黒い真珠の悲劇
「怪盗ディック?またなんでそんな大怪盗の予告状が家に?」
「さぁな、この家には盗める物なんて無いのにな。」
そう言って兄はあくびをした。「じゃあ俺は部屋戻るわ。お前も早く寝ろよ?明日学校だぞ。」と部屋に戻っていった。
俺は怪盗ディックの予告状を手に取り書かれている内容を確認した。
「黄昏時に黒く輝く真珠を頂戴致します。怪盗ディック……。家に黒い真珠なんてあったっけ?……まぁいいか。もう眠いし俺も寝よう。」
そしてその日は眠りについた。
翌日、「春樹朝だぞ起きろ!」と兄貴に叩き起され目を覚ました。「まだ6時じゃん……もう少しだけ……」と言い布団を被ると兄貴はため息をついた。
「お前な……。今日から高校生活が始まるんだぞ!俺と同じ高校に入ったならしっかりしろ!!」
そう言われて俺は昨日の事を思い出した。「そっか……俺高校生になったんだった。」と言うと兄貴は呆れた顔をした。
「全く、初日から遅刻するんじゃないぞ?ほら、さっさと支度してこい!」
「はーい、」
洗面所に行き顔を洗い歯磨きをして制服を着た。リビングに行くと既に朝食が用意されておりそれを食べた。その後兄貴と一緒に家を出た。
家からは電車を使い30分程で着いた。校門には入学式という看板がありその下にクラス表が張り出されていた。
「兄貴なんか緊張してきた!」
「別に普通にしてれば大丈夫だ。じゃあ頑張れよ。俺は生徒会室行ってくるから。」と言って別れた。俺はドキドキしながら自分の名前を探すと1年2組のようだった。教室に入るとクラスメイト達が談笑しておりとても楽しそうな空間が広がっていた。
教室に足を踏み入れた瞬間、賑やかな笑い声とクラスメイトたちの活気が俺を包み込んだ。少し緊張がほぐれた気がしたけど、どこか落ち着かない気分だった。怪盗ディックの予告状のことが頭の片隅に引っかかっていたからかもしれない。「黒く輝く真珠」って何だよ、って今さら考えても答えが出るわけじゃない。とりあえず席を探そうと教室を見回した。
でも、その日の放課後、事態は急に動き出した。学校から帰宅すると、家のドアに新たな封筒が挟まっていた。また怪盗ディックの予告状だ。封を開けると、こう書かれていた。
「今宵、月が最も高く昇る時、黒く輝く真珠を手にせしめる。逃がさぬぞ、春樹殿。――怪盗ディック」
「春樹殿…? 俺!?」
思わず声に出してしまった。昨日の予告状にはそんな個人宛のメッセージなんてなかった。しかも「黒く輝く真珠」って…やっぱり家にそんなものはない。だいたい、なんで俺が狙われるんだ? 何か変だ。気持ち悪い予感が胸を締め付けた。
「どうした、春樹? またボーッとしてるぞ」リビングから兄貴の声。予告状を握りしめたまま、俺は慌てて兄貴に話した。
「兄貴、これ見て! 怪盗ディック、なんか俺のこと知ってるみたいなんだよ!」兄貴は予告状を手に取り、眉をひそめながら読んだ。
「ふーん…こいつ、なかなかふざけた奴だな。『春樹殿』だってよ。まさかお前の股間が『黒く輝く真珠』ってわけじゃねえよな?」「は!? ふざけんなよ、兄貴! んなわけねえだろ!」
顔が熱くなるのを感じながら、俺は叫んだ。でも、兄貴の冗談が頭にこびりついて離れない。まさか…いや、まさかだろ? でも、怪盗ディックって名前自体がなんか下ネタっぽいし…。いや、考えすぎだ!
否定しながらもチンコが急激に勃起してジンジン痛くなるのを感じていた。
「お前、本当に心当たりないのか?ほら、アニメみたいに、何かを食べたり飲んだりしてしまったとか?」
「いや……黒く輝く真珠に関係ありそうなものなんて、食べたり飲んだりした記憶なんて……」
「そもそも、個人名を出してきたあたり、お前のことを知っている身近なやつかもしれないな……」
「怖いこと言うなよ……兄貴」
「おい、大丈夫か?汗が止まらなくなってるぞ」
汗を拭うと、確かに汗が止まらないでいた。それだけでなく、胸の鼓動も速くなっていた。
「こいつの予告状、なんか本気っぽいぞ。夜まで家にいるなら、ちょっと気をつけな。ドアと窓、ちゃんと閉めとけよ」
兄貴はそう言うと、いつもの気楽な調子で自分の部屋に戻ってしまった。俺はリビングで一人、予告状を睨みながら考え込んだ。月が最も高く昇る時…つまり深夜か。家にいるしかないけど、なんか対策しないとまずいよな。夜が更けるにつれ、俺の心臓はドキドキと高鳴っていた。時計は23時を回り、窓の外は静まり返っている。
兄貴はもう寝ちまったみたいで、家の中はシーンとしていた。俺はリビングのソファに座り、予告状を何度も読み返した。
こういう場合、警察に保護を求めるべきだろうか?個人名を記述して予告するというのはどう考えても危険だ。
俺は、不安が募り、思わず警察に保護を求めていた。気が動転していたのもあり、うまく伝えられた自信はなかったが、とりあえず、自宅まで迎えに来てもらえることになった。兄貴を起こさないために、書き置きを置いていた。
連絡してから、それほど時間がかからずに迎えが来た。
「警察に保護を求める連絡をされたのは、あなたですか?」
「はい。そうです。俺が、警察に保護をお願いしました」
「わかりました。では、警察署まで行きましょうか……」
「はい」
春樹は、警察官と共に警察署に向かうために、パトカーに乗り、移動する。
春樹を乗せたパトカーは、警察署に向かって走り続けていたが、なかなか警察署に着かず、時間だけが過ぎていく。春樹は、頭に少しの不安がよぎっていた。
パトカーの後部座席で、春樹は窓の外をぼんやり見つめていた。街灯が規則正しく過ぎていくが、なんだか道がいつもと違う気がする。
「あの…警察署って、こんな遠かったっけ?」と、春樹は運転席の警察官に尋ねた。だが、返事はない。
「やっぱり、この人警察官じゃないんじゃ!?」
春樹は、焦ってしまうが、次の手を考えていた。
「すみません。実は、先程から怪しい車が後ろに走っていたので、振り切っていました」
「あっ……そういうことだったんですね。てっきり、偽の警察官だと思ってしまいましたよ」
「ハッハッハッ……そう簡単に、偽警察官なんて、現れたりしませんよ」
春樹は、警察官の返答で、安心したのか、気が緩んでしまう。