10年ぶりに幼馴染が帰ってきた。

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1人目

10年ぶりに幼馴染が帰ってきた。

2人目

こんなちっぽけな島にしがみついているのはイヤだ、都会でひと山当てるんだと豪語して、朝焼けのなかを出航した。
船が嵐で沈んだと聞かされたのはその五日後のことだった。

3人目

船に搭乗していたのは約50人だったが、幼馴染だけが沈んだ船から外傷一つもなく帰ってきたというのは、島一番の話題になった。
「こういう狭い世間が嫌で出ていこうとしたのに、これなら死んだほうがマシや」

4人目

そう吐き捨てた彼は、海の向こう側、見慣れた景色を見つめていた。
きっとまたこの島を出ていくのだろうと予感した。

5人目

彼は浜辺をうろつくようになった。
闇夜に灯りも持たず歩きまわる彼を亡霊のようだと島民たちは怖がった。
僕も気味が悪かった。彼と話すほど、奇妙な違和感が強くなるのだ。

6人目

ある日島民が彼がラーメンになる瞬間を見たという噂が流れた。
この狭い島の中、人の噂が広まるのも早く瞬く間に彼は好奇の目を向けられることとなった。

7人目

「ラーメン?」
「声が大きい!」
カウンターでラーメンを啜る吉田のおっちゃんに、女将さんは2階の子供部屋の方に目を向け小声で叫んだ。
「いやラーメンたって色々あるやろ?塩か醤油か味噌か……いや冗談や」

8人目

「私は豚骨が一番好きなんだけどね…ってそういう話じゃなくて」
「そやねん、ラーメンになるってどゆことやねん!その見たっていう奴は何を見たっちゅーねん!」

9人目

「好奇の目なんか持たずに助けてくれよぉ…」あつい砂浜の上、陽射しの照りつける中で、1玉のラーメン、もとい彼が直置きされていた。「なんか、戻れなくなっちまったんだよぉ…」

10人目

目撃者は奇妙な光景にしばらく言葉が出てこなかった。
何かの罰ゲームかと疑い、辺りを見回しても誰かがいる様子もなく、
ただひたすらに1玉のラーメンが話しかけてくるだけだった。

11人目

「お前、本当に長内 航(オサナイ ワタル)か!?」
正直な話、話を聞いていても信じられなかった。
とりあえずこの状況を誰かに見られるのはまずい、
彼を持ち上げようとしたが、その手は空を切った。

12人目

なんとトンビが麺をかすめ取ったのだ。
「うお、やめろ馬鹿!」
叫ぶ彼を無視して、トンビは空高く舞い上がる。そして優雅に上空で弧を描くと、島の中心にある巨大樹へと連れ去ってしまった。

13人目

その麺は巨大樹に来るのは2度目だった。
1度目は島を出る前に。
もう2度と訪れることはないだろうと思っていた。
麺の姿で再びこの場に舞い戻ってくるとは思いもしなかった。

14人目

僕はガソリンを撒くと火を点けた。
巨大樹はすさまじい勢いで燃え上がり、焼け落ちた。
とんびも麺になった彼も燃えて死んだ。
僕はこうして一人になってしまった。
僕は鬱病になり、50年、家に引きこもった。