プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:7「忘却之廃棄孔 幻想郷」
「Prologue」
【モードレッドvsマーリンマン編】原文:霧雨さん
突如丸喜パレスに現れた、謎の組織「SPM」からの刺客モードレッドと
そのマスター獅子劫界離。対峙するは、完璧・無量大数軍が一角。
「完刺」の称号を冠する超人マーリンマン。
戦闘の最中、丸喜の同胞であるシロウ・コトミネ。否、天草四郎に「自分にとっての王の在り方」を問われ一度は悩むもそれを払いのける。
そして、激しい戦いの果てに地面は崩落しマーリンマンに取って
有利な水中に引きずり込まれ危機が迫るも、機転と自身の持つスキルそして
獅子劫の令呪によってこの危機を脱出。
遂にはその宝具によってマーリンマンを下すのだったーーー!
【ラーメンマンvsターボメン編】
丸喜パレスを舞台としたCROSS HEROES・心の怪盗団vs完璧・無量大数軍の頂上決戦。
その一角、【完遂】ターボメンに挑むラーメンマン。息もつかせぬ怒涛のラッシュで、
ターボメンを追い詰めていく……かに思えたが、
敵から受ける攻撃エネルギーを体内に溜め込み、一気に打ち放つターボメンの技
「アースクラッシュ」によるカウンター攻撃を喰らってしまった!
ダメージのあまり、その場から動けなくなるラーメンマン。
佐倉双葉の悲痛な叫びが轟く中、不死鳥の如く立ち上がり、
戦いを続行するラーメンマンは、かつて自身が完璧超人の座へと昇り詰めるべく、
「聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)」に挑んだ事を思い返していた。
挫折、後悔、敗北、恐怖、絶望。数々の過去を乗り越え、現在がある事……
それが今のラーメンマンを形作っている。そして、完璧超人が持ち得ない、大切なもの……どんな逆境に立ち向かっても決して諦めない、不屈の魂。
倒れそうになる背中を支えてくれる、仲間たちとの固い絆。
幾千もの闘いを勝ち抜き、辿り着いた、揺るぎなき勝利の栄光……それを今、
全身全霊をかけて体現すべく、ラーメンマンは走り出す! 迎え撃つターボメンは
再びアースクラッシュを繰り出し、ラーメンマンを返り討ちにせんとする。
だが次の瞬間、ラーメンマンの秘奥義・骨崩しによって、ターボメンの技が打ち砕かれ、
フィニッシュホールド「九龍城落地(ガウロンセンドロップ)」が炸裂!
かくしてラーメンマンは難敵を見事、打ち倒したのであった……
【廃棄孔突入編 その1】原文:霧雨さん
ついに廃棄孔の位置を特定し突入したCROSS HEROES。
廃棄孔へと通じる孔を通り、長い長い暗闇を落ちていった先に待っていたのは
ただ広く深い空間。
これ見よがしに設置された硝子の階段を下っていった先に広がった光景は、
天宮兄妹にとっては見覚えのあった空間だった。曇天の下、崩落したビル群が広がる港区。
そこに待ち構えていたのは、火の粉と悪霊の群れとかつて戦ったとされる
■■■・■の切り札「■■■■■■」の悪霊再現体「醜悪姫の蠕魔」だった。
悪霊による再現体とはいえ、その強さは凄まじい。
これを何とか下したCROSS HEROESは、偽・港区を後にしさらに
奥へと進んでいくのだった……!
【停戦・丸喜パレス編】
CROSS HEROESと完璧・無量大数軍の果てしなき戦いに
終止符を打ったのは、悪魔将軍であった。
自害したマーリンマンに続き、グリムリパーによって粛清されたターボメン……
味方でさえも敗北者には容赦のない『鉄の掟』を遂行する完璧・無量大数軍の有り様に
戦慄する一同。互いに軽くない傷を負ったまま、両軍は一時停戦を申し入れた。
やり場のない怒りと悔しさを収め、いずれ決着をと誓い合った両軍は、
来る日に備えてそれぞれの拠点に引き上げるのであった。
丸喜拓人、ストロング・ザ・武道、ショッカー大首領の変身するショッカーライダー……
そして、悪魔将軍の語る暗黒魔界の存在……衝撃的な事実が錯綜する中、
CROSS HEROESは世界の破滅に立ち向かうための準備を開始する。
【リ・ユニオン・スクエアの帰還編】
丸喜パレスでの激闘を終え、リビルド・ベースに帰還したCROSS HEROES。
ウルフマンがクラッシュマンとの戦いの後遺症で閉所恐怖症を患い、
戦列からの離脱を余儀なくされてしまうなどすべての問題をクリアできたとは言い難いが、常磐ソウゴの救出、クォーツァーの壊滅、特異点の仲間たちとの合流……
当初の目的は充分すぎるほど達成したといえる。今は傷を癒やし、
次の戦いに備えるべき時だ。
しかし、休息も束の間……次なる戦いの舞台は、幻想郷。
そしてその先に広がる暗黒魔界。
特異点を防衛する者たち、リ・ユニオン・スクエアで待つ
トゥアハー・デ・ダナンの元へと戻る者たち……
それぞれの道へと向かう戦士たちの新たなる戦いが今、幕を開ける。
【丸喜パレス編】原文:AMIDANTさN
激戦模様を繰り広げる丸喜パレスでの戦い。
ペルソナ『アザトース』を顕現させ、優位に立つ丸喜。
それでも尚、叛逆の意思を折らない怪盗団達。
予期せぬ第三の乱入者、そんな彼等と問答を交わすシロウ。
事態は混沌を極めていく…
その最中、失意と共に死に陥り欠けるアビィが再起し、アビダイオーを嗾ける。
これで決まりか、そう思った矢先だった。黒鉄の機兵がアビダイオーを止めたのは。
「廃棄孔第3層:偽・トラオム 4_迫る暗黒の悪剣使 その1」
硝子の階段は、砕けることなく深淵へと続いている。
この先に何が待っているかはわからないが、一つだけ言えることとしては「この最奥に、焔坂たちが待っている」ということか。
地獄への階段を下る、外よりの使者たち。
「一歩一歩近づいては来ているけど……。」
「分かるのか?」
「そんな気がするというか、直感として、というべきか……。」
彩香は、妙な因縁を感じていた。
お互いにひかれあっているのか、一歩一歩焔坂に近づいているような感覚がする。
それは、決戦の時が迫っている合図か。
「おい、前を見ろ。また見えてきたぞ……!」
4人の前に現れた、ぼんやりと光る白い何か。
間違いない。
これは、さっきの偽・港区と同じ”結界”だ。
「あれって、例の結界!?」
「とにかく、あそこに行ってみないとわからないな。」
急いで結界へと向かう。
周囲はよく見ると大地になっていて、その先の階段はない。
「この先は通行止め、と。」
「行くしかないな。」
かくて4人は、再び現れた白い結界に侵入する。
その先に待つのは鬼か蛇か―――。
◇
草原と荒野。
奥地に見えるのは岩肌しか見えない山脈。
そして、否応なく映る黒い靄。
目に付いたものの名を一言で言うと、それしかない。
荒野と草原を黒い何かが走っているのだ。
結界内部という映像(げんじつ)に走るノイズ。
「あれ?ここ……見覚えがある。」
見覚えがあったのはリク。
この風景はどこかで見たことがあったというが、その詳細が思い出せない。
「思い出した……ここは、トラオムだ。」
トラオム。
爆破された希望ヶ峰学園跡地に創られた地獄にして、かつてリクが元の世界から何の気まぐれか呼ばれた地にして、数多もの無名英霊と英雄が永遠の戦争を繰り広げた戦場。
間接的ではあるが、トラオムでの一件がCROSS HEROESと流星旅団を繋げるきっかけとなった。
さしずめ、偽・トラオムというべきか。
「トラオム……確か……希望ヶ峰の。」
「まて、何か来る。」
ペルフェクタリアが何かを思い出そうとしたその時、遠くから誰かが歩いてきた。
かつ、かつ。
薄く硬い金属を大地に打ち付ける音。
生物種がいないはずの偽・トラオムの奥から、誰かが来る。
その正体は、存在しないはずの鎧剣士。
見た目こそクラス:セイバーの無名英霊だが。何かおかしい。
身体がカタカタ震え、剣を地面につけて擦らせながら迫る、歩みもおぼつかない。
取るに足らないように見えるが、その不気味さが逆に怖くなってくる。
「……動くな!一歩でも動いたら撃つ!」
月夜がボウガンを構え、迫る鎧剣士に警告する。
「……かた。」
警告も聞かずに、鎧剣士は迫る。
あまりの不気味さに、一般人は気味悪がってその場を離れようとするのだろう。
「ちっ。」
牽制がてら、ボウガンから一発の矢を放つ。
その矢は命中し、無名の鎧剣士の顔に張り付いた鉄製のマスクを割った。
もしこれが仮面ライダーといった正義の覆面ヒーローの類ならば、それは危機迫る展開か不屈の闘志輝く展開か、悪党の卑劣さが垣間見える展開になりえるのだろう。
しかしそれは「中身が人間であること前提」の話。
「やっぱりそうか!こいつ、悪霊が変身している!」
なにせ割れたマスクから覗くのは人間の顔ではなく悪性に塗れたドス黒い悪霊。
ちらちらと、眼球のようにこちらを睨みつけているのは心臓部位か。
「鎧を纏って、無名英霊に擬態するとは……こいつら段々とかしこくなってきてるぞ!?」
「しかもこいつ、思った以上にデカい!」
「来る!構えろ!!」
『Grrrrrrrrrrr……』
飢えに飢えた、野生の獣のような声。
獲物を捉えんとばかりに唸りを上げ、割れたマスクの罅から己の身体を放出する。
ついには纏っていた鎧を自ら破砕し、その禍々しいも雄々しい姿を現した。
2mはあるんじゃないかという巨大な悪霊が、その体躯と同じ大きさの鉈を手に彼らの前に立ちはだかる。
やがて、鎧に入るほどドロドロだった油のような体も、元の弾性と硬さを得た。
『Ghaaaaaaa!!!』
巨大な異形の怪物が迫る。
是なるは暗黒の悪剣使。
悪趣味なる悪霊が、剣持ちて襲い狂う。
「っ!!」
地面にいる4人目がけて迫る大鉈。
振り下ろされた一撃は、まるで巨人の首を刎ねる為に作られたギロチンだ。
『アレを使う、構えろ!』
「……アレか!」
彩香は、構えていた刀を鞘に納め構える。
再び居合切りの構え……ではなく。
「神態之弐『神喰大蛇』!!」
再び、その剣は巨大で無骨な大剣と化す。
偽・トラオム、偽りに満ちた戦場の夢は未だ覚めない―――。
「名前の無いベッド」
病人を入れたアビダインは速力もそこそこに抑えられ、急遽取り付けられた病室も特別に慣性制御を利かせたVIP仕様となっている。
艦橋以上に快適な空間と化しているのだが、そこに蔓延る空気はこの船の惨状の如く重々しい物となっていた。
「ウルフマンよ…!」
「ははっ、まさかこの俺が閉所恐怖症だなんてよ…笑っちまうぜ。」
やけに乾いた、薄ら寒い笑い。堪らず震えた声を出すラーメンマン。
周囲の目も一切気にかけず、ウルフマンは虚空を見詰めて独り言を続ける。
『ギガギガァ、だとしたら貴様個人が劣っている事になるな?』
「こりゃアイツが言っていた言葉も真実かもな…」
あの時、クラッシュマンから向けられた侮蔑の言葉が脳裏に反響し、鼓動を急かす。
全身を襲う脱力感。
顎から伝い落ちた雫は汗か涙か、それとも血涙か。
それが何であれ、今の彼には止める事は出来ず、ひたすら拭う事しか出来なかった。
言い返せずに口ごもるしかなかった己の無力が腹立たしい。
そしてそんな無力を露呈させたクラッシュマンすら、憎む事も満足に出来ない。
ただただ、言われるがままに受け止める事しか…
「未完の器、か。」
「止めてくださいズラ!こんなウルフマン先輩、見たくないですたい!」
言葉を紡ぐウルフマンに、思わず叫び返すジェロニモ。
出先での療養を終え、空飛ぶアビダインを追いかけてリビルドベースまでやってきたのだ。
ジェロニモには、ウルフマンが斯様な状態になっているのが我慢ならなかった。
「ラーメンマン、お前がウォーズマンからトラウマ貰った時も、こんなんだったんだな。」
「あぁ、確かにあのベアクローのトラウマは、私の生涯を一変させた。だが…」
両の手を握り締め、震わせながらラーメンマンは告げる。
「お前も同じ様に、克服できる。そう信じてる。」
「そうだとありがたいが…な。」
無言の首振り。言外に、自分には無理だと返すウルフマン。
ジェロニモから睨みつけられたウルフマンは、絞り出す様にこう言う。
「ジェロニモ、お前は凄いよな。人間だったってのに、根性一筋でここまで這い上がって、今じゃ完璧・無量大数軍の一人を倒しちまう程だもんな。」
「今のウルフマン先輩に言われても、嬉しくないズラ。早く元に戻って欲しいですたい。」
「そうしてやりてぇのは山々だがよ、今回ばかりは難しいみてぇだ…」
「そんな…」
悲観的な言葉に、ジェロニモの声色が悔しさを纏う。
そんな彼に見せつける様に、ウルフマンは手を刺した。
「見てくれよ、この腕の震え。ただの掛け布団ってだけで、これだぜ?」
「_。」
彼の掛け布団を握る手は、異様な程に震えている。
今度こそ返す言葉をなくしたジェロニモは、ただただ項垂れる他なかった。
「そこまでじゃ、ジェロニモ。」
「ドクターボンベ…!」
そこに待ったを掛けたのは、部屋に入ってきた超人医師ドクターボンベだった。
ジェロニモと同行し、『ある者』と同様にこの船に乗り込んだ一人だ。
実際、彼が言う通り今の自分に何を言っても無駄であるとジェロニモ自身も薄々理解していた。
ボンベはボロボロになったウルフマンを一瞥すると、そっと手を当ててその状態を確認した。
「心の傷という物は、そう易々と癒える物ではない。」
ボンベの言葉に、ジェロニモが俯いてしまう。
ボンベは終始穏やかで、しかし力強さを感じる声で語り続ける。
「トラウマというのは言葉で癒える物ではない。傷付けた悪魔や己と向き合う事で、漸く治療が始まる物なのじゃ。」
ボンベの声の重さは、決して楽観的な物ではない事を表していた。
しかし、希望が無い訳でも無い。
そんな彼の言動に感化されたのか、ジェロニモも少しずつ落ち着きを取り戻していく。
だが依然として、重苦しい空気は続いていた。
「…ところでよ、そこのカーテン閉め切った奴は誰なんだ?」
そんな空気に耐えかねたのか、ウルフマンが別の方向へと目を向けた。
そういえば、とジェロニモ達も其方に顔を向ける。
4つベッドの内2つは、ラーメンマンとウルフマンがベッドを使用している。
残り2つの内、1人はカーテンが開いており、空きだと分かる。ネームプレートにも名前は無い。
では、残り一つは?
