プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:19「人間の意地」

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1人目

「Prologue」

【救助部隊編】

 港区に取り残された一般人たちを救出する為に出動した流竜馬、兜甲児、ミスリル、GUTSセレクトの面々。別名「生身部隊」。
その腕っぷしで以ってメサイア教団の信徒たちを次々と鎮圧していく竜馬たちであったが、そんな彼らの前にバードス島での決戦以来、姿を眩ませていた安倍晴明が現れた。
鬼たちを従え、敵味方構わず攻撃を仕掛けてくる晴明に
マジンガーZやゲッターロボを有さない竜馬たちは苦戦を強いられる。
果たして晴明の目的は……

【ロンドン編】

 アナザーワールドからやって来たボージャックに続き、
レッドリボン軍が生み出した孫悟飯のクローン戦士が悟飯に襲い来る。
厄介な事に悟飯の肉体が最も充実していた時期のデータを基にして造られた為か、
その戦闘力はオリジナルを凌ぐほどであった。
ボージャックだけでも手に余るというのに、更に現れたクローン戦士を相手に
奮戦する悟飯だが、まるで歯が立たない。
ついに倒れたかに見えたその時、悟飯の奥底に眠る未知なる「獣性」が目覚め始める。
不甲斐ない自分への怒り、怯え惑うロンドンの人々、守るべき存在を目の前にして
理性という壁を打ち破り覚醒した「獣性」によって新たな力を得た悟飯は
まだ誰も見たことの無い姿へと進化を遂げる。
遠く離れた東京・港区で戦う悟空たちにさえも届くその圧倒的な気迫の前に、
ボージャックやクローン戦士さえも思わず驚愕するのであった。

【六本木/キング・Q決戦編】

 六本木ヒルズ最上階にてメサイア教団大司教、「美の化身」キング・Qとの戦いに挑むCROSS HEROES第1部隊。
魅了の術によって自らの傀儡と化したセレブ客を盾にして戦うキング・Qに、
苦戦を強いられる第1部隊。
その助っ人として現れた罪木蜜柑・オルタナティブであったが、
キング・Qは罪木オルタの精神を巧みに操り、自身の手駒としてしまう。
目に映る全てを殺戮し尽くす殺人鬼へと変貌した罪木オルタを前に、
魔殺少女ペルフェクタリアが立ち塞がる。

 人の心を蝕む”魔”を殺す――
ペルフェクタリアと罪木オルタの望まぬ戦いが始まった……!

 ペルと罪木オルタを欠いた環いろは達は、改めてキング・Qとの決戦に挑む。
キング・Qは切り札である蜘蛛型巨大メカ「黄金比の機神」を呼び出し、
その圧倒的な力でいろは達を追い込んでいく。
全身至るところに重火器を仕込んだ黄金比の機神の猛攻の前に、絶体絶命の危機に陥る
いろは達。そんな絶望的な状況の中、超弩級戦艦アビダインの少年艦長、
アビィ・ダイブが戦場へと舞い降りる。
飄々とした捉えどころのない性格のアビィだが、黄金比の機神が繰り出す攻撃を
鮮やかに回避していく。

 アビィの”口撃”に苛立ちを募らせるキング・Qは火炎放射器で瞬く内にパーティー会場を大炎上させる。さらにはその照準をセレブ客たちにまで合わせる始末だ。
その時、空から一筋の閃光が煌めき、天井を穿つ一撃と共に大量の水が降り注ぐ。
チーム・みかづき荘の片翼、ベテラン魔法少女の七海やちよと旧知の仲である
炎扇の魔法少女、由比鶴乃が駆け付けたのだ。
そして2人の助力を得たいろはたちは、ついに強敵、キング・Qを打ち倒した。
メサイア教団の上位大司教たちは彼女を見限り、その体内に仕込まれていた術式を
起動させ、キング・Qは見る影もなく醜い肉塊へと成り果ててしまう。
いろはが流す惜別の涙。それが彼女がこの世で最後に見た「美しいもの」だった―――

 時同じくして、ペルと罪木オルタの戦いも佳境を迎えようとしていた。
実力は五分と五分。お互いに一歩も譲らない死闘を繰り広げていたが、
「お前には、守りたいものはあるのか?」と言うペルの一言に、
罪木オルタの心は揺らいでしまう。
その一瞬の隙を突き、罪木オルタを昏倒させたペル。キング・Qとの戦いを終え、
ヒルズから出てきたいろは達と合流し、
一同は流星旅団の本拠地へと向かうのであった。

【断章:イマジナリー・ウィル】

 存在しなかった世界。
特異点やリ・ユニオン・スクエアを実数世界とすれば、それは虚数の世界に存在する。
かつてはⅩⅢ機関と呼ばれた者たちの拠点、虚ろなるものと闇なるものの住処。
メサイア教団の本拠地はそこにあった。

 カール大帝への信望者の集まりであり「化身」の称号を持つ
キング・Q、ビショップを含めた8人の大司教が円卓の間にて話し合う。
”廃棄孔”なるものの研究、敗れ去ったキング・Qの粛清、苗木誠を”この世全ての悪”へと
祀り上げる計画について……

 そんなメサイア教団の次なる動向を都内某所のホテルにて調査していた
ジェームズ・モリアーティの前に、不思議な雰囲気を纏う女性が現れる。
彼女は自らを八雲紫と名乗った。
空間のスキマに物質を収納し、別の場所に転移させる能力を披露する紫は
”ランダム”で選んだと言うモリアーティに助けて貰いたいと依頼する。
彼女の正体は? そして、その目的は……

【新橋編】

 東京ミッドタウンに位置する流星旅団のアジト。
アレクサンドル・デュマに新しい武器の改稿を依頼する天宮彩香は、
罪木蜜柑・オルタとは何者なのかと尋ねる。
デュマは罪木オルタを前提が破綻した完全なる別世界、
「限りなく偽物に近い外典存在」と答えた。

 そこへキング・Qを撃破したCROSS HEROESが到着。
次なる敵は、キング・Qと双璧を成す大司教「戦」の化身・ビショップ。
天才科学者ながら他人を見下し、「最小の犠牲で世界をよりよく」を
モットーとする男である。
彼が開発した英霊自動召喚システムによって、新橋付近にはシャドウサーヴァントが
大量発生している状態だ。

 早速新橋へと向かおうとするメンバーたちだが、その前段階で彩香とペルフェクタリアが諍いを起こしてしまう。
メサイア教団の大司教、そしてそれを取り巻く連中はどれも常人を遥かに凌駕する能力を
有している。
普通の人間としては優秀な才能を持っているとは言え、彩香がこれからの戦いに
付いていけるはずがない――そう指摘された彩香は怒り心頭。
その場から走り去ってしまう。メサイア教団は両親の仇だ。
その仇を討つため今まで兄と二人で流星旅団を組織して戦ってきたのだ。
その日々が全て徒労であるかのように思えたのが悔しくて仕方なかった。

 彩香の後を追いかけてきた月美は自分やペルが別の世界からやって来た事、
その世界を禍津星穢によって滅ぼされた事を明かす。
大切なものを失う苦しみを誰よりも知っているペルだからこそ、
彩香がみすみす命を落とすような事は絶対にさせたくなかったのだと言う事を知った彩香は
ペルの気持ちを理解して謝り、彼女の言うとおりにしようと告げる。

 堕ちた湖の騎士の残滓と剣を交える勇者アレク。ビショップが召喚した
英霊・アルキメデスVSダイヤモンドドッグス・シャルルマーニュ遊撃隊。
東京タワーを覆う障壁の破壊のために動き出す源為朝。

東京・港区を巡る戦いは、いよいよ佳境を迎えようとしていた……!

2人目

「その命を賭して、悪は正義と成る ①」

 落ちる意識。
 まるではるか上空から大海原の深海へと沈んでいるかのような。
 あまりの高低差に意識は途切れ、無意識という深海へと進水を開始する。

 その体は鉛のように重く、ただ沈むことしかできない。
 なにより動かそうと努力しても、停止した意識がそれを許さない。



 無意識という海の中を潜ってゆく。
 そこにあるのは文字通りの暗黒。
 色彩あふれる意識から、白すらない黒の世界に沈むとはこういうことか。

「ここで沈むのか、同胞よ。」

 聞こえないはずの声が聞こえる。
 闇の中であるのに。何もいないはずなのに。
 だけど感覚的に『それ』はいた。

 その実が夢の中で作った妄想なのかはわからない。
 黒しかない世界にいるはずの、されど確かにいる何かを看破できないままでいた。

 ____あんたは誰だ?

 出せないはずの声を出してみる。

「俺に名乗るほどの名前はねぇよ。オタクこそ誰だ?俺たちの同類であることは分かるが。」

 穏やかな声。
 闇の主であるにも関わらず、まるで菩薩と話しているかのような。

 ____あたしは…………。

「そう、そいつはいい名前ね。」

 声は千差万別に変化するが、どれにも悪意というものは感じられない。
 それにしても、母親の腹の中にいるような感覚すら感じてくる。
 できることなら、ずっとここにいたい。

「出会い頭で悪いが、こんなところで寝ぼけている暇はないぞ?」

 なのにそれは、とてもやさしい声であたしを突き放す。
 
「あんたは俺たちの同類である以前に何かを守るというのがお前の起源だ。何かを守る、というのならばこんなところにいてもいいのか?」

 守る。
 あたしに守りたいものは世界くらいしかない。
 人物とか、大切なものとか、そんなものは存在しない。

「なくたっていいんだよそんなもの。」

 思ってみると声の主は男性なのか、或いは女性なのかもわからない。
 意識が一時停止しているのと、一面が闇であるせいか上手く認識ができない。

「世界であれ路傍の花であれ、何かを守りたいと思えるというのならあんたはそうするべきよ。本当に心の中で思っているかどうかまではわからないけど。」

 されどその声は優しい。
 怒鳴りつけてくる様子もない。
 不気味なほどのやさしさ、だけどそれでいて信用できるに値する何かがある。

「じゃあ……あたしは……。」
「そう、オタクには地上でやるべきことがある。守りたいものなんざその道中で見つかるだろうさ。」

 明るいのか達観しているのか。
 しかしその声は明らかに罪木蜜柑への励ましと認識できる。

「そうそう、これは同じ”アヴェンジャー”として警告しておくぜ。」
「?」

 アヴェンジャーと名乗るその声の主は、先ほどとは打って変わってとても真面目に話しかけてくる。
 同時に浮き上がってくる意識。
 目覚めが近くなる身体と、聞こえなくなってくる声。

「復讐と『ムカつくから殺す』という感情を混ぜ込んだらそれはもう復讐なんかじゃない。身勝手な暴走だ。復讐者で守護者という矛盾を背負っているのなら、せめて守るに値する誰かには優しくしておけ。無視されたから殺すとか、怒られたから殲滅するとか、そんなものはただの『子供のわがまま』っていうのさ___!」



 意識と身体が目覚める。
 むくり、と身体をゆすり稼働させる。

「ここは。」

 そこは建物だった。
 少なくとも六本木ヒルズじゃない。
 ベンチの上、毛布が丁寧に敷かれたそこで復讐者”罪木蜜柑”は目覚めた。
 ああ、思い出してきた。
 意識と記憶が一斉に励起する。
 そして悟る。

「やっちまったか……くそ。」

 気が付くと、あの時の暴走を”あたし”は後悔していた。



「兄さん、罪木さんが目覚めたってフィオレが。」
「無事だったのか。何があったのか聞いて見ないとな……。」

 浮かない顔を我慢しつつ、罪木オルタの覚醒を報告する。
 例え悔しさで身が裂けそうでも、今できることをしないといけない。

「あと、逆探知の準備ができたって。」

 その報告を受け、月夜は。

「そうか、すぐ行く。」

3人目

「人の叡智、人の科学」

轟音と破砕音。
無機質な金属が削れ、捻じれる不協和音。
それは、新宿に仕込まれた殺戮機構が破壊され、或いは朽ちる音。
デルタチームの救援にスネークとウォーカーギアが駆け付けてからは、逆転の一途を辿っていた。
金属として振舞う魔力のヴェールは、スネークの振るう金属腐食アーキアの前に朽ち果て。
強固な堅牢さは、ミニガンの暴力の前に撃ち滅ぼされ。
或いはデルタチームの総力を挙げて徐々に滅びていく。

「しかし、数が多いっ!」

そうして暫く快進撃が続いていたが、やがてその手数の多さに辟易する様になる。
何せ無尽蔵に出てくるのだ。いくら倒してもキリがない。
一体どれだけの数を用意しているのかと思う程に、延々と機械が出て来る。
その上、此方は逃げ遅れた市民の救助もしなければならない事が足を引っ張っていた。
そんな彼等の苦戦ぶりを見てか、立体映像に移るアルキメデスが嘲笑う。

『悪手ですね、実に悪手。彼等を見捨てて此方に向かう方が勝算が高いでしょうに。』
『本当に愚かだな、高々数十人の凡人を救う為に、リーダーや新型兵器まで投入するなど。』

彼の言葉に同調する様に、ビショップもまた、デルタチームを軽蔑し蔑む様に言葉を送る。
罵倒の一つでも返してやりたい所だが、生憎彼等にそんな暇は一瞬だって無い。
一分一秒が、手足を動かし人々を救う為に惜しかった。
そこに付け上がる様に、アルキメデスは更に嘲る様に声色を強める。

『所詮は感情で動いただけ。他者を守ってちっぽけな誇りを抱いたつもりだろうが、それが命取りだ。』

事実、スネーク達が助けに向かった所で、どうにもならない可能性の方が高い。
今この瞬間にでも、殺戮機構は新宿の街を人ごと破壊し尽くしている事だろう。
それだけではない、黒い影の事もある。

「クソッ、何処から湧いてきやがった!?」
「滅っ!」

全身を黒ずくめの霧に包んだ謎の存在。
見た目からは辛うじて中世の鎧やケープを着ている事が分かる程度だが、その実力は底が知れない。
騎士の様な影はその手に持った鈍重そうな大剣を片手で軽く振って見せ、何人たりとも近寄らせない。
術士の様な影は御伽話の如く杖を振るい、超常現象を起こしてみせる。
更にはどの影にも共通して超人の如き身体能力を秘めている。

「当たらない、どんな身体しているんだ!?」

ビルを八艘飛びして射線を切り、辛うじて銃弾を当てた所で数発程度ではまるで怯まない。
その上、空中で軌道を変えて着地し、再度跳躍する事さえやって見せる始末。
そんじゃそこ等の部隊では、1分と持たないだろう。
デルタチームが実戦経験豊富な精鋭でなければ、とっくに多くの犠牲者が出ていた。

「こっちもやられた、不味いぞ!」
「畜生、畜生!」
「ボス!」

それでも尚、圧されつつある。
一人、また一人と深手を負わされ、倒れ伏していく
終わりだ、そう言いたげな顔色を浮かべたビショップの代弁をする様に、アルキメデスが宣告する。

『そろそろ終わりです、愚かな思想と共に朽ちなさい!』

瞬間、幾多の影が跳躍。
同時に、残っていた殺戮機構も一斉に接近。
阿吽の呼吸で、同時に襲い掛かる。

「えぇい一か八かだ、くたばれ!」

総力戦のぶつかり合いを覚悟し、銃を向けるデルタチーム。
だが。

『スネーク達を殺させたりはしない!』

聞き慣れた轟音。
何かが着火した噴射音。
横合いから飛んできた機関砲の嵐が、影や殺戮機構の攻勢を穿つ。
無数に降り注ぐ鉛玉を前に、影達は怯み距離を取る。
更に追撃と言わんばかりに無数のミサイルが飛来。
流石の超人軍団も、思わずたたらを踏んで吹き飛ばされる。
一瞬の内に鳴り響いた爆音の後、辺りにはヘリのエンジン音が響き渡った。
影達の目線は、自ずと上空に向けられる。
そこには、DDが誇る『ビックフット』の姿。
20㎜弾を毎秒100発叩き込む鋼鉄の暴力が、煙を上げてその雄々しさを示していた。

『スネーク!』
「良いタイミングだ! 」

無線越しに届く、ヒューイの声。
それに賞賛を返すスネークを遮る様に、喰って掛かる存在がいた。

『その声は、ヒューイか。お前の事は知っている。トラオムの一件で良く、な。』
『君か、ビショップ!』

敵の大将、ビショップだった。
彼の声に、ヒューイが顔を顰める。

「知っているのか?」
『あぁ。最小の犠牲でより良い世界を、なんて宣う人でなしだよ。時代遅れの拷問染みた人体実験なんか行う狂気に、学会を追われた身さ。』

スネークの問い掛けにそう返す。

『僕が最も嫌いな人物だよ。』

そして、付け足す様に軽蔑の言葉を繰り出した。
だが、憤りを見せたのはヒューイ側だけではない。

『人の為の科学と称して、その実どっち付かずでしかない男が、何を言う?お前はまさに愚か者の代名詞だな。』

ビショップもまた、立体映像越しにヒューイへと軽蔑の眼差しを向けていた。
その目付きが語るのは、裏切りの一件の事だろう。
突かれれば痛い所だ。
しかし、ヒューイは敢えて睨み返した。

『確かにそうかもしれない、けれど君もまた愚か者だ!試行を繰り返して検証を重ね、物事を解明するのが科学だ。自分の欲を満たす為に犠牲を前提にした時点で、お前の科学の在り方は間違っている!』
『天才の俺が導き出す科学に間違いなどあるものか。』

ヒューイから見た指摘に、ビショップは動じない。
が、次いで放たれた言葉が心を揺さぶる事になる。

『君が学会を追われたのがその証拠さ。当然だ、君は彼等の様な科学者なんて高尚な者じゃない、ただのマッドサイエンティスト気取りだ!』

ビショップの顔付きが、変わる。
一瞬見せた動揺の様なそれは、しかし次の瞬間に憎悪にも似た顔色となり、声色を更に強める。

『貴様、言わせておけば!あんな無能共の肩を持つなど、所詮は奴等と同じ存在か!』

拳を握り締め、まるで過去を払う様に振るい、罵詈雑言を吐き出す。
対してヒューイもまた、言葉の応酬を重ねる。

『学会など、天才の俺の居場所では無い。無能の集まり、貴様もその一人だ!』
『確かに、子ども一人の為に仲間を殺した僕は無能で狂人だ。けれど当たり前の様に犠牲を前提にする事はそれこそ間違いで、無能の証だ!彼等はそうじゃない!君はただ、人を理解する事を諦めただけだ!』

互いの主張をぶつけ合う二人。
最早どちらも一歩も引かない。
話は水平線の一途を辿った。
ならば、後は決着を付けるのみだ。

『犠牲なんて無くても、僕は僕の科学で立ち上がれた。だから僕の科学で、君の科学を否定する!』
『良いだろう。お前等科学者気取りがただの愚者だと、今一度知らしめてやる!』

4人目

「その命を賭して、悪は正義と成る ②」

 そのころ東京ミッドタウンでは。

「聞こえるか……今、警察上層部の眼を盗んで連絡している。」

 突如かかってきた電話。
 その声の主は、松田を襲った悪徳警部だった。
 しかしその声はあの時とは異なり、かなり切迫している。

「誰か出てくれ……!」

 逆探知されていることは露知らず。
 されどぼそぼそ声で連絡をしてきた。

「電話の位置は警視庁ですが、詳しい位置とかどこの電話からとかはまではまだ分かりません。」
「いや充分だ。俺が出よう。」

 月夜が電話に出ようと、その受話器を握ろうとする。
 その時。

「いや、ボクに話させてもいい?」
「なぜだ?」
「今、まともに戦えないのはボクだけだ。それでも協力はしたい。それにどうしてもボクは知りたいんだ何でこの人は教団に従っているのかを。」

 その眼には、一種の覚悟があった。
 月夜は、それを感じ取ったのか受話器を彩香に渡した。

「分かった。周囲の見張りは任せろ。」

 そうして、彩香は電話に出る。

「代わったよ。」
「お前は、あの時の女か。」

 彩香が電話に出て、警部は驚きを隠せない。
 兄である月夜が出ると予想していたからだ。

「まぁいい聞いてくれ、奴らの目的はあのロボットを利用して……東京タワーのバリアを破壊するつもりだ……そんなことされたらきっと、東京タワーも破壊される!」
「そうだとは思ったけど……。」

 そこまでは想定できる。

「それだけじゃない。あのバリアを破壊した後……為朝や軍隊、暴徒を使って東京の国会議事堂や主要施設を破壊、そこから侵略を開始するとも言ってた!」
「「「!?」」」
「信じられないかもしれないが、連中はもうすでにそこまでの軍事力を備えているんだ!雀蜂なんざ前座に過ぎない!」

