プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:6「敗北の屈辱は一生の膏薬」
「Prologue」
【丸喜パレス編】原文:AMIDANTさん
長い道のりの果て、ある部屋へと辿り着いたジョーカー達。
何故か争い合うクロウとヴァイオレットを止めんとして、
そこでジョーカーは、雨宮 蓮は丸喜拓人と遭遇する事になる。
驚く間も無く、次々に明らかになる衝撃の事実。
ストロング・ザ・武道との同盟関係、シャドウアビィの存在、そして嘗ての恩師、
丸喜が全ての黒幕という事実。
未だ残るヴァイオレットこと『芳澤かすみ』の謎も余所に、激しい慟哭が彼等に走る。
やはり対立は避けられないとしつつ、自らの目的を明かす丸喜。
現実を理想の認知で塗り潰す事での、全人類の救済。
壮大で完美な甘い夢物語を前に、それでも尚、己が信じた正義の為に
叛逆の意思を示すジョーカー。
ジョーカー掲げる正義の元へ集う様に、アビダイオーに乗ったアビィ達心の怪盗団と
正義超人が集結する。かくして、二つの正義(双星)は別たれた。
どちらかの正義が生き残るかの、ルール無用デスマッチのゴングは、今鳴らされた。
【幻想郷防衛戦 前編】原文:霧雨さん
ついに動き出した悪霊と、それを従える大司教「ゼクシオン」と「焔坂百姫」。
彼らは無数にも等しい悪霊を従えて、幻想郷からの脱出を目論んでいた。
対するは、外の世界からの武器とスネークたちの援護を得た里の住民たちと、
同じく外の世界より来た光の勇者リク、そして守矢神社の面々と同じく外の世界から来たCROSS HEROESの戦士たち。
人間の里では、里を潰すべくゼクシオンが悪霊の大群を引き連れ進軍を開始する。
しかし、スネークたちの奇策とリクの増援、里の住民たちの奮闘により、
何とかこれを阻止することに成功。
リクもゼクシオンによって一度は封印されるも、その状況を逆手にとり悪霊の住まう根城「廃棄孔」の場所を突き止めることに成功する。
流星旅団は、一旦悪霊に囲まれた八雲紫を救出するために博麗神社に向かう。
紫自身は無事であったが、そこに焔坂が出現。悪霊の正体を突き付けられる。
「人間の悪性」より生まれし悪霊。人間が人間である限り消すことのできない悪意の塊。そして、その顕現である「廃棄孔の怪物」なる存在。
到底倒すことのできない存在を前に狼狽するも、ここで引くわけにはいかない。
ナポレオンの活躍により一旦焔坂を撤退させ、人間の里に向かう。
この夜が明ければ、悪霊は幻想郷を囲う博麗大結界を突き破り外の世界に出てしまう。
そうなればすべて終わりだ。
一同は幻想郷を守るため、目覚めつつある「廃棄孔の怪物」を止めるため。
そして悪霊の氾濫を阻止する為に焔坂たちの待つ「廃棄孔」へと突入するのだった……!
【幻想郷・人里編】原文:AMIDANTさん
ぶつかり合う、スネークとゼクシオン。
現代軍事格闘術の粋を用いるスネークに対し、ゼクシオンは文字通りの魔法を以て対抗。
二重三重と展開される術式に徐々に劣勢となるスネーク。
だが、ウーロンの文字通りの隠し玉『トランスボール』による
トランクス(未来)への変身が、ゼクシオンに牙を剥く。そして、竹林から戻ってきた
リクによってゼクシオンは別所での決闘を余儀なくされる。そして残された悪霊。
これを討つ為に幻想郷の各所から、チルノのコネクションを通して妖怪と妖精が集まり、
喰らい合う。
更に慧音の力によって隠されていた要塞化された人里が再顕現、
氷の要塞が悪霊と戦火を交えた。
それはもはや戦争であり、人妖の区分なき抗争であった。
それぞれの思惑がぶつかって飛び散る争いの中、遂に悪霊の撃退を果たす幻想郷陣営。
しかし、この悪霊事変は始まりに過ぎなかった…
【不二子・生命を賭けた化かし合い編】
峰不二子は謎の大富豪、ハワード・ロックウッドの邸宅に招かれた。
その名は偽り……彼こそは、マモー。不老不死の野望に取り憑かれた怪人。
そして、渾沌結社グランドクロスやメサイア教団にも出資している黒幕。
峰不二子は、そんな敵地へ乗り込んだのだ。
マモーの目的は、メサイア教団が秘密裏に推し進める
完璧で究極の「女神」を誕生させる事。
そしてその鍵となる「ソロモンの指輪」を集める事……
その一端にルパン三世が関わっているのを彼は既に知っていた。
しかし、肝心のルパンは指輪を盗んだ後、どこへ行ったか分からない……
そこでマモーは、峰不二子を呼んだのだ。
彼女の魅力と頭脳を利用し、見事ルパンをおびき出す算段……
世界の深淵たる闇に踏み込んだ不二子は、果たしてマモーの罠から逃れられるのか。
彼女の運命や、如何に?
【ジェナ・エンジェル/リグレット編】
アマルガムとジェナ一味と同盟を組む条件として、レナード・テスタロッサは
ジェナ・エンジェルに対し、リ・ドゥのバーチャドール・リグレットの力を要求していた。
そして、それが叶わないのなら、アマルガムは同盟から降りると宣言する。
ジェナはリグレットと連絡を取り、レナードの企みについて語った。
誰もが己の欲望を叶える為、他者を利用し、欺き続ける……
リグレットの本拠地に乗り込んできた「異端者」達も突如として転移を起こし、
姿を消したと言う。彼らは一体何処へ行ってしまったのか……
【挫折と再起の螺旋編】
グランドクロスの幹部、禍津星穢。
トラオムでギアを発動したルフィに手痛い敗北を喫してからと言うもの、
その憎しみは燻り続けていた。グランドクロスの「老人たち」の指示の下、
手頃な世界を次々と封印し、褒美として強い力を分け与えられる事で、
着々とパワーアップを図る。
禍津星が封印した世界の中には、ペルフェクタリアや日向月美が暮らしていた世界も
含まれていた。大切なものを奪われた怒り、無念……
互いに挫折と再起を味わった禍津星とペルたちが激突する日は、間もなく近い……
【詞章:超常会議編】原文:AMIDANTさん
四季彩世界より往来した存在、女神。
彼女は異端者なる者の危険性を訴えかけ、オーマジオウはそれを聞き届ける。
代わりに、女神はRUSを取り巻く問題とCHのこれまでの軌跡を知る事となる。
同時にアビトなる存在も露見し、そこから自らが治める四季彩世界についての説明も兼ねた懇談会となった。
語られるオーマジオウの過去、時空を超えた新たなる世界線が紡ぐ、思わぬ奇跡。
世界をも捻じ曲げかねない大聖杯、それによって生み出された世界『特異点』、そして理想の世界を叶えるという大望。
その為に起きた『不可侵条約』の棄却、及び戦乱の始まり…
次々と明らかになるCHの経歴に驚嘆する女神に、オーマジオウはこう切り出した。
「一度、整理すると良い。その間に、其方の世界について話すが良い。」
「動乱:予期せぬ乱入者」
黒鉄の機兵がこじ開けられた天井から差す月光を遮る、その下で。
ジオウ等仮面ライダー_常盤ソウゴ達は、完璧・無量大数軍の前に立っていた。
フード越しに伝わる覇者の気迫。ソレを前にして、しかしソウゴは笑みを崩さない。
寧ろ、その微笑にはどこか挑戦的な含みがあった。
ソレを露わにするように、ソウゴは問う。
「君等が、僕等の相手で良いんだよね?」
「誰からでも良い、掛かって来い。」
同調する様に、ゲイツもまた挑発気味な口調で語る。
先の戦いを経てか、その言葉には不思議と覇気の様な物が纏っていた。
一方で、フードの超人達からは何処か闘志が感じられなかった。
(…戦う気が無い?)
その事に疑問を持った所で、一人の超人が口を開いた。
「ククク…そうだな、と言いたいところだが。」
「お前さんら仮面ライダーには特別ゲストがいるのでな。」
どうにも、彼等自身は戦うつもりが無いそうだ。
彼等の言うゲスト、それが何なのか。
「特別ゲスト?」
問い掛けようとした直後、辺りの空間が揺らめく。
突然の異変に戸惑いを隠せないソウゴ達。対し、超人達は分かり切っていた様な様相だ。
これがゲストとやらの力なのかと思った次の瞬間、空から落雷が落ちた。
雨雲など一つもない月夜から稲妻が降り注ぎ、双方の間を焼いて行く。
「なっ…!」
「誰…?」
驚愕も余所に、稲妻が空間をひずませていく。
落雷と同時にその中空から現れたるは、一人の騎士。
金の装飾が施された白亜の鎧を見に纏い、金色の兜から深紅の一つ目を覗かせている。
背中にマントを、腰にベルトをあしらったその者は、どこか仮面ライダーに似ていた。
「…敵、で良いんだよね。」
だが、ソウゴの勘は奴が仮面ライダーと違うと告げていた。
寧ろライダーと相反する者。即ち、敵だと。
その答え合わせをする様に、白亜の騎士が声を張る。
『如何にも。私は貴様等仮面ライダーの敵だ。』
声の主は、自らを偽ることなく告げる。
機械音や人間味が感じられないのだ。まるで、ボイスチェンジャーか何かで声を変えている様な、そんな声で。
白騎士とも言うべきライダーの謎は深まるばかりだが、敵であることは確実だった。
ゲイツは鼻を鳴らし、彼は何処までも見透かした様に白騎士に問い掛ける。
「お前も、歴史から消えたライダーか?」
『否。私は「仮面ライダー」では無い。』
ゲイツからの問い掛けに対し、白騎士は予想外の答えを返した。
自らは仮面ライダーでは無いと。
「ライダーじゃない?」
「じゃあ、一体何なんだ!」
ソウゴに続き、ゲイツも問う。
対し、白騎士は宙に手をかざす。その仕草に答える様に虚空に黒い穴が開き、中から一振りの無骨な大剣が現れる。
それを手に取ると、何時の間にやらジオウの眼前へと接近。
挨拶代わりと言わんばかりに斬りかかってきた。
「うわっ!?」
「ジオウ!?」
突然襲い掛かる一撃に驚くジオウ。
対し、咄嗟にジカンジャックローの爪で防ぐゲイツ。
だが大剣の質量を防ぎ切るには至らず、宙を舞った。
何が起きたのかを瞬時に悟るゲイツの顔色には焦りがあった。
(一撃が重い…いや、違う!)
焦りの理由は、これまで味わった事の無い、攻撃の感触。
何か、物理法則に反するような重みが、その一撃に込められていたからだ。
ソウゴへ向け、警告を飛ばす。
「ジオウ、気を付けろ!これまでの相手とは訳が違う_」
〈オーマジオウ〉
それを分かっていた様に、オーマジオウライドウォッチを装填するソウゴ。
直後展開される三重にもなるベルト状のリングが、二撃目の攻撃を凌ぎ、弾き返す。
「変身っ!」
次いで、ジクウドライバーのライドオンリューザーを叩き、メーンユニットを回転。
ジクウマトリクスから顕現するエネルギーが、ソウゴを包み込んだ。
〈キングタイム!〉
見る見る内に変貌を遂げるソウゴ、いやジオウ。
黄金の意匠をあしらった白銀の装甲を纏い、ジオウを王者たらしめる。
〈仮面ライダージオウ オーマ!〉
「ハアァッ!!」
今のソウゴは、仮面ライダージオウオーマフォームだ。
ジカンギレードを持ち、その力を持ってして白騎士へと反撃を狙う。
『甘いわっ!』
だが白騎士は大剣を構え直し、縦に振り下ろす
オーマジオウの力を以てしても防ぎ切れない、その破壊力は相当なものだ。
ぶつかり合う大剣と、ジカンギレード。
だが次の瞬間、大剣から発せられた衝撃に、ジオウの腕が押し返されてしまった。
凄まじい重さが両手に走り、反動で腕が跳ね上がる。
「うわっ!?」
「ジオウ!?」
痺れる手を振るって誤魔化す。やはり、大剣の一撃は半端では無い。
あの大剣の一撃をまともに受ければ、二撃目で間違いなく殺されるだろう。
白騎士は追撃で、ソウゴに向け大剣を横薙ぎに振るった。
その剣戟を、ジカンギレードで受けるソウゴ。
刃と刃が激突した瞬間、激しい火花と共に衝撃波が周囲へ撒き散らされる。
「ぐあっ!?」
ジカンギレードが悲鳴を上げる様に軋み、ソウゴの体が木の葉の様に舞う。
やはり白騎士は強い。しかも、斬撃を繰り出す度に強さを増して行く様だ。
「フッ!」
ならば、とゲイツが入れ替わる様に差し込む。
ジカンジャックローの爪が、大剣の柄へと振り下ろされる。
しかし白騎士はそれを防御に使わなかった。
「何…!?」
ジカンジャックローの爪先を、片手で防いで見せたのだ。
当然ながら、只の爪では無い。超振動による斬撃を放つ武器なのだ。
それを事も無しげに片手で防ぐ光景は、ゲイツにとって驚愕に値する物であった。
白騎士は余裕すら感じさせる動作で、ジカンジャックローごとゲイツを押し返す。
『ハアッ!』
同時に白騎士の大剣が、ゲイツリバイブを撥ね飛ばす。
地面を転がりながら、殺し切れないダメージにゲイツが呻く。
「くっ…う…!」
『どうした、それで終わりか?』
蔑む様に問う白騎士。未だ奴は本気を出していない。
そう確信できる程の余裕が、今の彼にはあった。
「…舐めるなぁ!」
とは言え、ただでやられるゲイツでは無かった。
すぐに態勢を立て直した彼は、リバイブウォッチを反転させる。
〈リ・バ・イ・ブ 剛烈!〉
ゲイツリバイブ剛烈への強化形態へと変化すると、即座にジカンジャックローとの合体技を発動。
〈のこ切斬!〉
斬撃と共に、高エネルギーの衝撃波が白騎士へと放たれる。
迫りくる衝撃波に対し、白騎士は避ける仕草すら見せない。
ただ大剣を添える様に構えるのみ。
そして、衝撃波と接触する瞬間。
斬撃と衝撃波が衝突し、光が激しく飛び散る。
ジオウも、。攻撃を放った当のゲイツでさえ、この威力では傷の一つは与えられただろうと確信した。
『…温いわ』
しかし、事実は異なる。
光の止んだ場所には、悠然と立ち尽くす白騎士の姿。
絶望と呼ぶに相応しい、脅威がそこにあった。
「ふぅ、ふぅ…」
「一体、何者?」
当然浮かぶ疑問に、白騎士は…ライダーは答えた。
『私はショッカー大頭領、最強にして原初のショッカーライダーである。』
【回想編 ①異端者と大天使の邂逅】
これは遡ること数時間前になる。
謎の力によって見知らぬ世界へとぶっ飛ばされた異端者達の全部で3つか4つあるという無駄にあるタイプの記録である!
皆様の為に〜改めて説明しよう!この、エピメテウスの塔には3つの大橋があり
1つは《37Fクロートーの大橋》
1つは《51Fラケシスの大橋》
そして、今いるが《70Fアトロポスの大橋》である
この橋を通る際は外に出られるようになっている、下を見たら真っ暗で何も見えずじまいで落ちたら一溜りも無さそうだ
「う〜ん夜はいいよね、ただしマガイ物でなければ・・・そして更に欠けることのない満月というのは些かセンスが悪い!」
闇にいる側であるが故にこの夜が偽物であることを知っている、満月に腕を伸ばし拳にしながら怒りを表す月影夢美がいたのだった
「俺個人としてはずっと夜なのはイヤだと思うんだがGVはどうだ?」
「うーん、そういうのは考えても見なかったよ。ただ、任務を実行する時はいつも夜だったから大して気にしないかなって」
「あれ、もしかして俺が知らないだけでGVって夜側なのか?見た目によらずだな」
そんなたわいもない話をしながら橋を渡り切ろうとしたその時、何かに気がついた雪が声を出す
「・・・なんか来るよ」
『度度分かるわね?』
「他にもここに来られるヤツいたのか?」
「夢美?また適当やったんじゃないよね?」
場が一気にざわつき始めた途端に夜に似た空を明るくさせるほどの一筋の光が目の前に舞い降りてくる。
この光はそうです、あの大天使ですね
「お、追いついた・・・!本当に追いつきました!」
『翼・・・?』
「まさか、本物・・・?」
『むー!GVの方が天使なんだから!!!』
「モルフォ?」
「おっっっと!片想いというやつか?いいn」
『ち、ちちち、違う・・・!そんなんじゃっ!!!』
「いやいや、ダメでしょ・・・否定しちゃ」
『やめて!』
「モルフォ!?ちょっと2人共、やり過ぎだったんじゃないかな?」
「サーセン」
「鈍感かよ」
「お前が言うな」
片想いと思ったらすぐさまちゃちゃを入れに行く迷いも曇りもない行動をする雪、しかしやり過ぎたようで彼女は姿を消すことになってしまう。
「それでどちら様でしたっけ?」
「エーテルです!エーテル・クラウディアです!」
しらばっくれる態度を見た途端に頬を膨らませながらキッチリと答える
「あー、もしかしてあの時の天使?おかしいな、私達って"会ったこと"あったっけ?」
「何を今更言ってるのですか?ロスト・ヘブンで戦ったことや大戦での出来事忘れちゃったんですか?」
「え?そんな事あったかしら・・・?」
首を傾げる、記憶違いが発生してる訳ではないとは思うけど少女の方はガチで覚えていないらしい
「「え?」」
「まあいいや、戦うなら相手するけど?」
戦いだと分かったかのような素振りだった、この異端者はずっと戦いに身を置いているからこそなのだろうか
「そうでした、元々は貴女方異端者を倒すために来たのですからね」
「悪いけど、仲間を倒すためというなら…お前を・・・堕とす!」
「お嬢ちゃん、わてらとやろってか?おぉん?」
「いやいや、大人数は卑怯だと思うんだが」
素早く銃を手に持ちいつでも撃てるように構えるGV
クリスタルノートを取り出し雪遊びをし始める星乃
大人数で戦うのは卑怯だなと言いつつ大剣と銃を取り出す太陽
「でも・・・」
「でも?」
「4対1は流石に無理です」
そんな光景を見たエーテルは圧倒的物量で折れてしまった
「泣いちゃった!!!」
「な、泣くなよ…ほら、大天使なんだろ?」
「じゃあ、古の2Dアクションに習って一騎打ちということでどうかな?」
「ううっ、ありがとうございます・・・気を取り直して誰からやりましょうか?」
「私が行こうかな、なんかいちゃもんつけられてるし」
「負けたらGVのライトニングスフィアね」
「え?やらないよ?」
「負けたらGVのボルティックチェーンな」
「だからやらないってば・・・」
「夢美さん、なにをやらかしたらそうなるんですか?」
「こっちが知りたいよ!?」
「では、行きますよ!」
一同が今のうちに言いたい放題言った後、建築物へと退避するのを確認し大空へと羽ばたくあっという間に彼女が得意とする射程範囲内へと飛ばれてしまった
「ずっるーい!空飛べるなんてー!」
「ちょっと待って、夢美も飛べたよね?」
勝てればいいという考えのエーテルからしたら慈悲などなく弓を引き光の矢の雨を降らしていく
そんな中、急遽GVのアドバイスで思い出す
「"我、霄(おおぞら)を翔ばたく(はばたく)翼を持たぬ者、自由に霄を羽ばたく為の翼を我に与えたまえ"!」
「(ほぼ失われかけている詠唱式の魔術ですか、もしかして私はその程度でいいと思われている?)」
「(え、そんな技使えたの!?)」
魔女らしく呪文を唱えるとカンテラ付きのホウキが目の前に現れ急いで乗り空中へと駆け上がる光景を見た雪など振り切り光の矢の雨を避けていく、ルール無用の弾幕ごっこの始まりである
「今のを避けるとはやはり一筋縄では行かない訳ですね、ならこれでどうでしょうか!シャイニングボウ!」
天高く弓を引き偽物の夜を明るく照らすかのような強烈な光が迫ってくる
「(全属性中最速である閃光、その2番手である光属性。それが相手となると純粋な速度では私が負けている)・・・ならば!」
ホウキから飛び降り、懐からすぐに取り出したバットをフルスイングさせ強烈な光を打ち返すとその光は加速した
「跳ね返ってき・・・!」
反射など反則技であるなんてことも言えず回避も出来ず跳ね返ってきてしまった光にクリーンヒットし落下していく姿を確認する
「動乱:悪魔の一手」
丸喜達を蹂躙しようとしたアビダイオーを襲ったのは、黒鉄の機兵、シャドウ・カタクラフト。
シャドウアビィの生み出した奥の手。40m級の機動戦艦。
巨大な機兵同士がぶつかり合う特撮やSF映画の様な光景ではあったが、実際は紛れも無い現実だった。
「…お前も作っていたなんてね、一本取られたよ。」
「やだなぁ、真似だと思わないでね。僕のやりたい事をやっただけだよ。」
「質の悪い冗談だ。」
ヘラヘラと笑うシャドウアビィに悪態を付くアビィ。
同時に、アビダイオーの片腕が拉げた。
状況は良くない。カタクラフトは性能が高く、アビダイオーよりも圧倒的に速い。
カタクラフトの動きに付いて行けず、一方的に嬲られているのが現状だ。
キャラでは無いと思って使いたくなかった切り札。それをこうもあっさり抑えられたのでは、アビィとしては溜まった物では無い。
忌々し気に奥歯を食いしばる。しかし現状は変わらないか。
「嘘だろ、アビダイオーが圧されてる!?」
堪らず、ナビが驚嘆した。
アビダイオーの驚異を知っているからこそ、ソレを凌駕するカタクラフトに対して驚きを隠せない。
そんな反応を嘲笑う様に、シャドウアビィが歪んだ笑みを浮かべて語った。
「あんな玩具で僕のカタクラフトに挑むからだよ、ばっかだねぇ。」
「…あいつ、何かアビィの悪い所を集めたみたいで癪に障るな!」
「僕、遠回しにディスられてる?」
アビィの疑問も余所に、戦いは続く。
「あっちが駄目なら、コイツを叩くしかないね!」
先手必勝と言わんばかりに、片足でひとっ飛びに跳躍し身を翻しての回し蹴り。
音速を軽く超えたソレは、トマホークブーメランめいてシャドウアビィの首を狩らんとして。
「おっそい。」
案の定というべきか、避けられる。
重心をズラしての回避。余裕綽々といった様相。
返す刀で放たれたトマホークチョップが、アビィのどてっぱらにめり込んだ。
「がぁっ…!」
アビィの目をして捉えられない速度。
肉を打ち付けたにしては鈍すぎる、鋼の様な重低音。
