小鳥とドラゴンと戦さ。失ったものは何か。

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1人目

これはあるファンタジーの世界のお話。
王都は栄え、人々は繁栄を謳歌していた。
この人々の繁栄も王都の周りを覆う、闇を寄せ付けない結界"ライトウォール"のおかげであった。
ライトウォールは悪しき心を感知し中に入るものに負荷をかける仕組みになっていた。
一方でライトウォールの外は荒廃し、魔物や悪人がかっぽし支配していた。

そんな世界のある日の朝。
僕はライトウォールの中の王都より外れた山の中の古屋で目覚めた。
「……。ん、朝か? うーん、よく寝た。」
僕は呟いた。
「チュンチュン、チュンチュン」
何か外が騒がしいな。
僕は窓を開けた
すると、小鳥たちが話かけてきた。
「大変よ、大変よ、モチョ。」
「うるさいなー、クララゆっくり喋ってくれ。」
今呼ばれてわかったように僕の名前はモチョ。
動物と喋る能力を持っている。
「モチョ、向こうに大きな赤い生き物が横たわってるわ。」
クララは言った。
大きな赤い生き物? そんな生き物はこの辺りにはいない。なんだろう?
とりあえず行ってみるか。

するとそこには赤いドラゴンが横たわっていた。
「なっ……!」
赤いドラゴンは傷だらけで、こちらをみた。

2人目

やばい…やらなきゃ、やられるっ!
僕はダイナマイトを手に取ると、導火線に火を点けてぶん投げた。
ダイナマイトは炸裂し、ドラゴンの頭は木っ端みじんに吹っ飛んだ。
ドラゴンは死に絶え、巨大な肉塊が転がっていた。
「モチョ!なんてことを!このドラゴンは子供よ!すぐに母親が来るわ!」
「お前さ、いい加減がたがたうるせえんだよ。」
僕はクララを引っ掴むと握りつぶした。クララは内臓が飛び出て死んだ。
僕の能力は糞の役にも立たない。こいつらいくら話しても話が通じねえんだ。
僕の思い通りの奴隷にはならねえしよぉ!
すると、さっきのドラゴンより一回り大きい、巨大な体躯のドラゴンが下りてきた。
どうやら母親のようだ。
「あんた、私の息子を殺したわね。命は命で償ってもらうわ。」
僕はすかさずダイナマイトを投げた。しかし、その爆発はかすり傷一つ与えられなかった。
ドラゴンは大きく息を吸い込むと、凄まじい炎を吐いた。
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」
僕は古屋ごと燃え尽きて死んだ。
そこへ王国の騎士達が駆けつけてきた。
「そこまでだ!人殺しの邪悪なドラゴンめ!ブチ殺してやる!」

3人目

"ライトウォールは悪しき心を感知し中に入るものに負荷をかける"

ということなのだが、はて、何をもって悪とするのか?

結果は客観的にして、残酷なほどに公平である。

"悪しき心"というのは建前の文言である。つまるところは、当人が正義をもってして臨んでいるかではなく、現実的にどちらの罪が重いか、という天秤だ。

この場合で言えば、雌のドラゴンは自分の子供を守ろうとしただけであって、これは至って正当防衛である。

だから、ライトウォールに言わせれば、"セーフ"らしい。

ところで、その罪のないドラゴンに、この国の騎士団は一致団結して襲い掛かったのだが。

さて、どうなるだろう?





...わかっていることは三つあるが。




一つは、この日から、国軍が管理していたライトウォールが、消失したということ。


一つは、最近、この国の近辺でドラゴンの個体数が著しい増加傾向にあること。


そして、一つは






ーーー詳しい真相を知るものは、もう、誰もいないということ。


失ったものは何か?


...まあ、行き過ぎた技術の発展は回り回って災いをもたらすという、良い教訓である。

4人目

と、まぁ……ここまで長々と語らせてもらったけれど、ここまでは前座に過ぎない。
物語はここから始まる。

小鳥とドラゴンと戦さ。失ったものは何か。

ん?今語っている"私"は誰かって?
……さぁ?

一つ言えることは、あの国はもう"人間が統治する国"の役割を果たし終えており、あの国で起きた出来事を語り継ぐ人間は、もういないのだということ。

ここまで言えば、わかるかな?

……わからない?鈍感だこと。
まぁ、これからの物語を楽しむのなら、それくらいがちょうどいいのかも、ね。
もっともっと、語りたいことがあるんだから。

中断してすまないね。では、続けようか。

平和な世界と、発展した技術を手に入れた人間は、自惚れすぎた。
モチョは動物の声が聴こえるという、神から授けられたギフトを嘲り、死んでいった。
王都の騎士達は、子供を守ろうと人間を殺したドラゴンを悪と決めつけ、倒そうとした。
その結果、子供を失いさらにはその命を奪われそうになっているドラゴンを守るため、ライトウォールは動いた。
王都がどうなったかは、誰も知らない。

……でも、王都が役目を終えてからその土地で何が起きたかは知ってる。