 教団の戦闘力は、雀蜂ごときでは片付かない。
 本隊が到着すれば東京を中心にメサイア教団の魔の手が日本に、そして世界に伸びる。そうなってしまえばもはやゲームオーバーだ。

「で、ボクたちに何をしてほしいの?」

 いたって冷静に、努めて彩香は何をしてほしいのかと警部に聞いた。

「何人か、赤坂に来てくれるか……?主要な連中じゃなくてもいい。あのロボットを……赤坂にいる為朝を破壊してほしいんだ。そうすればきっと、」

 警部の言っていることはもっともだ。
 しかし彼は一度、月夜たちを襲ったというではないか。
 その一件が、彼女の心に一抹の疑心を植え付ける。

「信用ならない。事実として兄さんを襲ったじゃない。そんなことをしてるんだ、騙し打ちの可能性もある。」
「騙し打ち、ありえるな。」

 騙し打ちの可能性を想像する。
 無闇に接触すれば、逆に蹂躙されてしまうかも。
 だけど。

「でも本当に騙し打ちをするつもりならそんな切羽詰まった話し方はできない。何よりそっちの事情は把握しているからなおさら真実味がある。こういったケースをボクたちが経験しなかったとでも思う?」

 天宮彩香は、ペルフェクタリアのように他人の嘘を見抜く能力はない。
 エスパーではないので、他人の心理を読み取れるわけじゃない。
 だが今まで人数の少ない中教団と戦ってきたその経験が、あらゆる最悪の状況を想定・体験し、そして踏破してきた経験値が真実だと看破した。

 その点を踏まえると、彼女は決して弱くはない。

「じゃあ……。」
「あんたの言うことを信じる。その代わりこっちからもやってほしいことがあるんだ。」
「ありがとう……!出来ることは何でもやる!」
「そっちにも同じ事情の人間がいるだろ。それを使って赤坂の暴徒を止めてほしい。市民を守る警察としての心をまだ持ってるなら、出来ると思う。」
「わかった。出来る限り集めてすぐにでも行動しよう。」

 警部が即答する。
 源為朝にバリアを破壊され、大切な市民をこれ以上傷つけさせるわけにはいかない。
 悪徳という糸を切られた操り人形は、確固たる意志を持って戦うと誓った。

「最後に一つ聞いてもいいか……お前ら……本当に教団と戦うのか……!?」
「ああ、戦うよ。ボクたちの人生は奴らを倒してから始まるんだ。」

 ならば、此方も戦わなければならない。
 奴らは家族の、友の、仲間の仇だ。
 仇を生かしておいたまま泣き寝入りなんざ胸糞が悪い。

「俺が言うのもアレな気分だが、松田をよr……『おっと、おしゃべりタイムはそこまでだ。』ああああ!?」

 刹那。苦痛と悲鳴が炸裂する。

「フッフッフ……よう流星旅団。」

 数秒後、狂気と愉悦とにじませた嫌な笑みが電話口から響く。
 その声の主、そして警部をぶちのめしたのはドフラミンゴだった。
 電話先の相手、天宮彩夏の心境は計り知れない。

「お前は誰だ?」
「俺はドフラミンゴ。てめぇらの敵だ。」
「教団の手先か?口封じのために殺したのか?」
「手先かどうかはともかく、まずは安心しな。こいつはまだギリギリ生かしてある。助けに来れば命を救えるかもな。」
「……。」

 心の中で歯ぎしりをする。
 逆探知をして、今警部がいる位置が警視庁であることは分かったが、まだどこにいるのかはわからない。
 しかし、冷静さは崩れていない。

「何の力も持たねぇでここまで戦ってこれたことは褒めてやる。だが結局人間はどこまで行っても人間、俺達とは天と地ほどの差がある。そんな弱さで人を救うとは、バカげた夢想に笑いすぎて腹がいてぇ!」

 煽り立てる。
 感情的にさせることで、優位に立とうとしているのだろう。
 だって彼らは人間。愚かで、感情的で、弱いから。

「分かったろ___てめぇらじゃ誰も救えねぇ。自分自身さえもなァ!」

 ドフラミンゴの言うことは正しい。
 流星旅団はどこまで行っても人間の集まりで烏合の衆。
 彼らはどこにでもいる普通の人間である。
 悟空やルフィのように異能を持っているわけでもない。
 スネークたちのように強力な武器や兵装を持っているわけじゃない。

 普通の人間には何の能力も、異能もない。
 戦闘という点で見ればあまりにも弱いし、単独じゃ何もできない。

 しかし、それでも___ただの一点、彼らには他の誰にも負けないものがある。

「それで勝ったつもりか?ボクたち流星旅団を、人間をなめるな。」

 その眼は曇るどころか、恒星の如く熱く眩く輝いていた。

5人目

「備えあれば憂い無し」

如何にもな急設感溢れる深緑色のテントの中。
ヘッドホンを取り外した男、オセロットは目頭を揉んで苦言を零す。
彼の声色は、苦味を含んでいた。

「さて、面倒な事になったな。」

件の警部、それ自体は罠では無かった。
此方の読み通り、無理矢理に従わされただけの手先、それも中枢に近い立ち位置の人間。
その立場を利用させてもらう為の交渉も、恐らくは罠では無いだろう。
途中から電話に割り込んできたドフラミンゴの存在さえなければ、だったが。

「はぁ、恐らく此方の位置も知られたか。これから防衛戦になるな。」

CHに加わった事で知った、ドフラミンゴの狡猾な性格。
そこから考え得るに、向こうも逆探知を掛けている事は疑うべくもないだろう。
結果的に、電話の取引は此方の位置を知らせる罠となった。
立ち上げていた端末の電源を落とし、溜息を付きながらオセロットは天井を仰いだ。

「まぁ良い、仕事は大方終えている。」

刑事からの電話を逆探知する試みは、ほぼ成功している。
まず固定電話の線は除外。
隠れて電話をするのに、誰かが立ち入る様な場所に、ましてやオフィス等の様に目立つ場所にある固定電話の筈はあるまい。
これによりまず電話線を確認する手間が省けた。
携帯電話、或いはスマートフォンか。
何れにせよ携帯型の電話を使っている時点で、幾つかの電波塔を経由している事になる。
それ等を調べ上げ、各電波塔との通信のラグを測る事でGPSの如く位置を特定できた。
故に電話の逆探知それ自体は、一瞬で終わっている。
結果、警視庁の何処かにいるという事は分かったのだが。

「問題は具体的な居場所だな。」

完全な特定には至っていない、という点が問題だ。
電話越しの悲鳴から、致命傷なのは間違いないだろう。
特定に時間を掛ければ、手遅れになる事は相違ない。
だと言うのに、何処に居座っているか分からないというのは大きな足枷になる。
死なれては此方としては『損』だ。
だからこそ、急がねばならない。

「いかんな、焦るのは俺らしくない。」

オセロットは静かに湧き上がる焦燥を抑えつつ、椅子に掛けていたコートを羽織る。
そのまま踵を返し、目を瞑って思考に耽る。

「大した難問じゃない、ヒントはとっくに出尽くしてる。」

真っ先に思い返すのは、彼の電話した時の状況。
前述の通り、オフィス等の人目の付く場所には間違いなく居ない。
となれば。

「ある程度喋り声がしても隠れられる場所であり、そして同時に携帯類が使える場所だ。」

あのドフラミンゴとかいう者がケタケタと笑い声を上げても、乱入が無いと判断した場所。
それ等の条件を絞れば、おのずと場所は幾つかに限られていく。
この非常時にも人目に付かない様な、所謂物置部屋か。
若しくは地下に存在するであろう、ボイラー室の様な密閉空間か。
或いは屋上の様な、人払いをする必要も無い場所だ。

「とりあえず、片っ端から見て回るしかない。」

結論は出た。
ならば問題を解決するだけだ。
そう締めくくり、改めてアビィの方へと向き直って。
そこで漸く、あの口煩さや麺を啜る音が無い事に気付いた。
残っているのは、綺麗に巻き立てられた荒縄と、空になった発泡スチロール製のどんぶり、後は割り箸だけ。
とうの昔に、抜け出していたらしい。

「アイツ、とっくに気付いていたか。」

呆れた様に呟いて、オセロットは溜息をつく。
どうせあいつの事だ、遠からず同じ結論に辿り着いていただろう。
確信に近い予感を覚えながら、さて、と呟く。

「ここからは武力の時間だ。国を持たない軍の脅威をお見せするとしよう。」

先程までとは違う。
鋭く尖った視線には殺気が宿っていた。
まるで別人を思わせる程の変貌ぶりに、周囲の部下さえも僅かに息を飲む。
その変化を感じ取ったのか、オセロットは不敵に笑みを浮かべた。
先程までのどこか憂鬱な雰囲気とは一転、実に楽しそうな様子だ。
今から戦う者の表情ではないと、誰もが思うだろう。
だが、これで良いのだ。
元来より戦闘のセンスにはスネークさえ一目を置く才能の持ち主。
だからこそ、彼は笑む。
これから行われる闘争こそ、彼が最も好むものなのだから。
手にした銃を構え、素早く安全装置を外す。
彼の得物は、リボルバー銃。
それも、通常の拳銃とは一線を画す大口径のマグナム弾を使用するタイプだ。
この銃が生み出す破壊力は、例え防弾装備に身を包んだ兵士であっても容易に撃ち抜ける代物である。
しかし、それ故に扱いは難しくもある。
仮に暴発でもすれば、反動で腕が折れかねない。
その上、弾丸も非常に高価な品である為、おいそれと使用に踏み切れないのだ。
当然、今回のような非常時を除いてはの話ではあるが。
無論、今回は別問題。
その程度の事は考慮しているつもりだ。
それに、少なくともオセロットに使いこなせない代物ではない。

「俺の腕も、鈍ってない事を見せるとしようか。」

トリガーに指を通して軸とし、クルクルと何周か回した後、グリップを握る。
直後、引き金を引いて撃鉄を降ろす。
徐に放たれた弾丸は地面へと向かい、飛翔。
浅い角度で衝突したマグナム弾は、奇妙な事に飛び跳ね、全く別のベクトルへと向きを変える。
そうして向かった先にあった空き缶へ一直線。
見事、ど真ん中を撃ち抜いてみせた。
一瞬の内に行われた曲芸にも近しい戦闘術に周囲からどよめきが上がる中、オセロットは銃口から立ち昇る煙を吹いて、一言。

「久しぶりなんだ、存分に暴れさせて貰うとしよう。」



東京の夜空を掻っ切って突き進む、一筋の蒼い弾道体。
それはある高層ビルの屋上に着地すると、地を蹴って瞬く間に再度加速する。
人間だ。
一人の少年が、屋上から屋上へと駆けていた。
風に靡く髪は蒼交じりの白銀。
肌の色も白く、顔立ちも美しい少年。
即ち、アビィだ。
彼は眼下に広がる街並みには目もくれず、一直線に警視庁へと向かう。
己の為すべき事の為に。

「ヒーローは遅れてやって来るものだ、恨むなよ?」

6人目

「CAOS,CAOS,I wanna CAOS」

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 シャドウ:バーサーカーと勇者アレクの戦いは一進一退だった。

「さみだれ斬りッ!!」
 
 降り注ぐ雨が如く、剣撃の嵐を繰り出すアレク。

「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ……!?」

 その怒涛の連撃に、バーサーカーの体躯が宙に浮かび始める。

「かもめ返しッ!!」

 さらに、空中の敵に絶大な威力を発揮する技で追撃するアレク。

「――ッ!!」

 アレク渾身の必殺技コンボを喰らい、シャドウ:バーサーカーは遥か後方のビル壁へと
吹き飛ばされる。
轟音と共に砂煙を巻き上げながら、壁に大穴を空けて瓦礫の中へ沈んでいった。
アレクはその様子を、油断なく見つめている。

「やったッ! アレク様!!」

 ローラ姫が歓声を上げたその時……。
ゆらりと瓦礫の中から影が立ち上ったかと思うと、それはみるみる内に人の姿となった。
そうしてそこに立っていたのは、もちろんシャドウ:バーサーカーである。

「しぶといな……」

「おおお……その見目麗しい金髪、可憐な容姿、まさしく貴方様こそは……
聖女■■■■ゥーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「えっ……!?」

 突如、ローラ姫の足首に何かが巻き付いた。見るとそれは、艶めかしげな触手だ。
あまりのおぞましさに鳥肌が立つローラ姫であったが、

「メ、メラ!!」

 果敢に呪文を詠唱し、炎の魔法を唱えた。
炎に包まれた触手は一瞬にして消え失せてしまう。

「ローラ!」
「Gruuuuuuuuuuuuuuaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 一瞬アレクが気を取られた隙に、シャドウ:バーサーカーが瓦礫から飛び出してきた。

「くっ、やはりまだ倒しきれていなかったか……!」
「わ、わたくしは大丈夫です! アレク様、あの者をお早く!」

「おおお、その気丈さ、勇ましさ! やはり貴方は聖女■■■■に他ならない!」

「何者です、貴方は!?」
「聖女の従者であるこの私をお忘れとは、何と嘆かわしい事か……
だが、もはやそんな事はどうでもよろしい。我が悲願はこうして成就できたのですから!」

 ローラに触手を差し向けたのは、シャドウ:キャスター。
神に失望し、背徳に身を沈めた術者の成れの果てである。
その右手に持つ悪徳なる教本から禍々しい海魔を次々と召喚し始めた。

「わたくしの名はローラ! ■■■■などと言う名ではありません!!」
「いいえ! いいえ! 見間違う筈がありませぬとも! 
貴女こそは聖女■■■■!! 我らが聖女よ!!」

 狂喜乱舞しながら、シャドウ:キャスターはローラ姫へと迫ってくる。

「電磁スピアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 そんなシャドウ:キャスターとローラの間を阻むように、
上空より稲妻の槍が降り注いだ。

「むうう……!?」
「騎士ガンダム様!」

 背中のウイングバインダーを変形させ、ホバリング飛行する騎士ガンダムが着地した。
そして、ローラ姫を守るように立ちはだかる。

「アレク殿、ローラ姫、加勢致すぞ!」
「済まない、騎士ガンダム殿!」

「この黒き影ども……恐らくはアルガス騎士団より聞かされたサーヴァントなる者たちに
近しき存在であろう。メサイア教団に支配されていたと言うトラオムなる空間に
蔓延っていた存在……であるならば、このトーキョーなる街に
潜んでいたとしても不思議はない」

 騎士と王女、そして魔道に堕ちた影法師との戦いは続く……

7人目

「その命を賭して、悪は正義と成る ③」

 東京 某ホテル
「で、どうします?」

 紫がモリアーティに、何処か蠱惑的な笑顔で話しかける。
 対するモリアーティは、苦悩の表情と共に頭を抱える。

「……いくつか、確認してもいいか?」
「何?」

 モリアーティは、端を切ったかのように質問を開始した。

「本当にランダム?サイコロで決めた感じ?」
「ええ。正確にはどれにしようかな方式で。」

 あまりにもちゃらんぽらんな回答に、うわぁ、と引き気味なリアクションを取る。
 まるで自身の伴侶をサイコロで決めましたーてへぺろ、とでも言いた気な回答だ。

「あと、もう一つ質問がある。その、幻想郷、だっけか。そこに連れて行って何をするつもりだ?」
「それは……。」

 そういって、八雲紫は耳打ちをし始める。

「廃棄孔の……よ。」
「!」

 目を見開く。
 なるほどその理由ならば、我らは協力するしかない。

「なろほど、確かにその『計画』が成立してしまえばCROSS HEROESどころか世界は確実に破滅するな。」
「だからそうなる前に、幻想郷にあなたの仲間を何人か寄越してくださらない?」

 耳打ちで話した内容だ、その内容はモリアーティしか理解できない。
 だがこの『計画』が成立してしまえば、待ち構える結末は破滅だ。

「なるほど理解はした。協力はしよう。だが誰を寄越すか、いつ寄越すかばかりは私の一存で決めれることではない。これは、CROSS HEROES全員で決めることだからな。」

 もっともらしい理由を述べる。
 その反応を見た紫は、あらそう、とでも言わんばかりに。

「そう、じゃあさっそく。」

 そういったかと思うと、西園寺をスキマに飲み込んでしまった。
 それを見てしまったモリアーティは叫ぶ。

「待て待て待て待て待て待て!何勝手にやっているんだネ貴様はァーーーーッ!!」

 ◇

 西園寺転送から大体5分後 東京ミッドタウンにて

「お目覚めか?」
「チッ、デュマか。」

 罪木オルタを、アレクサンドル・デュマが見ていた。

「あんたに客人だ。どうしても会いたいってさ。何、事情は既に聞いている。」

 デュマの後ろから、彼女には見慣れない少女の姿が。
 和服を着た悪辣みあふれる少女だ。

「よっ、ゲロブタ。いや初めまして?」
「あ?人に豚呼ばわりされる筋合いはな……なんだ……!?」

 刹那。炸裂する頭痛。
 混線する正史との記憶。
 不安定な外典であるがゆえに、混線する記憶がいともたやすく流れ込む。

「罪木、ありがと。」

 あの日の記憶、ありえざる日の思い出。
 ありえざる復讐者が会うことのなかった運命。

「お前は……!」

 ーーーその日、荒廃した復讐者は運命に出会った。
       その日、悪辣なる舞踊家は運命に出会ったーーー。

「西園寺日寄子、初めまして、白い罪木蜜柑(アヴェンジャー)。」



「それで勝ったつもりか?ボクたち流星旅団を、人間をなめるな。」

 曇るどころか恒星の如き輝きを見せる。
 その中ににじませる、明確な宣戦布告の意志。

「フフフ、ほざいたな……!」

 その瞬間、東京ミッドタウンの窓ガラス、その1枚が割れた。
 出現したのは、姿かたちがドフラミンゴに類似した……!

「影騎糸(ブラックナイト)、生き延びてみろよ。」

8人目

「復活の七海やちよVS堕天の戦乙女」

 突如として東京ミッドタウンに襲来したドンキホーテ・ドフラミンゴ――その分身。
一方、新橋に出撃したCROSS HEROESの面々は……

「目標、確認。直ちに攻撃を開始する」

 新橋駅前で待ち構えていたのは、シャドウ:ランサー。
神々しき甲冑を纏った槍兵……しかし、闇に覆われたその身体からは
禍々しいオーラが放たれている。さながら堕天の戦乙女といった風貌だ。

「私が相手をするわ」

 対するは、七海やちよ。操るは、三又槍(トライデント)。
奇しくも同じ槍使いであるシャドウ:ランサーと真っ向から対峙する。

「能力、発動」

 シャドウ:ランサーの握る槍に闇の波動が収束していく。
攻撃力を上昇させる効果だろう。
機械的に淡々と呟く姿は、まるで人形のようだ。
だが、それでもなお……やちよの心には一片たりとも恐怖心はなかった。

(………!)

