プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:16「眠れ戦場よ、目覚めは遠く」
「Prologue」
東京都・港区。先のメサイア教団の声明を受け、感化された若者たちが暴徒と化し、
破壊活動を行っていると言う。その鎮圧のため、警視庁は機動隊を出動させるも、
若者らは無軌道に暴れまわり、死者まで出る始末。
唯一の希望であるCROSS HEROESは戦力を分散している状況で、とても手が回らない。
孫悟空が源為朝の宝具によって受けた傷も、
病院の医療施設では完治する事が出来ないため、安静を余儀なくされている。
メサイア教団に関するニュースを観た七海やちよは、今もトラオムで戦っているであろう
いろはや黒江だけに負担をかけるわけにはいかないと立ち上がる。
深月フェリシア、由比鶴乃、双葉さな……チームみかづき荘のメンバーを引き連れ、
暗雲渦巻く港区へと車を飛ばすのであった。
西の都にて、アレクサンドル・デュマと接触したニュートラル・ガーディアンの戦士、
罪木オルタとサイクスは、メサイア教団の破壊を目的とするレジスタンス組織
「流星旅団」に属する彗星剣術の使い手の少女・天宮彩香と出会い、
流星旅団のリーダーを務め彩香の兄・月夜、
希望界域の斥候・燕青のマスターである少女・フィオレ・フォルヴェッジが待つ
アジトへと向かう……
11年前、天宮兄妹はメサイア教団の前身・キラ教団の信徒に両親を殺され、
自身も重傷を負わされた。信徒の背後には「老人たち」と呼ばれる集団の存在の影……
それは、禍津星穢、ブーゲンビリアらを擁する者らと同一の存在なのであろうか?
闇の皇帝ジークジオン、ショッカー大首領らと共に、彼らは世界の終焉を
今か今かと待ちわびる……
カリーニンの裏切りにより大打撃を受けたCROSS HEROES本隊。
しかし、傷を癒やす暇も無く、突如としてTPU本部付近に複数の怪獣が出現したと言う。
ウルトラマントリガー/マナカケンゴは己の存在意義に葛藤しながらも、GUTSセレクトと共に戦場へと赴くのであった。そこに現れたもう一人の光の巨人……
その名をご唱和ください、ウルトラマンZ!
さらに東京湾から浮上する、白銀に輝く双胴の戦艦・アビダインとは果たして何者か?
トラオムでは、絶望界域に囚われていたブルマ、ウーロン、オセロットらが密かに
牢を脱するための工作を始めていた。
希望界域との連絡を取り付けたブルマたちは、核飽和の危険性を報せる。
それを聞いた希望界域の戦士たちは、すぐさま絶望界域への再攻撃の準備を始めた。
ビッグボンバーズによる狙撃塔の破壊。復讐界域拠点から迂回して西軍からの突入を
敢行するCROSS HEROES。
アレート城塞の地下通路を利用し、絶望界域本陣への潜入を試みる
江ノ島盾子、デミックス、シャルルマーニュ、リク。
それぞれの役目を果たすため動き出す中、ついに戦いが始まる……!
ビッグボンバーズによって狙撃塔が破壊され、
スカルフェイスに王手の銃口を向けるスネーク。
CROSS HEROESの快進撃によって絶望界域の西軍も瞬く間に壊滅状態、
ダークシティに囚われていた人質も無事救助された。
いよいよトラオムの戦いも大詰めに差し迫った時……絶望界域を牛耳る2大巨頭、
人造人間21号とXIII機関のNo.2『魔弾の射手』シグバールがついに姿を現す。
復活したピッコロを加えたCROSS HEROES対人造人間21号、
深い因縁を持つリク、シャルルマーニュ対シグバール。
かくして最後の決戦の火蓋は切って落とされたのであった。
特異点の各地に散り散りになった仲間達を探して杜王町を出発した
坂田金時、清少納言、五色田介人、東方仗助、広瀬康一ら捜索隊。その先には、
ジオン族のはぐれモンスターに襲われているジュランとガオーンの姿があった。
すぐさま救援に向かう探索隊の面々。さらに、ラーメンマンら正義超人軍団も合流し、
モンスターの大群を撃破する事に成功する。
その一方で、特異点に点在するCROSS HEROESの残存勢力を一気に殲滅しようと企む
クォーツァーの王・常磐SOUGOは腹心であるウォズの妙案により、
偽物の王こと、常磐ソウゴの処刑を立案する。
ソウゴが処刑される事を知れば、CROSS HEROESは必ずやそれを助けるべく
姿を現すであろうと……
バールクスによって重傷を負わされ、ジクウドライバーも破壊、
さらにはすべての平成ライダーの力を宿すグランドジオウライドウォッチも
今やSOUGOの手中……牢獄の中で絶望感に打ち拉がれるソウゴを叱咤するのは
平成の時代、悪と戦った改造人間を名乗る謎の男。
黄泉比良坂を進むキン肉マンやジョーカー達。
そしてクォーツァーとの同盟関係にあるアマルガムの幹部、レナード・テスタロッサも
銀河戦士ボージャックを始めとした新たな戦力を投入。さらには機界戦隊ゼンカイジャーが倒したトジテンド王朝の失われた遺産に着目していた。
彼の真意とは果たして……? そして計画の要となるバーチャドールとは……?!
「終局へ向かうトラオム」
トラオム西部 黒い匣
「堰界はもう十分だ同志ヴリトラ。トラオムの消滅はここに決定した。」
鎖を丁寧に外す男、ジェームズ・モリアーティの若き日の姿が、そこにはあった。
やがてすべての鎖から解放され、身体じゅうの骨をコキコキと鳴らす邪竜。
しかしてその姿。金髪で褐色肌の黒い外套に身を包んだ嗜虐心に満ちる美女。
それこそが、トラオムの浸食を堰き止めていた正体。
サーヴァント・ランサー、堰界竜ヴリトラの実体だった。
「そう思うのか貴様は。わえにはもう一波乱、いや、もう一”試練”待ち構えているように思えるのじゃが。」
「理解に苦しむな。なぜこうもお前は嬉々としているのかが。」
何故かこの状況を嬉々として笑っているヴリトラの心境が、モリアーティには不可解だった。普通、人間であれば苦難は極限まで避けたいものだし、仮に直面してしまえば苦しみの果てに逃げ出すものすらいるというのに。
しかし、彼女は人間に非ず。邪龍なれば。
「だって、試練じゃぞ?苦しみ、そして乗り越えてもらわなくてはつまらぬ。」
~存在しなかった世界 研究室~
「……くそッ!やられた!」
トラオム陥落寸前の情報は、魅上の耳にも届いていた。
怒りのあまりカリカリと爪をかじり、机を叩く。
シグバールの死亡に加え、アルケイデスの謀反、トラオムの陥落寸前という情報が魅上照の神経質な表情を更に苦しみと怒りに歪ませ、やがて修羅の表情にさせる。
「為朝の他勢力殲滅失敗から始まるこの体たらく!現状のエネルギー量では大帝の天声同化を”摘出”したとて起動までこぎつけないではないか!」
魅上の目的はカール大帝の天声同化を摘出し、女神・江ノ島盾子に移植。ソロモンの十の指輪によって神となったその力を以て人類を神化させること。
しかし、現状のエネルギー量ではまだ足りないという。
「此方が回収している指輪は1つ。東京港区に転がっている分も含めれば2つだが、まだ足りない。きっと特異点で動いている連中も1つは持っていそうだが……。仕方ない。残り30日ほどだ。それまで粛々と指輪を集めるとしよう。」
やがて怒れる魅上を見かねた研究員の一人が尋ねる。
「大丈夫ですか?」
「何とか。気にしないでくれ……。」
「次はどうされましょう?」
落ち着きを取り戻した魅上は、冷静さを取り戻して回答した。
「ヘラクレ……いや、アルケイデスは捨て置け。特異点にいる連中は潰し合わせろ。港区の他勢力殲滅は教団司教『キング・Q』と『ビショップ』の部隊に任せよう。我々はその間に世界中に散らばった指輪を回収する。そう全兵士に伝えろ。」
「は、はい……!」
「忘れるな、最後にリングの上に立つのは我々だ。」
~絶望界域拠点~
倒れ伏したシグバールの身体から、靄が出始めた。
ノーバディが敗北し消滅が決定した時、いつもこうなるのだ。
「はは……やっぱりこうなっちまうか。やんなっちゃうぜ。」
「一つ聞いて起きたいことがある。なぜここにトラオムを作った?」
ゆっくりと態勢を整えるシグバールに対して、2人の勇者は警戒を怠らずに質問をする。
それに対し、シグバールは今にも消えそうな、されどしっかりとした声で答えた。
「トラオムで回収した英霊のエネルギーは十分溜まった、リ・ユニオン・スクエアとのつながりも十分つながった。もうここは消えても問題ないんだがな。」
と、その時。
大理石の床に何かが落ち、ころころと転がる音が聞こえた。
シグバールのコートから、黄金の指輪のようなものが転がってきたのだ。
「___なんだこれ。」
リクがそれを拾う。
本来、リクには無用の長物なのだがきっと何かの役に立つと思って、その指輪を拾った。
「シグバール、これは何だ?」
「へっ、そいつはくれてやるが、用途はおしえてやんねぇ。」
消えゆくノーバディを、2人は見守るしかできなかった。
「来るべき30日後まで、せいぜい足掻き続けろってハナシだ。」
かくして、シグバールは黒い靄と共に消滅した。
その靄の近くに、朱い宝玉を残して。
____リクの手に、『ソロモンの指輪』を残して。
~トラオム 地下工場~
「口うるせぇシグバールの奴がやられてらぁ。ざまあみやがれ……クソッタレ!……ひひひひ。」
地下工場内部に、彼はいた。
卑劣極まる嫌な笑み。
ちょっと前までベジータを煽り散らかしていた男「クレイヴ」がそこにいた。
「でもなぁ、このクレイヴ様がそう簡単に脱出させるかよ……CROSS HEROESちゃんよォ!」
巨大な戦機を前に、狂い嗤いが止まらない。
「俺とぉ……この……ひひ、最終兵器「ピューパ」がなぁ!ハハハハ……!」
試練の機神が、そこで羽化の時を待つ。
「悪鬼羅刹の声」
狙撃塔の中枢で、蛇と髑髏が相対する。
張り詰めた空気を貫いて髑髏に向けられる、スネークの鋭く険しい眼光。
構えられた銃の引き金に掛けられた指先が、彼の持つ純粋な殺意を象っていた。
今、確実に葬るという意思を告げている。
撃鉄は上げられた、後は引くのみ。
対する髑髏、スカルフェイスが浮かべるものは薄ら笑いだ。
酷く冷たい印象を醸し出すそれは、焼け爛れた風貌と、穴開きのアイマスクから覗く眼光よりも不気味なものを放っていた。
「お前も鬼に堕ちたな、亡くし物を求めて。」
スカルフェイスが、小さく唇を動かす。
微かな声量で紡がれた言葉に、スネークは義手を軋ませ反応を示す。
その返答に、スカルフェイスは笑みを歪ませる。
「鬼は醜いだろう?亡くした痛みを憎悪で埋めようとする。」
そうして立ち上がった彼の顔には、悪鬼がいた。
憎しみ、苦しみ、嘆き、あらゆる虚しさを貪る鬼。
彼は笑う、心底可笑しいように。
そして。
「後に残るは報復心だけ、だが"私達"の鬼は…強大だ!」
彼が立ち上がると同時、スネークが動いた。
スカルフェイスへ向けられた銃口が火が噴く。
1秒足らずで命を奪う弾丸は、しかし遮られた。
_ウ”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!
虚空より爆ぜ出た『燃える男』によって。
突然の事態に、反応が遅れる。
その隙を、男は逃さない。
燃える両腕を振るい、スネークの放った銃弾を燃やしながら、炎を放つ。
咄嗟に後ろへ避けるスネークだったが、それでも僅かに頬を焼かれてしまう。
一瞬の事態だったが、それに満足してか、スカルフェイスは狂った様に笑っていた。
「お前が植えた憎悪だ。嘗てのソ連で、任務に赴いたお前のな。」
「まさか…ヴォルギン?何故知っている?」
心当たりがあるスネークが、問いかける。
「よく知っている、お前がCIAに居た頃からな。」
そして語り出す、軍属だった頃のスネークの事を。
「ソ連に亡命したお前の師匠(ザ・ボス)と彼女の持ち込んだ核、これの排除任務を、私が裏で支えていた。失敗した時の為にな。」
ある時、スネークの師匠、ザ・ボスはアメリカから核を持ち出し、亡命した。
師匠の後始末をするのが、弟子であるスネークの任務だった。
「だがお前は成功した。ゼロ少佐に命じられるままに亡命相手のヴォルギンを、核を、師匠をも葬った筈だった。だが…」
スカルフェイスは語る。
ザ・ボスと共に死んだ筈の男、死に体同然のヴォルギンを見つけたと。
「彼だけは今も生きている、お前への報復心に燃えてな。」
文字通り、だろう。
報復に燃える男として、ヴォルギンは蘇ったのだという。
超常の類いだが、現実として目の前にいる。
否定できない事実と、それが生み出した脅威に、スネークは冷や汗を流す。
だが物怖じはせず、寧ろ質問を投げかけた。
彼の真意を、まだ聞けていない。
「ヴォルギンがそうなら、お前はどうなんだ?」
「…私もまた、報復心に燃えている。」
そこで初めて、彼自身も過去を語り出した。
「嘗て私は住んでいた村諸共焼かれ、侵略者の『言語』を植え付けられた。」
彼の焼けた体表は、その時の物だろう。
言語、という言葉を吐く彼の声色には、憎しみが混じっていた。
「言語は奇妙な物だ。性格や価値観、善悪の判断までもを変える。」
スカルフェイスの声は、何処か哀愁を漂わせていた。
変わったのは何も肉体だけでは無いと。
「そして支配者が変わる毎に私は学ばされ、変わっていった。この焼けた外見以上にな!」
湧き上がる憎しみを隠そうともせず、スカルフェイスは語った。
その激情たるや、焦がれた身を髑髏に変え得る程のものだった。
「そんな私を最後に拾ったのがゼロ少佐、お前の上官だった。」
「そうして俺の裏方になった男が、何故?」
「少佐はお前が任務で持ち帰った情報、『賢者の遺産』を以てアメリカを、言語を、情報を一括りにすると言った。」
賢者の遺産。
1度目の世界大戦を経た国々が、次の大戦(過ち)を起こさぬ為に集めた賢者達の資金。(ちから)
それを使い、言語を介した情報操作によって多種多様な国をアメリカ一つに、ひいては世界を纏めると。
「その時気付いたのだよ。少佐、いや世界という自由意志を一つに変えようとするモノこそが、私の報復する相手だったのだと!」
そして今、復讐を果たす相手が現れた。
その喜びを噛み締める様、彼は笑う。
対しスネークは、彼の狂気を理解してしまった。
彼が抱く報復心という野心、核飽和の実現性を。
「だからばら撒くのか、核という武力を。」
「そうだ、核を持った言語、いや国家を、世界は認めるしかない。」
「ふざけるな、核抑止の上に成り立つ平穏など冷戦と変わらない。」
「そうかな?世界をありのままで一つにする共通言語としての核、私の失ったモノの痛みをかき消して余りあるモノだ。」
「…狂ってる。」
スネークは思わず呟く。
スカルフェイスの言葉は、ただの復讐心から来るものではない。
核という絶対兵器を持ち込むことで、世界に仮初の平和を、終末の統一をもたらす。
その為だけに、彼は行動しているのだ。
それを成し遂げる事が出来た時、彼にとっての救済が待っているだと信じて疑わない。
「お前は狂っている。」
スネークは改めて言い放つ。
スカルフェイスは否定しなかった。
「言っただろう、スネーク。」
そして、手に持ったショットガンをスネークに向ける。
「私もまた、鬼に堕ちたのだとな。」
引き金に掛かる指に力が入り…
銃声が、鳴り響いた。
「_誰だ?」
それは、彼のショットガンから発せられた物では無かった。
彼の眼前の虚空で止まる、一発のマグナム弾。
その方角を見やれば、そこに居たのは馬に跨りカウボーイ姿に身を包んだ男。
「…オセロット!」
「待たせたな、ボス。」
リボルバー・オセロットの姿があった。
硝煙は、彼のリボルバー銃から立ち昇っていた。
「邪魔が入ったな、だが無意味だ。」
「そうかな?超能力の種は割れているぜ。」
「ほう。」
オセロットは言い放つ。
念動力、燃える男、この二つの仕組みを見切ったと。
「ボス、奴の傍に居る子ども、『第三の子ども』が奴の力の正体だ。」
ガスマスクと黒衣に身を包み、宙に佇む赤毛の子ども。
第三の子どもが、鍵だと言う。
「…どうやら知ったかぶりでは無いらしい、な!」
図星だったのだろう、言い切ると同時にショットガンをオセロットへ向けて撃つ。
だが銃弾は馬の急な動きによって躱され、空を切った。
「子どもの超能力にはキャパシティがある、その限界を出させろ!」
暴れる様に駆け回る馬にしがみ付きながらオセロットは告げる
彼の言葉が真実ならば、サヘラントロプスと燃える男、念能力を使う子どもの限界は近い筈だ。
スカルフェイスの反応からしても、それが真実であり勝利の兆しである事が分かった。
後は倒すだけだ。
そう決意した。
_ヒイィィィン!?
一方であの馬の動き方に、スネークは見覚えがあった。
(…馬はウーロンの変化か、良いセンスだ。)
「決着、そして最後の使者」
絶望界域・ダークシティでは人造人間21号とCROSS HEROESの戦いが
繰り広げられていた。絶望界域の兵士たちを根刮ぎお菓子にして喰らったことにより
21号の戦闘力は格段に上昇していた。
「ゴムゴムのォォォォォォッ……!!