サッカーボールの如く跳ね飛ばされるアビィ。
チョップを受けた服の箇所に滲み出る血の跡。表皮が千切れたようだ。それが攻撃の苛烈さを物語った。
_ゴポッ
「アビィ!?」
幾つか内臓も持っていかれたのか、アビィの口から真っ赤な血が吐き出される。
只の一撃で理解させられる、彼我の差を。どうしようもなく埋め難い、絶望の霹靂という物を。
「待ってろ、今俺達も…!」
「来るな!!」
「なっ…!?」
参戦しようとした竜司達を巻き込む訳に行かないと、静止の声ががなり立てられる。
「だってお前、その重体じゃ…!?」
「オエッ…!コイツは、僕相手だからこそ、これ"だけ"で済んでいる、化け物だ!君等は、手出しするな!」
あらゆる平行世界のメメントスにいるシャドウを食い荒らした力は伊達では無い。
仲間では、多少力のある人間程度では、下手をすれば殺される。
一番傷が浅くなる様に奴を抑えられるのは自分一人だけ。
そう判断したアビィの、明確な拒絶の意思だった。
「アビィ、出来れば殺さないつもりでね。」
「え~?だって僕を見てると腹立つんだもん…」
「それでもだ。彼もまた、僕が救いたい相手なんだ。」
「…丸喜が言うなら、しょうがないなぁ。」
対するシャドウアビィも、丸喜にその殺意を咎められる。
最初は渋るシャドウアビィも、丸喜の一声に渋々応じた。
即ち、アビィ達は丸喜達の気分一つで生かされている。つまりはそう言う事だ。
諦観が、アビィ達を襲う。超えられぬ壁とも言うべきか。
「じゃあ、あっちの方は片付けて良いよね?」
見上げる先には、アビダイオーとカタクラフト。
どっちともなく動き出し、巨腕を振るう。
巨神同士の再度の衝突。飛び散る火花が閃光花火の如く降りそそぐ。
結果、アビダイオーの片腕が持っていかれる重態。カタクラフトは依然健在。
落着する片腕の振動が、パレス全体を襲う。
「おわぁ!?アビィの巨大メカがやられとる!?」
「グロロ~、所詮は見掛け倒しよ。」
アビダイオーがやられる様を見て、同じく驚愕するキン肉マン。
対し、武道は分かり切っていた結末だと言わんばかりの態度だった。
「認めるのは癪だが、カタクラフトはシャドウが心血を注いで作った、言わば神器。そこいらの絡繰り仕掛けに負ける道理は無い。」
そして、シャドウカタクラフトへの畏敬の念さえ。
現状は逼迫している。アビダイオーも片腕が使えなくなった。
このままではアビダイオーがやられるのは時間の問題。
どうにかして奴を倒さねば、アビィ達も袋の鼠にされてしまうだろう。
状況は最悪の一途を辿っていた。
「降参する? 」
「まさか。」
嘲笑う様なシャドウアビィの物言いに、益々苛立ちが募るアビィ。
悪態もそこそこに内臓を応急処置し、再び立ち上がる。
「ダンスは始まったばっか…だっ!」
次いで、殴りと蹴りの猛打を叩き込むアビィ。
一発ごとに鳴る音速を超えた風切り音が、かの威力を物語る。
だが、それを事も無しげに捌くシャドウアビィ。
やはりと言うべきか、シャドウアビィの優勢だった。
アビダイオーは徐々に追い込まれている。遂には片膝を付く程に。
黒鉄の機兵が白銀の巨神を踏みしめる。それは彼等の優劣を明確を表してるようで。
クソッタレ、と内心で悪態を付いた。
「やっぱり、君もたかが知れているよね。」
白銀の頭が踏み砕かれる。
地面に膝を付いたアビダイオーは、無慈悲に破壊されるがままだ。
所々で煙が噴き上がる。傷付いていない箇所を探す方が難しいと言う程の惨状に、シャドウアビィは呆れた様に溜息を吐いた。
悔しいが、これが現実だった。
「ぐぅぅ……っ!」
最早敵ではない。そういう風に映っていた。
勝敗は決した。誰もがそう思っているだろう。
しかし、ボロボロになりながらも不敵に笑うアビィ。
未だアビィの瞳には、闘争の炎が煌々と燃えているのだから。
「…うっとおしいんだよね、消えてよ。」
そんなアビィを、ボロボロの人形をただ弄ぶ様に、シャドウアビィが殴り、蹴り、嬲る。
一つ一つの殴打が、アビィを叩き揺らし、叩き浮かばせ、骨肉を砕く。
止まらない連打。全身から流れる血潮がその連撃の過酷さを表す。
最後の一撃で、アビィが大きく吹き飛ばされ、壁に叩き付けられた。
「ぐぅ、あ、がぁ…!」
「もう、まともに喋れないか。つまんないの。」
脱力しながらアビィに近付くシャドウアビィ。
大層な事を言っている割に打つ手の無いアビィを一瞥し、背を向ける。
トドメは刺さないという意思表示。しかしそれは、油断と言うには余りある慢心だった。
その慢心を突かない手は無いと、一矢報いようと足を伸ばし。
「_そう来ると思っていたよ。」
背後を狙ったアビィの震脚が届くよりも早く、意識はしっかり向けていたシャドウアビィの回し蹴りが、横っ腹へと吸い込まれる様に撃ち出される。
死、その一文字がアビィを襲おうとして。
「_この戦い、私が預かった。」
その両者を止める、一人の大男。
何時の間に現れたのやら、悪魔将軍が両者の攻撃を防いでいた。
【回想編 ②月に惑わされる】
「そういやー、エーテルって攻撃を受けたとしてもすぐに再生してた気がする・・・あれ?再生したら何が起こったんだっけ」
朧気ながらも本人は大天使とは言っているが実際は熾天使クラスでないか?と考えてた夢美も落下していく。
急いでやって来てくれたホウキに捕まり落下するのを何とか止めることができたその後に大天使が落下したところから凄まじい光を放ってくる
「"暗く果てしない深淵をも正しく照らす月の光よ 我が闇の月光で忌々しき光を消滅させよ"《ムーンライトミラージュ》」
満更でもない顔で鏡を召喚し月の光を束ねたレーザービームを撃ち光を消滅させようとしたが
「急に魔力が上がった?!」
それどころか消滅せずレーザービームを打ち返そうとする勢いそれどころか魔法を唱えた対象さえも消滅させようとする光が迫ってきている
「ちょっとちょっと雪さん無敵の鉄壁で何とかしてくださいよー!」
「非合理的・・・かな!」
高速回避しながら夢美は喋ってるのだが雪的にダメだったらしい
「え、本当に無理?お願い1回叶えるじゃダメ?」
「お願い1回叶えても無理なものは無理」
交渉しながらずっと光を避け続けている夢美、それでも雪は・・・
「魔女らしいよね、全然魔女らしくなかったのにうっけるー」
「滑稽だと思ってらっしゃる・・・!?」
全然ダメだったでもなく飛ぶ力を持ってないからでもなくただ、単純に
「古来よりタイマンを邪魔する馬鹿者はいないという」
「本当かな・・・」
「古来の方式に則ってと、GVが言っとるよ」
「そんなこと、言ったことは無いからね?というか、どうして手伝わないの?」
太陽と雪は信じることしか出来なかったのかもしれないしあの光を対処する案もなかったかもしれない。
「だって、光速(はや)すぎるから」
「そ、そうなんだ」
「確証は無いけど勝つんじゃないか?団体戦が強くて単体戦特有の心理戦が苦手だが」
単体戦特有の心理戦が苦手と言われてすぐさまピンと来るのだが
「後は事故がなければ・・・」
「GV〜。それ、フラグって言うんだぜ」
「何も言うんじゃない、雪」
太陽と雪、この2人は最初に比べて薄情になっているがそれはアイツこと月影夢美を信頼している
「この力は対闇ですよ、闇が強いなら光だって!」
闇が強ければ、光もまた強くなる
下から美しくも忌々しい光を讃えながら這い上がってきた大天使に疑問を持つ
「光vs闇ってやつかぁ、いいの?そんな贅沢なことしちゃって」
純金と純銀で造られた美しく神々しい弓を取り出すと光が強くなっていく
「そんなの、どうでもいいじゃないですか!」
「よくなーーーーーい!!!!」
叫びながらどデカい闇の塊をぶん投げるも光に砕かれてしまう
「なんですか?その攻撃は!」
雑な攻撃にガッカリする、今まで派手な攻撃ばかりだったから
「つーか、なんで戦うのさ!」
「それは・・・」
「それは?」
「女神様の命令だからと女神さまの不安を取り除いて褒められたいからです!」
その場が全て静寂に包まれるも戻ってきたのはなぜかザワザワ感に包まれていた
「純粋かぁ!?」
「理由が可愛い」
「太陽ってそういう子好みなの?」
「脈ナシっぽそうだけど」
『普通に言っただけ見たいよ?』
「・・・なあアンタら、やめてくれないか?」
「え、あ、そ、その!もう!やめてください!裁きを受けよ《光天の矢》!」
エーテルは光天の矢(ツッコミ威力)を夢美に向かって放つ
「なんであたしがぁ!?」
ボケ役にはキツい一撃だったらしくホウキから落下するもすぐに回収される
「もうダメかも・・・負けそう!」
「そのまま諦めてくださいね」
急にピタリと止まる、そのことにちょっと驚くエーテル。油断していないはず、しっかりトドメを
「それは無理かな」
「・・・?」
夢美の顔が影に隠れる
「誰にも勝利を期待されてなくても月影家ってのは勝たなきゃいけない、勝たなきゃいけない・・・だよ!」
「やっぱり貴方は救いが無いようですね・・・!今、ここで死に絶えてください!」
「救いが無い?死に絶える?うーん、面白いこと言うね、私を殺して(救って)いい人はただ1人だけよ!」
赤いインクが付いた羽根ペンを取り出し円を描き始めると赤から黒に変わり魔法陣を発動させる
「気味が・・・悪すぎませんか・・・」
「"月に惑え 狂え 弄ばれよ ここでは光など無意味だということを知るが良い"《マジックシフト・ルナティックマインド》」
顔色一つ変えない月影にゾッとしているエーテルその光景を見て気がついた太陽は全員をこの場から追い返した後、扉を閉めた
そのタイミングを見計らったのか魔法陣が起動し始める
「何も起こらな…」
何がが下から、得体の知れないナニカが這い上がってくるを感じる。
ナニカに足を強く掴まれると自分の熱を奪うかのような凍てついた感覚が襲いかかってくる
あの月だ、蒼白に光るあの月を見てはいけないような
「手遅れである、私の魔法に囚われたらまず脱出はふか……ぼべらっ!あ、なんか痺れっ」
「はっ!!!!!!」
エネルギー弾が撃たれた方角を確認すると機械銃を構えていた太陽がいた、囚われていた意識を取り戻すエーテル
「夢美、ダメだ。それ以上は」
「その銃、凄いね」
「だろ?父さんのお手製なんだ、それと協力に感謝」
「お易い御用だよ」
「私まで月の魔力に惑わされるとは・・・まだまだだなー」
「…悪趣味ですね!悪趣味ですね!」
「なんで2回言った!?」
攻撃を再開するエーテルはめちゃくちゃ攻撃を避けられるいや、避けられ続けている
「どうしたんですか、攻撃・・・しないんですか?」
「さっきので魔力尽きたわ(笑)」
「え・・・」
ポカーンとした顔をするエーテルは考えた、夢美は魔力が無いのに動けるのは、体力もあるからなのではという。
なんていうか、自分で言うのもあれだけどしぶといなぁと
「モードレッドvsマーリンマン! の巻!」
「おおおおおお!」
「あああああ!?」
丸喜パレスの地下水槽に落ちる2人の戦士、赤のセイバー:モードレッドと完璧超人マーリンマン。
この水中では、制止した悪魔将軍の声も聞こえない。
故に、戦闘は続いてしまう。
「水中か!これはマズい!」
とっさの判断で、モードレッドは宝具でもある自身の兜で己が頭を覆う。
その姿は、まるで水中にもぐるダイバーのようだ。
その瞬間、マスターである獅子劫から念話が入る。
『大丈夫かセイバー!』
「ああ、何とか浮上する!ここは奴にとって有利だろうしよ……!」
モードレッドの判断は正しい。
相手は水中でこそ本領を発揮する水棲超人。
一方、こちらはエーテルで構成され「水中での呼吸」に対してさほど問題がないとはいえ水中戦の経験は少ない。
故に、水中での呼吸関係なくマーリンマンの方に圧倒的な利がある。
「咄嗟の判断は認めてやろう、だが!」
(来る!)
「その鎧と兜を吹けたということは!動きも鈍重になるということだ―――っ!」
水中で、文字通り「水を得た魚」のような動きを見せるマーリンマン。
その攻撃をモードレッドは何とか防御するも、鈍重な鎧のせいで思うがままに動けない。しかしてこの鎧を外せば、間違いなくマーリンマンの持つ剣「フライングソード」の餌食になり大ダメージは避けられない。
「その鎧を付けたままでは動けまいし、鎧を外せばフライングソードの餌食!もはやどうにもできんだろう―――っ!」
「ほざけエラ呼吸!刺身にしてやる!」
(ちくしょう、こいつの言う通りだ!あの動きを見る限りどうやっても確実に追いつかれる!鎧を外せば間違いなくやられる!)
口では強がるも、事実を突かれた内心は動揺している。
何とか水中で斬撃を放つも、剣にも重量がある以上攻撃速度は遅くなる。
「だが!ただでやられるかよ!!」
当然それは、普通の人間がそうした場合での話。
己が身は英霊、であるのならばその力も人間の域を超越している。
モードレッドはその身を魔力で強化、その斬撃を水中で衝撃波として飛ばせるくらいにまで強化する。
迫りくる、水圧の斬撃。
「甘いわ――っ!マーリン・エアバッグ―――ッ!」
水圧の斬撃が、完璧なる水棲超人の身体構造に敗北する。
マーリンマンの体内に搭載された浮き袋が、衝撃波を霧散させる。
「なっ……!?」
あまりにも奇特な、されど確実すぎた防御法に驚かされる。
だが、それでも諦めるわけにはいかないのは事実。
「奇怪なことしやがる!解体してやるから突っ込んで来い!!」
「ピョピョ、ではその御大層な口と鎧ごと一撃で貫いてやろう――――っ!」
そのセリフと共に、マーリンマンは超高速で水中から姿を消した。
周りを見渡しても、どこにいるかはわからない。
「どこだ!出て来い!」
「もう遅い!」
それは、水圧をものともしない速度で進撃してきた。
己が躰を完璧で究極の矛として変生し、必ず突き刺すという誓いを立てて突撃する。
――――ゆえに、その技の名前は。
「"完刺"スピア・フィッシング―――ッ!!」
"完刺"の名を戴いた完璧超人の、完成され尽くした完全の一撃。
この瞬間、モードレッドは想起する。
まるで巨大な、なおかつ鋭すぎる槍で心臓部を突き刺されたかのような感覚を。
その感覚は、持ち前の『直感』のスキルと卓越した剣戟によって現実のものにはならなかったものの、その衝撃はすさまじく後方の水槽の壁にまで激突してしまった。
「ちっ、仕留め損ねたか……!」
仕留めきれなかったことが悔しかったのか、悪態をつくマーリンマン。
「がぼぼ……ぐそ……まだだ!」
対するモードレッドは吹き飛ばされた影響か、呼吸がおぼつかない。
この攻撃をまともに受けていたのなら、間違いなくやられていた。
次はない。
(……このままじゃいつかやられる!)
水中戦では圧倒的に不利。
魔力も無限ではない。
ならば、速攻を仕掛けるしかない。
「マスター、令呪だ。こいつは今ここでやる!」
「その姿には、炎 ~ ラーメンマンvsターボメン ~」
ショッカー大首領の降臨、アビィVSシャドウアビィ、悪魔将軍の乱入……
そして地下水槽深くで繰り広げられるモードレッドVSマーリンマン……
丸喜パレスを巡る戦いは大きく分断され、混沌を極めていた。
「くっ……状況はかなり不利、か……」
「ボシューッ!! 怖気づきおったか、ラーメンマン!!
かつては貴様も我らと同じ完璧超人を目指していたようだが、
やはり貴様はその器では無かったと言う事だぁ~~~~~ッ!!」
「な、何をぉーッ!?」
【完遂】ターボメンの挑発に、ラーメンマンが一気に激昂する。
「ならばその身で受けて見るがいい! このラーメンマンの技の冴えをッ!!」
「むうっ!?」
上空高く跳躍し、空中から加速をつけたラーメンマンの一撃が、
ターボメンの頭上目掛けて振り下ろされる。
「功夫(クンフー)殺法ッ!! “死の舞い”ッ!!
ほぁちゃああああああああああーッ!!」
乱れ飛ぶ無数の手刀による連続攻撃が、ターボメンへと襲いかかる。
「ぐぉうっ……!!」
『むむーッ!! 流石ラーメンマン! 手数の多い技は健在だーッ!!』
「ナビ」こと、佐倉双葉の絶叫が響き渡る。
自身のUFO型ペルソナ「ネクロノミコン」内で心の怪盗団たちのサポートを行うのが、
彼女の役割だ。実況アナウンサーもかくやと言った所か。
「部屋に引きこもってた時も、正義超人たちの試合は観てたけど……
まさかこんな間近で見れるなんて、マジ感激だわ! 生きてて良かったぁーっ!!」
特撮番組「不死鳥戦隊フェザーマン」に代表される、
昔のヒーローアニメや特撮番組は双葉にとってはバイブルだ。
過去のトラウマから外界への接触を断っていた彼女にとって、
TVの向こうで繰り広げられていた正義超人たちの戦いは現実への憧れの昇華、
一つの理想形であった。それが今、リアルタイムで観られる……
双葉は感無量の想いだった。
「ぐぬぅ……!!」
「まだまだぁーッ!! 天空直烈波ーッ!!」
ラーメンマンの猛攻は留まる事無く、ターボメンを追い込んで行く。
強烈な飛び蹴りが首元に直撃した。
「ぐふぅ……このターボメンとした事が、少々油断が過ぎた様だな……」
「あいつ、ラーメンマンの攻撃に押されっぱなしじゃない!? やっちゃえーっ!!」
興奮気味の双葉をよそに、冷静な仲間達は「何かおかしい」と感じていた。
「あいつ……まるでわざとラーメンマンの攻撃を受け続けてねぇか……?」
「!? まさか……!!」
スカルの言葉に、クィーンはハッとした。
「ラーメンマンさん!! 気をつけてください!! 敵は何か企んでいます!!」
「何……!?」
「ボシュ―ッ!! もう遅いわァ~~~~~ッ!!
自ら繰り出した技で自滅するが良い!!」
ターボメン最大の特技……それは敵の攻撃によって受けたダメージをエネルギーとして
体内のターボチャージャーに蓄積し、
左手のアースユニットから一気に解き放つ事であった。
「なっ……!?」
「喰らえぃッ!! アースクラッシューーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
ターボメンから強烈な衝撃波が発射される。ラーメンマンはとっさに身構えるも、
直撃を避ける事は出来なかった。
「うぐ……ッ!! ああああああああああああぁーッ!!」
凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられるラーメンマン。
「ごはぁッ……!!」
「むはははははは~~っ!! このターボメン最大の技である“アースクラッシュ”を
喰らえば最後、無事で済むはずが無いわァ!
これまでの貴様の戦いぶりはまやかしに過ぎぬのだ~~~~~ッ!!」
「シャドウの中には、物理攻撃を反射する敵もいた……あの完璧超人もそれと同じように、
まさか受けたダメージを溜め込んで跳ね返してくるだなんて……」
「そ、そんな……嘘だよね……ラーメンマン……ラーメンマ~~~~~~~~ンッ!!」
双葉の悲痛な叫びが響く。
しかし、その問いかけにラーメンマンから返答は無かった。
「ニャガニャガ……まずは1人、と言ったところですかぁ?」
「まさか……ラーメンマンが!?」
「そ、そんなはずがあるわけなかろうが~~~ッ!!
ラーメンマンが、あの強すぎる程に強かったラーメンマンがこんな事ぐらいで……!!」
「皮肉よのう。なまじ強さを極めんとしたばかりに、
奴は己自身の技に殺されたと言う訳だ!! ふはははははははは……」
「……」
キン肉マン達や心の怪盗団が動揺する中、
果たしてラーメンマンは再び立ち上がる事が出来るのであろうか?
「動乱:投げられた賽の行方」
まずは一人、ラーメンマンが『完遂』ターボメンの餌食となったのと同時刻。
「ギガギガァ!所詮はアイドル超人、崇高な完璧の前に敗れ去るのが宿命よぉっ!」
ぶつかり合う鋼の肉体。
ウルフマンと『完掌』クラッシュマンの激突は、拮抗の様相を呈していた。
「正義、悪魔、完璧、どれも優劣はねぇ!敗れる定めなんざねぇーんだよ!」
「ギガギガ、だとしたら貴様個人が劣っている事になるな?」
「何ぃ?」
その膠着状態を崩さんと、クラッシュマンの挑発気味な言葉が飛ぶ。
「貴様は完璧超人の中でも下っ端の下っ端、スクリューキッドとケンダマンに敗れたんだからなぁ!」
「なっ…!」
思い浮かぶは夢の超人タッグトーナメントの日。
突如として乱入してきた殺戮遊戯コンビの「地獄のネジ回し」によってブロッケンJr.諸共KOされた雪辱の瞬間。
その事を持ち出されて黙っていられる程、温厚では無かった。
「テ、テメェ…言っちゃぁならねぇ事を!」
激昂に任せた連続張り手が、速度を上げてアイアングローブを跳ねのけていく。
ウルフマン優勢か。しかしクラッシュマンの顔色に焦りの色は無い。
寧ろ敢えて煽りの色を混ぜた声で、クラッシュマンは続ける。
「それに貴様はその力が持ち味らしいが、それでさえ同じ正義超人のキン肉マンの前に敗れ去ったな!」
「それ、は…!」
「そして悪魔超人のスプリングマン戦!自慢の力が仇となった!」
舌戦は苛烈さを増していく。
次第に張り手を避け、ウルフマンの肉体に傷を付け始めるアイアングローブ。
二人の舌戦模様を表すかの様だった。
「ぐあっ…!?」
動揺からか、グローブの間をすり抜ける両手。
浮かび上がる手汗で滑り、アイアングローブの接近を許してしまった。
「図星か、だからこそ貴様は未完の大器と言う他無いわぁーーー!!!」
「しまっ…!?」
鋼の凶手が、ウルフマンを包む_!