「あぁ、あそこは確か、私が運び込まれた時には既にカーテンが締まっていたな。」
ラーメンマン曰く、治療狂が手当たり次第に運び込んでは治療し、入れ替わり立ち代わりだったらしい。
詰まる所、今誰がそのベッドを利用しているかは分からない。
「っつー事は、今までの会話全部聞かれちまってたのか…へへっ、悪いな変な話聞かせちまって。」
問い掛けに、返答は無い。ただただ沈黙が支配する、異質な空間。
その後も一切反応は無く。遂に沈黙に堪えかねてボンベが音を上げた。
「少し、失礼するぞ。」
そう言って、カーテンを開くボンベ。
徐々に露わになる中身。その正体は…
「…誰も居ない?」
ベッドには誰もおらず、もぬけの殻。
周囲には隠れるスペースも無く、明らかにそこから人は居ない。
カーテンを開いたボンベはすぐ様その中を探り始めた。
「…いや、確かに誰かが『居た』。」
「ネームプレートが、外されている…!?」
ベッドの下へ手を突っ込んでその空間を探ると、ボンベが何かを掴んだ。
引き抜いて、正体を確かめる。それは。
「そ、その固定具は…!」
「『ギプス』じゃ!『足用のギプス』が残されておる!」
固定具(ギプス)。
ボンベが今握っている固定具は、骨折患者用のギプスである事が示されていた。
「妙じゃ…!足の骨折なら、本来動けん筈。それが、もぬけの殻とは!」
ベッドを隅々まで探すボンベだが、人がいた痕跡は他に見受けられない。
その場にいる全員が、どこか不穏な気配を察知する。
「ジェロニモ!こやつ等のの警護を頼む!」
「えっ?は、はいですたい!」
ボンベがカーテンを閉めると同時に叫ぶ。
今、得体の知れない何者かがこの艦内にいる。
それがボンベの出した結論だった。そしてこの考えが正しければ…
◇
「不味いなぁ、潜んでいた事がバレてしまったみたいだぞぉ。」
空調ダクトの中を、何かが這いずる様に動いている。
SF映画の様に大人一人が入れるサイズのダクトは、今この密航者の味方となっていた。
「だが、いずれはバレる事だ。そこは割り切っておくのが肝要だ。」
空調ファンの生む小さな雑音に紛れ込ませる様に、密やかに語る密航者。
「しかし、仗助や康一君も酷いじゃあないか。『サーヴァント』に『超人』なんて存在と出会ってるなんて。」
周囲には小さな穴が開いており、空調ファンがそこから噴き出す風が唯一の光源である。
男はメモ帳をパラパラと捲りながらページを探る。
「こんな特ダネ、『漫画のネタ』にしない訳が無いッ!念の為メモ帳を2つ持ってきたけど、足りるかなぁ?」
男の顔に笑みが浮かぶ。
それはまるで、獲物を前にした餓狼が如く。
「まぁ良いさ、最悪向こうで買えば済む話だ。通貨通じれば良いけど…超ド級のネタだ、必ず物にしてみせるッ!」
彼が持つネームプレート。
そこには『Rohan Kisibe』と書かれていた。
「界王様もオッタマゲ! 破壊神には手を出すな」
奇妙な密航者を乗せ、超時空戦艦アビダインはリ・ユニオン・スクエアへと帰還した。
一面に広がる青い海、ミケーネ帝国の来襲を告げる赤い空も今はない。
澄み渡る空に、白い雲がゆっくりと流れている。
「おっ、テッサ達だ!」
洋上を往くは、トゥアハー・デ・ダナン。リ・ユニオン・スクエアにおける
CROSS HEROESの母艦である。アビダインもダナンに接舷し、着水した。
「悟空!」
「おう、クリリン!」
ダナンのデッキに、Z戦士達の出迎えがある。
「このヤロー、やっと帰ってきたか!」
「まあな。ミケーネ帝国っちゅう連中はどうなった? おめえたちがやっつけたんか?」
「ああ、それなんだが……」
クリリン、ヤムチャ、天津飯、餃子……皆、悟空たちの留守中に
ミケーネ帝国の侵攻を食い止めてくれた功労者である。
「正直、悟空たちが特異点とか言う所に行っちまってたから、
形勢はかなり苦しい所だったんだ」
悟空は、留守中の事をクリリンたちから聞く。
戦力の大多数が特異点に向かった事もあったが、
何よりもミケーネ帝国が強大過ぎたために、各個撃破される寸前だった。
「だが、突然不思議な奴が現れて……ミケーネ帝国の戦闘獣達を瞬く間に
蹴散らしてしまったんだ」
「へえー、何者なんだ、そいつ? 相当強いんじゃねえか? 今、何処にいるんだ?」
「分からん……強い事には変わりが無いが、目の前にいるはずなのに何故か
そいつの気を探る事も出来ず、ミケーネ帝国の軍勢を壊滅させたかと思えば、
何処かに消えてしまった。その後、赤い空も元通りになり、
ミケーネの出現報告もぱったりと止んだんだ……」
天津飯も、未だにその存在を信じられないようだ。
「悟飯、無事だったようだな……」
「ピッコロさんも……」
悟飯とピッコロ、師弟の再会である。
「特異点で、ボージャックに遭った……お前がやられてしまったと聞いた時は、
もしやと思ったが……」
「そうだったんですか……すみません、その通りです……あの時の僕は、
ボージャックに見逃してもらったようなものでした……」
ロンドンでボージャック、そしてレッドリボン軍の差し向けたクローン悟飯との戦いで
未知なる「獣性」を解き放ったものの、修行不足で鈍った肉体は
その反動に耐えきれなかったのだ。動けなくなった悟飯を救ってくれた
石川五ェ門の助けもあり、どうにかCROSS HEROESの別働隊として
ロンドンに移動してきたペルフェクタリアや日向月美、流星旅団の面々との合流を
果たせたのである。
「あいつらはまだ戻ってきていないのか」
「ええ、まだ……」
その後、ペルたちは幻想郷へと向かい、リ・ユニオン・スクエアへは帰還していない。
未だ向こうで激しい戦いを繰り広げているのだ。
「ミケーネをぶっ倒したっちゅう奴は一体誰なんだろうな……界王様なら知ってっかな? よし、ちょっくら行ってみっか。えーと、界王様、界王様……と」
悟空は額に2本指を当て、精神を集中させて界王の気を探った。
――界王星。
東西南北の銀河を見守る4人の内の1人、「北の界王」。
悟空に界王拳、元気玉と言った奥義を授けた人物である。
「む、むむう……破壊神ビルス様……あのお方が何故わしの管轄する北の銀河……
それも地球と言う辺境にお姿を現しになったのか……!!」
わなわなと震える界王。地球の様子を、彼は千里眼で一部始終眺めていたのだ。
ミケーネ帝国を退けた者の正体……破壊神ビルスの存在を、
北の界王ははっきりと感じ取っていた。
何故破壊神ビルスが、よりにもよって地球に降臨したのか……その理由は分からない。
だが、この星には界王ですら知らぬ何かがあるのは事実であるようだ。
「オッス! 界王様!」
「ぎょえええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーッ!!」
突然後ろから声をかけられ、飛び上がる界王。
界王に気付かれぬうちに悟空は瞬間移動で、界王星までやってきていた。
「なーんだよ、大袈裟だなぁ。そんなに驚かねえでもいいだろ?」
「はあ、はあ……ご、ご、悟空か、びっくりさせおって……まったくお前と言う奴は……」
「それよかさぁ、界王様。地球の様子見てたろ? ミケーネ帝国をぶっ倒した奴の事、
知らねえか?」
「!! 悟空、何故お前がそれを知っておる!? まさか……!!」
界王は顔を真っ青にして悟空に問い詰める。
「やっぱ知ってんか? そいつ、何処にいるんだ?
いっぺん会ってみてえんだけどよ……」
「ならーん!! いや、あのお方は超特別でな。会う事はおろか、
名前を呼ぶ事すら許されておらんのだ」
「教えてくれよ、界王様。頼む!」
悟空は界王に頼み込む。だが、界王は首を縦に振らなかった。
これには理由がある。破壊神ビルスの名前を迂闊に口走ってしまう事を恐れているのだ。
何故ならば、破壊神ビルスは神の世界ではかなりの有名人である。
その名を知らぬ者は居ないほどに……だ。
下手をすれば、不敬であると取られてしまう可能性が高い。
そうなれば、気分次第で星を、宇宙をも壊す破壊神ビルスである。
界王星とて例外ではない。寧ろ、現在のようなサイズになってしまったのは
その昔かくれんぼで負けた腹いせにビルスが星を破壊したためなのである。
「……決して、関わらないと約束できるな?」
界王が念を押す。悟空もそれを受けて頷いた。そして、界王は口を開く。
「破壊神ビルス様……界王神様と対をなす、破壊の神じゃ。
永き眠りについておられたはずじゃが、突然目を覚まされ、地球に降臨なされた」
界王の話を聞いた悟空は、驚愕した。
「ミケーネ帝国は、機械の体を持つ神々の種族じゃ。
太古の昔に人類を支配すべく地上を侵略し、暴れ回ったが……とは言え、
この宇宙に何万、何億と言う数の星々の中から、何故ビルス様が直接地球に
降りられたのか、わしにも分からん。
だが、ビルス様の持つ力の一端を垣間見る事はできた……もっとも、
その力はまだまだ底知れないが……」
「ふーん……何か良く分かんねえけど……やっぱ、強えんか?」
悟空の問いに、界王は頷いた。
かつて死闘を繰り広げたブウの比ではない。ビルスの力はまさに破壊そのものを
具現化したような恐ろしいものだと言う。
故に、ビルスの名前は口に出す事すら許されないのだ。
「良いな? ビルス様が今、何処におられるのかはわしにも分からん。
だが、絶対に、ぜぇ~~~~~~ったいにビルス様には会ってはならんぞ!?
もしも万が一にもビルス様の怒りを買うような事があれば……」
界王はぶるぶると震えだした。顔からは滝のような汗が噴き出ている。
ビルスの恐ろしさが、ありありと窺えるかのようだった。
「地球の連中にも決して口外はするでない。良いな!?」
「わ、分かったよ……サンキューな、界王様」
しがみつくように懇願する界王に、悟空はこれ以上の追及を諦めざるを得なかった。
悟空が地球へ瞬間移動していくのを見届けると、界王はへなへなとその場に座り込む。
「やれやれじゃわい……」
「Vengeance Bullet Order Ⅴ:因縁は深く遠く」
数分前
「ちくしょう!あの野郎……!!」
「落ち着け、回収のチャンスはまだある。」
丸喜パレスを出た後、モードレッドと獅子劫はリ・ユニオン・スクエアに出て、東京の港区を歩いていた。
冷静さを持っていう獅子劫に対し、モードレッドは義憤の念に駆られている。
目的の聖杯も獲得できず、嘲笑もされては怒りに駆られるのも無理はない。歯ぎしりが止まらないモードレッドの顔は、一見すると怒れる修羅のようにも見える。
「いや、そうじゃなくて……笑われたのもそうだがもうちょっと暴れられると思ったんだよもーーーー!!」
と思いきや、怒りの理由の嘲笑されたことよりも「もうちょっと暴れたかった」という、あまりにも子供っぽい理由だった。
それには獅子劫もつい笑ってしまう。
「そっちか。お前らしいと言えばそうだが……。」
「ああ、それもムカつくし笑われるしで散々だぜ……あの野郎、次会ったらぶちのめしてやる!」
腕をぐるぐる回しながら、ぶつくさと丸喜達への恨み言を吐き出す。
『次会ったらぶちのめす。』という如何にも小物くさい台詞も、モードレッドが言えば妙に『できそう』な気もしてくる。
「ははは、その元気を次会った時にぶつけてやれ。」
獅子劫は、どこか嬉しそうだった。
この調子なら、近い未来に待つ彼らへのリベンジもできるであろうと。
そんな2人の姿は、まるで親子のようだった。
◇
「……」
日本の港区、某ホテルの一室
謎の組織『SPM』のリーダーである『N』はそこにいた。
短い白髪をいじくりながら、慣れた手つきでサイコロの城を作っている。
(獅子劫曰く、聖杯の回収は失敗したという。エネルギーも回収ないし破壊もできなかった点から、相当にてこずるような敵と遭遇したとみるべきか……。)
プルルルル……
そこに、同胞であるファルデウスからの連絡が入った。
電話に出て、Nは獅子劫達の行動を伝える。
「はい。」
『もしもし『N』。獅子劫からの連絡は?』
「さっき来ましたよ、回収失敗だそうです。何でも、理由は悪魔将軍の停戦協定だ
とか暗黒なんたらが攻めてくるとかなんとか。」
超人、悪魔将軍、完璧超人、暗黒魔界、理想の世界。
一見するととても信じられない言葉の数々。
ありえないことと常に向き合っている魔術師とて、実際それ以上の「ありえなさ」を目撃してしまえば多少の驚きはあるというもの。
ファルデウスも、ため息交じりに返答する。
『……超人は私が知っているとしたら精々テリーマンや彼と仲のいいキン肉マンと言った有名どころしか知らなくて……それだけならまだしも、暗黒魔界という異世界もあるとは。』
「ええ、私もその点については信じられるかどうか……超人はロビンマスクや悪魔将軍の実在から個人的には調べてはいました。サーヴァントや魔術師の存在も獅子劫らとの邂逅で信じられましたが、まさか異世界の存在も信じることになるとは。」
『……とにかく、こちらはどうにかジャバウォック島に上陸しました。守衛していた連中は倒しましたが、依然警戒はしています。『例のもの』の回収はいつ行いますか?』
「そうですね、そちらの判断に任せます。」
『分かりました。』
通話を終えたNは思案する。
様々な情報が映されたモニターに囲まれ、その情報をまるで聖徳太子のように聞きながら頭の中で整理してゆく。
「我々の目的は『ソロモンの指輪及び、メサイア教団が集めているエネルギー凝縮体』の破棄を前提とした回収。そして『メサイア教団幹部及びスポンサーの逮捕』。まさかあの日逃がしてしまったあの男がここで効いてくるとは……。」
過去を思い出す。
倉庫での決戦の後、魅上は確保され静かに死刑を待つだけだった。
しかし、彼はその数日前に発狂。そして……。
「死刑前夜に突如失踪。表向きは発狂死として処理されたが、事実は行方不明。今はメサイア教団に潜伏している。教団を止めるためにCROSS HEROESなる組織が動き始めているが……まずは彼らに接触すべきか。」
「それぞれの地平を見据えて」
悟空が界王星から戻ってきた。
「どうだった? 何か分かったか?」
「え? い、いやぁ……それがよ……」
悟空は言葉を濁す。破壊神ビルス……界王から聞いた情報をそのまま
伝えるわけにはいかなかった。
(む……?)
