堕天使、パン屋を始める。
我は堕天使。堕天使ルシフ。ひょんなことで堕とされてしまったのだ。追放されてから路頭に迷い現在、日本の川崎市と言うとこにいる。家は勿論無く、雨風を凌げる場を見つければそこに住み、寝る。食事はゴミ箱を漁ったり、野山にある果実やそこらの雑草を食べてなんとかしている。羽を隠しコソコソしながら今を生きている。
何故我がこんな惨めな生活をしているかというと、天界で天使ガブリに逆らったからである。その罰として下界に落とされたのだ。まぁ逆らったといっても天使ガブリのデザートのおやつをちょいと頂いただけなのだが。それだけの行為なのにどうやら我はこの下界で100年生活をしないと天界に帰れないらしい。あまりにも惨い!昨日も馬鹿な下種どもに「我は堕天使ルシフだぞ、我の前に跪け!」と叫んでみたところ「こいつ、ちゅうに病かよ」と笑われる始末、ああ天界に帰りたい。
しょぼしょぼした気持ちで道を歩く。硬い地面めっちゃ痛い。天界の地面は柔らかく、歩きやすくてモッフモフ。下種の言う“わたあめ”みたいにとにかくふわふわなのだ。しかしどうだこの地面。石が詰め込まれていてトゲトゲしている。歩くたびに足の裏にトゲが食い込むではないかっ!
「いってぇぇ、、、」
足の裏は真っ赤になってしまう。しかし羽を出して飛んで移動すれば今の下種たちの科学の力とやらで撃ち落とされてしまうだろう。今は力無いしな。
「あのぉ、大丈夫です?」
珍しく我に話しかける下種がいるものだ。そいつを見るとまだ子供のようだ。ちっちぇ。
「なんだ。」
「足、痛くないですか?」
「痛くない。」
こんな小さきものにバカにされるほど落ちぶれてはいない。舐めんな。
「無理しないでください。せっかく心配してあげているのに」
その言葉に我はカチンときた。
急に声を荒げた我に対し、通りの人の向ける目は惨憺たるものだった。
あんな子供を泣かせるなんて…
大衆の中には怒り心頭でこちらに視線をよこす者もいる。
まずい。必要以上に注目を集めてしまった。
そそくさとその場を去ろうとした時、背後からよく知った声がかけられた。
「相変わらずのようだな…」
「おっ…お前はガブリ!!!」
なんと我の後ろに居るのはデザートちょっと食べただけで、下界に我を落とした器の小さい天使のガブリだった。
「相変わらずとは何だ!我を馬鹿にしに来たのか!!」
「元々はそのつもりで天から観察していた」
そう言うとガブリはわざとらしく額を抑える。その余りにも嫌味で気障な仕草にまるで鏡を見ているかのような気持ちになった
「しかし下界に落ちたお前があまりにも見てられんのでな…」
奴は懐から巾着を取り出してこちらに放り投げる
開くとそこには燦然と輝く硬貨が入っているではないか
「きさま、お金の概念を知っているか」
俺は黙る他なかった
「知らないとは言わせない。なぜならそれは元々はお前の持ち物だからな」
戸惑うルシフの脳裏に先ほどの子供の姿がよぎる。