鷹銃乱打(ホークガトリング)ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
武装色の覇気を纏い、身体を硬化させて放つルフィの必殺技。
威力、速度、手数、いずれも大幅に強化されていた。
鋼鉄にも等しい無数の拳打が炸裂。21号は両腕を十字に組んで耐え忍んでいる。
「行けえッ、ルフィ! そのまま畳み掛けろォッ……!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ……!!」
徐々に空中に押し上げられていく21号。
「ふふ……」
腕越しに、不敵な笑みを浮かべているのが見える。
僅かな隙を突いて側方に跳躍し、ルフィの攻撃から身を逃れた。
「何ッ!?」
そこから舞空術でU字をなぞるように飛行しながら接近してくる。
「プレゼントよ!」
21号が右手にチャージさせたピンク色のエネルギー弾をルフィに向かって
投げつけてきた。ルフィは今まさに伸縮させた両腕を回収させている最中で無防備状態。
「やべっ……!!」
回避行動が遅れる。直撃すれば致命傷は免れない。
だが、ルフィの前にいろはが躍り出た。
「させませんッ……!」
いろはが光のボウガンでエネルギー弾を撃ち落とした。
「ありがてェ……助かったぜ、いろは!」
ルフィの言葉に小さく微笑むと、すぐに表情を引き締めた。
「でぇぇぇやああああああああッ!!」
「烈ッ!!」
ベジータとペルフェクタリアが両サイドから挟み込むように攻撃する。
「だらららららららららららららッ……!!」
「喰らえッ……!!」
怒涛のラッシュを叩き込んだ後、二人の息を合わせた同時攻撃を見舞う。
「どうだッ……!」
「ん~~…まだまだね」
しかし、二人による連続攻撃をまともに受けても尚、21号は健在だった。
ベジータの蹴りとペルフェクタリアの拳を受け止めて仁王立ちしている。
ダメージを負った様子はない。
「貴様ら! 退がっていろ!! 悟飯!!」
「はい、ピッコロさん!!」
悟飯とピッコロ、魔師弟コンビが気を溜めている。
「魔閃……!!」
「光殺砲おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
悟飯の魔閃光にピッコロの魔貫光殺砲の螺旋を纏わせた合体攻撃。
威力と速度を倍増させるこの技なら21号を倒せるかもしれない。
「チッ……!」
ベジータとペルフェクタリアはそれを即座に察し、飛び退いた。
「それはちょっと困るかも……」
そう言うと、両手を前に突き出して掌を向け、球状のバリアを張り巡らせる。
二人が放った合体攻撃はバリアによって阻まれてしまった。
「くそッ……!」
「まだこんな力を残していたのか!」
「うーん……でも、さっきよりパワーが落ちちゃってるみたい」
21号のエネルギーとて無限ではない。ここまでのCROSS HEROESの集中攻撃によって
溜め込んでいた力を消耗してしまったようだ。しかし、その総量には未だ底が見えない。
「はあ、はあ……」
「化け物め……ケロッとしてやがる……」
「まあ、化け物だなんて失礼しちゃうわ。レディに向かって」
肩をすくめておどける仕草をする。
「……ん?」
21号は不意に視線を虚空に向けた。
「シグバールの気配が消えた……嘘、まさかやられちゃったの?」
時同じくして、21号はリクとシャルルマーニュによって
シグバールが倒されたことを悟った。
「ふーん、ここまでって所かな。XIII機関ってのも案外と……」
「どういうことだ? 何を言っている……」
「もうちょっと遊ぼうかとおもったけど、時間切れみたいだから帰ることにするわ。
それじゃ」
戦闘を停止し、21号はCROSS HEROESに背を向けた。
「待て! 逃げるつもりか!」
「逃がすものですか!」
「行かせねえぞ!」
「無理しない方がいいんじゃない? 分かったでしょ、
今のあなた達じゃ私には勝てないって」
「ふざけるな!」
「そうだ! 勝負しろ!!」
怒りを露にするベジータとルフィ。
「また会いましょう。次会う時はもっと強くなってることを祈ってるわ。後始末は……『彼』に任せるとしましょうか」
「彼……!?」
『ヒャーッハハハハハハハハハァーッ!!』
「何だァ!?」
突如として戦場に乱入してきたのは、メサイア教団の信徒こと、クレイヴであった。
「あの男……ここに来た時に半殺しにしてやった奴か……」
「ベジータちゃんよォォォォォォ! あん時はよくもやってくれたなァァァァ!!
この超絶イケメンとてつもなく凄いメサイア教団の次期大幹部候補
クレイヴ様に対してェェェェェェ!!」
「それじゃあね~♪」
21号はそのまま宙へと飛び去って行った。
「チッ……! 貴様のせいで逃げられてしまったぞ! どうしてくれるつもりだ!」
「ふざけんじゃねェェェェ!! それはこっちの台詞だァァァァ!!
てめえらのせいでこのトラオムももうおしまいだ! だがなァ!!
絶対にここから生きて帰しゃしねェェェェェェェェ!! 絶対にだァァァァァ!!」
クレイヴ、その真の能力や如何に……?
「But, No Hopeless.」
絶望界域拠点 城内廊下
『絶望界域首魁、シグバール氏の消滅を確認!至急城内の全兵士に伝達!敵であるリク及びシャルルマーニュを、全力で抹殺せよ!』
『殺せ殺せ殺せー!』『生かすな、殺しに行くぞー!』『総員抹殺にかかれ!』『敵討ちだ、生かして帰すな!』
「くっ、次はこいつらか!」
「倒してもキリがない!逃げながら戦うぞ!」
それは、亡き主シグバールに捧げる弔い戦か。
無数の絶望界域を守護していた無名英霊たちが拠点脱出を試みるリクとシャルルマーニュに最後の戦いを挑んできた。
死して尚、亡き主に忠を尽くすために。
ただ、哀しきかな。
その忠は絶望に、絶望は狂信に、狂信は破滅にくべられることを、この無名英霊は知らない。
「走れ!撤退戦だ!」
『逃がすか!』『シグバール様の仇だ!』『武器を取れ!奴らをこの城から逃がすな!』『容赦はいらん!殺せ!』『絶対に奴らを赦すな!処刑も要らん、抹殺しろ!』
生かして帰したら、無名の英霊としての誇りが消える。
仮に2人を殺したとしても、敗北の未来は覆らない。
21号がどういう決断を取るにせよ、宝玉が希望界域の手元にある以上トラオムの消滅は決定した。
これは、たとえ敗北が決定してもプライドだけは譲れないとい無名英霊たちの、最後の意地を賭けた”負け戦”。
「……見えた!出口だ!」
「走れ!」
絶望界域の城内、その大広間にある巨大な扉。
ここを開ければいよいよルフィたちとも合流できる。
『外に出すな!』『囲い込め!』『逃がすな!』
「しまった、囲まれた!」
しかし最後の兵士の意地がそれを阻止する。
「目測でも1000人はいるぞ!?」
「全員倒す!なぎ倒してでもここを出る!」
いくら歴戦の勇者とはいえ、物量に囲われては時間がかかる。
さすがに二人だけじゃきつすぎると思った、その時。
「舞い踊れ水たち!」
「だらしねぇなオマエら!」
炸裂する水と硝煙。
扉をぶっ飛ばすほどの爆風が、大広間にいた全員を震撼させた。
「間に合ったァーーー!」
「お待たせ!」
扉をぶっ飛ばして内部に突入した2人、デミックスと江ノ島盾子が戻ってきたのだ。
「お前らの帰りが遅いから助けに来たぜ!」
「助かる!シグバールはブッ倒した!逃げるぞ!」
4人は外のダークシティへと走ってゆく。
残る無名の英霊たちも逃がすまいと追いかける。
これは、4対1000の鬼ごっこだ。
どうあがいても逃げる側が絶望的に不利な鬼ごっこ。
「絶望的にしつけぇ!」
「本当にな!」
普通の人間ならば匙を投げる。
しかし彼らは形も時代も違えど、全員力ある勇士たち。
無名英霊如きが彼らに勝てるわけもなく、次から次へとなぎ倒されてゆく。
やがて無名英霊たちは蜘蛛の子を散らすように、或いはもう追いつけない彼らの速度を前に消えていった。
絶望界域 ダークシティ
無名の英霊を殲滅しつつ撤退に成功した4人が駆け付けた時には、そこは荒れ放題だった。
21号との戦闘の跡地。
その戦禍の跡に、ルフィたちはいた。
「21号の奴は……逃げられたみたいだね。」
「わりぃ。逃げられた。」
「まぁいずれ決着をつけるときは来るだろうさ、それまで力を高めていこうぜ。」
何処か納得のいかない表情をするルフィを、シャルルマーニュが慰める。
「シグバールの奴はどうした?」
「おう、俺とリクが倒した。」
「宝玉と、あと指輪みたいなのも回収しました。」
指輪?
宝玉の件はわかるが、リクがいう指輪が妙に引っかかる。
彼が拾った指輪は、一体何なのか?彼らはまだ知らないのだ。
「クレイヴの奴の件もあるが、とりあえずは希望界域の拠点に戻ろう。狙撃塔の連中もきっと待っているはず。」
希望界域拠点
宝玉が……輝いているな。
十神の手に握る宝玉が、輝きを増している。
三界域の覇者の証が集まり、狂った戦争の幕を下ろすために。
「いよいよ、トラオムを消去する時が来た。」
いよいよだ。
この狂った戦争に終止符が打たれる時が来た、と十神は心の底からそう思った。
彼が、終戦の感傷に浸っている時。
「やぁ十神くん。」
来訪者が来た。
モリアーティ。若き悪のカリスマだ。
「ああ、お前か。何の用だ?」
「用と言っても、君はこのトラオムを出たのち、何をするのかなと思ってね。」
モリアーティの質問に対し、十神は至極当然に答えた。
「既に決まっている。」
「ん?」
「希望界域を勝利に導いたというこの恩は返す。我々もCROSS HEROESの協力をするとしよう。」
その顔には覚悟があった。
更なる戦いに身を投じるという、一つの覚悟が。
「国境なき憎悪」
窓を割り外界へと身を飛び出すスネーク。
彼の後を追う様に、爆炎がレンガの壁を打ち砕いて吹き出る。
「まずはソイツを抑え込むんだ!」
オセロットの声を聞き振り返ったスネークの視線の先。
濛々と立ち込める煙の中、燃える男は向かってくる。
「しかし、どうする…?」
「今、端末にデータを送る!」
男の放つ暑さからではない、冷や汗が流れる。
だがオセロットには、策があるらしい。
腰に巻いたポーチから取り出した端末を操作し、直後にスネークの持つ端末へとデータが送られる。
「この塔のデータだ、ウーロンがダークシティで集めた。」
マップデータに幾つかのポイントが表示される。
それぞれに付随する文字は、兵器、弾薬庫、そしてガスタンク類の爆発物。
「何でも良い、奴を撃ち倒せる物を探し出せ!」
走り出すスネークと、それに続き燃える男が襲い来る。
振り下ろされる拳を躱し、続けざまに振るわれる蹴りも避け続ける。
攻撃の度に巻き起こる熱風の中、一番近いポイントへと辿り着く。
「ここは、弾薬庫か!」
「早くしろ!ヤバくなるぞ!」
背後に迫る男を感じつつ、急ぎドアを蹴破る。
照明の無い薄暗い部屋の中、目に見える壁の棚に並んだ、弾薬類の数々。
スネークは迷わずロケットランチャーを手に取る。
「奴と言えど実体はある筈だ、吹っ飛ばしてやれ!」
直後、室内に飛び込んできた燃える男を横目に窓へ飛び込み離脱。
地面を2、3回転がった後、躊躇いなく室内へとロケット弾を向け、発射する。
一瞬の間を置いて全ての火薬類が引火、凄まじい爆炎が弾薬庫を食い破って吹き荒れた。
衝撃と轟音が、僅かながら耳鳴りを引き起こし、スネークの眉を潜ませる。
「やったか!?」
爆心地を見据え、オセロットは叫ぶ。
火球は黒煙になって気球の如く浮かび上がり、中心の様子はまるで見えない。
だが放射状に広がる消し炭が、その威力を物語っている。
その安否を見届けんとする中、先の司令室からスカルフェイスが顔を出す。
「よく子どもの事が分かったな。」
「スパイだからな、特にソ連の情報に付いては良く知ってる。獄中で考える時間もたっぷりあった。」
「成程、だが…」
銃口をスカルフェイスに向け、今度こそ倒さんとする。
しかし。
「あいつの持つ『鬼』は、ボス、お前を特に恨んでいるぞ。」
「っ不味い、ボス逃げろ!!」
直後、弾薬庫跡地で再び舞い上がる爆炎。
燃える男は、生きていた。
「化け物が…!」
「少佐が生み出した英雄なだけはある、だがここまでだ。」
髑髏の顔を歪め、ケラケラと嗤う。
絶望が、そこにあった。
「英雄ビッグボスという、数々の兵士(言葉)を一つに纏める象徴(イコン)!」
そして、忌々し気にスネークを見据える。
先程と打って変わって、紡がれる声色は平坦な物だった。
「それは今日、ここで潰える。少佐、これが私からの、最初の報復だ。」
その言葉を皮切りに、男が此方を見据え、一歩踏み出す。
スネークは踵を返し、逃走を図った。
しかし、その退路を塞ぐ様に影が走る。
髑髏部隊(スカルズ)だ。
「爆発を聞きつけてやってきたか!今行く…」
「おっと、邪魔はするな。」
「クソッ、ボス!」
周囲に佇む数人のスカルズ。
タイマンならともかく、燃える男と共に囲まれた状態は、些か不利だ。
加勢に入ろうと馬から降り駆け出すオセロットだったが、スカルフェイスのショットガンに遮られる。
直後、オセロットの周囲にもスカルズが飛来した。
拠点中のスカルズが、集結しつつあった。
「いくら何でも不味いぞ…!」
スカルズの鉈と燃える男の眼が、妖しく光る。
じりじりと迫る包囲網に、敗北は時間の問題かと思われた。
「_こんな所に居やがったか!」
戦局を変えたのは、またしても乱入だった。
スカルズの一人を手刀で斬り裂いて、男が一人現れる。
「貴様は…ドイツ代表超人の。」
「よぉ、会いたかった…!」
誰あろう、ブロッケンJr.だ。
その声色は静かながら、怒号に近しい物だった。
そうであろう、何故なら。
「お前が核を使った、いやバッファローマンをあんなナリにしやがった親玉だな?」
「核…成程、お前も亡くしたな。」
バッファローマンを結果的に重症へと追いやった張本人だと分かれば、無理も無い。
何よりもブロッケンを庇って倒れたという事実が、彼の憤りに拍車を掛けていた。
怒りの矛先は当然、スカルフェイスへと向けられる。
「戦っている内に漸く思い出したぜ、この不気味な奴等の事を…」
「何?」
「コイツ等は、ドイツが研究していたパラサイトセラピーの強化兵士だ。俺が超人になる訓練の一つで、戦った相手だ。」
「…成程、通りで全身火傷でも生きてる訳だ。」
正確に言えばハンガリー圏の村で行われていた研究を、ドイツが占領する形で奪ったものだ。
超人になる特訓の一つに、打って付けの研究だった。
「貴様等が、全ての始まりだった。」
「…その心境には同情する。だがな、バッファローマンの仇とあっちゃ容赦しねぇぜ。」
ブロッケンにはどうしても、スカルフェイス許すことが出来なかった。
加えて、嘗て同類に勝利したという事実が勝つ自信を生み出していた。
彼を止める動機は、最早無いに等しかった。
「その報復心、実に単純だが根深いな。良いだろう、掛かってこい。」
「待て、ブロッケン!まだ奴に攻撃は…!」
「すまねぇが、今はこの衝動を抑えそうにねぇ…!」
憤怒の声が、報復心が、彼を突き動かしていた。
周囲のスカルズには目もくれず、ただスカルフェイス一人だけが彼の視界にある。
両者の緊迫した空気が弾けたのは、一瞬だった。
「…オラァーーーッ!!」
ブロッケンの俊足が、彼を一迅の風に変える。
瞬く間に間合いを詰め、渾身の一撃を放たんとする。
「ベルリンの_」
「遅い。」
だがスカルフェイスはその拳を難なく捌き、反撃に蹴りを返す。
スカルフェイスもまた、歴戦の軍人だ。
ブロッケンとは比較にならない程の年数と、報復心を持った。
ブロッケン以上の修羅場を乗り越えている。
そして超人と人との壁を、パラサイトセラピーが乗り越えた。
勝負は一瞬だった。
蹴りでよろめいた体を背負い投げ、地へと叩き伏せる。
「ガッ…!?」
「終わりだ、私の最初の報復相手よ。その鬼に免じて、一撃で楽に死なせてやる。」
ブロッケンの頭に、ショットガンの銃口が当てられる。
何とか体を動かそうとするも、第三の子どもが念を通じて抑え込む。
万事休すとはこの事か。
「畜生…!バッファローマンの分も、働けねぇのか、俺はっ…!」
死を目前にした脳が、走馬灯を駆け巡り、その度に悔しさが込み上げる。
奴だけでも倒したかったと、そう願って止まなかった。
それさえも叶わぬという現実を前に、彼は涙を流して屈するしかない。
そんな彼の屈辱を、ただ冷淡な声で。
「さようならだ。」
決別の声と共に、引き金が引かれ…
「_バカヤローーーッ!」
銃弾は、横合いから飛び出してきた男によって躱された。
それは紅白の身体を持つ、大柄の男。
「カナディアン、マン…?」
カナダ代表超人、カナディアンマンだった。
「憎悪と相対するモノ」
鮮明な紅白色をした彼の身体を、内から湧き出る薄暗い血が黒く染める。
脇腹から流れ出るソレは、足を覆う様に伝って地面へと流れ出る。
「…ぁ。」
ポタリ、と頬に当たる血の感触がした時、漸くブロッケンJr.はカナディアンマンに庇われたと気付いた。
自身の半身に掛かる鈍痛は、タックル同然の勢いで凶弾から逸らされたからだろう。
何故、と考える暇もなく、頭上から彼の声が届く。
「お、お前、なんで。」
「あぁ、クソ。いってぇ…!」
苦悶の顔に汗を浮かべてそう言った彼を前に、ブロッケンの中で罪悪感が募っていく。
彼が身代わりになって、重傷を負わせてしまったのだ。
細く締まった瞼の奥から、揺れる瞳孔が此方を射抜く。
ソレが余計に、ブロッケンの心に重荷を背負わせていた。
「こんくれぇでくたばる俺じゃねぇよ…!」
ニィ、と歯を見せて笑うカナディアンマン。
しかし、それが強がりなのは誰の目にも明らかだ。
彼の足下には血溜まりが出来つつある、最早立っているのも辛い状態だろう。
心に重く圧し掛かる痛みが、ズキリと音を立てる。
「…スカルフェイス、テメェーーーッ!!!」
故に、スカルフェイスへの憤りが燃え上がるのも必然だった。
彼の為ならば己の身など惜しくないとばかりに、彼の心中に燻っていた物が爆発する。
先程までの復讐心よりも尚強い、純粋な怒りが身を焦がす。
「お前の行いが、友を傷付けた。それは己自身への怒りだ。」
「黙れ!お前が、お前がいなければ!!」
「だが貴様は私への憎しみで、その憎悪を緩和しようとする。実に滑稽だ。」
「黙れと言っているーーっ!!」
加えて、スカルフェイスからの挑発が怒りに火を灯す。
激しい憎悪が全身の血肉を支配し、何を置いても奴を殺せというドス黒い感情に呑まれていく。
そうして己が激情に身を任せ、目の前の敵を殺すことだけに固執し始めていた。
「鬼としても未完の器だな、貴様は。」
対し、スカルフェイスはあくまでも冷静だった。
ブロッケンが既に正気を失いかけているのを見抜いていた。
だからこそ、あえてブロッケンに近付いて語りかける。
「だが未完なりに傑作だ。さぁどうする、私はここに居るぞ?」
「言われなくとも…!」
煽りを受け、尚も激情のままに動くブロッケン。
その先に待ち受けている未来など考えず、ただ本能の赴くままに猛進する。
そうして一直線に向かってくる彼を、スカルフェイスは待ち望んでいた。
「…まだ分かんねぇか!この、大馬鹿野郎ーーーッ!!!」
故に、カナディアンマンの鋭いビンタが鳴り響いた時、ブロッケンは一瞬、訳が分からなかった。
頬に走る痛みに、時が止まった様に呆然と立ち尽くしていた。
ややあってハッと我に返ったブロッケンは、先の怒り等忘れて困惑していた。
しかしそれも後の祭り、彼はカナディアンマンの怒りの眼差しを浴びる事となる。
何を、と反論しようとした口は、カナディアンマンの言葉に遮られる。
「おい!お前が今やる事は何だ、言ってみろ?」
「え、あ…」
その問い掛けに、ブロッケンは思わず言い淀む。
今の彼には、自分が何を成すべきなのか見当も付かない。
ただ奴を許せないという、怒りだけで動いていた彼では。
そんな彼を前に、カナディアンマンは静かに息を吐く。
