消えた朝ごはんの行方

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1人目

朝、目覚まし時計が部屋中に鳴り響く。
僕はのそのそと上体を起こし、目覚まし時計を止めると...
身支度をするため、重い体を引きずりながらも洗面所へと向かった。

昨日夜更かししたせいか、まだ体がだるく......
鏡に映る顔もぼんやりしていて、いつも以上に寝癖がひどい。
....早く済ませてしまおうと、
欠伸を噛み殺しながらいつも通りに身支度を進めた。

一人暮らしを始めてかれこれ、数年。未だにこの生活には慣れそうにもなかった。
労働に洗濯や掃除などを筆頭にした家事.......目まぐるしい毎日でも、こなさなければ。

そう考えながら台所に移動し、できるだけ早く食べられそうな食事を作っていく。
.......トースターでパンを焼き、 マグカップにほうじ茶を入れ、
焼き上がりを待ちながら適当に一から十二の数字を押して、
とにかく労働への憂鬱感を少しでも払拭できないか、とTVを眺める。

液晶に表示されるのは新商品の宣伝をしている知らない女優とか、
朝の情報バラエティー番組での近々放送されるドラマの告知、
朝の連続短編ドラマに子供向けの教育番組とか、
最近の若者の流行りについてまとめた内容だったり、政治などのニュースが流れてくる。

...どれも自分の興味を唆ることはなく、ただ惰性で眺めていた。
『え〜...次のニュースです、昨夜未明 〇〇県〇〇市で火災が発生しました』
どこかやる気を感じない女性キャスターがそう言うと、自分の会社付近の住宅が映し出された。
「あ〜...あの場所か」なんて、呟いたり...適当にTVを見ていたら、辺り一体が焦げ臭く感じた。

「.....やっべ」
慌ててトースターの元へ向かい、中を確認すると...トースターの中には何もなかった。
というか、この焦臭さはトースターの方からじゃない。
じゃあ、どこからなのだろうか...と、周囲一体を見て回ると...

2人目

「え、なになに、怖」

どこを見ても焦げ臭さの根源は見当たらない。レンジもコンロ周りも特に触っていないし、異常はなかった。

ふいに、耳をつんざく警報が鳴った。

「か、さい報知器!!」

もうもうと窓の下から立ち上ってくる煙があった。これが臭いの原因だったと見える。

「ど、え、どうしよ、」

まさか下で何かが起こっているのか。火事でも?いや、否定したいと思ったところでその可能性が否定しきれない。命が脅かされている、恐怖がした。耳に心臓の音がはっきりととどく。

さんざ迷った挙句ベランダに出た。外はぬるい風が吹いていた。それから、灰色の気体に透明度が侵食されていた。

「......死ぬんじゃな、ないよな」

混乱していて、正気でなさそうな衝動に突き動かされた。それから、そのまま、手摺を強く握って乗り越えた。

3人目

強い衝撃を感じた。あぁ死ぬんだな、大人しく救助を待つべきだったのだ、と遠のいていく意識の中で強い後悔を感じた。完全に意識が途絶える瞬間、僕の頭に浮かんだのは、消えたパンのことだった。

......ジリリリリ...ジリリリリ

目覚まし時計の音で飛び起きる。

「え...今死んだんじゃ...」

状況が理解できないまま、僕は目覚まし時計を止めるが、すぐに夢だということに気づいて思わず笑ってしまう。夢なんて久しぶりに見たな...にしてもリアルだったな、とそんなことを思いながら立ち上がり身支度を終え、朝食を取ろうと台所へ向かう。

トースターでパンを焼き、その間にほうじ茶を飲みながらテレビを付ける。
政治、流行、寝起きの頭に入る情報はほんの少しだった。

その後映し出された映像に、僕は思わず目を擦って現実かどうかを確かめてしまう。
テレビ画面に映る火災現場の映像は、夢の中で見たものと全く一緒だったのだ。
そう意識して考えると、目が覚めてからの僕の行動は、夢の中の僕と同じ行動をとっている。まさか、予知夢...?それとも僕の思い込み?奇妙な出来事に考え込んでいたが、火災報知器の音で我に返る。

まさか...本当に火事が...?
このままベランダから脱出するか...?いやそれでは僕は死んでしまう。夢の出来事を思い出し、震える足で玄関に向かう。しかし、玄関は既に火が燃え盛っており、脱出はどう見ても不可能だった。

とりあえずベランダに出よう、そう思ったが身体は思うように動かず、床に倒れ込んでしまう。遠のく意識の中、夢と現在の状況を比較する。違う点は殆どない。火が燃える音と、微かに聞こえる消防車のサイレンも耳から遠ざかり、完璧に消えてしまう直前、

チーンッ

と、トースターが焼きの終了を知らせる音がはっきりと耳に伝わった。

ああ...パン、忘れてた...朝ごはん食べてぇな...

そう涙を流し、意識を失った。


......ジリリリリ...ジリリリリ...


僕は目を覚ます。
このとき、同じ朝をループしているということになんとなく気がついた。

4人目

スマホを見る。
やはり気を失う前の日付になっている。間違いなく僕は同じ日をループしている。

僕は今まで見てきたループ物の漫画やドラマを思い浮かべた。大体、いつもと違う行動をとれば時間が進むという話が多い。
僕の場合、いつもと違う行動というと、例えば朝食を食べる前に歯を磨くとかどうだろう。
トースターにパンをセットし、暖めている間に洗面所に向かった。

歯を磨いてみるとなんとも清々しい気分だったが、段々と異臭がしてきた。
焦げ臭い!
悠長に歯を磨いている場合ではない。
あわててトースターに目をやると、なんと焼いていたはずのトーストが消えているのだ。

そして玄関からは火の手が!
僕はまたもや気を失ってしまった。

……ジリリリリ…ジリリリリ…
そして幾度目かの同じ朝を迎えた。

もしかすると、トースターにパンをセットする事で火事が起こるのかもしれない。僕はすぐさま着替えて家を出ると、今度は火事に巻き込まれずに済んだ。

朝食はコンビニで買って食べよう。
そう思いコンビニに向かうと信じられない光景が広がっていた。

なんと、町がトースト星人に乗っ取られていたのだ。

説明しよう。トースト星人とはウルトラ朝食怪獣の一種で、主にトーストを主食としている怪獣である。ご飯星人とバナナ星人が存在する事は言うまでもないだろう。近年その種類を増やしているそうだが、まさかトースト星人に僕の町が乗っ取られていたとは。

僕のトーストがなくなっていたのも彼らの仕業に違いない。トースト星人の中には異能力を使える者がいると聞いたことがある。
彼らは何度も同じ朝を繰り返し、僕のトーストを何度も貪り私腹を肥やしているのだ。

許せない!
僕はトースト星人と戦う覚悟を決めた。