 やちよも槍を構える。そして、ついに両者は激突した。

「――!!」

 ぶつかり合う衝撃音と共に火花が散り、激しい攻防が繰り広げられていく。
槍同士のぶつかり合いにより発生した衝撃波によって周囲のビル群が
次々と倒壊していった。だが、そんなことは意にも介さず戦い続ける二人。
互いの武器が交わる度に、周囲に暴風が巻き起こる。
凄まじい威力の攻撃が幾度となく繰り出される中、次第にやちよが優勢になり始めた。

「やちよさん……凄い……!」

 いろはは息を飲み込み、その戦いを見守ることしかできない。
神浜市では、みかづき荘メンバーの中で一番経験豊富な魔法少女だったやちよ。
だが、今目の前にいるのはいろはが知るやちよとはまた別の人物のように思えた。
鋭く正確無比の槍捌きと冷徹なまでに冷静沈着な態度。
それはまさに戦士と呼ぶに相応しい。

「やちよししょー、怪我から復帰してからずっと訓練してたんだよ。
イチから鍛え直しだって言ってね……
いろはちゃん達には言うなって口止めされてたんだけど……」

 いつの間にか隣にいた鶴乃がポツリとそう漏らす。

「そうだったんだ……」

 神浜市の攻防戦でウラヌスNo.ζに重傷を負わされ、一時は戦線を離脱していたやちよ。
しかし、彼女は再び戦場に立つために己自身を磨き直してきたのだ。
あの時の惨めさを二度と味合わないように。その想いはきっと誰にも負けないはずだ。

「はああああああああああああああッ!!」

 やがて、やちよの槍がシャドウ:ランサーの身体を捉え、
そのまま吹き飛ばすことに成功した。

「損傷、軽微。戦闘続行可能」

 だが、シャドウ:ランサーは即座に体勢を整えて着地し、
何事もなかったかのように佇んでいた。
背中の翼を大きく広げ、上空へと飛び上がるシャドウ:ランサー。

「同位体、顕現開始。一斉攻撃」

 シャドウ:ランサーの同位体が次々と出現し、一斉に槍を投擲してくる。
降り注ぐ槍の雨。やちよは三又槍を高速回転させてそれを防ぎ切った。

「目標、未だ健在。作戦を続行する」

 地上に降り立ったシャドウ:ランサーは再び突撃を仕掛けてくる。
今度は先程よりもスピードが増していた。やちよの背後へ回り込むようにして接近し、
渾身の一撃を叩き込んでくる。
やちよは咄嵯に反応して三又槍を背中に滑り込ませてガード。
振り向きざまに横薙ぎの斬撃を放つがシャドウ:ランサーは
その攻撃を空中に飛び上がって回避する。

 直後、やちよは槍を指先に滑らせて手元に戻すと同時に先刻の意趣返しとばかりに
三又槍を投擲した。

「ふんッ!!」

 槍は一直線に飛んでいき、シャドウ:ランサーに命中。
だが、それだけでは終わらなかった。

「被弾……! 回避行動を……」
「まだまだッ! せいッ!! たぁッ!!」

 三又槍を次々に増殖させ、行き着く間も無くシャドウ:ランサーへと飛ばす。

「……!! 損傷、甚大……!!」

 飛び交う槍がシャドウ:ランサーを掠め、或いは貫き、全身に傷跡を残していく。

「目標、消失……!?」

 やがて、三又槍に紛れ、やちよの姿が消えてしまう。
そして次の瞬間、やちよが姿を現したのは……

「何処を見ているの。ここよ」

 シャドウ:ランサーの頭上であった。そのまま自由落下の勢いをも加えながら、
腹部目掛けて槍を深々と突き刺す。

「――!!」

 さらに空中に三叉槍を複数召喚し、遠隔操作でダメ押しと言わんばかりに
槍を突き立てる。やちよは直撃の瞬間に時間差で離脱し、
シャドウ:ランサーは無数の槍で串刺しの状態になったまま地面に叩きつけられた。

「……これで終わりよ」

 やちよの言葉と共に、シャドウ:ランサーは音もなく霧散し、消滅していった。

「やったぁ! やちよさん! すごい!」

 いろはが歓喜の声を上げると、七海やちよが静かに微笑む。

「七海やちよ、か……強いな」

 ペルフェクタリアも素直に称賛の言葉を贈る。
他のメンバーも同様にやちよの勝利を称えていた。

「油断しないで。邪悪な気配が消えたわけじゃないわ」

 だが、やちよだけは気を引き締めるように言い放つ。
その言葉通り、周囲にはまだ複数の敵が蠢いていた。

「おお~、いるいる。今度はこのサイキョー魔法少女の由比鶴乃ちゃんが
お相手しちゃうよ~。私もやちよししょーの付き添いで特訓したんだかんね~」

 メンバーの士気は高揚している。この場において負ける要素は無いだろう。
しかしそんな中、月美の表情は浮かない。

「何だろう……嫌な予感がする。彩香ちゃん達の事が頭から離れない……」

9人目

「人間証明、消えぬ炎を携えて」

「な、何だこいつ!」
「バケモンだ!」
「くそっ!なんだかわからねぇが行くぞ!」

 月夜の号令と共に、1000人の同志がドフラミンゴが召喚した影騎糸に攻撃を開始した。
 近くにある武器を取り出す仲間たちの攻撃が、影騎糸に迫りくる。

 あるものはガスバーナーを改造した火炎放射器。
 あるものは威力をスチール缶を貫徹できるほどに増幅させたくぎ打ち機。
 あるものは矢の先端に手製の爆弾を括り付けた弓。

 あらゆる方法、あらゆる武器で攻撃をしてくる。しかし。

「効かねぇよ、そんなおもちゃ如きが!」

 火炎は切り裂かれ、高威力の釘は回避され、爆風も、炸裂する前に機能が停止する。

「諦めな。お前らには誰も救えねぇ!自分さえも!」
「くっ!」

 影騎糸の挑発に、彩香の表情に怒りがにじみ出る。
 しかし、その目までは曇っていない。

(フィオレたちは……間に合わねぇか。)

 今此処に向かっているフィオレたちの到着にはまだ時間がかかる以上、自分たちの力で食い止める必要がある。
 連射型ボウガンの矢のカートリッジを装填しようとする。

「させるかよ!」

 しかし、それすらも弾き飛ばされる。
 殴られ、吹っ飛ばされる月夜。

「兄さん!?」
「大丈夫だ、これくらいは!」

 立ち上がるも、傷が深いのかよろけてしまう。
 しかし、このままでは全滅は免れない。

「月夜さんを、やりやがったな!」
「諦めるな!」

 周囲の同志たちの攻撃も、まだやまない。
 襲来する無数の攻撃だけでも、ドフラミンゴの陰には大ダメージだ。

「けっ、何度も何度も同じマネを……猿かてめぇら……!」

 だが、拮抗以上にはなりえない。もう一押し何かが欲しい。
 その時。

「いよぅ!彩香!こっちだ!」

 到着が最初に間に合ったのは、デュマだった。

「受け取れ!!」

 デュマが渾身の力を籠め、細長い何かを投げつける。
 ぐるぐると回転する細身の武器。
 それは、デュマが改稿を終え完成させた「無銘の刀」だった。

 それを見た彩香は、刀に向かって跳躍した!

「ーーーーーアアアアアア!!!」

 その咆哮は、人間の証明だった。
 戦いから逃げずに、立ち向かう。
 自分の使命から逃げないで、弱さをも飲み込んで、立ち上がる。
 それが、弱い人間が持ち得る最大最強の武器だ。

(ああ、そうだ。)
「は、蛮勇だなァ!」

 デュマに渡された新しい刀を抜き、ドフラミンゴの影を攻撃する。
 超高速の剣が、超威力の拳が、何度も何度も打ち付け拮抗しあう。
 しかし所詮は人間に毛が生えた程度の強さ。いずれ拮抗は相手に押し返されてしまう。

「蛮勇女め!くたばれ!」

 しかし、彩香は目をつぶり、冷静にここまでの自分を省みる。

(ボクは、非力だ。)
「死ね、ただ死ね!」

 狂笑と嘲笑が響く。

(ペルさんや月美さんと比べて、ボクは明らかに弱い。)
「お前は弱ぇ、何も救えねぇ!」

(そうだ、その通りだ。何も救えないし一人じゃどうしても救われない。だけど。)

 自己の弱さを肯定する。
 それは、諦念ではない。

「だから死ね!楽になっちまえ!」
(だからこそ、逃げたくない。)

 捨て鉢になりそうな心を繋ぐ。
 バラバラになった誇りを、更に破砕する。

(こっから先の戦いで、死んだっていい。)
「………………!」

 ならば、一からやり直そう。
 復讐も、何もかも。だってもう彩香は_____決して一人じゃないから。

(だから、どうか。神様。ボクに力をください。)
「誰かを守れる力を!もう誰も失わないように!誰かを守れる自分で、いさせて___!」

 自然と、決意は声になってにじみ出ていた。



「はぁ、はぁ。」

 糸はついに切れ、影騎糸は消滅した。

「どう、合格?」
「……!」

 落とした電話を拾い上げ、いつものように皮肉じみた物言いをする。
 人形の持主、電話越しのドフラミンゴの心境は彼のみぞ知る。
 その笑みは楽しいのか、悔しいのか、愉悦か、緊迫か。

「流星旅団の結束を嘗めたな。お前の負けだ。」

 その眼の焔は、消えていない。

「___は、いいぜ今回お前らは見逃してやらぁ、だが!次会った時は貴様らの最期だ!」

 捨て台詞を吐き捨て、ドフラミンゴは通話を切った。

10人目

「次へ向けた選択」

一方その頃、ゲイツ達はというと
「……これでよし」
「回復魔法ありがとうございます、法術士ニューさん」
あの後、芝の攻略を終えたアルガス騎士団と合流し今後について話をしていた。
「ところでシバの様子はどうだった?」
「それが意外にも守備は低く敵も少なかったですね」
「恐らくですがメサイア教団にとってシバはそこまで重要な場所ではないだと思います」
「なるほど……」
(となると他のエリアに向かった皆さんが心配になるな……)
「しかし、ゲイツ殿達のお仲間がそんなことになっていたとは……」
「あぁ、なんとかして早く特異点へ行ってソウゴを助けに行きたいところだ」
「けど、今の私達には特異点へ行く方法がないし、何よりも港区の方も放ってはおけないわよね……」
現在特異点ではクォーツァーによる常磐ソウゴの処刑が迫っており、承太郎達など既に特異点にいるメンバーがいるとはいえそれでももしもの事を考えるとソウゴを助けるために今すぐにでも特異点へ行きたいとゲイツとツクヨミは思っていた。がしかし、承太郎達が特異点へ行くときに力を貸してくれたゼンカイジャーが今だに特異点の方にいる為、現時点でリ・ユニオン・スクエアにいるCROSSHEROESのメンバーが特異点に行く方法はなく、しかも港区ではメサイア教団による支配が今だに続いている以上、それを放っておくわけにもいかないのだ。
「……でしたらここは我々に任せてくれませんか?」
「騎士アレックスさん?」
「任せてくれって……」
「そのままの意味です。赤坂や他のエリアは我々や他の皆さんに任せて、お二人はお先にトゥアハー・デ・ダナンに戻ってください。
あそこの設備なら他の皆さんとも連絡が取れる可能性がありますし、もしかするとブルマさんが特異点に行ける技術を完成させてるかもしれません」
「それにそのクォーツァーからソウゴ殿を救出する為にはきっとお二人の力が必要です。なのでこれ以上ダメージを受ける前に一旦戻って準備を整えるのがよろしいかと……」
「……わかった。ならここは頼むぞ」
「皆さん、気をつけて」
「もちろんです」
ゲイツとツクヨミは先にトゥアハー・デ・ダナンへと向かった。
「……さて、では我々も動くとしましょう」
「おう」
「でしたらまずは、アザブへ向かったバーサル騎士ガンダム殿達と合流するのがよろしいかと」
「そうだな。では早速合流しに向かおう」
こうして騎士アレックスとアルガス騎士団はバーサル騎士ガンダム達と合流する為に麻布へ移動し始めた。

11人目

「集結!! 光の騎士たち」

 バーサル騎士ガンダム/勇者アレク/ローラ姫VS
シャドウ:バーサーカー/シャドウ:キャスターの戦いは続いていた。

「背徳と混沌の僕たちよ、現れ出でよ!! きええええええーッ!!」

 シャドウ:キャスターが手に持つ魔本から大量の海魔を召喚する。

「ええい、何と言う数だ……!」

 バーサル騎士ガンダムがじりじりと間合いを取る。
うねうねと触手にくねらせ、海魔たちが今にも飛び掛かってきそうだ。

「ローラ、俺の後ろに」

 アレクは即座にローラを庇うように前に出て、大剣を構える。
そしてシャドウ:バーサーカーが繰り出してきた攻撃を真正面から受け止めた。

「Gruaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 さらにシャドウ:バーサーカーは続けて攻撃を仕掛けてくる。
それを見かねたローラがすかさず魔法を行使して援護をする。

「アレク様、援護致します! メラ!!」
「――!?」

 シャドウ:バーサーカーはローラの放った炎に焼かれ、怯む。
その隙をついてアレクがシャドウ:バーサーカーに斬りかかった。

「でやあああああッ!!」

「Gaa!?」

 だが、シャドウ:バーサーカーは咄嵯に反応して回避行動をとり、攻撃を回避した。

「ちっ……!! なんて反応速度だ……!!」
「Gruu……UgAAAA!!!」

 シャドウ:バーサーカーは倒壊した街灯を手に取ると、
見る見る内に街灯が大型のマシンガンへと変容していく。

「何ッ……ローラ!!」
「きゃあっ……!!」

「Grururururuaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 咄嗟にローラを庇いながら瓦礫の影に身を隠す。
直後、マシンガンの乱射音が響き渡った。湖の騎士が丸腰の状態で罠にかかった際、
拾い上げた楡の木の枝のみで勝利したと言う逸話が宝具に昇華されたとされる。
つまり、如何なる物質であろうともシャドウ:バーサーカーが手に取ったものは
強力無比な武器へと変える事が出来るのだ。

「……くそ、飛び道具とは……どうすればいい」
「いかん、アレク殿とローラ姫が押されている……!!」

 バーサルソードで群れ成す海魔を一刀両断しながら、バーサル騎士ガンダムは
焦燥に駆られていた。いくら歴戦の勇士である二人であっても、
強力な魔力を秘めた宝具を持つ相手と相対するには分が悪い。

「私も加勢しなければ……!!」
「ひーはははははははは! 最高のCOOLをご覧に入れましょうぞ! さあ、恐怖なさい! 絶望なさい!! うひゃははははははははははははは……」

 シャドウ:キャスターが狂ったような笑い声を上げながら魔術を行使する。

「おのれ……!!」
「ぐばぁぁぁぁッ!!」

 海魔が吐き出す溶解液を寸でのところで回避しながら、
バーサル騎士ガンダムは迫りくる海魔の攻撃に対して、剣を振るい応戦するも、
数が多すぎて捌ききれない。
その時だった。上空から無数の光弾が降り注ぎ、海魔を焼き払う。

「騎士ガンダム殿!!」

 騎士アレックス率いるアルガス騎士団が駆け付けたのだ。
法術士ニューの魔法・ソーラレイによる破邪の光が次々と海魔を焼き払っていく。

「グギャエエエエエッ……」
「おお……! 来てくれたのか!!」

 バーサル騎士ガンダムが歓喜の声を上げる。
一方でシャドウ:キャスターは忌々し気に舌打ちをした。
スダ・ドアカ・ワールドの光の騎士たちが、今ここに全員集合を果たしたのだ。

「アルガス騎士団、参上!!」

「ぬうう……!! この匹夫どもめがァ!!」
「薄気味の悪いバケモノを使役しておいてよく言うぜ! どぉりゃあ!!」

 闘士ダブルゼータが獅子の斧を投擲し、横一列に並ぶ海魔を瞬く間になぎ倒していった。

「この剣士ゼータのスピードに付いてこられるかな!?」

 シャドウ:バーサーカーのマシンガンの弾雨の中を、素早い動きで駆け抜ける。
そしてすれ違いざまに斬りつけ、マシンガンの砲身を真っ二つに切断した。

「Uooooooooooooooo……!?」

「今です!」
「ローラ! 俺の剣にメラを!!」

「分かりました……メラ!!」

 銃撃が止んだ瞬間、アレクが飛び出すと同時にローラが杖を振りかざすと、
アレクの剣に炎が宿った。
そしてアレクはシャドウ:バーサーカーの懐に飛び込むと、
渾身の力を込めて剣を叩きつける。

「火炎斬りッ!! はあああああああああああああああああああああああああッ!!」

 剣と魔法の力が合わさった一撃が炸裂する。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ……!!」

 炎に包まれ、シャドウ:バーサーカーは燃え盛る。
その素顔を覆っていた鉄仮面が、炎と共に溶けていく。
そして、仮面の下から現れた顔はやはり影に覆われて判別する事は出来なかったが……

「見事……これほどの剣士たちと相見えることが出来ようとは……悔いはない……」

 最後に人語らしい言葉を口にすると、シャドウ:バーサーカーはそのまま崩れ落ち、
消滅した。

「馬鹿な……このような事が……」

「アレックス殿!」
「応!!」

 シャドウ:キャスターに向かって、バーサル騎士ガンダムと騎士アレックスが
同時に突撃する。
バーサル騎士ガンダムはバーサルソードでシャドウ:キャスターが持つ
魔本ごと切り裂いた。シャドウ:キャスターの手から魔本が離れ、宙を舞う。

「ぬおおっ……」
「闇の使者よ、消え去れいッ!!」
「成敗ッ!!」

 アレックスとバーサル騎士ガンダムの剣閃が十文字に交差する。
シャドウ:キャスターは身体を引き裂かれ、絶叫した。

「あぎいいいいいいいいいいいいいいやぁぁっぁああああああああああああああッ……
やはり、やはり神は私を見捨て給うたか……嗚呼、我が聖女■■■■……
貴女様の御姿を再び拝謁できる日はいつになるのか……ああ、ああああああッ!!」

 そして、シャドウ:キャスターは断末魔とともに消滅し、
残った魔本も消し炭と化して行く。

「哀れな方たち……きっと、ああも狂わねばならない出来事を
経験なさったのでしょう……」

 戦いは終わった。ローラ姫は、今まで敵であったはずのシャドウ:バーサーカーや
シャドウ:キャスターに対しても哀悼の意を表すのであった。

「アレックス殿は、確かゲイツ殿やツクヨミ殿と行動を共にしていたはずだが……」

「うむ。それなのですが、どうやら雲行きが怪しくなってきたようなのです。
特異点に向かった常磐ソウゴ殿が敵の手に落ち、
処刑の憂き目に晒されていると言う情報が……」

「何と……!」

12人目

「悔いはあるかい?食いと掛かってて、フグとかの毒死でも食いを行ったら悔いが無くなるんだ。あるなら食おうか、腐敗の根って毒のかき揚げ。」

「_クッ、ハハハハッ!」

笑い、嗤い、嘲笑う。
高らかに、甲高く、嘲る様に。
月灯りの影が支配する薄暗い路地裏に、不気味な声が鳴り響く。
声の元を辿れば、満月なのが余計に暗さを強調していたが、辛うじて二人の男がいる事が分かる。
一人は膝を折って爪先立ちをした、赤いサングラスを掛けた大男。
そこいらの男とは一回りも二回りも違うガタイを震わせ。
一体何が可笑しいのか、或いは心の底から面白がっているのか。
既に通話の切れた携帯を摘んだまま耳元に当て、堪え切れない様な嗤いを上げる男。

「クハッ、面白れぇなぁ!あそこまでの大見得張り通せる奴なんざ、元の海(せかい)でもそう多くはねぇ!」

天を仰ぎ見て傍若無人に語る様は、新しい玩具を見つけた無邪気な子どもの様で。
同時に、その言葉使いは加虐心に駆られた醜悪な下郎にも思えて。
サングラスに隠れた目付きからは、そのどちらかを推し量る事は叶わない。

「泳がし甲斐がありそうだ、楽しめそうだ!彩香って奴ぁ!」

彼、ドフラミンゴをここまで昂らせる物は、彼の語る人物であることは相違無い。
彼にとって興味の尽きぬ新たな世界で、今しがた見出した最も新しい楽しみ、それが彩香なのだ。
彩香が見せつけた輝きに、魅せられたのか、はたまた己の過去と重ねたのか。
今に至るまで愉悦の余韻は止まず、これからの楽しみを考えれば脳が快楽に溺れそうだった。
故に彼は堪え嗤いをする。
これ以上は、狂いそうだから。

「クヒッ、ハハハハッ…なぁそう思うだろ、刑事さんよぉ?」
「く、そ…」

視線を下げて、血だまりの中を見遣る。
そこにいたのはもう一人の男、大男の影に隠れるようにして仰向けに倒れ伏す壮年の男性、警部の姿。
既に事切れていても可笑しくない重傷。
苦悶の表情を浮かべたまま固まっており、しかしそれでも、まだ目は見開かれている。
その生々しい瞳は、まるで何かを訴えるように。
男は一瞬だけそれに呆れる様な仕草を見せた後、再び口を開く。

「皮肉なもんだよなぁ?テメェの行いで輝いた希望を、テメェの行いのせいで見届けられねぇんだ。」

それは誰に向けて言ったわけでもない独り言。
あるいはこれから死にゆく者に対しての追悼か。
否、この男にはそもそも弔う気持ちなど持ち合わせていないだろう。
ただ目の前の男を、まるで道端に転がった小石の様に。
しかし何故か、確かに一人の人間として見届けていた。

「いっそ笑えねぇ、ろくでもねぇ親父に似て。」

ドフラミンゴが発した声は酷く冷淡で、しかしどこか寂しげでもある。
親父なる人物を恨んでいるのか、蔑んでいるのか。
少なくとも、良い感情を抱いているわけではないようだ。
死に体を見つめる瞳に映るのは、憐みか、それとも別の何かか。
しかし直ぐに哀愁の意を無くし、口角を吊り上げ立ち上がる。