次いで発せられた言葉には、僅かな憤りが含まれていた。
「お前はドイツ代表で、正義超人だろう。だったらテメェの役目ってものがあるだろ!」
「俺の、役目…」
カナディアンマンの言葉を聞き、ブロッケンはその言葉を復唱する。
途端、彼の脳内で何かが弾ける。
それが彼の心を急速に冷めさせていき、やがて沸々と湧き上がる熱い思いを自覚させた。
その使命の名を、ブロッケンは知っている。
「俺の正義に、殉じる…!」
「ったく、漸く分かったかマヌケ。」
「はは…そうだな、そうだった。」
打たれた頬を撫でて、積年の思いが晴れた様に涙を流すブロッケン。
その顔には怒りは無く、あるのは己自身の不甲斐なさを嘆く悔しさと、それを気付かせてくれた友への感謝だった。
「…何も許せとは言ってねぇ、俺もあんな野郎には反吐が出る。だが、堪えろ。」
そう言ってぎしりと義手を軋ませるカナディアンマン。
やろうと思えば、その鋼鉄の左手で殴ってでも止めた筈だ。
それを敢えて、生身の右手で止めた。
その意味を、ブロッケンはしっかりと理解させられた。
「失ったモノの為じゃなく、今いるモノの為に戦えって事か。」
「正解だ、全く…」
それは同時に、自分の未熟さを痛感させられた瞬間でもあった。
正義超人として、己の役目を全うする。
ブロッケンにとって、それだけが唯一無二の答えだった。
彼の中で燻っていた激情が消え去り、内に秘めた力が解放されていく。
「分かったぜカナディアンマン、俺のやるべき事を。」
瞬間、ブロッケンの身体が光に包まれる。
火事場のクソ力、もとい友情パワー。
それこそが彼の真の力であると示す様に、その身体から放たれるオーラは眩い。
その輝きに目が眩んだスカルフェイスを余所に、彼はスカルズの方へと歩み寄る。
「スネーク、周りの奴等は俺がやる。」
「あぁ、それで良い。」
すれ違いざまに、一言交わす。
それだけで、スネークにはもう彼を心配する理由は無かった。
ブロッケンが、構えを取る。
そして。
「俺の使命、俺が出来る事、俺が成すべき事がっ!」
怒号と共に振るわれる拳は、周囲のスカルズを引き裂いた。
たった一撃、ソレが次々と髑髏を地に伏せさせていく。
そうして出来上がった道を通り、ブロッケンは雄叫びを上げる。
「俺は一人の正義超人として、俺の正義をやり遂げる!!『ベルリンの赤い雨』---っ!!!」
次々とスカルズが薙ぎ払われていく。
彼が一瞬の内に腕を振るい、包囲網は崩れ去っていく。
その中にいた燃える男が、ブロッケンへと襲い掛かる。
猛火を振るい、迫る男。
だがブロッケンは、敢えて懐に突っ込んだ。
「この程度の熱、焦熱地獄に比べりゃ生温いぜ!『ブレーメン・サンセット』!!」
燃える腕が振るわれるよりも早く、掴まれる顔面。
今の彼は、燃える男よりも尚燃え盛っている。
そのまま他のスカルズと同様に、宙を舞い叩き伏せられた。
『第三の子ども』の力が、弱まる。
「何、だ。それは。」
動揺と焦燥が、スカルフェイスを襲う。
ブロッケンの発する激情に、怯えていた。
その使命の名を、スカルフェイスは計り知れない。
代わりに彼の前に現れたのは、スネークだった。
「お前の相手は、俺だ。」
彼の邪魔はさせまいと、立ち塞がる。
蛇の眼光が、髑髏を捉えて逃さない。
武器は、拳銃とナイフ、後ろの超人は素手。
それだけの筈なのに、スカルフェイスには今の彼等が何よりも恐ろしく感じた。
ここに来て、彼は初めて思い知った。
正義というモノの威光を。
「馬鹿な、馬鹿な!」
「いいや、今のあいつは正直者さ。」
同じ鬼と思っていた者の笑みが、スカルフェイスには自分のとは別の物に見えた。
「正義の栄光、語らずとも」
再び相対する蛇と髑髏。
先程の焼き直しの様にも見えるが、スカルフェイスが感じるものは全く違っていた。
今対峙している男は、自分が知る蛇とは何かが違う。
まるで自分が知っている男とは別物の様な、そんな感覚さえ覚えている。
「…何が貴様を、いや貴様等を変えた?一体何が!?」
「分かるまい、狂ったお前には。アイツの正義心への実直さを。」
「正義心だと?そんな物が、こんな。」
「報復心に魂を売った者には分からない強さだ。」
未知のソレに恐怖するスカルフェイスに、スネークは淡々と告げる。
それでもスカルフェイスには、理解の及ばない領域だった。
「欺瞞だ!そんな子どもの掲げる様な正義が、何の役に立つ!?」
叫ぶスカルフェイスの言葉に、スネークは何も言わなかった。
だがその顔は何処か穏やかで、優しげですらあった。
それが一層、スカルフェイスの不安を煽っていく。
何か得体の知れないモノが、目の前にいる。
そう、気付けば眼前に。
「なっ。」
「せぇい!」
一瞬の隙を突いて迫ったスネークの格闘技が、スカルフェイスの手足を挫く。
骨を幾つか持って行った衝撃はそのまま体を突き抜け、彼から立つ力すら失わせる。
自前のショットガンも奪われ、そのまま地に組み伏せられる。
王手が掛かった。
だが尚も彼等は足掻く、己の報復の為に。
「…貴様の鬼は、その程度では無い筈だ!見せてくれ!」
その言葉に『第三の子ども』が、燃える男が再起する。
爆炎を上げ、己が報復に立ちはだかる障害を打ち砕かんと、ブロッケンへと襲い掛かる。
燃え盛る一撃を前に、しかしブロッケンは確固たる意志で迎え撃たんとする。
「来やがれ怪物!『ベルリンの_」
「_その必要はねぇ、俺が相手だ!」
だがその時、彼の前を巨影が遮り、叫びを上げた。
その背中を、ブロッケンは知っている。
ここにいる筈が無い、しかし見間違いようのないその後ろ姿。
彼の名は、そう。
「バッファローマン!?」
「『ハリケーンミキサー』ッ!!」
その名が叫ばれると同時に、旋風が巻き起こる。
凄まじい捻りを加えた悪魔の角が、燃える男を弾き飛ばす。
クルクルと弧を描いて飛ぶ男。
だが、悪魔は容赦しない。
「『連続・ハリケーンミキサー』---ッ!!!」
落ちてくる男に再度放たれた、嵐の様な猛突進。
先程よりも尚強いスピンを掛けられ、男は二度宙を舞う。
最早視界も不明慮な燃える男には、自身を地に追いやる重力に対し逆らう術が無かった。
そして。
「トドメだ、『ハリケーン・ヒート』---ッ!!!」
強烈な回転はそのまま、待ち構えていた角へと自ら食い込む推進力となる。
血肉が抉られる生音を立てて、角が完全に体を貫く。
そして頭を振るわれ吹き飛ばされた男は、成す術無く地面へと叩き付けられた。
体に大穴を開けられた男は、尚も立ち上がろうとするも、力無く垂れ伏す。
赤熱していた体は黒く染まり、そのままピクリとも動かなくなった。
「ふん、朝飯前だ。」
グルグルと腕を動かし、首を鳴らすバッファローマン。
その背中は未だに炭化しているが、本人は元気そうだった。
そんな彼を見て、呆然とする男が一人。
当然、ブロッケンJr.だ。
「バッファローマン、お前、重症じゃ…?」
「まぁ、な。流石に核は堪えたぜ。」
「お前…」
よく見れば、額から汗を流している。
やはり無茶だった事には変わりない様だ。
呆れ返るブロッケンだった。
だが、次の瞬間に顔付きが変わる。
燃える男の上に現れた、『第三の子ども』を見てだ。
「っ!」
反射的に飛び上がり、子どもへと掴みかかる。
超人的なスピードで振るわれた腕。
しかし、それは空振る…
「『連続・ベルリンの赤い雨』っ!」
否、返す刀で振るわれた腕が、子どものマスクと衣服を斬り裂く。
驚異的な俊敏性を持った一撃は、子どもを昏倒させた。
「終わりだ!」
同時に、遠くで響き渡るスペシャルマンの声。
気付けば晴れていた霧の中から、サヘラントロプスを抑え込んだスペシャルマンの姿が浮かび上がる。
そしてブロッケンの腕には抱えられた第三の子ども。
今度こそ、彼等は完全勝利した。
「お前の負けだ。」
「……」
無言の肯定だった。
目指す道標を見失い、項垂れるのみの骸が、そこにはいた。
そんな彼に、スネークは語り掛ける。
「お前は、核という共通言語(脅威)が人をありのまま認めさせると言ったな。」
「…そうだ、力無き言語に存在する場所は無い。」
「そんなものは言語に必要無い。」
うわ言の様に呟く呪言を、スネークは否とする。
「俺の元に集った兵士は、誰もが一癖も二癖もある奴ばかりだった。」
思い返すは、嘗ての日々。
かつて、世界が混沌としていた頃。
ビッグボスの名に集う者達がいた。
「だがそんな奴等を、俺は一度として否定した事は無い。そしてあいつ等もまた、他人と分かり合えた。」
彼等に国境は要らなかった。
それがMSF(国境なき軍隊)だった。
「分かり合うのに核なんか要らない。己の信念、そして道徳があればそれだけで良い。」
スネークが心の底から信じた信念があった。
その為に彼は友を失ったが、彼と共に戦った仲間は皆、その信念を恨む事は無かった。
寧ろ正義を貫く為ならば、自らの死をも恐れず、厭わなかった。
「俺達から送るお前への報復は、見果てぬ未来を守る事だ。」
「っはは、ビッグボスと呼ばれるだけはある…」
スカルフェイスは笑っていた。
その笑い声は乾いていて、力が無い。
もう彼の体を動かすだけの力は残っていなかった。
だが、どこか満足気でもあった。
「もう私には、何も残っていない。殺せ、その権利はお前にある。」
「…自分で蹴りを付けろ。」
放り投げられる髑髏とショットガン。
ソレを背に、蛇は立ち去る。
後に残ったのは、乾いた銃声と穴の開いた髑髏だった。
◇
一方で、カナディアンマンはウーロンに応急処置を受けていた。
基地の軍備品である。
「よーーーやく、休めると思ったのに。全く、ここの所働きっぱなしだっつーの。」
「はは、悪いな…いつつ。」
「どてっぱらに穴が開いたんじゃかっこつかねぇぜ。」
お互いに疲れ気味のウーロンとカナディアンマン。
特にウーロンはここ最近働きっぱなしだった。
獄中にいた時は看守がいる時が休み時間でさえあった。
処置を一段落したと思うと、一気に緊張の糸が途切れ、どっと疲れが湧いてくる。
これでもう楽になればいい、そう思っていた。
「おいウーロン、ブルマ博士とヒューイの手伝いをしてくれ。サヘラントロプスを動かさんとならん。」
だからこそコキ使っていた張本人からの言葉に、彼は遠い目をするしかなかった。
己が無力を呪った。
実際には有能だからなのだが、今の彼には皮肉だろう。
彼の受難は、終わりそうにない。
◇
希望界域、本拠点。
そこにスネーク達は、姿を現した。
サヘラントロプスも一緒だった。
「待たせたな。」
「いざ征かん、地下工場へ」
希望界域拠点
そこに、悟飯たちが笑顔で帰ってきた。
全員一戦士として成長したかのような顔持ちだ。
「皆、よく頑張った。我々も防衛に勤しんでいたがな。だが君らのと比べれば大したものではない。」
そんな全員を拍手交じりで十神が称えた。
自然と周囲からも拍手が出る。
「祝祭でも上げたい気分だが俺としてはここを早く出たいし、お前たちCROSS HEROESにも協力してこの恩を返したいしな。」
どこか、しんみりとした空気が周囲を包む。
しかしそれは悪性に塗れたものではなく、歓喜から来るものだった。
「では行こうか、地下工場へ!」
かくして、希望界域のメンバー及び外よりの英雄___CROSS HEROESは今は誰もないトラオムを脱出する為、地下工場へと凱旋した。
トラオム非干渉地帯 工場入口
工場へと続く門は固く閉ざされておりその中心、これ見よがしに空いた3つの穴がある。
その穴に十神が、3つの宝玉をはめ込んだ。
瞬間、鳴り響く音と振動。
荘厳極まる音と共に開く巨大な門。
その奥にあったのは___閉鎖され、今は誰も使用していないであろう廃工場だった。
しかしおかしい点が一つ。
「妙だ、誰も見張りがいない。」
やがて一行は、まるですり鉢状のスタジアムのような大部屋へとたどり着いた。
そこは円形の白い部屋で、最奥には白い扉のようなものが見える。
きっとあそここそが出口なのだろう。
「なぁ、あそこ。」
リクがおもむろに指をさす。
「あれは全員、ホムンクルスだ。」
周囲の培養槽に浮かぶ、人型の何か。
作られた人間、ホムンクルスであるとモリアーティは看破した。
しかしそれが全員に『まるで知っていた』かのように聞こえたのはなぜか。
「人工的に作られた人間だよ。」
「ちぇ、胸糞悪くなるぜ。」
人工的に作られた人間、という言葉に表情が曇る江ノ島。
と、その時。
「このトラオムにいる1000万体のホムンクルス全員を殺せばここから出れるぜ?」
「「「「「!?」」」」」
巨大なスタジアム状の部屋に響く、忌々しい声。
間違いない。
この声の主はクレイヴだ。
『このトラオムを動かすエンジンはこいつらが持つ魔術回路だ。だからこいつらを全員殺せばトラオムも消える。でもな、まさか1000万人を殺せるわけないよなぁ?いくら替えの利くホムンクルスとて、1000万人だ、俺ならそんな血も涙もないことしたかないなァ!』
スピーカー越しなのか、声がかすれて聞こえてくる。
クレイヴは卑劣にも、今まで無名英霊を生み出してきたホムンクルスを人質にした。
確かに、倫理の埒外にいる魔術師や殺人鬼、世界のためには家族すら捨てれるような奴ならば「替えがいくらでもあるホムンクルスの命なぞどうでもいい」と思える。
しかしCROSS HEROESは皆、その倫理の中にいるがゆえに、慈悲の心が多かれ少なかれある。
その慈悲は、彼らに『無名とて、彼らに無辜の人間は殺せない。』というブレーキをかけさせる。
___リ・ユニオン・スクエアを浸食していたトラオムを停止させたければ、無名の人間=ホムンクルス1000万人を見捨てるしかない。
しかし、その決断は彼らの心に少なからず罪悪という傷をつけることになるし、何よりこのことが知られればいずれ、周囲の人間から『大量殺人鬼』という汚名を着せられる。
これは、世界か1000万人かというトロッコ問題だ。
「なんて卑劣な……!」
悟飯の歯ぎしりが止まらない。
『おう、何とでも言いやがれ。そのままここに住むって言うなら俺はお前らに何もしないし?もうメサイア教団はお前らに手を出さない。ここで永遠の幸福を与えてやるよ。俺はお前らがこのまま永住するかこいつらを殺すか決断するまでいつまでも待つぜ?たとえ決断に1000年かかろうともな。』
「くそ!どこだ!どこにいる!逃げてないで出て来やがれ!」
燕青が憤る。
無名の人間のために、一人の侠客として。
「___このホムンクルスの救助は私がやろう。」
モリアーティが名乗りを上げる。
破壊するでもなく停止するでもなく、救助する、とは?
「どうやって解放するつもりだ?」
「君たちが絶望界域を攻めている間、ヴリトラを解放した後に『協力者』に出会ってね。もし絶望界域に勝利したら彼らを助けてくれと頼まれたのさ。という訳で行ってくる!」
そういって、モリアーティはどこかへと去ってしまった。
しかし、その動きや言動には裏切りの様子はない。
「抑止の守護者め、おいしいところで。……まぁ仕方ねぇか。どうせこいつら全員死ぬからねぇ!」
瞬間、ジェットエンジンの轟音と共に飛び出す赤と黒のカラーリングの巨大戦機。
それはかつて、スネークが破壊したとされる『AI兵器』に瓜二つだった。
「俺の能力『機巧憑依』を使いこのピューパに取り憑いた!性能も行動速度もオリジナルとは桁違いだぜ!」
「くそ!ピューパか!」
スネークが身構える。
それを見た全員も、最後の戦いへと覚悟を決めた。
「俺は勝利を目前に逃げた21号や大口叩いて負けたシグバールとは違い逃げも隠れもしねぇ!どうせこんな恥を犯して戻っタら大帝にぶチ殺さレルんだァ、ならばお前ラにィィ、最後ノ闘イヲオォォオオオオ!挑ンデヤルゥゥゥウ!!」
「頼もしき仲間たち」
――特異点。
ジオン族のモンスター達を瞬く間に撃退した
テリーマン、ラーメンマン、ウルフマン、ジェロニモ……
特異点にて散り散りになった4人の正義超人が、遂に集結する!
「ジュランにガオーン、それに正義超人のみんなとも合流できるなんて
よっしゃラッキー!! って感じだね!」
「良かったね~。ほれ、ほれ!」
介人がそう言って嬉しそうな声を上げると、清少納言――なぎこがハイタッチをしようと手を伸ばしてきた。
「ウェーイ☆」
「イェーイ!」
パァン、といい音が鳴った。なぎこと介人は楽しげな様子で笑い合う。
「何かしばらくの間にまたテンション高いお仲間が出来たっぽいじゃんよ、介人」
ジュランがそんな風に言いながら、介人に肩を組むようにして絡んでくる。
「まあね……ところで、マジーヌとブルーンは? それにセッちゃんも……」
「ああ、それがな……逃げる途中であいつらとはぐれちまってよ……」
ジュランが申し訳なさそうに言うと、なぎこが少し悲し気に目を伏せた。
セッちゃんの時空跳躍機能が無くては、現状リ・ユニオン・スクエアへ帰還する方法を
彼らは持ち合わせていないのだ。
「そっかぁ……せっかく再会できたと思ったらこれかー……
でもさ、こうして離れ離れになった者同士が逢えたわけだし、きっと何とかなるっしょ!」
「そうだね……うん、その通りだ」
「なぎこちゃん……すっごく前向きな人間ちゅわんなんだねぇ……」
「そう、なぎこさんてば本当にポジティブシンキングなんだから……人間……人間?
まあ、それでいっか! ぶはははははは!!」
底抜けに明るいなぎこの言葉に、介人とジュランは思わず吹き出してしまった。
キカイノイドとサーヴァント。厳密に言えば、種族どころか生きる世界すら
異なる存在だが、不思議とウマがあったようだ。
「まあ、全員集合とまでは行かなかったが、ひとまず杜王町に戻ろうや。
6人も見つかったとなりゃあ、他の奴らも見つかるかもしれねえ」
金時がそう提案すると、一行は同意して杜王町への帰路につくことにした。
「承太郎達も無事だったか……」
「ああ、何とかな……」
杜王町に戻ると、承太郎がテリーマンを出迎える。
「未だ行方が分からないのはゼンカイジャーの残りのメンバー、ソウゴ、
そして悟空か……」
混乱の最中にクォーツァーにさらわれたソウゴ、
為朝の宝具で重傷を負い、リ・ユニオン・スクエアに送還された悟空については
まだ彼らも把握していないようだったが、とにかく今分かっている情報を互いに共有する。
「あの時、俺たちに攻撃を仕掛けたのはメサイア教団と言う謎の集団だったと言う事か」
「ああ、向こうにいるアルケイデスとか言うサーヴァントはその一員だったが、
奴らにマインドコントロール紛いの事をされて操られていたらしい。
奴から情報を引き出せたのさ。そっちも収穫はあったようだな」
「超人医師ドクター・ボンベに会う事が出来た。どうやらこの特異点とやらは、
俺たち正義超人にとっても重要な意味を持つらしい」
「ドクター・ボンベって、俺と康一が会ったあのやたら腕っぷしの強えェ医者の
爺さんかよ?」
「あの人には僕たちもお世話になったよね」
仗助と康一は以前、レナード・テスタロッサとの戦いに敗れ、
重傷を負った相良宗介を治療したボンベと邂逅している。
「ふむ……世界を違える者同士だと思っていたが、
奇妙な縁と縁が結び合わされたものだな」
ラーメンマンが神妙な顔つきで言うと、ジェロニモも同意するように首肯した。
「んだ。これもきっと運命的な何かに違いないだ。
オラ達の出会いにも意味があるはずだべ!」
「出会いは一期一会と言うでごわすからな。お前たちとの出会いも大切なものと
なるだろうよ」
ジェロニモ、そしてウルフマンがそう言うと、金時がじっ、と二人を
見つめている事に気づく。
特に金時はウルフマンの両名に対し、興味深げな視線を送っていたのだ。
その様子に気付いたのか、二人は首を傾げる。
「ん? どうかしたかい?」
「いや、アンタ……相撲が好きなのかと思ってよォ~」
金時のその言葉を聞き、ジェロニモとウルフマンは目を丸くする。
「がっはっはっは……超人横綱とは何を隠そう、このウルフマンのことよ!
