プライベート 3番テーブルから始まる物語

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1人目

ふわふわの尻尾を振りながらフロアとキッチンを行き来する。愛想の良さには自信がある...誰かと違ってな?
今日もそつなくこなして、終了〜

「...?」

ふと視界に入った影...3番テーブルに目を移せば、客でもないのにソファに浅く座り、背もたれに身を預け
こっちを見る人物。
気怠く手招き......、俺かよ。

コツコツ、と靴を鳴らして傍へ




D「ギラン...お前さあ、バイトしてんならオレに1食奢
ってよ」

2人目

気怠く手招き…、俺のご指名か?
目線を向けた先には、俺のよく見知ったアイツが居た。
ふ、と息を吐きながら。一時の休憩になりそうだ、と俺の口元は少し上がっていて若干嬉しそうに。お気に入りの靴をコツコツ鳴らしては、ソイツが座ってるソファ越しに身を乗り出してグッと距離を縮めた。
俺にとってはこれくらいの距離感が通常運転だ。

🐰G「は〜い、ご指名頂きありがとうございまぁす。ご注文は何かにされますか〜?あ、今ならこのCメニュー…ドリンクとセットにして頂きますとポイントが」
🔟D「いや俺の話聞いてる?」
🐰G「お客様〜、急に奢れなんて物騒なこと仰らないで」

わざとだ。
俺はどんな口調や言い方、言葉であれ受け身を取るのが上手なディスならと、ジェイド先輩の真似をしながら一芝居。我ながら似てねぇなと思いながらも、会話が一瞬止まれば目が合い。少しバチッとお互いこの野郎とか思いながら会話するのが俺らのスタンスだ。
だって急に来て一食奢ってなんて言うやついねぇよ?俺だってアルバイトと言えど従業員、ある程度のことがあれば口も出るし手や足だって。…おっとこれ以上は危ねぇけど。流石の俺だってそのくらいは理解してるつもり。
さて。まぁさっきも言ったように、俺とディスはそれが成り立ってるからこんな冗談も交わせるわけだけど。

🐰G「新作のスイーツなら、今季俺の一品担当してるんだよね。味見してく?」
🔟D「ついでにランチBセットもよろしく」
🐰G「おいそれランチ分も奢ってもらおうって口調にしか聞こえねぇんだけど?」
🔟D「早くしねぇと他のお客さん待たせちゃうけど、こんなのんびりな接客していいわけ?」

いいわけねぇだろ。と内心文句を言ってやった。
周りを見渡すとこの一時の間にテーブルはほぼ満席に近いほど混み合っていた。
ここは一旦引き下がって客捌きに徹底した方が良さそうだと俺も直感的に思う。
腕につけた時計に目をやる
今の時刻は18時05分…ほぼピーク時と言わんばかりだ。
(今日も忙しくなりそ〜…)
へいへい…と、頼まれた注文を読み上げながら厨房へと足を進める。
少し人の圧で暑くなった空気に耐えられずジャケットを脱ぎ、腰にエプロンを巻いて今日も一日張り切ると言わんばかりに、キュッと紐を固く結んだ。



🔟D「…」

俺は冷蔵庫にしまってあるサラダ用のレタスやトマトきゅうりを持って、空いたスペースで副菜に取り掛かった。ある程度切られた野菜をレシピ通りに書かれた手順でイタリアン風味に和えていく。
そんな中厨房から見えるディスはひとり、スマホをいじって俺が作るランチやらデザートを待っているのが目に入った。
さっきはちょっとディスのペースの呑まれたけど、と地味に先程の出来事を思い出しながら、出来上がった副菜を小鉢にプレートに盛りつけていく。
(口はまぁ悪いし、口数少ねぇし)
とさりげなくdisった。ディスだけに。
ただ、…と俺はもう一度アイツが座ってる席に目を向ける。
(黙って居れば、見た目良しなんだけどなぁ)
ただ座って待ってるってだけなのに、性格と打って変わって佇まいはまぁ良かったりする。実は先程からチラホラ外部から来店される女性客に目をつけられたり付けられなかったり。
ただその存在だけで人の目を惹きつける程の魅力があるのだろう。アイツもまぁまぁモテるしな。
俺はちょっと嫉妬して、サラダ用の野菜達を少し乱暴に冷蔵庫に放り投げた。すまん。


そうこうしている間に頼まれてたBランチが完成間近だ。少し余裕があった俺は、既に出来上がってる玉ねぎスープも器に注ぎ準備した。あとはライスを専用の器に入れ一度形を整えて、今か今かと完成を待ち侘びているそのプレートにライスを乗せる。同じように他の注文待ちのプレートにもライスを盛り、飾り付けにアーモンドスライスや違うCセットにはバジルを散らして完成だ。
……!ここで俺は少しひらめいた。
(見てろよディス)
にしし、と笑いながら。ディス用のプレートを少し除けて、俺はすぐそばにあった爪楊枝、自分の持っていた紙とペンで少し工作をしたそれをライスに飾った。
言わばお子様ランチでよくみる旗だ。
もれなくその旗には"ディス様"なんて書いてやった。これを食べるアイツの光景と来たら……ぷぷぷ、とディスの反応をあれよこれよと予想しながら、出来上がった料理を俺直々に持って行くことにした。



