夢の象

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1人目

気がつくと万華鏡の中にいた。
足はつくけど、上下左右の区別がつかない。
呼吸は出来るけど、自分がしているのか、鏡に映る自分がしているのか分からない。
世界に戸惑う僕の前に一匹の象が現れた。

2人目

ピンク色の象だった。
背中に立派な鞍をのせ、金ぴかの帽子を誇らしげにかぶって、トランペットを陽気にプウプウ吹いている。
けれど鏡に映った象は大きな枷を引きずって、涙をポロポロ流していた。

3人目

それは流石に可哀想だと感じたので、枷を何とか外してみようと四苦八苦してみたが、工具もないのでどうにもならなかった。
せめて象が安心できるように撫でてみる。

4人目

陽気な象は鼻を高らかに持ち上げてみせた。
けれど、鏡に映る君はまた大粒の涙を流している。
よしよしと自分より遥かに大きな巨体をなぞると、手のひらをじわりと、確かに伝わる温もりだけを確かに感じられる。

5人目

まるで、お母さんのような安心感。いや、待てよ。本当にお母さんなのかもしれない。私は万華鏡という狭い部屋中を改めて見回してみると、そこには小さな人形、アヒル、びいどろに、ちえのわ…たくさんの玩具。

6人目

その中に斧があった。
これはちょうどいい。腹が減ったし飯にしよう。
僕は象を斧でぶった斬って殺し、食った。
うまかった。
象も僕の役に立てて幸せだろう。
それから波動を使って万華鏡空間を脱出した。

7人目

目を開けると、ステンドグラスで覆われたドームにいた。鮮やかな色彩に邪魔されてよく見えないが、硝子の向こうに湖が広がっている。
「それは僕の血溜まり。君はびいどろの中にいるんだ」
鏡の中の象が笑った。

8人目

「君の本体はまだ万華鏡の中だよ。君の本体は君を追い出すことに成功したのさ」
象に向けて斧を振りがざしたときに僕は僕の本体に見つかってしまった。
“狂気”として生きてきた僕は切り離されてしまったのだ。