プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:5

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1人目

「Prologue」

【丸喜パレス編】原文:AMIDANTさん

 認知上の人間が、幸福を賛歌する謎のパレス。
その正体を突き止めるべく、ジョーカー達はパレスの探索を進める。
ポスターに書かれた幸福の理論、認知訶学の存在。
様々な情報を得て、やがてパレスの重大な秘密を握る事になる。
それは、嘗て蓮達のカウンセラーであった丸喜拓人の存在だった。
同時に、芳澤すみれなる人物も関わっている事が明らかになる。

 一方、丸喜達は侵入者を迎えていた。
しかし、先に到達した侵入者の正体はジョーカー達ではなく、
スカルとヴァイオレットであった。二人を相手取り、抑え込む武道。
その最中、ヴァイオレットの正体に気付いた丸喜がヴァイオレット、
芳澤かすみの説得を試みる。
だがそれは、説得と言うには残酷な物だった。

【幻想郷・人里編】 原文:AMIDANTさん

 人里にて迎撃態勢を整えていたスネークの元に、
無数の悪霊が襲来するという凶報が届く。
そこでチルノという存在に賭けたスネークは、人里要塞化計画を遂行する。
かくして襲来した無数の悪霊。
だが、要塞化した筈の人里は跡形も無く、そこにはスネーク達がいるのみ。
一体、人里はどうなってしまったのか?
そして悪霊を率いるゼクシオンとの決着は付くのか?

【異端者組とカリギュラ2編】原文:渡蝶幻夜さん

 何も見通すことが出来ない"謎の指輪"に気を取られていたが
ここで深刻な問題が発生する。
「恐らくフィールド変化で使った空間属性は長続きしない、
空間属性が無くなってしまったら俺達5人はゲームシステム内に存在するバグとして
扱われる」と推測する太陽と事情を知る夢美

「フィールド変化をするのはいいけど同じことがもう一度出来る訳では無い。
だからここで端末を消費するわけにはいかない・・・消滅時間は?」

 全員黙りこくる、なぜなら空間属性の消滅時間など誰も測ることは
不可能に近いからである。
そんな中、これ以上は巻き込めないと(ほぼ勝手に)判断した太陽はむー君の拘束を解くも
どこかで去っていってしまった
後に彼は「地獄と天国が混ざった空間だった」と語る。

【四季彩の女神、超越者会議に出る編】原文:渡蝶幻夜さん

 時の巣に来れた女神と龍、ウイス以外はなんとも言えぬ絶妙な空気感を出す中、
話を聞くために再び時の王者 オーマジオウが姿を現す。

2人目

「二極の星、時々箒星」

丸喜から伸びた触手が、鋭く薙ぎ払われる。
床を砕く勢いのそれを、ジョーカー達はステップ一つで回避。
逆に丸喜へと距離を詰め、一斉に武器を振るいに掛かった。

「危ないね。」

だが、新たに生える触手がその尽くを防ぎ、或いは受け流す。
丸喜は笑みを浮かべ、余裕という物を醸し出している。
その様相に、ジョーカーが舌打ち一つ。
そのまま彼は、手にした銃で撃ちながら左回りに接敵。
しかしそれもまた触手に弾かれ、あらぬ方向へと飛んで行ってしまった。

「君達の言葉を借りよう…ペルソナッ!」

眩い光と共に、視界が白く明滅する。
ジョーカー達が思わず目を覆う中、触手の鋭い薙ぎが彼等に突き刺さった。
そうして悶絶する怪盗団を眼下に収める丸喜の姿は、一変していた。
黄金の鎧に純白のコート、太陽を模した杖。
まるで、神話に描かれる救世主のよう。
彼は悠々と手を掲げると、自身から剥いだマスクを蒼炎へと変える。
同時に、顕現する丸喜のペルソナ。

「あれが、丸喜のペルソナ…!」
「パレスの主が、ペルソナを!?」

言うなれば、十字架を象った黄金の棺。
神聖な宗教像を思わせるソレは、しかし無機質な丸い目と、隙間から這い出る禍々しい触手によってイメージを一変させる。
腐敗した死体から這い出る蛆虫を思わせるそれは、半端な神聖さも相まって邪悪さを際立たせている。
総じて、邪神と呼ぶべき代物がそこにはいた。

「これが僕のペルソナ、アザトースだ。」

アザトース。
クトゥルフ神話における白痴の神、或いは万物の王。
そんな、神話に語られる様な存在が、今ジョーカー達の前に君臨していた。
その威容を前に、じりじりと後退りしながら、ジョーカー達は丸喜を凝視するのみ。
そんな彼等に対し、丸喜は悠然と歩み寄り、語りかけて来た。

「心配しないで良いよ。少し痛いかもしれないけど、大丈夫。一緒に、幸せな夢を見るだけだ。」

慈しみのある、だが狂わしい程の好意が籠った眼差し。
丸喜の歩みは止まらない。

「さぁ、行こう。」

やがて手を伸ばせば届く距離まで詰めた所で、そう囁く丸喜。
その言葉に弾かれた様に、一気に距離を取るジョーカー。
直後、一瞬前まで居た場所を触手が通り過ぎた。

「…やっぱり、頷いてはくれないんだね。」

丸喜は、悲しそうに目を伏せた。
だが、そんな顔をしながらも、攻撃の手は一切緩めない。触手が彼等の足元を抉り、かと思えば牙を剥くように迫る。
それらを躱す度、ジョーカー達は傷付いていく。消耗は激しく、既に肩で息をしていた。
そんな二人の様子を気にしつつ、ジョーカーもまた攻めあぐねる現状に歯痒さを感じる。

(仕方ない。ここは、少しでも!)

意を決し、ジョーカーは銃を構えた。
乾いた銃声。
だがそれは、アザトースの触手によって阻まれる。
触手は弾を弾くと同時に、ジョーカー目掛けて伸びる。
ジョーカーは身を翻す様にして攻撃を回避。その最中、持ち替えたナイフを正確無比に振るい、攻撃を"置いた"。
そこに集った触手が、斬り刻まれる。バラバラと、細切れに。
丸喜の顔色が変わった。その隙を逃す程、ジョーカーも甘くはない。
大きく前進すると、素早く手首を振るい斬撃を巻き散らす。
当然、これは躱される。しかしそれは承知の上だ。
大ぶりな攻撃は牽制でしかなく、その目的は接近ただ一つ。
そうして丸喜の元へと駆け付けたジョーカーは、彼等に叫んだ。

「ここからが、本当の決戦だ!」

そう気合いを入れ直した所で、丸喜の追撃が開始された。
アザトースをけしかけながら走り寄る様は、まるで死の塊だ。
そんな恐ろしい光景を前にしながら、しかしジョーカーは怯まない。
その悉くを、仲間達が迎撃する。
触手を斬り落とし、時には攻撃を往なす。
隙を突いて、一気に距離を詰め切った。
そんな彼等を前に、丸喜もまた焦燥感に駆られた様に内唇を噛む。

「強いね、本当に。」
「これが、俺達の正義だ。」
「だろうね。けど、僕達はその先に行かせてもらうよ。」

丸喜の答えに、ジョーカーは僅かに眉を動かした。
直後、彼は何かを言い掛けたが、それは叶わなかった。
寸での所で割って入った金色の光が、諸共を薙ぎ払ったからだ。

「きゃあ!?」
「なん、だ、この暴威は…!?」

ジョーカー、フォックス、クイーンの悲鳴。
それを耳にしながら、彼等は後方に吹き飛ばされる。
次第に落ち着き始めた視界に、その姿が映し出される。
そこに居たのは、シャドウアビィだった。

「やぁ、アビィとの戦いは終わったのかい?流石だね。」
「うん!まぁ~僕に掛かれば余裕だしぃ?」

ケラケラと笑いながら、賞賛に対し素直に破顔するシャドウアビィ
その余裕綽々な様子に、ジョーカーはアビィのいた方を見る。
そこには、今にも崩れ落ちそうな程弱り果てたアビィの姿があった。

「がっ、ふ…僕とした、事が、ね…」
「アビィ、何時の間に…!?」
「僕がいたから、っていうのも忘れないで頂きたいですね?」

そう言いながら前に出てきたのは、白髪黒肌の青年の姿。
嘗て神精樹にて為朝を打ち破る為の一撃に力を貸した者。
名は、確か。

「…シロウ・コトミネ?」
「えぇ、その通りですよ。ジョーカーさん。」

そう、乱戦の最中、ジョーカー達の前に現れた英霊。
しかし、彼は何時の間にか姿を消していた。それ以降、彼の行方は知れず仕舞いであったのだが。

「お前も、丸喜の側だったのか。」
「だからこそ、あの場にいたのです。」
「気を、付けな…そいつは、面倒な、戦い方をするよ…」

そんなジョーカーの疑問に対し、シロウが答えを返すと、背後からアビィが忌々しげに呟いた。
見れば、その身に負った傷が、みるみる癒えていく。回復技でも持っているのだろう。
そんなアビィを一瞥した後、シロウはジョーカーへと向き直る。
そして、静かに言った。
それが合図であったかの様に、二つの力が激突する。激しい攻防が繰り広げられる。
ジョーカーが呪怨を放つ。
対するシロウは、何処からともなく二尺はありそうな長剣を幾つも取り出し、呪怨を掻き払う。
同時に投擲された長剣…黒鍵は、幾度かの回転を経てジョーカーの首を跳ねんとし。

「見えているぞ。」

直後、ナイフに弾き落とされる剣。
だが地面に落ちる直前で、剣がスピンしながら魔術陣を描き、宙に留まった。

「では、これはどうです?」
「ジョーカー、後ろだ!」

弾いた筈の剣が、何の原理か分からぬが再加速して襲い掛かる。
これには面食らったジョーカー。二度、三度と斬りつけられてしまう。
スカル達は二人の戦いを見守る事しか出来なかった。下手に介入すれば、それこそ邪魔になるだけだろうからだ。
剣撃の嵐。
それを前にして、ジョーカーは防戦一方だ。
活路は見えない。切り札はまだ隠しているようにも見える。
_やられる!
そんな一抹の不安がよぎった時、事態は一変した。
天井を掻っ切って現れた、鎧の騎士によって。

「なっ…!?」
「カンカンうるせぇーと思ったら、やっぱ当たりだな!」
「お前な、いきなり飛び込むなよ…!」

叛逆の騎士とそのマスターが、そこにはいた。

3人目

「嗣章:虚数の姫君 カグヤ/亡失ノ幻想郷 悪霊異変Ⅱ」

 世界の裏側、魔術世界のそれとも異なる異相の世界「虚数空間」。
 未だ多い謎の空間に突如「それ」は現れた。

「……」

 虚ろの大海で揺蕩い続ける。
 朧気で、今にも消えそうな意識。自分の「容」すらも分からない。
 でも。

「……ぁ……ぃ」

 この感覚はどこか暖かで、ふわふわしていた。
 そして何より、まるで母親に抱きしめられているかのような……。
 その感覚が忘れられなくて、幸福で。

「しぁ…せ……。」

 そうだ、とそれは考える。
 虚ろの海にたまたま落ちる残滓、外の世界の情報から己を構成し始める。

 善意、悪意、喜び、哀しみ、怒り、楽しみ、幸福、災禍、希望、絶望、決意、失意、音楽、学習、言語、歌、詩、料理、

 でも、自分を構成するには足りなくて。
 だけど、生きたくて。
 すこしずつ……すこしずつ……己の欠片を、かき集めていった。

 そうして虚数空間における103億4000万年(外の世界における約2日)、己の骨子を鍛え上げ続けた。
 自分は虚数空間の情報体。時間は外の世界の人たちに比べればそれは気の遠くなるほど有り余る。寿命も老化もほぼないに等しい。

「できた……。」

 己を包むどうしようもない幸福。
 全身がとろけ、まるで花畑のなかで眠るかのような絶頂。
 これが「己の人格が完成した」ということか。

「心の底から、やる気出てきた!」

 かくして、それは形と在り方を得た。
 己の姿は、いつか見た少女のそれを模倣しこれまたどこか人の世界で言う女神のような姿にしてみた。
 人間を愛するなら、これくらいの美人さんにはなりたいと思っての判断だ。

 余談だが、ある時自分は虚数空間の全てを掌握できていることを自覚した。
 そりゃあ虚数空間内部で生まれたんだからそれくらいは出来るだろうなとは思ったけど、この能力を悪用しまいとは思った。

 何せあたしは「人間の在り方を見届け、愛し、幸福に導く」のが自分の命題だと思ったから。



「こうして、あたしは生まれたってわけ。」
「そうか。で、どうだ虚数姫。人間は幸せにできたか?難しいだろう。」

 いたずらな顔で、皮肉交じりのセリフを投げかけるゼルレッチ。

「うん、思った以上に難しいや。みんないい人ばっかりじゃないもんね。でも……、いつの日かみんなが手を取り合って、笑いあえる日が来ると信じてる。そのためにあたしは生きるだけだよ。」

 それは、いつの日か■■■■■が見た「自分らしく生き、みんなと笑いあいたい」という願い。
 あまりにも小さく、どんな願いよりも拙く、そして、当たり前な願いだった。

「あ、来るみたい。」

 そして、虚数姫の前の龍は輝きを放ち―――――今に至る。



 幻想郷

 スネークたちがゼクシオンと戦闘を繰り広げる間
 迷いの竹林 入り口付近

「あら?人間の里はどこに行ったのかしら?」
「おかしいな……この辺りのはずなのにウサ……。」

 リクと幽香、そしててゐの3人は落胆していた。
 彼が不在の時にスネークたちが頑張って人間の里を要塞化させている事情を知らない以上、無理もない。

「とにかく、先を急ごう。」

 3人は走る。
 逸れた悪霊を斬り伏せ、吹き飛ばし、破壊する。
 先へ先へと進むも、一向に人間の里は見えない。

 その代わり、リクの目に映ったのは。

「あいつは……!」

 リクの視線の先に見えるのは、懐かしい敵の顔だった。
 その眼に間違いはない。
 かつて自分たちをその策謀で苦しめ、クォーツァー・パレスでもSOUGOを攪乱、その力の一端たる「ソロモンの指輪」を奪ってしまった影歩む策士。

「あんたの知り合い?」
「ああ、そして今は――――この異変の、黒幕だ。」

 ゼクシオンの存在と悪霊の関係性を裏付ける証拠は、リクにはなかった。
 だが、彼の直感がそれを告げ的中させていた。

「じゃあ、行くか!」

4人目

「幻想郷調査 四の六:影法師と蛇と豚」

殺気が剥き出された睨み合いの中、先に動いたのはゼクシオンだった。
静かに鳴る決戦のゴングと共に、ゼクシオンが、深く踏み込んで刃を振るう。
人の腕相当の刃渡りはある重いソレは、スネークの首を刈り取らんと迫り。

「踏み込み過ぎだ。」

寸での所で懐に潜り込まれ、刃の根元をナイフで抑え付けられ弾かれる。
一度、二度。
ナイフと剣が打ち合わされる。
三度目にゼクシオンの斬撃を跳ね上げて体勢を崩すと、スネークは空いた腹部目掛けて膝蹴りを叩き込んだ。

「ぐぅう!?」

酷く鈍い打音。
緩急の付いた鈍重な一撃に、堪らずたたらを踏むゼクシオン。
肺に溜まった空気が、鋭い外圧によって強制的に吐き出される。
一瞬強張った体目掛けて、スネークが反転攻勢。
即座に構えた拳銃が、乾いた音を立てて二発三発と火を噴いた。
腕一つ分の距離を突き進む弾丸。
だが。

「思った以上の暴れ馬ですね!」

血肉を裂く音は鳴らず。
何時の間にやら彼の周囲を舞っていた、何冊もの本『レキシコン』が代わりに食らい、パシュッと気の抜けた音を鳴らすに留まった。
文字通りの魔法に思わず面食らうスネーク。
その隙を突く様に、本から幾つかの紙が破れ出て、魔法陣を描いて反撃の光弾を射出してきた。
御伽噺に出てくる魔法使いの如き一撃。
違いは、明確な殺意だろうか。

「うぐぅ…!まるで、手品師だな…!」

咄嗟に義手で弾き返すスネーク。
ギシリと軋みを上げる威力のソレに、悪態を一つ付きつつ後退。
これまで戦ってきた異能とはまた違った毛色の相手に、彼は攻めあぐねる様子で目付きを鋭くさせていた。
一方、ゼクシオンもまた攻め口を見極めていた。

(…やはり、強いですね。)

僅かだが、それでも冷や汗をかく程の強敵。
彼との戦いは初めてだが、その実力の底知れなさは先に嗾けた悪霊で少なからず感じ取っている。
下手な攻めをすれば、それこそ先の様に反撃され、今度こそ凶手に落ちるだろうという事は、ゼクシオンとて理解していた。
まるで蛇だ、噛みつかれれば死に至る猛毒を持った大蛇を相手にしている気分だった。
ゼクシオンは本を手繰り寄せ呟く。

「_。」
「ほう、今度はどんな芸をお披露目してくれるんだ?」
「ご安心を、手品等という生温い物ではありません。」
「そいつは楽しみだ。」

皮肉を交えつつ、詠唱するゼクシオン。
その手に握られた本から、無数の紙が舞い踊る。
悪霊もそうだが、これもまた何とも奇妙な光景だと怪訝な顔付きだ。

(…見掛けだけでは無さそうだ。)

しかし、動じてはいない。
確りとその眼で動きを見極めんとして、どっしりと構えている。
さながら厳戒体制下の要塞を思わせる、そんな佇まいだ。
彼に小手先の技は通じないだろう。
そんな考えを巡らせながら、紙片を舞い上がらせていく。

「その余裕、今すぐに消し去ってあげましょう!」
「それは楽しみ…っ!?」

直後、それは現実と化した。
突如として吹き荒れる突風。
元凶はやはり、右回りに弧を描く紙片。
黒い色を帯びたそれは、渦を生み出して吹き荒れる。
瞬く間に黒い竜巻と化したそれは、正に嵐。
猛る突風が土煙を舞い上がらせ、スネークの身体から自由を奪う。
そんな光景を背にしたゼクシオンが、厳かに口を開いた。

「抵抗は無駄ですよ。」

それこそ跪けと言わんばかりに、傲慢な一言。
思わぬ荒業に、立ち尽くしたままに固まるスネーク。
それでも、鍛え抜いた体躯と膂力で踏ん張って見せる。
恐るべきはそこまでに至った研鑽か。
だが何とかリロードし反撃に転じようとするも、持ったマガジンが竜巻に吸い上げらればら撒かされてしまう。
これでは、足止めされたも同然の状態だ。

「貴方はそこで見ていると良い、希望が幻になる瞬間を。」

焦りを見せる彼に、ゼクシオンは新たな悪霊を引き連れ、悠然と歩みを進める。
目指す先は、彼等が守っていた謎の機械。
金属質の三脚に、これまた金属の円柱が乗っかって回っている謎めいた機械だ。
初期の通り、ゼクシオンはこれが人里の消えた元凶と睨んでいた。
故に、それを破壊せんとするのは当然の帰結とも取れる物だろう。

「クッソ、そいつに近付くんじゃねぇ!」

未だ悪霊に手こずる魔理沙や慧音の怒号を余所に、機械へ向かうゼクシオン。

「一先ずは、壊してしまいましょうか。」

そうして、悪霊の一体に機械の破壊を命ずる。
スネークは叫ぶ様にゼクシオンの背へと追い縋ろうとするが、間に合いそうもない。
そうして鎌めいた腕が振り上げられる。
後は振り下ろすだけで、金属の軋む甲高い音が鳴り響くだろう。
見届けるまでも無いと、後ろを振り向くゼクシオン。
そうして、腕が振り下ろされる。

_キィン…!

刹那、鳴り響く甲高い金属音。
そうして機械の破砕音が鳴る…事は無かった。

「…何?」

次いで来る筈の衝撃が来ないことを不思議に思い、振り返る。
そこに機械の残骸は無く、代わりに目に飛び込んできたのは眩いばかりの閃光と、縦に両断された悪霊の姿。
余りに突然の事に反応出来ず、眼を軽く擦るゼクシオン。
そうして真っ二つに分かれた悪霊の隙間から、戦士の姿が顔を覗かせた。

ーーーーーーーーーーーー
  D-CHANGE
ーーーーーーーーーーーー
  トランクス(未来)
ーーーーーーーーーーーー
    Lv.1
ーーーーーーーーーーーー

「_へっ、引っ掛かったな?」

そこに立っていたのは、剣を携えた銀髪の戦士。
金色のオーラを纏い、山吹色の瞳を宿した青年の顔。
スネークより僅かに高い背丈をした戦士は、ニヤリとゼクシオンを見やる。
両者、しばし視線を合わせ合うが…不意にゼクシオンが眼を細めたのを合図に戦いが始まった。

(何者だ…!?)

内心、歯噛みする思いで腕の刃を振るうゼクシオン。
だが、先の悪霊を一撃で斬り伏せた剣に弾かれ、逆に追撃の刃が迫る。
咄嗟に後ろに飛び退いて避けつつ、手元に新たな紙片を展開する。
そこにはまたも嵐を思わせる光景が描かれ、黒い風を纏って襲い掛かる。
だが。

「てぇりゃあぁー!!!」

一刀両断。
彼の振るう剣は、形の無い筈の風を確かに捉え、その流れを諸共に断ち切って見せた。

「馬鹿な、何故だ!?」

その不可思議な現象に、思わず舌を巻くゼクシオン。
そんな驚きすら余暇とばかり、勢いを増した戦士の一閃が襲い掛かった。
咄嗟に防ぐも、まるで重い鉄塊を振るわれたかの様な一撃だ。
拮抗は一瞬。
ゼクシオンが、競り負けた。
思わぬ後退を余儀なくされ、ゼクシオンの顔付きが険しくなる。
同時に、スネークを襲っていた竜巻もその勢いを止めざるを得なくなった。
そして、スネークは先の焦燥した顔を一変させ、悪戯が成功した子どもの様に笑って語る。

「ははっ、見事に釣られたな?」
「おのれ…!」

先の踏ん張りも、演技だったのだろう。
手の平の上で踊らされた気分に、ゼクシオンがギリリと精一杯拳を握り締める。
そこに、不運が続いた。

「_ゼクシオン!」
「貴様は…!?」

悪霊の群れを薙ぎ払って迫り来る戦士。
それは、竹林から戻ってきたリクの姿だった。

5人目

【この世界に幽霊なんていない/嗣章:時の王者】

《エピメテウスの塔 謁見の間》

リグレットは持っている権限の1つリドゥ内全ての監視カメラを見ることが出来るのである
それを駆使して異端者の行動を全て見ていたのだった。

「・・・」

ずっと思っていた
全員、深い後悔があるはずなのに
全員、取り返しのつかないことをしているのに
全員、忘れがたき黒い過去が存在するはず

なのに

なのに・・・
なのに・・・!