「「『完掌』アイアングローブ」ーーー!!!」
決まった。
巨大な鋼が、ウルフマンを包み込む。
隙間から漏れ出る赤い血飛沫。死の結末が、そこに花開こうとして。
「_ぐ、うぅ…!」
「_流石は鋼に近しい肉体を持つ男。一撃では事足りんか。」
マットに放り出される、血塗れのウルフマンの身体。
しかし、その金剛とも言うべき身体は未だ健在。
「へへっ、この程度…ぶつかり稽古の序の口よ…!」
「強がりを言うな、その身体で何が出来る?」
「未完の器と言ったな、えぇ?この横綱超人に対して。吐いた唾は飲み込めねぇぜ?」
五体満足とは言えないが、血にまみれた眼の奥底で、未だ闘志を宿したウルフマンの姿がそこにあった。
「結果しか見てねぇテメェに、俺の生涯をぶつけてやる!試合はまだ始まったばかりだ_!」
今、日本一の反撃が始まる_
◇
時を同じくして、此方は怪盗団と超人、そして丸喜とシロウ、完璧・無量大数軍の一行。
「俺のショットを凍らせるとは。やるじゃねぇか?」
「度の過ぎたおふざけに見えたものでな。」
「ジャジャー…果たしておふざけかな?」
睨み合う祐介_フォックスとジャック・チー。
熱水と冷凍、相反する属性を扱う者同士で、一種のシナジーを感じたのだろう。
因みに熱湯は水より凍りやすいのだが、その原理は分かってない。今も学会で議論中だ。
「他の奴等もいるんだ。一人相手に熱くなるなよ?」
「分かっている…すまんな。」
スカルに戒められ、一歩下がるフォックス。
怪盗団の足並みに、未だ乱れは見られない。
全員揃ってこそなのだから、と。
「…チッ、面白くない奴だ。」
「ジャック・チー、遊びはそこまでにしておけ。奴等は只者では無い。」
一方でジャック・チーは不満げだったが、武道の戒めを受けて渋々引き下がる。
そんな様子を見て、モナが問う。
「さて、どうする?」
連帯感という物は見受けられなかったが、それでも油断ならない。
武道を基準とするならば、他の完璧超人達も只者でない事は明白だ。
「スカル達、ここは俺達に任せてくれ。」
「バ、バッファローマン…!」
そこに口を出したのは、バッファローマン達超人組だった。
「この戦い、元はと言えば俺達超人同士の物だ。」
「癪だが、バッファローマンの言う通りだ。お前等はジョーカーを援護してやれ。」
カナディアンマンも同調する様に口を開いた。
二人の言葉を聞いて、スカル達は覚悟を決めた様に眼を見開いた。
「…おう、お前等も勝てよ!」
「応ともよ、この腕に誓ってな!」
「って義手!?よく見たらバッファローマンも背中にでけぇ傷があるじゃねぇか!?」
「おっと、そういえば話し合って無かったな。ま、ちょっとドジ踏んだだけだ。」
そこで漸く、バッファローマンとカナディアンマン二人の変わりように気付いた怪盗団。
突如として判明した古傷に一同が戸惑う中、クイーンがある事実に思い当たる。
「…そういえばバッファローマン、貴方傷口から血が出ていないわね?」
「あぁ、俺は悪魔超人に戻ったからな。」
「なっ…!?」
怪盗団の知らなかった真実に、一同が衝撃を受ける。
そこで思い出したように、カナディアンマンが問い詰める。
「そういえばそうだったな。ところで、どうやって悪魔超人に戻ったんだ?」
「それは『あのお方』が…」
そう言いかけた時だった、天井から何者かが侵入したのは。
「何だ、また新手_」
「な、何故…!?」
その後ろ姿を見て動揺したのは、他でもないバッファローマン。
彼は震えた声で、疑問を口にする。
「何故『あのお方』がここに…!?」
◇
「その姿が単なる悪趣味でないのならば、その訳を聞かせて貰おうか!」
「必要無い事だと言っている、死にゆく貴様等にはな…!」
キン肉マンと『完肉』ネメシスのぶつかり合い。
互いに力は五分。その拮抗を崩さんと、キン肉マンが切り返しを繰り出しながら問う。
「いいや、お前の存在がハッタリでないというのならば、私はお前の真実を知らなければならない!」
魂からの叫びとも言うべき、本気の一声。
同時に身体をぶつけ合っての交差の後、レッグアームブリーカーに持っていく。
「ぬぅ…!」
床へと叩き付けられるネメシス。
その上にマウントを仕掛け、一転して優位に立ったキン肉マンが続ける。
「何故なら私はキン肉族の王として、全てを知る権利が、いや責務がある_」
そうしてネメシスという存在の謎を聞き出そうとして。
「_驕るなーっ!!!」
その言葉が、ネメシスの怒りに火を付けた。
ハンドスプリングで生まれた僅かな猶予に付け込み、頭突きを見舞う。
思わず立ち上がってしまい、マウントを解除されるキン肉マン。
次いで、殴打の嵐を浴びせる。まるで怒りをぶつけるが如き猛攻に、キン肉マンは溜まらず膝を付いた。
「貴様は超人の光しか見てこなかった!キン肉族の闇を知る資格など無い!」
失望した声色で、フィニッシュホールドへと持っていくネメシス。
キン肉マン、これまでか?
「もう良い!貴様と口を交わす意味など元より無かったのだ!これで死ね!『完肉』_」
「_この戦い、私が預かった。」
だが、鶴の一声がソレを止めた。
「降り注ぐ赤雷!の巻!」
依然続く、完璧超人vs叛逆の騎士の水中戦。
戦線は拮抗しているとはいえ、水中戦に強いマーリンマンに有利がある。
このままではこの拮抗状態もいつかは壊され、やがてやられる。
「マスター、令呪だ!宝具を使う!」
『……事情は分かった!いつでも合図を送ってくれ!』
であるのなら、速攻を仕掛けるしかない。
覚悟を決め、前を見据えるモードレッド。
「まずは、動きやすくしねぇとなぁ!!」
そのセリフと共に、身を包んでいた堅牢な鎧を外す。
これで格段に動きやすくなった。水面に上がれる確率も上がれる。
しかし、水棲超人たるマーリンマンの方が依然有利であることに変わりはない。
当然、このままではマーリンマンに搭載された槍の餌食だ。
「ピョピョ―――!遂に勝負を捨てたか――――っ!」
命知らずな行動を嘲笑するマーリンマン。
対するモードレッドは、冷静に敵を挑発する。
「うるせぇ、早く来やがれ!」
「言われずとも――っ!」
再び、マーリンマンは己の身体を弾丸に変生させる。
先のとは比べ物にならない速度で、ぐんぐんとモードレッドに進軍する。
目標はかの騎士の霊核(しんぞう)、狙いは必中、触れれば完全必殺。
そんなことはもうわかっている。
「今だマスター!飛び出るぞ!」
『令呪を以て命じる――――!』
故にこそ、かの騎士は覚悟を決めた。
確実にあの傲岸不遜の超人を討つという覚悟。
「逃がすか―――っ!」
放出した魔力を、肉体性能の強化に使う。
距離がまだそこまでない以上、依然速度を上げながら迫るマーリンマンからはどうにか逃げ切れそうだ。
だが、問題はこの後のタイミングにある。
あの速度で地上に飛び出されてはタイミングを間違えれば回避される、ないしは放つ前にやられる可能性がある。
チャンスは1度きり。
タイミングは「マーリンマンが水面から上がる瞬間」、そのコンマ0.001秒を狙う。
遅かったら放つ前に刺殺され、早かったら躱されて水面に落下、奴のホームグラウンドで今度こそ刺殺される。
「是こそは!我が父を滅ぼす邪剣!!」
真名、解放―――。
ほとばしる赤い雷が、水中のマーリンマンを傷つけんと狙撃する。
恐るべくは、かの邪剣から放たれる赤雷か。
「この程度の電撃で捉えたつもりか―――っ!」
或いはそれをものともせぬ完璧超人の生体機能か。
通常、魔術の有無にかかわらず「水は電気をよく通す」。
それが高電圧であれば、強固な体を持った人間ですら即死させる。
しかして、このマーリンマンにはそんなものは効かない様子。多少は痛みとして伝わっていようが、速度を変えずに我慢できている以上水棲超人として完璧な体を持っていると言えよう。
「このまま飛び出て、空中で動けんお前を貫いてやろう――――っ!」
浮上まで、あと5秒。
赤い魔力の奔流を、まるで川を上る鮭のように
最も、鮭というよりは巨大な海龍だが。
「我が麗しき(クラレント)―――」
「”完刺”―――!」
あと3秒。
マーリンマンのいる水中からも、赤雷の主がよく見える。
狙いは見据えた。
超音速の槍は今、潜水艦から放たれる地対空ミサイルへと変成する。
あと1秒。
緊張で、周囲の空気が凍り付く。
「スピア・フィッシング―――ッ!!」
「父への叛逆(ブラッドアーサー)―――――!」
ついに訪れた0秒の時。
地上に飛び出たマーリンマンの躰。
今、その槍を騎士の心臓に突き立てんと迫りくる。
しかし、問題はこの奔流。
今度は水ではない、純粋な魔力の流れ。
いくら超人とて、この魔力の奔流はしのぎ切れない。
「ピョペァアアア――――――ッ!!」
「うおおおおあああああああああッ!」
赫い魔力に真っ向方から立ち向かう。
否、完璧超人のプライドとしてもう避けるわけにはいかない。
接敵まであと3秒。
このまま魔力の奔流がマーリンマンの躰を焼き切るが先か、この奔流を潜り抜けるのが先か。結果は―――――。
「仕留めきれずに残念だったな……ッ!!」
モードレッドの目前にまで迫ったマーリンマン。
その体を真っ黒に焦がしながらも、完璧超人としての矜持が肉体を現世にとどめていた。
あと1m迫れば、鼻先のフライングソードが霊核を抉る。
それを実行するための力はギリギリある。
「お前の……負けだ――――っ!」
勝利を確信し、最後の力を振り絞る。
だが。
「ぐがっ……バカな……!」
「いや、それはこっちのセリフだぜ。」
迫る刺突よりも素早い一閃。
水圧の束縛から解放されたことにより、モードレッドの一閃はマーリンマンの刺突の速度を上回った。
魔剣クラレントによって今度こそ撫で斬りにされたマーリンマンは力なく、真下の地面にたたきつけられた。
「ちっ、まだ死んでねぇか。だがあのケガじゃ戦闘はできねぇな。」
地面に着地するモードレッド。
かろうじて動こうとするマーリンマンを見る以上、勝敗は明確だった。
「動乱の終幕は悪魔の一声で」
一体誰が予想できただろうか?
この激戦、いや一方的な蹂躙と言うべきか。
ともかく、終わりの見えない乱闘をたったの一手で止めた存在がいる等と。
それも。
「まさ、かね…ケホッ。」
「…へぇ、悪魔将軍じゃん。」
世に災いの火種をばら撒く悪魔の親玉が、仲裁に入るなどと。誰も予想できるはずがない。
恐るべきはその膂力か。
一方の手でアビィ渾身の一撃を、もう一方の手でアビィを屠ったシャドウの蹂躙劇を止める堅牢さ。
要塞。その二文字が浮かび上がる程の威圧と威厳を放っている。
その存在感を目にした誰もが、戦いの手を止める程のだ。
_振動で水槽に落ちた二人を除けば、だが。それもまた、細事でしかない。
重要なのは、悪魔将軍がこの場で戦いを収めよと宣告した事だった。
「両者、共に矛を収めよ。」
繰り返そう、あの悪魔将軍による静止である。
嘗て黄金のマスクを巡った動乱の真犯人たる悪魔将軍が、まさか戦いを止めに来るなどと。
その言葉が持つ衝撃は静かに、しかし鉛の如く浸透していく。
気付けば、戦いの音色は鳴り止んでいた。
「はあっ、はあっ、ゼェッ…なん、で…?」
その静寂の中、たったの一言。
それだけを、アビィは辛うじて絞り出した。
困惑は深まるばかり、だが真意を問わねばならない。その思いからの行動だった。
それが、唯一の行動であった。
その問いかけに悪魔将軍は頷き、答える。
「此度の戦い、双方に不益を齎す他無い。それ故だ。」
それ以上の理由なぞない。そう言わんばかりに悪魔将軍はアビィへと背を向けた。
そして、武道へと目を向ける。
仮面の下で、怒りを露わにした目を捉える。
"記憶の中にある姿"から変わり果ててしまった成れの果て。それを垣間見ながらも尚戦いを止める悪魔将軍の心境や如何に。
「グロロ…一体、何のつもりだ?この戦いが、我等に不益を齎すだと?」
「如何にも、『ザ・マン』…いや、今は武道と名乗っていたか?」
今こそ向き合うとき。そう言わんばかりに、悪魔将軍は堂々とした佇まいだ。
戦いを見ていたその場の全員の背筋に走る寒気。
(あの怪物を止めやがっただとっ…!?)
モナからすれば、驚愕の二言である。
あの巨大な要塞を抑え込める武力を相手取り、威圧だけで抑え込むなぞ、夢以外のなんでもなかったからだ。
その実力の底を見切れずとも、冷静に事態の推移を観察していた。
「…何を以て不益と?」
武道が問う。
その視線は、今この場で一番強大な戦力であろう悪魔将軍を睨んでいる。
迷い無く敵として認識しているのであろうその目に対し、悪魔将軍は動じない。
武道の威厳を前にして、ゆっくりと口を開いた。
「貴様等が企む救済計画を利用する者が現れている。」
「…話せ。」
その言葉に、武道と丸喜の動きが止まる。
心なしか、二人の顔に汗が垂れたように見えた。
彼等の掲げる世界の救済。それに付け込む存在という物は、無視できる物では無かったようだ。
そんな二人の内心に気付きながら、悪魔将軍は話を続ける。
「何らかの手段で世界を改変している様だが、世界が変わるにあたって発生するエネルギーがある事は知っているか?」
「……」
答えは返ってこない。武道としても、予想がついていなかった事態だからである。
その様子を見て取った悪魔将軍は、一つ頷いて言葉を続ける。
「キリと呼ばれるそのエネルギーだ。この力は如何様にも扱え、人を異質に強くさせる。果ては手も負えぬ程にな。」
悪魔将軍は、まるで一つ一つ積み上げるように話を続けた。
「そして世界を改稿し続けるこの特異点では、無限に近しく得られる。これがどういうことか分かるか?」
自分が分かる所まで語り終えた悪魔将軍は、そこで一旦言葉を区切り二人の反応を伺った。
「その者は、無限と同等の力を獲る、と。」
ボソリ、と丸喜は呟いた。武道よりも先に、彼の答えに思い当たった様だ。
悪魔将軍はその言葉に頷く。即ち、双方にとっての脅威が現れると。
「如何にも。そしてその者は、他でもない魔界からの者だ。」
「何?魔界ならば貴様の差し金では無いのか?グロロ~…」
魔界という単語に、武道の目付きがより一層険しくなる。
嘘や詭弁は許さぬと言わんばかりの武道の発言。悪魔将軍は首を横に振り否定して見せた。
そして、幾分か声を抑えて言った。
「私にも手に追えん連中だ。だからこそこのような厄介な事になった。」
まるで神託を下すが如く、静かに、それでいて鋭く宣言するように。
その姿を、モナ達も固唾を呑んで見守った。
悪魔将軍の言葉に重みを感じたようである。視線は全て悪魔将軍に集まっていた。
「世界を変えるにしても、それを止めるにしても、まずは魔界の対処をしなければ、我等に明日は無い。」
皆が見守る中、そう言い放った。
その目には、余りに重すぎる責任を一身に受けているのであろう事が伝わる物であった。
後戻りの出来ない、ある種の使命感に囚われている様子が覗える程であった。
一方で、武道の内心は穏やかな物では無かった。
当然であろう。ザ・マンこと武道はこの計画に、丸喜に全てを賭けて来たのだ。
そこに余計な邪魔が入ったとあれば、はらわたが煮えくり返る程である。
故にザ・マンは、それを淡々と告げる悪魔将軍_ゴールドマンへの、嘗ての弟子の変貌に対して口にせざるを得なかった。
「…変わったな、ゴールドマンよ。」
「その名は捨てた、今の私は悪魔将軍だ。」
呼び名の変化。それは悪魔将軍となった男を見極めようとした、武道なりの未練だったのだろう。
それでもなお、きっぱりと言い放つ男は、最早別人と言っても相違ない。
ただならぬ変化であった、彼を知る者がそう感じる程に変わり果てていたのだ。
そんな男にこれ以上の議論は無駄であることを痛感したのか、またも言葉を噤んだ。
「…だそうだけど、どうする?」
『フン、無限に近しい力だと?笑わせる。』
一方でジオウ達は、この停戦協定に対し懐疑的な反応を見せていた。
突然告げられた魔界の存在もそうだが、話が壮大で掴みにくいというのもあるのだろう。
敵の敵を理解しようというのは、何時だって至難の業なのだ。
そんな二人の様子を知ってか知らずか、一足先に話を理解したアビィが代わりに声をあげた。
「事実さ…多分、その御大層なライダーシステムだって破壊されかねないと、僕は見ているよ。」
『ほう?』
「言ったよね、無限に世界を改稿し続けるここでは無限に力が得られる。塵も積もれば…」
『…山となる、か。成程な。』
そして、徐々に加速していく。
この場で一番に状況を理解しているアビィの言葉を皮切りに、ピタリと一致する。
本題となる話に入っていくあたりは流石と言うべきだろう。
その口ぶりからすると、かなりの興味が彼に移った様だ。
いよいよもって、話も佳境に入って来たという事か。悪魔将軍が一つの提案を切り出した。
「ここは一時停戦し、魔界の事態を収めるのに力を合わせようではないか?」
「輝け! ラーメンマンの巻」
ウルフマン、喜多川祐介、バッファローマン、そしてキン肉マン……
それぞれの意地と誇りと懸けた戦いが繰り広げられる中……
「うっ、ううう……」
「泣くでない、佐倉双葉……」
双葉の悲痛な涙に応えるかの如く、ラーメンマンはよろよろと立ち上がった。
「ああ……!! ラ、ラーメンマン……!!」
その名を呼ぶ少女の青き叫びが、男を奮い立たせる。
「私は、まだ生きているぞ……!!」
そう宣言し、ラーメンマンは敢然とターボメンへと向き直った。
「ぬおおおお~ッ!! 信じてたぜ、ラーメンマン!!」
「ぐ、うう……ラーメンマンよ! しぶとい奴め……」
スカルが歓声を上げる横で、ターボメンは忌々しげに睨み付ける。
「危ないところであった。心の怪盗団が貴様の特性に気づき、
声を上げてくれていなければ、私は間違いなくあの一撃で致命傷を
負っていたであろう……」
ラーメンマンは呼吸を整え、精神を集中させる。
「コォォォォォォォッ……」
緩やかに、風にそよぐ柳のように。ラーメンマンの身体を包んでいた闘気が、
少しずつその勢いを弱めていく。
しかしそれは、決して衰えたわけではない。むしろその逆……
辺りの空間を焦がさんばかりの闘気は、抑え付ける事で一層重厚さを増しているかの様だ。
やがて、ラーメンマンの周りの空気が陽炎のように揺らめき始めた。
それはまるで周囲の大気が燃え立つかの如く、 ラーメンマンの身体から発せられた闘気によって歪んでいた。
ゆっくりと腕を上げ、前方に構える。さながら弓矢を放つ瞬間のようであった。
「ぬ、ぬうう、くたばり損ないめが~~~ッ!!」
「私はかつて、聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)に挑み、
完璧超人への道を歩もうとした……完璧な技、完璧な力、そして勝利を得るために
一切の甘え、迷いを捨てた存在へと……だが、それは叶わなかった」
完璧超人への道を歩むために、本来の優しい心を冷徹さと非情さの裏に隠し、
最も恐ろしき残虐超人として名を馳せたこともあった。
だが、およそ完璧とは程遠い存在であったはずのダメ超人・キン肉マンとの戦いが、
ラーメンマンの人生を大きく変えたのだ。
「当然よ! 完璧超人は生まれながらに完成された存在!
貴様などに到底成せる筈が無いのだ~~ッ!!」
「そう……だからこそ、完璧超人が持ち得ない大切な物を、私は教わったのだ」
ラーメンマンが構えていた腕がゆっくりと下がっていく。
同時にその闘気も、見る者の眼に焼き付いて消えぬ残像となって薄れていった。
そして再びラーメンマンとターボメンが正対する。
しかし今迄のようににらみ合うのとは訳が違う。
互いに相手を視線で攻撃する中、 一挙手一投足に全神経を注ぎ込んでいた。
次の一瞬……ほんの一瞬で決着は付くであろう。
「仲間たちとの結束の力……それこそが私の心の拠り所であり、
私一人では決して手に入れる事の出来なかった勝利の鍵だ!!」
「くだらぬ!! やはり貴様には完璧超人になる事など出来ぬのだァ!!
ぬあああああーッ!!」
両腕に装填されたリボルバーを振り乱しながら、ターボメンが突進する。
「挟み殺してくれる!! 喰らえ、タービンチョップーーーーーッ!!」
鋭い針がリボルバーから露出する。
それがまるで獲物を狩る獣の角のように、ラーメンマンに襲いかかった。
だが……目にも留まらぬ速度で突き出されたターボメンの両腕は、しかし空を切った。
「今だッ!! 秘伝・骨崩しーーーーーッ!!」
「ぐおおっ!?」
全身の骨を崩し、軟体生物の如くグニャリと曲がりくねったラーメンマンが、
ターボメンの懐に飛び込み、両腕を締め上げる。
「おおおおおおおおおッ……こ、小癪なぁぁぁ~~ッ!!
