プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:20「破滅的一撃」
「Prologue」
【カール大帝襲来編】原文:霧雨さん
新橋の街を駆ける、シャルル遊撃隊の4人、デミックス、江ノ島、リク、
そしてシャルルマーニュ。
そんな中、メサイア教団の大司教が一人、
ビショップの発明品「自動英霊召喚システム『オモヒカネ』」によって召喚された英霊
「アルキメデス」と出会う。
しかしブロリーの登場、クローン戦士軍団の襲来と混沌としてゆく港区の戦線を前に、
アルキメデスは撤退する。そんな中遂にシャルル遊撃隊の前に、
メサイア教団の首魁と化したカール大帝が襲来。
シャルルマーニュに敗北してもなお、救世を諦めきれないカール大帝。
かつて、月の聖杯戦争で争った一つの英霊の光と影、再戦の時が迫っていた___!
【新橋/シャドウサーヴァント編】
勇者アレクVSシャドウ:バーサーカー。
アレフガルドを救った勇者と、栄華を誇った王都を崩壊に導いた湖の騎士の残滓の戦い。
ローラ姫に襲い来る悍ましき海魔を操るシャドウ:キャスター。
気丈に戦場に立つローラに、聖女の幻影を垣間見た狂気の使徒。
彼らもまた、ビショップの発明によって無作為に集められた英霊の成り損ない。
生前の無念や悔恨と言った負の想念が形となったものだ。まさに光と影……
バーサル騎士ガンダムも加わり奮戦するアレク達の前に、アルガス騎士団も加勢に
馳せ参じる。これまでの戦いにおいて、初めて団員全員が同じ戦場に集ったのだ。
異世界の騎士たちの剣と魔法、そして友情が邪悪なる影を一掃。勝利を収めた。
だが、そんな中ただひとり、ローラは今のままではアレクの力にはなれないと
自分の力不足を痛感し、さらなる強さを求め、決意を新たにするのであった……
【神霊革命前夜】原文:霧雨さん
彩香の活躍により、何とか東京ミッドタウンに襲来したドフラミンゴの影騎糸の脅威は
去った。しかし、この先激化する闘いに自分たちは生存できるのか。
苦悩する月夜は自分の非力さに涙を流す彩香に「死ぬとわかっていても、戦うか」と問う。
家族を失った兄妹。
特に月夜は兄として、これ以上家族を失うことが耐えられない。
されど彩香は「戦う」と叫んだ。
兄妹が向かった先は、彩香の秘密があるとされる愛宕神社。
彩香の秘密、それはかつて天宮兄妹の父親が研究していたとされる
「神のカケラ」たる神體の一つだった。
これを手にすれば、彼女の力はさらに強くなる。しかし手にしてしまえば、
彼女はメサイア教団と戦う宿命に囚われ、その過程で死んでしまうかもしれない。
されど、運命から逃げるわけにはいかない。
覚悟を決め、彩香は神體を手にする___。
その間マスターの証たる令呪を使い、燕青を赤坂に派遣したフィオレ。
これにより為朝の勝利に貢献することはできた。
しかし天宮兄妹と燕青がいない隙をついてか東京ミッドタウンに教団大司教の第2位
「炎の化身」たる焔坂百姫が奇襲する。
その報告を聞き、神體を手にした彩香と月夜は愛宕神社を後にするのだった……。
【DD編】原文:AMIDANTさん
新宿を治めるビショップとの衝突は、激戦の様相を催していた。
突如出現したアルキメデスの殺戮機構による強襲を受け、
分断されたDDの戦闘部隊は劣勢を強いられる。
だが辛うじて孤軍奮闘していた所を、駆け付けたBIG BOSS=ヴェノム・スネークと
特製ウォーカーギアの加勢によって首の皮一枚繋ぐ事に成功する。
その後も殺戮機構とシャドウサーヴァントの軍勢を交えた消耗戦を嗾けられるものの、
ヘリ部隊の支援によりこれを退ける。
その最中、ヒューイとの会話の中で明らかになる、ビショップの過去。
学会との軋轢、真実になる非道の数々、露わになる本性。
これを否とするDDと、あくまでも自分の道を貫くビショップとの衝突は、
苛烈さを増していく事になる。
一方、東京ミッドタウンにて警部からの電話を受けたDD諜報部と流星旅団。
一行は逆探知を掛けながらも話に乗る事になる。
取引内容は、互いの伝手を辿って兵力を合わせ赤坂にいる為朝を排除する事。
警部はこれに、人質等によって否応無しに従わされている一部の警察を解放させる事を
条件に出してきた。
事前情報により実態を把握していた為締結するかに思えた話し合い。
しかし途中に割り込んだドフラミンゴの手で警部が強襲され、一旦白紙となってしまう。
東京ミッドタウンを襲撃するドフラミンゴの影騎糸。
だがこれを彩香が単身で退け、警部もその人質も前述の逆探知によってアビィの手で
救われる事となる。
再び立ち上がった協力計画、DD諜報部、そして警察達。
結果、赤坂の為朝は武を以て排除される運びとなった。
だが、手薄になった東京ミッドタウンが二度襲撃されるとは露ほども知らず。
勝利の裏で、その代償を払わされる事となる…
【新橋/ブロリー編】
入れ違いで東京ミッドタウンを発った七海やちよ率いるCROSS HEROES第1部隊。
神浜市でウラヌスNo.ζに重傷を負わされた後に復帰してからと言うもの
己を鍛え直したやちよは、襲い来るシャドウサーヴァントを軽々と蹴散らしていく。
新橋入りを果たした後、深月フェリシアと二葉さなを含む
孫悟空、モンキー・D・ルフィ、バッファローマンらCROSS HEROES第3部隊との
合流に成功。新橋を支配するメサイア教団大司教、「戦の化身」ビショップの捜索を
再開する。
追い詰められたパラガス。ビショップは自動英霊召喚システムに基地の全電力を費やし
悟空への強い恨みを触媒として伝説の超サイヤ人・ブロリーを並行世界より召喚すると
新橋を放棄して撤退する。トラオムで生成されたバイオブロリー、
港区全土に配置された雀蜂、そして新橋のシャドウサーヴァント……
それらは全てビショップの科学力によってもたらされたものだったのだ。
さらにメサイア教団が人造人間21号と接触した際に提供されたクローン戦士達も
戦線へ投入。ここに、CROSS HEROES対ブロリー/クローン戦士達の全面対決が
幕を開けた。
召喚されたブロリーは、かつて新惑星ベジータにおいて
悟空たちに敗れ去ったものと同じ存在であった。
瀕死の重傷から立ち直り、生き延びた事によって戦闘力をさらに高めたブロリーは
想像を遥かに上回るパワーアップを果たしていた。
1000万パワーのバッファローマンに引けを取らないパワーと体躯。
ルフィやベジータの攻撃を物ともしない頑強な耐久力。
戦えば戦うほどに無限に戦闘力を増していくブロリー。
そしてついに、真の姿……伝説の超サイヤ人への覚醒を果たしたブロリーの攻撃で
陣形が崩壊し、チーム分散を余儀なくされるCROSS HEROES。
これまでの戦いで修練を積んだ月美が輝ける蒼輝銀河の剣・七星剣を顕現させ
スネークと共にクローン大猿を撃破するなど奮戦する中
悟空は最終最後の切り札……超サイヤ人3への変身を決意する。
パワーもスピードも飛躍的に向上する反面、気の消費量が尋常ではなく
長くは戦えない超短期決戦用である超サイヤ人3。
善戦するものの、悟空が圧倒的に不利である事は誰の目にも明らかであった。
果たして、戦いの行方は……
「神聖なる者 カール大帝」
『聖なるかな、今こそ威光が地に満ちる(カロルス・パトリキウス・アウクトリタス)!』
それは、遥か昔/未来の出来事。
月の新天地(エクステラ)で起きた、大いなる戦い。
天声同化による英霊たちの支配。
異星鍵の力が齎した狂気。
それに、多くの英霊が立ち向かった。
『終わらせようぜ、カール大帝(シャルルマーニュ)!』
『いいや!救世こそが必要なのだ!シャルル(カール)!』
その決戦の果て。
夜明けを待つ機動要塞、その謁見の間にて繰り広げられた最終決戦。
『これで、終わりだァァ!!』
その果て、ついに大帝は敗北した。
シャルルマーニュの意志の力が、大帝に勝利したのだ。
元をたどれば、彼は救われたかった。
封じられたアルテラを見て以来、彼はずっと。
消滅の間際、彼の内心は。
『ーーーー余は、それでも自分らしく生きたかった。』
霊核(しんぞう)が鼓動する。
心の底から絶叫する。
___自分のまま、生きたい。
生存を叫んだ、大帝の切なる願い。
他人を支配するという悪を犯してまで、そうまでして願った日常(じゆう)への咆哮。
___運命は、そんな彼を見捨てなかった。
◇
「救世を諦めきれないか、大帝!」
「いかにも。余が大帝である以上、余は世界に!永劫不変の平和を齎すのだ___!」
カール大帝は、高らかに世界の救世を宣言する。
その姿たるや、まさに威風堂々。
その行動の一つ一つには、愛が感じられる。
「あれが、カール大帝……!」
リクは感じていた。
大帝から感じる、身震いする恐ろしくなる程の気を。
「あれって、指輪か!シャルル!あいつ例の指輪持っているぞ!」
江ノ島の忠告を聞いたのか、シャルルマーニュが警戒する。
「目聡いな。いかにもこれはソロモンの指輪!余の救世に必要なアーティファクトである!」
自慢でもするかのように、カール大帝は右手の親指についた指輪を見せつける。
黄金に輝くソロモンの指輪。
それだけでも、彼の威光を更に輝かせていた。
「既にメサイア教団は、ソロモンの指輪を持っているようだな!」
「そんなこと言っている暇はなさそうだ!来るよ!?」
4人が武器を構える。
大帝も、腰に携えた剣___ジュワユーズを引き抜きシャルルマーニュ達に向けた。
「来るがいい!」
「くそ!やってやる!」
「残された希望! 超戦士たちよ、ブロリーを食い止めろ!!」
「ぬぅぅぅぅぅんあッ!!」
「あがっ……!!」
ブロリーのラリアットが炸裂し、悟空は真後ろに吹っ飛ぶ。
「ああっ……!!」
「いかんッ……」
「はあああーッ!!」
さらに追撃のフライング・メイヤーを仕掛けるブロリー。
「ぐはああーっ!!」
仰向けに倒れた悟空の胸板にブロリーが馬乗りになる。
「死ねい、カカロットォォォッ!!」
「――ちぇえええええいあッ!!」
ピッコロはすかさず飛びかかり、ブロリーを蹴飛ばす。
「ぬうッ……」
「ぜぇぇぇぁああああああッ!!」
さらにベジータが追撃の連続エネルギー弾を打ち放ち、弾幕を展開して
ブロリーを押し留める。
「孫! 大丈夫か!?」
「ああ、なんとかな……しかし、やべえぞ……!」
「ふふ……どうやらもう限界らしいな、カカロット……」
ブロリーはベジータの攻撃を物ともせずに起き上がり、ニヤリと笑った。
「くそったれ……足止めにもなりゃしない……」
「う……ぐく……!!」
半身を起こした悟空だったが、超サイヤ人3の変身が解け、通常状態へと戻ってしまう。
もはやブロリーを倒すだけの力は残されていない。
万策尽きたかと思われた、その時であった。
「みんな、目を閉じろォ!!」
「!?」
「太陽拳ーーーーーーーーーーッ!!」
何者かの叫び声と同時に、凄まじい光が辺り一面を包み込む。
全員が思わず手で目を覆う。
「ぬおおおッ!?」
ブロリーもまた、強烈な光に視界を奪われていた。
「今の内だ、一旦退がるぞ!!」
誰かの声が響き渡る。
ピッコロが悟空を担ぎ上げ、CROSS HEROESは一目散に撤退を図る。
「何処へ行ったぁ、カカロットォォォォォ……!!」
やがて、ブロリーが再び視力を取り戻した時には、既にそこに悟空たちの姿は無かった。
ブロリーから遠く離れた地点まで退避した悟空たち。
「……クリリン! 来てくれたんか!」
悟空は驚きを隠せない様子で言った。
「何とか間に合ったみたいだな。けど、ヤバい状況なのは変わらないか」
そう言いながら現れたのは、悟空の親友であるクリリンだった。
「てっきりルフィが叫んだのかと……」
「んあ? 俺じゃねえよ」
ルフィとクリリン。心なしか二人の声質は似ている気がした。
「何処だぁぁーッ!! カカロットォォォォォォーッ!!
出てこないならこの辺り一帯を消し飛ばしてくれるぞぉおおおッ!!」
しかし、そんな他愛も無い話をする暇もなく、ブロリーが空に向かって叫ぶ。
「うへっ、どうすんだよ、悟空のおっちゃん……あの化け物ならマジでやるぞ……」
フェリシアが不安そうな表情を浮かべる。
「超サイヤ人3も通用しねえ……もう、あれしか無えか……」
悟空がポツリと呟く。その言葉に、一同の顔色が変わった。
「な、何だ? まだ何かあるのかよ……?」
フェリシアが尋ねると、悟空は静かに答える。
「フュージョンだ」
かつて、悟空がメタモル星人から教わったと言う合体技。
「フュージョン……確か悟天とトランクスがそんな技を使っていたような……
で、誰と誰が組むんだ?」
「オラとおめえとでだ、ベジータ」
「!?」
まさかの指名に、ベジータは驚いた。
「お、俺と貴様が……だと……? 本気で言ってるのか、貴様……!」
動揺を隠しきれない様子のベジータ。
だが、そんな彼とは対照的に、悟空は至極落ち着いた口調で言う。
「もうこれっきゃねえ。時間がねえから早速始めるぞ」
「お、おい! フュージョンって確か、妙なポーズとか取るんじゃなかったのか?」
「そうだ。2人が呼吸を合わせて気を合わせるんだ。そんでもって、
まったく同じタイミングで左右対称にポーズを取る。
いいか、今からお手本を見せっかんな」
悟空はベジータの質問に淡々と答えると、皆の前で奇妙な踊りを始める。
すると……
「だ、だせえ……ぶはははははは……」
フェリシアはあまりのダサさに思わず吹き出してしまった。
「ぎゃはははは……あっ、やべ、ブロリーに聞こえる……ぷくく……」
笑いを押し殺すルフィ。
他の面々も、必死になって笑いを堪えている。
「おいおい、子どものお遊戯会じゃあないんだぜ。
そんなのが本当に上手くいくのかよ……」
呆れたように言うバッファローマンに対し、ピッコロは腕組みしながら口を開く。
「いや……悟空とベジータがこれを成功させたなら……勝てる。俺が保証する」
悟空の次男・悟天とベジータの一人息子・トランクスにフュージョンを習得させたのは
何を隠そう、悟空から特訓を引き継いたピッコロなのだ。
そして、悟天とトランクスは見事フュージョンを成功させ
ゴテンクスとして生まれ変わった。
その戦闘力は一人ひとりでは到達できないレベルにまで引き上げられたのだ。
ピッコロは確信していた。悟空とベジータがフュージョンすれば
ブロリーにも決して負ける事はない、と。
「ま、まあ、アンタほどの実力者がそう言うなら……」
ピッコロが伊達や酔狂で言っている訳ではない事を理解したバッファローマンは、
しぶしぶ納得する。
「お、俺があんなポーズを……し、死んだ方がマシだ……!!」
一方、ベジータの方はかなり嫌がっているようだったが……。
とは言え、今は他に選択肢がない事はベジータ自身も重々承知している。
「みんなに頼みがある。オラとベジータがフュージョンを練習している間、
何とかブロリーを足止めしてくれねえか……?」
悟空の言葉に、一同は黙って首を縦に振る。
「ふん、足止めと言わず、俺が奴をぶっ倒しちまっても構わんのだろう?」
不敵な笑みを浮かべながら、バッファローマンは自らの役割を買って出る。
「頼んだぞ、悟空! ベジータ! もうお前達に賭けるしかないんだ!」
「せいぜい足掻いて見せるか……」
全てを託すクリリン、それに続いて飛び立つピッコロ。
「うっし、悟空が限界を超えてパワーアップするまでの時間稼ぎだ。行くぞ野郎共!!」
「オレは野郎じゃねえんだけど?」
フェリシアのツッコミを無視しつつ、CROSS HEROESは悟空とベジータを残し、
ブロリーへと向かっていった。
「くそっ、カカロットめ、何処に隠れているのだ……!!」
辺り一面に破壊光線を放ちながら、悟空を捜し回っていた。
「おい、化け物! こっちだ!!」
ブロリーの前に立ち塞がったのは、バッファローマンだった。
「貴様じゃない……カカロットは何処にいる?」
ブロリーの問いに対して、バッファローマンは鼻で笑うとこう答えた。
「この俺を前にして、他の奴に目移りするとは随分余裕だな。
伝説の超サイヤ人だか何だか知らんが悪魔超人ナンバー1のバッファローマン様が
相手になってやる。孫悟空の居場所が知りたくば、俺をブッ倒してからにする事だな!」
その言葉と同時に、彼はブロリーに向かって突進していく。
「ぬおおおおおおおおおおーッ!!」
「くたばり損ないがぁ……カカロットの前に貴様から始末してやる!!」
「凶つ焔」
走る、走る。
曇天の空を走っている。
何かに急かされるかのように、焦燥と恐怖に苛まれるように。
「急げ!」
「うん!」
東京ミッドタウンの前に到着すると、その不穏の正体がはっきりとわかってしまった。
「うそ……これって……!」
そこにあったのは……死だった。
死、死、死。
燃える死体、砕けた死体、焼け焦げた死体。
死の結果だけが、そこにはあった。
焦げ付くような腐乱臭に吐き気がする。
「くそ……してやられた……!」
月夜の表情が、どうしようもない怒りで曇る。
いや、こんなものを見せつけられて曇らないわけがない。
こんな惨劇を見せつけられて、憤れない人間はいない。
「二人とも……遅いぞ。」
「その声は十神か!他のみんなは大丈夫なのか!?」
十神が二人に話しかける。
しかし、その体は傷だらけだ。
「何とか。フィオレはぶっ飛ばされて倒れている。気を失っているのは……まだ幸いだな。」
十神は、そばで横たわり気絶しているフィオレを見つめる。
「ここで話している暇はないぞ、急げ!」
2人は、東京ミッドタウンの屋内に走った。
その入り口前には、銃を構えて隠れている松田の姿が。
「松田さん!?」
「静かに、あそこです……!」
「あれか!俺たちの仲間を殺した奴は!」
松田が指をさした先。
___そこにあったのは、赤よりも赫い焔だった。
2メートルはあろう燃える焔の槍を携え、悠々と死体と瓦礫の山に立っていた。
「そこに隠れているのは分かっている。でてくるがいい。」
「……!」
その声は、若い女のようだ。
年齢にして、女子高生のような。
しかし何処か威厳がある声色のせいか、
「そう簡単に出てくるわけないだろ、お前は誰だ?」
「わらわの名は焔坂百姫。メサイア教団は大司教第2位。大帝の命に従い、貴様ら流星旅団を潰す者だ。」
「……ッ!」
挑発する。
敗北者たる彼らを殺しやすくするために、精神をぶれさせるために。
そこには、嗜虐心と効率があった。
「どうした、仇を取るのではないのか?貴様らの仲間を殺した敵はここだぞ?かかってくるがよい、それとも怖いか?」
埒が明かないと考えた月夜はボウガンを構え、ゆっくりと焔坂と名乗った女の前に出る。
そして出てきた瞬間、ボウガンに携えた榴弾矢(グレネードアロー)を焔坂目がけて放った。
炸裂する榴弾が、焔坂を襲う。
「……効かねぇか。」
爆風の奥から、焔坂が出てくる。
彼女の着る黒と赤のセーラー服が、少し焦げ付く。
「この程度で『炎の化身』たるわらわを殺せると思っていたとは。よくもそのような兵装で11年間生きていられたものだ。いや、その生存能力は『流石』というべきか?」
「流石だと?何を言ってるんだ。」
「捨て置くがいい、こっちの話じゃ。そして、次は貴様を殺す。」
赤い炎のような双眸が、冷たく輝く。
その槍の焔を激しく燃焼させ、月夜にその穂先を向ける。
しかし月夜は臆することなく、連射ボウガンに矢のカードリッジをつがえた。
「そうかよ。」
「その気迫、貴様はやはり……。まぁその体格は矮弱じゃがのう。」
何かを思い出しているのか、焔坂の言葉に含みが見え始める。
「何言ってやがる。殺すんだろ?とっとと殺しに来いよ。その前にてめぇの脳天に矢を打ち込んでやる。」
「では遠慮なく……!」
焔坂は槍を構え、投擲体制を整える。
このまま投擲を許してしまえば、月夜は炎の餌食になり燃え尽きるだろう。
しかし。
「………………。」
「あ、彩香さん?」
その瞬間だった。
何か、すさまじい殺気を松田は感じていた。
それは、焔坂も同じで。
「こ……上……に……すな……。」
「む、そこの者。なんじゃ?負け惜しみか?」
「え?何ですそれ!?」
松田は、彩香の手に握られた神體の輝きを見ていた。
気が付くと、柄しかなかったはずの刀がまるで、星空のような刃を構成していた。
・・
「オレの仲間に、手を出すな……!」
◇ーー/ーーーー◇
/
「な……彩香……それって!」
「くっ……!」
それは、刹那にも等しい瞬間だった。
”少女”の放つ斬撃は、焔坂の持つ赫焔の槍をへし切一瞬のうちに彼女の右腕に傷をつけていた。
この一瞬の出来事には、流石の焔坂も驚く。
「ほう、これは驚かされる……!」
驚きつつも余裕の笑みを崩さない焔坂に対し、斬った方である彩香は泣いていた。
死を、哭いていた。
目から大粒の涙を零し、されどその剣に力を籠める。
・
「……すさまじい耐久性能だな、鬼というのは。まぁそれはそれで倒し甲斐があるというもの。」
「わらわの腕に傷をつけるとはな、さすがに驚いたぞ。……貴様の名を問おうかッ!」
泣き虫な神霊は、散って逝った八百の命を弔うかのように名を告げる。
「オレは『アマツミカボシ』……!我が主たる天宮彩香の命に従い、お前を斬り伏せるものだ!」
「生命を賭けた戦い」
ブロリーとバッファローマンが正面から激突する。
「うおおおおッ!!」
「だぁぁああッ!!」
体格は全くの互角。がっぷり四つに組み合い、互いのパワーをぶつけ合う二人。
「どうしたどうした!! そんなもんかよ!?」
「ぐおおおッ!! 調子に乗るなよぉぉぉぉッ!!」
挑発を続けるバッファローマンに、ブロリーは怒りに任せて拳を振るう。
「今だッ!!」
バッファローマンはその一瞬の隙にブロリーの背後に回り込み、ハングマンホールドで
ブロリーを締め上げる。
「ぐうぅ……おのれぇ……!!」
「どうだ? このまま背骨をへし折ってやってもいいんだぞ?」
バッファローマンはそのまま更に力を加えていく。
「がぁっ……!?」
「そうらァッ!! メガトンシュートッ!!」
そのままブロリーを投げ飛ばし、ビル壁に向けて叩きつける。
「まだまだ終わらんぜ!」
「雑魚め……舐めるなよ……!」
だが、それでも尚、ブロリーは立ち上がる。
「今度は俺の番だ。死ねぇええええええッ!!」
ブロリーの掌にエネルギーが溜まっていく。
「イレイザァァァァァァァァッ! キャノンッ!!」
大きく振りかぶってから放たれたのは、超絶破壊光線。
バッファローマンの巨体を軽々と呑み込む程の巨大なビーム砲だ。
「荒れ狂う猛牛は、それしきの事じゃ止まらないぜ……!!」
しかし、バッファローマンは怯むこと無く、真正面からブロリーに突撃する。
「何だとぉ……!?」
イレイザーキャノンの直撃による爆発をものともせず突っ込んでくるバッファローマン。
ブロリーの顔に初めて焦燥の色が浮かび上がる。
「スペシャルッ!! ハリケェェェェェェェェン!
ミキサァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
通常よりも強化されたバッファローマンの代表的なフィニッシュブロー。
それをブロリーに炸裂させる。
「ぬおああああっ……!!」
凄まじい勢いで空中に巻き上げられたブロリー。
体の自由が利かないまま落下してくるブロリーに何度もロングホーンによる
体当たりを喰らわせる。その名の通り、全てを薙ぎ払い、破壊する竜巻が如く。
「どうだ……! これがバッファローマンの底力だ!」
しかし、ここまでの戦いがたたり、ロングホーンに亀裂が入り始めた。
「ちぃっ、もう限界かよ……! まだ折れてくれるなよ……!」
そう言いながら、バッファローマンはブロリーの様子を伺う。
ブロリーはまだ生きていた。バッファローマンがロングホーンに
気を逸らしてしまった隙に、 ブロリーは空中で急制動を掛けると、
ハリケーンミキサーの支配から脱し、反撃に転じる。
「お、おいっ、嘘だろ……!?」
ブロリーがそのままバリアを展開し、地上のバッファローマンへと狙いを定める。
「死ねえええええええッ!!」
そして、一気に下降し、バッファローマンを押し潰す。
「くっ……!」
バッファローマンは咄嵯に防御体勢を取るが、ブロリーの攻撃を完全に防ぎきる事は
出来なかった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおッ……!!」
アスファルトごと地面にめり込んだバッファローマン。さらにエネルギーを増し、
バッファローマンにバリアを押し当てていく。
「うっ……が……っ……!」
「はっはっはっはっは……!! どうだ! そのまま押し潰れろォォォォォッ……!!」
ブロリーは高笑いしながら、更に力を込める。
「ぬ……ぬおお……!」
「このまま楽にしてやろう……!!」
ブロリーがトドメを刺そうとした瞬間だった。
「調子に乗りすぎだぜ……ブロリー!!」
「何ィッ……!?」
「ゴムゴムのォォォォォォォォォォォッ……!!
巨人の回転弾(ギガントライフル)ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
ブロリーの身の丈の倍にもなる巨大な黒い鉄拳が、ブロリーを吹き飛ばす。
「うおおおおおおおおお……ッ!!」
そのままブロリーを遥か遠くまで連れ去っていく鉄拳。その主は……
「大丈夫か、牛のおっさん!」
「悪いな、ルフィ……」
ギアをさらに超えるギア。ギア3を発動させたルフィによる一撃だった。
「悟空もあんだけ頑張ったんだ、俺も頑張んねえとな!!」
むくりと起き上がるバッファローマンに、ルフィはニッと笑って見せた。
「カカロットは何処だ……!?」
ブロリーもまた、何事も無かったかのように立ち上がってきた。
「悟空はもうじき来るぜ。お前をぶっ飛ばしにな!」
「それまでは、俺たちがお前と遊んでやろうって訳だ!」
「貴様らぁぁ……!」
ブロリーは再び怒りに身を任せ、ルフィとバッファローマンに襲い掛かる。
「気円斬ッ!!」
「むっ……!?」
ブロリーの行く手を阻んだのは、クリリンが放った切断力抜群の必殺技だ。
「邪魔をするなァァッ!!」
エネルギー弾を投げ放ち、気円斬を破壊するブロリー。
「でぃやああああああああッ!!」
だが、その時既に彼の頭上へとピッコロが急降下し、
ブロリーの脳天に膝蹴りを喰らわせる。
「ぐぬぅ……ッ!?」
「どっかーん!!」
さらにブロリーの脇腹目掛けて大鎚をフルスイングするフェリシア。
「ぐふぅ……ッ!!」
「そぉうりゃあああああッ!!」
そこにすかさず、バッファローマンが強烈なドロップキックをお見舞いする。
「ごぁぁああッ!!」
ブロリーは大きく吹き飛び、ビルの壁に激突した。
「こんだけ殴っても、全然効いてるように見えねェぞ」
「こいつ、どんだけのタフネスなんだ……?」
「うおあああああああああああああッ!! 次から次へと……いい加減にしろ……
カカロットはどこだァァッ!!」
土埃の中から現れたブロリーは、傷だらけになりながらも、尚も闘志を燃やしていた。
「ゾンビかよ、コイツ……」
「悟空とベジータがフュージョンを完成させるまでの辛抱だ。
何とかして奴を足止めするぞ!」
「ちくしょう……悟空ーッ!! 早く来てくれェーッ!!」
クリリンの叫び声が虚しく響く……
「裏方、役者に足らず。されど舞台を繋ぐ」
曇天の空からポツポツと振り始めたにわか雨模様の下。
無線機に届いた東京ミッドタウン襲撃の知らせに、オセロット等DDの一同は静かな衝撃を受けていた。
通話内容そのものは勿論の事、無線越しに響いた悲鳴が、彼らを戦慄させていたのだ。
空模様は、彼等の心情だった。
「無線は要塞の奥にあった筈だ。だがあの様子では、あそこも。」
知恵が回るからこそ推察出来てしまう惨状に、苦い顔を浮かべるオセロット。
彼の言葉を聞いた一同もまた同じ結論に至り、身が裂ける様な慟哭に襲われる。
彼等の顔が想像を過る。
血塗れになり、必死で助けを呼ぶ姿を。
今この瞬間、最も聞きたくない声色。
「…いや、まだ間に合う筈だ。」
オセロットの言う通り、彼等の無線機は既に破壊されている。
しかしあの時、まだ彼等は死んでいなかった。
今も生きて、助けを求めている筈なのだ。
本当は半ば認めている、火を見るよりも明らかな結果に。
しかし彼等の残す物を思わなければ、せめて敵の委細を知らねば、やっていられなかった。
無力感に苛まれながら、それでも一刻も早く救援に向かわんとする意気込みだけは潰えてはいなかった。
「最低限の装備を纏めて一刻も早く引き上げるぞ、車両班準備に掛かれ!」
だからこそ、彼等は動き出した。
敵を知り、可能な限り生存者を探す方針である。
諜報部は一線を退いた者や実戦経験も無い集団ではあるものの、MSFやDDの戦闘技術を体得した者達である。
ならばこそ、今この力を使う時だと彼等は決意していた。
故に彼等の動きに迷いはない。
「それにしても、だ。」
ふと、オセロットがアビィを見て呟く。
彼はつい先程、質量増幅によるブラックホール化等という超常現象を起こし、絶望的な状況をひっくり返した。
だが何事にもリスクがある様に、彼も代償を支払っている。
そして今、目の前にいる彼の姿はその大きな問題点の表れであった。
「何だい、男にジロジロ見られる趣味は無いんだけど?」
「いや、"その姿"も久しいなと思ってな。」
「しょうがないじゃないか、ガス欠なんだ。暫く低燃費モードで行かせて貰うよ。」
そう言って、肩をすくめるアビィは、まるでマスコットの様な姿だった。
陶器の様に透き通った、丸っこい白い肌。
元の2/3程度、つまり80cm程の身長。
頭身も三頭身程になり、顔全体の輪郭の割合が大きくなっている。
全身くまなく、幼さが前面に出た、デフォルメされた体型。
彼の言う、所謂ガス欠だった。
その癖顔付きだけは何時もらしい憎たらしい表情である。
「仕事が終わったら、エゾシカの生け捕りを頼むよ?」
「本当に図太いな、全く。」
呑気に軽口を叩く彼に、呆れた顔を見せるオセロット。
しかしそのお気楽な口調が齎した柔らかな雰囲気で、多少なりとも気を持ち直せたのは事実だ。
それが兵士達の口を軽くさせたのもまた、必然だった。
「1年前を思い出すな、完璧超人の調査をしていた時の事を。」
「あぁ、出向いてる時にマザーベースが堕ちたなんて聞いたあの衝撃、今でも感触が離れない。」
「また、取り残されたな…」
ある兵士から始まった会話。
それは徐々に、しかし確実に他の面々の間に伝播していく。
MSFが襲撃された日、外に出向いた全ての者達にとって、決して忘れる事など出来ない記憶。
そしてこれからも、忘れられぬ出来事だろう。
しかし、アビィが聞き取った会話の中には、彼にとって他を差し置いても聞き逃せないワードがあった。
「完璧超人?何で君達がその動向を探ってたんだい?」
「ん?あぁ、お前には話していなかったか。」
完璧超人、それは彼等裏社会の人間にとってはほぼ無縁な存在の筈だ。
そんな勢力の調査等という行為に心底不思議な表情を浮かべて質問をするアビィに対し、オセロットはうっかりしていたなという表情を露わにしながら、続けて話し出す。
「お前が旧MSF時代に繋がりを作ってくれた悪魔超人達だが、あいつ等から頼み事を引き受けていたそうだ。」
「へぇ、初耳だね?あの悪魔超人達が、ねぇ。」
思いも寄らぬ回答に、アビィは少しばかりおどけた様な顔を見せる。
悪魔超人と言えども今や表の存在、裏の人間がおいそれと接触できる存在ではない。
嘗て雨宮蓮や怪盗団を表と裏から守る為に両者を繋いだのはアビィだが、直接取引が行われている事実には少々驚きだった。
軍人と悪魔、本来交わる事の無いであろう存在の会合。
成程、興味が無いと言えば嘘になる。
「何でも、奴等の故郷『魔界』に何か妙な動きがあったらしくてな。それに伴って完璧超人に動きが出ないか、諜報活動を依頼されてた様だ。」
「…成程、通りで悪魔超人の動きが速いと。彼等も上手くやるね。」
悪魔超人は、完璧超人襲来に際し、まるで初めから分かっていた様に動いていた。
今思えば、突然の宣戦布告を受けた者達の取る対応として余りに不自然だ。
その理由を知って、アビィは得心する。
恐らく、最初から彼等はこの事態を想定していたのだ。
「となると、一番の謎は…」
「あぁ、悪魔将軍だ。」
悪魔将軍、悪魔超人界の長。
彼が何を企んでいるのかは、正直アビィにとって理外の外にある部分が多い。
何故完璧超人に限っての監視だったのか、それすらも意図が読めない辺りが不気味で仕方ない。
しかし彼が何かしらの意図で悪魔超人に今回の不可侵条約決裂に踏み切らせた事は、想像に難くなかった。
いや、そもそも不可侵条約それ自体も、元より守るつもりは無かったのかもしれない。
悪魔超人を一同に動かせるのは、彼だけだ。
その彼がこの事態を想定させていたなら、全ては繋がってくる様にも見える。
アビィには、何か嫌な予感がして止まらなかった。
もしもその推測が正しかったとしたら、今此処で、その真相を確かめるべきなのではないか。
だが、今は余りにもヒントが無さ過ぎる。
故に、彼は今出来る事に集中する。
彼はオセロットの袖を掴むと、こう告げた。
「少し、やる事が出来た。いや本来の目的に戻るのかな?ともかく、僕は少し準備してくるよ。」
「おい、急にどうした?いつもとは違う、らしくない饒舌さだな。」
「僕の勘がね、警鐘を鳴らして止まないんだ。」
「やれやれ、お前も大概な男だ。」
そう言って、呆れた顔を見せたオセロット。
しかしアビィの真剣な眼差しを前に、その言葉とは裏腹に彼の心にはある種の納得が生まれていた。
アビィは、必要な事象には一切の怠りを行わない男である。
その男が、あそこまで焦りを露わにした表情を見せるのだ。
それだけで、オセロットには十分だった。
「まぁ良い、詳しくは聞かん。行くだけ行ってこい。」
「すぐ戻るよ。」
そう言って帽子を脱ぎ、放り投げる様に飛ばす。
するとどうだ、瞬く間に帽子の中から様々な部品が管を伸ばして形を成していくではないか。
SF映画のCGを思わせる超技術が平然と行われる中、最後に蒼い幕がボディを形成していく。
そうして出来上がったバイクに、アビィは跨ると、軽く2、3回吹かして、そのまま走り去っていった。
目指すは、アビダイン。
「最強のフュージョン!! 悟空とベジータ」
「うわあああッ」
「ぬぐうううッ」
ブロリーの前にルフィもバッファローマンもとうとう倒れてしまう。
「ちっくしょうーッ!!」
「ぬえええええいッ!!」
クリリンとピッコロが同時に挑みかかった。
「はっはァーッ!!」
ブロリーの攻撃がクリリンに命中……したかに見えたが、ゆらり、と像が揺れる。
「こっちだッ!!」
残像拳。自分そっくりの残像を作り出し、相手の目を欺く技である。
「むうッ!?」
「ピッコロッ! 頼む!!」
「ぬううううううんあッ……ぉわたァッ!!」
クリリンが隙をついてピッコロがブロリーの背後から攻撃を仕掛けた。
渾身の肘打ちをブロリーの後頭部に見舞う技、裏魔肘だ。
「それがどうしたァ!?」
しかし、まったく効果が無いどころか振り向く事もなく裏拳を放つ。
「ぐぉああッ!!」
まともに食らったピッコロが吹っ飛ぶ。
「ふんぬぁッ!!」
続いてブロリーはクリリンに向けて気弾を放った。
「わあああーッ!!」
爆風に煽られ、クリリンは吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。
「18号……マーロン……悪い、生きて帰れないかも……」
妻と娘の顔を思い浮かべながら、意識を失う。
「よし、フュージョンのポーズは覚えたな、ベジータ!
こいつは一度失敗しちまうとパワーアップするどころか、
逆にパワーダウンしちまう。んでもって、
次に合体できるようになるまで30分かかる。
つまり、一発勝負で決めるしかねえ」
悟空とベジータはフュージョンの練習をしている最中であった。
外からはルフィたちが必死に戦っている音が聞こえてくる。
「もう時間が無いぞ……フュージョンとやらが完成する前に
あの連中が全滅してしまう……」
「あいつらが何のために命張ってると思ってんだ!?