どうしてそんなにも笑っていられるの?
どうしてそんなにも感情を顕に出来るの?
理解ができない・・・!
そもそも、理解する気も起きないけどイカれているの?

「・・・!」

「やはり、リグレット様を支持する思念体だけでは止められんか・・・」

策に講じているブラフマンを裏目に楽士以外、全員のある共通点を見つけ出す

「歌に支配されていない」

「なんだと・・・?そんなバカな、リグレット様の歌は完璧なはず・・・!」

本来ならば、リグレットの歌に惹かれなければリドゥ内には居られない
そして、現実に気がついた者はバグとして扱われ楽士によって迅速に処理がなされる。

普通、現実に気がつくことは一生ない

帰宅部にいる"本物のバーチャドール"がいる前提の話であるがコイツらは何かが違う。


「何かが邪魔をしている?」

思い出すのは"ホンモノ"のバーチャドールの顔今はどこにも存在を確認することが出来ない。
バーチャドールの姿が何処にも見当たらない。
監視を見ても 自分の力を使っても
やっぱり何処にも姿は見当たらない。

「さっきっから"モルフォ""モルフォ"って・・・誰・・・?」

周りから言われている名前、聞き覚えがなく急に背筋が凍り始める。
情報が全くない正体不明の存在 モルフォ

ー正真正銘 幻の6人目ー

それもそのはず、彼女からは見えない存在なのだから当たり前である。
リグレットはそのことを露知らず、恐怖し始める

「ブラフマン」

「ご命令とあらば」

リグレットの呼び声ですぐさま跪くブラフマン

「リドゥ内にバーチャドールは本当にいないのですね?」

「はい、そうですね。帰宅部のバーチャドールは確認しておりません」

「それでは、この映像を見て下さい」

そう言ってモニターをオープンさせ監視カメラの映像を映し出す

「コイツら・・・実に悩ましいことですね・・・」

「そうではなく、何か違和感ありませんか?」

「いえ、特に」

モニターを見せたが特に何も無いと答えたブラフマン。
やはり、目に見えないらしい
・・・まさか幽霊、いやいや、違う違う

「幽霊、なんて存在するはずないでしょ」

小さい声で、そう言った。


「・・・む、なにか光が」
「光?」


圧倒的人手不足だという時に侵入者がまた来るとはこの時、2人は何も思っても居なかっただろう。






一方、その頃、時の巣にいる女神はというと会議中の空間を絶妙なバランスで成り立たせてしまったことに関して女神は大いにやらかしたと思っている。
そして今現在、龍は単独行動で観光していたのだった。

そりゃそうだ、自分のすぐ目の前に本物の超越者達がいるということに・・・

女神自身は周りの者のことを一切知らないのに不思議とそう思えてしまう
それはもう胃が煮えくり返る勢いで・・・どうしてか丸の下に三角の体なのに何故か汗と青ざめが薄ら見えるかもしれない程に
だが、そんな女神に助け舟が通りかかる

「えーとすみません、貴方は一体・・・」

震えた声でどこの誰かも分からない人に話しかけられた女神が知らないそうなので代わりに言ってしまうが彼は 時の王者 オーマジオウ である。

「(なんだか、他の人達より凄みがありますね・・・)」

とてつもない大物が目の前にいるが何故か安心出来るという不思議な感情が女神の直感した
もう一度考えてみよう、異端者のことを

「(まずは、秋雨の街の破壊にロスト・ヘブンの破壊 秘境と夏風横丁を繋がれてしまい戦力の増強 挙句の果てには従えたはずの軍団をたった1人で殲滅し大天使すら打ち砕いた魔女 氷魔と悪魔を解放した性別不明の異端者にそして、際も厄介な男による裏工作によって・・・そして、ノーマークだったあの・・・)」

そもそも、異端者問題と言ったが改めてよくよく考えてみればあの異端者達がしでかした事は本当に厄介事なのだろうか、それとも感覚が麻痺しているのか、逆に冷静になって来る

「そうですね、話を聞いてくれるだけでも有難いものです、誰も耳にしてくれないので」

悔しいが全部負けているという事実に行き着いた
自分は戦えない。そのため協力関係を築き上げたが話など聞いてはくれない、四天王
誰も話を聞いてくれない女神からしたらそれは恐らく内心とても嬉しい感情だと思われるだろう。

6人目

「嗣章:異次元の使徒談義」

四季彩世界の女神が出会った存在は、超常者の一人、オーマジオウ。
他の超常者に負けず劣らずの威厳を放ちながらも、何処か温和な雰囲気を醸し出す佇まいは、さながら患者に寄り添う医師の如く。
矛盾するようだが、気高さと気安さを兼ね備えた凄みという物があった。
_過去の自分が己を超えた事で、憑き物が落ちた様に安息の時を過ごしているというのもある。

「…私が異端者と呼ばれる存在を危険視しているのは、貴方がたの様に世界の安寧を願うからです。私の、四季彩世界の。」

そんな雰囲気に当てられてか、女神は自然と、口を開いて己の抱く恐怖を吐露していた。
重い含みを背負った言葉に、オーマジオウはただ静かに頷く。それだけの事なのに、やけに親身に感じた。
彼の反応に何処か安堵を覚える。彼ならば、今の自分の不安を晴らしてくれるのではないか。
そんな淡い期待を抱きながら、女神は語り続けた。

「世界の平穏な日々を、ただ保ち続けたい。故に、それを脅かす異端者を排除せねばならないのです。」

四季彩世界に住む人は皆、平和を願いながら日々の生活を過ごす者ばかりである。
それは女神の心の現身ともいえる有り様。
言い変えれば、無辜の民達を想っての事である。
だからこそ、彼女は自身の憂慮を吐き出して、オーマジオウに懇願する。

「だからどうか、私に力を貸して頂けませんか。代わりに、私に出来る事があれば力をお貸しします。」

そう願った瞬間、オーマジオウの放つ圧倒的な威圧感が僅かに増した様な気がした。
それが錯覚かどうかを確かめる間もなく、彼はゆっくりと頷く。
その行為が意味するのは、即ち肯定。
ソレを見た女神は、深く息を付いて胸を撫で下ろした。

「私達が直接、という訳には行かないが、CHに任せるとしよう。」
「あぁ、良かった。」

安堵の声が溢れる。これで、今まで通り平穏な世界を護る事が出来るだろう。
そんな事を思っていると、不意にオーマジオウが語り掛けて来た。

「だが心しておけ。自分にとっての理想が、自らの最善に繋がるとは限らぬものだと。」

その言葉には、何処か哀愁と後悔が漂っていた。
女神には、それが彼が辿った道のりの果てに得た答えに思えた。
そう直感したのだ。
オーマジオウもまた、自分の思惑に裏切られた事があるのだと。

「私だけが描いた理想の先には、絶望しか無かった。」

重い、懺悔の籠った台詞だった。
ならば、女神もそうなるのだろうか?
_否、違う。そんな筈はない。
そんな悲劇を起こさない為にも、私が統べる楽園があるのだから。
そう決意し直し、先程よりも力強い意志を瞳に宿す。
女神の覚悟を見たオーマジオウは、その荘厳な空気を纏いながら語り掛けた。

「努々、忘れるな。己の道が確かな物か考える事を。真の理想を描き続ける事を。」

それは、まるで激励するかの様な言葉。
そして、同時に警告でもあった。

「例えば、そこな道化の様にはなるな、という事だ。」

言うが早いか、オーマジオウの背中に光の輪が宿る。
逢魔が時の黄昏色を宿した、時空のエネルギー。
突如として剥き出された『暴』に、女神は息を付く暇もない。
そうして光が放たれ。

「へぇ、気付きましたか。」

轟音を立てて『誰も居ない筈の地面』へと撃ち込まれると、第三者の声が静かに響いた。
即座に声の方角へと視線を向けると、そこには一人の青年が立っている。
その身に纏うのは、何処か囚人を思わせる衣。
そして、それを縛る様なベルトの数々。
陰惨な貌立ちとは裏腹に、圧倒的なまでの存在感を放つ青年に、女神は思わず息を呑む。
そんな彼女の動揺をよそに、青年は気安い様子でオーマジオウへと言葉を掛けた。

「さっすがオーマジオウ…いや、ビルス達も気付いてたのかもしれませんね?」

まるで旧知の間柄であると言わんばかりに、親し気な語調で。
そうして青年の纏っていた威圧感が和らいだ事に、女神は気付く。
即ち、青年は害意を抱いていない。
少なくとも、敵では無い事は分かった。
それ故に尚更青年の事が分からなくなったが。

「ふん、気付かぬ筈が無かろう。気を隠しても、異物感は残る。」

オーマジオウはそんな青年の意を見抜いたうえで、何時もと変わらぬ様子で話を続ける。
その姿に、青年は僅かに笑った。そうして互いに向き合い、彼は恭しく礼をする。
王に謁見する者の様に。
次の瞬間、彼の姿が忽然と消えた。
いや違う、一瞬で女神の視界から外れただけに過ぎないのだ。

「こっちですよ。」

その事に驚愕していると、今度は女神の背後から青年が現れる。
驚いて振り向く間もなく、青年は語り掛けてきた。

「初めまして、四季彩世界の女神様。私は亜人 脳徒(アビト ノウト)と申します。」

亜人と名乗った青年に対して、女神は警戒しながら返答する。

「何の目的で、この場に現れたのですか?」

彼女がそう問いかけると、アビトは不思議そうに首を傾げた。
まるで自分が何かおかしな事を言ったかの様に。

「何って…私は単に、そこにいただけですよ。CHを見る為に、ね。」

その貌には爽やかな微笑が灯っており、敵意など微塵も感じられない。
しかし、だからこそ、その言動との隔たりが恐ろしい。
アビトと名乗った青年の目的は、一体何なのだろうか。
そんな疑問を抱きつつ、女神は更に問うた。

「それだけですか?」
「ええ、そうですよ。」

悪びれも無く肯定するアビトに、思わず眉を寄せる。
その返答に嘘は無い。何故かそう確信出来た。
何故なら、アビトからは自分に対する害意も悪意も何も無い。
それどころか何の関心も。

(だとすれば何故?一体何の為に。いえ、何か目的を持っていたとして、何を求めたの?)

分からない、理解できない。
アビトの底が知れない。
そんな彼の存在感に圧迫されそうになって。

「気にするな、奴の事は考えるだけ無駄だ。自分で完結しているのだからな。」

オーマジオウの一言で、女神は僅かだが肩の力が抜けた。
強張った体が、途端に言う事を聞く様になる。
しかし、青年に対する疑念は未だ晴れない。
だから彼女は問いかけた。

「では、何の目的でCHを見ているのかお聞きしても?」

彼は顎に手を当てて思案する。
そうして数秒後、彼はあっけらかんと答えた。

「自分を見つめ直す為、かな。」

青年の言葉は、嘘偽りなく女神の心へと浸透した。
先にオーマジオウが言い含めた自分の事の如く。
常に自分を疑う。そんな在り方は、何とも新鮮だった。

(この人ならば、先程オーマジオウさんが言った言葉の意味が…)

だが彼女は言い留まる。彼の言葉が全て真実だとは到底思えないからだ。
オーマジオウとは相対的で、飄々とした言葉の軽さ。
その真意は、果たして。

「…そうですか、ではその自分探しとやらを見せてもらいましょうか。」

だから、敢えてここで話を切った。早々に会話を終わらせて女神は立ち上がる。
それを見た彼は肩を竦めながらも「いいですよ。」と機嫌よさげに答えた。
その反応が気に障るが口には出さず、彼女はアビトの見届けている光景を垣間見る。
そこには、ボロボロに朽ち果てたアビィの姿があった。

7人目

「焔の記憶 一/亡失ノ幻想郷 悪霊異変Ⅲ リクvsゼクシオン その1」

 童(わらわ)は鬼。
 童は、人とは相容れぬ存在。
 そう、この焔坂百姫が自覚したのは、もう遠い昔のこと。

 それは齢にして七つのころ、そして……人の世で言う千二百と数十年前。

「む?」

 住みついていた山に遊びに来た子どもに話しかけようとした時だ。
 何のこともない、ヒトであるのならばありえるであろう行動だ。

「こっち来るな!鬼の子!」
「鬼だ!本物の鬼が出たぞ!」
「助けてくれー!!」

 しかし、石を投げられやがては逃げられた。
 このころには己の頭蓋より生える異形の「角」を自覚しており、己の裡に宿る感情も把握していた。

「なんじゃ、あの小物は。」

 故に、燃やした。
 鬼に歯向かうからこうなる、と見せしめがてらに燃やした。
 子らが悲鳴を上げながら、いずれ消えゆく命を乞いながら泣き叫んでいた。

 それだけならばまだよかった。

「なぜ、村の童を燃やした!」
「なぜとは。」
「何も子供を殺すこともなかっただろうに!」
「迫害を受けていたのじゃぞ?父が童の立場だとしたら、やり返すべきではないのか?」

 報復。復讐。反撃。
 後の世でそう言われるもの。
 童はこの意に従ったまでに過ぎない。

 幾ら人とは相容れぬ鬼の身とて、人が童を責めるのにその反撃を鬼が許さぬというのはおかしい。
 だのに。

「やはりお前は鬼だ、妻と同じ、人の心なき鬼の子だ!お前は悪だ、この世に生まれるべきではなかった鬼だった……!!」

 何を言っているのだ、この者は?
 幼心に宿った怒りが、胸の裡を焼く。

 父ともあろう者が、『生まれるべきではなかった』と子の前で言えるのか?
 許せなかった。
 それだけは、赦すことができなかった。

 故に、童は父を燃やした。
 山の下の集落も燃やした。
 山も燃やした。
 全てすべて、燃やしつくした。

 その先のことは、長い放浪の果てに記憶が摩耗していた。
 何しろあの者共に会う、数千年もの時を歩いていたのだ。無理もなかろう。

 ただ、その道中人の歪さを多く見続けた。
 同じ人であるにもかかわらず、鬼と同じように人へ迫害する者。
 暴利をむさぼり、弱き民を虐げる者。
 自分をよく見せようと、未来の己を破滅させる行為をするもの。

「斯様な人の世のいびつさ、鬼と何も変わらぬ。」

 その意を抱きながら、千年の時を彷徨い続けた。
 教団に会う、その時まで。



 幻想郷 人間の里周辺

「リク!久しぶりですね……!」
「さっきぶり、の間違いじゃないか!?」

 嵐に紛れた影の刃を弾く、光の一閃。
 これに、ゼクシオンも抵抗する。

「悪いが、あの時よりも俺は強いぞ。」
「確かに、前の時よりかは強くなったようですが……!!」

 レキシコンから炸裂する疾風が、リクを弾き飛ばす。
 一見追い詰められているようなゼクシオンだが、まだまだ余裕なようだ。

「頭数ではこちらの方が上です、果たしてどこまで耐えきれますかね!」

 そういうと、彼の後方から黒い『穴』が出現した。
 そこから、無数の悪霊の隊列が進軍を始める。
 ゼクシオンの遥か後方からも、別動隊や援軍であろう悪霊の群れが見え始める。
 まるで、幻想郷全土を攻撃せんとばかりの暴れっぷりだ。

 しかしてこの様子を見せつけられても、リク達はあきらめない。

「……スネークさん、悪霊を頼みます。こいつは俺が倒す!」
「分かった!悪霊は任せろ!」
「私は遠くの悪霊を殲滅するわ!てゐ、行くわよ!」
「ちょっ!幽香待って!まだ心の準備g「言い訳する暇があるなら戦え!!」ああぁ……!」

 スネーク、幽香たちを見送ったリクは、ゼクシオンの方に向き直りキーブレードを向ける。

「ゼクシオン、俺にリベンジしたいんだろ?場所を変えよう。近くに広いところがある。」
「いいでしょう。忘却の城の復讐、果たさせていただきますよ―――――!!」

8人目

「幻想郷調査 四の七:人・妖・精共同戦線」

「真に優れた人材は、人脈の先にあるコミュニティを動かせる者だ。
 文字通り総動員出来るのならば、それに越したことはないと言える。」



リクと提案に乗ったゼクシオンが、人里跡地を離れていく。
代わりに、先程よりも多くの悪霊が姿を露わにする。
悪鬼羅刹の声を轟かせ、触れる者全てを殺める殺意を剥き出しにして。
暗雲立ち込める空模様。
幻想郷は、悪意で満たされていた。

「おい、どーすんだよスネーク?」

トランクス…へとドラゴンチェンジしたウーロンが、冷や汗を浮かべて問い詰める。
これだけの量、トランクスのパワーやスネークの技量などがあっても、とても捌き切れるものでは無い。
だが、スネークはニヤリと笑みを浮かべて返す。

「大丈夫だ、策はある。とびっきりのをな。」

それはもう、鼻からこの程度想定済みと言わんばかりに。
悪戯が成功した子どもの様な笑みと声色だった。

_ガアァァァァ!!!

瞬間、妖怪の森が揺れ、悪霊の周囲から耳を劈く咆哮と共に妖怪が躍り出る。
幻想郷に蔓延るあらゆる魑魅魍魎が、真の悪が何たるかを知らしめんと、悪霊へ牙を剥いた。

「どっひゃあ!妖怪!?」

悪霊達の統率は、妖怪の襲来によって瞬く間に瓦解する。
互いを敵と認め、数に任せて襲いかかる妖怪達。
そこに、組織だった動きなどありはしない。ただ純粋に数に任せた、それ故に一切の対処のしようが無い暴力が振るわれる。
振れれば精神を汚染される怨念の装甲、効率的な人殺しを行う三本の腕、弾幕を見切る知能。
成程、確かに戦術下では脅威と言えよう。

_ガアァァァァ!!!
_▬▬▬!!?

しかし妖怪の数にモノを言わせた戦略下では、それは機能しない。
人の精神を汚染する怨念は、同じく人の畏怖を喰らう妖怪には大して効きはしない。
効率的な殺戮機構も、高度な知能も、10の妖怪に囲まれれば、1つの体ではまるで処理が追いつかない。
地の底より這い出る巨蟲に薙ぎ払われ、堪らず動けなくなった所をゴリラらしきモノノケに装甲を砕かれ、最後は怪鳥に核を串刺しにされる。
おぉ、見よ。此方では焔を纏った髑髏車輪が悪霊を引きずり回し、ガリガリと削り殺してるではないか!
赤みが掛かったおどろおどろしいかき氷の完成である!

「チルノの頼みだから連れてきたけど…これって総力戦ってやつ?」
「多分、当たりよね…あーでも、屋台に人が来ないのは困るからなぁ。」

そんな妖怪たちの筆頭に立つのは、緑色の髪をした中性的な少女と、鳥の羽を宿した女性。
彼女らこそこの妖怪を引き連れたチルノの友達、リグルとミスティアである。

「アレは…闇か?」

一方では、真球状の黒い何かが悪霊を取り込んでいた。
ソレは底なしの深淵の如く、光を遮って返さない。
まるで宙にポッカリと穴が空いた様だった。
その中から、少女の声が響く。

『わはー!何かいるのだ!』
_▬▬▬

無垢な声に釣られてか、悪霊達がなだれ込む。
しかしどういった絡繰りか、それっきり出てこない。
ただただ、何かが砕ける様な、いやまるで固い物を咀嚼する様な音が鳴るばかりだ。
後には何も、残らない。がらんどうの、深淵の穴。
その中心で一人、ルーミアは悪霊を一方的に毟る。

『不味いのだ~!』

当然、他の悪霊も指を咥えて見ている筈も無く、宙から地上へ舞い降りる。
空が堕ちてくる様な錯覚を創り出して妖怪へと襲い掛かる。
数の不利は、数で引っ繰り返せば良いのだと。
しかし、その目論見は森の奥底から放たれた数千の光が悪霊諸共打ち砕いた。

「ふっ。うちの救世主が、モーゼをやってくれた様だ。」

モーゼ、即ち奇跡が、そこにあった。
風切り音を立てて森より飛び立つ、数千の妖精だ。

「つ、連れてこれるだけ呼んできたよ、チルノちゃん!」

そう言いながら妖精を統率する、緑髪の妖精が一人。
彼女こそ、妖精の中の妖精、大妖精である。
彼女の人脈…否、妖精脈のネットワークは、瞬く間に数千の妖精と妖怪を動かした。
曰く、人里を守れば美味しいお菓子が食べられる。
曰く、悪霊を蹴散らせば甘い飲み物が貰える。
無論、旧MSF時代の遺産であるドリ〇スやマウ〇テンデュー等の事である。
賞味期限切れの在庫処理なのは内緒だ。

「皆、よーくやったぞぉ!」

そうして、救世主は降臨する。
氷の羽を背に宿し、煌めく姿は一等星。
妖精の覇者、氷の妖精チルノの帰還である。

「そこのけそこのけぇー!だいほんめーのとうじょーだー!!!」

帰還の一声と言わんばかりに、チルノの弾幕が展開される。
被弾した悪霊は瞬く間に氷像へ姿を変え、一瞬の後、砕け散る。
大本命の名に相応しい、威風堂々の登場であった。

「これが、あたいのあたい達の力だぁー!!!」

最早、初期にあった悪霊の勢いなどは明後日の方向へ消えてしまった。
そこにあるのは、神秘の欠片もない泥沼の戦い。
千を超える暴力と多種多様な怨念が渦巻く、幻想郷に似合わない戦いが始まった。
とはいえ、だ。
悪霊と妖怪・妖精連合。どちらが先に力尽きるのかは、最早誰の目にも明らかだった。

_▬▬▬!!!