えええい、こ、この技さえ破ればぁ……!!」
しかしラーメンマンも、決してターボメンを逃そうとはしなかった。
やがてミシミシとターボメンの骨が軋む音が響き渡る。
「ぐぉぉぉううッ……!!」
「ターボメン! 貴様は相手から受けた攻撃エネルギーを吸収し、
跳ね返す特性を持っている……だが! これほどまでに密着していれば、
攻撃エネルギーは絶えず貴様の身体を循環し続ける!!」
秘伝・骨崩しによって身体を締め上げられると同時に、
逃げ場を失った攻撃エネルギーが過負荷となって、ターボメンの体内に逆流し続けていく。
内と外からの二重苦にターボメンが膝を付くと同時に、ラーメンマンも
元の姿に戻った。
「ぐぎゃあああああああッ……!!」
「今が勝機ッ! とぉうあああああーッ!!」
跪くターボメン、ラーメンマンは天高く跳躍。
「こ、このままで済むと思うなーーーーッ!! ボシュゥゥゥゥゥゥッ!!」
しかし、ターボメンもすぐに復帰し、ラーメンマンの後を追った。
「【完遂】リボルバーフィンッ!! 串刺しにしてくれるぞーーーーーーーッ!!」
リボルバーから針を剥き出しにし、ラーメンマンに襲い来る。
「その技……」
ラーメンマンの脳裏に過ぎるは、ウォーズマンとの棺桶デスマッチ……
かの戦いにおいて、ラーメンマンはウォーズマンの必殺技・スクリュードライバーを
側頭部に受け、一時は植物状態にまで追い込まれると言う心身共に大きなトラウマを
残すこととなった。それは今でも彼の心に深く刻まれている……
「今こそ……今こそ、忌まわしき過去を乗り越える時!! ゆくぞーーーーーーッ!!」
後悔、挫折、恐怖……そのすべてを振り払うが如く、ラーメンマンは
空中で高速回転を始めた。
「心突ッ!! 錐揉脚うううううううううううううううううううッ!!
ほあちゃあああああああああああああああああああああああああああッ!!」
高速回転による遠心力を加えた、さながら自らの肉体をドリルへと変えたラーメンマンの
渾身の一撃が、ターボメンのリボルバーを針ごと粉砕。
「ば、馬鹿なあああああああッ……」
「これで終幕だッ!!」
ラーメンマンは空中で素早くターボメンの股座に潜り込み、
肩車をした態勢から真っ逆さまに地上へと急降下していく。
「うわああああああああッ……」
「九龍城落地(ガウロンセンドロップ)ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
ターボメンは脳天から地面に激突。激しい揺れと地割れを伴って、
ガックリと力なく頭を地面にめり込ませて動かなくなった。
「――ごぶへァッ……!!」
「か、勝った……! ラーメンマンが勝ったーーーーーーッ!!」
「お、終わった……か……」
それを見届けたラーメンマンも、ゆらりと力尽き、前のめりに倒れた。
「は、早く治療を!」
「私のメディラマで間に合うかしら……!?」
直ちに駆け寄るパンサーやクィーン。
それと同時に、丸喜パレスを舞台とした遥かなる戦いにピリオドを打つ一言が
悪魔将軍によって投げかけられたのであった。
「な、何だと……?」
「て、停戦だとォォォォォォォォォォォーーーーーーーッ!?」
悪魔将軍によって提示された停戦協定に、 キン肉マンら超人軍団や心の怪盗団、
ジオウたちも動揺を隠せなかった。
「「SPM」の刺客/いざ、廃棄孔へ!」
悪魔将軍が停戦協定を下した、その間の話。
モードレッドの宝具を受け、地面にたたきつけられたマーリンマンだったが、まだかろうじて生きていた。
苛烈なまでの剣光を受けてもなお生きていられるのは、やはり完璧超人としての完全な肉体とプライドからか。
「おい、介錯してやる。」
尚も立ち上がろうとするマーリンマンにとどめを刺そうと近づく。
しかし、先に立ち上がったのは相手の方だった。
「いや、情けは不要……『完璧超人は敗北した際、自害しなければならない。』ならば、その掟に従うまでだ――――っ!」
「何をする気だ!?」
モードレッドの制止も聞かず、マーリンマンは自分の剣でもある梶木通しをへし折った。
当然、自らの武器であり躰でもあるそれを折った事は、満身創痍でもあるマーリンマンには文字通り死にも等しい苦痛となる。
「マジかあいつ……。」
やがて大量の血を吹きだしながら、マーリンマンは絶命した。
その凄惨さには、先ほどまで苛烈な戦いを繰り広げていたモードレッドも驚くしかなかった。
そんな中、悪魔将軍が2人に話しかける。
その声には、不信感と少しの怒りが滲んでいた。
「ところで、そこにいる騎士とその主らしき男。私は戦いを止めたはずだぞ?」
あー、と何かを思い出した獅子劫と、不機嫌さを徐に顔に出したモードレッド。
両者とも、それぞれの言い分を述べる。
「水中で聞こえなかったんだよ。」
「すまない、止めようとしてもあの状態なら出来そうにもなかった。」
納得はしたのか、悪魔将軍はそれ以上の追及はしなかった。
しかし、それ以上に気になることがあったようだ。
「ふん、まあいい。貴様らは何者だ?突然現れたはいいが、何をしに来た?」
その質問は妥当だった。
思い返せば、丸喜達との戦いに突如出現しては味方面され、確かに協力はしてくれた。
しかし、なぜ彼らが協力したのかまでは分からない。
その問いに、獅子劫は淡々と答えた。
「ああ、俺達は――――メサイア教団を解体する為にあの聖杯を回収しに来た『SPM』という組織の者だ。」
「SPM?メサイア教団?なんだそれは、詳しく説明してくれ。」
「分かった、お前たちにも共有しておこう。」
かくて獅子劫は話した。
SPMとは、元々はキラ教団として活動していた悪の組織「メサイア教団」を解体するために独自で行動している組織であること。
メサイア教団は現在、聖杯のような高エネルギーを大量に持つ存在を利用し何かに利用しようとしていること。
今回の目的は丸喜たちが所持している聖杯を、メサイア教団にとられ悪用される前に回収しようとしたことを。
◇
幻想郷 神の湖前
時刻は外の世界単位で18時。
きれいな満月が、湖面に映る。
「もう時間がない。」
「『夜明けまでに全て片付けろ』ってか。」
月夜たちの前に口を開けているのは、まるで湖面を一つの壁と見立て、その壁に穿たれた巨大な孔。
ここが廃棄孔の入口なのだろう。
穴の奥から、おどろおどろしい音と不愉快な気を感じる。
それは、魔術回路も霊力を感じる器官もない月夜ですらその身をもって感じるほど。
「この先に、焔坂が……!」
彩香は思っていた。
かつて倒された同胞の仇を取るために。
そして、この先に待つ敵を倒すために。
「怪物迎撃部隊は後で到着する。俺達は『廃棄孔の怪物』が目覚める前に先行してこの廃棄孔を潰す。いいな?」
「ああ、行くぞ!」
かくて月夜、彩香、ペルフェクタリア、そしてリクは廃棄孔に飛び込む。
今、リベンジマッチの火蓋が切って落とされた!
◇
死を想い、
悪を求め、
尚も希望にすがる。
それこそが、人間の在り方だ。
悪という泥の中で咲く、一輪の花を愛でるように。
それは、愛でるべき対象であり。傷つける対象でもある。
であるのならば。
―――傷つける者を、我らは赦せるだろうか?
◇
Chase Remnant ACT2 人理定礎値:E-
―――――――――――――――――――――――――
■.■.2016 忘却之廃棄孔 幻想郷
―――――――――――――――――――――――――
東方廃希孔 後の章
「かくして動乱は収まりを見せた」
ここに来て露わになった、新たな対メサイア教団組織『SPM』。
彼等の目的は、この地下に存在し世界を改稿している大聖杯だと告げた。
それを聞き届けた悪魔将軍と武道は、しかし拒絶の意思を見せる。
「そうか。だが今、大聖杯に干渉する事は何人も許されん。」
「然り、聖杯は我等が願望に必要な者故。」
武道は掲げる、丸喜と己の願望を成就させる為に使うと。
言外に、貴様等には渡さぬという意思表示だった。
「いいや、それだけでは無い。我々は今互いに矛を収め、停戦せねばならぬ。」
「き、聞き間違いじゃなかった…!」
だが、悪魔将軍の考えはその先を行った。
悪魔の口から出る停戦という言葉は、波紋となって各々の心を揺さぶる。
それ程までに、彼の提案は衝撃的で突拍子もないものだったと言えた。
さしもの武道も、一瞬口が止まる程に。
「_お前が、手を取り合おう等と言うとはな。」
「そうだ。我々同士で争っている場合ではないのだ。」
空前絶後、と言うべきか。
これまでとこの先、本心としてこの言葉を聞く機会は二度とあるまい。
そう思わせる程の言動が、事の重大さを皆に再認識させる。
「暗黒魔界の放置は、ひいては多次元世界に至るまでの脅威となる。憶測だが、メサイア教団とやらをも上回る。」
その事を裏付ける様に、悪魔将軍はそう断言した。
これまで挙げてきた連中よりも、メサイア教団よりも巨大だと彼は語った。
その脅威を否定する要素は、無い。
「我々同盟相手として貴公等が事を進めるのであれば、その間聖杯や貴様等には干渉せぬ事を誓おう。」
「…信じられぬが、貴公が私に嘘を言う必要は今更なかろうな。良かろう。」
悪魔将軍を全く信じてはいない武道だったが、共闘の意思がある事に賛同した。
互いに殺し合う様な戦いよりも平和的な方向に舵を切りたいと意見が一致する。
「ただし、我等は我らのやり方で魔界に当たる。手を組む訳では無い事は承知しておけ、グロロ~…」
「分かっている。事が終われば、再び我々は敵同士だ。」
悪魔・完璧は、互いのやり方に干渉しないという事で同意した。
だがそれは同盟としてではない。飽く迄も共闘であり、協定。
必要以上に深入りはせず、手を取り合う仲間として扱う事はないという意思がひしひしと伝わる言葉だった。
それは悪魔将軍とて承知の上であった。
だが、SPMは違った。
「おい!俺達は同意するなんて一言も言ってねぇぞ!?」
「そうだな、俺達『SPM』もまた聖杯狙いなのは変わりねぇ。」
目的の物を前にして突然他人の事情で足踏みする等、御免である。
当然の憤りではあった。
だが悪魔将軍の方もまた、突然現れた組織に構っている場合ではないのも事実だった。
「今、聖杯を目的とする貴様等に勝手をされるのは困るな。もし続けるというのならば…」
そこで動いたのは、白亜の騎士。
一体何時の間にやったのやら、モードレッドの傍にいたかと思えば首元に大剣を差し向け。
「ぐぅ、う…!?」
『_こやつと同じ運命を辿るだろう。』
飛び散る火花。
苦悶の声と共に、透明になっていた筈のシアンの戦士_仮面ライダーディエンドが、ホールの中央で倒れ伏した姿を露わにする。
どうやったのかまるで見えなかったが、今まで透明になり全く姿形を見せず気配さえ殺し、聖杯を奪う機会を伺っていたディエンド。
即ち、海東大樹を、ショッカー大頭領はモードレッドを脅すついでに斬り伏せたようだ。
聖杯を尚も狙うのならば、その技量と実力でこの様にねじ伏せるという、見せしめと同等だった。
「俺達悪魔超人も相手になるぞ。」
「バッファローマン、お前何を!?」
同時に、バッファローマンが正義超人軍団…即ちCROSS HEROESから離れて悪魔将軍の側に付く。
特に有無を言わせぬ迫力で、言葉の続きを遮る。
「この協定は、対魔界協定であると同時に聖杯への不干渉条約でもある。」
何時でもお前をぶっ飛ばす準備があるぞと。
言葉にこそはしなかったが、そう仄めかしていた。
その気迫を受けては、実力を知る他の者達は押し黙るしかない。
事実、悪魔超人最強の一角たる一千万パワーのバッファローマンを以てすれば、モードレッドと互角に渡り合う事は出来るだろう。
先のマーリンマン戦の比では無い激闘が起きるに違いない。
そこに武道、丸喜、シロウ、悪魔将軍、ショッカー大頭領…と、他の面々が連なればどうなるか。
「分かった、降参だ。今は聖杯を諦めるとしよう。」
「…畜生!」
流石の獅子劫やモードレッドでも、これを突破すると断言する事は出来なかった。
分かるのだ、マーリンマンを倒したからこそ。
マーリンマンでさえ先の様な死闘を演じなければならない。
それよりも遥かに強い実力を持つであろう彼等が束になって掛かってくればどうなるか等、想像は容易かった。
「バッファローマン、お前、本当に悪魔に戻ってしまったのか…!?」
一方で、キン肉マンが嘆きの声を上げる。
嘗て悪魔から正義超人になり共に友情を分かち合ったバッファローマンの裏切りに、動揺を隠せなかった。
「…」
どうして悪魔に戻ったのか。そんな問い掛けに、バッファローマンは何も答えない。
ただ悪魔将軍の前で忠誠を誓う姿を見せるだけだ。
代わりと言わんばかりに、悪魔将軍が告げた。
「良い心がけだ、バッファローマン。打倒キン肉マンの使命の為に寝返っただけはある。」
「な、私を倒す為だと!?」
驚きの余り、キン肉マンが声を上げる。
其処まで憎まれていたとは知らなかった、という表情だ。
そしてそれを聞き付けたバッファローマンは…嗤っていた。
事実を知っても尚、何を勘違いしたのかと笑っている様だった。
「キン肉マン。」
「何だ!?」
「お前に挑み、勝ちたいという気持ちは今も変わっていない。それだけだ。」
愕然とした。
あろうことか、勝負を挑む為だけに悪魔の軍門に降ったと言うのか?
キン肉マンには、理解しがたい事実だった。
戻って来いと言わんばかりに手を伸ばすキン肉マン。
その肩を掴んだのは、カナディアンマンだった。
「諦めろキン肉マン、アイツは本気だ。」
何が現実なのか、理解出来ない。何故そんな事になってしまったのか。
しかし幾ら言葉で言っても無駄だろう。
彼もまたショックを隠し切れないのか、沈痛な表情を浮かべていた。
当然と言えば当然だ。キン肉マンにとっても親友だったのだから。
この友情の破断が悲しくない訳がない。辛そうに見えない筈がなかった。
しかし、非常にも事態は進む。彼等の悲痛を差し置いて。
「さて、暗黒魔界に渡る為に我々はある場所を経由する必要がある。」
「ある場所?」
悪魔将軍は、唐突な事実を唱えた。
「そこは、幻想郷と呼ばれる場所。忘れ去られた者の楽園だ。」
事態は、幻想郷へと続いていく…
To Be NEXT 幻想郷
「phantasm ataraxia_1 かくて決戦の夜はやってくる」
是なるは幕間。
幻想郷に住まう人間と妖怪、そして「外から来る勇者たち」の革命劇。
◇
時は酉の刻(18時)。
日は落ち、夜の時間が来る。
夜の幻想郷程、危険なものはない。
道端に電灯がなく、防衛機構もないくらいには文明が発達していない幻想郷で、その辺の獣よりも恐ろしい野良妖怪が元気に殺したり殺されたりする場所に入る奴なんて、それこそ余程の勇者か愚か者か、酔っ払いしかいないというもの。
「Aaaaaaaaaaa!!」
「Aoooooohhhhhh!!」
現在湖底には悪霊を沈めんとする者たちが向かっている。
地の底の地獄、地獄よりも昏い悪の辺獄に向かう螺旋階段を降り続けている。
そんな子の刻の幻想郷に響く、厭な咆哮。
獣のそれとも、鳥のそれとも異なる異形の波形。その波長を聞いているだけで全身の毛が逆立ち、その音色は遍く生物に不快感を与える。
だけど、それよりも恐ろしいのはその風貌と行動方針か。
――――イソゲ、イソゲ、イソゲ!
――――アノ地ヘ、「外」ヘ、マダ見ヌ「悪」ヘ!
向かう方向こそ違えど、声の主たる黒い何かは向かっている。
「山」から「森」目がけて、森の奥にある神社に向かって。或いは、結界のある方向に向かって、虫が光を目指すように悪霊は進軍する。
だけれども。
「神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』!!」
天から降り注ぐ巨大な柱。
神が地にいる悪しき者たちを戒める為に叩き落したかのような一撃。
降り注ぐ神威に悪霊は潰され、祓われてゆく。
その御柱の一つ、頂上に胡坐をかき攻撃をし続けるのは、文字通りの『神』。
「悪いな、この先は通さない。というかあれだ、お前らをこの幻想郷の外に出すわけにはいかないな!」
発破をかけるような悪霊たちへの宣戦布告。
この幻想郷に棲まう邪気を鎮めんがばかりの威勢。
守矢神社の神が一柱、八坂神奈子が先陣を切って立ちはだかっていた。
「よくも、うちの諏訪子をやってくれたなお前ら。」
その声には怒気がにじむ。
自分と志を共にした神をむざむざ痛めつけた悪霊ども。
許せるはずがない。
「この幻想郷を出たくば、私らを倒してからにするんだな!」
かくて大いなる神威は降り注ぐ。
御柱の雨霰、弾幕の嵐が悪霊を破壊し尽くす。
―――――コシャク!小癪!小癪!!
―――――コロセ!コロセ!殺セ!!
弾幕を前にして悪霊は砕けてゆく。
しかし、うまくかわし続けたであろう悪霊の1体が迫る。
そして跳躍。搭載された第3の腕を伸ばし、神奈子の心臓を抉ろうとする。
「させん!」
しかして、その腕は両断された。
赤と黄色の剣閃が、ドス黒い腕を切り取る。
神に触れる者を許すまい、とでも言わんばかりの一撃。
人の身であろう存在が、よもやここまでの"跳躍"をすることができるわけがない。
「悪霊ども、このディルムッドが相手になろう!」
しかしい、相手は勇士ディルムッド。
その跳躍によって城壁を飛び越えた逸話が、ここに具現する。
赤と黄色の剣を携え、悪霊の群れの前に立った。
されど、悪霊の群れは進軍をやめない。
精鋭による単騎がダメならば、と人海戦術で攻め込む。
「押しつぶす気か!――――ですが。」
「奇跡『八坂の神風』!」
疾風。
正確には、吹きすさぶ風の弾幕が悪霊の脳天や赤核を貫き殺していった。
立ちはだかるは、現人神『東風谷早苗』。
「怖くないぞ!かかってこい!」
弱気になりそうな自身に喝を入れつつ、迫る悪霊をなぎ倒す。
彼女にだって、負けられない理由はある。
かつて出会った少年―――天宮月夜。
彼は「変わり者」だった自分すらも受け入れてくれた。
そんな彼と再び出会い、また信頼してくれた。
であるならば。
「ここは通しません!」
戦う。
戦い続けるしかない。
この守矢神社、否。この幻想郷を守るために。
戦いの最中、群れからこぼれた悪霊の旅団は守矢神社を脱出してしまった。
しかして哀しいかな。カレらは知らない。
この先に待つ、数多もの守護者の存在も知らずに――――――。
【回想編 ③違うんです、これは事故なんです】
「なんかぼんやりしてる、隙あり!」
「鉄山靠・・・!?」
まともに食らったせいなのか大きく吹っ飛ばされるそれを見ていた雪はここで1つの提案をする
「よぅし、いけー!GV!ここで!スパークカリバーをシュートさせるんだ!」
「ええ!?」
「さっきの発言はどうしたんだ」
「いや、でもチャンスはここしかない・・・か不本意だけど」
「よし、この角度かな〜いいよー!」
「迸れ、蒼き雷霆!スパークカリバー!」
「そのまま投げてみ?」
「・・・それいいね。シュート!」
雪が雑に作り出した氷の上で滑り更に加速していき蒼き聖剣は宙を舞う
「・・・!」
咄嗟にエーテルは気が付きスパークカリバーを避けたことによってあろう事か夢美方面へと飛んで
「あ」
『嘘!?』
「そんなことある?」
なんと彼女にクリーンヒットしてしまいました
「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
その光景はその場にいた全員が見ていたもちろん、結局着いてきたむーくんさえも
その勢いで壁をぶち壊しあろう事か謁見の間を引き当ててしまうというなんとも豪運なことをしてしまった。
「何事だ!?」
「ち、ち、違う!ブラフマン君!リグレット"ちゃん"!これは事故なんです!事故!」
「・・・壁を壊した?」
「リグレット"様"を付けろっ!貴様ァ!しかも、リグレット様の御前だぞ?どさくさに紛れてちゃん付け?何たる無礼なやつだ、問答・・・無用・・・!!」
「ひぃぃぃリグレット過激派ぁ〜!」(ゴロゴロ)
「避けるなぁぁぁぁぁっ!!!」
「待て!」
床を転がりながらブラフマンの攻撃を避け続けるが目の前に大剣が突き刺さる
「ちょ、太陽ここ謁見の間どないして!?」
「つくずく運のいい女だな」
「そこに関しては全くだ」
「だが、貴様ここまでどうやって来たんだ?」
スパークカリバーにぶつかって壁をぶち壊した夢美を目撃した太陽がすぐに行動を取る
「アイツ、身体頑丈過ぎるな・・・」
「あれぐらいは普通だよね?」
「うん、あのぐらいはね」
「お前らの基準イカれてるな。仕方ない、不要かもしれないがちょっと援護してくる」
「え、でもどうやって・・・」
「ああー・・・夏風横丁の人達や父さん母さんには内緒な」
「おい待て、待ってください。何しようとして?」
「なにってこうすんだよ」
「その手があったか!」
「え?え?」
GVはすぐにピンと来た、なぜならいつもやっていることを、そうキッククライミングですね!
