プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:15

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完結済
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  • CROSS HEROES reUNION
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  • 二次創作
1人目

「Prologue」

 特異点にてCROSS HEROESと散り散りになったテリーマンら正義超人軍団は
かつて、キン肉マンを救うために大手術を施した結果自らの命を落とした超人医師、
ドクター・ボンベによって救われた。
死んだはずのボンベが何故ここにいるのか、超人墓場に隠された秘密、
そして悪魔将軍の正体とその目的を明かされたテリーマンたちは
再び行動を開始するのであった。
彼らと同じく源為朝の宝具から生還した宮本武蔵、ロロノア・ゾロ、トランクス。
ニュートラル・ガーディアンの罪木蜜柑・オルタとサイクスは西の都に住まう
アレクサンドル・デュマの元へそれぞれ逃げ延びていた。

 特異点、トラオム、アマルガムの迎撃と著しく戦力が分散していた
CROSS HEROES本隊ではミスリルのコマンド指揮官、
アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンの裏切りによって大混乱に陥っていた。
部隊に残っていた甲児や竜馬はマジンガーZやゲッターロボが整備中であるため、
出撃することができない。
情け容赦無く銃口を向けてくるカリーニン。
その銃弾を受け止めたのは、アレフガルドの勇者・アレクであった。
伝説の秘宝「ロトの盾」を手に入れ、さらなる力を得て
威風堂々たる凱旋を果たしたアレク。カリーニンの裏切りと言う衝撃の事実にも
動ずる事無く、その決意の刃を以って敢然と立ち塞がる。

 師であるガウルンの仇討ちに燃える夏玉蘭と夏玉芳姉妹。
カリーニンの謀反など知る由もなくそれを迎え撃つ宗介。
皮肉にも「義理の父」を巡り、銃を向け合う若者たち……

 絶望界域・アレート城塞を攻略した希望界域の次なる目的地は、復讐界域。
ベジータ王家に恨みを持つサイヤ人の元・高官パラガスがトップに君臨し、
カナディアンマン・オルタが副官を務めている。
さらに、希望と復讐がぶつかり合っている間に絶望界域が侵攻してくるかもしれない
可能性を考慮し、シャルルマーニュ、リク、ダイヤモンドドッグスは絶望界域へと
赴くことになった。

 復讐界域で戦っていたベジータと合流した悟飯、アルガス騎士団、
森長可の前に現れたのはパラガスがバイオテクノロジーにて再現した
自分の息子のクローン体、バイオブロリー。
伝説の超サイヤ人たる自分の息子を道具のように扱うパラガスはもはや復讐に取り憑かれ
正気を保てない狂気の男となっていた。
急造品とは言え理性を失い、純粋な破壊衝動のみに突き動かされ、
驚異的な再生能力まで備えたバイオブロリーに苦戦を強いられるも、
連携して戦うことで何とか撃退に成功する。追い詰められたパラガスは復讐界域を放棄して一人乗り用のポッドに乗り込み逃走するのであった。

 復讐界域拠点の裏側に聳え立つ天衝山脈では、
カナディアンマンとカナディアンマン・オルタの一騎討ちが行われていた。
お互いの拳と拳をぶつけ合いながら語り合う二人。
カナディアンマンの中の黒い感情から生み出されたカナディアンマン・オルタの
猛攻の前に、防戦一方となるカナディアンマン。
しかし、彼は決して諦めずに戦い続ける。復讐心、劣等感、そう言った負の感情を
全て振り払うために。これはまさに自分自身との戦いなのだ。
万感の思いを込めて撃ち放つ大技「メイプルリーフ・クラッチ」にて
ついに決着を迎えた戦い。トラオムを脱出するのに必要だと言う「三界域の宝玉」を
カナディアンマンに託し、カナディアンマン・オルタは消滅するのであった。

 絶望界域・ダークシティの地下牢にピッコロ、ブルマ、ウーロン、
リボルバー・オセロットと言ったメサイア教団にさらわれた面々が捕らえられていると言う情報を入手した希望界域軍であったが、絶望界域の秘密兵器、
絶対兵士と化した辺古山ペコ・オルタがシャルルマーニュとリクの前に迫り来る。
快進撃を続けるバッファローマン、ブロッケンJr、スネークであったが、
戦場に残された怪しげな物資……それは人類が生み出した最悪の兵器「戦術核」だった。
絶体絶命の危機に陥る三人。バッファローマンはその巨体を以ってブロッケンJr.を
身を挺して守るが超高熱の爆発と高濃度の放射線により、肉体の大半を焼き尽くされ、
重傷を負ってしまう。

 核爆発の混乱に乗じ、シャルルマーニュとリクを出し抜いて
希望界域の領内へと侵攻する辺古山ペコ・オルタ。そこに待ち構えるのは、
デミックスと江ノ島盾子。
「絶望の化身」が「正義の味方」になれるかどうかが、試される。

 トラオム全土を揺るがす、絶望界域の核汚染。
天衝山脈の崩落に巻き込まれ、生死不明となったカナディアンマンとスペシャルマン。
重傷を負ったバッファローマンを連れて帰還したブロッケンJr.とスネーク。
法術士ニューの魔法で復讐界域拠点から転移してきた悟飯たち。
辺古山ペコ・オルタを制した江ノ島盾子。

 満身創痍の状態で希望界域拠点に戻ってきた戦士たちの前に現れたのは、
「抑止の守護者」ジェームズ・モリアーティであった。
彼の目的とは、果たして……?

 特異点・杜王町を新たな拠点として行動を開始しようとしていた
カルデアとCROSS HEROESの前にメサイア教団の洗脳から逃がれた
ヘラクレス・メガロス改めアルケイデスが現れる。
これまでの混乱の裏にメサイア教団の影があった事を聞かされた一行。
 特異点、トラオム、リ・ユニオン・スクエアへの侵攻を続けるメサイア教団は
カルデアと魔術王ソロモンの最終決戦において失われた『十の指輪』を
回収せんとしていた。
 人類が生み出した魔術の祖である「十の指輪」がひとつに揃えば、
聖杯の力を超える神秘すら生み出すことができるという。
しかし、それは同時に世界を揺るがすほどの大事件を引き起こすことにもなりかねない。

 特異点修復に続く、新たな使命を得た藤丸立香は
アルケイデスとの契約を交わし、改めて行動を開始するのであった……

2人目

「トラオム脱出の鍵/流星の如き革命軍」

~希望界域拠点~

 突如現れた、若かりし日のモリアーティ。
 助太刀に来たとは言ってたが、その真意は一体。

「助太刀とは……いったい何をするつもりだ?」
「率直に言おう、君たちは絶望界域を打倒して、三界域の象徴にして鍵となる『宝玉』を手に入れなければならない。」

 宝玉。
 三界域の象徴にして鍵だというそれ。

「宝玉……もしかして、これのことか?」

 十神が懐から取り出したのは淡い青色に輝く、丸っこい宝玉だった。
 奇しくもそれは、カナディアンマンが自身のオルタより手渡されたものと同じだった。

「そう。それこそが鍵となる。これを3つ集めればトラオムの中心にある工場の扉を開けることができる。」
「しかし一つ疑問が残る。なぜ貴様がこれを鍵だとわかった?」
「さっきも言ったが、私はこのリ・ユニオン・スクエアの『抑止の守護者』。例え空間レベルでの分断があっても、この地で起きたことは大抵理解できる。その秘密も、種も、仕掛けも。」
「それは……すごいな。」

 およそ魔術とは無縁な人生を送ってきた十神白夜にとって、抑止の守護者も、サーヴァントも、どれもこれも新鮮な感覚がした。
 関わりのない、関わるつもりのない世界とはいえ、それでも新鮮さからくる興味は尽きない。

 そんな十神とは裏腹に、モリアーティはトラオムの外へと続ける。

「そしてこのトラオムを出た後、君たちと『メサイア教団』の戦いは東京の港区を中心に本格化するだろう。」
「港区?」

 次なる目的地は、港区にあるという。

「まぁその話の詳細は、君たちがトラオムを出ることができれば教えるとしよう。」

~トラオム 地下工場~

「ふぃ……ひひひひ……!」

 杖を突き、這いつくばりながら、その男はいた。

「このクレイヴ様を早々に殺せると思うなよ……ひひひ……俺にはまだ、最終兵器があるんだ……!」

~東京 港区~

 東京港区。
 総人口26万人ほどからなる臨海繁栄都市。
 若者たちが集い楽しみ、サラリーマンたちが集うこの都市。

『メサイア教団に襲われた 助けて』
『RP:ひどいな!』
『RP:マジ胸糞 私も襲われたけど。』

 その年は今、メサイア教団によって完全支配されていた。
 教団の教徒が完全に支配する地獄と化していた。

『若者よ、革命の時だ』
『立ち上がれ、俺たちも戦おう。』
『RT:どうせ戦わないのにと思ってたが、ここで戦わないと俺たちに明日はない!』

『このハッシュタグを流行らせろ→ #神霊革命前夜』

 それは、神と狂気の最終戦争。
 神霊たちの革命。

 のちにCROSS HEROESがたどり着かなければならない、新たなる領域___。

Chase Remnant       人理定礎値:A+
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

   A.D.20XX  東京神話戦線 港区

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
       #神霊革命前夜

3人目

「残された者たち」

 ――神浜市。

 先日のメサイア教団による声明は全世界に知れ渡った。

「なあやちよ、いろは達は大丈夫かな……」

 トラオムに向かったいろはとは、あれ以来連絡が取れていない。

「……きっと無事よ。あの子たちを信じましょう」

 やちよの言葉には覇気がなかった。

『……続いてのニュースです。メサイア教団と名乗る集団に同調した若者達が
東京・港区で暴動を起こしています。
警察は鎮圧にあたっていますが、依然暴徒化した若者達の勢いは収まる気配を見せません』
「…………」

 テレビではこの話題で持ちきりだった。
メサイア教団の存在は確実にリ・ユニオン・スクエアを蝕みつつある。
特異点に飲み込まれてしまった新宿、丸喜パレスの母体であるお台場と言った
東京の都市部が突如として消失した事件は未だ解決の糸口が見えていなかったところに
トラオムの発生、そしてこの港区の騒動だ。

 テレビを見つめるさなの顔色は次第に悪くなっていく。
まるで何か、取り返しのつかないことが起きてしまうのではないかと言うように……。

「なあ、やちよ」
「ええ」

「……行こうぜ」
「そうね」

 フェリシアとやちよは互いに目を合わせて言った。
それは決意の目だった。いろはや黒江、そしてCROSS HEROESとも連絡がつかない。
きっと彼らにも何かあったに違いない。
であれば、自分たちにもできることはあるはずだ。これ以上静観する事は出来ない。

「チームみかづき荘、出撃だねっ」

 鶴乃の声を皮切りに、みかづき荘の面々は動き出す。

(いろは……あなたたちだけに重荷を背負わせるわけにはいかない。私達も戦うわ……)


――西の都・病院。

「悟飯達はどうしてるかな……痛ちちちち……!」

 悟空もまた、病室のTVから流れる報道を見て呟く。
病院の一般医療技術では為朝の宝具によって受けた負傷は完治しないらしく、
こうしてベッドの上で安静にしているしかなかった。

「おい動くなって、悟空」

 クリリンが見舞いに来ていたが、悟空は体を起こして言う。

「オラ、いても立ってもいられねえ……!」
「そんな体で何ができるってんだよ、大人しく寝てろよ」

 しかし、そう言われても納得できないのが悟空だった。

「ちきしょう……仙豆でもあれば治るんだけどなぁ」
「魔人ブウの戦いの後、栽培も何もしてなかったんだとよ」
「なんてこった……」

 仙豆。天高く聳え立つカリン塔に住む猫の仙人・カリンが栽培していた不思議な豆だ。
それを一粒食べればたちまちにどんな重傷でもたちどころに治してしまうが、
非常に希少なものであり、栽培にも時間がかかるのだと言う。

「悟飯……ベジータ……あいつらに賭けるしかねえんか……」

4人目

「核戦争の兆し/心の怪盗とキン肉星の王」

「君たちがトラオムを出ることができれば教えるとしよう。」

そう締めくくった若きモリアーティ。
そうして彼が話し終えた丁度その頃だろうか。

『あー、テステス。聞こえるかしら?』

スネークの手元にある無線機から、聞き慣れた声が届く。
不意に聞こえたそれに対し、反射的に手に持つそれを耳に当てるスネーク。

「少し待て…その声はブルマ博士か?」
『問題なく機能しているわね、良かったわ。』

周りの会話に対し待ったを掛けて返答すると、無線機越しに声が返ってくる。
聞き間違い様も無い、ブルマ博士の声だ。
そう、囚われの身である筈の。

「博士、一体どうやって…?」

本来有り得ない、彼女からの通信。
当然出てくる疑問を、怪訝な声色で尋ねる。

『ウーロンよ。アイツが通信機やら機械類をこっそり掻っ攫って、あたしが暗号通信出来る様にしたって訳。』

静か目に返ってくるのは単純明快な回答。
成程、ウーロンであれば変化を駆使し、自在に施設を探り周れるのも頷ける。
元々、変化能力についてはバレていなかったのだ、故に警戒が甘かったのだろう。
例えアリ一匹通さない様な警備網も、まさか本当にアリが隙を突いて諜報活動するとは思うまい。
そしてブルマ博士の機械類への技術が合わさり、こうして通信が届いた訳だ。
それにしても、だ。

「そうか…全く、すっかり潜入が板についてきたじゃないか。」

ウーロンの成長には目覚ましい物があるばかりだと、スネークは感心する。
セルが街を、彼の居た病院を襲撃した日に偶然出会った存在だったが、今やすっかりダイヤモンド・ドッグズの要だ。
思わぬ拾い物もあったものだと感傷に浸ってると、次いで通信機から焦る様な声が届く。

『何か喜んでる所悪いけど、今はそれ所じゃないの。見張りが来ない内に手早く話すわ。』

見張りという言葉が示唆するのは、未だ牢獄に居るという事実。
やはり、囚われの身である事自体は変わりないのだろう。
すると一瞬の風切り音とチャタリングノイズが聞こえた後、これまた聞き覚えのある声が耳に届く。

『ボス、俺だ。』
「オセロットか、どうした?」
『事態は急を要する。奴等、核を世界に広めるつもりらしい。』
「待て…どういう事だ?」

風雲急を告げるとはこの事か。
余りにも突飛な言葉に、スネークは躊躇わず情報の共有を迫った。



「核飽和だと?ふざけた話だが…」

オセロットから伝えられた情報に、十神は頭を抱える。
戦術核を世界中のテロリストやゲリラに広めると言った、突拍子の無い馬鹿げた話。
だが空想だと笑い飛ばす事は出来ない。

「既に三つ、使われた後だ。幾つ隠し持っていても可笑しくない…!」

核の量産体制については丁度、自分達が身を以て知ったばかりだ。
奴等に一刻の猶予も与えてはならなくなった。

『奴等をここから出す訳には行かないな。』
「ここで叩かなければならない、だが…」
『あぁ、狙撃塔の件だ。』

しかし、事態には問題が付き物だ。
奴等は既に、サヘラントロプスを以ての迎撃態勢を整えつつあるという。
特にサヘラントロプスのレールガンによる一方的な砲撃、これがいけない。
シャルルマーニュの剣技をして漸く軌道を逸らせる一撃を、向こうは何十、何百発も撃ち込む事が出来る。
さらに言えば。

『それに核量産の話が本当なら、撃ち込んでくるのが砲弾とは限らんだろう。』
「…やはり核か。」

元より、レールガン技術は核弾頭発射を目的とした物であり、事実過去に一度撃たれようとしていた。
何より、そのレールガン技術の持ち主が向こうに居るのだ。
核弾頭が飛んでこないと考えるのは、些か希望的観測が過ぎるだろう。
その事実に歯噛みしながら、オセロットが口を開く。

『恐らく奴等は、サヘラントロプスを使い潰してでも止めに来るぞ。』
「今から狙撃塔には…駄目だ、距離がありすぎる!」

今はまだサヘラントロプスは塔に登ってはいない。
だが此方が何か行動を起こす頃には、いやこうして話している間にも準備を済ませているかもしれない。
手遅れだ、そんな絶望感が一同を襲う。
_しかし、天は彼等を見放してなかったらしい。

