
カナディアンマン得意の、怪力を活かしたストレートパンチだ。
「が、ぁ!」
「これ位で俺の贋作を名乗れると思ったか、甘くみるな!」
鋭い音が二度、三度と立て続けに上がる。
手始めと言わんばかりの口調とは裏腹に、一発一発の打撃には一切の手心は無い。
カナディアンマン優勢か?
否。
「…調子に、乗るなぁーっ!」
「ぬぉお!?」
四度目の大振りなストレートを、オルタは見事掴み取って止めてみせた。
あの攻勢の中で、体勢を立て直したというのだろうか。
だとしたら、恐ろしい体躯だ。
「俺が贋作だと?この胸に沸き上がる怒りが、偽物だとーーーっ!!?」
「ぐ…こいつ、何て気迫してやがる!?」
鬼気迫る勢いのオルタを前に、さしものカナディアンマンも冷や汗が出る。
膨れ上がった復讐心と言うものも、強ち馬鹿に出来る物ではないらしい。
現に、掴み上げられた腕に込められた力は並みの物ではなく、指先の一つに至るまで万力の如く食い付き、離れない。
手先が鬱血しそうな程の圧力に、吊り上げられたカナディアンマンが苦悶の声を上げる。
今度はオルタが攻勢に出る番だ。
「ならこの衝動に負ける貴様は何だ?俺が贋作なら貴様は贋作未満かー!!」
「グハッ!!」
立て続けに腹部へと打ち込まれるフックの嵐。
一発ですら並のレスラーであれば内臓破裂を起こして即死する程の威力。
だが、カナディアンマンは超人である。
痛みに顔を歪めこそすれど、ダウンまではしない。
しかし。
「あ、がぁ…!」
「やはり貴様はその程度、ここで朽ち果てる存在だーーー!!」
一撃毎に威力を増す拳の前に、やがて膝が折れ始める。
腹部に走る鈍痛に、目元を歪めるしかない。
試合早々万事休すか、そう思われた。
「…ブロックするんだ、カナディアンマン!」
「っ!」
だが横合いから飛んできた一声に、カナディアンマンは覚醒した様に目を見開いて、膝を上げる。
するとどうだ、勢いが付く前の拳は脚にブロッキングされ、弾いて見せた。
下手に打ち込んだ腕の方が痛む。
彼の一声に対し迷いのない動きだったからこそ出来た見技だ。
故に、声の主スペシャルマンがオルタの気を引くのも当然だった。
「貴様…何のつもりだ?」
「僕はカナディアンマンの相棒で、ビッグ・ボンバーズなんだ!悪いけどセコンドに付かせて貰うよ。」
対するスペシャルマンは、堂々と宣言する。
ただ見守る観客ではなく、彼の真髄を引き出すセコンドとして彼の側に立つと。
オルタもまた、その威厳に思うところがあったのだろう。
「…ふん、観客が口を挟む程度だ。勝手にしろ。」
そう言い放つと、視線を再びカナディアンマンへと向ける。
当のカナディアンマンも、スペシャルマンの宣言を受け入れている様子だった。
「スペシャルマン…!」
「さぁカナディアンマン、僕らの修行の成果を見せる時だ!」
「…あぁ!」
二人の顔に、喜色が浮かぶ。
追憶するは、互いに技量を高め合った修行の日々。
故に負けられぬという決意が、カナディアンマンの顔に宿る。
「友情ごっこも、そこまでにしろ!」
だがそんな事知ったことかと、オルタのラリアットが炸裂する。
その凄まじさたるや、カナディアンマンを一気にリングの端へと弾き飛ばす程だ。
彼を受け止めて尚歪むロープが、かの威力を物語っている。
だが。
「…そのまま行くんだ!」
「…ごっこなんかじゃねぇーーー!!!」
「ぐほぉっ!?」
それがどうした。
そう言いたげな顔で雄叫びを上げ、ロープが戻る勢いを利用し、寧ろドロップキックを浴びせたではないか。
そうだ、彼等の特訓の日々は決して無駄ではない。
こうして彼を打たれ強くし、スペシャルマンの言葉の元、今反撃の瞬間を生み出したではないか。
そうして放たれた彼の一撃は、またもオルタの腹部を捉えていた。
全身の勢いをモロに受け、オルタの体が宙に浮く。
「頭だ!」
「貴、様!」
「確かにお前は強い、実力は本物かもしれん。だがなぁ!」
そこにヘッドロックを掛けると、マットへと後頭部叩き付けた。
鈍い音がリングに響き、鮮血が宙に飛び散った。
「俺だってただまごついていた訳じゃねぇー!国一つを背負った者として、汚名返上に全てを注いできたんだ!」
反動で仰け反る頭部と共に立ち上がり、無理矢理オルタを立たせ、怒号を浴びせる。
獅子の如き声色で放たれるそれは、最早止まる所を知らない。
「それを横から知った風な口で、出しゃばられてたまるか!」
「カナディアンマン…!」
「がっ…!」
姿勢もままならぬオルタへ、今一度蹴りを打ち込むカナディアンマン。
クルリと180度回転させられ、ロープへと叩き付けられる。
「何より負けられるか、一番の相棒の前でよぉ!」
そして戻ってきたオルタの背中を、宙で肩に持ち上げた。
これぞ彼の代名詞、彼の祖国カナダの名を持つフィニッシュホールド。
そして何より、彼のような体格が強大な者にこそより通用する一撃!
「今の俺は伊達じゃねぇぞ偽者ぉ!『カナディアン・ブリーカー』ーーー!!!」
着地。
ゴキリッ、と背骨の砕ける音。
背中と腹部を引き裂いて余りある威力のカナディアン・ブリーカーが今炸裂した。
「が、あ、ああぁあぁぁーーーー!!」
「うおおおぉーーー!!」
オルタの絶叫が木霊する。
その声を掻き消さんばかりの声量で、カナディアンマンは勝利を確信したように吠えた。
超人プロレスにおいて重要部の骨折は即脱落物では無いものの、最早勝敗は決したように見えた。
(…カナディアンマン。)
だが、そんな彼を見守るスペシャルマンの顔付きは浮かなかった。
「黒く燃える復讐心!の巻/ペコオルタ出陣!」
「……まだ終わっちゃいねぇ!」
「な……!」
スペシャルマンの叫びと共に、奴は立ち上がった。
ゆらりと陽炎のように立ち上がる黒い影。
背骨が砕けてもなお、狂気じみた眼で奴は立っている。
「その程度で俺の復讐心を砕けると思ったか?バカめ。わが心に燃える復讐心、その炎をなめるな!」
オルタの繰り出すアイアンクロー。
しかし、その威力は今までの攻撃よりも威力が下がって___いるどころか。
「威力が……増している!?」
カナディアンマンは見た。
その手がまるで炎のように揺らめき、さらにパワーが増している腕を。
このまま上に持ち上げられていく真なる者。
「言ったはずだ、俺は復讐心の具現と。やられればやられるほどその威力も、超人パワーも、全てが増してゆき、やがて貴様の上を征く!」
「ああああああああ!?」
振りかぶる腕の勢いで、まるで隕石のようにリングに叩きつけられる。
そのまま喉を踏みつけ、オルタは苦しむカナディアンマンを見下ろした。
「そして、今一度その心に問いかけるがいい『俺は本当に復讐心を抱いていないのか?』とな!」
「……何…を……ッ!」
「貴様が今まで観客やアナウンサー、他の超人仲間に言われたことを思い出せ。なんて言われた?『かませ犬』『国辱超人』『弱体チーム』、貴様が聞いていない場所でも枚挙にいとまがない……哀しい限りだ。」
「ぐぐ……!」
突き付けられた事実を前に、言い返し様がない。
否、喉を踏みつけられては物理的にも言い返せない。
「それを踏まえた上でもなお、なぜ復讐に身を窶さない?悔しくないのか?精神は生ゴミ以下にまで落ちぶれたのか?」
「生ゴミ……だと…!」
怒りで顔が歪む。
それを確認したオルタがさらに強く踏みつける。
「そうだ、その顔だ。もっと憎め。そして世界を呪え……貴様には復讐者(アヴェンジャー)としての資格がある!その憎しみと共に、この世界の全てを」
その一言で、喉ごと首の骨を破砕しようと踏みつけようとする……!
しかし___。
「そいつは違うなぁ___!!」
瞬間繰り出される空中への蹴り。
その一撃は、間違いなくオルタに繰り出される。
「生憎だが、俺は復讐とかこれっぽっちも考えていない!確かに、世間が俺たちを馬鹿にしたときはとても悔しかった。世間を恨めしく思ったときもあったさ。でもな……それでも俺は!」
「なんだこの力は……!!」
「誰かを呪ってやろうとか!陥れてやろうとか!復讐してやろうとは考えていない!それどころか____!」
その顔に曇りはなく、むしろ輝いていた。
「その度にもっと強くなってやると燃えていたものさ!」
「そんな弱っちい、甘ったれた思想のどこがいいという……!」
先のより更に威力が増したラリアットが炸裂する。
カナディアンマンは即座に防御し、オルタの繰り出す連撃に対する防御態勢を整える。
「もっと強くなるだと!?なめるな!世間がそれでも貴様を侮蔑したらどうする!」
連撃が防御を少しずつ破砕していく。
「人間の『悪』の側面を貴様は感じているはずだ!人の努力を、力を侮蔑する悪、否!クズは滅ぼすより他はない!さもなくばーーーー!」
ドス黒い炎が、さらに強く激しく燃えていく。
オルタの現在の超人パワーは700万を超えている。
「永遠に侮蔑され、嘲笑の中死んでいく人生は御免であろう!だからこそ、世界から!我が努力を侮辱する人間のクズと呼べる存在を、俺は血祭りに上げる!そうすれば誰も俺を侮辱しない!」
「ぐはっ!」
ついに防御が破壊された。
やがて超人パワーが瞬間的に1000万を越え、勢い任せにとどめの一撃を放とうとした瞬間。
「俺は正義の五本槍、カナディアンマンだァーーーーーーー!!」
隙だらけだったはずのカナディアンマンが、オルタに一撃を喰らわせる。
完全に防御を捨てていたオルタがふらつく。
「殺戮の恐怖ですべてを制しようとする貴様を、俺は許さない!我が弱き影よ、正義の名のもとにお前を打倒す___!」
「ならば、死の刹那までその意志を貫いてみるがいい……!」
光と影。
努力の果てに栄光を掴もうとする者と、復讐に身を窶す影。
その戦いは後半戦へと突入する___!
~希望界域 拠点~
「……そうか。オセロットらはそこにいるのか。」
斥候のライダーから、絶望界域にとらわれていたオセロットたちの居場所を突き止めた。
十神が指さす位置は『ダークシティ地下牢』。
絶望界域の都市『ダークシティ』にある牢獄である。
「絶望界域攻略部隊に伝えろ。目的地は地下牢、ダークシティの地下牢だと。」
さらに、風雲急を急ぐ報告が。
「報告です。」
「どうした?」
「何かが、こっちへと向かってきています!500体のアーチャー主体の絶望界域の兵士1500体と……絶対兵士です!辺古山ペコ・オルタです!」
____完全に記憶を消し去った、血濡れの赫黒いセーラー服を纏った絶対兵士。
リクとベジータを苦しめた奴___AW-S06:辺古山ペコ・オルタが、こちらに向かっているという。
そうとも知らず、吹きすさぶ風の中待っていた2人。デミックスと江ノ島盾子。
「来るぜ。」
「うん、いっぱいね。」
今は知らず、超高校級の剣術家。
否。『超高校級の絶対兵士』がこちらへと向かってきていることを!