ごっつぁんです!」
「やっぱそうかァ! いや、俺っちもよ、足柄山じゃ熊を相手に毎日のように
相撲に興じてたもんでな。まさかり担いだ金太郎、ってな」
「ほほう、そいつは奇遇だな。ならば話は早い……おい、金時と言ったか?
どうだ、一丁ここで相撲を取らないか!?」
「OK、望む所よ……はっけよい のこったァァァァァァァァッ!!」
ウルフマンと金時――二人の男は意気投合し、早速その場で取り組みを始めてしまう。
「ヒューッ、すんげえ怪力……熊なんかとは比べ物にならねェや。面白れぇ……
面白れぇよ、アンタ……! モースト・デンジャラス・ゴールデンだぜ……!!」
「がははははは!! お前の方こそ、久々に歯応えのある相手だわい……!!
ウチの相撲部屋に来れば、瞬く間に番付を駆け上がれるだろうて!」
そんな風に笑いながら激しくぶつかり合う二人を見て、一同は苦笑を浮かべていた。
頼もしき仲間たちとの再会により、特異点の戦いも否応なく激しさを増していく……
「忍び寄る、魔の者たち」
「はぁ!」
「おりゃあああ!」
「ギガファン!」
「ぐわぁああああああ!?」
「よし!」
悟飯達が絶望界域での激戦を終え、希望領域へ向かってた頃、アルガス騎士団も神罰騎士団との戦いを終えた。
「なんとかなりましたな」
「そうだな」
「…ん?」
すると剣士ゼータがスネークから預かった通信機から、着信が入る。
「はい……そうですか、わかりました。
……どうやらスネーク殿や悟飯殿達も終わったようです」
「よし、ならば我々も戻るとしよう」
「あぁ」
3人は法術士ニューのターンで希望界域へ戻ろうとする。
「ん?」
「どうした、闘士ダブルゼータ?」
「いや、あそこの草むらをなにかが通ったような気がしてな」
「なに?」
闘士ダブルゼータが言うように、確か草むらの向こうからなにかが通ったような音が小さいながらも聞こえてくる。
「……確かに、なにか通ってるようですね……」
「……確認する必要があるかも知れませんね。
剣士ゼータ、その通信機で皆さんに遅れることを伝えてください」
「わかりました」
アルガス騎士団は悟飯達CROSS HEROESのメンバーに遅れることを伝えると草むらの中に入って行った。
少し歩くと、音は大きくなっていき、通ってるものが1つではなく沢山いることがわかっていく。
そして……
「っ!こ、これは…!」
アルガス騎士団が見たもの……それはどこかへ向かって歩いていく大勢のジオン族や竜王軍のモンスター達の姿であった。
「ジオン族のモンスター!?何故こんなところに…!?」
「それに、見たことのないモンスターまでいるぞ…?」
「わからない……だが、どうやらこの魔物達は全員あっちの方へ向かっているようですね……」
「嫌な予感がする……追いかけよう」
アルガス騎士団はどこかへ向かって移動していくモンスター達を尾行していく。
そして現在
「……ここは」
アルガス騎士団がたどり着いた場所、そこは大きな山だった。
「……どうやら、あの魔物達の目的地はこの山の中のようですね……」
そう言い法術士ニューが指をさしたところを見ると、そこには魔物達が掘ったであろう山の下へ続くと思われる大きな穴があり、魔物達が次々と中へ入って行った。
「……魔物達がこぞってあの穴の中に入ってる以上、あの穴の先は奴らにとって重要な場所へ繋がってるのかも知れんな……」
そう、実はこの山の下には悟飯達がクレイヴがいる地下工場があり、この穴の先は現在進行形で掘り進められておりやがて地下工場へと繋がるものであった。
つまりこの魔物達の目的は……現在中にいるCROSS HEROESの抹殺なのである。
「……こうしちゃおれん、我々も中へ入ろう」
「うむ…」
「奴らの目的が何なのか知らんが、放っておくわけにはいかん」
こうしてアルガス騎士団は魔物達が入った穴の中へ突入していった。
一方その頃、ムーア界にて
「……いいのですか?トラオムにあれだけの魔物を送り込んだら…」
「心配するな、今回のことは既にメサイア教団には老人共を通して伝えてある」
そう、ジークジオンとメサイア教団……本来なら相容れない2つの悪を老人たちは繋げていたのである。
「奴らめ、今回のことを伝えたら『用無しクレイヴもろとも邪魔者共を始末することができる』と歓喜しておったわい」
そう……魔物達が殺すターゲットの中にはCROSS HEROESや希望界域の戦士達だけではなく
メサイア教団の信徒であるはずのクレイヴもいたのである。
「所詮、やつらも愚かな人間共と同じということですか」
「まぁそんなことはどうでもよい、我にとってはあのトラオムとやらの中にいるガンダム族の末裔共さえ始末できればそれでいいのだからな……」
「対憑依ピューパ改戦」
紅色に染められた機械の巨体が、唸りを上げて駆動する。
キャタピラを回してジェットを吹かし、無機質なドームを縦横無尽に駆け巡る。
「ひぃーっ!?何なんだよアレ!?」
「下がれ!奴のすばしっこさは見掛け以上だっ!」
突如として現れた巨大な蛹の様な大型兵器に、慌てふためくウーロン。
スネークが怒声で警告を促すと同時、鋼鉄の蛹は彼等の元へ疾走する。
轢き殺しという、明確な殺意だった。
「パァーフェクトナ俺様ガァ!!逃ガスト思ウカヨオォォ!!?」
ノイズ交じりの罵声を鳴らして、クレイヴは殺戮衝動のままに暴れ狂う。
半ば正気を失った彼に取って、眼前の敵は全て抹殺対象でしかない。
「クソッ、あれだけの巨体を振り回されると厄介だな!」
横へ後ろへと大きく距離を取り、突進を躱すピッコロ達。
彼が言うように、そこいらの戦車等とは比べられぬ質量のソレが高速移動する様は脅威だ。
ならばと試しに数発気弾を撃ち込むも、そのボディには塗装剥げしか起こせず、動きに乱れも無い。
堅牢と俊敏という相反する性質を兼ね備えた、走る要塞がそこにいた。
「やはりピューパらしいな。ヒューイ、お前か?」
『…あぁいや、スカルフェイスがPW計画時の設計図を改良して作った物だろうね。僕はサヘラントロプスに付きっきりだったから、予測だけどね。』
スネークの問いに対し、やや申し訳なさそうに答えるヒューイ。
彼の言う通り、この機体はピューパをベースにした物だ。
AIポッドの付いた頭部ブロック、前足の様なキャタビラ、ホバークラフトとジェットエンジンで軽快に動く後部エンジンブロック。
特徴自体は一切変わりないが、その性能はオリジナルを遥かに凌駕していた。
それこそ、設計者たるヒューイも計り知れない程に。
「ヒャハハハッ!!殺スッ!コロスコロスコロスコロスゥ!!」
「ちいっ、クソッタレェ!」
狂気を纏った笑いと共に背中の機銃を乱射するクレイヴを見て、舌打ちするベジータ。
周囲の閉所に1000万の人の命が治められている今、下手に躱す事は出来ない。
故にZ戦士達は、流れ弾を受け止める事に専念させられる。
頼みの綱は、オリジナルのピューパと戦った事のあるスネークだった。
「ヒューイ、久しぶりの相手だ。援護を頼む。」
『…良いのかい、僕は君達を売った存在だ。』
「その自覚があるなら、今は良い。奴が先決だ。」
『分かったよ、まずは奴の機動力を削ごう。皆、ブースターを狙うんだ。』
通信を終えた瞬間、スネーク達は駆け出した。
「遺言デモ済マセタカァ!?ナラ死ネェェ!ラ”ァ”ァ”!!」
「生憎だが、ここに骨を埋めるつもりは無い!」
一瞬のタメの後、再び迫り来るピューパ。
蜘蛛の子を散らす様な先程の攻撃とは違う、確実に狙いを定めた突進だ。
来ると分かった時にはもう、躱せる様な距離では無かった。
『伏せるんだ!』
だが、スネークは躱した。
キャタピラ間の隙間に飛び込み、寸での所で行われた匍匐でホバークラフトの下に潜り込む。
一瞬轢かれに行ったかに見えたそれは、最小の動きでピューパを躱す最適解だった。
そのまま仰向けに転がり、ピューパの背部へと銃を撃ち込んだ。
狙いは、ジェットエンジンだ。
「ア”ァ”!!?ナンデ死ンデネェンダヨォォ!!!」
背部に受ける銃弾に、苛立ちを募らせるクレイヴ。
勢いをそのままにドームを駆け上がり跳躍、帰ってきた所でドリフトをして、スネークを見据える様に立ち止まる。
轢き殺しが効かぬのならばと、今度は機体正面の三角柱状の物体に紫電を走らせる。
『雷撃が来る、横に避けるんだ!』
ピューパの武器の一つ、電撃ユニットだ。
テーザーガンの様な物と言えば分かりやすいだろうか。
しかしこの電撃は、人体を焼き焦がして余りある威力を持ち合わせていた。
「ゴムゴムのぉ!」
「うおっ!?」
だが、ここに割り込んだのはルフィだ。
スネークへと腕を伸ばし、一瞬で両者の間に割り込む。
「風船!!」
かと思うと、息を大きく吸い込み風船の如く巨体化。
両者を遮る、巨大な壁と化す。
そうしてスネークをカバーし切った頃に、電撃が来た。
「ルフィ、大丈夫か!?」
突然の事態に彼の安否を確認するスネーク。
だが、当の本人は平気そうな顔で笑う。
「効かねぇな、ゴムだから!」
「…凄まじい体だな。」
心配する必要は無かったと、内心ホッとする。
しかし相手もただ黙って見届ける筈も無し。
「邪魔ダァァ!!!」
「おわぁ!?」
敵は一昔前の人工知能では無く、人の憑り付いた兵器だ。
一度に一つの行動パターン等という甘えた制約等ある筈も無く、電撃を放ちながら突撃をしてルフィを跳ね飛ばしに掛かる。
やはりというべきかゴムの身体故に負傷は無いが、質量差故に一方的に弾かれてしまった。
機動兵器の脅威を、クレイヴはこれでもかという程引き出してくる。
『機巧憑依』の真価が、今ここに発揮されていた。
◇
[トラオムの真実:スカルフェイスとゼロの盗聴]
(電話のコール音)
私です、少佐。
副官(XO)、君だな。
例の資料、ご覧に頂けたでしょうか?
(陶器の擦れる音と、紙を捲る音)
トラオム、ドイツ語で夢か。
どうです、メサイア教団の一件。実に有用でしょう。
んん、余り魔術の類いは専門では無いのだがな。良く見つけた。
えぇ、私もこうも都合の良い手段(ホムンクルス)があるとは思いませんでした。実験も成功しています。
相変わらず手早いな。向こうとの手筈は?
整えています。これで後は、貴方の指示があれば例の計画は。
恐るべき子供達計画(Les Enfants Terribles)、そして次世代遺伝子特殊部隊。
此方の準備も、既に。
君を飛ばしたのは、結果的にだが正解だったな。
MSFの一件は、誠に…
その話はよせ、今もまだ心の奥で煮えたぎっているのだよ。
…えぇ。
(何かを飲み下す音)
ふぅ、だがこの件で君に何の得が。
少佐、私はまだ、貴方のお役に立てる。
贖罪のつもりか、まぁいい、遺伝子技術がついに役に立つ時が来たのだ。後は君の好きにすると良い。
では早速発注を始めます、経過報告は後ほど。
あぁ。これで遂に、世界が一つに成り始める。
冷戦の終わりから始まった、敵の見えない時代が、漸く無くなる訳です。
そうだ、遺伝子技術が役立つとは思わなかったがな。
実物に勝る情報はありません。それだけに、トラオムの一件は都合が良い。
1000万人か、戦争経済を続けるには十分過ぎる位だ。AI兵器も合わせれば盤石だろう。
では少佐、いよいよ。
あぁ、電子諜報(シギント)の時代だ。情報統制によって示された仮想敵の元で、民衆は一体化し、一つになる。
絶え間無き聖戦の幕開け、ですか。
ザ・ボスの、私達の意志を漸く実現できる。
…実に良かった。では、私はこれで。
今度こそ、期待しているぞ。
(通話の切れる音)
少佐、貴方はザ・ボスの意志など何も分かっていない。英語で育ち、言葉を奪われた事の無い貴方には。世界は、ありのままで良い。
(紙の束が擦れる音)
指示を行うのは、私からの最後の恩返しです。後は言われた通り、私の好きな様に夢を見させて貰いますよ。
「絶望が手招く正義の光」
トラオム地下工場 ホムンクルス収容所
「ここか。」
「ここじゃな。」
モリアーティとついてきたヴリトラが扉を開ける。
周囲を見渡すと、淡い緑色の光に包まれたホムンクルスが培養槽につながれ、今以てエネルギーとして扱われている。
その中心には、コンピューターのようなものが鎮座されて、無人の今以て管理をしている。
「ヴリトラ、背後は任せた。解放は私が。」
「よいが、できるのか?」
「パスワードさえわかれば計算でどうにかなる。」
誇らしげに語るモリアーティに、ヴリトラはどこかあんぐりしたような顔を浮かべた。
「す、すごいのう、計算。」
「それに、協力者がここにいるというが……。」
「私です……か……?」
ふと、モリアーティが足元を見てみる。
そこには傷だらけでボロボロの、白衣の男性が虫の息で倒れていた。
「君か、協力者とは。」
「ずいぶんとやられたようじゃが。」
白衣の英霊、パラケルスス。
ホムンクルスの製造者にして、メサイア教団の研究員の一人。
「生き残った無名の英霊に……口封じでぶちのめされたのです……このケガだ……私はもう助からない、ですが、ホムンクルスを………開放するくらいの力ならまだあります……!」
「うむ、それは重畳。しかし無理はするなよ?」
ボロボロのパラケルススをやさしく立ち上がらせ、コンピューターの前に立たせる。
「IDとパスワードは…………。」
パラケルススが記憶していたIDとパスワードを打ち込み、コンピューターのメニュー画面を開く。
続いてモリアーティがメニュー画面を操作する。
タッチパネル型の操作画面とキーボードを駆使して、開放させるためのシステムを検索する。
「これだな、開放プロトコルは。」
モリアーティがどうにか見つけ出した開放プロトコルを起動させる。
しかし。
『開放プロトコルシステム 5分以内に承認コードを入力してください システム維持のため5分後に不可逆の初期化システムが作動します』
アラート音と共に、5分間のカウントダウンが画面に映し出された。
最後のパスワード画面が赤く輝く画面に映し出され、その下部に36行24列の数字配列が並び立っている。
「しまった、自己初期化システムか……!5分以内に開放しないと……1000万体全員お陀仏です……!」
「何だと!?くそ……暗号か!」
◇
地下工場 大部屋
「ヒャーーーーハハハハハハ!死ネ!死ニサラセ!」
モリアーティらが焦っていることは露知らず、クレイヴ=ピューパ改がさらにいきり立ち、暴れ狂う。
機械的な動きではなく、人間的な複雑機動を実行する。
殺意と悪意に満ち満ちた機動は、CROSS HEROESを苦戦させるには充分すぎた。
「皆殺シニシテヤル……!」
大部屋の空中にばらまかれる避雷針。
スネークは、この攻撃の真意を即座に悟った。
「まずい!全員仕留めるつもりだ!」
「死ネ!」
電撃ユニットより、雷電がほとばしろうとしていた。
もしこれが放たれてしまえば肉体がゴムであるルフィはともかく、ほとんどの戦力が感電死する。
空中にある上に今にも放とうとしている以上、全て撃ち落とすには間に合わない。
「まぁ踊っとけって!」
それは____一瞬、ただ一瞬の出来事だった。
炸裂する水柱と水弾、鳴り響くシタールの音色。
その全てが、避雷針を破砕しピューパの動きを制した。
放たれた電撃も、ルフィが防御する。
「クビニ゛ザレ゛ダ怠惰水野郎ガ……ゴノ俺ニ……。」
「そう思われてたの俺?そんなに怠惰かな~?」
気の抜けた煽り方をする水柱の主、デミックス。
かつての同胞が前に立つ。
しかし、精密機器に水は大の弱点であることは周知の事実。
先の水弾により機動性や思考回路に靄がかかりだす。
「ググ……頭ガ……!」
「今だ、もいっぱつ!」
「さっきのお返しだぜ!」
放たれる江ノ島のショットガンとデミックスの水弾を前に。ピューパがさらにひるむ。
こんな年も行かぬガキどもに追い詰められているという事実が。
残当な理由で追放されたはずの男に追い詰められているという事実が、クレイヴの矮小なプライドに傷をつけた。
「____舐メルナ゛ヨグソガギ共ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
「ルイーダの酒場」
ーー特異点。
杜王町とは逆方向にある店……「ルイーダの酒場」。
果てなき旅人たちの出会いと別れの場。
「ん~~っ、美味いッ! うどん最高~っ!!」
戦いの疲れを癒すように、武蔵は大好きなうどんを食べていた。
このルイーダの酒場には実に多種多様なメニューが用意されている。
頼めばどんな世界の、どんな食べ物でも出てきそうなほどに。
「でも、旅の途中に立ち寄った四国とか言う場所のうどんも美味しかったなぁ」
と、そんな事を呟く武蔵の向かい席には
樽ジョッキで酒を飲むゾロが座っていた。
「ぷはあっ……おい、酒だ。おかわり」
そう言って空になった樽ジョッキを差し出す。
この店に着いてからもう何杯目だろうか?