『_おい、話は聞かせて貰ったぜ!』
「その声…!」

通信機のスピーカーから鳴り響く宣告。
暗号通信が破られたか?
いや違う、それはオセロット達とは別の、しかしやはり聞き慣れた声。

『狙撃塔の件は俺達、ビッグボンバーズに任せろ!』
「カナディアンマン!それにスペシャルマン!」

それは天衝山脈にて消息を絶っていた筈の、ビッグボンバーズの二人だった。

『俺達は今、天衝山脈に居る。ここからなら間に合う。』
「助かる、俺達もすぐに駆け付ける。」

絶望的な戦局に、希望の兆しが見えた瞬間だった。



一方で、場面は移り変わる。
灯り一つ無いレンガ作りの螺旋階段。
コツコツと音を立てて降りていく4人の影。

「うへぇ、怖いのぉ…」
「おっかなびっくりするんじゃねぇよ!コッチまで怖くなってくるぜ…」

それは特異点にて黄泉比良坂へと足を踏み入れた、ジョーカー達だった。
開け放たれた裁きの門を通る事それ自体には躊躇が無かった一行。
だが薄暗い光景が延々と続く事に段々と気が滅入ってしまっているらしい。
キン肉マンに至ってはすっかり怖気づいてしまったのか、ジョーカーの背に隠れている。
なお大男が細身の男の背に隠れられるかは全くもって怪しい。
というか無理である。

「王子ったらまた…あ、癖で呼んじゃった。」
「…全く、昔もこうやってたよな。」
「あぁ、今でも懐かしい。」

ついうっかりと頭を掻くミートの流れまで見て、モナ達が抱くのは憧憬だ。
嘗て心の怪盗団として活躍していた時、キン肉マン達と共に行動することがあった。
例えば、そう。

「…お、灯りが見えてきた、階段は終わりらしいぜ。」
「うー、怖かったわい…って!?」
「アレは、まさか…!」

階段を下りた先、荒れ果てた荒野の中心に佇む、一つの幾何学模様を描く建築物。
即ち。

「お台場のパレス…!」

パレス攻略の時。

5人目

「幕間:均衡の守護者、流星旅団と邂逅す」

 そのころ、西の都のアレクサンドル・デュマのいる拠点。
 そこにはデュマのほかにサイクスと罪木オルタもいた。

「けっ、2人は療養中で今動けるのは俺くらいのもんとは。おかしくて笑いが止まらねぇ!お前さんたちの言ってた矢の雨、見てみたかったなぁオイ!」
「まくし立てられてもな。それにあの場にいたらお前、間違いなく死ぬぞ?」

「いよう!って、何の用だ……?」

 そこにいたのは紺色のパーカーを着た、水色のアホ毛が特徴の少女。
 年齢は高校生くらいだろうか?しかしどこか大人びたそっけない表情をしている。
 むすーと頬を少し、不機嫌そうに膨らませている。

「……ここが、兄さんの言ってたニュートラル・ガーディアンさんの拠点で間違いないよね?」
「おう、てめーの兄貴が何もんかは知らねぇけど、ここで正解だぜ。でもなぁ、生憎と俺はお前みたいな女の子に用はねぇぜ?」
「でもこっちには要件がある。というよりなんだ……悪いけど、ボクらに黙ってついてきてくれない?」
「ハッ!拒否権なしってか!?死ね!俺らにも仕事がまだまだ山積みなのによ、さらにクソみてぇな仕事を追加する気か!?」

 その少女はまくし立てるようなデュマの暴言に臆することもなく、そっけなく返す。まるで世界を冷めた目で見ているような。

「……いやならいいんだ。それで世界が滅んでもいいならね。」
「けっ、めんどくせぇ女だなァオイ。」
「まぁそう言うな。我らの目的に合致するかもしれない。」

 サイクスが、その少女に拠点に入るように促す。

「とりあえず、上がって話をしてくれ。話は聞こう。」
「……ありがとう。」

 促されるままに、少女は拠点の中へと入っていった。


「君の名前は?」
「天宮 彩香(あまみや あやか)。メサイア教団の破壊を目論む組織『流星旅団』の一人だ。」

 メサイア教団への叛逆軍(レジスタンス)、流星旅団。
 彼女らの目的は教団の破壊。

「メサイア教団。我らの追っている組織の一つだ。なぜその名を知っている?」
「もう有名ですよ。リ・ユニオン・スクエアどころか混沌次元にも、ボクらの住む港区にもあの宣伝放送が行われてましたので。それに、。」
「大々的にやってたな確かに。んで、何でお前らが奴らを滅ぼそうとしている?」

 デュマの問いに、彩香は淡々と答える。

「ボクらはあの教団によって弾圧され、ボクは両親を殺された。そして、ボクと生き残った兄は同じ境遇の仲間を集めて『流星旅団』という対メサイア教団の組織を作った。ボク達『流星旅団』の目的はメサイア教団の完全破壊。そのためにもまずは奴らが狙っている『指輪』を奪い、早急に破壊する。あの指輪が全て奴らの手に渡れば、世界は確実に終わる。」
「指輪?」

 ここでも出てきた『ソロモン王の指輪』。
 すべての点が、教団と指輪の2つによって線となり、面となってゆく……!

6人目

「戦いから戦いへ」

一方その頃、トゥアハー・デ・ダナンでは甲児達がアレクとローラ姫に彼らがいない間に起きた出来事を話していた。

「……私達が居ない間にそれだけのことが起こってたのですね……」
「あぁ、驚いただろ?」
「はい……」
「……アジャンダ石窟群内で見たことのないモンスターを見かけたが、あれはその騎士ガンダム達の世界のものだったか……」

「……それでどうすんだ?カリーニンのこと」
「どうするって……」

「……事実を伝えましょう」
「テッサさん…!?」
「いいのか?あいつらが……特に宗介がこの事実を受け入れられるのか?」
「……それでも、伝えないといけません」
「……わかった」

「艦長、皆さんが戻ってきました」
「わかりました。では、皆さんをここへ集めてください。
……私からこちらで起こったことを話します」


一方その頃、ナースデッセイ号内ケンゴの部屋にて
「調子はどうだいケンゴ君」
「はい、今のところは大丈夫です」
「それなら良かった」
「……あの、トキオカ隊長が僕を助ける作戦を立ててくれたって、ユナから聞きました。
……本当にありがとうございました!」
「気にしないでください。作戦を考えたと言っても、僕はまとめただけで、基となったアイデアを考えたのは甲児さん達ですし。
……それに僕の方こそ君に感謝している。
闇の巨人を倒し、コアを安定させてくれたこと。
本当に、ありがとう!」
「あいやいやいや、ユナやアキト、皆が助けてくれたおかげです」
「いや。君がウルトラマントリガー……光の化身だったからこそ!」
「・・・」
「……すまない」
「いいんです。
……自分が、光の化身だって知って……正直驚きました。
……でも、僕の中には光もあって、
……闇もあって……ただの人間だって気づいたんです」
「・・・」
「だから、人間としてできることをやろうって…!」
「……偉いな…!
……でも、どうして光は……ウルトラマントリガーは人になることを臨んだんだろうね……」
「え……」
「……何故、ウルトラマントリガーが人間の赤ん坊としてこの世に産まれ、人として生きることを選んだんだろうな……」
「それは……」
ケンゴは答えることができなかった。何故、かつての自分は……トリガーは人間として生きることを選んだのか……それが分からなかったのだ。
「……ケンゴ君。もしも今後君が、トリガーになることができなくなったとして。
1人の人間として……どうやって生きていくつもりだい?」
「・・・」
これから先、もしも自分が光の巨人に、ウルトラマントリガーの姿になることができなくなったらどうするのか……『人間としてできることをやろう』そう考えておきながら、今まで考えたことのなかった疑問に対し、マナカ・ケンゴは何も言うことができなかった……


次の瞬間、二人の沈黙は、ナースデッセイ号内全体へ響いた、緊急事態を知らせるサイレンが破った。
「っ!これは……」
「なにかあったのかもしれない。急ごう!」
「はい!」
二人は急いでナースデッセイ号の司令室へ向かった。



ナースデッセイ号、司令室にて。
「なにがあったんですか!?」
「それが大変なんだ!TPU本部の近くに怪獣が複数現れやがったんだ!」
GUTSセレクト隊員でメトロン星人のマルゥルがモニターに向かって指を指す。
そこには、パゴスを始めとした数体の怪獣達がTPU本部の近くで暴れている光景が映し出されていた。
「でもなんで!?確かライラーはあの後TPU本部に……」
するとそこへシズマ会長からの通信が入る。
『大変だトキオカ君、ライラー達が脱走した』
「なんだって!?」
『ライラー達の方は今、タツミ君達が追っている。
すまないが、君たちは怪獣達の方を頼む!』
「ラジャー!
ナースデッセイ号とガッツファルコンの状態は?」
「丁度修理が完了したところです!」
「よし、なら早速現場へ向かうぞ」
「隊長、CROSS HEROESの皆さんはどうします?」
「……一応連絡はしておくが、先程アマルガムによる奇襲を喰らってることを考えると、今回は我々だけで対処するつもりで行こう」
「わかりました」
GUTSセレクトは、怪獣が出撃したTPU本部近くへ向けて移動を開始した。

7人目

「災厄を振り撒く存在」

 アレート城塞にてルフィに敗れた禍津星穢はブーゲンビリアに連れられ、
「老人たち」の元に帰還する。

『モンキー・D・ルフィ……よもや穢をここまで追い込むとは』
「けがれくん、だらしない」
「黙れ、クソガキ……!!」

 穢がブーゲンビリアと口論しているのを見て、暗闇から老人の声が響く。

『まぁいい、お前には期待していたのだがな……穢よ』
「僕を消すかい、じいさま…?」

『そうしたいところだが、お前はまだまだ利用価値がある。故に消さん』
「なら、僕は何をすればいい? 教えてくれ……」

 穢の言葉にブーゲンビリアは嘲笑を浮かべる。

『決まっているだろう。我々の計画の為に戦え、穢。お前の力はそのために授けたものだ』
「……わかったよ、じいさま」

 穢はそう言うと、闇の中に消えていく……。
ブーゲンビリアはそんな穢の姿を見送りながら笑みを浮かべていた。

「やくたたずなんか、さっさところせばよかったのに」
『そう言うな、役立たずでも駒としては使える』
「ふーん。まあいいけどね。こんどこそおねえちゃんをころせるならなんでもいいや」

 狙うは、ペルフェクタリア。老人達を失脚させた魔殺少女。
ブーゲンビリアは笑う。次はどんな手で彼女を追い詰めようかと考えながら。

『ああ、そうだとも。あの小娘だけは絶対に始末せよ』
『ペルフェクタリアはまだ完全な状態ではない。今の内に仕留めねばならぬのだ』

 老人達の会話を聞きながらブーゲンビリアは目を細める。

「かんぜんじゃない……? おねえちゃんはもっとつよくなるってことかな」
『然り。だが、それはもはや永遠に叶わぬ。あの娘の半身は既に穢によって
滅ぼされているのだから』

 ペルフェクタリアと、その本体である平坂たりあ。
2人が1人の存在に戻る時、「完全」を超えた「究極」なる存在となる。
その力はアベレイジとの最終決戦に終止符を打った。老人達はそれを恐れているのだ。

「ちぇー、そうなんだ。ざんねん。それじゃあやっぱりわたしがおねえちゃんよりも
つよいってことをしめさないとだめなんだよね」

 ブーゲンビリアは不機嫌そうに唇を尖らせる。そして彼女は老人達に背を向けると、
そのまま何処かに歩き去っていった。

『子守りに難儀しているようだな』

 闇の中に浮かび上がる紋章。瞳のようなものが描かれたそれは……

『皇帝ジークジオンか……』

 騎士ガンダム達が打倒すべき敵―――闇の皇帝ジークジオンの紋章であった。

『ふははははは……我々の力が必要と見えるな……』

 さらに、双翼を拡げる鷲を象った紋章も現れる。

『これはこれは、ショッカー大首領まで……』

 闇の皇帝ジークジオン、ショッカー大首領……
次元を超え、世界を超え、厄災を振り撒き続ける存在が2体も現れる中、
老人達は淡々と言葉を紡ぐ。

『今は時を待つが良い。次なる戦い……そこが転機となろう』 

8人目

「松田という男 その1/希望界域、立つ!」

東京 警視庁

『神霊革命前夜事件 特別捜査隊本部』
 そう、銘打たれた組織は今、ここ警視庁の歴史のうち最も熱気が強くなっていた。

「では、今日の報告を。」
「はい。港区で昨今発生している若者たちの暴動事件ですが……。」

 最近の警視庁は、港区の話で持ち切りだった。
 メサイア教団と若者たちの"戦争"。無論、警察としては市民の安全のためにも一刻も早く教団を止め、若者たちも鎮圧しなければならないのだが。
 なかなか状況は好転しない。何しろ若者だけを鎮圧してもメサイア教団の暴動は終わらないし、対するメサイア教団もすさまじい勢力と戦闘力を誇っているて、警察の力だけではどうにもならない。

「"教団"側には……為朝という銘の兵器が現在、3日前同じく教団に占拠された赤坂サカス付近に陣取っているとの報告があります。信じられませんが……その写真がこれです。」
「このロボットが……為朝……!」
「にわかには信じられないな……!」

 その写真には、高いビルの屋上にて真紅の外殻に身を包んだ機械の弓兵が、巨大な弓をつがえて陣取っているという直接見ないと信じられない光景がそこに在った。

「現在、教団が占拠しているのは我々が把握している限りでは。赤坂サカス、六本木ヒルズとその周辺、そして東京ミッドタウン周辺です。」
「なるほど……若者、特に"流星旅団"という組織の方は。」
「それが……、天宮彩香と名乗る少女とリーダー格である銀髪の少年がいるということ以外、そして2人とも恐ろしく強いということ以外全くわからない状況です。」
「うーん……報告は以上か?」
「はい。報告は以上です。」


「松田、ちょっと話がある。」

 警部の一人が、松田という男を呼び止める。

 ___松田桃太。
 かつてキラ事件において、キラ=夜神月を追い詰めた男の一人。
 少しおどけていて間抜けで、足を引っ張ってしまうところはあれど、その心には誰よりも眩い本物の正義感を宿している。

 キラ事件の後、彼は人間的にも警官としても成長していた。

「はい。何でしょうか?」
「実は……かつてキラ事件にかかわっていたお前にだけあることを頼もうと思って、ずっと黙っていたことがある。みんなにキラ事件のことを話しても半信半疑だろうと思って黙っていたのだ。」
「そんな重要な話を、僕なんかでいいんですか?模木さんとかの方が適任でしょう。」
「いや、みんな今別の事件で忙しいし、模木とかは口をそろえてキラ事件のことはあまり思い出したくないって言ってたんだ。総一郎の件もあるだろうからな。トラウマになっているのだろう。だから、お前に頼むことにしたんだ。」
「僕も。キラ事件のことは今も夢に出ます。」

 そうだ。でも忘れてはいけないんだ。
 二度とあんな事件を起こさないためにも。

「それで、頼みって……なんです?」

 その警部の男の頼みは、松田の心を動揺させた。

「メサイア教団の内部調査を、頼まれてくれるか?」


 ところ変わって、トラオムの希望界域。

「な……シグバールが絶望界域にいるなんて!」
「そうだ。まだ伝えてなかったな。すまない……。」

 リクが驚愕する。
 かつての戦いで消滅したはずのシグバールが、今こうして絶望界域にいる。
 デミックスの存在から薄々覚悟はしていたのだが、やはり現実として起きてしまうと驚きを隠せない。

「……いや良いんです。その、シグバールは俺に任せてもいいですか?あいつとは因縁があるんです。」

 7つの光と13の闇の衝突。
 その闇の残滓が、再び悪を為そうとしている。

 ならば、光の勇士としてそれは止めなければならない。

「分かった、シグバールはリク、お前に任せよう。」
「ありがとうございます。」

 リクが礼をして、部屋を出る。
 すれ違いに、モリアーティが入ってきた。

「十神くん。出陣はいいんだ、だがその宝玉は絶望界域攻略が完了するまで死守するんだ。それを破壊でもされたら全員、トラオムに閉じ込められて終わりだ。」

 モリアーティの忠告に、十神は無言で頷く。

「わかった。」「___全員に伝えてくれ。『これより絶望界域攻略を開始する。出陣は1時間後』とな。」

9人目

「米ソ衝突!の巻」

まだ薄暗い、日が出たばかりの時間帯。
未だ多くの生命はその目覚めを見せず、岩肌多い荒野は閑散としている。
鳥達の囀りが静かに木霊する、群青色の静寂に満ちた、ここはトラオムの一角、狙撃塔。
絶望界域に存在する巨大な塔であり、嘗ての復讐界域との境目ともなっていた要所の一つだ。
レンガ造りの外装は塔の古めかしさを醸し出しており、所々に見える木材の朽ち具合から相応の年季を感じさせる。
そこに存在するのは当然、絶望界隈の兵達だ。
何時もならば2~30人ばかりの兵が駐屯し、時折動物と戯れながら警備網を敷いている程度の日常が繰り返されている。

「急げ急げ!搬入準備を終わらせるぞ!」

だが、今日ばかりはどうも様子が可笑しい。
酒や煙草を嗜み呑気に笑う兵達の姿は消え失せ、焦燥に駆られた表情で動き回る兵士達の姿だけが視界に入る。
そしてその兵士の大半が、慌ただしく機材を担いで拠点中を駆け回っているのだ。
土嚢袋、鉄骨、コンクリート、果ては機関銃等、物騒な物ばかりが運ばれている。