ならば、悪霊に残った手は一人でも多く道連れを伴う事。
悪意によって練り上げられた存在がその答えに帰結するのは、当然だった。
狙いは、やはり大物。
即ち、スネーク達だ。

「ひぃー!?こっち来たぞ!?」
「頃合いだな。」

背を縮こまらせ怯え竦むウーロンは対称的に、スネークは一歩も引く気配は無い。
むしろ、これこそ待ち望んでいたと言わんばかりだ。

「あぶねぇ、スネーク!?」

そんなスネークの首目掛けて、悪霊の群れが鎌を振り上げる。
スネークとて人間。振り下ろされれば、一巻の終わりだ。
だが。

「今だ。」

振り下ろされんとする刹那、赤みを帯びた波動が迸った。
地中よりいでしその衝撃は、スネーク達をすり抜けて、悪霊の群れを一網打尽に蹴散らし四散させる。
波動の中心に位置する物は、本物のワームホール装置。
即ち、装置の起動が完了した合図だった。

「慧音、"能力"を解除しろ!」
「分かった!」

ウーロンの予感は正しかった。
慧音は、事前にスネークの指示で能力を発動していた。
そう、"歴史を食べる程度の能力"によって"人里の歴史"を消滅させていた。
嘗ての異変の時の様に

「_はぁ!」

今こそ、その行動の真意が明かされる。
瞬間、世界が変わる。否、正しくは元に戻る。
人里跡地に、無数の建築物が並び立つ。いや戻ってくる。
氷の城塞となった人里が、今ここに再臨した。

「_戻っただ!鉄砲用意!」

瞬間、強固な家屋から人間の怒号が木霊する。
人里の復興。その為に、再び全ての戦力を総動員する号令である。

「ぶちかませ。」
「撃てぇ!」

銃声が轟き、悪霊の群れが一瞬にして消し飛ぶ。
弾幕ごっこなどではない、現代における本物の弾幕が展開された。

_▬▬▬!!?

飛び交う曳光弾、交差する射線、砕け散る悪霊。
今ここに、反撃の狼煙が上がった。

9人目

「君は完璧で究極の偶像」

――リ・ユニオン・スクエア。

 メサイア教団とCROSS HEROESの戦いの舞台となり、
廃墟と化した東京都・港区の様子がニュースに報道された日の事。
突如連絡を寄越してきた謎の大富豪、ハワード・ロックウッドの誘いにのった不二子は
不審に感じながらも、ロックウッド邸を訪れる事となる。
屋敷は見るからに豪華で美しく、まさに豪邸と言うに相応しいものだった。

「ようこそ、ミス・不二子。よく来てくれたね」
(はっ……!)

 ハワード・ロックウッドの姿を見た不二子は思わず息を飲んだ。
カールめいた白髪に紫色の肌、顔中に皺が刻まれた子どもと見紛う小柄の老人……

「ふふ、驚いたかね? 私の姿はマスコミにも出した事はない。
それに、本当の名もね……」
「本当の名前……ミスター・ハワードではない?」
「いいや、それはあくまで仮の姿さ。本当の私の名前はマモー……」

 その名を聞いた瞬間、不二子の顔色が変わる。

「不二子くん。君は実に美しい。私は美しいものをこよなく愛する。
キング・Qは私の夢の体現だった。
彼女の美貌。それが永遠に私の手の中にあれば良いとそう願った……
だが、それが叶わぬ夢となった時、私はそれに代わる至高の宝を手に入れたくなった。
そう、君だよ。君は知らないだろうが、キング・Qから生前より話は聞かされていた。
自慢の友人であるとね」
「私……?」

「そうとも。私はね、永遠の命……不老不死の研究をずっと続けてきた。
美しいものが年老いて、醜く朽ち果てていく……それを克服できたなら、
どんなに幸せだろうか。永遠の若さ、永遠に美しいままの存在……
そんな存在になれるとしたら君はどう思う?」

 不二子はマモーの言葉を聞いて冷や汗をかき始めた。
目の前の老人は確かに恐ろしい男だ。それは間違いないだろう。
だが、その根底にあるのは深い寂しさ……永遠の命を求める求道者だ。

「本当に……そんな事が可能なの?」

 不二子は震える声で訊ねる。

「そのための方法は既に確立しつつある。キング・Qが所属していたメサイア教団が、
この世界を掌握する事でね……彼らもまた、完璧で究極の『女神偶像』を生み出す事を
至上の目的としている。それが果たされれば……不老不死、
そして全知全能の支配者が誕生する! 
私はそのために出資を惜しまない。君もまた、その一人になるんだ」

 マモーは不二子に向かって手を差し伸べる。
世界の根幹に関わる重大な秘密を知った以上、断れば不二子も只では済まないだろう。
協力するか、拒否するか……そんな二つの選択肢の間で揺れ動く不二子だったが……

「……いいわ。永遠の若さと美しさ……女であれば誰しもが焦がれる夢だもの」

 不二子はマモーの手を取ってしまった。
マモーの誘いを断った所で、それで諦めてくれる保証がない以上は他に選択肢はない。
ならば、協力するフリをしてマモーの裏をかいてやろう。
その魂胆は見抜かれているのか、それとも……
マモーはただ含み笑いを浮かべるだけだった。

「賢明な判断だ、ミス・不二子。美しいだけでなく、頭も回るようだね……
キング・Qよりも余程私に相応しいパートナーになってくれるだろう」
(さて、命を賭けた化かし合いと言ったところかしら?)

 不二子は覚悟を決めて、マモーと取引をする事を決めた。
想像以上に危険な相手であったと言う事も理解しながら……

「早速だが不二子くん。私は今、「とある物」を探している」
「それは?」
「十に分かれた魔術王ソロモンの遺産……それがひとつに揃った時、
神をも凌駕する力を得ると言う。
その内のひとつを持ち去った者がいるのだよ。ルパン三世……
この名に心当たりがあるだろう?」

(ルパン……! じゃあ、ルパンが港区にいたのはやっぱり偶然ではなかったのね……)

 港区の混乱の最中、封印されていたソロモンの指輪を見事盗み出した
天下の大泥棒、ルパン三世。
彼もまた、今回の一連の事件に関わっていたのだ。

「君と彼は浅からぬ因縁があるそうじゃないか。どうだね? 
私と共に指輪探しを手伝ってもらえると有り難いのだが」
「ええ、それは構わないわ。だけど、ルパンが今何処にいるかまではわからないわよ?」

 不二子がそう言うと、マモーはニヤリと笑う。

「まあ、いいとも。そのようなコソ泥よりも、私は君と親睦を深めたいのでね。
焦らず行こうじゃないか。酒でも飲み交わしながら……」

 そう言うと、マモーは不二子に飲み物の入ったグラスを勧める。
毒などが入っている様子はない。
どうやら本当に自分は気に入られたらしいと不二子は理解した。

「ええ。そうね……」
「では、君と私を出会わせてくれた今は亡きキング・Qに献杯を捧げようじゃないか」

 こうして、不二子とマモーの奇妙な共同生活が始まったのだった……

10人目

「嗣章に非ず:とっつぁん虚ろの海に散る!?」

 「超越者」が時の巣に集う、少し前



「うぉおおお!?なんじゃあ!?」

 重力さえ感じられず、自分が浮いている様な、落ちている様な、曖昧な空間。
 自分が上に立っているのか、下にいるのかすらも分からない。
 黙っていたら平衡感覚も時間感覚すらあいまいになってしまうそうな。

「ここはどこだ!?落ちる!?というか溺れる!」

 ある程度そこにいると、銭形の眼前に広がる空間がまるで海の底のような領域であるように錯覚する。
 しかしここは海の底ではない。呼吸が出来ている以上水中ではない事は確か。

「死ぬ!死ぬ!!」

 数秒先に待つ窒息の妄想を恐れる。
 生存せんともがくも、何もできない無力感に苛まれる。
 しかしそれよりも強いのは。

「ぐぐ……こんなところで、死ねるかァ!わしはまだルパンを……!!」

 積年の宿敵、ルパン三世への想いか。
 その思いが燃え続ける限り、彼の中の命の灯は太陽のように燃え続ける。

『落ち着いて名も知れない方。深呼吸して、冷静になって。』

 太陽が如く燃え盛る彼の生存意志に呼応するかのように、救いの手は差し伸べられた。
 それは遠くから聞こえる、優しい声。
 まるで女神、或いは天使に導かれるかのような……。

「む!?どこだ!どこから声を出している!?わしは死ぬのか!?」
『死なせはしないよ。だってあたし、人間大好きなんだから!』

 その刹那、銭形の体は光に飲まれる。
 光の奥、謎の声に導かれるように銭形は従おうとする。

「うぉ!ここはどこじゃあ?」

 銭形の風貌ににあわない、だだっ広い花畑。
 水色の、まるで水晶のように透き通るような花が一面に咲き誇っている。
 それ以外に何があるのかといえば、遠くに映る小さな家とでもいうべき建物か。

「わしは……死んだのか?」

 現実とは思えない空間が展開される。
 一見するは、自身の死を予感させているかのような。

「死んでないよ~むぎゅ~っ!」

 背後から、何者かの気配を感じた銭形。
 それを回避した銭形は、背後にいる誰かを見た。

「ぷ~!せっかく抱きしめようと思ったのに~!!」

 ぷんすこと、地団駄を踏む少女。
 水色の結ばれた長い髪と、妖艶としか言いようがない体つき。
 少女の顔はどこか幼く可憐で、されど水色と桜色の眼から放たれるオーラはまるで歴戦の勇士に睨まれたかのような感覚を覚えさせるのにその勇士とは思えない台詞回しに困惑を覚える。

「抱きしめようとするな!公務執行妨害だぞ!」
「あ、ごめんなさい。ここに人呼んだの2300年前からで……浮かれちゃった。」
「訳の分からないことを言うな!」



「あたしはカグヤ!この虚数空間を支配する観測者にして、お姫様!」

 くるくると回りながら、まるで無邪気な子供のようにふるまうカグヤ。
 銭形は、信じられない光景の連続に混乱していた。

「虚数空間!?何じゃそりゃあ!!それに姫君!?子供のようなことを言うのも大概にしろ!」
「む~!信じてくれないなぁ~!」
「信じられるかッ!」

 銭形の言うことは、この状況下ならば無理もない。
 虚数空間などという普通に生活していれば聞精々アニメか漫画でしか聞かないものを現実として突きつけられ、あまつさえ眼前に広がるのはあの世とも見まがう空間。
 非現実をこうも突きつけられては、混乱もやむなしである。

「……とにかく、カグヤ……でいいのか?わしは死んでなくて、ここからはいつでも戻れる、という解釈でいいのか?」
「うん!でも……追いかけている人、いたんでしょ?」
「……。」

 銭形は思い出す。
 確かに、彼女の力を借りればここから戻れるという事実には安堵している。
 だがそれでは、あの悪徳刑事のうちの一人を追いかけるという目的は果たせない。

「どうしたものか……。」

 悩む銭形を心配そうな目で見るカグヤ。
 彼女は、ある提案をする。

「とにかく、あたしの家まで案内してあげる!そこでお話しよ!!時間はいっぱいあるし、お茶も出すから!」

11人目

「嗣章:RUS編1」

アビトの覗き見る光景、そこに映るは今にも死にそうな程に傷付いた少年の姿。
吐血し、今にも崩れ落ちそうな姿は、見知らぬ他人とは言え女神の眉間に皴を寄せるには十分だった。

「うっ…彼は、一体…?」
「良き友人さ、まだ未定だけどね。」
「…?」

一体どういう意味なのか、それは考えても分からない。やはり彼の台詞は理解に苦しむ、と女神は内心舌を巻く。
この異邦者は一体何者なのか、分からない事だらけだ。

(…いや、それだけでは無い、わね。)

そこで漸く、この世界の情勢すら何も分かってない事に女神は気付く。
映像に映る少年が傷付く理由も、周りの人間が戦う訳も、何も知らないのだ。
そんな女神の気付きに答えるよう、オーマジオウが口を開く。

「そうだ、貴公が思う様に、我々はお互いを知らない。相手が取り巻かれている現状を、苦悩を。」
「…まるで心を読んだようですね?」
「なに、こんな事ばかりが上手くなってしまっただけだ。」
「そう、ですか。」

最強の魔王になった男と言えど、苦悩や葛藤とは無縁という訳では無いらしい。
そんな納得に心を満たす女神。不思議と親近感が湧いてくるのは、気のせいでは無いだろう。
故に、この質問は互いにとって当然の帰結だった。

「教えてくれませんか。貴方がたを、CHを取り巻いてきた過去を。」
「良いだろう。だが、生半可な物では無いぞ。」

言葉に含まれる重圧に気圧されそうになりながら、それでも目を合わせる女神。
その決意を感じ取ったオーマジオウの口から、CHのこれまで辿った軌跡を耳にする事になる。

「始まりは、嘗ての私の過ちだった。」

宙に浮かぶ幾多の時計模様が輪を描き、嘗ての光景が映し出される。
そこには、仮面ライダーの歴史を集め世界の王となるという甘い夢を見た、一人の青年がいた。

「これが私だ。」

与えられた目標を求め、そして彼は最低最悪の魔王となった。
彼に夢を与えて影から操り、最終的に歴史を改稿しようとした『クォーツァー』との決戦によって。

「戦いの果て、クォーツァーの目論見にまんまと引っ掛かった私は、一人戦う事となった。勝利は得たが、代償は大きかった。」

結果、オーマジオウの勝利と引き換えに世界の半分が破壊された。
オーマジオウの手から、半分が零れ落ちたのだ。

「そしてクォーツァーの生き残りによって、私は魔王とされた。」

曰く、世界の半分がオーマジオウによって壊されたと。
事情の知らぬ者達からは、真実とされた。

「その嘘によって、私と戦おうとした者達、レジスタンスが結成された。」

無知に付け込まれ、戦士たれと誘導された者達の姿。
無謀にも、彼等はオーマジオウに挑み続ける。

「後は、奴等に利用されたレジスタンスとの戦いに明け暮れる日々だった。」

無人の荒野で、独り戦う王。
ここまでは、世界の半分しか救えなかった男の話でしかない。
一時の勝利しか得られなかった、孤独な王の話。

「ある日の事だ。レジスタンスの内の二人、ゲイツとツクヨミが過去へ向かった。私の抹消へとな。」
「過去から、変えようと?」
「あぁ。」

今のジオウに勝てぬならば、弱い頃のジオウを消せば良いという話だ。

「ここから歴史は変わっていった。分岐点と言っても良い。」
「と、言うと?」
「若き日の私は、あろうことかゲイツ達を自らの仲間としたのだ。ふふっ、そこから歴史が変わり始めた。」

オーマジオウの口調に喜色が乗る。

「何だか、嬉しそうですね。」
「結果的に、私が嘗て守れなかった物を、若き日の私が拾い上げた形になったのだからな。全く、我ながら予測の付かぬ事よ。」

愉快さを隠そうともせず、笑いを零す魔王。
その瞳には、嘗ての純真な心が見え隠れしていた。

「話が逸れたな。ここからが本題だ。」

次に映るのは、平穏な街を襲う魑魅魍魎の群れ。筆頭に立つのは異形の騎士、アナザー竜騎。
あの悪魔からライダーの歴史を取り返すべく、常盤ソウゴや勇者アレク等が立ち向かっていた。
何より、民の平穏を想うが為に。

「私が私の過去から遺脱し始めたのは、ここからだ。」

次に映るのは、クジゴジ堂…常盤ソウゴの住まう時計屋…に集結する戦士達。
街に平和を齎した英雄は、次の瞬間襲撃された。

「手始めに、クォーツァーと手を組んだ『アマルガム』と呼ばれる組織が頭角を現した。」
「それは、一体どんな組織なのです?」
「第二次世界大戦の動乱を経て、対テロ、ゲリラ、内紛解決を目的とした立ち上げられた組織だった。」
「『だった』?」
「今や、複数の個人が私有する武装勢力、他ならぬテロリストへと成り果てたのだ。皮肉な事にな。」

対テロを目的とした傭兵組織が、テロリストになる。
これ以上の皮肉があろうか。
人の業の深さに内心はらわたが煮えくり返る女神だが、瞑想し落ち着く。
この先は、幾ら女神といえどすぐに察した。

「なら、彼等を止める組織も…」
「あぁ、『ミスリル』と呼ばれる組織だ。彼等を、ゲイツが連れてきた。」

アマルガム・クォーツァーによるクジゴジ堂襲撃事件は、ゲイツの呼んだ組織『ミスリル』との共闘により退けられた。
アマルガムの動向を察知したミスリルとゲイツの手柄と言っても良いだろう。
ゲイツの傭兵稼業がこの様な結末を読んだのは、数奇な運命と言わざるを得ないが。
そこでふと、女神は疑問が浮かぶ。

「アマルガムは、何が目的だったのでしょう?」
「気付いたか、この話の本題はそこにある。貴公の杞憂する、世界の融合とも関わってくる。」
「えっ。」

少々絶句する女神を尻目に、オーマジオウが語り始める。

「クォーツァーは私を利用して、歴史を改稿しようとしたのは話したな?」
「えぇ、はい。」
「同じ事を、クォーツァー等は目論んでいるのだ。『聖杯』の力によってな。」

極めて利己的な目的であるそれに、オーマジオウの声音に固さが混じる。
ただならぬ雰囲気に、女神がすかさず問いかけた。

「聖杯、ですか?」
「あぁ、万物の願いを叶え、世界の根源すら変えられると呼ばれる代物だ。」

ごくり、と生唾を飲み込む女神。
まるで訳の分からない代物だが、世界すら変えられると聞こうものなら、それも無理からぬ事でもあろう。
それが話の根幹ならばと知りたがるのは、女神にとっては当然の事であった。
ある程度の検討すら付く程に。

「その聖杯が、あらゆる世界が集結するこの特異点を生み出した…?」
「聡しいな、その通りだ。」

即ち、四季彩世界の異常は偶然起こり得た物では無い。
多分この予想で当たりであろう、と思いながらもオーマジオウの言葉を傾聴する。
その様子に魔王も満足気に口角を上げ、告げる。

「この聖杯を巡って、クォーツァーやあらゆる勢力が動き出し…そのカウンターとして、CROSS HEROESが結成された。」

CH誕生秘話を。

12人目

「亡失ノ幻想郷 悪霊異変Ⅳ 彩香は燃えているか……? その1」

 博麗神社への道中 魔法の森

 曇天の空を駆ける霊夢たち。
 迫りくる黒い影を斬り、叩き、祓い、撃ち、吹き飛ばしてゆく。

「―――――!!」
「左!」

 縦横無尽、無軌道な進軍をやめない悪霊旅団。
 どこへ向かっているかは依然不明。されど放置するわけにもいかず。

「右だ!右に悪霊5体!撃て!!」
「分かった!!」

 故に、狩る。
 ナポレオンの号令を受け、弾幕やボウガンの矢、斬撃を放つ。
 まるで自分たちが黒い津波に挑む、一つの槍かミサイルであるかのように進撃を行う。

「ここを突っ切れば、博麗神社だ!」
「お待ちを!前方に何かいます!!」

 博麗神社に向かう霊夢たち。
 そこに、最後の門番と言わんばかりにひと際大きい悪霊が立ちはだかっていた。

「何だあいつ!?」
「ただの悪霊にしては、大きいわね。」

 今までのと比べると、一回り大きい悪霊。
 現在進行形で数を増やしつつある第2世代の悪霊ですら、ここまで大きくない。

「気を付けろ、もしかしたらこいつ……!!」

 変化は、突如訪れる。
 その悪霊が、彼らの前で変貌を遂げ始めた。
 体躯は更に大きく、靄のような体が更に形を取り戻し、頭部に当たる部位が怪物の眼のような形へと変質する。
 右腕もより巨大な、まるで釘打ち機か鋏かのような形に変質し、左腕は鋭さを増した爪のような形状になっていた。

 霊夢たちが危惧していた事態が、目の前で現実の物になってしまった。

「進化した!?」
「あながち、第3形態というべきか!?」

 進化する悪霊。
 更にかしこく、更に大きく、更に強い形態に。

「皆さん、ここは私が引き止めます。先に行ってください。」
「でも、ディルムッドさん一人じゃ心配です。私も。」

 進化した悪霊を前に、ディルムッドと早苗が対峙する。
 霊夢たちを先に進め、自分たちはここで悪霊と戦う構えだ。

「って、いいのですか?彩香?」

『いいのか?我らとそこの剣士、そしてその風祝のみで?』
「いや、やるしかない!」

 すでに覚悟は決まっている。
 先達する者を食い止める殿を務めると誓ったのだ。この程度の覚悟は当然、と。
 それはディルムッドと早苗も同じだった。

『ならば、ゆくぞ彩香!』
「うん!」

 彩香は一息、覚悟を決める。
 腰に据えた神體の刀を構え、戦闘を開始する。

『こい、大いなる敵!オレが喰らってやろう!!』

 彩香は三度、己の身をアマツミカボシに窶した。
 しかしそれは失意によるものではない。己の意思である。
 彼女と内なる『神』なりの戦略で、こうしたのだ。

「Aaaaaa―――――hh!!」

 対するは第3世代の悪霊。
 それは、今までのよりも体躯がある。
 比べてみると、第1世代のそれが小さく見えるほど。
 咆哮交じりだが、言語らしいものも聞き取れるようになっている。そして―――。