ブロリーに勝つにはこれっきゃねえんだぞ!!」
「ンなろォーッ!!」
ついに一人残されたフェリシアが大槌を手にブロリーに立ち向かう。
「このッ!! このッ!! くたばれ、こいつッ!! はぁッ!!」
ブンブン振り回すがまったく通用していない。
「ふぅん!」
ブロリーの腕の一閃でフェリシアの大槌が粉々になる。
「あっ……そんな……ぐあっ」
フェリシアの細首を片手で掴みあげるブロリー。
そのまま持ち上げると宙吊りにした。
「ぐ、あ、あ……!!」
息が出来ずにもがくフェリシア。
「ネズミめ……大人しく隠れていれば痛い目を見ずに済んだものを……」
「離、せ……この、バケモノ……!!」
「俺がバケモノ? 違う、俺は悪魔だ。
ふふっ、ふははははっ、ぐははははははははははは……!!」
ブロリーの高らかな笑い声が響き渡る。
「父ちゃん、母ちゃん、ごめん……今、そっちに逝くから……」
火事で亡くした両親の事を想いながら涙を流すフェリシア。
「ふふ、親父とおふくろの所に逝くが良い……!!」
ブロリーの右手に集まる気の塊。それを至近距離で炸裂させるつもりなのだ。
「さらばだ、小娘ぇ!!」
「行くぞ、ベジータ!!」
「くそったれが! もうどうにでもなれ!!」
「「フュー……ジョンッ!! はあああああッ!!」」
2人の身体が光に包まれて融合していく。
「むううッ……!?」
今まで感じた事の無いようなパワーを感じ、
フェリシアへの攻撃を一時中止して振り返る。
そこには、メタモル星人の民族衣装を着た金色の髪の男がいた。
「や、やったぞ……成功した……!!」
ピッコロは地に伏したまま歓喜の声を上げた。
「す、すげえ……デカゴンボールみてえだ……」
薄れ行く意識の中で、フェリシアが呟いた。
夢中になった漫画の中のヒーローそのままの存在が今、目の前に……
「カカロット……!? いや、ベジータ……違う。何なんだぁ、貴様はァ!?」
ブロリーは怒りの形相で男に迫る。
「俺は悟空でもベジータでもない。俺は、貴様を倒す者だ!!」
そう言うと、音もなくブロリーの間合いに踏み込んだ。
攻撃をする動きさえ見えない。ただ、目の前を通り過ぎていく。
そして数瞬遅れて、ブロリーの上半身に数十発もの拳打の痕が刻まれていた。
「ぐあああああああああッ!?」
ブロリーは叫び声を上げ、仰向けに倒れた。
空中に放られたフェリシアを優しくキャッチすると、 その顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「あ……うん、ありがとう。それが……フュージョンってヤツ?」
「そうだ。よく頑張ったな」
「へへ、何だか父ちゃんに抱っこされてるみてえ、だ……」
安心したのか、フェリシアはそのまま気を失った。
「カカロットォオオオオッ!!」
ブロリーが起き上がり、悟空とベジータが合体した融合戦士・ゴジータの背後から
襲い掛かる。
「ーー!!」
フェリシアを抱きかかえたまま、ブロリーの鉄拳を避わし、
側頭部に強烈な膝蹴りを叩きこんだ。
「グワアアッ!!」
堪らず吹き飛ぶブロリー。
その間にフェリシアをクリリンの傍らに寝かせ、再び戦場へと戻る。
「ぬうううッ!! こんな事が……あってたまるかあああ!!」
ブロリーは口から血を吹き出しながら叫んだ。
「俺は伝説の超サイヤ人だぞおおおっ!!」
渾身の一撃と言わんばかりの勢いで突進してくる。
「ふっ!」
だが、軽く息を吐きだすと同時にゴジータは上空へと飛び上がった。
ブロリーも追いかけるが、その差はまったく縮まらない。
「なにィ!? 何故だ!? なぜ追いつけないィッ!?」
「これがフュージョンの力さ……!」
「ふざけるなぁっ!!」
「ーー!!」
ブロリーの攻撃をかわしつつ、 今度はこちらから仕掛けた。
凄まじいスピードで連続攻撃を浴び、 ブロリーが吹っ飛んでいく。
「おのれェ……カカロットォオオオッ!!」
ブロリーが気弾を放ったが、それは途中で霧散してしまった。
「無駄だ。お前の技は全て見切った」
「黙れぇ!!」
ブロリーが怒号と共に突っ込んできたが、 やはりゴジータの動きについていけず、
空振りを繰り返す。
「ば、馬鹿なァァァ……」
「そろそろ終わりにしてやるぜ」
ゴジータがブロリーに向かって手を伸ばす。
「ふぅん!」
「ぐわあッ!?」
掌底を受けたブロリーは大きく後退し、そのまま地面に叩きつけられた。
「ぐぐぐ……ッ!!」
ゴジータも着地し、ただ静かにブロリーを見下ろしている。
「……フン、それがフュージョンって奴か。ピッコロの旦那の言う通りだったな」
ゴジータの発散するパワーに当てられてか、
バッファローマン、ルフィたちが続々と立ち上がってきた。
「そんなすっげえパワー見せられたらよ、おちおち寝ていらんねェや。しししっ……」
「うおおおおおおおおおおおおーッ!! 俺が負けるはずがあるかあああああああーッ!!」
ブロリーは怒り狂い、咆哮する。
「奴さん、相当頭に来てるようだぜ」
「よし……行くぞ、みんな! 奴にトドメを刺すんだ!!」
「「おう!!」」
「大帝と女神と新たなる脅威」
「一気に決めるしかない!ここで決着をつける!」
「「「応!」」」
一気に必殺技を決めるかのような構えを取るシャルル遊撃隊。
「来るか!幾らでも来い!」
相対する大帝は、余裕綽々の表情を崩さない。
大剣と化したジュワユーズを地に突き立て、これが防御とでも言わんばかりに仁王立ちを決め込む。
「ラストアルカナム!!」
「舞踊れ、水たち!!」
「魔弾ッ喰らいやがれ!!」
「王勇を示せ、遍く世を巡る十二の輝剣(ジュワユーズ・オルドル)!!」
シャルル遊撃隊の4人が、全員が繰り出しえる最大級の攻撃を放つ。
片や最強の技、片や宝具。強力無比な攻撃を前にしてカール大帝が無事でいられるわけが……。
「今、何かしたか?」
「「「「!!?」」」」
4人の表情が一気に曇る。
あれだけの攻撃を喰らわせたにもかかわらず、大帝は傷一つついていない。
まるで、大いなる自然現象に攻撃をしているかのような。
或いは、巨大で堅牢な城壁でも相手にしているかのような。そんな気すらする。
「ば、バケモンかよ……!」
「くそ、あれが大帝の力か!?」
「違う、大帝自身の力もあるけど、指輪だ!あのソロモンの指輪がッ、大帝の戦闘力を更に高めているんだ!!」
「いかにも。そして、終わりだ。」
その一言と共に、4人が恐ろしいまでのプレッシャーに駆られる。
まるで、空気が一気に重くなったかのように、膝をつくしかない。
「こ、これもあの指輪の力か!?」
「あいつ、ソロモンの指輪が持つ力を引き出しているんだ……!」
指輪が放つ圧倒的な力。
それは大帝のカリスマと渾然一体に絡み合って、強烈な重圧と化した。
そうして、膝を屈した4人の首を刎ねようとカール大帝はゆっくりと近づく。
「ちょっと待て……どうせ私様たちを殺すんだろ?だったら死ぬ前にどうしても聞いておきたいことがある。これだけは聞いておかないと死んでも死にきれない。」
そんな中唯一、江ノ島は重圧に抗いつつ大帝に質問をした。
「なんだ、聞くだけだぞ。」
質問をぶつけられた大帝は、立ち止まる。
「トラオム。あそこの兵士の1体が妙なこと言ってきたんだよ。私様の事『女神』って呼んでたんだが、アレは何だ?」
「そんなもの知ったことでは………………………………何だって?」
突如カール大帝の頭に、疑問符が浮かんだ。
眼前にいる女と、彼も知らない『女神』の謎。
それは大帝すら知りえない情報。
「大帝さんよ、教団トップであるあんたなら知ってんだろ?希望ヶ峰吹っ飛ばした理由も、あたしを一回拉致した理由も、何もかも!」
「…………………………………………………………………そういうことか。」
大帝は、何かに気づいたようだが、その”何か”は口にはしない。
「何のことだ?」
「それは…………なッ、この気配は!?」
何かに気づいた大帝は、戦闘態勢を崩す。
「……命拾いしたなシャルル。」
「待て!どういうことだ!?」
カール大帝は感じていた。
何か、空恐ろしいものの気配を。
自分たちとは決してまつろわぬ、何かの気配を。
故に。
「____シャルルよ、東京の指輪はくれてやる。もし余に勝ちたくば指輪を集め『存在しなかった世界』まで来るがよい!最も、来れればの話だがな、ふはははは……!」
大帝はそうして、シャルル遊撃隊の前から姿を消した。
残された4人は、重圧から解放されるも、その顔には謎が残っていた。
◇
「大帝はいなくなったけど……謎が増えたというか……負けた気がするというか。」
「ほぼ負けだな。事実大帝には傷一つつけられてない。あの指輪のせいか、大帝の戦闘力は前戦ったよりも跳ね上がっている。」
4人の表情は浮かない。
「デミックス、『存在しなかった世界』にメサイア教団の本拠地があると解釈して良いのか?」
「うん、教団を追放された身だけど位置ははっきり覚えている。もっと早く言っておくべきだった。」
リクの質問に、デミックスは自信をもって答える。
デミックスはシグバールと同様教団に雇われたノーバディである上、そのノーバディの本拠地は存在しなかった世界。
位置もつながりも分かっているのは、遊撃隊の中では彼が一番だ。
「それでも下っ端だからね、知らないことは知らないよ。」
「いや、それだけでも十分だ。ありがとな。」
デミックスは、何処か照れくさそうに頭をかく。
「それにしても、助かったよ江ノ島。お前が時間を稼いでくれたおかげで助かった。ありがとう。」
シャルルマーニュに言われた、感謝の意。
彼女の顔に、驚きと笑顔がこぼれる。
「え……?」
つい、言葉が詰まる。
恥ずかしそうに後ろを向く。
「とにかく、みんなの下に帰ろう。情報は共有しておくべきだ。」
かくして、シャルル遊撃隊は新橋から撤退した。
「……ありがとう、か。」
空は曇天、にわか雨模様。
されど、後に待ち受ける景色は晴れ。
「いいもんだな。」
江ノ島は、恥ずかしそうに笑顔を零す。
遠方の曇り空の一部から日の光が差し込んでいた。
「最悪の儀式」
一方その頃、竜馬達はというと
「オラァ!」
「グギャアアアアアアッ!?」
「ふぅ……今のが最後の一匹か?」
「恐らくはな」
「民間人の避難も終わりました」
「よし、我々も他のチームと合流しに……ん?」
「な、なんだ…!?」
一同が空を見上げると空が赤く染まっていた。
「空が赤い…!?」
「どういうことだ……」
「まさかメサイア教団の奴らがなにかやったのか!?」
「わからない……だが、とんでもなく嫌な予感がする……」
するとすぐ近くに停めてあるナースデッセイ号から通信が入る
『大変だ!青山辺りからとんでもない量のエネルギーが出てやがる!』
「なに!?」
「青山って……確か既に壊滅してて誰もいないはずじゃ……」
「とにかく行ってみよう」
一同はナースデッセイ号に乗って青山まで向かった。
「ここだよな?」
「あぁ、確かにここのはずだ……」
「よく来たなCROSS HEROESよ」
「っ!」
青山までやって来た一同を迎えたのはあしゅら男爵とゴーゴン大公だった。
「あしゅら!やっぱり生きてたか!」
「それにあしゅらの隣にいる下半身が虎の人って……」
「久しぶりだな」
「ゴーゴン大公!あいつまで生きてたのか!」
「あの変な者達は確かに強敵ではあったが、あの程度のことで死ぬほどやわではない」
「感謝するぞ兜甲児、そしてCROSS HEROESよ。一度ならず二度もDr.ヘルを倒してくれたのだからな。
その礼として貴様達には特等席で見せてやる。我らの儀式を」
「儀式だって…!?」
「どういうことだ!?」
「前にやつが、Dr.ヘルが言ってただろ?やつらに対抗する為にお前達が持つ光の力が必要だと」
「あぁ、確か滅びの現象を起こす者たちの力と真逆の力だって言ってたが……」
「その通りだ。だがDr.ヘルが光の力を手に入れて対抗しようとしてた相手は滅びの現象を起こす者たちだけではない…!」
「なに!?」
「やつが真に戦おうとしてた相手……それは我らミケーネなのだよ」
「ミケーネだと!?」
「けどミケーネってもう既に滅んだはずじゃ……」
「……まさか!?」
「そう、そのまさかだ!我々が今からやろうとしてる儀式……それはかつて裏切り者のゼウス達によって滅んだミケーネの神々をこの世に蘇らせる為のもの…!
今まではDr.ヘルのせいでこの儀式もできなかったが、やつがいなくなった以上、もう儀式の邪魔になるものは存在しない!」
「クッ…!あしゅらを止めるぞ!」
「そうはさせん!」
「っ!?」
CROSS HEROESはあしゅらを止めようとするが現れたスウォルツと晴明によって攻撃されてしまう。
「スウォルツ!?」
「晴明!テメェ!」
「ミケーネ神が復活すれば、オーマジオウさえも凌駕できるほどの力が手に入るかもしれないのだ、邪魔はさせん!」
「さぁあしゅら殿よ、今のうちに儀式を…!」
「感謝するぞスウォルツ、そして晴明よ…!
さぁ蘇れ!ミケーネの神々達よぉ!」
そう叫びあしゅらが自身の身体を引き裂くとあしゅらを中心に強い光が放たれた。
「アマツミカボシ vs. 焔坂百姫」
そのころ、崩落寸前の東京ミッドタウンでは。
「アマツ……ミカボシ……?」
焔坂が驚嘆と共に目を丸くする。
突然との強者との邂逅に驚きつつも、内心歓喜しているのだろう。
その手に握る炎の槍に力が籠る。
「それが貴様の切り札か。良いぞ、実によい!」
「無駄話をしている暇はない。来いよ、”鬼”!」
鬼。
人間社会では精々、節分か鬼ごっこでしか聞かない言葉。
その一言に、月夜は驚きを隠せない。
「鬼だと!?ちょっと待て、鬼ってあの……なっ!」
「貴様の眼は節穴か?見えぬか?この角が!」
そう言って、焔坂は額を指さす。
それは、赤い角。
根元から砕かれた、されど赤い水晶のように輝く角が確かに生えていた。
「そして、これ以上無駄話をするつもりはない!」
焔坂はその勢いに任せ前方に7mは跳躍、その炎の槍を何本にも分裂させて___まるで地上を爆撃でもするかのように投げつけた。
「熱鎗『炎魔降爆』!」
まるで燃え盛る隕石のように進軍する槍の群れ。
着弾すれば、まさにC4爆弾数十個分の爆破にも匹敵する破壊が彼女を襲う。
「その程度か!?鬼とは!」
しかし、そんな威力の槍すらも一刀のもとに斬り伏せてしまった。
斬られた焔の塊は、一気に火の粉へと変貌してゆく。
彩香の扱う「流星剣術」と神霊としての力が渾然一体となり、こんな芸当を可能にしてしまったのだ。
「嘗めるでないぞ!___血爆『熱破赫灼』!」
天空から、投げつけられた鎗が無数の矢じりとなって降り注いでくる。
「貴様らの同胞を鏖殺した奥義よ!この技で引導を渡してくれるわ!」
「ならば!」
迫り来る炎の矢、仲間を殺しつくした暴威。
彼女は無言でそれをはじき返し、己が刀にまとわりつかせる。
「お前が殺した者たちの無念だ!喰らっとけ!」
焔坂目がけて、焔の塊を三日月形の衝撃波として放つ。
そんなフィクションでしか見たことのない芸当の数々を前にしては、焔坂も戦闘狂としての血が滾ってくるというもの。
「面白い、もっと見せるがよいぞ!」
「語るに及ばん!これで斬り伏せる!」
そう言い切った彩香は、およそ人間技とは思えないほどの超高速の機動と軌道で焔坂が開けたであろう天井に空いた穴から外へと飛び出る。
そして、空中で居合切りの構えを取ったかと思うと、地上目がけて超高速の落下を開始した。
「地獄に落ちろ、彗星天洛___!」
「地獄に落ちるのは貴様だ___!」
天空に飛び上がり、此方目がけて降下する彩香に対抗するかのように、地上の焔坂は槍を持ってすさまじい勢いでの跳躍を開始した。
お互い避ける気もなく、防御する様子もない。
ただ一人取り残された月夜だけは、この戦いの裏で発生したある異変に気づいていた。
「空が、赤い!?」
焔坂の脳天を射抜くためにひとまず天を仰いでみれば、空は陰暗な鉛色から恐怖すら感じる赤色に変化していた。
この時の彼らは気づかなかったが、それは異邦の神___ミケーネ神の復活の儀式、その余波によるものだった。
「焔坂よ、緊急事態だ。直ちに撤退せよ。」
カール大帝からの念話だ。2人には聞こえない。
その命令は”撤退”。
今いいとこなのにとでも言わんばかりに、焔坂は言い返す。
「しかしよいのですか?まだ流星旅団を完全に……」
「それよりも脅威となりえる存在が来てしまった。今の兵力ではやられかねない。流星旅団はどうした?」
「9割9分は葬りました。しかし。」
「天宮兄妹と主要メンバーは依然生きている、か。だが今回ばかりは仕方ない。次に会ったら最大戦力をぶつけて屠れ。いいな?」
「……はっ。」
鬼たる焔坂とて、偉大なるカール大帝の命に逆らう訳にはいかない。
渋々と、焔坂は火の槍を虚空にしまいこむ。
「天宮兄妹、アマツミカボシよ!貴様らの名は覚えたぞ!今の武装では殺しきれぬ事もな!___まぁ次に会う時まで精々足掻くがよいぞ!」
「……。」
そうして、焔坂は炎に包まれその場から消えていった。
彩香に取り付いていた神霊___アマツミカボシも元の神體に帰っていった。
最後に残ったのは、焦げ付く死体の腐乱臭と瓦礫の山。
正義を求め、散っていった者たちの成れの果てしか、そこにはなかった。
こんなものを見せつけられて、茫然自失にならないわけがなく。
「これが、俺たちの戦いの果てか。」
「……みんな、死んでしまった。何なんだよ……!」
流星旅団の生存者は、無関係の人間である松田を除きわずか5名のみ。
そんな絶望を、人間である彼らは簡単に受け入れられるわけもなく。
「あああ……あ…ああ___ああああああああああああああああああああああ!!」
今までこらえていたものが、噴出した。
彩香の心から嘆きが、絶望が、吹きあがった。
「……彩香。」
「ひぐ……えぐ……。」
「結果はどうあれ、理由は何であれ、お前は勝ったんだよ。仇は一度取った。だが、それでもやりきれないというのならば、次また勝てばいいんだ。」
泣きじゃくる彩香を慰めるために、彼女を抱きかかえながらあくまでも冷静に言葉を紡ぐ。
一番悔しいのは、流星旅団のリーダーである月夜のはずなのに。
でも、彼が泣いたらきっと、死んでいったみんなも泣いてしまいそうで。
「ボクたち……また勝てるのかな……?」 ・・・・
「勝てるさ。今は俺達は強くなるしかないんだ。今度こそメサイア教団を打ち倒すために。」
そうして、少年は再び歩みだした。
「行こう、まずはCROSS HEROESのところに向かって事の子細を話す。それから俺たちの今後を決めよう。」
教団打倒を誓ったからには、今泣いている暇はない。
ああ、そんな暇も理由もないというのに。
「なんでだよ……なんで俺まで泣いちまってんだよ……くそ。」
「倒せ! 不死身のクローン・ナッパ」
「!? フェリシアの魔力反応が弱まっている……」
クローン軍団と交戦中のやちよは、ソウルジェムを介して
フェリシアの魔力が急速に失われつつあるのを感じ取った。
「余所見なんざしてる場合じゃねえだろうが、オラァ!!」
「くあっ……!!」
クローン・ナッパの回し蹴りを三叉槍の柄で受け止めたが
衝撃までは殺せず後方に飛ばされた。
「フェリシア……まさか……」
やちよの脳裏に最悪の事態が浮かぶ。しかし、それと同時に突如として出現した
神々しいまでの強いパワーも感じる。
温かさと安心感をもたらす金色のオーラが彼方から立ち昇っていた。
「今は信じるしかない……CROSS HEROESの力を……!」
これまでいろはや黒江を守り抜いてきた戦士たちが今は共にいる。
その実力は間近で見て、十分に理解していた。
「ケケケケケ―ッ!!」
栽培マンの頭がぱっくりと2つに割れ、中から噴射される強力な溶解液。
「ひゃああっ……」
さなは咄嗟に身を覆い隠すほどに大きな盾を出現させ、それを防いだ。
盾は無事だったが、飛散した溶解液が地面に付着するとそこから煙が上がり
ジュウウ……と音を立てながら溶け始める。
「あ、危なかった……」
「数が多い……ここは一気にッ!!」
さなのシールドの陰から黒江が飛び出し、両腕のクラブを逆手に構えて突撃する。
「黒江さんっ……援護するよっ!!」
いろはのボウガンによる後方支援。その隙に黒江が栽培マンの群れに急接近し、
振り下ろしたクラブが地面に深く突き刺さった。
「カラミタス・ガーラ……これが私の全力ッ!! いけえええーッ!!」
その瞬間、クラブから注ぎ込まれる魔力が幾重にも枝分かれした波動となって拡散され
周囲にいた栽培マンが一斉に爆発四散する。
その威力たるや、地面を割り砕き、爆心地には巨大なクレーターが出来上がるほどだった。
「グギャエエエエッ……」
マギア。それは魔法少女誰しもが持つ最大最強の必殺技である。
その一撃を食らい、栽培マンたちが次々と倒れていく。
「チッ……栽培マン達がやられちまいやがった……どいつもこいつも情けねえ!」
クローン・ナッパが忌々しげに舌打ちをする。
「次は貴方よ!」
やちよが三叉槍を突き出しながら、クローン・ナッパに迫る。
「ちゃらあああーッ!!」
さらに鶴乃も炎を纏った扇子を振るい、やちよとの見事な連携攻撃で
クローン・ナッパを攻め立てる。
「鬱陶しいんだよ小娘どもォッ!!」
クローン・ナッパが2本指をクンッ、と突き立てると
彼を爆心地として強烈な爆発波が放たれ、その衝撃波によってやちよと鶴乃は
吹っ飛ばされてしまった。
「きゃあああッ」
やちよ、鶴乃はなんとか空中で体勢を整え着地したが、クローン・ナッパは
その隙を逃さず追撃してきた。
「おぉぉぅりゃあああッ!!」
そして間髪入れずにクローン・ナッパのオーバーヘッドキックが炸裂。
「うああッ……」
やちよの体は何度もバウンドしながら転がっていった。
「やちよししょー! よくもやったな、ハゲオヤジ!!」
鶴乃がすかさず追撃するが、投げつけた扇は簡単に弾かれてしまう。
「てめえもぶっ飛べ!」
更にクローン・ナッパは腕の筋肉を隆起させると、全身のバネを使って跳躍し
上空からの重爆パンチを浴びせてきた。
「わああああッ……」
ガードするが、あまりの威力に鶴乃は地面に叩きつけられ
そのまま動けなくなってしまった。そこへクローン・ナッパが着地。
鶴乃の体を足で押さえつけ、顔を覗き込む。
「へっへっへ……どうだ、痛いか?」
クローン・ナッパが愉快そうに笑う。
「このっ……悪趣味……!」
鶴乃は歯噛みしつつ、睨み返した。
「哭連蜂ッ!!」
蜂の一刺しが如く鋭いペルの正拳突きがクローン・ナッパの腹を貫いた。
「ぬうっ……」
しかし、ナッパはまるで堪えていない様子だ。
ペルはすぐさま離脱し、距離を取る。
「このチビィ……俺の戦闘服にヒビをいれやがって……!」
クローン・ナッパは憤りながら自分の腹部を見た。確かに彼の戦闘服に
亀裂が入っている。
「チビではない。ペルフェクタリアだ」
「ンなこたあ、どうでもいいんだよ! ぶっ殺す!!」
ナッパが凄まじい勢いで突進してくる。
だがその動きは直線的で、ペルは紙一重のところで回避すると
すれ違いざまにカウンターの肘鉄をクローン・ナッパの側頭部に叩きこんだ。
「このガキィ……! 調子に乗るんじゃねええ!!」
激昂したクローン・ナッパが振り向き様に回し蹴りを繰り出す。
しかし、その時には既にペルの姿はなく、背後に回りこまれていた。
クローン・ナッパの蹴りが空を切る。
「やちよさん!」
いろはが駆け寄ってくる。
やちよはいろはに支えられて何とか起き上がった。
「いろは……あの男の打たれ強さは異常よ……私とあなたでコネクトを……」
「はい!!」
やちよの提案に、いろはは力強く首肯した。
やちよといろはが手を繋ぐと、2人の魔力が合わさり、より強力なエネルギーへと
変換されていく。
「織姫! 彦星!!」
ナッパと交戦するペルの援護に、月美が放つ二対の神器が飛び交う。
「次から次に……ウザってェ!!」
クローン・ナッパは苛立たしげに叫ぶと、神器を弾き飛ばす。
その一瞬の隙に背後からペルのマフラーが首に巻き付けられ、体重をかけて締め上げる。
「いい加減に倒れろ……!!」
「ぐ、ぎ、ぎ……!!」
ギリギリとペルのマフラーがクローン・ナッパの首を強く圧迫していく。
苦悶の表情を浮かべるが、それでもなお抵抗を止めない。
「んがあああああッ!!」
ペルの頭を掴み、無理矢理に引き剥がして地面に叩きつける。
「――ッ!!」
「ペルちゃん!!」
月美が悲鳴を上げる。ペルは地面に倒れ伏したまま動かない。
クローン・ナッパは勝ち誇った笑みを浮かべつつ、ゆっくりと近づいていく。
だが……
「お前の……、負けだ」
「何ィ!?」
ペル達の必死の抵抗が実を結んだ。いろはとやちよがコネクトする事によって
高められた魔力。それを三叉槍の切っ先に集中させ、ナッパに向けて放つ。
「当たれええええーッ!!」
「し、しまった……!! ええい!!」
ナッパは苦し紛れのエネルギー波を発射するが、いろはとやちよが放った魔力光は
槍の貫通力とボウガンの速射性を併せ持ち、ナッパのエネルギー波を容易く貫通。
そして……
「ぐほおおおおおッ……!!」
ついには、ナッパ自身をも貫き通す事に成功した。奇しくもその箇所は
先程ペルの攻撃で亀裂が入り、防御が脆くなっていた部分だった。
ナッパは口から大量の血液を吐き出しながら膝をつく。
その顔には驚愕と絶望の色があった。
『ナッパ!! 避けろ!!』
脳裏にあの男の声が響く。相手の技の特性を見抜き、適切に対処せよ、の教え。
「へ、へへ……ざ、ざまあねえや……」
そして、クローン・ナッパの体が徐々に崩れていき、最後には消えてしまった……。
「悪魔は尚手を伸ばす」
遂に誕生した、悟空とベジータ二人の融合戦士、ゴジータ。
正しくそれは荒れ狂う積乱雲を前に差し込んだ一筋の光明、日輪と見間違うかの如き力の化身。
無論こけおどしや虚栄の類いにはあらず、今以てブロリーという暴威を圧倒している。
只の一度、拳を交えただけで場の支配を奪い去る様はまさに闘神と呼ぶに相応しい偉業だ。
仲間にとってゴジータは手の届かぬ雲の上の存在であり、希望の英雄だった。
「参ったな、すげぇ奴だ。認めざるを得ねぇ…」
それはバッファローマンにとっても同じ事であり、だからこそ思うのだ。
この男は、必ずやブロリーを超えてくれるだろうと。
それ自体は良い、意地や逆張りさえ微塵も残さず置き去りにする彼の実力は、素直に称賛に値する。
バッファローマンの価値観をして尚その評価は変わらず、恐らくこの場の誰もが同じだろう。
まるで、己の夢の頂きにさえ思えてくる。
だからこそ、同時に彼はこう悲観せずに居られない。
(自分が、情けなく見えてくるぜ…!)