事の発端は、呆気なく訪れた。
つい数分程前、拠点に向けて突如として通信が入ったのだ。
内容自体は一言二言だけで直ぐに途切れたが、その指示が齎す意味は到底一言では言い表せるものでは無かった。

『現時刻を以て第一種戦闘配置に付け。尚、一個大隊及びサヘラントロプスを派遣する。』

たったそれだけの文章量ではあるが、その内容は余りにも常軌を逸していた。
即時の戦闘準備に加え、過剰な程の援軍。
一個大隊だけでも脅威だというのに、虎の子のサヘラントロプスまで投入するなど、平時でなら狂気の沙汰でしかない。
それは即ち戦局が大詰めに、それも絶望界域奥深くのここが戦線になる程劣勢に立たされているだと、兵達は恐怖に身を震わせていた。
しかし来る戦いに備える彼等は知らない。
既に戦いの火蓋は切って落とされていた事を



トラオムの荒野を、巨影が横切っていく。
けたたましい轟音を打ち震わせながら動くソレは、目覚めるか否かの境目を彷徨っていた動物達の本能を覚醒させ、逃亡の一択を強いらせる。
一匹の鹿が空を見上げば、視界には風切り音を立てて飛翔する、編隊を組んだ幾多の輸送ヘリ。
そしてそれ等によって吊り下げられた、鋼鉄の巨人。
件のサヘラントロプスである。
更にはその周囲を取り囲む様に地を行く、機械化兵団の軍勢。
軍団は皆一様に銃火器を構えており、獲物を求める様に荒野を突き進む。
一糸乱れぬ行軍は、集団が一つの個であるかの如く、彼等の練度の高さを伺わせる。

『各員、作戦開始地点に移動せよ』

無機質な電子音声で告げられる号令と共に、整然と移動していく。
幾つかの個として綺麗に別れた軍勢の足並みに一切の崩れは無く、その規律正しさを物語っているかの様だ。
だが同時に、その光景は見る者によっては薄気味悪いものにしか映らないだろう。
人間と車両で構成されながら、機械の如き精密な意思疎通を行う異質の群れ。
起伏に富んだ荒野で行われる軍靴を一律に奏でた行軍は、最早人の行うものでは無い。
まるで蟻の巣の様に緻密な連携を取り続ける機械化兵団は、さながら軍隊アリと呼ぶに相応しいものだった。
そんな中、先頭集団にて進軍を続ける一機のヘリ。
その中に座するのは、髑髏の男だった。

男は無言のまま、傍らに置いていたショットガンを片手に立ち上がる。
そのまま機体側面の扉を開け放つと、機内に入り込む光と乾いた風を見に受け、大地を見下ろす。
眼下に広がるのは、狙撃塔下の防衛拠点だ。
目に映る兵達は未だ慌ただしい様子で、此方の受け入れ準備が整っているとは思えない。
軽い失望感と共に溜息が零れるが、次の瞬間にはどうでも良いという気持ちに置き換わっていた。
どうせ、サヘラントロプス一つで全てが終わるのだ。
防衛体制がどうだろうと、構わない。
そう結論付けた男は、地表付近をホバリングしていたヘリから降りた。

瞬間、彼の引き連れた車両から打ち上がる幾多の噴煙弾。
直後、青ざめた霧が巻き上がり、大地という大地を覆いつくし隠してしまう。
ソレは合図だ、髑髏の来襲を告げる合図だ。
視界を奪い尽くす霧に紛れて、車両から続々と残影が伸びる。
重力を無視した挙動で大地に降り立つのは、血の気を感じられぬ白い肌を持つ男達。
髑髏部隊(スカルズ)だ。
拠点に居た者達はその異様な光景に作業の手を止め、恐れ慄いている。
味方だと理屈では分かっていても、脳裏を支配する本能が畏怖の念を絞り出して止まらない。

そんな事は露知らず、スカルフェイスは霧に浮かぶ巨人を見上げる。
巨人の頭部は遥か彼方に隠れてしまっているが、それでもその巨大さが伺える。
そして、彼は見上げたまま呟く。
_漸くだ、と。
この日の為に、今まで生きてきた。
嘗て無い程の興奮に静かに打ち震える肉体は、今にも爆発しそうな程だ。
待ち焦がれた時が来た、やっと報復が果たせる。
母国語を奪われ、新たな国語を学ばされ、その度に本来の自我を失う感覚を味わってきた。
言葉を失い、誇りを無くし、文化を砕かれ、尊厳を奪われた。
屈辱的な生活を強いられ、苦痛を耐え抜き、髑髏(中身の無い男)に成り果て。
ようやく復讐の機会を迎えたのだ。
故に、彼はその身に秘める全ての怨恨を、怒りを、殺意を、巨人に乗せる。

_ア”ア”ア”ァァァァァ!!!

そして巨人もまた呼応する様に、咆哮を上げる。
己の存在意義を取り戻した様に、声を高らかに轟かせる。
それは喜びの声か、それとも嘆きか。
ヘリに吊られた巨人の轟きが、霧の中に木霊する。
その光景に誰もが恐怖に怯え竦む中、ただ一人スカルフェイスは歓喜の声を上げ、命ずる。

「私の報復心を、未来に解き放つのだ!」

呪詛の如き怨念が籠った叫びと共に、鋼鉄の巨人が浮上していく。
高度を上げ、霧を抜け、瞬く間に狙撃塔の頭頂部へと舞い上がる。
刻一刻と迫る、終わりの時。
今か今かとその瞬間を待ちわびるスカルフェイスの焦点は、サヘラントロプス一つに定まっていた。

「_とあぁーーー!!」

_だからこそ、西から迫り来るもう一体の巨人に気が付かなかった。
彼の叫びが耳に届いた時には、既に彼は輸送ヘリの一機に飛びついていた。

「何だ!?」
「『栄光の_!」

霧から姿を現した銀の巨人が、鋼鉄の巨人を吊るすヘリの一機を手中に捉える。
ぐしゃりと歪み、異音を上げるヘリ。
同時に、銀の巨人はヘリと巨人を繋ぐワイヤーごと抱えて急降下をする。
当然、バランスを崩して鋼鉄の巨人は諸共に落下を始める。
そして。

「_タッチダウン』---!!!」

手中のヘリをアメフトボールの如く地面に叩き付け、鋼鉄の巨人を地へと引きずり落とした。
爆炎が上がり、霧が裂け、蒙昧な視界の中にその姿が明確に浮かび上がる。
一糸乱れぬ行軍を行っていたスカルフェイスの部隊に、今初めて動揺が走る。
下手人たる銀の巨人を見上げて、スカルフェイスは忌々しげにその名を叫ぶ。
その銀の巨人は。

「…スペシャルマンッ!」

アメリカ出身の超人、スペシャルマンだった。

10人目

「暁の出撃」

 ――希望界域拠点。

「おかえりなさい、悟飯さん」

 復讐界域より帰還した後、十神たちとの会議を終えた悟飯を出迎えたのは、
いろは達だった。

「いよいよ絶望界域との決戦ですね……」
「うん。絶望界域のダークシティ……その地下にピッコロさん達が捕まっているらしい」

 このトラオムへ乗り込んだ理由。目的はただ一つ。囚われた仲間を救うためである。

「私達も一緒に行きます!」
「今回は総力戦だ。皆の力を借りたい」

 そう言って、十神たちが部屋に入ってくる。
十神の話では、既に絶望界域の戦力が集結しつつあるという。
それに対抗するには、こちらも可能な限り多くの戦力が必要だった。

「よし、みんなで行こう! そして、絶対捕まった人たちを助け出すぞ!」
「おー! 待ってろよ、ピッコロのおっさん!!」

 骨付き肉を片手に、ルフィが叫ぶ。
それにつられて、他の面子も声を上げた。

「私のターンの魔法で復讐界域拠点へ飛び、そこから天衝山脈にいると言う
カナディアンマン殿、スペシャルマン殿と合流する事にしましょう」

 法術士ニューが提案する。

「この馬鹿げた戦いもこれで最後だ」
「そうですね……」

 ベジータの言葉に全員が頷く。長き戦いに終止符を打つ時が来たのだ。

「ブルマさんも、助けないといけませんもんね!」
「……ふん、俺はさっさとここから出ていきたいだけだ」

 悟飯が言うとベジータは眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな表情を浮かべる。

「この男は嘘をついている。本当はブルマ博士を心配している」

 ペルフェクタリアがベジータを見つめながら言った。
嘘の匂いを嗅ぎつけたようだ。

「おい、余計な事を言うんじゃない……!」
「ははは、まあまあ。ペルちゃんも、仲良くしてあげて?」

 月美は笑いながら2人を仲裁する。

「ペルフェクタリアだ。よろしく頼む」
「知った事か。貴様、俺の足を引っ張りやがったら許さんからな」

「安心しろ。私は魔殺少女だ。足を引っ張る事はない」
「可愛げのない小娘だ……」
「なんならここで勝負するか?」
「ちょ、ちょっと、喧嘩しないでくださいよ!」

 今にも一触即発な雰囲気の中、いろはや月美が慌てて間に割って入る。

「……フン」

 ベジータは不機嫌そうに鼻息を鳴らしながらも、なんとかその場は収まった。

「大丈夫かなぁ……」

 黒江の不安を他所に、一同は出撃の準備を整えていく。

「では、参りましょう」
「ああ。みんな、準備はいいかい?」

「はい!」
「おうよ!」

 全員の意志を確認すると、法術士ニューは魔法を発動させる。

「じゃあ、十神さん、お先に」
「うむ、我々もすぐに動く。頼んだぞ、CROSS HEROES」

 こうして悟飯、ベジータ、ルフィ、ペル、月美、いろは、黒江、アルガス騎士団は
復讐界域拠点へと飛んだ。

「よし、他のメンバーもすぐに準備してくれ!」
「了解!」

11人目

「幕間:天宮彩香の過去/挟撃の準備」

 リ・ユニオン・スクエア 西の都にて。
 均衡の守護者と流星旅団の使徒___天宮彩香の会合は続いていた。

「それにしても、両親を殺されたっていったい誰に?」
「こら、そういう話はあんまり……。」

 サイクスがデュマを諫める。
 しかし、彩香は。

「わかった、こういう話はしておかないと。」

 そうして、彼女の口から過去が語られた。
 それは、ある一家の哀しい過去だった。

「もう11年前になる。」


 忘れもしない。あれはボクが6歳のころだった。
 その日は、何の変哲もない一日だった。

 そいつは突然現れたんだ。
 両親は優しいけど倹約家でデリバリーを頼むことは滅多にないんだが、その日ばかりは奮発してピザの注文をしたんだ。

 注文して30分経ったころ、インターホンが鳴る。
 そこにいたのが……ある男だった。
 そいつはピストルで両親を瞬く間に殺害し、嬲り殺しにした。

 その様子を見て、警察を呼ぼうとしたけどそいつはボクを殴り蹴り、いたぶった。
 その後、家に灯油を撒いて放火、ボクと兄である「天宮 月夜(あまみや つくよ)」を家ごと殺害しようとしたんだ。

「クソ、逃げるぞ……つかまってろよ彩香……ッ!」
「月夜……お兄……ちゃん……。」

 兄は燃える家を背にして、ボクを抱えて走っていった。
 そして、ボクらは近くに来た救急車と警察に保護され、今に至るわけだ___。


「真実を知ったのはその翌年。犯人は当時細々と活動をしていた、メサイア教団の前身であった『キラ教団』の信徒の一人だった。まぁそいつは後に『老人たち』とか言われている組織に入って今も捕まっていない。」

 3人は、頭を抱えて考えた。

「なるほどね。メサイア教団とその『老人たち』が協力関係にあるかはわからないけど。もし今後教団とその老人たちが協力することになったら大変だな。」
「ボクらは両親の仇を討つために、教団に狂わされた人生にケジメをつけることを決意した!ボクの、いや!ボクらの人生は、メサイア教団と『老人たち』にしかるべき裁きを下して初めて始まる……!だから……どうか、お願いします。協力を……!」

 彩香が一礼をする。
 これは、不倶戴天の敵への復讐。その千載一遇のチャンスだ。
 サイクス達は、一考した後に快く回答した。

「俺は別にいいんだが……こういうタイプは断ったらやべー気がするし。」
「あたしも同じく。」
「___わかった、協力しよう。その代わり、俺達の仕事にも協力してくれるか?」

 その回答を聞いて、天宮は微笑みながら答えた。

「ありがとうございます。___ボクら旅団メンバー5人は今、港区にいます。どうかよろしくお願いします。」



 一方、トラオムの希望界域拠点、生徒会室では。
「十神、近くにいた絶望界域の斥候からいい情報を聞いたぜ。」

 見回りから帰ってきた燕青が、どうやら絶望界域の斥候より話を聞いたとのことで意気揚々と戻ってきた。

「アレート城塞に、物品運搬用の地下通路がある。」
「地下通路?」
「例の……ウォーカーギア、だっけか。そいつを運んできた通路が地下に埋め込まれているんだってさ。」
「あの崩壊具合だ。通れるのか?」
「地下通路を通る分には問題ないってよ。崩壊しちまっているから見張りの兵士も少ないだろうし、通るなら今のうちだと思うぜ。んで、出る先は絶望界域拠点だ。挟み撃ちをするならば、ここが使えるかもだぜ。」
「そうだな、ならばここにも人員を入れよう。」

 トラオム第二陣の準備は進む。
 その様子をみて、江ノ島は。

「挟み撃ちか。じゃああたしとデミックスと、あとシャルルはそこを通るぜ。」
「わかった。燕青、お前と森は希望界域の防衛を頼む。」

12人目

「再カイ! ジュランとガオーン」

――特異点。

 杜王町を発った金時、清少納言、介人、仗助、康一にも
立香とアルケイデスが仮契約を結んだと言う報告が届いていた。

「俺っちたちが出払ってる間にそんなことが……」

 金時もさすがに驚きを隠せない様子だった。

「サーヴァントがマスターの側から離れてる間に敵襲なんてシャレにもならねえからな。
まあ、契約できたんなら大丈夫だろう」
「ところで康一くん、戦闘が起きてる場所って?」

 介人の言葉を受けて康一はタブレットで地図を出す。

「そろそろ目的地です。ここから3キロほど行ったところに廃墟があるんですけど……
そこで戦闘が起こってるようですね」

 康一がタブレットを操作すると画面に映像が表示される。

「!? ジュラン! ガオーン!」

そこには介人の仲間、ジュランとガオーンの姿があった。

「やったじゃん、介人の仲間が増えて戦力アップだよ」

 嬉しそうにする清少納言だったが、すぐにその表情が変わる。
戦いの中に新たな敵の姿が見えたからだ。
それはジオン族のモンスターであった。
全身が出来ている石人形のストーンズサ、鎧を纏った獣モンスターバウンドウルフなど、
数にすると十数体ほどの集団だ。

「ええい、くそ! ワラワラ出てきやがって! こっちは命からがら逃げて来てんだぞ!」

 ジュランは息も絶え絶えと言った様子で声を上げる。

「動物ちゅわんなのか機械なのかハッキリしろよ~ッ!」

 ガオーンもまた必死の様子で叫ぶ。だが、敵の軍勢は一向に怯む気配はない。
むしろ増えていく一方である。
ジュランとガオーンには疲労の色が強く見える。

「大変だ……急いで助けないと!」

 介人は急いでジュランたちの元へ向かうことにした。

「おーい!! 大丈夫!?」

 そこから間もなくジュランたちの元に到着した介人たち。
しかし、状況は芳しくなかった。敵の数は増える一方で、
明らかに劣勢を強いられていたのだ。しかも、ジュランたちは負傷している。
介人たちは急ぎジュランたちに加勢することにした。

「おっまたせー! あたしちゃんも来たぜーっ!!」

 まずは清少納言が番傘をくるくると回しながら駆けつける。
続いて康一、金時、仗助たちも到着した。

「まずはこの化け物共をぶっ飛ばすか! SMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASHッ!!」
「グワアアアアアアッ!!」

 金時はゴールデンベアー号の座席から飛び出して雷を伴うジャンプキックを放つ。
その攻撃によって敵の大半は吹き飛ばされた。

「クレイジー・ダイヤモンドッッッ!!」

 さらに仗助のスタンド能力により傷つけられたものは時間を巻き戻されたように
修復されていく。

「えっ!? スゴッ……」

 ガオーンとジュランは自分たちの受けたダメージが
一瞬にして治っていくことに驚愕した。しかし、まだ敵の数は多い。
ガオーンとジュランはすぐに気を取り直して戦闘態勢に入った。

