プライベート CROSS HEROES reUNION Episode:24「決戦、CROSS HEROES vs クォーツァー」

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1人目

「Prologue」

【特異点・クォーツァー・パレス編】

 スウォルツを加え、奇妙な共同戦線を張ることになった心の怪盗団と承太郎。
疑念を抱きつつも、本来の目的であるソウゴ救出のため行動を開始する。
パレス内には見張りの傭兵やカッシーンのみならず、
地下深くに広がるメメントスに救うシャドウ達までもが蠢いていた。

 一方、ソウゴと同じく牢獄に閉じ込められていた男……その名は木梨猛。
「仮面ライダーに認められなかった男」を自称する彼は、
昭和から平成へと時代が移り変わろうとしていた頃、世界に蔓延る悪を討つべく
日本を発っていった11人の仮面ライダー達に代わり、
手薄になった日本の守りを担っていたのだと言う。永き戦いを終え、
平和に過ごしていた木梨猛の前にクォーツァーが出現。
戦いから遠ざかり、身体機能が衰えた彼に抗う術はなく、敗北を喫した彼は
こうして牢に繋がれていたのだ。

 やはりクォーツァーは強い……絶望するソウゴを、木梨猛は諭すように言った。
望むと望まざるとに関わらず、お前は仮面ライダーに選ばれたのだと、
ならば最後までやり遂げろと……
その言葉に賛同するように現れる、木梨猛の知己。
牢獄を脱し、反撃の狼煙を上げるために彼らは走り出した……

【アナザーワールドからの刺客編】

 特異点に突入した超時空戦艦、アビダイン。目指すはクォーツァー・パレス……
そんな彼らの行く先を阻むのは、クォーツァーによってアナザーワールドから召喚された
ターレスとスラッグ。辛うじて残されていた完成型神精樹の実を喰らい、
さらなるパワーアップを遂げていた。
アビダインを先に急がせるべく、ピッコロとベジータが出撃。
さらに、ロンドンにて悟飯を降した銀河戦士ボージャックの乱入……
悟空VSボージャック……正しき歴史では実現するはずの無かった戦いが始まる。

【特異点・超人編】原文:AMIDANTさん

 キン肉マン達が丸喜パレスへ、CHがクォーツァーパレスへと挑んでいる一方で、
特異点にて行方不明になっていた悪魔将軍とミラージュマンは、
とある廃墟街へと訪れていた。
そこで遭遇したのは、魔界からの使者ミラ。
丸喜拓人が救世を行う最中、キリと呼ばれる何かを集め、何かしらの目的を抱えたミラ。 彼女を放置する訳には行かないと取り押さえに掛かるも、もう一人の使者トワと
戦う事となる。激闘の中、接戦を繰り広げた悪魔将軍はトワの底知れぬ恐ろしさの一端を感じ取る事となる。

 事の重大さが予想を上回る事態となった事を悔やみつつも、
一刻も早くトワとミラを取り押さえんとする悪魔将軍。
だが惜しくもミラの目的は果たされた様で、取り逃がしてしまう。
その目的とは、ベジータ達に敗れたターレスとスラッグを生きて回収する事だった。
完璧・無量大数軍を発端とした一連の事態、救世、裏で蠢く魔界の影。
これらが指し示す未来図は、一体どのような模様を描くのか?
一方で、ルイーダの酒場へとジェロニモの療治に訪れたドクターボンベ達は、
ある男と再会する事となる。
ボンベの古い友人であり、彼の腕を信頼するこの男は、一体?

【月影夢美一行/カリギュラ2編】原文: 渡蝶幻夜さん

 爆弾 隕石 後えっと、何があったのか・・・ そうそう、ムーくんを捕まえたんだった。
エピメテウスの塔・終着駅に爆速で来てしまった異端者と能力者と困惑する楽士。
果たして、自由気ままなヤツらはブラフマンとリグレットを倒せるのか!

【仮想世界の歌姫と妖精國の女王編】

 月影夢美一行を倒したと確信していたブラフマン。彼とリグレットの前に
妖精國の女王を名乗るモルガンと3騎の妖精騎士が現れる。
夢美達が再び挑んでくるであろう事を予言し、モルガン達は去っていく。
彼女たちの目的は果たして……?

【メサイア教団の暗躍編】原文:霧雨さん

 特異異点、リ・ユニオン・スクエアでの戦いは、ただ激化していた。  
その間、メサイア教団はそれぞれで暗躍を開始していた。  
幻想郷某所では、流星旅団を壊滅させた大司教「焔坂百姫」が廃棄孔で、
あるものを製造していた。  
天宮月夜に歪んだ恋慕と執念を纏わせ、狂ったような笑みを浮かべる。  
幻想郷に眠る廃棄孔。その正体やいかに!  

 芥志木は、特異点からクォーツァー・パレスに向かう戦艦アビダインを
自身の能力「魂線斗霊」により追跡、到着した後
アビダインをその能力で撃墜してしまう。  
そして、大司教3位たる黒魔術師アザゼル・オッド・カルネウス。  
彼は自身が毛嫌いするエイダムとの問答の果て、AI兵器たるクリサリスを
ロンドンに送り付けることにした。  
今、CROSS HEROESに脅威が迫る___!

【よみがえる強敵編】
 
 墜落したアビダインを残し、アナザーワールドよりの刺客の手を潜り抜け、
クォーツァー・パレスへの直接攻撃を敢行するCROSS HEROESに
更に追い打ちをかけるように、かつて騎士ガンダムが滅ぼしたはずの魔王……
失われた三種の神器のひとつ「炎の剣」を取り込んでより一層のパワーアップを果たした
ネオブラックドラゴンが出現。航行不能のアビダインの守り、
そして蘇った強敵を迎え撃つべく、バーサル騎士ガンダムとアルガス騎士団は
CROSS HEROESに望みを託す……

2人目

「丸喜と武道は救世に何を思う」

特異点は、いよいよ以て混沌の様相を呈してきた。
遂に始まった丸喜拓人による多次元世界の全救済計画、表舞台へと露わになる数々の陰謀、新たな影、そしてぶつかり合う正義と邪悪。
彼の救済は正しきものとして完遂されるか、間違いとして是正されるのか、或いはただ利用されるのみか。
視点は、件の丸喜拓人へと移る。



丸喜パレス、中枢。
神精樹に侵され、幾ばくか壁が剥がれ落ち不清潔感を漂わせながらも、それでも正常に動く計器類。
その一つ、薄汚れた室内とはまるで対照的に豊かで綺麗で整った活気的な外の世界をモニターは映し出す。
普遍的で何でもない日常という、誰もが望みしかしありつけぬ者もいる筈だった平和そのものが、只の一人の例外も無く行き渡っている。

「遂に始まったね、武道。」

そんな平穏な光景を前に、僕はつい寡黙に話す事しか出来ない。
自分でもらしく無くと思うが、自らの生涯において己の全てを掛けたと言っても過言では無い、気も神経も、身に覚えるあらゆる感覚が張り詰めている。
今もまだ、ただの白衣が掛かった肩への重圧が、両の腕を震えさせて仕方がない。
こうして武道に語り掛けるだけで、脳裏が焼き付くような心地を覚える。
正直に言って、緊張感に圧し潰されそうだった。

「漸くだ、丸喜。お前が見せるこの瞬間を待ち望んでいたぞ、グロロ~。」

だのに武道、君はまるで一興の時を楽しむ見物客だ。
僕の緊張など微塵も知らぬかのように、僕よりもずっとリラックスしている。

「武道、君は動じないね。」

まあ、君らしいと言えば君らしいのだけれど。
それでも、そんな態度に少しだけ救われていたりする所もある。
幾億年生き、その生涯で幾千幾万の葛藤と思慮を重ねたからこそ持つ、武道の威厳というものだろうか。
本当は胸の奥底で根付いたある種の恐怖で張り裂けそうなのに。
君と話す言葉の一つ一つに、不思議と当てられて安心してしまう。

「そうでも無いぞ、丸喜よ。」
「えっ?」
「私とて、内心では武者震いを抑えきれぬほどだ。」

武者震いか、うん、確かにそれはそれで納得出来る。
でも、だとしたらどうして、僕より落ち着き払ってるんだろう?
何でこんなにも余裕なんだ、一体、君の何がそこまで?
僕の思考を遮る様に、武道の声が響く。

「これほどまで見届けたいと思える事を、私は未だかつて抱いた事は無かった。丸喜よ、実の所はお前に感謝している程だ。」
「…そっか、武道にそう言って貰えると、嬉しいな。」

ああ、やっぱり武道には敵わない。
そんな思いを強くさせられると同時に、全ての人々を幸せにしてみせると僕は今一度、決意を新たにする。
それこそが、僕の宿命だと信じているから。
…うん、言葉にすると、やっぱり僕には荷が重く感じてしまう。
ここまで来たのに情けないとは、確かに思ってしまうよ。
でもやっぱり_

「丸喜よ。」

無意識の内に震えていた足が、武道の一声でピタリと止まる。
武道の目は、いつもの怒りに震えてる目付きでは無い、真剣なものになっていた。
そして、武道は僕に向けてこう告げる。

「私はお前を信じている、だから己を信じるのだ丸喜よ。お主はもう既に、答えを見つけているだろう?」

そう言うと、微笑むかの様に目を細めていた。
彼が一体どんな生涯を送ってきたかなんて、今更計り知れない。
そんな彼が、僕と同じ目線に立って、向き合って。
そしてこう言うのだ。

「丸喜よ、私はお前の選択の全てを正しい物として肯定する。故に今は、心して掛かれ。それだけで良い。」

それだけ言い終えると、彼はまた元の表情へと戻っていた。
ああ、きっとこれが君なりの激励なのだろう。
本当に、君はいつだってそうだ。
僕が抱えている迷いを、全部消し飛ばしてくれる。
だから僕は、両頬を叩き。

「…分かった、僕はもう迷わない。君の肯定を、僕は受け入れるよ。」

胸に抱いた決意をもう二度と揺るがすまいと、再びモニターの方へ向く。
今、こうして映っている人々の日常を、今度は世界全てに行き渡らせるのだ。
その先にある、本当の意味で幸福な日々のために。

「_お取込み中失礼?」
「おわっと!?」

柄にもなく悩んでいたからか、サイコマンの存在をすっかり忘れていた。
参ったな、こんな場面を見られてしまったのか。
正直気恥ずかしさが込み上げてくるが、武道の手前、なるべく冷静さを取り繕おうと、僕は軽く咳払いをする。
大丈夫、別に恥ずかしい事なんか無い、落ち着こう。
だがそんな僕の心境を見透かすように、サイコマンは意地悪げに笑いながら話しかけてくる。

「いやはや、何やら熱~く語っていた様でしたけど、もしかしてお邪魔でしたか?ニャガニャガ…」
「そ、そんなんじゃない!僕は、その、単にお互いの意志をだね。」

つい反射的に否定してしまったが、これはこれで何か変に意識しているようで、とても気不味い。
武道、何故だか少しだけ楽しそうに笑ってるし。
僕の慌てた様子を、サイコマンが愉快気に眺めていた。
わざとタイミングを見計らって話しかけ、僕の反応を見て楽しんでいるに違いない。
相変わらずの性根の悪さだ。

「サイコマンよ、悪戯な真似は許さんぞ。」

そんな彼に、武道からえらく重い音を孕んだ叱咤が飛ぶ。
その声に、一瞬だけ怯んだ様に体を震わせる。

「…ニャガニャガ、これはこれは失敬。」
「それで、一体何の用だ?」

それでも、少し間を置いて、普段通りの調子で喋り始めた。
僕よりもずっと長い付き合いらしいから、その辺は慣れっこなのだろうか。
ただ武道は武道で、内心で怒りを感じているのは確かだ。
ソレが分かっているからか、サイコマンはすかさず伝えるべき事柄を白状する。

「ええ、丸喜氏。ここに侵入した彼等についてなんですが。」
「蓮君達の事かい?」
「そろそろ、ここに辿り着くのも時間の問題みたいでしてね。お伝えしておこうかと。」

彼が切り出した話題は、雨宮君の事だ。
今も尚、僕の彼だけど、遂に此処まで来ると言う。
幾重にも重なった複雑な迷路の様な研究所を突破して。

「そうか、いよいよか。」

不思議と、緊張は無かった。
それは、僕が既に答えを出しているからなのか。
或いは、彼もまた僕と向き合ってくれている事から来る物なのか。
僕は何て果報者なのだろう。
今まで認められなかった、理不尽に晒されてきた、散々な人生だった。
けれど今は、胸を張って良かったと言える生涯を送っていると言える。
だから蓮君、僕は君と戦うよ。
そんな事を考えていると、武道が僕に声をかけてきた。

「丸喜よ、私も出向くぞ。奴と共にいるキン肉マンとも、決着を付けねばならぬのでな。」
「…改めてありがとう、武道。」

頼もしい背に、僕は心からの感謝を込めて、言葉を告げた。
そんな折、不意に背後から子どもの声が響く。
彼だろう。

「ただいま~!」
「あ、お帰り。彼とのお話、どうだった?」
「う~ん、面白そうだった!」
「そっか、僕はこれから客人を迎えるんだけど、一緒に来る?」
「アイツ等だね?だったら行くよ!」

無邪気に笑いながら金の帽子を上げ、彼は飛びつく様に付いてきた。

3人目

「燻る想いを胸に、征け」

 クォーツァー・パレス内

「……はぁ。」
「どうした江ノ島。浮かない顔して。」
「いや、だだっ広いなって。」

 表情が少し暗いのを察したデミックスが、江ノ島を気に掛ける。
 確かにこのクォーツァー・パレス、『宮殿』という意味を持つパレスの名の通り中はかなり広くまるで一種の迷路のようにも思える。
 博物館が気を利かせて、高名な城塞を丸ごと一つ子供が楽しむための迷路にしたような。
 ただし、内部構造は剣と炎の世界に在りそうなダンジョンのそれだが。

「それでちょっと、疲れちゃって。チクショウあのフジツボ……。」
「それならいいけどさ。」

 フジツボ、即ち芥に対する悪態をつきつつも4人は歩みを進める。
 デミックスが江ノ島を、微笑みながら励ます。

「ふふ、ありがと。」

 そんな彼の様子を見て、彼女も口角が緩む。



 あたしにとって、デミックスの存在は少しずつ支えになってきている。今までの自分ならきっと、もっと信頼させてからその信頼を失墜させるようなことを起こして絶望させていただろう。
 何しろ、自分はそういう存在だ。
 両親からそういうようにプログラミングされたんだ。
 もちろん、今となってはそんなプログラムにも抗えることは証明できるし、上述のことなんざ自分の甘えでしかないんだろうけども。

 それに、今は違う。
 このデミックスという男に関しては何故か、そんな気にもならない。

 彼がほのかに笑うのを見ると、こっちまで笑ってしまう。
(この気持ちの正体が何なのかを、あたしは知らない。)
 彼の事を守ってあげたくなってしまうと気だってある。
(自分らしくもないのに、何でそうなるのかが分からない。)

 この度を彼らと共に歩んでいけばきっと、その答えにも出会えるのだろうか?



「何呆けているんだ?江ノ島。」
「……はっ。」
「周りに、なんかあるか?」

 考え込んでいたのをリクに諫められ、江ノ島は周囲を見る。

「なぁ、あれ見て。あいつじゃないさっき船落とした奴。」

 江ノ島が、前方を指さす。
 そこには、2人の男性の影があった。

「あいつか、船を落とした犯人は!」
「それにあの赤い髪の隣にいるのは、ゼクシオン!?」

 赤い髪の男と、黒コートに身を包んだ陰気くさい男性。
 シャルル遊撃隊の眼前に、先ほどアビダインを墜落させた悠々と先へ先へと歩みを進める芥志木と、彼と合流したゼクシオンの姿が。
 最も、芥達は彼らの事は気づいていないが。

「シグバール以外にもⅩⅢ機関の一部が敵になっているとは……薄々予想はしていたが……もしやゼムナスもか!?」
「いや、ゼムナスは復活してないと思うよ。ゼアノートが肉体も残らず完全に成仏したから、彼のノーバディであるゼムナスが復活する可能性は限りなく低いと思う。」

 最悪の事態を想定し、狼狽するリクをデミックスが諫める。

「……同じノーバディのお前が言うんだ、間違いはないんだろうけど。」
「でもあの先に、きっと……!」

 芥志木はエネルギーの流れを操作できる。
 それはつまり、自身の能力を応用して強力なエネルギーを探知できることもできるということ。
 ソロモンの指輪を追い求めるメサイア教団の事だ、もしかしたらクォーツァーがその指輪を持っていることを察知してここに来たのかもしれない。

「奴らに指輪を取られる前に、クォーツァーを止めないと!!」

4人目

「地球戦線、異常あり」

対ミケーネ神との戦争は、激戦の一途を辿っていた。
世界各地に現れたミケーネの神々を駆逐するため、CHの面々は各地で戦っている。
だが、その中でも群を抜いて激しい戦いを繰り広げているのが、巨大兵器を有するDDだった。

「いっしっしっし!機械の身体が仇になったな!」

ウーロンの駆るサヘラントロプスがアーキアルブレードを振るう度、ミケーネ神、もとい戦闘獣の身体が腐食される。
機械の身体でありながら、炎天下に晒した雑菌塗れの生肉の如く蝕まれ朽ちる様は、ある種のゴア表現だ。
そんな腐り落ちる身体に絶叫を上げる神に対し、ウーロンは不敵な笑みを浮かべる。

「へっ、こりゃ堪らねぇな!」

彼もすっかり、過ぎた力を得た者らしい動向を醸し出していた。
勝ち誇った様に、或いは小物の如き物言いで、ウーロンは神を見下す。
彼が斯様に浮かれるのも致し方無い。
相手はまごう事無き神であり、しかしそれを蹂躙できるのだ。
不死身を謳う機械を依り代とした事が裏目に出たのが要因なのだが、彼にとって過程はどうだって良い。
いつだって、ジャイアントキリングは気持ちが良いものなのだ。

「おっしゃ、このまま押し切っちまおう_」
『後ろだ、ウーロン。』

故に調子に乗ったウーロンの背後を取るのは容易く。
無線の警告に気付いて振り向いた時には、既に視界いっぱいを占める距離に戦闘獣が迫っており。

「お、おわぁーーー!?」

振り上げられた戦闘獣の拳が降ろされるまでの刹那、轟音が響き。
次の瞬間には閃光が走り、腕を残して跡形も無く吹き飛んだ。
一拍遅れて、千切れ飛んだ腕がボトリと水音を立てて落ち、そこで漸くウーロンは自身の置かれている状況を理解した。

『調子に乗り過ぎだ、敵陣深くまで単身で突進する奴がいるか。』
「あ、あぶねぇあぶねぇ…!助かったぜスネーク。」
『分かったから後退しろ、あまり浮かれるな。』

彼の窮地を救ったのは、遠い地で薄っすらと見える、スネークの駆るメタルギアZEKEであった。
彼の言葉通り、ウーロンは勢いに任せ敵陣深くにまで切り込んでいた。
結果、彼は危うく背後を一刺しされそうになった訳である。
そして先程の言葉通りに、油断しきっていた両者に二重の意味で鉄槌を下したのが、ZEKEのレールガンであった。
弾道弾を発射可能な超高出力電磁推進砲は、只の砲弾一つ打ち出すだけでも、機械の巨神を葬って余りある威力を持ち合わせている。
この威力と圧倒的な射程が、ミケーネ神に対してある種のワンサイドゲームを押し付けていた。
オーバーキルと言っても差し支えない。
それでも先の様な事態が起こるから、慢心だけはしてはいられないのだが。

「いやぁ~やっぱ前に出るもんじゃねぇな俺は。」
『全く、東京での男前なお前は何処に行ったんだ?』
「へへへっ、そう褒めるなっての!」
『褒めてない。』

呆れた様子で嘆息するスネークに、彼は照れ隠しするように頭を掻いて笑う。
実際、褒めた覚えは無いのだが。
そんな折、突如として無線に第三者の声が入る。

『ボス、ロンドンに向かわせた月夜班について報告がある。』

他でもない、オセロットの声だ。
声色から察するに、何かしら良くない報せでもあったのだろう。
そんな予感が、彼の中で膨らんでいく。
彼の嫌な予感という物は、往々にして当たるのだから。

『諜報班がメサイア教団の動きを捉えた。奴等、クリサリスを出すらしい。』

やはりと言うべきか、報せは予想通り悪い物であった。
ミケーネの神々も大概だが、それに勝るとも劣らない程の厄介者が月夜達を襲わんとしているという。

『クリサリスか、ピューパに次いで厄介な奴が来たな…』
「なぁ、そのクリサリスってのは何なんでぇ?」
『あぁ、お前は知らなかったな。ピューパやクリサリスは、ピースウォーカー計画の産物だ。』

スネークは暫しの間を置き、ウーロンへ説明を始める。
無論、この間にサヘラントロプスは後退している。

「平和歩行?」
『あぁ。ウーロン、相互確証破壊による核の抑止力は知っているか?』
「あの、何だっけ?確か核を撃ったら撃ち返されてお互いに全滅するから逆にやらねぇ、的な?」
『大体合っている、その内の『撃たれたら撃ち返す』を確実な物にするのがピースウォーカー計画だった。』

相互確証破壊。
それは、核を保有する事で、報復という形で核の使用を防ぐ為の政策である。
具体的には、片方の国に核兵器を使用した場合、もう片方の国は報復の為に相手の国に対して核を撃ち込む。
これを繰り返せば、最終的に両国共に滅びる事は必至である。
この理論を逆に言えば、自分も滅ぶと分かっていて核を撃つ馬鹿は居ないという事の証明、如いては核は使われないという理論にもなる。
言わば伝家の宝刀、抜かずの剣だ。

「で、撃ち返すのを確実ってのは?」
『あぁ、この理論の肝は『判断を人間が行う事』だ。人間は千差万別だ、自滅覚悟で核を撃つ奴もいるかもしれないし、虐殺を躊躇って撃ち返さない奴もいる。場合によってはそもそも反撃出来ない事だってな。』
「ひぇ、おっかねぇな…!?」

スネークの言いたい事を理解したのか、ウーロンが顔を青くしながら震え上がる。
実際、彼の言う事は正しい。人間とは、常に理性と狂気の狭間にいるのだ。
理性という名のタガは、時として容易く外れてしまう。
故に先の相互確証破壊理論は、極論から言えば人間の匙加減次第で覆されてしまうのだ。

『だからこそ、歩く機械に『自分からは撃たず、しかし撃たれたら報復は必ず行う』と命令した物を全世界に配備して、核抑止による平和を作ろうとしたんだ。』
「だから平和歩行(ピースウォーカー)かよ…何でどいつもこいつも碌な事思いつかねぇんだか。」
『全くだ。さて、話が逸れたな。』

そう言って、スネークは改めてオセロットの報告に耳を傾ける。
クリサリスがこれからロンドンへ現れる、との事だ。

『ピースウォーカー計画の副産物の一つが、大型無人飛行ヘリのクリサリスだ。』
「おいおい、大丈夫なのかよ?」
『大丈夫な訳が無いだろう。だが神共がいる今、正義超人を初めとして戦力を割くことも出来ん。』

スネークの言葉の通り、現在ロンドンにて待機している部隊は月夜の護衛班のみだ。
彼の言うように、人の手でどうこうできる存在ではない。
かと言って、このまま放置する訳にもいかない。

『だが、この件に関してはある男を向かわせた。後はその男への支援を、ボスから指示して貰いたい。』
『ある男?』
『…イシュメール、と言えば分かるな?』
『「っ!」』

その言葉を聞いた瞬間、二人の反応が一変する。
その男の素性を、彼等は良く知っていたから。
故に、決断に迷いは無かった。

『分かった、イシュメールには俺から支援すると伝える。以後、護衛班は彼の指示に従う様にとも伝えておけ。』
『了解した、ボス。さて、お手並み拝見と行きたい所だ。』
『お前は特に知りたいだろうな。』
『さて、何の事やら。』

そう言うオセロットの声色は、実に愉快そうな物であった。

(…しかし、クリサリスの動きを一早く知るとは、オセロットめ、何か隠しているな?)