ピッコロにはすぐに悟空の様子がおかしいことに気付く。
「界王様、昼寝してたみてえで地球の様子は知らねえって……」
「な、なんだそりゃあ……!?」
悟空の言葉にクリリンがガックリと肩を落とした。
「は、はは……」
(孫の奴……界王様と何か話したな。その上、あの態度……
どうやら言おうにも言えんことがあったと言う事か……)
ピッコロは何か引っかかるものを感じたが、嘘など悟空には似合わない。
恐らく、界王に何かを口止めでもされているのだろうと結論づける。
「……何? ドラゴンボールが?」
ベジータはブルマから話を聞いて驚いた。
「そうなのよ。色々大変な事が起こってるからさ。
ドラゴンボールが必要になるかな~って思ってレーダーで探してみたんだけど……
反応がなくて」
ため息混じりにブルマが続ける。ブルマはレーダーを地球上に向けて
発信してみたのだが、全く反応はなかった。
「俺たち以外にドラゴンボールを集められる輩がいるのか……?」
「まあまあいるぜ? レッドリボン軍に、ピラフ一味に……って、ロクな奴がいねえな。
悪い事に使われてなきゃいいけどな……」
ベジータやヤムチャ達はまだ知らない。暗黒魔界の使者たちがドラゴンボールを
既に回収してしまっている事に……。
「じゃあ、父さんやピッコロさん達もこれから幻想郷と言う場所に……?」
「ああ、ちょっとな。ソウゴやゼンカイジャーの連中はこっちに残ってくれっからよ」
「それは助かりますが……」
悟飯と悟空が今後の動きについて話している。
またもや未知の世界へと足を踏み入れる事になるのだ。
「お前も忙しないよな。特異点から帰ってきたと思ったらまた違う
世界に行っちまうんだから」
クリリンが悟空に言う。
「ふっ……昔から孫はそう言う奴だ。
いつも俺たちの想像も及ばない次元に行っちまいやがる……」
天津飯が懐かしげに笑う。
悟空はいつの間にか、いつも世界の外側から物事を見ているのだ。
そして、その外側の視点を自分達に教えてくれる……
それが自分達にとってどれほど心強く、支えになった事か。天津飯は今更ながらに思う。
出会った時は敵同士だった。
暗殺者を志し、優しい心を捨てた筈の自分が悟空や仲間達との出会いによって変革を迎え、
そして現在の自分がある。
「こちらの事は任せろ。お前は自分のやるべきことを成し遂げて来い」
「へへっ……ああ!」
天津飯の言葉を受けて、悟空はニッと快活な笑顔を見せた。
「トゥアハー・デ・ダナンはこれから日本近海へ向かうらしい。
神浜に寄る時間も少しならあるんじゃあないか?」
テッサとのブリーフィングを終えた承太郎が艦内から出てくる。
「神浜に?」
いろはは驚く。神浜……フェリシアや鶴乃らが待つ自分達のホームグラウンドだ。
「それは助かるわね……これまでの戦いで、結構グリーフシードの予備を
使ってしまったから……補充できるならしたいんだけど」
やちよも安堵の息を漏らす。
港区に特異点と、神浜の外への遠征が重なってしまった為、
連戦に次ぐ連戦で魔法少女たちはグリーフシードの予備を消耗していた。
このままでは魔力不足に陥るかもしれない。これまでの戦いを考えると、
今後の戦いでは自分達は出し惜しみなしで戦うことになるだろう。
だからこそ、グリーフシードの備えを万全にしておかなくてはならないのである。
「そう言う事なら、艦長に掛け合ってみよう。君達も来るか?」
承太郎が提案し、テッサに神浜市への寄港許可を貰いに行く魔法少女たち。
「んん~~~~っ……やっぱ海の上ってのは良いよなァ、ゾロ!
特異点は陸続きだったからよォ……」
「ああ、まったくだ。海ってのは良いもんだ」
ルフィとゾロはそんな事を言いながら甲板で伸びをしている。
「しっかし、空飛ぶ船の次は海に潜る艦か……当たり前みてェにいろんな事が
起こりやがる……何がどうなるやらわかったもんじゃねェな、この世界は……」
ゾロが目を細めて言う。これまで、転移先である特異点で過ごしてきた日々も、
彼にとっては驚きの連続だったが……このリ・ユニオン・スクエアもまた、
ゾロにとっては想像だにできないような出来事に満ち溢れている予感がしていた。
「でも、楽しいだろ?」
ルフィは満面の笑顔で返した。ゾロも頷く。
(ああ……この世界は本当に飽きねェな)
そんなやり取りをしつつ、二人は海原の風と匂いを楽しむ。
各々、次なる目的地に想いを馳せ、異なる地平を見据えていた。
「『密航』をするッ!」
アビダインの密航録を新たに更新した岸辺露伴。これで3度目である。
彼が何故、アビダインに足を踏み入れることが出来たのか?
時間は、少しばかり遡る。
◇
それは、アビダインが特異点より飛び立つ少し前の事。
リビルド・ベースでは、引っ切り無しに病人の搬送や怪我の治療が行われていた。
同時に進む、リビルド・ベースの建設作業。
それらは、互いを余り知らない者達で行われている。
そうして人が無差別に行き交う状況となると、どうしても出てきてしまう物がある。
それは、隙。
「ここがあの飛行船が止まっている場所かぁ、中々に『堅牢』じゃあないか。」
ここ特異点に来てからは、一部を除いてろくに会話も出来ず終いの仲という物がどうしても発生している。
するとどうだろう。名前も知らぬ、或いは顔見知り程度の仲の人間が行き交う事となり、どうしてもセキュリティが曖昧になる。
無論、悪意ある第三者を許す程の物では無い。
だが裏を返せば、意図した悪意が無ければ入り込める程度の隙はあるという事になる。
例えば、そう。
「空条承太郎が来ているみたいだし、良い『特ダネ』がありそうだなぁ~!」
彼、岸辺露伴の様な、漫画のネタに飢えているだけの男だ。
堂々とリビルド・ベースへ向かう様は、遠目からは誰の不信感も抱かせない。
その態度には、理由があった。
「承太郎の名前を出せば、『取材』位は出来るだろう…『善は急げ』だ、早速申し込むとしようッ!」
そう、一応関係者と言えなくも無い事だろう。
この曲解された事実が、彼自身の行動を正当化させる。
そして正当ならば、何ひとつやましい事は無い!そんな思考が、露伴を突き動かしていた。
「意外と古風な基地だなぁ。いや、見た所『再建』している途中かな?」
好奇心の赴くまま、リビルド・ベースの中へと足軽に入って行く露伴。
無垢な子どもの如く目を輝かせる様は、まるでもう取材が出来る前提のよう。
実際、取材が通る事を信じて疑わない顔付きだ。
「どれだけ取材出来るかなぁ~?もう楽しみで仕方がないぞぉ!」
あまつさえ口に出す始末。
鼻歌混じりに入口まで足を踏み入れる露伴。
だがそこに、待ったを掛ける人物が現れた。
「おい、そこの男。どう見ても関係者では無いな?ここは立ち入り禁止だ。」
深緑色の髪を揺らして立ち塞がったのは、サーヴァント『アタランテ』だ。
ギリシャ神話において、女狩人として名を馳せた大英雄である。
並の人間が太刀打ち出来る存在ではない。事実、露伴も思わず足が止まってしまった。
だがすぐに気を取り直すと、露伴はアタランテへと向き直った。
「いや、僕は承太郎の知り合いでね。取材に来たんだ、案内を頼むよ。」
子どもの様に、顔いっぱいに笑顔を貼り付かせる露伴。
嘘は何一つ言っていない、寧ろ真実だけで満たされた言葉だ。
笑顔だって、特ダネの取材と言う餌を目の前にしての笑顔、故に本心からの物。
なのだが。
(何だ、この男…嘘は言ってない様だが、それにしたって胡散臭い…)
大の大人がするには、余りにも不釣り合いな行動だ。
結果的に、アタランテの警戒心をより強める効果しか生まなかったようだ。
アタランテは溜息をひとつ溢して、面倒くさそうにこう告げた。
「…悪いが今、取材を受け入れている暇は無い。」
「あぁ?そんな物、知らないね。僕は『取材に来た』と言っているだろう?」
半ば脅しに近いニュアンスに、思わずムッとするアタランテ。
だがすぐに平静に戻ると、アタランテは強い語気で言い放った。
「だから『取材』は受け入れられないと言っているっ!」
有無を言わせない態度だった。
これには露伴もムッとしていた表情が固まり、そして一瞬の沈黙が流れた。
アタランテが、継ぎ足す様に言う。
「承太郎の知り合いなのは分かった。だが今は駄目だ、相手をしている暇は無い。」
「…そうか、解ったよ。」
呟く様にそう言うと、露伴は踵を返して入口へと歩いて行く。
(素直に引き返すか…良かった。)
◇
(取材出来ないだと!?冗談じゃあない!)
そんな事は無かった。
追い返された露伴は適当な所で身を屈め、蒼白した顔つきになる。
自分勝手な憤怒に駆られ、露伴は一人ドス黒い内心を渦巻かせていた。
(この僕が、岸辺露伴が『取材』すると頭を下げて言っているんだぞ!?承太郎の関係者だと分かっているのに、何故受けない!?)
頭を下げた事実は無い。
だが今の露伴は、そんな事なぞ気にも留めていない。
完全に逆恨みであり、筋違いの怒りを抱いていた。
(だが時間が無い!今はアイツをどうこうするよりも、何としても取材を取り付けねばッ!)
露伴の耳には届いていた、アビダインの静かな駆動音が。
即ち、取材のタイムリミットが、音を立てて迫っている事を肌で感じ取っていた。
これを逃せば二度とあの船には近づけまいと、本能で分かっていたのだ。
(どうする!?あの摩訶不思議な船だけは絶対に逃したくない…!)
既に露伴はあの船が只者ではない事を理解している。
まさしく漫画のネタに他ならない! そんなチャンスを逃す事なぞ出来る筈が無い!と、持ち前の好奇心が彼を動かす。
(どうにかして…どうにかして取材をする方法は無いかッ!?)
成さねばならない。絶対にやってやる。
そんな使命感に駆られ、当たりを見回す露伴。
そうして目に入ったのは、意外な物だった。
(…何だ?あそこは。野戦病院?それを船に…?)
白地に赤十字が描かれた、簡易的なテントだ。
距離こそそれなりにあるが、それは間違いない。
それを、船の一角に溶接している光景が見て取れた。
(もしかしたらアレは…治療が必要な怪我人の為なのかッ!?)
そう思った所で、露伴の脳裏に電撃が走った。
正に目から鱗だ!どうしてその発想を思いつかなかったのか……!
そんな想いで頭が一杯になる露伴。
(病人のフリをすれば、『密航』という形で中に入り込めるッ!)
彼が思い至ったのは、半ば黒と同義のグレーなやり方だった。
それを天才的な閃きだと内心で自画自賛する露伴。
(そうなれば間違いなく取材が出来るッ!そうなれば僕の漫画は完成する…くっくっく、は~はははぁ~~ッ!)
彼が放つ意志は、決断的だった。
(決めたぞ、『密航』をするッ!)