彼の胸中を支配しているのは、ゴジータの様な力への飽くなき渇望だ。
ブロリーは、己が1000万パワーを奮って尚勝てなかった敵。
そのブロリーを圧倒する様をまじまじと見せつけられて、ただ喜んでいられる質では無い。
それは悪魔将軍に課され、己が受け入れた試練であり使命に起因する。
誰にだろうと決して譲れぬ己の使命。
(キン肉マンを今度こそ超えるんだろ、俺よ!)
嘗ての戦いの中で最大の強敵(とも)を超える事。
それこそが不器用な自分なりの繋がりだと信じて。
その為ならば、いかなる手段をも厭わないと誓った筈だ。
悪魔超人に戻ったのも、二度に渡って悪魔に魂を売ったのも、その為だ。
(あいつが来たからもう良い?勝てるから大丈夫?違うだろ!)
だのに何だ、この体たらくは?
今の自分よりもブロリーが、ブロリーよりもゴジータの方が強い。
それは容易には受け入れ難い真実。
しかし、認めざるを得ない現実でもある。
言葉にされずとも突き付けられる方程式に、焦燥感すら抱いてしまう。
己に課された使命が呪いとなって、心を締め付け軋みを上げ、声無き嘆きとなって木霊する。
何故なら、そう。
(俺が居たにも関わらず、あいつが来なきゃ"完全に負けていた"!ソレは悔しい事じゃねぇか、チクショウ!)
彼の傍らで横たわる少女が、フェリシアが何よりの証左だ。
フェリシアは、見込みある戦士だ。
事実、ゴジータが駆け付ける寸前、最後まで立っていたのはフェリシアだ。
そのガッツの時点で、己は負けていた。
その上、己を庇わせる始末。
(見込みあるなんて生意気言えた口かよ、チクショウ!)
己を以て、質を以て、数で以てして尚、その何れもブロリーにすら届かない自分に腹が立つ。
言い訳のしようも無い程の敗北感を突き付けられる。
脳裏を襲う憂鬱さに、涙さえ込み上げてくる始末だ。
何処か他人事の視点で見る自分が居る気さえしてきた。
(なぁ、将軍。アンタは、俺がこうなる事を見越してたってのか…?)
そんな視点から気付いたのだろうか。
思い返すは、かつて仲間との誓いを破ってまで、悪魔の誘いに乗った己の姿。
彼の心中に去来するのは、己を形作った過去の英雄達。
一度目は、正義超人の長たる、伝説のスーパーヒーロー、キン肉スグル。
彼に、彼等に心身共に打ち負かされ、それを素直に受け入れたからこそ、今の自分が居る。
そして二度目は、そう、悪魔将軍だ。
自分に迷いを見つけた時、彼の由来を知った時。
サタン等というまがい物では無い、本物の悪魔将軍にこそ、彼は憧れた。
そうして自身が悪魔将軍に膝を付いて幾日程か。
悪魔将軍がDDと"何かしらの取引"を行っていた時の事だ。
_貴様はDDと共に行け、いずれお前の宿命とぶつかる時が来る。
その言葉と共に、悪魔将軍は自分をDDへと預けた。
最初は訳が分からなかったが、己の力を試す機会だと解釈していた。
だが来る日も来る日も歯ごたえの無い日々。
ぬるま湯に浸かった毎日に、宿命の事を忘れていたらしい。
(すっかり天狗になっていたな。らしくねぇだろ、おい。)
悪魔に堕ちた自分に似合うのは、絶えず困難に立ち向かう日々だろうに。
そんな事も忘れて、この様だ。
己の力不足、それ即ち、己の全てが足手纏いになるという事。
それは許しがたく、何より羞恥に耐え難い。
恐らくは、将軍はこの事も見通していたのだろう。
ならばどうすれば良いのか?
既に示されているだろう、答えは至極単純明快。
(テメェで地獄へ進む他無ぇ。)
生き地獄でも、死後の地獄だろうとも。
(俺は、まだ弱い!てんでなっちゃいねぇ!超えられねぇ壁なんて幾らでもある!)
バッファローマンは、今この時より己を、本当の意味で鍛え直す事を心に誓った。
そう、例え誰よりも強くなる為に、地獄の釜口に突っ込もうとも構わない。
(だったら壊れるまでぶつかってやろうじゃねぇか!それしか能が無ぇんだ、俺は!)
キン肉マンを超えたい。
それこそ、今の彼の存在意義なのだから。
自分の限界を超えて、新たな世界を垣間見た事で、自分は次のステージに立てた。
ならば、此処から先は更なる高みを目指すべく、己を鍛え、高め、技を磨くべきだ。
その為には、悪魔超人としての在り方こそが相応しい。
バッファローマンは今再び、悪魔に魂を売る決意をした。
その道程に、如何なる危険が待ち受けていようとも、決して立ち止まらず、歩み続けるのだ。
「オォォォォ…!!」
心は既に決まっている。
それに答える様に、彼の身体から血が引いていく。
赤黒い鮮血が、淡い輝きを放ちながら彼の身体へと戻っていく。
身体中の傷跡を象ったそれは、古傷の如く血を流さない。
悪魔に血を売るとは、正にこの事だろう。
「お?オメェ…」
「…待たせたな、今度こそ本気の出し惜しみ無しだ!」
彼は今再び、悪魔になった。
「奇蹟のビッグ・ファイト」
「くたばり損ないどもがァァーッ!!」
ブロリーが吠えた。瞬間、エネルギー弾を次々と放つ。
「うおおおおおおーッ!!」
バッファローマンが。
ルフィが。
そしてゴジータが激しい爆発の中を駆け抜けて、ブロリーに迫る。
「どぉぉぉぉぉりゃあああーッ!!」
先駆けてブロリーに攻撃を仕掛けたのはゴジータ。ブロリーが放ったエネルギー波を
拳で弾き飛ばす。次いで、ブロリーの顔面に右ストレートを叩き込んだ。
「ぐぉぉぉああああーッ!?」
その巨体がいとも容易く吹き飛ぶ。
「今だ、ルフィ! 俺をブン投げろォォォッ!!」
「分かったァ!! ゴムゴムのォォォォォッ……!!」
バッファローマンの脚をルフィが掴むと力一杯振り回し、ブロリー目掛けてぶん投げる。
「ロングホーン・ブゥゥゥゥゥゥメランッ!! そぉぉぉうりゃあああーッ!!」
吹き飛びゆくブロリーを追い越し、ロングホーンを障害物に引っ掛ける事によって反転。
高速回転を加えた両足キックをブロリーの背中目掛けて叩き込んだ。
「ぐぉああーッ!?」
交差法気味に放たれた蹴りは見事に決まり、ブロリーは地面に倒れ伏した。
「まだまだァッ……ハリケーン・ヒィィィィィトォォォォォッ!!」
倒れたブロリーを持ち上げて二対のロングホーンで挟み込み、頭上で何度も回転させる。
やがて竜巻が如き暴風が巻き上がり、ブロリーを空中へ放り投げた。
「ぬぐおッ……!?」
しかし、これまでの戦いでロングホーンを酷使し続けたバッファローマンに
遂に限界が訪れた。
「クソが、もうちょいでイケるってのによ……」
「後は任せろ、牛のおっさん!!」
バッファローマンが作ったチャンスを無駄にしない為にも、
ルフィは更に追い打ちをかける。
「へっ、頼んだぜ……海賊王さんよ……」
それを見届けると、バッファローマンは小さく笑い、地面に倒れ伏した。
「ゴムゴムのォォォォォォォォッ、暴風雨(ストォォォォォォォォォォォォォム)ッ!!」
「うおおおおおおおおおおッ!!」
地上からルフィが、空中からゴジータがブロリーを挟み込む形で猛烈な鉄拳の嵐を
見舞わせる。
「グオオアアアアアッ……!!」
二人同時に繰り出される怒涛のラッシュに、ブロリーもたまらず苦悶の声を上げる。
「――んがああああああッ!!」
ブロリーは最後の意地とばかりにバリアを張り巡らせ、無理矢理にでも
反撃に出ようとする。
「わああああッ……」
バッファローマンと同じく、ギアを連続使用し続けた事でルフィの体力にも
限界が見え始めた。
「ルフィ、バッファローマン……お前たちの頑張り、無駄にはしない!」
「カカロットォォォォォッ!!」
残るはゴジータとブロリーの頂上決戦のみ。両者がぶつかり合う時が来た。
「ブロリー! これで終わりにしてやるぞ! でぇぇぇやあああああらッ!!」
ゴジータの拳がブロリーの顔を捉え、その衝撃で大きく仰け反らせた。
すかさず追撃に出る。ブロリーを空高くまで殴り飛ばすと自身も跳躍して、
上空で追いつく。
「ううううううッ……ぬあああああああああッ!!」
この期に及んでも、さらに戦闘力を上昇させようとするブロリー。
だが、ゴジータの攻撃はその程度で止まる筈もない。
ゴジータが繰り出したボディブローがブロリーに突き刺さり、体躯をくの字に曲げさせた。
「おぶろっ……ぅぐぉええええッ……」
吐瀉物を撒き散らすブロリーだったが、それでも尚攻撃を止まらない。
ブロリーの身体に次々と拳を打ち込んでいく。
その度にブロリーは苦痛に顔を歪め、口から血を吐き出し続けていた。
「ぬううううッ……あああああああああああッ!!」
ついには首を振って口から放射状に放たれる光。もはや狙いも何もあったものではない。
「こう、なればァァァァァッ……!!」
ブロリーは急速上昇し、そのままゴジータを振り切って空中に離脱した。
それだけではない。
「むっ……!?」
「この星もろとも……消え去れェェェェッ!!」
両手を頭上にかざすと、凄まじい量の気を溜め始める。
惑星をも消し去る程のエネルギーを秘めた超必殺の一撃、ギガンティックミーティア。
「この俺は星の爆発くらいでは死なんが……貴様らはどうかなぁ!?」
「……!!」
ゴジータが周囲を見渡す。フェリシア、ピッコロ、クリリン、バッファローマン、
ルフィ……全てを託して倒れて行った仲間たち。
そして今も尚、この東京都・港区の各地で戦っている戦士たち……
「あれを落とさせるわけにはいかん……!!」
ゴジータはブロリーを睨み付ける。
それを見たブロリーもまた、気弾のチャージを終えると背筋を大仰に反らし、
照準を合わせた。ゴジータとブロリー、二人の視線が交錯する。
「死ねえええええええええッ!!」
先に仕掛けたのはブロリー。エネルギーの塊を解き放つ。
「ビッグバンッ……!! か……め……!」
対するゴジータも必殺技の構えに入る。全身全霊の力を両の掌に込め、
「は……め……!!」
ブロリー目掛けて一気に突き出した。
「波あああああああああああああッ!!」
ゴジータの放った最強の技が、ブロリーの放った超極大のエネルギーボールと
真っ向からぶつかる。
「ぐははははははっ……押し潰れろォォォォッ!!」
さらにダメ押しとばかりに、放ったギガンティックミーティアへ向けて
気弾を放つブロリー。二つの巨大過ぎる力の衝突により、大気が震える。
だが、両者の激突は一瞬だった。
「むううっ……!?」
ゴジータの放った光の波動はブロリーの渾身の一撃を飲み込み、
その全てを跳ね返した。
「ば、馬鹿な……!!」
ブロリーは咄嗟にバリアを張ったが、そんなもので防げるような生易しい威力では
なかった。ギガンティックミーティアもろともブロリーのバリアを突き破り
そのままブロリーを直撃する。凄まじい閃光と共に、ブロリーが吹き飛んだ。
「ブロリィィィィィィッ!!」
ビッグバンかめはめ波の光の奔流の中を突っ切り、ゴジータがブロリーに迫る。
「カカロット……!!」
「うおおおおおッ!!」
ブロリーとゴジータが共に拳を振り上げて肉迫する。
それは奇しくも、新惑星ベジータでの最終局面……悟空とブロリーがお互いの拳を
ぶつけ合ったあの時と同じ光景であった。
そして眩い閃光の中、ゴジータとブロリーが交錯する。
「あ、が……ごへああああッ……」
ブロリーが大量の血を吐き出す。背を向けたままのゴジータはゆっくりと振り返った。
そして高く掲げた掌に、虹色の光を集め、それをブロリーに向けて解き放つ。
「う、うおおおっ、おおおッ……!!」
それは、ブロリーの肉体を跡形もなく消滅させた。ソウルパニッシャー。
邪悪な魂を跡形もなく浄化する光。
「カカァァッ……ロッ……トォォォォォ……」
「じゃあな。もう二度と化けて出るんじゃないぞ」
ブロリーの最期を見届けると、ゴジータは小さく息をついた。
同時に変身が解け元の姿に戻る。
「――はあっ、お、終わったァ……」
「三世と呼ばれた怪盗」
陰惨とした空気の漂う街。
人影も見当たらず、石の一つでも転がせば響く様な、閑散とした荒れ模様。
そんな、無味乾燥とした灰色の箱庭で。
曇天の空とどっちつかずの境目、ぽつぽつと雨に打たれるパラソルの刺された席に、二人の男が佇んでいた。
「ちっ、湿気てやがる。」
一人は黒いジャケットに身を包み、目を見られるのを嫌うのかという程に帽子を深く被った無性髭の男。
彼は憂鬱気味な空をぼんやりと見上げながら、二度、三度とガスライターのぺゼルを回す。
ライターの着火具合に不満を抱きながら、それでも何とか付けた火で市販の煙草を吸う。
やけに湿っぽい口当たりに眉を顰める。
気のせいでは無い。
テーブルのラジオが知らせる天気予報は曇りのち晴れと出ているが、今は生憎のにわか雨模様。
おまけに湿度は90%オーバーと、成程煙草も湿気る訳だ。
「クソッ、不味いったらありゃしねぇぜ。」
街は今、未曽有の大災害だ。
辺りに人影は殆ど無く、それを良い事に無遠慮な苛立ちを吐き捨てる。
不快なものは目立って募る物であり、地を叩く足癖は早くなる。
やがて、募り募ったという程でも無い頃合いだろうか。
「おい、こんな騒動に巻き込まれていて本当に良いんだろうな?」
程々の苛立ちに吐き口を求める様に、もう一人へとぶっきらぼうに問いかける。
対面に座るのは、赤いスーツというこれまた変わったを着こなした男。
短髪の丸頭を後ろで組んだ両手に掛けて、至極のんびりとした様相だ。
「大丈夫大丈夫よ~、問題ねぇって。」
問いに対しての返答としては随分とあっさりしたものだった。
そう、あっさりしたもの過ぎて、まるでどうでもいい事の様にも聞こえてしまう程に。
しかし、さんざ待たされた聞き手にとっては到底納得できるものでは無い。
彼の胸中は静かな怒りに満ち、今にもドスの効いた声を上げてきそうな面構えである。
しかしながら、彼はそんな威圧感もどこ吹く風と言わんばかり。
飄々とした態度に怒る気力も尽きたのか、今度は顔をずいっと近づけ問い詰める。
「わざわざ東京くんだりまで来て、こんな厄介ごとに巻き込まれたんだ?そろそろ狙いを教えろよ。」
「まぁそう慌てなさんなって、そろそろお目見えになる頃合いだぜ?」
対して彼は、あくまでも落ち着く様言いながら懐から双眼鏡を取り出し、開けた方角へと向ける。
そう、彼達は街を襲った混乱の渦中にいる。
それも当事者ではなく、いわば傍観者の立場で。
彼らがこの場に居る理由は、たった一つ。
だが、目の前の男はその問いの答えには言及せず、未だ何処かを見つめている。
その眼差しは、憂いを帯びた様な、それでいて、何か面白い物を見つけた様で。
そして口角を上げて、ぽつりと一言。
「そぅら、おいでなすった。」
同時に、双眼鏡の先で光が立ち昇る。
レンズを通して見える景色。
_来やがったな、カール大帝!
_余は救世を諦めきれぬ!諦めきれぬのだ!