5人目

「箱庭の城」

 クォーツァー・パレス全域に鳴り響く、警報。

「牢獄からの脱走者だと!?」

 ソウゴと木梨猛が牢屋から脱獄したと言う報、
さらにはアビダイン隊とCROSS HEROESが合流し、このクォーツァー・パレス内に
侵入してきたとの知らせが、クォーツァーの王の耳に届いた。

「ターレスとスラッグの反応もロスト……おのれ、CROSS HEROES……! 
やはりここで始末しておくべきか!」

 怒りの感情に突き動かされた彼は、すぐさま命令を下した。

「我がクォーツァーの同志たち、今こそその力を存分に示せ!」

「イエス、マイ・ロード!」
「ユア・マイ・キング!!」

「邪魔者は一人残らず潰す……!!」
「さあ、狩りの時間だ……変身」

【ZONJIS】【ZAMONAS】

 玉座の間から出陣するジョウゲンとカゲンが、ライダーの姿へと変身する。
そして、6人のクォーツァー達もアナザーライドウォッチを手に、戦場へと繰り出す。

「……ウォズ。分かっているな」
「はっ……!」
「妙な動きを見せれば、即刻切り捨てる」
「心得ておりますとも」

 そして最後に動き出す、黒い装束を纏った預言の男……ウォズ。

(さて……私が最後に仕えるべきは誰なのか、見極めさせてもらおう)

 彼の心は、誰にも読めない。

「牢獄があるのは、この先か!?」

 一方、脱獄したと思われるソウゴを捜索している心の怪盗団と承太郎。
このパレスの構造が迷宮のように入り組んでいるため、
未だに目的の場所までは辿り着けずにいる。

「木梨さん、ソウゴくん! ここは僕が足止めをするから、
2人は早く先に行ってください!」

 すると、ソウゴ達を助けた青年が突如として名乗りを上げた。
どうやら彼が、殿を務めるつもりらしい。
しかし、仲間を見捨てるなど彼らにはできはしない。

「だが……!」
「だいじょーVですよ、木梨さん! あなたに改造手術を受けたこの身体、
今こそ役に立てる時なんです!」

 笑顔でVサインしながら、そう宣言する。

「……済まん!! 行くぞ、ソウゴ!!」
「う、うん、分かった!」

 後ろ髪を引かれながらも、木梨は走り出した。
その背中を追いかけるように、ソウゴもまた駆けていく。

「待てぇーッ!!」

 2人を追おうとするカッシーンを、青年が遮る。

「行かせねえっつってんだよのキーック!!」

 蹴りを叩き込んで、追撃を許さず立ち塞がる。

「ぐぉああッ」

 ソウゴと木梨が、この場から離脱したのを確認した彼は安堵の表情を浮かべる。
だがそれもつかの間の事、すぐに真剣な表情になり敵を睨みつけた。

「超久しぶりの出番なもんだから、こっちもテンション上がっちゃってんだもんねェ!
今度は名有りで出たいもんだなァ!!」

「ああっ……!?」
「ソウゴ!?」

 果てしなく長く続く通路で、ソウゴは承太郎達と鉢合わせした。

「無事だったか……そうと分かれば長居は不要だ、急ぐぜ!」
「スウォルツ……!? なんで……」

 承太郎と心の怪盗団に混じって、なぜか一緒に行動しているスウォルツに
困惑するソウゴ。

「ふふ、どうにも嫌われているようだな。まあいい。
今はここから脱出することに専念しろ」

 だがスウォルツは、ソウゴの様子など気にも留めずそう促す。
その真意は分からない。だが、何かを企んでいるのは間違いないだろう。
とにかく今は、このパレスからの脱出が最優先事項だ。

「逃がしはせんぞ、CROSS HEROES……
このクォーツァー・パレス内の構造はこの俺の意志一つで自在に組み替えられるのだ! 
覚悟するがいい……!」

 クォーツァーの王は玉座の間にてパレス内の全ての構造を組み換え、
CROSS HEROESを追い詰めていた。

「ふははははは、まずはノコノコと内部に侵入してきた奴らを始末してくれるわ!」
「ぬおっ!?」

 突如、パレスの天井の一部が突出。真下にいたウルフマン目掛けて落下してくる。

「どぉすこぉーーーーーいッ!!」

 ウルフマンは咄嵯に天井に向かって両腕を突き出し、腕のパワーを
フル稼働させることでなんとか押し戻すことに成功した。
しかし……今度は何本もの槍のようなものが壁から伸びてくる。

「ほああぁっちゃあーーーーッ!!」

 すかさずラーメンマンが繰り出したフライングレッグラリアートによって
槍を全て弾き飛ばす。
しかし、攻撃はこれで終わった訳ではなかった。

「おわっ……わあああああああーっ……」
「きゃあああああああーっ……」

 床が突然消失。足場を失ったゼンカイメンバーや魔法少女たちが
次々と穴へと落ちていく。それだけではない。
この空間に存在するありとあらゆるものが組み替わり、次々と襲いかかってくる。
そしてそれを弄ぶかのように、玉座の上からその光景を眺めるクォーツァーの王。

「ははははははははは、まるでジオラマ模型のようだな! せいぜい俺を愉しませろ!」

 王はこの状況を楽しんでいるのか、笑いながらこの状況を見物している。

「くそっ、遊んでいやがるのか……」

 悪態をつく士。その表情には、苛立ちの色が浮かぶ。分散を強いられる状況では、
反撃もままならない。
クォーツァーとの最終決戦は、クォーツァー側の圧倒的優勢で始まった。
このパレスの構造や仕掛けを巧みに利用して、こちらの動きを制限する。
このままジワジワと追い詰めるつもりなのだろうか……?

6人目

「ワンマン・ウォーズ」

 少し前 ロンドン上空

「情報は回収したが……、妙な胸騒ぎがする。」
 フラットと別れた流星旅団一行はヘリに乗ってギリシャに移動する。
 皆、戦闘による疲弊からか眠っており、唯一目を覚ましているのは見張りのために起きることを選んだ天宮月夜だけである。
 彼の眼は今まるで幼子を見守る父親のような、優しい目をしていた。
「このまま、ギリシャに向かいます。そのままヘリを乗り継ぎ、日本に帰還する予定です。」
「分かった。暫くは空の旅を戦々恐々としながら満喫するとしよう。」

 空中。
 本来なら悠々自適な生活でもしたいし、ここであったかいコーヒーでも呑みたい気分だが、事は急いでいる。
 一刻も早くメサイア教団の情報を共有しないといけない。
 それに。

「カール大帝、俺はあんたと話がしてぇ。」

 天宮月夜の心境は、少し変わっていた。
 シャルルマーニュの輝きを見た時、自分自身の考察を練った。
 もしカール大帝が何者かに操られているのならば。

 彼は今まで、メサイア教団を血も涙もない悪党集団だと思っていた。
 でも、もしかしたら。

「もしかしたら彼らもまた、救われるのかもな。」

 ささやかな平和。
 もしかしたら彼らと争うことなく解決できるのかもしれない。

「……いや、何を考えているんだ俺は。今はやるべきことを為そう。」

 そう、頭の中で練った妄想を片隅に押し込む。
 今夢想を練る時間はない。
 その証拠に。

「……歌、か。」

 新たなる危機を告げるように遠くから聞こえる、謎の声。
 女性とも鸚鵡ともとれるそれは、明らかに不自然な合成音声。
 気になって外を見てみる。

「何だあれ?飛行機?ってか速っ!?」

 そこにあったのは、自分たちが乗るヘリより数倍はある巨大な機械であった。
 否、それは機械というにはあまりにも獰猛で、無慈悲で、殺意に満ち満ちていた。

『目標捕捉 チェインガン掃射準備』

 後方から高速で迫る、謎の機体。
 巨大な円盤を2つ携え、まるで剣が如きレールガンを装備してそれは接近する。
 よく見ると、子機であろう機体が3~4機ほど空中浮遊している。

 是こそは、かつてスネークが戦ったとされるAI兵器『クリサリス』。
 AI搭載垂直離着陸戦機にしてメサイア教団が抱える兵器、その一つである。

『チェインガン掃射』

 後方の戦機は、機銃の掃射を開始する。

「うぉ!?」

 操縦士は、何とか放たれる機銃攻撃を回避する。
 しかし後方に待つクリサリスは次弾の装填を開始した。

「なんか武器はないか!?あの機体、俺達を攻撃しているぞ!?」
「武器って言われても、これは輸送機だ!ここには最低限の武装くらいしか……!ロケットランチャーは4連装のが2つくらいと、後は白兵戦用の武装くらいしかない!」

 絶望的状況。
 空中戦用の武装も、地対空ミサイルも在庫がない。
 このままではいずれこのヘリは撃ち落とされる。

「……手榴弾はあるか?」
「白兵専用のならわんさかあるが……!」

 ふと、呟いた月夜の質問。
 それに対する操縦士の回答を聞いた彼は、満足げに言う。

「手持ちの矢は……戦える本数分はあるが……撃破には遠いな。……予定変更だ。スネークさんたちにこう伝えてくれ。『バカでかい鳥みたいな戦闘兵器に襲われている、そっちの方まで誘導するから迎撃の準備をしてくれ』って!」

 こくり、と操縦士は頷く。
 月夜は、ボウガンを構えながら眠る仲間たちを見る。

「周囲は疲弊していて、戦闘は出来そうにもない。なら俺一人でも、やるしかねぇ!」

 榴弾付きの矢をボウガンに装填する。
 迫るはクリサリス。空を駆けるAI兵器。
 対するはただの人間___天宮月夜。
 頼れる仲間は、今戦闘できる状況下ではない。
 しかし、ここで逃げるわけにもいかない。

「勝負だ!化け物め!」

 たった一人の戦争が今、始まった。

7人目

「Bの帰還」

AI兵器、クリサリス。
対峙するは月夜。
装甲目標を相手に、彼は震える手つきでボウガンを構える。
対するクリサリスもまた、チェインガンの照準を合わせてくる。

「はぁ、はぁ。ふぅ…掛かって来い!」

荒くなる息を必死に抑え、刹那の瞑想に身を置いた後、啖呵を切って声を迫り上げる。
恐怖が無い訳では無い、むしろ冷や汗がドッと浮き上がる程だ。
それでも己しか戦う術を持たないという責務が重荷となって、彼を戦いの場へと釘付けにしていた。
だが極度の緊張状態を抱えた月夜にも、クリサリスは容赦しない。

『チェインガン、掃射。』

無数の弾丸が容赦なく降り注ぎ、絶え間無く鳴り響く飛来音と共にヘリの脇腹を掠めていく。
幾つかヘリの装甲を叩き、その度に生理的な嫌悪感を植え付ける金切り音を立てる。

「はぁ、はぁ、はぁっ!」

舞い散る火花もまた、月夜の抱える恐怖を外へ外へと駆り立てる一因となっていた。
しかし、迫り来る脅威を前に怖気付く事などあってはならない。
その一心のみで恐怖を抑え込み、彼は狙いを定めて、そして放つ。
放たれた矢は、過たず標的へ。

「食らいやが…おわぁっ!?」

着弾するかに見えたそれは、しかし突如として吹き荒れた突風に顔を庇い、視界からクリサリスが見えなくなる。
そして腕をどけた次の瞬間には、クリサリスは先程の射線上とはまるで見当違いの方向に健在していた。
言うまでも無く、ボウガンの矢は空振っていた。

「何だ、一瞬で動いた、いや避けたっていうのか…?」

まるでホラー映画の如き怪奇現象に直面した頭が、疑問を湧き出す。
だが不意に感じ取った悪寒に、月夜は頭を伏せる。
直後に頭があった位置を、弾丸が風を切りながら通り抜けていった。
攻撃をやり過ごして体勢を立て直さんとすると、クリサリスは一度遠くへと離脱する。
追撃を狙うも既に遅く、雲一つ挟んだ向こう側へと赤い残影を残してクリサリスは消えてしまった。

「ははっ、何だよアレ。化け物かよ、チクショウめ。」

まるで蜂の如く舞い攻撃の隙を晒さない精密さには、恐怖を通り越して感嘆の声すら上がる程だ。
機械だからこそ出来る洗練された的確な動き。
だが月夜はまだ諦めてはいない。
まだだ、自分はまだ一発しか攻撃していない、諦めるには幾ら何でも早すぎるだろう。
そう心に言い聞かせ、今一度奮い立つ。
そんな闘争心に共鳴する様に、クリサリスの影が雲の中より再び姿を現した。

「来やがったな、化け物め。今度こそ食らえってんだ!」

今度は月夜が先に仕掛けた。
放たれたボウガンは、今度こそ着弾する_

「ぐっ…!?」

かに見えた時、吹き荒れる暴風の中で彼の視界はしかと捉えていた。
円盤状の羽をはためかせ雲を斬り、一瞬の内に急加速するクリサリスの姿を。
残像すら何十の束となった線に見えない程の急制動。
これが先程見逃した怪奇現象の正体、文字通り人間離れした超人的な機動力なのだと、月夜は確信する。
こうなるとこちらの攻撃が当たらない事は明白であり、ジリ貧でしかないのは自明である。
このままでは一方的に消耗させられるだけと考えた月夜は勝負に出る。

「だったら、これでどうだ!」

次に彼が手に取ったのは、白兵戦用の小銃だった。
それを素早く構え、射撃姿勢を取る。
一発の矢が当たらぬのならば、音速の弾丸を何十にも叩き込めば良いのだと。
照準はクリサリス本体に絞られ、引き金を引いて銃弾を撃ち込む。
放たれた弾丸は、今度こそクリサリスの装甲を叩いてみせる。
だが。

「…ちっ、やっぱ効果無しかよ!」

クリサリスは怯む事無く、月夜の元へ向かってくる。
まるで効いてない様子で、チェインガンを構え接近。

『チェインガン掃射。』
「いっ…!?」

再び撃ち込まれる弾丸の雨に、今度は頬を掠ってしまった。
額に流れる血の生暖かさと、斬られた様なひり付いた痛みに、息が尚一層荒くなる。
手足の震えはより小刻みになり、制御できぬ程に。
そんな折、だんだんと視界いっぱいに広がっていくクリサリスの姿。
特攻、その言葉が思い立った次の瞬間には、恐怖を焦燥で塗り潰して警告を飛ばしていた。

「操縦士さん、回避!」
「アイ、サー!」

急制動を掛け、クリサリスの軌道上から退避する月夜のヘリ。
一瞬遅れて通り過ぎたクリサリスの生むソニックブームと相まって、機体が大きく揺れる。
必死に機体へとしがみ付く月夜もまた、同じ様に動揺していた。

(どうする、どうする、どうする?)

勝ち筋が全く見えてこない。
何か、せめて突破口を見つけないと、本当に負けは覆らない。
焦燥、それが次第に心を覆い尽くし、無意識に貧乏ゆすりをしてしまう。
そんな自分を見て、月夜は自身の胸中に漸く気付く程、彼には心の余裕が無かった。

(焦るな、勝てる戦いも勝てなくなる。)

そう自分に言い聞かせ、必死に抑え込もうとするも、中々上手くいかない。
震えが止まらない、落ち着けという命令に体が拒絶反応を起こす。
その感情の矛先、怒りを向けるべき相手が、既に目前に迫っているというのに。

「不味…!?」

咄嗟に腰打めで撃った銃はでたらめに装甲を叩くばかりで、まるで傷らしい傷は与えられていない。
その事実が、自分の行いから出た出来事だからこそ、余計に心に負担を掛けてくる。

『キッドナッパー展開。』

対するクリサリスは、直接攻撃では効果が薄いと思ったのか周囲の子機をヘリの周りに飛ばしてくる。
子機は機銃を携え、更にはワイヤーガンを撃ち込んでくる。
荒い狙いのソレは、ヘリのあちこちへと突き刺さり、動きを制してくる。
そうして動きの鈍くなった所に、子機の機銃が火を噴いた。

「クソ、これも相手しないとならないのか!」

迫り来る銃弾の嵐を前に月夜は思わず歯噛みしながらも、対処せざるを得ない。
小銃の引き金を引き、弾丸の撃ち込まれた子機が火を噴く。
何度も繰り返す、何度でも。
だからこそ。

『レールガン、チャージ。』
「なっ…!?」

本体への警戒が疎かになるのは必然であり、そこを突かれる形となる。
月夜も気付いてしまった、自分は致命的な隙を晒している事に。
既に紫電を迸らせたレールガンが、月夜の命を刈り取ろうと煌めいていると。
対処するには既に遅く。
死、その言葉を覚悟した。

_ドォーーーォオン!
『キャアァ!?』

だが、轟音と共に何かがクリサリスの片羽を貫き、そのまま吹き飛ばした。
突如として地上から飛来したランチャーと思わしき何かに、思わず視線を下へと向ける。
そこには、黒いフードを着こんでロケットを携えた何者か。
同時に、ヘリの無線から通信が入る。

『ハートブレイク1、此方イシュメール。指定座標デルタを送った、奴を誘導しろ。』

それは、絶望の中での光明。
イシュメールと名乗る人物の指示に従って、月夜はデルタ地点へと機首を向ける。
そこは多少開けた郊外、決戦の場としてはお誂え向きの広場だった。
追従する様にクリサリスが降り立つ。
遅れて現れたフードの男が、廃ビルの上から無線を飛ばした。