「ってことがあったんだよな」
「壁キック出来たんだ!?」
「ここを登ってきたというのか!?」
「ああそうだ、それがどうした?」
「異端者・・・貴様らはどこまでも!」
「いやー、いくら雷撃麟で浮かせられるからって危なく死ぬかと思ったよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと持っているから」
「おれは俵じゃないんだよ!!!!!!」
「なに、まだ居ただと?」
更に登ってきた者がいて驚きを隠せないブラフマンとリグレット
ちなみに雪はGVに担がれて来たらい
「俺達に喧嘩売ったこと深海よりも深く 後悔よりもタチが悪い絶望をしてもらうからな」
「雪は軽いね、ちゃんと食べてる?」
「食べてるとも!」
「茶番はすんだか?」
「いや、ずっと茶番はすると思うよ」
「ギャグしないとダメなの?」
リグレットがそう言ったがGVは半ば諦めている。そんな中2人は同時に攻撃し始めるも太陽は動かなかった
「俺は添えるだけ」
「先手必勝!」
「三位一体!」
「リグレット様ここは私にお任せを!」
三位一体になってはおらず、夢美の剣の攻撃を刀で弾き雪は本の角を当ててこようとするも腕を掴んで投げ飛ばされる
「貴様、名前は」
「大空太陽。どうだ、俺も少しはやるだろう?」
「ほう、少しはやるようだな」
「攻撃、やってないですよね(何この茶番・・・)」
「とりゃー!」
「甘いぞ、小娘!」
「まだまだぁ!」
「これが報いだ!」
「ギャフン!」
「またやるのか、あのレーザー・・・」
ボコボコにされる夢美を見ながら機械銃を構えてレーザーを出そうとしたその時、体制を立て直したエーテルにとってはチャンスとばかりか弓を構えて大きく解き放とうとしていた
「女神の名において解き放ちます!プリズムレインボーアロー!」
無数の光が虹を作り出しこの場にいるもの全てを射抜こうと迫ってくる
「ああああああああぁぁぁ!」
「この光は・・・!」
「あ、スルーしてた」
「スルーしちゃってたんだ・・・」
「な、なんだあの光は!リグレット様!お逃げ下さい!」
「あ・・・」
そこからの記憶は一切なかった。
今どうしてるのかと言うとどっかに飛ばされてしまったのだ。
現在この3人(雪とGVは興味本位 太陽とモルフォはゲーム機が触れない)はなぞのばしょに飛ばされたのだった・・・
そんで、なんか訳わかんないからレースゲームやろうぜってことになった、イマココ
「あ、そこで亀甲羅はこぉらこまった!」
「寒いギャグ言ってるとサンダー?っぽいのを落とすよ?」
「おのれ、ビリビリ中学生 GV…ここでも雷かっ!いや吼雷降(コウライコウ)!?」
「スター中に神サンダー頂きましたぁぁぁぁぁ!」
『なんていうか、悲しい最下位争い』
もう、かれこれ46レース目らしい。
現在、完全な初心者の12位GV 11位 雪 10位 夢美NPCが強いで全員挑んだが雪と夢美によって巻き込まれたGV、2人の足の引っ張り合いで最下位争いへと化していた
「あの後、本当に何があったのか分からないのに逞しすぎるだろ、お前ら」
(参加しなくてよかった)と思っていたらしい
『本当にね・・・』
「私は魔法學専門だから神秘學は分からないけど多分さ、何かの力が作用したんじゃない?」
「神秘學?そんなのあったのか」
「うちは魔法が強いのでマイナーなんよ」
「神秘學・・・そんなのがあったんだね」
「そう、なんかこう、その場の神秘的な力が高まったから・・・なんじゃない?」
「分からないならもう話はよすか、助かったんだしな」
「それよりもゲームだよ!ゲーム!」
果たして、ここがどこなのか
それは私にも分かりません───────☆
「再会は一押し苦く」
濛々と黒煙の尾を引き、のらりくらりと空を駆けるアビダイン。
白亜の装甲は今や黒く焼け焦げ、薄汚れた灰被りの城と化している惨状で、それでも航行が出来るのは奇跡の産物か、或いは技術の賜物か。
それでも次の瞬間には地に堕ちるかもという想像を湧き立たせる、そんな様相の戦艦にて。
「OK、それじゃあこれまでの事を振り返ろうか?」
集団を取り仕切る様に先頭で_120cmという小ささもあってか、椅子の上に立ち_演説めいて、大仰な素振りと共に語るアビィ。
その内容は、ズバリこれまでの振り返りだった。
「マジ頼むぜ、俺達割と訳わかんねぇ状態だからよ。」
「大丈夫、色々クラックして調べたから。」
「法的に大丈夫じゃねぇんだよなぁ。」
ツッコミを入れた竜司の言う様に、心の怪盗団は特異点にて丸喜の植え付けた「りそうのゲンジツ」に一年間囚われていたのもあって、状況把握が上手く行っていない。
ショッカーやらメサイア教団やら、果てはSPMなる組織やらで、実際混乱の真っ只中だった。
ジョーカーもまたCHの一員だが、殆ど特異点での活動に集中していた為、外の動きについては全くの無知だ。
故にこの説明会が行われる事となった。
「まず君達は、丸喜の作った偽りの現実に、一年もの間囚われていた。これは分かっているね?」
「…悔しいけどその通りだ。」
「悪意で貶められてた訳では無いのが、せめてもの救いか。」
忌々し気な口調の明智。
祐介のフォローもそこそこに、話は進む。
「丸喜がそうしたのは、結論から言えば世界から悪や不幸そのものを無くそうとしたから。君等が真っ先に陥ったのは身近だったからだ。」
アビィの言葉に頷く一同。
確かに竜司も祐介も、真も杏も、明智でさえ、怪盗団という点では身近だ。
だが、何より雨宮蓮と身近な事がきっかけだったのだろう。
「そして一年経って、丸喜はその方法で本格的に世界の改稿に打って出た。」
「それが、この特異点?」
「そうだね。過去の記憶ごと人々の認知を上書きして創り出された、誰にとっても都合の良い世界を…そんな所さ。」
認知の上書き。
要は嘘や偏見を使ったトリックだ。
この幸せに溢れた世界も、丸喜が一から作り出したもの。
だが、その虚構が齎す幸福が、真実を塗り潰していった。
あまりにも堂々とした侵略に対し、人々は抗う事どころか気付く事すら出来なかったという訳だ。
「聞くところによると、一度は国家転覆罪で牢に入ってた獅童も真っ当な政治家に返り咲いているそうだよ。悪人が存在しない世界らしい。」
更にアビィの言葉は続く。
「後はこのまま世界が塗り替えられるだけだった…暗黒魔界の一件さえなければ。」
「その、何だっけ?暗黒魔界って?」
暗黒魔界。
突如として出てきた単語に、一同は困惑するばかりだ。
そんな中、双葉が珍しく手を挙げて語り出た。
「はいはーい、知ってるぞ!悪魔超人達の故郷、それが暗黒魔界だ!」
「正解、かつて悪魔将軍とそれに近しい者達が創造したそうだ。故に悪魔超人の生まれ育つ地という認識で間違いない。」
双葉の答えを肯定するアビィ。
悪魔超人は暗黒魔界より生まれ、そして悪魔将軍やその配下に鍛えられる。
「だが、何も悪魔超人だけの世界という訳でもない。魔神や魔女といった科学では証明出来ない存在の拠り所でもあったのさ。」
「急にオカルト方面になったわね…」
「そもそも超人自体そんなもんだろ?」
「そうだったわ…」
頭を抱えながら納得する真を他所に、説明は続いていく。
「かつての悪魔超人達がそうだったように、魔神といった奴等も地上を狙う一派がいるっていうのが悪魔将軍の言い分だ。そこで目を付けられたのが、この特異点。」
「状況が複雑になってきたな…」
「本当だよ、勘弁してほしいね。」
うんざりと言った様に肩を竦めるアビィに、明智も賛同する。
ここに来て魔神一派だの、様々なワードが飛び出してきたのだ。
目の前の一件で手一杯なのに、そりゃあ鬱屈にもなろうというものだ。
だが状況は待ってくれない。故にアビィは言葉を紡ぐ。
「これはCHと協力している組織、カルデアから聞いた話なんだけどね?」
一息ついて、続ける。
「人類の歴史、人理っていうんだけど。それが後から大きく変わると、それまであった人理がエネルギーに変換されるんだってさ。」
「そのまま消える訳じゃないのか。」
「一度生まれた物は、そう簡単には消えない。そういうことさ。」
アビィ曰く、人類史の歴史のターニングポイント。
それが変わったのなら、それは即ち歴史に、ひいては今という世界に穴が空くような物だとも。
その時に発生したエネルギーは、世界的に見ても膨大な量らしい。
通称「キリ」と呼ばれるそのエネルギーは、如何様にも使えてしまう。悪事にも。
故にカルデアと呼ばれる組織の者達は、人理を守る為に動いているそうだ。
「じゃあ、魔界の一派ってのはそのエネルギーが目的なのか?」
「みたいだね。無限に世界が改稿されるなんて、それこそキリを集めるのに最適な場所だよ。」
竜司の問いに対して、アビィは肯定する。
そのエネルギーを使い、魔神達は悪しき目的の為に使おうとしているらしい。
丸喜とは正反対の、身勝手な願い。
そう思えば思う程、竜司は言葉にならない激情を抱く。
やがて竜司の憤怒を察してか、アビィは切り替える様に口を開いた。
「そこで僕等は魔神の一派に対抗するために、暗黒魔界に乗り込む事にした。」
「出来るのか?」
不安げに呟く祐介に、アビィは頷く。
「方法はあるよ、とても危険だけどね。だから皆が乗るかは自由だ。」
「…オーケー、続けてくれ。」
竜司の頷きと共に、説明は再開される。
「その方法は幻想郷と呼ばれる地を経由する事。そこが暗黒魔界に直接繋がる唯一の場所らしい。」
「幻想郷?」
「僕も詳しくは分からないけどね、忘れられた存在の最後の地、らしいよ?」
竜司の疑問に、アビィは答える。
忘れ去られた存在の最後の地、幻想郷。
そんな存在がある事自体、竜司は初耳だった。
全く持って謎だが、とにもかくにも話を進める為にも、竜司はその疑問を一旦置いておく事にした。
「それじゃ最終確認だ。ある意味他人事と言っても良いこの案件、乗り込む勇気はあるかい?」
『おう!』
アビィの問いかけに、一同は頷く。
これから何かと戦う事になるとしても、逃げる選択肢は無い。
心の怪盗団は、いつだって己の信じた正義に従って人々を導くのだから。
そんな様子に満足げなアビィは、早速と言わんばかりに切り出した。
「それじゃあ、さっき言ったカルデアやCHの皆と合流して事を進めるよ。準備は良いかい?」
『あぁ!』
威勢の良い返事に、アビィはこれ以上言葉を重ねる事はしなかった。
ただ一言。
「OK、前に進もう。」
そう返すのだった。
(_蓮達を巻き込みたくは無かったんだけどな。君達は、そういう人だから。)
心の奥底に巣食う本音を噛み殺して。
「廃棄孔第1層:フォーリングポイント」
「深いな……!」
地の底を、まるで石のように落ちてゆく4人。
先の見えない廃棄孔の口に、体が震える。
「……そろそろ地面が見えてきたぞ!」
ペルフェクタリアの声で、現実に引き戻される。
地面は確かに見えるし、ペルやリク、今の彩香ならば着地は大丈夫だろう。
事実として。
「それ!」
「はっ!」
先行して入ったペルフェクタリアとリクは、自身の能力によって着陸に成功した。
外傷や落下の衝撃によるダメージもない。
だけれども。ただ1人だけは違った。
「ちょっと待て、俺どうやって着地を――――!?」
「つかまって、兄さん!」
天宮月夜は「ただの人間」。
焔坂撃破のために来たはいいが、何の異能もなくボウガン1丁だけ来ては心もとなさすぎるのもいいところ。
妹である彩香の手を握り、彼女の持つ神體の力によって何とか着地ダメージを減らす。
「大丈夫?」
「いってぇ……何とかな。そっちは?」
しりもちをつきつつも、何とか立ち上がる。
幸いけがはなさそうだ。
その様子に、妹の彩香は安心した。
「ボクは大丈夫。」
『だが無理はするな。先はどうやら長そうだぞ。』
かくて先行して廃棄孔に突入した4人は、その光景を見る。
暗闇と沈黙が支配する領域。
ただひたすらに暗く、広く、まるで138億年先にある宇宙にいるかのような錯覚すら思わせる。
神聖な湖のそこに封じられた、この世の悪を凝縮し悪霊に変換する空間。
そんなもの、まさに「この世の地獄」というのがふさわしい。
「ここが、廃棄孔……。」
「暗いな……。」
何も見えず、ただ着陸した地面がかすかに光っているのだけが分かる。
地面に宿る魔力が、かすかにここが地面であることを告げている。
しかして、その先に至る道が見えない。
「どこかに、降りていくための場所があるはずだが……。」
「待て。あれは、階段か?」
リクが見たのは、おどろおどろしい地獄には似つかわしくない美しい水晶の階段。
透き通るようなガラスの階段に、ゆっくりと彼らは足をかける。
幸いにも強度は思った以上にあり、飛び跳ねても砕けて落ちる心配はなさそうだ。
一安心しつつも、警戒を強めながらこの階段を下り始めた。
「……行こう。今はこの階段を降りるしかなさそうだ。」
「分かった、近づいてくる悪霊は俺が見張る。」
硝子の階段を一段ずつ降りてゆく。
一歩ずつ、地獄の釜の底へと歩みを進めてゆく。
周囲にはまだ悪霊の気配はなく、ここまでは安心して歩いて行けそうだ。
「……まだ、悪霊の気配はなさそうだ。そっちは?」
「前に悪霊はいない。そして……何か見えてきた。ほら、あの先。」
リクがおもむろに指をさした先には、淡く光を放ちながら透き通る水晶玉のような空間があった。
見たところ、結界のようなもののようだが……。
「あそこから悪霊が出てくる気配はない。だけど……その先の階段は見えないな。」
「どっちみち、あの結界?には入る必要がありそうだな。」
進まなければ、その先はない。
恐れている時間はない。
「ここだな……。」
やがて、光の前に立つ。
外側からは、光の先に何があるかは見えないし感じることもできない。
得体のしれない物体を前に、一抹の恐怖が脳裏をよぎり始める。
「どうする?入るか?」
「入るしかないだろ。行くぞ。」
「ああ、迷っている暇はない。」
「そうだね。先に行かなきゃ……!」
彼らは覚悟を決め、白い光の中に入る。
そして……彼らは迷い込んだ。
「ここって……港区!?」
「にしては、かなりの荒廃ぶりだな。」
天宮兄妹にはあまりにも見覚えのある空間が広がっていた。
曇天の空の下、ありとあらゆる建物が破壊し尽くされた東京港区。
およそ人間、否、生命体と呼べる存在がない様子はまるでハリウッド映画の世界に迷い込んでしまったかのようだ。
焦げ付く空気と炎、火の粉と……悪霊の黒い影のみがこの「偽物の港区」の住民だ。
「おっと、先客がいるようだ!行くぞ!」
臨戦態勢を整える。
かくてこの「偽・港区」。否、廃棄孔の戦いの幕が切って落とされた。
「道化師たちは嘲笑に包まれて」
「……」
アビダインの艦首で、腕組みをして仁王立ちしている悪魔将軍。
凄まじい風圧が発生しているはずだが、
微動だにせず、ただ眼前に広がる特異点の光景を見つめている。
「すっげ、全然動かねえな……吹き飛ばされててもおかしくねぇのに」
「鍛え方の違いでしょ、きっと」
竜司と真がひそひそと話す中、同行するSPMのモードレッドが声を上げる。
「何だアレ、カッコいいじゃねえか……よし、オレもやる」
悪魔将軍に負けじと、艦の外に出ようとするモードレッド。
それを止めるのは、マスターである獅子劫だった。
「張り合うな張り合うな」
首根っこを摑まれ、不服そうな顔をするモードレッドに溜息を吐く獅子劫。
「ンだよ、別に良いだろマスター」
「駄目だ」
「ンだよ……ケチ臭えの」
拗ねたモードレッドを他所に、アビィはふと首を傾げる。
「はて、モードレッド……確かCROSS HEROESの拠点で似たような名前の
サーヴァントを見かけた気が……気のせい?」
「あァ? おめーらの事なんざ知らねえよ」
「恐らくそいつは気の所為じゃない。まあ、詳しく話すとややこしくなるんだが……
お宅らの言ってるモードレッドと
ここにいるモードレッドは別人だ。それだけ分かってくれてりゃ良い」
「そうか……」
「ん? 良い匂いだナ……」
そうこうしていると、モルガナの鼻に、香ばしい匂いが漂ってくる。
それに釣られたモルガナがふらふらと出ていき、それを追う様に竜司達も動き出す。
「ガツガツガツガツガツ……」
キン肉マンが大量の牛丼を頬張っていた。
「戦いの後は、やっぱりこれじゃわい! ガツガツガツガツ……」
「美味そー! オレも食う!」
「「「♪牛丼ひとす~じ、300年~ 速いの、美味いの、安いの~♪」」」
牛丼のどんぶりを掲げて、三人で踊り歌う竜司、モルガナ、キン肉マン。
「おお……! 俺も是非に!」
質素な生活を送ってきた祐介も、涎を垂らしながらそれに混ざる。
「まったく、呑気なもんだぜ……」
カナディアンマンも、やれやれと肩を竦める。
「分かってんのか、キン肉マン? 今の状況をよ……」
「言われんでも分かっとるわい。じゃがのう、くよくよ悩んでても始まらんじゃろうて。
それに、こういう時は美味い飯を食っておくのが良いのじゃ」
「……」
それは、アビダイン隊が丸喜パレスを発つ直前の事……
『ぐわあああああああーッ……』
『タ、ターボメン……!!』
ラーメンマンに敗れ去ったターボメンに、グリムリパーが無慈悲な死刑宣告を下した。
『お、おい、てめえ! 停戦だっつってんだろうが!!
さっきのカジキ野郎もそうだったが……そいつはもうラーメンマンにやられて
戦えなかった、そもそもてめえの仲間だろうがよ!!』
スカルがグリムリパーに対して、そう食って掛かるが。
『ニャガニャガ……悪魔将軍の提唱した『停戦』と我ら完璧超人の『鉄の掟』……
これらはイコールではありません。言わば、身内の問題なのです。
完技もろとも打ち破れた挙げ句、もはや自害する事すらままならぬ無様極まりない
ターボメンに代わり、私が介錯を引き受けたまでの事。
寧ろ、あなたが今振り上げている拳……それこそが、『停戦』宣言に抵触する行為では
無いのですか?』
『ぐううっ……!!』
グリムリパーの言葉に、スカルは二の句を告げなかった。
ここでスカルがグリムリパーに殴りかかれば、たちまち停戦は白紙となり、
すぐさま戦いが再開される。そうなれば絶対的に不利なのはCROSS HEROESだ。
スカル――坂本竜司――は思い出す。竜司を疎ましく思っていた陸上部の顧問・鴨志田の
挑発に乗って暴力事件を起こし、全てを失くしてしまった時の事を……
『よせ、スカル。奴の行いは到底許される物では無いが、
俺たちの方もかなりの痛手を負った。ここは一旦退こう』
『ニャガニャガ……そちらの御仁は聡い様ですね。ジャック・チーと対戦し、
生き残れた事も含めて』
『命拾いしたなァ、小僧……ジャジャー……』
「――クソがァッ!!」
スカルを諫めるフォックスの物言いに、グリムリパーは感心した様に笑う。
実際にジャック・チーと立ち合ったフォックスは、その恐ろしさを嫌と言う程
思い知っている。
自分があのまま停戦宣言が投げ込まれずに相手をしていたとして、
果たして勝てただろうか……と。アビィ、ディエンド、ラーメンマン……
決して軽くないダメージを受けた者も、相当数いる。
『ふっはっはっはっ……また会おう……仮面ライダーの諸君……』
『くっ……!!』
ディエンド、そしてかつてはあのオーマジオウをも退けた
ショッカー大首領が変身せし究極のショッカーライダー……ジオウやゲイツもまた、
この強敵と戦い続けていれば無事では済まなかったであろう。
『……行くぞ、みんな』
ジョーカーがそう号令を掛け、一同は丸喜パレスから撤退する。
『またね、雨宮くん』
『……』
背中に投げかけられた、丸喜の言葉。
秀仁学園にて丸喜からカウンセリングを受けた後、教室を出た時の事を思い出す。
お菓子とジュース、そして談笑。他愛のない、さりとて居心地の良い時間。
雨宮蓮は、そんな時間を知ってしまった。
そしてその時間は、もう戻ってこないという事も……
『――違うな。間違っているぞ、丸喜拓人』
思い出を振り払うように、仮面の男は黒いコートを翻らせ、丸喜に対して口を開く。
『今の俺は……『ジョーカー』だ』
『……そうだったね』
その言葉が、最後だった。
完璧超人たちやショッカー大首領の嘲りにも似た笑い声を背中に、
CROSS HEROESは丸喜パレスを後にする。
『この屈辱は……必ず返す』
反撃の狼煙を、心の奥底に燻らせながら……
「お、CROSS HEROESの拠点が見えてきたぞ!」
かくて、英雄たちは新たな戦いの前の一時の休息を得る。
いずれ来る戦いの時に備え、英気を養う為に……
「近づくは世界改変へのカウントダウン」
一方その頃、ジェナ・エンジェルと取引を終えたレナードはというと、とある建物の一室でかなめと話をしていた。
「……で、どうだったの?」
「成立したよ。これでリグレットの……世界を作り出せるほどの力を持ったバーチャドールの力を借りることができる。計画の成功率は大きく上昇するだろう」
レナードがジェナ・エンジェルと取引をした理由、それは彼女達のところにいるバーチャドール、リグレットの力を計画に利用する為である。
知ってのとおりリグレットはリドゥと呼ばれる理想の仮想世界を生み出すほどの力を持っている。
レナードは彼女とかなめの力を使ってリ・ユニオン・スクエアを作り変えようとしているのだ。
「そう。……これからどうするの?」
「現在、例の装置を少し前に制圧したあそこへ移設する作業を行っている。それが終わったらいよいよ計画を実行する」
「ようやく実行するのね……これでやっとこの間違った世界が変わる……」
「あぁそうだ。メサイア教団のような生きる価値のないゴミクズが消え去り、本来生きるべきはずの人達が生き返る……そんな素晴らしい世界にこの世界を作り変えることができる…!