「幕間:流浪の剣豪」
宮本武蔵。真名:新免武蔵守藤原玄信。
日の本の国に生まれたならばその名知らぬ者無しの大剣豪。
「彼女」は過去に二度、カルデアと接触している。
一度目は、とある特異点。
古の神に寄って使役される物の怪と戦う「お役目」を背負う少女たちと、
世界を存続させるために抗い続けた「英雄」たちが集う世界。
そして二度目は、亜種特異点・下総国。
キャスター・リンボによって外道に堕とされた7騎の英霊剣豪との壮絶な戦い。
その果てに武蔵は命を落とし、サーヴァントとしての生を歩むことになる。
幼い頃から、武蔵は聖杯の権能によってあらゆる世界に迷い込むことがあった。
それは例えば、歴史に残る偉人たちが生きる戦国乱世であったり、
あるいは神秘が未だ残る幻想種の世界。
まるで「世界」に排除されているかのように、彼女は数多の可能性の中から弾き出され、
同じ世界に二度足を踏み入れる事も無かった。
必然、同じ人間と二度出会うことも無い。だが、唯一つだけ例外がある。
それが、藤丸立香という少女だった。偶然か必然か、それとも運命なのか。
幾度と無く繰り返される世界の旅路の中で、彼女だけに二度出会うことができたのだ。
「…………」
そして二度ある事は――
「大丈夫? ゾロ、トランクス」
特異点、ポイント・ユグドラシル周辺。
メサイア教団の刺客、源為朝の宝具によって荒れ果てた森で。
武蔵の声を受け、二人は顔を上げる。
「ああ、問題ねえよ」
「俺も、この程度なら何てことはありません」
「そう、良かった。ところでもう2人……」
共に行動していたニュートラル・ガーディアンよりの使者、
サイクスと罪木蜜柑・オルタの姿が見当たらない。
「大丈夫かしら……」
「何処の誰だか知らねえが、無茶苦茶やってくれるぜ。
あいつとの勝負も水入りになっちまったしよ」
ゾロと交戦中だったクリストファー・ヴァルゼライドの姿も見えない。
未だ謎の多い男ではあったが、彼と戦えなくなった事をゾロは残念に思う。
「ターレスもいない……先程の攻撃に巻き込まれたのだろうか……」
トランクスと戦っていたはずのサイヤ人、ターレスの姿も無い。
兵どもが夢の跡……何もかもが夢幻の如く消え去っていた。
「あのでっかい樹も何だか枯れちゃったみたいだし……どうなってるのかしらね、ここ」
「分かりません。ただ、ここでこうしていても仕方が無いでしょう」
「だな。どうやら、賭けは流れたみてェだな」
「賭け?」
「そ。私とゾロ、どっちが先にあの樹をぶった切るかって話。
でも、こんなヨボヨボになった樹を斬ったところで自慢にはなんないし」
「酒の飲み直しだな。酒場に行こうぜ」
「賛成~」
「さ、酒場って……呑気だなぁ、この状況で……」
どこまでもマイペースなゾロと武蔵に呆れながらも、
トランクスはとぼとぼとその後について行くのであった。
「タイムマシンも壊れてしまったし……どうしたものか……」
「幕間:帰還、均衡の守護者」
~リ・ユニオン・スクエア 西の都~
黒い靄と共に、2人の男女が出現した。
男性の方は無事なようだが。女性の方はボロボロのようだ。
「くそ、こりゃあヤキが回ったな。」
「全くだ、お前は無茶しすぎだ。」
罪木蜜柑・オルタ。
すべての迫害者に対する均衡の復讐者(アヴェンジャー)。
緑色のパーカーは血で染み、白髪が所々血で赤くなっている。
そんな彼女を脇で抱えているのはサイクス。
ⅩⅢ機関の一人「月に舞う魔人」の名を冠する者。
「ライダーの連中はどっか行っちまったようだが、その次に来たのは矢の雨とはね、まったく。神様はどこまであたしらを苦しめたいのか……!」
「お前だけじゃない俺もだ。数発喰らってしまった。実はこうやって抱えているだけでも精一杯なんだぞ。」
「はは、あんがとよ。」
そういって、2人は西の都の、まるでシェルターのようになっている部屋まで向かう。
そう、彼らの同胞にして同じ『均衡の守護者(ニュートラル・ガーディアン)』の一人、アレクサンドル・デュマのいる部屋まで。
「いよう!元気にはしてねぇな兄弟!」
「全くだ、お前にも体験してほしいくらいだよ。」
デュマは知らない。
特異点で2人が源為朝の『轟沈・弓張月』の餌食になり、命からがら生き延びたことを。
軽口を叩きながら、作家は2人を招き入れる。
「あーちきしょー!なんだあの矢の数!キモイわ!」
「ははは、相当にやられたようだな罪木の嬢ちゃん!」
「笑ってんじゃねぇ!喰らってねぇあんたには一生分かんねぇだろうな……痛っ!」
止血を終え、腕や足を包帯でくるんだ罪木オルタ。
その様子を嗤うデュマ。彼なりに彼女を励ましているようだが彼女には悪口にしか聞こえてないようだ。
その様子を見つつ、デュマはサイクスに2人が特異点へと向かっている間何があったのかをまくし立てるように話した。
「外は大変だぜ、何つーか。希望ヶ峰学園にトラオムって場所ができちまったらしいし、さっきルクソードってやつがここに来たし、メサイア教団のラジオがかかってきたし、挙句にゃ『流星一団』なる奴らの勧誘も来たしな!」
「……待て、いろいろと言いたいことがあるんだが。何だ?ルクソードが来たのか?」
ルクソード。
ⅩⅢ機関のNo.10、「運命を賭す者」の名を戴く生粋のギャンブラーにして、今はこのリ・ユニオン・スクエアを守護する『抑止の守護者』。
同じ機関のメンバーであったサイクスが、その名に反応しないわけがなく。
「おう、俺らに渡したいものがあるってさ。」
そういって、彼は2つの何かを取り出した。
一つは丸っこいボール状の何かと、もう一つはまるで細石器のような何かだ。
「いずれにせよ、次の出陣前には仕上げておくぜ。この___『奥義殺し』と『射殺す兵装』をな!ははっ!」
「吠えよカナディアンマン!の巻」
正義超人の意志を貫く者、復讐に身を窶した者。
駆けるは同時、組み付きも同時。
二人のカナディアンマンが、リングの中央で再び相対する。
「貴様は所詮、甘ったれた思想に浸かっているだけだっ!」
「ほざいていろっ!俺は、俺達正義超人としての生き様を捨てるつもりは、無い!」
魂をぶつけるが如き咆哮の浴びせ合い。
互いに譲らぬ意志の鬩ぎ合い。
その威勢はまさに互角、一切の均衡が崩れる予兆は無い。
ならば、後はどちらがより相手の我を凌駕するかのみだった。
「それが甘えだと…!」
「いいや違うな、俺達正義超人の道は、茨の道だっ!」
先に仕掛けたのはカナディアンマンだった。
雄叫びを上げ腕を振るい、突き飛ばしたオルタの頭目掛けて飛び上がり、大振りのパンチを振り下ろす。
咄嗟にオルタは両腕で頭部を守り、一撃に備える。
だが。
「俺への『悪意』だと?あぁそうとも、知っているさ。この身に一番染みていると自負できる位にはなっ!」
彼の拳は、突き抜けた。
両腕の守りを裂いて余りある一撃が、オルタの頭を強かに打ち据える。
その衝撃に叩き飛ばされるオルタは、しかし下から覗く瞳には未だ憎悪の炎が燃えていたる。
宙で身を翻して体勢を取り戻し、叫ぶ。
「だったら、尚更分かる筈だ!我が憎悪、我が復讐心!真に正しきは我が意志だと!!」
鬼気迫る勢いのままロープを踏みしめ、弾力に身を乗せての頭突きを繰り出す。
1000万パワーの超人ロケットが、カナディアンマンに突き刺さる_
「…それもまた、間違いだっ!」
否、カナディアンマンはその両手でオルタを捉えてみせた!
そのまま身を捻じって抱え上げ、一本背負いでマットに叩きつける。
オルタは即座に立ち上がろうとするが、それを許さずうつ伏せにして拘束にする。
ハンマーロックの体勢だ。
「『悪』に悪で応じて何になる!安易なソレこそ、真に恐怖に屈すると言う事だ!」
「な、ぁ…この俺が、怯えてるだと!?」
大柄なカナディアンマンが行うそれは、彼の意志の様に重い。
まるで鉛の如き強固なロックの前に、オルタはただ組伏されるしかない。
そしてカナディアンマンは自らの心の奥底、根源とも言うべき場所に存在する、確かな信念を語りだす。
「あぁそうだ、良いかよく聞けこの野郎!俺達正義超人に向けられる『悪』、その正体は『期待の裏返し』だと知れ!」
「期待だと!?何をふざけた事を…!」
何を言いだすかと思えば、と力尽くで振り解こうと身を捩るオルタ。
「いいや大真面目さ、これ以上無くなっ!」
その瞬間を狙い済まし、浮いたオルタの身体を仰向けに翻し、自らはその下に潜り込む。
そのまま頭と足首を捉え、その背を両足で極めるカンガルークラッチだ。
砕けた背骨が再び乾いた音を鳴らし、腹部が鈍い音を立てて引き裂かれていく。
「がぁっ!?」
「…俺も嘗ては『悪』だった!」
彼の口から紡がれるは、懺悔とも言える言葉。
追憶するは、黄金のマスクを賭けた戦いにてキン肉マンが死したあの時。
「持てる限りの全てを以て戦い死んだアイツに、俺は俺が許せなくなる言葉を投げたんだ!」
「何、を…!?」
クラッチの体勢のまま、ノーハンドスプリング。
そして自ら語る。
己の禁忌の瞬間を。
『キン肉マンの、ウスノロめ。』
「あの時からウスノロに成り果てたのは、俺の方だっ!」
それは戒めの雄叫び。
山中に轟くそれと共に、オルタをマットへ叩き伏せた。
弾けるような音が、リングを震わせる。
そしてカナディアンマンの意志もまた、同じ様に。
「それをウルフマンは、命を捨てて指し示した!あの時から俺は、俺はぁ!!!」
彼の雄姿に打ち震えてる自分が居た。
つい一瞬前までの自分を憎む自分が居た。
その全てが、彼のその先の道を照らし出したのだ。
故に、彼は正義超人に憧れた。
「『悪』には堕ちねぇ!『憎悪』には染まらねぇ!まして『復讐』なんて物は捨て去った!」
「がぁあーーーっ!?」
地に伏したオルタを持ち上げ、肩で極める。
得意のカナディアン・バックブリーカーが炸裂する。
「俺の道、俺の使命!正義超人としてあるべき姿に、俺はなるっ!」
「ぁ、あぁ…!」
その言葉は、果たしてオルタに届いたか。
吐血する彼の様子から読み取る術は、無い。
それでも、カナディアンマンは止まらない。
「例え罵詈雑言を浴びようとも、それを『戒め』として受け取り、最後まで見返す意思を諦めねぇ!」
姿勢はそのままに勢いを付けての宙返り。
世界が、天地が逆転する。
「それが俺、カナディアンマンだぁーーーっ!!!」
「あがぁーーーー!!?」
名付けるならば、カナディアン・バックブリーカー・ジ・エンド。
今、リングをも陥没させる一撃が、オルタの身体を貫く。
飛び散る鮮血は、勝利のVを描いていた。
「…カナディアンマン、それを聞いて今、僕は安心したよ。」
「スペシャルマン…」
岩の檻の向こうで、スペシャルマンが語り掛ける。
その表情にはもう、憂いは無かった。
「彼と遭遇した後の君は、復讐心そのものを否定しているように見えた、けど違ったんだね。」
「…あぁ、復讐心そのものは認めて、その上で捨てたんだ。だけど最初からこの答えを導けていた訳じゃない。」
え?と静かに驚くスペシャルマンを余所に、オルタへと向き直るカナディアンマン。
彼を見る目は、憧憬に近かった。
「偽者呼ばわりは撤回する。お前は嘗て『悪』に堕ちた時の俺で、お前と相対して漸く分かったんだ。」
「おま、え…!」
最早、何を以て彼を見上げれば良いのか、オルタには分からなかった。
ただ分かる事は、眼前の彼が自分より遥かに強いと言う事のみ。
「だからお前が俺と同じ間違いを繰り返す前に、今の俺を以てお前を止める。それが、今の俺にできる贖罪だ!」
そして彼はオルタの手を掴み上げた。
オルタも当然抵抗しようとする、だが。
「力、が…!?」
打撃、決め技、フィニッシュホールド。
今までの攻撃が、腹部と背部を重点的に責めた攻撃のダメージが、今彼の身体から力を奪う。
体幹等と言う物は、最早破壊し尽くされていた。
1000万を超えるパワーも、今やこの身を縛り付ける鎖となる。
「見ていてくれ、スペシャルマン!」
そのままロープへとオルタを投げつける。
慣性に身を流されるまま叩き付けられ、跳ね返されるオルタ。
その身を背中で受け止め、極める。
リビルド・カナディアン・バックブリーカーだ。
「そして!」
思い浮かぶは、カナダで出会った彼との修行の日々。
自らを上回る剛力を前にしての、特訓の連続。
心が折れそうな事もあった、けれど。
「ビッグボディの師匠ーーーっ!」
それを耐え抜いた今の自分が、ここに居る。
その証明を、今。
「直伝…!」
流れる様に、オルタの身体を宙へと放り投げる。
その両足を脇でフックし、手首を掴み、扇の様に広げる。
そして急降下。
彼から受け継いだ奥義を、今…!
