誘拐の理由

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 それはある夏の涼しい朝のことだった、当時十九だったその青年は一人の少女を拉致した。
 その少女の名は天雪雛乃(あまゆき ひなの)当時十六歳の高校生である。
 事件当日の朝、雛乃はいつも通り早く起きゆっくりと一人で朝食を食べ家を出て一人で学校へとむかっていた。
 その道中、毎朝利用するバス停のベンチに見慣れない青年の姿があった。その青年は雛乃の存在に気づくとかぶっていたキャップ帽を深くかぶりこんだ。まるで素顔を隠すかのように。
 雛乃は不自然に思い、男から距離をとったが青年はそれに気づき声をかけた。
「ジロジロ見るな女! 目障りだ!」
 青年が話しかけてきてびっくりしたのか、雛乃は数歩後ろに下がる。
「すいません! き、気をつけます
 青年は再びキャップを深く被りこみ腕を組み目を閉じ眠りにつく。
 その時、雛乃には青年が一瞬笑った様に見えたが、気のせいとばかりにバス停のベンチに腰掛けた刹那!
 青年は音もなく立ち上がり雛乃の背後に回り込む白い布で雛乃の口と鼻を塞いだ。
「うっ、・・・・・・んっ・・・」
 雛乃も警戒して無かった訳ではないが不意を突かれ精一杯の抵抗を試みるものの一瞬で眠りの闇に突き落とされてしまった。