しかしゾロの体は一向に酔う気配がない。
「は、はい、ただいま~」
それを受け取る店員は……マジーヌだった。
(ぬぬぬ……どんだけ飲む気なんすか? このお客さん……)
ジュランやガオーン、介人たちとはぐれたマジーヌは、
迷い迷った果てにこの酒場に転がり込んでいたのだ。
「ササササーッ!!」
酒場の掃除に精を出しているのはブルーンだ。
その手際はまさにプロのもので、隅々までピカピカに磨かれた店内では
他の客たちも感心した様子でブルーンを見つめている。
「良く働くな、あの新入り2人。ずっとここに置いといたらどうだい?」
「ああ、本当に助かってるよ」
そう言ったのは、カウンターの奥に座っている店主らしき女性……ルイーダだ。
そして彼女の言葉に賛同するかのように、店のあちこちから声が上がる。
マジーヌとブルーンはすっかり、この酒場の人気者になっていた。
お互いの事情を知る由もなく、武蔵やゾロがこの店に入ってからすでに3時間ほど経過している。
その間ゾロはずっと飲み続け、しかもそのスピードが全く落ちないのだ。
(い、いいんだろうか、こんな所で油を売っていて……)
武蔵とゾロに挟まれ、トランクスは少し居心地悪そうにしている。
あちこちの世界から無作為に飛ばされてきた人々がこの酒場に集まっており、
皆、出自も種族もバラバラである。だが、不思議とその空気が嫌ではない。
そのカオス感は人間とキカイノイドが当たり前に共存していた介人の世界にも
通じるものがある。
「良いんじゃないかい? この酒場を一歩でも出れば、
また命を賭けた戦いが始まるんだろう? だったら今ぐらいゆっくりしてもバチは当たらないさね」
「そ、そうでしょうか……」
ルイーダの言葉を聞きながら、トランクスは自分の置かれている状況を考えていた。
(この人、まるで俺たちの事情をすべて見透かしているかのようだ)
近く、この特異点全土を巻き込んだ大きな戦いが起こる事は間違いない。
それまでの、束の間の休息……
「幕間:いつかの希望は失墜し」
数時間前 杜王町
「その為朝ってやつや自分のことを『AW』と言ってたが、そのAWとはなんだ?」
道中、承太郎がアルケイデスに『AW』についての質問をした。
彼らは、AWという兵器についてはそこまで知らないし、アルケイデス本人は既にメサイア教団を裏切った身。
アルケイデスは、承太郎に答えを返した。
「AW、オルタナティブ・ウェポンとは人が抱く復讐心につけ込みその心を増幅、洗脳へと追い込み兵器として運用された英雄たちだ。もちろんサーヴァントだけではない。誰かに恨みを抱いた才能にあふれる人間ならば誰であれなる可能性がある。それがどれだけの善人であろうとも、どれだけ精神が硬いものであろうともな。」
あまりにも残酷性十分。
あまりにも残忍極まりない方法で生み出された哀しき兵器たち。
「リ・ユニオン・スクエアで発生した希望ヶ峰学園の爆破も、エネルギープラント”トラオム”の生成と今後『超高校級の才能』を兵器運用する為だとも聞いた。」
その経緯を知ったCROSS HEROESの表情が曇る。
あまりの残忍性に嫌な気分になったのだろう。
それとは裏腹に、アルケイデスは何処か気恥ずかしそうに周囲を見ている。
「ママ、あの人はだk「見ちゃダメ!」。」
やがて羞恥に耐え切れなくなったのか。
「____すまん、外套を着てこよう。どうやら当世では皆のように外套を着ていなければ騒ぎになるそうだしな……。」
◇
杜王町 ボヨヨン岬付近にて
「美しい。私が住んでいたギリシアの海岸程ではないが、それでも風情がある。」
何処かで拾ったのか。
マントのような布を身に纏ったアルケイデスが、岬を眺めていた。
「CROSS HEROESの承太郎という男、力も心も強そうだったな。」
アルケイデスは、承太郎から感じた黄金の精神をかみしめていた。
自分は復讐心に身を窶し、漆黒の意志を宿したのに。
「___ああ、羨ましい。」
なぜ、自分はあの時。抗えなかったのか?
情けない。
「自省の時間はないな、では戻るとしよう。」
◇
リ・ユニオン・スクエア 某病院
___その慟哭は三日三晩続いた。
その病院にいた誰も彼もが『彼』の慟哭に頭を抱えた。
『あ ああ あ あああ あああああああああああああああああああああああああ!』
どうしようもなかった。
慟哭の要因を告げた医師は頭を抱え、近くにいたナースは何本も何本も鎮静剤を『彼』に撃ち込んだ。
やがて四日目の朝、どうにか『彼』の慟哭は止まった。
その代わり、彼は誰にも会いたがらなくなった。
永遠に等しい孤独を望んだ。
「…………。」
虚無の時間。
空虚な時間が病室内を覆う。
失意が、彼の心をむしばむ。
「君は何を望む?」
暗い病室の影より、黒いコートの少年が出てきた。
黒コートの少年は、虚ろな目でぶつぶつとつぶやく『彼』に話しかける。
「お前は……誰だ?」
「名前は後で名乗らせてもらう。それで、君は何を望む?」
「……復讐……い………る。」
「__なんだって?聞こえないですよ。」
うわごとのようにつぶやく、復讐という二文字。
黒コートの少年は何処か満足げに頷く。
「復讐したい奴がいる。」
「復讐?すればいいじゃないか。それはともかく、一体誰にです?」
「…………この世、全ての人類。」
軽く拍手をする。
満足そうに拍手をして、黒コートの少年は自身の名を名乗る。
「ゼクシオン。それが私の名だ。君の名を聞かせてくれ、望みをかなえよう。」
ゼクシオン。ⅩⅢ機関のNo.6。
「影歩む策士」の名を冠する研究者である。
虚ろな目で、少年は自分の名前と望みを呟いた。
「苗木誠。_____この世全ての人類を滅ぼしこの世全ての悪に、俺はなる。」
すでに希望は失墜した。
失墜した希望は、この世全ての悪を望んでいる。
「小さな者の、大いなる覚悟」
憤怒に満ち満ちたクレイヴの激昂が、無機質なドームに激しく木霊する。
耳を劈く怒声は大気を震わせ、視界が歪んだ様な錯覚さえ引き起こす。
その歪みは一瞬だが、ピューパの姿を一回り大きなモノへと見せかけた。
「殺スゥ”!殺シテヤル”ゥ”ゥ”!!」
彼の内に湧き上がる怒りは遠吠えの様に反響して増幅し、留まる所を知らない。
「俺ノ”生涯!!俺ノ”怒リ”!!積ミ重ネテキ”タ”俺トイ”ウ”全テ”ヲク”レ”テ”ヤ”ル”ゥ”ゥ”!!!」
身の内を焦がして余りある憤怒に同調して、唸り声の様な重低音が響きだす。
それは陽炎を伴う輻射熱、限界以上に出力を上げたエンジンの、彼の怒気の現れ。
やがて膨れ上がった熱波はピューパ全体を包み込み、凝り固まった憎悪を溶かし…
「_ダカラ、死イ”ィ”ネ”ェ”ェ”!!!」
…ドロドロの殺意として、ジェット噴射と共に解き放たれた。
「避けっ…!」
弾けた殺意を感じ取った時には、既に遅かった。
スネークの警告も間に合わず、ピューパは眼前まで迫っていた。
死、その一文字が彼等の脳裏を過ぎる。
だが、ここに集う者は皆、持てる全てを投げ打って死に抗う者達ばかりだ。
例えば、彼等の様に。
「行かせる、かよぉ!!」
「1000万パワーを、甘く見るなぁ!!」
「ア”ァ”!?」
左右のキャタビラを、バッファローマンとカナディアンマンが受け止める。
無論、回転して地を踏み砕きながら駆けるソレを一身に受け、ただで済もう等という筈は無い。
歯車が、履帯が、胸を張って受け止めに来た彼等の身体をズタズタに引き裂かんとする。
鋼鉄と肉が軋み合い、骨が砕ける音が響く。
しかし二人は、決して退く事はしなかった。
「ヌゥアアアア!!」
「オォラァァアアア!!」
歯を食い縛り、雄叫びを上げて必死に耐え続ける。
血飛沫を巻き散らしながら、それでもピューパの行進を阻止する。
圧倒的な質量慣性を受けて、メキメキと地に足が埋まり、4本線を刻んでいく。
だが遂に、ピューパの動きは止まった。
「クソォ!!クソォォ!!ク”ソ”ォ”ォ”ォ”!!!」
しかし、彼の怒りは逆に膨れ上がるばかりだ。
呼応する様に電撃ユニットに紫電が走り、今にも撃ち出されんとしている。
そうして稲妻の輝きが最高潮に達する。
「タァーーーッ!!」
その瞬間に、スペシャルマンは敢えて飛び込んだ。
自慢のアメフトタックルで、電撃ユニットの仰角を無理矢理に上げる。
直後に撃ち出された電撃を食らう覚悟だった。
タダで済む筈も無い。
「ガァッ…!?」
身を焦がす電流に歯を食いしばるスペシャルマン。
覚悟していたとは言え、神経の許容電流を超えた電流が起こす痛みは痛烈な物だ。
だが彼は耐え、ピューパに僅かな隙を生んだ。
「き、みが、どんな一生を送ってきた、か、僕には見当も、付かない…けどっ!」
「ア”ァ”!?」
「どんな理由であれ、悪行に立ち向かうのが…!」
「俺達、正義超人だっ!」
その隣を、ブロッケンJr.が駆けた。
電撃ユニットの更に先、懐のエンジンブロックへと潜り込み、ピューパの巨体に掴みかかる。
そしてその圧倒的な質量を持ち上げ、叫ぶ。
「見やがれ、これが正義超人魂だぁーーーっ!!!」
ブロッケンJr.の手でピューパの巨体が、ぐらりと揺れて浮かび上がる。
そのまま斜めに傾け、ぐるりと一周、遠心力に物を言わせ、ぶん投げた。
「ガア”ァ”ァ”ァ”!!?」
ガタン、ゴトン、と転がるピューパ。
自身の重みに体を軋まされ、金切り声を上げるクレイヴ。
鉄の悲鳴が響き渡り、耳を塞ぎたくなる不協和音が耳に届く。
「やった…のか?」
呆然と、誰かが呟いた。
誰もが固唾を飲んで、ピューパを見つめている。
黒煙を上げる様は、最早勝敗が決した様にも見える。
だが。
「…死ナバ諸共ダァ”ァ”!!」
身を捩らせて、ピューパは再び起き上がる。
膨張しきった殺意は執念となって、彼を突き動かす。
そして電撃ユニットに再び走る、膨大な紫電。
同時に、避雷針カタパルトが口を開く。
「おっと、ソイツは勘弁…!」
デミックスがシタールを構え、水弾を放つ。
だが。
「見切ッタンダヨ”ォ”!!!」
「なっ…!?」
狙いが分かれば弾道も予測できるというもの。
飛翔する水弾を、一瞬にして電撃が撃ち抜く。
宙を走る膨大な電流が水弾を沸騰、蒸発させ、その先のデミックスを諸共に焼いた。
「テメェ、絶望的に足掻きが見苦しいんだよっ!」
ならばとスネークと江ノ島が銃を向け、撃つ。
しかし三度走り出したピューパは避けた。
「ちょっ…!」
「不味い!」
攻撃の隙を突く、薙ぎ払いの一撃。
エンジンブロックを尻尾の如く振るい、戦士達を一度に弾き飛ばす。
壁へ叩き付けられ、呻きを上げる戦士達。
そこに満を持して、避雷針ユニットが射出される。
「コレデ終ワ”リ”タ”ァ”ァ”--!!!」
電撃ユニットの紫電が、最高潮に達する。
最早迎撃は間に合わない。
迫り来る青白い爆裂に、誰もが身構えた。
『_させ、ない!』
瞬間、地を縦に揺るがす衝撃が走る。
同時に、轟音と共に一筋の光がピューパへと突き刺さる。
着弾したソレは爆音を掻き鳴らしてピューパを吹き飛ばし、装甲を食い破って見せた。
「誰、ダ…?」
一撃が飛んできた方角、入口に皆が視線を向ける。
鋼が地を叩く音を響かせて、ソレは現れた。
恐竜の様なフォルムで狭い門を潜り抜ける、電撃中を背負った鋼鉄の獣。
ソレはドームに入場すると、体を反り上げて直立歩行する。
その巨体には、誰もが見覚えがある。
『見ててくれ、父さん、シャルルマーニュさん。今度は僕自身の意志で、戦うんだ!』
_ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”!!!
ハルの乗ったサヘラントロプスが、けたたましく喝采を上げた。
◇
「…どうするかネ?」
頭を抱えるモリアーティ達。
1000万人の命を救う最後の難関を前に、彼等は悩み果てる。
だがその間にも、刻一刻とカウントダウンは迫る。
焦燥感が、張り詰める。
「_何やってるのよ、あんた達?」
「あんた等!いや、実は…」
そんな空気を四散させる様に、問いを投げかける者が現れる。
振り返れば、ブルマ博士等が装置を覗き込んでいた。
「ふぅん、承認コードね。」
言うが早いか、彼女は装置のパネルを開け、自身の端末と内部配線を繋げる。
「任せなさい、私に掛かればチョイよ!」
ウィンクと共にグッドサインを出し、コードの解析に掛かる。
普段の傍若無人さが、今はただただ頼もしかった。
「ウーロン、あんたは近くにコードが貼ってたりしないか探しなさい!」
「あいよ、全く暇無しだぜ。」
最早慣れ切ったのか、ぶつくさと言う口を早急に切り上げて走り出すウーロン。
幾多ものホムンクルスの水槽を巡っていく。
「…んん?」
ふと、目に付いた水槽に足が止まる。
他の水槽とは違う装置に繋がれ、個別に管理されている。
「おい、これって…」
だが何より、水槽に浮かぶ人物の顔が顔だった。
「…スネーク?」
見知った男の顔。
水槽の金属板には、ソリッド・スネークと書かれていた。
「凶戦士たちの語らい」
――特異点・クォーツァー拠点。
「ほう、囚えたガキを餌にCROSS HEROESとやらを炙り出そうと言う訳か……」
スラッグとターレス。彼らもまた、源為朝の宝具による混乱から逃れ、
クォーツァーの拠点へと戻って来ていた。
「カカロットの奴はどうした?」
「……さてな……よもや死んではいまいが……」
スラッグと交戦中だった悟空のその後を、彼らは知らずに居た。
為朝の宝具によって有耶無耶になった戦闘の行方。
ターレスにはとても嬉々として語れるものではないが、もしもあのまま続行していれば
スラッグは超サイヤ人に変身した悟空に敗北していただろう。それはターレスも同様だ。
両者共に、いずれも悟空に後れを取る形となったのだ。
(何故だ……この世界の孫悟空は俺が倒したものとは比べ物にならないくらいに強い……
俺は確かに奴を倒したのだ、この手で……)
クォーツァーによって「孫悟空に勝利した」IFの世界線から召喚された2人。
しかし、リ・ユニオン・スクエアにおいての正しい歴史では
スラッグもターレスも悟空によって倒されている。
さらにはスラッグやターレスが目の当たりにする事の無かった超サイヤ人への変身が
可能となった事で悟空の戦闘力はもはやIFの世界の彼とは比べるべくも無い程に
上昇していたのだ。神精樹の実による強化が追いつかないほどに……
「メサイア教団……だったか? せっかく育てた神精樹を枯らしてくれやがった上に
神精樹の実もコソ泥共に根刮ぎ持って行かれちまった。くそったれが……」
神精樹が蓄えた魔力を逆流させ、自らのエネルギー源として利用したメサイア教団。
そして神精樹の実を強奪していった完璧・無量大数軍らに対し、
ターレスは苛立ちを募らせていた。
この特異点においては、誰もがお互いを牽制し合い、迂闊には動けない状況にある。
「常磐ソウゴとやらの処刑執行……その時、戦況は大きく動くだろう」
CROSS HEROES/カルデア、完璧・無量大数軍、クォーツァー……
秘密裏に銀河戦士ボージャックを新たに召喚したアマルガム……
そして沈黙を貫く竜王……
「どいつもこいつも厄介な連中ばかりだぜ……」
ターレスはため息交じりにそう呟く。だがその一方で彼は内心ほくそ笑んでいた。
(だがまあ、奴らが互いに潰し合ってくれるなら好都合だ……
その間に俺は俺で好き勝手させて貰うぜ……)
漁夫の利を狙うという狡猾さを隠そうともしないターレス。
完成型神精樹が枯れ落ち、神精樹の実によるパワーアップが見込めなくなった以上、
敵対組織同士がぶつかり合う事による消耗を誘う事は戦況を有利に運ぶ事に
繋がるからだ。
「どちらにせよ、もうすぐ次のステージが始まるって訳だ……」
「孫悟空め……今度こそは息の根を止めてくれる……早く姿を見せるが良い……!!」
「その名はアビィ、アビィ・ダイブ」
日本のTPU本部近くにて、突如出現し暴れ出した3体の怪獣。
その凶報を受けたGUTSセレクトは、修理を終えたナースデッセイ号や復活したウルトラマントリガーを以て対処に当たっていた。
戦いの最中に加勢に入ったウルトラマンZの活躍もあり、怪獣達は2体まで撃破された。
残すは1体、火山怪獣バードンのみ。
ライラー脱走の件を抱える中での事もあり、退治を急ぐ一行。
そこに突如として現れた白銀の双胴艦が、怪獣に一撃を加える。
『アビダイン、チェンジ、アビダイオー。』
白銀の戦艦『アビダイン』は謎に包まれた艦長の声によって、その姿を巨大な人型ロボット『アビダイオー』へと姿を変える。
艦長は何者なのか、アビダイン/アビダイオーとは、この場に現れた意図は一体?
全ての謎が今、解き明かされる。
◇
『…というナレーションを考えてみたんだが、どうかね諸君?』
「えっ、お前が喋ってたのですか!?」
「というか何なんですかあなたは、どこから出てきたんです!?」
突然喋り出したアビダイオーの主に、戸惑うばかりの面々。
『おいおい、僕は感想を聞きたかったんだけどね。』
一方の声の主は、自由気ままなのか気にも留めない様子だ。
そんな中で真っ先に我を取り戻したヒジリ・アキトが、声を上げる。
「…まて、何故ライラーの件を知っている?」
『ふぅん、メスの様に鋭い質問だね?医療用の。』
「それだけじゃない。こいつ、ウルトラマンの秘密も知っている節がある。」
アキトの言う通り、謎の人物が語った内容は、ライラーやエタニティコアの一件を知っているという事実を齎している。
本来部外者であれば知り得る筈の無い内容。
彼の言葉を聞いた謎の人物は、感心した様に口笛を吹く。
「答えろ、お前は一体何者だ?」
『さてね、答えるのはやぶさかでは無いのだけど…』
そこで初めて、アビダイオーが動きを見せる。
顔らしき部位が向いた先に居るのは、残った怪獣のバードンだ。
そう、まだ戦いは終わっていない。
その事を主張する様に、翼を広げてバードンが唸る。
『あの鳥、一筋縄じゃ絞めれなさそうだからね。』
「…まずはコイツから、という事か。」
GUTSセレクトのメンバーも、改めてバードンへと向き直る。
火山怪獣バードン、その名の通り火山を住処として生まれる、火焔の猛禽類。
その能力は個体差はあるが、平均的に高い戦闘能力を有するとされている。
先に倒した他二体の怪獣よりも手こずる事は、目に見えていた。
_ガァ”!
「来るぞ!」
嘶きと共に羽根を羽ばたかせ、猛烈な強風が巻き起こる。
直後、バードンは自ら生み出した乱気流へと火炎を吹き込み、熱風を生み出した。
摂氏7万度を持つソレはさながら炎の竜と言うべき軌道を描いて、一同に襲い掛かる。
「デヤァ!?」
「ケンゴ!?」
「あっつ!!?あっついよこれハルキ!?」
咄嵯の判断で顔を庇ったトリガーとゼットは、風に乗って飛来する火を浴びて、僅かにだが火傷を負う。
その隙を狙って、バードンが上空へと飛び立つ。
荒れ狂う気流の中、ウルトラマントリガーへと狙いを付け、頭から急降下。
「まずっ…!?」
『割り込み失礼!』
トリガーの喉元目掛けて放たれる、嘴の一撃。
気付いたトリガーがダメージを覚悟した時、割り込んだアビダイオーの拳がそれを防ぐ。
嘴は鋼鉄の拳に深々と突き刺さっており、その一撃が持つ威力を物語っていた。
『全く、いきなり新車に傷を付けられるなんてね。』
「あ、ありがとう!」
アビダイオーの言葉に、トリガーは改めて構え直す。
バードンも再び飛び立ち、空中戦を仕掛けてきた。
今度は複雑な軌道を交えて、空から火を噴いて一方的に攻撃を仕掛けてくる。
『今度は空でダンスと洒落込むかい?』
それを見たアビダイオーは、両腕を空へと広げ、袖のスラスターに火を付けた。
爆発的な推力を生み出すそれは、一瞬にしてアビダイオーをバードンの元へと浮かせてみせる。
だが、ただ黙ってやられるバードンでは無い。
すぐさま反撃に転じ、炎を纏った嘴を突き付けてきた。
『おっと、熱烈なキスだね!』
先の一撃よりも火力を持つソレを、今度は両腕で挟み込む形でブロックする。
しかしならばと放たれる火炎に、アビダイオーは吹き飛ばされてしまった。
『ッ!投げキッスは想定外…!?』
そのまま地面へと叩き付けられるアビダイオーの動きは、先程よりは鈍い。
一方でバードンはまだ平気な様子で、勢いに乗っていた。
追撃に入ろうとするバードン。
だが。
「いっくよファルコンちゃん!」
「レーザーレイン、撃てぇー!」
GUTSセレクトの兵器が火を噴き、追撃を阻止される。
身を捩って回避をしたものの、乱入に次ぐ乱入に嫌気が差したのか、忌々し気に一同を見渡すバードン。
脅威の対象への一瞥を終えて、コキリと首を鳴らすと、急上昇する。
「何をする気だ…?」
_ガアァァァ…!!