「だがな、最後に強ぇ奴に賭けれたのはお前の勝ちだ。勝ちは正義だ、死に方ぐれぇは選ばせてやる。」

そして徐に、警部へと歩み寄る。
靴の裏にまとわりつく赤黒い液体を踏みながら、一歩ずつ。
水を踏みしめる足音が、路地裏に響く。
血の海を歩くその男の顔には、狂気すら感じられる程、残酷な笑顔が浮かんでいる。
しかし警部には、その狂気が最後の慈悲にも思えて。
死への恐怖が薄れていくのを感じつつも、ただその顔を見上げることしか出来ない。
そうして二人の距離があと数歩という所まで近づいた時、ドフラミンゴが屈みこんで。
視線が交差した気がした時、自然と口が動いていた。

「か、ぞく…」

掠れて途切れかけた、殆ど声にならないような言葉が、しかし確かに聞こえた。
警部が必死になって紡いだ言葉に、ドフラミンゴが初めて反応らしい反応を見せる。
首を傾げ、サングラスを少し上にずらして警部を見下ろす。
その様子に警部は気づき、最期の力を振り絞って言い放つ。

「さ、いごに、声、を…」
「あぁ、そうだったな。メサイア教団の話じゃ、確かテメェの人質だったな?」

今思い出したかのようにそう言って、ドフラミンゴは両手で警部の首を掴み、軽々と持ち上げる。
警部が苦しそうに藻掻くのを面白おかしそうに見つめてから、その顔を覗き込む。
一頻りその様子を見てから、飽きた様に顔を逸らし、その耳元に口を近づけ、呟く。

「安心しろ、家族は無事だ。お望み通り聞かせてやる、嬉しいだろ?感謝しろよな、ハハハッ!」

そう言ってドフラミンゴが手を離すと、支えを失った身体が地面に落ちる。
そのまま力なく横たわる姿は、まさしく満身創痍の屍そのもの。
しかし、それでも僅かに息をしている。
もうじき命は潰えるだろうが、そんな事はお構い無しにドフラミンゴは携帯を弄る。
通話履歴から呼び出し、コール。
繋がった通話先の相手と少しの話し合いをしてから、警部の耳元に携帯を置く。
そうして耳に入ってきたのは、警部にとって聞きたくて堪らなかった声。

『とう、さん?』
「ぁ、あ…」

赤い血溜まりの中に、無色の液体が流れ込む。
嗚咽を上げ、通話越しの声を噛み締める様に、警部は声を返す。
今この瞬間だけが、警部にとっての救いだから。

「家族水入らずってか?後は勝手にしろ。」

だが、ドフラミンゴにとっては三文芝居にも足らない演劇を見せられている様な物だったのだろう。
つまらなさそうな声でそう言うと踵を返し、振り返ることなく空へと消えていく。
その後ろ姿を、警部は睨みつけることしか出来ないだろう。
だが、幾ばくも無い命の使い道は、そんな暇すらも惜しい。
それに矛先を向けるべき対象が、もう眼前にいないのだから。
故に、警部はただひたすらに家族の声へと耳を傾ける事に徹した。

「_____。」
『え?父さん?なんて…』
「…ぁ、…あぁ。」

何かを伝えようとするが、上手く口が動かない。
既に身体の自由が利かないどころか、意識も薄れ始めている。
辛うじて口だけは動くのが、奇跡にも等しい状態だ。
それでも彼は、必死に口を動かす。
少しでも長く、家族と最後の時を語らいたい。
例えそれが、自らの喉を引き裂く事になろうとも。
それこそが、彼に残された最後の願い。

「ぁい、して、る…」

そしてそれは叶えられる。
家族の声を聞くことが出来たのだから。
しかしそれも束の間。
その言葉を紡ぎ終えた後、警部は目を閉じる。
彼の顔には、一筋の涙が伝っていた。
その光景は、とても痛ましいものだろう。
だが、同時にこうとも思うだろう、幸せだったんじゃないか、と。
そう思わせる程に、警部の顔は穏やかで、どこか満たされた様子だった。
最後を家族に看取られたのだから。
そんな折、遠くなっていく意識の中で。
ふと、気付けばすぐ近くで足音が鳴っている事に気付く。

(あの世からの迎えだろうが、最近の天使は徒歩なのだろうか。)

そんな事を考えていると、急に痛みと意識が引いていく。
いよいよ、体が駄目になったか、そう思った時。

「_後は任せろ。」

最後に見えた、蒼い何か。
男の声と共に、警部の意識は無くなった。

13人目

「ローラ姫の決意/新橋戦線、異常アリ」

「……」

 シャドウサーヴァントに勝利したにも関わらず、ローラの表情は暗い。 

「どうしたのです、ローラ。もしや何処か怪我でも……」

 アレクが心配そうにローラ姫を見つめて言う。

「いいえ。わたくしは平気です。だからこそ……でしょうか。
アレクやバーサル騎士ガンダム様はいつも傷だらけで戦っておられると言うのに、
わたくしは……アレク、わたくしはあなたの力になりたいのですが、
今のままではまだ足りません。どうすればあなたの助けになれるのか分からず……」

 そんなローラ姫にアレクは答える。

「ローラ、あなたを守るのが私の使命なのです。あなたが無事でいてくれるからこそ、
俺は……」
「いいえ、それだけでは駄目なのです。わたくしももっと強くならなければ……」

「ホイミ、メラ、ギラ……世界は異なれど、
それらの魔法を使いこなせると言う点においても姫様には十分な素養があると思いますよ」

 同じく魔法を主体に戦う法術士ニューが言う。
 
「ニュー様、是非わたくしにもっと強力な魔法の使い方を教えてください!」
「……分かりました。私が責任を持って姫様に伝授致しましょう」

(ローラ……もはやあなたは一国の姫と言うだけでなく、
一人の人間として立派に成長しているではありませんか)

 心の中でそう思いながら、アレクは微笑んだ。

「――ちゃらああああああああッ!!」

 新橋駅付近では、鶴乃が獅子奮迅の戦いを繰り広げていた。

「いっくよぉー!! おりゃああっ!!」

 剣が仕込まれた扇をブーメランのように投げ飛ばし、竜牙兵たちを次々と倒していく。

「一気に殲滅、ストラ―イク! なーんてねっ」
「ギオオオオオオオオンッ!!」

「鶴乃! 上から来るわよっ!」
「うおっ、でっか……!?」

「せえええええいッ!!」

 空から襲ってきたワイバーン型の魔物に対して、やちよが三又槍を投げると、
その首筋に突き刺さった。

「グギャアアアッ……」
「よっしゃあ、トドメェ~ッ!! しゃっしゃああああ~~~ッ!!」

 鶴乃が跳躍し、ワイバーンの頭上の高さにまで達すると
背中を反り返らせて両手の扇を一気に振り仰ぐ。
すると、高熱の火炎を伴う熱風が吹き荒れ、ワイバーンは焼き鳥のように焼け焦げて
消滅した。

「なーっはっはっはー! 私はサイキョーだから勝ぁ~つ!!」

 着地し、扇を開いてガッツポーズをする鶴乃に対し、いろはが言う。

「凄いよ、鶴乃ちゃん。やちよさんもだけど、鶴乃ちゃんも前より
断然パワーアップしてるよね?」
「でしょでしょー? これも全部、わたしの努力の成果だよー!」

「調子に乗らない。ここ一帯の敵は粗方片付いたみたいだし、そろそろ移動しましょう」

 やちよの言葉に一同はうなずくと、その場から移動を開始する。

「あのキング・Qのように、この新橋近辺を支配しているメサイア教団の大司教を
倒さないと、さっきみたいな連中がまた出てくるって事?」
「そう言う事だろうな……」

 黒江とペルフェクタリアが呟く。

「私達の役目は、新橋に巣食う怪物たちが別エリアへ侵攻するのを防ぐことよ。
でも、このままじゃいずれ限界が来るわね……」

 やちよは厳しい表情で言う。
彼女の言葉通り、既に新橋駅の周辺だけで百体以上の敵を屠っているのだが、
敵の数が減る気配はなく、むしろ増え続けているのだ。
ビショップの自動英霊召喚システムを押さえない限りは、シャドウサーヴァントが続々と
生み出されてしまう。

「何とか、敵の出どころを探れれば良いんだけど……」

14人目

「悪魔覚醒まで秒読み段階」

「ボク……やっぱだめだな……皆の事、守れないんだってあいつに言われちゃったよ。」

 今までの事からか、その物言いには卑屈さがあった。
 涙ながらに、自分の弱さを話す。

「そんなことないよ、お前は事実として俺達を守ってくれた。あの一撃がなければ、きっとあいつを倒すことができなかっただろうさ。」
「……!」
「お前が人想いで、優しいままでよかった。」

 まるで子供を慰めるように彩香を抱きしめながら、その耳元にささやく。

「彩香。どうしても戦いたいか?死ぬかもしれないとわかってても?」

 それは、兄としての不安からか。
 人として、大切な人を失いたくないという感情からか。

「うん。」

「そうだな。お前はいつも優しくて、そのくせ勇気と矜持だけは一人前だったな。だから……。」

 月を仰ぎ、兄はため息交じりに妹に秘密を話す。

「実は、お前には黙っていたことがある。」



 燃える地獄。
 次々に召喚される、影の英霊。

 ビルの屋上で、更に凄惨なものと化してゆく新橋をビショップとアルキメデスは見下ろしていた。
 
「オモヒカネ、でしたっけか。アレの調子は?」
「シャドウサーヴァント召喚用のはセーフモードで起動している。だが、そろそろ休眠させないとな……ホムンクルスも交換しなければならないし、ブロリー召喚のための電力がそろそろまずい。正直な話ビルの電力だけじゃ間に合わないのだ。」

 自動英霊召喚装置は、ホムンクルスの魔術回路を電池として動いている。
 だが、永遠が世の中にはないように彼らも永遠じゃない。
 その上、パラガスからの依頼でブロリーの召喚の準備をしている以上。これ以上の露払いは不要。
 しかし、今迫りくるCROSS HEROESのメンバーやシャルル遊撃隊はどうにかしなければならない。

「連中の対処は私が。ビショップ、手出し無用で頼みますよ?」
「……ではブロリー召喚装置の調整に行ってくる、一応シャドウサーヴァントを最後に1体寄越しておこう。後は好きにしろ。」
「分かった。」

 悪態をつき、吸っていたタバコの吸い殻を踏みつけてビルの中に戻っていく。
 ビショップがビル内部に戻るのを見送った後、アルキメデスは新橋のビルから飛び降りた。
 シャルルマーニュの前に、アルキメデスが立ちはだかる。

「アルキメデス、もう逃げられないぞ!」 

 鍵と銃とシタールと剣を構える、シャルル遊撃隊の4人。
 対するアルキメデスは余裕の表情を崩さない。

「ふふふ、その程度で追い詰めた気になるとは。これだからあなた方は愚か者なのですよ……!」

 その瞬間、ビルの一室から大きな黒い影が出現した。

「しまった、シャドウサーヴァントだ!」

 アルキメデスが降りてきたビルから招来される、影のようにも靄のようにも見える英霊。

「■■■■■■■■■■■■ーーーーー!!」

 輪郭を見てみると、まるで中華風の鎧に身を包んだ、巨大な戟を携えている武人。 
 しかし先の凄烈な咆哮。
 新たなるシャドウ:バーサーカーが出現したのだ。

「これで少なくともフェアにはなるでしょう?」
「くっ、だが逃げるわけにはいかねぇ!皆行くぞ!」

 4人が武器を構える。
 対するシャドウ:バーサーカーとアルキメデスも迎撃態勢を整える。

「吹っ飛べ!」

 江ノ島の持つショットガンが火を噴く。
 超高火力でかつ追尾性能を持ったショットガンによる攻撃だ。喰らえばひとたまりもない。

「■■■!!」

 しかし、その一撃は戟によって弾かれ破砕される。

「マジかよ!絶望的バケモンか!?」

 咆哮する。
 大地を裂くかのような咆哮に、周囲の大気が、その場にいた全員が振るえる。

「くそ、シャルル!江ノ島!アルキメデスは任せた!」
「あいつは俺たちに任せろ!」

 リクとデミックスが暴威のままに暴れ回るシャドウ:バーサーカーを追う。
 そして、残されたのはシャルルマーニュと江ノ島、そしてアルキメデス。

「シャドウサーヴァントはを彼らに任せるとは。」
「信頼しているからな!そして、残すはお前だけだ!」
「覚悟しな、アルキメデス!」

 と、その時だった。
 淡い輝きが、それも次第に強くなる光が、ビルの一室から耀き始めた。

「何か様子が変だ……!」

 アルキメデスは、勝利を確信した笑みを浮かべる。

「あなたでも気づきますか。そう、いよいよあの悪魔が目覚めるのです……!」



 そのころ、ビルの研究室。
 その一室にて。

「待っていたぞビショップ。」
「待たせたなパラガス。後はここの電力を全部使えば、ブロリーを召喚できる。俺は撤退するから後は好きにしてくれ。」

 悪魔:ブロリーの覚醒まで、あとわずか___!

15人目

「燃えつきろ!! 熱戦・烈戦・超激戦」

「ふははははは! いいぞォ!! いよいよこの時が来たァ!!!」

 パラガスの目の前で起動する召喚式。ブロリーが、ついに召喚されようとしていた。

「……な、なんだこれは!?」

 しかし、パラガスの目の前に現れたのは、激辛麻婆豆腐だった。

「た、食べ物なのか……?」

 一方、新橋駅での戦いを終えたいろは達の元にCROSS HEROES第1部隊……
孫悟空やルフィ、バッファローマン……
そしてチームみかづき荘の片翼、深月フェリシアと二葉さなが駆けつけていた。

「いろはァ!!」

 フェリシアがいろはに抱きつく。

「ちょっ、フェリシアちゃん!?」
「フェリシアもさなちゃんも無事でよかったよ~」

「はい、何とか……」

 鶴乃とさなも再会の喜びに浸っていた。
いろは達はメサイア教団の大司教、キング・Qを倒した事、
そして今はもうひとりの大司教、ビショップを捜索中である事を話す。

「ここに来るまでに倒した影のような連中も、メサイア教団が生み出した
サーヴァントの成り損ないと言う訳か」

 ピッコロは月美やペルフェクタリアから話を聞いて納得していた。

「それで、ビショップとかいう奴はまだ見つからないのか?」
「えぇ、この辺りにいるのは間違いないのですが……」

 すると突然、遠くから爆発音が聞こえてきた。

「今の音は?」

 音の方角へ目を向けると、ビルの天井を突き抜けて天高く光の柱が立ち上っていた。

「あれは……!?」
「カカ……ロット……!!」

 召喚式のゲートを無理矢理にこじ開けて出てきたのは、ブロリーだった。
尻餅をついたパラガスの眼前で、召喚されたブロリーは雄叫びを上げる。

「この気は……!?」
「ああ、間違いねえ……ブロリーだ……間に合わなかったんか……!!」

 悟空、ベジータ、ピッコロは舞空術で先行し、ビルの中にいるのであろう
ブロリーの所へと向かう。

「俺達も行くぞ!」
「はい!」

 他の面々もその後に続いた。
衝撃波で室内のものが滅茶苦茶になり、散雑としたビル内部に入ると、
そこには見間違うはずもない、ブロリーの姿があった。

「ブロリー……!」
「カカ……ロッ……トォォォォォ……!」

 ブロリーと目が合う。
その上半身に深々と刻まれた痛々しい傷痕……

『はははははははははは!! 雑魚のパワーをいくら吸収したとて、
この俺を超えることは出来ぬゥッ!!』
『そうかな……!? やってみなきゃ分かんねえ!!』

 かつてパラガスとブロリー親子が、ベジータ王家への復讐を果たすために
悟空やベジータたちを誘き寄せた辺境惑星での戦い。
ベジータを亡き者にするために用意したグモリー彗星への衝突が迫る中、
仲間たちのパワーを集めた悟空が、伝説の超サイヤ人と化したブロリーと
最後の戦いを繰り広げた。

『オラ、おめえを絶対に許さねええええええええええッ!!』

 終始悟空たちを圧倒したブロリーの絶対的なパワーの前に、
仲間達の力を借りた悟空は奇跡の一撃を拳に込め、遂にブロリーを打ち破ったのだ。

『ば、馬ああああああああああ鹿ああああああああああああああああ
なああああああああああああああああああッ……!!』

 その堅牢な筋肉をも突き破り、体内で高まり続けるエネルギーが逆流現象を引き起こした
ブロリーは大爆発と共に消滅した……はずであった。

「間違いねえ……あいつはオラたちがあの時戦ったブロリーだ……」
「あの戦いから生き延びていたと言うのか……」
「サイヤ人は死の淵から立ち直った時、かつて以上の強さを発揮する事がある。
ブロリーもまた、それを経験したという事か……」

「まだあの時のとんでもねえ超サイヤ人の姿でもねえってのに……何て気だ……!!
正直、誤算だったぞ……」

「ふはははは、その通りだァ!! ベジータ! カカロット! 
トラオムでは不覚を取ったが、これこそが正真正銘、本物のブロリーなのだ! 
バイオブロリーなどと言う泥人形とは格が違うのだよ!!」

 パラガスが勝ち誇っていると、

「うおおおおおおおおおおおーーーーーッ!!」

 瞬時に超サイヤ人に変身したブロリーが怒りのままに突進してきた。
両腕から繰り出すラリアットで悟空とベジータが吹き飛ばされる。

「くっ……!」
「ぐおっ!」

「孫! ベジータァッ!!」
「中から誰かが飛び出してきた!」

 ビルの壁を突き破り、空中に放り出された悟空とベジータ。

「このッ!!」

 悟空とベジータは同時にブロリーの顔面に蹴りを放つ。
怯んだ隙に距離を取ろうとするが、逆に足を掴まれてしまう。

「なにッ!?」
「ずぇああああああああああああああああああああッ!!」

 力任せに地面に向けて2人を放り投げる。

「ぐあっ!!」
「ぐうっ!!」

 2人が地面に叩きつけられる瞬間、バッファローマンやルフィがキャッチする。

「大丈夫か!?」
「助かったぜ……!」

「ぬんッ!!」

 ブロリーはさらに空中から無数の連続エネルギー弾をバラ撒いて追撃する。

「みんな避けろ!!」

 悟空の掛け声で全員が回避行動に移る。
しかし、ブロリーの放った攻撃がアスファルトを砕き割りながら、徐々に接近してくる。

「つあああああああああああああッ!!」

 ピッコロが側面から連続魔光砲を放ち、ブロリーのエネルギー弾の射線上に炸裂させた。

「ピッコロさん!」

 いろは達の前にピッコロが着地し、体勢を整えた悟空とベジータ共々、
ブロリーと対峙する。

「みんな……あいつはとんでもねえバケモンだ。
正直、おめえ達を守りきれるか分からねえ……」
「私達も戦います!」

「奴は並大抵の敵ではない。恐らくは実体が虚ろだった
今までのシャドウサーヴァントよりも遥かに強力な存在だろう」

 悟空とピッコロの言葉を聞き、黒江は不安そうな表情を浮かべた。

「シャドウサーヴァントも、凄く強かったのに……」
「なぁにビビってんだ、黒江! シャキッとしろ! やるっきゃねえんだぞ!」
「う、うん……そうだよね……」

 フェリシアに喝を入れられ、背筋を正す黒江。

「あれがお前達の言っていたブロリーって奴か。なるほど、
キン肉マンの火事場のクソ力を目の当たりにした時のようなド迫力を感じるぜ……
しかも、あれでまだ本気じゃないんだろう?」

 バッファローマンは瞬時にブロリーの恐ろしさを肌で感じ取る。
悪魔超人としての本能が、眼の前にいる相手が只者で無い事を伝えているのだ。

「さっきからあいつに覇気をぶつけてるけど、てんで効いちゃいねえみてえだ。
しししっ、面白え。やってやろうじゃねェか!」

 歯を剥き出しにして不敵に笑うルフィ。戦意は高揚している。

「カカロット……!! カカロットォォォォォォォォォッ!!」

 感情の爆発と共に気を高めるブロリー。道路が瞬時にクレーターと化し、
激しい衝撃波が嵐を巻き起こす。

「やるっきゃねえ……! みんな、行くぞ!!」

 ついに完全なる姿で復活してしまったブロリー。
CROSS HEREOSとの壮絶バトルが、幕を開ける!!