『待たせたな。』

8人目

「パレスを巡る攻防」

 クォーツァーの王、常磐SOUGOによってクォーツァーパレス内の構造は
意のままに操られ、内部に突入したCROSS HEROESは大混乱。

「二天一流、宮本武蔵、推参!」
「かかれぇーッ!!」

 パレスの城門前では、武蔵とカッシーン軍団の激戦が繰り広げられていた。

「せええええーッ!!」

 二刀流を繰り出す武蔵の剣戟の前にはカッシーン軍団も手も足も出ず、
次々と撃破されてゆく。

「ぐぉあああーッ!!」
「おりゃあああッ!!」

 ルフィが右腕を伸ばして、城壁に手をかけた。

「掴まれ!」
「応さ!」

 武蔵の腕を掴み引っ張り上げるとゴムの反動を応用して、そのまま城壁に飛び乗る。

「ヒュウ、便利な身体ね、あなた」
「おれはゴム人間だからな。伸び縮み出来るんだ。そう言うお前の剣の腕も
すんげえじゃねえか。ゾロと一緒に戦ってただけの事はある」

「賊が城内に侵入! 各員、迎撃せよ!」

 傭兵たちが次々と発砲してくるが、凹凸のある城壁の回廊を盾にしてやり過ごす。

「おっと、危な」
「あいつらにばかり気を取られてていいのか?」
「なっ……!」

「二刀流――鷹! 波ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」

 二振りの剣から繰り出される衝撃波が、ルフィと武蔵に照準を合わせていた敵を
一掃する。

「ぬおああああああああああああああッ……」

 ゾロによる奇襲で敵の注意が逸れた隙に、
ルフィと武蔵は城の内部に潜入することが出来た。

「よし、正面からも抜けるぞ!」
「はい!」」

 ゾロとトランクスが城門を抜け、ルフィと武蔵は城壁の先に広がる中庭へと躍り出る。

「中に向かったみんなは大丈夫かな?」
「ああ、きっと大丈夫だ」

「ふんッ!! はあぁッ!!」

 勇者アレク、ローラ姫の二人は、迫り来るカッシーンたちを斬り伏せながら、
先へ進んでいた。

「我々も遅れをとるわけにはいかないな、ローラ」
「そうですね」

「でぇぇえやッ!!」
「ベギラマ!!」

 二人の連携は完璧だった。互いに背中を任せて戦っている内に自然と息が合っていく。
アレクの剣の腕が冴え渡り、ローラの呪文にもさらに磨きがかかっている。

「ローラ、本当に強くなられた。私の助けなどもう必要ないくらいだ」
「いいえ、まだまだです。アレク様のお役に立てるようもっと強くなります」

 しかし……

「きゃあああああーッ!!」
「!?」

 突如、アレクとローラの前に、パレス内に突入したはずの魔法少女たちが降ってきた。

「何っ……!?」
「まあ、いろはさん達……これは一体どういうことですか?!」

 地面に倒れ込むいろは達の許に駆け寄る二人。

「あいたた……」
「ここは……城の外?」

「グキャエエエエーッ!!」
「!?」

 いろはやアレクの周りを包囲するようにして出現するシャドウたち。
すぐに飛び起きて体勢を立て直す。

「何があった?」
「実は……」

 困惑するアレクに、やちよが事情を説明する。

「……つまり、城の中は仕掛け罠だらけで、とてもまともに進むことが
出来ないという訳か」
「はい……」
「気がついたらここに放り出されちゃってました……」
「どうすればいいんでしょう?」
「ふむ……闇雲に突っ込んでも意味がないようだ。まずはこの魔物どもを片付けてからだ」

「それしかないようね……いろは、黒江さん、二葉さん、準備はいい?」
「はい!」
「任せて下さい!」

 異世界の勇者と魔法少女たちの共闘……混沌を極めるクォーツァー・パレスの攻防。

9人目

「対クリサリス改戦」

開けた広場に降り立ったクリサリスと、月夜を乗せたヘリ。
そして両者を廃ビルの上で見下ろす、イシュメールなる謎の人物。
DDが言うには、彼こそがこのクリサリスに対する援軍らしい。

(たった一人で?)

当然生まれる困惑に苛まれるが、しかし先程助けられたのも事実。
胸の内に湧いた疑念を余所に、月夜はイシュメールを戦力として認めた。
イシュメールは、全身を包むスーツに身を包み、フードを目深に被っている為、表情は伺えない。
だがその身から溢れる存在感は、明らかに只者ではない。
それこそ、あのスネークすらも凌駕する何か、歴戦の猛者と言うべき雰囲気を感じさせる。
正直に言えば、味方と分かっていても気圧されている気分だった。

「イシュメールさん、貴方は一体…?」

単刀直入に尋ねる月夜に、彼は端的に答える。

『俺は味方だ、それ以上でも無ければそれ以下でも無い。』

口早に紡がれた言葉に、しかし有無を言わせぬ威厳を無線越しに感じ取った月夜は、黙って口を噤んだ。
彼の台詞が一種の言霊の如く、疑念を抱かせる事を許さない。
イシュメールが、次いで言葉を発する。

『今は目の前の敵を叩け、話しはそれからだ。』

そこで漸く、月夜の視線は眼前の機械へと移った。
そうだ、自分は未だ奴を倒せていないでは無いか。
先程彼に撃ちぬかれたローターの片割れも、円盤状の装甲により未だ健在。
己の戦いは続いているのだと、意識を切り替える。

「そう、だな…!」

改めてボウガンを構え直し、クリサリスと対峙する。
恐怖はまだある、無い筈は無いのだ。

『俺の指示通りに動け、必勝法を教えてやる。』

だが、今はそれ以上に彼の言葉一つ一つが、恐怖を塗り潰して余りある勇気をくれる。
電子ノイズ超しにも伝わる覇気の籠った指示を、今は信じる事にした。

『良いか、お前のヘリに積まれているロケランがあるだろう。それを地上に落とせ、俺が使う。』

月夜は静かに耳を傾けながら、手早くヘリの武器庫を漁る。
そうして出てきた4連装ロケットランチャーを、躊躇いなく地上へと落とした。
後は彼が拾えば、この戦局を打破してくれるだろうという確信はあった。

『La~…』

だが、クリサリスがみすみすソレを許す筈も無い。
頭部装甲の一部がスライド、中からミサイルが覗く。
間髪入れず、火を噴いて射出された。

「おい、悠長に武器交換している時間は無いぞ!?」
『分かっている、その為の手も打った。』

ミサイルが迫り来る中、イシュメールはまるで予期していた口ぶりで語りかける。
直後、幾重にも重なった飛翔音が鳴り響く。
釣られて空を見上げれば、音速を超えて迫り来る幾多の黒い影。
間違いない、砲弾だ。

「なっ、砲撃!?」

飛来したソレ等は、自分達の居る地面へと真っ直ぐ着弾するかに思えた。
だが、予想していた未来図とは異なる異変が起きる。

「うわっ…これは、雲?」

着弾寸前の砲弾は、地上から僅か数十mの上空で弾ける芸当を見せつける。
更には、そこから視界を覆いつくさんばかりに溢れ出る白煙が噴出したではないか。
おまけに、よく目を凝らせばチラチラと瞬く金属片の様な物も混じっている。

『目標、ロスト。』
「煙幕、目晦ましか!助かる!」

恐らくチャフ混じりと思われる膨大な白煙に紛れ、月夜の乗るヘリは姿を隠す。
ミサイルはあらぬ方向へと散り散りに飛び散り、結果的に脅威から難を逃れた。
いや、或いは最初からイシュメールの掌の上だったのだろう。
そう思わせる程の卓越した戦術を、一連の攻防から感じ取っていた。

「オマケに向こうはあの赤い光で丸分かりか、まるで専門家だ…!」

一方でクリサリスは、機体各部から発する光で位置を晒すばかりで、まともな身動きさえ取れていない。
此方を見失い、まるで赤子の如くまごついているのみだ。
間違いない、イシュメールはクリサリスの事を知り尽くしている。
でなければ取れない最適解だ、悪寒さえ覚える。
月夜には、たった一人である筈のイシュメールなる男が、洗練された一個師団にすら思えた。
そんな折、不意に無線からノイズ交じりの声が届く。

『武器は回収した、これより援護を開始する。』

その内容が齎す意味に、月夜は一瞬遅れて理解し、ヘリの下を見下ろす。
チャフが撒かれた現状で無線通信が出来る距離にいるという事、そして武器の回収も終えたという事。
先程まで少し遠い廃ビルの屋上にいた彼がだ。
煙幕が焚かれてから今までの時間では、屋上から飛び降りてギリギリ間に合うかという距離があった筈だ。
だというのに既に懐にいるというのだから、やはり恐怖を覚えざるを得ない。
卓越した戦術、最適な戦略を導き出す頭脳、そして常人離れした身体能力。
何より今の状況を瞬時に読み切った、圧倒的なまでの洞察力。
月夜の中で、ますます男が謎めいた恐怖の象徴へと変わりつつある。
しかし同時に思う。

(味方であるならば、これ以上頼もしい存在は居ない。)

故に今は彼を信じ、共に戦うのみだ。
ボウガンを再び構え、眼前で手玉に取られた機械人形へと戦意を向ける。
勝てる、そう確信して彼は動き出した。

「…あの人の技術を学べれば、俺も強くなれるのだろうか。」

願わくば、彼の兵士としての資質をも学びたいと胸が沸き立っている。
彼の力を物に出来れば、メサイア教団など目では無いと確信出来る程の物なのだから。

10人目

「かくて蛹は蝶になるか」

 ヘリ内部にて

『チェインガン 掃射』

 放たれるチェインガンの弾幕。
 回避行動を取るヘリの動き。

「いや、今はそんなこと考えている暇はない!」

 荒れ狂う現実に振り戻される。
 それでも彼は冷静に、榴弾が括り付けられた矢を放つ。

「効いているようだ、これなら……!」

 対兵器、重装備兵用を想定して作られた、榴弾の矢。
 その矢は的確に、クリサリスの周囲を飛ぶ子機「キッドナッパー」に命中し破砕していく。

「まずはヘリの速度を取り戻す!」

 爆風に呑まれ、同じように爆発していくキッドナッパー。
 次第に元の速度を取り戻していくヘリ。

「残り4機……!」

 白い小さな榴弾が括り付けられた一矢、その一つ一つが子機を砕く。
 やがて榴弾矢はヘリにくっついていたキッドナッパーの最後の1機を破壊した。しかし。

「しまった、榴弾矢が切れた!」

 最悪の事態。
 自然と顔が焦りをにじませた迫真の表情になる。

『キッドナッパー 射出』
「まだあんのか!?どうすれば……!」

 絶望を与えるように告げられる、無慈悲な宣告。
 それを見かねた兵士が、尚も戦おうと足掻く月夜に言う。

「月夜さん、俺が言うのもなんだがあんたはただの少年だ。戦う気はあるようだがあんたは兵士じゃないんだよ。ここは俺達に任せて休んだらどうだ、あの兵器の攻撃からは何とかかいくぐって見せる。だから……。」
「……。」

 沈黙し、思考する。
 冷静に考えれば、操縦士の言うことはもっともだ。
 彼は何か兵士の訓練を受けた訳じゃない。
 彩香のように神霊を憑依させた存在でもない。
 月美やペルフェクタリアのような異能を持った存在でもない。
 本当に、どこにでもいるただの少年だ。

 ただ、運命に翻弄されただけの、か弱い人間だ。

「わかっている。悪意なく親切心で言ってくれていることも。でも……それだけは厭だ。」

 だけれども。
 それだけの理由で戦わない理由にはならない。

「それは、名誉の為か?」
「そんなわけない。」

 今眠っている皆は、ここまで戦ってきた。
 彼らが戦っている姿を見ていると、流星旅団を結成した時の事を思い出す。

 流星旅団を結成した時の人数は、本当に少なかった。
 わずか8人からなる、小規模な組織だった。
 メサイア教団によって迫害された者たちによる、彼らを倒すために作った革命組織。
『たとえ流星旅団の仲間が、自分だけになったとしても最後まで足掻く。』
 皆、みんな自分たちを虐げてきたメサイア教団と戦うという意志の下集った仲間だ。
 それは、人数が増えたとしても決して変わらない。

 それなのに。
 リーダーである自分だけが戦わないなんてあまりにも失礼だ。
 それじゃあここまで戦って、散っていった皆に申し訳が立たない。
 もしここで死んだとき、どんな顔をしてみんなの前に姿を見せればいいのかが分からなくなる。
 だからこそ___!

「流星旅団のリーダーとして、俺だけがふんぞり返って高みの見物決め込んでいいわけがないだろ。それじゃあここまで繋いでくれた皆に失礼だ。」

 それは、流星旅団を率いる者としての矜持だった。
 首魁だからとて、戦わない理由にはならない。

 最後の最後まで諦めずに、前線で抗う。
 自分で決めた事には、責任をもって行動する。
 他人に任せず、仲間として自分も共に動く。

 それこそが天宮月夜の矜持。
 その矜持と意志、責任とそこから来る躍動が彼を突き動かしている。

「今このヘリの中で戦える人間は俺だけだ。今あの兵器はこのヘリを狙っているし、撃ち落とされた日には俺達仲良くあの世行きだ。あの機体を破壊は出来ずともこのヘリから引きはがすことくらいはできるさ。」
「で、出来るのか!?だがもうここにはアレを撃ち落とす武装はない!どうやって倒す!?」

 確かに、ヘリにはもうロケットランチャーのような対巨大兵器用の武装はない。
 かといってマシンガンのようなものも存在しない。
 今できる精一杯を、あいつにぶつけなければ待っている運命は「死」だ。

 だが、それでも彼には考えがあった。

「……確か手榴弾があったよな?」
「白兵戦用の焼夷手榴弾か?でもそれでどうやって?」
「なんかテープみたいのはあるか?」
「それもあるにはあるが……何をするつもりだ!?」

 月夜は近くにあったテープで、手榴弾と自身の持つ矢を繋げる。
 そのうち手榴弾のピンを引き抜き、即座に放つ。

「な……ボウガンの矢に手榴弾を!?」
「即席だがないよりましだ!やらなきゃこっちがやられる!!」

 月夜のボウガンから、手榴弾が括り付けられた矢が放たれる。
 ぐんぐんと進軍するそれは、クリサリスのAIポットの眼前で爆裂する。

『~~~!!』
「効いてはいるが……!」
「いや効いていりゃ充分だ!距離を取りながらアレを撃ち落とす!最低でも撤退には追い込ませる!」

 即席の榴弾矢は深く命中はせずとも、爆風はクリサリスのAIポッドには命中した。
 少なくとも攻撃は効いている。

「回避は任せてもいいか?」
「……分かった、死ぬなよ!」

 速度を取り戻したヘリが、再び機動良く動き出す。
 月夜はボウガンを構え、一息に発破をかける。

「人間なめんなメサイア教団ッ!!かかって来い!」

11人目

「蠢く影と脈打つ宿命断ち切り」

「えぇいッ!!」

 いろはのボウガンが「凶事まねく憑代」シキオウジに放たれる。しかし……

「ハハハハハハハハハハ……」
「や、矢が弾かれた!?」

 シキオウジは陰陽道に通じる式神であり、物理攻撃に対する耐性を備えていたのだ。

「せぇぇぇぇぇぇいッ!!」

 すかさずやちよが三叉槍で追撃を加えるも……
やはりシキオウジにダメージを与えることは叶わなかった。

「ボウガンも槍も、全く歯が立ちません!」
「キェェェェッ!!」

 指弾を飛ばしてくるシキオウジ。さなのシールドで何とか凌ぎ切るが、
反撃の糸口すら見つけられないまま時間だけが過ぎていく。

「ひゃああっ……」

 身を屈めて敵の攻撃に耐えるさな。

「物理攻撃が効かない……ならば俺の剣も恐らく……」

 アレクが悔しげに唇を噛み締めたその時……

「ギラ!!」

 ローラ姫が放った閃熱魔法が、シキオウジの足元を焼いた。
地面を這いずっていた火は瞬く間に燃え広がり、シキオウジを怯ませる。

「そうか……! 物理で駄目なら、魔法か……ローラ!」
「はい! アレク様! メラミ!!」
「鎌鼬ッ!!」

 ローラが放つ灼熱の火球と、アレクが剣を振るうことで生み出す真空の刃。
強力な炎の熱波を纏った鎌鼬がシキオウジを包み込み、
その身体を炎上させながら斬り刻む。
やがてシキオウジは形を維持出来ずに、塵となって消滅した。

「ぐぎゃやああああああああッ……」
「やったぁ!!」

 歓喜の声を上げるいろは達だったが、シャドウは際限なく現れる。

「このようなモンスターもいるのか……だが、倒せない相手じゃない。みんな、行くぞ!」
「おおーッ!!」

シャドウ……魔女とも、竜王のモンスターとも違う存在。
その正体は一体何なのか、それはまだ分からないが、一つだけハッキリしている事がある。

「奴らを放置しておけば、この世界の人々に多大な危害が加わる。
ならば俺は、勇者として人々を守るために戦おう。それが、今、俺がここに立つ理由だ!」

 威風堂々、凛々しく立つ勇者の姿に、魔法少女たちも奮い立った。

「私達も負けていられない……!」

「見えてきたぜ、大将……!! あれだろ!?」

 一方、杜王町からCROSS HEROESとの合流を目指して進む藤丸立香ら
カルデアチーム一行は、ついに彼らの拠点であるクォーツァー・パレスが
視認できるところまで辿り着いていた。

「あの大きな城……あれがクォーツァーの拠点なんだね……! よし、急ごう!」
「OKだ! マシュの嬢ちゃん、しっかり掴まってな……!! いくぜぇぇッ!!」
「わぁぁぁぁぁぁ……ッ!!!」

 金時のモンスターマシン、ゴールデンベアー号の車体が垂直に跳ね上がり、
後部のエンジンから激しい火を噴いた。
凄まじいスピードで大地を駆け抜けてゆくバイク。

「アルケイデス、私達も……」
「心得た、口を閉じていろ、マスター。舌を噛むぞ」
「うわぁぁッ!!」

 立香を担いだアルケイデスも、ゴールデンベアー号が刻んだ轍を踏みしめるようにして、猛スピードで走り出した。

「ん!? この反応……ちゃんマスだぁ!」

 なぎこが立香の気配を察知し、思わず声を上げた。

「ベア・ハウリングッ!! 
黄金疾走(ゴォォォォォォォォルデン・ドラァァァァァァァァァァァァァァァイブ)ッ!!」

 クォーツァーパレスの周囲を取り囲む木々を強引に突っ切ってゆくゴールデンベアー号。

「!?」
「何者……!?」

 突然の出来事にパレス内で待機していた傭兵たちは慌てふためいている。

「よっしゃあ! 見えたぁ!」
「よし、突入するよ、マシュ!」
「了解です!」

「え……あれって……?」

 城壁の中庭で戦っていた武蔵は見た。かつて、共に戦った仲間の姿を。

「――立香ちゃん!!」
「あ……っ……武蔵、ちゃん!?」

「やっほーっ!! 久しぶりぃ~っ!!」

 戦場のど真ん中で、二人は感動の再会を果たした。

「武蔵ちゃん、生きて、生きてたんだね!?」
「……あー、まあ、生きてた、って言うか、死んじゃった、と言うか……」

「!? この反応……もしかして、武蔵ちゃん……」
「そ。今の私は、サーヴァントとして召喚された状態……
あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、そこは前と変わらないか。アハハッ」

 かつて、立香が迷い込んだ亜種特異点・下総国での戦い。
「英霊剣豪七番勝負」を立香と共に勝ち抜いた武蔵は、厭離穢土城の最終決戦にて
炎上する焔の中へと消えた……あらゆる並行世界を彷徨い歩く運命を与えられた武蔵は
力尽き、命果てた後に英霊として座に刻まれたのだ。
されど、彼女の旅に終わりはない。
そして今、武蔵と立香。二人の道が再び重なる時がやって来た……

12人目

「戦うのならば、戦士となれ」

雄々しく啖呵を切り、ボウガンの引き金を引く月夜。
瞬間、溜め込まれた弾力エネルギーが焼夷手榴弾付きの矢を打ち出される。
湧き上がり解き放たれた彼の心境を体現するかの如く、クリサリスへと真っ直ぐ伸びる矢。
そして着弾、炎上を巻き起こす。

『_!』

大部分を炎に包まれ、またも怯んだ様子を見せるクリサリス。
同時に、幾つものキッドナッパーが煙を上げて落ちていく。
動きの鈍った様子もある事から効果ありと見込んだ月夜は、再度矢を装填する。
絶望的な戦局の中で、確かに見えた光明だった。

「良いぞ、効いている!このまま_」
『_脅威度、更新。』

そう、見掛けだけは。
AIポッドから鳴る合成音声になぞ耳をくれず、三度矢を放つ月夜。
クリサリスの巨体相手に外す事なぞ有り得ず、またも命中し炎上させてみせた。
だが。

『La~♪』
「なっ…」

燃え盛る火炎を掻っ切って、無傷のクリサリスが姿を現す。
鼻歌混じりで滑空する動きには、欠片も乱れは無い。
その光景を見た月夜の表情が固まり、凍り付く。
光は、泡沫の夢に過ぎなかった。

『LaLaLa~♪』
「クソッ、もっとだ!」

焦燥に駆られ、手早く次弾を装填、随時発射する。
手馴れた動作から繰り出される連撃。
しかし、クリサリスは最早避けようともしなかった。

「…効いて、無い?」

当然着弾し爆発するも、クリサリスは怯みもしなければ動きも止めない。
それどころか、その装甲は炎に呑まれながらまるで無傷だ。

『奴の装甲は核戦争を想定している、焼夷手榴弾程度ではどうもならん!』
「嘘だろ…!?」

イシュメールの言葉は事実だ。
ピースウォーカー計画の兵器は、どれも核を想定した装甲をしている。
流石に核の直撃に持つ答えられるかは怪しいが、近距離までなら耐えられる設計だ。
そんな代物に、焼夷手榴弾なぞ効く筈も無い。
高々人間数人を原型を留めて焼く程度しかない、それも威力のを分散させた物なんかは特にだ。
先程の榴弾矢を直撃させてたならば、或いは傷の一つも負わせられたのだろうが、既に後の祭りだ。