「ジュラン、マジーヌとブルーンは!?」
「ああ、その事なんだがよ……まずはこの状況を切り抜けてから話すぜ!」
「……うん、分かった! チェンジ全開!!」

 嫌な予感が去来しつつも、介人はギアトリンガーを取り出し
ゼンカイザーへと変身。ジュランとガオーンもそれに続いた。


【ババン!ババン!ババン!ババン!ババババーン!】


「秘密のパワー! ゼンカイザー!!」
「恐竜パワー! ゼンカイジュラン!!」
「動物パワー! ゼンカイガオーン!!」


「3人だけだけど……機界戦隊! ゼンカイジャー!!」

13人目

「幕間:松田という男 その2」

~東京 警視庁~
「教団の……内部調査!?」
「おう、赤坂サカスに行って教団メンバーのリスト調査を頼めるか?」

 松田が面食らうのも無理はない。
 確かに松田はキラ事件の一環で、全くの偶然だったとはいえヨツバグループの内部調査に赴いたことはある。
 しかしアレは独断での行動でラッキーパンチにも近しい結果だった。二度も同じ結果になるとは思えない。

「でも、どうして僕なんかが……それに、これとキラ事件に何の関係が?」
「それなんだが、実は……。」

 苦虫を食い潰したような表情で、同僚の男は話す。

「まだ誰にも言うなよ。実はキラ事件の、魅上だっけ?どうやら奴が教団にかかわってるらしいんだよ。」
「え?でも魅上はニアに捕まった後……行方不明になったって。」

 そうだ。あの倉庫での戦いの後、魅上は逮捕されたはず。
 その後の彼の状況は知らなかったが、まさかだ。

 まだ残っていたキラ事件の残滓。
 再びデスノートによる事件が、或いはそれに近しいことが起きようでもしたら最悪だ。
 決意と燃える正義感と共に、松田は覚悟を決めた。

「分かりました。やらせてください……!」



~存在しなかった世界 メサイア教団の城 謁見の間~
「トラオムを通じたリ・ユニオン・スクエアとこの世界の接続が完了しました。30日後いつでも攻撃できる状態に入ります。」
「うむ。」
「CROSS HEROESはどうしますか?」
「いや、まだ泳がせよ。」

 カール大帝は、依然威風堂々としていた。

「はっ、御心のままに。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おい魅上。」
「何か?」

 謁見の間を出た魅上を、廊下で待っていた芥志木が呼び止めた。
 芥の声は、何処か訝しみと疑念に満ちている。

「大帝猊下はどこまで、計画を把握している?」
「___把握?それはもう、全部ですが。芥さん。」

 男2人の沈黙。
 周囲の空気がぴりつく。

「トラオムに送り込んだ絶対兵士。アレの2体目の鋳造はお前の独断だって聞いたが、あの話は何だ?」
「ただの噂話でしょう。」
「噂?妙だなぁ、技術部門の連中皆が口をそろえて言っているんだが。」
「はは、噂話に踊らされては大司教もやってられないですよ。そも、あなたらしくない。」

 一抹の嫌味と共に、魅上はその場を去った。
 やがてシルエットが写らなくなった魅上を見てぼそり、と芥はつぶやいた。

「あなたらしくない、か___どっちのセリフだか。」



~港区のある病院 2F~
 メサイア教団に弾圧された若者たちが担ぎ込まれた大型病院。
 内部は広いが、そろそろ限界が来そうであった。

「燕青、大丈夫かな……。」

 その病院に、少女はいた。
 桜色のTシャツを着た長い茶髪を揺らし、松葉杖を辛そうに突く。
 ___それは儚げで薄幸さを感じさせる、守ってあげたいと思わせる花。
 しかし、その右手には赤い模様を浮かばせている。

 サーヴァントを従える者、マスターの令呪を手に。

「よっ、元気かー?」
「あ、月夜さん。」

 短いぼさぼさの銀髪を携えた、淡い紺色のパーカーを羽織った少年がやってきた。
 『天宮月夜』。
 現在ニュートラル・ガーディアンに接触している天宮彩香の兄である。

 サーヴァント、燕青の心配をする彼女を月夜は優しく励ます。

「気にすることねぇよフィオレ。あいつはああ見えて結構強いし___何よりも、俺らの同志だ。」

 燕青のマスターである少女の名は『フィオレ・フォルヴェッジ』。
 恋に生き、魔術を捨てたはずの彼女。
 遠い世界では千年樹の名のもとに戦うはずが、この彼女は外部の介入により運命が変転し続けた果てにいる外史存在。
 その身に残った魔術回路が、メサイア教団が、彼女の平穏と運命を乱したのだ。

 それでも彼女の瞳に陰りがないのは、教団という修羅場をくぐり抜けた精神の成長か。

「全員、仲間にするつもりですか?」
「お前なぁ、俺を閻魔大王かなんかと勘違いしてねぇか?ケガ人に鞭打つほど鬼になったつもりはねぇよお前含めて。ま、CROSS HEROESと均衡の守護者が来たら手厚く歓迎するとしよう。正直、俺らだけじゃ不安だったしな。」

14人目

「チームみかづき荘の上京物語」

 やちよの車に乗り込み、鶴乃、フェリシア、さな達は陰謀渦巻く
東京都・港区へと向かっている。
運転席から聞こえてくるエンジン音とラジオの音楽だけが車内を満たしていた。

 窓の外に広がるビル群や高速道路、そして街灯が照らすネオンの数々。
生まれて初めて見る景色に、フェリシアは目を輝かせている。

「おおー、なんだあれ!? 見た事ねーぞ!」

 それを後部座席から見たさなは、微笑みながら話しかけた。

「東京ってこんなに都会なんですね」

 神浜市も新興都市と言う事で発展しているが、
それとは違う意味で発展した都市であることは明白だ。
だが、この綺羅びやかな都市群の裏側では人智を超えた脅威が潜んでいる。
消失した新宿、お台場付近、そしてトラオム。
これらの事件の裏に、暗躍している巨大な影、メサイア教団。
やがて車は首都高に乗り、夜の道路を走り抜ける。
ふと、ラジオのDJが気になる話題を口にした。

『さて、次のニュースです。先日起きたメサイア教団の信徒を名乗る
テロリスト集団による襲撃事件について、警視庁は新たな情報を発表しました』

 やちよがラジオの音量を上げると、アナウンサーの声が響く。
それは都内で起きたテロ事件の続報を伝えるものであった。
その内容に、思わずやちよは眉間にシワを寄せた。内容は、こうだ。
メサイア教団員を名乗るテロ組織が、都内で大規模な爆破攻撃を行い、死傷者を出した。
襲撃を受けたのは都内全域に及び、警察庁はこの事件を広域重要指定事件に指定。

「やってんなー、こいつらも……」

 フェリシアは呆れ顔でつぶやく。
この手の事件は今までにも何度か起きていたが、今回の規模はかなり大きいようだ。
しかも、テロ組織は複数存在し、各地で小規模な破壊活動を繰り返している。
まるで何かを試すように。

「やちよししょー、いろはちゃん達が戻ってくる前に解決できるといいね」

 助手席の鶴乃が言った。

「そうね」
「でも、メサイア教団? ……の人たちって過激な事をしてはいるけど
魔法少女や超人でもない普通の人達ですよね?」

 さなが疑問を呈した。

「そこなのよね……」

 魔女やモンスターではなく、今回の相手の大部分はメサイア教団に感化されて
暴徒となっているだけの普通の人間。
如何に命を奪う事なく無力化出来るかが鍵となる。

「めんどくせーな。向かってくんなら全部ドカーンってぶっ潰せばいいじゃんか」

 後ろの席から、フェリシアが不満げに言う。
確かに彼女の実力ならば、大抵の相手を返り討ちにする事が出来るだろう。

「フェリシアは短絡的過ぎ。もっと考えて発言しなー」

 鶴乃に叱られ、むくれるフェリシア。

「うっせー。オレは考えるより先に身体が動いちまうんだから仕方ねーだろ」

 言い争いを始めた2人を尻目に、やちよは少し考え込む。

「何処に敵が潜んでいるか分からない。何処か安全を確保できる場所まで移動する必要が
有りそうね」

15人目

「流星旅団 燕青/港区ライディング」

~トラオム 希望界域拠点~

「なぁアサシン。君に聞きたいことがある。」
「お?どうした黒いの。」
「黒いのって……。」

 タジタジになりつつも若き日のモリアーティは質問をする。

「君は……リ・ユニオン・スクエアの地に召喚された抑止の守護者、という訳ではないようだな。どちらかというと、君には聖杯戦争の形式と同様マスターがいる。違うかね?」
「……正解だよ。俺は流星旅団の魔術師が召喚したサーヴァントだ。」

 外を見ながら、燕青は自身のマスターの存在を答えた。
 流星旅団。
 今後彼らが出会うべき存在。メサイア教団に牙をむく叛逆者(レジスタンス)。

「流星旅団、か。それは我々の味方かね。」
「味方だな。召喚されたときにCROSS HEROESのことを教えてくれた。んで、マスターの命令でトラオムを消して来いって言われて派遣されたんだ。そこで十神と出会って今に至るってわけだ。___それがどうかしたかい?」
「いや、どうしても気になってね。ただ確認がしたかった。」 

 モリアーティの疑問は晴れたようで、これ以上の追及はなかった。

「あの嬢ちゃんはああ見えて心が強いからな。」

 今はこの場にいないマスターの存在を信頼している。
 その時、リクが燕青に話しかけてきた。
 どうやら絶望界域への出撃準備が出来たようだ。

「燕青さん、こっちは出撃の準備ができました。江ノ島さん達も。」

 その一声を聞いて、燕青はモリアーティの後を去る。
 モリアーティも、燕青に発破をかけた。

「では行ってくるといい。」
「んじゃ、そろそろ守備に行ってくるぜ。詳しい話は終わったら、な。」

~港区 首都高速道路~

 一台の車が、港区の首都高を走っていた。
 搭乗者は運転手であろう黒服の男。助手席には水色の打刀を肩にかけた少女、天宮彩香。後部座席には白髪の復讐者___罪木蜜柑・オルタと偉そうにふんぞり返ってる男アレクサンドル・デュマ。
 
「その刀、お嬢ちゃんの武器かい?」
「これ?そうだよ。ボクの戦うための武器だ。」
「ははッ、刀系女子か!そりゃあ王道でイケイケだなおい!次は何だ、サムライでも召喚するのか!?」

 まくし立てるようなデュマのセリフを気にも留めず、彩香は外を警戒していた。
 彩香は、高速道路の路上に誰かが立っているのを見た。

「くそ、チンピラ連中か。」
「何だこいつら!?いきなり現れやがって!」

 外には、有象無象の若者たちが徒党を組んでいた。
 彼らは金属パイプや手製のメリケンサック、ネットショップで買ったであろうスポーツ用のコンパウンドボウや100均の包丁を手にして、彩香たちの乗る車を囲おうとしていた。
 しかし、彩香はいたって冷静に彼らを見ている。

「……メサイア教団に感化され暴徒化した連中だ。明確な目的がある教団やボクらとは違って、自分が楽しけりゃいいただのチンピラだよ。自己顕示欲の化身が徒党を組んでいるとでもいえば分かりやすいかもね。その証拠に、ほら。」

 彩香は、暴徒のうちの一人を指さした。
 よく見るとスマホのカメラを持って、撮影をしているのではないか。恐らく何処かの配信サイトで生放送をしているのだろう。

「ふざけてやがるぜ、自分の身の心配でもしてろってんだよ。」

 車を囲おうとしている暴徒たちの顔は悪意に満ち満ちていた。
 むしろ、自己顕示と嗜虐心に満ちている。

「メサイア教団の為に、行くぞ!」
「教団に従えば俺らは『神』になれるんだ!」

 暴徒たちが突っ込んできた。
 しかしひるまない。

「皆さん、このまま突っ切ります!」
「あああ!?あぶねぇな!舌噛むってんだよ!」
「失敬。」

 黒服の男はデュマがビビり悪態をつくほどの勢いでアクセルを強く踏みつけ、車を発進させた。
 車の速度メーターは時速110kmを叩き出している。
 暴徒の中にはバイクに乗り追ってきた者もいたが大半が混乱しておりこれ以上暴徒たちが追ってくることはなかった。

「戦わなくてもいいのか?」
「ああいう連中は戦うより無視を決め込んだ方がいい、体力を無駄にしないからね。」

 その後、暴徒たちを振り切り車は通常の速度を叩き出した。
 車が落ち着きを取り戻したのち、彩香が次の目的地を話す。

「このまま兄さんがいる拠点に向かう。」
「そういや言ってたな、あんたの兄さんのこと。んで、どこにあるんだ?」
「ボクらの拠点は……止まって!」

 車が急ブレーキをかける。

「もう感づいたか、教団の雀蜂部隊だ。」

 黄色と黒のヘッドギアが特徴の、重武装部隊。
 メサイア教団の傭兵部隊、雀蜂だ。

「ボクが行こう。」
「んじゃ、あたしも行く。」

 天宮彩香と罪木オルタが外に出る。
 外には10名ほどの雀蜂が待ち構えていた。

「教団に歯向かう組織……流星旅団め!全員始末しろ!」

 雀蜂がマシンガンによる銃撃を開始する。
 罪木オルタが攻撃をかわし、1体、また1体と殴りかかる。

「……じゃ、ボクも!」

 そういって彩香の背に装備された刀を片手に持ち、すさまじい軌道を描きながら超高速の斬撃を繰り出す。
 大地を蹴り、高速道路のフェンスを蹴り、3次元的な移動を繰り出しながら雀蜂を倒していく。

「これこそがボクの『彗星剣術』だ___!」

「なんて動きだ!」
「クソ!撃て撃て!」

 雀蜂はあきらめずに攻撃を繰り出す。
 しかし2人も攻撃をやめない。

 首都高にて、教団との戦いは始まった。

16人目

「流星を見た魔法少女」

「ん?」

 奇しくも、その戦いの様子はやちよ達の乗る車からも見えた。
夜の暗闇を輝かす閃光。

「ね、ねえ、あれ、戦闘かな」

 鶴乃が窓越しに首都高の戦いを見る。発砲の光に照らされてふたつの人影が縦横無尽に
駆け巡っていた。

「凄い動き……あれって、魔法少女?」
「少なくとも常人でないのは確かです……」

 夜空を空間ごと切り裂くような一閃。剣を持った少女と鉄拳を繰り出す少女が、
集団を圧倒していた。少女は剣で敵を斬り伏せた後、こちらを向いた。

「わ、こっち見たぞ!」

 フェリシアが慌てて隠れる。
だが、少女はすぐに視線を逸らすと再び敵の群れへと突撃していった。

「ど、どうしましょう、やちよさん……」
「早速荒事になってきたわね」

 やちよはそう言うと、ハンドルを切った。

「お、行くのか!? よっしゃ、あれならオレも魔法少女になって暴れても良いよな!?」
「まだそうなると決まったわけじゃないわ。けど、放ってもおけない。
準備だけはしておいて頂戴」

 やちよ達を乗せた車は、そのまま現場へと急行する。

「これは……」

 数分後、やちよ達が戦闘が起きていた首都高の現場にたどり着いたとき、
そこには誰の姿もなかった。あるのは倒れた雀蜂の亡骸のみ。
血の臭いだけが辺りに充満している。

「りゅ……流星……旅団め……」

 かろうじて息があったのであろう雀蜂の一人が、うわ言のようにつぶやいた。
やちよは、その言葉を聞き逃さなかった。

「流星旅団……メサイア教団とは違うみたいね」
「この人達も、人間ではないみたいです……」

 やちよ達は、新たな勢力の存在を知ることになる。

「あ、おい、あの車!」

 フェリシアが現場から少し離れた道路脇に停めてあった車に乗り込んでいこうとする
人影を見つけた。暗がりで顔はよく見えない。

「あなたたちがやったの……!?」

 やちよは人影に詰め寄った。

「まあね。そいつら、メサイア教団の刺客なの。ニュースとかで見たでしょ? 
雀蜂って言うホムンクルス……人造人間みたいなもんかな」
「アンタら、もしかしてCROSS HEROESって奴らの関係者?」

 罪木オルタが口を挟む。

「CROSS HEROESの事まで知ってる……!?」

 鶴乃が驚いたように声を上げた。やちよは冷静に思考をめぐらせる。
この二人、只者ではない。やちよはそう判断した。

「あなたたちは、一体……」
「流星旅団。また会う事も、多分あると思うよ」

「おーい、さっさと行くぞ。サツが来ないうちにな」

 車内からアレクサンドル・デュマが急かす。
二人は車に乗り込むと、その場から去っていった。

「わ! おまわりさんだ!」

 騒ぎを通報された警察のパトカーのサイレンが遠くから鳴り響く。
だんだんとこちらに近づいている。

「私達も早く逃げるわよ!」

 やちよの言葉と共に、車に飛び乗った。

「ふいー、いきなり前途多難って感じだねぇ~。東京、怖わ~……」
「おもしれーじゃん、東京! ぎゃはははははは……」

 車内で冷や汗をかく鶴乃と、この状況を面白がっているフェリシア。

「私の魔法で、この車だけを知覚出来ないようにしました。
首都高から降りるタイミングで解除します……」
「ありがとう、双葉さん」

 さなが魔法少女になるための願いとは、「誰からも気にされない透明な存在になる事」。固有魔法もその経緯が反映され、自らの気配を遮断出来ると言うもの。
それを強化・応用し、やちよの車を丸ごと覆っているのだ。

