生きる理由と造られた意味
いつの時代でも、目的のために手段を選ばない奴等はいる。
そいつらはたとえ同じ人間だとしても容赦無く利用する。
全ては目的を果たす為、ただそれだけの理由。
この世界には目的しか見えずに大切な何かを忘れてしまった奴等が蔓延っている。
だから、生まれるはずの無い奴が生まれたり死ぬはずの無い奴が死んだり、幸せになるはずの人生が狂わされたりしていた。
僕はそんな世界で生まれた。ただある目的の為に造られたからだ。
それだけならまだ良かった。
まだ少しは幸せだった。
でも現実は残酷で、ある目的の為に造られた僕はその目的の消滅と共に生まれた意味と存在する理由を失った。
それでも僕は生きていたかった。
そんな理由で死にたくなかった。
だから逃げてやった。たとえ捕まって殺されようが、人体実験を施されようが構わなかった。
どうせこの暗がりに息を潜めていても処分されるに決まってる。
だったら最期くらいは足掻いてみたかった。
ただそれだけだった。
逃げ出した先、人目のつかない貧民街で、僕はもう一つの地獄を見た。
当然であるかのように転がる死体には、まだ幼い子供のものもある。アンドロイドに飢餓は無いが、人間はそうじゃないことくらい知っている。でも、実際見てみるとやはり違う。存在しないはずの心が泣いているような気がした。
僕らのようなものを作る金があるのなら、なぜこの子達を救ってやれなかったのか、本当に理解できなかった。
雪の降る冷たい路地裏を進んでいると、一人の人間が落ちていた。ピクリとも動かないので、また死体だと思った。けれど違った。生体反応のレーダーがその小さな身体を煌々と照らしていた。
この子はまだ生きている。そう確信した。
自分がなぜそうしたのかわからない。生きる理由を見出したかったのか、死にゆく命を見過ごせなかったのか、はたまたその両方なのか。
わからなかったが、僕はいつの間にか彼女に応急処置を施していた。施設では殆ど必要のないスキルだったが、こんなところで役に立つとは思わなかった。対人間の快復キッドが決め手だった。あのクソみたいな研究者どもに初めて有り難みのようなものを感じた。
そうした作業を続けていた時だった。
「ん……」
目の前の少女の目がゆっくりと開いていった。
「ここは……」
目を擦り、開けられた瞳と目が合った。
宝石のように綺麗な蒼色の目だった。
「へ……へっ!?」
ようやく意識がはっきりとしたのか、少女は飛び起き、私に警戒の姿勢を示した。助けた手前少しショックだったが、私のこの見た目に警戒しない方が不自然だと思った。それほどまでに、『僕ら』と『彼女ら』の間には壁があるのだ。
少女は少し自分の身体を触り、異変が無いのを確認すると僕に鋭い目を向けた。
「貴方、何者よ?」
返答に戸惑った。私の本当の正体を言えば、他の誰かに伝わり、最後には施設の人間に見つかってしまうと考えたのだ。だが、俺は言うことにした。
「僕は、機体番号S104。とある施設で作られた機械人形です」
この姿を見られて隠し続けるのも難しいだろうし、何よりこんな少女に嘘をつくのがなんとなく嫌だったのだ。
「機械……人形? まぁ、今はなんでもいいわ。それよりもう一つ聞きたいことがあったの。私を助けたのは、貴方なの?」