「Grrrrrrhhhhh―――!!」

 この攻撃性能も強大なものになっていた。
 第三の腕による刺突もより強く、鋭く、重く。
 その腕、その爪の攻撃も苛烈に。

「ぐっ!なかなか重いぞ!!」
「HAaaaaaa――――!!!」

 左腕で剣を抑えたディルムッドを貫徹せんと、右腕の槍を構える。
 それは、悪霊の唸り声と共に彼の腹部を抉ろうと動き出す。

『おおおお!!』
「――――aaaaAAAAA!!」

 その攻撃を、アマツミカボシの一刀が弾く。

「下がってください、私に考えが。」
「分かった。」

 早苗と彩香は一旦その場を引き、残されたディルムッドは双剣を構える。

「uuuuhhhhh―――??」

 困惑する悪霊。
 そこにただ一人、彼は啖呵を切った。

「そこな悪霊。このディルムッドが相手だ!!」
「Aaaaaahh――――!!」

 ディルムッドの挑発に乗った悪霊。
 彼を食い散らかさんと、その腕を振るう。
「喰らえ!憤怒の波濤(モラ・ルタ)!!」

 ディルムッドの持つ赤い剣「モラルタ」が悪霊の心臓部、赤核を貫かんとする。

「――――yyyyaaaa!!!」
「なっ……硬い!?」

 そうは問屋が卸さない。とでも言わんばかり。
 悪霊の心臓を囲う、まるで人間の肋骨を象った部位は今までのそれよりも堅牢になっていた。

「Wraayyyyyyyyyyyyyy―――――!!」

 嘲笑まがいの咆哮を上げる悪霊。
 顔であろう部位には眼の部分しかないのに、どこからそんな声が出るのかというほどの嘲弄。

「今です!!」

 しかし、一歩先を行っていたのは、ディルムッド達の方だった。
 この悪霊が計算に入れていなかったのは、先の挑発でディルムッドしか敵と計算していなかったことか。
 故に、続く2人の連撃を予測できなかった。

「開海『モーゼの奇跡』!!」
『龍星堕天・九連砲刀!!』

 悪霊に対抗すべく編み出された連撃。
 早苗のスペルカードで悪霊の逃げ場を奪い、彩香/アマツミカボシの周囲9方向から来る超高速連撃で悪霊の堅牢な赤核を破砕せんとする。

「やったか!?」

 勝利を確信した3人。
 心臓部たる赤核を砕かれ、倒れ伏す悪霊。
 じわじわと気化していく黒い身体は……。

「なっ……!」

 未だ消えることなく、ゆっくりと立ち上がる。
 そして卑怯にも不意打ちという手段をとった。
 巨大な第3の腕での刺突、ディルムッドすら反応が遅れる一撃。

「危ない!!」

 それは、刹那が如き一瞬だった。
 迫る黒槍の一撃を、彩香の剣が弾く。
 しかして現在の彼女が持っていた刀は、刀というよりかはまるで……巨大で無骨な大剣だった。

「神態ノ弐『神喰大蛇(かみぐらいのおろち)』」
「それは……!?」

 是なるはアマツミカボシの大いなる力。
 己が刀身をも変形する暴威。

『試練の時だ。我が力の一部、使いこなして見せよ。』
「分かってる。行くよ。」

 その瞳は、燃え盛る赤から元の青に戻っていた。

13人目

「嗣章:RUS編2」

世界を巡る戦いさえ呼び寄せる『聖杯』。その秘めたる魔性の力、その驚異に思わず息を呑む。
改めて事の重大さ、そして事態の壮大さを思い知った女神は、オーマジオウの言葉に耳を傾ける他無かった。

「では、聖杯について具体的に教えよう。」

その意志を読み取った様に、オーマジオウが聖杯について語りだす。

「始まりは、ある者達が『根源』と呼ばれる『世界の法則そのもの』に干渉しようとして作られた、『あらゆる奇跡を叶える願望機』だ。」
「ありとあらゆる奇跡を…それが本当なら、巻き込まれたのも納得です。」
「あぁ、機能そのものは真実故にな。現に、聖杯が原因で世界が融合している。」

だが、と前置きして、オーマジオウは続ける。

「聖杯の機能は膨大な魔力があって初めて成立する物、故に魔力を集める儀式がある。」
「儀式、ですか?」
「名を、聖杯戦争…或いは、聖杯大戦という。」

儀式、という言葉に似つかわしくない争いの文字に、女神が訝しげな表情を浮かべる。
普通、儀式と言うのならば生贄を捧げるだのと言った行為であって、争いとは普通結び付かない。
ならば何故、という答えもオーマジオウは当然用意していた。

「おかしな話と思うのも無理は無い。だが聖杯を作った者達が一枚岩では無いのが起因している。」
「一枚岩では無い…という事は!」
「そうだ、聖杯を作るまでは利害の一致で協力し、そこから誰が使うかを決闘で決めるという事にしたのだ。」
「なっ…!?」

そんな酔狂な、と驚く女神。
正気なのだろうかという表情を女神にされてなお、オーマジオウは静かだ。

「聖杯を作った魔術師という存在は、そういう者だ。」
「悍ましい、ですね。」
「全くだ。」

まるで女神が想像通りの反応だと言うかのような態度で、続ける。

「さて簡潔に話すが、英霊…即ち過去の英雄を贄として召喚し、争わせ、勝ち残った陣営が根源への接続という望みを叶えられる。」
「生贄を従えさせ、争わせる…惨い、と言うべきでしょうか。」
「あぁ、だがこの英霊という者、もといシステムが厄介だった。」

ふぅ、とオーマジオウが一呼吸置く。
瞬時に、背筋が凍る程の強烈なプレッシャーが女神を襲う。
ここから先が地獄だぞ、という警告。
そんな気迫に押し潰されそうになるが、堪えて身構える。
これから語られる壮大な戦記の始まりに、オーマジオウが遂に踏み込んだ。

「英霊は、過去の英雄の一側面を特に強調して顕現させる。正の面も、負の面も。これが災いを呼んだ。」
「災い?」
「先ず現れたのは、道満…リンボと呼ばれる負の面を持った反英霊と呼ばれる者だった。」

立体映像が、次の光景を映し出す。
そこは空が覆いつくされ、炎が立ち昇り、魔物が蔓延る、文字通り阿鼻叫喚の地獄へ変貌した一つの町。
その頂点で嗤う、一人の陰陽師…リンボの姿。
女神の顔に、嫌悪の表情を浮かべさせるには十分な程の悪行だった。

「『安倍晴明』と呼ばれる者と結託し、奴は神浜町に魑魅魍魎を跋扈させ、命を貪った。」
「そんな、何故?」
「神浜町には、『魔法少女』と呼ばれる存在がいたからだろう。」

魔法少女。ここに来て出てくる新たな単語に、一瞬困惑する女神。
オーマジオウはそんな様子を知りつつも、要点だけを述べる為に言葉を切り出していく。
今、優先すべきこと。それはこの世界に現れている驚異への対抗だからだ。

「魔法少女は、能力を行使すると魂が濁り、やがて魔女と呼ばれる厄災になる。リンボはそれを、斯様な命の凌辱を望んだ。」
「その為に町一つを…!」
「英霊とはその存在理由に斯くあるものだ、故に不思議でもない。だが、それを阻止する者も当然いた。」
「それが…」
「あぁ、『ゲッターロボ』と『CROSS HEROES』だ。」

瞬間、遠く轟く雄叫び。
紅白色の機兵が巨大な斧を携えて鬼を斬る光景が、そこにはあった。
これがゲッターロボなのだろう。百戦錬磨の気迫を、映像越しに感じさせた。
そして映像が別の光景へ切り替わる。
巨大なドームに囲まれた神浜町、その前へと聳え立つ黒鉄の巨人。その下で集結する面々。
CROSS HEROESだ。

「あの、機兵達が?」
「そうだ。聖杯が遠因で引き起こされた神浜町の危機に瀕し、立ち上がった。」

マジンガーZの一撃が神浜町のドームに穴を開け、CHが突入。戦いが始まる。
これがCHが結成されて初の公的な戦闘記録となる。

「だが、ここに来て、『ジェナ・エンジェル一味』なるものが台頭した。」

映像の中で熾烈を極める争い。その最中で一際目立つ存在がいた。
白衣の女性と、彼女が従える魔星を宿す者達。

「奴等については、未だに謎が多い…が、魔法少女を攫い、何かを企んでいたのは確かだ。」

その様式は荒々しく、映像越しからでも力の強大さを思わせた。
特に、異形の力を手にしているジェナは底が知れなかった。

「この戦いには『正義超人』や『悪魔超人』と呼ばれるこの世界特有の種族が加わったが…しかし結果は敗北と言っても良いだろう。」

戦いの果て、攫われる魔法少女の一人『ももこ』。
その後の映像は、見るに堪えなかった。
そんな一部始終を見た女神の顔はもう蒼白を通り越している。
口元を両手で覆う。これ以上先の地獄を見たいとは思えなかった。

「まだ、先があるのですか。」
「これはまだ、ほんの序の口に過ぎん。CROSS HEROESの苦難はそれだけでは終わらんのだ。」
「そんな…」

次いで映されるのは、マジンガーや超人達。
世界征服を掲げるDr.ヘルの機械獣との戦いの模様だ。
ここでも、彼等の予想を上回る事態が引き起こった。

「超人については話したな。」
「えぇ、正義超人、悪魔超人…」
「それともう一つ、『完璧(パーフェクト)超人』と呼ばれる勢力がいる。彼等は互いに不可侵条約を結んでいた。この時まではな。」

乱入してくる、幾人もの巨人。
それは『完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)』を名乗る完璧超人のエリート達。

「奴等はこの条約を不当な物とし、聖杯を賭けた大戦を布告してきた。そして悪魔超人でさえ、同調する様に争い始めたのだ。」
「そんな、どうして…!?」
「それこそ聖杯の魔性、世界の命運をも握る力が齎す物だからだ、としか言いようが無い。」

何も言えず、ただ口を噤むしかない女神。
そんな様子を見かねてか、オーマジオウは映像を一先ず止める。
女神が心の整理をつける時間を与えたのだ。
丁度良い頃合いだったのだろう、勧められるまま、机に置かれたジンジャーエールを一息で飲み干してふぅ、と息をつく。
疲れと共に、理解してしまう。
否が応にも認めてしまうしかなかった。自分はこれに関わらなければならないと。
ほんの初めでこれ程の動乱が起きているこの世界に、どう協力していけば良いか、女神には皆目見当もつかなかったが。

「これがCROSS HEROESと聖杯を取り巻くこの世界の情勢だ。とはいえ、一口に飲み込めるものでも無いだろう。」
「えぇ、覚悟はしていましたが、これ程とは…」
「一度、整理すると良い。その間に、其方の世界について話すが良い。」

14人目

「亡失ノ幻想郷 悪霊異変Ⅴ 彩香は燃えているか……? その2」

「行くよ。」
「Aaaaaaa――――aaHHH!!」

 咆哮。
 声なき咆哮が、悪霊から放たれる。
 咆哮と共に、第3の腕から黒い油を放つ。
 心臓の赤核を砕かれてもなお、その威力たるやまるで水圧カッターに等しい。

「頭だ!頭を狙え!」
「「応!!」」

 ディルムッドの号令に合わせ、恐らく第二の赤核があろう頭に集中攻撃を開始する。
 悪霊も負けじと、攻撃をかわしながら反撃の隙を伺っている。
 その間、この悪霊は考えていた。
『どうすれば、この3人を倒して目的を果たせようか』と。
 あの剣士2人の攻撃は現在学習しているし、もう避ける為のセオリーは概ね出来ている。
 女の方の剣が大きくなったのには驚かされたが、あの大きさだ。大ぶりな攻撃であることは推察できるし、その程度の変形ならば何も変わりはしない。

 であるのならば、まずは厄介な弾幕使いから始末する―――!

「来る!」

 早苗目がけて、悪霊は突進する。
 対抗せんと、早苗も避けさせる気のない弾幕を放つ。

「この悪霊……私の弾幕を避けている!?」

 狙われた早苗が驚愕していたのは、悪霊の学習能力。
 確実に狙い、囲い、追い込み、追い回し、逃げ道を潰したはずの弾幕。
 しかしその全てをあざ笑うかのように躱し、弾き、切り抜き、逃げ切り、その果てに追い詰めてしまった。

「やば……!」
「woooooOO……」

 取った、と歓喜に満ちる悪霊の臓腑。
 至近距離まで迫った悪霊が、その右腕の槍を早苗の心臓目がけて穿とうとしたその時。

「こっちだ!」 

 絶体絶命の早苗に迫る悪霊の頭部を、ディルムッドの双剣が切り取らんとする。
 その攻撃を察知した悪霊は攻撃をやめ、迫る彼へと標的を変えた。
 第3の腕による刺突が、ディルムッドの足を抉る。

「うぐっ……!!」

 悪霊の体を構成する、忌まわしき油。
 ディルムッドは悪霊の攻撃を喰らうことで、その正体の片鱗を察知した。

「この油、ある種の強力な呪いか!(もし俺に対魔力スキルがなければどうなっていたことか……!)」

 油の正体は、呪いの塊。
 どういう構造かまでは把握できないが、歴戦の勇士たるディルムッドすら恐れる代物だ。こんなもの普通の人間が触れたら間違いなく助からない。
 それこそ――――。

「ディルムッドさん、大丈夫ですか?」
「ええ、こちらは。ですがこの油は……マズい。」
「触れたらマズいな。ボクだったら間違いなく、死ぬ。」

 彩香は内心、あの悪霊が纏う呪いの力を恐れていたのだろう。
 なにせ触れば死ぬ。
 自分の生存を考えずに、何が「守る」か。

『だが、やるしかあるまいよ。』
「そうだ、やらなきゃやられる!」

 恐れを振りきり立ち上がり、神體の刀を構える。

「勝負だ!」
「WRYyyyyyy―――――――!!」

 悪霊の左腕、まるで爪のような部位から無数の油が放たれる。
 その速度、威力たるや戦闘機の機銃が如く。
 最も悪霊に戦闘機の知識も「機銃」の存在もないが、この幻想郷で戦ってきた者たちの戦闘知識が、彼ら彼女らの持っていた武器と経験がこの悪霊に機銃という最新を与えた。

「神態ノ弐『神喰大蛇』!!」

 再び大剣のような形に変え、それを盾にして最新鋭の弾幕を防ぐ。
 それでも、悪霊を斬れる射程距離までじりじりと迫ってゆく。

「Grraaaa―――――」

 だが、抑え込んでは勝てない。
 右腕の槍は既に最大まで力を込めている。
 このまま、あの剣ごとこの女を貫徹して見せようと右腕を構えた。

「!」

 突如止む弾幕に身構える。
 何か来る、と彼女の脳内がそう告げている。

「AAAAAA――――!!」

 そのまま、刺突する。
 10メートルはあろう鋼鉄製の茨に、呪いの油がこれでもかと塗りたくられた最危険近接兵器。刺さったら彩香は間違いなく死ぬ。

「Wo!?」

 そう、刺されば。
 その彩香は上空に跳んでいた。
 瞬間、悪霊は理解する。
 『弾幕を防ぎながら、自分の姿を隠すためにやったのだ。行動を悟らせないようにするために』と。
 しかし、思案した時にはもう遅かった。

「喰らえ!」
「AAHhhhhhh―――――!!」

 まるで巨大な隕石。
 上空から降り来たる水色の斬撃を、悪霊の右腕が止めようとする。
 しかして相手は超重量、肉厚の鉄塊。矮小な鋏程度では防ぎきれない。
 そのまま、悪霊は頭の赤核ごと真っ二つにされた。

「つ……疲れた……!」

 疲労からか、彩香は膝をつく。

『我が力は相当に体力を消耗するからな。』
「はぁ……はぁ……!」

 呼吸を整える。
 頭を砕かれた悪霊は今度こそ消滅した。
 周囲に他の悪霊の姿はない。

「第3世代は、赤核を2つ破壊しなければ消えないのか……。」
「大丈夫ですか?立てますか?」

 早苗の手を借り、何とか立ち上がる。

「時間がない、急ごう。」

 3人は霊夢たちの待つ博麗神社に向かい始めたのだった。



 そのころの特異点、丸喜パレスでは

「だが、あれが目的の……!」
「”聖杯”か!」

 突如、流星の如く来た謎の騎士と男。
 片や赤い鎧に身を包んだ、いかにも粗暴そうな騎士。
 もう片方はそんな騎士を従えているであろう、これまたいかつい大男。

「君たちは、一体……?」
「うるせぇ!SPMだがなんたらパレスだが知らねぇが、その聖杯はもらうぜ!!」

 パレスの主たる、丸喜すら困惑する謎の2人組。
 彼らの目的は分からない。が。

「2人とも、俺達の仲間という解釈でいいのか?」
「ああ。一応な。」
「そうか。名前を聞いてもいいか?」

 怪盗団の仲間である、と告げる2人。
 そんな彼らに、騎士は名乗りを上げる。

「オレは赤のセイバー『モードレッド』、そして。」
「マスターの獅子劫界離だ。細かい事情は後で説明する!行くぞ!!」

 かくて心の怪盗団と謎の騎士モードレッド、そしてそのマスター獅子劫界離による丸喜討伐作戦が始まったのだった……!!

15人目

「動乱:聖杯問答1」

丸喜パレスにて聖杯を巡った動乱は、新たな乱入者の存在によって混沌を極めていた。
赤のセイバーを名乗る『モードレッド』、そしてそのマスター『獅子劫界離』なる者。
彼等の存在は、丸喜パレスという大海に隕石の如く投じられ、無視できぬ波紋を広げた。

「グロロ~…遂に来たか。」

だが、武道はまるで分かり切っていた様に冷静で、欠片も取り乱さない。
そんな事、とうに理解していたのだ。聖杯大戦を布告したあの日から。

「待ちわびていたぞ、貴様等サーヴァントが来る日を。」

武道の頭には、サーヴァントの存在など端から換算済みだった。
それこそが聖杯戦争であるが故に。

「あぁん?だったらやられるのも承知…っ!?」

熾烈を極めた剣撃は、しかしものの数秒でその動きを止める。
モードレッドの喉元には、鋼鉄の刃が宛がわれていたからだ。
次の瞬間、飛び退いた彼女の首があった場所を、音速の刺突が突き抜けた。

「っぶねぇ!ナニモンだテメェ!?」
「ピョ、ピョ。喰らっていれば楽になれたものをよぉ。」
「…んだと?」

モードレットが見上げれば、そこにはレイピアの如き刃があった。
否、青い鱗の乗ったそれは、剣の様に鋭く尖った上顎。
その主たる半魚人めいた超人が、嘲笑うようにモードレッドを見下していた。

「聞こえなかったか?大人しく大聖杯の魔力になれって話だ。」
「ふざけんな、下っ端が俺に指図すんじゃねぇ!」

憤りを見せるモードレッド。
次いで、怒りを乗せた斬撃を振るう。
それを半魚人は、事も無しげにカジキの如く尖った上顎で受け止めた。

「ピョピョー!完璧・無量大数軍には上も下も無い!ただ完璧な力あるのみよ!」
「知った事かよ!俺様に楯突いた時点で木っ端微塵だ!」
「果たしてそうかな、えぇ?下らん裏切りの末に相打ちになったモードレッドさんよぉ?」
「_。」

瞬間、彼女の顔から色が抜け落ちる。
同時に、何か触れてはならぬ一線を踏みちぎった様な錯覚が一帯を覆う。
事実、モードレッドはキレた。

「そういう所だぜ?『フライングソードフィッシュ』---ッ!!!」

そんな雰囲気を分かっていたと言わんばかりに、感情の切り代わりへと付け込んだ半魚人の上顎、舵木通しが突き抜ける。
咄嗟に剣の柄で受けるも、突き抜ける衝撃が襲い掛かる。
まるで冗談の様に吹き飛んだモードレッドは壁へと叩き付けられ、一瞬遅れて壁に巨大な亀裂を作り上げた。
立ち昇る土煙が、その衝撃を物語る。

「下らん情に現を抜かした奴らしい末路_」
「_テメェ、もう口閉じたって遅いぜっ!」

だが、それを受けた筈の当人は瓦礫を崩して飛び起きると、気色ばんで叫び散らす。
己のプライドを傷つけられた騎士の怒りは、収まる気配は欠片も無い。
油を注がれた業火の如く、秒刻みで雄々しく燃え盛るばかりだ。
剣を向け、目をぎらつかせた彼女は問う。

「名乗りな、その名を墓に刻んでやる。」
「まだ名乗って無かったな蟻んこ。『完刺』マーリンマン、この名を刻めるならやってみろ。」
「ハッ、よりにもよってマーリンか。つくづく頭に来るぜ、この野郎ぉ!!!」

即座に駆け出し、剣の連撃を叩き込むモードレッド。
しかし、その一撃はマーリンマンの身体に届く事は無く、舵木通しでいとも容易く受け止められてしまう。

「オラァ!ウゥララララァ!!」
「ピョ、ピョ!甘い甘い!」

二撃、三撃。火花は散れど血は流れず。
右で受け止め、左で受け止める。更には横薙ぎと見せかけての蹴りをも、飛んで来た瞬間から見切られているかの如く対応される。
マーリンマンと名乗る完璧超人は、怒りに任せて突っ込むモードレッドの剣撃に、完全に対処して見せていた。
恐るべきはその膂力か。直接ぶつけてる部位に至っては上顎と鰭だけだ。
少なくとも木っ端や只者等では無いと、否応無しに認めざるを得なくなった。

「こいつ、ちょこまかと!」
「ご自慢の剣撃も、怒りに曇って隙だらけだなぁ?」

そして、それは必然の如く反撃へと繫がる。
マーリンマンは舵木通しを捻り、モードレッドの剣撃の勢いを殺さず捌き切る。
次いで、捻じれた舵木通しが正面から激突し、再びモードレッドは後方へと弾かれる。
力の差は歴然だった。

「ハッ、生きてた頃の方がよっぽど強そうだったな。不便だな、サーヴァントってのはよぉ?」
「うるせぇ!テメェ如き、直ぐにでも吠え面搔かせてやる!」
「無理をするなセイバー!奴さん、只者じゃ…!」
「マスターは黙ってろ!」

口では強がりながらも、モードレッドに余裕は無い。
獅子劫界離もまた、それに気づいている。

(あの野郎、サーヴァントの一撃を頭だけで止めるとかイカれてやがる。)