そんな彼女らを尻目にやちよは考えていた。

(流星旅団……敵なのか、味方なのか……分からない。
でも、いずれまた会う事になるかもしれない)

17人目

「追憶:パレス/更なる集結!の巻」

ジョーカー達の眼下に広がる無人の荒野。
荒れ果てて崩壊した様相を醸し出す世界に、大きな異物が紛れ込んでいる。
灰色のコンクリートに塗り固められ、整えられた人工の入り江。
多少周囲の破損が及んでいるが、見間違いようも無い。
まるで切り取られた様に据えられたその場所は、紛れもなくお台場だった。
そして中心には、プラネタリウムの如き幾何学模様の建築物。

「あぁ、間違いねぇ…!」
「お台場のパレス…」

非現実的な存在感を放つソレに対し、確信を持ったのだろう。
神妙な顔つきでその名を口にする、モナとキン肉マン。

「…ってなんじゃったっけ?」
「だぁ!?」

かに思えたが、キン肉マンの方はいまいち分かっていなかったらしい。
思わずズッコケたモナは呆れた表情でキン肉マンを見るが、当の本人は顔にハテナマークが浮かんでいる有様だった。

「ったく、お前なぁ…」
「いやぁすまんすまん、キン肉星に帰ってから色々立て込んでての!」
「そういや、これでも王様だったな…」

頭に手を当てながら笑うキン肉マンだが、それは仕方のない事かもしれない。
元々地球から故郷へと戻った事で、王としての新たな日常へ埋没していたのだ。
そうして日々忙殺されていく内にパレスについての知識を忘れたであろう事は、誰の目にも明らかであった。

「…しょうがねぇ、ワガハイが一から説明してやるぜ。」

彼の言う事に一理あると思ったのだろう。
ため息一つ吐いて気持ちを切り替えると、モナは解説を始めた。

「まずパレスっつーのは、『特定の誰か』が『どこか』を『歪んだ形』で見た『心象風景』だ。」
「うーむ、どこかを歪んだ形で見た…?」

ひとまず出された結論に対し、疑問点をオウム返しするキン肉マン。
そんな彼に、モナは噛み砕いた内容で解説する。

「要するに『その誰かにとって都合の良い、もう一つの現実』だ。」
「もう一つの現実…ううむ、何となく思い出してきた様な…?」

キン肉マンも彼なりに頭を捻って解釈しているのだろう。
その様子に後ひと踏ん張りと、例え話を繰り出した。

「例えば『ある教師』が『学校』を『王様気分』で『自分の城』と強く思い込めば、『学校に城』が出来上がるっつー訳だ。」
「おぉ、朧気じゃが思い出してきたぞ!その例で行くと、城がパレスで教師が主じゃな?」

どうやら上手く伝わったらしく、納得がいったように手を叩く。
それを確認してから、モナは最後の説明に入る。

「そんでもってパレスの核、つまり歪んだ本性の元となったのが、オタカラだ。」
「思い出したぞ!確かソレをパレスから盗めば歪んだ性格が元に戻る、所謂『改心』するんだったな!」
「記憶が戻ったみてぇだな、ふぅ…」

そこまで説明すると、モナは軽く深呼吸する。
話し疲れたのだろう、無理も無い。

「いやぁすまんのぉ、漸く全部思い出せたわい!」
「説明した甲斐があったと思う事にするぜ。それで…」

ここに来て、本題は目の前にあるパレスへと移る。
黄昏色に輝く半透明のホログラムと言うべき巨大な地球儀、その周囲に渦巻く螺旋階段。
更には周囲を見渡す様にカメラのレンズがリング状に連なっており、絶えず伸縮し稼働している。
そして地面と接している場所には近未来的なエレベーターが一つと、その様相は異様の一言に尽きた。

「問題はあのパレスの正体が何なのか、だな。」
「確か、正体も分からんから放置していたんだったか?」

モナの問いかけに答える形で、キン肉マンはその事実を口にする。
元々『競技場』が建てられる予定であった場所にて、偶然立ち寄り見つけたのだ。

「あぁ、特に悪さをしている訳でもねぇみてぇだったからな…」

ジョーカー達、もとい心の怪盗団が改心させる相手は基本的に悪党に限っている。
故に悪事の気配を見せないこのパレスは放置されていた。
だが。

「竜司をあんな風に変えたと分かった以上、放置できんわい!」

事情が変わった。
坂本竜司に異形のナニかを仕込み、変貌させたのがこのパレスの仕業であると分かった。
故に放っておく訳にはいかないと、強い意志を込めた瞳でパレスを睨む。

「ここで何を企んでるか知らないが、ろくでも無い事は確かだ。絶対に止めるぞ…!」

決意を口に、そのままパレスへと一歩を踏み出す一同。
彼等の足並みに迷いは無かった。
_ただ一人、ジョーカーを除いて。

(…学校の、いや城の時を思い出すな。)

彼が追憶するのは、初めてのパレスの時。
先に挙げた『城のパレス』、あれは実例だ。
ジョーカー達が初めて遭遇し、攻略したパレス。
その時は竜司と杏、モナ、そして『彼』が居た。

(この事態になってから、消息が掴めてない…)

杏達は竜司がどうにかするとしても、『彼』だけは出自故に別だ。
『彼』の消息が未だ掴めないのが、一抹の不安だった。
しかし。

(…だが、ここで止まっていてもしょうがない。)

憂いを振り払って、再び歩を進めるジョーカー。

(それにきっと、ひょっこりと平気な顔で現れるだろう。)

出自故の不安と同時に、一種の安心感もある。
そう思ったジョーカーは、今度こそ迷い無く一歩踏み出した。



「石だと分かれば容赦しないよ!せりゃーっ!」

ガオーンが繰り出す鋭い爪の一撃は、ストーンズサの強固な体を容易く斬り裂いていく。
だが、まだまだ数は多い。
彼等の屍を踏み越えて、ガオーンへと迫り来る。

「こっちの獣は俺に任せとけ!」

そこを横合いから捌くのは、ジュランだ。
シールドバッシュで確実に敵を分断し、バラけた所を一体一体確実に撃破する。
淀みなく行われる手馴れた手腕は、歴戦の風貌を醸し出している。

「そらそらそら、三枚おろしいっちょ上がりぃ!」

烈火を纏った剣で続けざまに撫で斬り。
直後には、モンスター達が爆散する光景が残った。
だが。

「…って、まだ来んのかよ!」
「流石に多すぎるよ~!」

それでも、数の差は引っ繰り返らない。

「これってマジヤバな感じ…?」
「どうしよう、囲まれちゃってるよ…!」

増援に来た康一達もまた、大軍に囲まれつつあった。
じりじりと迫り来る、モンスター達。
万事休すか、そう思われた時だった。

「とぉーーーっ!!」

突如として包囲網の一角から上がる怒声。
同時に、そこからモンスターが吹き飛ばされる様子が垣間見える。

「おいおい、何だありゃ!?」

急な事態に、驚きを隠せない仗助。
康一は咄嗟にエコーズを飛ばし、上空から様子を伺う。

「…あ、あれって!?」

そこに映る姿を見て、驚愕の声を上げる康一。

「だ、誰なんだ康一!」
「えっと、確か…!」

散り散りにされたモンスターの隙間から、その姿が見えてくる。
その姿は。

「『心突錐揉脚」---っ!」
「ラーメンマンさんだーっ!」

特異点に突入したCHの超人達だった。

18人目

「ウルトラ凄い巨人だゼーット!」

一方その頃、TPU本部近くに着いたGUTSセレクト、そこでは3体の怪獣が暴れていた。

「怪獣が3体も…!?」
「まさか一度に3体も同時に出てくるなんてな……」
「……いけるかい?ケンゴ君」
「はい!もちろんです!」
「よし…総員、戦闘開始!」
「「「「「「ラジャー!」」」」」」
《ウルトラマントリガー!マルチタイプ!
ブーストアップ!ゼペリオン!》
「未来を築く、希望の光!!ウルトラマン!トリガァアアアアアアアアア!!」
《ウルトラマントリガー!マルチタイプ!》
「デェアッ!」
ケンゴはウルトラマントリガーへと変身し、ナースデッセイ号やガッツファルコンと共に3体の怪獣との戦闘を開始した。



一方その頃……リ・ユニオン・スクエアとは異なる別の宇宙では、トリガーとは異なるもう1人のウルトラマンが彷徨っていた……そのウルトラマンとは……



よう!地球の皆!俺はウルトラマンZ!
あのウルトラマンゼロの弟子をやらせてもらってるんだ。
俺は今、ハルキやベリアロクと一緒にとある存在を探している。
その名は『セレブロ』、やつはいろんな星の人類に寄生して、恐怖を植え付け自滅させる…通称『文明自滅ゲーム』なるゲームを行い、いくつもの星々を滅ぼしてきたとんでもないやつなんだ。
俺とハルキ、それとベリアロクはハルキのいた地球の防衛チームである『ストレイジ』の皆と協力してやつの目的を阻止して捕獲することに成功したんだが……
どういうわけか逃げ出したみたいなんだ。
本当はストレイジの皆やゼロ師匠達の力も借りたかったんでありますが……ストレイジの皆は自分達の地球を守らないといけませんし、ゼロ師匠達先輩ウルトラマンの皆さんは光の国と敵対関係であるアブソリューティアンへの対処と最近起きているいくつもの並行宇宙が次々と消滅する事件の調査で忙しいみたいなんですよね……
それで俺とハルキ、ベリアロクの3人だけで逃げ出したセレブロを探してるんですが……
『Zさん、全然見つかりませんね……』
「そうですなぁ……ウルトラ困った……」
とまぁ……こんな感じで捜索は難航してるのでございますよ
「うーん……何か手がかりがあればいいのでありますが……」
「・・・」
『ベリアロクさんどうしたんですか?』
「……妙だな……おかしな気配がする……」
『おかしな気配……ですか?』
「あぁ……まるで誰かを呼んでるような……そんな感じのな」
「誰かを呼んでる…?」
『ベリアロクさん、そのおかしな気配というのは、どこから感じるんですか?』
「この感じだと、別の宇宙のようだな……」
『別の宇宙からですか……』
「ハルキ、もしすると……その宇宙にセレブロが……」
『……可能性はありますね……ベリアロクさん、その気配がする宇宙へ行くことはできますか?』
「あぁ、いいぜ」
「よーし…!では行きましょうハルキ!」
『押忍!』
こうして俺とハルキは、ベリアロクが感じ気配を追って別の宇宙へワープした。



一方その頃、リ・ユニオン・スクエアでは
《サークルアームズ!マルチソード!》
「デェアッ!」
「ギャオオオオオオン!」
『ハァ…ハァ…!』
GUTSセレクトと協力して怪獣達を相手にするウルトラマントリガー、しかしそれでも3体も同時に相手するのはキツく、まだ3分も経ってないのに胸に付いたカラータイマーが赤く点滅し始める。
『っ!まずい……このままじゃ……』
絶体絶命…!そんな時であった…

「デュワッ!」
「!?」
突如として空に一瞬亀裂ができ、そこからトリガーとは異なるもう一体のウルトラマン……ウルトラマンZが現れて、手に持ってたベリアロクで怪獣のうちの1体を切り裂いた。
「あれは……確か2年前に現れた別宇宙のウルトラマン……」
「ウルトラマンZ…!?」
『ハルキさん!?』
『お久しぶりですケンゴ君』
『どうしてここに…?』
『話は後でします。今はこの怪獣達を…!』
『は、はい!』
『よっしゃーハルキ!ウルトラ気合入れて行きますぞぉ!』
『押忍!』
ウルトラマンZとウルトラマントリガー……2年前に共闘した二人のウルトラマンが、今再び出会ったのである…!

19人目

「絶望界域決戦 前哨」



 外史存在(アポクリファ・シング)、という言葉がある。
 それはあり得たかもしれないIFの存在。
 ある人物が『もしこの選択を取っていたら』という仮定の下辿っていたであろう道。
 或いは、『外部の存在によって正しく辿るであろう運命を歪められた者』というべきか。

 ___いずれにせよ、彼らの存在は正史では異聞の存在、パラレルワールドの住人として扱われる。

 この世界に生きる江ノ島盾子がいい例だ。
 彼女は絶望の化身として絶対悪の道を歩むはずが、その実教団の干渉に遭い正義の味方としての道を歩んでいる。
 その上、本来はありえざる哀しき悪役としての側面も備えている。

 そんな彼女もまた、外史存在であるのだ。

 抑止の守護者 ルクソードのレポート


~絶望界域 ダークシティ~

 白黒の建物がまるでジャングルのように支配している。
 地面は緑と黒のネオンライトが輝いていて、絶望界域の悪辣さを示している。

 軍事都市とはいえ、まるで1980年代のバブル期の日本、その当時の都会のようだ。

「本当にガラガラだったな。すぐについたし。」

 ダークシティの裏。悪徳が支配する軍事都市の影。
 アレート城塞への物品運搬用通路より、希望界域のリク、デミックス、江ノ島、そしてシャルルマーニュが兵士をなぎ倒し終えたのか若干の疲れを残しつつ絶望界域へと足を踏み入れた。

 物品運搬用の通路のはずが、アレート城塞の崩壊と共に封鎖されたためか見張りの兵士が少ないのが幸いし、体力の消耗は少なかった。

「しかし、まさか機関のメンバーと一緒に戦うことになるなんてな……。」
「ホントね。一発殴ってもいい?」
「おいおい、喧嘩すんなよ2人とも。」
「ちぇー。」

 シャルルマーニュに叱られ、デミックスは心を込めずに顔をしかめる。
 とはいえ、光と闇の片割れがこうして結束しあっている。
 まぁ、そもそも論デミックスはあの時同胞のヴィクセン、そして『もう一人』と共に陰ながらゼアノートを裏切り光側に加担したのだが。

「待って、みんな前に誰かいる。」

 江ノ島が立ち止まり、指をさす。
 そこにいたのは無名英霊が数体。

「貴様ら!侵入者か!」
「この先へは行かさん!」

 絶望界域のセイバーが数体、立ちはだかった。

「ここは俺に任せてくれ!」
「じゃあ、俺も手伝いますよ。」

 シャルルマーニュとリクが立ちはだかった。
 この様子を見たセイバーたちが一斉に襲い掛かった。

「くっ、たった2人だ!一気に攻め込むぞ!」

 無名英霊たちが2人に戦いを挑む。
 シャルルマーニュはこれを、輝剣による攻撃で薙ぎ払っていく。
 討ちこぼした敵は、リクのキーブレードとそこから放たれる魔法で斬り伏せてゆく。

 かくして、無名英霊たちは消滅していった。

「みんな、地下牢への入り口を見つけた。」

 敵を打ち倒したリクが、遠くの壁を指さす。
 そこは、別の路地裏にひっそりとあった小さな扉。
 周囲が木の扉なのに対し、ここだけが不自然に鉄の扉であるとのことだ。

「ああそうだ、そこが地下牢に通じている扉だよ。」

 リクによって撃破され、消滅しかけのセイバーが世迷言を呟いていた。
 その言葉はか細く、しかし悪意に満ちていた。

「…………どうせ死んだって次があるんだ……俺達無名英霊は、トラオムがある限り無限に蘇れるんだからなぁ!」
「おいてめー何言ってんだ?」

 尋問をする江ノ島に、セイバーは悪辣に挑発をした。
 仮面をかぶっているがためにその表情こそわからないが、きっと仮面の奥でほくそ笑んでいるであろう。

「くく……止めれるかな?いや、どうせここはお前らが止めるだろうさ。」

 ははは……と乾いた笑いが無名のセイバーの仮面の奥から、小さく響いた。

「なんでもいいけどよ……トラオムの最奥を見たお前らの『苦悩に曇った』顔が、楽しみだな……!」

 凄烈な悪意と邪悪な愉悦に満ち満ちた捨て台詞と共に一抹の疑問を残し、セイバーは消滅した。
 言葉の意味が依然分からない江ノ島は、その疑問を脳内の隅に刻みつつリク達へとついていった。

「何言ってんだこいつ、訳の分かんねぇことを。」

20人目

「白銀の戦艦/サバイブ」

東京都港区は、未曽有の災禍に見舞われていた。
メサイア教団を筆頭としたテロリストによる襲撃、感化された若者の暴徒化、それに伴う暴動。
今や首都東京という国の心臓部は、警察を初めとした治安維持機関が麻痺している状態に陥っていた。

「ええい、こんな時に…!」

警視庁の一人が、頭を抱えて舌打ちする。
だが無理もない事だった。
現在進行形でカルト集団による襲撃事件と暴徒の鎮圧に、警察を始めとする治安組織はフル稼働を強いられているのだ。

「怪獣の出没さえ無ければ…!」

こういった災時において市民の避難等に秀でたTPUや各関係機関は、今現在3体もの怪獣の対処に追われている。
まるで見計らった様に、タイミングが悪すぎた。
しかしこうして悩んでいる間も、事態は刻一刻と悪化の一途を辿る。
テロリストや暴徒の攻撃は激しさを増していき、一般市民からの犠牲者も止まらない。
事態を収拾する手立ては最早無しかと、頭を抱えていた。

_ゴオォォォォォ…!!
「…何の音だ?」

ふと、遠くから聞こえる喧騒に混じって、耳を劈く異音が届く。
初めは僅かながらにしか聞き取れなかったそれは、徐々に一切の音を凌駕する轟音へと変化していく。
同時に、地面が静かに揺れ始めた。

「な、何の揺れだ!?」

周囲を見渡さなければ知覚できない、しかし確実に起きている揺れ。
そして呼応する様に甲高くなっていく異音。
まるでジェットエンジンのスロットルが上がるかの様な音。
気付けば喧騒が鳴り止んでいる。
暴徒達もまた、その異音を前に足を止め、耳を澄ましているのだろう。

「あ、あそこです!巨大な何かが!?」

ふと、一人の警察が慌てた様に窓の外に映る海の一角を指差す。
釣られて見れば、海の底から何かが浮上している。
激しい水飛沫と夜闇に遮られ詳細は見えないが、30mは下らないサイズだ。
その何かを中心にして、海面が激しく揺れている。
やがて轟音が人の耳に聞き取れない高周波になると共に、揺れが収まり始めた。
浮上しきったのだろうそれは、港区から立ち昇る火災に照らされ、銀色の外郭を露わにする。
やはりと言うべきか、夜の闇に紛れて全貌が掴めない。
だが、それが海面から垂直に離水している事は分かった。
あれだけの巨体が空に飛び立っているのだ。
如何なる生命か、或いは兵器かは分からないが、いずれにしても超常の存在である事には相違無い。

「なんだアレは…!」

誰一人として二の次の言葉を発せぬまま、その異様な光景に見入るしかない。
東京湾上空を悠々と旋回しながら上昇を続ける物体は、大衆の注目を一身に浴びている。
やがてその物体は、200m辺りまで上昇した所で静止した。

_パッ
「うわっ!?」

同時に、その物体からスポットライトの光が大地に向かって幾つか差し込む。
突如として照らし出された暴徒達は目が眩み、立ち往生する。

_バリッ!