そこには驚嘆が、葛藤が、因縁があった。
超常を超えた英雄達のドラマが繰り広げられていた。
「おうおうやってるやってるぅ!」
その一端を垣間見た彼の言葉には、何処となく、玩具を目の前にした子どもの様な無邪気さを孕んでいた。
それは目の先で起きている事象や光景に持つ感想にしては、些か可笑しな物だ。
だが、彼は続けてこう言う。
「お陰で確信が持てたぜ、お宝ちゃん?」
言葉に獰猛さが帯びる。
先程の無邪気な様子は既に無い。
獲物を狩らんとする獣が、狡猾な狐がそこにはいた。
「かぁーっ!まーた始まりやがった!」
そんな彼の様子を、黒ジャケットの男は幾度と無く見てきたのだろう。
最早呆れたという様に、煙草を吹かす手を止め、盛大にため息をつく。
しかし、すぐさま真剣そのものの顔つきになり、腰を浮かせて呟く。
「ったく、今度は何が狙いだ?」
「ダビデ像って知ってるか?」
さながらこの時を待っていた、と言わんばかりに。
双眼鏡を片手で構えながら、空いた手で一冊の本をテーブルに置き、話しの切り口とした。
「あぁ、世界一有名なおっさんの彫刻だろ?」
誰もが美術で学ぶであろう、白い彫刻を思い浮かべる男。
それがどうした?と言わんばかりに、続きを眼で催促する。
「じゃ、そのモデルの息子が王様ってのはどうだい?」
「そいつは初耳だな。」
「72柱の悪魔を従えたイスラエルの王、ソロモン王だ。」
彼が手にしている本の表紙には『ソロモンの遺訓』というタイトルが刻まれていた。
ページを捲ると、そこには絵画や、文字による記録等が載せられている。
恐らく、彼が語る逸話は、この本に記載されているものなのだろう。
「だが、こいつは見た所神話の類いだろ。」
「ところがだ、これが実在したとしたら?」
彼は語りを続ける。
まるで、自分の話に聞き入ってくれている、と確信している様に。
いや、事実、そうなのかもしれない。
彼の話は、聞き手にとって興味を惹かれるに十分な内容であった。
自然と煙草を燻らす男の手も止まり、差し出された双眼鏡を受け取って男の話に聞き入る。
「当時のソロモン王は、天使ミカエルの祝福を受けた指輪を使って悪魔を従えて、エルサレムの発展に大いに貢献していたのさ。」
「今回のお宝は、その指輪ってか?」
「あぁ、天から降りてきた男の指を見てみな?」
男に言われ、改めて視線を落とす。
視線の先で、見せつけるが如く腕を掲げるカール大帝の指先。
そこに映るのは、酷く簡素だが確かに指輪だ。
大帝はその力を奮い、相対する一行を圧倒していた。
「ほぉ、こりゃまた随分と御立派な指輪だな。」
「だろ?随分と派手にやるもんだ。」
男は感心したように相槌を打ち、次いで疑問を呈する。
「だがどうする?流石にあんな超人を相手じゃ、一筋縄では行かねぇぞ?」
「まぁ聞けって、この話には続きがあってな。指輪は手の指の数だけあるのさ。」
一拍置いて、言葉の意味を理解する
「…10個もか?」
「ピンポンピンポン大正解ー!しかもその一つが、この東京にあるって噂だぜ?」
二人の顔が、嗤いに染まる。
「そいつは面白くなってきたな!もう当たりは付けてるだろ?」
「モッチのロンよ!予告状だって作ってきたしな、グフフフ!」
そう言って取り出した紙切れを皮切りに、二人の笑いが最高潮に達する。
これだから付いてきた甲斐があるってもんだ、と。
その時、声に釣られてだろうか。
一人の暴徒が小銃を携え現れる。
「おい、金目の物を置いていきな!」
威勢を張る暴徒に対して、二人の目付きが冷たく豹変する。
そして男は、警告した。
「止めときな、遊びじゃないぜ?」
「火傷する前に帰んな。」
言うが早いか、予告状を顔に投げつける男。
暴徒は一瞬怯み、視界を取り戻した次の瞬間、鳴り響いた銃声と共に小銃は破壊されていた。
男が抜き放った『ワルサーP38』によって。
「うわっ…ヒィ!?」
思わず逃げ出した暴徒を尻目に、傍らに落ちた予告状を拾い、男達は近くに止めてあった『アルピーヌA110』に乗り、走り出す。
銃創の付いた予告状にはこう書かれていた。
『ソロモンの指輪を頂きに参上する。ルパン三世』
「断章:イマジナリー・ウィル ⑤」
存在しなかった世界 円卓の間
「む~……殺しきれなかったか。」
「こればかりは仕方あるまい。大帝すら畏れる脅威が来てしまったのだ。」
港区から帰還した焔坂、その表情は浮かない。
手傷を負わされ、流星旅団を完全に壊滅できず、浮かない表情になっているのだ。
大帝も、ミケーネ神の復活という未曽有の危機に対する対応を考えるため、一度撤退という選択を取った。
混沌とする世界の戦力と情勢を相手に、己の意志と目的を貫く。
今後の戦いは、今まで通りにはいかないということをこの一件が示唆しているのだ。
「はッ!なぁ~にが脅威だ!そんなことより爺さんもふんぞり返ってないで、一遍戦ってきたらどうだい?焔坂すら苦戦する連中によォ!」
「何の理由もなく傷つくために戦場に行くほど、酔狂になったつもりはない。貴様こそいい加減戦場に向かったらどうだカルネウス。傭兵なのだろう?さぼっている暇はないというに。」
それなのにもかかわらず大司教が一人___カルネウスという男は金色の長いリーゼントヘアーを、高級そうな櫛で整えている。
ヤンキーじみた風貌とは似合わない、怠惰で享楽的な物言いを平然としている。
エイダムは、そんな彼を諫めるように嫌みったらしく言う。
「前々から、お前はなぜそうなのだ?全くやる気というものが感じられん。」
「悪いかよォ、俺は傭兵だぜ?」
「話の解答になってない。貴様は少なくとも言葉と態度を勉強してから物を言え。さもなくば貴様、近い将来破め___。」
その瞬間、一発の銃声が。
カルネウスはエイダムの座る椅子、その足元に4発の弾丸を放ったのだ。
一発だけの銃声にもかかわらず、放たれた4発の弾丸。
「___出陣ついでに殺してやろうか。」
「ふん、口ではダメとなったら暴力に訴えるとは。やって見せるがいい。最も、拳銃ごときで同志を殺すことが出来ればの話だが。」
「脅しにもなってねぇよ。言ったと思うが俺は教団に雇われここまで成り上がった”だけ”の傭兵だ、その気になれば”いつでも”裏切れるんだぜ?焔坂も芥もゼクシオンも第八位も、お前だって何食わぬ顔で殺せる。」
「殺しているだと?子供みたいなことを言う。私がお前なら既にその銃弾を撃ち込んでいるぞ。」
「チッ……口の減らねぇ老いぼれが……。」
ぴりつく空気。
それに耐えかねた焔坂は2人を諫める。
「ええい、うるさい!喧嘩をするならここでやる必要はない!修練場にでも荒野にでも行け!」
と、その時だった。
「大司教猊下!大変です!」
メサイア教団の斥候兵士の一人が、焦った顔で円卓の間に入る。
「どうした!相当の急用と見たが、何があった!」
「……港区の教団メンバーの一人が『予告状』を拾ったようです!」
「予告状だァ?バカかァ?てめぇ……!」
一笑に付そうとするカルネウス。
しかし、斥候は焦りを隠しきれないようで。
「いえ、その送り主なのですが……どうやら”あの”ルパン三世とのことです!」
「ルパン三世……ちょっと見せてみろ。」
斥候兵士は、手に入れた情報を円卓の間の中心にあるモニターに映し出す。
「えーと、予告状を拡大したものがこれです。」
拡大されたのは、一枚の紙に書かれた文章と本人が書いたであろう絵。
内容は完結だが文脈は明らかに予告状そのものだ。
「『ソロモンの指輪を頂きに参上する ルパン三世』……ほう。」
「これはまた、厄介な敵がでてきたのう。」
「ふざけた絵なんか添えやがって!指輪は俺たちの救世に必要なんだよ!死ね!」
「い、いかほど致しますか?」
3人は顔を見合わせる。
しばらく考えたのち、エイダムは返答をした。
「日本の警察機関の実権は、まだ握っているか?少なくとも上位職を動かせる程度には。」
「はい、港区の教団メンバーは最低限の人員を残して撤退させていますが……。」
「では……教団の力であの男を動かすとしよう。ルパン逮捕に己が魂をささげている、あの男をな。もちろん、教団の事は伏せるようにしてな。」
「The Gate of the Hell」
ついに、ついにブロリーを撃破した孫悟空たち。
ゴジータの融合が解けた悟空とベジータはその場に大の字で寝転ぶ。
「はあーっ……も、もう指一本動かねえや……」
「貴様と合体など、もう二度と……ゴメンだ……」
そう言って2人は気を失った……。
「――ベホイミ!!」
「んあ……?」
誰かが回復呪文を唱えてくれたようだ。
目を覚ました悟空たちの前にはローラ姫が腰を下ろしていた。
「良かった、目が覚めたのですね」
「素晴らしい……この短期間で新たな呪文を体得なされるとは……
やはり、ローラ姫には呪文の才がありましたね!」
ローラ姫の横では剣術の傍ら、回復魔法を得意とする騎士アレックスが
感心したように言う。
アレックスや法術師ニューの指導があったとは言え、ローラはホイミの上位に当たる
回復呪文を習得していた。彼女の成長は目覚ましいものがある。
「おめえたち……」
そこには、勇者アレクやバーサル騎士ガンダム、アルガス騎士団の面々の姿もあった。
シャドウサーヴァントたちの戦いを終え、新橋にまで駆けつけたのだ。
「みんな無事だったか! はは、そいつぁ何よりだぜ」
「貴殿たちこそ。しかし驚いた。凄まじい戦いが繰り広げられているのが
我々の方にまで伝わってきたので急いで駆けつけたところ、
皆さんが傷だらけで地面に倒れていたのでな」
「そうか。でも助かったぜ。おめえたちが来てくれなかったらオラたちは
死んでたかも知れねえからな」
悟空の言葉に一同は微笑みを浮かべる。そしてローラ姫の回復呪文によって
体力を取り戻した一同は立ち上がる。
「ふう、皆様の体力を完全に回復する事はできませんが、動くことは出来ると思います」
「ああ。十分だ。礼を言う。後は自力で何とかするしかあるまい」
立ち上がったピッコロは首を鳴らしながら言う。
「フェリシア、しっかり……」
クローン軍団を撃破したやちよ達も合流し、気を失ったフェリシアのソウルジェムを
グリーフシードで浄化、いろはが治癒魔法で身体の傷を癒す。
「う……」
「気が付いた?」
「ここは? ……あ、そうだ! あの化け物は!?」
やちよの膝枕の上で意識を取り戻すなり、すぐに身構えるフェリシアだったが、
そこは既に戦いが終わった後であった。
辺り一面瓦礫の山となっており、凄絶な戦闘が繰り広げられたことを物語っている。
「心配すんな。ブロリーはぶっ倒したさ」
「え? じゃあ……」
「おう。勝ったぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、フェリシアの顔に笑みが広がる。
「――デカゴンボールだよ!!」
「は?」
突然叫んだフェリシアの声に全員が驚く。
「どうしたんだ急に?」
「デカゴンボールって……フェリシアがいっつも読んでるマンガの?」
「そうだよ、鶴乃! 凄かったんだ! 悟空のおっちゃんとベジータのおっちゃんが
フュージョンしてさ! 金色に光って! バァーッ! ってなって!
ズドドドドーン!! ってブロリーをぶっ倒しちまったんだ!!
完全にデカゴンボールだった!!」
「デカゴンボール……ドラゴンボールじゃなくてか?」
「うん! すっげーおもしれー漫画なんだ!! オレ全巻持ってるけど
貸してやろうか!?」
「はあ、何を言い出すかと思ったら……」
「夢でも見てたんじゃないの?」
呆れたような声を上げる仲間達に、フェリシアは憤慨する。
「違うったら! ホントだってば!!」
「はいはい分かったわよ」
「信じろよぉ~!!」
泣きそうな顔になるフェリシアを見て、全員が笑い合う。
「新橋を支配していたと言うメサイア教団の大司教は既に撤退した後だったようだ」
「パラガスとか言うおっさんもどさくさに紛れてどっかに消えちまった。
あいつも随分としぶとい奴だよ」
スネークとウーロンは、ビショップの拠点を調査して回っていたらしい。
ブロリー、シャドウサーヴァント、クローン軍団……新橋に巣食っていた敵はあらかた
片付いたようだ。
「俺たち……勝ったのか?」
「大司教を港区から追い出すと言う当初の目的は達成できたようです」
ルフィの疑問に、アレックスは答える。
キング・Qとビショップ……港区を支配していたメサイア教団の大司教は
退けられたのだ。
「み、皆さん!!」
そこへ、流星旅団の生き残りの少年が駆け寄ってきた。
「どうしたんだ、そんな慌てて……」
「ミ、ミッドタウンのアジトが……メサイア教団に襲われて……ぜ、全滅しました!」
「何だと!?」
「そんなバカな! 我々が留守にしている間に……」
(あの時の悪い予感……やっぱり気のせいなんかじゃなかったんだ……
彩香ちゃん……!!)
月美の表情から見る見る内に血の気が引いていく。
さらに追い打ちをかけるように、空が禍々しい赤に染まり始める。
「今度は何だ!?」
――ロンドン。
「……文字通り雲行きが怪しくなってきたな……」
悟飯と交戦していたボージャックも異変を感じ取っていた。
「……ここは一旦退くか」
「!! ま、待て……くあっ……!!」
「獣性」の力がもたらす負担は悟飯のキャパシティを遥かに超えていた。
全身を駆け巡る激痛。その場に倒れ込み、苦悶の声を上げる。
修行不足がたたり、勘が鈍った今の悟飯ではその力を制御する事は難しいだろう。
「――フン、面白いものを見せてもらったぞ、小僧。今度ばかりは見逃してやる。
さっきの馬鹿げた力、モノにしてみせろ」
そう言い残し、ボージャックは去っていく。
「ぐ……ち、ちくしょう……!!」
みすみすボージャックを取り逃してしまった悔しさと、全身を襲う痛みで、
思わず涙が溢れそうになる……
「し、しかし……この空……それに巨大な邪悪な気が……ひとつやふたつじゃない……
どんどん増えていく……一体……何が起こってるんだ……」
『我ら、ミケーネ!』
『永き眠りより目覚め、太陽と大地を統べるに相応しき、真なる支配者!!』
『ついに時は来た! 今こそ脆弱なる人間どもをこの地上から一掃する時ぞ!!』
『おおおおおおおおおおおおおおーッ!!』
地獄の蓋は開いた。ギリシャ地方のパワースポットに地割れが発生し、
機械仕掛けの神々が続々と地の底より這い出てくる。
このリ・ユニオン・スクエアに、もはや明日は無いのか……?
「先ずは一つ」
雨上がりの雲から差し込む月光を浴びながら、車が水たまりを撥ねて颯爽と駆ける。
今宵は曇りのち晴れと繰り返すラジオを聞きながら、ハンドルを回す。
人気の無い首都高速道路に入った所で、運転手のルパンは窓から顔を出し、のんびりと遊覧する居心地で街を周っていた。
「~♪」
鼻歌の一つでも奏でたい気分に、そのまま身を任せたルパン。
そんな高調子の彼に、助手席の次元がぶっきらぼうに問い掛ける。
「ところでルパン、さっきの話だが本当に実在するんだろうな?」
さっきまで一緒に笑い合っていたが、ふと我に返った次元は疑問に思った。
そもそも神話上の存在が現存するのか?
当然ながら、伝承等という物は大概が誇張された存在だ。
そこに登場するアーティファクトの実在を信じるのは、普通ならどうかしている。
「ナチの隠し財産だの黄金だの、今までも胡散臭いもんだったが、今回は神話なんつーもんだからな。」
「この俺がお宝ちゃんの嘘誠を見分けられねぇ訳ねーでしょうが、バッチシ裏は取ってんぜぇ?」
言うが早いか、ラジオの摘まみをカチリッ、と一段階引き抜く。
するとどうだ、先程まで公共通信を流していたラジオから、途端に無線ノイズの混じった音声が飛び交う。
「特製盗聴器三世ちゃ~ん!お値段税込19,800円!」
「ハッ、もう一声欲しいな!」
「これ以上は赤字だからご勘弁~!」
冗談を交えながら無線音声に耳を傾ける次元。
その会話の内容は、何やら不穏当なものばかりだ。
曰く、嘗てのローマ皇帝であるカール大帝が現世に降臨し、メサイア教団なるものに属してソロモンの指輪を集めて回っているだの。
ダイヤモンド・ドッグズなる組織がその事で、これまたCROSS HEROESなる組織と連絡をしているだの。
前者は眉唾物と捉えていたが、後者に出てきた単語に次元は顕著に反応を示す。
裏社会で、その名を知らぬものは居ない。
「ダイヤモンド・ドッグズって言やぁ、あいつ等か?」
「あぁ、国境無き軍隊って名目で大規模な傭兵ビジネスを始めた、PMC(民間軍事会社)の雛型作った奴等だよ。」
ダイヤモンドドッグズは、金次第で何でもやる現代の傭兵集団。
勿論、彼らの活躍はただの荒事だけではない。
暗殺、密輸、工作、情報操作、etc…
更に言えば、その前身となる組織が、傭兵ビジネスという市場を生み出した伝説的な組織である事も常識である。
伝承上の存在ではない、現代の裏世界における確かな存在。
「勿論、コイツ等もマジモンだぜ?」
「コイツァもしかすると、マジかもしれねぇな…」
当然、情報収集や諜報活動といった組織力という物は、只の一個人とは桁外れのレベルだ。
そんな彼等が血眼になって探し求めているという事実が、お宝の存在に真実味を帯びさせる。
半信半疑だった心が、本気になりだした。
「それにホラよ、神話なんてそこ等に転がってるぜ?」
「ハッ?って、何だありゃ…?」
ルパンが顎で指した先を見れば、光が立ち昇り、鉛色の空が赤く染まる光景が映る。
御伽噺の様な光景に、たまらず驚愕の色に染まる次元。
「何でもギリシャ神話のミケーネとかが関わってるらしいぜ?まぁアッチは今回パスだ、俺の狙いはお宝よ。」
「お、おい!本当に見逃して良いのかアレ!世紀の瞬間じゃねぇよな!?」
咥えていた煙草すらも灰皿にねじ込んで、口惜しそうに光の方を喰い見る次元。
「俺達ぁ只の人間よ人間。あんなのに巻き込まれたらひとたまりも無いって!」
「そいつぁそうだがよ、東京はどうなっちまうんだ…!」
そうこう考えている内に車は高速を降り、市街地へと入った。
月光が照らす高層ビル群が立ち並ぶ中、一際目立つ立体駐車場の入り口にルパン達は入っていく。
広大な駐車スペースには、高級外車の数々が並んでいた。
ルパン達もその内の一台に、自分の車を停める。
「よし次元、後ろにあるもん取ってくれ」
助手席から降りたった次元は、ルパンに言われるまま後部座席のドアを開き、その中から大きなアタッシュケースを取り出し、手渡した。
「それで、計画はあるんだろうなルパン?」
「あぁ、手始めに参加券代わりを頂くとするさ。」
そう言いながら、重厚感あるアタッシュケースがゆっくりと開かれる。
目に映るのは、赤い絨毛をふんだんに使用した内張りと、二つの道具。
ケース内の埃一つ無い荘厳な空気を浴びつつ、中身を物色していく。
「コイツァ、ハープーンガンか。だが隣のは分からんな。」
「これが今回の秘密兵器よ。東京タワーのは前々から狙ってたもんでな、」
そう言うと、謎の機械の方を手に取り、懐に仕舞い込む。
それは一見、古びたタイプライターに見える。
だが一部に付いた摘まみやレバーと言ったパーツも垣間見えた。
少なくとも、只の文字起こし盤では無いだろう。
長年ルパンと共に泥棒家業をやってきた勘が、そう告げていた。
「次元はコイツを持って東京タワーを狙っててくれ、合図は俺が出す。ほいじゃま、頼んだぜ!」
言うが早いかハープーンガンを手渡すルパン。
次いで車に乗り込むと、ラジオを置いて次元を置き去りに走り出してしまう。
「おい、何処に行くつもりだ!」
「決まってるでしょ、お宝よお宝!」
窓から手を振りながら、後ろ姿を最後に視界から消えてしまった。
後に残された次元は、仕方なしにと手に持ったハープーンガンの点検と組み立てを始める。
(コイツで狙えって事か?ロープは特製で細め…こいつぁ噴進弾か、射程距離は大分ありそうだな。)
時間を一分一秒と無駄にせず、黙々と解析を進めていく次元。
職人仕事で出来た無駄の無い機構が次々と露わになる中、次第に己の役割が見えてくる。
「ははーん、段々と読めてきたぞ?」
自身を射手と定義している次元だからこそ、気付けた事実。
当然それにルパンも気付いてくれると前提での計画なのだと悟る。
狙撃銃としての特性を生かし、東京タワーからの狙い撃ち、それが今回、次元に与えられた役割だ。
勿論、ただ撃つだけでは、只の的当てに過ぎない。
その先にこそ、ルパン一味の真髄が、彼一流の美学が、彼の望むお宝が、待っているのだ。
(任せときなルパン。)
ならば、この男にこれ以上の言葉は要らない。
相棒の粋な計らいに、感謝の念を込めて、出来上がったライフルの銃身を撫ぜる。
まるで我が子を扱うかのように、優しく、丁寧に、そして誇らしく。
次いでバイポットを駐車場の塀に立て、銃口に消音機を装着。
スコープを覗いて遠くのビルへと試し打ちをする。
静かな乾いた音の後、一瞬遅れて着弾。
弾丸は、サイトのど真ん中を捉えていた。
「こりゃ素直で良い、試射は十分だな。」
これで準備は整った。
後は、標的を狙うのみ。
弾丸はシリンダーに装填済み。
スコープ越しに覗く東京タワーは、いつもとは違う色をドーム状に帯びている。
(合図を待てと言ったが、あれがあるからって訳か。)
理由を会得し、納得がいく。
噂をすれば、東京タワーへと一直線へと向かうルパンの車が、視界の端に映る。
『…ザザーッ…ICPOのぜにが…今そっちに向か…』
その後ろのラジオから、因縁の再来が告げていた。
「少年少女、剣を取れ」
港区。
そこは若者たちが集う享楽の町。
されど今は、悪徳と正義が争い合った戦場の跡地。