「『メイプルリーフ・クラッチ』---っ!!!」
散華。
それはまさしく、彼のシンボルマークたる楓の紋様だった。
「急造都市の死闘」
夜更けの天衝山脈を一際輝かせるカナディアンマンVSカナディアンマン・オルタの
激しいデスマッチが白熱する中、復讐界域の急造都市では
ベジータと悟飯、アルガス騎士団、森長可、
そしてバイオブロリーの死闘が繰り広げられていた。
「ぅおらああああああああああッ!! 風穴開けてやんぜーーッ!!」
長可の槍、「人間無骨」の一撃がバイオブロリーの腹を貫通する。
しかし、すぐに傷口は塞がり、まるで何事もなかったかのように反撃に出る。
「ウオオオオオオオオオオオ……!!」
「何だとォ……!?」
一瞬のうちに間合いを詰められ、バイオブロリーの丸太のような腕で殴り飛ばされた。
「どわあああああッ!?」
咄嵯に防御したが、それでも衝撃を殺しきれずに地面に叩きつけられる長可。
そこに追い打ちをかけるように、バイオブロリーが無数のエネルギー弾を浴びせかける。
「――ッ……!!」
激しい爆音と共に、巻き起こった煙の中から長可が現れた。
剣士ゼータが竜の盾をかざし、長可の身を守っていたのだ。
「今度は俺が相手だ!! ぬおおおおおおーッ!!」
闘士ダブルゼータががっぷり四つに組み合う。
バイオブロリーもパワーには自信があるのか、両者は一歩も譲らない。
「ヌウウウウウウウウ……!!」
「ぐぬぬぬぬ……! 何と言う力だ……! うおっ!?」
バイオブロリーがダブルゼータを持ち上げ、垂直に放り投げる。
そのまま空中でオーバーヘッドキックで蹴り飛ばした。
「ぬおああああああーッ……!!」
急造都市のビル壁を突き破り、ダブルゼータは瓦礫の中に埋もれてしまった。
「ダブルゼータ!! この野郎……よくもやってくれたなぁぁぁッ!!」
「もはや容赦はせぬ……!」
怒りに任せて突進する長可。剣士ゼータも後に続く。
バイオブロリーは両手からエネルギー波を放ち、2人を迎撃する。
エネルギー弾の雨の中を潜り抜け、バイオブロリーに迫る長可とゼータ。
「もらったッ!!」
「死ねコラァァァァァァッ!!」
長可の人間無骨とゼータの剣がバイオブロリーを捉える。だが―――――。
「斬った部分が……再生している……!」
「さっきとおんなじかよ……!!」
先程まで斬り裂かれていた箇所が瞬く間に修復され、元の状態に戻ろうとしていた。
そうこうしているうちに、長可とゼータの身体にバイオブロリーの腕が掴む。
凄まじい握力で締め上げられ、苦しそうにもがく2人。
「うおっ……」
「ぐ、おあああああ……!!」
「でやあああああああッ!!」
ベジータの急降下ニードロップがバイオブロリーの脳天を直撃した。
「グウゥゥゥゥゥッ……!?」
バイオブロリーが怯んだ隙に、長可とゼータを解放する。
「だあああありゃッ!!」
続けざまに悟飯の飛び回し蹴りがバイオブロリーの顔面に炸裂する。
バイオブロリーは僅かに仰け反ったものの、やはりダメージは無いようだ。
「チッ、ダメージが通ってるのかどうかも怪しいな……」
舌打ちするベジータ。表情などからダメージの具合を窺い知る事も出来ない。
そこへバイオブロリーが突っ込んできた。
咄嵯に回避するが、その巨体からは想像もつかないスピードだ。
「ヴェェアアアアアアアアアッ!!」
ドチャッ、ドチャッ、と水っぽい足音を響かせながら、縦横無尽に走り回る。
「足を止める! メガサーベッ!!」
法術士ニューが魔法を唱えると、光り輝く刃が無数に現れ、
一斉にバイオブロリーの足元へ殺到した。再生するとは言え、足を斬り裂かれた直後は
バランスを崩すはずだ。
「グォォォ……!?」
案の定、バイオブロリーは転倒してしまった。
好機とばかりにベジータと悟飯が同時に攻撃を仕掛ける。
「今だ! 畳み掛けろ、悟飯! ギャリック砲ぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
「はい! 魔閃光ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
上空から2人の必殺攻撃が炸裂し、バイオブロリーは大爆発を起こした。
「やったか!?」
「オルタの最期!の巻」
「『メイプルリーフ・クラッチ』---っ!!!」
散華。
それはまさしく、彼のシンボルマークたる楓の紋様だった。
その紋様の前に___オルタは。
「あ……ああ……。」
尚も立ち上がる。
されど、もう彼の脚はおぼつかない。___やがて。
「俺は……まだ…………。」
バタン。
倒れる音の後、訪れた静寂。
この勝負は___真作「カナディアンマン」の勝利だった。
しかし、当のカナディアンマンは斃れた自身の黒い側面へと駆け寄っていく。
「しっかりしろ!」
「はは、お前分かってんのか……?自分に対して言うセリフじゃないだろう……。そんなことより、とどめを刺せ……!」
自分の消滅。
すなわち、死をもって決着だとオルタが言っている。
___されど。
「……それはできない!いくら自分の暗黒面とて、決着のついたお前をこれ以上痛めつけることはできない!」
「だからだよ。自分の悪の側面ならば、なおさら訣別するんじゃないのか?」
「いや、悪は悪として受け止める。殺したり忘れたり、訣別したりするものじゃない。悪は___己の中の悪は___受け入れて力にするものだろ!!」
今までのカナディアンマンが味わった人生の経験。
酸いも甘いも味わった、噛みしめてきた。
だからこそ言える。
だからこそ___自分の中の悪に、聞かせたかった。
その一言を聞いて、自身の悪の側面は……屈託も嘲りもなく笑った。
「ふ……完敗だよ。完全敗北だ……。」
そういったオルタはどこからか、卓球のボールほどの大きさの玉を取り出した。
それは緑色に淡く、されど美しく輝いている。
___大きさこそ宝物にしては小さいがこれは間違いなく、宝玉だ。
「持っていけ。三界域の宝玉だ。これを3つ集めれば……トラオムの核である中央の地下工場に行くことができる。そこからトラオムを出ることができるはずだ……!」
「でも、どうして!どうしてこれをあんたが!」
「パラガスの自室からくすねておいた。正直、奴のことは……復讐界域の連中全員が信用してなかったからな。」
はは、と乾いた笑いが出る。
でも、その顔はどこか明るい。
「お前はさっき『期待』と言ったな。ならば、この俺の期待に応えて見せろ。少なくともこのトラオムから生きて出て見せろ。再び俺が現界する……なんて馬鹿げたことをさせてくれるな……!」
次第に靄と化していくオルタの肉体。
砂のように消えてゆく身体が、夜明け前の薄青の空へと消えてゆく。
「さぁ早く仲間のところへと行け。俺ももう長くはない。___というよりなんだ、湿っぽい別れは嫌いなんだ。」
「でも……!」
「いいから行け……!」
そうして、2人を押し出した。
まるで出来の悪い、されど誰よりも親孝行者な子供を独り立ちさせた父親のような顔で。
そして、崩壊。
超人たちの戦闘の余波でガラガラと崩れてゆく岩の檻。
しかし、残された『黒』はついに動くことはなく。
行ってしまった『白』と夜明けの太陽を見守りながら、岩の雨霰へと消えていった。
「地獄に落ちる俺には……まぶしすぎるな…………。」
「オルタ……どうか見届けてくれよ……!」
復讐界域副官 「復讐超人」カナディアンマン・オルタ
天衝山脈にて___消滅。
「超戦士撃破!! 勝つのはオレだ」
天衝山脈の決闘は、カナディアンマンの劇的な勝利で終わった。
急造都市では、悟飯とベジータの合体攻撃がバイオブロリーに炸裂。
撃退を確信する一同だったが、煙の中から現れたバイオブロリーは生きていた。
それどころか、ますますパワーアップしているように見える。
「ウオオオオオオオオオオオオッ……」
「あいつ……戦いながら強くなっている……!?」
戦闘民族サイヤ人の細胞が組み込まれている為なのか、
バイオブロリーの戦闘力は上がり続けていた。
「ふははははははははぁ! いいぞォ!! 急ごしらえの粗悪品かと思えば、
なかなかやるではないか、バイオブロリーよ!!」
バイオブロリーの戦いぶりを見て、パラガスが嬉しそうに叫ぶ。
「くそったれが……! 手こずらせやがって……!!」
ベジータも忌々しげに吐き捨てた。
「このままではジリ貧だ……!」
「どうすれば……!?」
剣士ゼータと闘士ダブルゼータも焦りの色を浮かべていた。
「ちまちまと小技を仕掛けても無駄か……なら――」
「再生が間に合わないほどの一撃を叩き込むしかないですね」
ベジータの言葉に、悟飯が相槌を打つ。
「へっ、それしかねえみたいだな……! いくぜ、バケモノ!!」
長可が人間無骨を構え、突進する。バイオブロリーも迎撃しようと腕を振り上げた。
だが――
「そりゃあああああああッ!!」
闘士ダブルゼータが投げ放った二振りの戦斧が高速回転しながら空中を疾駆する。
それはバイオブロリーの両腕を切断し、一瞬の隙を作った。
「うおりゃああああああああああああああああああッ!!」
そこに長可の強烈な突きが叩き込まれる。
「戦いながら強くなるだとォ……!? 面白えじゃねえか……
俺もよォ、戦いで痛めつけられるほど、血が騒ぐんだよ!!」
これこそ、”鬼武蔵”森長可の真骨頂。
「人・間・無・骨ォォォォォォォォォォォォォォッツ!!」
バイオブロリーに突き立てられた長可の槍の切っ先が体内で十字に展開し、炸裂。
激しい轟音と共に、バイオブロリーが内側から爆散した。
さらに、展開した切っ先に張り巡らされたチェーンソー型の刃が唸りを上げて
追い打ちとばかりに再生する先から肉片を細切れにする。
「ウ、オ、オ、ガアアアアアアアッ……」
「ひゃーっははははァーッ!! 再生出来るもんならしてみやがれッ!!」
高笑いを上げる長可。バイオブロリーの再生スピードを著しく低下させている。
「な、ば、馬鹿な……バイオブロリー! 何をやっておるのだ、この役立たずが……!!」
「ウウ……オオオオオ……!!」
焦るパラガス。その声に応じたのか否か、バイオブロリーは執念にも似た気迫で
再生速度を上昇させ、長可に襲いかかった。
右手に集めたエネルギー弾を長可の懐で炸裂させ、無理矢理に引き剥がす。
「ぐはァァァァっ……!!?」
大きく弾き飛ばされ、地面に落下した。ぶすぶすと鎧が焼け焦げている。
「長可殿!!」
駆け寄ろうとするゼータを、バイオブロリーが遮った。
「げほっ、俺なんかに構うなァッ……攻め続けろォッ……!」
口から血を吐き出しながらも、バイオブロリーを睨みつける長可。
「ウガアアアアアッ!!」
バイオブロリーが再びエネルギー弾を発射するが、それをゼータが横一閃で両断、
切り払った。
「なんとォォォォッ!!」
しかし、バイオブロリーも負けてはいない。すかさず、両目から光線を放ち、狙い撃つ。
「ぬおおおッ……」
竜の盾で防御するが、あまりの威力に後退してしまうゼータ。
「降り注げッ! ムービルフィラッ!!」
法術士ニューが、バイオブロリーの頭上に光の柱を撃ち下ろす。
半身が光に呑まれ、再生する暇もなく、その身体は崩壊していく。
だが、それでもまだバイオブロリーは倒れない。
それどころか、更にパワーを増してさえいた。雄叫びを上げながら、