『La~…チェインガン掃射。』

寧ろ探す手間が省けたと、クリサリスは反撃に打って出た。
先程までの挙動の雲泥の差から来る想定外の事態に、月夜の思考が一瞬止まる。
それが最悪のタイミングだった。
攻撃の為にドアを開けて横腹を晒したヘリは、弾丸を月夜まで素通しするからだ。

「がっ…!?」

何度も何度も撃ちだされた銃弾が、遂に月夜の身体を捉える。
脇腹に走る鋭い痛みに思わず嗚咽が漏れ、ボウガンを取りこぼして膝を付く。
咄嗟に傷口を抑えこんだ手のひらを見れば、鮮血で赤く濡れていた。
戦いで初めて負った、明確な負傷だった。

「月夜さん!」
「こん、くらい…!」

思わず飛ぶ操縦士の声に、月夜は歯を食いしばって答える。
威勢良く戦う決意をした手前、これ以上醜態を晒せられないと言う意地があった。
だが、現実はどうだろうか?
たった一発食らっただけで、このザマである。
自分は只の人間なのだと、改めて突き付けられ。
遅れて、届いた数発の弾丸が月夜の身体を抉った。

「がぁあ!?はっはぁっ…!」

今度は血飛沫が舞い、悲鳴が巻き起こる。
全身を覆う激しい痛覚が、電気信号を脳に焼き付けた。
横隔膜も一部斬られたのか、息も絶え絶えだ。
まともに声が出せるのならば、何て無様なのだと自嘲気味な笑い声さえ出てしまっていただろう。
しかし今は、戦いの最中だ。
無人兵器は一切の情け容赦もしないと、続けて銃弾を撃ち込んでくる。
機体の内外から、激しい金属の殴打音が鳴り響く。

「クソッ、離脱!」

操縦士が咄嗟にヘリを傾ける。
一瞬遅れて斜めに急降下したヘリは、そこで漸く銃弾の射線上から逃れられた。

「おい、生きてるか!?」
「はぁっ、あぁ、まだ、やれ_」
「馬鹿言うな!命がまだあるだけマシだと思え!」

尚も威勢を張ろうとする月夜に、操縦士は態度を一変させて叱咤を飛ばす。
操縦席から身を乗り出して、その頭を鷲掴みにして無理やり座らせる。
反論を許さない強い力で、半ば強制的に。
今更月夜が何を言おうとも、無意味な足掻きにしかならない。
結果が全てだ、無謀な戦いだったのだ。
それは月夜自身が一番分かっていたが、想いだけは譲れない。

「そ、れでも、俺は、戦った奴等の為に_」
『いいや違うな、お前のソレは意地や拘りでしかない。』

そう吐露する月夜の無線に、イシュメールの声が届く。
酷く落ち着いた、冷徹な響きを持つ声で。

『お前は仲間の繋いだ物の為に戦うと言ったな?』
「ぁ、あ。だか、ら…」
『だからこそだ。そこでお前が死ねば、何も残らない。弔いの戦いなんて大それたものじゃない。それこそ散った仲間への最大の無礼であり侮辱だと、何故気付かない?』
「ぁ_」

その言葉に、月夜は返すべき言葉を持ち合わせていなかった。
そうだ、ここで死んでしまえば、それこそ死んだ彼等の想いが無駄になる。
それだけじゃない、自分達が死ぬ為に戦ってくれた仲間達にも顔向けが出来ない。
何一つ応える事が出来なかった自分が、どんな顔をして仲間を語れと言うのか。
その事実に気付いた瞬間、痛みとは違う何かが胸を打つ。
気付けば、涙が零れていた。
視界がぼやける、赤い残影が遠くに見える。
次いで、イシュメールが声を強めて突き付ける。

『いいか、目的を違えるな。お前の目的は意志(ミーム)を継ぐ事、それが仲間を持ったお前に課せられた宿命だ。」

諭す様に、それでいて厳しい口調。
まるで年長の親戚に説教されている気分だ。
それでも、今の月夜には必要な物だった。
自分の我を通して死ぬ事は、何よりも許されないのだと。
涙を拭い、外を見る。
気付けば、クリサリスはあの馬鹿げた高速移動で眼前まで迫っていた。

「なっ…」

飛べば届く様な距離で、レールガンに紫電が迸る。
輸送ヘリの機動力では、最早回避は間に合わない。
迫る脅威を見て、周りの仲間を見て、月夜は縋る様に問う。

「どう、すれば良い…?」

小さく震えた声。
彼を照らす、レールガンの輝き。
迫り来る死を前に、死を覚悟して。

_ドォーーーォン!!!
『Aaa!!?』

直後、二発のロケット弾がクリサリスのレールガンとレドームを貫いた。
真っ赤に咲いた火炎の花。
一瞬遅れて吹き荒れる黒煙の風が、クリサリスとヘリを揺らした。
荒れ狂うヘリの中、イシュメールの声が響く。

『生きる為に戦え。その術(センス)を、お前に教える。お前を、戦士にしてやる。』

その言葉に答える様に、月夜の足元に四連装ロケットランチャーが転がり込む。
2つあった内の、彼に渡さなかった方だ。
どうして忘れていたのだろうと思いながら、痛みを無視して体を捩り、咄嗟に手繰り寄せる。
これが、彼の言う術なのだと気付いたからだ。

「あった…!術が!」
『上出来だ。良いか、奴の高速移動は一回使わせれば暫くは出来ん、そこで息を合わせろ。』

反撃の狼煙が、今上がった。

13人目

「スウォルツ、最後の賭け」

 ついにCROSS HEROESと合流したカルデア一行。
しかし、クォーツァー・パレス内では依然として常磐SOUGOの手により
城内の構造がランダムに組み換えられる事態が継続中であった。

「……まったく外にも出られないなんて! このままじゃどうしようもないよ!」
「そうね、この空間にはもう……出口が無いのかもしれない」

 パンサーやクイーンが不安を口にする一方、冷静な判断力をもって
打開策を模索する承太郎。

(考えろ……この状況を突破する手段を!)
「ふふふ……どうやらこれまでのようだな」

 すると、スウォルツが不敵な笑みを浮かべて呟く。

「どう言う事だ、スウォルツ?」

 承太郎が疑問を投げ掛けると、スウォルツは時空の歪みを生み出し、
ゲートを出現させる。

「これで俺は自由自在、好きな場所に行けると言うわけだ」
「なんだと……!」
「お前たちとも、ここでお別れだ……!」

 それだけ言い残し、スウォルツはゲートを潜り抜けようとする。

「貴様、やはり俺たちを謀っていたのか!?」
「!?」

 フォックスが怒気を込めた声をスウォルツを浴びせたその瞬間、
ソウゴの脳裏にとあるヴィジョンが浮かぶ。それは───

「未来視、か。ふん、厄介な能力だな」
「スウォルツ……アンタ、まさか……」
「そこまでだ。貴様の意見は求めん……」

 ゲートは消失し、スウォルツの姿も掻き消えた。

「あんの野郎……! ぶっ飛ばすぞォウ!!」

 怒り心頭の木梨猛。だが、ソウゴは確かに見た。
一瞬ではあるが、遠い未来オーマジオウとなる可能性を持つ者に宿りし
「未来視の能力」で見えた、そのヴィジョンを。
そして、それはまさに現在進行形で起こる現象そのものだと確信する。

「いや、スウォルツは……」

「ふふふ……ははははは、いいぞ、CROSS HEROESの奴らめ、
城のあちこちで右往左往しているわ」

 玉座にて、常磐SOUGOは不敵に笑う。
城の構造を自在に変化させ、脱出しようとするソウゴ達、
その救援のために城内に突入したCROSS HEROESの面々を翻弄していた。

「……なるほど、その玉座で空間の操作を行っているわけか」
「むう……?」

 玉座へと続く赤い絨毯の上を悠然と歩く男の姿を認め、
SOUGOはその眉間にシワを寄せた。

「スウォルツ……貴様、今更のこのこと現れて何のつもりだ?」

 そう、スウォルツは城からひとり脱出したのではない。
クォーツァーの首魁であるSOUGOの元へと向かったのだ。
自分を散々利用した挙げ句、見限ったSOUGOを糾弾するために。

「賊である。出会え、出会えぃ!」

 城内の衛兵たちがスウォルツを取り囲む。
しかし、スウォルツは怯まない。懐に手を差し入れながら、"何か"を取り出し、
衛兵たちに見せつけながら呟いた。

「変身」【DECADE】

 アナザーディケイドライドウォッチ……起動。
その瞬間、眩い光が辺り一面に降り注ぎ───アナザーディケイドが現れた。

「むううううううううんッ!!」

 足先に破壊エネルギーを込め、振り抜いた蹴りにより包囲していた衛兵たちを
薙ぎ倒すアナザーディケイド。

「ぐわああああああああああああああッ……」
「ふん、所詮は雑魚だな」

「あくまでも俺の前に立ち塞がるか……よかろう! お前も我が力の前にひれ伏すが良い! 変身!!」

【BARLCKX】

 仮面ライダーバールクスに変身するSOUGO。

「お前の能力は随分と役に立ったぞ、スウォルツ。
おかげでアナザーワールドから戦力を増強できたからな!」
「この俺を良いように使い潰した貴様だけは許さん!」

 両者、共に駆け出し拳を打ち付ける。

「ぬぅおおおッ!!!!」
「はぁああああっ!!!!」

 ぶつかり合う力と力が火花を散らし───互いに間合いを取る。

「この勝負、結果は目に見えている。そのアナザーディケイドの力も
醜き平成ライダーの力。つまり俺には通用しないと言う事だ」

 ディケイドやジオウ……平成ライダー全ての力を操る事の出来る彼らでさえ
バールクスには敵わなかった。
即ち、ディケイドの半身から生まれたアナザーディケイドも、また……

「随分と自信過剰なようだな……だが……ただでは死なん!」

 これまでの戦いの始まり。ソウゴをオーマジオウへと仕立てる計画、
暁美ほむらとの遭遇、CROSS HEROESとの熾烈な戦い……
その全てがクォーツァーに利用されていた事に端を発するならば。
せめてもの報いとして、スウォルツは自分を利用し尽くしてくれた彼らに相応しい最期を
与えてやるだけだ。

「俺こそが太陽。生かすも殺すも、全ての生命の生殺与奪の権は
この俺が握っているのだ!」
「ならば俺が貴様を破壊してやる! 世界の破壊者……ディケイドの力でな!!」

14人目

「決着、クリサリス」

 自分が持つ榴弾の矢は効かない。
 しかし、希望はある。

「弾数は残り4発……落ち着け……。」

 月夜の手元に残された、4発の希望。
 すべて使って相手が生き残ってしまえば、此方が死ぬ。

「生きるために……勝つ!」
『チェインガン 掃射』

 無機質に、また放たれる機銃攻撃。
 今度はやられっぱなしという訳にはいかない。

「避ける気がないなら、喰らえ!」

 撃ち終わった隙の硬直をつき、月夜がロケットランチャーを放つ。

『Aa!!』

 命中。
 黒い煙を上げ、何とも言えない気快音を上げながらクリサリスが揺れる。
 さらに地上のイシュメールからの攻撃が、クリサリスに命中する。

「効いている!これなら……!」
『油断するな!』

 発破をかけるイシュメール。
 それに呼応するように、月夜は意識をクリサリスにそそぐ。
 奴の行動を観察するために、一瞬の隙をつくために。

『レールガン チャージ』
「その攻撃をさせると思うか!」

 放たれる2発目。
 炸裂する電撃の一矢。
 レールガンの攻撃は回避され、返す刀のロケットランチャーは命中する。

『そうだ。レールガン攻撃の時あいつは動かなくなる。その隙を狙え。』
「分かった。」

 イシュメールの忠告を受け、月夜は隙を伺う。

「此方は残り2発。だが奴も煙を上げてやがる……決着は近いか?」

 互いの状況を分析する。
 クリサリスの機体のところどころから、煙が上がり始めている。
 このままいけば破壊ないしは撤退まで追い込めるかもしれない。

 だが、月夜に残されたロケットランチャーの弾数は残り2発。
 2発使って倒しきれるかもしれないし、もしかしたら倒しきれないかもしれない。
 倒しきれなかったらそれこそ最悪だ。

「……見極めろ。奴はAI兵器だ。自分で考えることができる。もし俺が奴ならどうする?」

 故に彼は、相手の気持ちになって考える。
 戦闘でも人間関係でも重要な考え方をする。

「くそッ!AIの気持ちなんてわかるわけが……!」

 頭を抱える。
 AIはどこまで進化しても、結局常に合理的な行動を取る機械のはずだ。
 そんの奴に気持ちなんてあるわけがないと絶望する。

「……待て。」

 その時、先ほど言われたことを思い出す。

『生きるために戦え。』

 失念しかけていた、最低限の目的。
 それは人間でも生物でも、AIでも変わらないはず。

「生きるために、か。奴が本当に満身創痍ならば……!」

 生存しなければ、矜持も目的もクソもない。
 きっと今のクリサリスは防御に徹するはず。ならば。

「やるだけやってみるか……!?」
『La~……』

 冷静に、かつ緊迫した顔で隙を伺う月夜とは対照的に、眼前の機体は呑気に歌を謳ってはいる。
 だがその合成音声はくぐもっている。やはりその機体にガタが出始めたのだろう。
 しかしその高機動は依然健在だ。

「……来たな、そこだ!」

 月夜は冷静に、何かを放った。
 それが接近したのを察知したクリサリスは、およそ人間が乗っている機体ではできそうにもない高速移動を取る。

「……やっぱり、かかったな。」

 月夜が「してやったり」という顔を浮かべる。
 放ったのは、ただのボウガンの矢。
 焼夷弾を括り付けた、AIポッドには何の意味のない一矢。
 しかし、幾度のダメージを受け混乱しているクリサリスを騙すには___有効だった。
 そしてその隙を、月夜は見逃さなかった。

「高速移動は一度使ったら暫くはできないよな……!」

 彼はボウガンを背後に投げ捨て、ロケットランチャーを再び構える。

「今度こそ逃がさない!」

 放たれたロケットランチャーの3発目が___直撃する。
 もはや蛮勇は捨てた。
 それはクリサリスのAIポッドを大きく揺らし、機体を大きく動揺させた。

「……!」
『オラは死んじまっただー オラは死んじまっただー……』

 それは、敵機の敗北を告げる歌だった。
 急降下しながら眼前から失せるクリサリス。

 その行動は、月夜たちの勝利を告げる宣告でもあった。

15人目

「イシュメールズサバイブキャンプ」

黒煙を上げ、無残な姿に成り果てた機械仕掛けの蜂、クリサリス。
死神とも言えた面影は最早無く、ジタバタと右往左往する様は、正しく死にかけだ。
やがて赤い残影を引いて、白亜の霞を掻き分け堕ちていく。
地を埋め尽くす霧さえも、羽で払って。
そうして露わになった瓦礫の地へと、クリサリスは不時着。
一瞬の間の後、音を立てて力無く倒れ伏した。

「やった…!」

痛む傷口を抑えながら一連の様子を覗き見た月夜は、勝利を確信し破顔した。
あの死神を葬れた事実を噛み締める様に、胸の前でガッツポーズする。
力ませた腕に出来た銃創の痛みが表情を悲痛な物にするが、月夜にとってはそれさえ勝利の味を彩るスパイスだ。

「喜んでいる所悪いが、高度を維持出来ない。地上に降りるぞ。」

先の戦闘が刻んだ傷跡は双方共に深く、ヘリもまた高度を維持出来る状態では無い。
それでも、パイロットの技量故か地上へと降下する動きに迷いは無い。
ゆっくりと、正確に地上へと降り立つ。
まさしく、勝利の凱旋だった。

「化け物も、こうなると、見る影も無い、な…!」

対して、クリサリスはどうだ。
機体の至る所から油圧機構のオイルを垂れ流す様は、まるで自らの血に汚れた動物の死骸を想起させるではないか。
機体各部は放熱機構の駆動音を鳴らし、火花を上げる円盤からは未だ黒い煙が立ち上る。
事実、クリサリスの現状は、生物学における死と同等だった。
目に見えた結果に、痛みを無視して笑いたくなる。

「ぐぅ…はぁ、勝った_」
「いや、まだだ。」
「_は?」

月夜の安堵を遮り、冷たい声を上げたのはイシュメールだ。
一体いつ、傍に現れたのか?
いやそれだけではない、彼が今しがた発した言葉にもだ。
緊張の色を浮かべる月夜。
直後、クリサリスが蠢いた。

「マジ、かよ…!?」

思わず声を零した瞬間、異変が生じた。
機体各所の光が強くなっていく。
そればかりか、クリサリスは起き上がろうと足掻いているではないか。
あれだけの猛攻を受けて尚復活する事は、想像だにしなかった。

「言っただろう、奴は核戦争を想定して作られたと。」
「…どう、すれば?」
「弱点はある。」

縋る声に答えて、イシュメールは残り一発しか装填されてないランチャーを構える。
照準の先に収まるのは、頭部と思しき機構に取り付けられたAIポッド。
その天板に向けて、躊躇いなく引き金を引いた。

『再起_Aa!?』

再び巻き起こる爆音と機械の悲鳴。
黒煙と共に、AIポッドの蓋が弾け飛ぶ。
合わせて、クリサリスが身動いだ。

「貸せ。」
「え?」
「後一発残ってるだろう。」

言われて、月夜は首に下げていた四連装ロケットランチャーの存在を思い出す。
それをひったくる様に取ったイシュメールが、間髪入れずにポッど入口へと発射、内部へとロケット弾を撃ち込む。
瞬間、爆音が重く轟いた

『Aaa▬aAaa▬ーーー!!?』

爆炎吹き出す、飛び散るAI基盤。
喉を割く様な音の割れた悲鳴が、長く響き渡る。
致命打だった。
機体が小刻みに痙攣し、出鱈目な動きを少しばかり起こしたかと思うと、駆動音を止めていく。
やがて悲鳴すらもノイズだらけの機械音となり、それも止んだ。
不死身の化け物は、もう欠片も動く様子は無い。
クリサリスは、今度こそ完全に沈黙した。

「これでもう、蘇らん。よくやった。」
「あ、ぁ。助かった…」
「いいや、お前さんはまだ危ういぞ?」
「…ぁ。」

言われて月夜は、自分の体が酷く冷えているのに気付いた。
全身を嫌な汗が伝い、気付けば出来ていた足元の血貯まりに落ちる。
忘れていた、自分はあの化け物に撃たれた事を。
先ほどまで勝利に酔い痴れた身体は、思い出したように痛覚を掻き鳴らした。

「いぃぃったぁー!!?」

所謂、アドレナリン切れだ。
身体が蹲って、言う事を聞かなくなる。
心臓は痛い程に強く鼓動し、にも関わらず浅くしか呼吸が出来ない。
大口径の機関銃で撃たれたのだ、今まで持った事の方が奇跡である。
気が狂いそうな感覚に、月夜は悶絶する他無かった。

「傷口を見せろ。」
「あぐっ…」

不意にイシュメールが月夜の肩を掴む。
痛みと苦しさから思わず顔が歪むが、構わずイシュメールは衣服を脱がした。
露わになった素肌、そこに刻まれた銃弾の痕から血がとめどなく流れ出ている。
放っておけば失血死もあり得るだろう。
現に、月夜の意識は痛みよりも、失われていく温もりに囚われつつあった。

「まともに食らったな、今処置してやる。」

イシュメールは口早に告げ、ヘリの中から幾つかの物資を持って来る。
そのまま手馴れた動きで月夜を寝かせ、流れ作業で処置を始める。

「安心しろ、痛みはすぐ引く。」

始めに消毒を済ませて鎮痛剤を投与。
瞬く間に銃弾を取り出し、ガーゼと包帯で傷口を塞いでいく。
まるで医師だ。

「血液型はこれで合ってるな?」
「あ、あぁ…」

最後に輸血液を開け、点滴スタンドから吊り下げそのまま輸血。
気付けば、月夜は山場を越えていた。

「よし、暫く安静にしていろ。」
「すま、ない。」
「気にするな、それより随分と無茶をしたな。お前さん、リーダーなんだろう?」

そう言われ、月夜は自分の体を見下ろし、呟く。

「これが、俺のやり方だから。」

守る為に命を賭ける、その結果仲間を救えたのなら本望だ。
そんな思いの言葉に、イシュメールは苦笑した。

「高尚な理想も結構だが、死んだら残す物も無い。お前だけの命じゃない事を忘れるな。」
「…そっか。」

諭す様に言われ、月夜は静かに目を閉じた。
確かに、自分の体は自分だけのものじゃ無い、家族との絆が詰まった大事な宝物だ。
そう思うと、少しは反省出来た。
だけど、と前置きして、月夜は言い返す。