直後、甲高い雷鳴と共に、閃光が暴徒達へと襲来する。
まさしく光の速さで駆け抜けたソレは、照らされた暴徒に直撃する。
一瞬の間を置いて倒れる暴徒達。
照らされているからこそ遠くからでも良く見える、倒れた暴徒が痙攣している様を。
死には至ってないが、一瞬で無力化された様を。
一瞬だった、一方的だった。
そしてライトが照らす方向が、次の暴徒へと移る。
何を起こすつもりなのかは、その挙動が詭弁に語っていた。

_次はお前だ。

途端に悲鳴が立ち昇った。
一方的な蹂躙に臆した暴徒は逃亡者へと早変わりし、我先にと駆け出した。
照らされる範囲から逃れるべく、必死の形相で走り去る。
ある者は物陰に隠れ、またある者は道路脇の塀を乗り越えて裏路地へ逃げ込んだ。
だが。

「…あれ?」

第二射は来なかった。
まるで興味を失った様に、ライトが次々と消えていく。
やがてソレは機械的な唸りを上げ、港区を後にしてしまった。
ソレが向かう先は、怪獣の出現した地区の方角だ。
誰もが呆然とし、その後ろ姿を見るしかなかった。
_火明かりから逃れ、月夜に照らし出される姿。
それは、白銀に輝く双胴の戦艦だった。



「…上で一悶着起きたみたいだな。」
「あぁ、どうやら見張りがやられた様だ。」

地下牢で眼を閉じていたオセロットとピッコロが、不意に口を開く。
リクやシャルルマーニュ達が英霊達と一戦交えた音を、彼等は聞き取っていたのだ。
特にピッコロは耳の良さでは人よりも秀でており、その詳細まで把握していた。

「通信機で聞いた声と同じだ、希望界隈とやらの者と見て間違いないだろう。」

故に、通信機越しに聞き取ったシャルルマーニュ達の声の識別すらも、ピッコロにはお手の物だった。

「なら、ここを出ても安全そうだな。ウーロン!」
「はいよ、へーんげ!」

それを聞いたオセロットとウーロンの行動は早かった。
針金に変化したウーロンを手に取り、それをすぐさま牢の鍵穴へと差し込むオセロット。
2、3度捻った後、カチャリと音を立てて牢の鍵が外れ、戸が開く。
そのままブルマ達の牢も開けていき、全員を連れ出す事に成功した。

「さて、命の恩人にご対面と行こうか。」

21人目

「突入、絶望界域!」

――絶望界域・西部。

「はあああああああッ!!」

 絶望界域・ダークシティにて大きな動きがあった頃、
こちらは復讐界域拠点から迂回して絶望界域への突入を敢行したCROSS HEROES。

「狙撃塔の方は、カナディアンマンさんとスペシャルマンさんが
押さえてくれたようです!」

 狙撃砲の脅威がビッグボンバーズの2人によって取り除かれたのを皮切りに、
CROSS HEROESが絶望界域・西軍へ奇襲攻撃を仕掛けたのだ。

「よっしゃあ! ゴムゴムのォォォォォォォッ……! 
攻城砲(キャノン)ンンンンンンンンンンンンッ!!」

 ゴムゴムのガトリングによる鉄拳乱打からの、
その勢いを乗せた掌底・ゴムゴムのバズーカへと繋げる連携技を繰り出すルフィ。
行く手を遮る絶望界域兵たちを一撃の下に薙ぎ払いながら、一直線に突き進む。

「ぐおあああああああああああああああッ!!」
「たらふく肉食ったからな、力が有り余ってンだ! 
まだまだ暴れ足りねェぞォォォォォォォッ!!」

「僕たちが復讐界域に行ってる間に、随分英気を養ってきたみたいですね……」
「そうなんです……ルフィさん、希望界域の備蓄食料全部食べちゃう勢いで……」
「でも、それでこそルフィくんだ」

「ふん、あの麦わらの男……俺たちと同じく気を爆発的に高める事が出来るらしいな」

 ベジータはそう言いつつ、両手を前に突き出す。

「だらららららららららららああああああああああああああああああッ!!」

 そして、そこから超高速の連続エネルギー弾を放ち、
前方に立ち塞がる敵を一気に吹き飛ばす。

「凄いなぁ、ルフィさんも、ベジータさんも……」
「私達も負けていられないな……」

 呆ける黒江の側を駆け抜ける黒い影……ペルフェクタリアだ。

「疾ッ!!」

 地を踏み抜く震脚からの鉄山靠で、ペルの小柄な身体の倍くらいもある絶望界域兵を
宙高く弾き飛ばし、その背後に展開する敵を巻き込み、一掃する。

「ぐへああああああああッ!!」

「なかなかやってくれるじゃないか」
「足手まといにはならないと言った」

 けんけん、と爪先を地に着けつつ、ベジータに応えるペル。

「我ら、アルガス騎士団! この剣の錆となる覚悟のある者のみ、かかって来るが良い!! ハイヤーッ!!」
「ヒヒーンッ!!」

 愛馬・アーガマが嘶き、剣士ゼータが敵陣を斬り裂いて道を作る。

「おぉぉぉぉうりゃああああああーッ!!」

 10数人もの絶望界域兵をたった一騎で押し返す闘士ダブルゼータ。
自慢の怪力によって、大柄な男ですら軽々と持ち上げて放り投げる。

「うおおおおおおおおおっ!?」
「爆ぜよッ!! メガバズッ!!」

 法術士ニューが梟の杖を横薙ぎに振るうと、爆発魔法が発動し、
周囲一帯を吹き飛ばした。

「な、何と言う事だ……我が軍の戦線が完全に崩壊している……!!」

「これだけの戦力なら、きっと大丈夫ですよ!」
「そうだね、みんな頼もしい人達ばかりだ」

 いろはと黒江が、皆の活躍に胸を躍らせる。

「ふっ! やあああああッ!!」

 神刀・星羅を一閃させ、群がる敵を薙ぎ払う月美。

「せいッ!」
「はああッ!!」

 彼女の背後を守るように、いろはと黒江が襲い掛かる敵に鋭い連撃を叩き込んでいく。

「これなら、このまま突破出来ますよ!」
「油断しないでくださいね」
「はい、わかっています。これは前哨戦……ここから先が絶望界域の本陣……!!」

 聳える外壁の向こうに見える街並み……あれこそがダークシティに間違いない。
いよいよ、その中枢へと攻め込む事が出来そうだ。

「待っていてください、ピッコロさん……!」

 悟飯が決意を新たに、眼前に迫る敵を見据える。
戦いの舞台はいよいよ、絶望界域の中枢へと……

22人目

「港区サベージドライブ/絶望を穿つ光」

 白銀の空中戦艦が、首都高の上空を優雅に泳いでいた。
 その荘厳さ、華麗さ、苛烈さ、恐ろしさはまるで伝説にある白鯨の如く。
 そんな白鯨の如き戦艦。
 今は艦名を知らずとも、それはきっと出会うべき者の予感を思わせていた。

「……文に書くならこうか?俺は英霊だけどよ、英霊のうんたらよりも面白おかしいことが起きてんな!」

 がははは、とデュマの高笑いが車の中に響く。

「ねぇ罪木さん、この人黙らせてくれる?」
「あいよ。」

 罪木オルタは彩香の命令に従い、買ってきたコンビニのホットドッグをデュマの口に詰めた。

「もぐもぐ……まふい(まずい)!」

 口の中にほおばられたホットドッグの味を批判する。
 それでも、彼の罵詈雑言は止まらないのはアレクサンドル・デュマとしての性分か。

「むすー。」

 いつもはクールな彩香も、あまりのうるささに頬が膨れる。
 その隣の黒服の運転手は、この様子をどこか楽しそうに見ていた。
 まるで、子供たちが楽しく遊んでいる様を見る親のような目で。

 やがて首都高を降り、一般道路を車は通り始めた。

「この先にあるマンションがボクたちの拠点だ。そこに兄さんともう一人の協力者がいる。」
「そうか、……ところでお前の兄貴はどんな奴なんだ?武器とかは一体なんだ?」
「ボクの兄さんは旅団のリーダーでかっこよくて…………おっと、話をしている場合じゃないみたい。」

 話を遮るように鳴り響く、低い轟音。
 いや、まるで起動したチェーンソーのように唸るエンジン音だ。

「ちっ、もう追いついてきたか!」

 その正体は先の首都高にいた暴徒たちが乗っているバイク。
 しかも彼らが持っている武器は、今度は鉄パイプだとかいう稚拙極まるものではない。
 首都高の戦闘現場から拾ってきたのか、教団の雀蜂が持っているはずのアサルトライフルも持っている。

「連中今度は本気だぜ!?」
「くっ、皆さんシートベルトを着けて何かに捕まっててくださいね!!」

 黒服が力強くアクセルを踏む。
 今度は一時的加速なんてものではない。

 背後から迫る暴徒たちのバイク。
 黒服の運転も激しく、かつ獰猛になってゆく。

「さすがにしつこいな!誰か後方にある手榴弾を!追いつかれるうちに投げて!」
「後方のやつ……これか!」

 後方にある黒い筒状の物体をデュマが拾い上げる。
 それは何処か無難無骨なデザインで、小さいかんざしのようなピンのついた黒い身には白いペンで『白煙手榴弾』と書かれているだけだった。
 誰がどう見てもこれは手榴弾だとわかるような物体が、車の中に転がっていたのだ。

「貸せ!こいつを投げればいいんだよなァーーーーッ!」
「ピンを引っこ抜いてね。」

 クールに返す彩香とは対照的に、罪木が激情を持ってピンを抜いた手榴弾を投げつけた。
 手榴弾は炸裂し、白煙が後方に展開されてゆく。
 やがてバイクは数台を残して白煙の中へと消えていった。

「これで、しばらくは凌げるか……?」



~トラオム 絶望界域:ダークシティ~

「くそ、侵入者か!撃て撃て!」

 地下牢を警護していた絶望界域のキャスターやランサーが一斉攻撃を開始する。
 もちろん狙いは先攻して入ってきた4人だった。

「ここはあたしらが食い止める!」
「先に行っててくれ!」

 シャルルマーニュと江ノ島盾子が後方で食い止めている。
 デミックスとリクは2人に背を預け、地下牢の探索へと出向いた。

 地下牢は薄暗く、黒い岩肌がそのおどろおどろしさを醸し出している。
 そこにこれ見よがしに配置されたマップを参考に

「この先にみんながいるみたい。」

 デミックスが位置を突き止めた。案内された先は古ぼけた木の扉。
 その奥からは、薄く輝く光が見える。

「よし、行こう!」

 異邦の勇士は、扉を開けて名乗りを上げた。

「希望界域のリクです!通信を聞いて皆さんを助けに来ました!」

 そこにあったのは、今まさに牢を開けたオセロットたちの姿だった。

23人目

「待たせたな……復活のピッコロ!」 

 絶望界域・西軍の守りを突破したCROSS HEROES。

「やあああああああッ!!」

 固く閉ざされた城門に、黒江が渾身の力を込めた二振りのクラブを勢いよく叩きつけた。

「私だって、負けていられないんだから!」

 その一撃で城壁の中心部が砕け散り、

「よっしゃあ! ゴムゴムのォォォォォッ……スタンプゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 そこにルフィがダメ押しのジャンプキックを叩き込む。城門は一気に崩落した。

「よぉし、突入だぁ!」
「はい!」
「えぇ!」

 絶望界域中枢に突入した一行は、城内の敵と相対する。
そこには、先ほどまで戦ってきた兵とは比較にならないほどの強者が待ち構えていた。

「我ら、神罰騎士団!! この絶望界域を守る最後の砦なり!」

 鎧兜に身を包んだ騎士たちは皆一様に剣を構え、こちらに向かってくる。

「神罰騎士団とな……? 面白い!」
「我ら、アルガス騎士団! その挑戦を受けようぞ!!」
「いざ尋常に勝負!」

 法術士ニュー、剣士ゼータ、闘士ダブルゼータが戦闘態勢に入る。

「悟飯殿、ここは我らが引き受けます!」
「ここは任せて早く!」

「はいっ! 行きましょう皆さん!」
「え、でも……!」
「大丈夫、彼らは強い!」
「……わかったわ! ありがとう!」

 月美が不安そうな顔をするが、悟飯がその背中を押して駆け出す。
そして、それを追うように一行も走り出した。

「行かせるか!!」

 神罰騎士団のひとりがその行く手を阻もうと立ちふさがるが、

「ふんッ!!」

 ダブルゼータがハルバードを投擲して妨害を阻止する。

「ぬうぅっ!?」
「邪魔はさせん!」
「ぐっ……」

 その隙に一同はダークシティの奥へと進んでいった。

「あら、とうとうここまで来たのね?」
「誰だ!」

 その先に待ち受けていたのは、白衣を着たメガネの美女。
ポケットに手を突っ込み、宙に浮いている。
悟飯やベジータと同じく、舞空術の類だろう。

「私は人造人間21号。あなた達のこれまでの戦いは見せてもらったわ」
「人造人間……まさか!?」

 レッドリボン軍の天才科学者、Dr.ゲロが生み出した人造人間の数々。
自分自身を20号に改造し、そして反旗を翻した17号によってゲロが処刑された事で、
人造人間シリーズは全滅したと思われていた。

「そ。私こそ、Dr.ゲロの残したデータを元に作られた人造人間の完成形……
それが私、21号よ!」
「何だと……!」
「お前も、人造人間なのか……!」

 驚愕する悟飯やベジータをよそに、21号は余裕綽々といった様子で語りかける。
その口調には、まるで世間話をしているかのような気楽さがあった。

「ふふっ、驚いたかしら? まぁいいでしょう。ここで死ぬ貴方達に、
私の素性なんてどうでもいい事よ」
「何を言ってやがる、貴様!」

「そうね、せっかくだから冥土の土産に教えてあげる。
私は、このトラオムで強い者同士を戦わせて、最後に生き残った者を”食べる”ために
この時を待っていたの」

「な……なんですって……!?」
「そのために、この世界の住人達を操っていたのか!」
「そういうこと。このトラオムは私が支配するための舞台装置だったのよ」
「ふざけないで! そんな理由で人々を苦しませて、許さない!」