ゼータに向かって猛進してくる。
「いい加減にくたばりやがれェ!!」
ベジータが遠方から両腕を左右に広げ、それを正面で重ねるように構える。
膨大なエネルギーが凝縮され、圧縮されていく。
それは次第に金色へと変色し、バチバチと放電し始めた。
そして、限界まで高まった瞬間、両手を突き出し、叫んだ。
「ファイナル! フラアアアアアアアアアアアアアッシュッ!!」
巨大な金色の閃光が一直線に伸びていく。
「! いかん! バーニアッ!!」
ニューが高速移動魔法を詠唱し、射線上のダブルゼータ、ゼータ、長可らを
強制的に退避させる。だが、バイオブロリーは避けようともしない。
それどころか、より一層の闘志を燃やし、 ベジータの必殺技に立ち向かった。
迫り来る閃光に怯む事なく、突っ込んでくる。
「ウ、ギ、ギ、ギ……!!」
ベジータのファイナルフラッシュと拮抗していたかと思われたその時――。
「ウオオオッ……!? オ、オオオオ……!」
バイオブロリーの身体が徐々に押し返される。
ベジータの技が少しずつ、確実に、押し勝っていく。
「これで勝負を着ける……! か…! め…! は…! め…!」
さらにダメ押しとばかりに、悟飯がベジータに並び立ち、
父・悟空から受け継いだ技を繰り出す。
「波ああああああああああああああああああああああああああッ!!」
悟飯のかめはめ波と、ベジータのファイナルフラッシュが同時に放たれた。
2つの大技が重なり合い、混ざり合う。それはまるで黄金の龍のようだった。
やがて、その龍がバイオブロリーを飲み込み、爆裂した。
「オアアアアアアアアアアアッ……
カカァッ……ロッ……トォォォォォォッ……」
バイオブロリーが断末魔の悲鳴を上げる。
その直後、彼の肉体は跡形もなく消し飛び、その場に残されたのは、
大地を抉る深いクレーターだけだった。
「はあっ、はあっ、こ、今度こそやったのか……!?」
息も絶え絶えに、長可が言う。辺りには静寂だけが残った。
「バ、バイオブロリーがやられるとは……ええい、カナディアンマン・オルタの奴は何処へ行きおったのだ!?」
「申し上げます! カナディアンマン・オルタ副官は、
天衝山脈にてカナディアンマンに敗れた、との報告が入りました!」
部下の兵士の一人が報告する。その途端に、パラガスの顔色が変わった。
「何と、何と言う事だ……こ、殺される……このままでは俺はメサイア教団入りを
果たすどころか、あの化け物どもに殺されてしまう……! ど、どうすれば……!!」
頭を抱え、その場でうずくまった。
「いや、まだだ……! 死んでたまるか……!!」
「パラガス様!? どちらへ……」
配下の声も耳に入らない様子で、パラガスは一目散に走り去っていく。
「絶対に生き延びてやる……! この俺が、この俺こそが……!」
パラガスを乗せ、復讐界域拠点から射出される一人乗りのポッド。
天衝山脈の向こうから立ち昇る朝日を背に受けながら、空の彼方へと消えていった……。
彼はこれから何処へ向かうのか? そしてその野望の行き着く先には
何があるというのか……
「虚ノ剣豪少女 その1」
敵を怨め。
もはや戦場に一切の呵責も、一切の慈悲もない。
心置きなく剣を振るい、全てを斬れ。
死を慶び、生を憎め。
一切を鏖殺し、昨日の友をも斬り殺せ。
「いやだ、それだけは……できない。」
だめだ。
斬れ。
「いやだ」
斬れ!斬れ!斬って斬って斬り尽くせ!汝は其の為に在り!総てを捨て殺戮の獣となるがよい!
一切を両断し!
一切を粛清し!
一切を穿通し!
一切を焼却し!
一切を詛呪し!
一切を熔融し!
一切を嘲弄し!
一切を塵滅し!
一切を抉突し!
一切を虐殺し!
一切を鏖殺せよ!
汝が宿業は____!
殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!
「あ、ああ、消さない殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!殺!」
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺たすけて殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺けさないで殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺きえる殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺みんなのえがおが殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺いやだ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺あああああああ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
「_____わたしって なんのために____。」
◇
~希望界域 狭間の森~
「aaaaaaaaaaa!!」
闇を駆け抜ける血濡れのどす黒い死に装束を纏った女。
もはやその眼は虚ろで、一切の感情も呵責も慈悲もなく眼前敵を切断しその血の慶を全身で味わう。
虐殺の戦士、残酷なる絶対兵士。
今やAW-S06の名を冠し、その名すらおぼろげな少女。
かつての名は辺古山ペコ。
超高校級の剣術家と呼ばれていた寡黙な少女だが、メサイア教団の策略により今や無銘の絶対兵士と化してしまった。
そんな彼女は、今はまるで獲物を追う獣の如く夜明けの森を駆け抜けてゆく。
◇
先陣を切って絶望界域に突撃したリクとシャルルマーニュ。
彼らはアーチャー部隊とライダー部隊を相手にして戦っていた。
「くっ、この量はすごいな!」
「ほんと、一人じゃ心が折れていた!」
手練れの騎士と勇士でも、数の暴力を相手にしては分が悪い。
だからこそ連携が必要である。
「畳みかけろ!」
「敵の数は少ない!とっちめろ!」
「数の差では此方が上だ!潰せ潰せ!」
絶望界域の兵士たちが2人を押しつぶそうと襲い掛かる。
圧倒的、数量を前に、じりじりと追いつめられる。
「aooooooooooohhhhhhhhaaaaaaaaaawwwwwrrrryyyyyyyyyy!!!」
咆哮。
女の声だ。
しかして、その在り方はまるで、狼にも等しい獣。
「な……あいつは……絶対兵士!」
危機察知能力が告げる。
リクの脳内が曇り、雷が鳴り始める。
「あぶねぇ!」
不用心に前に出たリクを、シャルルマーニュが咄嗟に前に出た。
瞬間の剣戟を防御する。
シャルルマーニュの剣、ジュワユーズがペコの高周波ブレードと衝突し火花を上げる。
「こいつが……『絶対兵士』か!」
「夜明けを染める赤」
二人のカナディアンマンが雌雄を決した決戦の地、天衝山脈。
それが今、轟々と地響きを立てて、リング諸共崩れ去っていく。
それを背にして今、真なるカナディアンマンが降り立つ。
「お帰り、カナディアンマン。」
「…スペシャルマン。」
スペシャルマンはいつも通りの笑みで、それを迎えた。
いや、笑みが少し強張っているか。
それもその筈だ。
「悪いな、一足先に自分とケリを付ける結果になった。」
「良いんだ。僕は僕の形で、世間からの批評に答えを付けるさ。」
彼はカナディアンマンの相棒。
故に同じく、形は違えど世間からの偏見を背負った身なのだ。
だからこそ、こうして先にその視線に対する答えを迎えられるというのは、同じ相棒である彼に先を行かれた様で、少し羨ましくあった。
そんな心中はカナディアンマンも分かっていた。
自身も、自分の復讐心等という存在と相対する等という事が無ければ、或いはスペシャルマンが先に答えを見つけていたかもしれないからだ。
「…だが、この戦いはまだ終わりじゃないぞ。」
「勿論だ、僕もここで終わりなんて御免被るよ。」
互いに意志を確かめ合い、二人は共に歩みを進める。
未だ戦を続けている同志達の下を目指して。
その時だっただろうか、暗がりに染まる空から、彼等の背中に眩い光が差し込んだのは。
「ん?見ろ、日の出だ…この世界の太陽も美しいんだな…!」
「ホントだ、綺麗な赤色だね!」
トラオムの中心に位置する山。
そこから覗く朝日は、彼等の門出を祝福する様に紅い。
月明りで蒼く彩られた星々の瞬く夜空を、群青色へと染め上げる。
世界に朝が、訪れる。
_鼓膜がはち切れんばかりの轟音と共に。
「…何か、可笑しくないか?爆音が聞こえなかったか?」
「奇遇だね、僕も同じ事を考えてた…」
さっきまでの情緒は何処へやら、二人は呆気に取られていた。
余りにも唐突過ぎる現象を前にして、一考。
もう一度朝日の方を見直すと、ソレは先程よりもずっと膨れ上がって、遥か空の彼方に歪んだ赤を作り出していた。
それが、"朝日とは別に"三つ。
「なぁ、もしかしてだけど…?」
「爆、発…?」
そうだ、と言わんばかりに、彼等の視界に映る赤は黒煙へと染まった。
形成されるは黒く淀んだキノコ雲。
そして己が威力を指し示す音速の輪。
「なぁ、あそこって"ブロッケン達が向かった先"じゃ…?」
そうしている間にも、地響きは徐々に大きくなる。
それは二人が今いる場所まで届いている。
即ち、今しがた降りてきた天衝山脈にもその揺れは届いている事に他ならない。
「「不味い…!」」
そう、先程崩壊を起こした山脈だ。
地盤との繋がりは零であり、ただ積み上げられた岩山と同義のそれだ。
そんな物に、大地を揺るがす程の衝撃が加われば、どうなるか。
その答えを指し示す様に、揺れは激しさを増して行き…
「「おわ、おわあぁーーー!?」」
遂に山はリング諸共崩落し、土砂崩れとなって降り注いだ。
◇
事は、数十分程前に遡る。
◇
絶望界域に位置する森。
希望対絶望の戦火が飛び交う戦線の最前線。
そこで繰り広げられる目まぐるしい闘争に、彼等は現れた。
「少し出遅れたか。」
「何、その分戦って取り返せば良い!」
希望界域から現れた三人組は誰あろう、スネーク達だ。
出立の前、スネークが考案した"ハルの機械弄り"に時間を少々取られたが、無事に辿り着いた様だ。
そうして参戦した訳だが、その表情には若干の焦りが見られる。
それもその筈。
「ふん、手柄は無数に転がっているみたいだな?」
「圧巻だな、数えきれねぇ…!」
眼前を占める敵の数が、余りにも膨大だからだ。
無名無豹の英霊達、現代兵器で武装した戦闘部隊、森に居て尚その存在を高々と主張する兵器の数々。
「だが、良い機会だ。」
しかし、彼等に怯む様子は見られない。
定石を弁えた上で戦術を取り、百戦百勝を繰り返す、それだけだ。
「行くぞ。」
「「おう!」」
先頭を切るは、ウォーカーギアを駆って出るスネークだ。
そのウォーカーギアは、まるで地を滑る様に走っている。
「アーチャー部隊、アイツを討ち取れぇ!」
「あ、当たらねぇ!?」
否、脚部に仕込まれたタイヤで以て森を駆けているのだ。
ハルの調整によって設計上の本領を発揮できるようになったウォーカーギアは、今までに無く洗練された駆動で戦火を潜り抜けていった。
そして腕部に装備されたガトリング砲の射程に、彼等が入る。
スネークの目付きが、変わった。
_ドオォォォォォォォ!!!!
