サニーと奇跡の卵

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1人目

 ぼくの名前はサニー。 
 元マスコットキャラクターで、今は何でも屋として活動している。
 今の時期は連日気温が高い。
 まず30℃を下回る日がない。
 朝から暑いし、夜も気温が下がらず熱帯夜だ。
 きついなぁ。いつになったら涼しくなるんだろうか。
 そんな猛暑に気が滅入りかけていると、お店の前に突然キラリと光る白のリムジンが停まった。すぐさま運転手が後部座席のドアを開ける。
 車内から降りてきたのは、綺麗な赤髪の女性。 
 お召し物がロイヤル感のあるドレスで……どこかのお嬢様か?
 運転手の人がお店のドアを開けて、そのお嬢様らしき人物が真っすぐぼくの方へ歩いてくる。

「あなたが何でも屋のご主人かしら?」
「ご主人? そうだよ。この店ぼくしかいないけど」
「そうなの? ゆるいキャラみたいな見た目だから、店番の方かと思ったわ」
「昔していた仕事の名残なんだ。まあ気にしないで」
「あら、それはごめんなさいね」

 深々と頭を下げられた後、ぼくに名刺を差し出した。
 受け取った名刺を見てみる。……この人本当に一国の王女様なのか?
 聞いたことがない国の名前だけれども。

「あなたは国のトップの人ってことか。王女様?」
「そうよ。ある目的があってここに来たの」

 なんかやばいやつじゃないよな……。
 そう思っていると、王女様はとある雑誌の記事を開いて見せてきた。
 その記事は卵の写真が載っている。殻の色が青色っぽく見えるけども。

「この卵をぜひとも手に入れて欲しいのよ」

 え、この青い卵をか? 疑いつつも、ぼくはこの記事を読んでみる。

 卵は完全栄養食品と呼ばれるほど栄養豊富な食材だ。
 とある地域にしかいない 淡群青鶏 という鶏が産む最高峰の卵に人気が出始めている。
 一日あたりの数もそこまで取れない貴重なものだ。
 多くは地元住民が買っていくが、とても変わっているのが卵の販売方法である。
 基本的には自動販売機の形式で販売されている。
 お金を入れて商品が入っているケースの扉を開けて商品を取り出す。と、いたって購入の仕方は普通である。
 しかし、販売する場所は毎日変わるというのだ。
 自動販売機自体を重量もありそれは容易ではないものだが、かなり山が多い地域の様々なところに毎朝現れるということだ。
 朝方しか販売しないため、そこを逃すと卵は買えない。
 これほどない栄養たっぷりの卵であるため、1つ食べるだけでも寿命が延びる奇跡の卵を食べてみてはいかがだろうかーー

 これ本当かな? ちゃんと取材行ったのか?
 ぼくはこの記事をじっと見続ける。奇跡の卵、なんてあるのかねぇ。

「ねっ、すごい卵でしょう。何としても手に入れたいじゃないのよ」

 まあ、卵自体はかなりいいモノな感じだろう。 それにしても、この卵は割ったら黄身の色は黄色なのだろうか。
 もしかしたら違うかも。それこそ宝石のような感じとか……。

「というか、淡群青鶏ってこれなんて読むの?」「たんぐんじょうどり、よ」

 よく見たら小さくちゃんとふりがながふってあった。小さすぎて見えなかったよ。
 ん? 淡群青鶏ってどこかで聞いたことあるような。あれはなんだったっけ……。

「そういえば、この卵を使ったオムライス……を食べたことあるな」
「えっ! あなたそれ本当なの!」
「多分この鶏のような名前のだったよ。卵を手に入れたから、オムライス作ろうか……って作ってもらって」
「とってもすごい方じゃないの」
「社長だからまあすごいかもね。残念ながら味は覚えていないけど」
「あら、残念ね。そこも聞きたかったわ」
「じゃあ、手に入れに行ってくるか」

 ぼくは出かける支度を始める。

「い、今から行くの?」
「朝方しか売ってないのだったらそれは行くよ」

 現在、13時を過ぎたところ。早いに越したことはないから。

「ちょっと、行くということは場所はもう分かっているってことなの?」
「うん、そうだよ」
「この記事に載ってる情報だけで?」 「ここの写真で」

 ぼくは1つの画像を指差した。
 歩道から撮った何気ない風景の写真。
 その写真の小さく奥の方に鉄橋が写っている。

「この鉄橋は私鉄の線路が通ってる鉄橋なんだ。電車はトンネルを通って山を抜けている。ここは高尾山だね」
「タカオサン……。誰?」
「ポピュラーな山の名前だよ。まあ、とある地域というのは高尾山の辺りなんだろう」

 確証はないけど、この推測は当たっているはず。
 現地へ行けば何かしら情報は聞けるだろう。箝口令をしかれていない限りはね。
 そうと決まったらさっそく高尾山の方へ向かおうか。
 ぼくは一応空を飛べるので、移動には困らない。
 早く到着したのならば、そこからは情報収集。 朝方の限られた時間しかチャンスがないので、早くけりをつけたいところだ。
 王女様には、連絡が取れること等を確認して今日のところは帰ってもらった。
 帰るといったって、おそらくどこかに宿泊するのだと思うけど。

 しばらくして、ぼくは高尾山の辺りに降り立った。
 国道20号線沿いを周りを見ながら歩く。 本当に山だらけだ。ここに住んでいる人たちはどこで買い物をしているのだろうか。
 高速のインターチェンジの下を通り抜けて歩いていくと、お店も増えてきて目線の先に駅が見えた。
 高尾山の最寄りの駅は多くの人々が行き交っていた。
 登山口の方からも多くの人が駅へと向かっている。
 しかし、卵の気配は全く感じない。 あの記事は飛ばしなんじゃないか?
 まあ手に入れられなかったときは仕方ないだろう。
 まさか向こうに自分の存在ごと消されるなんて……まあないよな。多分。
 色々と聞き込みをしたいけど、まずは昼食を取りたい。
 ここのお蕎麦屋さんに入ってみよう。

「いらっしゃい! あちらの席へどうぞ!」

 職人気質な店主らしき人に、二人がけの席を案内された。
 ぼくは全体を揺らして体を少しスリムにさせる。
 通常のサイズではさすがにお店に迷惑をかけてしまう。
 席に座ってすぐさま料理を注文した。
 昔からありそうなお店ではあるが、お客さんもそこそこいて繁盛していそう。
 料理はすぐに運ばれてきた。