闇の森

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1人目

ここは古から伝わりし、呪いの森。
人はおろか、獣さえ寄り付かない、闇深き森。
何がいるか分からない。
魔物か。魔女か。それとも、悪魔か。

そんな森の中から、近頃、奇妙な音がするらしい。
ピロロロロ。ピロロロロ。

人は言う。悪魔が地獄へ誘き寄せる笛の音だと。
また、人は言う。闇の森を統べる竜のいびきだと。

果たして、何が正解か。
疑問を浮かべる者はごまんといたが、それを確かめようとする者は、一人もいなかった。
彼をのぞいては。

2人目

彼は怒っていた。
引きこもりを続けていた彼は、家族から呆れられ無視され、ついには寝ている間に闇の森の近くの小屋へと運ばれ、家を追い出されたのである。
その小屋は昔、森で修行をする者が使用していたそうだ。
誰にも邪魔されずに寝られることに気づいた彼は、思う存分小屋で寝ることにした。
しかし、

ピロロロロ。ピロロロロ。

静かなところで寝たい彼にとって、音がうるさくてたまらなかった。

「止めてやるぜ、このアラーム...」

そう怒りながら呟き、彼は森の中へ入った。

3人目

森の中は噂通り獣一匹いない不気味な道が奥へと続いていた。
そしてあの音が聞こえてくる。

ピロロロロ。ピロロロロ。

「あぁ、うざってぇ! 今すぐ止めてやるから首洗って待ってやがれ!」
それから、数時間彼は霧がかかった森を行く。
進んで行く度に景色は変わる。
辺りには菌類が多くみられ、彼が進んできた道も草木によって阻まれていた。
「ここまで来て引き返せるかよ!」
ここで彼は小屋から持ってきた小さな斧に手を掛け、行手を阻む草を刈り、細木を薙ぎ倒し、先へを突き進んだ。
そしてその先に彼が見た物は

4人目

公衆電話ボックスだった。
開けた森の中で、誰かが受話器を受け取ってくれるのを待っている。
いつからこんなところにあったのか、誰が何のために…。
彼は吸い込まれるように、電話ボックスの中に入った。
ピロロロロ。ピロロロロ。
「くっそ、なんなんだよこれ」
彼は、意を決して受話器を取ろうとしたが、手が震えて取れなかった。

5人目

「あら、えらく慌てた様子ですね」

背筋が凍った。こんな時間にこんな場所で人が歩いているなんてことはありえない。
不気味な鼓動を繰り返す心臓を抑えながら振り返ると、そこには白装束の少女が立っていた。顔立ちは整っているが顔は青白く、隈の堀も深かった。

「今度は怯えた様子……かしら? やっぱり人間はコロコロ表情を変えるから面白いわね」

こちらに近寄る少女に腰を抜かし、ボックス内で崩れ落ちた。
彼女はそれを見て、ニコリと不気味な笑みを浮かべ、震える俺の顎あたりに指を触れた。
冷たかった。

6人目

身の危険を感じた俺は即座に少女の頭を食って殺した。
それからライターを持っていることに気づき、森をに放火して焼き払った。
森はなくなり、笛を吹いてたやつも焼け死んだ。
森中の化け物が焼け死んだ。
それから俺は家に帰ると、家族を皆殺しにした。
通報されたが、警察も皆殺しにしたので大丈夫だった。
ついでに銀行に行って銀行の奴らを皆殺しにして金を奪った。そして豪華な暮らしを送った。
夢じゃないかと思ったが夢じゃなかった。幻覚でもない。紛れもなく現実だった。
それから核ミサイルを買って日本に撃ち込んだ。

7人目

核は日本列島を破壊し、世界地図を書き変えるほどの甚大な被害をもたらした。
国際社会はこの壮大な無理心中に慄き、憤ったが、これはまだ序章に過ぎなかった。

発生した煤煙が上空に留まり、日光を遮ったのだ。当然気温は低下し、海水の蒸発が減少する。
すると雨が滅多に降らなくなり、作物に影響が出る。

人々は食事のほとんどを食肉や乳製品に頼った。小麦、米、野菜、果物などは贅沢品となり、ごく一部の富裕層の食卓を彩るのみになった。
家畜の数も減り始めた。餌となる牧草がうまく育たず、多くの家畜が餓死した。