16人目

「傷だらけの英雄」

「この身に受けた二度の屈辱…!」

在りし日の記憶が、憎悪を内から沸々と、しかし加速度的に湧き上がらせる。
倍速する血流は胸の古傷を痛ませ、それがまた怒りを生み出す。
身体中を駆け巡り張り巡らされた血管さえ、残らず沸騰させる激情。
その全てが、ブロリーを殺意へと突き動かすのには十分過ぎた。

「晴らさせてもらうぞ、カカロットォォォ!!!!」

瞬間、爆発するかの様に飛び掛かるブロリー。
その速度は音を置き去りにし、彼の姿は陽炎となる。

「来るぞ、構えろっ!」
「ハアァッ!!」

悟空の警告が響き渡る一瞬の後、訪れる気の爆発。
円陣の中心で巻き起こった一手は、CHに各々の判断を迫らせた。
気に慣れた悟空やベジータ、超重量級のバッファローマンは堪えてみせたが、他の者は違う。
その衝撃波に耐える事が出来ず、放射状に数メートル程後退。
即ち、散り散りに分散させられたのだ。

「ウオァァァーーー!!!」
「クソッ、コイツ前よりもパワーアップしてやがるぞ!」

そしてその隙を逃すブロリーでは無く、猛攻は続く。
残った悟空達を打ち倒さんと腕を振り上げ、突き付ける。

「グァッ!?」
「ガァ、アッ!」

咄嗟に両手で受け、防がんとするも、突き抜ける衝撃が防御を貫く。
力に任せた単純な一撃は、伊達では無い。
更に目にも止まらぬ速さでラッシュへと昇華される。
まともに食らうまいと避けに徹するも、拳が大気を裂く度、衝撃波によってじわじわと体力を削られていく。

「オメェ、中々、腕を上げたなっ!」
「そういうならば、大人しく死ぬが良い!」
「そいつぁお断りだな。」

賛辞の言葉と殺意の返し。
互いに相容れぬ事を改めて認識し合った時、次に仕掛けたのは悟空だった。

「波ぁーーーっ!」
「ぬぅ!?」

回避の中で貯めていた気を差し向け、不意打ち気味に解き放つ。
思わずたたらを踏み爆炎に消えるブロリーを前に、一度仕切り直さんと後方へ飛ぶ悟空。
だが。

「何処へ行くんだ?」
「なっ…グアーッ!!」

逃がしはしないと言う執着が、煙を掻っ切って今一度悟空を捉える。
胸ぐらを捕まれ、引き込まれる胴体。
同時に打ち込まれるんとする拳。

「何処を見ている!」

だが次の瞬間、背後から撃ち込まれた気弾の衝撃。
煙に紛れたベジータの奇襲は見事に決まり、ブロリーを軽く吹き飛ばし、ビルの壁面へと叩き付ける。

「ヘヘッ、サンキューベジータ!」
「ふんっ、貴様の情けない所を見たくないだけだ。」

戦いの間に起こるいつものやり取り。
だが、それがまたブロリーの琴踏みに触れる。

「雑魚がぁ!!」
「不味い、ベジータ!」

山吹色の奔流がビルの壁を蹴り砕き、勢いのままに飛び出してきた。
激昂したブロリーの矛先は当然、ベジータへと向かう。
それを瞬時に悟った悟空は警告する。

「チィッ!」

しかしベジータは動じない。
むしろ好都合だと言わんばかりにブロリーを迎え撃つ。
だがその刹那、視界の端を過ぎる影があった。
それは悟空の背を抜け、一直線にブロリーに向かっていく。
そして直撃し、互いに威力を相殺した。

「何ぃ…?」

彼の眼前に立っていたのは、同じく筋骨隆々の大男。
ロングホーンを頭に携えたその者は、バッファローマンだった。
彼は単身でブロリーに組み付き、見事抑え込んでいた。

「悪いな、見ていたら挑まずにはいられなくてな!」
「貴様ぁ…次から次へと!!」

ブロリーという強大な相手に己の肉体一つで抗う。
バッファローマンはブロリーを掴んで離さず、そのまま押し返さんと力を込める。
ブロリーは怒り狂って振り解こうとし、そうして力比べが始まった。

「ぬぅぅ…うぉぉーーー!!」
「おぉぉぉぉぉーーー!!!」

単純な腕力で勝るブロリーに対し、しかしバッファローマンの腕力は拮抗していた。
いや、それ以上だ。
パワーの面では僅かに劣るものの、技術でブロリーを上回る。
それこそが、彼が1000万パワーの超人たる所以だった。

「ば、馬鹿な!何故押し切れん!?」
「この俺を、そこいらの雑魚と宣った事を…!」

ブロリーと互角に渡り合うその姿は、正に荒れ狂う猛牛の化身。
荒ぶる怒濤はブロリーの怒りを上塗りしていく。
均衡が崩れる、ブロリーが圧された。
遂に、致命的な隙を晒してしまった。
その隙を、悪魔は決して逃さない。

「その身で後悔しな!『連続・ハリケーンミキサー』!!!」

捻じれを加えて突き出される、ロングホーンの突進。
圧倒的な質量が持った回転エネルギーを鋭利に受け、宙を舞うブロリー。
幾ら空を飛び戦う者と言えど耐え切れぬ、三半規管の混乱。
成す術も無く、連撃を食らうかに見えた。
だが、ブロリーもまた引き下がるつもりは無い。

「ぬぅ、う、おぉ、おおおぉぉぉ!!」
「な、何!?」

身体が引き千切れる感覚を強引に抑え込み、宙に留まって見せるブロリー。
その執念とも言うべき有様に、バッファローマンも一歩引かざるを得ない。
ブロリーを突き動かす激情は、今この瞬間にも膨れ上がっていた。

「まだ、だ。この程度で、この俺を超える事など…出来ぬ。」

最早その表情には、先程までの憎悪や復讐心といった物は見当たらない。
代わりに、今までにない気の濁流が彼を包み込んでいる。
ただ殺す事、それだけを体現せんとする者だ。

「ぬうぅ…!!」

声が、大気を震わせる。
同時に気の濁流は、ブロリーという肉体を媒体にして圧縮されていく。
周囲の情景をも歪ませる程の力場。
それが最高潮に達した時。

「おぉぉぉぉぉーーー!!!」

奔流が、走った。
周囲360度、見境無しに放たれる気弾の嵐。
一撃一撃がビルを消滅させて尚有り余る力の塊だ。
その余波は砂塵が巻き起こし、渦となって戦場を包み込むほどに膨れ上がる。
ブロリーは今、戦場を支配していた。

「これは、不味いか…!?」

砲撃の弾幕を前に思わず気後れするバッファローマン。
絶え間無き気弾の雨に、その体躯は余りにも不利。
被弾を覚悟し、堪える体制に入る。

「あぶねぇ、角のおっちゃん!?」

だが、横合いから振り込まれたハンマーが気弾を弾き飛ばす。
割り込んできたのは、フェリシアだ。

「間に合った…どーよ、オレのパワー!」
「へっ、やるじゃねぇか嬢ちゃん。いや、フェリシアだったか?」
「フフーン、名前を憶えて貰えるなんて嬉しいねぇ!」

窮地に駆け付ける覚悟と決意に、敬意を表するバッファローマン。
フェリシアもまた、その敬意を素直に受けた。

「貴様等、最早容赦せんぞ。嬲り殺しだ!」
「出来るかな?俺達相手によ!」
「応よ、舐めて貰っちゃ困るぜ!」

バッファローマンとフェリシア対ブロリー、パワーコンビによる激突が始まる。
その最中、少し離れた所で悟空達はブロリーの様子を伺っていた。

「パワーだけ、じゃねぇ…スピードもさっきまでと段ちげぇだ…!」
「だったらどうする、降参でもするか?」

一度は決着を付けた時よりも更に強靭なブロリーに、思わず冷や汗を浮かべる悟空。
たった数撃、それだけで肩で息をする様なのだから。
それでも。

「ヘヘッ、それこそ冗談キツイぜ!」

17人目

「生き残れ! 悪食・奇襲・逃走のパラガス!」

「はふ、はふ、ふ、ふふふふふ……! 
カカロットめ、ブロリーの圧倒的な力に気圧されておるわ……」

 召喚された激辛麻婆豆腐を律儀にも食するパラガスは、
余裕綽々と言った様子でブロリーとCROSS HEROESの戦いを眺めていた。

「だがしかし、はふ、はふ……この食べ物、なかなかどうして美味ではないか……
はふはふ……やはり全宇宙で最も環境の整ったこの地球と言う惑星、
是が非でも無傷で手に入れたいところだ……!」
「あなた、もしかしてメサイア教団の関係者ですか!?」

「むう……!?」

 ブロリーの爆発波で散り散りに吹き飛ばされたいろはたちが、
偶然にもパラガスの前に現れた。

(この小娘ども、CROSS HEROESの関係者か……!? 服装から言って
深月フェリシアと同じ魔法少女……ま、まずいぞぉ……!?)

 まだ僅かに具が残った激辛麻婆豆腐の器を静かに床に置き、
ここは一旦退いて、態勢を立て直す必要があると判断したパラガスは
何とかこの場を誤魔化そうと考えた。

「ま、まあ、待ちたまえ。私はパラガスと言って、決して怪しい者では無い」
「あっ、このおっさん、ブロリーの父親だぜ!」

「何ィ!? この豚、どっから現れた!?」

 ジンジャータウンの一件以降、ダイヤモンドドッグスでの経験が活きたのか
生存スキルが格段に上がり、いち早く危険を察知して安全な場所に避難していた
ウーロンが今になって姿を現す。
そして彼とパラガスは過去にも幾度となく顔を合わせている。

「やっぱり敵じゃないですか!」

 いろはや黒江がじりじりと距離を詰めてくる。
その様を見て、パラガスは焦燥感を募らせていく。

「待て、落ち着け! 今はブロリーを止める事が先決であろうがぁ!」
「騙されんな! このおっさんにブロリーを止める事なんか出来っこないんだから!」

「ええい、この豚ァ! 余計なことばかり言いおってからにぃ!!」

 激昂したパラガスは咄嵯に激辛麻婆豆腐を手に取ると、それをウーロンに投げつけた。

「うぎゃああ!?  目が、目が痛いいい!!」

 悶絶して転げ回るウーロン。

「よくもウーロンさんを!」
「君たちもまずは武器を下ろしたまえ、私はこの通り、
何の抵抗力もない非力な老人だ……!」
「それは……」

「そんな私を一方的に攻撃するとなれば、君たちは正義の味方ではなく
ただの外道になってしまうのだ……!」
「くっ……!」
「どうか、私の話を聞いてくれ……!」

「……わかりました。こちらとしても、無駄な殺生は避けたいですからね」
「ありがとう、感謝するぞぉ! ……などと、その気になっていた貴様らの姿は
お笑いだったぜ!!」

 言葉巧みに油断を誘ったパラガスは不意打ちのエネルギー弾をいろは達に向かって放つ。

「きゃっ!?」

 足元に着弾したエネルギー弾は爆裂し、爆風によっていろは達は体勢を崩した。

「俺とて、元・惑星ベジータの佐官。この程度の芸当は造作も無い……!」
「卑怯者……!」

「なんと言われようと結構!! 
さあ、貴様らもブロリーに八つ裂きにされるがいい、さらばだ!!」

 視界が晴れる前に、パラガスは一目散にその場から逃げ出す。
逃げ切れるかどうかは別として、今の彼にはそれ以外の選択肢が残されていなかった。

「逃がしません!」
「待てェーッ!!」

18人目

「月夜に現る災禍、クローン軍団!」

混沌の渦中たる新宿。
そこは幾多の戦乱が犇き合っていた。
その一つ。

「くそぅ、しつこい奴等だ。」

苛立ちながらそう呟いた男、パラガス。
宙を割く音を掻き立てながら空を飛ぶ彼の後ろには、色取り取りな幾多もの影が追いすがっていた。

「よくも、よくもここまでコケにしてくれましたね!?」
「逃がしません、絶対に逃がしませんよ!貴方だけは!!」
「奴の言いそうな台詞を…!」

執念とも言うべき気迫を放ついろは達。
嘗ての故郷を支配した(今は引退した)宇宙の帝王を思い起こさせるが如き迫力に、軽く汗が流れる。
それと共に繰り出される追撃の数々も、パラガスには厄介極まりなかった。

「ぬぅ、またか!?」
「避けられた。でも、次!」

今のも、ビルの影から飛び掛かってきたペルフェクタリアの一撃だ。
咄嗟に身を捩って回避するも、即座に立て直す襲撃者。

「今度こそ落ち_」
「させませんっ!」

反撃に転じようとするも、後ろからの攻撃がそうはさせない。
辛うじて避けられているものの、何時まで続くか分からない。
それでも、ビルの合間を縫って地を這うように飛ばなければならない屈辱を、パラガスは浴びねばならなかった。

(空へ逃がさない戦術を取れるのか、コイツ等。サイヤ人を仲間に取ってるだけはある!)

ただ逃げるのならば、空を自在に飛べる舞空術で一方的に舞い上がれば良い。
だが、同じく舞空術を使う者と手を組む者である彼女らが、そうはさせまいと執拗に食らいついてくるのだ。

(それに恐ろしい弾幕の嵐だ、まともに食らえば逃げる体力すら…!)

一発二発程度ならまだしも、魔法少女達は何百もの連撃を一度に叩き込める。
今はまだビルを壁に背にと遮るものがあるものの、不用意に空へ舞い上がれば最後。
あの圧倒的な火力が遺憾なく発揮される事は間違いない。
この事から、自分が空へ逃げられる確率は非常に低いと判断した。

(せめて奴さえ退けられれば光明が開けるというものの…)

故に、パラガスは襲撃者の排除を最優先したかった。
だがペルフェクタリアを退けられる確率もまた、低い。
彼女自身の技量もあるが、援護の壁が厚い事もまた一因だ。
何れにしても、数と質の差という壁を前に、パラガスはただ逃げるしかないのだ。

(くそぅ、俺もまた戦闘民族だというのに、この体たらく。屈辱の限りだが…!)

歯噛みするパラガス。
しかし彼の顔色に、諦めの色は無い。
希望はまだあるのだ。
そう。

(ブロリーさえ戻ってくれば、この程度の奴等など敵では無い!)

自慢の息子、復讐の糧、今のパラガスの原点。
即ちブロリー。
彼は信じていた、息子が必ず自分の所まで辿り着くと。
その一心が彼を絶望から救い出し、こうして戦わせ続けているのだ。
それがたとえ如何なる苦境であっても、である。
そう、"今のまま"ならば耐え忍びられた。

「むっ、何だ?」

ふと、前方に瞬く閃光の数々が目に映る。
そして耳に届いた爆発音も、段々と近づいてきているようだ。
それだけではない、パラガスには嫌な予感さえしてくる。

「待って、いろはちゃん!」
「前に居るのって…」

いろは達の言葉と共に。
それは、現実となった。

「な、何だ!?あいつ等は」

パラガスの眼下に広がる兵士達の正体が、自ずと明らかになる。
_ある者は戦士だった。
己の全てを懸けて戦いに臨み、頼れる仲間と共に現代の戦場を駆け抜け、己が才を磨いて、並みならぬ武功を立てた。
_ある者はリーダーだった。
己が配下から勝ち取った信頼を振るい、チームを、味方を勝利へと導いた。
_ある者は参謀だった。
相手の考えを読み、裏をかき、敵も味方も出し抜いて戦況を変え、戦う前から勝利していた。
_ある者は勇者だった。
現代兵器が植え付けてきた恐怖に打ち勝ち、打倒し、幾度と無く味方の危機を救った。
_その全てが、生きた伝説が。

「ここが、俺達にとって最大の山場かもな!」
「Move!Move!Move!」
「決して臆するな、皆の為に勝利を掴め!」

ダイヤモンド・ドッグズの名の元に。
今、この新宿に集い、ただ一人の無銘の兵士として、その力を遺憾なく振るっていた。
無駄の無い洗練された動きで、今も尚練り上げ続けられる最良の戦術で、手に握り締めた愛銃を手馴れた手付きで以て。

「■■■■---ッ!」
「Garuuuuuu…!」

相対する敵は、黒い影を纏った超常的な存在、死霊の英雄達の成り損ない。
シャドウサーヴァントの大群"だったもの"だ。
一騎で戦局をひっくり返し、滅多な事では傷すらまともに付かず、多少の負傷では怯みもしない。
遥か昔に死んだ御伽話の具現化。
それを、DDは圧倒していた。

「なんと…!?」

DDは超人ではない、只の人間だ。
だが、無力では無い。

「クソッタレの過去の亡霊が!来やがれってんだ!」
「あぁ、俺達に敵はねぇ!!」

彼等は軍隊なのだ。
統率の取れた動き、高度な連携攻撃、そして確かな結束。
その脅威は、例え相手が人外であっても例外では無かった。
迫りくる黒い影の軍勢が、弾丸の壁に阻まれ、次いで叩き込まれる鉛玉の雨霰に四肢を奪われていく。
やがて致命的な一撃を受け、その身体を霞へと還した。

「烏合の衆が、動きがてんでバラバラなんだよ!」

そう吐き捨てた男は、DDの中でも屈指の実力者であり、戦闘経験も豊富だ。
そんな彼だからこそ分かる。
シャドウサーヴァントは、明らかに連携の取れる動きが出来ていない。
その場その場の戦"術"に長けても、全体を見渡す戦"略"がまるで成っていない。
個々の戦力が強大でも、集団となればそれは単なる烏合の衆。
故に、ダイヤモンド・ドッグズの敵では無かった。

「な、何だと…あいつ等、本当に人間なのか!?」

この事実に最もショックを受けたのは、パラガスであった。
シャドウサーヴァントの実力は、彼も存じている。
故に奴等の前では只の人間など、物の数では無いと軽んじていた。
それがどうだ、先程までの余裕は何処へ行ったのか、驚きの余りに思わずビルから身を乗り出してしまう程だ。
最早これは一方的な殲滅、消化試合も同様だった。

「DDの皆さん、こっちに敵が!」
「な、小娘、貴様っ!?」

そして今、そんな大いなる集団の前に身を晒したパラガスへ、死刑宣告がなされる。
敵がいる、彼等にはそれだけで十分だった。

「嬢ちゃん達か、了解!あの男だな!」
(_やられた。)

パラガスの視界を眩い白が染め上げていく。
そこで初めて、スポットライトに照らされた事に気付く。
奴等に認識された、銃を向けられた。
そう確信したパラガスの脳裏には、死の一文字が浮かんでいた。

(俺が、ここで、こんな_)
「_があぁ!!?」

だが次の瞬間に悲鳴を上げたのは、兵士の方だった。
突如として巻き起こった破砕音と共に、兵士が宙を舞う。
DDを傷付けたソレは、"気弾"は空からやってきた。

「あれは…ベジータの取り巻き共に、大猿のサイヤ人?」

空を覆いつくす巨影。
黒い服装を纏った脅威が、そこにいた。

19人目

「断章:イマジナリー・ウィル ④」

 存在しなかった世界
「ははは!ブロリーだってよ!何つーネーミングセンスだよ!野菜か!?」

 ゲラゲラと、金髪リーゼントの男は堰を切ったかのように爆笑している。
 壊れた玩具のように手を叩きながら、彼は腹を抱えながら嗤っている。

「にしてもパラガスの生存本能と復讐心、しかしそこにある矛盾!最高だなァ!小説に書くならどんなキャラになるのやら!俺にゃ想像できねぇ!」
「ポエムを詩っている暇があるなら貴様も仕事に戻ったらどうだ?」

 悪辣な嘲笑と狂笑が響く。
 その時、事態は急変した。

『大司教よ、観戦の時間は終わりだ。己が仕事に戻れ。』

 球体に映る画面が港区から、謁見の間にいるはずのカール大帝の姿に変化する。

「カール大帝!?」
「大帝、その鎧……なるほど、出陣ですか。」

 黄金の鎧に身を包み、その鎧に見合う黄金の大剣を構える姿は、まさに威風堂々。
 その身を教団に窶しても、耀きはくすまず。

『いかにも。……焔坂よ、貴様も出陣だ。支度せい!』

 大帝の出陣。
 その付き人として彼は、焔坂百姫を指名した。

「わらわも出陣ですか。何なりとご命令を。」

 その顔に、笑みがこぼれる。
 砕かれたはずの角の耀きが、さらに強くなる。

『貴様は港区にいる、現在我らに刃向かう者どもの一つ……即ち、流星旅団を討滅せよ。』
「しかし、お言葉ですがあの者どもは烏合の衆。放っておいても何もできぬかと。」

 流星旅団を軽視しているような、焔坂の問い。
 しかし大帝は違う、と答える。

「焔坂よ、それは違う。流星旅団を甘く見るな。彼らの抱く執念を甘く見るな。彼らは放置しておくと極限まで力を強めてゆく。何しろ我らに長いこと恨みを抱いているからな。」