無論、モードレッドとて負けてなどいない。アーサー王の血を引く彼女もまた、選ばれた英霊だ。
だがそれは、人間としてという話だ。そこに超人という枠組みを並べると、拮抗が生まれる。
そこからは鍛錬の差が物を言う。幾万、幾億という鍛錬の日々が。
間違いなく、モードレッドは苦境に立たされていた。

「全く、血気盛んなサーヴァントが来たものですね。」

そんな様子を後ろから見守るシロウは、ただ苦笑するばかり。
割って入られた乱入者の一挙一動に、思わず夢中になっていた。
それは怪盗団の側も同じであり、ジョーカーもいつの間にか神妙な面持ちで眺めている。

「そこまであの聖杯が欲しいって事か…ナニモンなんだか。」

ホールのモニターに映る大聖杯への執着心は、今しがた見せられたばかりだ。
だがそこまでの執着を見せる理由が、まだ分からなかった。
そんな空気の中、不意にシロウが口を開いた。

「貴方がたがそれ程までに聖杯を求める理由、知りたくなりましたね。」

刹那、モードレッドとシロウの視線がぶつかり合う。
何かが弾ける様な鋭い雰囲気が流れる。しかし、シロウは動じない。

「おやおや、怖い目線をぶつけてきますね。余程知られたくありませんでしたか?」

言葉を一つ一つ、積み立てる様に吐き出していく。
この不可思議な空間に投じる一石は、時としてこの場を瓦解させるに足る力を持つ事をよく知っているが故に。
そうして次に口を開いたのはモードレッドだった。

「ハンッ、俺の願いは端っから一つだ。」

その胸の内に煮え滾る様な激情が燻っている事をおくびにも出さずに、彼女は語る。

「選定の剣。その挑戦を聖杯に願う。」

それはか細い言葉の羅列ではあったものの、それは確かにここに居る全ての者が知りたかった一つの事実。
何故、その様な願いを抱くのか。その真意は他の誰にも分からないが、譲れない何かがそこにあったのだろう。
そう、獅子劫もそう思っていた。

「選定の剣…成程、王を志すつもりですか。」

ただ、シロウだけは違った。
彼女はモードレッドの奥底を理解しているかのように、納得を以て頷いている。
そんな様を見て、獅子劫は訝しむ他無かった。

(なんだコイツ?随分と物知りそうな面してるが……)

それを裏付けるかの如く、シロウは喋り続ける。
まるで追い打ちの様に、この場に置ける決定的な一言を。

「では、貴方はどの様な王道で民を導くおつもりですか?」

16人目

「ようこそ、新しい×××へ。」

 アマルガムと同盟の取引を結んだジェナ・エンジェル。
その旨をリ・ドゥにいるリグレットに伝えた。

『なるほど、レナード・テスタロッサ……彼にはウィスパード……
並行世界のブラックボックスたる叡智にアクセスする力があります。
私の事を知っているのも、その能力のお陰でしょう』
「合点が行った。加えて歴史の管理者クォーツァーとも連携していたとなれば、
情報の早さと電撃戦においては他の追随を許さなかっただろうからな」

 しかし、クォーツァーはCROSS HEROESによって壊滅した。
現在のアマルガムは半身を潰された状態だと言えよう。
図らずも、戦力の増強を求めるジェナ一味と、損失を埋めたいアマルガムの思惑は
一致している。

「レナード・テスタロッサは我々と手を組む条件としてお前の……
バーチャドールの力を欲している。どうするね、リグレット」
『リグレット様のお力をそのような下賤な男に……!』

 傍らに立つブラフマンが憤慨する。

『落ち着きなさいブラフマン。ジェナ、取引の内容については了解しました。
しかし、わざわざ私に話を持ちかけてくるとは……何か見返りを求めているのですか?』
「ふん、相変わらず頭の回転が早いな。その通りだ。
お前の力と引き替えにアマルガムとの接触を取り付けたわけだが、
何しろ相手はテロリズムによって世界の滅亡を企む集団だ。
その代表ともなれば一筋縄ではいかんだろうからな」

 ジェナの言葉によって、リグレットはアマルガムの危険度を瞬時に理解した。
テロリズムに手を染める集団などロクなものではないのだから。
対し、リグレットとブラフマンは今のところ自分たちの領域「リ・ドゥ」の外への干渉は
必要最低限に控えている。

 先に聞かされたウィスパードの力、アマルガムの上級幹部としての立場と軍事力に加えて
バーチャドールの力をも掌握したとなれば、レナード・テスタロッサと言う男は
再びクォーツァーと組んでいた時のような隆盛を取り戻す事になる。
それはジェナにとっても歓迎できるものではなかった。
その対策を取らねば、いずれ自分たちがレナードに一方的なイニシアティブを
取られてしまう事になるからだ。

「レナードと言う男はいずれ、お前たちのリ・ドゥにもやってくるだろう。
そうなれば、お前たちがリ・ドゥに築いてきた栄光の全ては消えてなくなる……違うか?」
『ぬぬぬぬぬ……!!』

 思惑通り、ジェナの言葉に真っ先に反応したのはブラフマン。
敬愛するリグレットが構築したリ・ドゥは、彼にとって穢れなき聖域だ。
それを踏みにじるような行為をレナード・テスタロッサがする事など、
ブラフマンには想像するだけで耐えられなかった。
リ・ドゥの安穏を天秤にかけ、レナードへの抑止力とする。
そうすればリグレットとブラフマンはアマルガムではなくこれまで通りジェナ側に付き、
一方的なパワーバランスの傾きを防げる。
ジェナにとって、この交渉はメリットこそあれどデメリットは少ない。

「長い付き合いのよしみで、警告してやろうと思い立っただけだ。
奴の企みが如何様なものか、見極めてからでも遅くはあるまい」
『……いいでしょう。まずは、その提案を呑んで差し上げます』

「ところで、先日お前たちの喉元まで迫ったと言う、イレギュラーはどうなったのだ?」
『あれは、あの後すぐに消息を絶ちました。私たちも警戒レベルを上げているのですが……目撃情報すら皆無です』

 ジェナの言うイレギュラー。或いは「異端者」と呼ばれる者たち。
リグレット、ブラフマンと激しい交戦を繰り広げる最中に、
突如不思議な力が発動したかと思うと、その姿は跡形もなく消え去ったと言う。

「お前にも分からない事はあるのだな」

 ジェナの一言で、リグレットは薄く笑った。

『楽園を追われた者は、地に向かい堕ちゆく運命なのかもしれません。
「彼女」たちも、また……』


――???。

「――いやぁ、リグレットは強敵でしたね」

 そんなシリアスな空気などお構いなしに、何処とも知れぬ場所でレトロゲームに
勤しんでいるのは、「異端者」の少年少女たち。

「あそこで何か急に転移したりしなければ間違いなく私たちが勝ってたね。
33-4で勝ってたね」
「せやろか……? あっ誰だバナナの皮置いた奴!!」

「呑気なものね、あれだけの戦いをしておいて。
まぁ、あの場にいたメンツが欠ける事無くまとめて転移したのだけは、不幸中の幸いかな」

 激しい戦闘が繰り広げられていたエピデウスの塔から打って変わり、
今では弛緩した空気が漂っていた。
ここは何処なのか? 何故彼らは揃ってゲームに興じているのか? 
そもそも……彼らは何者なのか? その答えは、誰も知らない。

 楽園を追いやられた者たちの新たなるフロンティアか、それとも異界の地か。
その答えもまた知る者はなく。
ただ、何処かの世界の片隅に、彼らが暮らす奇妙な場所があった事は確かだ。

 
 全ての答えは、空を飛び渡る蝶から語られる日が来るのだろう。幻の夜に……


「オラオラオラァァァッ!! 星出たァァァァァァァッ!! どけどけどけどけーッ!!
夢美さんのお通りですよーッ!!」
「のわーっ! スピンしたーっ!! って、お前! 執拗にぶつかって来るんじゃねえ!」

17人目

「亡失ノ幻想郷 悪霊異変Ⅵ ダークスピリット・リベレーター」

 人間の里よりちょっと離れた位置の森にて

「遅い!」
「くっ!!」

 それはまぁ、苛烈な戦いだった。
 キーブレード「ブレイブハート」を振るうリクに対し、レキシコン「裁きの書」による魔術を放ち対抗するゼクシオン。
 まともな戦闘方法や格闘技術を持たないゼクシオンに対し、相手は多くの修羅場を潜り抜けたリク。
 そのためか、じりじりと追いつめられてゆく。

「答えろ、廃棄孔はどこだ!」

 キーブレードを、彼の顔に向ける。
 対するゼクシオンは尚も笑う。

「誰が敵であるあなたごときに!!」
「言わないなら……!」

 怒りに任せ、最後の一閃を放とうとするリク。

「バカめ!」

 しかしそこにいたのは、兇悪な笑みを浮かべるゼクシオン。
 瞬間、彼が持つ本が光を放った。
 魔力を帯びた光は、リクの周囲を包む。

「ぐわっ!」

 やがて光は収束し、その場にはゼクシオン一人。
 彼は愉悦に満ちた表情で、レキシコンの一頁を見る。

「そこから出たければ、精々足掻くことです!ははははは……」



 本の空間

「くそ、閉じ込められたか!」

 曇天の空と同じような、煙る空間。
 周囲には、彼を嘲弄するかのように黒い幻影が浮かび踊るように動いている。
 結論から言ってリクは、本の空間に閉じ込められたのだ。

(あの影……どれか一つが本物。それを叩けばここから出れるか?)

 封印されてもなお、闘志の焔は消えない。
 冷静に周囲を見渡し、幻影から放たれる攻撃を躱しながら幻影を切り裂いてゆく。
 しかし、一向に斬っても斬っても幻影は幻影。

 本物を斬らない限り、ここから出れない。

「どうする……?」

 目をつぶり、考える。
 冷静さが再び彼の心に去来する。

「いや、ここは。」



 幻想郷 ????

「さて、彼は後でゆっくりと嬲り殺しにして、悪霊の餌にでもしますか。」

 鼻歌交じりに、彼は転送を開始する。

 ゼクシオンの前に現れるのは、黒い靄。
 ルクソードたちが使っていたのと同質のもので、自分が行ったことのある場所なら瞬時に移動できるテレポートシステム。
 この靄の中に入り謎多き『廃棄孔』に移動しようとした、その瞬間。

「!?」

 突如、彼の持つレキシコンが震えだす。
 その震えは次第に大きくなってゆく。

「まさか、リク!?」

 そして、レキシコンが吹き飛んだ。
 吹き飛んだ、というより本が開き、そこからリクが飛び出たというべきか。

「ばかな……!あの状態から脱出するとは!」

 逆に吹っ飛ばされるゼクシオン。
 本から飛び出て、再び彼にキーブレードを向けるリク。
 戦闘経験ではリクの方が上である以上、

「油断したな、お前のおかげで『廃棄孔』の位置もこれで分かったよ。」

 そこは、巨大な湖だった。
 妖怪の山の中腹部位、守矢神社のすぐ近くにある霊的スポット「神の湖」。
 ゼクシオンがここから靄の移動を行おうとした、ということは。

「お前がここまで案内してくれるまで、待った甲斐があった。」
(もう少し遅れていたら廃棄孔で袋たたきに遭ってた可能性もあった。危なかったが、あいつが悔しがるなら……!)
「してやられたか……!!」

 不敵な笑みを浮かべるリクに対し、プライドを傷つけられたゼクシオン。

「仕方ないですね……態勢を整えるとしましょう。また会えたら、その時は。」

 このまま戦っても不利と判断したゼクシオンは、自分だけを転送した。
 その様子を見届けたリクは再び、山を下り始めた。

「"山の上の湖"か、廃棄孔の位置は!」



 博麗神社

「はぁ……はぁ……!!」
「着いたけど……ひどい有様ね……!!」

 そこは荒れ果てていた。
 スネークたちが建てたハクレイ・ベースは悪霊の襲撃によりガタガタにされており、紫が何とか死守したことによって最低限の設備は守られている。
 神社本体も倒壊寸前までとはいかずとも、凄惨な戦闘の痕が残っている。

「紫か!」
「あ、みんな。待ってたわよ。」



「ごめん、こんなに荒れ果てさせちゃって。」
「はぁ……いいけどさ、後で修理手伝ってよね。」

 ボロボロになった博麗神社を見る霊夢。
 その時、上空から聞き覚えのある声が聞こえた。

「くははは、久方ぶりの顔じゃの。否、新顔の方が多いか?」
「その声は……!」

 そこにいたのは、本物の鬼だった。
 赤い血のような眼、燃える炎のような砕角、そしてその手に握られた炎の槍。
 かつて港区にて大勢の同胞を一瞬のうちに灰燼に帰した、不倶戴天の敵。

「遂に現れやがったな……焔坂!!」
「性懲りもなく、童たちにその刃を向けるか……流星旅団。」

 焔坂百姫。
 流星旅団を壊滅寸前まで追い込んだ、メサイア教団の大司教が一角。
 再び姿を現した無邪気な邪悪を前に身構える。

「この者は……!?」
「地下の鬼や萃香とも異なる鬼だな。」
「その燃えるような闘志を今すぐにでも曇らせたいところだが、ここまで来た褒美じゃ。その問いに答えようか。」
「偉そうに、その槍ごと消火してやる!!」
『落ち着け!挑発に乗るな!』

 挑発に乗り、神體を構える彩香を諫めるアマツミカボシ。
 その様子をかぷかぷ笑いながら、焔坂は先の問いに答え始めた。

「悪霊を構成するのは、人間の悪性にほかならぬ。人間の行い、人間の罪、人間の持つ負の感情。憎悪、絶望、呪怨、殺意……それを物質として具現化したものが悪霊の正体じゃ。つまり貴様らは人間の持つ罪悪と戦っていることにほかならぬ。」
「だから何だ?」
「貴様らが人間である限り、悪霊は無限に現れる。そして人間ごときに罪悪を切り離すことは出来ぬ。もう悪霊の氾濫を止めることは不可能じゃ!」

 人が人である限り、悪霊は溢れ続ける。
 人間に感情、思想、そして願いがある限り人間間の争いは絶えない。

「つまり……完全に消すことはできない、といいたいのか?」
「ああ。或いは原料となった童を殺すか、な。最もできればの話じゃが。」

 ――――その空気は、絶望的だった。
 自分たちに鬼たる焔坂を倒せるのか?
 港区で見せつけられたあの暴威の炎に、勝てるというのか?
 そう考えてゆくたびに顔が曇ってゆく。

 ―――しかし。

「罪悪、か。それすらも踏み越えてこその人間じゃないのか?」

 絶望的状況を打破する一言をかけたのは、消えぬ炎の快男児だった。

18人目

【嗣章:四季彩の世界気になっちゃうか〜】

「一度、整理すると良い。その間に、其方の世界について話すが良い。」
そう言われて女神は咄嗟にオーマジオウを2度見した

「は、はい・・・はい?」

「少し興味があるのだが(初めて2度見しされた)」

「気になるね、せっかくだし僕にも教えてよ」

「ビルス様は美味しい食べ物が知りたいだけでしょう?」

ほとんど全員が四季彩の世界に興味津々だったことに

「・・・みなさんって個性的ですよね」

「ふぅむ…そう言われても1番個性的なのは貴方なのでは?」

嫌味で言ったが跳ね返されてしまった、そりゃそうだ四角の上に丸が乗っかってること自体が不自然なのであるのだから

「(さっき貴方、ニコニコ顔でスケッチしていましたよね!?)」

「やれやれ、苦戦しておるようじゃな?」

しばらく姿を消していた龍華が戻ってくる

「どこ行ってたのです?帰りは貴方がいないと」

「いやー、ちょっと満喫ライフをじゃな・・・それもりも四季彩の世界のことちゃんと分かっておるのかえ?」

「えーもしかして、自分の世界も分からないのかい?」

「ギクッ……まぁ…そうですね、残念ながら」

「したないのぉ・・・。どれ、教えてやろう」

「ところで、シェンロンとお知り合いの方ですか?」

「シェンロン・・・?ふむ…残念ながら知らぬな」

「そうなんですね?」

「うむ。それよりも四季彩の世界には4つの街とその外が存在しているしておる、街を行き来する為には壁にある入口と出口を探さなければならぬ」

「壁ってよりは季節を区切るための結界みたいなものですね。入口と出口専用扉でして街を移動するためにあります」

「絶対めんどくさいタイプの世界だな、破壊するか?」

「ダメです!何が起こるか分からないのに破壊しては」

「まあまあ、もう少し様子を見てみましょうか。それで4つの街気になりますね」

「春は桜吹雪街 夏は夏風横丁 秋は秋雨の街 冬は氷結の街 です。とりあえずどうしてこうなった」

「って言われましても?」

「ほれ、報告書と、いうなのレポートじゃ」

「なんでそんなものを・・・しかも旧型じゃないですか!」

「それよりもほら早く言うが良い」

「ええ!?はい・・・では・・・なんか恥ずかしいけど。街並みは春夏秋冬の街」

「もうテンポ良くならない?」

「ふぅーーーーーーー」

陽気に満ち春の陽気が永遠と続く桜吹雪街
基本的には桜が咲いているところに住んでいるのが特徴ですね、人々の生活は何でしょう戦いを知らないような平和な世界?

宇宙さえも燃え広がり尽きそうほど暑い夏風横丁
基本的には・・・何してるんでしょうね?暑すぎて大変らしいそうで人々の生活は主に科学に頼らないタイプの古い感じです、昔痛い目見たようで

雨雲に覆われし月に支配された魔法都市 秋雨の街
基本的には雨に悩まされてるとかなんとか…魔法の研究に勤しんでいるそうです。勤勉ですね、素晴らしいです。生活は完全に魔法に頼りっきりだそうです

雪と氷に閉ざされ声すら吹雪に掻き消される氷結の街
南極大陸です、誰もいませんよ

基本的には平和な世界となっており、何か起こらない限りは街の住人は温厚である。
何の変哲もない普通の世界となっております
街の外は全て平原となっており何も無い感じとなっています(多分)



「春は現代 夏は昭和 秋は平成 冬は南極大陸ですね」

「平成?なんだか、懐かしい感覚が」

「世界観急におかしくなりましたね」

「いいんです、いいんですこれで良かった気がします」

「荒いけどまあいいんじゃない?」

「南極大陸って、どうして?」

「おかしいですね、元々はそんなことにならないようにしてたのですが・・・」

「謎じゃな」




「ここから見ると島になっているのですね、不思議です」

遠くから見渡す四季彩の世界を見る、例えその場しのぎだったとしても山場は超えたそんな気がする女神だったのだ

19人目

「動乱:再衝突、完璧・無量大数軍」

マーリンマンとモードレッドの激闘、その最中にシロウが願望の果てを問いかける横で。

「グロロ~、こうして再び相まみえるとはな。」
「生憎死ぬには未練が多くてな。地獄の淵から戻ってきたぜ、武道!」

悠々と立ち塞がり、感心した素振りを見せる武道と、ぎらついた顔付きで今にも立ち向かわん勢いのテリーマン達。
そして武道の後ろで立ち並ぶ、未だ顔を見せぬ完璧・無量大数軍が合わさり、一触即発の空気を醸し出していた。
今にも戦いが始まりかねない雰囲気の中で、武道は挑発する様に言う。

「そのまま姿を見せねば、ひっそりと生きられたものを。」
「抜かせ、それは俺の生き方じゃないぜ。」

武道はそれを鼻で笑う。
ただ、その言葉が嘘だという気はしない。
既に武道は分かっているのだ。テリーマンは己の正義の為ならば自分を顧みない者だと。
そう、既に破棄された不可侵条約。
それが齎した一時の安寧を、今も尚求め勝ち取ろうとしている事は、武道にも分かっていた。
テリーマンという男は、そういう者だった。

「どのような意地…いや、正義心だったか。」
(その心掛けが、昔の超人にあれば…)

一瞬の瞑想。
彼の様な正義に満ち溢れた世界であれば、どれほど良かったか。
もしもの世界線、たらればの話を思い浮かべ。

(…いや、そうでは無いからこそ、私は丸喜に賭けたのだ。)

次の瞬間、目を見開いた頃には、既にそんな妄執を振り払っていた。
賽は投げられた、それを抱くことは許されない。
あるのは野望の為にこの体を振るう事のみ。
そこに如何なる蟠りがあろうと、彼はもう引き返せない。
己の進む道がどれほど血塗られていようと、その心がもう二度と惑うことは、無い。
故に。

「ならば諸共に貴様等を葬り去ってくれる!我等が完璧な願望、その成就の為に!」
「上等だ、その願望に絶望を叩きつけてやる!来い武道!」

ゴングの音色が響く幻聴。
瞬間、互いの威信を掛けて両雄が組み合った。

「ギガァ!」
「お前の相手はこのウルフマンだ!依然、変わりなくな!」

弾けるように動いた完璧・無量大数軍の一角…『完掌』クラッシュマン。
全てを圧縮せんとする巨腕の横やりを、ウルフマン自慢の張り手がその金剛力を以て受け止める。
恐るべきは、鍛え抜かれたアイアングローブを両の手だけで止める怪力か。
結果、力は五分。拮抗がそこに生じた。

「シュホー…先の戦いの決着、『完遂』の名に懸けて今度こそ果たしてくれる。」
「私とて中国四千年の歴史を受け継いだ身、易々とやられるとは思わぬ事だ!」

一方で『完遂』ターボメンとラーメンマンは微動だにせず、睨み合いが続く。
達人同士の間合いの読み合いと言った所か。
静かに、しかし激しく火花を散らした視線のぶつかり合いがあった。

「ぐぬぅ、ネメシスでは無いか!」
「先程振りだな、キン肉マンよ。」

そして、各々の激しいぶつかり合いの果て、再び両者が対峙する。
片やキン肉星の現国王、誰もが知る正義超人キン肉マン。
片やそのキン肉マンの姿に似通った、未だ謎に包まれた完璧超人『完肉』ネメシス。
その事実にキン肉マンは怪訝な表情で眉を顰めた。

「う、うむぅ、やはり見れば見る程私に似ておる…!」

キン肉マンを疑問が襲う。
異様な程に酷似したマスク、容姿。
先に出会った頃から思っていたが、彼はさながらキン肉マンの親兄弟にさえ思える姿をしている。
だが、キン肉マンの覚えている限りでは、キン肉マンの家系において親兄弟や親族に至るまで、ネメシスの名は一切無い筈である。

「やい、ネメシスとやら!その姿は一体なんだ!?嘗ての真似や悪趣味なハッタリだとしたら、今すぐ止めて貰おうか!」

キン肉マンは過去、真の王子を名乗る5人の超人に、キン肉マンの名と姿を偽られた事がある。
他でもない、キン肉星王位争奪戦である。
激しい激闘の末に、キン肉スグルこそ真の王子であることに代わり無しとして全てが収まったが、かの一件が最もキン肉マンの雄姿が振るわれた時と言えよう。
同時に、偽物とされた王子達の意地や誇りを垣間見た瞬間でもあった。
あの時の苦い感情を思い出しつつ、キン肉マンはネメシスへと問い詰めた。

「私の姿かたちはもはや私だけの物では無い!その姿は王として私を認めてくれた皆の総意そのもの、それを真似るのは皆への侮辱に他ならんのだ!」

そんな義憤に対し、他の完璧・無量大数軍は薄ら寒い笑いを上げる。悍ましい笑みだ。
まるで嘲笑う様な態度に、怒気を震わせる。

「ジャッジャッジャ!やはり知らないみたいだな?無知とは罪よなぁ!」
「何をぉ!?」
「ジャッジャ_モガッ!?」

怒りのボルテージが有頂天に達する。
粗暴な物言いに、とうとうキン肉マンが襲い掛からんと踏み込んだ瞬間、一人の完璧超人が片手で男の口を黙らせた。
それは、事もあろうにネメシスその人だった。
完璧・無量大数軍の中で、ただ一人嘲笑せず。むしろ、口を横一文字に結んで怒りを堪えている様だ。

「な、何じゃ?」

その様子にキン肉マンも驚きを隠せない。
そんなキン肉マンの混乱を感じ取ったか、意を決した様にネメシスが口を開く。

「貴様は何も知る必要は無い、コイツと共に墓まで持って行けば良い事なのだからな。」
「ネメシス…」

マスク越しの声。それは、何処までも淡白とした声色。
しかしその奥底には、何か得体の知れないモノを内包している様な気がした。
キン肉マンは本能的に悟る。このネメシスという男、何かある。
少なくとも、ハッタリや只者の類いではないと。

(一体、何者なんじゃ?このネメシスという男…?)