「ぐぁっ…!」
「あぎぃ!?」
先程のお返しと言わんばかりに、銃火を噴いた者達へ鉛玉の雨が叩き込まれる。
ただ避けていただけでなく、攻撃を見て敵の配置を全て見切ったというのか。
恐るべき戦況把握能力、そして反撃への手練の良さ。
そしてそれを可能に出来るよう調節されたウォーカーギア。
数千の銃弾は無駄玉を一切出さんばかりの効率で、幾多もの物量をあっという間に引っ繰り返す。
「す、すげぇ…!」
「ふん、やるじゃねぇかスネークの奴。」
まさに一騎当千。
人という兵はその尽くが撃たれ、あちこちから火の手が上がっている。
そんな背中を見て、さしもの超人達も思う所があったらしい。
「俺達も負けてられねぇな?行くぞ!」
「あ、待てバッファローマン!クソ、俺も行くか!」
スネークを追い抜く様に前に出るは、バッファローマンとブロッケンJr.だ。
先の蹂躙で生じた混乱に付け込んで、生き残った強者や兵器の懐へと潜り込んでいく。
「て、敵襲!中に入りこまれ…うわぁ!?」
戦車、装甲部隊、ヘリ。
それ等を踏破するバッファローマンの"ハリケーンミキサー"の前には、如何なる兵器だろうと木偶人形に過ぎない。
加えて追随するブロッケンJr.の"ベルリンの赤い雨"が、残った一切合切を引き裂いていく。
「ぜ、前線を下げろぉ!」
鎧袖一触とはこの事か。
あれだけあった戦力が、ものの数十分で壊滅状態に陥った。
今残っているのは、この惨事の下手人のみ。
すっかり敗戦気味になった彼等を追い込む様に、二人の超人は前へ前へと出る。
「…深入りし過ぎだ、二人とも!もう十分だ、一旦引くぞ!」
「へっ、何言ってやがる!まだまだ暴れ足りねぇぜ!」
そうして闘争心に火が着いたのだろうか、スネークの叱咤をバッファローマンは受け付けない。
寧ろ挑発する様に、その巨体を敵陣に晒している。
対するブロッケンJr.の方も同様で、二人は完全に"戦う"ことに集中してしまっていた。
そんな時だった。
「撤退だ、"核"に火を灯せぇ!」
敵から聞こえた一声と共に、一切がその場を引いていき、残された兵器の残骸の中に"奇妙なドラム缶"が見つかったのは。
「…何だ、あれは?」
そのドラム缶は妙に小奇麗で、電子回路らしき物が取り付けられており、何より厳重に保護されていた。
核、火、電子回路、厳重な保護。
それ等が脳内で合わさった時、スネークの脳裏に恐ろしい光景が浮かび上がる。
気付けば、彼は叫んでいた。
「…逃げろ、今すぐにっ」
瞬間、戦場が瞬いた。
「虚ノ剣豪少女 その2」
「こいつが……『絶対兵士』か!」
シャルルマーニュが力む。
およそ女子高生が出せる力を超越した筋力に歯噛みした。
「気を付けてください!こいつ、時間経過でどんどん強くなっていく!」
リクの忠告は正しい。
この絶対兵士は時間経過で赤い光と血みどろの闘志が増してゆく。
「小僧、この騎士を嬲り殺しにしたら、次は貴様だ。」
「喋れたのか……!」
唸り声を上げていたはずの絶対兵士。
それが、言葉を放った。
冷静になった絶対兵士の顔と頭は、かつての■■■■■のクールさを醸し出している。
「どこ見ているんだ?お前の相手は俺だ!」
「むっ!」
騎士と剣豪。
2人の剣士が何度も何度も剣撃を繰り返す。
高周波ブレードと聖剣ジュワユーズ。
2つの剣が衝突するたびに、閃光と火花が散る。
「ふっ、楽しいな!」
「楽しいだと……わからん。」
もはや彼女に感情はない。
一切の記憶も感情もなく、あるのはただ一つの殺意のみ。
「殺った!」
一瞬、わずか一瞬の隙をついた。
回避しようのない一撃。
されど、彼___シャルルマーニュは人間に非ず、英霊である。
故に_____!
「そう簡単にやられっかよ!突貫!」
12振りの輝剣が、次々と前方に降り注いでゆく。
いくら歴戦の剣術家とて、全てを弾ききれるわけがなく数発受けてしまう。
「味な真似を……斬殺してくれる……。」
無感情に、されど闘志を滾らせ剣を構える。
「さぁ来い!」
___その時、遠くの森で赤い閃光が走った。
すさまじい熱と風と悪意が周囲をほとばしる。
「な、爆発!?」
「なんて威力だ……ぐぁ!」
遠くの森、敵陣にて爆発した小型核爆弾の爆風は狭間の森の木々と兵士をも吹き飛ばした。リクとシャルルマーニュ、そして絶対兵士は凌ぎ切れるがそれでも核爆破の威力はすさまじく、暴風が吹き荒れる。
「どけ!!」
2人を吹き飛ばす速度の疾走。
絶対兵士はそのまま、希望界域の拠点へと走っていった。
「しまった畜生!逃げられた!!」
「確かあの先には、デミックスと江ノ島さんが!仕方ない、あいつはあの2人に任せよう。先を!」
シャルルマーニュは悔しそうに、されど後を任せたような顔で先を急いだ。
「……頼んだぜ、2人とも!」
~希望界域拠点~
「な、爆破!?スネークたちは大丈夫なのか?」
十神が車椅子に乗った状態で、戦線の爆破を目撃する。
同じく拠点内にいた燕青も、その爆破を目撃した。
「マジかよ!しかも……こっちに誰か来てる!」
超高速で飛ぶ、赤い光。
待ち構えるのは、2人の戦士___デミックスと江ノ島盾子。
「来る!」
デミックスの水の壁が、絶対兵士の前に立ちはだかる。
しかしそれすらも切断する。
夜明けの光と爆破の炎に照らされ、絶対兵士の刃が江ノ島に襲い狂う!
「お前があいつの言ってた『絶対兵士』か!辺古山ァ!」
「絶望の化身が正義の味方とは、語るに堕ちたな。」
「復讐の姉妹、そして裏切り《後編》」
一方その頃、宗介達はアマルガムのAS部隊と激戦を繰り広げていた。
「フン!ハッ!」
「ぐわぁあああ!?」
クルーゾーの乗るM9Dファルケが体術を使った近接戦闘でアマルガムのASを次々と破壊する。
「な、なんだあのASの動きは!?」
「あの動き……まさかやつはドラゴンワールドの人間か!?」
「ドラゴンワールドか……あそこの武闘家達とはかつて手合わせをしたこともあるが、私はカナダ人だ!」
彼は中国武術に通じており、その動きや戦い方はドラゴンワールドに存在する様々な武術や拳法などと酷似している。
《SPEEDTIME!リバイリバイリバイ!リバイリバイリバイ!リバイブ疾風!
疾風!》
「姿が変わった!?」
ゲイツはゲイツリバイブ疾風へと強化変身。
「ええい!そんな虚仮威し、通用すると思うな!」
アマルガムのAS部隊はマシンガンでゲイツを攻撃するが……
「そんな攻撃が当たると思うな!」
ゲイツは目にも止まらぬ速さで動き、アマルガムのAS部隊が撃った弾は一発も当たらない。
「は、速すぎる!?」
「う、うろたえるな!超スピードで動く相手など、対ラムダ・ドライバ搭載機の訓練で経験済みだ!」
そう言い一体のASがゲイツへ向かって撃つが……
「っ!?弾が全弾やつの身体をすり抜けている!?」
「いや違う……あれは残像だ!本体じゃない!?」
「なんだと!?」
「馬鹿な!?質量を持った残像だと言うのか!?」
「そろそろ終わらせるとするか……」
そう言いゲイツはゲイツリバイブライドウォッチをジカンジャックローにセットする。
《疾風!スーパーつめ連斬!》
「ハァアアア…!だりゃああああああ!!」
「う、うわぁああああああああああ!?」
目にも止まらぬ連続攻撃でアマルガムのAS部隊を次々と撃破する。
「ハァアアア!」
ツクヨミもグローブから光刃「ルミナスフラクター」を生成し、アマルガムのASを次々とぶった斬っていく。
仲間達がアマルガムのAS部隊と戦っている中、宗介は夏玉蘭と夏玉芳が乗る2機のコダールmをたった1人で同時に相手をしていた。
「よくも、よくも先生を!」
玉蘭はラムダ・ドライバを起動し、宗介の乗るレーバテインを怒り任せに偃月刀で攻撃する。
が、宗介はそれを受け流す。
「感情的になってラムダ・ドライバ頼りの特攻するとは、アイツはお前を三流の兵士として育てたようだな」
「っ!黙れぇ!」
宗介の煽りにより更に逆上した玉蘭は更に連続で攻撃仕掛けるがことごとく受け流される。
「落ち着きなさい玉蘭!そんなに感情的になったら…!」
(今だ…!)
宗介は玉蘭の攻撃をかわすと、そのまま彼女の乗るコダールmの後ろへ回り込む。
「っ!しまっ…!」
宗介はコダールmの頭部を掴み、機体を地面に押し付けると、「ボクサー2」76mm散弾砲をコックピットに向けて何発か放った。
「姉……さん……」
コックピットごと撃ち抜かれた玉蘭はそう言い残し絶命した。
「玉蘭!
……よくも!」
玉芳の乗るもう一機のコダールmはライフルでレーバテインを攻撃するが、
宗介はそれをかわしながら玉芳へと接近する。
(照準が合わない…!?)
目の前で妹を殺された怒りか焦りか、それとも恐怖か……玉芳の両手が僅かながらに震え、それによりライフルの標準がブレてしまっている。
当然そんな状態で撃つ弾なぞ、一般人や素人ならまだしも軍人である彼に当たるはずがなく……
ガチャ…
「なっ…!?」
いつの間にか、レーバテインは玉芳のすぐ目の前まで来ており、デモリッション・ガンの銃口が押し付けられていた。
「……終わりだ」
宗介はデモリッション・ガンを零距離で放ち、コダールmに大きな風穴を開けた。
(……あぁ……先生、玉蘭……ごめんなさい……二人の仇……取れなかっ…た……)
コダールmは中に居た玉芳ごと爆散した。
「束の間の安らぎ」
――復讐界域拠点。
カナディアンマン・オルタは敗れ、バイオブロリーも消滅、そしてパラガスも逃亡……
指揮系統を破壊され、混乱する敵兵達の中には希望界域に投降する者、逃げ出す者、
絶望界域に渡り、尚も抵抗を続ける者もいた……。
バイオブロリーを倒した悟飯たちは蛻の殻となった復讐界域拠点に辿り着き、
疲れた体を休めていた。
「やれやれ……ようやく一息つけますね……」
「ええ……一時はどうなることかと」
自己再生を繰り返し、戦えば戦うほどに戦闘力を増していくバイオブロリーとの
死闘から解放された安心感と疲労で脱力している悟飯たち。
「カナディアンマンさんとスペシャルマンさんは大丈夫でしょうか?」
天衝山脈での決闘に応じたまま戻ってこない二人を心配しているようだ。
「ここでブロリーのクローンを製造していたようだな……」
拠点の地下を探索していたベジータと法術士ニュー。
「禁忌の邪法だ。この施設を破壊したほうがいいかもしれませんな」
「あのブロリーがまた増えて現れても面倒だ。そうしておくか……」
ベジータは研究施設にエネルギー波を放ち、跡形もなく破壊した。
「あ痛てててて……酷え目に遭ったな……」
バイオブロリーの攻撃で負傷した森長可が治療を受けていた。
幸い、拠点には医療用設備も整っており、長可は傷の治療を受けられることになったのだ。
全身に負った火傷、切り傷、打撲傷までもが瞬時に回復する。
「ほう……こいつはすげえや! 痛みまで消えちまった!」
「長可殿も良く戦い抜いてくれたな。感謝するぞ」
長可を手当てする剣士ゼータが言う。
「うむ。鬼武蔵の名に相応しき見事な戦いぶりであったぞ」
闘士ダブルゼータも同意して褒め称える。
「へっ、よせやい。アンタらアルガス騎士団の連携も凄かったぜ?