 月美が怒りを露わにする。だが、21号は悪びれる様子もなく、
ただ薄笑いを浮かべているだけだ。

「別に許してもらう必要もないわ。これから死ぬ人達が、私を恨む理由はないでしょ?」
「たあああああッ!!」

 足場代わりに五芒星の魔方陣を展開し、月美がその上を蹴って
21号の元へと駆け上っていく。

「月美さん、迂闊だ!!」
「チッ……!!」

 ペルフェクタリアも月美に続いて、一足飛びで空中へと飛び出した。

「やああああああッ!!」
「覇ッ!!」

 月美とペルの同時攻撃。しかし、21号は右手で月美の神刀・星羅を2本指だけで
受け止め、左肘でペルの蹴りをガードしていた。

「なっ!?」
「こいつ……!!」

「そー……れっ!」

 ペルの足首を掴んで、そのまま月美に叩きつける。
2人はもつれ合いながら地上へ落下していった。

「ぐはっ……!?」
「きゃあああああああっ……!!」

「月美さん! ペルちゃん!」
「うぐ……!」

 いろはがすぐさま助けに入ろうとするが、

「一箇所に集まると危ないわよ」
「な……!」

 21号が巨大なエネルギー弾を飛ばして来た。

「あ……!!」

 ペル、月美、いろはをまとめて飲み込むほどの大きさが迫って来る。

「せ、せめて、ペルちゃんと月美さんだけでも……!!」

 逃げ切れないと判断したいろはは、魔力を全開放し、光の障壁を張り巡らせる。

「環さん!」
「いろはさん!」
「ふふふ、耐えきれるかしら?」

その時だ。


「――魔貫光殺砲おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 21号の巨大エネルギー弾に向けて伸びゆく、螺旋を纏った超高速のビーム砲が
放たれたのは。

「あれは……!」

 巨大エネルギー弾を貫通し、霧散させた光線はダークシティの空の彼方へ消えていった。

「今の技は……!」

 その軌道の先……ダークシティのビルの屋上に、その男は立っていた。

「――ピッコロさん!!」

 別働隊のリク達によって救い出された人質たち……その中のひとり、ピッコロが
悟飯達の危機に駆けつけたのだ。

「ピッコロのおっさん!!」

 ルフィが喜びの声を上げる。他の仲間達も歓喜の表情を見せた。

「あら、人質を逃がしちゃうなんて見張り兵たちは何をやってるのかしら……まぁいいわ」

 CROSS HEROESの元へ降り立つピッコロに、すぐさま悟飯達が駆け寄る。

「ピッコロさん! 無事だったんですね!」
「悟飯か……ああ、恐らくお前達の仲間と思われる連中に解放されてな……
ブルマやウーロン、オセロットとやらも助け出されている頃だろう」

「フッ、敵に囚われるとは、貴様にしてはドジだったな」
「今回ばかりはベジータの言う通りだ。手間をかけさせてしまった分は、働くさ」

 ルフィ、いろは、ペル、月美……悟飯の他にもピッコロを師事していた者たちの顔を
改めて見渡し、 ピッコロは静かに言った。

「お前ら……しばらく見ない内に、随分と逞しく成長したようだな」
「えぇ、色々とありましたからね……!」
「もう、大事なもんを失うのはゴメンだからな!!」

「ふ……そうか。さて、雑談はこれくらいにして……あの女を倒すぞ。
気をつけろよ、奴はどう言うわけか復活したセルを容易く菓子にして
喰らってしまうような奴だ」

 バードス島の一件。21号の底知れ無さを唯一間近で見せつけられたピッコロが
それを如実に物語る。

「はい!」
「おう!!」

「ふふ、面白くなってきたわね。誰も彼も……美味しそう……!」

 21号は宙に浮いたまま、不敵な笑みと共にこちらを見下ろしてくる。

「さて……あなた達の実力を見せてちょうだい。さぁ、かかってらっしゃいな!」
「行くぞおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」

24人目

「因縁の対決 リク対シグバール」

 絶望界域拠点。
 白黒の魔城をリクとシャルルマーニュは走っていた。

「オセロット達は江ノ島とデミックスが希望界域に運んでいる、今頃到着しているはず!」
「そりゃよかった、って新手が来た!」

 目の前に立ちはだかるは、絶望界域の兵士。
 それだけではないようで。

「兵士だけじゃない!ありゃ何だ!?」

 空中に浮かぶ紫色の狙撃手が数体。
 その手には大型のボウガンを手にしている、異形の怪物。

「あいつは……ノーバディ!それもスナイパーだ!」
「どうやらあいつの位置も近いってことか!」

 もう一人の界域の王、シグバールの位置を肌で感じる。
 彼の配下たるノーバディが近くにいるのだ、きっとこの先にいる。もう少しだ。

 浮遊する無銘のノーバディを、リクは打ち倒してゆく。
 地上にいる無名英霊はシャルルマーニュの剣が切り裂く。

 そうしながら、2人は謁見の間の位置を探す。

「ここか!」

 2人の前にあるのは、白黒の往往しい巨大な扉。
 

~絶望界域拠点 謁見の間~

 扉を開ける。
 その部屋の内部には、不思議なことに誰もいなかった。
 見張りの兵士すらいない。

「おいおい。懐かしい顔がいるなぁ。」

 無人の部屋に響く、懐かしい声。
 空中に浮遊し、

 飄々とした風格。つかみどころのなさが逆に不気味さを醸し出している。
 絶望界域拠点最奥にて、声の主___シグバールはいた。

「お前___何でここにいるんだ!」

 リクが驚愕するのも無理はない。
 かつての戦いで、奴は消滅したはずなのに。仮に消えてなかったとしても、マスター・ゼアノートの成仏によりもう復活することはないはずなのに。

 そんなリクを前に、シグバールは飄々と言葉を返す。

「色々あってな。今はノーバディ同士喧嘩してるってハナシ。そういうお前こそ何でトラオムにいるんだ?」
「言うと思うのか?」

 歯ぎしり交じりで言葉を弾く。
 敵に自分の事情を言うわけがない。
 そういってリクは、その手にキーブレードを召喚し戦闘態勢を取った。

「21号の奴は俺らが考えてるより……まぁ何でもいいか。とにかく、俺達の邪魔をするなら消えろってハナシだ!」

 その一言と共にシグバールの手に二丁の銃型武器、ガンアローが召喚された。
 銘は「シャープシューター」、一級射手の名を戴く双銃。
 それを手にシグバールは大地に立ち、リクを睨んだ。

「こいつは俺に任せてくれ!手出しは無用だ!」
「いや、俺も加勢するぜ。見て分かるよ、この男は一人で戦うには荷が重い!」

「二人そろって勇ましいこった、来な!」

25人目

「ご唱和ください、彼らの名を」

一方その頃、GUTSセレクトは別の宇宙からやって来たウルトラマンZと共に怪獣達と戦っていた。
《ウルトラマンZ!アルファエッジ!》
「デュワッ!」
ウルトラマンZは『ウルトラマンゼロ』『ウルトラセブン』『ウルトラマンレオ』の3人のウルトラマンのメダルを使った形態『アルファエッジ』へと変身し、師匠達譲りの宇宙拳法とベリアロクを使った斬撃で怪獣を攻撃していく。
「アルファバーンキック!ゼスティウムメーザー!」
続いてZは足に炎を纏わせ、素早く蹴りを3発ほど怪獣に叩き込み、すかさず額のビームランプから超高熱の破壊光線を放ち怪獣を怯ませる。
「よーし!順調でありますね…!」
「そうか、ならあとは任せた」
「え?デュワッ!?」
ベリアロクはZの手元を離れ、自滅に突き刺さる。
「…本当相変わらずでございますね…!」
Zは相変わらず自分勝手なベリアロクに文句を言いつつも、頭部のトサカの横にあるスラッガー状の部位から三日月状の光刃『ゼットスラッガー』を飛ばして怪獣を攻撃、更に飛ばしたゼットスラッガーを稲妻状のエネルギーで連携させ、ヌンチャクのように扱う技『アルファチェインブレード』で攻撃していく。

「デェアッ!」
トリガーは手の先から青白い光弾を連続で発射する技『トリガーハンドスラッシュ』で攻撃し、怪獣を怯ませる。
「ギャオオオオオオン!」
『今だ!』
トリガーはサークルアームズ・マルチソードを取り出すと、そこにマルチタイプのハイパーキーを装填する。
《Maximum Boot Up! Multi!》
「デェヤァアアアアアアッ!」
トリガーは青白い斬撃波を敵に放つ技、『ゼペリオンソードフィニッシュ』で怪獣を真っ二つに切り裂き、撃破する。

「そろそろトドメといきますぞぉハルキ!」
『押忍!』
Zは胸の前で両手を水平に構えて、エネルギーを開放。続けて左手を左上に、右手を右下に伸ばし、斜めに開く。
「ゼスティウム光線!」
『チェストー!!』
そして左手を前に、右手を後ろに伸ばすと、左右の腕をぶつけあうようにして十字を組み、必殺光線の『ゼスティウム光線』を怪獣に向かって放った。
「ギャオオオオオオン!?」
怪獣は光線の直撃に耐えきれず爆散した。

「よし!残るはあと1体!このまま一気に倒してやりましょう!」
『はい!……ん?』
『どうしたんですかケンゴ君?』
『……なにかこっちに向かって来てません?』
『え?』
『ほら、あっちの方から……』
そう言いトリガーが指を刺すと、そこにはナースデッセイ号にも負けない大きさの白銀に輝く双胴の空飛ぶ戦艦の姿があった。

26人目

「平成の時代、悪と戦った改造人間」

 ――クォーツァー・拠点。

 時はやや遡り。
ジオウがバールクスに敗れ、変身不能となったソウゴがウォズによって
連れ去られた直後の事。

「ウォズよ、何故あの偽物の替え玉を殺さず牢に閉じ込めたのだ」

 クォーツァーの王、常磐SOUGOは玉座にて問い詰める。
その眼光だけで人を殺せそうな威圧感を放っていた。
ウォズは赤いカーペットの上に跪き、恭しく頭を下げている。

「私にひとつ、妙案がありまして……」
「ほう?」

 含みのある言葉に、SOUGOの片眉が吊り上がる。
ウォズは顔を上げ、不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「CROSS HEROESの残存勢力は未だ特異点の各地に潜伏しています。
偽物の王を処刑するとお触れを出せば、彼らは必ずや炙り出されるでしょう。
その時こそ、CROSS HEROESを一網打尽にする好機かと……」
「なるほど……流石は我が臣下だ、実に合理的で無駄がない」

 満足げにうなずくと、SOUGOは口角を上げる。

「では、私は早速準備に取り掛かります……」

 ウォズは立ち上がり踵を返すも、SOUGOはその背中を睨んでいた。

(ふん……)

 この男は信用ならない。何か裏があるはずだ。
そう思いつつも、SOUGOはそれ以上追及しなかった。どうせすぐにわかることだ。


――牢獄。

「う、うう……」

 ウォズの応急処置を受けた常磐ソウゴは、牢獄の中で目を覚ました。
まだ全身に痛みが残っている。意識もハッキリしない。
それでも何とか起き上がろうと身体を動かすと、鉄格子の向こうから声をかけられた。

「お目覚めかい?」
「……ウォズ……!!」

 そこには、相変わらず余裕たっぷりといった表情のウォズが立っていた。
ウォズは鉄格子越しにこちらを見つめ、薄ら笑いを浮かべている。

「無理はしない方が良い。傷は浅くないのだからね」
「本当に……俺たちを騙していたのか!?」

ソウゴの言葉に、ウォズは小さく肩をすくめた。

「騙していた? 心外だね。君の命を救った恩人に向かって……」
「ふざけるな!! みんなは……CROSS HEROESのみんなはどこに行ったんだ!」
「ああ、それなら心配いらないよ。皆、ちゃんと生きているさ。今はね」

「何だって……?」

 意味深長な言葉を聞き、ソウゴは困惑する。

「我々としても、空から降り注いで来た光の矢の雨……あれは予想外だった。
あの攻撃でクォーツァーもかなりの戦力を削られたし、CROSS HEROESも
散り散りとなったようだからね」

「じゃあ、みんな無事なんだな!?」
「もちろんだとも……だが、それも時間の問題だろうけどね」

 ウォズは冷たい視線をソウゴに向ける。

「君の処刑が実行されるとなれば、彼らは必ず現れる事だろう。そしてその時こそ、CROSS HEREOSは殲滅される運命にある」
「……」

「つまり君は、彼らに絶望を与える事になる訳だ。なんとも皮肉な話じゃないか」
「お前……!!」

 ソウゴは怒りの形相で立ち上がった。
しかし、やはりダメージが大きいようでふらついてしまう。

「ふざけるな!! それじゃあ……それじゃあ俺のせいで、みんなは死んじゃうって
言うのか!?」
「……」

「俺は王様になる男だ! なのに……こんな所で死んでたまるかっ!!」

 激情のままに叫ぶソウゴを見て、ウォズは呆れたようにため息をつく。

「何を勘違いしているんだか知らないが、私が言ったのはそういう意味じゃないんだよ」
「え?」

「いいかい? 私は確かに君を助けた。でもそれは、あくまで私の目的の為に過ぎない」

 ウォズは冷淡な声で言い放つ。

「私の目的はただひとつ。我が魔王である常盤SOUGOを王にする事だけだ。
君はそのために用意された駒にすぎない」
「そんな……」

「だから私は、君が死のうが生きようがどうでもいいというわけだ。
君の死によって我が魔王の力が増すのであれば、私は喜んでその選択をする」
「……」

 あまりの身勝手さに言葉を失う。

「安心したまえ。我が主は、君の死を無駄にはしない」
「どういう意味だよ……」

「我が主は今、大いなる力を手に入れようとしている。
それが完成すれば、君たちなんて簡単に捻り潰せるほどの力をね」

 そう、すべての平成ライダーの力の結晶、グランドジオウライドウォッチは今や
SOUGOの手中にあるのだ。
その力は、時の王の覇道をさらに盤石なものにするだろう。

「処刑執行の日取りは追って知らせる。それまでゆっくり休むといい」

 ウォズはそれだけを言い残して去って行った。
残されたソウゴは、何もできずに拳を握り締めていた。

(このままじゃ……ダメだ)

 ソウゴは奥歯を噛みしめ、決意を固める。

(絶対にSOUGOを止めないと……!!)

 そう心に誓うも、今の自分には何もできない。
ウォズの話では、自分はしばらく身動きが取れないだろう。
ソウゴは立ち上がり、牢屋の鉄格子を掴んだ。

「でも……一体どうしたら……」


「クォーツァー……ぶっ飛ばすぞォう……」


「!?」

 その時、何処からともなく声が聞こえてきた。

「誰……!?」

 人の気配が無かったはずの隣の牢屋から、誰かの声が聞こえる。
恐る恐る覗き込むと、そこには……

「平成の時代、悪と戦った……改造人間さ」

27人目

「電波塔バリアー/魔弾の射手 その1」

 混沌。
 その地区の現在を一言で言い表すのならば、まさに混沌のそれだ。
 といっても正義が失墜した訳ではなく、民衆の正義と悪徳の坩堝というのが、この『東京港区』を例える模範正解である。
 正と悪が衝突し、法と秩序は熱狂を前に消滅した様は例えるならば、極彩色に彩られた煮えたぎる魔女の大鍋。
 最新鋭の文明が繁栄を呼び、繁栄は熱狂を呼び、熱狂は混沌を呼び、混沌はさらなる混沌を呼ぶ。
 東京の中央部、都心3区は一角を冠するエリア。

 住民のモラルは失墜し、カオスとカルマのみが最高潮に達している。
 そんな港区を今は『臨界繁栄都市』とでも名付ければいいのだろうか。

「___バビロンの大淫婦がこれを見たら速攻で食いつくだろうに。何が悲しくて教団はこの地を戦場に選んだんだ。」

 と、夜風吹くマンションの屋上で悪魔の名を憎々しげに呟く男が一人。

 その声の主___天宮月夜。
 彼は考える。メサイア教団はなぜここを選んだのか、と。
 ホワイダニットをなくして起こせる計画はない。仮にあったとしてもそれは、高確率で失敗するのが世の常である。

「……見当はいくつか思いつくし現在進行形で答えっぽいものが提示されているが、直接見ないとこりゃ信じがたいな。」

 彼の朱く輝く双眸が下手な冗談だと嗤う。
 とはいえ現実は情け容赦というものを知らない。
 月夜が耳に装着している、年代物のクリスタルイヤホンから鳴り響くラジオの或るニュース。それが彼に非現実の現実味を肌で感じさせ、今の状況を現実だと伝えている。

『現在東京タワー周辺に謎のバリアが発生し、誰も立ち寄れないとのことです。警察及び自衛隊は___。』
「はっ、警察連中に何かができるわけではないというのに。」

 警察や自衛隊の無能さを嘲笑うかのように、乾いた笑いが出る。
 まるで三文SF小説を舞台化させ、三文役者にその主役をやらせこのセリフを言わせたかのような。感情のこもっていない笑いをだ。
 などとほざきつつ、月夜は奥に光る東京タワーを忌々しげに凝視する。

「バリア、ねぇ。もしやあの機械はアレを破壊するためか?」

 現在東京タワーの周辺には、タワーのてっぺんを中心に淡い黄金色に輝くバリアが貼られている。これが現在、タワー周辺に何人も入れないようにさせているのだ。
 黄金の光の中に佇む、古き時代の電波塔。
 そのバリアを、あの機械___源為朝は破壊しようとでもいうのか?