 前身のキラ教団の成立から、早11年。
 11年間彼らに迫害され続けた人間たちの怨嗟、憎悪、復讐心、そして、執念。
 それらはまるで流星が如き速度で増え続け、恒星が如き熱量で燃え続ける。

「そして、あの2人だ。エイダムや調査部隊より聞いた旅団の初期メンバー。その最後の生き残りである天宮兄妹こそ……放置すると大変なことになる。」
「……。」

 その中心にいるのが、教団に家族を殺された天宮兄妹。
 ただの人間であっても、そのうちに秘められた力を侮ってはならないと、大帝は言っているのだ。

「……。」
「奴らの怨嗟を、執念の力を甘く見ない方がよい。放っておくと無限に力をつけてゆく。故に焔坂よ。余と共に出陣し、奴らを根絶やしにせよ。潰すなら今、この瞬間しかないのだ!」

 その一声と共に、焔坂はその手に炎を具現化させる。
 次第に炎は細く、されど苛烈に燃え上がる槍に変質した。

「___理解いたしました。この焔坂、大帝が為に一切を焼却いたしましょうぞ!」



「効きませんね!全く効かない!」
「けっ!強がり言いやがる!」

 江ノ島のショットガンを、アルキメデスのチャクラムが弾く。
 歯車の意匠が施されたそれは、銃弾如き何の意味をなさないと言わんばかりに噛み砕いてゆく。
 銃弾がダメならば、とシャルルマーニュの輝剣ジュワユーズがチャクラムに、アルキメデスに襲い掛かる。

「嘘つくなよアルキメデス、本当は結構追い詰められてんだろ?」
「そちらの方こそ……!」

 しかしお互いの戦線は、拮抗状態というのが正しい。
 押しつ押されつ、有利になれば不利になり、優勢になれば劣勢になるという状態だ。

 と、その時だった。

「フフフ……ハハハハハ!!遂に貴様らの敗北は決定した!」
「くそ!いやでも感じるぜ、あの柱を出したのが例のブロリーだな!?」

 歯ぎしり交じりに、シャルルマーニュは感じていた。
 ブロリーの放つ強大な気を。恐ろしいまでの破壊的戦闘力を。
 それはアルキメデスも同じなのか、勝ち誇った笑いが夜の新橋に響く。

「そして、ブロリーが召喚された以上私もここにいる理由はない。また何処かで会える事を愉しみにしておくよ。」

 かくして、アルキメデスは高笑い共に霊体化して消滅した。

「待て!……逃げられたか。」

「いた!2人とも!?アルキメデスは?」
「お、リクか。あいつ逃げやがった!……というか、例のシャドウサーヴァントは?」
「何とか倒したけど……シャルル?」

 シャドウ:バーサーカーは人知れず倒された。
 しかし。それ以上に。
 シャルルマーニュにはいやな予感があった。

 それは、ブロリーではなく。
 クローン軍団の襲来でもなく。
 もっと、自分に関係するような……。

「妙にやな予感がするぜ……。」

20人目

「伝説の超サイヤ人」

 ブロリーの暴走により散り散りになってしまったCROSS HEROES。

「ゴムゴムのォォォォォォォォッ……!! 
JET銃乱打(ガトリング)ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 ギア”2”を発動させたルフィの拳打の嵐がブロリーに襲い掛かる。

「おぉぉぉりゃあああああああああああああああああッ……!!」
「ウオオオオオオオオオオッ!!」

「効いてねえ!? つか何か拳が熱ィぞ!?」」
「違う、ルフィ! 奴は自分の周囲にバリアを張っているんだ!」

 ピッコロが叫ぶ。ブロリーが展開した球状のバリアがルフィの攻撃のことごとくを
弾き返しているのだ。しかも、その範囲は徐々に広がっていく。

「チィッ、このままじゃ……」
「ウオオオーッ!!」

 ルフィの攻撃が止むと同時、ブロリーが雄叫びを上げながら飛び掛かる。

「うおっ!」

 首刈り鎌の如く、その剛腕から繰り出されるブロリーのラリアットが炸裂し、
ルフィを遠くまで吹き飛ばした。

「ルフィーっ!」

「――へへっ」
「!?」

 ルフィの首だけがぐんぐんと伸びていき、その場に残された胴体が、
ブロリーにしがみつく。

「むううっ……!?」

「そ、そうか……! 奴はゴム人間! つまり!」
「――効かねェな! ゴムだから!!」

 いくらブロリーが強靭なパワーで以って殴ろうとも、
ゴム人間であるルフィの肉体に物理的ダメージは通らない。

「ぐおおーっ!」
「お返しだ!」

 ルフィは両手両足を使ってブロリーをしがみつき、その場に押し留める。

「ウオオ……ッ!」
「ゴムゴムのォォォォォォォォォォッ……鐘ェェェェェッ!!」

 反動をつけ、戻ってくるルフィの頭。
凄まじい勢いで突いて高らかに鐘を打ち鳴らす撞木のように、
ブロリーの顔面に強烈なヘッドバットを喰らわせた。

「……!」
「ど、どうだァッ!?」

 鼻血を吹き出し、よろめくブロリー。しかし。

「おわっ……」
「ぬうううううううあああああああああああああああああああッ!!」

 すぐにまた平静を取り戻すと、ルフィの頭を掴み、地面に叩きつけた。

「がは……っ」
「ルフィに続け! 攻撃の手を休めるんじゃないぞ!」

「フハハッ……! ハハハハハハハハッ……」

 余裕の笑みを浮かるブロリーに対し、超サイヤ人に変身した悟空とピッコロが
同時に飛び出す。ブロリーもまた迎え撃つべく構えを取った。

「だだだだだだだだだだだだッ!!」
「とおおッ、ぅぇあたたたたたッ、ぃやたぁあああああああああああああああッ!!」

 二人による怒涛の連続打撃。それをブロリーは全て受け止め、弾き返す。

「こいつッ……! 戦えば戦うほどに気が上がって行きやがる!」
「まるで底無しだな……!」

「……フッ」
「なにいッ!?」

 二人の攻撃を受け流しながらブロリーが口を大きく開く。
そして、そこから超特大の気功波を放った。

「おわああああああああああああああああああああッ……!!」

 ピッコロと悟空を巻き込んでの大爆発。
ブロリーの攻撃によって、辺り一面が焼け野原と化していく。

「くそったれぇぇぇぇぇッ……!! 
ビッグバン・アタァァァァァァァァァァァックッ!!」

 右手を突き出し、ベジータが空中からブロリー目がけて
必殺の超エネルギー波を発射する。

「いかんッ……!!」

 バッファローマンは咄嗟にその場に倒れたルフィを拾い上げ、
ビッグバンアタックの射線上から退避する。激しい大爆発に、誰もが息を呑んだ。

「や、やったか……!?」
「あのタイミングで回避は不可能……直撃のはずだ……」

 やがて爆風は収まり、舞い上がった砂煙も晴れていく。
その中で佇んでいたのは、やはりブロリーだった。

「ちいっ……!」

「あれだけの攻撃を受けて無傷だとは……!」
「俺も打たれ強さには自信があるが、タフにも程があるぜ!」

 あのバッファローマンをして、
ブロリーの底知れなさを痛感させる程の頑丈さであった。

「く、くそ……」
「ヌゥゥゥゥゥゥゥ……うごごごごごごごごごごごご……!!」

「!?」

 突然、辺りに静寂が訪れる。世界から全ての音が失われたかのように。
それまで、熾烈を極めた戦いが繰り広げられていたはずなのに。
ブロリー自身、奥底から湧き上がってくる力を抑えられない。
悟空たちから攻撃を受ける度に、破壊衝動が、殺戮本能が、彼の心を支配していく。
目に映る全てを破壊し尽くすまで止まらない、究極の暴力マシーン。

 彼こそが、1000年に1度現れると言う「伝説の超サイヤ人」。
悟空たちでさえも辿り着けなかった別次元の領域に至る者……

「ううおおおおおおおああああああああああああああああああああーッ……!!」

 身の丈は3メートル近く。筋肉も激しく膨張し、金色のオーラを噴き上げ
白目を剥くその様は人である事の一切を捨て去ったかのような威容だった。
大気は震え、稲妻が走り、ブロリーが一歩歩く事に
その重量と気迫でアスファルトが砕き割れる。

「カカロット……貴様らを全員血祭りにあげてやる……!!」
「へっ、へへへっ……何て野郎だ……空笑いが出てくっぜ……!」

21人目

「曇天:神霊革命前夜 ①」

 そのころ、天宮兄妹は。
「本当に、ここにボクを連れて行きたかった理由があるの?」
「理由というか、秘密がな。」

 兄妹は手をつなぎ、共にある場所へと向かっていた。
 傍から見れば、その姿はまさに兄妹。
 しかし、月夜の表情はどこか浮かなかった。

「……。」

 哀愁を漂わせ、兄は虚空を見ていた。
 今宵は、星の輝きすらない曇天の空。
 彼の双眸に抱かせる思いは、一体何か。

「彩香……、お前。」
「何?兄さん。」

 何か、言おうかと思った。
 しかし、それ以上は言えなかった。

「いや、何でもない。」

 2人がついた先は、巨大な神社。
 徐々に迫る夜明けの明かりが映すその名は「愛宕神社」。

「よう!月夜と彩香じゃねぇか!11年ぶりだな!」

 そこにいたのは、白い宮司の格好をしているにもかかわらず何処か砕け切った物言いをする老年の男。
 宮司であるにもかかわらず、その風貌に不釣り合いなサングラスをつけているのも彼の特徴か。
 まるで旧友と出会ったかのように、宮司は気さくに話しかける。

「久しぶりです、本当に。」
「見ねぇうちに背伸びちまってよ!ていうかお前ら……こんな時間に何の用だ?」
「実は……。」

 月夜は、11年前から今までの事情を話した。
 宮司の目に真剣さが宿る。

「ほう、つまり……お前ら。」
「ああ。ここにある”アレ”を使って俺達に神霊を宿させることは、可能か?」

 その一声を聞いた宮司の顔は、驚愕に満ちていた。

「月夜、お前マジで言ってんのか?」
「俺は嘘ついたことはない。いつだって真剣だ。」

 その眼に嘘偽りはない。
 一切の迷いがない、そこには覚悟しかない。

「はは、そうか!まぁ月夜は無理だが、そこの……。」

 そういって、宮司は彩香を指さす。
 彩香は、決意の固まった顔で。

「ボクか。」
「彩香、ちょっといいか?」

 宮司は彩香の前に立ち、ゆっくりと口を開いた。

「お前は、11年前のあの日なぜ両親が殺されたか知っているか?」
「さぁ?強盗殺人とだけ……。」
「なるほどな……。実はお前の両親、特に父親はある物の研究をしていたんだよ。」
「神體か、昔兄さんから聞いたよ。」

 神體(がんたい)。
 それは、神のカケラ。
 日本の魔術世界において、神代の力を行使するために使われる神秘の魔術具。

「なるほど、知ってんなら話は早い。お前の親父はキラのやり方に反感を抱いてな、来るべきキラ教団への『革命』のためにお前ら兄妹には内緒でその神體の研究をしていたんだよ。」
「父さん……。」
「んで、その時殺した奴は思ったわけだ。『あいつを放置して置いたら、きっと神體の力を使ってキラ教団を潰しにかかるぞ!』とな。そして神體の研究が終わった隙を見計らって……殺したんだ。」

 何という運命か。
 両親はキラ教団と戦うための武器を研究して教団に殺され。その血を引く子供たちが今、教団に立ち向かわんとしている。

「そうか。そんな理由で……ボクたちは生きていたのか。」
「ああ、信じられないかもしれないが、事実だよ。」
「ほう、あの事件の真実を知ってもなお曇んねぇとは。相当気丈に育ったと見た!」

 呵々、と笑ったのち宮司は今一度彩香に問いかけた。

「で、神體の力を使えば彩香。お前の力は増幅するだろう。しかし……慣れるには時間がかかる。完全に馴れるまでは鍛錬を積み重ねるのは当然で、もしかしたら神體から発せられる力の影響でお前の精神は崩壊するかもしれない。魂が粉砕されるかもしれない。暴走するあまり大切な人を傷つけるかもしれない。」

 強い力には、常に見合った代償がある。
 その代償のせいで彩香は死んでしまうかもしれない。
 世界から追放されるかも、廃人当然の存在になってしまうかも。

「彩香。お前にその覚悟があるか?たとえその先に待ち受ける運命がお前の親と同じ、残酷な死と離別だったとしてもか?」

 少女はしばらく黙り込んだのち、夜明けを待つ青鉛色の空に誓った。
 最後の最期まで、自分は戦い続けるのだと。

「覚悟は、出来ている。」

 その一言を聞いた宮司は、ため息をついて2人を神社の内部へと連れていく。

「じゃあついてこい。お前らに『神』を見せてやるよ。」

22人目

「Operation:Fried Corruption」

「まさか、一人で防ぎきるとはな。あの娘、筋が良い。」

ドフラミンゴの影騎糸による襲撃。
東京ミッドタウンを壊滅に追い込みかねなかった事態は、事実上彩香一人の手で決着が付けられた。
彩香の彗星剣術と新たな武器が合わさって成り立った活躍により、影騎糸は両断されたのだ。
その事実を、オセロットは陰で称賛していた。

「名前は確か、彩香と言ったか。鍛え上げれば一人前の戦士になるやもしれんな。」

同時に、彩香に対して戦士の素質を見出していた。
彩香の戦い方には、泥臭く苛烈ながらも、どこか美しさがあった。
オセロットの目から見ても、彼女は才能を持っていると判断できるものだった。
そしてもう一つ、彼女に目を見張るものがある。
死地に飛び込むような戦い方をする彼女の姿からは、何か鬼気迫るものを感じられた。
その正体が何かまでは分からず、それ故にオセロットは彩香という存在を測りかねてはいる。
だが。

(ああいった手合いはどんな形であれ、必ず大成する。)

彼女のような人間は必ず、後に世界を救う英雄になる。
直感でしかないが、そうなるだろうという確信に満ちた何かを彩香から感じ取っていた。
だから、オセロットは彩香のこれからに期待を寄せていた。
嘗てのソ連でスネークの戦いぶりに魅せられた時の様に。
新たな英雄の誕生の予感に、オセロットは内心で心躍らせていた。

「_官、教官殿。どうされました?」
「むっ、悪い。少し考え事をしていた。」

話しかけられ、オセロットは我に帰る。
何時の間にやら現れた兵士が、怪訝な顔付きで見つめてきていた。
今が戦闘配備下である事を思い出し、頭を切り替える。
自分だけが考え事に浸っている訳にはいかないのと、反省をする。

「俺の役目も果たさなければな。」
「役目、ですか?」
「あぁ、嫌な役回りだがな…噂をすれば影だ。」

オウム返しをする兵士に、オセロットが諭そうとして。
丁度見計らった様に、オセロットの持つ端末へと連絡が入る。
発信者は、一度は話題になったあの男だった。

「教官、それは?」
「今回の作戦、お前にも付き合って貰う。読んでおけ。」

困惑の色を隠せない兵士の質問に、しかし答えになってない様な言葉を端的に告げながら、オセロットは続ける。
それは、一通のメールだった。

『僕だよ。魔法は解けた、これからパーティと洒落込もう。』

それだけが書かれた簡素な文面。
差出人は、アビィだ。
端から見れば文章の繋がりさえ無い内容だ。
だがそれが一種の暗号文であることを理解していたオセロットは、小さく鼻を鳴らす。

「成程、やり遂げた様だな。」
「教官、この文章は一体?」
「理解はしなくて良い、これからやる事は追って指示を出す。今は支度をしろ。」

首を傾げる兵士を他所に、オセロットは不敵に笑う。
この文章の意味を、彼は既に理解していた。
ならばオセロットがすべき事は一つであり、それは彼にとって望むところでもあった。
そんな高揚感からだろうか。
未だに困惑が抜け切らない兵士に一言、付け加える様に助言したのは。

「これから戦場に出る事になる、覚悟しておけよ?」
「は、はい!?」

驚愕する兵士を尻目に、オセロットは颯爽とその場を後にする。
向かう先はただ一つ。
その為に準備に、彼は出向く。

(ここの守りが手薄になるが、まぁ問題無いだろう。)

一抹の不安を残しながらも、どこか楽観的に考えていたのだろう。
_それが、後に悔いを残す結果になるとは知らずに…

「行ってしまった…」

残された兵士は、今一度文面を確認する。
そして気付く。

「…これ、件名に書いてる。」

割とどうでもいい事に。
几帳面な彼にとっては、むず痒い感覚に襲われた気分だったが。
同時に。

「ん?本文もある…?」

先程は読み上げられなかった文章の存在にも気付く。
オセロットが気付かない筈も無く、敢えて読み上げなかったのだろう。
兵士には気になって仕方が無かった。
故に理解しようとしてしまった。
本文に書かれた、たった一つの言葉を。

「『Operation:Fried Corruption』…?」

兵士は日本人だった。
英語が出来ない訳では無いが、堪能という訳でもない。
故に、直感的にDe〇pL翻訳を頼るのも無理は無かった。
結果。

「…『腐敗のフライ作戦』。」

出力された物は、くだらないダジャレ。
成程、教官が読み上げなかったのも頷ける。
はぁ、と溜息一つ零した後、努めて忘れようと彼もまた支度へと入る。
気分はまあまあ最悪だった。



赤坂のとあるビル、その屋上にて。
ロボットやゴーレムの類いと見間違う様な兵器が一人、鎮座していた。
彼が見つめる先には、ドーム状のバリアに囲われた東京タワー。
まるでそれは特撮のワンシーンのよう。
彼の名は為朝。
彼は今、東京タワーに狙いを定めている。
己に課せられた使命を、兵器として果たす為に。
だが、それは叶わない。
何故なら。

『…!?』

突如として飛来した光弾が、彼の足場を破砕した。
それに気付いた時には既に遅く、為朝の身体は吹き飛ばされていた。
英霊の身体を以てしても堪え切れぬ一撃に、体を二転三転させられる。
その威力を物語る様に、為朝が居た場所は見るも無惨な瓦礫の山と化していた。
為朝はゆっくりと立ち上がると、視線をそちらに向ける。
そこには、幾多の人影があった。
青い制服、金の紋章が刻まれた帽子、銃口から煙を上げる玩具の如き銃。
構えた獲物を除けば、それは正しく警官の姿だった。

「ど、どうだ、ロボ擬き!」

警官の一人が、声を震わせながら問いかける。
緊張に塗れた、しかし勇気を振り絞った問いだ。
それを問われた相手は、為朝は、ゆらりと立ち上がる。

『_。』

答えは沈黙。
それは、攻撃が効いた事を示していた。
それを確認した途端、彼らは沸いた。
対し、為朝は怒りに震えた。
確かに攻撃は当たった、威力も申し分ない。
しかし、その程度で勝った気になっているのは愚かと言わざるを得ない。
だから為朝は怒りを宿す。
故に。

『敵を確認、排除開始。』

全力を以て迎え撃つ事を、ここに決意する。
彼から湧き上がる戦意に気付いた警官が怖気づき、溜まらず尻もちを付くが、最早遅い。
その瞬間、為朝は動く。
弓を構え、直後に放たれたのは光の奔流。
それは光線となって、警官達を襲う。

「わ、あ、あぁーーーっ!?」

回避する暇も無く、着弾と同時に轟音と閃光が炸裂した。
立ち込める土埃と、耳をつんざく爆音が周囲に響き渡る。
後に残ったのは黒焦げになった地面のみ。
それはまさしく、必殺の攻撃だった。
そう、普通ならば。

『排除を確に…否。』
「悪いね、見せ場を奪う真似をして。」

聞こえてきた声に、思わず顔を向ける。
そこに立っていたのは、蒼い意匠に身を包んだ少年。
後から駆け付ける様に、壮年の男性が駆け寄る。

「でもね、彼等を殺させる訳には行かないんだ。君にはここで消えてもらうよ。」
「よく言う、美味しい所だけは持って行く癖にな。」

アビィ・ダイブと、リボルバー・オセロットだった。

23人目

「追想:神霊革命前夜 ②」

「この先に、お前らのお望みのものがある。」

 神社の隠し階段を一段ずつ降りてゆく。
 こんなところに、秘密の部屋があるとは思わなかった。

「月夜、お前はここで待っててくれ。」
「分かった。彩香。」

 扉の先に進もうとする彩香を、月夜は呼び止める。
 そして___。

「死ぬなよ。」
「うん、約束。」

 ただ一言、そう呟いた。



 その部屋は、まるで木製の倉庫のようだった。
 周囲には

「これが、神體だ。」

 それは、あまりにも不思議な物だった。
 結論から言えば、それは刀の形をしていた。
 しかし、刀身に当たる部位がなく、あるのは鍔と柄だけ。
 その柄の部位ですら、黒に青色の螺鈿細工のような模様が浮かんでいる。
 あまりにも単純で、あまりにも不気味。