「それでも、家族や仲間を守れないのは、嫌だ。」

例え死ぬとしても、守りたい。
そんな意思に、イシュメールは嘆息した。
呆れの籠った溜息に、月夜は再び体を強張らせる。
やはり、自分は怒られるのか?
しかし、返ってきた言葉は意外な物だった。

「だろうな、なら俺が鍛えてやる。」
「…え?」
「言っただろ、生きる術(センス)を教えると。療治が済んだら叩き込んでやる。」



彩香が目を覚ました時、眼前には珍妙な風景が広がっていた。
乗ってきたヘリとは違う、新品の内部。
そこでひたすらに組み手を続ける包帯を巻いた月夜と、謎のフードの男。
男は狭いヘリの中でありながら自在に動き、月夜を組み伏せ、或いは投げ飛ばす。
かと思えば月夜も素早く切り返し、或いは立ち上がって「もう一回!」と組み合う。
正しく特訓と言うべき光景だった。



インターネットに、ある動画が上がった。
ボージャックがロンドンの街を破壊する様、メサイア教団の活動を捉えた物と様々だ。
特にメサイア教団の名が記されたヘリが飛ぶ動画は、世界中の人々を震撼させた。
幾つか上がった後、それらを一つに纏め、更に嘗てのメサイア教団が全世界に向けて行った声明を合わせた動画がネットに放たれた。
その動画は、まるでメサイア教団がロンドンを破壊しつくしたかの様な印象を人々に植え付けた。

16人目

「銀河戦士の真骨頂!! ボージャックの超パワー!」

 クォーツァー・パレスにて繰り広げられる戦い。
一方、樹海上空では悟空とボージャックの壮絶な空中戦が展開されていた。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 パンプアップした筋肉が衣服を裂きながら、膨れ上がるボージャックのパワー。
髪が赤く染まり、緑色の肌が明るみを増した。

「あいつ……! さらにパワーアップしやがった!」
「ふふふふふ……ここまで力を解放して戦えるのは久しぶりだ。貴様の名は……」

 不敵に笑いながら、宙に舞うボージャック。

「孫悟空だ!」
「孫悟空、か。さあ、とことん楽しませてくれよ!」

 そう言い放った刹那、ボージャックの姿が消えた。どこから来る?
身構えたその時、頭上からオーバーヘッドキックで蹴り込むボージャック。

「おわっ!?」

 不意をつかれた悟空も咄嗟にガードするしかない。
凄まじい威力の蹴撃をまともに喰らい、地面へと叩きつけられた。
間髪入れず、猛スピードで突進してくるボージャック。

「いちち……! あんなデカい図体で何てスピードだ……」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおッ……」

 樹海を薙ぎ払いながら突進してくるボージャックが、その手をかざす。

「チッ!!」

 急速上昇で回避する悟空。ボージャックが連続発射してくるエネルギー弾を
振り切らんと、一気に加速した。

「今度はオラの番だ!! うりゃあああああっ!!!」

 急降下からの渾身の一撃を放つ。
しかし、それを片手で軽く受け止めたボージャックが不敵な笑みを浮かべる。
その表情には微塵の焦りも感じられない。

「フン…こんなものか」

 掴んだままの悟空を引き寄せ、ニーリフトを腹に打ち込むボージャック。

「ごあああッ……!?」

 堪らず嘔吐く悟空を突き放すと、ボージャックは渾身の力を込めた
ダブルスレッジハンマーをその背中に向けて振り下ろした。

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいあッ!!」
「ぐああああああああああああああああああああああああッ……」

 地面に激突した悟空。衝撃で大地が激しく揺れ動き、粉々に割れた。
立ち込める土煙の向こうから、悟空の声が聞こえてくる。

「へへっ、参ったな……オラちょっと負けてんぞ……」

 だが、口元に浮かぶ笑み。それは悟空がまだ隠し持った底力を確信している事の証。
悟空の目線の先で、砂埃が風に飛ばされていく。

「いいぞ、その程度でへばってもらっちゃ困るからな」

 ボージャックは上空で腕組みをして悟空を挑発する。
正しき歴史では超サイヤ人の壁を超越した悟飯によって倒されたボージャック。
だが、目の前にいる彼はそれを遥かに凌駕していた。

「おめぇ、強ええな。オラワクワクしてきたぞ!」
「笑っていやがる……面白い奴だ。俺がいた世界には貴様は存在しなかった……
これほどの使い手に巡り会えるとは、クォーツァーの連中に手を貸したのは
正解だったかも知れんな」

「なるほどな……おめぇもターレスやらスラッグと同じクチってわけか」
「そう言う事だ。別に奴らの出自がどうだろうが知ったこっちゃないが、
この俺が楽しめるならそれも良しと思っただけの話だ」

 仲間意識などは無い。ただ、己の欲望に従って戦う者だけが辿り着ける領域。
それこそが超戦士の世界であり、そこにある真の闘いこそが至高の存在証明である。
孫悟空とボージャック。
この二人もまた、正しき歴史においては相見えることの無いはずの二人が出会ったことで
新たな歴史が生まれようとしていた――

「さあ、第二ラウンド開始と行こうぜ、ボージャック!」
「フハハハッ! それでこそだ!」

17人目

【大いなる天の使い(タイプ:ポンコツ)】

エピメテウスの塔で現在進行形で暴れ回っている異端者組と能力者組と困惑している楽士
その裏でもう1つ、動き始めている者がいた。

ブラフマンがこの四季彩の世界に来たと同時に異端者組が消えたのは実に4日前の話であるが時間は進んで・・・

現在地
《四季彩の世界 ー天界 ロスト・ヘブンー》では

『エーテル・クラウディアよ、起きなさい』

虹色の光が私の闇を祓って視界を彩っていくのを感じる。

あの時の闇・・・

そっと自分の身体を起き上がらせる。
どうやらずっと寝ていたようで身体がとてつもなく重いと感じる
いるかも分からない女神の光に返事を出す

「なんでしょうか?女神様、ご命令とあらば何処へでも」

『警戒していた異端者3人 大空太陽 月影夢美 星乃雪 の生体反応がこの世界から姿を消えました』

驚いた・・・《あの3人はこの世の安寧に平然と障害(悪)となってみせる者達が消えた》
いや、あっさり倒されるわけが無い。
女神の声から察するに最初は非常に嬉しそうだったがそれもすぐに暗い声へと変わる

『ですが、油断してはいけません。あの物達は残念ながら強い』

それは知っています。
大空太陽と星乃雪辺りはよく分かりませんが
彼女、月影夢美の闇に1回飲み込まれて昏睡してしまったがそれとこれは別
恐らく後の2人もきっと強いはずです

『なので命令です、あの異端者共の帰り道を永遠に塞ぎなさい。これはまたとない絶好のチャンスなのですから』

「つまりそれはどういう・・・」

『貴方なら出来ます、それでは』

答えを教えてはくれなかった。
"帰り道を塞ぐ"・・・?天使の脳内では漠然としたイメージしか思い浮かばなかった

「行動するとしましょう、日が暮れる前に」

六つの翼を拡げてゆっくりと後ろ歩き背中を大空に預け身を投げる
翼を動かし羽ばたいたその瞬間

彼女はその場から一瞬で消えたのだった

18人目

「生き急ぎ、死を想え」

 港区 某所

「いよぅ!おっさん!探したぜ!」
「全く、どこに行ってたんだ森長可よ。」

 ルクソードが、港区をさ迷っていた森長可を見つけたようだ。
 彼はトラオムでCROSS HEROESと共に戦った同志だ。

「あんたらを探してたら、道に迷っちまってな!がはは!」
「全く、皆待っているぞ。」

 そうして、ルクソードたちは罪木オルタが待つエリアへと移動した。

「……遅かったな。」
「いや失礼、彼を探すのに苦労してな。」

 ルクソードが森長可を連れてやってきた。
 連れてこられた森は、罪木オルタの顔をまじまじと見る。

「なぁ、そんな陰気くせぇ顔すんなや。」
「そうか?あたしそんなに暗い顔してた?」

 カラッとした太陽のような笑顔を浮かべる森に対し、罪木オルタの顔は暗い。



「西園寺君はいいのか?」
「いい。行ったところであいつが死ぬだけだろうし。」

 罪木オルタは、どこか暗い声で話す。
 港区での戦闘による疲労か、或いは西園寺という正典の自分にとって大切な人物と出会ってしまった影響なのだろうか。

「では行こうか2人とも。時は無限だが永遠ではない。」

 かくして、ルクソードを中心として罪木オルタと森長可は黒い靄に消えていった。
 その様子を、西園寺は遠巻きから見ていた。
 彼女の心は、それこそ自分自身にもわからないほど複雑だった。

「……死ぬなよ、ばか。」

 ぼそりと、彼女の行く先の運命を憐れむかのように呟いた。

「白くあろうが黒くあろうが、あんたはあんたなんだから。ゲロブタ。」



 そのころ ルイーダの酒場にて

「ウーム、これはひどいな。」

 ドクター・ボンベが、息も絶え絶えでベッドに横たわる少女___辺古山ペコ・オルタの身体を一目見る。
 そこに立ち込めるのは血の匂いと、いたいけな少女に惨たらしいことをした者たちへの義憤だ。

「何者かによって肉体を過剰に強化されたのだろう。その影響で全身の筋肉が致命的な部分までズタズタになっている。」

 数多の超人を治療してきたドクター・ボンベの表情に憤りの相が見え出す。
 否、それはもはや一種の悲哀と彼女への憐憫にも近い。

 それも無理はない。
 学園爆破の後メサイア教団に連れ去られた彼女は、絶対兵士として記憶や感情を消され、肉体を過剰なまで改造された上に戦闘で受けた傷や精神的ブレが、彼女の肉体を極限まで削っていったのだ。
 そんな残酷な運命の結果を見せつけられて、哀しくならないものは少ないだろう。

 それに、多くの命を救おうと努めてきた彼にとって、このような命に対する冒涜にも等しい改造には思うところがあるのだ。

「どうかしら、彼女。」
「極限まで肉体を破壊され尽くしている。神経や骨髄、内臓までやられては仮に完全に治癒できたとしても近いうちに死ぬだろう。それこそ戦闘行動は出来てあと1回と言ったところか。それも……この者の死を前提とした戦闘だ。」
「死を前提って……。」

 ペコオルタの運命を悟ったルイーダの顔が曇る。
 心ない邪悪外道でもない限り、近い将来の死が確約された者にかける言葉はそうそう見つからない。

「放っておいてもそのうち死ぬ。だが治療すればあと少しは……。」

 彼女は超人に非ず、結局突き詰めるとただの人間である。
 彼の治癒を受けても近い将来、確実に死ぬ。
 戦士かどうか以前に『近いうちに死ぬとわかってても、まだ生きる覚悟はあるのか』という問題に、ペコオルタは向き合っているのだ。

「……れ。」
「何?今何といった?」

 かすれた、されど確かな声でペコオルタはつぶやく。

「やって……くれ……私はもう……何なのかはわからないけど……私を殺そうとしている……奴らを……許したくない……!」

 彼女の目から、涙が出る。
 どうやらペコオルタの決意は固いようだ。

「……一応、確認するぞ。」

 ドクター・ボンベは、改めて真剣な目で問いかける。

「わしの治療を受け戦いに行ったとしても、その結果がどうあれお前は死ぬ。致命的に破壊され尽くしたその体だ。奇跡と僥倖が重なって生還できたとしても前と同じように戦える保証はない。残酷なことを言うが、それでもまだ戦えるか?」

19人目

「復活!! かえってきた仮面ノリダー ~クォーツァーぶっ飛ばすぞォウ! の巻~」

「ぐううッ……!」

 バールクスとの決戦に臨むスウォルツであったが、
アナザーディケイドの力を以てしてもバールクスに敵わず。
膝をつく形で絨毯の上を滑走する。

「ふははは! 所詮お前もその程度か」

 高笑いしながらスウォルツに近づくバールクス。

「……でぇえいッ!!」

 アナザーディケイドは赤黒い破壊エネルギーの弾丸を掌に生み出し、
それをバールクスに放つが、

「ふっ……」

 バールクスは首を軽く動かして回避し、そのままスウォルツに歩み寄る。

「今ので終わりか?  ならば……」
  
 と、バールクスが拳を振り上げようとした瞬間。

「むっ!?」

 先ほどまでバールクスが座っていた玉座が爆発を起こす。

「なに?」
「おおおぉおッ!!!」

 雄叫びを上げながら駆けるアナザーディケイドはその勢いのまま跳躍すると、
空中で体勢を整えつつ右足を突き出す。
アナザーディケイドのライダーキックがバールクスの胸部装甲に直撃した。

「ぬうううう……ッ!!」

 しかし、バールクスはアナザーディケイドの一撃を受けながらも両足を踏みしめ、
その衝撃に耐えきってみせる。

「おのれ……!!」
「玉座は『破壊』した……これでこの城の構造を好き勝手に弄ることはできまい」

「空間が……!!」

 脱出不可能の迷宮と化していたクォーツァー・パレスの内部が、
元の景色へと戻っていく。

「やったあ! これで外に出られるね!」
「ひとまずここから出るぞ」

 心の怪盗団とソウゴたちは、ようやく出口を見つけると急いで城を出た。
玉座の間のモニター越しにその様子を見ていたバールクスは歯噛みする。

「くっくっく……それだ。貴様のその悔しがる姿が見たかったのだ」
「スウォルツ……貴様ァ……!!」

「だが、この俺が今まで受けた屈辱はまだまだこんなものではないぞ。
貴様にはたっぷりと苦しんでもらう……」

 と、その時であった。
城の外に出たソウゴたち目掛けて落下してくる黒い影。

「危ない!」

 木梨猛がソウゴを庇い、盾となる。

「脱走、ごくろうさん。だがここまでだ」

 ザモナスとゾンジス……クォーツァーの二大幹部がそこに立っていた。
ソウゴと木梨猛……力を失った2人が承太郎や心の怪盗団と分断させられ、追い込まれてしまった。

「しまった、援護を……」

 ゾンジスがフォックスたちの前に立ちふさがり、彼らの行く手を阻む。

「ちぃッ、邪魔をするな!」
「お前たち全員、潰す!!」

「ソウゴはやらせん……!!」

 木梨猛がソウゴを庇いながら戦おうとするが、ザモナスの鋭い蹴りを受けてしまう。

「ぐあっ!?」
「木梨さん!!」

「ふん、弱いな。仮面ライダーでもない紛い物が……
なぜそこまでしてそいつを守ろうとする?
そいつは我らが王の替え玉……今や何の役にも立たない無価値の存在だというのに」

「そんなことは、関係ない……!」
「ほう?」

「たとえソウゴが何者であろうとも、彼は俺たちの仲間だ! 
それに、仮面ライダーであろうとそうで無かろうと……
何もしないままで良い理由にはならない!!」
「ほざけ!」

 ザモナスが再び殴りかかってくる。
木梨猛は拳をガードするが、その威力に押されて吹き飛ばされた。

「ぐっ……うおおおっ!!」

 それでも立ち上がり、ザモナスに食らいつく。

「しつこい奴め……ならばもう一度!」

 と、ザモナスが拳を振り上げた瞬間。

「ああッ……!?」

 木梨猛の腰に失われたはずのベルトが出現していた。

「これは……まさか……」

 木梨猛は自分の身に起きている変化に気づく。

(俺は……再び変身することができるのか……?)

 クォーツァー・パレスの戦いの模様は、特異点中に中継されていた。
その光景を見て、誰もが驚きの声を上げる中……

「ねえ、あれって……木梨猛じゃない!?」
「え、マジ!? 本物!?」
「だとしたら凄いな。もう20年以上経ってるっていうのに……」
「俺、ガキの頃TVで観てたぜ!」

 杜王町の人々が口々に騒ぎ出す。
彼らの世界では、木梨猛とはとあるバラエティ番組のキャラクターであった。
社会現象と呼ばれるほど人気を博した番組であったが、
ある時から木梨猛は突如として姿を消してしまい、番組も終了となってしまった。
そのため、彼らは木梨猛の顔すらも忘れかけていたのだが……

「俺、憧れてたんだよなあ。あの番組のヒーローにさ!」
「俺なんか毎週録画までしてたんだぞ!」
「私だって、小さい頃はあの番組の真似とかよくやってたよ!」

 時が経ち、かつて「全国のちびっ子諸君」であった者たちもすっかり大人になった。
彼らにとって、木梨猛はかつての子供心を思い出す存在となっていたのだ。

「……がんばれ! 木梨猛!」
「そうだ、がんばれ!」
「負けるんじゃないぞー!!」

 木梨猛に声援を送る人々。

「力が……! 溢れてくる……!!」

 木梨猛は確信する。自分は再び変身できると。

「……ありがとう、全国のちびっ子諸君! 大人の人も、デパガ、コンパニオン!
いつだって君たちの応援があったからこそ、僕はこうして戦うことができた!
だから今度は僕の番だ。僕がみんなを守る……!!」
「なに……!?」

「行くぞォ! ……かぁ~~~~いわれ巻き巻きィ~~~~……」

 木梨猛は右腕を高く掲げると、その腕を大きく回す。
決めポーズである。

「………」
「ネェェェェギトロォォォ~~~……巻き巻きィィィィィ~……」

 さらに先ほどのポーズを反転させ、左回転を加えて再び決める。

「……おい! いつまでやってるつもりだ!?」

 痺れを切らしたザモナスが怒鳴るが、木梨猛は気にせず決めポーズを続ける。

「ン巻いて巻いてぇええ~…………手ぇぇぇ巻き寿司ぃいい~……」

 両腕をくるくると回しながら、その場で両手を腰に当てる。

「いい加減にしろ!」
「変身ポーズは大事だろうがァ!! 仮面ライダー名乗ってるくせに
そんな事も分からんのか!?」

「知らんわ!! ……そうなのか?」
「俺に聞くな……」

 ザモナスとゾンジスが困惑しているすきに、木梨猛は上空高くジャンプする。

「あっ、とぉおお~~うッ!!」
「し、しまった!?」

 木梨猛は、ベルトの風車に風力を与える事によって、
仮面ノリダーに変身するのだ!!