瞬く間に米粒程にしか見えない距離にまで上昇したバードンは、口を開けて急降下。
ありったけの空気を体内に溜め込み、その全てを火炎の燃焼に費やす。
『不味い、下がれ…!』
「デヤァーーッ!?」
アビダイオーが警告を飛ばすと同時、先程よりも猛烈な灼熱を纏った伊吹が大地へと撃ち込まれる。
熱波を巻き起こし、一瞬の内に周囲一帯を溶岩へと変えていく。
湧き上がる黒煙、蒸発する大地、地盤沈下。地上は足の踏み場も無い状態だった。
まさしく、焦熱地獄といった有様だった。
「…面白い、斬らせろ。」
《ウルトラマンZ:デルタライズクロー》
その真っ只中から、黒煙を突っ切ってウルトラマンZが空を舞う。
自身の持ちうる最大の力、デルタライズクローを用いて、バードンと嘴を交える。
援護にはナースデッセイ号らGUTSセレクト。
それでも尚、バードンの優勢に見えた。
「あんな怪獣、どうしたら…」
『やぁ迷える少年、一つ取引と行かないかい?』
マルチタイプの現状、空中戦に分が無いトリガーに、アビダイオーが唐突に話を持ち掛ける。
同時に、ナースデッセイ号のモニターに映像が割り込まれる。
「これって…スカイタイプのキー!?」
『どうだい、今事態を打破できるのはこれだと思うよ?』
エタニティコア防衛戦において四散した、トリガーの力を引き出すGUTSハイパーキー。
謎の人物が、その一つを持っていた。
「…交換条件は、何だ?」
『CHに所属する、雨宮蓮の所在。』
「雨宮蓮…確かに、所在は知っている…」
CHに所属しながら、未だ謎に包まれた存在、雨宮蓮。
恐らく彼と何か関りを持っているのだろう。
彼と目の前の男、両方に探りを入れる打って付けの機会だった。
「だが、身元も分からない相手の取引には応じられない。」
『確かに、これじゃ誠意のある交渉とは言い難かたいね。』
するとモニターに映る光景が、パイロットへと映り替わる。
その姿を見た者は、皆絶句した。
初老とは行かなくとも30代半ばは行ってそうな声の持ち主は、どう見ても10代前半の姿をしていたからだ。
『自己紹介が遅れたね、僕はアビィ・ダイブ。アビィと呼んでくれたまえ。』
「眠れ戦場よ、目覚めは遠く」
トラオム地下工場 ホムンクルス収容室
「まだか!?こっちはそろそろまずいぞ!」
ヴリトラがどこからかやってきた魔物の先行隊を制していたが、そろそろ限界が近くなっていた。しかし彼女はあきらめずに持っている武器___ヴァジュラを利用し魔物を薙ぎ払ってゆく。
「しかし、どこから来たものかこの怪物ども!まぁ苦難は多ければ多いほど輝くと思うがのう!」
苦難とその先の輝きを好むヴリトラの表情は、どこか嬉々としていた。
◇
『初期化まで、残り2分です。至急データを入力してください。』
「くっ、こうなったら暗号は私だけでも……!」
自棄になったモリアーティがキーボードで暗算を開始しようとする。
その時。
「あった!暗号だ!あいつら馬鹿だコードをメモ帳に書いていたぜ!」
ウーロンが走りながら、収容室の机から持ってきたメモ帳を持ってくる。
そこには、確かにパスワードが書かれていた。
「助かった!」
「それを打ち込めば……行けるはず……です………!」
パラケルススがメモ帳のパスワードを確認する。
ホムンクルスの製造者たる彼がいうのだ、間違いないのだろう。
「サンキュー!後はこいつを打ち込めば!」
「残り1分を切った!急げ!」
ブルマ博士が、ウーロンから受け取ったメモ帳に描かれたパスワードを打ち込む。
そして、最後のエンターキーを打ち込んだ。
「これで行けるはず!」
永遠にも等しい時間が流れる。
緊張感からか、周囲にぴりついた空気が流れだす。
そして、コンピューターの機械音声は告げた。
『パスワード入力確認___承認されました。3分後にホムンクルスを開放します。繰り返します。3分後にホムンクルスを開放します。安全のため、内部従業者は至急脱出をしてください。』
◇
そのころ、大部屋では___。
『図ニ乗ルナヨコノクソガキガァァァァ……!』
『ガキなんかじゃない!』
機械音声間でもわかる、クレイヴの矮小なプライドとそこから来るすさまじき殺意。
『ダガ、テメェノマワリニハダイジナ仲間ガイルンダロウ!?仲間ヲ傷ツケズニコノ俺ニ当テレルカナァ?』
『当てて見せる!』
クレイヴの挑発に屈することなく、ハルは攻撃を開始する!
サヘラントロプスから、数発のホーミングミサイルが放たれた。
『小癪ナ゛ァァァ!!』
ミサイル攻撃を受け、さらにひるむ。
ピューパも機銃で反撃をするが、機銃程度で傷つくほどサヘラントロプスはやわではない。
『まだまだ!!』
再びレールガンを構え、ピューパに照準を合わせる。
ピューパは逃げ惑うが、もはや彼に何かをするほどの力はなく____。
『喰らえ!』
『グワアアアアアアア!!』
放たれたレールガンの一撃を前に、ピューパはついに横転、機能が一時的に停止した。
しかし、まだ動いている。
『マダダ、マダオワッテナイ!!』
「放置していればまた復活するぞ!?」
AI兵器との戦闘経験があるスネークが危惧する。
と、その時ヒューイが何かを思い出しスネークに伝えた。
『AIポッドだ!AIポッドの記憶板を引き抜けば!ピューパに取り付ている奴をどうにかできるかも!』
「あれか!」
通信を聞いたスネークがしきりに攻撃を開始する。
攻撃しているのは、巨大な電池の形をしたAIポッド。
『何ヲスル気ダァ……!』
マシンガンで攻撃をしていくうちにAIポッドのロックが外れ、遂に侵入が可能になった。
「みんな、あと少し耐えてくれ!」
そういってスネークはAIポッドの内部へと乗り込んだ。
乗り込んだのと同時に、ピューパも再起する。
『無駄ナ足掻キヲ……全員今度コソ殺シテヤル!』
◇
「これだな……懐かしいな。」
赤く狭いポッド内部に陳列された、40枚からなるAIの記憶板。
『グォ!ナンダ何カガ失ワレテイクゾ!?』
『ナ、ナニヲシテイル、ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ!』
「誰がやめるか!」
スネークは、クレイヴの制止を無視して記憶板を引き抜いてゆく。
すると、次第にクレイヴの様子が、ピューパの様子がおかしくなってゆく。
「なぁ、なんか様子がおかしいぞ?」
「これじゃまるで下手なダンスだなぁ面白れぇ!ってうわぁ!」
「油断するな!スネークが記憶板を抜き終わるまで、何としても耐えきるんだ!」
外にいたシャルルマーニュたちが最後の防衛をする。
スネークが頑張っている間、何としても守り切ろうとする。
記憶板が引き抜かれていくたびに、挙動がさらに変になってゆき、やがて戦闘ができないほどにまでなってしまった。
『やmhぎあふぃおしゃjふぁぶfばsjfbさ1h~~~~~~!』
『010000020010030003100302110000100021020010030100201000100……』
抜かれてゆくたびに、どんどん挙動や言語機能がおかしくなってゆく。
スネークは、この経験を1度体験したことがあるのだが、外にいる彼らはその事実を知らない。
『くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」』
「あと3枚……!」
投げ捨てられる記憶板。
そして、スネークは最後の1枚を引き抜こうとした。
「これで終わりだ!」
『ahhhhhhhhhhhhh!!!』
最期の慟哭と共に、全ての記憶板を引き抜かれたAIポッドから、スネークが脱出した。
ピューパの動きは完全に停止し、AIポッドも飛翔しようとしていた……。
「よし、記憶板は抜いたぞ!とどめは!?」
「俺がやる。」
飛び上がろうとするAIポッドを前に、ベジータが立ち上がる。
「奴にはブルマの件があるからな、この俺が奴にとどめを刺す!」
「さらばクレイヴ! ベジータ怒りの一撃」
「どりゃああああああッ!!」
獅子の斧を振り回し、ヴリトラに群がる魔物達を斬り倒したのは闘士ダブルゼータ。
「ほぉう、なかなかやるではないか! そぉらッ!!」
ヴリトラも負けじと、竜の鉤爪でモンスターで応戦する。
法術士ニュー、剣士ゼータ……地上にて神罰騎士団を制したアルガス騎士団が、
CROSS HEROESの元へと合流したのだ。
「アルガス騎士団の皆さん! ご無事で!」
「遅れて済まない!」
「こやつらはジオン族のモンスターです! なるほど、奴らはCROSS HEROESの皆さんを追って来ていたと言うわけでしたか。合点が行きました」
「是が非でも俺たちをここから出さないつもりだな……全く、しつこい連中だ!」
「キシャアアアッ!!」
モンスター・ワーカプールが鋭い爪を振り乱してくるのを、
ピッコロは身軽にかわして逆に蹴り飛ばす。
「見切ったッ!! つああああああああああああああああッ!!」
「グゲェェェッ……」
そのまま壁に向かって激突。ぐったりとして動かなくなった。
「……」
CROSS HEROESがジオン族のモンスター達と入り乱れて戦う最中、
ベジータはピューパに憑依したクレイヴと対峙していた。
『ブースター点火ァァァァァァッ!!
轢キ殺シテヤルゼェェェェェェェェェェ江絵柄ゑ得ェェェェェェヱ!!』
ロケットエンジンを噴かせ、猛スピードで突っ込んでくるピューパ。
だが、ベジータは微動だにしない。そのまま、正面衝突。
「ベジータさん!!」
「……」
悟飯の声が響くが、心配は無用だった。何故なら……
『ア亜!?』
なんと、突進してきたピューパの機体を両手で受け止め、拮抗していたからだ。
「どうした、デカブツ……この程度で、俺を殺せると思ったのか?」
その言葉を証明するように、ピューパの巨体が徐々に押し戻され始める。
『バ、馬鹿ナ……ソンナコトガアリエルワケネエダロオオオッ!!!』
「馬鹿は貴様だ……これまでの戦いで、機体のあちこちがズタボロになっている事にも
気づかずにな……!!」
バッファローマン、ブロッケンJr、ビッグボンバーズ、スネーク、ハル、ルフィ、
江ノ島、デミックス、シャルルマーニュ……
彼らの命を駆けた行動がピューパの機体性能を徐々に減退させていたのだ。
自我を失くし、ピューパの機体性能のみに頼ってひたすらに暴れまわるだけのクレイヴは
既にその事に気づく余裕さえ持ち合わせていなかった。
『ソレガドウシタァァァァァァ!! 俺ノガデカイ! 俺ノガ硬イ!
ダカラ俺ガ一番強インダヨォォォォォォォォ!!』
ピューパの頭部カメラアイが激しく点滅し、怒りを表す。
そして、機体各部にマウントされた機銃を斉射。
「図体のデカさだけで勝負が決すると思うなよ……それを教えてやる」
シャッ、高速移動でベジータの姿が掻き消えるが、クレイヴは自動索敵システムを使い、素早く反応。消えては現れ、現れては消えるベジータをロックオンし、
執拗に追いかけるが……
『見エテンダヨ、テメエノ位置ハァァァァァァァ!
ウスノロガァァァァァァァァァァァ!!』
クレイヴはレーダーの反応を頼りにベジータを追尾して、機銃掃射を浴びせかける。
しかし、当たらない。
「フフフ……俺の残像でも見えていたのか?」
『――ゑェ!?』
「はあああああああああああああああああああああああああああッ!!」
突然ベジータがクレイヴの索敵を振り切り、
ピューパの中枢部に急降下パンチをお見舞いする。
『グギャェアアアアアアアアアアアアアアッ……!?!?!?』
強烈な一撃を受け、ピューパは激しく振動。装甲が剥がれ落ち、内部構造が露わになる。
「――そう言えば、少しばかり気になっていた。
そのデカブツに取り憑いた貴様自身は、『痛み』を感じるのかどうかをな……」
『ヒッ……!?』
「でぇぇぇやああああああああららららららららららららららららァァァァァァァッ!!」
ベジータがピューパの甲板目掛けて猛烈なパンチのラッシュを叩き込む。
まるで、マシンガンのような速さと手数だ。
『グギィヤャアアアアアッ!!!!』
クレイヴの悲鳴が響き渡る。
ピューパの装甲がひしゃげ始め、ついにエンジン部分が爆発。炎に包まれる。
『モ、モウ嫌ダ…!! 降参スル! 俺ガ悪カッタ!! ダカラ許シテクレッ!!』
「この俺を怒らせた報いは、まだまだこんなものでは済まんぞ!!
そらそらそらそらァァァッ!!」
クレイヴは涙声で懇願するが、ベジータの拳は止まらない。
むしろ、更に加速してゆく。
『ジョ、冗談ジャナイ! 死ヌゥッ!! 俺ガ消エチャウウウッ!!』
クレイヴは見苦しくも機巧憑依を解除し、スクラップとなったピューパから脱出する。
「こ、今度はあいつだ……! あの機体に……!!」
「あっ……!!」
「もらったああああああああああああああああ!!」
ハルが操縦するサヘラントロプスに、ピューパの残骸から脱出したクレイヴが
取り憑こうとする。
「急急如律令ッ!!」
しかし、月美の呪符が寸でのところでクレイヴを拘束した。
「な、何ぃぃぃぃぃッ……!?!?」
「他者に取り憑く悪鬼の類であれば、これで封じられるはず……!」
「こ、このアマァァァァッ……!!」
「良くやった、そのまま取り押さえていろ」
「はっ……!?」
クレイヴが充血した眼で睨みつける中、背後で影が動く。
ベジータが2本指を揃えた構えを向けると、そこから紫色の気が放たれて
クレイヴを包み込んだ。
「ぐ、ぐぎえぇぇぇぇああああああああッ……!?!!?!」
「見るな……!」
ピッコロがいろはと黒江の前に立ち、庇うように腕で視界を覆う。
「い、嫌だ……死にたく……ぉぶへァッ」
次の瞬間、クレイヴの身体が膨れ上がり、弾け飛んだ。
そして、ベジータは皮肉交じりに呟く。
「フン、きたねぇ花火だ……」
「次なる目的と嵐の前兆」
「むむ、随分とお疲れじゃのう。」
「ああ、久しぶりに頭を使った!」
疲れ切った表情のモリアーティが、ヴリトラの肩を借りて大部屋に来た。
ヴリトラ達の背後には、アルガス騎士団のメンバーもいる。
「さて、と。帰ろう。」
「ああ、こんなところなんざしばらくは御免だからな。」
そういって、ベジータ達を先頭にトラオムの出口へとCROSS HEROESは向かっていった。
◇
CROSS HEROESがトラオムを出たのと同時に、黒い壁が消失してゆく。
ヴリトラが解除したことで、黒い壁がまるで何事もなかったかのように消えてゆく。
そして、最後に残ったのは____何もないまっさらな大地。
ここには希望ヶ峰の跡すらない。
ここには爆破砕の傷痕すらない。
ここには絶望の影も形すらない。
かつての兵達は夢のあと。
何もない広大な、されど広がる大地が、そこにはあった。
きっとこの地にまた学園や、都市の具現ともいえる建物がいつの日か建つのだろう。
或いはここには何も建たずに、希望と未来があふれる草原が芽生えるのだろう。
未来はまだわからないけれど。
少しでもいい未来のために。誰かが動く。
___未来はきっと、現実を生きる皆の手に。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
死滅復元界域 トラオム 完全論破 ~But, Despair is alive.~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
◇
リ・ユニオン・スクエア 希望ヶ峰学園跡地前
「という訳で、我ら希望k……違うな。元・希望界域組もCROSS HEROESに加入死体のだが、どうか。きっとそこの4人も同じであろう。」
十神が、シャルルマーニュ、リク、江ノ島盾子、デミックスを指さす。
「私様は別にいいぜ。連中私様のこと「女神」って言ってたの、ちょっと気になったしな。」
「同じく。俺も教団を倒せば元の世界に帰れると思いますし。」
「俺は面白そうだしー。」
江ノ島ら3人もCROSS HEROESに参加するつもりだ。
「よし、決めた!俺もあんたらCROSS HEROESに協力するぜ!」
「え?いいですけど……シャルルさんは何で笑っているんですか?」
シャルルマーニュが屈託のない笑顔で高らかに言った。
「何でって、皆とまた世界を救えるなんて、これ以上にカッコいいことがあるかよ!」
◇
「んで、……モリアーティ、そういうあんたはどうするんだ?」
シャルルマーニュがモリアーティに質問をする。
「協力したいのはやまやまだが、私にはまだやるべきことがあるのでな。ヴリトラも休ませねばならないし。」
「うむ、くたくたじゃ……わえは寝る。」
「おい。」
ヴリトラは、トラオムの封鎖の疲れがどっと来たのかモリアーティの肩を借りて眠ってしまった。
「そうか……それはちょっと残念だな。そういえばあの絶対兵士はどうした?」
「あいつならどっか行ったよ。きっとまた戦うことになるだろうなぁ。」
渋い表情の燕青が、絶対兵士辺古山ペコ・オルタが何処かへと消えてしまったことを伝えた。
近い将来、また戦うことになるのだろう。
「さてと、君たち注目!これから、君たちCROSS HEROESにはこれから、あるものを集めてもらうヨ!」
「「いきなり仕切り始めたぞ!?」」
全員の総ツッコミを異に返さず、モリアーティは続ける。
「ところでリク君。君は絶望界域にて『指輪のようなもの』を入手してなかったか?」
「指輪……?ああ、これですか?」
リクはズボンのポケットより、シグバール戦で手に入れた金色の指輪をモリアーティに見せる。
「そう、それだ。君たちにはこの『ソロモンの指輪』を集めてもらう。さもなくばメサイア教団には勝てない。」
現在メサイア教団の最終目的である『ソロモンの指輪の蒐集』。それを妨害する為、果ては教団を打倒するためにその指輪を集めろと、モリアーティは言った。
「一連の事件で暗躍する組織『メサイア教団』。奴らを倒すには何としても、この指輪が必要なのだ。」
「ぶっ壊せば?リク!指輪を踏んづけてやれ!その指輪をぶっ壊せば、奴ら泣いて悔しがるぜ!?」
「江ノ島君、それは無理だ。指輪を破壊してしまえば私にも何が起こるかわからないし、何しろ教団の最終計画を止めるのはその指輪が必要なのだ。抑止力がそういっている。」
「すげぇな、抑止力。」
江ノ島は言いくるめられた。
「それで君たちにはこれから、指輪がある『東京港区』に向かってもらう。無論私も協力はするがネ。(今は無理だけど)」
次なる大きな目的地は2つ。
1つ、承太郎たちがいる特異点。
1つ、教団打倒の鍵となる「ソロモンの指輪」がある港区。
今度は2チームに分かれて行動する必要があるようだ。
しかし、この時はまだ気づかなかった。
特異点で顕現した絶対悪___常磐SOUGOらクォーツァーが今、大いなる戦いを挑もうとしていることを。
◇
「ちょっと待ちたまえ。____君が、孫悟飯かね?」
黒いコートを着た男が、悟空の下へと向かう悟飯を呼び止めた。
「はい、そうですけど……あなたは?」
短い金髪に口ひげが特徴の、黒コートの男。
ルクソードだ。
「私はルクソード。君の父である孫悟空を救出した者だ。そちらの事情はある程度察している、それを踏まえた上でどうしても君に渡したいものがあり訪ねたのだが……。」
為朝の宝具「轟沈・弓張月」を受け、重症のケガを負った悟空。
シャルルマーニュと彼が救出したはいいが、依然その怪我は癒えない。
「これを彼のところに持って行って飲ませてやってほしい。」
「何ですかコレ?」
ルクソードが取り出したのは、金色に輝く小瓶。
「エリクサー。我々の世界で言うところの万病薬。これを飲ませれば怪我が完全に回復するという貴重な薬だ。効能は保証する。孫悟空は今重症だが、これを飲ませればすぐにでも復活するだろう。」
「そんな仙豆みたいなのを……どうして僕に?」
「なに、君たちの賭けの取り分だよ。さぁ、早く悟空氏に飲ませにいきなさい。」
「時に埋もれた記憶の彼方」
――西の都・病院。
「そっかぁ……上手くいったんだな……」
悟飯はトラオムでの一部始終を入院中の悟空に報告した。
「はい。ところで、これをルクソードと言う方から預かりました」
「え?」
ルクソードから渡された秘薬、エリクサー。
「何でも、これを飲むと仙豆のように体力が回復するそうです。本当なんでしょうか……」
「頼みの仙豆も今はもうねぇしなぁ……まあ飲んでみっか。
この病院の設備じゃどっちみち治んねぇ怪我みてぇだし……」
悟空はその秘薬を飲み干した。すると、為朝の宝具の魔力に蝕まれた傷口が
みるみると癒えていくではないか!
