火星一のアバレモノ。
「手を挙げろォオオオォォオオ!!強盗だァ゙アアア゙ァ゙!!」
バイトであろう店員が突然の奇声(にほぼ近い)に驚き、すんなりと手を挙げる。
店内は既にこの黒パーカー男によってピリ付いている。
よりにもよって初日から強盗に出くわしてしまうとは。
私はアル・アマガワ。面接のためにカシミティアに来たただの就活生だ。まずは緊張感を和らげるため、何かお菓子を買いにコンビニに来た。そしたらこんな感じである。噂通りだ。それと面接予定時間まで残り1時間きっている。
この街の警察は事件解決に関しては優秀らしい。なんでも本当に秒で来るとか。なのでここで通報したらこの奇声強盗犯が立てこもりモードに入るかもしれない。そうなったら面接まで間に合わない可能性がある。
まぁある程度覚悟はしていた。なのでここは冷静に
ボコすしかないな。
それに強盗犯を撃退したら好印象を持たれるかもしれない。そう自分に対し言い訳をしながら
闘志を燃やし腕を鳴らす。
強盗「何だア゙ァ゙ァ゙アアアテメ゛ぇ゙ェ゙ェ゙え゙!!!近寄るんじゃあ゙あ゙ァ゙アアアね゛ぇえ
あっ」ボキッ
強盗犯の首がどこか心地良い音を出しながら折れる
やってしまった。
あまりにも久々に闘志を出して手加減を忘れてた。
どうしよう。面接云々では最早無い。殺人を犯してしまった。
ここで疑問に思った者もいるだろう。何故私がいとも簡単に人の首を片手で折ることができるのか、と。
ここで一つカミングアウトをしよう。
私は改造人間である。
…あまり多くは語るまい。
さて、それより、今はこの状況をどうするかである。
さて……店員も口封じで殺さねばならないのか。いや、そんなことしても証拠が残るだけだ。…………自首しかないのか。
??? 「お主の拳と命、25万ドルで買おう」
「...誰だ?」
振り向くと斜め後ろに、少し濁ったグレーカラーの背広を着た、大柄の男が立っていた。
「確か...天川 或と言ったか。」
初対面のはずだが、どうやら俺の名前を知っているらしい。まあ、偽名だが。
男は、改造人間の俺よりも冷たい目をして、こちらを覗いてきた。
なんだか気味の悪い人間だ。横柄な態度も気に入らない。
「そうだけど。オッサン、なんで俺の名前知ってんの。」
「このパスポート、君のだろう。」
「は?」
驚いて持ち物を確かめる。
さっきまでカバンの中にあったはずのパスポートが、いつの間にかなくなっていた。
「...おい、返せよ。今なら何もしないで終わらせてやる。」
男を睨んだ。
「勿論、返すさ。というか、もう返しているはずだ。」
「はあ?」
再び持ち物を確かめると、いつの間にかシャツのポケットの中にパスポートが入っていた。
どこまでも、君が悪い。
「おっさん、あんた何モンだ。」
闘志を出して威嚇をするが、そんなのお構いなしと言うように、男はしゃべり続ける。
「私が欲しいものはそんなものじゃない。君を25万ドルで雇おうと言っているんだよ。」
「名前も知らねえやつの依頼なんて受けねえよ。」
「悪い話じゃないだろう。」
確かにまあ、もうこのまま捕まったら就職できない俺にとっては限りなく良い話だ。
だが、
「気味が悪いんだよ。なんか、人間じゃねえみたいで。そんなやつの話が聞けるかつってんだ。」
「気味が悪い?」
「ああ、そうさ。」
突き放すように言った。
沈黙の時間が、数秒流れた後。
男は腹を抱えて蔑むように笑い出した。
「っはははは!!ははは!!!そうか、気味が悪いか!!ははは!」
「...なにがおかしい!」
急に笑い出したり、本当に、どこをとっても気味が悪いやつだ。
「いや~、失敬失敬。我ながら、らしくないことをしてしまったね。」
男の表情があの冷たい真顔に戻る。
「おっさんもあの強盗犯みたいになりたいのか。」
「それは結構。」
冷徹な目が少しばかり光った。
「...全く、「気味が悪い」なんて...
どっちのことを言ってるのかな、"人造人間君"。」
「...はあ!??」
闘志が限界まで高まる。
「なに、本気の"力"を見せてもらうのは後ででいいさ。」
「うるせえ!なんで知ってんだよ!!」
思い切り、拳を振りかぶった。
「ここから数駅、アルカディア自治区の中央ビルで待ってる。招待状は書いておいた。
いつ来てもいい、私は待っている。」
そう言い残すと、たちまちのうち男は消えて行ってしまった。
「おい!」
さっきまで男がいたところに拳を振り下ろしても、塵の一つもありはしない、
ただ空振るのみである。
ついでに、首が面白いくらいあり得ない方向に曲がって、顔が崩壊した死体も消えていた。
さらに、いつの間にか、ポケットに一枚の紙が入っている。
謎のロゴマークと...読めない文字。裏側には、恐ろしいほど整った字で「受付に見せろ」と書いてあった。
あああああああ!!!もう!!!!
舌打ちをした。
畜生。なんか、してやられたようで、ムカつく。ああ、あんなやつに...!
もう一度、紙を見つめ直す。憎たらしくて、気味の悪い顔が浮かんできた。
ーーーいいだろう。話は限りなく怪しいが、行ってやろうじゃないか。
あいつの顔面を、一発、殴るためにな!