流石は天下無双の猛将ってところだな」
照れたように笑う長可。皆で勝ち取った勝利だ。
絶望界域のアレート城塞に続き、復讐界域拠点を攻略する事に見事成功した
CROSS HEROES。次なる舞台はいよいよ絶望界域の中枢である。
一方その頃、絶望界域・ダークシティ地下施設。
メサイア教団によって誘拐された者たちが閉じ込められている場所がある。
「おい、聞いたか? 復讐界域が壊滅したらしいぜ?」
見張りの兵士が仲間と話し合っていた。
「アレート城塞に続き、復讐界域が総崩れとは……
つい最近まで3界域で最も弱小だった希望界域がここまでやるとはな」
「希望界域に加わったCROSS HEROESとか言う連中はそれほどの者なのか……」
(CROSS HEROES……やはり来ているようだな、あの連中が……)
その会話を、牢の中のピッコロが聞いていた。
人間よりも発達した聴覚を持つ彼にとっては、人間の声など簡単に聞き取れる。
「ね、ね、ピッコロ。あいつら何て言ってるの?」
隣の檻に閉じ込められたブルマが聞く。
「どうやら、奴らの話では戦いの流れが変わったらしい。
CROSS HEROESが介入したおかげでな」
「CROSS HEROES!? やったぁ、これで何とかなるわネ!」
ピッコロは情報を集めつつ、密かに脱獄の機会を伺っていた。
だが、今はまだその時ではないと踏んでいる。
共に捕らえられているオセロットはともかく、ブルマやウーロンは一般人だ。
下手に脱出させれば騒ぎになるし、足手まといになりかねない。
今はひたすら機会を待つしかないだろう。
(CROSS HEROESが来てくれたのならば、必ずチャンスは巡ってくる……
それを待つしかあるまい……)
「核」
光が、熱波が、衝撃が、大地が。
その空間という空間全ての存在が、四方八方を駆け巡る。
たった一つのドラム缶から解き放たれた灼熱の奔流。
それは辺り一帯を無差別に焼き尽くし、激震を伴って大気を討ち震わせ、一切合切を打ち砕いていく。
全てが終わった後には何も残らず、ただ全てが塵芥へと還った象徴たる爆炎が立ち昇るのみだった。
ドラム缶の中に蓄積されていたエネルギーは、それこそ天災とも言える物だった。
全てを焼き尽くし、消し飛ばす破壊力。
しかし、それもその正体を知っている者からすれば当然だと言える物だ。
核爆弾。
人類史上における、最大の爆発兵器。
それを目の前で見せつけられた男は、己が命の終わりを悟った。
否、確信したのだ。
アレだけの大爆発に巻き込まれた自分が生き残るなど、あり得ないと。
だからこそ、彼は覚悟を決めた。
◇
「…けほっ」
咳。
口から吐き出る異物の感触。
即ち、肺呼吸という生命活動の一環。
それを知覚したスネークは、自らの意識が薄っすらと覚醒する感触を覚えた。
「あぁ…」
同時に、身体中の痛覚という触感が、焼ける様な鈍痛を脳へ伝えてくる。
指先一つに至るまで、神経の一本も余すことなく。
だがそれは逆に、彼の身体が何ら欠損もせず、怪我の程度は大きいものの正常に異変を知らせる機能を持っている事の証左である。
詰まる所。
「…生きて、いるのか、俺は?」
意識を手放した後、自分はどうなったか。
それを思い出そうとして、自分の身体に目をやる。
そうして初めて、己の半身が土砂の中に埋まっているのだと分かった。
塵を挟み込んで軋みを上げる、左腕の義手。
右手越しに伝わる、湿った土の感触。
次第にはっきりとしていく意識が、漸く周囲の状態を脳へと伝え始めた。
一先ず。
「…コイツは?」
僅かな光が差し込む環境で良く見えないが、己に覆い被さる形で鉄の塊らしきものが圧し掛かっているらしい。
それを押しのけようと、両手に力を入れて押し込む。
金属の軋む重低音と共に、幾らかは押し上がった。
お陰で地面と塊との隙間から差す光は強くなり、その正体を照らし出した。
「ウォーカーギア、か。」
それは、自分が意識を失う寸前まで騎乗していた人型兵器。
成程、重いのも頷ける。
ならばと一縷の望みを賭けて、手探りでパネルを操作する。
左腕の義手を支えに、触覚の働く右手で。
コイツか、とレバーやスイッチを弄り回すと、あっさりエンジンが掛かる。
「動くのか、驚いたな…!」
唸りを上げる、ウォーカーギア。
思いの他、簡単に動いてくれた様だ。
そのままゆっくりと立ち上がり、土煙を上げて直立し、スネークの上から退いてくれた様だ。
「けほっ、ごほっ…」
やがて視界を遮っていたウォーカーギアと土煙から身を乗り出し、改めて周囲を見渡す。
そこに広がるのは辺り一面は荒野と化した更地であり、嘗て森であった面影は一切ない。
全てが灰一色に染まった、荒廃した光景ばかりだ。
唯一あるとすれば、彼が倒れていた地点よりずっと遠くに映る、何かに薙ぎ払われた様に横転する樹々だろうか。
そう、巨大な何かに。
「…そうだ、爆発。」
そこで漸く、自身が未曾有の大爆発に巻き込まれたという事実を再確認する。
同時に、自身がウォーカーギアによって守られていた事も。
その事を指し示す様に、ウォーカーギアの前面装甲は酷く焼け爛れ、溶けていた。
それ程の熱波や衝撃を一身に請け負ってくれたからこそ、今動けるのだと。
「守ってくれたのか…」
_ガガ、ガ。
そのウォーカーギアから、突如として異音が鳴り響く。
音は絶えず、ガリガリと何かを擦る様な乾いた電子音を鳴らし続けている。
_故障か?
突然の事態に身構え、しかしそれ以上の事が無いのを確認すると、ゆっくりと音の元を覗き見る。
パネルの一部分、あるメーターと一体化したスピーカーからだ。
メーターに描かれている模様は、放射能のマーク。
即ち。
「ガイガーカウンター…放射線量測定装置か!」
正体が分かったと同時に、ここを放射能汚染下であることを指し示していると判明した。
真っ先に思い当たる原因はやはり、先の爆発。
「…やはり、あれは核で間違いない。」
であれば、ここに立ち止まっているのは危うい。
一刻も早く立ち去らねば。
だが、その前に一つ懸念事項があった。
「…ブロッケン達は何処だ?」
そう、先行していた仲間の超人達だ。
爆発の直前、自分は彼等と一緒に居た筈。
だというのに、この場で一緒になっていないというのはおかしい。
_もしかすると、跡形も残らなかったのではないか?
そんな予感が脳裏を過った時だった。
「…っぶはぁ!ハァ、ハァ…」
突如として塵を撒き上げ、土の中から這い出る様に何かが現れた。
咄嗟に拳銃を抜き、照準を煙の中心へと向ける。
だがやがて煙が晴れていくと、そのシルエットがはっきり見える様になる。
その形を見て、スネークは拳銃を下げ、問いかけた。
「…ブロッケンか?」
「あぁ、その声はスネークか…!」
ブロッケンJr.の声と姿が返って来て、漸くスネークは警戒を解いた。
対するブロッケンJr.も、五体満足の様子で周囲を見ている。
見た所、目立った傷等は見つからなかった。
奇妙な程に。
「って事は、ここはあの世じゃ無さそうだな。」
安心した様に呟くブロッケンJr.
超人と人間ではあの世は別々である故の理屈だった。
人間にとってのあの世はどうだか知らないが、死んだ超人は超人墓場に、超人墓場には死んだ超人のみと決まっているのだ。
超人の自分が死んでいれば人間のスネークと一緒である筈がないという理論だ。
最も超人墓場が崩壊している今、その理論も成り立たないのだが、今の彼等にソレを知る術は無い。
閑話休題。
「ブロッケン、ここは核爆発で汚染された様だ。今すぐに離れないと不味いぞ。」
「ならとっととバッファローマンを見付けねぇとな。」
「あぁ、アイツも無事だと良いが…」
ブロッケンの言葉で、辺りを見渡す二人。
しかし、肝心のバッファローマンの姿が見当たらない。
まさか、蒸発したか?
嫌な想像が浮かぶ中、ふとブロッケンJr.の視界の端に何かが動く。
見れは、それは先程ブロッケンJr.に覆い被さっていた、妙に重たかった土の塊。
否。
「…おい、まさか。」
「どうした、ブロッケン?」
ぶわっと冷や汗が湧くのと同時に、彼は土の塊を掻き分けていた。
脳裏に過ぎった嫌な想像が、彼の手を急がせる。
土を払って、掬って、退けて。
「あ、あぁ…!」
そうしてその想像は、現実の物となる。
土から姿を見せるのは、バッファローマンだ。
「あぁ…!!」
脈拍はある、息もしている。
だが。
「_ぁ。」
「バッファローマン、お前…!!」
その身体は重度の火傷を負い、皮膚の至る所が炭化していた。
それはつまり、バッファローマンが彼を庇ったという事だった。
核爆発の超高熱から、彼を守る為に。
その結果が、この有様だった。
「嘘だ…嘘だぁーーー!!!」
その現実にショックを受けた彼は、暫し呆然と立ち尽くした後、力無く膝を折った。
「progress of despair」
夏玉蘭・玉芳姉妹のコダールmを撃破した宗介。
「……ふむ、頃合か」
その報は即座にカリーニンにも伝わった。彼は至って冷静に、冷淡に、
素早く行動を開始する。
「カリーニン少佐……」
「お別れだ、勇者アレク。次に会う時は敵同士だろうな」
「……」
「さらばだ」
そう言うと、カリーニンは踵を返してCROSS HEROESの前から立ち去った。
「正直、助かったぜアレク。アンタとローラ姫が来てくれなきゃゲッターとマジンガーを
出せない俺たちはカリーニンのおっさんにやられてたかもしれねえ」
「だが、カリーニン少佐がアマルガムの回し者だったとすれば、
どれだけの情報が漏れていたのか気になるところだな」
「別働隊の宗介に何て説明すりゃいいんだ? 『実はカリーニンがスパイでした』って?」
戦争孤児である宗介にとって、カリーニンは戦場で宗介の身元引受人になった
恩人だった。そんな彼がまさか敵側の人間だと知らされても納得できないし、
それを知った宗介も混乱するだろう。
「アレク様……」
「長らくCROSS HEROESを留守にしていたために、こちらの動きを把握されずにいたのが
不幸中の幸いと言った所か。とにかく、私も情報が欲しい。甲児、竜馬、頼めるか」
「ああ。腰を抜かさないようにな。アンタらがいない間、何度ぶったまげるか
分からねえ程に色々あったんだぜ。色々とな」
――復讐界域。
「何だ……?」
復讐界域拠点にいた悟飯達は、何やら地響きのようなものを感じた。
同時に天衝山脈が土砂崩れで崩壊したと思われる音が遅れてやって来る。
「あの山は……カナディアンマンさん達が向かった天衝山脈とか言う場所では……」
「おいおい、地震かよ!?」
「何か嫌な予感がする……ここの通信設備を使って希望界域の十神さんたちと
連絡を取ってみよう」
早速、通信機を操作する悟飯。すると、モニターの向こうから通信兵の声が
聞こえてきた。背後からは戦闘音らしきものが聞こえてくる。
『ご、悟飯さんか!?』
「どうしたんです、一体!」
『そっちは無事なのか?』
「はい、こちらは問題ありません! それよりそちらは……」
『こっちは今、大変なことになってる!』
通信兵はひどく焦っている様子だったが、それでも事情を説明してくれた。
『絶望界域の連中が……核をぶっ放したらしい!!』
「なんですって……!?」
「さっきの振動は核爆発の音だったというわけですか……ここまで衝撃が届くとは……
それで、絶望界域に向かった皆さんは大丈夫なんですか?」
『それが、まだ情報が錯綜していてよく分からないんだ……
とにかく、俺達の方でも情報を集めてみる。じゃあな!』
そこで通信は切れてしまった。
「悟飯殿、核とは……?」
「……僕たちの世界で生み出された最悪の兵器です。凄まじい破壊力と、
人体を蝕む毒を撒き散らし続ける悪魔の爆弾ですよ」
「まさか、このトラオム内でそれを……?」
「可能性は高いですね……」
アルガス騎士団の問いに答える悟飯の顔には怒りの表情があった。
バイオブロリーのクローン技術に続き、今度は核……
まさに絶望界域の名に相応しい所業である。
「私のターンの魔法で、希望界域拠点へ戻りましょう。
一度訪れた事のある場所なら転移が可能です」
「分かりました」
「では参ります」
こうして、法術士ニューの魔法で希望界域拠点への帰還を図る悟飯たちであった……
「一進一退のトラオム ジェームズ・モリアーティ、動く」
~希望界域拠点~
「……。」
法術士ニューのターンの魔法により帰還した悟飯たち。
核爆破から身を挺して守ったバッファローマンを抱え、命からがら帰還したスネークたち。
絶対兵士___辺古山ペコ・オルタの襲撃の後絶望界域へと向かおうとしたところ、十神からの通信を受けて帰ってきたシャルルマーニュたち。
全員に、共通して言えることは。
「この状況じゃ完全勝利、とは言えないか。」
全員、真剣かつ悩みに悩んだ顔だった。
無理もない。
核爆破によるバッファローマンの被曝と戦闘不能。
天衝山脈の崩落によるカナディアンマンとスペシャルマンの未帰還。
パラガスの逃走。
とても完全勝利を祝う気持ちにはなれない。
だが___。
「落ち込んでいても始まらん。切り替えて次の策を練ろう。」
十神の言うことももっともだ。
いつまでも鬱な気分に浸っていても時は待ってくれない。
こういう絶望的な状況にこそ冷静にかつ希望を持って行動すべきなのである。
閑話休題。
「残された道はもう、崩落した天衝山脈を通って絶望界域へと突入するしかない。」
「待ってください、人間ならばまだしもシャルルマーニュさんや燕青さんのようなサーヴァントの皆さんとかは、核爆弾が放つ毒の影響を受けないのでは?」
「どういうものかはわからんが、人間と比較すればそこまでは受けないと思うぜ。」
悟飯や燕青の言うことも正しい。
核爆弾が依然放っている放射能の影響。
人間や超人ならば致命的だが、実体を持たない英霊___サーヴァントや機械であるアルガス騎士団にはそこまで影響はない。
それでも、少しはダメージにはなるだろうが。
「そうか、では天衝山脈とアレート城塞を通る2つに分かれ、時間差での挟み撃ち作戦とするか。私のケガも、ぐぐ……!」
ゆっくりと、十神が立ち上がり、近くに置いておいた松葉杖を取る。
「杖は必要だが、歩けるようにはなった。だが、戦闘は期待しないでくれ。」
と、話していると。
「あの、十神さん。」
「どうした、リク?」
「俺たちが狭間の森で出会った『絶対兵士』についても話しておこうかなと。」
絶対兵士の一言で、スネークが驚く。
「絶対兵士!?____ちょっと待て、そいつについて詳しく教えてくれるか?」
「知っているんですか?」
「俺も一度……会ったことがある。」
スネークがかつての戦いの話をする。
忘れもしない。あれは1970年代の頃。
『弾道メタルギア』と『相続者計画』を巡る戦い。
その過程で出会ったある兵士。名は『ヌル』。
___彼もまた、絶対兵士であった。
その後、スネークが知りうる限りの絶対兵士の情報を話した。
「そんなむごいことが……!」
リクはその凄惨さに吐きそうになる。
無理もない。
一切の記憶と感情を消去するだなんていう惨たらしいことをしてまで、勝利が欲しいのか?それが人間のやることなのか?