……とはいえ、やつらがまだいる以上、100%成功させれるかと言われると怪しいけどね」
「宗介達のことね」
「あぁ……ミスリル、そしてCROSS HEROES……恐らくやつらはこの計画を阻止しにやって来るだろう……」
「うん……特に宗介は絶対に来る、あの時の約束を果たすために……」
「だろうね。
……さて、となるとどうするべきか……戦力の多くが他の世界に行ってる今のうちに潰すのが一番だろうが……それをすると計画がバレる可能性があるな……」
「けど、別の世界に行ったメンバーが合流しちゃったら、今のアマルガムの戦力じゃ迎え撃つのは難しいんじゃないの?」
「……そうだな、少し前ならまだしも今のアマルガムは元々の半分ぐらいの戦力しかいないからな……」
そう、今のアマルガムはレナード達一部の者が乗ってるような状態……しかも目的の内容が内容なため、レナード達の考えには同意していない戦争ビジネスによって利益を得ようとしてる一部幹部たちや戦いを求めてる傭兵達に取って好ましくないのである。
その為ゲイツを始め多くのものが離反し、現在はレナード達の考えに同意してる者達しか残ってないのだ。
「一応クォーツァーの兵器やトジテンドの兵器を量産できるから、減った分はそれで補うことができるとはいえ……やつらは多くの戦いを乗り越えてきた歴戦の猛者ばかりだ、現にかつての同盟相手であるクォーツァーを倒している。そんな奴らを相手にそれだけで戦うのは無謀の極みだ……となるとやはり今のうちに奴らを潰すしかないか……」
「そうね。
……ねぇ、少し頼みがあるんだけどいい?」
「なんだ?」
「……次CROSS HEROESに奇襲を仕掛ける時は、私も連れてって」
「なに?」
「……私が直接やめてって言わないと……あいつは、宗介は絶対に邪魔しに来るから……」
「……わかった。では部屋で待機しててくれ。準備が整ったら呼びに行く」
「うん……」
次の奇襲の時に自分も連れてって欲しい……かなめはそう伝えると、自分の部屋に戻って行った。
そしてそんなかなめとすれ違う形でカリーニンが部屋に入ってきた。
「ミスタ・Ag……1つ聞きたいことがある」
「なんだい?」
「彼女の…千鳥かなめのことだ。見ない間に私が知ってる彼女とはまるで別人のように変わっているが……」
「別人のようにか……当然だ、今の彼女の精神は彼女本人のものではないからな」
「なに!?どういうことだ…?」
「君がまだスパイとしてミスリルに居た頃……更に正確に言えばCROSS HEROESがバードス島でDr.ヘルと戦っていた頃に、俺たちはヤムスク11を制圧しに行ったんだが……その時にどういうわけかTAROSの中に眠ってたある人物の精神が彼女の身体を乗っ取ったようだ……」
「TAROSの中に眠ってた…?……まさか!?」
「そう、ウィスパードが誕生さるきっかけとなった18年前の実験の被験者、『ソフィア』だ。死体自体は既に撤去されてたがどういうわけか精神だけは残ってたようだ……」
「残留思念というわけか……」
「あぁ、恐らくはウィスパードの中でも特殊な存在である千鳥かなめがすぐ近くに来たことによって、その残留思念が引き寄せられて彼女の身体に宿ってしまったのだろう。
……最も、乗っ取った際に記憶が混ざったのか今は自分のことを千鳥かなめ本人だと思い込んでるようだけどね」
「だがいいのか?このような想定外の事態が起こって……」
「なに、計画には支障はないさ。むしろどういうわけか知らないが、彼女の身体を乗っ取ってるソフィアの残留思念は我々の計画に協力的だ」
「……そうか」
「さて、奴らのところへ奇襲する準備をするとしよう」
(と言っても特異点はこっちの世界とは時間の進む速度が違う以上、準備が終わる頃には奴らが戻ってきててもおかしくはないが……)
「廃棄孔第2層:偽・港区 1_蘇る強敵の影」
廃棄孔 偽・港区
曇天と火の粉、瓦解零落した港区のジオラマ。
焦げ付いた空気の匂いが、4人の勇者に不穏な空気を感じさせてくる。
そして、迫りくる悪霊どもに囲まれた。
「これは……マズいな。」
「よし、切り抜ける!走れ!」
月夜の号令と共に、4人は走り出す。
当然のごとく、この結界内部の住人たる悪霊はそれを止めようと攻撃を開始した。
「ここは狭くて、地理的には不利が過ぎる。広いところに出れば、こちらも優位に戦える!広場を探すぞ!」
「分かった!」
4人は、なるべく有利になる地形を探している。
当然だが、悪霊はそれを止めるためにその刃を4人に向けた。
物量を武器に悪霊の攻撃が迫る。
「連続!サンダガ!」
対するリクは、その手に持つキーブレードから連続で電撃魔法を放つ。
その一撃一撃が悪霊の赤核を的確に貫通し、破壊してゆく。
そこに、悪霊の第3世代個体がその右腕を伸ばす。
パイルバンカー状の腕、そこに搭載された槍の部位がリクの顔面に迫る。
「援護を!」
「喰らえ、魔浄砕万ッ!」
その瞬間、ペルフェクタリアの前に立った悪霊は一瞬で霧散した。
その実は魔力を纏わせたマフラーと両の拳による、目にもとまらぬ連続攻撃。
悪霊から滴る油が肌に触れる前に目にもとまらぬ赤核に連続攻撃を与え、砕いたのだ。
「流石に数が多いな……!」
神霊の加護があれど、まだまだ能力的には拙い彩香。
最初こそ有利を取れていたが、即座に背後に回り込まれる。
回り込んだ悪霊が、第3の腕による刺突を実行しようとする。
「しゃがめ!後ろだ!」
「うぉ!?」
その瞬間、彩香の頭……の後ろにいる悪霊の赤核を月夜の矢が貫通した。
魔理沙によって改良されたこのボウガンは、第2世代の悪霊の赤核ならばたやすく貫ける。
少しずつだが、月夜の顔にも余裕が見え始める。
「油断するなよ。そして前にデカいのが1体いる!」
「ありがと。―――これはボク自身の技!喰らえ、『彗星剣術・明星斬』!」
彩香の裡の神霊、アマツミカボシから与えられる魔力を加速に使いただ一閃。
油が滴らない位置を、時速270キロはあるんじゃないかという速度で切り込み両断する。
「よし、効いてる!」
彼女は、実感していた。
今の今まで力があるように見えて、非力だった自分。
それが真実として「力を付けつつある自分」になり始めている。
その事実が、自分に自信を与えてくれる。
かくて悪霊の群れを斬り、撃ち、薙ぎ、倒してゆく。
無双を繰り広げ得意げな4人だが、彩香に宿る神霊が何かを察知したようで、冷静に警告する。
『油断するな、今強力な悪霊がこっちに来ている!』
「! みんな、何かくるみたい!」
侵入者を歓迎、ないしは迎撃するかのように急接近する謎の存在。
さらに、そこに続くように―――。
『来たな貴様ら。あの地で死んでいれば地獄を見ずに済んだものを。』
「ん!?その声は!?」
まるで子供のように無邪気に語りかける声。
廃棄孔の女王、焔坂百姫の声が偽物の港区にアナウンスのように響いた。
「うるせぇ!お前を倒して『怪物』とやらもブッ倒す!それだけだ!」
『くははは、果たしてできるかな?貴様らは悪霊の真髄を分かっておらぬのに?』
「何?」
『嫌でもわからせてやろうぞ。相手せよッ!かつての同胞の残滓よッッ!』
その一言を皮切りに、迫る存在がついに姿を現した。
空中を覆う、黒い塊が超高速で落ちて来る。
「アレは……!?」
ドス黒い油に覆われた、巨大な機械仕掛けの蜘蛛擬き。
何処かいびつで美しかった「それ」は、かつての輝きを失い歪で禍々しく、醜い機械の怪物と化した。
かつて港区で、月美たちが戦った■■■・■の怨念の残滓。
『相手せよ、『黄金比の機神』改め、『醜悪姫の蠕魔』!』
第4世代悪霊「複製體:醜悪姫の蠕魔」。
その内部にいるのは■■■・■ではなく、その姿を模倣したいびつな悪霊だ。
「いくら強固な外殻に包んでいても、弱点は同じ赤核だ!来るぞ!!」
「インターミッション:拠点会議」
「あ、アビダインです!」
拠点からも見える、超時空戦艦・アビダイン。
いろは達が大きく手を振れば、それに気が付いたのかアビダインは着陸態勢に入ると同時に
アプローチライトを出してゆっくりと降りて来る。
「アビダイン、ボロボロね……」
「凄い戦いが行われたんでしょう……」
丸喜パレスへの強行突入、シャドウアビィの有する
シャドウカタクラフトとの壮絶な戦闘。どれ程激しい戦いが行われたか、想像も出来ない。
「済まないが、怪我人がいる。手当てをして欲しい」
自身も決して浅くはない怪我を負いながらも、
アビィは拠点の負傷者の手当てを頼み込む。
「任せてください!」
いろはが力強く返事をしながら、直ぐに負傷者達の下へと向かう。
アビィも傷だらけの身体を引き摺りながら、手近な椅子に座り込む。
「ありがとう……少し休ませてもらう……」
そう言って静かに目を閉じるアビィ。
その身体は力なく椅子にもたれ掛かり、小さく寝息を立て始めた。
「新しい患者と聞いて!」
「治療! 治療!! 治療!!!」
アスクレピオスとナイチンゲールがアビダインのハッチに勢いよく飛び込み、
そのままの勢いで次々と怪我人たちを拠点の医務室へと運んでいく。
「うわーっ!? な、何だアンタら!?」
「問答無用!!」
「さあ、大人しく治療を受けなさい!!」
「あ、あの……オラは……?」
散々悟空に安静を促し、拠点中を追い回していた2人であったが、
どうやらすっかりと忘れている様である。
「僕らは新しい患者の治療に入る! お前は退院だ! お大事に!!」
「そ、そっか……はぁ、やっと退院か……」
「おう! 悟空ではないか!」
タラップから降りてきたのは、キン肉マン。
キン肉星で別れたきり、実に久しぶりの再会である。
「キン肉マン! ははっ、テリーマン達と会えたんだなぁ!」
「まぁな。随分と長い道のりだった気がするよ」
すれ違いを重ねに重ね、ようやく手に入れた仲間との再会。
短い時間ながらも、積もる話は山ほどある。
クォーツァーの壊滅。特異点に先行したキン肉マンや心の怪盗団との合流。
協力組織・カルデアとCROSS HEROES主導による拠点建設。
当初の目的は概ね満足のいく形で達成された。
「……けど、その様子だと、まだ何か残っているみてえだな?」
「そう。問題はこれからだ」
ぬう、とキン肉マンの背後には悪魔将軍、
そしてキン肉マンとの再戦のために悪魔超人陣営へとカムバックした
バッファローマンの巨体が聳える。
「ど、どっひゃあーっ! キン肉マン! おめぇ何て奴を連れて来てんだぁ!」
「これはまた大物だな……」
「ふん、俺たちを潰しに地獄から舞い戻ってきたってところか?」
ピッコロ、ベジータも驚きを隠せない。
「急くでない。ドラゴンワールドの者どもよ。
此度は貴様らと戦うためにここに来たのではないのだからな」
「ほう……?」
「そうなんだ。CROSS HEROESやカルデアのブレーン達も集め、
その事について話し合う場を設けたいと思う」
テリーマンの提案で、拠点の会議室へと集まる一行。丸喜パレスでの激闘によって
噴出した、新たなる問題の山々が議題に挙がった。
「……大聖杯……幻想郷……暗黒魔界、か」
「こりゃまた、頭の痛くなりそうな話だな……」
「クォーツァーを潰したのを皮切りに、特異点の勢力図も大きく塗り替わった。
幻想郷とやらに戦力を送る事も視野に入れないとな」
「ロンドンに向かっていたメンバー、そしてDDのスネーク氏たちも幻想郷に
先駆けて向かったそうです」
「俺たちが特異点にかかりっきりになっている間に、色々と話が動いてるみたいだな……」
特異点、リ・ユニオン・スクエア、幻想郷……
戦士たちは次なる戦場への選択を迫られる事となる……
「ふっ、いつぞやもそうやってお宝目当てに飛び出して
ボロボロになって戻ってきてなかったか、お前? 芸が板についたな」
「黙りたまえ……」
医務室に直行した仮面ライダーディエンド/海東大樹。
士のからかい混じりの言葉に対し、ベッドの上でバツの悪そうにそっぽを向く。
「しかし……ショッカー大首領とはな……そんなのが絡んでいやがったとは」
仮面ライダーにとって、最も因縁深き相手。
それが丸喜拓人のバックに潜んでいたなどとは流石の士も内心驚いていた。
「クォーツァーをぶっ潰したと思えば、それに輪をかけてタチの悪いのが
出てきたか……」
「それでも愛した苦渋と辛酸」
戦いが終わり、負傷者の移送、治療で大慌てのリビルド・ベース。
医者二人組の怒号があちこちで飛び交う中、相対的に静かな物音が立つ場所にて。
「ハァ…ハァ…」
静寂の中、荒い息を立てながら目を瞑るのは、椅子にもたれ掛かったアビィ。
脱力し切った全身に彼の意志らしい動きは無く、時折痛みに呻くばかり。
そう、彼は激痛の中で眠っているのだ。当然、寝息も苦しい物になる。
皆の前では気丈に振舞っていたが、実態は心身共にボロボロだった。
そんな状態で一人部屋に籠っている中、静かに扉が開かれる。
「_失礼します。あっ、やっぱり…」
恐る恐るという感じで出てきたのは、環いろはだ。
その顔には、困った子を見る様な目つきが宿っている。
案の定と、言いたげ表情だ。
帰ってきたアビィと出会ってから、いろはにはこうなる事が見えていたようだ。
「自分で治せるからって、お医者さんに掛からないで…」
医療キットを片手に、アビィの元へ歩み寄るいろは。
足音を立てず、起こさない様に。
されど小声で、苦心を漏らす。
「こんなにもなって、それでも迷惑かけたくないって…何だか昔の私みたい。」
いろはには、今のアビィの振る舞いが他人事には思えなかった。
『ご挨拶だなぁ、レディ。勇敢なる騎士(ナイト)をつかまえて。』
最初に会った時は気取った台詞を吐いて、唯一無二を体現した様な暴れっぷりを見せたアビィ。
『アビィ?何か壁にめり込もうとしてたな。』
『ハヴォック神が宿ったみたいに振動してた。』
『壁…え?ハヴォック神…?』
機械には疎いいろはには何の事がさっぱり分からなかったが、とにかく第一印象は我が道を行く覇道タイプだった。
だが、特異点中枢からボロボロの様相で帰ってきた彼は、誰に言われるでも無くこう言った。
『済まないが、怪我人がいる。手当てをして欲しい。』
自分が一番の怪我を負っているだろうに、あくまでも他を優先し自身の分は自力で完結させる。
自己献身の塊だ。それが、昔のいろはと重なって見えた。
嫌われたくない一心で作り笑いを浮かべ、友達でも無い他人の掃除を代わったりしていた自分。
それを思うと、いろはの顔がくしゃりと歪んだ。
「こんなになってまで、一番苦しい筈なのに。」
傍まで歩み寄り、医療キットを置いて体を見る。
六本木の炎に照らされた時は、自己主張する様に淡く輝いていた自前と思わしき衣服。
それが今では破け千切れ、血に濡れた黒のタイツは見る影も無く、無惨と言う他無い。
そこから露出する肌の皮膚は変色し、場所によっては言葉に出来ない惨状だ。
だが、それ以上に一番異常なのは、それでも出血それ自体は止まっている事だった。
「これで治しているんだ。」
全身の傷口にある、傷を覆う様に輪を作る蒼い火。
煙草の火の様に、火柱を立てず淵だけが燃えて光っている。
新宿で見せた蒼い炎だ。
まるで紙を燃やす光景を逆再生したかの様に、蒼炎が傷口をゆっくりと覆っていく。
放って置けば、いずれ傷は回復するだろう。
だが。
「お節介かもしれないけど。」
やはりと言うべきか、いろはに放置するという選択は無かった。
医療キットを開き、中から道具を広げ、手早く服を脱がせていく。
タイツ越しで見えなかった筋肉質の身体は、10代前半ぐらいだろうか。
そんな体で新宿の時、あんな大立ち回りを見せたのか。
それがボロボロになっているのを見て、やはり眉を顰めざるを得ない。
手早く済ませようと、傷口の消毒をする。
「うぐっ…」
「ごめんなさい、我慢してね…!」
無意識でもアルコールが染みるのが痛いのか、苦悶の声を上げるアビィ。
自分の判断でやっている以上、やはり罪悪感の様な物を覚えてしまういろは。
それでも、放置は出来なかった。
そうして一通り殺菌を済ませた後、治癒魔法を唱える。
先程と比べて格段に速く回復する身体。
そうして一通り処置を終えた身体に、ガーゼや包帯を巻いていく。
「…すぅ、すぅ。」
「終わった…」
気付けば、アビィの寝息は穏やかな物になっていた。
薄く微笑む表情からは、辛さの色が薄れている。
その様子を見て、ホッと胸を撫で下ろすいろは。
元々責任感の強い少女だ。何か自分で出来る事があって良かったと思っている。
が、直後に見せるのはプクーっと頬を膨らませた表情。
不満があるらしい。
それはズバリ、アビィ自身への物だった。
(困った人を助けるのは良いけど…頼っても欲しいな!)
自分の事を顧みない彼の姿は、いろはにとって心配の対象でしかなかった。
困った人を助けられるのは良い事だが、その為に自身を蔑ろにしては、助けられる人はどうだろうか。
(本当の意味で、その人を助ける事が出来たとは言えないと思うの。)
心の声を漏らしながら、アビィの寝顔を見るいろは。
まるで子供の様な寝顔だ。年相応と言うには些か幼いが、無理も無いだろう。
目鼻立ちは整っており、もう少し年を重ねれば女性を振り向かせる容姿になるだろうと思わせた。
(って、何考えているの!?)
ちょっと良からぬ思考を自覚して、妄執を振り払う様に頭をブンブンと横に振るう。
そんないろはを余所に、アビィは静かに寝息を立てている。
ここでおさらいだが、包帯を巻く為にアビィは今半裸だ。
そしてその下手人は、異性であるいろは一人。
「アビィ、ここに居たか_」
そんな時だった、雨宮蓮が入ってきたのは。
いろはと同じ様に、いや寧ろ洗練された動きで静かにドアを開閉し侵入したのは。
いつもパレスで動く時の癖である。
そうして音も無く扉を閉じた所で、いろはの存在に気が付いた。
そして、アビィが半裸なのも。
「_スゥー。」
蓮は悟った。今自分はとんでもない現場に出くわしてしまったと。
速攻で踵を返すと同時にドアノブへ手を掛ける。
数多の修羅場を潜り抜けてきた故の最適解だ。
条件反射レベルだったかも知れない。
『待ってください!!!誤解です!誤解なんです!!!』
だが一歩遅かった。
小声で叫ぶいろはに速効で捕まってしまった。
そこいらのシャドウよりずっと強力な寄り身を前に、ドアの開閉は間に合わなかった。
『五回!?五回も何をしたんだ!!?』
『違いますーーー!!?』
そうしてアビィを起こさない様に小声で絶叫するという離れ業を熟す二人。。
だが、ふと椅子超しに見えるアビィの姿に気付いた蓮は、ある結論に辿り着いた。
『…アビィの治療をしていてくれたのか?』
『ハァ…ハァ…そうです…!』
彼は今も眠るアビィの身体を見て、次にいろはの持ち物に目を向けた。
血濡れのガーゼ。アビィの治療の為か。
状況を把握した蓮は、心底安堵したという表情で息を吐いた。
それが何なのか察せない程察しの悪い少女では無かった様で、一安心と言った様子だった。
額に汗を浮かべるいろはを前に、蓮は片膝を付いて目線を合わせ、こう語る。
『アビィは自分から言わないからな。ありがとう、治療してくれて。』
予想通りの言葉に、いろははやっぱり、と少し目を俯かせる。
言葉の裏に隠された真意を察してしまった。アビィという存在の儚さを。
今は只、静かに休んで欲しいと願う二人だった。
「廃棄孔第2層:偽・港区 2_醜悪姫の蠕魔戦 その1」
そのころ、廃棄孔はというと。
「GUUUUUYYYYYIIEEEEEEE―――――!!」
醜くも美しき蠕魔が、声を上げていた。
その声はまるで生まれたばかりの怪物を想像させるような、或いは今にも壊れそうな機械の歯車が軋むような声だった。
そうして、蠕魔はその体躯から巨大な鎌を召喚し切り裂こうとする。
「どれだけ巨大になっても、弱点は変わらないはずだ!赤核を狙え!