「お、おお!? すんげぇぞ! こりゃあ! うっひゃあーッ!!」
ベッドから飛び起き、トランポリンで遊ぶ子供のようなはしゃぎっぷりを見せる悟空。
「父さん!」
「おめぇも飲んどけよ!」
「はい!」
悟空の勧めに従い、悟飯もエリクサーを口にする。
トラオムから帰還したばかりで減少していた悟飯の体力もみるみる充実していく。
「あっ、確かに凄い効き目ですね……!」
「ふう、悪かったなぁ、悟飯。今まで世話かけちまってよ」
「良かったです、父さんが元気になってくれて……」
「CROSS HEROESも色々てぇへんな事になってたみたいだな……
早速瞬間移動でみんなの様子を見に行くか。オラに掴まれ」
「はい!」
こうして二人はトゥアハー・デ・ダナンへと瞬間移動する。
「あ! 悟空さん!」
いろは達が出迎える。
「へへ、やっほー!」
トラオムから帰還した面々、そしてアマルガムの襲撃を受けたCROSS HEROES本隊が
集まっていた。
「孫くん! もう大丈夫なの?」
「おう、ブルマ! ベジータ達に助け出されたんだな」
「まあね、ウチの旦那は頼りになるからさ。でもホントにアンタが居ない間に
大変な事になっちゃって……」
「ピッコロもベジータも済まなかったな。長い事留守にしちまってよ」
「礼など良い。寧ろこれからが本番だからな」
「今更ノコノコと出てきやがって……いい気なもんだぜ。貴様はいつもそうだ」
トラオムは消滅した。しかし、目下の問題はまだまだ山積みだ。
港区のメサイア教団、特異点のクォーツァー、21号率いる新生レッドリボン軍……
そして……
『き、緊急ニュースをお伝えします! こちらはロンドンの市街地の様子です!』
「え……!?」
ロンドンの街上空から強力なエネルギー波が降り注ぎ、街並みを破壊していた。
その光景を見ていろは達は絶句した。
「あ、あれは……!?」
悟飯が驚愕の声を上げる。
そのエネルギー波を放った人物には見覚えがあったからだ。
「ボージャック……!!」
アマルガムのレナード・テスタロッサが召喚したアナザーワールドよりの住人……
銀河戦士ボージャックがロンドンの街を襲っていたのだ。
「チッ……また例によって何処かの並行世界からやって来たクチか……!」
ピッコロが舌打ちをする。
かつて、潜在能力を開放した悟飯によって倒されたはずのボージャックだが、
先のやターレスと出自を同じくしているのだろうと瞬時に悟った。
「父さん、奴は僕が倒します! 父さん達はCROSS HEROESの皆さんと
態勢を立て直してください!」
「分かった。悟飯、気ィつけろよ」
「はい……それじゃあ!」
助走をしてから空高く舞い上がる悟飯。
(ボージャック……戦いの勘が鈍った今の僕に倒せるだろうか……
いや、父さん達の負担を少しでも減らすためにもやるしかない……!)
「トゥアハー・デ・ダナンもアマルガムの襲撃によりかなりの損傷を受けました。
航行可能になるまではまだ時間がかかると……」
「そっかぁ、参ったな……」
「孫、悟空……?」
「ん?」
テッサと話している悟空の前に、ダナンの修理を手伝っていたアレクとローラ姫が
姿を見せた。
「おめえは……アレク、か?」
朧気な記憶が呼び起こされる。
「ああ……思い、出した……もう二度と会う事は無いのだろうと思っていたが……
これも神の導きか……」
アレクとローラ姫はこれまでに二度の時空転移を経験している。
その一度目……悟空とアレクが出会い、共闘した果てに封印された記憶が。
「集いし5人のガンダム」
トラオムから脱出したアルガス騎士団は、トゥアハー・デ・ダナンの中でバーサル騎士ガンダムと騎士アレックスと久しぶりの再開を果たした。
「お久しぶりです。バーサル騎士ガンダム殿、騎士アレックス殿」
「アルガス騎士団の皆!無事だったか!」
「はい、あのワームホールに吸い込まれた後、我々はあのトラオムという空間の中に飛ばされて……彷徨っていたところCROSS HEROESの皆さんに出会いまして」
「そうか…」
「しかし、まさかトラオムの中でもジオン族を見かけることになるとは」
「ジオン族が?」
「はい、どういうわけかわかりませんが、CROSS HEROESの皆さんを狙ってたようです」
「しかも、我々の知らない魔物も多くいたんだ」
「アルガス騎士団が知らない魔物……アレク殿達の世界のモンスターのことか……」
「やはり2つの世界の魔物は手を組んでるようで間違いないようですね」
「ジオン族が別の世界の魔物と同盟を組んだということか……」
「厄介なことになりましたね」
「あぁ。そして、先程アレク殿と話してわかったのだが、アレク殿の世界の魔物を従えてるのは宗介殿達が特異点という場所で出会った竜王という魔王だそうだ」
「竜王……それがジオン族でいうジークジオンに当たる存在か……」
「あぁ、そしてその竜王は特異点を生み出した原因である聖杯なる代物を所持しているようだ……」
「となると、今後我々もその特異点に行く必要がありますね」
「あぁ、特異点に竜王が特異点にいる以上、やつと手を組んでるであろうジークジオンもそこにいる可能性が高いだろうからな……」
「……そういえば、その宗介殿というお方は?先程からそれらしき人物は見かけませんが……」
「……宗介殿は自室にいる……恐らくはカリーニン殿の裏切りが相当ショックだったのだろう……」
「まっ、そうだろうな」
するとそこにクルツとマオがやってくる。
「クルツ殿にマオ殿」
「あの人は幼い頃に事故で家族を失った宗介にとって、数少ない育ての親だからね……」
「俺たちもあの人が裏切ったことにショックを受けてるし今だに信じられないと思ってはいるが……アイツはそんな俺たち以上に辛いだろな……」
「そうですか……」
「まっ。アイツのことだから、気持ちの整理が落ち着いたらすぐにでも出てくるさ。
だからそれまで放っといてやってくれ」
「……わかりました」
トラオムでの激闘とアマルガムの襲撃……それらの出来事の裏で起こったカリーニンの裏切りは多くのメンバー……特に、相良宗介に大きなショック与えてしまったのだ。
「我らシャルル遊撃隊!」
そのころ、希望ヶ峰学園跡地近くのファミレスにて。
「じゃあ、俺達は……港区に行ってみるか。」
「例のソロバンの指輪の回収に向かうってわけね。」
「ソロバンじゃなくて、ソロモンな。」
年も行かないであろう若人4人、シャルルマーニュ、リク、江ノ島、デミックスが食事をとりながら今後のことについて話をしていた。
何処か奇怪な風貌に周囲の目線が痛いのか、或いは誰にも知られないようにか個室で食べている。
「あたしらは港区に向かっている間、他の連中が言ってた『特異点』はどうするんだ?」
「それは他の連中がやってくれるだろ。俺達は俺達のやることをしようぜ。」
「そういえば、森くんは特異点に行くって?」
「もしかしたら教団連中が特異点に来るかもしれないからな。役割分担は妥当だろう。」
トラオムでカナディアンマン・オルタから自分たちを守ってくれた狂戦士「森長可」。
かくいう彼は特異点に向かうとのことだ。
そういいつつも食事を済ませようとしたとき、来訪者がやってきた。
「港区ねぇ。いつ出発するんだ?俺も同行するぜ。」
「よっ、さっきぶりだな。燕青。しかしお前も港区に行くのか?なんか用事か?」
トラオムで助けられた燕青。
彼もまた、港区に用事があるという。
「俺の主が心配でね、気丈な奴だけど身体の方が弱いからなぁ。」
燕青のマスター、フィオレ。
魔術回路の影響により肉体を故障している彼女のことが心配だという。
「心配だし、俺も行くぜ。」
「よし、そうと決まれば行く準備をしないとな。」
シャルルマーニュは立ち上がり、全員を奮い立たせた。
「我らシャルル遊撃隊、港区に出陣だ!」
かくして彼らは、港区へと進むのであった。
◇
その港区では……。
「んで、あたしらに何をさせる気だ?せっかく均衡の守護者を呼んだんだ、滅多なことさせないとぶっ飛ばしちゃうよ?」
「そこ、うるさいー。」
彩香が罪木の頬をつねる。
「そうだな、こっちは安全に行動するには人数があまりにも少ない。現在俺らが住んでいる東京虎ノ門エリア、ここは周囲を教団とその信徒、暴徒たちが支配する領域に囲われている。流星旅団のねぐらと結界の貼られた東京タワーをぐるっと囲っている感じでな。」
結界を破壊するためとはいえ、周囲を囲われている以上流星旅団が置かれている状態が危機であることには変わりがない。
「よく今まで落とされなかったな。努力の賜物かい?」
「いや、俺達の同志が今、虎ノ門ヒルズに立てこもっている。そこが落とされない限りここも安泰という訳だ。だがあそこは旅団最後の砦。落とされたら。」
「おしまいってわけだな!面白れぇ!」
「面白くはない。真剣に悩んでいるからな。で今後だが、まずは同志を集めつつ比較的守りの少ない新橋エリアを確保する。ここの暴徒共は烏合の衆だからな。教団が目をつける前にここを叩く。」
均衡の守護者と天宮兄妹。
真剣に今後を考察しているせいか、その表情は重い。
「あたしは賛成。デュマは?」
「俺は東京は分かんねぇしな、お前らに任せる。」
「決まりだな、だが一番の問題は、教団の刺客たちだ。俺らでも全体像を把握できていない。」
「もしもし、サイクス?」
『罪木か、俺だ。こっちは今からザルディンと仲間に引き入れた森って奴と共にもう一度特異点へ向かうつもりだ。』
「特異点に向かうのか。怪我するんじゃないよ?」
『それはお互い様だろう。気をつけろ。』
「へいへい。じゃ。」
気風のいい口調で通話を終える罪木オルタ。
絶望に身を焦がし、そこから来る復讐心に己を燃やそうとも優しさを保っているところが、彼女の最大の善性であるのだ。
しかし状況は変わらない。
重い空気を打破するかのように、デュマが提案する。
「……まぁきつーく考えてても進まねぇし、飯でも食いに行こうや。港区にうまいレストランはあるか?」
「……そうだね、行こっか。」
そういわれた4人は、食事へと赴いた。
その様子を見ている者がひとり。
「情報が欲しくて来ては見たけど、あれが流星旅団……たった4人じゃないか。」
潜入捜査をしに来た男、松田がそこにいた。
「作戦は一刻を争う」
いろはがスマホをポケットから取り出すと、履歴が無数に羅列していた。
「わ、やちよさん達からたくさん電話来てる……」
トラオムでは電波が届かなかったため、その間ずっと着信があったらしい。
激しい戦いが絶え間なく続いていたためでもあろうが、それでもかなりの量だった。
そうこうしている内に新しい連絡が入る。神浜にいるももこからだ。
「あ、ももこさんからだ」
『いろはちゃん! 無事か!?』
「はい、なんとか……すみません、電波の届かない場所にいたもので……」
『大丈夫そうだな、それは良かったよ。今、港区って所で騒ぎが起きているんだ。
いろはちゃんとも連絡がつかないし、やちよさん達もじっとしちゃいられないってんで、
みかづき荘のメンバーを連れてそこに向かったんだけど……』
自分がトラオムで戦っている間にそんなことが起こっていたなんて……と驚く。
同時にいろはの胸には不安感が広がっていた。
また何か大変なことが起こっているのではないか?