「どぉおおうえぇぇ~いッ……!!」

 クォーツァー・パレスの頂に着地すると、木梨猛はポーズを決める。
赤いマフラー、正義のしるし。
尖った地獄耳に緑の仮面。胸のプロテクターに刻まれたNoRiだーの紋章。

「な、なにあれ!?」
「あれが……木梨さんの本当の姿なのか?」

「すげぇ、やっぱり本物だったんだ!!」
「仮面ノリダーだあああ!!」

 その姿を目の当たりにした民衆は、口々に歓声を上げる。

「怒ると怖あああ~い……仮面~~~……ノリ! ダー!! ニッ☆」

白い歯がキラリと輝くと、仮面ノリダーは上体を横に反らして
ビシッとポーズを決めた。まさに伝説の復活だ。

20人目

「承太郎の答え」

その頃クォーツァーパレス内では、
「……景色が元に戻った…?」
「みたいね、けど……」
クォーツァーの手によって魔法少女やゼンカイジャー、超人達とはぐれてしまったゲイツ、ツクヨミ、士、仗助、康一、トランクスの6人
「……どうやら他の皆さんとははぐれてしまったようですね……」
「クソ!」
「皆さん大丈夫かな……」
「……あいつらならきっと大丈夫なはずだ。それよりも今は早くソウゴを見つけ出すぞ」
「……わかったわ」
するとその時

「どぉおおうえぇぇ~いッ……!!」
「っ!?なんだ今のは…!?」
「外から聞こえた気がするけど……」
彼らが聞いたもの、それはパレスの外で仮面ノリダーに変身した木梨猛の声であった。
「もしかすると、外で何かあったのかもしれませんね……はぐれた皆さんのことも心配ですし、またさっきみたいになる前に一度外へ出てみましょう」
「わかったわ」
「・・・」
「……士さん?」
(……さっきから感じるこの気配……間違いない……)
「……悪いが、俺はもう少し奥の方へ行く」
「え、でも…」
「頼む」
「……わかりました」
「その代わり、また死ぬんじゃないぞ」
「あぁ、当然だ」
ゲイツ達5人は外の方へ向かい、士はパレスの奥の方……常盤SOUGOとスウォルツがいるところへと向かった。



一方その頃、パレスの外では
「仮面ノリダー……まさか実在してたとはな」
「知ってるんですか承太郎さん?」
「あぁ、俺たちの世界で放送されてた番組のキャラだ。俺もガキの頃に見たことがあるが…まさかあいつがそのノリダーの変身者である木梨猛本人だったとはな……っ!」
「ハァ!」
すると突然何者かが承太郎に向かって飛び蹴りしてくる。
「チッ!」
承太郎はスタープラチナで飛び蹴りを防いだ。
「ほう、やるではないか…!」
承太郎に飛び蹴りをした人物、それはクォーツァーの1人が変身したアナザーWだった。
「その姿……アナザーライダーというやつか……」
「いかにも…ジョウゲン様カゲン様、このスタンド使いの相手は私がしましょう」
「ならば心の怪盗団とやらは俺が相手しておこう」
そこに現れたのはアナザーフォーゼであった。
「フン、いいだろう」
「だったら俺たちは、あの仮面ライダーの紛い物と替え玉を潰すか」
「来ぉい!クォーツァー!ぶっとばすぞぉ!」
仮面ノリダーはザモナスとゾンジスを、心の怪盗団はアナザーフォーゼとカッシーン達を相手に戦闘を開始する。

「……さて、戦いの前に話をしよう」
「話だと?」
「あぁ、空条承太郎よ…お前も我らクォーツァーの一員なならないか?」
「…なに?」
「君のスタンド能力…スタープラチナ・ザ・ワールドは時を止めることができる能力……歴史の管理者である我らクォーツァーにふさわしい力だ……そんな力を持つ君がCROSS HEROESなんかにいるのはもったいない……」
「目当ては俺のスタンドか…」
「なに、ただとは言わない……君が入ってくれるのなら君や君と関係のある人物達…そして君がいた世界に訪れる最悪の未来を変えてあげよう」
「最悪の未来だと…?」
「その通りだ。空条承太郎、君は少し先の未来で君の宿敵DIOの意思を受け継ぐ者の手によって、君の娘やその仲間達もろとも殺される」
「なんだと…!?」
「しかもその者の手によって世界そのものが作り変えられるのだ。そうなれば君の世界にいる全ての人間が死ぬも同然……だがしかし、もしも君がクォーツァーに協力してくれるのなら、その未来を変えることができる。
なんなら君が望むのなら過去だって変えることができる。それこそDIOを倒す旅で死んでいった君の仲間達が死ぬ歴史をなかったことにだってできる」
「っ!」
「さぁどうする?君にとっても悪くないはずだ。君の大切な娘やかつての仲間達を助けられるのだからな!」
「・・・」
「迷う必要はない!我ら共に歴史の管理者として…」
『オラァ!』
「!?」
突然、スタープラチナが目の前に出現し、アナザーWを思いっきりぶん殴った。
「き、貴様!なにをする!?」
「…これが俺の答えだクォーツァー。テメェらのくだらねえ誘い、断らせてもらう」

21人目

「The despair’s Struggle」

 そのころ、クォーツァー・パレスにて

「!」
「何かあったんですか?芥同志。」

 芥志木は、何かを察知したようで周囲を警戒しだす。
 ゼクシオンも同様に、周囲を見渡す。

「……エネルギーを感じる。足場の安定が崩落するエネルギーをだ。」
「あー、よくわかりませんが。あなたが言うなら間違いないのでしょう。」

 そう言いながら、2人は

「……ゼクシオン、先に行け。」
「はい。」

 ゼクシオンを先に行かせた芥は、一人渡り廊下の中心に立つ。
 そして、静かに後方にいる者たちに呟いた。

「何者かが背後にいるのは分かっている。隠れても無駄だ、出て来い。」
「隠れているつもりはなかったんだがな。」

 そこにいたのは、芥達を追跡していたシャルルマーニュとデミックスだった。
 芥は彼らの追跡を理解したうえで泳がせていたのだろう。

「はじめから俺達を追跡していたのは分かっていた。だがこんな罠塗れの要塞だ……。」
「自分たちもやられる可能性があるから安全なところで戦いたいって?」
「いや、俺はこんな罠程度では死なんよ。むしろお前らを殺しやすくなったまである。」

 その瞬間、芥たちの頭上に無数の槍が降り注ぎだす。
 彼らを確実に抹殺する速度で落ちるそれを、芥は。

「魂線斗霊:逆流(リバース)。」

 逆にシャルルマーニュ達の方角に操作し、発射した。
 迫りくる槍を、シャルルマーニュとデミックスは輝剣と水流を使い弾き飛ばす。

 その様子を無表情で見届けた芥は淡々と告げる。

「利用しやすいと思い俺に有利な舞台まで誘導した。それだけだ。」
「くっ!」

 追尾していたつもりが、いつの間にか誘導されていたことを悟ったシャルルマーニュとデミックスは臨戦態勢を取った。
 しかし、その前に芥は今まで気づいていた違和感を看破する。

「それはそうと、データによると貴様らは4人で行動していたはずだ。残る2人である江ノ島盾子とリクとかいう銀髪の男はどうした?」
「あの2人とははぐれた。だが今こっちに向かっている。心配には及ばないさ。」

 道中で、江ノ島とリクとははぐれてしまったようだが、その顔は決して曇ってない。
 シャルルマーニュは2人に全幅の信頼を置いている。決して死ぬことはなく、無事に戻ってくると信じているのだ。

「まぁいい。どのみち貴様らはここでゲームオーバーだ。ソロモンの指輪を回収する前にまずはシャルル遊撃隊とやら、貴様らから処理させてもらう。」



 そのころ

「ちぇっ!はぐれちまった。」

 シャルルマーニュ達とはぐれた二人は悪態をつきながら、落とし穴の先に広がる空間を歩む。
 その内部はまるで下水道のように暗く、所々に檻のようなもの見える。
 まるで長い時に流され古ぼけていったトンネルのようだ。
 ここの用途は地下牢なのだろうか、それとも最初からそういう構造の道なのだろうか?と考察しながら先へ先へと進んでいく。

「4人で行動してたら落とし穴が出てきて、俺たち2人分断されそのまま落ちてここか。」
「さっさとここから出て皆と合流しないとな……。」

 トンネルを進む。
 きっとこの先に、出口があると信じて。

「……リク。」
「ああ、見えている。」

 何かの気配を察知し、ショットガンとキーブレードを構える2人。
 こつこつと、足音が暗い道の奥から響き渡る。
 そんな足音の主を歓迎するかのように、暗い道が炎によって照らされる。
 炎の輝きによって完全に正体が判明した。

「我らが居城に土足で踏み入るとは、小癪!」

 赤黒い髑髏の意匠がちりばめられたこれまた赤黒いローブを身に纏った異形の怪物のソレは、まるで全身がひび割れた赫い宝石のよう。
 黄金の骨格の手が彫り込まれたベルトを着け、異形の頭部はまるで巨人の指輪のようにも見える。

「なんだこいつ……!」

 江ノ島が警戒する。
 気が付くと、怪物を照らしていた炎は自身と2人の周囲を囲っていた。これでは逃げることはできない。

「超高校級の絶望と異界の勇士がここに落ちてくるとは。」
「てめぇ誰だ!私様はお前みたいな友人はいないぞ!」

 眼前の怪物は、その名をゆっくりと告げる。

「私はアナザーウィザード。絶望の化身。我らが王の命に従い、貴様らを消す。」
「絶望の化身だぁ!?絶望は私様の専売特許だ!」

 自分以外の誰かが絶望の化身を名乗ることは、悪党としてのプライドが許さないとでも言わんばかりに江ノ島が憤慨する。
 それとは対照的に、アナザーウィザードは冷静に話す。

「そう怒るな。我らはお前の事を高く見ているのだ。」
「何だよバケモン。」
「我らにつけ江ノ島盾子。貴様の鑑識眼とカリスマ性、その絶望的なまでの頭脳を我らのために使う気はないか?もし協力するなら、粉々に吹き飛んだ希望ヶ峰学園を復元することもできる。そこで無限にコロシアイとやらをするとい……」

 と、交渉をするアナザーウィザードの横を、彼女の持つショットガンの弾丸がかすめる。

「江ノ島!?」

 狼狽するアナザーウィザードとリクを尻目に、江ノ島は不敵な笑みを浮かべる。

「へぇ~そいつは絶望的に素敵だ!だが何度も使いまわされた絶望なんかに価値はねぇよ!そもそも新鮮味がない!」
「なっ……!」
「そして今の私様はお前らみたいな悪党が絶望する姿が見たいんだよ!」

 それは、彼女の決意にも等しかった。
 自分はどうしようもない悪党だ。人の絶望に歓喜する破綻者だ。そして、今は正しい善の為に戦う正義の味方だ。

「超高校級の絶望たるもの、色々な絶望を知っておかないとな!」
「……くく……はははははは!とんだ悪の美学だ、あまりにも下らん!なら交渉は決裂だ、望み通り絶望に沈めた後殺してやろう!」

 彼女の悪としての美学を嘲笑う。
 もはや彼の頭に交渉の余地はなく、一つの敵として立ちはだかるつもりだ。 

「待て、アナザーウィザードと言ったな。こっちも一つ質問がある。お前とその王とやらはメサイア教団の仲間か?」

 攻撃を使用とするアナザーウィザードに対して、リクが質問をする。

「……メサイア教団?ああ名前は知っているとも。あんな一端のカルト教団如きが王の敵になるとは思えんが。」

 この文面から察するに、クォーツァーとメサイア教団は現時点では仲間や同盟関係ではない。だが放置しておけばそうなる可能性もある。
 そうなれば、更に勢力が強まって尚の事苦戦を強いられることになるだろう。

「それだけわかればいい。お前らの言う王がどれくらい強いかは知らないが、俺達はお前を倒してここから出るだけだ!」
「ならばやって見せるがいい!」

22人目

「望むなら、誇りある死を尊ぼう」

ドクターボンベの問い掛けに、ペコオルタは一巡の迷いも無く、応と頷く。
声さえまともに出せない程に蹂躙された体で、それでも尚、不撓不屈の意志を見せたのだ。
戦士として天晴と言う他無い固い覚悟を前に、ボンベもまた決意を以て答える。

「分かった、お主が死を覚悟してでも望むと言うのならば、儂は医者として尽くし答えよう。」

そう言い、ボンベは尊重の意を表した。
そのまま部屋を一度出て、治療の準備に入る。
部屋にはペコオルタとルイーダが残された。
一時の間。
ふと、ペコオルタがルイーダに目を向ければ、その瞳には涙が浮かんでいた。
何故泣くのか?
そんな疑問を眼で訴えかければ、ルイーダは小さく首を横に振って、ぽつりと零す。

「こんなに傷付いて、ボロボロなのに、貴方は、どうしてそこまで…?」

その問いかけに対する答えは、既にペコオルタの中で定まっていた。
故に、今にも千切れそうな声帯を震わせ、血を吐きながらも告げる。

「意志を、自分を取り戻した、だから…」
「だったら、尚更_」
「だからこそ、誇りを、取り戻す。その最後のチャンスなのだ、不意にしたくは、ないっ!」

ペコオルタの胸中を満たすのは、怒り一色だ。
その理由は彼女はただ一つ、彼女の中に眠る感情が、奴等を許してはならぬと叫んでいるから。
だから、ペコオルタは命を捨てる覚悟を決めた。
自分の信念に従い、最後まで生き抜く為に、この身を、捧げると。
触れれば割れてしまいそうな陶器の如く、しかし頑強で揺るぎない意志を前に、ルイーダは閉口する。

「理解してくれとは、言わん。ただ止めるな、私は、誇りある死を、選ぶ。」

そう言うと、ペコオルタは再び目と口を閉ざした。
これ以上話す事は無いと、そう言外に語ったのだ。
そうして拒絶の意思を感じ困惑するルイーダの元に、ボンベが戻ってきた。
その手には、台車があった。

「武闘家とはそういう者なのじゃ、ルイーダよ。」
「ボンベさん…」
「己の信念、友情、プライド、その為には死すら厭わんのじゃ。」

その言葉を聞いて、ルイーダは全てを理解した。
そして、ペコオルタの顔を見つめる。
その顔は、先程までの生気を失っていたそれではなく、誇りに満ちた戦士の顔付きであった。
もう、何を言っても止まらない、止めてはいけないと、ルイーダは悟った。
故に、彼女もまた腹を決める。

「分かりました。ボンベさん、私も手伝います。」
「うむ。」

力強く告げられた言葉を受け、ボンベはこくりと深く首肯する。
そんな彼女を、ペコオルタもまた快く受け入れていた。

「…ところでボンベさん、その、本当にソレは治療器具なんですか?」

が、不意に出てきた言葉に、ペコオルタは「えっ?」と言わんばかりの表情を浮かべ、顔を動かす。
ルイーダの視線の先にあるのは台車だ。
大部分が木製で、アルコール消毒されたのか濡れた様子が見られる。
それは問題ない。
問題なのはその上に乗せられた器具の数々だ。
電動丸ノコ、ノコギリ、チェーンソー、巨大なペンチらしき物等、明らかに可笑しい代物しかない。
先端が鋭利に尖り、鈍色の光沢を放つ様はとても医療器具とは思えない代物だ。
普通は医療用メス等が並んでいる筈の台車を見て、さしものペコオルタも二度見、いや三度見した。
首を痛めたが、そんな物より目の前の品々の方が痛々しく感じる。
明らかに異質な光景に、驚愕と困惑の表情を隠せないでいた。
思わず不安げに問い掛けるルイーダに、ボンベは当然とばかりに大きく、力強く、そして、誇らしげに応えた。

「そうじゃ、儂の自慢の器具じゃよ。」

まるで、我が子を誇る親のようだ。
ボンベは自信満々な面持ちのまま、これで行う治療を行うと告げる。
ペコオルタは若干引いた。
急に目の前の医者を名乗る者が胡散臭く見えて仕方なくなった。
だが、治療の為ならば致し方ないと諦める他無かった。
どうせ手術する以上、全身麻酔で眠るのだ。
医療ミスさえ無ければ、後は目を瞑っていれば良いだけだと、半ば無理矢理自分を納得させた。
やがて準備を終えたのか、二人は早速道具を手に取る。
_麻酔は、されなかった。

「ま、まて、麻酔、は?」
「儂の手術にそんな物は不要じゃ。」
「しょ、正気、か!!?」
「大丈夫じゃ、儂は麻酔なぞ無くとも、痛みを与える事無く手術が出来る。」
「ひぃっ、せ、せめて睡眠薬…あぁいやもう自力で寝る!」
「そんな時間はお主に残されてないわい!良いから始めるぞ!」
「あっ、はい…」
「あ、いや、あぁ、あーーーっ!!?」

痛みの伴わない悲鳴が、酒場に響き渡った。

「セミが鳴く時期ズラねぇ。」
「うむ。」



「生きている…」
「当然じゃ、誰が治療したと思っている?」
「貴方だからだ。」

すっかり綺麗になった己の身体を見下ろし、呆然と呟くペコオルタ。
反応して答えたボンベには容赦無い一言を告げ。
その顔は、先程まで死にかけだった事が嘘のように、血色の良い健康的な肌色が戻っている。
一通り見たペコオルタの表情は、消沈と安堵が入り混じったものになっていた。
そんな彼女に対し、ボンベが言う。

「さて、後はお主が向かうべき場所を指し示さねばな。」

そう言い、ペコオルタを外へと連れ出す。
気付けば、暗雲とした空模様が広がっている。
そこに、ボンベが杖を振りかざす。
瞬間、遠い地で雷が落ちた。

「今のは…?」
「あそこがお主の向かうべき地じゃ。」

ボンベが差した場所に目を凝らせば、宮殿の様な建物が見える。
クォーツァーパレスだ。
そこに、ペコオルタとの因縁が待っているのだとボンベは言う。
その手に導かれる様に、ペコオルタは駆け出した。
最後の戦いに、臨む為。

「…本当に、行ってしまわれたのですね。死んでしまうというのに。」
「なぁに、死は終わりでは無い。」
「え?」
「儂がいつ、死んで”終わり”と言ったかの?アフターケアは万全じゃ。」

遥か彼方に消えたペコオルタを見ながら、ボンベはキラキラと光沢を放つ石を持って言った。



「どうやら、私の役目を果たす時が来たようだな。」

トゥアハー・デ・ダナンの病室にて、そう呟く老人がいた。
身体中にカラーノイズが走り、人としての形を何とか保っている状態だ。
だがそんな事には目もくれず、老人は手を掲げる。
瞬間、病室から老人の姿が消えた。

23人目

「大乱戦! アナザーライダー対CROSS HEROES」

「ハハハハッ!!」

【ROCKET】

 アナザーフォーゼが右腕をロケットに変え、その推進力で飛行しながら
高速で心の怪盗団に迫る。

「危なッ!?」

 しかし寸でのところで、身を屈めて回避するパンサー。
だが攻撃はそれだけでは終わらない。空中旋回して尚も迫ってくる。

「わわっ、戻ってきた!?」

 再び避けようとするが間に合わず、直撃してしまうのかと思われたその時

『ドラァァァァァァッ!!』

 東方仗助のスタンド「クレイジー・ダイヤモンド」を発現し、
アナザーフォーゼを吹っ飛ばした。

「うぐおっ!?」

「大丈夫か!?」
「うん、サンキュー!」

 自慢のリーゼントを直しながら問いかける仗助に、サムズアップをしながら
返事をするパンサー。

「おのれ……」

 奇しくもフォーゼの本来の変身者、如月弦太朗もリーゼントに時代遅れの変形学ランが
トレードマークであったのは偶然なのか、それはわからないが
フォーゼの力を悪用するクォーツァーは許せない。

「おのれ……妙な頭をしおって……」
「あァ……!?!?」

 仗助にとっての最大の禁句を言ってしまったアナザーフォーゼ、
これは彼に怒らせるには十分すぎたようだ。
完全にブチ切れた仗助がズカズカと近寄りながら怒りの形相で言う。
彼は自分の髪型に誇りを持っており、それをバカにする者はたとえ同じ学校の生徒だろうと容赦しないのだ。

「おいコラ待てよオイ。今何つったァ!?」
「ん……? 妙な頭と言ったのだが?」

「言ったな?」
「それがどうした?」

「言ってはならないことを言ったな?」
「だからなんだ?」

「後悔するぜ……俺のこの髪に対する侮辱は誰であろうと絶対に許さねぇ!!」
「フフフ……そうかい!!」

 さながら、挑発スキルを受けてバーサク状態になってしまったような仗助に対し
好機とばかりにアナザーフォーゼは卑劣な不意打ちを仕掛ける。

【LAUNCHER】

 アナザーフォーゼの右足がランチャーに変化、無数のミサイルが発射された。

「危ないっ!?」
「ゴエモンッ!!」

 フォックスがペルソナを召喚し、目に止まらぬ居合斬りで全てのミサイルを叩き斬る。

「チッ……」
「ひょーい、っと!」

 高台から飛び降りてくるのは、なぎこ。番傘をパラシュート代わりに広げている。

「どぉらっしゃあああああああああああああああいッ!!」
『ドラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 なぎこのジャンピングエルボーと、クレイジー・ダイヤモンドの鉄拳による
ツープラトンがアナザーフォーゼに同時に炸裂する。

「おぼぉおおおおおおおおッ……!?」
「ふっ、決まったぜィ」

「すご、私達のショータイムみたいな息の合いっぷりだね」
「やれやれ……髪型をとやかく言われると見境なくなっちまうのは相変わらずのようだな、仗助……」

 初対面の時、叔父と甥の関係であるにも関わらず不意に口をついた一言で
スタンドを交えた殴り合いに発展したのを思い出す承太郎。

「やったね、仗助!」
「お、おうよ……」

 なぎこに助けられたことに照れてるのか、少し恥ずかしそうに返す仗助。
その表情からは先程までの怒りは微塵も感じられなかった。

「あの娘が上手くストッパーとして機能してくれているみたいだな」

 その様子を見て安心する承太郎。

「はああッ!!」

 カッシーン軍団を相手に護身術をベースにした鉄拳で戦っているのは、クイーン。
普段は品行方正な生徒会長を務めているが、その潜在意識の中では他人に決められた
レールの上を歩くことに納得がいかず、その反動なのか、
こうして怪盗服に身を包んで素顔を隠し、思う存分暴れられることで
自分を解放できているのだ。
現実世界の彼女ならば決して見せないような、まるで別人のような態度で戦っている。

「さあ、どんどんかかってきなさい!」

 鋼鉄のボディを一撃で以って次々と沈めていく。
そんなクイーンの元に1体のカッシーンが襲い掛かる。

「せええええええええいッ!!」

 しかし彼女は慌てる素振りも見せずに、冷静にカウンターのハイキックを喰らわせて
撃破した。

「ギギッ、ガガガ……」
「まったく、数だけはいる……」

「よぉぉぉぉぉうしっ、こうなったらこの技だ!! 
ノ・リ・ダァァァァァァッ……整列ビィィ~~~~ムッ!!」

 クイーンの援護に回る仮面ノリダーが突き出した両手から光線が放たれ、
カッシーン達が次々と整列していく。

「え!? 一体どういうこと……?」

 困惑するクイーン。

「よしよし、綺麗に並んだね!? ちょっとそこズレてるよ、もっとしゃきっと!」

 ノリダーが注意すると、カッシーンがキッチリと整列し直す。
それを確認したノリダーは満足げな様子で頷く。

「行くぞォ! ノ・リ・ダァァァァァァッ! カーニヴァルッ!!」

 天に向かって高らかに叫ぶ仮面ノリダー。激しい稲妻がカッシーン達に降り注ぐ。

「――アーンド、フェスティバァウッ!!」

 雷が止むとカッシーン達が連鎖的に爆発し、一掃された。
その爆風の中から勢いよく飛び出してくる仮面ノリダー。

「げぇほっ、げほっ、久しぶりだから火薬の量が多すぎたな……! おいスタッフ!! 
ちゃんと後処理しとけよ!?」
(スタッフって何……???)