「岸辺露伴 リ・ユニオン・スクエアへ行く」
――特異点、リビルド・ベース。
「みんな行っちまったな……」
仗助と康一は特異点に留まり、リ・ユニオン・スクエアに帰還していったアビダインを
見送りながらつぶやく。
「ところでよ、露伴先生はどうした?」
「さあ……まだ漫画の執筆で仕事場にこもってるんじゃない?」
特異点に出現した杜王町……そこには当初住民の気配は無かった。
仗助も自宅の玄関を開けて外に出てみるまで、康一くらいにしか
見知った顔が居ない事に気がつかなかった。
いるのは見知らぬモンスター、そして自分たち同様に別の世界から
特異点に引きずり込まれた者たち……
しかし、だんだんと特異点に滞在する時間が経過するにつれ、
ひとり、またひとりと住民達が特異点に転送されてくる。
気がつけば、いつの間にか無人の杜王町は人でいっぱいになっていた。
人間の適応能力とは恐ろしいもので、最初は戸惑っていた人たちもやがては
自然と生活に溶け込んでいく。
クォーツァーとの最終決戦に至っては、CROSS HEROESを応援する掛け声が
あちこちで挙がっていたほどだ。
「露伴先生を見つけた時は、外の様子にまったく気がついていなかったもんね」
漫画原稿の執筆に没頭していた岸辺露伴は、自分が特異点に転送された事は勿論、
外の状況などまったく気がついていなかった。
『邪魔をするんじゃあないッ!! 東方仗助ッッ!! 今、僕は忙しいッ!!
君の相手をしている暇はないんだッッ!!』
人の気配が無かった杜王町の調査をしていた際、
露伴の自宅を訪れた康一と仗助が見たのは、ひたすら原稿を描く露伴の姿だった。
元々、仗助とウマの合わない露伴である。
締切に追われていたところに邪魔が入ったため、彼は冷静さを欠いていた。
『原稿が終わったら相手してやる! とっとと帰るんだなッ!!』
説明しても恐らくは無駄だろうと判断した二人は、露伴を放置し、
CROSS HEROSと行動を共にするようになって、今に至る。
だが、仗助と康一は知らない。激化する戦いの最中、原稿執筆から解放された露伴が
次なる漫画執筆の取材のために特異点を飛び越え、あまつさえアビダインに密航して
リ・ユニオン・スクエアに行ってしまった事を……
「外じゃあとんでもない戦いが起きてたってのに、それにまったく気づかず
漫画描いてたって言うんだからな……ったく、呑気なもんだぜ」
「ま、露伴先生らしいと言えばらしいけどさ」
「おっすー、ジョジョー! 何やってんのー?」
清少納言ことなぎこが、手を振りながらこちらにやってくる。
「おう、なぎこ。いや何、変わり者の漫画家先生の話をよ……」
「え? 誰のこと? 教えて教えて!」
「ああ、あれは……」
仗助は、なぎこに自分たちの知る岸辺露伴について話し始める。
「へー、おもしろ! その先生、杜王町にいんの?」
「そのはずだけどな……でも、追い返されるのがオチだと思うぜ。
なぎこみたいな陽キャタイプ、偏屈な露伴先生とは正反対だもんな」
「まったく……」
「あれ?」
ぶつぶつと、アタランテがつぶやきながら歩いている。
「アタラっちだ!」
「ア、アタラ……? 我の事か……相変わらず珍妙な呼び方をする……」
なぎこの呼びかけに、アタランテが足を止めて応じる。
カルデアのサーヴァント達に所構わずニックネームを付けて回るのも
なぎこの日課だ。
「おなクラ(※同じサーヴァントクラス)同士、仲良くやろうぜィ!」
清少納言と、アタランテ。共にアーチャーとして召喚された二人。
「アタランテさん、どうかしたんですか? 何やら不機嫌そうですけど……」
康一が心配そうに声をかける。
「うむ、不機嫌と言う程ではないが……先程、妙な男が『取材をさせろ』と言って
この拠点に入ってこようとしたのだ。
『空条承太郎の関係者だ』などと嘯いてな……だが心配は要らん。我が追い返した」
「おー! グッジョブ、アタラっち!」
「だからその呼び方はよしてくれ……」
馴れ馴れしく肩を抱いてくるなぎこに、アタランテはため息を漏らす。
やはりなぎこのこのノリは苦手だ。いや……嫌いというわけではないが、
こちらのペースを乱されるのは苦手だ。
「承太郎さんの関係者、だなんて……怪しい奴ですね」
「ああ、クォーツァーはぶっ潰したが、これから戦わなきゃならねえ奴らは
他にもたくさんいるはずだからな。もしかしたら、スパイかも……」
そのスパイ容疑をかけられた怪しい男こそ、何を隠そう岸辺露伴本人であった事など、
無論、彼らは知る由もない。
「アビダインが出発するって時だったし、何事も無くて良かったよ」
「まったくだな」
仗助は康一の言葉にうなずく。そして、その岸辺露伴がアビダインに
密航済みである事も、当然……
「俺たちも、気を引き締めとかなきゃだな。承太郎さんにこっちの事を
任されたわけだしよ!」
「そうだね」
「うっしゃあ! あたしちゃんも頑張るぞー!! ほら、アタラっちも!
えい、えい、おー!!」
「お、おー……?」
「廃棄孔第3層:偽・トラオム 5_悪夢は依然序章に過ぎず」
幻想郷を進撃する悪霊は依然消えていない。
そればかりか、幻想郷の住民が抵抗するたびにその勢いを上げていっている。
人間の悪性を少しずつ喰らい、その戦闘力と数を増やしていった結果、5万だったはずの悪霊は今となってはその数100万を超え始めた。
悪性を捨てればいいじゃないかとはよく言うが、それは魔法を使っても叶えられない業。
「ジキルとハイド」の例があるように、人間がいかなる手段を講じても心の中の「悪」を切り離すことはできないのだから。
「何か、増えてないか!?」
「連中本気出しやがった!」
「何弱気になってんだ!奴らも追い詰められているってことだ!やるぞ!!」
人間の里の住民たちも奮起する。
ここで諦めるわけにはいかないと武器を持ち、悪霊に向けて放つ。
依然、夜明けはこない―――。
◇
偽・トラオム。
曇天が満ちた偽・港区や未だ真夜中の幻想郷とは異なり、こちらの天気は澄み切った空が特徴的な夕方。
夕暮れ空が印象的過ぎて、外の時間とここの時間の差で時間感覚が狂ってしまいそうだ。
そこに、まるでシンボルのように存在する巨大な悪霊。
暗黒の悪剣使。
鎧を突き破り出現した怪物と今対峙している。
「はあああ!!」
彩香は大剣の形に巨大化させた神體を、悪霊の持つ大剣にぶつける。
およそ女性が持ち得る事のない筋力に悪剣使も手を焼いているのか、軋んだ歯車のような音を上げながら大剣を持った手を力ませてゆく。
巨大な体躯を持っている悪剣使に対し、じりじりと体力を削られてゆく彩香の顔にも力が籠る。
「今だ!」
「行くぞ月夜!」「こっちだ!」
たった一人で戦っていればここで打ちとめ。
しかして今は彩香一人で戦っているわけじゃない。
非力な人間でも、力を合わせることでこのような巨大な敵も倒すことができるのだ。
放たれた光弾と榴弾によって、悪剣使の赤核が露出する。
悪剣使も対抗して、手に持つ大鉈を盾のように構えて迫る。
間合いを測り、強烈無比な一撃を放つつもりだ。
「来るぞ……!」
勝利を確信した悪剣使が、大鉈を振り下ろさんとする。
その一瞬、露出した赤核を彩香は見逃さなかった。
『耐えろよ彩香!』
「分かってる!」
跳躍。
己の身を槍とし、悪剣使の赤核に突撃する。
当然その体には呪いの油がかかっており、触れれば彩香は無事では済まないだろう。
「バカな!死ぬ気か彩香!?」
「大丈夫だ。彩香は死なない。」
ペルフェクタリアのいう通り、呪いの油にも弱点はある。
ディルムッドの時のように「強力な対魔力スキルがあれば」無効ないし時間経過による緩和・治癒ができる。
それだけじゃない。今回は―――。
「永琳という者からもらった『対悪霊用血清』があるだろう。これがあれば暫くの間悪霊の油を無効化できるし治癒も可能だ。」
「つまり、彩香はそれを飲んだから今は無効化できる、と。ビビるぜこりゃ。」
「そんなに数は用意できなかったけど、ある程度の無茶はできるよ。」
パーカーについた油を落とし、
突貫攻撃を喰らい、巨大な赤核が砕け散る。
悪剣使は黒い塵となって霧散した。
黒いノイズと共に、その塵は飛んで行く。
「倒した……でも……。」
「手ごたえがないというか、さっきのアレと比べて妙に弱いというか……。」
「終わりでは、ないな。」
しかして彩香とリクは困惑していた。
こうも、あっさりと終わっていいのか?もう一波乱ありそうなものだったのに。事実として、トラオムの結界は未だ消えていない。
――まだ、鍵となる敵がいる。
「この結界もまだ残っている以上、もう少し探索してみる必要がありそうだ。行こう。」
◇
博麗神社。
幻想郷の最終防衛ライン。ここを突破されれば敗北は必至。
当然のごとく、ここにも悪霊は出ている。
「霊夢、ちょっと耐えててくれる?」
「耐えるって、いいけど……援軍でも呼ぶつもり?」
「ええ。すぐ戻ってくるしいいでしょ?」
「……5分で戻ってきなさいよ。」
「5分もかからないとは思うけど、里の連中アレに耐えられるかしら。」
霊夢は、遠くを睨みつけるように第2陣の悪霊を見ていた。
その量は妖怪の山の頂上から6合目付近までを、まるで噴火して流れ込む溶岩のようにすっぽりと覆っていた。
その数は目測だけでもおよそ200万体以上はいる。
それだけじゃない。
魔法の森
「ちょ……!?何だよこいつ!!」
突如魔理沙の前に出現した、巨大な鉈を盛った悪霊。
さっき偽・トラオムで戦っていたはずの暗黒の悪剣使が顕現する。
突然の大物の出現に、魔理沙も驚愕を隠し切れない。
「こいつを、私一人で倒せってか!?」
幻想郷を覆う悪夢は依然序章。
果たして、八雲紫は間に合うのか―――!?
「サーヴァントたちの事情」
――リビルド・ベース。
丸喜パレスから帰還したアビダイン隊に一時同行する形で
リビルド・ベースにやって来たSPMのエージェント……
獅子劫界離とそのサーヴァントである、モードレッド。混乱を防ぐため、
面会は藤丸立香、マシュ、そして映像端末越しのダ・ヴィンチの三人で行われた。
「なーにジロジロ見てんだ、コラ!」
立香とマシュに、モードレッドが威嚇する。
「い、いえ、すみません……モードレッド卿!」
「マスターに危害を加えようとするならば……私が許しません」
そして、もうひとり……
「げ!? ち、父上……」
モードレッドは、もうひとりのサーヴァントを見て顔を青くした。
アルトリア・ペンドラゴン……またの名を、アーサー王。
ブリテンを統治した王であり、アルトリアの因子を組み込まれた
ホムンクルスとして誕生したのがモードレッドだった。
つまり、彼女らは事実上、血を分けた親子と言う事になる。
「なるほど……確かに、『あれ』に瓜二つですね」
「お、おい、マスター! カルデアに父上がいるなんて聞いてねぇぞ!