周囲を包むのは、土煙と瓦礫の山々。
多くの若者たちも、今は傷つき。斃れ、散っていった。
メサイア教団の支配は、かつての時よりかはかなり支配は減った。
しかし根底にある支配までは断ち切れていない。
「この戦いは、正義(おれたち)の敗北なのか?」
と、誰かが力なくつぶやく。
「そんなわけはない、俺たちはまだ戦えるさ。」
と、誰かが力強く答えた。
悪徳の根は、尚も根深く。
それでも、未来のために足掻くというのならば。
少年少女よ、剣を取れ。
その胸に抱いた、正義と誇りを貫くために。
◇ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー◇
東京神話戦線 港区 希望修正 ~Revenge ReStart~
◇ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー◇
「……か、……彩香?」
「ん……。」
天宮彩香は、ベンチで眠っていた。
泣きじゃくった後、意識が途切れていたという。
「兄さん……みんなは?」
「これから帰投してくるとのことだ。」
「罪木オルタとかデュマさんとかは?」
「あいつらは無事だ。でも……今忙しいみたいでな。んで……。」
月夜は、少し考えたのちに真剣な眼差しで口を開いた。
「お前は、これからどうするつもりだ?」
「これから?ボクは……。」
「俺が思うに、今CROSS HEROESと協力したところで俺達はたぶん殺される。神霊の力を宿したところで、今はその結末は変わらない。」
彩香は、うつむいたまま口を開かない。
その心の中にあるのは悔しさか、或いは失意か。
「俺も、せっかく強くなるための力も得て戦う意思のあるお前を一緒に戦わせたい。だがそれ以上に今喪うのはとてもつらいんだ。」
その言葉は、メサイア教団に立ち向かう一人の戦士としてではなく一人の兄___天宮月夜としての心配であった。
家族をこれ以上喪いたくない。
その気持ちを、誰が責められようか。
「……。」
彩香は、悩みに悩んだ表情をしている。
「あのー、ちょっといいですか?」
「ん?松田さんか。どうした?」
その様子を見てか、松田が月夜たちに話しかける。
「実は、例の悪徳刑事からあるものと言伝を預かっているんです。何でも『このUSBの情報を頼りに、メサイア教団のいう”聖戦”とは何なのかを調べてほしい』のと、何でも『ロンドンに行け』と……。」
「聖戦?ロンドン?なんだそれは。とにかくそのUSBを。」
そうして月夜は松田からUSBを貰い、端末に差し込んだ。
端末の画面に映されたのは、悪徳刑事とその同志たちが秘密裏に調べ上げた、メサイア教団の過去の経歴と悪行の数々であった……。
「ボクたちの思っている以上に、ひどいな……。」
「そしてこいつが、キラ。すなわち夜神月。」
「月くん……。」
松田の表情が曇る。
かつてはともに正義のために戦ったはずなのに、戦ったはずの夜神がキラで、そして……。自分が彼を傷つけた。
『馬ッッ鹿野郎ォォォォ!松田!誰を撃ってる!? ふざけるなァアアアアアアア!!』
『父親を死に追いやって、バカを見たで済ませるのか!?』
しかし、前に進まなければならない。
「んで、聖戦の情報は……これか。」
月夜は、端末のキーボードを打ち込み、メサイア教団が語る「聖戦」について調べる。
そこに書かれていたのは。
「最速でも25日後、カール大帝率いるメサイア教団が世界に宣戦布告、日本のように政府構造を支配した国を拠点にして侵略を開始しつつ、反抗した国を『見せしめ』として攻撃。こうして世界を征服する。……25日後、だと。」
「オセロットの独白/ICPOの申し子」
レンガの壁にこびりつく死肉。
焼け焦げた肉が放つ、鼻奥を付く独特の腐臭。
「これは、酷いな。」
時間を置いて尚今も熱を持つ立ち込めたそれ等を前にして、出てくる語感は端的な物だった。
「この焼け具合、一体どれほどの熱量がばら撒かれたんだ。」
オセロットが首に巻いたバンダナを鼻元に当て、なるべく吸わない様にするのも無理は無いだろう。
幾分か前に同胞だった欠片を体に取り込もうもの等、生理的に受け付ける者は居よう筈も無い。
死体から漏れ出た臓物は焼かれていた為に形を成していなかったが、それでもその凄惨さに変わりは無かった。
焼け跡から見える炭化した皮膚、飛び散った血痕、黒く変色した臓物。
それが転がっている地面すら、未だに煙を上げて燻っていた。
「これ程の物か、メサイア教団。全く、酷い事をやってくれるな。」
口に出すのも憚る程の惨状を前に、まだ見ぬ事件の首謀者へ悪態を付くオセロット。
分かっている、今ここで怒鳴った所で手向けにすらならない事ぐらいは。
それでも、自身の中に沸き起こる怒りを抑える事が出来ずにいる。
彼は今、珍しく自身の内側に渦巻く感情の制御を放棄していた。
「これは、なんて惨い…!」
「あの時、俺達が居れば…いや、どうにかなるもんじゃ無さそうか?」
「馬鹿、威勢ぐらいは張れ!」
遅れて到着したDD諜報部の兵士も、眼下に広がる光景を見て思わず呟く。
自分達の一部でも残っていればという後悔と同時に、もしここに残っていれば同じ末路が訪れるのではないかという畏怖も湧き上がる。
無意識に弱音が出てしまうのも、無理は無いだろう。
叱咤を飛ばした兵士の声色もまた、僅かにだが恐怖に染まり、怯え震えていたのだから。
理外の理にある暴力等、恐怖の象徴そのものなのだ。
ならば。
「そんな化け物を追い返したのは、彩香、お前達なのか?」
この地で泣きじゃくりながら慰め合う二人は、見たのだろうか。
吐き気を催す邪悪な惨劇を起こした下手人を。
そしてその者の姿が見えぬという事は、撃退するまで渡り合ったというのだろうか。
_今は、そっとしておこう。
尋問のプロにだって、聞くべきでない時は分かっていた。
◇
東京タワーへと続く一本道を、アルピーヌ110は走り抜けていく。
日本の現代社会が生み出した街並みには、少しばかり似合わない車。
だが風変りさせる程の年季が、車体を風景に溶け込ませる。
赤い夜空の元、ルパンの乗るアルピーヌ110は颯爽と街を駆けていた。
その最中、ドア窓を開けて顔を出し、入り込む風に頭を抑えながら東京タワーを見上げ、呟く。
「しかしまぁ上手にドレスなんか着飾っちゃって、おまけに東京タワーをマネキンにするたぁ、お上品な指輪だこと。」
彼の視界に見えるそれは、東京の夜景にあっても一際輝く巨大な光の幕(ドレス)。
東京タワーを中心に展開されるバリアは、その中枢にソロモンの指輪を起点として、不気味に輝いている。
その様相を一目見て、彼は思わず口笛を吹く。
「ヌフフフフ!そいじゃま、魅惑のヴェールを脱~ぎ脱ぎしちゃいましょ!」
ニヤリと笑うルパンは、懐に忍ばせておいた機械を手に取る。
アタッシュケースに入っていた内、次元に渡さなかった方の物だ。
それは、この指輪が持つ機能の一つを無効化する為の道具。
「見せびらかす様に張っちゃって、お陰でおじさん頑張って解析して作っちゃったんだからね~?」
下品な顔つきをしながら、何かもう色々終わってる台詞を語るルパン。
やがてバリアと地面の境目に到達したルパンは車から降り立つと、手にした装置をバリアに取り付けながら、中から伸びた線を車のバッテリーに繋いでいく。
「こんにゃろ、こんの、動け!動け!アババババ!?この野郎!」
少々強引な作業内容もあったが。
途中感電を起こしながらも、そこはしっかりと作業は終えていく。
そうして出来上がった、一見何の変哲もないタイプライターの様な物。
だが、摘まみやブラウン管が付いているのが異彩を放っていた。
「ふぅー…さてと、コイツの試運転と行きますか。」
道路に胡坐をかいて座り込み、機械を弄りだすルパン。
カタカタと文字盤を叩きながら、一方で摘まみを回していく。
取り付けられたブラウン管に移されていた波長が、幾何学模様を描いていく。
「バリアってのはな、波長なんだよ。だからパワー合わせて逆位相に掛けてやりゃ…」
光の幕が弱まった瞬間を見定め、波長を固定してからレバーを降ろす。
アルピーヌ110のエンジンが唸りを上げ、バッテリーからの供給電力が一気に上がる。
するとどうだ、徐々に光は弱くなり、やがて完全に消え去った。
同時に、東京タワーの輝きも消える。
ルパンがやった事、それは、東京タワーに掛けられた結界の力を打ち消すという、至極単純な作業だった。
東京タワーを覆う、全ての結界。その力が、大幅に弱体化していたのだ。
「ヌフフ…!」
それを見て、ルパンは満足げに笑う。
まるで、悪戯に成功した子供の様に。
「成功成功大成功!ヌハハハハハ!ヌフ、ナハハハハハ!」
「ハーッハハハハハハ!」
「ナーハハハハハ…はれ?」
そこで初めて、耳に響くヘリの音に気付く。
素っ頓狂な顔になりながら辺りをぐるりと見渡し、最後に上を見上げれば、そこには輸送ヘリの姿があった。
自らの笑い声に合わせてきた者の正体もまた、そこにいた。
「ハーッハッハッハッハ!ルパーン!」
「ゲェ!?あれってまさか…」
ルパンの視線の先に居たのは、茶色一色の警部服に身を包んだ男。
それは紛れもなく。
「とっつぁん!?今日は何か早くねぇか?あんまり早いと良き急いじまうぜ?」
「煩い!ルパーン!今日こそ年貢の納め時だ、逮捕する!」
銭形幸一、またの名を銭形警部であった。
東京タワー上空、そこに浮かぶ、警察組織の所有するヘリコプター。
そこから地上に向けて、ルパンを名指しで呼びかける。
中高年特有の低いだみ声を、拡声器を使って東京中に響き渡らせていた。
「オイオイ、幾ら何でも早すぎるっつーの!」
「フン、残念だったな。貴様がここで何をしているのか、既に分かっているからな。大人しく投降しろ、ルパーン!!」
そう言いながら、手錠を構えヘリから飛び降りる銭形警部。
軌道は寸分違わず、ルパンの乗ってきたアルピーヌ110の上だ。
それを見届ける事も無く、機械をボンネットに押し込んでさっさと車に乗り込んだルパンは。
「ほーん?そんじゃま、いっちょドライビングと行きますか!」
一抹の疑問を抱えながら、エンジンを吹かす。
そして、タイヤをキュルキュルと鳴らしながら車体が動き出す。
直後、ルパンの目の前には、銭形が落ちてきた。
「あらら、大丈夫?」
「えぇい、貴様に心配される筋合いなぞ無い!」
「さっすが昭和一桁!」
随分な高さから落ちたにも関わらず、ピンピンとしている銭形警部。
そんな彼と軽い応酬をしながら、ルパンはバック走行から180度ターンをしてギアを上げる。
「追え、奴を追えーっ!良いか、車も一台回せ!ルパンだぁー!!!」
その後ろ姿を銭形警部は追いかけながら、無線で指示を叫んだ。
「死の克服者・マモー」
――港区の戦いの結末は、「老人たち」にも伝わっていた。
「アマツミカボシ……神體を身に宿す娘……」
11年前より、キラ教団を通して天宮兄妹を監視、
あわよくば力に目覚める前に始末しようとしてきたが、その目論見は外れてしまった。
「だが、あの娘はまだ未熟だ」
「今ならば殺せる」
「いや、むしろ殺すべきだろう」
「そうとも」
「そうとも」
「そうと決まれば、早く殺してしまえ!」
老人たちは口々に言う。
「だが、ミケーネ帝国までもが永き封印より目覚めた。
奴らを放っておくわけにはいくまい?」
一人の老人の言葉に他の老人たちが黙り込む。
ミケーネ帝国――かつて地上を支配していた機械巨人の肉体を持つ民の末裔たちである。
彼らは自らの肉体を捨て去り、機械と融合することで永劫の時を生きる存在となった。
そして、彼らもまた復活していたのだ。
「ラグナロク……かつて古の時代、時空を超え、世界を超えた集結した戦士たちが
ミケーネ帝国と激突したという伝説の日……
その再現が今再び起ころうとしているのか……」
「やはりCROSS HEROES……奴らは放っておいてはならぬ」
「これまで幾多の世界を滅ぼし、封印して回っておったのは他でもない。
ラグナロクの再現をもたらし得る存在……それに最も近い存在……
我らの手で抹消せねばならん」
「ペルフェクタリア、日向月美、彼奴らもまた、各々の世界において
CROSS HEROESに近しい組織を築き上げ、特にペルフェクタリアの奴は
我らを裏切った上に、邪魔立てをした。おかげで再び我らの悲願を果たすために
大いなる犠牲を払う羽目になった」
「フフフ……手を焼いておるようですな」
闇の中から、老人たちの会合に割って入る声があった。
その声の主こそ、老人たちやメサイア教団にも援助を惜しまない謎の男。
「ハワードロック・ウッド氏……いや、マモー氏とお呼びすればよろしいかな?」
「どちらでもお好きな方で呼んでいただければよろしい」
薄紫色の肌の白髪、顔は皺だらけで、タキシードを纏った短身痩躯の怪紳士……
彼こそ、滅びの事象から生き延び、老人たちと手を組むことで「永遠の生命」を
手に入れるべく暗躍する者であった。
「貴公に提供していただいた技術は大いに役立っていますよ」
マモーはかつて、永遠の命をもたらす新天地を求めて宇宙へと飛び立った。
その際、世界は滅びの事象によって消滅してしまったため、
新たな世界にたどり着くまでに途轍もない時間を要したが、そんな彼の前に
とある組織の長を名乗る者が接触してきた。
それが、この老人たちだった。
彼らはあらゆる世界の技術を蒐集しており、その知識を利用して様々な発明を
行っている。リ・ユニオン・スクエアの侵略を着々と進めているメサイア教団の前身、
キラ教団とも関わりを持ち、マモーもまた、既にその頃から闇社会を牛耳って得た
富と権力、様々な知識の提供を行い、お互いに協力し合っていた。
「貴方がたに出逢えた事は、まさに私が目指した新天地への誘いに違いありません」
そう言って、マモーは不敵な笑みを浮かべる。その表情を見て、
老人たちもまた不敵に微笑んだ。
「また爺さまたちが何か企んでるみたいだな……」
老人たちの会合の裾では、禍津星穢が退屈そうな表情をしながら呟く。
彼は老人たちから与えられた能力により、遠く離れていても彼らの会話を
聞くことができた。
だが、その内容はあまり興味を引くものではなかったらしく、すぐに飽きて欠伸をする。
「だが……天津甕星……どうにも気になる名前だ……」
「老人たち」によって生み出された禍津星穢と、彩香に憑依した神體・天津甕星。
両者には何か関係があるのだろうか……
「けがれくん、さぼってる」
と、ブーゲンビリアが呆けていた禍津星の頭を軽く叩く。
そこにはいつも通りの無愛想な表情をしたブーゲンビリアがいた。
「黙れ、クソガキ。お前みたいな能面女と一緒にすんな」
忌々し気に舌打ちすると、穢はそそくさとその場を離れる。
そんな様子に呆れたようにため息をつくと、ブーゲンビリアもその場を離れていった。
「まずは天宮彩香だ。禍根は残さず断ち切る必要がある」
そして、老人たちは動き出す――
「勇者たち、悪に抗戦せよ」
「こいつは……ひどい。」
DDに続くように、シャルル遊撃隊も東京ミッドタウン跡地に到着した。
惨劇の跡地と化した、炎熱地獄の果て。
強靭な精神を持つ彼らとて、こんな地獄を見て驚かないはずもなく。
「絶望的にむごいぜ……あたしがいうのもあれだが、直接見せつけられると吐き気がする。」
「くそ、一体だれがこんなことを!」
「リク、落ち着け。」
憤るリクを、デミックスが落ち着かせる。
「見ての通りの惨劇だ。この段階で皆に共有しておくが、やったのはメサイア教団の大司教『焔坂 百姫』。」
メサイア教団の大司教、「炎の化身」。
苛烈にして無邪気、無邪気にして無慈悲な攻撃の数々により流星旅団は壊滅状態に陥ってしまった。
彩香が追い返せたのは、本当に奇跡とでも言っていい。
「その焔坂って、どんな奴だ?」
「……鬼だ。言っても信じてもらえるかどうかな話だが。」
「鬼!?鬼ってあの……角が生えてて……節分に豆を投げつけられるって言う。」
「その解釈でいい。最も豆をぶつけたところでこっちが殺されるがな。」
鬼。
人間世界においてはその言葉を聞くことがあまりない、異形で異常な存在。
その存在を示唆するような一言は、シャルル遊撃隊を驚かせるには十分だった。
「いずれ戦わないといけないよな……。俺達もメサイア教団の首魁になっちまった『カール大帝』に出会った。」
「カール大帝、確か……戴冠式の奴が有名な……。」
カール大帝。
天宮兄妹にとって彼の名は、精々歴史の授業くらいにしか聞かない。
そんな彼が今、メサイア教団の首魁として暴威を振るっている。
いかなる事情があるのかは別として、倒すべき敵として暴威を振るっているのならば、いずれは倒さなければならない。
「そいつが、メサイア教団のリーダーに。」
「ああ。俺はあいつと一度戦ったことがあるんだが、その時よりも強くなっていた。」
「少なくとも、俺たちの攻撃に傷一つつかないくらいにはな。」
ソロモンの指輪が齎す、膨大な魔力。
それにより、シャルル遊撃隊はカール大帝に傷一つつけることができなかった。
ミケーネ神の復活がなければ、今頃4人ともお陀仏だっただろう。
「今俺達に出来ることは少ない。だが、これからの仲間は必要だ。俺達は、メサイア教団の行先に先回りして指輪を回収する。次の行き先はロンドンになる。……協力してくれるか?」
「もちろんだ。よろしくな。」
シャルルマーニュと天宮月夜。
2人が、お互いに握手を交わす。
「ところで、東京の指輪はどうした?」
「多分やられただろうな。くそ、もっと早く気づくべきだった。」
「そうか……。」
その表情は、浮かないものだった。
しかし、この時の彼らは知らないのだ。
東京タワーに鎮座していた指輪は今、世紀の大泥棒___ルパン三世に狙われていることを。
「微睡みの仮面舞踏会」
東京都・港区の戦いが終結を迎えようとしていた頃……所変わって特異点。
上空に映し出されたクォーツァーの王・常磐SOUGOの虚像。
杜王町を拠点としていたCROSS HEROESの面々は、仮面ライダージオウ/常磐ソウゴが
クォーツァーに囚われ、処刑されようとしている事実を知った。
タイムリミットは、24時間……
「まさかソウゴがあの後そんなことになっていたとはな……」
「こうしちゃいられん、助けに行くぞ!」
「だが、敵の拠点にどう潜入する?」
この特異点は、クォーツァーにとってのホームグラウンドだ。
ソウゴを救出するためにも、その本拠地に潜入しなければならない。
しかし、対するCROSS HEROESは全戦力の3割と数を減らしている。
このままでは、救出どころか自分たちまで命を落としかねない状況だった。
「……おい、藤丸はどうした」
「そういえばさっきから姿が見えないね……」
「そ、それが……」
マシュがおずおずと口を開く。
「実は……」
「……」
立香はベッドで死んだように眠っていた。
「ちょ待てよ、こんな時に何グッスリ寝ちゃってんの、このお嬢ちゃんは!?」
「おーい! ちゃんマスー! 寝てる場合じゃないよー! 起きろォーッ!!
おぉーい!!」
「ち、違うんです、これは……なぎこさん、ジャンピングエルボーを
キメようとしないで下さい!!」
藤丸立香は時折、こうして意識を失うことがあった。
ただの昏睡ではないことは明白だった。
まるでスイッチをオフにされたかのように眠りにつき、魂そのものが
別の空間へ行ってしまうような状態……ダ・ヴィンチちゃん曰く、
彼女は夢の中で、この世界とは別の歴史を辿った"並行世界を旅しているのだという。
「こうなってしまうと、先輩が自力で帰ってくるのを待つしかないのです」
「藤丸がいないとなると、サーヴァント連中も十分に力を発揮できないか……」
「よりによってこんな時にか……」
『あちゃー、藤丸くん、またやっちゃってるのかぁ』
通信機越しにダ・ヴィンチの声が聞こえてきた。
「ダ・ヴィンチちゃん!」
『うん、話は聞かせてもらったよ。残念ながら、藤丸くんが目覚めるのを待ってから
常磐ソウゴくんの救出に向かったのでは手遅れになる可能性が高い』
「俺たちのみでソウゴを助けに行く」
「それしかないか……」
だが、アクシデントとは重なるものだ。
「うわーっ!?」
「今度は何だ!?」
建物の外から響いた悲鳴のような声を聞き、一行は窓から外の様子を伺った。
「なんだありゃ……?」
そこには奇妙な光景が広がっていた。
町の地下の奥底から、不気味な黒い影が這い上がってくるのだ。
「クケケケーッ!!」
「クォーツァーの差し金か?」
「分からん、だが、放っておくわけにもいくまい」
謎の怪物たちの出現により、町の住民はパニックに陥っていた。
「おい、なんかヤバそうだぞ!」
「とにかく行くしかあるまい!」
士や承太郎、ゼンカイメンバーに正義超人たちが外へ飛び出そうとすると、
「ん……!?」
怪物たちの前に立つ、仮面を着けた集団。
「何だ、あいつら……」
「こんなところにまでシャドウが現れるなんて……!」
「ジョーカーやモルガンも見つかってないのに……」
「パンサー、クイーン! 今は奴らをどうにかするのが先決だ!」
狐の面、豹の面、鉄仮面……三者三様の仮面を被った「怪盗」たち。
「む……君たちは……シャドウの相手は我々に任せて、町民の避難誘導を行ってくれ!」
「事情は分からんが、俺たちも手を貸すぜ」
「えぇ! 行きましょう、皆さん!」
「変身!」
【KAMENRIDE DECADE】
士はディケイドに変身、マシュもアーマーを纏い、盾を構える。
「行くよ、ジュラン! ガオーン!! チェンジ全開!!」
【45バーン! バンバン! バンバン!