『今度はやちよさん達との連絡がプツリと切れちゃってさ……』
やちよ達に何かあったのか……或いはトラオム内にいたいろは達のように、
何かしらの妨害を受けているのか……どちらにせよ急いだ方が良いだろう。
「私もすぐに向かいます!」
『頼む!』
通話を終えると、いろはも試しにやちよのスマホに電話をかけてみるが、
やはり繋がらなかった。どうにも胸騒ぎが収まらない。
(何だろう……この嫌な感じ)
自分の胸元に手を当てながら考える。
「何かあったのか?」
ピッコロが尋ねると、いろはは少し考えた後で答えた。
「分かりません……けど、きっと良くない事です。トラオムのように」
そして、いろはは決意したように顔を上げると、強い眼差しで言う。
「私、港区へ行きます。私の仲間たちがそこにいるんです」
「ふむ……」
ロンドンに向かった悟飯に続き、港区……次々と同時多発的に事件が起きている。
これは偶然だろうか……それとも……
「特異点とやらの様子も気になるところだな」
「そうだなぁ……承太郎やゼンカイジャー、ソウゴやテリーマン達は
まだ向こうに行ったまんまだしな。
ブルマ、どうにか特異点に行く方法ってねぇもんかな?」
「う~ん……あたしが研究途中だったワームホールの生成技術が完成してれば
良かったんだけどね。それにもまだまだ時間がかかりそうなのよねぇ……」
「う~ん、参ったな……オラの瞬間移動も相手の気ぃ探れねえと使えねえし……
騎士ガンダム達の魔法も特異点には行けねえんか?」
「私や法術士ニュー殿のターンの魔法は一度行った事のある場所へ飛ぶものなのですが、
生憎とその特異点とやらには行ったことがありません」
「俺のルーラも原理は大体同じだ」
悟空の問いにバーサル騎士ガンダムとアレクが答えた。
「私は騎士ガンダム殿やアルガス騎士団たちとは別に唯一ムーア界から特異点へと
飛ばされましたが、あの場所は世界そのものが違うようです。
トラオム内ではニューのターンの魔法が使えたとの事ですので、別世界同士となると
勝手が違うのかも知れませんね」
騎士アレックスは現状のメンバーで唯一特異点とリ・ユニオン・スクエアを
行き来した経験を持つ者だ。
しかしそれも今や行方知れずの海東大樹の力を借りる事で成し得たことだった。
時は一刻を争う。それとは裏腹に各地で事件が立て続けに起こっている。
その裏には何か大きな力が働いている気がしてならない。
「それぞれ分散して事に当たらねばなるまいが……
各地に向かうメンバーは慎重に選ぶ必要があるな」
チームの参謀役を務めるピッコロが言うと、他の面々も考え込む。
「一度皆さんを集めましょう」
テッサはCROSS HEROESのメンバーに招集をかける事にした。その頃……
――新生レッドリボン軍・秘密基地。
「たっだいま~。私が留守にしてた間にクローン戦士の量産は進んでるみたいね。
う~ん、結構結構!」
トラオムから帰還した人造人間21号が研究施設を練り歩く。
無数のカプセルの中には、西の都を襲撃したナッパ同様に
レッドリボン軍が戦闘データを集めた凶戦士たちのクローン体が培養されていたのだ。
「そんじゃ、ま。早速テスト運用と行きましょっか! カプセルの中に押し込まれて
退屈だったでしょ、あなた達も。思う存分暴れてきなさいな?」
「フフフ……」
トラオムより帰還したスネーク達を取り囲む、軍用車両とテントの列。
その全てにダイヤモンドの犬のシンボルが刺繍され、己が領土を主張している。
即ち、ここはDDの陣地だった。
「ミッション完了だな、ボス!」
けたたましいヘリの駆動音を掻き消す声量が、スネーク達の耳に届く。
すっかり日が暮れた街を月夜が照らす中、現れた声の主はカズヒラ・ミラーだった。
スネーク達の生還を確信したその顔付きは、晴れやかな物だった。
「待たせたか?」
「いいや、寧ろたった半日で戻るとは思わなかった位だ…ともかく、当初の目的は果たせた様だな。」
想像以上の成果に驚嘆の声を上げるカズ。
その視線の先、スネークの後ろには、救出対象だったオセロット達が立ち並んでいる。
各々が無事に戻ってきた事に喜色満面の笑みを浮かべ、言葉に表しきれない賛美を送る。
「正直アレ(サヘラントロプス)は半ば諦めていたが、まさか取り返すとはな流石だ。」
「とりあえずコイツ(サヘラントロプス)を移送するぞ、人目に付くと不味い。」
「あぁ、一先ず隠してから移送プランを練るとしよう。」
30m強を誇るサヘラントロプスは、人工の灯り一つ無い原っぱでも尚一層強い異彩を放っている。
今が真夜中なのが幸いした、もし日中であれば大衆の目に触れてパニックになっていただろう。
カズも同様に予測していたのだろう。
スネークの進言通り手早く移送用のヘリで垂れ幕を広げる様は、準備が成されていた事を暗に示していた。
「ところでカズ、この騒ぎは何だ?ただの警備にしては過剰だぞ。」
一方でスネークは、DDの陣地にいる兵士達が異様な騒々しさを放っているのに気付いた。
声を上げては走り回り、帰還した彼等を称える間も無い様相だ。
それに対しては、カズが声色を一変させて答えた。
「あぁ、何でも港区で大暴動が発生しているそうだ。」
「暴動?ここは何時からアフガンになったんだ?」
「俺にも良く分からんが、どうもメサイア教団が関わっている様だ。」
「何だと?」
一難去ってまた一難。
予想外の事態に混じってを聞かされた"メサイア教団"の単語に、思わず驚きの声を上げた。
メサイア教団、それはあのトラオムの地でも幾度と無く聞かされた存在だ。
彼等との因縁は、そう簡単に断ち切れるものでは無いらしい。
「奴等に感化された連中も暴れてる、だから念の為に部隊を配備してるんだ。」
同調圧力に弱く感化されやすいというのは、日本人だけの問題では無いだろうが。
それにしても、その騒動に自分達が巻き添えを受けるのは避けたい所だ。
そんな考えに彼も同じ思いだったのか、カズは苦笑いを返してきた。
そして続けて口にしたのは、奇妙な報せだった。
「それから、港区の湾岸から『空を飛ぶ白い船』が現れたという報告が上がっている。」
「空を飛ぶ船…アビィだな。」
「あぁ、自慢げに話してた『アレ』を遂に完成させたんだろう。」
彼等は思い出す、嘗ての胡散臭い少年が語っていた『改修中の空中戦艦』の存在を。
異界から来たという青帽子の薄ら笑いが、彼等の脳裏を過ぎった。
無論、秒で脳外へ追いやった。
「しかし、何処に行ったんだ?」
「それが、TPU本部に怪獣が出現したらしくてな。そっちに向かったとの報告も上がっている。」
今度は別の意味で驚きを露わにするスネーク達。
トラオムでの戦いの裏で、余りにも多くの出来事が起こっていた。
混迷を極める事態の中で、彼はどう動くつもりなのか。
その辺りについては、直接本人に聞くしかないだろう。
「何を考えてるか分からんが…それよりも、特異点や暴動をどうするかでCHから召集が掛かった。」
「そうか、ならすぐに立とう。」
取り敢えず、今はその事よりも重要な目の前の案件に取り掛かる事にした。
CHからの召集に応じてから議論を交えれば良い、そう決めた彼等の足取りに迷いは無かった。
離陸の時を今か今かと待ち望んでいたヘリに、次々と乗り込むスネーク達。
ウーロンも乗り込んだ所で、ヘリの脚は地を離れる。
『上昇開始、離脱します!』
ローターを速めて得た揚力に乗って、ヘリは瞬く間に空高く飛び上がる。
高まる高度に比例して下がる外気圧の影響を遮断せんと、スネークはドアを閉じる。
騒々しかったローターの音もまた一気に遮断され、ヘリの中には静音が満ちる。
その中で彼等に浮かぶ表情は、一様に張り詰めた物だ。
「…どうした、ウーロン?何時もより無口じゃないか?」
「いや、何でもねぇよ。」
だが、最も深刻な面持ちだったのはウーロンであった。
何か言いたそうな様子で、スネークを見つめている。
だがオセロットの問いかけに対して首を横に振るばかりで、言葉を紡ごうとはしなかった。
おいそれと言える筈も無かった。
◇
「アビィ・ダイブ、それがお前の名前か。」
『長ったらしい名前じゃないんだ、確認するまでも無いだろう?』
蒼い剛腕を振るうロボットの主、アビィ。
嘲笑を浮かべては余裕そうに返す彼に、一同は驚く他無かった。
どう見ても10代前半の姿形をした彼が、恐らく自作であろう兵器で怪獣と渡り合っている。
その事実が、彼等を脱帽させていた。
だが、彼の口は止まる所を知らないと言わんばかりに言葉を続ける。
『時間が惜しい、彼の居場所と交換。するかしないか、どうするんだい?』
アビィの提案に対し、一行は頭を悩ませる。
突如として降って湧いた謎の存在、そのインパクトに、正常な思考をかき乱され、決めあぐねている。
そんな中で口を開いたのは、やはりと言うべきかアキトだった。
「一つだけ、質問をさせろ。」
『…時間が無いからね、一つだけだよ。』
バードンからの猛攻を凌ぎ、淡々と返すアビィ。
だが、アキトの問い掛けを受けて、初めてその表情を一変させた。
「雨宮蓮とはどんな関係だ?」
『_。』
その問いに、思わず目を細める。
無言のまま硬直しては視線を落とし、やがて俯く。
呼吸を忘れた様に静止、数秒の沈黙が流れた後で顔を上げると、彼は微笑みながら口を開く。
『…仲間さ、少なくとも僕はそう思ってる。』
それは偽りの無い、純粋な笑顔だった。
それを見てアキトは確信した、彼の言葉に嘘は無いと。
故に、CHの情報ファイルを漁ってある場所を表示させる。
それは特異点、世界より隔絶された異空間。
その情報を受け取ったアビィは一考して、一言。
『全く、彼らしいね。』
そう呟くアビィの顔には、若干の呆れと安堵が混じっていた。
「さぁ、キーを返すんだ。」
『せっかちだね、ちゃんと約束は守るさ。ほら。』
「うわっと!?」
そう言うとアビダイオーを動かし、トリガーへと何かを投げつけるアビィ。
中にいたケンゴが手にした物は、紛れもなくスカイタイプキーだった。
『さて、交渉成立した事だし僕は帰るよ。』
「え、一緒に戦ってくれないんでありますか!?」
『急用が出来てね。なぁに、君達なら楽勝だろう?』
言うが早いか、アビダインへと姿を変える戦艦。
引き留める言葉も届かず、スラスターに火を灯して戦場を離れていく。
嵐の様に現れては、過ぎ去っていった存在、アビィ・ダイブ。
その存在感だけは、今もなお深い物があった。
「集結する戦士たち」
「お待ちしておりました。」
ファミレスを出たシャルル遊撃隊と燕青を、高級そうなリムジンと黒服の男が待機していた。日常とは不釣り合いな光景がさらに広がる。
「『シャルル遊撃隊』の皆さま、こちらです。十神様の命であなた方をトゥアハー・デ・ダナンに連れて行けとのことで。そこで十神様もお待ちです。」
「俺もかい?」
「あなたもです。」
かくして、燕青と遊撃隊のメンバー全員がリムジンに乗り込み、一同は港区……ではなくトゥアハー・デ・ダナンが停留しているエリアに向かう。
その道中での出来事である。
「俺達だけでも、今わかっているメサイア教団の目的の整理をしておこう。皆と話す際に説明がしやすいしな。」
「そうだな。」
トラオムで仲間になったリクを中心に、今一度教団の目的を整理し始める。
「教団は今、人類の進化のために『ソロモンの指輪』を探している。」
「モリアーティも言う通り、指輪が全部奴らの手に渡ったらゲームオーバーだ。俺はこの指輪が何個あるかはわからないが。そして破壊したら教団を倒せなくなる。」
「それを阻止するためにまずは、指輪の反応があるという港区にあたしらは向かうって訳か。」
教団の最終目的は「ソロモンの指輪を利用した人類の進化」とその力による世界の支配。
それを止めるためにまずは港区の暴動を鎮圧しつつ、教団よりも先に指輪を回収する必要があるのだ。
「……。」
(『女神』のことは、まだ言わなくてもいいか。心配をかけさせるのは違うし。)
江ノ島はあることを思い出しながら考える。
トラオムに唯一いた、自分のことを「女神」と呼んだ無名の英霊のことを考えている。
自分の後ろ暗い過去。
全能であることを運命づけられ、やがて絶望という運命の奴隷となったいびつな生き物。世界を破壊することしかできない自分たちに手を差し伸べてくれたデミックスやシャルルマーニュ、リクにいつ、このことを言うべきなのだろうか、と考えている。
「江ノ島ちゃん……。」
どこか考え込んだ顔をしている江ノ島を、デミックスは心配そうに見ていた。
「そろそろ到着します。」
しかし経つ時は早く、リムジンはトゥアハー・デ・ダナンの待つ港に到着した。
「遅いぞお前らァ!」
「全くだ、どこで道草を食っていた。」
「すみません、渋滞に捕まりまして。」
港には、森長可と車椅子に乗った十神白夜が待機していた。
「相変わらず傲岸な奴。」
江ノ島の嫌味にふん、と十神が不機嫌そうなしかめっ面をしつつも5人を案内する。
「行くぞ、既に話はつけてある。」
「シン・仮面ライダー対仮面ライダーBLACK SUN①真の安らぎはこの世になく」
夜の闇の中、焚き火に照らされた少女――緑川ルリ子の顔は
とても穏やかで美しく見えた。
「なんだか……夢みたい」
そう言って彼女は再び微笑む。
初めて会った時とは比べ物にならないほど表情豊かになった。
「夢って……?」
「こんな風に、誰かと一緒に旅をするなんて……私、ずっと一人で生きてきたから……」
彼女の言葉を聞きながら、青年――本郷猛は自分がこれまで生きてきた日々を
思い返していた。この世界に来るまではずっと一人だった。
肉親を亡くして天涯孤独の身となり、そして……
「つるむのは好きじゃないが、たまにはこう言うのも悪くないな」
突然後ろから声をかけられて振り向くと、そこには第2の男――
一文字隼人の姿があった。
「よう、お疲れさん。お前らも見張り交代の時間だぜ」
彼はそう言いながら本郷達の近くに腰掛けた。
「交代の時間にはまだ早いんじゃないか?」
本郷の質問に対して、一文字は肩をすくめながら答える。
「まぁいいじゃねぇか。それより、ちょっと話があるんだ」
「話? 何だ?」
「いやさ、俺なりに考えたんだけどな……」
一文字の話によると、どうやらここは自分たちの知る世界ではないらしい。
つまり、自分たちは今未知の世界に居る事になるわけだが……
「じゃあ、もしかするとSHOCKERの居ない世界……なのかしら?」
一文字の話を聞いていたルリ子が口を開く。
彼らが戦うべき相手、SHOCKERを追って各地を旅していた3人であったが、
そのSHOCKERが存在しない世界と言う事であれば確かに
それは喜ぶべきことかもしれない。
「だったら、僕は……」
戦わずに済むのなら、誰も傷つけずに済むのなら、その方が良いのではないかと思った。
しかし、残酷なる運命はそんな3人に安らぎを与えてはくれなかった。
『ギィイイッ!!』
闇の中から奇怪な叫び声を上げつつ、怪しい人影がこちらに向かって突進してきた。
その姿を見た瞬間、本郷の脳裏にある光景がフラッシュバックする。
あれは、かつてあの世界で見た悪夢の記憶。
「クモオーグ……じゃない!?」
オーグとは、昆虫の特性を人間に移植したSHOCKERの改造人間の総称だ。
人間の服装をしているが、その容姿はまさにヒトの形をした蜘蛛そのものと言った
外見をしている。
だが、今目の前にいる蜘蛛の怪人は本郷が知る個体とは異なっていた。
「SHOCKERのオーグとは基本構造そのものが違う……あんなのは知らない……」
「ルリ子さん、下がっているんだ」
戸惑う彼女を庇いながら本郷は怪人の前に立ちふさがった。
「やれやれ、何処に行っても俺たちには戦いが付き纏うんだろうな!」
ため息交じりの一文字の言葉と同時に、変身ポーズを取る。
「また、戦いか……」
呟きながら本郷もまた黒いコートの下に隠していたベルトの風車を回し始めた。
「なら……お見せしよう、仮面ライダー!」
2人の全身に風が巻き起こり、それが収まった時、彼らの姿は大きく変貌を遂げていた。
SHOCKERの昆虫合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高傑作。
バッタの遺伝子を組み込まれた事で強靭な脚力と跳躍力を手に入れた戦士。
SHOCKERの走狗の象徴であるオーグの名は捨てた。
仮面に素顔を隠し、スーパーマシンを駆ってSHOCKERに反旗を翻す者の称号。
「変身!!」
そう、男たちの名は、仮面ライダー。
「行くぞ、本郷!」
「ああ、一文字!」
「キェェェェェェェッ!!」
「奴らは……護流五無か……?」
蜘蛛怪人との戦いに挑むダブルライダーたちの姿を、物陰から見つめる男がひとり。
これは、本来ならば有り得ざる出遭いの物語……
リ・ユニオン・スクエアを中心とした大規模な時空の乱れが引き起こした産物か、
それとも……
「美の化身と戦の化身」
港区 流星旅団のねぐら
「うまかったな、存外に。」
「うん。」
食事から帰還してきた流星旅団の天宮兄妹、罪木オルタ、デュマがねぐらへと戻ってきた。
「んで、話の続きだが俺たちが戦うにつれて気を付けておくべき敵が2人いる。」
「2人?たった?」
「そう。その2人が厄介だから今まで手をこまねいていたのだ。んでそいつの名が『キング・Q』と『ビショップ』だ。」
「なんだ?そのチェスのピースみてぇな名前の奴は。」
この様子を、ねぐらの玄関のドアに耳をそばだてて聞いている男___松田桃太は聞き逃さなかった。
現在このねぐらは年季が経ち壁が劣化しているのか、ある程度の会話が聞けてしまえる。
(なんだ?……為朝以外に教団メンバーがいるのか?)
「六本木を支配しているのが『美の化身 キング・Q』。俺も貌までは見たことないんだが……とにかく誇張抜きで美しい敵とのことだ。」
「弱そうな相手だな。でも、そういう相手程油断ならないというか……。」
美の化身という闘いとは無縁のネーミングに、別の意味で狼狽する。
こういう一見戦闘には関係のなさそうな肩書の奴が、案外強いこともあるのだから。
「どうやら一目見ただけで誰でも魅了し洗脳できる、とかなんとか。あーあ、ボクこういうの嫌いだなー。」
(洗脳……?)
洗脳、というワードを聞き、頭の中で整理をする。
もしや暴徒たちはこのキング・Qというのが支配、否、洗脳しているのか?
「?……もう一人は雀蜂と暴徒を従えているとされる『戦の化身 ビショップ』。こいつの能力は不明だ。何でも、危険な実験をするあまり追放された元科学者ってくらいしかわからん。」
「ボクが戦うならこっちの方がいいなー。」
「……茶化している場合か?」
(戦の化身……暴徒たちを従えているのはこっちか。)
耳をそばだてながら、メモ帳に情報を書き記してゆく。
その時、ドアが開く音が松田の耳元で大きく鳴った。
「おっさん、何してんの?」
「な……!」
驚愕する松田をねぐらの主、天宮月夜がゆっくりと見下ろしていた。
「気配を感じるから来てみたら……うちになんか用か?」
「その……えっと……。」
ヨツバグループ事件の危機再来。
今度は芸能プロダクションという言い訳は使えない。
(仕方ない、彼らは流星旅団だ。もし教団のメンバーなら既に攻撃しているはず。)
「実は……。」
◇
「そうか、教団への潜入捜査の為に俺らをつけてたのか。」
「すみません……。」
「まぁサツも警戒してたんだろうな!」
ソファに横になり、ゲラゲラと嗤うデュマ。
椅子に座らせる松田にお茶を出す月夜。
壁にもたれかかり、2人の話を聞く彩香。
ベランダでタバコを吸っている罪木オルタ。
(本当にこの4人が……?)
「で……いつ気づいた?俺達が流星旅団だって。」
「それは……調べているうちに、警視庁とは別に教団に立ち向かっている存在を知ったんです。」
お茶を飲みながら、松田は今までの経緯を全て話した。
その様子を、4人は無言で聞いていた。
「そうか。んで目的は?俺たちを逮捕しに?」
「いや、今はとてもそんな状況じゃ……。」
◇
「しかしよかった、腐った警察にもいい奴は一人くらいいるんだなって知っただけで、十分すぎる収穫だ。」
「え?いい奴?」
まるで警察を1ミリも信用していないような言い方。
しかし、次に月夜が放った一言は、松田の警察に対する不信感を募らせ曇らせるには十分すぎる威力だった。
「警察の松田さんだっけか。個人的にはこんなことあまりいいたかないんだが、あんた騙されてるよ。」
「飛翔する紫の巨人/常磐ソウゴの処刑宣言!?」
一方その頃、アビィからスカイタイプキーを受け取ったマナカ・ケンゴはその力を使い、バードンを倒そうとしていた。
『よし…!』
《Ultraman Trigger Sky Type!Boot up! Runboldt!》
『天空を駆ける、高速の光!!ウルトラマン…トリガーッ!!!』
《Ultraman Trigger Sky Type!》
「デェアッ!」
マナカ・ケンゴもといウルトラマントリガーはアビィから貰ったスカイタイプキーを使用し、スカイタイプへとタイプチェンジした。
「デェヤッ!」
スカイタイプへ姿を変えたトリガーは上空にいるバードンに向かっては飛び立った。
「グギャアアアアアアアアアッ!」
バードンは飛んできたトリガーに対して口から4万度の超高熱火炎「ボルヤニックファイア」を放って攻撃する。
「フッ、デェヤッ!」
トリガーは火炎を回避しながらランバルト光弾を放ってバードンを攻撃する。
「っ!?」
「デュワッ!」
バードンに光弾が直撃し怯んだところをZがベリアロクでバードンの片翼を切り落とす。
「グギャアアアアアアアアアッ!?」
片翼を切り落とされたバードンは、バランスを崩し、地面へ墜落する。
《Circle Arms!Sky Arrow!》
トリガーはサークルアームズを取り出し、マルチソードから弓形のスカイアローへと変形させて、スカイタイプキーをセットする。
《Maximum Boot Up! Sky!》
「デスシウムファング!!」
「デュワッ!」
「デェアッ!」
「グギャアアアアアアアアアッ!?」
ベリアロクからウルトラマンベリアルの頭部の形をした黒いオーラを飛ばして噛み砕くZの必殺技「デスシウムファング」とサークルアームズから青い閃光の矢を発射して敵を貫くトリガーの必殺技「ランバルトアローストライク」の2つ必殺技を同時に受けたバードンは耐えきれずに爆散した。
「よし…!」
バードンを撃破したトリガーとZは変身を解除し、それぞれケンゴとハルキの姿へと戻った。
「お久しぶりですケンゴ君、アキト君、ユナさん」
「え?…えぇ!?ハルキさんがウルトラマンZ!?私聞いてないんだけど!?」
「えっと…それは……」
「あ、すいません……あの時はケンゴ君とアキト君の二人だけにしかこのことは言ってなかったので……」
「あの時はケンゴがトリガーであることも皆に伝えてなかったしな」
『話の途中ですまないが、皆ナースデッセイ号へ戻ってくれ。CROSS HEROESの皆さんと港区でのことについて急遽話し合いをすることになった。
至急ナースデッセイ号で合流しに行く』
「「「ラジャー!」」」
『ナツカワ・ハルキさん。もしよろしければあなたもご同行してくれませんか?』
「もちろんです。俺とZさん達がこの宇宙へ来た理由を話しておきたいので」
こうしてGUTSセレクトはハルキを連れてCROSS HEROES本隊と合流しに向かった。
一方その頃、特異点・杜王町では……
ざわ…ざわ…ざわ…
「なんだあれ?」
「誰なんだあのおっさん?」
街の人達が何かを見て、ざわついていた。
「なんだなんだ?」
するとそこへ騒ぎを聞きつけたCROSS HEROESやカルデアの面々がやって来た。
「おっちゃん、こんなに人が集まって何があったんだ?」
「あぁ、突然空に人が出てな……」
「人の顔…?」
「ほらあそこに…」
そう言われ民間人のおじいさんが指を指した先を見ると……
「っ!あれって…!」
そこには特異点の空いっぱいに映し出された、クォーツァーの王常磐SOUGOの姿があった。
『この特異点にいるCROSS HEROESとやつらに味方する全ての者達よ、よく聞くがいい…!
俺は歴史の管理者クォーツァーの王、常磐SOUGOだ。
突然だが明日の昼頃に、貴様らの仲間である偽りの王、常磐ソウゴの公開処刑を行うことになった』
「なに!?」
「ソウゴの…処刑だって…!?」
『助けたければ、我々のところに来い…!
貴様ら全員、皆殺しにしてくれる…!』
クォーツァーの王、常磐SOUGOにより特異点全体へ宣言された常磐ソウゴの公開処刑。
そしてそれが実行されるまでのタイムリミットはあと1日…!
果たしてCROSS HEROES達はソウゴを助け出し、クォーツァーの野望を阻止することができるのか!?
次回へ続く!