とある日記帳

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1人目

11月11日
昨日、古本屋でこの日記帳を買った。一目惚れだ。
紙は経年劣化で少し黄ばんでいるけれど、装丁はしっかりしていて汚れも傷もない。まるでおとぎ話に出てくる賢者か魔法使いの手帳みたい。
こんな素晴らしい日記帳には素晴らしい万年筆で書かなきゃいけない。ふさわしい万年筆を探して隣町まで探し歩いているうちに1日が経ってしまった。
その間書きたくて書きたくてうずうずしていたものだから、今、書き急いで字が雑にならないようにするので精一杯だ。

とにもかくにもこれからここに私の物語を紡いでいくのだ。
どんな物語になるんだろう。楽しみだなあ。

2人目

11/13
今日のお昼時、私は喫茶店へと向かった。そこは少し古めかしく客もほとんどいなかったのだが、妙に落ち着いた雰囲気があって、私は惹かれてしまった。今に思えば、空腹と好奇心が交じり合い、喫茶店へと向かう足を速めたのだろう。
中に入ると、ゆったりとしたBGMと「いらっしゃいませ」という物腰が柔らかそうな見た目をした初老の店長に迎えられた。カウンター席に着きコーヒーを一つ頼んだ。
このような落ち着いた場所で、コーヒーを啜りながらぼーっと考え事をするというのが私は好きだ。日々の悩みが少しずつ抜けていくのを感じるからだ。「ああ、コーヒーが来るのが待ち遠しいな…」そう考えている内に熱々のコーヒーが来て、一口飲むとその美味しさに驚き再び口をつけた。これは美味い。なんとコクが深いのだろうか。思わずニヤけてしまったのを覚えている。私は「今日の日記帳はこのことについて書こう」そう決めて、コーヒーの底が見えるまでの間をゆっくりと楽しんだ。

3人目

11/14
仕事をクビになった。どうしよう。今月の家賃が払えない。こうなったら強盗するしかない。
私は昨日の喫茶店に行くと、店員の頭をピストルで一発撃ち抜いた。店員は脳みそをぶちまけて死んだ。
「おら、金出せや、金ぇ、金ぇ、金ぇ、金ぇっ!!!」
店中が大騒ぎになった。私は構わず逃げようとする客の頭を正確に一発ずつ撃ち抜いて行った。すると、6人ほど殺したところで弾切れになった。
「ああっ、くそっ、なんだよもうっ!」
すぐさま警察が駆け込んできて、私を取り押さえようとしてきた。しかし、得意の空手で両腕をねじりあげ、骨と筋肉ごとちぎり取った。両腕を肩までなくした警察は悲鳴を上げたが私の知ったことではない。
私は警察から奪い取った銃で、他の警察の頭を次々と撃ち抜く。
「くそっ、警察め!次から次へと押し寄せてきやがる。きりがねえぞ!」
こうなったら進化するしかない。私はあらかじめ薬学研究所から盗んでおいたウイルスを腕の血管に注射した。
ドクン、ドクン、と鼓動が強く、激しくなる。ああ、始まる。
私はバイオモンスターに進化した。凄まじい筋肉と力強さを感じる。
警察がピストルを撃ってきたが、私は目で見てから難なくかわすと、警察どもの頭を一斉に食いちぎってやった。すると、私の肉体はさらに引き締まり、力がよりみなぎってきた。私は人を食えば食うほど強くなる。
私は街に飛び出すと、片っ端から目につく人間どもを食い殺した。
すごい、凄い力だ。どんどん強くなっていくのがわかる。もっとだ。もっと食うんだ。もっと人肉をよこせ!人肉を、食わせろおおおおおおおおぉぉぉぉっっっっっ!!!!!

4人目

11月15日
 昨日の日記は中々にバイオレンスな内容に仕上がった。まさか夢日記の初日でホラー展開になるとは。おかげで体は寝汗まみれで、朝から散々だった。
 夢日記、恐るべし。
 そういうわけで暫く夢日記は控えようと思う。夢は直ぐに忘れてしまうとはいえ、朝から日記帳に齧り付くのは、如何せん時間的にも厳しいものがあるので。
 
 ああでも振り返ってみれば夢日記も悪いことばかりではなかったと思う。
 この季節、朝はとてつもなく寒い。しかしそのくせ昼はそこまで寒くない。なんなら少し暖かい。
 これは激しすぎる寒暖差によって、つい最近体調を崩したばかりの私としてはどうにかしたい問題の一つ。
 ちなみに11月12日の日記がないのはそのせい。ワクワクしながら始めた日記が、開始二日目にして途絶える。そう、無念ここに極まれりというやつだ。
 
 まあ翌日にはけろっとした様子でそれっぽい雰囲気の喫茶店に向かい、コーヒーを啜りながらぼーっと考え事をするという何時もの趣味に興じたけど。
 だから例の寒暖差も実際には、どうにかしたいけどそこまで急がなくてもいいかなあぐらいの問題ではあった。
 でもその対策法が夢日記のおかげで見つかるんだから、人生何がどう繋がるか分からないものだ。

 今まで興味はあったけど始めなかった日記を素敵な日記帳との出会いと共に始めたように、この寒暖差への対策法である朝シャワーも大量の寝汗の気持ち悪さとの出会いから始まった。
 素敵な日記帳、大量の寝汗。
 並べて見て思ったけど酷い組み合わせだ。でも面白いから手に持った修正液は戻しておこう。
 
 そしてここまでが昨日の夢日記とあと諸々の感想で、ここからが今日の日記。
 
 天気は雨! 土砂降り! だから家の外には出ていない! 特筆すべき事はなし! 強いて書くなら今日のフレンチトーストはよく出来てた! 以上!
 