ま、まあ、でも父上だけど、父上じゃないっつーか……あー、ややこしいな!!」
モードレッドが獅子劫の巨体の陰に隠れる。
英霊の威厳はどこへやら……まるで、隠れんぼをしている子どものようだった。
「……と言う訳だ。サーヴァントとは人理に刻まれた存在。その召喚方法は様々だが……
基本的には姿かたちは似通っていても、召喚される度に違う存在として現れる」
つまり、カルデアに所属するモードレッドと獅子劫が召喚したモードレッドは、
円卓の騎士である事、アルトリアの因子を継ぐ者、そして叛逆の騎士へと至った事……
など、「モードレッド」と言う人物を構成するパーソナル情報を共有してはいても、
厳密には同一の存在ではないという事だ。
『カルデアには英霊を召喚し、使役出来るマスターは藤丸くんただひとりだったからね。
CROSS HEROESからの情報によれば、シャドウサーヴァントを人為的に発生させる
発明をしたメサイア教団の科学者・ビショップ、
現地のサーヴァント・燕青と契約した流星旅団のマスター、
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。サーヴァントである
ジェームズ・モリアーティが単独で顕現し、構成員のひとりとして組織されている
ニュートラル・ガーディアンなど、何件か特例は存在していた。
それに加えて、君たちSPMか……』
ダ・ヴィンチの眉が険しく寄る。そして、再び獅子劫の方を向くと……
改めて、三人を凝視する。視線は頭から爪先まで一往復すると、煙草に火を点ける。
ゆっくりと煙を吸い込むと、再び口を開いた。
「それなりに調べはついているようだな。流石だ、カルデア」
「では、お二人も我々と協力し、人理修復のために力を貸してくれると考えて
よろしいのでしょうか?」
マシュの質問に、じじじ……と獅子劫が咥えた煙草から灰が地面に落ちた。
靴で燻る火を踏んづけると、
「いんや。そいつは無理だな」
はっきりと、そう言い放った。
「……それは、どうしてですか?」
「俺たちには俺たちなりの使命がある。そのために、俺たちは別行動を取らせてもらう」
「使命……とは?」
「俺たちがここに来たのは、アンタらカルデアがどういう連中なのかを見極めるためだ。
敵対行動を取るつもりはハナから無かったが、その事を直に伝えておこうと思って、な」
SPMにはカルデア・CROSS HEROESと敵対する意志はない、
さりとて共闘するつもりもないことを、獅子劫は確認する。
丸喜パレスにて両者が相対した際も、基本的に敵対行動は一切とっていなかった。
あくまで本命である「大聖杯」を奪取すると言う共通目的の下、
それを達成するために一時的に共に行動していたに過ぎなかった。
可能な限り戦闘を避けつつ、目的を達成するには共闘するのが最善策であろうと
判断したのである。とは言え、獅子劫たちが完全に味方と言う訳ではなく、
カルデアとはある程度の距離を置くという前提は変わらないようだ。
「俺たちから言えるのはこれくらいだ」
「え、でも、それじゃ……」
それまで口を閉ざしていた藤丸が口を開いた。
何か言いたげな様子ではあるものの、どこか自信無さげに口籠っている。
「メサイア教団をぶっ潰す……その点においては、いずれ共同戦線を張れると思うがね」
獅子劫は顎髭をさすりながら、チラリとカルデアの三人を一瞥すると……
背を向け、片手をひらひらと振りながらリビルド・ベースを後にした。
「あばよ、カルデア! オレたちの邪魔だけはするんじゃねぇぞ!」
「……」
ぎろり、とアルトリアに睨みつけられ、モードレッドが気まずそうに視線を逸らす。
「うへっ、べ、別人とは分かってても、父上の顔は怖ぇぜ……」
モードレッドが身体をぶるりと震わせる。同じ人物でも環境によって
在り方は変わるとは言え、やはり根底にある父への恐怖は、
そう簡単に拭い去れるものではなかった。
モードレッドは、獅子劫の後を追うようにそそくさと立ち去って行く。
『やれやれ……SPMか。敵でないのは幸いだが、またしても新しい勢力の登場、か』
ダ・ヴィンチがカルデア司令室の椅子の背もたれに体重を預けると、ギシリと軋んだ。
「ひゃっほーっ!!」
SPMの会談を終えた立香達がリビルド・ベースの敷地内に戻ると、
いつの間にか建造されていたレジャープール施設の波乗り用プールで、
ビキニ姿のモードレッドが大はしゃぎしていた。
「……」
「おう、マスター! 何処行ってたんだよ、お前らも早くこっち来いよ!」
モードレッドがぶんぶんとプールの中から立香たちに向かって大きく手を振っていた。
「……サーヴァントは、召喚される毎に皆、別人……でしたね」
先程まで話していたSPMのモードレッド、そして今、目の前で波乗り遊びに
夢中になっているカルデアのモードレッド……
見た目と性格・振舞いは共通していれど、中身は全くの別人であった。
クラスもセイバーからライダーへと変化している。
サーヴァントとはそういう存在であると理解し納得はしていたが……
やはり、妙な感覚に陥る。
「あれ、どうしたんだ、父上? 顔が怖ぇぞ?」
波乗りを止めて、プールサイドに戻ってきたモードレッドが、
アルトリアの不機嫌そうな表情を心配そうに覗き込む。
「――たるんでいます! なんですか、その水着は!」
アルトリアがモードレッドのビキニを見て激昂する。
「な、何怒ってんだよ、父上? 水着くらい、自由に着たいもん着させてくれたって
良いじゃねぇか」
モードレッドの着る、赤い三角ビキニは露出度が高く、健康的な肌色が眩しく、
水に濡れれば肌にぴっちりと貼り付き……
「そう言う事を言っているのではありません! 騎士たるものが
そのような肌を露出させた格好でのんべんだらりと水遊びなど……
SPMの貴方に顔向けが出来ますか!」
「何だよSPMって!?」
カルデアのモードレッドからしてみれば、訳の分からない言いがかりにしか
聞こえなかった。
「ヘブンズ・ドアー」
時間は更に遡る。
◇
ある一軒家の一室に、男がいた。
男は机に向かい、ひたすらに作業を続けている。
「……」
静寂な部屋に溶ける様に響く、カリカリという紙を掻く音。
Gペンにインクを染みわたらせ、原稿用紙に漫画を描いている音である。
静かに、しかし多重に重なって聞こえる程素早く筆を滑らせる音の主は。
(仗助達が来た時は間に合うか心配だったが…案外『間に合いそう』じゃあないか。)
やはり、岸辺露伴であった。
彼は今、原稿に追われていたのだ。
(しかし『何も聞かず』に追い返したのは流石に不味かったかな…?康一君には後で謝らないとなぁ。)
彼が連載する漫画『ピンクダークの少年』の原稿、その総仕上げをしていたのだ。
今の彼にとって、ソレが全てであった。
苦節幾年、一度だって締切を破った事は無い。今週だって同じ様にするのだ。
そう、その時まではそう決めていた。
_きゃああぁぁぁ!!?
_カリカリカリカリ。
_助けてくれぇ!!
_カリカリ、カリ。
_ぎいやぁぁぁあああ!!?
(クソッ、さっきからうるさいなァ。)
漫画を描き続ける岸辺露伴。
その集中さえ乱す、奇妙な声が引っ切り無しに響き渡る。
それは、外から聞こえてきていた。
(今度は何だ?全く…)
最初こそ無視を決め込んでいたものの、引っ切り無しに続く声に、もはやイライラは限界を迎えつつあった。
だが、見ず知らずの他人に付き合っている暇は無いのだ。
故に手早く追い払おうと、窓を開けて言い放とうとして。
「オイ、うるさいぞッッ!静かにし……!?」
露伴は見た、窓の外の様子を。そして、言葉を失った。
目撃したのである!謎の黄色い甲冑に身を包んだ者達に、人々が襲われる様を。
そう、カッシーン達による杜王町襲撃である。
時は丁度、クォーツァーパレスでの決戦が行われている時間帯であった。
「な、何ィーーー!?何だこれは、一体何が起こっているッ!?」
雷に打たれた様に、先程までの集中など消し飛んでしまった。
何しろ、目の前で起きている事が余りにも異常だったからである。
(スタンド能力だとでも言いたいのかッ!?しかしこんな数の能力なんて、一体誰が…いや、今はそれ所じゃあない!)
一瞬浮かんだ考え、しかしすぐ頭を振って払い、目付きを変える。
彼、岸辺露伴は自身の漫画に対する執着こそ異常であれど、真正の狂人では無い。
人命が失われようとしているのならば助けねばという、人並みの倫理観は持っていた。
_漫画のネタになるかと心の悪魔が囁いた場合、しばしばそれを置き去る事が多いだけで。
ともかく、彼は慌てて携帯電話を取り出す。
連絡先は当然、警察だ。
一先ずはこれでどうにかなる…筈だった。
「な、何ィーーー!?」
しかし、携帯の画面には何故か圏外の文字列が映っていたのだ。
そう、ここは特異点。元より、杜王町より外は文字通りの別世界の張り合わせなのだ。
当然、元の世界の衛星など飛んでいる筈も無く、携帯は繋がらない。
丸喜による世界改稿が済んだ後なら何処かに繋がったかも知れないが、今はまだ。
それにカッシーン程度でも、警察では太刀打ちできないというのもある。
最も今の露伴には知り得ない事実だが、とにかく圏外である事が重要だった。
この事態を、一人で打開しなければ
(クソッ、康一君達はこの事を伝えたかったのかッ!?そうとは知らずにいたとは、間抜けすぎるんじゃあないか、岸辺露伴ッ!!)
余りに突拍子も無い事態に、思わず自責の念に駆られる露伴。
だがそれもそこそこに、彼の思考は事態の打開に向けて動き出していた。
(どうするッ…!?警察も頼れないんじゃあ余りにも危険すぎる…!)
だが一つ、既に露伴は悪手を打っている事に気付かなかった。
そう、先程窓を開け、大声で怒鳴りこんだ事だ。故に。
「_まだ残っていたか。」
「SOUGO様に楯突く者は、排除する。」
背後からの声。何時の間にやら部屋に入ってきた甲冑の者達。
先の叫び声を聞いたカッシーン達に、既に見付かってしまっていたのである!
(ま、拙いッ!!)
瞬く間に背後を囲まれた露伴。
彼は窓から転がり出るように飛び出す。
(危なかった…!!危機一髪って奴だな!)
幸いにも五点着地の知識があり、漫画のネタの為に実践も行っていた。
故に2階程度の高さから落ちても全くの無傷で済んだ。
だが。
「逃がすかっ!」
窓を突き破って、カッシーン達が追い縋ってくる。
彼等は身体能力に物を言わせて、強引に着地を決め込んだ。
当然、無傷である。
「む、無茶苦茶だ!特撮の敵役みたいな奴等じゃあないかッ!?」
パニックに陥りながらも、思考を止めない露伴。
しかし、刻一刻と包囲網は狭まる。
このままでは逃げ切れないと直感で感じ取っていた。
(クソッ!一か八か、通用するか試すか…!?)
岸辺露伴にはある、奥の手が。
しかし効くかどうか。
(だが、この状況を打開するにはやるしかないッ!)
覚悟を決める。
そして一番槍として突っ込んで来たカッシーンに向かって、こう叫んだ。
「『ヘブンズ・ドアー』ッ!!」
_ドォーン!!
轟音!衝撃!
岸辺露伴から現れる人型の幻影(ヴィジョン)!
シルクハットとタキシードを身に着けた、白い小人が、カッシーンを殴りつける!
今ここに、彼のスタンド能力『ヘブンズ・ドアー』が炸裂した!
「さあ、僕の役に立って貰うぞッ…!」
「ヘブンズ・ドアー』は、あらゆる生命を本にする事が出来る。
一瞬の内に、身体がノートめいてバラバラと開かれるカッシーン。
そこにすかさず、露伴が命令を書き込んだ。
「『僕を守る為に戦え』ッ!これで君は僕の傀儡だ!」
そう言うや否や、くるりと踵を返してもう一人のカッシーンに向かうカッシーン。
「貴様、気でも狂ったか!?」
「いいや正気さ、最も僕の手の内でだがねッ!」
今や彼に意識は無い、ただ露伴の命令するがままに槍を振るう。
躊躇いこそあったものの、もう一人のカッシーンもまた槍を構えた。
激突。舞い散る火花、鳴り響く鈍い鉄の音。
両者は拮抗していた。
露伴はその様子を見て、内心ほくそ笑む。
「上手く行ったな、想定通りだ。」
今行われているのは、いわば同士討ちである。
生身の人間ではカッシーン達に敵うべくもないが、同じカッシーンならば話は別だ。
勝ち目の無い戦いを、手を汚す事無く行える。
激しい鍔迫り合いを見届けながら、露伴の口元が釣り上がる。
やがて両者共に力尽きたのか、火花を上げて地面に倒れ伏すカッシーン達。
そんな彼等に、露伴はヘブンズ・ドアーを再び差し向ける。
「さぁ、君達が何者なのか『正体』を探らせて貰うぞ!」
2体のカッシーンが本となる。
そしてパラパラとページを開き、あらゆる情報を露わにしていく。
「こ、これはーッ…!?」
それはクォーツァーが集めた、あらゆる記録の全てであった。
◇
そして時間は密航直前まで進む。
岸辺露伴は、顔や手足に布を巻いた状態で機を伺っていた!
(CH、特異点、そして外なる世界!絶対にこの『特ダネ』は掴んで見せるぞッ!)
「廃棄孔第3層:偽・トラオム 6_邪弾の射手アブセント・■■■■■ その1」
そのころ、廃棄孔の4人はと言うと。
「まだ鍵となる敵はいそうだけど……どこだ?」
「気を付けろよ彩香、悪霊が飛び出してくるかもだから。」
未だ消えないトラオムの再現結界内で、4人は歩き回っていた。
「トラオムは3つの界域からなるエリアだったからな。恐らくは。」
「倒す敵も3体ってこと?」
「多分な。実際は分からないが。」
偽・トラオムの風景は、彼らが歩みを進める度にがらりと様子を変えてゆく。
ある時は荒い岩肌が露出する険しい山脈。
ある時は青空と花畑が広がる美しい草原。
ある時は白と黒で構成された近代都市。
「そういえば思ったんだけど。さっきの港区と同様、この結界ってボク達が関わってきたところだよね。」
「ああ、そしてメサイア教団もな。」
思い返せば、廃棄孔の内部の結界はメサイア教団がCHと戦ったか、或いは教団の魔の手にかかった場所だ。
教団の支配により悪徳が支配する都市と化した港区。
教団の魔の手により地獄の戦場と化したトラオム。
そして、その原型となった始まりの学園■■■■。
考察を交えていると、遂に彼らはトラオムの最奥、終着点についた。
「なんだ、この城は?」
「この城は……見覚えがある。」
4人の前に現れた、暗黒都市の奥地に聳え立つ巨大な城。
白と黒で構成された、重力にすら叛逆しているかのような異形の城。
絶望界域の決戦でリクとシャルルマーニュの2人が■■■■■と戦った城とまるでそっくりだ。
唯一違う点はというと、本物と比べて少々小さいところか。
「絶望界域のあの城、か。なら相手は……。」
「シグバール、の再現体か?」
シグバール。
ⅩⅢ機関のNo.2にして「魔弾の射手」の名を戴くノーバディ。
トラオムの時はシャルルマーニュとのコンビで撃破した。
今回の場合、恐らくは悪霊が彼のものまねをしているのだろうが、それでも油断はできない。
「ボクたちはさ、トラオムの事はそこまで知らないから……この城の案内は任せた。」
「分かったが、俺もそこまで探索はしてなかったからな。内部構造も変わっている可能性があるし……」
「ちょっと待て、上に何かいるぞ?」
月夜が指をさす。
指の先に浮かんでいたのは、黒い何かだった。
「Grrrroooooohhh……」
城の上空から降りてくる、黒いボロボロのコートを着た何か。
よくよく見ると、悪霊にある赤い核がちらりと見える。
「正体は分かっている!そのフードを外せ悪霊!」
黒コートの悪霊は、フードを外すそぶりもなく此方に銃口を向ける。
ドス黒い針、ないしは銃のような何かを向けたかと思うと、その色味とは真逆の白い弾丸を放った。
「!」
とっさの反応で、リクが光弾を弾く。
その時、光弾が破裂し眩い光があふれた。
「リク!?」
光に飲まれたリク。
3人が気が付くと、リクとさっきの悪霊がその場から消えていたことが分かる。
彼は無事であるようだが、いきなりいなくなっては不安にもなるというもの。
「消えた!?」
突如消滅したリクを探す3人。
そこに危機が畳みかけるように数百体の悪霊に囲われる。
「どうやら、心配させる時間も与えさせてくれないようだ!!」
◇
「ぐっ……!!これは!?」
気がつくと、リクは城の内部のような空間へと転送された。
周囲に仲間がいないところを見ると、転送されたのは自分だけのようだ。
内部は本物のトラオムの時と同様、くすんだ白黒が特徴的な豪壮な城。ただし少し狭いところが残念か。
「Gaaaa……」
と、そんな豪壮な城には似合わないボロボロの黒コートを着た悪霊が現れる。
その手に、かつて倒したシグバールの武器「ガンアロー」を再現した武器を携えて。
彼を嘲笑うかのような呻り声を上げつつ、その銃口を向ける。
対するリクも、負けじとキーブレードを構える。
今度はシャルルマーニュはいない。1対1。
しかし、逃げるわけにはいかない。
「お前を倒さないと出られないなら、倒すだけだ!!」
「足の一本くれてやるッ!」
アビダイン出発前の時間。
岸辺露伴は密航の機を伺っていた。
(さて、どう乗り込む…!?)