 真面目な優等生であるが故に、やや社会常識に疎いクイーンにとって
ノリダーの破天荒過ぎる言動は理解が及ばないようだ。

「仮面ノリダー……無茶苦茶だけど、凄い……!」

 目の前で繰り広げられるノリダーの自由奔放な戦いぶりに、
ソウゴも呆気に取られていた。

「ソウゴォ!! 無事か!?」

 クォーツァー・パレスの中から出てきたゲイツとツクヨミが駆けつけてくる。

「2人とも! 来てくれたんだね!!」

24人目

「Another Wars side:WIZARD 前」

 クォーツァー・パレス 地下道

 燃え盛る地底。
 そこに立つは絶望を騙る異形の魔術師。
 相対するは絶望の化身と光の勇士。

『Flame』

 小手調べと言わんばかりに、火炎を数発放つ。

「水よ!」

 リクがキーブレードから水弾を数発放ち、迫る火炎を消火させてゆく。
 その隙をつき、江ノ島がショットガンから絶対破砕の銃弾を放つ。

「鉛玉で俺を砕けるとでも!?」
『Defend』

 その刹那、大地から岩の城壁が聳え立つ。
 魔弾からアナザーウィザードを守らんとする、巨大な盾。
 銃弾すら弾かんとするその城壁は、ただひたすらに分厚い。

「岩ごときで守ったつもりか!?」

 そう、ただの銃弾ならば。
 江ノ島の持つソレはアレクサンドル・デュマによって改稿された疑似的な宝具にも近い。
 故に、その宝具(ぶき)より放たれる銃弾は岩壁すらも破砕する___!

「何!?」

 砕け散る岩の城壁。
 続けざまに放たれるリクの魔法。

「凍れ!」

 冷気を帯びて放たれる、ブリザガの魔法。
 喰らえば確実に凍り付く。

「少しは出来るようだが!」

 攻撃を防御し、周囲を破壊しながらさらに迫る。
 それに対し江ノ島とリクは連携を取りながらアナザーウィザードを迎撃する。

「このまま押し切ってやるぜ!」
「くだらん、それを無駄な行為というのだ!」
『Liquid』

 魔術で自身の肉体を液状化させながら、アナザーウィザードは江ノ島のショットガンによる攻撃を回避し続ける。
 しかし、ただ回避するわけではない。

「消えた?」
「しまった!後ろだ!」

 リクが気づいた時にはもう遅く。
 背後を取り、液状化を解除したアナザーウィザード。
 そのまま空中に浮かびあがり、魔術を使用する。

「サンダガ……!」
「遅いわ!」
『Connect』

 空中に浮遊し、雷を回避しながら2人を俯瞰できる位置に移動する。
 しかし、これすらも伏線に過ぎない。

「何のつもりだか知らねぇが!」
「まて、この状況は……!」

 リクはこの状況を分かっていた。
 かつてゼムナスと戦った時、ゼムナスは最後のあがきとして光線を全方位に張り、ソラと共に葬ろうとした。
 これは内容の詳細こそ違えど、それに類似しているのならば。

「そのまま塵芥と化せ!」
『Flame』

 アナザーウィザードの周囲から炎が放たれ、眼前の魔法陣に吸い込まれてゆく。
 そして、2人の周囲に配置された魔法陣を経由し、今まさに業炎が放たれようとしていた。

「リフレクト!」

 リクが自分たちの周囲を囲うように、小さなバリアを張る。
 そのバリアは迫り来る炎の塊をすべて弾き、霧散させていった。

「小癪な真似を!」
『Gravity』

 ただではやられまいと撃ち込む、次なる一手。
 ゼムナス戦とは異なる相違点が一つ。

「うおっ!」

 リクと江ノ島の周囲が重くなる。
 港区でのアルキメデス戦、その再現がここで始まる。

「ははは!それでは動けまい!」

 勝利を確信したアナザーウィザードが嘲笑する。
 そしてこのまま2人を燃やさんと、再び火炎魔法を放とうと試みるも、彼の前に映る光景は自身の希望的想定とは違っていた。

「……バーカ。まだ動けんだよ。」
「重力魔法か、これで2度目だ。」

 強がりか、或いは本心からか。
 ふらつきながらも、その膝はついていない。
 まるでその技に対する対策を練った戦士のように立っている。

「その状況下でまだ立つだと……!」

 驚愕を隠せないアナザーウィザード。
 その震える声を聞いた江ノ島は、舌をぺろりと出して言い放った。

「前に似たような技を喰らったことがあるんで、こっちは慣れてんだよ!残念だったな!」

 いつものように立ち上がりながら、強がりを言う江ノ島。
 しかし事実としてその身体は確かに重く、動きは鈍重だ。

「強がりを……ならば今度こそ終わりだ!」

 激情に任せ、アナザーウィザードは2人目がけて巨大な炎を放とうとする。
 重力魔法は間違いなく効いているのだ、そう簡単に逃げ切れるわけがない。このまま撃てば彼らは間違いなく焼死する。
 怒りと愉悦、背反する2つの感情とそこから来る躍動に身を任せ放とうとする。

「いや、終わるのはそっちだ。」

 その一言が響いた瞬間、ミサイルが如き蒼光が2人の頭上を飛んでいった。
 蒼い光はアナザーウィザードを吹き飛ばし、重くのしかかる重力魔法を解除した。

「誰だ!」

 土煙の奥より、黒コートの男が立つ。

「___間に合ってよかった。」

 リクにとっては見慣れた、ⅩⅢ機関の象徴たる黒コートの戦士。
 その者がフードを外すと、そこには蒼い狼のような男がいた。
 その在り方を、リクはよく知っていた。

「……サイクス!?」

 月に舞う魔人、サイクス。
 己が得物である大剣クレイモアを手にして、絶望の魔術師の前に立つ。

「あんたの知りあい?」
「前に戦った相手だ。でも、なぜここに?」

 混乱を隠し切れないリクに対して、サイクスはいつものように冷静冷徹に告げる。

「話はあとだ、今はこいつを倒すことに集中しろ。立てるか?」
「あ、ああ!」

 立ち上がり、3人共武器を構える。
 かつては立ちはだかる強敵として苦戦していた相手。
 しかし今は心強い味方としてここにいる。

「一人増えた程度で……!」

 クレイモアの爆撃から立ち上がろうとするアナザーウィザード。
 ゆっくりと立ち上がった彼にはもう。殺意しかなかった。

「もはや容赦はいらん、ここで鏖にしてやる!」

25人目

「警部は憤る」

暫し前の事。

「ぬぁあんだとぉーーーっ!?」

東京都の中心で叫ぶ、一人の男が居た。
彼は銭形警部、ICPOから派遣されたルパン専任捜査官だ。
だが、今の彼の眼中にルパンの事は無い。
怒りに満ち、憤っている彼の脳裏を占めるのは、日本警察の現状だ。

「お、落ち着いて警部…!」
「これが落ち着いていられるかぁ!貴様も同罪なんだぞ、エェ!?」

彼に対するやつれた様子を見せる男は、嘗てシャルル達と関わった悪徳警部だ。
散々刑事と間違われているが、これでも刑事より偉い警部なのだ。
そんな彼が、部外者の筈の銭形警部にこうも怒鳴られている。
何故、こうなったかと言うと…



イヨォ、ドンドン!



指輪を拝領せんと東京に参上したルパン三世。
彼の追跡をしていた銭形警部だったが、ルパンが一枚上手を取り、後一歩の所で取り逃してしまう。
仕方なしに、捜索へと舵を切る事になる。
だが。

「えぇい、やけに酷い光景だ!東京は一体どうなっとるんだ?」

東京は銭形の知るソレとは違い、まるで世紀末の様な有り様だった。
何時もならば、無数のサラリーマンが行き交う正しく主要都市と言うに相応しい光景が広がっている。
だがどうだ、今は人っ子一人まるで見つからない。
代わりに見えるのは、焼け落ちたビルや倒壊している建物、そして破壊された道路に瓦礫の数々。
その光景を見て、銭形は訝しむばかりだ。
ここは世界でも有数の治安の良さを持つ日本では無かったのか?
そんな疑問を抱き、彼は先ず警視庁へと向かった。
そこに何か手がかりがある筈だと期待して。

「うわぁ、何じゃこりゃー!?」

果たして、変化は訪れた。
警視庁に入った途端、その凄惨さに言葉を失う。
辺り一面、血だらけの無残な死体が転がっていた。
殉職したサツの山だ。
負傷者等もまた、同じ様に並べられている。
そこに医療関係者と思わしき者達が、引っ切り無しに歩き周って治療を行っている。
さながら、野戦病院の様相を呈していた。

「お、おい君、しっかりしろ!」

まだ息のある男を発見し、抱き起こす。
その体は至る所に火傷を負い、顔に至っては重度の火傷を負っていた。
それでも何とか呼吸をする男に、必死に呼び掛ける。
すると、弱々しい声で返事があった。

「あ、あんたは誰だ、警察か?」
「そうだ、お前さん達は一体何が有ったんだ?」

そう問いかけると、虚ろな目を向けて、一言零す。

「た、助けてくれ、あいつらを、頼む。」

そう言い、男の意識は途切れた。
しかし、今の言葉はどういう意味なのか?
銭形は、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。

「死ぬなよ…」

それから暫くして、怪我人は一通りの治療を終えたらしい。
担架に乗せられ運ばれていく男を見送り、銭形は現場の責任者を探す事にする。
そして見つけたのが、あの悪徳警部だった。

「おぉ、お主が現場の責任者か。儂はICPOの銭形警部だ、一体この惨状はなんだ?」

そう聞くと、警部は無言で俯く。
不可思議な印象だった。
それに苛立ちを感じ始めた頃、やっと口を開いた。
だが、それは銭形にとって突拍子も無い内容であった。

「メサイア教団だ、奴等が全て無茶苦茶にしていったんだ。」
「メサイア教団?そりゃ確か、前に何か御大層な名目を掲げた奴等だったか?」
「あぁ、そのメサイア教団だ。」

メサイア教団、それは数年程前から活動し始めた宗教団体の事だ。
彼らは教義として、神の愛を説いた。
神の教えを説き、人々を進化へと導く、それが彼等の掲げる理念である。
だが胡散臭いカルト宗教の内の一つとして一蹴していた銭形にとって、その存在が示唆された事は寝耳に水だった。

「そのメサイア教団とやら、一体何をしたんじゃ?」

そう聞いた銭形に、警部は沈痛な面持ちで答える。
事のあらましを語る彼の顔は、まるで罪科を告白する罪人の顔付きだった。

「奴等が暴動を起こした。それに陽動された暴徒も湧き出て、東京は一気に麻痺したんだ。」
「な、何だと?」

出てきたのは、余りに突起な内容。
現代日本で巻き起こっている事態だとは、俄かには信じ難い。

「そ、そんな馬鹿な事があってたまるか!ここは日本だぞ!?」

思わず声を荒げ、警部の襟を掴む銭形だが、警部は黙って首を横に振る。
彼の表情が、嘘ではないと語っていた。
信じられない、信じたくないと、銭形は困った様に眉を顰める。
だが本当の話なのだと、銭形は直感で理解してしまった。
理解して尚、霹靂とした感情に圧迫される他無かった。

「どうなっとるんだ、何が一体…?」

銭形の呟きが、警視庁の廊下に木霊する。
そんな困り果てた色に染まった声に、警部が恐る恐る答える。

「…腐敗だ。」
「_何?」
「警察の上層部は、メサイア教団に乗っ取られて_」

そこまで言いかけて、彼は言葉を止めた。
気付けば、今にも食らいつかんばかりの殺気に満ちた憤怒を、銭形が向けていたからだ。

「どういう意味だ、詳しく説明しろ。」

普段よりも、一段低い声。
そこには、有無を言わせぬ凄みがあった。
警部は気圧され、怯えながら、彼は警視庁の末期的な状況を話す事になった。



そうして今に至り、銭形警部は怒りに燃え上がる始末である。

「つまりなんだ?メサイア教団とやらの横暴を上が握り潰した結果がこの様か!?」

悪徳警部の胸ぐらを掴み、怒鳴り散らす。
この国のトップは腐りきっている事を、銭形は深く確信した。
なればこそ、と意気込んだ所で外から警察車両のサイレン音が鳴り響く。
少しして現れたのは、銭形が引き連れた直属の部下達だった。

「銭形警部、此方でしたか!連絡が付かなかったもので、探しました!」

言われて、銭形は自分の無線機へ引っ切り無しに連絡が来ている事に気付く。
そんな事さえ忘れる程に、彼は怒りに燃えていた。

「ルパンですが、未だ足取りは掴めず…このまま捜査を_」
「中止だ。」
「え?」

部下の刑事が報告を終える前に、銭形は命令を下す。
それは、思いもよらぬ言葉だった。
困惑する彼らに、銭形はこう続けた。

「大悪人がここ警視庁本部にいる、先ずはそいつを逮捕する。」
「正気かアンタ!警察上層部だぞ!?」
「相手が誰だろうと、悪党ならワッパを掛けるのが俺の主義だ。」

警部を睨み返すその瞳は、鋭く、強い光を放っていた。
正義の意志、それが如実に表れた眼差しだった。

「こんな無法、神が許してもこの銭形が許さんっ!全員、掛かれぇ!」

26人目

「Another wars side:WIZARD 後」

 アナザーウィザードの怒りに呼応するように、周囲を取り巻く炎が強く猛りだす。

「燃え尽きろ!貴様らの痕跡、希望、全て灰にしてくれる!」

 激情と共に周囲に猛る炎から更に火炎の弾を放つ。
 迫りくる火山弾のようなそれは、絶望に抗おうとする3人に食らいつかんと襲い狂う。

「防御が間に合わねぇ!」

 まるで全方位から機銃を向けられ、撃たれているかのようだ。
 これでは防御するのに精いっぱいになってしまう。

「それでは動けまい!喰らえ!」
「!」

 とどめを刺すために、3人の周囲に火炎弾のドームが形成する。
 さっきの量の数倍はある。
 まるで砂漠の砂粒のように全方位を炎に覆われては、もはや回避できない。
 そして、炎の壁の奥が爆裂する。

「ふん、他愛もない。」

 勝ち誇ったかのように、その場から去ろうとするアナザーウィザード。
 しかし、その勝利の確信は打ち砕かれる。

「____貴様の炎はそんなものか?」
「!?」

『Defend』

 大剣と石の壁によるつばぜり合い。
 岩石を破壊しながら迫るサイクスが挑発する。

「貴様ら……防ぎ切ったというのか!?」
「ああ。俺の友も炎を操ることができるが、そっちの方がまだ恐ろしかったよ。」
「貴様_______!」

 サイクスの脳内に幻影の如く映る、友の姿。
 たとえ彼に心がなくとも、その思い出/希望は永遠に色褪せない。
 やがて、アナザーウィザードを両断できる距離までに迫るが……。

「確かに攻撃は強いが、そんな攻撃がいつまでも通じると思うな!」
『Liquid』

 その体を液体に変化させ、撫で斬りを回避する。

「ハッ!このまま終わらせてやる!」

 アナザーウィザードが、まるで水面から飛び出るイルカのように飛び出す。
 物理攻撃は通用しない。
 こちらは物理攻撃を扱うものを多く抱えている以上、簡単に止めることはできない。

「そうすると思ったよ。でなければ物理攻撃は避けられないもんな。」

 そう、物理攻撃は。
 しかしこの場には魔法が使えるリクがいる。
 そして、魔法によってその体を液体とし攻撃を無限に回避し続ける小癪な敵に対する策も、既に成就する。

「凍てつけ、ブリザガ!」

 キーブレードから冷気が放たれる。
 液状化する身体が、一気に凍り付く。
 水のような体が凍り付き、一気に物言わぬ氷像と化す。

「これなら……!」
「江ノ島、離れろ!」

 リクに促されるように、江ノ島はその場から少し離れる。
 それを察知したサイクスは、まるで狼のような咆哮を上げる。

「月よ照らせ!」

 髪は逆立ち、目は輝き、彼の持つクレイモアは巨大化する。

「今だ江ノ島!凍結はいつまでも続かない!早くとどめを!」
「分かってんだよ!」

 急ぎ足でショットガンに弾丸を込める。
 スライドを引き、照準を合わせようとする。

「……く。ははははは!一歩遅かったな!」

 一手早かったの相手の方だったか。
 凍結は解除された。
 青く凍っていた異形の躰が氷の反射により赤く輝く。

(このまま攻撃を回避した後即焼き尽くしてやる、俺の勝ちだ……!)

 勝利を確信し、その声色に愉悦がにじみ出る。
 しかし。

「おせぇよ。」
「あ……!」

 時すでに遅く。装填を済ませた方が早いという事実に気づかされる。
 液状化の魔術発動、その一瞬の隙をつかれ撃たれる。

「液状化……失敗……!?」

 そして再装填は終わり、後は一息に弾丸を撃ち込むのみ。
 もうアナザーウィザードには液状化する隙も、岩の壁で防御する時間もない。

 その広がった隙を、江ノ島は見逃すことはない!

「やめ……!」
「いや、ゲームオーバーだ。」

 不敵な笑みを浮かべ、江ノ島はショットガンの引鉄を引く。
 命乞いをする暇もなく、異形は爆裂する。

「ぐわああああああああああああーーーーーーー………」

 貫徹、貫通、そして炸裂。
 ショットガンの魔弾を心臓部に受ける。
 爆風と火炎に飲まれ、アナザーウィザードは遂に消滅した。

「終わったな。」

 一時の安堵。

「うわっ!」

 その瞬間、3人の視界が光に包まれる。
 光の先はクォーツァー・パレスの廊下だった。
 どうやらアナザーウィザードを倒したことで元の位置に戻れたようだ。

「どうやら戻れたらしい。」
「良かった、てっきり自爆攻撃でもしてくるかと思ったぜ……。」

 再度、3人は安堵する。
 しかし休んでいる時間はない。先に進むしかないのだ。

 その道中で、リクがさっき気になったことを改めてサイクスに聞く。

「それにしても、どうしてサイクスがここに?」
「ああ、それについてだが……。」

 かつて敵だったものがここにいるという違和感に対する説明。
 サイクスは、今までの経緯をリク達に話し出した。



「そうか、ニュートラル・ガーディアンか。それは俺達の味方という解釈でいいのか?」
「ああ。それでいい。裏切るつもりもない。」
「他にも仲間はいるの?」
「ああいる。ザルディンに……」

 その時、廊下の奥から何かが響きだす。
 争うかのような、廊下内で決闘でもしているかのような音だ。

「なぁ、なんか聞こえないか?」
「剣がぶつかり合う音が聞こえる。あの先には、確かシャルルマーニュ達がいたよな?」

 確かに、自分たちは芥志木を追いかけていた。
 その過程で落とし穴に落ち、シャルルマーニュとデミックスとははぐれていた。ならば今、シャルルマーニュ達は芥と戦っているはずなのだ。

『くっ!』
『つよっ……!』

 事実として、遠くからシャルルマーニュとデミックスが戦っている声がする。
 しかしその内容から察するに、存外に苦戦しているようだ。このままでは敗北してしまう可能性もある。
 であるのならば。

「急ぐぞ。シャルルたちの支援をするんだ!」

27人目

「裁く者、裁かれる者 ~ 承太郎VSアナザーW ~」

「シャアアッ!!」

 旋風を纏った飛び回し蹴りを繰り出してくるアナザーW。
ポケットに両手を突っ込んだままの承太郎は一歩、二歩と後ずさりしながら
避わしつつスタープラチナでガードする。

「どうしたどうした、その程度じゃあ俺を倒すことは出来ねぇぞ! はっはーッ!」

 アナザーWが余裕ぶっているのを尻目に、
承太郎は帽子の鍔越しにじっと相手を見据える。

「野郎……!!」
「そろそろトドメといくぜ! ハァァッ……」

 アナザーWの全身に風のエネルギーが集中していく……
竜巻を巻き起こして垂直上昇したかと思うと、
空中から急降下しながら承太郎目掛けて突っ込んで来た!!

「さあ、お前の罪を数えなァァァァァッ!!」

 両足を揃えたキックが、承太郎に直撃するかに思えたその瞬間……
彼はニヤリと笑ってみせた。

「罪だと? 寝言を言ってんじゃあねーぜ……」
「なぁにィ!?」

『オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 スタープラチナの鉄拳が、アナザーWの両足に真正面からぶち当たった!!

「罪を裁かれるのはてめーだ……そしてッ!!」

 アナザーWに競り勝ったスタープラチナ。キックの勢いが完全に殺され、
無防備になったアナザーWに向かってすかさずパンチを叩き込む。

「ぐほおおおおおおおッ……!?」
「裁くのは俺のスタンドだッ!!」

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ……
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ……』

 目にも止まらぬスピードのラッシュが、アナザーWへと炸裂する!!

