心を求めて。 (プロットみてね!)

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1人目

彼が目を覚ますとそこは森の中だった。
木漏れ日の落ちる彼の腕は金属の光沢で、チラチラと輝いている。
そこに小さなリスがやってきた。
どうやら、彼が長いこと動かなかったせいか、彼の背中と木との間には、リスが貯めてきた木の実やらが隠されていた。
「こんにちわ、人の生活をよりよくをモットーに、皆様の生活をサポートするディモル社のロボット、No.113です。あなたのお名前は何でしょうか?」
リスは大切な木の実をあきらめて、逃げ出していた。
「またのご機会に、」
No.113は、仕方なしといった感じで立ちがり、深い森の中を行く当てもなく歩き始める。
森の中の動物たちは警戒して、木陰から彼を覗いていた。
「かなしいな…」
彼は、ぽつりとつぶやいて、胸に手をあてた。

2人目

そのまま足の向くまま進んでいると開けた場所に出た。
そこには広大な湖が広がっており、その湖岸に崩れた小屋があるのが確認できた。
「あれはなんでしょう?」
彼は永い眠りから覚めて以来初めて見る建造物に興味を抱いたのかその小屋へと足を進める。
また動物が棲家にしているのでは、と警戒して近づくが、そこに動物の気配は感じなかった。
小屋の損傷具合を見たところ、大半が炭化しており、なんらかの理由で焼けた後らしいことが分かる。
「これは酷い」
軽く焼けた床板の隙間から植物や菌類が生えるその場所で一際目を引くものがあった。
それは表面の焦げた鉄製のデスクであった。
「調べれば何かわかるかも知れません」
そう思い立った彼は右の一番上の引き出しを開ける。
そこには写真と封筒が一枚ずつ入っていた。
写真には歳の離れた男女が写っており女の子の方は男性に抱き抱えられており、男女はどちらも笑みを浮かべていた。
「幸せそうな写真ですね。だとしたら一体ここで何が・・・それにこちらは、あの写真の人の書いた手紙でしょうか?」
彼その封筒を手に取り躊躇なく封を開けた

3人目

その瞬間、一抹の違和感が彼のプログラムを遮った。
「この封筒は果たして開けてよかったのでしょうか」
彼にも自分がなぜそのようなことを言ったのかわからなかった。
 中身を見ると、彼のデバイスにはインストールされていない言語で文章が書かれていた。文章の上下には宛名や住所らしきものも書かれている。
「この文字は、人類滅亡まで東の国で用いられていたελληνικo αλφαβητoに類似していますね。文の構造はまったく異なっているようですが。しかしもうあのお方々の滅亡から150年近く経っている。紙がもろくなっていて、これ以上調査すると崩れてしまいそうだ。」
彼は文章の解析を終了し、紙を封筒にしまった。
 他の引き出しを開けていくと、いずれもびっしり物が入っていた。あまり損傷を受けていない。陶器でできた人形がごろごろと入れられた棚、ティーセットやガラス食器が置かれた棚、液体入りの瓶が格納された棚、分厚い本が敷き詰められた棚。しかし一番上の引き出しにはなぜかその写真と封筒だけが入っていた。
 しばらく写真の男女を眺める。彼らの表情をまじまじと見つめていると、男性の目が潤んでいることに気が付いた。

4人目

この男性は「泣いている」。目が潤んでいる、というのは、通常、悲しいという感情を思い浮かべるときである。

「何かあったのでしょうか。この男性は、どうして悲しんでいるのでしょうか」

蓄積されたデータから答えを導きだそうとしたが、どうにもうまくいかない。
棚の内容物からして、ここに住まう人間は勤勉だったのか。ティーセットやガラス食器はそれぞれ二組ずつある。もう埃をかぶってしまってはいたが、傷などはみあたらず、丁寧に扱われていただろうことは理解できる。

またしばらく、じっと写真を見つめていた。
そうすると一つ、彼の中で答えが生まれる。

もしかすれば、この女の子は病を患っているのかもしれない。明らかにやせ細ったからだ、頭にはニット帽をかぶっているが、髪の毛が無かった。それは彼の中で「他の病状の場合もあるが、ガン患者の特徴に合致する可能性が最も高い」という結論だった。

ならば男性が泣きそうになっている理由も納得がいく。人間とは近親者が死ぬと悲しむものだ。


と、そこで、彼は不可解な破損データがあるのに気づいた。それを解析し、修復する。

「.........博士?」

答えはない。

5人目

ただ女性が有名なロボット工学の博士であることが、データからわかっただけだった。
なぜだか彼のメモリーに、博士の詳細な履歴が記憶されていたようだ。
次のデータを修復にかかる。
「男性は、故人を模したロボット?」
一つずつ修復されるたび、まるでページをめくるように記憶がよみがえってくる。
それはパズルのピースがひとつずつはまっていくような、ロボットが人間に成長するような感覚だった。彼にとってそれはこの上ない喜びだった。
もっと、もっと知りたい。そんな気持ちでいっぱいだった。

データの修復が進むうちに、核心に迫る鮮明な記憶が蘇ってきた。
先ほどまでフル回転で解析していた頭部の回路はもう動きを止めていた。
「どおりで手紙の文字が読めないはずです。だって私は、この国のデータを意図的に厳選して記憶されていたのだから。敵国に要らぬ感情を抱かぬように」
彼は呆然と写真を見た。
博士がやせ細った原因も祖国の放った核の放射能で、その後すべてを焼き尽くすために投入されたのが彼らディモル製ロボットだった。
そして役目を終えて、眠りについていたのだ。
「かなしいな…」
彼はぽつりとつぶやいて、胸に手を当てた。