「これを……どうすればいいの?」
「彩香。お前にはこれに、そうだな……少なくとも2時間は触れ続けてもらう。簡単に思えるだろ?まぁ、触ってみろ。」

 そう、彩香は宮司に言われるがままに触ってみる。

「うっ、ぐぐ……ああああああああああ!!」

 触っただけで、精神を焼き切るかのような苦痛が全身を襲う。
 気を抜くと魂が砕け散りそうだ。
 全身の血液が爆発しそうな位、身体が痛い。

 それもそうだ。
 幾ら適性があるとはいえ、魔術回路がない人間が神代の魔術具に触れてしまえばどんなことが起こるか分かったものじゃない。
 しかし、それを彩香は錬鉄の如き強い意志で襲い狂う激痛を鎮める。



「……。」

 彩香を待っている間、月夜は夜明け前の空を見上げていた。
 依然曇天は続く。

「流星旅団成立から、もう11年か。」

 かつての友を懐かしむかのような声。
 手帳型端末カバーのカードポケットから、一枚の小さな写真を取り出す。

「蓮、姫華、亮、彰彦、そして……薫。お前らの無念は俺達が晴らす。」

 写っていたのは、色褪せた7人の集合写真。
 虚空につぶやくのは、かつての同志たちの名前。
 流星旅団の初期メンバーの名前だ。
 彼らもまた、教団に打ちのめされ、斃されていったものたち。

 ある者は仲間を守るためにその身を犠牲にし。
 ある者は失意のうちに朽ち果ててゆき。
 ある者は家族のために自分から死を選択し。
 ある者は恋に生き、そしてその夢すらも教団に奪われて散っていった。

 みんな、みんな未来を守るために。
 仲間のために散って逝った。
 だからこそ。

「今度こそ、俺達は間違えない。」

 もう二度と、彼らのような犠牲者は出さない。
 それが、彼の誓いだった。

「かつての友の事を思ってんのか。」
「あ。終わったのか?」
「いや、まだだ。とりあえず"施術"は2時間かかるぜ。」

 そうか、と月夜は夜明け前の空につぶやく。

「……なぁ、月夜よ。これは俺の勘だがな。」
「なんだ?」
「彩香はともかく、お前はもうしばらくここに残った方がいいと思うぜ。」

 それは、彼なりの忠告だった。

「何、お前が無能というつもりはないぜ?ここにいても出来ることはある。というよりなんだ。お前にはここでまだやるべきことがあるって話だ。」

24人目

「黒髪乱れし修羅となりて」

「あ、あの戦闘服はサイヤ人……! ふ、ふふふ……ビショップの奴め、
とんだ置き土産をしていきおって」

 それはパラガスにとっても予想外な展開。
しかし彼はこの状況を、歓喜を以て受け入れていた。

 「戦の化身」ビショップがこの新橋を放棄して撤退したにも関わらず
彼が未だ上位の大司教たちから処罰をされていない理由。
それは彼の類まれなる天才的な頭脳にある。
トラオムでパラガスにバイオブロリーを生産する技術を提供し、
シャドウサーヴァントやアルキメデスを召喚した自動英霊召喚システムAI
「オモヒカネ」の開発、港区全域に配備された雀蜂部隊のベースとなったホムンクルス、
さらにはメサイア教団と同盟を結んでいた人造人間21号から
クローン戦士培養のノウハウを与えられた事によって生み出されたのが、
今CROSS HEROESの目の前にいるクローン軍団。
これらの戦力のすべてを彼が賄っていたとすれば、納得のいく話である。

「フフフフフ……」
 
 在りし日のベジータと共に宇宙の星々を荒らしまわっていたサイヤ人、
ラディッツとナッパ。特にラディッツはあの孫悟空の実の兄であったが、
殺戮と暴力を好む純粋なるサイヤ人故か、地球人類の抹殺を目論見、
あまつさえ弟の悟空が仲間になる事を拒むとその手で殺そうとしたが
最後は悟空とピッコロによる二人がかりの合体技で倒された。

「地獄に仏とはまさにこの事! 今の内に、俺は逃げさせてもらうぞ!!」

 パラガスはどさくさに紛れて逃亡を図った。

「あ、待てーっ!!」

 鶴乃が叫ぶが、パラガスは気にせず走り去る。

「……! 待て! 地面の下に何かが居る!」

 ペルフェクタリアが異変に気付いた。
地鳴りが響き、アスファルトの地面に亀裂が走る。

「クケケケケーッ!!」

 緑の肌をした何者かの手が、鶴乃の足首を掴む。

「きゃあああっ!?」

 それは、栽培マン。土に埋めるとその養分を吸い取って成長するという、
恐るべき能力を持った怪物だ。

「何だこいつは!?」

 突然の出来事に驚愕する一同だが、それで終わる訳が無い。
次々に栽培マンの同個体が地面から這い出て来て、辺り一面に広がっていった。

「いい加減に離してよ、このっ!」

 鶴乃が掴まれた足を強引に振りほどくが、栽培マンはしつこく彼女を付け狙う。

「ケケケケケーッ!!」
「はああっ!!」

 鶴乃に飛びかかろうとする栽培マンをやちよの三又槍が貫く。

「ギョッゲエエーッ」
「キモいってーの!! ちゃああああーッ!!」

 トドメとばかりに鶴乃が扇から炎を噴出させて、焼き殺す。

「ギャイイイイイイッ……」
「はっはぁ!!」

 さらに間髪入れず鶴乃とやちよにクローン・ラディッツ不意打ちを仕掛けてくる。

「速いッ……」
「鬼頸掌ッ!!」

 そこに「鬼の首を取る」、と言う故事に由来する強烈な掌打を繰り出す
ペルフェクタリアが割って入る。

「ぬおっ!?」

 ラディッツの身体は見事に吹き飛び、壁に激突した。

「ペルちゃん、ナイス!」
「あの程度でくたばる奴ではないだろう」

「ふふふ……」

 瓦礫の山から、不敵に笑うクローン・ラディッツ。

「ガキにしては中々やるじゃないか」
「そっちこそ、なかなかしぶとい」

「プレゼントだ! 受け取れいッ!!」

 掌に強力なエネルギーを溜め込み、それを一気に放出させる。

「ダブルサンデー!!」

 両手から同時に放たれたのは、凄まじい威力のエネルギー波。
ひとつはペルフェクタリア、
そしてもうひとつはやちよと鶴乃に向けて飛んできた。

「なっ!?」
「ちょっ!?」

二人は咄嵯に回避するが、それでも爆発の余波で吹き飛ばされてしまう。

「わああっ!?」
「あうぅっ!」
「二人共、大丈夫か!」

「何処を見ている、小娘! しゃああああーッ!!」
「くっ!」

 クローン・ラディッツとペルフェクタリアの激しい攻防が繰り広げられる。

「俺は宇宙最強の強戦士族、サイヤ人なのだ! 貴様のような小娘に負けるかぁ!!」
「――違うな。嘘の匂いがするぞ」

「何だと!?」
「お前は見た目こそサイヤ人に似せてあるが、本質は全くの別物。
只の化生に過ぎない。ならば私の敵では無い……!」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 激昂するクローン・ラディッツが放つ攻撃を、ペルフェクタリアは軽々と捌いていく。

「お、俺はラディッツ! ラディッツなんだァ!! 誇り高き戦闘民族の……」

 偽りの記憶、偽りの名を与えられて生まれたクローン体。
彼はその事実を自覚していない。

「そうでなければ、こ、この俺は一体誰だというのだぁ!!」

 ラディッツの悲痛な叫びに、彼女は答えない。

「お前はある意味、かつての私と同じだ。全てが偽り。
この名も、姿も、それどころか実体さえ無かった。
だが私は今、こうして生きている。誰かに命令されたわけでなく、己の意思でな」
「黙れぇえッ!!」
「終わりにしよう」

 震脚にて地面を踏み鳴らし、ペルフェクタリアは構える。

「破禍嵐ッ!!」

 目にも留まらぬ速度で突撃するペルがクローン・ラディッツの顎を
アッパーカットでカチ上げ、そのまま空中へ打ち上げた。

「ぐおおおぉ!?」
「ハアアッ!!」

 上空へと打ち上げられて身動きの取れないクローン・ラディッツに対し、
ペルフェクタリアは空高く跳躍し、嵐の如き連続攻撃を四方八方から浴びせかける。

「ぐぎゃあああ!?」
「終わりだッ……!!」

 最後に渾身の一撃を受けて、地面に叩きつけられたクローン・ラディッツは
全身を滅多打ちにされ、 血反吐を吐き散らかす。

「がはっ……」
「眠れ。安らかに」

次の瞬間、彼の肉体は粉々になって砕け散った。

「まさか、ラディッツを倒したのか……
所詮、どう足掻こうと弱虫ラディッツは弱虫ラディッツということさ。
ククク……ハーハッハッハ!」

 クローン・ナッパが高笑いを上げる。

「ラディッツならともかく、俺を倒せると思うなよ!」
「そうだね、でも……」

 鶴乃が扇を構える。彼女の魔力に呼応し、炎が勢いを増す。

「あなた達みたいな悪党を見逃せない!」

「鶴乃、やるわよ!」
「合点!!」

25人目

「光臨:神霊革命前夜 ③」

 赤坂サカス

『損傷なし 命令を続行する』
「ひどいなぁ、無視するだなんて。」

 アビィたちの事を無視しつつ、為朝は
 しかし。

『不撓不屈たる我が剛弓。』

 明らかなる決意を込めた一言で空気は捻れ曲がった。
 為朝の周囲の気が、荒れ狂いだす。
 まるで、その場にいれば何もかもが破壊されてしまいそうな。

「何が起きるんだ!?」
「なんだ!空気が!空気が痛い!?」

 魔術回路を持たない一般人ですら分かる空気の歪みと痛み。
 殺意と破壊衝動を持った一撃が今、放たれようとした。

『これを以って全てを薙ぎ払う。』

 言葉は破壊を紡ぐ。
 あの東京タワーのバリアを破壊せんとする力の奔流を、その巨大な矢に込めている。

 それは特異点で多くの戦士たちを吹き飛ばした宝具。
 悟空ですら、一度は戦闘不能に追い込んだ一撃。
 今度は拡散なぞさせず、ただ一点に込めて放つ。

『轟沈・弓張月、即ち月光大砲___カウント開始。』

 何かの危険を察知したオセロットが、叫んだ。

「何かまずい!全力で止めろ!」



 そのころ、港区の各所では。

『なんか、CROSS HEROESってのが教団と戦っているみたい!』
『それだけじゃない!流星旅団ってのも戦っているって!』

 SNSを通じて、世界中に日本の惨状が伝わっていた。
 メサイア教団による腐敗も、そして今以て抗っている者たちの奮闘も。

『俺達も、戦おう。』
『こんなところで油売っている暇はねぇ!』

 それは、まるで正義の奔流だった。
 SNSだけの出来事じゃない。外を見てみると、皆___。

「やるしかないんだ!」

 一切の偽善がない、迷いすらない輝きと正義感を持って行動をしていた。
 暴徒たちの進軍と暴走を止め、押さえつけている。



 さらにそのころ、新橋では。

「くそ!お前ら、武器を取れ!」
「させるか!」

 暴徒たちが、今まで燻り封じられていた正義の者たちと戦闘を開始する。
 正義と悪が混沌とした戦場に投げ込まれ、更なる混沌を生み出している。

 と、その時だった。

「うわぁあ!?」
「まぶし……え?どうしてだよ!?」
「なんだあの光!?」

 夜明け前のはずの空が、まるで快晴の昼空のように晴れ渡った。
 或いは、それは天より降り注ぐ隕石が如く。

「なんで……”大帝”が!?」
「「「!?」」」

 大帝。
 その一言だけでも、CROSS HEROESのメンバーを警戒させるには十分すぎた。

『楽にせよ、膝を屈せ、余の愛を受け入れよ!』

 その一声で、暴徒たちがなぜか跪く。
 それはその声の主から感じるカリスマからか。

 ___虚空に空いた光の穴より来たるは、耀ける者。
 身に着けるは、黄金の鎧。
 振るうは、輝ける大剣。
 宿すは、清廉なる双眸。
 其は、堂々たる偉丈夫。
 威風堂々の極致が、天より光臨した。

「来やがったな……カール大帝!」
「久しいな、シャルルマーニュ!」

 カール大帝とシャルルマーニュ。
 それは、ある英霊の光と影。

「まだこんなことしてんのか!」
「シャルルよ、余は救世を諦められぬ!諦めきれぬのだ!」

 因縁浅からぬ彼らが、再び邂逅した。

26人目

「死なずの蛇/獅子の咆哮、大猿を穿つ」

 己の存在意義を見失う事で
自我崩壊を起こしたクローン・ラディッツを撃破したペルフェクタリア。
しかし、残るクローン・ナッパは余裕の表情を浮かべていた。

「自分が何者かなんざあ、考えても仕方ねえ事だぜ。
戦いを楽しむ事だけ考えりゃいいんだ。それが出来ねえ弱ええ奴から惨めに死ぬんだ。
ラディッツのようにな……」

 ナッパの言葉に、ペルフェクタリアは彼の本心を察した。
それが予めプログラムされた事なのか、それともナッパという個体が
元々持っていたものかはわからない。
ただ一つ言える事は、この男は戦いを楽しみたいという欲求に従って行動している。
戦闘種族として生まれついた者の本能に従っているのだ。
そこに「嘘の匂い」は無い。

(恐ろしく単純……だが、だからこそ先の男のように
精神的な揺さぶりも効きそうにはないな)

 ペルフェクタリアは構えを取りつつ思考する。
ならばどうするか? 彼女の答えはシンプルだった。
力尽くでねじ伏せる。

「へへへ、やる気か? そうでなくっちゃあな。
手前がくたばるまで戦う。俺がオリジナルだろうがクローンだろうが、
サイヤ人の戦士・ナッパならそう言うだろうよ!」

 ナッパが拳を構えて突進してくる。
ペルフェクタリアはそれを迎え撃つべく踏み込み、強烈な一撃を放った。
凄まじい衝撃音と共に、両者の拳と蹴りがぶつかり合う。
その瞬間、衝撃波が発生し周囲の街並みを砕いた。
そして二人は同時に吹き飛ばされるも、すぐに体勢を整え着地し、また接近して殴り合いを始める。
それはもはや人間の戦いではなく、獣同士の闘争であった。
互いに相手の攻撃を予測しながら回避し、反撃を打ち込む。
常人では目にも止まらぬ速さで繰り出される攻防の連続。

 一方、立ち並ぶビルよりも巨大な大猿が暴れ回る光景を前に立ち向かう
スネークらダイヤモンド・ドッグスと日向月美。

「やれやれ、エイリアンの次はキングコングと一戦交える事になるとはな。
B級ハリウッド映画でもあるまいし」

「ウガアアアアアアッ!!」

 サイヤ人が満月から発せられるフルーツ波を吸収する事で
巨大化変身を果たした姿が、大猿だ。
ビショップはそれすらもクローン体で再現させた事になる。
その狂暴性、戦闘力が何倍にもなり、破壊の限りを尽くす大猿が拳を握り、
スネークに振り下ろした。

「おっと……それは喰らってやれねえ」

 それをジャンプしてかわすと同時に、
腕を踏み台にして飛び上がり大猿の急所目掛けて狙撃を行うスネーク。
しかし弾丸は皮膚に弾かれてしまう。

「呆れた頑丈さだな、くそったれめ」

 スネークは舌打ちしつつ着地すると、今度は大猿が尻尾を鞭の様に振るってきた。

「ぐううっ……」

 咄嵯に飛び退く事で攻撃を回避するも、かすっただけで強烈な風が吹き抜ける。
更に、空中で身動きが取れなくなった隙を突いて大猿が
再びハエ叩きをするかのように掌を繰り出してきた。
咄嵯にライフルを投げ捨て、両腕でガードするもそのまま地面に叩きつけられてしまうスネーク。

「ぐおおっ……!」

 全身に強い痛みを感じながらもどうにか受け身を取ろうとするが、
間に合わず地面の上で何度もバウンドしてしまう。

「くうっ……こっちは宇宙人でもロボットでも魔法少女でも無いんだぜ。
ちっとは手加減してくれてもバチは当たらないと思うぞ……」

 冗談めかした言葉を吐くものの、そんなスネークの様子など気に留める事も無く、
大猿は再び彼に襲いかかってきた。

「スネークさん! 援護します!!
相手が大型なら火力で……! 神筒・獅子煌!!」

 月美が銃剣一体の大型砲塔を構える。
その大きさによる小回りの利かなさが弱点ではあるが、
相手が超巨大な大猿であるならばこれほど有効な武器はない。

「発射ッ!!」

 大量の霊気を注ぎ込み、強力なエネルギーの弾丸を発射する砲撃モードで放つ。

「くううっ……!」

 その反動も凄まじく、月美の腕が軋む。
だが、悟空やピッコロに指摘されたスタミナ不足も
これまでの長く苦しい修行で改善されつつある。
それ故にこうして獅子煌を実戦で操る事も出来るようになっていたのだ。
そして月美の砲撃が眉間に直撃した大猿の巨体が吹き飛ぶ。

「ゴアアアアアッ……」

 倒れ込んだ大猿の重みで建物が崩壊していく。

「……そう言えばゴーストバスターズもいたんだったな、CROSS HEROESには……」

 呆れたような声を出しながらスネークが瓦礫の中から起き上がる。
そこへ月美が駆け寄り、スネークを助け起こす。

「大丈夫ですか!?」
「ああ、しぶとさが取り柄でな……」

 その時、瓦礫を押し退けて大猿が起き上がってきた。
流石にダメージはあるようだが、それでもまだまだ元気そうだ。

「ウオオオオオオッ……!!」
「やれやれ、随分と働き者のようだぞ、あのモンキーはよ……」

27人目

「Tactics:Flipper」

轟沈・弓張月。
その一声に込められた殺意が、空気を張り詰めさせる。

「お、おい!アンタ等、さっきみてぇに何とかならないか!?」

ヒリ付いた雰囲気に当てられた一同の顔に、警戒の色が立ち込めた。
それ故の警告、それ故の焦燥。
だからこそ警官達は、事態の安易な打開をアビィ達に求める。
対してアビィは少しばかり瞑想の後、目を見開いて答える。

「大丈夫、あぁいや少しばかり離れててくれ。」

下がって下がって、とハンドサインを出すアビィに、警官が疑問符を浮かべる。
だがしかし、先の活躍を見せたアビィの言葉だ。
アビィの勘を信じた彼らは、言われた通りに大きく下がったオセロットに続いて後退していく。
やがて全員の安全を確認したアビィは、静かに深呼吸をする。
そして、自身の胸元に手を当てて呟いた。

「素子演算(デモ・ワールド)、オン。」

そう言いながら、アビィは人差し指と中指を立てた右手を顔の前に出し、二度瞑想に入る。
直後、アビィを包み込む様に蒼い幕が浮かび上がる。
それは幾ばくかの星々の彩りを見せると、ヴェールの如く半透明のまま定着した。
轟沈・弓張月を前にして行われる謎の儀式に、警官達も困惑を隠せない。
だが眼前にて轟々と輝きを増していく膨大なエネルギーを前にしながら、アビィの顔に焦りの色は無い。
あるのはただ、静謐。
そしてその静寂が、周囲の緊張を一層強めていく。
その緊張感に耐えかねた一人の警官が、アビィに質問を投げかけた。

「彼は、何をしているんだ?」
「さっき攻撃を防いだ時みたいな事をするのか?」

それを皮切りに、誰もが思い浮かべた言葉を口々にしていく。
しかし、アビィはそれに答えない。
ただ静かに目を閉じて、精神統一の様な行いを続けている。
その行動に、警官達の疑念は更に増していく。
誰もアビィに触れまいと一歩、また一歩と後退していく。
訳が分からなかった、故に恐ろしかった。
この男は一体何者なのか。
本当に人間なのか、そう疑ってしまう程に、今のアビィは異質な存在に見えた。