なんて話していたら。
「はぁ……はぁ……こいつ強すぎんだろ……!」
「いやほんと。大丈夫?」
拠点を守っていた2人が、帰ってきた。
「……デミックスと江ノ島……と、誰だそいつは?」
「あんたの言う『絶対兵士』。何とか気絶させて連れてきた。」
「ほんと、江ノ島ちゃんだけをこの子集中して狙ってきたんだよね。いやらしいったらありゃしない。」
ボロボロになった江ノ島と、デミックス。
そして、デミックスの脇に抱えられた少女。こいつが噂の『絶対兵士』だ。
見てみると、どうやら気絶しているようだ。
___しかし、十神の言う"そいつ"とは。
「いや、俺はその後ろの男のことを聞いたんだが。」
「後ろ?」
十神が2人の背後を指す。
「それはもう、まるで憎くて仕方がなかったいじめっ子を嬲り殺しにするかの如くだったネ。」
そこにいたのは。
銀色の短髪。雷型のアホ毛に黒い服。そして___巨大な錫杖を手にした好青年。
「ご紹介にあずかったので言っておこう。私は___『ジェームズ・モリアーティ』。このリ・ユニオン・スクエアに宿る『抑止の守護者』だ。この一件を鎮圧するため、そして、その先にやるべきことを告げるため。君たちのことを助けに来た。」
「Go WEST」
――特異点・杜王町。
『なるほど、CROSS HEROESに別世界の協力者と接触できたのか。それはまた心強い』
立香は通信端末でカルデアのダ・ヴィンチとホームズに状況を報告した。
「これから皆さんと協力して聖杯を回収することになりました」
『了解だ。その方が私達も動きやすいしね』
『だが、気をつけたまえ。特異点に蠢いているのは味方ばかりとは限らないからね』
ホームズの言葉に立香がハッとする。
この世界にいるのは自分達だけではない。
聖杯を所持している竜王は勿論のこと、それ以外の敵もいるはずだ。
『以前、君たちが特異点から弾き出された時とは地形も変わっているようだしね。
十分に注意したまえよ?』
「勿論です。先輩は私が守ります!」
マシュが力強く宣言する。
それに微笑んで応えると、立香は再び意識を切り替えた。
『聖杯の反応は動く気配はないね。依然として竜王が所持しているみたいだ』
ダ・ヴィンチの声に全員が緊張を高める。
「まずは散り散りになった仲間を集めて、戦力を増強しようと思います。いいかな?」
「そうだな。一度は竜王を倒したと言う勇者アレクがここにいれば、
攻略の糸口も見えたかも知れんがな。
今頃は無事にCROSS HEROESに合流していればいいが……」
承太郎の言葉に一同が沈黙する。
ようやく長き秘宝探しの旅から帰還した勇者アレクとローラ姫であったが、
カリーニンの裏切りによってCROSS HEROES本隊が大混乱に陥っている事を
彼らはまだ知らない。
「仗助くん!」
仗助の友人にしてスタンド能力に目覚めた少年、広瀬康一が駆け寄ってくる。
彼は自身のスタンド「エコーズ」を使って偵察を行っていた。
「おう、康一。どうだった?」
「杜王町から少し離れた所でいくつか戦闘が起こっているみたい。
敵か味方かまでは分からないけど……」
「ここから一番近い場所はどこでしょうか?」
マシュが尋ねると、康一は地図を広げて指差す。
「ここから西に少し行った所ですね。そこで誰か戦っているみたいなんです」
すぐにでも駆けつけたいところであるが、全員揃っていくわけにもいかない。
まずは少人数で調査を行う必要があるだろう。
誰が行くべきか? 話し合いの結果、介人、仗助、金時、清少納言、
そして康一が現地に向かうことになった。
「マスターはここで待ってな。ちょっとした偵察みてえなもんだが、
こう言う時は俺っちみてえなサーヴァントの方がもしもの時に対応しやすいと思うぜ」
「うん……でも、魔力供給無しだと金時もなぎこさんも本領が発揮できないし、
無茶はしないで」
「心配性だなー、ちゃんマスはー! なーにすぐ帰ってくるってー!
お土産待ってなー?」
笑いながら、バンバンと立香の背中を叩く清少納言。
彼女なりにマスターを心配させまいとしているのだろう。
サーヴァント達とは違い、立香は魔術師である事以外は至って普通の人間だ。
予想外のアクシデントで命に関わるような負傷をしてしまった場合、
やり直しは利かないのだから。
現在の特異点においては何が起きても不思議ではない。
「ジュラン達が戦ってるのかも知れないし、急ごう!」
康一の案内で一行は西に向かって出発した。
「核飽和のカウントダウン」
塵灰交じりの暗雲が、大地の底より立ち昇り、澄み切っていた空を蹂躙する。
見る者を圧巻し畏怖させるそれは、生命を害して有り余る激毒を伴っていた。
彩り豊かな生命を死一色へと染めるそれは、放射能と呼ばれる人智の毒。
生命を、無機物を、時として風評という形で概念すらも汚染する穢れだ。
そんな余りにも凄惨な、しかし無味乾燥とした災禍が、ここトラオムの一角へと蔓延していた。
…その光景を、鉄網細工のガラス越しから遠巻きに見つめる女性が一人。
「あれが貴方ご自慢の商品って訳ね。」
艶のある茶髪を靡かせながら呟く21号の声色には、邪気の籠った高揚感が含まれていた。
彼女の瞳に映るのは、ただの薄汚れた曇り空だけではない。
見果てた先は、かの地獄が作り出す絶望(みらい)と、その中で育まれる希望(つわもの)。
そして、育ち切った希望という果実達を貪る自分の姿。
21号の内を満たすのは。来たる未来への歓喜一色だった。
「喜んでもらえた様でありがたい限りだ。」
だからこそ対照的に、彼女と相対する男の冷徹さが際立った。
灰色に焦がれた肌を持つ男、スカルフェイスはただ社交辞令的に言葉を紡ぐ。
言葉の意味こそ汲み取れど、声質から感情を伺う事は出来ない。
そんなスカルフェイスの様子など露知らず、21号は軽い足取りで窓から離れた。
元よりお互いの内心を探り合う仲でも無い二人にとって、相手がどう思っているか等は二の次である。
故に彼等は必要以上の会話をする理由も無く、淡々と話を進める事を選んだ。
「で、あの『手作り核セット』はいつ実戦投入可能なのかしら?」
「もう間もなくだ、先の使用で実証性は確立されたからな。」
21号の問い掛けに対して、簡潔に返答するスカルフェイス。
先の使用、即ち希望・絶望界域間の戦闘に起きた、核爆弾3つ同時の核分裂・爆破実験。
その全ては成功し、今やトラオムの一角を更地へと帰し、灰一色に染め上げてみせた。
そして同時に、21号の言う『手作り核セット』なる物が実戦利用可能な証でもあった。
「そう、ならもう手抜かりは無いわね?」
その事を目の前の男に次いで理解しているからこそ、21号は確信を込めて問う。
自らの欲望を満たす為に必要なピースが揃いつつある。
「あぁ、復讐界域というだけに、そこから流れてきた者達の報復心は大きい。」
対するスカルフェイスも満足気に口端を歪め、静かに呟いた。
彼の傍らに佇む『第三の子ども』もまた、何処か高揚している様だった。
「報復心は集った。後は私の指示一つで全てが終わる、いや始まるだろう。」
世界が核で満たされる日は、彼にとって待ち望んだ瞬間でもある。
全ての準備が整った今がその時なのだ。
故に。
「今こそ、サヘラントロプスを再始動させる時だ。」
決意と共に放たれたその言葉を受けて、彼の目が細められた。
核飽和に必要な最後のピース、それは広告塔(ブランド力)。
各地であらゆる猛威を振るった、サヘラントロプス最後の仕事だ。
彼等サイファー、もといXOFの技術力の粋たるサヘラントロプスは、存在そのものが一種のプロパカンダである。
即ちサヘラントロプスという技術の元、世界各国のゲリラやテロリストへと核は渡る。
サヘラントロプスが有って初めて、核流通は始まるのだ。
「漸くだ…私から『母国語』を奪ったアメリカが覇権を失う時が来た。」
そして世界中に広まった核を己一人が制御する事で、漸く彼の『報復』は完了する。
故にスカルフェイスはその存在を再度世界に、裏社会に指し示さなければならない。
今度は、己の物として。
「ふぅん。でもアレ、動くのかしら?」
だが、件のサヘラントロプスは先のアレート城塞戦において、シャルルマーニュによって破壊された。
今や『第三の子ども』によって歩くのがやっと、と言った有様だ。
しかし。
「問題無い、その為に絶望・復讐界域の報復心を一つに練り上げたのだからな。」
スカルフェイスはその事も織り込み済みだと言外に告げる。
練り上げた幾多の報復心をスカルフェイスの元で一つにし、それを以て『第三の子ども』を通じ制御する。
無論、万全の状態で使用するのは不可能だと考えている。
だがそれでも構わない。
要するに動けば良いのだ。
「それに、お誂え向きの舞台もある。」
そう言って彼が指差すのは、トラオムの地図に書かれた一つの塔。
名を、狙撃塔。
何の名目上でそう名付けられたか、スカルフェイスにとっては知り得ぬ事だ。
しかし、今のサヘラントロプスにとってこれ以上の良物件は無い。
「動けぬなら動けぬなりに、狙撃に徹すれば良い。」
十全に稼働した時のデータは、既にCHが出している。
ならば後は狙撃塔の頂上にて実績を出すのみだ。
何より、機体のエネルギーをレールガン一つに集約できる。
つまり。
「狙撃塔からならば、一方的に撃ち降ろせるからな。特に"更地を行く者"は。」
更地、即ち"トラオムの一角を縦断するクレーター"を行く者ならば、装甲や回避等関係無く葬れるという訳だ。
一方的に発見でき、向こうの射程外から一瞬で着弾するレールガンを無数に撃ってくる。
どれだけ恐ろしい戦術かは、言うまでも無いだろう。
その言葉に21号は納得した様で、それ以上追及する事は無かった。
「では、行ってくるとしよう。」
別れの言葉を最後に、21号を残し、彼は部屋を去った。
静寂を取り戻した室内に、一人取り残される。
しかしそんな事を気に留める彼女では無く、何時もの様に笑みを浮かべては。
「報復心に満たされた世界、楽しみね。」
小さく静かに、されど確かに呟いた。
それは誰に向けた物でもない、ただ己の愉悦を満たす為の独り言。
そうして一人満足した後、彼女もまた立ち去った。
後に残るのは誰も居ない。
(…あっぶねぇ、バレてねぇよな?)