彼の心境を占めるのは、じれったさから来る焦燥だ。
目の前に文字通り吊り下げられた、アビダインという餌。
ソレを前にして手出しできない事実に、ひたすら歯噛みしていたのだ。
(CHが言わば玉石混合状態だとあの兵士には書かれていたが…警備はしっかりしてるな。)
それもこれも、CHを取り巻く歩哨の数々と、仕草の合間に見える手腕にだ。
戦場カメラマンの取材等を行った露伴には分かるのだ、あれは手練れだと。
下手な動きを見せれば、即部外者とバレてしまう。
実際、アビダインを取り巻くのはDDという戦場のプロの兵士達だ。
主にアビィに好き勝手させない様にスネーク達が配置した者だ。
同じ自由人の部類である露伴にも、その存在効果は覿面だった。
(DDと言ったか。これでは下手に近付けないじゃあないか…!)
顔に巻いた包帯の奥底から、仇敵を見るかの如き眼光をぎらつかせる露伴。
「貴方、そこで何をしているのです?」
「なっ…!?」
そこに突然、後ろから声が掛かった。
茂みに隠れていた筈だ、そんな思考が露伴の脳裏に浮かぶ。
「貴方、まさか…」
(ま、不味い!バレたか…!?)
彼の焦りを感じ取った様に、その女性、ナイチンゲールの目付きが鋭くなる。
潜入が露わになったか、そう思った時だった。
「病院から抜け出してきたのですか?」
「はっ?」
意表を突かれた様に露伴の目が丸くなる。
ソレに構わず、ナイチンゲールは詰め寄ってきた。
美人、いや美神に相応しい彼女だが、何故か威圧感を与える佇まいだ。
そこが逆に怖いと感じるのだが……今はそれに怯えている場合ではない。
(病院?な、なんだ?この病院とは一体…)
彼女の様子に気圧されながら露伴は辺りを見回す。
当然周囲には何の変哲もないテントが幾つか見えるだけだ。
ただ一つ、あの野戦病院テントを除いて。
(まさかッ!?)
「こんなところに逃げ出した患者がいるとは思いもしませんでした、早く戻って治療を受けてください。」
露伴を患者と思ったらしいナイチンゲールは、有無を言わさずテントへ引き摺っていく。
なんと言う勘違いだろうか。まるでギャグ漫画の様な展開に、露伴は目眩すら覚えた。
(いや、この女性の行動もこの際役に立つか…!)
だが露伴からすれば、正に青天の霹靂、いや棚から牡丹餅と言った展開である。
彼女の勘違いを逆手に取って、この場をすり抜けてしまえば良いのだ。
「あ、あぁ~しまったなぁ~。抜け出したのがバレるなんてなぁ!」
「?ふざけた事を言ってないで、早く治療を受けに戻ってください。」
(こんな形であの病院に入る事になるとはな…ツイてるぞぉ!)
そう内心でほくそ笑みながら、露伴は引き摺られるままにテントに向かって足を踏みだす。
夢の旅までもうすぐだと、包帯の裏で笑みが止まらない。
さぁ取材の準備だとメモの用意をする露伴。
だが、ナイチンゲールが突然立ち止まって、思い立った様にこんな事を言って来た。
「貴方、普通に歩けるのですか?」
「あっ。」
「_いや、そもそも患者では無い?」
その一言に、露伴が冷や汗を流す。
(し、しまったーッ!浮かれすぎて、つい怪我人のフリを忘れてしまったッ!)
何たる迂闊!
ただでこそすれ、敵地に乗り込んでいる時に怪我人のフリをしないとは! 間抜けとしか言いようのないミスだ。
焦りと共に汗がぶわりと吹き出るが、もう遅い。
目の前のナイチンゲールの視線が冷たいものとなっていく。
このままでは、不味い。
「い、いやだなぁ!ちょっと外の空気が吸いたかっただけで患者ですよ!」
わたわたと慌てながら言い訳染みた事を述べる露伴。
だが、ナイチンゲールの目付きに代わりは無い。
(どうする!?今この状態でコイツに攻撃を仕掛ければ……ッ!)
当然奇襲になるが、この場合状況が悪いと言えるだろう。
無数の歩哨に囲まれているのだ。攻撃をした瞬間、敵対者と思われ殺されるのは間違いない。
少なくともこの場所で仕掛ける事は得策ではない。
そんな露伴の考えとは裏腹に、ナイチンゲールは顎に手を当ててふむと考え出す。
すると徐に口を開いた。
「少し、診察をさせてもらいます。」
そして彼女の腕は、露伴の身体に回されていた。
(なんだとぉ……ッ!?)
まさかこんな展開になるとは…と困惑する露伴。
ここで診察を受ければ、間違いなく怪我人では無いとバレてしまう。
バレてしまえば、当然DD達に追い出されてしまう。
そうなれば、潜入を企てていた露伴はどうなる。
自身の存在が白日の下に晒されるのは最早避けられないだろう。
そんなのは御免だ。絶対にゴメンだ。
(こうなれば……一か八か!)
だが、背に腹は代えられない。露伴は決断する。
(多少の怪我くらい覚悟の上だッ!『ヘブンズ・ドアー』ッ!!)
彼女の視界に入らない様に、背後に『ヘブンズ・ドアー』を出現させる。
そして、その拳をあろうことか自分自身に撃ち込んだ!
しかし、これ自体は自傷行為ではない。元よりヘブンズ・ドアーの破壊力はDクラス相当、非力だ。
本番なのは、今書き込まれる命令の内容である!
(僕は今から『右足の骨を全部脱臼』させるッ!足の一本、くれてやるッ!!)
そして露伴は、書き込まれた命令を待つ。
(やるなら徹底的にだ…さぁ、来い!)
そう考えた瞬間、確かに彼の身体に衝撃が走った。
「ぐ、ぅう、あがぁ…!?」
骨の軋む音がして、命令通りに『外れて』いく!
急な痛みに声が漏れるが、それもやがて消えて、視界が狭まる。
(…咄嗟だったから、痛みは消えないか。だが、これで…!)
そして露伴はぐらりと後ろに倒れ込み始める。
そのまま彼は受け身も取れず地面に身体を打った!
「っ!」
当然、ナイチンゲールは様態の急激な変化に黙っていない!
すぐさま彼の右足に異変があると見抜き、そして触診を行う。
「これは…右足が脱臼している!?」
「ぁ、あぁ…!」
(やった!上手く行ったぞッ!)
痛みに呻きながら、露伴は内心でほくそ笑んだ。
彼の足には、本当に脱臼の激痛が走っているし、骨も残さず外れているのだ。
これでナイチンゲールに不審感を抱かせずに済む。
「これはいけませんね、すぐさま病院に送ります!」
そう言うとナイチンゲールは露伴を背負い、全速力でテントの中に運び込んでいく。
彼女の医療行為を不審に思う者は居ない、治療狂である事は知れ渡っているからだ。
そうして、露伴は見事に『密航』を成し遂げた!
◇
そして現在!
「命令を消して『脱臼』も治った、これで後は承太郎に接触できれば『取材』が出来るぞぅ!」
アビダインは露伴を乗せて、無事旅立った。
その曇り無き眼が映すのはどんな風景か、それはこれから分かる!
「べっきぃのマッサージサービス」
――特異点・ルイーダの酒場。
「お帰りなさいませー、ご主人さま♪」
入口のドアを開けると、川上貞代……もとい、べっきぃが出迎えてくれた。
「ぐぅふふふ、ご主人さまー、だってよ。悪かねェなぁ、次元!」
「俺ァ、こう言うチャラチャラしたのは好かねェんだよ」
「まぁたぁ、そんなこと言ってぇ」
来店したのは、ルパンと次元だった。
「それにしても、こーんな酒場があるなんてなァ」
特異点を探索する内に立ち寄った、「ルイーダの酒場」。
ルパンが意外そうにつぶやくと、カウンターにいる店主・ルイーダが柔らかく微笑んだ。
「お兄さん方も、どっか他所からここに? びっくりしたでしょ」
「まぁねェ。モンスターに盗賊、コンビニに牛丼屋と来たもんだ。
ま~ったく節操がねェったら」
ルパンがタバコの煙を吹かしながらそう言うと、ルイーダは「そうですねえ」と
穏やかに応じる。
「この酒場は出会いと別れの酒場ですからね。お客さん達も、
たくさんの世界を旅してきたんでしょ」
「おうとも。西に東に大忙しさ」
「俺ァ、酒場ってェのはもっと殺伐としてるべきだと思ってたんだがよ。
なんだか調子が狂っちまうぜ」
「ここだけは、いざこざは御法度ですからね。せめてこの場所ぐらいは、
穏やかにお酒でも飲んでいただければと」
「そうだなァ。あっちこっち歩き回って、正直疲れてンのよ」
「あっ、私ぃ、マッサージ得意なんですよぉ? いかがですぅ、ご主人さまぁ?」
べっきぃが媚びるような声でそう言うと、ルパンは目をキラリと光らせて言った。
「おほぉ、そう言うサービスもしてんのけ? だったらお願いしようかねぇ」
「うふふ、ありがとうございますぅ。それじゃご主人さま、こちらのお席にどうぞぉ」
べっきぃはルパンをマッサージ台へと案内する。
次元はカウンター席で一人、足を組んでタバコを吹かしていた。
ルパンはうつ伏せに横たわりながらべっきぃのマッサージを受けると、
心地良さげな息を吐く。
「あはァ~……いいねェ……こ~りゃ本当にいい感じだァ……」
「私のマッサージを受ければ、元気いっぱい!
異世界帰りでも絶好調になれちゃいますよ~」
「そ~いつぁ助かるわァ」
「それではマッサージ代、5000円になりま~す。
円でもドルでもQPでもゼニーでもゴールドでも大丈夫ですよ~」
「通貨単位も色々あんのねェ」
「そう言や、盗賊どもから巻き上げた金も見たことねえ通貨だったな。これで大丈夫か?」
次元はそう言いつつ、ゴールドは入った金袋をカウンターに置いた。
「は~い、いただきました~♪」
「ん……? おい、ルパン!」
「ほぁ……? どしたのよ」
酒場の窓の向こう。天翔ける超次元戦艦アビダインが
特異点からリ・ユニオン・スクエアへと帰還していく。
「あーらら、あの艦……俺たちがくっついて来た奴じゃんよ」
「大丈夫なのか? あれが無きゃ、俺たちゃこの世界から出られねェんじゃねェか?」
「なぁに、何とかならァな。あー、べっきーちゃ~ん、そこ念入りに頼むぜ~」
「はぁい、お任せくださぁい」
次元がタバコを灰皿でもみ消しながら舌打ちをする。
「……ったく、呑気な野郎だぜ」
帰還の方法に次元が頭を痛める一方、ルパンはべっきぃのマッサージに
身も心も委ねていた。
ルパンと次元の特異点を巡る旅は、まだまだ続く。
果たして、ルパンと次元は無事に元の世界に戻れるのだろうか?
そして、この特異点には彼らにとってどんな出会いが待っているのだろうか……?