「なぁ、あの子と一緒にいたアンタ、えっと…」
「オセロットだ。」
「オセロットさんか、あんたあの子が何してるか分かるか?」

理解の及ばぬ事象には、恐怖と好奇心が付き物だ。
だからこそ、比較的理解の及ぶ側へと流れるのは当然の帰結だ。
疑問の矛先は、アビィと居たオセロットへと向けられる。

「さぁな。」

しかし、当の本人は首を横に振った。
分からない、と。
そんな彼の返答に、警官達は落胆の色を露わにする。
巻き込まれればオセロットもまたお亡くなりだろうに、と思わざるを得ない。
だが。

「まぁ、断言できないがアレをどうにか出来るからの行動だろう。」

オセロットは、続けた。
その言葉に、警官達が希望の光を見た。
しかし、それも束の間。

『パイルドライブフットロック、接続。』

次の瞬間、轟音と共にアビィの目の前で巨大な矢が形成される。
赤黒い輝きに彩られた一筋の光は、まさしく血の奔流。
破壊を撒き散らす暴力の塊であり、殺意の表れだ。
東京タワーのバリアを容易く貫かんとする程の威力が、今この瞬間に解き放たれようとしている。
だが、アビィは動かない。
まるで、来るなら来いと言わんばかりに、微動だにしない。

「全く、騒々しくないのは君だけか。」
『会話の必要性、無し。』
「奇遇だね、同じ見解だ。」

いや、それどころか一仕事終えた様に一息付き、脱力する有様だ。
どうやら瞑想は終えた様で、コキコキと首を動かしている。
トドメに、ハンドサインで来いと挑発をしてくる始末。
どうやら、撃たせるつもりのようだ。

「来な、戦いを教えてやるよ。」
『…仕留める。』

為朝に、撃たない理由は無かった

「な、俺達を見捨てる気か!?」

警官達に動揺が走る。
しかし。

「合図したら君達は"僕の上"を撃つんだ。」
「ど、どういう?」
「良いから。」

有無を言わさずに行われる指示。
次いでオセロットへと目線を向けるアビィ。

「オセロット、例の照明弾は持ってきたね?」
「あぁ、言われた通りな。」
「よし、なら真上に撃て。それで片が付く。」

準備は整った、そう言わんばかりだった。

『発射。』

そして、遂にその時が来た。
矢を番えた指が、腕が勢い良く振り解かれる。
轟沈・弓張月が、放たれる。
一直線、一切のブレも無く。
音速を遥かに超えて、殺意を乗せた一撃が迫る。

「ほっ、と。」

対するアビィは、あろうことかその一撃へと足を向けていく。
そして軽く跳躍し、弓張月の上へ。
だが、それだけでは終わらない。
直後、アビィの身体が淡く輝く。
輝きは、やがて蒼炎となって身を包み、捻じれという運動エネルギーをアビィに加えて回し出す。
火の粉を舞い散らせ辺りを蒼く彩っていたそれは、やがて周囲の色を吸い込み始めた。

「な、何だぁ!?」

黒色の球体へと変貌していくアビィ。
彼の周囲越しに見た景色が、黒球へと吸い込まれる錯覚が出来ていく。
更には彼に向かって体が惹かれる感覚が彼等を襲う。
ブラックホールだ。
アビィは今、高速回転する事で自身の質量を増幅し、重力を生み出す高密度の物体と化していたのだ。
地球をも上回る重力の坩堝に巻き込まれ、弓張月は彼を中心に軌道を変える。
そう、180度スイングバイである。
赤黒いエネルギー波は、射手たる為朝の元へとそっくりそのまま返ってきた。
同時に、警官達の放つエネルギー波も載せて。

『解析、不能…!?』

突然の事態に、為朝は戸惑う。
為朝にとって、この様な事象は初めてだったからだ。
己が放った攻撃の軌道が変化する事など無かった。
それも、自分に返ってくる事など前代未聞だ。
故に、対処法が分からない。
しかし、黙ってやられる為朝ではない。

『迎撃を慣行、再装填_』

彼は即座に反撃に出るべく、再び矢を番える。
だが、それよりも早く、オセロットが動いた。

「今だ。」

彼の手で空に向かって打ち上げられる信号弾。
直後、為朝に衝撃が走る。

「_合図、御苦労さんっと!」

気付けば回り込んでいた燕青の一撃が、為朝の脚を捉えていた。
直後に燕青は消えたが、迎撃は間に合わない。
崩れた足場に尚陣取った故に、回避もまた手遅れ。
耐える事など以ての外、あの威力は自身が一番分かっているのだから。

(_やられた。)

一枚上手を行かれた屈辱と共に、為朝は赤い奔流の中へと消えていった。
後に残ったのは、焦土と化した赤坂と警官達、そして二人の男だった。

「これがフライ返しさ。」

28人目

「最終最後の切り札! 超サイヤ人3・孫悟空発進!!」

 ついに伝説の超サイヤ人と化したブロリー。
かつて倒した時とは比較にならぬほどの戦闘力。
それはまさに『真なる力』を開放した証だった。

「……これが真のブロリーのパワーか……!」

 その圧倒的ともいえるパワーに、バッファローマンも思わず息を飲む。

「……力を出し惜しみしてる場合じゃねえかもな……!」

 悟空は山吹色の胴着を自ら破り捨てる。
その下に着た丈夫な青いアンダーシャツ姿になった悟空。
そしてゆっくりと構えを取る。

「孫……あれをやるつもりか……」

 ピッコロは目を細める。

「驚ぇたぞ、ブロリー。正直ここまでブッ飛んだ強さになってたとは
思わなかった……オラもあれからうんと厳しい修行して
ぶっちぎりに強くなったつもりでいたんだけどよ……
てんでおめえにはかなわねぇや」

「ふっふっふっふ……命乞いかァ?」
「へへ、バカ言え。オラも全力の全力を尽くすって言ってんだ」
「ほォ……?」

「見せてやっぞ! こいつが通じなきゃもうオラにゃ何も残っちゃいねえ!
超サイヤ人を超えた超サイヤ人……そ、それをさらに超えた……
ぬっ……がががががっ……!! うあああああああああああああああーッ……!!」

 悟空が腰を落とし、両脚を開いて踏ん張った瞬間、激しいスパークとともに爆発的に膨れ上がっていく凄まじい気の量。
だがそれはいつもの金色に輝く超サイヤ人ではなかった。
頭髪がぐんぐんと伸びていき、後ろ髪が腰にまで達する。
全身の筋肉が一回り膨張し、顔つきまでも変わっていく。
眉毛が失われ、目付きも今までに無く鋭いものへと変わる。

「むう……!」

 ブロリーの表情も真剣な色を帯びる。

「悟空のおっさん、どうなっちまったんだ……!?」

フェリシアも戸惑いの声を上げる。

「ぬああああああああああああああーッ!!」

 天まで届く絶叫と共に、悟空はついに最終形態……超サイヤ人3への変身を遂げた。

「オラをここまでさせたんは、魔人ブウ以来だ……
こいつがオラのとっておき……超サイヤ人3だ!!」

 ベジータやピッコロは超サイヤ人3の実力を間近で体感している。

(超サイヤ人3か……未だに気に入らん変身だが
確かにあれが通じないとなればいよいよお手上げだろうな……)

 故に、ブロリーがそれほどまでに脅威的な存在だとベジータも認識したのだ。
しかし、それでもなおブロリーは笑う。

「超サイヤ人……3だと……? ふっ、ははははははは……そうでなくっちゃあ面白くない!
2だろうが、3だろうが、伝説の超サイヤ人であるこの俺に勝てると思うのかぁああっ!!!」

 そう叫びながら突進してくるブロリー。

「来るぞ、孫!」
「わかってらあっ!」

 迎え撃つ悟空もまた、全エネルギーを解放していく。

「つありゃあああああああーッ!!」
「ごうッ……!?」

 悟空のパンチがブロリーの顔面を殴り抜けた。
その威力たるや、ブロリーでさえよろめき、数歩後ずさるほどのもの。

「く、おのれェッ……!」
「うおおおりゃあーッ!!」

 さらに悟空の飛び回し蹴りが炸裂する。
ブロリーは再び吹き飛ばされるが、すぐに体勢を立て直す。

「ぐぅ……効かぬと言ったはずだァアッ!」
「まだまだぁっ!!」

 今度はブロリーから仕掛けてきた。

「ぬおおーッ!!」

 大振りの右フックが繰り出される。顔面スレスレでかわす悟空。

「てぇあああありゃッ!!」

 次の瞬間、左拳による強烈なアッパーカットが顎を打ち抜く。

「ぐう…ッ…!?」
(超サイヤ人3……とにかく気をハチャメチャに消費しちまうんが
こいつの大弱点だ……!!)

 これまでにない快進撃を見せる悟空ではあったものの、
やはり超サイヤ人の限界を超えるのには莫大な量のパワーを要するらしく、
超サイヤ人3を維持できる時間は驚くほど短いものだった。

(オラの身体が保つか、ブロリーがそれを耐え切っちまうか……勝負どころだぜ……!)

「悟空……あいつ、相当無理してる……
俺のギアと同じで身体にすんげえ負担かけてるんじゃ……!」
 
 ルフィは即座に理解した。
体内の血液量を倍化させ、ゴム人間の特性を活かし
常人を超えた柔軟性を獲得した血管によって肉体の隅々にまで行き渡らせる事で
通常状態を遥かに超えた戦闘力を獲得するのが、ギアだ。
己の限界を超えた力を引き出す、超短期決戦用の切り札と言う意味では
ギアと超サイヤ人3の運用思想は似通っていた。

「流石だな、ルフィ。その通りだ。こう言う時の貴様の目は本当によく利く」

 ピッコロも感心したように呟いた。
事実、ブロリーとの戦いの中で、既に悟空の動きは鈍りつつある。
スピードが落ち、攻撃のキレも落ちてくる。
しかし、そんな状況でもなおブロリーは手強かった。
ブロリーのタフネスと打たれ強さは尋常ではなく、
超サイヤ人3の攻撃をまともに浴びても致命的なダメージは受けていないようだった。

「悟空のおっさん、すげえ辛そうだぞ……!」
「うむ、まずいな……俺たちも加勢するべきじゃないのか?」
「いや、待て。孫の奴がもしも倒れるような事があれば、
その時は俺たち全員で仕掛ける……覚悟の準備をしておけ……!」

 ピッコロたちとて、かなりのダメージを受けている。
ブロリーの強さの秘密。それは驚異的なまでの体力と、圧倒的な防御力にある。
ベジータ、ピッコロ、フェリシア、ルフィ、バッファローマン……
これだけの猛者を相手にし、今なお超サイヤ人3となった悟空と激闘を繰り広げている。
ブロリーのタフネスさはまさに底無しなのだ。

「はあっ、はあっ……いい加減ぶっ倒れちまえってんだ……!!」
「ふっふっふっふ……良く頑張ったがとうとう終わりの時が来たようだな……!!」

 果たして悟空はこのままブロリーを倒しきる事が出来るのであろうか?
それとも……

29人目

「Strategy:Reversal」

瓦礫より土埃を上げて立ち昇る、何十mはあろうかという大猿。
それが大地を踏みしめる度に、空と陸が脈動する様に震わされる。
巨影の足音が刻むビートは何人をも圧巻させ、恐怖に陥れるだろう。

「まずい、 一旦逃げるぞ!」

いち早く我に返ったスネークが、喉を震わせ警告を上げる。
同時に、大猿が瓦礫の山を鷲掴みにする。
次に何が起きるか分かった時には、既に月美を含めて回避に入っていた。

「不味いです!?」
「来るぞ、伏せろ!」

神秘の欠片も無い泥臭い大猿は、しかし神話に伝わる怪物の様に、瓦礫の山を軽々と持ち上げる。
そしてそのまま、眼下にいた人間達へと目掛けて、無造作に投げつけた。
投げつけられた巨大な瓦礫の塊が、幾多にも別れて土柱を上げて着弾していく。
絨毯爆撃を受けたが如き惨状。
人知を超えた破壊を前に、しかし月美とスネークは、まだ原型を保っていた。

「ケホッ…大丈夫ですか、皆さん!?」
「俺は無事だが、他の連中はそうはいかん様だ。奴め、やってくれる。」

幸い、二人は攻撃を避けていた。
そんな中、スネークは瓦礫が生み出した煙の向こう側で暴れまわっているであろう怪物を睨みつける。
続けて月美へ問う。

「アレは確か、ドラゴンワールドに居た存在だったな。月美、君は何か知ってるか?」
「はい、あれはサイヤ人が満月を見た時になる大猿だそうです。ピッコロさんから聞きました。」
「月を見て変身か、まるで人狼だな。」

どこかで聞いたような伝説を耳にしながら、スネークは再び目付きを変える。
その時、遠くから爆発音が聞こえてきた。
おそらく、煙の向こうの方でも戦闘が始まったのだろう。

(急がなければ、手遅れになってしまうかもしれん。)

心の内で焦りを抱きながらも、冷静さを欠くことなく、慎重に戦場を観察する。
そして、スネークは次いで質問をする。

「あの猿、どうすれば倒せる?」
「えっと、確か尻尾が弱点だと聞きました。以前、ベジータさんがなった時は刀で斬られたそうで。」
「成程、刀か。となると尻尾はそれほど固くも無いな。」

月美の話から、最悪でも鉄程度の強度しか持ち合わせていない事を推察するスネーク。
ならば、話は簡単だ。
DDには銃という、穿つという武器がある。
その答えに辿り着いた時、既に頭の中で勝利への道筋が出来上がっていた。
懐から取り出した端末を片手で操作しながら、スネークは言う。

「よし、さっきの活躍を見込んで君に頼みがある。」
「はい、出来る事なら。」
「奴の眼を引き付けていてくれ、ただし無理はするな。後は俺が、俺達が奴を倒す。」
「…ふふっ、大船に乗ったつもりで任せてください!」

スネークの指示に、月美は小さく微笑んで首肯した。
付け足した注意に彼なりの優しさか、或いは頼もしさを感じたのか。
ともかく必要な言葉は交わした、後は実践あるのみ。
故に迷い無く、彼女は大猿へと向かって駆け出した。
眼前でぐんぐんと大きくなり、鮮明になる大猿のシルエット。
その詳細がすっかり見える頃には、大猿はとっくに目の前だった。

「来なさい大猿、私が相手ですっ!」

声を張り上げ、挑発する様に大猿へと立ちはだかる月美。
対する大猿は、自分に向かって突っ込んできた人間の少女の姿を捉え、其方へと注意を向ける。
眼下の有象無象より、自身を吹き飛ばした敵を消し去らんとして動くのは、必然だった。

「ガアァァァァ!!!」

咆哮に震えた空間が、歪んだ様な錯覚を覚える。
直後、大きく開かれた口に溜まり迸る気の濁流が、ソレを錯覚では無い現実の物とする。
だが、月美は銃剣を片手に正面から受けて立つ。

「星の子達よ!結んで、絆を!」

迫りくる脅威を前に、印を描いて刀身無き剣を構える。
月美の決意に答える様に、無数の式神が集まり、剣から伸びる一列の形を成す。
同時に、二つの星、織姫と彦星が式神を挟んで駆けていく。
淡い輝きを放つソレは、夜空に映る天の川のよう。

「顕現せよ、七星剣。」

やがて形成された物は、輝ける銀河の剣だった。
幾多もの式神が放つ美しき蒼を内包した、長身の剣。
それは、彼女の神器が力を結んだ成果だ。

「我が刃となり、守りたまえ!」

詠唱を終えると同時に、月美は地を蹴って跳んだ。
そして、大猿の口から紫の光弾が放たれる。
迫る光弾を迎撃せんと、剣を振るう。
光弾の軌道の真っ只中に飛び込み、そして突き刺した。

「はあぁーーっ!!!」

月美の声に応え、銀河の剣が昇天する。
そのまま光弾を突き抜け、その向こう側へと到達する。
直後、光弾は力尽きた様に四散した。

「ぐおぉ、おぉ…!?」

輝ける一刀を前に、さしもの大猿も苦悶の表情を浮かべていた。
だが、月美の攻撃はまだ終わらない。

「星よ、天の川より降り注げ!流星雨!」

月美は宙を舞いながら、再び刀身に手を添え、新たな呪文を唱える。
すると、今度は刀身から、式神達が光を伴い無数の刃と化して、大猿の巨体を食らう。
まさに流星群の如く、月の怪物を圧倒していた。
_星に紛れて過ぎ去っていく段ボール箱に気付かない程に。

「…ガアァァァァ!!!」

だが、大猿もただ食らってやるつもりは無い。
月美が放った流星雨は、確かに強力だ。
だが、大猿はその悉くを弾き、或いは避け、月美へと迫っていく。

「まだ、倒れませんか…!?」

溜まらず後退する月美に、その巨体で以て詰めていく。
そして、遂に間合いへと踏み込む。
大猿の拳が振り上げられ、月美目掛けて打ち下ろされる。

「その程度!」

月美は、その動きを読んでいた。
大猿の腕が、自分の身体を打ち砕かんとした瞬間、月美は身を翻して回避する。
直後、空振った剛腕に穿たれた大地が赤子の如く悲鳴を上げ、その身を開く。

「ぐぅ、うぅ…!」

直撃こそしなかったものの、その余波だけで月美はダメージを負っていた。
だが、大猿も無傷ではない。
痛みを感じていないからこその先の一撃だったが、その反動はしっかりと現れていた。
月美の式神が斬りつけた傷跡から血が噴き出す様に流れ、黒い体毛を赤く染めている。
多量の出血に溜まらずショック性の眩暈を起こし、片膝を付く大猿。
だが、それもじき回復するだろう。
_時間さえあれば、の話だが。

「よくやった、嬢ちゃん!」
「十分やってくれた、待たせたな。」

訪れた一瞬の静寂に、静かな声が確かに響く。
声の主は、スネーク達DD。
声の大元は、大猿の背後から。
彼等の手には、対物ライフルだ。
蛇の如く気配を殺して回り込んだスネークは、先の段ボール支援要請から得た対物ライフルを隊員と共に構えていた。
狙いを定め、一斉に引き金を引く。
今しがた力尽きた大猿には、これを避ける手段はない。
放たれる弾丸は、大猿の尻尾へと吸い込まれるように命中する。

「ガアァァァァァァーーーッ!!?」

穿たれる尻尾。
悲鳴を上げながら、大猿は見る見る内に小さく、人の形へと戻っていく。
傷もまたそのままに受けている状態では、大猿の様に回復する事も叶わず。
そのサイヤ人は、力無く倒れ伏した。

「これがどんでん返しだ。」

月美達の勝利であった。

30人目

「Epilogue 襲来:神霊革命前夜 ④」

「はぁ……はぁ……。」
「令呪で燕青を赤坂に送り届けるという命令、何とかうまく行ったようですね。」

 フィオレはおもむろに、自身の右手の甲を見る。
 彼女の右手にあった赤い模様、サーヴァントへの命令権___令呪。
 その3分の1ほどが色褪せていた。

「あとは、燕青たちが帰ってくるのを待つだけです。」
「そうか、一応月夜にも伝えておこう。」

 そういって、十神が端末で月夜に連絡を取ろうとする。
 その時。

「うわっ!」
「眩しい!」
「せ、閃光!?」

 一瞬、閃光が目の前で炸裂した。
 あまりにも眩い、光だ。

「くそっ!奇襲だ!構えろ!」

 中にいた流星旅団のメンバーは武器を取る。
 しかし。

『その必要はない、貴様らはここで芥のように燃えるのだ。』
「な……!」

 視界が燃える。
 まるで、太陽がすぐそこにあるような。

「十神さんたち……上。」
「あ……アレは!?」

 赫い炎が、頭上から炸裂した。
 巨大な、より巨大な槍を携えた女が、そこにいた。

『燃え尽きよ___流星旅団!』



 愛宕神社にて

「あいつら、大丈夫かな……。」

 月夜は東京ミッドタウンにいる流星旅団の事を心配していた。
 彼らの事を信頼して、あそこの防衛を任せているのだ。
 その時、月夜のポケットの中の端末が振動する。

「はい、どうした?」
『今すぐ来い!奇襲だ!』
「は……?」
『教団の奇襲だ!通信が持たない!すぐ来てくれ!焼かれる!』

 通信はここで途切れた。
 相当の危機が今、彼らを襲っているようだった。

「彩香!大丈夫か!?」
「……うん、何とか痛みは抑えた。」

 神體はどうにか適応できたようだが、今はそんなことを話している暇はない。

「そんなことより、あいつらが!奇襲にあった!」
「嘘ッ!?」

 彩夏の表情が緊迫する。
 その手を握りしめ、月夜と共に東京ミッドタウンに走っていった。

「……今行く!」