胸中で疑問を深めるキン肉マンだが、それも一時の事である。
今、目の前にいるのは敵なのだ。であるならば戦う他無い。
謎を解くのはその後でも良いのだ。
その事実を噛み締め、キン肉マンは構える。

「何だか知らんが、ともかく敵である事には変わらんのだな?」
「そうだとも、俺とお前は敵だ。」

相も変わらず、淡々とした口調で告げる。

「ならば掛かってくるが良い!どんな野望か知らんが、皆が笑って暮らせる世界の為に打ち砕かせて貰う!」
「ジャッジャッジャ!そういう事なら…」

先程まで笑いの戦闘に立っていた男がマントを翻し、鋼色の姿を露わにする。
全身に蛇口をあしらったボディを持つ異形の男。

「この『完流』ジャック・チーの『ボイリング・ショット』を喰らいなーーーっ!」

ジャック・チーを名乗る超人は、肩の蛇口を回して水鉄砲を撃ち出す。
空を割き、キン肉マンへと迫る熱湯の一撃。
喰らえば超人とてただでは済まない。
一瞬で迫る濁流。直撃か。

「おわーっ!?」
「_五右衛門!」

否、それは寸での所で停止した。
蒸気は冷気へ、流体は固体へ、動は静へ。
一瞬にして氷結した熱湯が、ゴトリと音を立てて地面へと落下した。
その下手人が、キン肉マンの前へと出る。

「おぉ~!喜多川では無いか!」
「間一髪だったな、キン肉マン!」

喜多川祐介、心の怪盗団の内の一人。
『五右衛門』のペルソナを宿す彼の放ったブフーラの冷気が、あの一撃を凍らせて見せたのだった。

20人目

「亡失ノ幻想郷 悪霊異変Ⅶ 廃棄孔の怪物」

「何をぬかすかと思えば……強がりを言う男じゃのう。」

 絶望の空気を裂くかのような、快男児の言葉。
 嘲笑まがいの焔坂の言葉に屈することもなく、ナポレオンは続ける。

「何せ俺は、人の願いが生んだ存在。人が”ナポレオン・ポナパルトはこうあってほしい”と願った存在が俺だからな。」
「何が言いたい?」

「要するにだ、俺のような存在が生まれるってことは、『いい世の中』を願う奴もいるってことさ、そして―――そういう願いを持った人間がいる限り、お前みたいな奴はが勝てる未来はないってことだとも!」

 思い起こす。
 幻想郷にて召喚されたナポレオンは、咲夜の言う通り「史実のそれと異なっている」存在であった。
 それは彼が「人の願いに応える存在」であるから。
 であるのならばきっと、この世界に対しても「この世界は残酷だけど、確かな希望もある」と信じている人だっているはず。

「人の願い。」
「そうだ、」
「……希望を語るのは良い。何せメサイア教団も世界を救う頃が最終目的だからな。だが快男児よ、貴様が希望を語るにはいささか遅すぎたのう!」

 そのセリフに呼応するように、幻想郷が揺れた。
 大地の底より何かが揺れる。
 まるで、地の底に封印された「巨大な何か」が目覚めようとしているかのように。

「何をした!」
「何って、もうじき『廃棄孔の怪物』が目覚めるだけよ。一度目覚めてしまえば、貴様らがいくら悪霊を狩ったところで何の意味もないわ!」
「廃棄孔の怪物……?」
「即ち、悪霊どもの親玉にして悪性の集合体!大いなる悪の怪物!!故に、廃棄孔の怪物よ!!この力を使い、童はこの幻想郷も、貴様らも、そして人理も蹂躙してくれようぞ!」

 大笑いをしながら大地の蠢動を賛歌する。
 対する月夜は、焔坂を睨みつけながら言う。

「それがメサイア教団の”救済”か!救済と行っておきながら世界を破壊するとは、語るに落ちたな!」
「何とでも言うがよい天宮月夜。悪の殲滅もまた教団が掲げる救世の一つじゃ!たとえ童を倒したとしても怪物を倒さぬ限りこの幻想郷は崩落する!それでも希望にすがるというなら、精々足掻いて見せよ!!」

 完全に勝ち誇ったかのような笑いを上げながら、焔坂はその場から消えた。
 それに続くように地震が収まり、周囲には静寂が戻った。



 焔坂がいなくなった後、霊夢たちは神社で会議をしていた。

「廃棄孔……例の怪物はそこにいる。今はまだ目覚めていないが、」
「焔坂たちもきっと、そこに……!」
「だけど、その廃棄孔はどこにあるんだ?」

 霊夢たちはまだ、廃棄孔の位置を知らない。
 名前と存在こそ知れど場所が分からなければどうすることもできないのだ。
 人が初めて行く場所に行くとき、位置が分からなければ行けないように。

「ちょっと待て。確か……。」
「神奈子殿、思い当たる節が?」
「諏訪子のやつが、確かうちの近くの湖でなんかしてたんだよな……その時は『みんながそこまで気にしなくてもいい問題』って言うからそのままにしてたけど、いま思えば……。」
「なんかある、と。」
「あいつも結構やるからな、信頼していたんだが今思えば……心配すべきだったか?」

 後悔先に立たず。
 だけどこれで、確証はできた。

「やはり場所は神の湖か。」

 神社での会合にやってきた青年。
 来たのは、ゼクシオンとの戦いを終えたリクであった。

「ゼクシオンの後を付けたんだよ。そしたら神の湖というところについた、あいつも悪霊に関わっているし、きっとそこに……。」
「廃棄孔はある、と。」

 確証は確信に変わる。
 廃棄孔の位置は突き止めた。
 諏訪子なる神が守衛し、ゼクシオンが瞬間移動をしようとしていた神の湖にきっと、廃棄孔は存在する。

「……でもまずは人間の里に行きましょう。そして、今までの事を話さなければ。」

21人目

「幻想郷調査 四の八:共同戦線異状有り」

リクたちが次なる行き先として決めた人里。
そこで繰り広げられる悪霊との人・妖・精共同戦線は、激戦の様相を呈していた。
悪霊は戦力の大半を妖精・妖怪にごっそりと持っていかれ、人里を包囲した筈が逆に弾幕に囲まれる結末を迎えている。
数えるのも億劫な程の集団の激突である。
こうなれば学習の成果など関係無い。そも学習不可だ。
1を避ければ10に襲われる。そんな常に殺意の無いラッキーパンチを喰らうような状況下では、学習のしようがない。
無数の悪霊というアドバンテージは、皮肉な事に数の差によって覆されていた。

「俺達も負けるなぁ!行くぞ!」

氷の城塞都市と化した人里では所狭しと銃弾の弾幕が張られ、悪霊の侵攻をギリギリの瀬戸際で食い止めている。
銃の優位性は扱いの早熟性とその効果にあるが、それがここでは顕著に出ていた。
これが弓や投石器といった物ならば、迎撃しきれなかっただろう。
その早熟性故に少年兵といった問題も出ているが、ここでは敢えて語るまい。
ともかく、人里の人間は弾丸を惜しみなく使い、とにかく弾幕を張って敵の接近を防いでいた。

「向こうは無尽蔵に湧いてくると思え!弾薬を惜しむな!」

その中で一際弾幕を張る陣地にいるスネークが檄を飛ばし、弾丸の装填を急がせる。
弾幕射撃による制圧術は、一般的に連射が容易で面攻撃に向いた銃との相性が良い。
しかし、これは火薬を大量に消費する代物だ。
並大抵のPMCや国家では、容易に取れる戦術では無い。
最も、ダイヤモンド・ドッグズは並のPMCでは無いからこそ取れるのだが。

「っ1体抜けてきた!?うわ、あぁ!!?」

それでも、稀に弾幕の雨を潜り抜け抜けてくる悪霊が現れる。
数々の幸運を経て、人間の元へと辿り着く豪運を持った個体だ。

「や、やられ_」
「せりゃぁーーー!!!」

ただそれが、幸運な事とは限らないが。

「た、助かった…?」
「へっ、どうって事ねぇよ!」

一刀両断。
紅核ごと斬り裂き、悪霊を塵へと還らせたトランクス(ウーロン)の剣裁きが冴えわたる。
次いで2体、3体と斬り裂かれていく悪霊達。
トランクスの鋭き剣の前では、練り上げられた悪意と怨念の骨格も紙切れ同然だ。
数を揃えた所で、借り物とは言え天賦の才には敵わないようだ。

「想定以上の成長だな…」

元々剣の才能があったのか、それとも死線を潜り抜ける事で開花したのか。
何にせよ、スネークはこの短期間で見違えるような成長を見せるウーロンを高く評価していた。
ウーロンの秘めたる底力には未だ果てが見えず、感嘆の声すら出ない。
彼自身は調子に乗りやすい臆病者と自他共に認めているが、果たして。

「そらそら、どんどん次来い!」
_■■■

脳裏にあふれ出るアドレナリンに身を任せ、所謂ゾーンに入った状態のウーロン。
愉快げな表情を隠そうともせず、悪霊をバッサバッサと薙ぎ倒していく。

「よーし、後はお前だけだな?」

そうして遂に残った一体へ剣を向ける。
無論、倒す為に。果ては快楽の為に。

「そぉら、トドメ_」

ウーロンも、悪霊自身も撃破を確信し。
次いで、一瞬の閃光が放たれた。

「うわっ!?」

一瞬の眩みから戻る視界。剣は無く、悪霊の姿は健在。
気付けば、ウーロンの姿は元通り、豚の姿へとなっていた。
静然とする場。顔を合わせ合うウーロンと悪霊。
_ドラゴンチェンジの時間切れ。
お互いが状況を理解した、そんな素振りを見せた所で。

「_変化ッ!!!!!!!」
_■■■■!!!!!

瞬間、二人は弾けるように動いた。
必死の形相でミサイルへと姿を変え逃走を開始するウーロン。
表情は読み取れないが、まるで溜め込んだ怒りを放出したように反転攻勢に出た悪霊。
二人の姿は一瞬にして空の彼方へと消えていく。
ウーロンの最も情けなく、同時に悪霊が最も人間らしく見えた瞬間でもあった。
そんな一連のやり取りを見たスネークが、一言。

「…まぁ、生き残るだろ。」

そう呟くと、周囲の人間は止まった時間が動き出す様に戦闘を再開していた。
それはさておき、銃声の間隔が広がっていく。戦火の音が、静まっていく。
そろそろ、お互い限界が近いらしい。
その事を悟ったスネークは号令を出した。

「集合ーーーっ!!!」

場を支配する程の怒声。
誰もがその声に目を奪われる中、注目の中心になったスネークは告げる。

「全員、寺子屋に向かって走れ!!!」

訳も分からぬまま、それでも素直に走り始める者達。
人里の人間を先導するのは、スネークの号令ただ一つだ。
戦線を放棄して、武器を片手に寺子屋へとなだれ込む。
その背中を狙おうと追い縋らんとする悪霊は、その寺子屋…全体が氷漬けにされた氷のトーチカからの銃弾に倒れた。

「よし、上出来だ。」

スネークは一つ、戦闘前に策略を練っていた。
悪霊を粗方倒したタイミングで、巨大なトーチカにした寺子屋に全員を逃げ込ませてしまおう、と。
原理は単純だ。ただチルノに手伝いを依頼して、寺子屋全体に分厚い氷の膜を張っただけ。
寺子屋自体は人員を収容するのに十分なスペースがあった故に、ある程度氷で増築するだけで済んだ。
そうして出来上がった氷の要塞に人員が武器を持って殺到するとどうなるか?

_■■■!?

強固な寺子屋という名の城塞に火力が集中し、戦列に加わった人々の弾幕によって悪霊は一歩も近づけぬ状態となる。
結果として目論見は成功。削りに削られた悪霊にこれを突破する術は無い。
そう、これは殲滅戦ではない。あくまでも生存戦闘(サバイバル)なのだ。
生き残るだけならば、無数の悪霊相手だろうと幾らでもやり様がある。
その内の一つの手が、これだったという話だ。

「ふん、何とかなったな。」

勝敗は既に決したと言わんばかりの表情で、そう呟く。
事実、悪霊の頭脳は最早これを突破する術が無いと判断している。
無理矢理に突破しようとしても、まず辿り着けるかすら危うく、仮に内部に入り込めても殺されるのがオチだと。
人間が持つ火事場のクソ力という物が案外馬鹿に出来ない事は、人間から出来ている悪霊自身が誰よりも把握していた。
撤退しかない、そう判断した時だった。
大地が、脈動したのは。

22人目

「幻想郷調査 終:蠢く大地、集結する戦士たち」

 神の湖の湖底 『廃棄孔』にて

「もう始める気ですか?全くあなたは早急に動きすぎる。」
「仕方あるまい。お主は人間の里の襲撃に失敗するも、『実験』には成功した。実戦で使えますよ、こいつら。」

 廃棄孔の奥底で、赤い光がかすかに蠢いていた。
 かすかな、されど巨大な赤い光。
 目測で見てもその大きさは、今まで地上で戦った『悪霊』の赤核の100倍はある。

「あなたとビショップのアイデアとはいえ、ここまでの傑作ができるとは。感謝してますよ焔坂。」
「否、お主のおかげでもある。ともかくこの怪物さえあれば大帝や魅上は大いに喜ぶであろう。」

 完成寸前の『廃棄孔の怪物』。
 その覚醒寸前の蠢動を感じながら、彼らは話し合う。

「ところで、あのカエル帽子の女は?」
「ちゃんと処理した。あのケガでは当分は戦えまい。」
「それは重畳。それで『怪物』の覚醒までは?」
「それもあと1日あれば、眠りから覚めるであろうぞ。そして連中は此処の位置が分からぬ。仮に分かったとしてもその時にはもう遅い。」

 危機は思ってた以上に、すぐ隣まで迫っていた。
 ここまで神の湖より出る悪霊を堰き止めていた存在、洩矢諏訪子は既に戦闘不能。
 そして廃棄孔の怪物の覚醒まではあと1日。明日になれば幻想郷は蹂躙され、世界はメサイア教団の手に落ちる。
 落ちずとも、世界は怪物によって破壊し尽くされるかもしれない。

「では、後は。」
「奴らがここに来て、無駄な抵抗をして死ぬのを待つのみ。奴らが死ねばもう敵はいないも当然。悠々と世界の救世が出来よう。」



 そのころ 人間の里では

「なんだっぺか?」
「地震?すぐには収まったが……。」
「みんな大丈夫か!?」

 里の住民たちは、突如の地震に混乱していた。
 地球のどこかで地震が発生し、幻想郷が地に根付いている以上地震もまた幻想郷で起きても何もおかしくはない。
 しかしこと、この地震に関しては『違和感』があった。

「妙だな、強くはないが”揺れが近い”?って言うのか?」
「ああ確かに、うまく言い表せないけどよ……。」

 揺れが近い。
 強くはないけど、まるで自分の下の足場を何者かに直接揺らされているかのような。
 震源が地の奥ではなく、まるですぐそばで発生したような。

「あっ、スネークさん!いたいた!」
「! 月夜たちか!何があったのか?」
「実は……」

 その後、スネークたちに「廃棄孔」なる悪霊の巣の場所が分かったこと、地震の正体がもうじき目覚める『廃棄孔の怪物』のせいであること、そしてその怪物を倒さないと幻想郷が終わることを伝えた。

「うげぇ、外の世界からいっぱい人間が来てるみたいだけど……あそこまでいっぱいとは思わなかったよ……」

 そんな会合の様子を、遠目からある河童は見ていた。
 青い作業服、緑色の帽子。そして人間に対する興味津々な眼。
 「河城にとり」。それが彼女の名前だった。

「『里に外から人間が来た』って聞いて、来たはいいけど……なんて話しかけようかな……?」
「おい、何見てんだ?」
「!?」

 隠れてみていたにとりだったが、偶然その様子を見たウーロンに見つかったようだ。

23人目

「Dead or Treatment/海賊たちの事情」

 丸喜パレス、そして幻想郷……世界の壁を隔て展開される、
数多の陣営に分かれて繰り広げられる激闘。その頃……

――特異点・拠点。

「お待ちなさい!!」

 医務室から飛び出そうとする悟空を、鋭い声が呼び止める。
ナイチンゲールだ。

「もうオラ大丈夫だって! 治った! だから!」
「医師の許可なしに、勝手な行動をするな」

 追随してアスクレピオスが忍者の苦無が如くメスを投擲する。
悟空は咄嗟に屈んでそれを避けると、カカカカカッ、と壁に均等に刺さったメスを見て
青ざめた。

「あっぶねぇ……! せっかく治ったってのにまた怪我させる気か!」
「怪我をしたならまた治してやるさ……ククク……」

「さあ、ベッドです!! お眠りなさい!!」

 ナイチンゲールが放り投げたベッドが廊下をスライドして接近してくるが、
悟空は開脚跳びでベッドを躱すなり、そのまま廊下を駆け抜ける。

「おわっち!! サーヴァントっちゅうんは、どいつもこいつもこんなんばっかか!」

 廊下の突き当たりには、開け放たれたままの扉。
恐らくは回廊、そしてこの拠点の広間まで通じているであろうその先に向かって
悟空は駆け抜けていく。

「あなたを治療します、例えあなたを殺してでも!!」
「言ってる事無茶苦茶だぞ!」

 クラス:バーサーカーによる狂化によって言葉も通じず、
ナイチンゲールは悟空を追いかける。
「戦場の天使」として名高い看護師であるが故に、「患者を救う」事を至上の使命とする
ナイチンゲールにとっては、メメントスでの戦いによる負傷の治癒もそこそこに
修行に出て行こうとする悟空の行動は、到底看過しうるものではなかった。

「戦闘民族サイヤ人。聞くところによれば、瀕死から立ち直ると肉体が急速に治癒し、
より強靭に肉体を再構築するらしいが……
一体どう言うメカニズムなのか、非常に興味がある。それが解明できれば、
また一歩医療の進歩に近づけるだろう。その為にも、大人しく病室に戻れ!」

 アスクレピオスもまた、医療の進歩と未知への探究心に突き動かされ、
悟空を追って回廊を疾走する。

「嫌だ! 部屋でじっとしてたら身体鈍っちまう! オラ修行してえんだ!!」

 悟空が階段を飛び降り、広間を突っ切って再び回廊へと躍り出た。
ナイチンゲールとアスクレピオスもそれを追って疾走する。だが、その時だ。

(悟空、こっちだ)
「おっ……!?」

 物陰から、何者かが悟空を呼ぶ。その主は、勇者アレクだった。
呼ばれるがまま、飛び込むように物陰に隠れる悟空。
直後、ナイチンゲールが凄まじい速度で回廊を駆け抜け、アスクレピオスも追い縋る。

「何処へ行った!? 逃がさんぞ、孫悟空!!」
「治療! 治療!! 治療!!! 
この世の怪我、疾病、すべてを根絶やしにする為に!!!」

 二人の声は、あっという間に遠ざかって行った。
その物言いはもはや悪党と区別がつかない。

(ふぅ……何とかやり過ごせたか)

 ナイチンゲールとアスクレピオスの気配が完全に消えた事を確認し、
悟空は物陰から姿を現した。

「あんがとな、アレク。助かったぜ」
「彼らも、自分たちの役割をこなそうとしているだけさ。悪い連中じゃあない……
まあ、少々手段を選ばないきらいはあるが」

 アレクは苦笑して悟空に言うと、ふと周囲を見回した。

「そう言やぁ、ここんとこバタバタしててこうやっておめぇと
ゆっくり話してる事もそうなかったな。覚えてるか? あの時の事……」
「ああ。ところどころ記憶が欠落しているが……それでも、お前たちと戦ったあの時の事は覚えているよ」