「記録:18年前、或いは遥か過去の記憶」
それは、今から18年前の日本。
まだメサイア教団ないしはキラが影も形もなかったころの出来事。
愛宕神社付近にて、それは発見された。
「何だこれは?」
当時の神社研修生のある男が掃除中、神社の倉庫よりあるものを発見した。
それは鞘に収まった、埃被った一振りの刀だった。かなり倉庫の奥に封印されていた割には年季が経った形跡も錆も疵もなく、それどころか不気味なほどに輝いていた。
まるで今の今まで開けなかったかのような……。
あまりの不気味さに恐れ戦いたが、それ以上に興味がわいた男はこの刀を宮司に見せた。
宮司はなぜか怒り「その刀をみだりに持ち出してはならない」「持ち出した者が悉く死んだ」「私の許可なしで二度とそれを外に出すな」と言うばかりでまともに取り合ってくれなかった。
それは魔術世界で「神體(がんたい)」と呼ばれる代物で、その正体は■■■■■。文字通りの■■■■■だったという。
そしてこの神體は宮司の先祖が代々預かっていたもので、文字通り「持ち出した者は■■■■■■■て死ぬ」ものだという。
しかし、彼はその事実を知らず、気になるあまり
そして、研修生の男は翌日の朝変死体で発見された。
周囲に凶器になりえる物は何一つ発見されなかったが、検死の結果は「斬殺」それも鋭い刃物で八つ裂きにされるという凄惨な方法によるものだった。
◇
6年後、誰もが謎の惨殺事件を忘れていた時、ある青年が宮司の下に来た。
20代ほどの変わった男だった。彼は自らを「遠い未来が見える預言者」と名乗り、その上で「6年前の惨殺事件前夜に発見されたという刀を見せてほしい」と男は言った。「見せても俺は死なないよ」と言って。
当然これ以上あの刀による惨劇を起こしたくない宮司は断ったが、その男は諦めなかった。来る日も来る日も交渉する男に対し、とうとう折れた宮司は持ち出さないことを条件に刀を保管している倉庫に案内した。
倉庫内は6年前と何ら変わらず、奥には依然美しさと不気味さを漂わせる刀があった。
青年は近づき、それを一目見た時のこと。
「あっ…………。」
青年の意識は――――消失した。
『オレを見るな。声のみを聴き、胸に刻め我が守り手よ。』
消失した意識に変わり、まるで人の在り方含めて全てを見極めるような威風。
高圧的でありながら、どこか信頼できる声。
信じられなさそうなセリフを、あたかも真実のように語っているのかと思わせる、そのオーラ。
言動といい偏った知識といい、傍から見ても変わった男だったがこの時ばかりは宮司すらも「何かが明らかにおかしすぎる」と思わせた。
『我が名はアマツミカボシ。6年前は不心得者故に殺めたが、この者の先祖はオレのかつての使い手で縁深き者。故にその末裔をオレは殺さぬ。汝も守り手故に殺さぬ。』
まつらわぬ悪神を名乗るそれは、宮司に謎の”神託”を与えた。
『一つ、神託を与えよう。今より十二の年重ねた時、この男の息子たちが来る。もし彼ら兄妹が来てオレの事を聞いてきたのならば、迷わず我が身たるこの刀を託せ。託さなければ、待っているのは世の破滅のみぞ。』
突如下された謎の神託。
本来は捨て置くべき言葉のようにも聞こえるが、宮司は年老いてもなおこの神託を忘れることはなかった。
その後、宮司は神託を忘れることなく、時を待ち続けた。
誰にもその事実を打ち明けることなく待った。
余談だが、この青年に『未来視』が備わっているのは紛れもない事実だと判明した。
彼は天啓のように与えられたこの能力を、友人や妻、息子たち果ては産みの両親にまで隠しながらその生涯を歩き続けたという。
「2年後以上先の未来しか見えない、つい最近の未来は見えない魔眼」故に信じてくれないだろうから。
その翌年に息子と娘を遺し愛する妻もろとも殺される時まで、ずっと。
少年時代に気まぐれに見た「遠い未来の英雄譚」を胸に刻み続けながら。
その男の名は「天宮 来々(あまみや らいく)」。
そして来々の息子と娘の名は――――。
◇
「ふん、忌まわしい刀じゃ。」
廃棄孔の奥底、焔坂は奮闘する彩香の姿に不満を抱いていた。
アマツミカボシの神體を振るい、悪性の塊たる悪霊を切り裂いてゆく少女。
そんな彼女の、日々増大する実力に焔坂は歯噛みしていた。
「外の様子はどうじゃ?ゼクシオン同志?」
「じりじりと追いつめられていますね……仮に私たちを倒して外に出られたとしても。待っているのは絶望しかありませんよ。」
焔坂とは対照的にくつくつと笑うゼクシオン。
その顔はまだ、何かを隠しているようだった。
「外に『怨讐の闇超人』を、偽・トラオムに『憎悪の泥戦士』を放ちましょう。トラオムで得た彼の再現体ですが、あれに連中を潰してもらいましょう。」
「幻想郷調査 五の一:反撃の兆し」
_悪鬼が来る。群れをなして。
怨念を骨肉に纏い、悪意を秘め、人の命貪らんとする死神の列。
悪霊と俗に呼ばれるそれは、凡そ数百万という徒党を組み、黒い荒波の如く大地を覆い、人里目掛けてゆっくりと、しかし確実に前進していた。
「ありゃ、最早軍隊だな…」
カン、カン、カン、と鳴り響く鐘の音に、避難する女子供達。
パニックが起こりながらも指示が伝達されていくその横で、悪霊の群れを見たスネークが一人呟く。
その規模は、正しく一個師団。
隊列を組んで進軍する様は、凄まじいまでの威圧感を遠巻きに放つ。
山をも覆い尽くして進軍する様は、聖書に記された終末(ラグナロク)を想起させるだろう。
まさに壮観、この世の終わりと言っても過言ではなかった。
「おいどーすんだよスネーク!流石に洒落にならねぇ数だぞ!?」
怯え切った声で問い詰めるのは、ウーロンだ。
スネークも険しい表情で見返す。
如何にスネークが腕利きとはいえ、彼一人ではどうしようもないのは明白だった。
何せ敵が多過ぎるのだ。
あれだけの数に襲撃されれば、如何に歴戦の傭兵だろうが一溜りも無いだろう。
「分かってる。だが俺達ダイヤモンド・ドッグズも軍隊だ、遣り方はある。」
言うや、スネークは無線機を取り出した。
「総力戦だ。弾薬、兵器、何でも惜しまず投入しろ。」
『分かった、随時戦力を送る。』
手短に用件を伝えると、無線の先から端的な言葉が返ってくる。
無線の相手は、誰あろうオセロットだった。
「そういやあのニトリ?って河童の妖怪に外と通信出来る様にして貰ったんだっけか。」
ウーロンが思い出すように言うと、スネークも頷いた。
彼の言う通り、河童のニトリは妙に協力的で、あの後オセロットとの回線を繋げる立場になってしまったのだ。
曰く『DDの機械類が気に入った』とのことだが、ウーロンには細かいロマンは分からない。
分かったのはオタク気質な部分だけである。
「でもよ、流石にあの規模は不味くねぇか…?」
数の戦いにはDDに一縷の望みが常々あると思うウーロンだが、流石に今回は状況が違う。
何せ100万規模だ、今までとは文字通り桁が違う。
それでも、スネークは迷い無く応じた。
「今日もまた勝つ、それだけだ。」
その声は、落ち着き払っている。
そして無線を切るや、スネークは無線機をしまって後ろへと向き直る。
「ってうっひゃぁ!?いつの間に!?」
釣られて後ろを見たウーロンが驚嘆する。
そこには、いつの間にやら現れていた兵士達が、兵器群が、列を成してスネークの言葉を待っていた。
勝利のボス(VicBoss)、その号令を。
「どうだ?この展開の速さがウチの自慢だ。」
「さっきの無線からもう来たのかよ、おでれぇたなぁ…!」
ウーロンも舌を巻く統率具合であった。
改めて、スネークが兵士達に向き直る。
そして徐に口を開いた。
「戦いだ。」
まるで地の底から響く様な声で、そう宣言した。
「この戦いは世界の存亡に関わる。おまけに戦力差は絶望的だ。」
だが、と続けて語る。
「俺達は、一人たりとも負ける気も死ぬ気も無い、絶対的な勝者だ。今回もそうであり続ける。」
スネークが兵士を鼓舞する言葉を告げていくと、次第に兵士達の士気が上がっていくのが分かる。
一騎当千、一部は英雄とも持て囃された、かなりの精強達だ。
そんな彼等の機運は、勝敗に直結する。
故に、スネークは演説の手抜かりだけはしない。
「明日の日を拝む為に、俺達が自由な戦士である為に!この戦い、勝つぞ!」
_うおぉぉぉぉぉーーーっ!!!
最後だけ、少し声を張り上げた。
高揚感に包まれる兵士達が、歓声で以てスネークに返す。
戦場に控える兵士の士気は、最早最高潮に達している。
(_済まない、今回はお前達を死地に送り込む事になる。)
そんな兵士達に頼もしさを感じつつも、何処か罪悪感に似た感情をスネークは覚えていた。
今までに多くの仲間を死なせて、今回もまた、仲間に死を強制する。
そんな事を考える自分はこの場で最も醜い奴かもしれないとさえ思いながらも、今更止まる訳には行かないのだと、決意して。
(だが、勝つぞ。)
スネークの魂と覚悟は、兵士一人一人に伝播し、隊列を津波の様に伝わっていった。
この戦いが地獄となる事を予期しながら、それでも勝つつもりでいた。
◇
夥しい量の悪霊の群れは、いよいよ持って魔法の森をも覆い尽くし始めた。
この広大な幻想郷の大地を、一日で埋め尽くす事すら可能な規模。
やがて人里まで辿り着けば、全ての人を巻き込む惨劇となるだろう。
『座標を確認した、支援砲撃を開始する。』
だが、その暴威を阻止する様に何かが降り注いだ。
風切音を立てて地面に、或いは悪霊に直接突き刺さった何か。
悪霊の装甲すら容易に貫徹したそれは、瞬間、弾けた。
それは、榴弾。
破壊力のみを追求した、対人兵器の最高峰。戦場道具の一つ。
破片の一欠片でも当たれば身体が四散しかねない程に破壊力を秘めた鉛の塊が、数百発降り注いだ。
ズガガガガガッ!!と盛大な音を立てて地面を爆ぜさせ、悪霊をごみの如く蹴散らしていく。
また重なった爆発の圧力は、その下にいた悪霊を圧壊させた。
悪霊の装甲すら貫ける鉛の塊。
その破壊力は、火薬以上の何かを感じさせるものがあった。
これが嘗て、第一次世界大戦において最も人命を奪ったとされる鉄の雨である。
_◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーーッ!!?
炸裂時の破壊力は折り紙付き、当たれば人どころか家屋をも粉微塵に吹き飛ばす威力だ。
それを受けた悪霊の群れは、反撃すら儘ならない。
鉄の雨霰が、大群の進軍を止めてしまった。
「斉射、てぇーっ!!」
そこにすかさず、鉛玉の雨が降り注いだ。
悪霊の物量に負けじと撃ち出される、無数の弾丸の嵐。撒き散らされる曳光弾。尾を引く噴煙弾。
兵士達が必死の形相で放つ重機関銃が、対物ライフル弾が、カチューシャロケットが、次々と悪霊の群れを塵へと変えていく。
対人威力という点に関して言うならば、此方もまた他の追随を許さなかった。
高々人智程度の兵器が、凶悪集団を相手取ろうというのだ。
であればその砲火は、死神を撃ち払う陽の光と大差無いものとなる。
「第二分隊、戦車砲!てぇっ!!」
併せて、砲撃支援も始まった。
見た目こそ珍しいが、口径では並の戦車を上回る口径を運用できる大口径の迫撃砲だ。
二つの脅威による十字砲火の前には、悪霊の群れと言えどひとたまりも無い。
普通の砲弾でさえ万夫不当の火力であり、事実烏合の衆たる悪霊を容易く叩き潰している。
戦況は、意外にも人間側の優勢だった。
「ボスのお言葉だっ!何としてもここを死守しろぉーーー!!!」
「過去のCROSS HEROES/ブリーフィング」
悟空が界王星から戻ってくる少し前、トゥアハー・デ・ダナン内では特異点から戻ってきたメンバーとリ・ユニオン・スクエアに残ってたメンバーが合流し情報交換をしていた。
「そうか、あの晴明を倒したのか」
「あぁ、つってもあいつのことだ、どうせまた俺たちの前に現れてもおかしくはねえけどな」
「……それにしても、あれは驚いたね」
「うん……」
「あれって?」
「実は……」
「晴明が前世の頃にCROSS HEROESと戦っていた!?」
「あぁ、カルデアから聞いたんだが、どうやら晴明の野郎がそんなことを言ってたらしい」
「恐らくは俺たち以外にもCROSS HEROESの名前を名乗ってた奴らがいるのかもしれないな」
「そういえば前にミケーネも……」
『っ!CROSS HEROESだと…?』
『やつらまでこの時代にいるというのか!?』
『まさか……いやそんなはずは…!?』
『落ち着け!あの時戦ったやつらとはメンバーが違う、恐らくは名前が偶然同じなだけの別物だ!』
『ほう、人間でありながらここまで抗えるとはな、奴らと同じ名を名乗ってるだけのことはある……』
『まさか奴らは本当に我々がかつて戦ったあのCROSS HEROESだというのか!?』
『ええい!認めん!認めんぞ!奴らまでこの時代に存在するなどと…!』
『……ほう、貴様らがこの時代のCROSS HEROESか……』
『……この時代のCROSS HEROESよ、貴様らと戦える日を楽しみに待っておるぞ』
「……奴らもまるで過去にCROSS HEROESと戦ったことがあるようなことを言ってたな」
「つまりはあれか?俺たち以外にもCROSS HEROESが居て、晴明やミケーネと戦ってたのか?」
「にわかには信じがたいが……」
「けど、確かCROSS HEROESの名前は確かテッサ大佐が名付けたんでしてたよね?」
「あぁ、確か頭の中に幾度となく響いて来ていた名前だって言ってたな」
「てことはウィスパードの力で知ったのか」
「ウィスパード?」
「何なんだそりゃいったい」
「そういえばお前らは知らなかったな」
「一応後でしっかり伝えておくが、ざっくり言うのなら頭の中に本来なら知っているはずの無い、この世の誰にも知りえないはずの知識とかが頭の中に流れてくる人のことだ」
「なるほどな」
「……そういえばそのテッサ大佐は今何してるんだ?」
「確か今、特異点から帰還したメンバーのうちの何人かとこっちの世界であったことと特異点であったことの情報共有をしているはずよ」
「そしてそれと同時に幻想郷に行くメンバーとこの世界に残るメンバーをどうするか。この世界で残るメンバーは今後どうするかについても決めるそうだ」
「なるほどな」
一方その頃、トゥアハー・デ・ダナンの一室ではミスリルのテッサ大佐を中心に、GUTSセレクトのトキオカ隊長代理、正義超人のテリーマン、心の怪盗団のクィーンとナビとモルガナ、他にも承太郎やゲイル、ルクソードなどが情報の共有と今後の方針決めを兼ねたブリーフィングを行っていた。
「なるほど、暗黒魔界ですか……」
「はい。悪魔将軍の話では暗黒魔界はこれまでに俺達が戦ってきたどんな勢力よりも巨大らしい……それこそメサイア教団やミケーネ帝国すらも上回ってる可能性もある」
「メサイア教団やミケーネ帝国すらも上回ってる可能性のある脅威ですか……そうなると放ってはおけませんね」
「あぁ、そこでまずは暗黒魔界へ突入するためにもそこと一番繋がりのある幻想郷の異変を解決する必要がある」
「なるほど……わかりました。
ですがこの世界にもアマルガムを始めとした脅威がいくつか残っている以上、全戦力を送るわけには行きません。まずは幻想郷が現在どのような状況になってるのかを確かめ、それを元に幻想郷に向かわせる戦力とこの世界に残らせる戦力の割合を決めましょう」
「わかりました」
「けどよ、幻想郷が今どうなってるかなんて、どうやって確認するんだ?」
「現在幻想郷に居るメンバーの中にはスネークさん達もいます。なのでDDを通じてスネークさん達に連絡を取れれば…」
「その必要はないわよ」
するとそこへスキマが出現し、そこから紫が現れた。
「あなたは…」
「幻想郷の八雲紫よ。ちょっと今大変なことになっててね……あなた達CROSS HEROESの力を貸してほしいのよ」
「いざ幻想郷へ! 超戦士たちの出陣」
「ふむ……僕のコレクションボトルを空にしたツケを返しに来た……
と言う感じではなさそうだね」
しゅるり……いろはに施してもらった包帯を解きながらアビィが問う。
「それはまた今度、ね」
「アビィくん……もう怪我が……!?」
「ふふ、レディの手厚い看護のおかげさ♪」
決して軽くはなかったはずの傷がすっかり回復していることに驚くいろはに、
アビィは振り向きざまにウィンクをして微笑むとお礼を言った。
「お礼は今度デートで、と言う事で」
「デ……!?」
「待ちなさい、いろはにはまだ早いわ!!」
ずざざーっ、とアビィといろはの間にやちよが割って入りアビィを睨む。
「おっと、保護者同伴だったか。これはしたり」
その後、悟空が界王星から戻り、ブリーフィングを終えた者たちが
ダナンから出てくるのに合わせて紫は幻想郷の状況を大まかに説明した。
「悪霊……か。またしてもメサイア教団の仕業とはな。連中め……
特異点のみならず幻想郷とやらにまで勢力を拡大していやがったのか」
ピッコロが忌々しげに呟いた。
「ふん。いずれはこちら側にもその悪霊だか何だかを送り込もうって算段だろう。
ふざけやがって……そうはさせるか。とっとと乗り込んで叩き潰しに行くぞ」
ベジータも不機嫌さを隠すこともなく言った。
「悪霊……如何にも嫌な予感がするわい……あ、そうだ!