ババン! ババン! ババン! ババン! ババババーン!】
「マジーヌやブルーン、セッちゃんも探さなきゃなのに、まったくもうさ!」
「ブツクサ言っててもしゃあねえだろ、
「変身した!?」
「あなた達は……」
「話はあとだ! まずはあの怪物どもを片付けるぞ!」
立て続けに発生する異変に戸惑いながらも、CROSS HEROESは
シャドウ軍団へと向かっていった。
「月と風と神殺の英霊」
「何だこれは。」
仮初のマスター、藤丸が眠っているとは露知らずボヨヨン岬から戻ってきた英霊、アルケイデス。
そこにあったのは、影。影。影。
どこからやってきたかはわからないが、影のようなものが牙をむいてこちらに向かってきたのだ。
しかしアルケイデスにとってはそれは些末事。倒すべき雑魚の一つに過ぎない。
「忌々しい気配を感じる。」
それ以上に、彼の皮膚を強烈な不快感が襲っていた。
忌々しき悪、倒すべき悪、鏖にすべき邪悪だとその霊核が叫んでいる。
「遠い地で忌まわしき神どもがよみがえろうとしているようだな。」
アルケイデスにとって、ギリシアの神は唾棄すべき邪悪である。
神のせいで多くのものを喪い、失い、奪われていった。挙句の果てには『ヘラの栄光』の名である『ヘラクレス』の名を戴いてしまう始末。
そんなもの、弓兵であり『復讐者』たる彼が許せるわけがない。
巨大な弓を構え、十二の栄光の一つたる『毛皮』を頭にかぶり、弓の大きさに見合う矢を番える。
彼の視線の少し先では、ディケイドやマシュたちが戦っている。
「まずはこのムシケラ共を倒してからだ、来い。」
◇
「着いたな、サイクス。」
「特異点のリベンジマッチ、といったところか。」
闇の靄より出現したのは黒いコートを着た二人の男。ニュートラル・ガーディアンと化したサイクスとザルディンだ。
一度来たことがあるサイクスはまだしも、ザルディンにとっては特異点は初めて来る場所である。
「この先に街が見えるな。そこに行こう。」
二人はかつて神精樹があった森から杜王町に向かって歩みを進めた。
「本当にバカでかい樹があったのか?ここに。」
「あった。」
サイクスは、かつての戦いをそっけなく話す。
ザルディンの心境は、まるで信じられないような光景だった。
「んで、貴様はその……為朝の矢を受けて撤退したと。」
「俺も罪木オルタも完全に油断したな。」
「油断とはな、貴様らしくもない。」
と、話していたらいつの間にか目的地に到着していた。
到着した町___杜王町は一見するとどこにでもありそうだが、何故か奇妙な感覚を覚える。
「ここで……なんだ?指輪だのクォーツァーだのがいるのか。」
「デュマの情報だ。間違いなくこの辺りにいるはず。」
「こんなのどかな街に……って、サイクス。」
ザルディンは突如、何かの気配を察知した。
そこにあったのはかなりの数の影。
「呑気に話している暇はなさそうだ。来るぞ。構えろ!」
「応!」
大剣と6本の槍を構えるノーバディ、サイクスとザルディン。
彼らもまた、シャドウ軍団へと立ち向かっていった。
「蘇りし最悪の邪神、その名はミケーネ」
一方その頃
青山にてあしゅらが行ったミケーネ復活の儀式、それにより発生した光が収まるとそこには2つに割れて真っ黒になったあしゅらの死体があるだけで先程まで居たはずのスウォルツや晴明、ゴーゴン大公の姿はなくミケーネ神と思わしきものも見当たらなかった。
「スウォルツ達が消えた…!?」
「あいつら、どこに行きやがった!?」
「わからない……が、もしも今の儀式で本当にミケーネが復活したとしたら……」
「っ!これは…!」
「どうしたんだ!?」
「ギリシャでさっき以上の闇のエネルギーが発生してるんだ!」
「なんだって!?」
「まさか本当にミケーネが…!?」
「わからない……とにかくまずは各地にいる他の皆さんと合流しましょう」
一同が乗るナースデッセイ号は他のメンバーがいるところへ移動を開始した。
「……とうとう復活しやがったか……」
その様子を物陰に隠れて見ていた男が一人。
彼の名は暗黒寺刑事、実家の危ない家業を捨てて刑事になった自称『国家権力の使者』……なのだが現在はいろいろあって警察を辞めてある人物の意を受けて行動している。
「久しぶりに警察庁へ顔出しに行ったらとんでもねえことになってたが、まぁあっちは銭形や松田がなんとかしてくれるだろう。
それよりも、今はミケーネをなんとかしねえとな。
……話をこっそり傍受した感じギリシャに出たらしいな」
そう言うと暗黒寺は携帯を取り出しどこかへ連絡をかけた。
「ようブレード、急で悪いがいよいよミケーネのやつらが復活した、場所はギリシャらしい、すぐにでもアレに乗って出撃してくれ」
『了解した。
……異世界から来た協力者達はどうする?』
「あいつらはそうだな……マシーンの修理が終わってるのなら一緒に向かってくれ」
『わかった』
「んじゃ、あとは頼むぜ」
一方その頃、
ゴーゴン大公、スウォルツ、晴明の三人はというと
「……ここはどこだ?」
「恐らくですが、我々は先程あしゅら殿が行った儀式によってどこかへ飛ばされたのでしょう」
「なんだと!?あの儀式はミケーネ神とやらを復活させるための儀式のはずだ!
まさか……あしゅらめ、俺たちを騙してたのか!?」
「そうではない」
「ゴーゴン!」
「我々が飛ばされたこの場所……恐らくはこの場所に蘇ったのかもしれん……」
「なんだと!?」
「その通りだ」
スウォルツ達の前に現れた巨大な神……彼こそミケーネの三大神の一柱にして冥府の王、ハーデスである。
「お久しぶりですハーデス様…!」
「久しぶりだなゴーゴンよ…ところでそこにいる人間どもは……」
「奴らはあしゅらの…トリスタンとイゾルデの協力者であるスウォルツと安倍晴明でございます」
(安倍晴明……あの時のあいつか……)
(……ハーデスですか……初めて会いますがどこかで会ったような感じがしますね……恐らくは前世のどこかで会ったのでしょうが……まぁいいでしょう、かつて全ての平行世界を巻き込んだ戦いを起こしたとされるオリュンポスの神……その力を借りてゲッターを葬る為に我はあしゅら殿に力を貸したのだ……まずは我を奴らの配下か同盟にしてもらえるように頼むとし…)
「お前があしゅらの言ってたハーデスか、早速だが俺はやつがお前達を蘇らせようとしたのを手伝ったんだ、その礼としてお前達ミケーネ神の力を俺に渡してもらおうか…!」
「・・・」
「どうした?さっさとしろ!」
「この愚か者が!」
ハーデスは炎を放ってスウォルツと晴明を攻撃する。
「っ!?どういうつもりだ!?」
「トリスタンとイゾルデに協力してくれたことだけは感謝しよう……だが、それだけのことで調子に乗り人間である貴様らごときが神である我々にそのような態度をとるとは……万死に値する!」
「なに!?」
(スウォルツ殿め……せっかくのチャンスを…!)
「ふん、馬鹿な奴め。我々が貴様らよりも上の存在であることを理解しないとは……」
「クッ…!おのれ!」
スウォルツと晴明はどこかへ消えていった。
「……しかしよろしいのですか?あの大馬鹿者はともかく晴明の方はまだ……」
「忘れたのかゴーゴンよ…やつは我々とは敵対関係である他の世界の神に仕えてた存在……いつ裏切ってもおかしくはなかったのだぞ」
「……そうでしたね。それでこれからどうします?」
「無論我らの目的はあの頃と変わっておらん」
「全ての平行世界の支配……」
「あぁ、その第一歩として全ての平行世界への宣戦布告を行う」
「再びあの戦いを……最終戦争(ラグナロク)を起こすつもりですね」
「そうだ、その次はこの世界の人間共を全て滅ぼして我らの前線基地にし、全ての平行世界への侵略を開始するとしよう…!」
「ルパン三世颯爽退場」
「待てーい、ルパーン!神妙にお縄を頂戴しろぉ!」
追い詰める様にがなり立てる銭形警部。
耳障りな彼の声を背に受け、半ば参ったなと思いながら頭を掻き、ルパンは思案する。
「確かに予告状は出したんだけどもよ、ちーっとばかし早過ぎねぇか?」
そう、今回の獲物であるソロモンの指輪、その奪取を予告したのは数刻もしていない内だ。
だが、既にここに銭形が居る。
まるで予告状が届く前に包囲網を敷いたような速さだ。
つまりこの事態、警察側の情報収集能力、対応力どうこうの話ではないのだ。
では一体何なのか?
ルパンにはそれがどうしても、喉につっかえた小骨の様に気になってしょうがなかった。
「逃がすな、A班右から回り込め!」
「おっと、考えてる暇も無いか。」
しかし、追跡は今も続いている。
のんびりと思案に耽る時間は無いに等しい。
一先ずはこの窮地を脱する事に専念する。
「そうれ、次はB班、左だ!」
「うぉ!?コイツ等どっから…?」
だが来襲が立て続けに起こり、さしものルパンも急な選択を選ばざるを得なくなる。
体当たりしても構わないと言わんばかりの動きには、流石に焦りを覚えるルパン。
「ちくしょ、今日は何だって…」
「馬鹿め、そっちは行き止まりだ!」
「あらららら?」
そんな事を考えている内に袋小路に入ってしまい、とうとう逃げ場を失ったルパン。
しかし、追い詰められているにも関わらず余裕の表情を浮かべていた。
「さぁ、もう逃げられんぞ、ルパァーン!!」
車を降り立つルパン。
ジリジリと近寄る銭形警部と、逃げ道を塞ぐ警官達に、壁際に追い込まれてしまった。
だが、追い詰められた当人は焦った様子も無く、呆れた様な顔で溜め息を吐く。
「全く、こうも急だと準備も何もねぇな。大人しくすっから一服だけでも…」
そう言ってジャケットの内ポケットから煙草を取り出し、口に咥えようとした瞬間、肩を掴まれる。
そしてそのままグイッと体を回され、背中を強く押され地面へとうつ伏せに倒されてしまった。
「おわっととと!?」
「妙な真似はさせんぞルパン!どうせ何か仕込んでるんだろ?」
背中を踏みつけられ、身動きが取れなくなったルパンの懐やズボン、ジャケットの内側等を隈無く探られる。
やがて、拳銃や手榴弾等の危険物を全て押収されると、そこで漸く手錠を掛けられる。
そこに残ったのは、シャツにステテコパンツ一丁の男だった。
「貴様の手口はよ~く分かってるからな!そうれっと。」
ルパンが持っていた煙草を遠くに放り投げると、一拍遅れて煙草は閃光を放つと同時に煙幕を焚く。
やはり仕込みだったと、銭形は確信した。
「それ見ろ、やっぱりなルパン!」
「こういうのはちったぁ食らっとくのがお約束だぜ、とっつぁん?」
「喧しい!こんな小細工にいちいち付き合ってられるか!取り押さえろ!」
遠くに立ち込める白い煙を余所に、銭形の号令で警察官達は一斉に動き出す。
その動きの良さ、手際の良さに、ルパンは内心舌打ちしていた。
「警部、道具に紛れて例の『ソロモンの指輪』と思わしき物が。」
「良し、犯行も阻止出来たな!上出来だ!」
(やっぱとっつぁんが一番油断ならねぇな。)
そんな事を考えながら、ルパンは自分の腕に手錠を掛けて連行する銭形に視線を向ける。
銭形は一瞬ニヤッとした笑みを見せると、不意に背筋を伸ばして笑い出す。
堪えようとして、出来なかったのだろう。
端から見ても分かる程の上機嫌っぷりと共に、銭形は語りだす。
「やはり今の時代、早さが全てだなルパン!」
「何だよ急にとっつぁん、時代の先取りみたいな事言い出して?」
突然の文言に思わず気が抜けるルパンを余所に、銭形は熱弁を続ける。
「お前さんも今ので身に染みて分かったろ?今までの大掛かりな体制では逮捕出来なかったが、今日(こんにち)は違う!見たかこのスピード逮捕!」
腕を振るい、大袈裟に振舞いながら語る姿は、歓喜を体現しているかの様だ。
そんな姿を、ルパンが白けた様に見ているとは気付かずに。
「情報社会と呼ばれるこの時代!ICPOの誇る情報網、それと後はこの物量があれば逮捕なぞ簡単な事だったのだ!!」
「へぇ、そうかい?」
そう語る彼の言葉には、確かな自信と誇りがあった。
そんな銭形に対して、ルパンは何か言い返すかと適当に考え。
そこで、思い切って疑問をぶつけてみる事にした。
「じゃあ聞くけどさ、俺が予告状を出したのはついさっきだぜ。とっつぁん、どうやってこんなに早く来れたのよ?」
「丁度日本に居たからな、後は上がプライベートジェットを出してくれた訳だ!どうだ、早かったろ?」
「成程、とっつぁんにジェット貸すたぁ物好きもいたもんだ。」
「今更負け惜しみを行ったところで後悔先に立たずだ!このまま署まで連行するぞ!」
そう言う銭形の顔は、勝ち誇ったような表情だ。
だがルパンはそんな彼を見て、不敵な笑みを浮かべていた。
今の状況に似つかわしくない顔に、銭形が疑問を浮かべようとして。
「ま、確かに今回はちょいとばかし、こっちの準備不足だったな。一旦仕切り直すとするぜ。」
「なにっ…ぬぉ!?」
言うが早いか、ルパンの手首から甲高い音と共に閃光が迸る。
一瞬にして五感を狂わせるそれに紛れて、カチャリと鳴る手錠の落ちる音。
ぬかったと失念するも後の祭り、ルパンは銭形の手の内から消えていた。
「なっ!?どこに行った、ルパーン!!」
「切り札ってのは切る時ゃすぐ切るって学べたぜ、ありがとよとっつぁ~ん!」
耳鳴りと目眩ましによる一時的な混乱。
古典的だが、一度破ったと思わせた直後である事、そして散々勝ち誇らせた心理状態なのも相まって効果は抜群。
閃光が収まった後には、手錠の掛かった生の手袋がコンクリートに残されるのみだった。
「ぬぅ、小癪な真似を!天丼なんぞしおってぇ!」
警官達は再びルパンを探し始めるも、その姿は彼らの包囲網には見当たらない。
シャツ一枚にステテコパンツ一丁という格好が、何処にもないのだ。
つい先程まで愉快極まりなかった気分は一転、銭形の怒りは頂点に達した。
「おのれぇ、ルパーン!おい、お前達!捜索範囲をもっと広げろーっ!」
指示を受けて、警官達は散り散りとなってルパンの捜索を開始する。
それを見ながら、銭形は再び走りだした。
「…ヌフフ!」
そんな様子を、後ろから見送る警官が一人。
否。
「灯台下暗しってね。速さも良いけど一度立ち止まって考えてみるもんだぜ?」
帽子の鍔を上げて見える顔は、先のいざこざに紛れ警官に扮したルパンだ。
変装の為に剥がれた警官本人は、何時の間にやらマンホールの下に隠されていた。
◇
先の駐車場にて、二人は会合する。
「ようルパン、上手く逃げれたみてぇだな?」
「今日はちぃっとばかし危なかったぜ?それより次元、追跡装置は機能してるな?」
「あぁ、バッチリあの偽もんの指輪を追ってるぜ。」
「それじゃ、お手並み拝見といきますか?」
警官に奪われた筈の指輪は、次元の手元に。
もう片方の手には、GPSがあった。
「次への一歩/邂逅、超高校級の復讐者」
「カール大帝に会ったのか。」
「ああ、傷一つつけられなかった。」
シャルル遊撃隊のリーダー、シャルルマーニュがCROSS HEROESにカール大帝の出来事を話す。
その表情には、悔しさがにじんでいた。
「リク、お前はあの指輪を持っているんだろう?指輪の力で大帝が強くなっているのならば、それで打ち消せるのでは?」
オセロットがリクに聞きこむ。
リクはシグバール戦の後も指輪を持っていたはず。ならばその力で対抗できなかったのかと。
「大帝は指輪の力を完全に引き出してあれほどの戦闘力を叩き出した。今の俺達に対抗は出来なかった。くそ、引き出せたら対抗は出来たんだが……。」
「そうか……。」
悔しがり、拳を握りしめるリクをオセロットは諫める。
「とにかく、大帝に勝つにはメサイア教団よりも指輪を多く集めその力を引き出す必要がある。という解釈でいいんだな?シャルル。」
「ああそれでいい。」
「ところが、そうもいかなさそうなんだな。」
ふと、シャルルマーニュが遠くを見る。
「あれは……燕青か?」
「おうおう、ひどいありさまだな……。」
赤坂から帰ってきた燕青。
東京ミッドタウンの惨劇を見て、その表情が曇る。
「フィオレの姉ちゃんは無事か?」
自身のマスターを心配する。
現界の際の要石である彼女がいなければ、燕青も現界できない。
近くにいた月夜は、燕青の帰還に安堵しつつ答える。
「彼女はまだ寝ている、当分戦闘はきつそうだ。そっちも魔力は大丈夫か?」
「ああ、何とか。んで、指輪の話なんだが……。」
燕青は、驚きと愉しさで満ちた顔で話す。
「実はな、ルパン三世ってのが指輪を集めてるってのを生き残っている近隣住民から聞いたんだが。」
「「「「「「……なんて?」」」」」」
シャルル、リク、江ノ島、デミックス、月夜、オセロット___驚愕。
◇
うすれゆくいしきのなか、わたしはないた。
くやしくて、かなしくて。
なんでわたしは、いじめられないといけないんだ。
『 汝、望みを言え 』
「の……ぞみ……?」
それは、少女の夢/過去だった。
少女に語り掛ける声は、男のようにも見え、女のようにも聞こえる。
大人びた子供の声でもあり、子供のような大人の声でもあった。
『 己が内に宿す、無念を語れ 』
声は問いかける。
己が無念を。
途切れた意識を繋いでいるのは、声が語る無念/讐心か。
「わたしの……ねがい……。」
思い起こす。悪徳/悪意を。
刻まれた被虐を。
そこから来る、燃える泥のような復讐心を想起する。
故に、彼女は魂から叫ぶ。
「復讐を。私をいじめた連中に、一切の情けなき裁きを。」
分断された未来。
分岐する運命。
絶望の果ての幸福、愛の果ての死別。
___或いは、復讐の果ての■■。
『 それが、貴様の望みか では叶えよう 汝との契約は果たされた 』
復讐の炎が、肉体に刻まれてゆく。
身体に激痛が走り、魂がドス黒く変色するような。
長い髪が亡霊のように白く変色する。
瞳は燃えゆく地獄を映したかのように赤色に変化する。
吊られた縄はちぎれ、大地に叩きつけられた時に少女は己の姿を凝視した。
「これが……『あたし』か。」
白髪赤眼のアヴェンジャー。
それが、■■■■■■の新たなる姿だった。
割れた鏡に映るその姿は、新しい自分だった。
「あたしは……復讐を為す。例え自分の信念を裏切ったとしても……。」
或る魔術師曰く。
黒化英霊が生まれる条件はいくつかあるとのこと。
「聖杯の泥」に触れる、無辜の怪物の効果で精神が捻じ曲がる、その人物のありえたかもしれない側面が抽出される……など。
しかし最近になってもう一つ、新たなる学説が出来た。
『自分の矜持や信念を、自分の手で裏切る』。
彼女は今、その奉仕精神を投げ捨て『復讐者』へと変貌したのだ。
◇
ふと、目が覚めた。
それは、西園寺日寄子(じぶん)ではない少女の夢だった。
「さっきのは……あいつの。」
見覚えがあった。
あの卑屈さ。
例えようのないあの哀しみ。
間違いない。モリアーティから聞いたあいつだ。
なぜ彼女の夢を見たのか。理由は分からない。
でも。
「くそ、あいつどこに居るんだ!!」
気が付くと、私は走っていた。
デュマとかいうやつに案内され、罪木のいる部屋へと連れられていた。
ドアをこじ開ける。
この先に、あいつがいる。
写真の通りだ。
白髪で赤い眼。
緑色のパーカーを着た、卑屈でねじ曲がった復讐者。
「あ……あんたが……白髪の罪木。」
「あ?お前は誰だ?何であたしの名前知ってんだよ。お前みたいな奴は知らねぇぞ。」
その日、少女は復讐者に出会った。
「機械神と神霊/血煙の石川五ェ門」
ーー東京ミッドタウン/流星旅団拠点・跡地。
「……」
焔坂によって全滅させられた団員たちの墓の前に腰を下ろし、手を合わす天宮彩香。
「彩香ちゃん……」
月美とペルフェクタリアは、その後ろ姿を見つめる。
「……ペルちゃんの言う通りになっちゃったね」
彩香はぽつりと言った。
その言葉に、二人は返す言葉が見つからない。
「メサイア教団は……今日の今日までまったく本気なんて出してなかった。
やろうと思えばいつでもボクたちを殺せたんだ。
CROSS HEROESが来て、大司教を港区から追い出してくれて……
それを自分の力だと勘違いしてたんだ」
「私達がもう少し早くミッドタウンに辿り着けていれば……」
「ううん。ペルちゃんも月美ちゃんも新橋で命を懸けて戦ってた。誰も責めたりしない。
寧ろ称賛されるべきだよ」
(……天宮彩香の中に何かとてつもない力を感じる……
こんなものはここを出発する前には感じられなかった)
ペルは心の中でつぶやく。
月美もまた、退魔師特有の強い霊感で彩香の中にある強大な力を感知していた。
「ねぇ、彩香ちゃん……」
月美は意を決して口を開いた。
『オレを見るな。人の子よ』
「ーー!?」
突然、頭の中に響いた声に驚くペルと月美。
それは、この場にいる誰のものでもない。
同時に、まるで喉元に刃をつきつけられたようなプレッシャーを感じた。
(これが……彩香ちゃんの中にいる存在?)