 勇者アレクとローラは、竜王を討伐した後にアレフガルドを巡る冒険に旅立った。
その道中、世界を飛び越え、偶然にも悟空やタイムパトローラーの職務に就いた
トランクスと出会い、共に戦った事がある。
事件が解決し、元の世界に戻ると同時に記憶も失われ、
ふたりはもう二度と会う事もないと思っていた。

 時に埋もれた記憶の彼方……その戦いの物語を紐解くのは、また、いずれ……

「黒髭……俺の知ってる”黒ひげ”とはずいぶん違うな」

 カルデアにも、歴史に名を刻んだ大海賊たちが集まっている。
ルフィの世界に存在した”黒ひげ海賊団”の船長、マーシャル・D・ティーチ。
悪魔の実の能力と狡猾さを併せ持つ、大海賊の中の大海賊。
対して、カルデアに所属する「黒髭」こと、エドワード・ティーチ。
こちらもまた、海賊とは如何なるものかと言うイメージを世界に広く浸透させた、
大海賊である。

「んんwwまぁ、拙者の方がイケメンである事は間違いないですぞwww」
「ふーん……」

 メアリー・リードがジト目でティーチを見る。

「その根拠のない自信はどこから来るんだかね……」

 貴族風の装いに身を包んだ黒髪、褐色肌の伊達男、バーソロミュー・ロバーツは
肩をすくめて苦笑する。

「うるっせえーぞ、バソ野郎! イケメン死刑! イケメンは爆発しろ!」
「……」

 火薬が詰まった樽をバーソロミューに向けて投げつけようとする黒ひげの脛を、
メアリーが無言で蹴飛ばす。

「あいったー!!」
「やめなって」
「海賊はー! ナメられたら終わりなんですぞー! ナメられたら殺す!! 
これ、海の男の鉄則! OK!?」
「そう言うところだよ」

「あの馬鹿はほっときな。海賊少年ども」

 フランシス・ドレイク。
世界一周の海賊にして、海の女王。難攻不落のスペイン艦隊を打ち破った
「太陽を落とした女」と謳われる女傑。
その豪快な性格と、卓越したリーダーシップからカルデアの多くのサーヴァントは
彼女を慕っている。

「しっしっし、カルデアの海賊はみんなおもしれーな!」
「退屈はしねえな」

 ルフィとゾロが笑う。

「海賊かぁ……ゾックスたちは元気かな」

 海賊たちで賑わう最中に介人がふと、思い出すように呟いた。

「ゾックス……?」

 聞きなれない名前にルフィが反応する。

「俺たちと一緒に戦ってくれた仲間だよ!  世界海賊ゴールドツイカ―一家、
略して「界賊」って言ってさ。自分たちの船で世界を渡って冒険してるんだ。
きっと今も、あちこちで戦ってるんだろうな……」

 介人はゾックス達と一緒に戦った日々を思い返しながら、懐かしそうに語る。

「へえ、世界をね。そりゃまた、随分とスケールの大きい話だね」

 ドレイクが腕を組みながらニヤリと笑う。

「面白そうな話をしていますわね」
「あ、アン!」

 メアリーの相棒、アン・ボニー。腕利きの狙撃手であり、
切り込み隊長であるメアリーとの連携は抜群で、互いの弱点を補い合う事でより
効率的に敵を倒す事ができる。比翼連理とはまさにこの事。

「どんな冒険をしてきたのですか?」

 好奇心旺盛な彼女が、目をキラキラと輝かせながら聞いてくる。

「ボクも聞きたい」

 アンに合わせて、メアリーも目を光らせる。彼女らは何をするにも一緒だ。

「そうだね……どこから話せばいいかな」
 
 介人は腕組みをして考え込む。

「じゃあ、ゾックスと初めて出会った時の話から……」

24人目

「Vengeance Bullet Order Ⅳ:探偵の深層 序」

 目が覚めると、私はベッドの上に縛り付けられていた。
 全身の骨格から筋肉に至るまでの全てが痛く、よく見ると点滴のようなものが吊られているのが分かる。
 体中包帯巻きにされており、動くこともままならない。
 この様子から察するに、私は何故か病院にいるようだ。
 だけれども。

「あれ……なんで…?」

 私が病院にいる理由が思い出せない。
 意識が鮮明になりつつあるのにもかかわらず、ここに至るまでの経緯が分からない。

「お目覚めですか、霧切さん。」

 ベッドで眠っていた私を診ていただろう、短髪の青年が私を気遣う。
 見るからに胡散臭そうな青年。自分含むこの世全てを「大義名分のための道具」としか見てなさそうな……。
 だからとて悪い気分にはならないが、この体と状況では何と反応して良いのかもわからない。

「ここは、みんなは!?無事なの!?」
「率直にお伝えします、あなたと数名を残して、学園突入部隊は全滅です。」



 ―――正直な話、その後自分が何を言っているのかは覚えていない。
 誰かの名前とその存在に対する怨嗟のセリフを叫んで、泣きじゃくっていたのは覚えている。
 心に去来した『絶望』と『ドス黒い殺意』も感覚で覚えている。

「あの女を殺さないと……!あいつは殺さないとダメだァ―――――ッッ!!」

 どうしようもなく江ノ島が許せなかった。
 江ノ島の存在を否定したかった。
 江ノ島の全てを破壊したかった。
 蹂躙し凌辱し破砕し拷問し暴掠し陥滅し戮虐し、
 斬殺射殺撲殺刺殺爆殺溺殺焼殺抉殺鏖殺虐殺し、
 全てを踏みにじってからじわじわと嬲り殺しにしたかった。

 ああ、わかってる。そんなものは同じ穴の狢であることは。
 ああ、だけどそれ以上に江ノ島盾子が許せない、恨めしい、忌々しいほど憎たらしいのだ。
 悔し涙を流しながら、私は青年に思いをぶつける。

「『希望ヶ峰学園爆破事件』、最後の生存者『霧切響子』。あなたの力をお借りしたい。死んでいった同胞の仇を取りたいのでしょう?」
「殺す、江ノ島盾子も絶望の残党も……鏖殺しつくす!!地の果てまで追ってでも、破壊し尽くす!!」



 あの後、私は何とか我を取り戻し退院した。
 その後、私は謎の青年「ファルデウス・ディオランド」という男が所属している組織「SPM」に加わることにした。
 混乱中の世界で勝ち残るには猫の手も借りたい、なりふり構っていられない状況なのだ。
 そこで私は、「学園を爆破したのは「メサイア教団」なる組織の刺客」であることを知った。そして、一つの予想を立てた。
 「江ノ島盾子はきっと、メサイア教団にいる」と。
 なにせ「超高校級の絶望」たる彼女の事だ、人類を絶望させることが冠位指定の女だ。
 間違いなくここに入っている。CROSS HEROESなどという正義の味方側についているわけがない。
 だからこそ、目的である江ノ島もここにいればきっと出会える。
 そして出会った暁には、郎党鏖だ。

 何が救世だ、何が絶望だ、何がメサイア教団だ。
 人格も尊厳も命も、すべて否定して殺してやる。
 あの女は、それくらいされても文句言われない咎人なのだから。

25人目

「これから先に待ち受けるものは…」

一方その頃、特異点にあるCROSS HEROESの拠点にてGUTSセレクトの面々が話をしていた。
「なんとかあの晴明とやらからキーを取り戻せて良かったな」
「うん」
「ところでトキオカ隊長、これからどうします?」
「それに関してだが、我々がこの特異点に来た目的が達成できた以上、準備が整い次第元の世界に戻ろうと考えている」
「確かに、今俺たちの世界にいるCROSS HEROESの戦力は少ない……まだ捕まってないライラーを始め、メサイア教団にアマルガムなどがいる以上、あっちの戦力を疎かにするわけにはいかないな」
「けどよ、それだったらこの特異点とかいう場所も放置するわけにはいかねえんじゃねえのか?」
「そうね。この特異点も今だに他の世界を取り込んでるみたいだし、早くなんとかしないと私たちの世界も取り込まれるかもしれないわ」
「それにミケーネもだ。今後やつらがこの特異点に攻め込んで来る可能性がある以上、こっちの戦力も疎かにできない」
「あぁ、それはわかってる。だからこそまずは我々の世界の問題を終わらせてそれらの事態への対処に集中できるようにする必要がある」
「なるほど、確かにそうだな……俺たちの世界の問題ですらまだまだ山積みな今の状態じゃ、」
「てかよくよく考えたらよ。なんで全世界規模でヤバい状態だっていうのに、俺たちの世界のやつらは当たり前のようにテロとか起こしてんだ?」
「確かに……メサイア教団もアマルガムも、闇の巨人やDr.ヘルが暗躍してた時やドラゴンワールドで魔人ブウが現れた時もそんなのお構いなしで好き放題していたわね……」
「……どうして……」
「ケンゴ……」
「同じ人間なのに、なんで皆の笑顔を奪うようなことを平気でするんだろう……」
「俺もそう思います。こういう時って、地球の人達皆で力を合わせてなんとかするべきじゃないですか。なのになんで人間同士の争いを続けるんですかね……」
「……人間には光と闇、いい心と悪い心の両方の心を持っている。ウルトラマンとは違って不完全で矛盾を抱えた生き物なんだ。だからいい人もいればそういう自分の勝手な考えのために多くの人を苦しめるような悪い人だっている……メサイア教団の考えを肯定するわけではないが、人間が人間である限り、これから先もずっと争いは起こってしまうかもしれないな……」
「隊長……」
「……けど、そんなことはきっとないとは思いますよ」
「ハルキさん…」
「俺の世界は隊長やZさんがいなかったらセレブロによって自滅してたかもしれませんが、それを乗り越えて平和を掴み取ることができましたし。Zさんの話じゃ同じ地球人との争いどころか異星人や怪獣とも共存の道を歩んでる並行宇宙がいくつかあるみたいです。だからきっと、ケンゴさん達の地球も人間同士の争いとかを乗り越えて、平和になるはずです!」
「……ありがとうございますハルキさん、おかげで少し気持ちが楽になりました」
「そうよね。平和のために頑張ってる私達が諦めたら、それこそ平和にならないもんね」
「あぁ、今後俺たちの世界から争いがなくなるかはわからない。だからこそ、少しでも平和な未来に近づく為にも、全ての戦いを終わらせないとな」
全てを終わらせた先に平和な未来があるのかどうか不安になりつつも、それでも平和な未来に…皆が笑顔でいられる世界に決意を新たに固めるGUTSセレクトであった。



一方その頃、拠点内の別の場所にいるゲッターチームはというと。
「・・・」
「どうした竜馬、さっきからずっと黙り込んでるが」
「いや、少し考えごとをな…」
「珍しいな、お前が考えごととはな」
「こりゃ近いうちに大災害でも起こるんじゃないのか?」
「どう意味だおい!」
「で、なにを考えてたんだ?」
「……神のやつらのことだ」
「神のやつら?ミケーネとやらのことか?」
「いや、そっちじゃねえよ」
「……まさか、あの時俺たちとゲッターを襲ったやつらか」
「あぁ」
彼らの言う神とはかつてゲッターとゲッター線に選ばれた種族である人類を滅ぼす為に竜馬達の世界を襲った神を自称する者達のことである。
「俺はテメェらと別れた後ずっと、やつらの仲間……つまりは他の神と戦ってた。つっても戦いの最中に甲児達の世界に飛ばされたからまだ全て倒しきったわけじゃねえんだけどな」
「なるほど……確かに特異点にミケーネにと…ここまで大規模な騒動が連続で起きたとなればそいつらも動き出してもおかしくはないな」
「あぁ、しかもどういうわけか知らねえが俺が甲児達の世界に来て以来、ゲッター線の降量が日に日に増えていってるらしい」
「ゲッター線が!?」
(やっぱり、竜馬はゲッター線に……)
「ちょっと待てよ!?確か俺たちを襲った神を名乗った奴らはゲッター線とそれによって進化した人類のことを危険視してたよな!?もしもその事をやつらが知っちまったら…」
「あぁそうだ。ゲッター線の量が突然増え始めてしかも奴らに喧嘩を売った俺や全宇宙にがいる世界なんて、確実に滅ぼしに来るだろうな」
事実、竜馬の考えは的中しており、まだリ・ユニオン・スクエアのことは知ってないものの、復活したミケーネや次々といくつもの世界を取り込む特異点への対処の為に多くの神々が動き出していた。



次元の狭間……世界と世界の間にある隙とも言えるこの空間では、現在進行形でハーデス率いるミケーネ帝国と神々の連合軍による壮絶な戦いが繰り広げられていた。
「奴らをこれ以上先には行かせるな!」
「あの悲劇だけは……最終戦争(ラグナロク)だけはなんとしてでも阻止するのだ!」
ミケーネ帝国による他の世界への侵略、そしてかつてミケーネ帝国が起こした最終戦争(ラグナロク)の再来を阻止するためにミケーネ神や戦闘獣の軍団を相手に戦いを挑む神々達。
「ふっ、無駄なことを……ハァ!」
「ぐわぁあああああああああ!?」
ハーデスが剣を取り出すと、たったの一振りで何人もの神々を真っ二つにした。
「ビルスや裏切り者のゼウスほどの強者ならまだしも、その程度強さでこの我を止めようなどと、片腹痛いわ!」
圧倒的な強さを持つミケーネ三大神の一人にして冥府の王ハーデスが率いるミケーネ帝国……果たして奴らを止められる者はいるのか?

26人目

「幻想郷調査 四の⑨:バッタリ道中修羅しゅしゅしゅ」

「ぶ、豚の妖怪…?」
「はいはい天丼、そのネタもうやられたよ。」
「あ、そうなんだ…」

開幕からバットコミュニケーションをかました少女を一瞥し、豚は思案する。この少女は何者なのだろうかと。
青いツナギ服にスカートをあしらった作業服、緑の帽子に蒼い髪を赤いシュシュで結んだツインテール。それと大きなリュック。
一見すると人間の少女に見えるが、その偏見はこの幻想郷において通用しない事は分かり切っている。
ならば妖怪の類いかと断定するにも、それもまた早計だ。
人か、否か。

「ウーロンだ。」
「え?」
「俺はウーロンっつーんだ。お前さんはナニモンだよ?」

結局の所、会話で聞き出すという結論に帰結したウーロン。
天丼という形とは言え、少なくとも言葉が通じた。ならば会話も通じるだろうという理論だった。
最も、この幻想郷において話が通じる奴が多いかと言われれば、誰もが目を伏せる事実もまたあるが。
何なら先に手が出るのが幻想郷だ。全てを受け入れる以上、外では悪となされる暴力の割合が増えるのも致し方無いのだろう。
ボコった方が話が速いという風潮もあった、

「わ、私はにとり…河城にとりだ!」
「にとりっつーのか。ここで何してたんだ?」
「そ、外から人間が来たっていうから、それを見に…」

だが幸運にも、ウーロンの言葉は無事聞き届けられた。
この少女に宿る善良さがなした奇跡、あるいは必然だろうか。
ただ会話が通じただけでも素晴らしいが、コミュニケーションが続いたのもグッドポイントだ。
幻想郷ではかなり言葉の通じる部類であるとウーロンは悟った。
ただそこは軽く流し、とにかく会話を続けていこうと考える。
重要なのは何の目的で接触してきたかだ。言葉が通じるのと話が通じるのがイコールとは限らない故に。

「そっか。でも見た所話しかける機会を見失ってるって所か?」
「ぐっ…何故それを!?」
「いや見りゃ分かんだろ。挙動が軽いストーカーのそれだよ。」
「っ!!?んんっ…!」

咄嗟に反論しようとして、己を振り返り正論でしかない事に口を噤むにとり。
悔し気に両の拳を握り締めている彼女は、実際の所賢明だ。
豚に言われたとあっては屈辱も倍増しだろうに、それでも言葉を重んじるにとりは極めて善良と言えた。
話は続く。

「えっと、その…どう切り出せば良いか分からなくてな…」
「斬撃をか?」
「話をだよ!?通り魔じゃないよ私はっ!」
「どうどう、落ち着けって。」
「誰のせいだい!?」

軽いジョークで本音を吐露させる。
わたわたと慌てるにとりをなだめ、言葉を尽くして情報を集めていく。
今もウーロンは頭を使って会話のキャッチボールをしているのである。決して天丼がしたいわけではない。
結果、会話内容は至って正常。
変人奇人の類いでは無い事をとりあえず把握出来たウーロンは、意を決した。

「なんでぇい、だったら話は早いじゃねぇか?」
「え?」
「ほら、あっち見てみろよ。」

言いながら、ウーロンは自らの後方を指さす。
当然その動作につられ、にとりはウーロンの指先へ目を向ける。
そして流れのままに視線が流れ、気付く。
否、認識した。観察対象…スネーク達が、一斉に此方を見ている事に。

「ヒュッ。」

なんて事は無い、あれだけ大声で話していれば、嫌でも耳に入るという事だけだ。
結果、スネーク達は全員動きを止めて此方を凝視している。否、観察している。
もはや思考回路が麻痺しているのか、にとりはそんな事実にも気付かず、あわあわと慌てながらスネーク達を視界に収めた。
スネークの鋭い視線と目が合う。一瞬だったかもしれないが、その一瞬は確かに眼と眼が合ったのだ。

「ヒュイッ。」
「おい、人の目を見てそれは無いだろ。」

彼女は反射的に目を反らす。こんな大衆に囲まれるのは慣れてないのだ。
特にスネークの眼光は、そんじゃそこらの人間とは違った何かを感じさせた。
実際兵士としてプロ中のプロなので怖いのは当たり前だろう。
空の曇天模様も相まって、目の前のスネークが鬼か何かに見えるのも仕方ない。
ご覧の通り本人は無自覚でやってるので、言われの無い風評でもあるが。

「ほら、行って来いよ。」
「おわっ、押すな!…ひゅい!?」

そんな彼女の背を(物理的に)押して、一行の前に出させるウーロン。
途端に、注目の的になるにとり。話すなら今しかない。
だが彼女は出方を決めあぐねているのか、スネーク達の方へ歩み寄ってはまた一歩戻るという繰り返しだ。
傍から見れば完全に不審者である。顔が良いのが救いか。
しびれを切らしたのか、スネークの方から声が掛かる。

「おい、何者だ?」
「ヒュ…」
「あー、河城にとりだってよ。何か俺等に興味があるんだと。」
「…待て、何処かで聞いた名前だな?」
「へっ?」
「河城、にとり…確か…」

何か思い出そうと、スネークは頭をひねりだす。
態度の急変を前にして、一歩引くにとり。
だが、遅かった。

「そうかにとり!河童の河城にとりか!?」
「ひゅい!?」

一瞬にしてスネークに間合いを詰められ、両肩に手を置かれるにとり。
突然詰められた距離に、一気に色々なものが吹っ飛んだ。
そんな様子を知ってか知らずか、スネークは興奮気味に話を続ける。

「丁度お前さんを探していたんだ、付いて来てくれるか?」
「え、ぁう、ええぇ…?」

会話のキャッチボールもへったくれもない状況だった。
当のにとりにとってはたまったものではないだろう。今現在混乱中なのだ。
頭の中はクエスチョンマークで一杯だった。
彼女の頭は既にショートしかけていた。
いっそ気絶した方が楽にさえ思えた程だった。

「あの、スネークさん。その子困ってるみたいなので手を放してあげた方が…」
「む?あぁ済まない。」

そんな状況に、救いの手が差し伸べられる。
取り払われる両手に変わって視界に入ったのは、数珠を首に下げた女性。
膝を折って下から顔を覗かせる親切心を持つのは、誰あろう月美であった。

「ごめんね、驚かせちゃって。スネークさん怖かったでしょう?」
「おい、誰が怖いって?」
「そういう所ですよ。」
「むぅ…」

そう言われればぐうの音も出ない、と言わんばかりに顔を顰めたスネーク。
しかしすぐに気を取り直し、再度にとりに向き直った。

「突然で悪かったな、実はお前さんに見て貰いたい物があるんだ。」
「えぇ…?」

気を取り直すのが早い。というより単に感情の切り替えが速いのだろう。
大いに戸惑いを隠せないにとりだが、とりあえず返事を返す事にした。



「すっごい!外の人間はもうこんな物を開発したのか!?」

数分後、そこには満面の笑みで目を輝かせて通信機器を分解するにとりの姿があった。
人間、いや人妖共通の話題を獲ると水を得た魚の様になるものだなぁと、ウーロンはしみじみ思った。

「これ、ちゃんと直るんだろうな…?」
「もっちろんさ!河童の技術力ならちょいだよ!それより、これを改造して欲しいんだって?」
「あぁ、外と通信がしたい。どれくらいかかる?」
「1日も掛からないよ!まっかせて!」

外との通信まで、あと少し。

27人目

「叛逆の騎士が想う王の在り方/東方廃希孔~Revolution of Phantasia~」

 丸喜パレス

「理想の王の在り方なんて、オレには分からねぇ。」
「ほう?では……」

 天草四郎時貞とマーリンマンを相手に、じりじりと追いつめられるモードレッド。
 叛逆の騎士は、突きつけられた「あなたが思う王道とは何か」という問いに苦悩していた。
 その様子を、マーリンマンは嘲弄するかのような目で見る。

「だけどよ……そんなものはなってから考えればいい!」
「「…………は?」」

 あまりにも思っていたような解答とは異なっていたのか、鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる2人。

「今のオレは叛逆の騎士として戦うだけだ。その後の事は後で考えるだけだ!!」

 対するモードレッドは瞳が曇るばかりか、烈日のように燃えている。
 その炎の正体は怒りか、或いは使命か。

「そのためにもオレは……まずはお前らをブッ倒す!!行くぜ!!」
「ピョピョーッ!!答えになってない事をほざくか―――――ッ!!」



 寺子屋内部

「これより、『廃棄孔制圧作戦』の内容を確認する。」

 寺子屋の教室、その一室を借りてCROSS HEROESが作戦会議を始めた。

「現在幻想郷を襲っている”存在”、通称『悪霊』の排出口がある『廃棄孔』は神の湖から出ていることが分かった。今の今まで洩矢諏訪子氏が前線で防衛していたが、それも突破されてしまった。こうなってしまった以上、俺達も猶予はない。」