🐰G「お客様〜、おまたせ致しました。ランチBセットになります」
🔟D「…」

俺は少しわざとらしくかしこまって、ディスの前にランチBセットをテーブルに置いた。
反応を見るやいなや、めちゃくちゃ顔は静まり返った顔で低く冷たいと言って良いほどに「何これ」と口にしながら、嫌そうに指先で摘んで取り出した旗を指摘してきた。

🐰G「俺からのサービスだけど?可愛いだろ?」
🔟D「可愛かったとして、流石にこのランチの旗のこれはねぇだろ。なんだよディス様て、俺はこのランチの王様かよ」

と、文句を言いつつも割とお気に召したのか少し表情が和らいだ。思ったより、ディスはこう言う俺の思いつきな行動に結構乗り気で応えてくれたりする。今みたいに、今更旗なんて恥ずかしいとかじゃなくて、意外と笑いツッコミが上手いところもディスの良いところだ。されたらめちゃくちゃ冷たいけど。

🔟D「頂きます」
🐰G「どーぞ、……あ。フルーツだけど後で持って来ていいよな。溶けちまうし…、客足少なくなってからまた来るわ。」
🔟D「ん」
🐰G「ごゆっくり」

ディスが丁寧に両手を合わせて食べ始めたのを見届けて、俺はこのピークを優先するべくその場を後にした。一時の気が抜ける時間はあっという間に過ぎて、俺は気持ちを切り替えて仕事に目を向ける。
多分アイツの事だから、人が捌けるまでフルーツは待っててくれそうな気がするし。と考えながら…。

ただ、この捌けるまでの状況が1時間以上かかり、ましてやディスに用意するはずだったフルーツの存在も忘れる事になるなんて、……忙しさに暮れてる今の俺には、先の事なんて想像も出来なかった。
未来の俺がんばれ。

3人目

出されたメニューと共に置かれたフォークを手にすれば、トマトに突き刺し、口へと運ぶ……この動作がときどき面倒になる。
ゆっくりと咀嚼しながら、目線を上げ店内を観察。

(今日も混んでんな……)

ちょいちょい目が合う数人の女性客に舌打ちで答えながら、空腹を満たしていく。
出されたものは残さない…ピクルス以外はな。



幸い、ピクルスは不在だったため完食。

(菓子作りが得意な奴は料理も上手いんか…?)

そんな事を思いつつ、ソファーの背もたれに身を預け、一息ついて…
未だ混雑する店内。ガヤガヤと話す声、カチャカチャと小気味良く鳴る金属音……

……ふぁ、あぁぁ…

我慢することなく出た、大きな欠伸。
流石にラウンジのソファーに寝転がるのはよろしくない。寝転んだ瞬間、寮長か双子のどちらかが来るだろう。


重い瞼に必死で反抗しながら食後のスイーツを持ってきてくれるだろうウェイターを目で追うが、忙しなく、且つ軽やかに動き回る彼はこっちを気にする様子もなく。
クリクリ、とライスに飾ってあった旗を片手で回しながら…

(………アイツ、…忘れてねぇか?)

まぁ、いいか
このあと特に予定が入ってるわけでもないし

眠気を飛ばすため、ん"ん…と小さく声をあげ、背を伸ばす…が

「………無理」

ラウンジの照明が暗めなのが悪い。



ツカツカ、と少し苛立ちを含んだ靴音が近づいてくる気配。

「……スさん。……ディスさ…。」

微かに聞こえる声に、意識が引き戻される。

「こんな所で居眠りはよして下さい、1テーブル分の売り上げが……って、何を大事そうに握っているんです?」

目を開けなくても誰だか分かる声と口調。
寮長だ……面倒だと思いながらも、薄らと目を開け自分の手元を見る。

「………ランチの王様?…だけど」


寮長だとしても同年だ、敬語なんて使うわけがねぇ

はぁ…、と小さくため息をつきながら、やれやれと言うような仕草をする寮長を一瞥し。

「暇を持て余してるなら1曲弾いてください。眠気覚ましにもなるでしょう…客の反応次第で今日のことは多めに見てあげますから」

そう言って、オレの返答を聞かずに去って行く。

デザートもまだ来なさそうだし…、そうするか………
気怠く立ち上がり、王様の旗を左腕の腕章に引っ掛けて。
ソファーの脇に置いておいたケースを開け、バイオリンを手にして構えれば、客層をざっと見渡し…ゆっくりと弓を引き…

ラウンジには不向きな気がするが、女性客もぼちぼち居るし…エルガーの愛の挨拶あたりが無難だろ


ーオレの為に良い反応見せろよな?

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