アマツミカボシ。それが、その存在の名前だった。
「? ペルちゃん、月美ちゃん、どうしたの?」
すっくと立ち上がり振り返ってこちらを見る彩香に、月美は首を横に振る。
「いや、なんでもな……」
「天宮彩香……お前の中に眠るものについて知りたいことがある」
月美の言葉に重ねるようにして、ペルはそう言った。
やはりこの娘ならば黙ってはいないだろうと思っていたが……
しかし、ペルは彩香の中にある正体不明の力に興味があったのだ。
「お前のその力……」
『娘。既に言ったぞ。オレを見るなと』
彩香の身体を通して、アマツミカボシの声が響く。
「貴様……何者だ?」
「さ、彩香ちゃんの中に何かが憑依している……?」
すかさず呪符を数枚取り出し、構える月美。
『無駄だ。小娘』
「ぐっ!」
呪符がたちまち炎に焼かれて灰になる。
『次は貴様の身が燃えるぞ?』
「凄まじい力を持っているようだな。ミッドタウンを強襲したと言う
メサイア教団の大司教を天宮彩香がたったひとりで退けたと言うのも頷ける。
『嘘』ではないようだ」
ペルは彩香の中に存在するものの強さを感じ取る。
他者の肉体に宿る自我を持った精神体……何を隠そう、
かつてのペルもそう言った類のものだったからだ。
『オレはアマツミカボシ……天宮彩香を主とする神霊である』
「神霊……そんなものが彩香ちゃんの身体に……?!」
剣道初段である事以外は至って普通の少女であった彩香が、
まさか神霊を身に降ろしているなどとは想像すらしていなかった。
それがどれだけ危険な状態であることかは、月美にはよく理解できた。
掌サイズの風船の中に太平洋の海水すべてを詰め込むようなものなのだから。
『安心するがいい……主を死なせる事はオレとて望まぬこと。
一時的に主の潜在意識を介して会話をしているに過ぎない。
無論、必要とあらばいつでも我が身を顕現させるがな』
「じゃあ……彩香ちゃんは今、深層心理に閉じこめられていて……」
(そこまで同じか……かつての私とたりあの関係と……)
「――ペルちゃん、彩香ちゃん。ボクと兄さんは、これからロンドンに
行かなきゃいけないんだ。そこにメサイア教団が次に起こす『聖戦』についての
手がかりがあるんだって」
アマツミカボシの声ではない。本物の彩香と瞬時に入れ替わっている。
「そうか……」
どうやら彩香はアマツミカボシが降りている間の事は覚えていないらしい。
(アマツミカボシ……今は天宮彩香を極力危険に晒さないようにしているのか?)
下手にアマツミカボシを刺激して、彩香を危険にさらすことは避けたい
ペルフェクタリアは、心の中でそう思う。
『さぁ、人の子よ。オレはそろそろ消えるとしよう。
これ以上はオレも主の負担になってしまうだろうしな』
そう言って、アマツミカボシは彩香の中へと消えていった。
彼女の潜在意識の中に潜む神霊。それが暴走すれば彩香自身の精神が
崩壊を起こすことになる。一方、彩香と月夜が向かう予定のロンドンでは……
「う、うう……」
「気がついたようだな」
ボージャックとの戦いの後、「獣性」による過度な力の酷使に肉体が耐え切れず、
気絶していた悟飯が目を覚ます。
「あなたは……」
「崩壊した街中で倒れているお主を見つけた。酷い状態であったのでな」
白木の鞘に納まった刀を肩に立てかけた着物の男が胡座をかいて座っている。
無造作に伸びきった黒髪の間から覗く鋭い眼光。
そこに隙はまったく無く、迂闊に彼の間合いに踏み込めば一瞬で万物を
真っ二つにしてみせると言う殺気が結界のように張り巡らされていた。
(ピッコロさんみたいな雰囲気の人だ)
などと、悟飯は思った。
「名はなんという?」
「孫悟飯です。あなたは……」
「修行中の旅の者ゆえ、名乗る程でもないが……石川五ェ門と申す。
ところで、この奇っ怪な空模様……」
「え? あっ……」
五ェ門に諭され、悟飯が空を見上げると……
「空が赤く……!?」
ミケーネ帝国復活を告げる、血の色に染まった赤い空が広がっていた。
「一体、何が……」
「凶兆の先触れであろう事には、違いあるまい……」
――ギリシャ近辺。
「新・気功砲おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!
はあああああああああああああああああああああああああああッ!!」
天津飯が両手で三角形を組み、標的をロックオンして放つ必殺技。
空間ごと削り取るように敵を粉砕するその技は、しかし――天津飯の渾身の一撃を
ものともせず、鋼鉄の巨人軍団が地平線を埋め尽くし、大地を蹂躙していく。
その数、千体以上。新気功砲の前に倒れた仲間の残骸を踏み潰しながら
悠々と進軍を続ける。
「ほう、人間にしては面白い技を使う……」
「もっと撃って来たらどうだ? ふはははははははははははは……」
嘲り笑うミケーネの戦闘獣たち。肉体を機械へと作り変えた悪魔の巨人。
「くっ……化け物め……!!」
「天さん! 僕の超能力も効かない!!」
ミケーネ帝国復活による異変を察知し、現地に駆けつけた天津飯とその兄弟弟子、
餃子のコンビであったが、敵の数と強さに圧倒されていた。
「俺たちだけでは手に負えない! 悟空たちに知らせなくては……!
行くぞ、餃子!! 目一杯飛ばすんだ!!」
「う、うん!」
気のオーラを全身から放出させ、二人は空へと飛び立った。
「今度ばかりはヤバいかも知れないな……」
「集結、東京ミッドタウン跡地」
何かもが焼き焦げ、黒く炭化した世界。
建物も、命も、何もかも燃え尽きた、黒き灰の大地。
灰は風に吹かれ、この世には既に亡い者たちを悼む様に、あの世へと命を運ぶ送り火の如く、天高く舞い上がる。
その真っ只中で、まるで産声を上げる赤ん坊の如く。
真っ青な信号弾が、瞬きながら立ち昇っていた。
「出来た順から降下用スモークを焚け!」
「急げ急げ!ヘリの燃料が少ない、空間確保が最優先だ!」
その下では、無数の兵士達が足早に整地作業へと勤しんでいた。
土嚢を抱えて足場を組み、壊れかけの壁を完全に壊して空間を確保、簡易的な降下地点を次々と築いていく。
突貫作業だが綺麗に整った地には、血の様に濃い赤色のスモークが立ち上がっていく。
その周囲、一段下がった場所には、小さな仮設基地が出来上がっていた。
『HQからパトロール、チャーリーがポイントR1に着陸する!作業員、及び警備兵は直ちに退避!』
通信用のインカムを着けた兵士が、拡声器を使って呼びかける。
指示を受けた兵士達は、蜘蛛の子を散らす様にスモークから離れる。
同時に、少し離れた地点から輸送ヘリが、煙を引いて緩やかに降りてきた。
その機体の側面には、DDの紋章。
『チャーリーからHQ、着陸した。要人の護送を頼む。』
『此方HQ、了解した。』
ヘリが着陸し、側面のドアが開かれる。
そこからはスネークを初めとしたDDのメンバーや、フェリシア、バーサル騎士、月美、カナディアンマンといった面々が顔を出す。
新宿戦線に向かった一行の帰還である。
だが、大小有れど皆一様に焦燥していた。
何れの顔にも疲れが浮かんでる様は、暗に戦闘の苛烈さを暗示していた。
『ガンマからHQ、こちら重傷者多数の為、ポイントR3を使う!』
「怪我人が多数出ている!応急処置では間に合わない!」
「重症者はこっちに回せ!衛生兵!」
次々と着陸していくヘリの中には、ストレッチャーで運ばれる様な重症患者もいる。
ヘリの騒音を掻き消す声量の怒号が引っ切り無しに飛び交い、運ばれていく。
戦いの余韻は、ここにも糸を引く。
これは紛れも無く現実なのだ。
英雄譚やフィクションでは無い。
だからこそ、負傷者の治療や死者の確認といったリアルが発生する。
「この者は肝臓、それと肋骨もやられています。」
「今治しますね!」
「ベホイミ!」
その真っ只中で、騎士アレックスとローラ姫等の治療手段持ちの者、そして勇者アレクは治療に勤しんでいた。
アレクの戦闘経験は負傷者の傷を立ちどころに見抜き、それをローラ姫達が的確に治癒する。
治癒魔法という文字通り医療における魔法の存在もそうだが、特にアレクの的確な指示が功を奏している。
「これ程の傷を分別出来るとは、流石アレク殿!」
「自分でも負った傷です、だから分かる。」
幾多もの魔物と渡り合い負ってきた傷の疼きが、ここでは人を生かす。
致命的な傷を見抜き、安静出来る物に変えていく。
勇者の名は伊達や酔狂では無い、夥しい経験に裏打ちされた確かな物だ。
そこから来る素早い判断の元で行われるトリアージが、堅実に命を繋いでいた。
「よし、手応え有りだ。動かしても大丈夫だろう、運び出してくれ!」
騎士アレックスの指示を受けた兵士は頷き、患者を運び出していく。
その一方で、ミッドタウンの惨状に目が行ってしまう。
つい先程までここで殺戮が行われていたとは、誰もが耳にしていた。
それでも、やはり実際に目にするのとでは雲泥の差があるもので。
チラリと見えただけの地の隙間から、髑髏型の炭が覗く。
「うっ…!」
たったそれだけでも、事の悲惨さを物語っていた。
堪らず逸らすも、また別の髑髏が視界に飛び込んでくる。
痛い、苦しい、助けてくれ。
そんな声を、漏らさず聞き届けてくれと言わんばかりだ。
だがこれですら、被害のほんの一端に過ぎない。
「通信で聞いてはいたけど、酷い…!」
「生き残りは…いない、か。」
意識して見渡せば、戦火の跡は幾千と目に入ってくる。
同時にその犠牲者が如何に多かったかも、嫌と言うほど知らしめてくる。
ここは屍を積んで出来た土地と言っても良い。
「…うぇ、これは、流石によぉ。」
そんな物をむざむざと見せつけられては、流石のフェリシアも気分は優れない。
或いは、過去の残影が見せるトラウマか。
やちよやスペシャルマンといった面々も同様だ。
戦いに身を置く者でも持ち合わせる普遍的な感性が、眼下に広がる死の山を生理的に受け付けなかった。
「…ふん、この位でゲッソリしてるんじゃねぇぞ?」
だが、バッファローマンは違った。
戦場には、人の死に絶えた景色などごまんとある。
それこそ、目を覆いたくなる様な凄惨な死や、寧ろ一瞬で消し飛ばされてしまった方が幸せな惨たらしい姿さえ。
彼から言わせれば、これは通過儀礼だった。
「俺達にはこれ以上の地獄が待ってんだ、ここで躓いてる時間はねぇ。」
「テメェ、バッファローマン…!」
だが流石の物言いに、カナディアンマンが喰って掛かる。
ともすれば死者の尊厳を憚る言動には、黙っていられなかった。
しかし、バッファローマンは言い返す。
「良いか?"死者の行く末"を決められるのは俺達生者だけだ。その俺達が気張らねぇでどうする?」
「…子どもだっているんだぞ、テメェいい加減にっ!」
正論だが残酷な物言いに、正義超人としての性(さが)が疼く。
憤りに震え、ギリリと拳が音を立てる。
だが、それでも尚バッファローマンは続ける。
「子どもかなんてのは関係ねぇ、あいつ等は戦士だ。」
「その前に人の子だ、割り切れねぇモノもあるってんだよ!」
互いに意見は水平線を辿る。
そこで漸く、バッファローマンはカナディアンマンの眼を見やる。
そしてこう語った。
「悪魔超人の教えの一つ、都合の悪い事は忘れよ。」
「何だと…?」
突然の教えに、面食らうカナディアンマン。
次いでその意味を語られる。
「負けた事を何時までも悔やむな。死んだ奴等を思うなら、それこそ前を向いて成すべき事を見据えろ。それが一番の手向けだ。」
これがバッファローマンの、悪魔超人なりの死生観なのだろう。
只では死なない、死んでも何かを残す。
そこから食らいつくハングリーな精神性から来る教え。
それを告げると、興味を失った様にバッファローマンは何処かへと行ってしまった。
残されたカナディアンマンは、未だ憤り打ち震えてる。
「人間、そんな簡単じゃねぇんだよっ…!」
どっちが正しいとか、そういう話では無いのだろう。
だからこそ、否定し切れない自分が居る。
「カナディアンマンさん…」
「…鵜呑みにする必要はねぇぞ、泣きたい時は泣いて良いんだ、人はよ。」
それでも、正義超人としての矜持がそんな茨の道に踏み入らせまいと留まらせる。
驕りかもしれないが、そんな残酷な世界は俺達超人達だけが歩めば良いのだと。
せめて子どもには人並みの幸せを享受して欲しいと願うから。
そんな葛藤を前に、やちよ達は何かを言おうとして。
『やぁ、さっきぶりかな君達。よくよく縁があるね?』
吹き抜ける風と声。
雲の彼方より、白銀の城が舞い降りた。
「燃えよ斬鉄剣」
「む……」
悟飯と五ェ門の前に武装した男達が降り立つ。彼らは皆一様に奇妙な仮面を被っていた。
その中央に立つ人物が言う。
「石川五ェ門だな?」
「だとしたら何とする」
「貴様がルパン三世の一味である事は分かって居るのだ! ”指輪”の在り処を言え!」
(ルパン……どうやらまた何やら厄介事に首を突っ込んでおるようだな)
面倒臭そうにため息をつく五ェ門の態度など気にせず、男は続けた。
「しらを切るつもりか。ならば、こちらの男に訊ねるまでよ」
男は未だダメージのために満足に動けない悟飯に銃口を向けた。
「ん……? この男、もしや孫悟飯……トラオムを壊滅に追い込んだ……」
「お前たち……メサイア教団の連中なのか……! こんなところにまで……」
怒りの声を上げる悟飯だが、全身の痛みのせいで立ち上がる事も出来ない。
そんな彼に男は冷徹な声で言った。
「ちょうどいい。ここで貴様を始末しておこう」
引き金が引かれた瞬間、悟飯に放たれた弾丸は両断されていた。
「な、何っ……!?」
いつの間にか抜刀し、納めたのかすら分からぬ程のスピードで斬鉄剣を振るう五ェ門が
冷たい目で言う。
「まともに動けぬ者に銃を向けるとは……どうやら見下げ果てた連中である事は
間違い無いらしい」
(速い……!)
「き、貴様ァ!!」
激昂する他の男たちだったが、五ェ門はそれを一喝した。
「下郎どもめ。この石川五ェ門の前でこれ以上好き勝手出来ると思うでないぞ!!」
その迫力に押され、全員が後ずさりする。
「う、撃てぇ!!」
リーダー格の男の号令に従い、一斉に銃撃が開始される。
「てやっ! だあああっ! ぃやあああああああああーッ!!」
だが、それらは全て弾かれ、あるいは斬り落とされてしまう。
そして、瞬く間に全ての銃撃を防いでしまった五ェ門は、
ゆっくりと歩みを進めながら言う。
「ば、化け物か、こいつ……」
「次元の奴ならばいざ知らず、貴様らの腕では拙者には遠く及ぶまい。
先に手を出したのはそちらだ。悪く思うな。つあああああああああーッ!!」
次の瞬間、五ェ門の姿は消えていた。
同時に、彼の前に立っていた数人の男達が持っていた銃が輪切りにされた同時に、
崩れ落ちるようにして倒れ込む。
「……ぐあっ……」
神速の抜刀から繰り出される居合斬りで、メサイア教団の兵たちは
自分が斬られた事にすら気付かずに絶命していた。
「……またつまらぬものを斬ってしまったか……」
呟くように言いつつ、五ェ門は刀を納める。
(……こんな人がまだ世の中にいたなんて……)
悟飯は目の前で起きた信じ難い光景に呆然としていた。これほどの剣の使い手が
CROSS HEROESのような特殊部隊にも属さず、世の影から影を渡り歩いているとは
つゆほどにも思っていなかったからだ。
「ぬ……?」
五ェ門に斬られたメサイア教団の兵たちは、ホムンクルスをベースにした
人造兵士だった。傷口から白濁液が漏れ出し、やがて人の形を保っていられなくなった
それらは液体となって蒸発していく。
「面妖な……」
「奴らが言ってた指輪……トラオムで手に入れたアレの事なんだろうか……」
悟飯は、トラオムでの戦いの途中でリクとシャルルマーニュが入手した
「ソロモンの指輪」の事を思い出した。
「どうやらお主、随分とあの連中に恨みを買っているようだな」
五ェ門の言葉に、複雑な表情を浮かべる悟飯。
「ええ……奴らは今も東京・港区を中心に勢力を拡大している連中です。
きっと、僕の仲間たちも戦っている最中だと……」
東京の守りを悟空たちに託し、ボージャックを倒すためにロンドンに向かった悟飯。
思いを馳せるは、師・ピッコロを始めとした仲間たちの安否であった。
(父さん……ピッコロさん……それにみんなも頑張っていると言うのに、僕は……)
五ェ門がいなければ、今頃は自分もまたメサイア教団の手にかかって
死んでいたかもしれない。
そう考えると、改めて自分の不甲斐なさに嫌気が差してくる。
(ルパン……指輪……メサイア教団……或いは奴の元にも刺客が差し向けられているかも
知れぬと言う事か……)
この赤い空の下に広がる混沌とした状況に、五ェ門は小さく舌打ちをした。
(つくづくルパンの奴とは腐れ縁のようだな……)
「Epilogue 絶望を越えて、前へ」
誓いがあった。
戦う時に、誓った。
『俺達は、何があっても誰も死なせない。救える命は救う。』と。
その結果がこれかよ。
なんなんだ、この展開は。
ふざけやがって。
自分の無力を、呪いたくなる。
戦線の結果はお互いに痛み分け。
しかし被害量はこっちが上回っている以上、勝った気がしない。むしろ負けているかも。
だけれども、俺達だけは最後の最後まで逃げるわけにはいかない。
ここで泣いている暇はないんだ。
曇天の空に、俺達は今度こそ誓う。
この曇り空を越えて、前へ進むと。
◇
「……んなわけだ。カール大帝や大司教が動いた以上、俺達はメサイア教団よりも早く指輪を回収しなければならない。」
東京ミッドタウン跡地。
惨劇の後にて、月夜は計画を話す。
ここから先はカール大帝よりも、ルパン三世よりも、他勢力よりも早く指輪を回収しなければならないのだ。みんなも無言で聞き入っている。
と、その時。
「あらあら、皆さんお揃いで浮かない顔。」
「だ、誰だ!?」
そこにいたのは、妖艶な美女。
可憐なふるまいをし、日傘を手にくるくると回りながらそこにいた。
「メサイア教団の刺客か!?」
月夜が、ボウガンを構えようとする。
対する美女は、何もせずにそこに立っていた。
「めざし機関?おいしいのそれ?」
「とぼけたことをぬかすな!」
「本当に知らないわよ、夏野菜気団とかいう組織。」
「……本当に知らないみたいだな……先ほどはすみません、あなた誰ですか?」
この女に敵意はないと悟った月夜は、謝罪をしてボウガンをしまう。
美女は微笑みながら自分の名前を名乗った。
「いえいえ、此方こそいきなり現れて失礼いたしましたわ。私はやk「八雲紫貴様ァァアアアアア!!私を置いていきやがったなァアアアア!?」」
その挨拶は途切れる。
東京ミッドタウンへと向かってくる一人の影、ジェームズ・モリアーティの怒号によって。
彼はその端麗な顔を修羅に変え、ここまで走ってきたとでもいうのか。
「首都高バスに乗ってここまで来てみたら大惨事!ここまで走ってきた私を褒めてほしいくらいだ!てか、西園寺はまだしも何で私を置いていった!」
「だってあなた、転送する際いなかったし……。」
「待つとか、しなかったのか?」
「めんどくさかったんだもん。」
「コントはいい、貴様ら何をしに来た!」
カズか我慢ならずに、2人に目的を言えと怒号を放つ。
当の2人はしゅんとしおらしくなったのち、説明を開始する。
「ああ、色々と言いたいことはあるのだが、まずはこれを見てほしい。きっと君たちの中にはこの正体を知っている者はいるんじゃないのかネ?」
モリアーティは端末を操作し、一つの動画を見せる。
「これは……。」
「調べてみたところ、古代の神たるミケーネ神の連中だそうだ。」
そこに移されていたのは、ギリシャ近辺で現住民がとったであろう動画。
それは、ミケーネ神の復活の瞬間を捉えていた___!
「機械の獣らしきものが侵略してきている以上、放っておくとメサイア教団よりも先に彼らに蹂躙される、この問題の解決は必至だ。これから特異点に向かう者たちとギリシャに向かう2チームに分かれ、現在の問題を解決しないといけない。そして……それが解決した後にもう一つ。」
モリアーティは、暫く沈黙する。
ちょっと考え込んだのち、モリアーティは話し始めた。
「八雲紫のおかげでソロモンの指輪が見つかった。君たちにはその回収に行ってもらう。」
八雲はモリアーティに続くように話し始める。
「2つの問題が解決した後、あなた方には私たちの領域……幻想郷に来ていただきますわ。もちろん、そこでの問題を解決していただければの話ですが。」
「その問題の名を聞こう。」
それは、悪意に立ち向かう物語。
廃棄され、踏みにじられた無念や夢の果て。
「詳細はあっちで見てもらった方が早いわ、しかし名前を付けるのならば……。」
Chase Remnant ACT-X 人理定礎値:E-
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■■之廃棄孔 幻想郷
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東方■■■~廃棄孔異変~