4人はそれぞれ、赤核を探しながら攻撃を仕掛ける。
相手がいくら巨大で異形の姿を取っていようとも、所詮は悪霊の一種。弱点も知れている。
しかし、肉厚な油と骨格に包まれてはその弱点たる赤核も見えない。
「駄目だ、あれだけ油に塗れればその赤核が見えない!」
蠕魔はそんな彼らをあざ笑うかのように、4本の脚から呪いの油を放出する。
己の身体を器用に高速回転させながら油を放出する様は、まるでドス黒い竜巻だ。
当然触れれば、並の人間では即死。
ここは一旦、逃げるしかない。
「一旦引くぞ!」
4人は安全な場所まで避難する。
偽物の瓦礫の山に隠れ、黒い油の雨を防ぐ。
「くそ、ありゃ一体なんだ……?」
「おそらくは、月美が戦ったという『黄金比の機神』だろうな。」
「なんだそれ?」
「私も詳しいことは知らないが、おそらくはアレの元々の姿はメサイア教団の元・大司教、キング・Qの切り札であるロボットだ。」
ペルフェクタリアは、自分の知る情報を話し始めた。
港区で月美達が戦ったという巨大な美しき機神。
「当然強力ってことか。」
「……待って、じゃあ今後悪霊が強化され続ければ、ああいったものが無数に出てくるってこと?」
「そうなるな。」
悪霊の学習能力が強化され続ければ、いずれは『黄金比の機神』だけでなく様々な機械にも変身できるようになる。
いずれはCROSS HEROESの持つ機械も悪霊は変身できるようになるだろう。
そうなってしまえば、他のどの大国よりも危険な兵隊が出来てしまう。CROSS HEROESの勝ち目はゼロに等しくなる。
「……リク、外は?」
「ああ、雨は止んだけど、あの悪霊どこに行ったんだ?」
雨はやみ、とりあえずは一安心。
しかして本体はいつの間にかいない。
「SSSSSYYYYYAAAAAAAA!!!!!」
「こっちに来たか!」
獲物を見つけ、満悦の咆哮を上げる蠕魔。
4人の後方には崩落したビルの壁。
前方には蠕魔が牙をむいている。絶体絶命の状況だ。
その巨大な脚を振り上げ、一思いに叩き潰そうとする。
「仕掛けていたのはこっちの話だ!」
ならば、と前に立つペルフェクタリア。
地面を踏みしめ、一本拳に変形した右の拳に極限まで力と魔力を込める。
そして―――攻撃の隙に一瞬見えた蠕魔の頭部、まるで怪物の赤い眼のような赤核に一撃を放った。
「夜蕃陣・針羅貫ッ!」
その瞬間、ペルフェクタリアの拳はミサイルの威力を持ったライフル弾と化した。
大地に宿る魔力を吸い上げ力を増幅する術――――「夜蕃陣」。
そして、己の拳をただ1点を貫通する拳術――――「針羅貫」。
その2つを組み合わせて初めて放たれる合体秘技。
「WRRRRRYYYYAAAAAAAA――――――!?」
幻想郷という、魔力と神秘の肥えた土地の地底。
その威力もすさまじく、鉄が軋むような声を上げる蠕魔。
赤核にひびが入るほどの火力。
悪霊に痛みという概念があるかどうかは分からないが、人間の悪性から生まれた存在である以上「恐怖」という悪性情報もあるはず。
今、この悪霊は「消滅の恐怖」を味わっている。故に蠕魔は次の攻撃をやめた。
跳躍し、間合いを取り始める。
「はぁ……はぁ……とりあえずは、楔は打ち込んだが……!」
当然疲弊もする。
魔力を吸い上げた反動で疲弊、膝をついてしまった。
それは眼前の蠕魔も同じこと。
心臓部に罅が生えたことで、恐怖が体を襲う。
「今のうちに、奴に攻撃を頼む!」
「分かった!」
彩香と月夜、リクは前に出て蠕魔と対峙する。
迫る攻撃を回避し防御しながら、じりじりと蠕魔に迫っていく。
蠕魔はまだまだ余裕そうだが、その動きもどこか防御的になっている。着実に追い詰めてはいるのだろう。
その証拠に、さっきまで見えていた赤核を自身から滴る油で覆い隠し、その攻撃も遠距離からの狙撃が多くなっていく。
しかし、それではいつまでも終わらない。
「あのままじゃ時間経過で赤核が治ってしまうか。どうする?」
「こっちは触れたら大ダメージ、吹き飛ばすことが出来れば何とか……?」
彩香とリクは、それぞれ刀とキーブレード。近距離主体の武器を使う。
魔法による攻撃も使えなくはないが、射程距離と威力の問題で蠕魔には決定打を与えられない。
「じゃあ、俺の出番だな。油だけフッ飛ばせばいいんだろ?それくらいなら俺もできる。」
月夜は、持っていた矢の中から白い塊のついたものを選択しボウガンに装填した。
その眼には、打倒蠕魔への考えと決意が宿っていた。
「一粒だって零すものか」
戦火が去り、戦いの爪痕だけが残った丸喜パレス。
その奥深くに設立された、体育館を二回りほど拡大した程の空間。
削り取られた岩肌に鉄骨を張り巡らせ、確保された薄暗い地下ドッグ。
そこを一望できる天井から突き出た展望台にて、丸喜とシャドウアビィは談話していた。
「アレが君の奥の手か、凄いとしか言いようが無いね。」
「へっへ~ん、そうでしょ?僕天才でしょ?」
彼等が見下ろした先、ドッグの中央に鎮座する黒鉄の砦。
シャドウアビィの設計・製作した40m級の超時空戦艦、シャドウ・エアクラフト。
またの名を、機動要塞シャドウ・カタクラフト。
先の戦いでアビダイオーを圧倒した黒鉄の機兵が、今は船の形をしている。
それを自慢する様に、えっへんと胸を張るシャドウアビィ。
語り口調もまた、喜色の色を帯びていた。
「向こうも同じのを作ってるって知った時は驚いちゃったけどさ、結局は圧勝!」
シャドウアビィの手元に、映像が浮かび上がる。
それは丸喜パレス上空での、アビダイオーとカタクラフトとの激突模様を映した映像。
いや、激突と言うには些か一方的すぎる、蹂躙と言うべきか。
それを語るシャドウアビィの顔には、一切の邪気は無い。
そんな顔でカタクラフトの暴威を自慢げに語る様は、無垢な暴君を思わせた。
「土壇場の出撃だったけど、バッチリ勝てたからね。いやぁやっぱり僕の設計は完璧だよ!」
「アビィ。」
「うん、何だい?カタクラフトについて知りたいの?良いよ幾らでも_」
「そんな物を作って、何をしたいんだい?」
その無垢な笑顔が、初めて強張る。
一瞬の沈黙。
そうして心の底から出てきたのは、丸喜の言葉の意味が理解出来ない、そんな顔だった。
「…え?何をしたいって、そんな、見ての通りシャドウカタクラフトを…」
「あれだけの力を、何の為に作ったのかを聞いてるんだ。」
丸喜の語気が、少しづつ強くなっていく。
彼にとって予想外の言葉が続き、シャドウアビィは怒りも焦りも困惑もせず、ただポカンとしていた。
丸喜の顔が、少しづつ強張っていく。
シャドウアビィは遂に言葉に詰まる。
そして困惑を通り越し苛立ちを感じ始めた頃になってようやく、彼は口を開いた。
「だから、その…ぼ、僕等の邪魔する奴らを…」
「君は、あの暴力を誰かに振るう気なのかい?」
その問いに対しシャドウアビィは、再度沈黙する。
「だって、僕等の邪魔をするのは向こうだし…」
「僕は君に『彼等を助けてあげて』と言ったはずだよ。」
「うっ…」
流石にバツが悪いのか、シャドウアビィが押し黙る。
丸喜から目を逸らし、肩をすぼめて縮こまってしまった。
その姿はまるで悪戯を咎められた子供の様にも見えて。
「シャドウアビィ、君は…」
再びの沈黙が場を支配する。
丸喜はそんな彼の両肩を優しく摑み、彼の顔に目線を合わせる。
「君の力は人を傷付ける為にあるんじゃない。誰かを助ける為にあるんだ。」
そうして諭す様に語り掛ける姿はまるで教師の様にも見えた。
しかし、それでも。
「ぼ、僕等が望まなくてもあいつらは邪魔するんだよ!?じゃ無いと丸喜達が_」
「それは僕が説得する事だ。」
丸喜の語気が一層強くなる。
思わず口を噤むシャドウアビィ。
そんな少年の肩を摑みながら、丸喜は己の胸の裡を吐露していく。
「君にとっては邪魔なだけの存在かもしれないけど、僕が一番救いたい存在なんだ。それを分かってくれ…!」
それはある種の怒りだったのかも知れない。
いや、これは最早怒りとも違う。
彼が抱いたのは、誰かを救いたいという思い。
ならば目の前の少年にその気持ちを理解させる為に、怒りにも似た何かを覚えるのは当然だろう。
「頼む…!」
だがそれでも彼は優しかった。
幼気な子供を叱り付けるような真似はせず、ただただ真っ直ぐな言葉と眼で語り掛けている。
そんな丸喜を見てシャドウアビィもまた、俯き、一言零した。
「…分かった、むやみやたらに傷付ける真似はしないよ。」
そして丸喜を見上げ、目を合わせる。
その表情にはもう怒りや困惑は見られなかった。
「分かってくれるなら良いんだ。ありがとう、アビィ。」
丸喜も優しい顔に微笑みを返し、シャドウアビィの頭に手を置き撫でた。
シャドウアビィもまたそれを嬉しそうに受け入れている。
「声、こっちまで響いてましたよ。」
そんな二人の様子を遠巻きに見ていた一人の人影が、声を掛けて寄ってきた。
赤髪をポニーテールで纏め、黒い装束を纏ったその者は。
「芳澤さん…悪い、不快にさせちゃったかな?」
「いえ、聞いていたこっちも悪いですし…でも、先輩たちを説得するのは無理だと思いますよ?」
ヴァイオレットは、屈託の無い意見を差し込む。
それを聞いた丸喜は、困ったように後頭部を掻いた。
「そうだね、一筋縄じゃ行かないだろうし、芳澤さんの言う通り無理なのかもしれない。」
肯定しながらも、その上で、でも、と言葉を紡ぐ。
「僕はあくまでも、彼等に納得して貰った上で幸せになって欲しい。」
それは彼にとって既に覚悟し、確信している事であったからだ。
何としても彼等を説得してみせるという強い意思を滲ませながら。
その上で。
「それでも駄目なら、僕は覚悟を決めるよ。強硬手段を、取る。」
それが自分勝手な意地でしかない事も自覚している事を告げた。
そうして沈黙が訪れた後、丸喜はヴァイオレットへと尋ねる。
「芳澤さんはどうだい?蓮君…いや、ジョーカー達と戦えるかい?」
「_それ、は。」
一瞬、思い詰めた様に悲痛な顔を浮かべ俯くヴァイオレット。
だが、唾を飲んで前を向いた時には、既に覚悟を決めた顔付きになっていた。
「_戦えます。そして勝って、私達の理想を受け入れてもらうんです。」
少女の覚悟を、垣間見た。
「_えぇ、えぇ。そうですとも、丸喜サン。貴方の計画はもう、貴方だけの物では無いのですから。」
そんな時だった、死神の声が聞こえてきたのは。
見上げれば、何時の間にやら『完幻』グリムリパーがいた。
「グリムリパー…」
「彼等に私達の計画を分かってもらうのは、あくまで貴方の我儘。理解されずとも実行するべき物と心得ておきなさい。」
やたら迂遠な言い回しで語るグリムリパーに、丸喜が困ったように眉根を寄せた。
優柔不断では困る、そんな意図が汲み取れたからだ。
「分かっている、これは武道の悲願でもあるからね。」
「よろしい。では、暗黒魔界に向かわせる戦力について決めておきましょうか。」
その言葉に満足げに頷いたグリムリパーに対し、次に告げたのは、暗黒魔界の事についてだった。
「完璧・無量大数軍からは『完流』『完力』そして『完肉』の彼等に出向いて貰います。後は聖杯を守らなければならない上に、私はメサイア教団とやらを調べるので忙しいので。」
「僕等は、そうだな…僕自らが出るよ。」
「丸喜が出るなら、僕もついていく!」
「私も同意見です。」
丸喜の発言にシャドウアビィとヴァイオレットが続く。
それを聞き届け、グリムリパーは満足気に微笑む。
最後に、丸喜が一言決意を零す。
「_彼等の気持ちも、取り零すものか。」
「廃棄孔第2層:偽・港区 3_醜悪姫の蠕魔戦 その2」
「あの油さえ弾き飛ばせばいいんだろ?じゃあ任せてくれ。」
月夜に策あり。と言わんばかりの発言。
現在、その蠕魔は廃ビルの屋上で、まるでサソリの尻尾のような部位をスナイパーライフルのように構えている。
曇った空の元、今か今かと狙撃の瞬間を待ち構えている。
『GGGGGAaaaaaaa…………』
軋んだ歯車のような唸り声を上げる。
そんな蠕魔を、月夜は睨んでいた。
その手に、白い塊を付けたボウガンの矢を持って。
「いいか、あの油でまた赤核が覆われる前に斬るんだぞ。」
「分かった。やってみるよ。」
彩香は、自分の刀を構える。
居合切り。
廃ビルの屋上までアマツミカボシの力で跳躍し、爆発で赤核が露出した隙をついて攻撃する寸法だろう。
確かに、超高速の一閃ともいえる居合切りであるならば油が再び赤核を覆う前に切断することも可能であろう。
だが、問題はタイミング。
爆発に巻き込まれず、油が触れないタイミングを狙う必要があるのだ。
更に、空中で相手に射抜かれても駄目だ。
「……。」
緊張が、偽の港区の一角に走る。
相手の狙撃、その0.01秒を狙う。
あと3秒、と脳内に直感がよぎる。
事実、眼前の蠕魔は今にも油を投射しようとしてきそうだ。
軋むような音が、さらに強くなる。
「―――――来る!」
蠕魔の弩弓から、呪いの油の塊が放たれた。
それに対抗するように、月夜もボウガンの矢を放つ。
暗黒の矢と白燐の矢がすれ違う。
お互いに命中せず、やがては通り抜けた。
「今だ彩香!跳べ!」
「うん!!」
矢の発射から1秒。
既に白燐の矢は着弾。爆発し身体を覆う油の一部を吹き飛ばした。
その体の核である赤核が見える。
『ゆくぞ!』
「分かってる!」
鞘から刀を引き抜こうとする。
蠕魔も負け手はいない。
対抗するように、その足で彩香を踏みつぶそうとする。
「やば……!」
「させるか!」
そこに対抗するように、リクがキーブレードから無数の光弾を放つ。
その光弾は蠕魔の脚を吹き飛ばし、その衝撃は更に赤核を露出させ砕いてゆく。
「今だ!」
「―――『彗星剣術・七星砕』!」
一刀。
拙いながらも切断した感覚が、彩香の右手に走る。
しかして蠕魔は、そこにはおらず。
「失敗!?」
下にいる月夜たちの前に出現する。
元気に動く蠕魔を前に、間に合わなかったかと絶望しかける。
しかし。
「いや、斬った。」
斬った。
その一言は真実になる。
「GRRuuuuuuu……aaAA!?」
サソリの尾のような腕を振り下ろす蠕魔の体が、崩れゆく積み木のように崩落してゆく。
赤核は粉々に砕け、遂には消滅した。
その体も、どんどん霧散してゆく。
「た、助かった……!」
「彩香は?」
「ボクはここにいるよ!今行く!」
彩香も無事なようだ。
身体に呪いの油がついている様子もない。
廃ビルの屋上から降りようとした瞬間。光があふれた。
「眩しっ!」
「なんだ!?」
「光!?」
光はやがて4人を包み、そして――――。
◇
「あれ、ここは……?」
光が収まると、そこは先ほどと同じような暗闇と草原が広がっていた。
さっきまであった白い結界は既に消滅し、その奥にはさっきと同じような硝子の螺旋階段がある。
まだ、最奥ではないようだ。
「こういった感じで、どんどんと下に降りていくのか……」
「先は、長そうだな。」
廃棄孔はまだ序の口。
この先には、何が待ち構えているのだろうか……?
◇
廃棄孔最深部 深淵溶鉱炉にて
「ほお?『偽・港区』を突破したか。」
「楽しそうですね。焔坂。」
廃棄孔の主、焔坂とゼクシオンは談笑していた。
特に楽しそうなのは、焔坂。
偽・港区という廃棄孔の要の一つが突破されたというのに、その顔は依然曇っていない。
そればかりか、まるで歴戦の勇者を待ち構える魔王のようにわらっているのは。
「楽しいとも。とても楽しいとも。奴らがここに近づくたびに、童とあの者との絆が深まっていく感覚がする!なればこそ歓迎しよう!次の地獄、兵装舎たる『偽・トラオム』で今度こそ!あの者を屠ってくれようぞ!」
「大器の器に、罅一つ」
_暗闇がある。
果ての見えない黒に塗り潰された、途方も無く、しかし何処か窮屈な闇。
身を置けば、自己の認識すらも曖昧にさせるだろう。
そんな世界で。
「…ここ、は。」
ポツンと佇む、一人の大男。
大人としても大柄な部類のシルエットを持つ、この男は。
「俺ぁ確か、クラッシュマンと…」
そう、横綱超人ことウルフマン。
丸喜パレスにて『完掌』クラッシュマンと当たった筈の男だ。
「そうだ!俺は戦ってた筈だ、それがどうなってやがるんだ…!?」
彼の意識は、気付けば戦いの最中からこの空間に繋がっていた。
何故ここにいるのか、それがどうにも思い出せない。
何処かぎこちない圧迫感を覚えながら、どうしようもなく、下を向いて。
「な、なんだこりゃ…!?」
あんぐりと口を開け、驚嘆するウルフマン。
それもそうだろう。
「か、身体が、俺の身体が…!」
光一つ無い世界で自分の身体だけがはっきりと見える?
それもある。
だが。
「こんな、ボロボロに…!?」
それによって見えた物は、余りに凄惨。
隈なく鍛えられた筋肉は、余す所無くズタズタに捻じれ、抉れているではないか。
隅々まで内出血を起こし、引き裂かれた悲惨な状態。
まさに残虐死体、生きているのが不思議な程だ。
それが、彼に強烈なショックを与えた。
思わず、冷や汗がドッと湧き出る。
「っ!そうだ、思い出したぜ…!」
直後、傷口に染み渡る汗の痛み。
同時に、欠けていた記憶が脳裏の底より呼び起こされる。
激戦の最中、受けた傷の数々。
そして、最後の大技。
「あのアイアングローブって奴に…つぅ!?」
クラッシュマンの奥義「『完掌』アイアングローブ」によって握りつぶされ、全身の肉と言う肉を圧搾された瞬間。
この体中の傷は、たった一撃受けたソレによるものだ。
人一人握りつぶして余りある威力をウルフマンの身体を以て語った、恐るべき残虐性を持つ技。
それを受けて尚、立ち向かおうとして。
「そのあと、停戦になって…それからどうなった!?」
薄ら笑いを浮かべ、立ち去っていく完璧超人達。
記憶は、そこで途絶えている。
そこからどうなった? 自分は敗北したのか?
困惑するウルフマン。生きた心地がしないのも無理は無いだろう。
「そもそもここは…がぁっ!?」
そんな彼を締め付けていた微かな圧迫感が、急にその感触を強めてきた。
ギチギチと、雑巾を絞るかのように。
「な、なんだぁ!?」
唐突な苦しみに声を上げるウルフマン。
しかしそうしている間にも、彼の身体はグイグイと締め上げられていく。
やがて顔以外の身体の全てが締め上げられた頃。
一筋の、淡い光がある者の顔を照らし出した。
『ギガギガァ…愚か愚か、実に矮小な存在よ…!』
「テメェ、クラッシュマン!?」
気付けば、目と鼻の先に件のクラッシュマンが姿を露わにしていた。
そして、圧迫感の正体もまた明らかになる。
「クソッ、何時の間に!?」
自身を覆いこむ、鋼鉄の掌。
アイアングローブが、何時の間にやらウルフマンを締め上げていた。
あの一瞬の衝撃程では無いにせよ、じわりじわり体を圧搾せんとするアイアングローブの圧力は相当の物だった。
苦悶の声が、木霊する。
そんな状態がしばし続くと、クラッシュマンの眼が妖しく光った。
『完璧は全てを淘汰し、必ず勝つ。それが世界の理であり、真理なのだ。』
「ぐぁぁ…クソッ!」
『故に…正義や友情等に染まった貴様に勝ちは無い。』
それと同時に。
「ガッ!?」
凄まじい力で持ち上げられるウルフマンの身体。
手足はむなしく空を掻き、体はグングン上へと昇っていく。
それにつれて圧迫感も増すのだが、それ以上と言えるだろう。
それは、痛みと言う形で現れるのだ。
「ぐ……ぎゃぁぁ!?」
グシャァと、音を立てて頭が潰れる錯覚を覚える。
「やめろぉぉ!」
途端上がる、絶叫。
鼓膜を震わせるその叫びは、自分の物とは思えない程に大きく、悲痛だった。
◇
「はぁあっ!!?」
_絶叫と共に、意識が白く染まる。
否、視界へ白い景色が飛び込んできたのだ。
先程までの闇とは正反対な、清潔感溢れる、しかし何処か人臭い白で構成された部屋。
すなわち、病室の光景がそこにはあった。
ウルフマンは、病室のベッドで横になっていた。
「はぁ、はぁ…夢、か?」
肩で息をし、訳も分からずに辺りを見渡すウルフマン。
非常にリアルな悪夢を見た所為か、汗をびっしりとかいていた。
上体を起こしながら、そっと体を見る。
クラッシュマンによってミンチにされた身体は、隈無く包帯で巻かれている。
まるでミイラだ、そう零して、同時にそれだけの傷だった事を思い返す。
だが、病室で起きている事から致命傷では無かった事もまた理解できた。
「どこだここは…?」
さて、悪夢から覚めたと思えば、ここは何処だ?
そう言わんばかりの訝しげな顔。
とはいえ、此処は恐らく病院だろう。何かの機会で入院することになったのだろうか?
そんな彼が思考を巡らせていると、不意にドアが開いて誰か入ってくる。
「誰だ!?」
突然の来客に身構えるウルフマンだが、入ってきたのは一人の女性だった。
赤い軍服姿で、その上にビニールの手袋とマスクをした、目付きの鋭い女性。
看護婦だろうか?ウルフマンはそう思ったが、どうにも様子がおかしいことにすぐに気が付く。
「お目覚めになりましたか?」
「あ、あぁ…」
受け答えしながらも、訝しげに彼女を見据える。
そんなウルフマンに一切構わず、彼女は語りだした。
「色々と混乱されていることと思いますが、安静にして頂きたい。貴方は特に重体なのですから。」
淡々と告げる女医、もといナイチンゲール。
だが彼女の言葉は、この状況の説明を求めているウルフマンにとって非常に有難い物だった。
「って事は、他の奴等は俺よりかは無事なんだな?」
「えぇ、他の方は退院まで数日か、既に退院されています。」
治療狂から上手い事隠れたアビィを除き、残っているのはラーメンマンや海東位の物である。
「そうか、なら安心した…」
「貴方は安心している場合ではありません、さっきも言った様に一番の重症です。」
ほっと胸を撫で下ろすウルフマンだが、ナイチンゲールは手厳しい一言。
一番重症と聞かされた事で再び顔を険しくするウルフマン。
無理は無いだろう。
「では、他の患者もおりますのでお大事に…」
そう言って、彼女がベッド周りのカーテンに手を掛ける。
閉める気なのだろうと不意に思った時だった。
「ま…っ!?」
急に、悪寒と共にソレを止めようと腕が動き声が出たのは。
無論、ベッドから届く筈も無く声で止める形となったのだが。
「…」
「あれ、俺はどうしちまったんだ…?」
急な行動に驚いたのは、奇妙な事にウルフマン自身である。
そんな彼が取った行動の心理を、ナイチンゲールは見抜いた。
「ウルフマンさん。」
「お、おう、何だ?」
一呼吸置いて、語る。
「貴方は閉所恐怖症(トラウマ)を負った様ですね。」
「なっ!?」
それは、ある種の宣告であった。
「幕間:今は遠き絶望の底」
◇
『現世に生まれた人間にはそれぞれ、必ず現世でやるべきことがある。だから人間は生を受け、やるべきことを為し、そして天命を為して死んでゆく。』
◇
一冊の本を、読んだことがある。
曰く「人間の遺伝子を、受精卵の段階で編集することにより親の思い通りの子供を作ることができる」、と。
なるほど、何と惨たらしい話だと思った。
何がむごいって、それはどうあがいても「子供に選択権がない」事だ。
卵子は言葉を発さないだろう、と言えばそれまでだけど、たとえ卵子とて子供にも自由意志はあるはずだ。
子供が「こう生きたい」と願うのならば、それが人倫の範疇を越えないのなら親は応援するべきだ。
真っ当な人間ならば、子供は自然に、自由意志を持たせて育てるものだと思っている。てか、憲法で人権が認められているし。
んで、自分の望む「完璧な子供」を作っておきながらその実「親である自分」の思い通りに動かなかったらボロクソに責めたてるのか?