ただ一匹、屋根裏に潜んでいた豚を除いては。
◇
「成程、核飽和か。世界をひっくり返すには打って付けだ。」
監視の目を盗んでは変化を駆使して拠点を嗅ぎまわっていたウーロン。
オセロットの指示の元で行われていたそれは、重大な情報を見事掴んでみせた。
極限環境微生物と国境検査に引っ掛からない僅かばかりのウランを使ってひっそりと流通する、現地製造可能な核兵器。
成程、米露等の軍事力も塵に還りかねない程の野望だ。
一見空想上の理論でしかないそれは、しかし科学の権威たるブルマ博士の言葉が実現可能だと証明していた。
戦略的な情報だけでもこれだけの物だが、戦術的な情報もある。
「それにサヘラントロプスの事もある、事前に知れたのは僥倖だった。良くやったな。」
「ホント、肝が冷えたぜ…」
そう、レールガンでの砲撃の件だ。
「何とか向こうに伝えられれば良いが…」
向こうがいつ動き出すか分からない今、一刻も早く伝えなければならない。
だが、その手段が牢獄にある筈も無い。
_否。
(…いや、無い事は無い。)
居るではないか、通信手段をくすねる事が可能な者と、暗号通信を行えそうな者が。
思い立ったオセロットの決断は早かった。
「よし、ウーロン、それからブルマ博士。もう一働きして貰うぞ?」
「え?」
「幕間:覚醒、■■■■■■」
~特異点 ポイント・ユグドラシル跡地~
「____!」
メサイア教団のコントロールを失い、一人暴走する機兵。
ヘラクレス・メガロス。
かの機械英霊は今以て、暴走している。
無数のミサイルを放ち、周囲を更地にしている。
「……?」
そんな彼だったが、近くに落ちているあるものを確認した。
あれは……神精樹の実か?5つほど転がっている。
きっと、グリムリパーが拾い損ねたか落としたものだろう。
メガロスはゆっくりとその身を拾い、そして___口にする。
「______!!!」
刹那、彼の脳内の雲が晴れる。
靄が消え去り、力が湧き出る。
まばゆい光と共に、その姿が顕れた。
「……………ここは。」
ロケットランチャーすらも無効化する鎧を外し、その姿をさらす。
赤い肌、胸から腹部に至るまでに大々的に映る模様、幽鬼の如く細い長身痩躯。
その手に握られた細い弓が、その狂気と恐怖と威圧感を醸し出す。
まるで、禁忌に触れた咎人。
英霊とは程遠い幽鬼。
「……教団め、この私をあんな忌み名で……!」
ヘラクレス、という名を忌み名として忌み嫌う在り方。
憎悪の棘が彼を包み、彼の名を回帰させる。
「この『アルケイデス』を洗脳し、あまつさえあの名で呼ぶとは……屈辱!」
アルケイデス。
ヘラクレスのかつての名であり、そのヘラクレスの『別側面(オルタ)』。
ヘラの栄光を侮蔑し、唾棄する復讐者。
されど___今は。
「アレは……町か。___せっかくの自由だ、向かってみるとしよう。」
彼は走り出す。
その足は英霊の中でもかなり早く、ギリシャ神話随一の英霊の名は伊達ではない。
~杜王町 町内~
「あ!?なんだあいつ!?」
「速いッ!あまりにも速いッ!」
「なんだあいつはァァアアアアッ!!」
町民が、その男を凝視した。
アルケイデスが、赤い風となって走っている姿を!
「ちょっと君!なぜだね!半裸で走っているのは!?」
警官が、彼を呼び留める。
銃を突き付けている点、相当お怒りのようだ。
にもかかわらず___当のアルケイデスは立ち止まり、名乗りを上げた。
「我が名は、アルケイデス。アムピトリュオンとアルクメネの子にして、ミュケナイ王家の血を引く者なり!!」
「奇妙な来訪者」
「外が騒がしいな……」
仗助達が杜王町を発ったのと入れ違いに、何やら町の外から物音が聞こえる。
「何事でしょうか、先輩……」
マシュの言葉を聞きながら、立香は不安そうに窓の外を見る。
警官が、身の丈2メートル近い大男が暴れているという通報を受けて、出動していた。
「何だあいつは……?」
「お知り合いではないのですか? 空条さん……
CROSS HEROESのメンバーの方、とか……」
問いかけるマシュに対し、承太郎は首を横に振る。
「知らんな……だが、どうにも気になる。おい、少し様子を見に行くぞ」
そういうと、承太郎たちは外に出た。士、マシュ、立香もその後ろに続く。
「な、何だね、君たちは?」
「おまわりさんよ、仕事熱心なのは結構だが、こいつはちょっとアンタには
荷が重い相手かも知れないぜ」
「この人……サーヴァント……?」
立香はアルケイデスから魔力反応を感じ取っていた。
「……魔術師、か……」
アルケイデスもまた、立香達の存在に気づく。
「サーヴァントと言うからには、カルデアの関係者じゃあないのか?」
「いえ、カルデアに登録されたサーヴァントの中にはこのような方はいません。
ですが……」
アルケイデスの姿を見た瞬間、マシュの脳裏に何か引っかかるものを感じた。
(何故でしょう、私はこの方をどこかで見たような気がします……)
正体不明、立香と契約を交わしているわけでもないサーヴァント。
単独顕現しているのか、それとも別のマスターと繋がっているのか……
この特異点では何が起きても不思議ではないとは言え、
どちらにせよ、油断はできない相手である。
「とにかく、私の後ろに隠れていて下さい、先輩」
ラウンドシールドで立香を庇うように前に出るマシュ。
「お前は何者だ。ここに現れた目的は何だ?」
士が、一歩前に歩み出る。その後ろ手には既にディケイドライバーが握られていた。
仗助、康一、ゼンカイザー、清少納言、金時が不在のこのタイミングで
杜王町に出現したアルケイデス……この出会いがもたらすものとは、果たして……?
「アルケイデス、裏切るのです」
士、マシュ、立香、承太郎がアルケイデスと話している。
200cmはあるであろう長身瘦身の幽鬼と4人の男女が話しているという違和感。いつの間にか、警官もその違和感に恐れ戦き、離れていった。
「目的、とは……いろいろあるんだが、まずは一言英霊らしからぬ情けないことを言わせてくれ。」
「情けないこと?」
情けないとは?
「___助けてくれないか?」
「た、助けてくれって……!」
立香が、あまりの情けなさに愕然とする。
何があったのかが、それ以上に気になってきた。
「我々を、メサイア教団の手から助けてくれないかと言っているのだ。」
メサイア教団。
彼らは知らない。英霊と人間を侮蔑し、人類を神にしようとする邪悪なる組織。
「おい待て、一つ一つ順序を追って話してくれるか?」
承太郎の一声を受け、アルケイデスが詳細を説明する。
「分かった。」
「そも我々は『メサイア教団』という組織によって召喚されたサーヴァント。それ以前に、一英霊として人理の為に戦うはずだ。しかし私は見たのだよ。同胞として世界の守護のために召喚されたはずの英霊たちが、兵器として洗脳され、守るべき人類に、人理に牙をむいている様を。それを私は……許すことができなかった。貴様らに矢をつがえたあの為朝も、きっと同じ気持ちだろうて。」
「メサイア教団……。」
アルケイデスの口から放たれる、メサイア教団の悪質さ。
あまつさえ彼らは、英霊の尊厳を踏みにじり、一兵器として利用しているのだ。
「そして私も……洗脳されてしまい、特異点で暴れるという醜態をさらしてしまった様だ。まぁ、幸か不幸か私は洗脳が浅く、かつ謎の実を食ったら洗脳が完全に解けて今こうしてここにいるわけなのだが。」
洗脳が解けた教徒。
その姿には、怖ろしくも神々しさすら感じさせる。
一人間、一英雄としての輝き、というべきものか。
「つまり、アルケイデスさんはその……メサイア教団を裏切ったと?」
マシュの問いに、アルケイデスは丁寧に答える。
まるで、一輪の花を摘むかのような。
「そうだ。幸い私はアーチャーとして現界している。仮に私の裏切りに気づきメサイア教団からのバックアップが切除されても、単独行動で暫くならとどまれるが……それでも、現界し協力する以上はやはり、一時的なものでも魔術師のマスターは欲しい。必要なら、聞き耳立てて聞いたメサイア教団の知りえる情報を言ってもいいのだが。特に、為朝ら『AW』のことや彼らが今集めている『指輪』のこととかをだ。」
アルケイデスは、どうやら本気で教団を裏切るつもりだ。
「どうか、ご協力いただきたい。我々も教団の兵器のまま死んでいくのは不本意だ。」
「星座のよう、線で結ぶ瞬間」
――その後、立香はカルデアにアルケイデスの件を相談する。
そして、彼から得た情報についても。
『メサイア教団……それに『指輪』、とはね……』
カルデアと魔術王ソロモンとの人理を巡る決戦の地となった冠位時間神殿・ソロモン。
現在もそこに在るとされていたはずの「十の指輪」。
当事者のひとりであったダ・ヴィンチにとっても到底忘れ難いものであった。
『もしもそれが本当だとすれば由々しき事態だよ』
人類が生み出した魔術の祖とされるその指輪がすべて揃った時、
あらゆる魔術は無効化され、指輪を持つ者の意のままに世界を動かすことが
できるようになると言う。
「あの時、俺たちの頭上から降り注いだ無数の光の矢……
あれもメサイア教団とか言う連中の仕業らしい。CROSS HEROESはおろか、
クォーツァーや完璧超人たちもあの場にいたはずなのに
無差別に攻撃してきたところを見ると、相当に頭のイカれた連中だと言うのは
間違いないだろう。そんな奴らが狙っているようなものだ、
好き勝手にやらせておいたらロクでもない事が起きるのは間違いないだろうな……
やれやれだぜ……」
ポイント・ユグドラシル周辺で同時多発した大乱闘を終結に導いた為朝の宝具。
承太郎の言葉に、立香は改めて危機感を抱く。
CROSS HEROES、カルデア、そしてメサイア教団。点と点が線となり、
繋がり始めていた。
『メサイア教団、恐らく今後も避けては通れない相手となるだろう。
アルケイデスが味方になってくれるというのであれば、これ以上ない戦力だ。
彼ほどの英霊ならば、今後の戦いも有利に進められるかもしれない。
藤丸君の判断に任せよう』
「わかりました。アルケイデス、契約を」
立香はアルケイデスと仮契約をし、この特異点での新たな仲間を得た。
「感謝する、マスター」
「仲間は多いに越したことはないからな」
「まずは、杜王町の外に出て行った連中が戻るのを待とう」
士は町の外に広がる空を見上げる。
(メサイア教団か……さて、どんな奴らが俺を狙ってくるのか)
大ショッカー、タイムジャッカー、クォーツァー……時空を超えて暗躍する敵を
相手にするのにももう慣れたものだが、今回の敵は今までとは違うようだ。
(まだまだ、旅の荷を降ろすには早すぎるってことか……)
世界に渦巻く波乱の嵐は、「通りすがりの仮面ライダー」を未だ捉えて離さない。
(お前は最初からこうなる事を見越して、再び俺を旅人として呼び戻したのか、
暁美ほむら……)
この果てない平行宇宙の何処かで、孤独の観測者としての立場を貫くほむらを想う。
いずれ再び、士とほむらが共闘する日が来るのかも知れない。
メサイア教団の存在は、それを強く予感させるのであった。