「さて、戻るか。」

 これ以上ここにとどまり考察するのは無意味だと判断したのか、かつかつとスニーカーと地面が衝突する音を鳴らして自分の住んでいる部屋へと戻っていった。

 マンション 廊下

「待ってたよ。兄さん。」
「おい、俺を抱くなよ……。」

 兄の腕を抱きしめる妹。
 その様子を、神妙な赴きで見る3人。

「んで、この人たちがあんたの連れてきた……均衡の守護者?」
「そう。」

 銀髪の少年は、妹を振りほどいて3人に頭を下げた。
 その眼に強い誠実さを宿して。

「まずは我々の願いを聞き、来ていただきありがとうございます。俺が流星旅団のリーダー_____『天宮月夜』です。」



 トラオム 絶望界域拠点

「発破をかけてはみたが、ここを荒らしまくったらあの女に何されるか分かんねぇしな……っと!」

 瞬間、飄々と歩き回りながら言葉を紡ぐシグバールを中心に吹きすさぶ閃光と衝撃。
 リクとシャルルマーニュが身構え、閃光の中へと飲み込まれてゆく。

「っ_____ここは!?」
「いや、さっきの謁見の間ですよ。ですが、奥行きがぐんと伸びている!」
 
 一切の物品がその場から動かず、部屋の広さ、特に奥行きだけが200m伸びたのではないかという感覚が2人を襲った。
 かつて戦ったことのあるリクはこの能力を理解していたが、シャルルマーニュにとっては初体験。無意識下で彼の手が緊張で震える。

 己のいる空間をもねじ曲げ、三次元的に広さをも変えてしまう。
 これこそがシグバールの能力、空間操作。その一端である。

「喰らっとけ!」

 奥より響くシグバールの声と同時に放たれる数十発の光弾。
 速遅を織り交ぜた光弾たちが、一斉に襲い掛かる。

「くっ、思った以上に速いな!」
「危ない!」

 200mの距離を限界ぎりぎりの速度まで加速し、極限まで詰める。
 そんな様子を見たシグバールは悪辣に笑いつつ、さらなる悪辣を見せつける。

「はッ!そんなにかけっこがしたけりゃさせてやるぜ!」

 迫りくる違和感の正体。
 それは、背後から迫る壁だった。

「押しつぶしてやるぜ___さァ逃げ惑え!」

 前方には黒い矢の三重防雨。
 後方からは迫りくる分厚い壁。

「走るぞ!」
「うおおおおおおおおおお!」

28人目

「絶望界域、最後の時/アビダイン、チェンジ、アビダイオー」

_絶望界域、狙撃塔。
そこは最早、狙撃の名が形骸と化していた。
スペシャルマンによる奇襲が、サヘラントロプスという狙撃砲を抑え付けた故である。

「…やられたな、これは。」

狙撃塔は、絶望界域における防衛戦略の要石だった。
サヘラントロプスを軸にした戦略を如何にして守り抜くか、という前提が根底から引っ繰り返された以上、最早前線の崩壊は時間の問題だった。
スカルフェイスは黒いハット帽を深く被り、内に湧き上がる憎悪を抑え込む。
抑えて、報復への決心へと昇華させる。
確実に宿敵を葬るという決心に。
そうして数秒、祈る様に、呪う様に眼を瞑り、溜飲が下がった所で漸く思考が澄み渡った。
最善が駄目ならば次善策。
差し当っては。

「スペシャルマンを葬れ、サヘラントロプス。」

そう念じれば、彼の傍らに『子ども』が現れる。
呼応する様に、鋼鉄の巨人が軋みを上げて動き出す。
『子ども』が彼の憎悪を、巨人を突き動かす力へと変えていく。

_ア”ア”ア”ァァァァァ!!!
「うわぁ!?」

輸送ヘリの爆炎の中、唸りと共に再起するサヘラントロプス。
油断していたスペシャルマンの胴を、右の拳が打ち抜く。
次いで、パイルバンカーの撃鉄が下ろされた。

「う、ぐぅ…!」

深く食い込む鉄の杭の衝撃に乗って宙を舞い、血飛沫を散らすスペシャルマン。
たったの一撃で、スペシャルマンに深手を負わせてみせた。
その事実が、サヘラントロプスの変貌ぶりを伺わせた。
『子ども』が、練り上げられた報復心が、今までにない機動性を引き出している。
嘗て無い程の勢いをそのままに、追撃を仕掛けてきた。

「ったぁ!!」

しかし、ただの一撃で倒れないのが超人たる由縁。
身体を捻って両足で着地し、追撃の隙は晒さない。
苦酸を舐めさせられた日々が、特訓の成果が、彼の身体を大地から押し上げ、立たせてみせる。
そうして向かってきたサヘラントロプスを、彼は迷い無く迎え撃った。
巨人同士が、激突する。

「くそっ、俺も巨人化出来れば…」

その後ろ姿を、カナディアンマンは眺める事しか出来なかった。
彼の鈍く光る人工の左腕が、即ち義手が、彼等巨人同士の争いに入れない理由となる。
_四肢さえ、万全ならば。

(…いかんな、余計な事を考えるな。今は今の俺に出来る事を成すんだ!)

降って湧いた雑念を振り払って、カナディアンマンは眼下にある拠点を見据える。
霧に浮かぶその拠点、狙撃塔に並び立つのは幾多の英霊と軍人、そして髑髏部隊(スカルズ)。
彼等の注目と火力は、スペシャルマン一つに集まらんとしている。
であるならば。

(あいつ等を捌いて、少しでもスペシャルマンを支えるんだ!)

そう決心し、岩場から強襲を仕掛けるカナディアンマン。
その影を追う、一人の影。

「よぅ、カナディアンマン。」
「うぉ!?…何だブロッケンじゃねぇか驚かしやがって!」
「悪いな。だが、考えてる事は同じだと思うぜ?」

そう言うブロッケンJr.の目付きは、普段よりも尚一層影を差して読み取れない。
ただ彼の纏う怒気が、その本心を物語っていた。

「ご機嫌斜めだな、一人で突っ走るなよ?」
「…肝に免じておくぜ。」

冷静さを口にはする、だが。

(…バッファローマンの分も、俺がやらなきゃならねぇ!)

やはりというべきか、その心には重石が積み重なっている。
直感的にその重圧を感じ取ったカナディアンマンは、しかしそれ以上の追求はしなかった。

(…仕方ねぇ、気持ちは分からんでもないからな。)

彼なりの決意に、水を差す気にはなれないのだろう。
しかし同時に、その在り方に危うさも感じていた。
故に。

(その時はその時だ、今は俺のやる事に集中するか!)
「行くぜブロッケン!」
「おうよ!」

その内心はおくびには出さず、今はただ眼前で無防備に立つ敵へと手を伸ばす。

「え、わぁ…あああぁぁぁ!!?」

狙撃塔に、悲鳴が連なって響き渡った。

「…下が騒がしくなったな。」

良く響いたのだろう。
狙撃塔の中枢で指揮を執っていたスカルフェイスが、奇襲に感付く。
薄々分かってはいた、一連の被害は組織的な行動だと。
しかし冷静さは失っていない。
無線機を取る手に迷いは無かった。
そして、奇襲の対応を指示しようとして。

「_動くな。」

一発の銃弾が、無線機器ごと指示を撃ち砕いた。
彼の背後には、今しがた硝煙が立ち昇った銃を構えたスネーク。

「…やはりというべきか、貴様が立ちはだかるか。」
「お前がスカルフェイスか。」
「そうだ、貴様が今もまた殺し損ねた男だ。」

そして彼との間に、『子ども』が立ちはだかっていた。



_絶望界域、ダークシティ。
そこでは幾多の戦士達が、たった一人を相手に激戦を繰り広げていた。
そう、21号たった一人相手に、互角の戦いを強いられていたのだ。

「数の差をこうも引っ繰り返すか、やはり只者ではないな!」

幾多の連携、攻撃を躱し、その上で反撃までしてくるというのは、はっきり言って異常だった。
仲間の一人一人が強者なのは、ピッコロも内心で認めている。
そこに過大評価は無く、であるからこそ21号の異質さが際立った。
改造人間というだけで、これ程までに強大な筈がないと。

「うふふ、数には束ね方があるのよ!」

上機嫌なのか、調子に乗った素振りを見せる21号。
だがその言葉に、ピッコロは何か引っ掛かりを覚えた。

(…数?待て、どうしてこんなに『敵の数』が少ない?)

思い返せば、ここには幾千幾万の英霊がいると通信で聞いていた。
だが振り返って見ればどうだ?
確かに兵は多く居た。
だが『英霊に限れば』数える程しかいなかった。
それも、大した強さではない。

「…まさか貴様!」
「あら、気付いちゃったかしら?」

一つの結論に辿り着いたピッコロ。
その答え合わせをする様に、21号が口を開いた。

「強い戦士達だったもの。つい、ね。」
「やはり粗方食らっていたかっ、外道が!」

正解だと言わんばかりに、21号は舌を出した。



怪獣と戦うトリガーとゼットの前に現れた、白銀の戦艦。

『一体、何者なんでございますでしょうか?』
『TPU所属、では無いのは確かですけど…』

突如として現れた乱入者に、二人はただただ戸惑うばかりだ。
だが向こうはお構い無しと言わんばかりに、艦底部のハッチを開く。
そこから銃口らしきものがせり出すと同時に、左右の砲と銃口が輝きだす。
直後、轟音と共に『怪獣目掛けて』粒子砲が撃ちこまれた。
残った怪獣は他の2体よりタフなのか、大した痛手を負った様子は見えない。
だが確実に効いている様で、唸り声を上げる。

『…うーん、これで倒せたら決まったんだけどね。』

すると艦のスピーカーから、低音交じりの男の声が聞こえる。
やれやれと言った雰囲気を醸し出していた。

『仕方無い…アビダイン、チェンジ、アビダイオー。』

その声と共に、艦首が地へ向きせり上がる。
同時に中央部を起点に反転する艦後部。
艦首が地に立ち後部甲板が駆動する。
そうして白銀の戦艦は、瞬く間に白銀の機兵へと姿を変化させた。

29人目

「魔弾の射手 その2」

そのころ、絶望界域拠点の謁見の間にて。

「うおおおお!?」
「壁が迫ってきた!」
「前方には矢の雨か、ダメージは避けられないな!」

 ぐんぐんと接近する壁、その先には暗黒の魔弾雨。
 シグバールが放った黒い矢の雨霰だ。

「さぁどうする!さぁさぁさぁ!」

 光弾を放ちながら、シグバールが挑発する。
 しかし。

「ならば、トルナード!」
「喰らえ!ファイガ!」

 シャルルマーニュの風の一撃と共に、リクのキーブレードより焔が放たれた。
 焔を伴う竜巻攻撃。

「熱っ!___やってくれるな、この……!」

 消失した闇の弾幕の代わりに、再び閃光がフィールドを変質させる。
 今度は10m四方の部屋が形成され、床側にリクとシャルルマーニュが、天井側にシグバールが立った。

「楽しませてくれるぜ!」

 刹那。
 無数の光弾がゲリラ豪雨の如き速度で降り注ぐ。

「ぐわああああああああ!?」
「くそ、耐えろ……!」

 片やジュワユーズで魔弾を弾き。
 片やキーブレードで防御をする。

「流石にこの程度じゃ死なねぇか!」

 土煙の中に現れる、荒い息と共に傷ついた2人。
 しかしまだ立っている。

「おい、何であそこまで遠ざかってんだ!?」

 シャルルマーニュは嫌でも気づいてしまった。
 今度はこの部屋の”高さ”が変化していることを。
 次第にシグバールが天へと進んでいることが分かったのだ。

「今更気づいたか!だが遅い!」

 天井までの距離が一気に遠ざかる。
 目測では、もはやシグバールがゴマ粒ほどの大きさに見えてしまえるほど、

「さァどうする?今度はさっきのとは威力も弾幕密度も段違いだ、止めれるか!?」

 ガンアローを弓の形に変形させ、極太の矢を形成させる。
 否、もはや”それ”は、矢というにはあまりにも規格外だった。
 例えるのならばそれは、槍。それも____対城壁用の槍をこれまた巨大な弓に番えて放つような一撃だった。

「喰らって……くたばれ!」

 弦から手が離れ、放たれてしまった超極太の破壊光線。
 すべてを飲み込み破砕し尽くす絶望の光が、2人の勇者に牙をむいた。
 部屋の幅からみても回避しようがない。
 これを受ければ間違いなく2人とも消し炭になる。

「せめて一撃だけでも!」
「一撃、か。リク、お前空を飛べるか?」
「出来なくはないけど、それでもブーストは必要になる……まさか。」

 されど騎士はあきらめず。

「ああ、そのまさかだ。それしか方法はねぇ!」
「分かった。でもチャンスは一度だ、失敗したらやられる!

「「行くぞ!」」

 されど勇者はあきらめず。

「___永続不変の輝き。千変無限の彩り。我が王勇を示すため、この刃に我らの伝説を刻み給え!」
「何をする気かわからんが____!」

「王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!」

 12本の輝剣が、まるで宇宙ロケットの如く放たれる。
 輝きに包まれたリクが、天井にいる目標まで最後の飛翔を開始する! 

 しくじれば間違いなく死ぬ、

「くだらねぇマネを!」

 しかし、騎士シャルルマーニュの宝具使用がシグバールを敗北の未来へと導いた。
 レーザーの威力や方向にブレが生じたことに加え、輝剣がレーザーの盾となったことでその間に、リクの通り道が完成したのだ。

 ___この一瞬の隙を、2人は見逃さなかった!

「今だ!リク!」
「ああ……行くぞ!」

 飛翔するリクのキーブレードが、十二の輝剣の輝きに包まれ更に輝く。
 輝剣によって形作られた盾が、光線を弾いてゆく。

 そして___放たれる剣戟。名は___ラストアルカナム。
 無数の連撃からなる、光の一撃。

 ___たとえ孤独に打ちのめされ。
「一人じゃダメなんだ」と絶望したとしても。
 過去から今、そして未来の希望へとつながるように。

「「_____繋がる絆(こころ)が俺達の力だ!」」
「何だとォーーーーーーーーッ!」

 絆という光が今___絶望を貫く!

「負けたのか……俺が……!?」

 墜落し、斃れたシグバールの空間操作の影響が消失し、謁見の間が元の広さを取り戻していった。

30人目

「Epilogue」

一方その頃、アマルガムの拠点では
「……なるほど、クォーツァーが常磐ソウゴの公開処刑を……」
「あぁ、計画実行前に最大の邪魔者であるCROSS HEROES共を呼び寄せて一網打尽にするつもりらしい」
アマルガムの幹部レナードと話しているのは、クォーツァーがアナザーワールドから連れてきた3人目の戦士『ボージャック』である。
本来の歴史において、彼はかつてセルとの戦いが終わった後のドラゴンワールドでZ戦士達と激闘を繰り広げ、最終的に孫悟飯によって倒された……がスラッグやターレスと同様に『悟飯達に勝利した世界』からクォーツァーの手により呼び出されたのである。
「しかし大丈夫なのかい?CROSS HEROESの戦力は我々から見ても強大だ」
「あぁ、あのSOUGOとかいうやつもそれを理解しているみたいでな。
クォーツァーの全戦力に加えて俺やスラッグ、ターレス以外にもアナザーワールドとやらから追加の戦力を呼び寄せるつもりのようだ」
「なるほど……ならこちらからも今まで以上の戦力をそちらに派遣すると彼に伝えてくれ」
「フン、いいだろう」
そう言い残しボージャックはその場を去った。

「……しかし、計画実行前にCROSS HEROESを呼び寄せて一網打尽にする……か……」
「レナードは成功すると思ってるの?」
そこに現れたのはアマルガムが捕らえたウィスパード千鳥かなめであった。
……が、今の彼女は本当に千鳥かなめ本人なのか?そう怪しんでしまうぐらいに雰囲気が変わっていた。まるで別の誰かに身体を乗っ取られたかのように……
「……個人的には成功して欲しいが……正直難しいだろうね……」
「そう……
……これからどうするの?」
「そうだな……クォーツァーとCROSS HEROESの最後の戦い……その結果によって変わってくるが……少なくとも、今現在我々が行っている『トジルギアに関する技術の復元』は予定通り進めるつもりだ」
「トジルギア……かつてキカイトピアのトジテンドが他の世界を封印する為に使ってた技術ね」
「そうだ。その世界を封印し他の世界との繋がりを完全に断つことのできるトジルギアは、俺たちかクォーツァーのどちらかの計画が成功した後の世界を特異点の侵食や滅びの現象から守るのにうってつけだ。
……そしてこれに加えて、あるものを俺たちの計画に利用する為の準備を行う」
「あるもの?」
「……『バーチャドール』だ」