あーこういったことを考えるだけだかわいそうでかわいそうで胸糞悪い。
蕁麻疹が出るほどの悍ましさだ。
え?なんでこんな話をするかって?
だってその該当者が私江ノ島盾子、らしいから。
全く、ふざけてる。
◇
特異点 リビルド・ベースの一室にて
「ねぇシャルル。」
「ん?どうかしたか江ノ島?」
リビルドベースの一室。
皆が集まって談話をする空間、そこに置かれた椅子で江ノ島とシャルルマーニュは話しあっていた。
いつもの蒼穹のような笑顔を浮かべるシャルルマーニュに対し、江ノ島の顔はどうも暗い。何か悩みを抱えている顔だ。
「なんであたしなんかをつれていくの?あたしの正体、知ってんの?」
「ああ、知っているさ。」
「怖くないのかよ。自分みたいなの連れまわしてさ。」
怖くないのか、という問い。
自分のような絶望の化身を連れまわして、恐れとかないのか。
いつか何かの拍子で裏切る、誰かを曇らせることに喜びを感じるクソッタレを連れまわして、恐怖とかはないのか。
「どうだろうな……そうなったらその時考えるさ。」
「そうか……ちょっと安心した。」
安堵の顔を浮かべる。
「ははは、そう言っているうちは江ノ島ちゃんは絶対裏切らないね。賭けてもいいよ。」
「デミックス!?」
いつものように、屈託のない顔をするデミックス。
本当に、この男の顔にはいつも救われているような気がする。
「みんな帰ってきたから迎えにいたんだけどさ……。」
「結果は?」
「ボロボロ。」
「あー、俺達も行くべきだったか……?」
ボロボロ。
確かに、戦線的な結果としてかこちらの敗北。
両者痛み分けの上での戦術的敗走というべきか。
どちらにせよ、嬉しくはないしむしろ悔しい。
この結果には、さすがのシャルルマーニュも頭を抱えている。
「まぁ過ぎたことをぐちぐち考えても、絶望的にダメだな。」
「んで、この後俺達どうする?」
「その件についてだが、一つ報告がある。」
突如ベースの一室に出現した黒い靄。
そこから現れたのは、ルクソードだった。
「あんた、どこにでもいるな……。」
いつも特異点とリ・ユニオン・スクエアを渡り歩いてはCROSS HEROESに力を貸している抑止の守護者。
気まぐれにもほどがあるというもので、この在りようには江ノ島も呆れている。
「ははは、でだ。先ほど"外"のある場所にて、メサイア教団と謎の組織が交戦しているとのことだ。」
「なんだそれ。」
妙に言葉を隠しているルクソード。
それは、彼なりの配慮というべきか。或いは。
「謎の組織の詳細までは、まだ観測していないし調査もしてないから分からない。だが……」
「メサイア教団が関わっている以上は俺達もいかないと、ってわけだな。決まりだ!じゃあ行こうぜ!」
かっこいい発破をかけつつ、シャルルマーニュは立ち上がる。
これに対して、2人は驚愕する。
「シャルル!?」
「いきなり行くって言われても、一体どこに?」
この質問に対し、ルクソードは目頭を押しながら悩ましい顔で告げた。
何か、問題の場所に対して思うところがあるようだ。
「それがな……江ノ島君。」
「え?私様?」
「そうだ。君様にとってゆかりのある地でな。君がショック、というよりトラウマを受けないように配慮していたつもりだが……仕方がない。言おう。」
「はッ!その程度のショックでトラウマができるほど、私様は衰えてねぇよ!絶望なめんな!」
いつものような絶望的元気と威勢を貼る江ノ島だが、次のルクソードの一言は、少なからず彼女にショックを与えることになった。
「その場所が、ジャバウォック島だったとしてもか?」
「……なんて?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
そして、彼女は震える左手で、口を押えた。
果たして、この地にいったい何があるというのか?
真実は、多くの苦難の果てに。
◇
絶望の果の希望。
希望を掴むために抗う者。
顔が絶望に曇ろうとも足掻く様。
人はその在り方を望む。
であるのならば。
指輪は、不屈の心持つ者にこそ微笑むだろう。
Chase Remnant ACT3 人理定礎値:B+
――――――――――――――――――――――
A.D.20XX 絶望回帰孤島 ジャバウォック
――――――――――――――――――――――
君が希望、戦場
「オタサーの姫を囲む女子会」
――リビルド・ベース。
『――鳥人戦隊!! ジェットマン!!』
「ふおおおおお!? フェザーマンみたい! これも、スーパー戦隊!?」
佐倉双葉は、セッちゃんの目から出力される映像投影装置を
映画のスクリーン代わりにして刑部姫のオタク部屋で鑑賞会を開いていた。
『15番目のスーパー戦隊、鳥人戦隊ジェットマンッチュン!』
セッちゃんの解説に合わせて、映像のスーパー戦隊が空を舞う。
並行世界に存在する45のスーパー戦隊のデータは全てセッちゃんのデータベースに
格納されているのだ。
「それにしても、この部屋、落ち着く~……他人の気がしないって言うか……」
こたつを囲んで、4人で座り込む。部屋の至るところに隙間なく持ち込まれた
アニメのグッズ、ポスター、フィギュアetc……
双葉、刑部姫、ジナコ・カリギリ、マジーヌ……皆、オタク気質のインドア派……
と言うよりもかなり重めの引きこもり気質があるメンツであった。
『ジェットマンの特徴は、何と言っても5人全員が、鳥をモチーフとしてるッチュン!
メンバー内の恋愛事情も複雑ッチュン!』
「えーっ、恋愛事情!? 三角関係とかあるの!?」
『そうだッチュン。ブラックとホワイトは元恋人同士だったけど、
最終的にはレッドとホワイトが結婚式を挙げることになって、ブラックは
それを心から祝福しつつ……』
「ふおおおお……」
目をキラキラさせながら、双葉はセッちゃんの映像に見入る。
「双葉ちゃんは、ホントにスーパー戦隊とか好きなんすね~」
「うん! ……でも、あたしのフェイバリットはやはり不死鳥戦隊フェザーマン!
あ、あ、そうだ! もしか、フェザーマンが本当にいる世界とかにも行ったこと、
あるの!?」
マジーヌに向き直って、双葉が尋ねる。
「うぇ!? ま、まあ、そう言うトピアもあるかも知れないっすね……
何せ柏餅が闇取引されてる世界とか、キノコで埋め尽くされてる世界とか、
ホントに色んな世界を旅したっすから……自分たちだってキカイノイドだし、
介人の世界では人間とキカイノイドが一緒に暮らしてるのが普通だったんすよ」
マジーヌは、かつて訪れた異世界のことを思い出しながら語る。
有り得ない事など、有り得ない。実際に、この特異点の存在自体がおよそ常識では
測りきれない代物なのだ。
「ふおおおおお~、もっと早くCROSS HEROESやカルデアに会いたかったな~……
ここは天国だよ~~」
こたつのテーブルに突っ伏して、双葉は悶える。
夢にまで見たTVの特撮ヒーローが実在していて、さらにそのヒーローに会えるなんて……オタクの天国はまさにここだ。
「みんなー、厨房から出前取るけど、何食べるー?」
刑部姫が自前のタブレットで出前のリストを見ながら、仲間たちに声をかける。
「ピザ! ピザでオナシャス!」
「自分もそれで」
ジナコが速攻で答える。その隣で、マジーヌも手を挙げている。
「4人いるしさ、ゲームやるっスよ、ゲーム! 何やるっスか?」
ノリノリで、ゲームの提案をするジナコ。
「じ、自分、あんまりこう言うのは得意じゃないんすけど、大丈夫かな……」
ちょっと戸惑いながらも、マジーヌが賛同する。
かくして、オタク部屋が即席のゲーマーの集いの場となった。
ジナコが持ってきたテレビゲームはレースゲームとシューティングゲームだ。
まず、双葉とマジーヌでレースゲームが行われ、刑部姫・ジナコは
シューティングゲームをプレイしている。
双葉は普段やらないジャンルだったが、いざプレイしてみると案外これが白熱して
結構楽しめた。
「うおお! このシリーズ面白いね! キャラの個性が立ってるし、UIもいい感じ!」
双葉はゲーマーの才能があったのか、1位を独走する。
ゲームをやり慣れているジナコと刑部姫も上位に食い込んでいる。
しかし、マジーヌは普段ゲームに触れる機会が無かった為か最下位続きとなっている。
「はうう~、このゲーム結構難しいっすね~……ぬぬぬ……」
しょんぼりと落ち込んでいるマジーヌ。
「マジーヌさん、ドンマイドンマイッス! 勝ち負けよりみんなで楽しめるのが
一番ッス!」
「楽しいのは、間違いないっすけど……」
優しい笑顔で、マジーヌを励ますジナコ。
この二人はゲームを通じてかなり仲良くなったようだ。
そんな二人を見て、思わず笑顔になる刑部姫。
(ふふ……仲良くなれて良かったね)
心の中で思うのであった。
「随分と姫(わたし)の部屋もすっかり賑やかになっちゃって……」
ゲームに白熱する三人の姿を見て、刑部姫は独り言を呟く。
でも、こう言うのって楽しいな……そんな想いが、ふと浮かんでくる。
刑部姫とは、元来姫路城の天守閣に住み着いた城化物であった。
妖怪であるが故に長寿であり、やがてその存在を知る人間たちも寿命を迎えて、
姫を残し姿を消していった。
孤独であると、そう思っていた。誰からも忘れられ、顧みられなくなる事は、
始めからいないのと何が違うのだろう……と。
しかし、カルデアに来てからは、自分を慕ってくれる者が多くいることを知った。
それは人間だけでなくサーヴァントでも同じだ。
そして、ここカルデアの仲間たちはそんな自分を受け入れてくれる……
刑部姫は確かにそう感じていたのだ。
「よーし! ピザ来たよー! みんなで食べよー!」
元気よく、両手にピザの箱を抱えて刑部姫が襖を開いて部屋に戻ってくる。
「わ~い、ピザだ~~!」
はしゃぐ双葉。
そんな様子を見て、ここは本当に緊張感の薄れる場所だな……
と、しみじみ思うセッちゃんであった。
「それじゃ、いただきまーす!」
オタク部屋で四人はピザを食べ始める。
ゲームに夢中になっていたジナコやマジーヌも戻ってきてピザを頬張った。
(もぐもぐ……)
「う~~ん! デリシャス♪」
美味しさに悶えるジナコ。確かにこの味は美味しいだろう。
カルデアキッチンの料理担当スタッフたちが丹誠込めて作ったのだから。
「またしても腕を上げたっスね、エミヤさんたち……電話ひとつで
こんな美味しいピザが厨房から届くんだもんな~引きこもり最高~」
「はむはむ……もぐもぐ……ふひー、最高っす!」
ジナコは快適過ぎる環境を噛みしめ、マジーヌは幸せそうにピザを食べている。
「ふわぁ……」
お腹も膨れて眠くなったのか、双葉があくびをする。
「ありゃりゃ眠い? ちょっと休憩する?」
刑部姫はゲームを止めるよう呼びかける。
「ふあーい」
ピザを食べ終えて、少しこたつで横になった後、双葉は部屋に戻っていった。
「phanatasm ataraxia_2 山の天狗、花の戦場」
悪霊の群れ、その一部は守矢神社を抜ける。
妖怪の山をどんどんと降りてゆく姿は、遠めから見ると噴火した火山の溶岩が麓へと吹き零れてゆくようだと誰かが言った。
守矢神社路へと至る階段が砕かれ、ただ無軌道に下へ下へと下ってゆく黒い雪崩。
姿かたちを、まるで波濤のように変えながら進んで行く地獄の獄卒。
早ク、早ク、早ク、早ク―――!
潰セ、殺セ、潰セ、殺セ―――!
幻想郷に、この先の朝日を拝ませない。
というか、今の幻想郷に明日という概念はない。
この異変を放置して悪霊が外に出れば、幻想郷も、外も、何もかもが終わる。
『神秘の秘匿もくそもない。―――早急にこの異変を、解決すべきである。』
「なんて書いても、昔なら誰も信じてくれないのでしょうけどもねぇ……。」
妖怪の山の中腹。真夜中の玄武の滝。
妖怪の域と人間の域の境界線。
その最前線に、最速はいた。
「……アレは見ただけで1万はいますね。控えめに言って地獄かな?」
思わず、ため息が出る。
幻想郷の全てを記録している文ですら、この地獄を前には疲弊する。
「でも、やらないと。今動けるのは私だけですし。にとりさんは人間の里。ならばせめて数だけでも減らした方がいいですよね。」
独りごちる。
そして、彼女は――――嘲笑うかのように迫る悪霊の群れに突貫を始めた。
「『幻想風摩』―――!!」
命題なき弾幕符(スペルカード)。
その実態は「ただ全てを吹き飛ばす速度で駆け抜ける」。
それだけの能力故に、木々も水飛沫も、悪霊も何もかもが吹き飛ぶ。
「吹き飛ばすだけがこの弾幕と思わないことです!」
狙エ、砕ケ、墜トセ―――!
撃テ、撃テ、撃チ墜トセ―――!
悪霊は近接が無理ならばと狙撃を開始する。
無数の呪いの弾幕で、超高速で駆け回る文を撃ち落とそうとする。
だけれど一向に当たらない。
追尾性能のない機関砲では、文の速度には追い付けない―――!
「そっちがそのつもりなら、お返しです!!」
その刹那、否。この速度では涅槃寂静の速度か。
悪霊が弾幕を放つ、その数千コンマ先のタイミングで赤核目がけ弾幕を放つ。
本来、幻想郷を包む「弾幕ごっこ」のルールではできない「回避不能弾幕」の無法。
しかし、今は幻想郷の存亡がかかった一世一代の防衛戦。
相手が悪霊などという無法を持ち込んできた以上、此方が大人しく「ごっこ遊び」の法を従う理由はない。
目には目を、歯には歯を、無法には無法を。
それが、幻想郷の至上律令である。
「紫さんも、この状況でとやかく言っている暇はないですよね、分かりませんけど。ですが――—。」
文も流石に限界が来る。
『幻想風摩』も時間切れ。連続での行使は無法下でも体力的に難しい。
相手は倍々ゲームどころか乗算の速度で増え続ける悪霊の無間地獄。
「流石に、疲れますね……。まだ、というより2~3万は増えてません?」
つい、乾いた笑いが出そうになる。
そんな自分を押し殺そうとしながらも、次の切り札を装填する―――。
「あら、幻想郷最速の天狗様はその程度なの?ともかく、死にたくなけりゃ全力で右によけなさい。」
それは、優しくも煽りをにじませた宣告。
劣勢の彼女に向けられた嘲弄か、否。
ただの―――挑発(おうえん)か。
「わかってますよ、―――幽香さん!」
「吹き飛べ、『マスタースパーク』。」
刹那、閃光。
山を吹き飛ばす熱量が、地を焼く焦熱が闇夜の幻想郷を照らす。
原初の魔砲が放たれ、倍々ゲームの暗幕に焼け焦げの傷が開く。
「あなた、普段ここには来ないはずでは?」
「そんなこと言っている暇があるなら黙って戦いなさいよ。切り札残しておいて何苦戦してますよアピールしてんのよ。」
「うるさいですね!こっちだってこれから準備するところだったんですよ~!」
「それは……ごめんなさいね!」
軽口を叩きながら、怒りと嫌味任せの高火力砲を放つ。
圧縮されたレーザーの熱量が、悪霊の身体を赤核もろとも焼きのめす。
「里の方へ下がりながら防衛するわ。里についたら後は持久戦よ。できる?」
「勿論。ご協力感謝します!」
じりじりと下がりながら、悪霊を殲滅してゆく。
多勢に無勢名護という無粋は捨て置き、数をどんどんと削ってゆく。
10万はあった悪霊の先行隊は、遂に5万まで減ってゆく。
そして、悪霊の進軍の先に待つのは。
◇
人間の里
「来たか……!」
慧音は、ただ見据えていた。
氷の城塞と化した里。その見張り台から迫る悪霊の様子を見ていた。
鮮烈なまでの光と風の奔流。
そして、一瞬映る花の戦場。
「そろそろ来るだよ!」
「行くぞ!女子供は屋内に避難させろ!」
「廃棄孔とやらで月夜さんたちが頑張ってんだ!俺達もやらないと!」
「悪霊を一歩も外に出させるな!」
「いいか!夜が明けても油断するなよ!」
これより先は人間と妖怪の巨大防衛ライン。
混沌の坩堝より、悪霊などという無法は許さない。
「Epilogue - 特異点よりの帰還 -」
――リビルド・ベース・病室。
「ウ、ウルフマン……」
クラッシュマンとの戦いで閉所恐怖症を負ったウルフマン。
外傷は医療班の手厚い治療のお陰で小康状態にまで落ち着いたが、
それ以上に心の傷は深かった。
「へへ……横綱超人だなんて大層な肩書き背負ったって、このザマだ……」
「しっかりせんかい、ウルフマン! いつもの憎まれ口はどうしたんじゃあ~~~!!」
キン肉マンは、そんなウルフマンの弱気な態度が許せない。
ウルフマンなら、きっと立ち直る。今までもそうだった。そう信じていたからこそ、
アビダインでリビルド・ベースに戻る最中も努めて楽観的な態度を装っていたのだ。
完全勝利とは程遠い丸喜パレスでの戦い……暗いムードを少しでも払拭するために……
「フッ……キン肉マン。お前と超人日本代表の座を争って土俵の上で
取っ組み合いをしたのが随分と昔の事のように思えるな……
俺ァ、どうやらここまでと見える……」
「お、お前……本気で言うとるのか……!? 今まで、どんな困難にも、
どんな強い相手にも、鍛え込んだ肉体と根性でぶつかっていった、そのお前が……!?」
だが、当のウルフマン本人はというと、まるで覇気が無い。
「そうだぞ! ウルフマンのおっさん!
俺と一緒にブルブル野郎をぶっ倒したじゃねェか! あん時のおっさん、凄かったぞ!」
エタニティ・コア防衛戦の最中、ルフィとウルフマンは
完璧・無量大数群から送り込まれた強敵、「完裂」マックス・ラジアルを
テリーマンと共に撃破したのだ。
「ルフィ……あの時、俺は思ったよ。テリーマンが見込んだだけの事はあるってな。
だが、どうやら俺はここまでらしいわ……」
「お、おい……やめろよ、こんな弱気なおっさんなんて見たくねェよ!
いつものおっさんに戻ってくれよ!」
ルフィのその心根は初めて会った時から変わらず真っ直ぐである。
そんな彼が自分に憧れていてくれたのは嬉しいが……
今のウルフマンにはそれが重圧でもあった。
「すまんな……俺はもう、土俵には立つこたぁ出来ねえ……」
「ルフィ、そこまでだ」
ゾロがルフィの耳を摘まんで話を中断させる。
「痛てっ! なにすんだよ!」
「俺も……このおっさんの気持ちは分かる。
ぐうの音も出ねえ程の敗北の味……そいつを知ってもなお、前に進めるかどうかは……
自分自身で向き合わねえといけねェ事なんだよ」
世界一の剣豪、鷹の目のミホークとゾロの初遭遇戦。手も足も出なかった。
三刀流の奥義を繰り出しても尚、短剣ひとつで刀を砕かれ、
そして一生消える事の無い傷をその身に受けた。
敗北とは、苦痛であり絶望であると理解しているからこそ……
その屈辱から立ち直る事がどれ程の覚悟を必要とするのかを。ゾロは知っていたのだ。
「だからよ……今はそっとしといてやれ。俺らに出来るのは、そんぐれェだ」
そんなゾロの言葉を聞き入れて、ルフィは素直に引き下がった。
「ウルフマンは、俺たちの世界の病院へ連れて行く。
リハビリを重ねれば、いつかは復帰も可能だろう」
「じゃあ……?」
「ああ、出発の準備だ」
こうして、リ・ユニオン・スクエアへと帰還する者、幻想郷へ向かう者、
特異点に残る者とに分かれる事となった。
「アレクや騎士ガンダム達は特異点に残るんか?」
「ああ。竜王やジオン族の動きが気になるからな……この特異点の動きも監視しておく
必要があるだろう。こちらにはカルデアの面々もいるからな。戦力は十分だ。
テスタロッサ大佐たちにはよろしく伝えてくれ」
「ああ、分かった! こっちの事は頼むぜ!」
悟空とアレクは、握手を交わす。
「お前たちも、こちらに残るのか、仗助」
承太郎はリ・ユニオン・スクエアへ、仗助と康一は引き続き特異点へと残留する。
「ああ。向こうの方は頼んますよ、承太郎さん」
「任せておけ。康一くん、仗助が無茶をしないように注意してくれよ」
「はは、無茶をするのはいつもなんですけど……善処します」
「一度くらいは、あたしのゴールデン・ハインド号に乗っけてやりたかったけどねェ、
海賊少年」
「向こうの世界には、潜水艦ってのもあるんだぜ! 海の中を潜れる艦だ!」
「ほう、そいつも乙なもんだ。お互い縁がありゃ、また会えるだろうさ」
海賊と海賊、ドレイクとルフィも別れの言葉を交わしていた。
いつか共に大海原を往く日を夢見て……
(ショッカー大首領……このまま大人しくしているとは思えん……次はどう出る……)
ソウゴやゲイツから告げられた、丸喜拓人の背後に蠢くショッカー大首領の存在。
オーマジオウ、そして海東を次々と倒したその力。士はいずれ
大首領との決着を付けねばならない事を感じていた。
果たして、それは何時になるのか……
「奴は特異点とお前たちの世界……或いは幻想郷……何処に現れてもおかしくない。
クォーツァーの時みたいなヘマはするなよ、常磐ソウゴ。次は命を落とすかもしれんぞ」
「うん。気を付ける。ありがとう、ディケイド」
「祝え! 過去と未来をしろしめす時の王者、常磐ソウゴ……凱旋の瞬間である!」
ウォズが高らかにソウゴの帰還を祝福する。
「ふん、クォーツァーの回し者だったくせに、よく言う……」
「やめなって、ゲイツ」
そして、それぞれの仲間との別れを済ませた頃。
遂に、出発の時が来る。感傷に浸る暇も無く……彼らは長き特異点での戦いを越えて……
一路、リ・ユニオン・スクエアへと帰還するのだった。