貴方はどう、わたくしを楽しませてくれるんでしょうか?

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1人目

拝啓…名も知らぬ皆様、お元気でしょうか?
わたくしはこの変化もないこの空間にいい加減飽きてきたところです。
嗚呼、申し遅れましたが…わたくしは一介の書きかけの小説。
長年書きかけのまま、蔵の奥底で眠りについており、
わたくしの著者であった方は、とうの昔にわたくしを忘れてしまっているでしょう。

このままではわたくしは完結もできずに、ただこの世を彷徨うだけの浮遊霊と同様。
……わたくしはそのような存在でありたくはないのです、
欲を言えば、著者であるあの人に完結してほしいとは思いますが…

そんなことを言えるような余裕などなく、
今は完結できるだけでも十分なことを自覚しなければなりませんね。
文句なんて結局、言うことすらわたくしはできないのですから。

さて、貴方はわたくしをどう楽しませてくれるのでしょうか?
ここからは貴方の自由です、
さぁ...貴方はどうやってわたくしを展開させてくれるんですか?

2人目

締め切り直前の原稿と睨み合うのに飽きて散歩に出た帰り、ポストの中に無造作に放り込まれた手紙の内容に私は衝撃を隠せなかった。
物語が意思を持つ?有り得ない筈なのに、『彼女』を最初の著者の元で完結させたい。その衝動に駆られ、私は自然とペンを取った。

【私はしがない小説書きもどきだ。ある作家に憧れて文筆家を目指したが、今の作品が打ち切られたら作家を辞めなければならない。だがら『彼女』の物語を完結させるために、次の作家に物語を託すことにする。取り敢えず『彼女』を楽しませるために水族館に連れて行こう。海は地球の生命すべての母だ。その海に今も住まう者たちを見せれば、『彼女』の心にも少しは響くものがあるだろう。叶うなら海の素晴らしさを『彼女』に伝えたかったが、残念ながら私に残された時間はあと僅かだ。この手紙を次に受け取った作家は『彼女』に次の物語へと連れて行って欲しい。そして、もし君が物語を完結させることができなかったら、次の作家に『彼女』を託して欲しい。これが今の私にできる精一杯の物語の続きだ。さぁ、本当にもう時間が無い。『彼女』の物語にハッピーエンドが訪れることを願って、次の者に託そう…。】

3人目

「…………水族館」
 水族館、ねぇ……。
 随分古い手記で、年季を感じさせる。もともと俺のじいちゃんが持ってた物だが、文才はないから俺に託すとかなんとか。で、仰々しい文章は俺宛てなんだと。いや、俺も別にないんだけど……。
 まぁ、主人公、「わたくし」とか言ってるし……どこかのご令嬢っぽいなぁ。とりあえず、こういう感じの設定を付け足そうか。

『 地球の約7割は水で出来ていると聞きます。そして、水族館とはそんな「水」が集約された場所。その中で暮らす海洋生物たちが悠々と泳ぐ場所ですわ。水族館に似つかわしくない、リボン帽子とドレス姿を携えて、わたくしは立っております。
 正直言いましょう。何なんですの? この状況は?
 水族館とはデートスポットであり、正直一人で歩くような場所ではないでしょう。なんか浮いてますし、周囲の視線も気になりますわね……』

 うん、こんなもんかな。
 

4人目

「なんか面白そうなことやってるね」
文芸部の部室で一所懸命に何かを書いている後輩を発見し、僕はこっそりと後ろから様子を見ていた。
彼があまりにも集中して気づかないものだから、僕はすっかり事の次第を理解してしまった。
「うわ、部長何時から居たんですか!」
驚く彼を放置して、僕は彼が書き上げたばかりのノートを取り上げた。
「続きは僕が書くことにするよ。それから、みんなにも回してみようじゃないか」
何か言いたそうな彼を制して、僕は筆を走らせる。

『わたくしが一人で居心地悪そうに水槽を見ていると、
「ねえ彼女、一人?」
若い男性が声をかけてきました。これが庶民の殿方の戯れ、ナンパというものでしょうか。
男性はお世辞にも上品とは言えないサングラスをかけ、はだけたシャツの胸元には金色のネックレスが輝いています。
知らない振りでやり過ごそうとしましたが、強引な男性はわたくしの腕を掴んで離してくれません。
困り果てている所へ現れたのが、飼育員の彼「磯野さん」でした。
磯野さんは男性の腕をとるなり、くいっと捻りました。
男性は苦痛に顔をゆがめ、掴んでいた手を離してくれました』

「うーん、難しいね」

5人目

 ようやくゲロ吐けたのが今。酒、ボロボロなのにやめらんないんだよ。
 ――あ?ずっと料金払ってなかったおれのスマホにメッセージ?
 『貴方はどうやってわたくしを展開させてくれるんですか?』……あのな、おれはお前を展開する前におれの人生をどうにか展開したいっての!
 おれだって昔は小説家目指してたよ、でもダメだった。才能も実力も運もなかった。んで、いまはこんなもんなの。
 でもいいか、酔い覚ましに、久々小説ってやつ書いてみよう。

『かような、わたくしと磯野さんのとのなれそめにも増す変事は、逢瀬のある一幕でした。
「僕は挫折を経験しました」
 彼は御自分の内宇宙を見る目をし、
「一切の夾雑物ない自分を探そうとしました。遠い祖先を探り、遠い異国へゆきました。しかし見つからず、背中に憑りつく妖怪のようなものだとすら、自分のことを」
 わたくしを暴漢の類からお救いくださった磯野さんとは思えない弱弱しい声。
「あなたは自分がどこからきて、なにもので、そしてどこへゆくか、言葉にできますか」
 卒爾と問われ、今度はわたくしが内宇宙を見る番で。
 そう、わたくしは――――』

 ま、こんなもんだろ。

6人目

暑い日曜の昼下がり、公園隣の一戸建て住宅で60代と思しき男性が1Fの居間でお酒を飲みながらテレビを見ていた。

60代男性「競馬は外れるわ、ドラマはつまらんわでやってられんわい!」

ピコーン♪
近くのテーブルに置かれたスマホが鳴ったので、男性はスマホを手に取り内容を確認。

60代男性「どうやってあなたはわたくしを展開?...そう言えばX(Twitter)で、高校時代の教え子で文芸部だった奴フォローしたなぁー」
こう言って一升瓶の日本酒をお猪口に注ぎ飲み干した。

ドン!
公園から飛んできたボールが1F居間ベランダ側の窓に当たった。幸いにも軟式テニスで使われるブヨブヨのゴムボールだったため、窓が割れずに済んだ。

窓を開けゴムボールを手に取った男性は「またあいつらか」と呟いた。そして、ボールを手に持ち公園へ足を運んだ。