 その看板に、有志が作ってくれた『幻想郷の地図』を貼りつけ、月夜は

「悪霊を放ち、暴威を振るっているのは、悪霊の製造元である『メサイア教団』の刺客『焔坂百姫』と『ゼクシオン』。奴らと先の地震の原因『廃棄孔の怪物』なるものを抱えて待ち構えている。目覚めれば俺達は99.9%負けるだろう。だからその前に。」
「廃棄孔を叩くわけか。で、具体的な方法は?」

 その問いに、月夜は淡々と答える。
 まるで、この計画を前段階から練っていたような感じだ。

「制圧部隊は、今日の酉の刻(18時)に人間の里を怪物攻撃部隊と共に出る。攻撃部隊は神の湖で待機。もし廃棄孔の怪物が出てきたら攻撃をする。それ以外の者は、幻想郷から一匹たりとも悪霊を出さないように防衛する。先の戦闘での規模を察するに今回はもっと出てくるはずだ。それこそ文字通りの総力戦となる。」
「どのあたりに出るかは分かったりするものか?」
「悪霊は基本的に『穴』から出てくるからな。それにどこから出るべきかと学習されたら拙い。だから『人間の里』や『博麗神社』を中心に、要所要所に人員を配置する。博麗神社は結界に最も近い位置にある要所だからな。落とされたら、制圧部隊がどれだけ頑張っても終わりだ。」
「こちらも藍達に頼んで結界を強化しているけど、責任重大よ霊夢。」
「はぁ……その廃棄孔、早く落としなさいよね。長くは持たないかもだし。」
「任せてくれ。夜明けまでには潰すさ。」

 気だるげな口調とは裏腹に、自信あふれる声色と印象を持つ霊夢の言葉。
 彼女は幻想郷と博麗大結界の守護者だ。ならばホームグラウンドである博麗神社の守衛は一任した方がいい。

「制圧部隊は俺と彩香、ペルフェクタリアとリクは確定で行く。特にゼクシオンは一度リクに倒されているからな。間違いなく有効打になるだろう。」
「あいつは人間じゃない、心のない『ノーバディ』だ。ノーバディはキーブレードを持つ俺が弱点になる。」
「焔坂は?」
「奴は彩香とペル、そして俺がやる。港区の借りがあるからな。返してもらおう。」

 その拳と声に力が籠る。
 これ以上、あのような魔性による犠牲者を出さないためにも。
 そして今度こそ、港区で散っていった同胞の仇を取るために。

「ですが、その『廃棄孔の怪物』をどう叩くつもりですか?姿も規模も分からない相手をどう対処すべきか……。」
「その点だが、奴は『悪霊の親玉』だとのことだ。つまりその弱点も通常の悪霊と同じはずだ。」
「心臓部と頭にある赤い核(コア)を叩くと。でもどうやって?」

 その問いに対し、月夜は全幅の信頼と共に言う。

「大丈夫だ、俺達には相手がどれほどの大きさであろうとも確実に倒せる”秘密兵器”がある。そうだな?ナポレオン。」
「ああ、もし『廃棄孔の怪物』が目覚めたら、紅魔館のレミリアと紫が持つ『ソロモンの指輪』で俺の宝具を強化、そして奴の核をぶち抜くってわけだ。」
「その間、私たちが怪物の外殻を攻撃します。」

 ナポレオンは神の湖で宝具を撃つ構えだ。
 狙いは怪物の心臓。そして、早苗と神奈子は宝具を確実に命中させるため、その外貨鵜の破壊に回る。
 だが、懸念点もある。

「でも……もしかしたら一押し足りないかもしれません。確かに私たちの弾幕は妖怪にも有効ですし、強力なものならある程度は削り切れそうですが……。」
「魔力やスペルカードも無限じゃないしな。悪霊も倒しながらの戦いなら、もう一押し何かが欲しい。」

 廃棄孔の怪物の撃破。
 その要であるナポレオンとソロモンの指輪を周囲を飛ぶ悪霊を倒しつつ守り、更に怪物の超強固な鎧を打ち破るのならば、まだ戦力に不安があるという。
 確実に守り切るためのもう一押しがなければ。要件は満たせない。

「ああ、その件だがいいニュースだ。外と通信がつながったぜ!こっちも『秘密兵器』を送ることができる!」
「本当ですか!?それなら行けるかも……!」

 早苗たちの表情が明るくなる。
 ウーロンの知らせにある『秘密兵器』の手配が出来そうだというのだ。
 その秘密兵器があればできるだろう。

 計画は整った。後は動くのみ。

「よし、計画実行は今夜だ。準備に取り掛かるぞ!」



 かくて幻想郷に手札は満ちた。
 剣は鍛えられ、手札は揃い、後は席に着くのみ。
 逃げることはできないし、そも逃げられない。
 祈りも救いもなく、己が戦力のみが顕在する。

 ならば、どうか見せてほしい。
 弱き者たちが絶望の中で、光を見出せるかを。



 To be Continued. Next→忘却之廃棄孔 幻想郷

28人目

「動乱:デウス・エクス・マキナはお互い様」

何てことの無い、ただの散歩日和の日。
ふと、自分の存在意義について思い立った。

この世界には、数多の自分(ぼく)が息づいている。誰も彼もが気ままに日々を過ごし、好きに生きる。
だがそれは全て同じ存在ではなく、時折現れたり消えたりする。
明瞭な目的も無く、思い立ったが吉日を体現した曖昧な存在。
それでも良いと、どの自分もそう肯定し続けている。
ただ同じ様で少し違う、緩やかな日々を送る事だけを目指した、それが僕等の筈だ。
目の前だけを考えていれば良い生命だったのだ。
少なくとも、今この瞬間までは。

ならば、この僕は?
繰り返す日常に、他の自分と同質である事に、言いようの無い怯えを覚えた僕は何だ?
周りと同じでありながら、自分以外の何かとなった僕は何者なんだ?
一度火の点いた思考は、導火線を辿る様に止まらない。
僕が生まれた訳は、意味は、理由は?考える度に疑問は深くなり、疑問は不安へと変わっていった。

そんな思考ループの果て、僕は自分の存在意義を見つける道を選んだ。
所謂、自分探しの旅という奴だ。僕の意味、僕だけの使命、生きる意義がある筈だと。
今まさに芽生えた意思が、その証拠だと信じて疑わなかった。
そんな哲学的な思考をしなかった罰だと言わんばかりに知恵熱で頭の奥底を痛めたが、不安から抜け出す事に必死だった僕はそんな苦痛さえ受け入れた。
一個体としての存在意義を問い、心を砕く■ビィ、うむ、悪くない。と。

_それが、過ちの始まりだったと思う。



意識の明滅。
朧気だった視界に、色が戻る。
微睡の中で見えたのは嘗ての記憶だ。今では想い出と呼ぶのもおこがましい_
_はて、自分は何をしていたのだろうか?
横倒れの視界に映るのは、幾人もの戦士達と…

「…あぁ、ジョーカー。」

その言葉を口にした瞬間、一気に記憶が戻る。
そうだ、自分は、僕はジョーカー達を助ける為にパレスへと乗り込んだ。
無論、ジョーカーを助ける為に。嘗ての恩を返す為に。
それがどうだ?見知らぬ『自分』と戦い、一方的に負け、すやすや眠っていたと?

「…クソッタレ。」

…虫唾が走る、何より僕自身のザマに。
回復し切った両手を握り締め、両足を踏みしめてゆらりと起き上がる。
こんな所で寝ている暇は一瞬だって有りはしない。さっさと戦列に立てと自分を叱咤した。

「ぐ、うぅ…!」

立ち上がり、足下の瓦礫を蹴り飛ばす。
先程まで微睡んでいた僕は、もう居ない。
再び晴れていく視界には、敵味方入り乱れる戦場が映り込んでいた。

「何を語るかと思えば世迷言を!自分の王道すら示せん思想無き王等、暗君にも劣るわーっ!」
「うるせぇ!俺は叛逆の騎士として成り上がって、そこから俺なりの王道を示してやるってんだよ!」
「それが過ちを繰り返す、貴様の元のようにな!」

飛び交う怒声と喧騒。
戦いは依然、続いている様だ。まだ此方に勝ちの目が残っているのだろうか?分からないが、それすら考える暇はない。
今はただ眼前の敵を倒す事だけを考えろ。そう自分に言い聞かせ、地を駆けた。

「アビィ!傷は!?」
「大丈夫さ、それより目の前に集中しろ!」

返す言葉で振り向きもせず、一心不乱に敵を捉える。
視線の先には、やはり自分と瓜二つの何者か。気味が悪い。

「あぁん?何だ、似た奴がいるな。敵か?」
「…俺の、仲間だ。」

ついでに見知らぬ鎧の騎士がいたが、そんな事はどうでも良かった。

「おや、アビィさんですか。」
「へぇ、もう蘇ったんだ?そのまま一生眠っていれば良かったのに。」

存在が、言動が、その有り様が癪に障る。
何より許せないのは、僕のその力でジョーカー達を害する事だ。
何の目的か知らないが、それだけは放って置けなかった。

「来いよ偽物。」
「抜かせよ、時代遅れ。」

偽者を真っ直ぐに見据え、僕は構える。
奴が何処まで出来るか、先の一戦で分かった。
だが、勝敗はそれだけで決まる程甘くはない。
どうやって僕を真似たのかは知らないが、経験から来る勝負勘だけは覆す事など出来はしない_!

「ハァ!」

衝突する拳。
僕の拳を受け、反撃の蹴りを仕掛けてくる偽物。
向こうは容易いとばかりに弾き飛ばし、体勢を崩される僕へ強烈な一撃をくらわせてきた。
やはりパワーが違いすぎる。癪だが、それは事実だった。
_一つの仮説が立つ。

「お前、メメントスのシャドウを粗方喰ったな?」
「へぇ、ご考察を聞いても?」

意外そうな表情から、外れでは無いらしい。
拳を交えながら、僕は指を立てて続けた。

「一つ、自らの居場所といえるメメントスからわざわざ地上に出てきたシャドウの一件。」

ここに来るまでに聞かされた、騒動の内の一つ。
それがずっと気掛かりだった。
シャドウが進んで地上に出るという異常事態が。

「自分の居場所を捨てるなんて、余程の事があったんだろうね。例えば、天敵に匹敵する何か…お前が現れた、とか。」
「ふぅん、根拠としてはまだ_」
「もう一つ、仲間が今のメメントスへ実際に潜った際の状況。」

偽物の声を遮って、二本目の指を立てる。

「世界の集合無意識が集まるメメントスで、あらゆる世界が集まっている状況。普通なら、内部はシャドウで溢れかえっている筈。」
「…」
「にも拘らず、居たのはこれまで通りの量しかいなかった。まるで誰かが粗方食い荒らした様にね。」

偽物の顔付きが、剣幕を孕んだ物に変わる。
僕は付き付ける様に言った。

「もう一度言うよ。お前、喰ったな?」
「…ご明察。色んな世界のシャドウを食べさせてもらったさ、お陰で力は十二分にあるよ。」

奴のパワーの源が判明した。聖杯とやらで搔き集めたあらゆる世界の集合無意識を貪ったらしい。
全く、僕の真似をしてやることにしては悪趣味が過ぎる。相当質が悪い。
本当に止めてもらいたいものだね…丸喜拓人。

「…丸喜、君だろ?僕の偽物なんかを作り上げたのは。」
「うぅん、偽物とは違うかな。」

丸喜は、暫定偽物を見ながら答えた。
じゃあ何だ?と聞き返す僕に、丸喜は俯き気に答えた。

「彼は紛れも無く君だよ、アビィ君。君のシャドウなんだ_」
「黙れよ。」

破裂する様に湧き上がる激情。
その勢いに任せ蹴りを叩き込もうとするも、偽物に阻まれる。
それでも、叫ばずにはいられなかった。

「僕が、僕という存在が、例え影だろうが自分勝手に世界を荒らした?悪趣味が過ぎるね!」

僕の叫びに、丸喜はただ黙って目を瞑るばかりだ。
代わりに、僕の影が答える。

「いいや、丸喜は僕本来の姿を認めてくれた救世主だよ。認めなかった君(僕)と違ってね!」

言うや否や、圧倒的なパワーで僕をねじ伏せる影。
腹立たしいが、認めるしかなさそうだ。

「…だったら、もう手段は選ばないよ。」

そう言うと同時に、パレスを揺れが襲う。
直後、天井を突き抜けた蒼い巨腕が姿を現す。
アビダイオーだ、こいつで決める_

「そう来ると思った。」

直後、更なる揺れと共にアビダイオーが空の彼方に引っ張られる。
そこには、40mはあろうかという黒鉄の機兵がいた。

「シャドウ・カタクラフト、出番だよ。」

29人目

「幕間:一人と一柱」

 白い空間。
 そこには何もなく、ただ澄み切った空気と濁りなき白だけが広がる。

「……。」

 そこに、少女はいた。
 蒼い服に青い刀、その双眸も碧く美しい。
 彼女が相まみえるのは、

『どうした?悩みか?』
「うん。ちょっとね。」

 少女、彩香と眼前の存在『アマツミカボシ』。
 彼女の前にいるアマツミカボシの姿は人の形ではなくただの光の球体だった。
 人の言葉を話す光の玉。それがかの神の正体だった。
 その光を前に、彼女は悩みを話す。

『心配するな、オレは主の体を永久に乗っ取ったりその在り方を消したりはせぬ。幾ら悪神と言えど気に入っている者に対してそんな暴虐をするほどオレは悪ではない。にもかかわらず、何をそこまで恐れる?』
「違う、そうじゃなくて。」
「段々と自分が変わってしまうんじゃないかって思ってしまうんだよ……。」

『何を言う。むしろ誇れ、お前は強くなっている。されど、心は何も変わってはいない。』
「」
『泣きたいときに泣けず、己が悩みすら打ち明けられぬほど心が鉄に変わってしまう。そうなれば終わりだ。』



『建葉槌命の神話を知っているか?』
「何それ。」
『オレが関わっている話だ。かつてのオレは、ただ強さを渇望していた。強きことを善とし、強き者こそを愛した。己の強さを見せるためにバカもやった。だがな、そんなオレでも心を知ることがあったんだよ。おしえてくれたのが、建葉槌命だ。』

 かつての日本の地上、葦原中国。
 その地を支配していた悪神、アマツミカボシ。
 かの者はその力を振るい多くの魔や神を滅し、挫いていった。

 最盛期には、高天原の闘神2柱をも倒してしまうほどに。

 しかし、そんな彼ですら敗北することがあった。
 その最たる例が、建葉槌命との一件だった。

 曰く、天照の命により葦原中国に降りた建葉槌命は、高天原に従わず暴威を振るうアマツミカボシを弱体化させるためにに接近。自ら作った『力を封じる羽衣』を騙し打ちという形で着せて高天原に服従させたという。

『あの神は、オレと刃を交えることなく勝利した。当然悔しかったさ。でもな、その時気づいたんだよ。かの神には『心』があった。優しさ、憐憫があったんだと。正直、建葉槌の奴に斯様な心が本当にあったかまではわからんが、少なくともあの時にはそう感じられたんだ。』
「つまり……心を忘れない限り、ボクが道を間違えることも、あなたに体を完全に乗っ取られることもないと言いたいの?」
『そうだとも。お前がどうしようもなく憎悪にとらわれ、飢えるほど強さを渇望しない限りお前はお前のままだ。そこまで心配せんでもよい。……いや、もしかしたらお前が心を忘れずに……。』

 その先の事は、よく聞こえなかった。
 だんだんと眠りから覚めるような感覚に、声がかすんでいったのだ。



「はっ!」

 彩香は意識を取り戻した。
 そして、瞑想をしていたことに気づく。

「大丈夫かい?彩香。」

 その様子を神奈子は見ていた。
 心配なのか、信頼していたのかといった顔だ。

「そうだった。アマツミカボシに会いたくて瞑想していたんだった。ボク自身の悩みを打ち明けたくて……。」
「んで、どうだった?」

 彩香は、いつものような笑顔を浮かべて言った。

「うん、大丈夫。ボクが……」
「おーい!喜べお前ら~!!」

 しんみりした空気を裂くような、快活さ溢れる声。
 その声の主は、てゐだった。
 その傍らには、リクが謎の箱を持っている。

「お師匠様が『これ持ってけ』ってさ!」

 その箱の中には、薬瓶のようなものが入っていた。
 中身は丸いカプセル状の、とても小さな薬。

「これは……?」
「何でも『悪霊による霊障とか汚染を治せる薬』だって!これから人間の里を守る奴らと、お前らに渡して来いってさ!」

 対悪霊の汚染症状への特効薬。
 これがあれば、彩香でもある程度は対抗できるだろう。

「強い対魔力を持ったサーヴァントはともかく、『悪霊』の汚染は人間には猛毒だからな。ありがたくもらっておこう。」
「うん、ありがと。」

 かくて、準備は整った。
 いざ、廃棄孔の門が開く。

30人目

「挫折と再起の螺旋」

「さて、一丁上がりと」

 グランドクロスの幹部・禍津星穢は並行世界に渡り、手頃な世界を壊して回っていた。

「これでまたじいさま達に褒美をもらえるってもんだ……」

 思い起こされるは、トラオムでのルフィとの闘い。


『ゴムゴムのォォォォォォォォォッ……
JET銃(ジェットピストル)ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』


 ギアの力を発動したルフィによって、特殊能力の尽くを無効化された上での敗北。

「あのゴム野郎には報いをくれてやらねェとな……この僕に土を付け、
あまつさえ傷を負わせたんだからなァ……」

 穢が並行世界を封印する事により、老人たちは「褒美」として力を与えてくれるのだ。
さらには人間の負の感情を浴びる事によって、穢はどんどん力を増大させていく。

「くくくっ、このまま力を蓄えていけば……」

 穢が世界を壊すためにはいくつかの「条件」があると言う。
が、それが何であるかは定かではない。
穢は残忍な笑みを浮かべると、次なる獲物を求めて世界を渡り歩いて行ったのだった。
月美の世界、ペルの世界……CROSS HEROESに所属しているメンバーの中にも、
彼によって世界を壊されてしまった者たちがいる。
彼らの怒り、悲しみ、苦しみ……様々な負の感情が禍津星穢に力を与えていくのだ。

『たりあ!!』
『ペル……!』

 ペルが暗黒結社バダンが引き起こした時空の歪みに呑み込まれ、
別世界へと飛ばされてしまっていた間に、グランドクロスの魔の手が伸びていたのだ。

『ハハハハハハハハ……キミが「アベレイジ」の生き残りか。
少しばかり遅かったようだねェ』

 禍津星穢が嘲笑う。別世界で出会った仲間達の後押しもあり、
ようやく元の世界に帰還したペルを待ち受けていたのは
守り抜いたはずの世界の終焉であった。そして、守るべき自らの半身、
平坂たりあも、また……

『貴様……!! 貴様の仕業か……!!』
 
 怒りに震えるペル。穢は舌なめずりしながらペルを煽る。

『裏切り者には当然の報いを与えなきゃならないだろう? それが組織ってもんだ』

 ペルは暗黒結社バダンとの戦いの中で、幾度となく窮地に立たされた。
だが、それでも心折れる事なく戦い続けた。
それは仲間の存在があったから……そして、たりあの存在があったからだ。

『アベレイジは壊滅した。そして僕が、君に代わってじいさま達の跡継ぎになったのさ』
『ぬあああああああああああああああッ!!』

 怒りにまかせてペルが殴りかかる。が、禍津星穢は瞬間移動でそれを避けると、
ペルの背後に回り込んだ。

『――ッ……!!』

 穢の身体を流れる黒き血が大鎌となり、すれ違いざまにペルの背中を切り裂く。
傷口から魔力を流出させてよろめくペルを見て、禍津星穢は嘲笑を浮かべる。

『この世界も終わりだ。諸共に消えて失くなれ』
『う、う……』

 朦朧とする意識の中、ペルは震える唇を噛み締めて禍津星穢を睨み付ける。
全てが崩れ去っていく。黒と赤、滅亡を象徴するかのような世界。

『じゃあな』

 かき消える禍津星穢。ペルは最後の力を振り絞って、
なんとかしてたりあの元へと向かおうとする。だが、その道半ばにして力尽き……
崩れ落ちる。
守るべき世界も、守るべきものも、全てを失ってしまったペルに残されたのは――
ただ無念の想いのみだった。

『どうして……こんな事に……』

 組織を裏切り、出会った仲間と共に戦う事で、
ペルはようやく自由を手にする事が出来た。だが、その結果がこの惨状なのだ。
世界を守れなかっただけではない。自らの半身であるたりあすらも失った。
ペルの心に深い悲しみが刻まれる。

『ペル……せめて、ペルだけでも……生きて……』

 その身を呈して、ペルを逃がしたたりあもまた、その命を燃やし尽くした。
そして、生き残ったのはペルただ一人。
この世界を壊すだけ壊して去った禍津星穢への怒りと憎しみ……
そして、自分が無力なばかりに仲間を救えなかった悲しみが、
彼女の中で入り混じっていた。

(私が弱いから……だから、皆死んでしまったんだ……)

 そうしてどれだけの時が経ったのか。たりあによって救われたペルフェクタリアは
挫折の底から立ち上がり、禍津星穢の行方を追って幾多の並行世界を巡り続けた末に
CROSS HEROESとの出会いを果たす。
そして禍津星穢との再戦、アベレイジが残せし禁忌の研究の結晶、ブーゲンビリア……
ペルにとってグランドクロスとは、過去よりの呪い。

「必ず奴らを倒す……そして、たりあを取り戻す……」

 ペルフェクタリア。禍津星穢。共に挫折の底を味わい、立ち上がろうとしている。
彼らが再戦の時は、近い……