「ぐっ、ぐぎゃあああああああああっ……」
『――オラアアアアアアアアアアァッ!!』

 上半身を大きく振りかぶった渾身の一撃が、ついにアナザーWを吹っ飛ばした。

「グワァァァッ!!!」

 アナザーWは背中から床に叩きつけられて大の字になり、
煉瓦造りの床に埋もれて動かなくなった。傍らに落下したアナザーWライドウォッチが
粉々になって砕け散り、変身していた男の姿に戻る。

「てめーの敗因はたったひとつ……
たったひとつのシンプルな答えだぜ……『てめーは俺を怒らせた』……」

 DIOとの戦いで死んでいった仲間たち、そしてこれから訪れるであろう
承太郎自身の未来……それを好き勝手に操ろうとするクォーツァーに対し、
怒りを感じないはずはなかった。

「う……うぐぐ……」
「あいつらは、己の命を賭して俺に託した……DIOを倒す事を……
そして奴を倒し、今こうして立っている……それに……『運命』ってのは自分の手で
切り拓くもんだ……てめーらにとやかく言われる筋合いは無え……」

28人目

「逢魔が時」

ノリダーの活躍は、内容に目を瞑れば目覚しい物だった。
迫り来るカッシーンの集団を、見事一掃してみせた。
だが、脅威は未だ去った訳では無い。
この場における最大の脅威が2人、残っている。

「やってくれたねぇ君達、替え玉とライダー未満の癖に。」

怒りの情を隠そうともしないザモナスが、一人愚痴を零す。
こめかみをトントンと叩き、2、3度程繰り返した後、一気に憤怒が発破した。

「本っ当に、頭に来ちゃうねぇ!」
「うっひゃぁ!!?」

怒りに任せたボウガンの連射が、ノリダーを直撃。
プロテクターが火花を散らし、ノリダーを包む。
やがて連鎖的な爆発を巻き起こし、火柱が幾つも登った。

「ノリダー!?」
「ケホッケホ、ちょっとスタッフ今回火薬多くない…?」
「ふざけた輩だ、つくづく苛立たしい!」

尚もボウガンを構え、ノリダーを仕留めんと歩み寄るザモナス。
ギシリ、ギシリと床に罅を走らせながら踏みしめる彼の仮面の裏に、怒りの形相が浮かんでいるのは想像に容易い。
確実に射殺せる位置にまで近づき、ボウガンを突き付け、引き金を引く。
さしものノリダーすらも、葬りかねない一撃。

「させるか、これ以上は!」
「私達が居るって事、忘れないでよね!」
《ゲイツ!》《ツクヨミ!》

その凶弾を、眩い光を纏いながら割って入った二人が弾き落とす。
光が収まった時、ノリダーの傍にいたのは赤と黒のツートンカラーをした戦士ゲイツと、純白の装甲を纏うツクヨミだ。
ジカンザックスを構え、二人がザモナスに肉薄する。

「良いよ、もうどうせ全部倒すんだから。誰が来ても関係無いねぇ!」

怒りに声と肩を震わせて、ザモナスが二人の攻撃を捌く。
ゲイツのジカンザックスを紙一重で躱しては、マントを翻して反撃に転ずる。
野性的なけたぐりでツクヨミを蹴り飛ばし、返す刀でボウガンを乱射する。
数の優位を失っても尚、ザモナスは優位だった。

《ロボライダー!》
「そらどうしたぁ!まだまだこんな物では俺に勝てんぞ!」

一方のゾンジスもまた健在だ。
ロボライダーのライドウォッチを使い、無数の弾幕を張って敵を寄せ付けない。
かと思えば隙を見つけ、自ら接敵しては重厚な剛腕を振るい、確実にダメージを与えていく。
ザモナスが猛獣なら、ゾンジスは要塞だった。

「何ともしぶといな、小童が!」

振り下ろされた巨大な拳を避け、必殺の右ストレートを放つゲイツ。
一瞬の交錯の後、両者の立ち位置が入れ替わり。

「_ぐぅ!?」
「はっ、その程度か?」

攻撃を受け流しながら打ち込まれた裏拳に、ゲイツが膝から崩れ落ちる。
ゲイツの拳や蹴りは悉く通用せず、逆に敵の攻撃は一撃でも致命傷になりうる威力を持つ。
暴威が、そこにあった。

「二人とも!俺は、どうしたら…!」

二人の窮地に歯噛みするソウゴ。
彼とて見過ごすつもりは無いが、助けに入るには彼我の差が余りにも大きすぎた。
力になるには余りに非力、逆に荷物となる事は目に見えている。
ただ、歯を食いしばって無事を祈るばかりだった。

「ぐあぁ!ゴフッ…!?」
「あぁぁ!!?」

だが、現実は非常にも無慈悲なものだ。
ザモナスとゾンジスの攻撃を受け、倒れ込む二人。
彼等の装甲から、限界を迎えたかの如く火花と紫電が飛び散っている。
もう間もなく変身を解除させられるのは、目に見えていた。

「いい加減さぁ、これで終わりにしようぜ?なぁっ!!」
「同感だ、行くぞ!」

もう付き合いきれぬと言わんばかりの二人が、ライドウォッチのライドスターターを叩く。

《《フィニッシュタイム!》》

死を告げる宣告が、響き渡る。

「…めろ。」

秒針が刻まれていく。

「やめろ…」

二つの脅威が、今まさに二人の鎌首を狩らんとするの見て。
気付けば、足は駆け出し。

「やめろ_!」
『死ぬつもりか?』

脳裏の奥底から響く、かの懐かしき声。
同時に、ソウゴの眼前に映る光景が、糸を引いて遠くへと消えていき、霞と化す。
やがて鮮やかな白一色に意識が染まった。

「うっ…!」

次の瞬間、風景が一変する。
目に飛び込むは、薄汚れた空、砂塵舞い散る枯れ果ての地。
その真っ只中で、王座すら無き王が、ソウゴを見据えて仁王立ちしていた。

「オーマジオウ…いや、50年後の俺。」
『そうだ、若き日の私よ。』

その覇気、威厳、力強さ、存在感。
カラーノイズに侵されて尚、そのどれもが今のソウゴとは比べ物にならない。
正しく王たる有様に思わず気圧されるが、負けじと睨み返す。

「今アンタと話している時間は無いんだ、どいてくれ!」
『ほう、まるで私と話す以外に何か出来る様な口ぶりだな?』
「_っ!」

オーマジオウは、全てを知っている。
己の無力を、改めて突き付けられる。
ソウゴは自分が既に詰んでいる事を、自覚していた。
彼の言う通り、もう何も残っていないのだ。
一度彼等に負けた自分が、ジクウドライバーも無く割って入ろう等、時間稼ぎにもならない事は自分が一番知っている。
だが。

「それでも!助けたいと思ったらいけないのか!?」
『愚かだな、若かき私よ。』
「ああ、そうだろうね。俺は、ただの大馬鹿かも知れない。」

でも、と言葉を続け、目の前の自分に問う。

「この手に届く誰かを救いたい気持ちは、アンタにだって分かる筈だ!」
『…』

沈黙が、辺りを支配する。
ややあって、オーマジオウが口を開けた。

『ならばその意志、どの様な力を以て成す?』
「そんな物、最初から決まっている。」

もう、覚悟は決まっていた。
自分の手で、救える者を救う。
例え、未来で魔王と呼ばれる事になろうとも。

「最善最高の、魔王の力でだ!」

告げるは、この身に宿した原初の誓約。
求めるは、時を統べる王の力。
果てに見据えるは、善に満ちた太平の世。

『_良かろう。』

オーマジオウが、そう呟く。
刹那の間の後、オーマジオウのベルトは光に還り。
気付けば、風景は直前の瞬間に戻され。
ソウゴの手に、黄金のライドウォッチとジクウドライバーがあった。

《オーマジオウ》

29人目

「貫徹せよ、白銀の矢の如く」

「AW-S06:Eliminator。絶対兵士ペコオルタ、否、辺古山ペコよ。」
「……何の用だ。」

 短い金髪に、ひげを蓄えた黒コートの男。
 港区から駆け付けたルクソードが、クォーツァー・パレスに向かう彼女の前に立っていた。

「本当に良いのかね?決意は変わらないか?」
「何のことだ?」
「これから死ぬ君の事だ。それでも決意は変わらないかと聞いているだけだ。」
「簡単に変わる決意ならば、今頃ここにはいない。」

 依然、彼女の眼は輝いている。
 その決意は鋼鉄の如く、ひたすらに固いことを悟ったルクソードは、微笑みながらその手を差し伸べる。

「そうか。では私が決戦の地まで送ろう。何、私は味方だ。」



 クォーツァー・パレス渡り廊下

「さぁ来い。」

 そう言う芥は、臨戦の意志を持った言葉とは裏腹に何の構えも取らずに黒いコートのポケット部に手を突っ込みただ突っ立っているだけだ。
 戦う気のないようにも見えるが、先の槍を弾き飛ばした行動がある以上油断はできない。

「言われなくても!」
「待てデミックス!あいつなんかヤバいぞ!!」

 シャルルマーニュの忠告を無視して、特攻を開始するデミックス。
 シタールから無数の水弾を放つも、芥は鉄仮面が如き表情を崩さない。

「この程度の挑発に引っかかるとはな、バカめ。」
『魂線斗霊:逆流』

 デミックスのシタールから芥目がけて放たれた水弾が、全て逆流する。

「水が!?うわっ!!」

 まるで散弾銃のように逆流、加速する水の弾幕をもろに受ける。

「ぐっ……そうか、お前のエネルギー逆流の能力!それでアビダインを落としたのか……!」
「そのダメージを受けながらもここまで分析するとは、流石元ⅩⅢ機関。少しは出来るようだ。だがそれを知ったところでお前らには俺は倒せんよ。」
「何?」
「なぜなら攻撃には常に運動エネルギーがある。というか、全ての行動には必ずエネルギーを必要とする。そして、俺はそのエネルギーを操作することができる。」

 その異能は、この世全ての力の支配者。その象徴と言えるべきだろう。
 力を支配するがゆえに、己の心は不動。故に心は鉄のように固く、何があっても傷つかない。
 硬い意志さえあれば、周囲の力に支配されることなく逆に力を支配できる。

「その気になれば宝具の動きでも反射できる。お前らの攻撃なぞ、一切効かないと知れ。」
「そんな出鱈目なこと……!」
「いや、こいつの言っていることはマジだ!でなければアビダインを落とすだなんて無茶な事ができるわけがない!」

 納得がいく。
 巨大な戦艦をも動かすエネルギーをも支配できるのだ、恐らく宝具も反射される。
 そして、気が付くと芥は次の攻撃をしようとしていた。

「無駄話は終わりだ。選べ。命乞いをするか?それともその場から逃げるかを。」

 いつの間にか、空中には周囲の武具や家具、瓦礫が浮かんでシャルルマーニュ達を狙っていた。
 その量は圧倒的に多い。もしかすると、シャルルマーニュが宝具を使ったとしてもその物量と加速度で此方が圧倒される。
 もしかすると押しつぶされて死ぬかもしれない。

「いや、まだだ……ここで抗ってやる!それが……或いは、増援が来て助けてくれるとかか?」……な!?」

 烈風。絶望を裂くかのように吹き付けるかのそれは、されど諦めぬ2人への希望となる。
 その証明として、六本の槍が空中から投げつけようとしていた巨大な瓦礫群を粉々に破砕する。

「あの槍の形は……!」

 デミックスが背後を見ると、そこには。

「ざ、ザルディン!?」
「久しぶり、と言いたいところだがそんなことを言っている暇はないな。」

 かつての仲間であるザルディンが立っている。
 同胞との再会に思うところはあるようだが、相手たる芥は戦うつもりだ。

「たかが一人、増援が増えた程度で勝った気になるとは!愚かここに極まれりだな。」
「いやそうでもないぞ。さっきの攻撃で貴様の弱点も見えた。幾らエネルギーを操作できるとしても、その量には限界があるだろう。放つ方向も特定の方向だけ。細かくは指定できない。つまり、貴様のエネルギー支配にも限界がある!」
「つまり……多方向から強い力で攻め込めば行けるってことだな!」
「そう言うことだ。」

 差し伸べられた希望。
 それを手に3人は鉄の化身に立ち向かう。

「まさか敵に塩を送られるとはとことん嘗められたものだ。貴様、それはもう苦戦することはないという意思表示か?であるのならばそれを挫くまで。」
「なら、お前の負けだ。」
「強がりを……!!」

 ザルディンの挑発に、芥の語気が強くなる。
 その時、シャルルマーニュたちの背後から咆哮するかのような声が響きだす。

「だぁあああああああああ______!!」

 そこから放たれるは、白銀の矢。
 一振りの高周波ブレードを手に、義憤と決意を手に少女は突撃する。
 その顔を見た瞬間、今まで無表情だった芥の顔に一気に感情が浮かび上がった。
 それも、驚きと怒りをにじませた激情に。

「き、貴様は……AW-S06!まさかここまで走ってきたというのか!?俺を殺すために!俺を……倒すために!!」
「そうだ!!そして、そんな名前はもう捨てた!」

 彼女の剣が、無数に向けられたエネルギーが、意志の力が芥の支配をもはじき返す。
 ついには、その高周波ブレードが芥の腹部に突き刺さった。

「が……がふッ!!ば……かな!」
「この男は私がやる。事情は知らないが、先に行け!」
「で、でもこいつは!」
「いいから!先に行ってくれ!!」

 芥に高周波ブレードを深く刺しながら、彼女は咆哮する。

「わ、分かった!」「行くぞ!時間がない!」「死ぬなよ!!」

 SOUGOの元に向かうシャルルマーニュ達を見送ったペコは、芥との最終決戦に臨む。
 彼の腹部に突き刺さった剣を決して抜くまいと、その手に渾身の力を籠める。

「貴様……AW-S06!我らメサイア教団の兵器ごときが!」
「私は兵器じゃない!!私の名は、辺古山ペコだァーーーーーーッ!」

30人目

「Epilogue - Over Quartzer -」

 辺古山ペコ・オルタ出陣、オーマジオウの力を継承した常磐ソウゴ……
最後の戦いに赴く者たち……

「……」
「あれは……!?」

 玉座の間がある一際高い塔の上から、常磐SOUGOと戦っていたはずの
スウォルツが戦場を見下ろしていた。アナザーディケイドの変身も解けている。

「スウォルツ……!?」
「兄さん……?」

「――ごほっ……!!」

 ゆらり、とスウォルツの身体が揺らぎ、倒れ込む。
その背後には、バールクスが立っていた。スウォルツは、王との戦いに敗れたのだ。

「何ッ……!?」
「兄さん……! いやああああああッ……」

 ツクヨミが悲鳴を上げる。

「ふん、オーマジオウの力を手に入れたか、偽りの王よ……」
「……」

 ソウゴの手に握られた、新たなジクウドライバーとライドウォッチ。
それは紛れもなく、ソウゴがオーマジオウから譲り受けた力だった。

「だが、それでもこの俺には勝てんぞ! 見るが良い!!」

 ソウゴから奪ったグランドライドウォッチ、そして……

「!? あの指輪は……!」
「魔術王ソロモンの指輪……ダ・ヴィンチちゃんが言っていた……」

 立香とマシュの脳裏に浮かぶのは、冠位時間神殿ソロモンでの激闘……
その果てに失われたはずの指輪。

「貴様らがカルデアか……感謝するぞ。お前たちがソロモンの計画を砕いてくれたおかげで
この指輪を回収出来た。これは我が目的の為に使ってやる、有り難く思え!」

 ソロモンの指輪とグランドライドウォッチが共鳴し始める。
すると……

「!? 倒したはずの敵が……」

 先刻、CROSS HEROESが倒したはずのカッシーン軍団、
そして承太郎に倒されたアナザーWを始めとしたクォーツァー達の受けた
ダメージが再生され、復活を果たした。

「時間が……巻き戻った!? しかも、任意の対象物だけを……」
「ははははははは、どうだ! これが、真の王者たる者の証だ!」

 「やり直しの力」。ソロモンの指輪と平成ライダーの力が結集した
グランドライドウォッチを介する事で 常磐SOUGOが推し進める、
「醜き歴史をゼロに巻き戻す」と言う大望が達成されようとしていた。

「ようやくだ……お前達の『平成』を無かった事にし、美しい世界を築き上げるのだ!!」

「クォーツァー……彼らの目的は魔術王の人理焼却に通ずるものなのですね……」
「ふざけないで! 魔術王の力は……「あの人」の力は……
そんな事のためにあるものじゃない!」

 立香の叫びを嘲笑うかのように、高らかにSOUGOは叫ぶ。

「ふふふ、まだまだ序の口だ。こんな事も出来るぞ!」

 そう言ってSOUGOがグランドライドウォッチを掲げる。
すると、バールクスが4人に分身した。

「増えたァ!?」
「ただでさえ強すぎるっていうのに!」

「おお……やはり歴史の管理者たるは我らが王、ただ一人! 
世界に駆けるは、我らが王!!」
「イエス・マイ・ロード! ユア・マイ・キング!!」

 復活したクォーツァー達も、歓喜の声を上げ始める。

「さあ、どうする!? CROSS HEROES!」

 勝利を確信したか、余裕綽々な態度のSOUGO。しかし。

「決着には、少しばかり早いんじゃないか?」

 その声と共に、突如として響いた銃声。 
バールクスの足元に撃ち込まれた銃弾が、彼の足を止める。

「むう……?」

 コツ、コツ……暗がりからライドブッカーガンを片手に歩いてくる一人の男。門矢士。

「ディケイドか……今更貴様が何をしようとも……もはやこの流れは止まらん」
「そうとも限らんぞ。 ――海東!!」

 士は一枚のカードを放り投げ、その名を叫ぶ。
カードが宙を舞う刹那、空間が歪曲し、そこから一人の人物が現れた。

「これでひとつ貸しだね。ま、クォーツァーに一泡吹かせるためだ。
このくらい安いもんさ」

 海東大樹、仮面ライダーディエンド。
永らく姿を眩ましていた彼が手にするのは、一枚のカメンライドカード。
そして、それをネオディエンドライバーに装填すれば……

【KAMEN RIDE BLACK RX!!】

「何!?」

 その名を耳にしたバールクスの顔色が驚愕に歪んだ。それもその筈。
今、海東が召喚したのは、昭和最後にして平成最初の仮面ライダー。
そして、SOUGOが歴史から抹消したはずの存在……

「トゥアッ!!」

 ディエンドライバーから放たれた虹色の光がやがて人の形を成し、
黒いボディ、真っ赤な目――その胸に刻まれているのは黄金色の紋章――を宿す、
光の王子が姿を現した。

「俺は太陽の子ッ! 仮面ライダー! BLACKッ! R! Xッ!!」

 クォーツァー・パレスの頂に立ち、拳を突き上げるその姿は、
紛れもなく、バールクスの力の源流となったはずの仮面ライダーBLACK RXであった。
過去の世界に渡り南光太郎から奪ったRXの力の結晶こそが
バールクスの持つライドウォッチ。
それは即ち、バールクスがRXの存在を抹消し、成り代わった事を意味する。

「ば、馬鹿な……! そんなはずは無い……奴がここにいるなど!!
奴の力と存在を奪い、手に入れたのがこのバールクスだったはず……!!」

 この世界にRXが居ると言う事は、自分が消し去ったライダー達が蘇っているという事。
そんな事が、許されるはずがない!
ならば、眼前のライダーは一体……! その答えは、門矢士が知っている。

「俺は今まで、数多の世界を渡り歩いてきた。その中で立ち寄ったのが、RXの世界。
そして俺はRXと共に戦う事でその記憶と力をカードとして手に入れた。つまり、
貴様が持つライドウォッチの力と、今ここにいるRXは存在を異なるモノだと言う事だ」

「貴様ァァァァ……! 貴様は一体、何なのだ!?」
「通りすがりの仮面ライダーだ覚えておけ、変身!!」

【KAMEN RIDE DECADE】

「クォーツァー! 例え貴様らがどんな卑劣な手を使おうとも……
仮面ライダーBLACK RXは不滅だッ!!」
「黙れェッ!! この世に太陽はひとつだけでいいのだァッ!!!」

「マシュ、行くよ。あの人の力を、これ以上悪用させる訳にはいかない!」
「はい! 先輩!」

「最後の勝負だな……あの仮面ライダーBLACK RXと共に戦える日が来るとは……
こんなに心打ち震える事は無い! クォーツァー!! ぶっ飛ばすぞォウ!!」

 ノリダーとRX。昭和と平成を渡り歩いた歴戦の戦士たち……
決して交わるはずが無いと思われていた二人の共闘が始まろうとしていた。

『お前は何のために王になりたかったのだ? 他の者に認められるためか? 
それとも、自分が特別であるためか?』
「昭和も平成も関係ない……俺が王になりたかったのは、世界を良くするためだ!!」

【オーマジオウ!】

「変身!!」

【キングタァァァァァァァイム! 仮面ライダージオウ! オーマ!】

 そして、オーマジオウの力を継承したソウゴが満を持しての変身を遂げる。

「行くぞ、クォーツァー! 俺たちに、アンタたちの支配なんか必要ない!!」