 そうそう、明日はパチンコ店にでも行ってみようかと考えてる。最近何故か行列に並んでみたいと思い近場を探してみると、行列の代名詞みたいな新装開店のパチンコのチラシを見つけたから。
 けど朝から並ぶのは流石に大変だし、明日の私が全然違うことをしてる可能性は充分にある。
 もしかしたら懲りずにまた夢日記を書いてるかも。
だからその辺を考慮して明確に予定は決めずに、詳しい事は明日の私に託そうと思う。

5人目

11月20日

手帳って言ったら宮沢賢治かな。

雨二モ負ケタ、風邪二モ負ケタ。
貧弱な体を持つくせに強欲なせいで、パチ打ち五ケタの金を捨てる日々。
まさに、デクノボー、だな。はは。

宮沢が教師なら、私は反面教師といったところか。

教師つったら夏目漱石もいたっけ。

こんな言い草じゃ卵投げられても文句言えねえな~~。

別にシャツは赤くないけど。なんつって。



...病み上がりの余熱で、少々頭がのぼせているようだ。
酒を飲んだ訳じゃないし、有難くもない。吾輩は猫じゃない。

えっと、まず、天気予報は信用ならない。教訓。

曇りなら傘を持っていくこと。

ニュースキャスターが陽気な顔で今日はいい陽気になるというので、なんだかフレッシュな気持ちで新装開店のパチパチに行ったら、帰りにゴミみたいな量の雨に降られた。

ゴミはゴミでも粗大ごみクラスである。

で、パチ屋の行列で貰ってきたんだろうが、私も流行りのインフルに罹り、今日までまともにペンも握れず、寝込んでたという訳だ。

親譲りの無鉄砲でいつも損ばかりしてるくせに、私には面倒を見てくれる清もいないし、病気を治してくれるセロ弾きのゴーシュもいない訳で、まあ、つらかった、熱を冷ましたくて、カンパネルラみたいに川に飛び込みたかった。

14日みたいなバイオレンスな悪夢を二ケタ回は見た気がしたが、詳しい内容は全部忘れてしまった。よって、この数日間は、何一つとして実にならない無駄な日々だった。

多分インフルじゃなくても、書いてないかも。
書くことがない虚無の一日じゃ、必然と空白もできる訳よ。

いやはや、日記帳の空白がそのまま人生の空白を表している様だな。はは。上手くない?




ああ、何やってるんだろう、私。

精神的に向上心のない者はばかだ。





安易だな...。




...今日は早く寝ることにした。この日の日記の処遇は、明日の私に任せた!グッナイ!

6人目

11月21日

K大学サッカー部員である私はついに念願の決勝へと進出することが出来た。
何年もの努力を重ねてようやくたどり着いた優勝への道。決して逃すわけにはいかない。

試合を終えて家路へ向かう私たち。
しかし疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう。後輩をかばいすべての責任を負った三浦に対し、
車の主、暴力団員谷岡に言い渡された示談の条件とは・・・。

7人目

11月22日

今日は未来の僕から死亡宣告された日だ。
『君は宇宙人にこの世界から攫われて、この世界からさよならする』
この何とも言えない死亡宣告に僕はうんともすんとも言えない。

なんだよ、宇宙人に攫われるって。
この世界からさよならするって。
お前の言う僕が今生きているということは、お前はどうして生きているんだよ。
お前は異星人になったのか?

僕は屋上のヘリポートからお酒を飲んでいた。
こうして生きていられたのは、誰のせいか。
この混沌とした変化のない世界に僕という人間はいなくてもいいくらいに人間はあふれかえっている。
人間は愚鈍だ。
時に地上にあふれかえる人間たちを見て、その人間たちに僕も含まれているのだろうと思うと、自虐的になってしまう。

僕は何者ゆえか。
なぜ人間になったのか。
まるで以前が人間ではなかったかのような思想になりつつ、ウイスキーを一口ずつ飲んでいく。
まるで本当にお迎えが来るみたいに。
「本当にお迎えなんて来るのかねぇ」
誰もいないヘリポートに誰かの声が聞こえる。
自殺者の声だ。
ここは自殺をする場で有名な場所だ。
「……くるとも」
僕は火のついていないたばこを幽霊どもに渡した。
幽霊どもは自らの炎で火をつけて一服した。
「お前たちが人生の最期に出てくるということは、本当に未来の僕は逝ってしまったんだな」
「……さぁな」
幽霊どもは煙を吐いて、けらけらと笑っていた。
僕もたばこに火をつけて、煙を吐いた。
「なぁ、幽霊たち。僕の未来を占ってくれ。どうせ、死ぬんだ。占ったくらいで僕の寿命は変わらない」
「けっけけ、お前、あの呪文を唱えたか?」
「呪文?」
僕は思い当たる節があった。

むしゃくしゃして呪文を月に唱えたあの呪文。
あのネットで見つけた異世界に行く呪文。
あの嘘っぱちに近い日記とテキトウに言葉を並べただけの呪文。

「それを唱えたら、僕は本当に異世界に行くのかい?」
僕はたばこの火を消した。
幽霊は黙ってたばこを吸っている。
「そうだとしたら、この世界はクソだ。あぁ、こんなうんこまみれの世界に生まれて、残念だよ、僕は」
僕は残っていたウイスキーを飲んだ。
「お迎えの時間だ」
僕は真っ白な光線に当てられ真上を見た。
「本当に攫われるのか」

目が覚めた。
ただの朝があった。
今日はあの日-死亡宣告日だ。