わ、私はウルフマンの看病があるゆえ~っ!!
は~い、病室に行きましょね~!! 私は白衣の天使~!!」
「うおっ、お、おい……!! 車輪がウィリーしてんぞ、馬鹿!!」
キン肉マンは何処から持ってきたのかナースの白衣姿でウルフマンを
強引に車椅子に乗せると、そそくさとその場を立ち去ろうとした。
「「「ズコーッ!!」」」
「王子!! どっから持ってきたんですか、その服!! それにまた逃げようとして!!」
皆がキン肉マンの大ボケにズッコける中、お目付け役のミートに
あっさりと捕まってしまう。スカートを引っ張られて半ケツ状態だ。
「や、やだ、もう……!!」
さなは目の前のあまりにお下劣な光景のあまり、顔を伏せて透明化してしまった。
「にょわ~っ!! 離せ、ミートよ~! 私はウルフマンを献身的にだな~っ!!」
「……私はあのような男に膝を折ったのか……」
「悪魔将軍様、お気を確かに……」
紐でぶら下げた氷嚢を落ち込む悪魔将軍の頭に載せながら、
バッファローマンが悪魔将軍を励ます。
「キン肉星の王の座に就いたと言うから少しはマシになったかと思ったが……
相変わらずのようだな」
見下げ果てたと言うようにベジータが吐き捨てる。
「にゃ、にゃにをぅ!?」
そのベジータの言葉に、ミートから逃げようとするのをやめて振り返る。
「臆病者は要らん。そこらで遊んでいろ。だが……貴様のようなのが王では、
キン肉星も当代で終わりだろうな。
それとも、バカでも王が務まるくらいに程度が低い星と言う事か、キン肉星は……」
そう言ってベジータがその場を去ろうとすると。
「待てぃ!!」
するとキン肉マンが叫びながら、それを引き止めた。
「……何か言いたい事でもあるのか?」
「私の事は如何様に言っても構わん!! だが我が母星、キン肉星を愚弄することは
許さんぞ!!」
キン肉マンの声には怒気が籠もっている。真っ赤な炎のように燃え滾るオーラ……
よほど母星の事を貶されたのが腹に据えかねたのだろう。
(ほう……)
(そ、そうだ、キン肉マン……! その身震いのするようなド迫力……
それこそが、『火事場のクソ力』……!!)
バッファローマンが再び悪魔超人に返り咲いた理由。
それはキン肉マンの秘めたる底力に心服したからであった。
初めて対峙した時にその身に浴びた凄まじいまでのパワーをバッファローマンは
忘れてはいなかったのだ。
超人強度1000万パワーを誇るバッファローマン、
そして続く硬度10のダイヤモンドボディにして超人の神にも達する実力を持つ
悪魔将軍をも制した、キン肉マンの奥底に眠る潜在的パワー。
数々の奇跡を実現させた「火事場のクソ力」は、その場にいる皆の肌に伝わり、
誰しもを震撼させる。
「す、すっげえ……!!」
「私達にもハッキリと伝わる……!!」
覇気を操るルフィ、パンサーら心の怪盗団も例外ではない。
それはキン肉マンの感情……「心」に由来するものであるが故に。
(この強烈な魂の震え……そして気迫、間違いない! かつて俺はあの力に魅せられた。
だから俺は悪魔超人へと戻ることを選んだのだ……!
もう一度、あの火事場のクソ力を身に纏った奴と闘うために……!!)
そんなキン肉マンを見て、ベジータがフッと笑う。
「だったら早く支度するんだな。お喋りしてる暇はないぞ」
そう言い放つと、ベジータはその場を後にした。
「やったるわい!! 悪霊でも何でも来んかい!!」
その背中にキン肉マンが叫ぶ。
(ベジータさん……もしや王子をその気にさせるためにわざと……?)
ミートはそんなベジータの真意に薄々気がついていた。
惑星ベジータの王子と、キン肉星の王……どちらも王者の資質を持つ者である。
だからこそお互いに一目置いているのかもしれない。
……もっとも、そんな二人が互いに認め合っていることを素直に表に出すような
二人ではないのだが。
「どうやら、僕らものんびりしてる場合じゃなさそうだ。幻想郷へ向かう者は準備を!
僕のアビダインを出す!」
アビィがそう言うと、各員は幻想郷へ赴く準備に取り掛かった。
「悟空さん、月美さんやペルちゃんの事をお願いします……」
「おう、任しとけ」
いろはが悟空にそう言うと、悟空は力強くサムズアップして応えた。
「うーん、電車くらいならすぐだけど、アビダインちゃんほどのサイズの物を
スキマで送り込むのはちょっと時間かかるかも」
「ナースデッセイ号はさらにデカいからなぁ……」
「だったら、オラ達だけでも先にスキマってので送ってもらえねぇかな?」
紫が頭を悩ませていると、悟空がそう提案した。
「そうねぇ。順次行ける人から幻想郷に行ってもらう方がいいかも。
何しろ悪霊が増えに増えてるみたいだし。一刻も早い方が良さそうね……」
紫がそう呟くと、悟空は頷いた。
まずは先遣隊として、悟空、ピッコロ、ベジータがスキマで幻想郷に向かうことになった。
「悟空! 頼んだぞ!」
「父さん! お気をつけて!」
「ああ! またちょっくら行ってくる!」
クリリンや悟飯の声を背に受けて、悟空はスキマへと飛び込んだ。
続いてベジータ、ピッコロと続き……幻想郷への旅が始まった。
「待ってろよ、月美、ペル……今、オラ達が行くぞ!!」
「廃棄孔第3層:偽・トラオム 7_邪弾の射手アブセント・シグバール その2」
偽・トラオム 城内
無数に炸裂する、無数の剣戟と発砲音。
「――――!!」
「くっ!」
リクのキーブレードと、トラオムにて倒したシグバールの複製悪霊「邪弾の射手」が放つガンアローの弾丸。
当然、この「邪弾の射手」という名をリクが知る事は今はないが。
「サンダガ!」
落雷によって、銃幻魔の油と外殻を削りはがしてゆく。
射手も赤核露出を恐れずに忌油の弾丸を放ちまくった。
連続攻撃によって露出した悪霊の赤核、それもリクの剣戟によって削られた。
一瞬ふらつく銃幻魔。攻撃に集中し油断したのか、本来回避できるはずの攻撃をもろに受ける。
「やはり復元体……本物には遠く及ばないな。」
「Gaaa……」
その人物に真に迫るものであっても所詮は真似事。その域を越えることはない。
しかし、真似事であるが故にできる事もある。
「Aaaaahhhhhhhh!!!」
突如狂乱したかのような声を上げ、上空目がけて弾幕を放った。
とどめを刺そうとするリクから逃げながら、ひたすら上空に放ち続ける。
そして、弾幕は重力に引っ張られ降り注いだ。
「うおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!??」
上空から戦場の矢の如く降り注ぐ、無数の呪いの油。
必死になって油を弾きじりじりと射手に迫るリクだが、そこに魔弾の一撃が放たれた。
「Gyyyyyy!!」
迫るリクに歯ぎしりまがいの嘲笑を放つ邪弾の射手。
放たれた大型の魔弾は空中で爆裂。その衝撃だけでリクを吹き飛ばした。
「がはっ……!!」
炸裂する忌油の榴弾によって、吹っ飛ばされた。
壁に叩きつけられ、激痛が走る。
油による呪い自体は廃棄孔に入る前に貰った「薬」によって弾き飛ばせるが、物理的な痛みはその薬で抑えられない。
「Gggggguuu――――。」
冷酷に次弾を装填する射手。
何とか立ち上がろうとするリクの脳天に放つために射程距離まで迫る。
彼に敗北と言う名の屈辱を与えるために、嗜虐をにじませた呻りを上げながら。
(俺は元々、友達のソラを連れ戻す為にここまで来た。ゼアノートを倒し、追放された友達を。)
刹那、瞼の裏側に映った光。
希望の光のように映るカレに報いるためにも、まだここでは死ねない。
立ち上がり、余裕の笑みを浮かべる。
「それで勝ったつもりか、悪霊!!」
「gaaaaaaAAAAAA!!!」
嘲笑ったつもりが、逆に嗤い返される。
それによって宿りかけたプライドに傷がついた射手。
怒りの声を上げながら
◇
そのころ、城の前では。
リクが戦っている間、何とか悪霊100体を何とか倒した月夜たちが彼の帰還を待っていた。
しかし、妙に腑に落ちない。
「なんか……もう一波乱あってもよかったような……。こんなにあっさり終わってもいいものなのか?」
直接内情を見ていない天宮兄妹は知らずとも、ペルフェクタリアはトラオムの広大さを知っていた。
知っていたがゆえに考えていた。
そもそもトラオムは3つの界域からなる広大な戦場。その王となる人物も3人。
であれば、この偽・トラオムも……。
「もしや、もう一体いるのか?」
「もう一体?つまり……。」
噂をすれば影が差す、とはよく言ったもの。
上空から隕石の如く何かが落ちてきた。
「言ってるそばから来たか……!!」
「なんだこいつは!気色悪いな……!」
それは、衝撃と土煙の奥から現れた。
ドロドロとした忌油に塗れた、異形の超怪物。
人の形をしているものの、油と基本骨子が「悪霊」であるせいか更なる禍々しさを持っている。
トラオムにてCHが激戦を繰り広げた、怨讐に塗れた異形の怪物。
バイオブロリーの悪霊再現体、―――名を「讐悪なる幻妖」。
「こいつは……今までのとは比べ物にならねぇ!!」
「尋常じゃない殺気だ。油断すると今にもやられる!」
「束の間の帰郷」
――リ・ユニオン・スクエア/トゥアハー・デ・ダナン。
悟空、ベジータ、ピッコロを皮切りに幻想郷へと向かった面々の移動が
軒並み完了した。
「皆さん、大丈夫でしょうか……」
ダナンに残されたいろは達は、不安げな表情だ。
「心配すんなって、あいつらは強えェ」
「みんなでクォーツァーだってやっつけちゃったんだ、何とかなる……って気がする」
ルフィやソウゴは、そう力強くいろは達に言った。
特異点での厳しい戦いを共に潜り抜けた悟空やベジータ、ピッコロ……
そしてCROSS HEROESの面々の並々ならぬ絆を信じている。
「だが、こっちの世界も気は抜けないぜ……ミケーネはナリを潜めたと言っても、
レッドリボン、アマルガム、メサイア教団……油断のならねえ相手はまだまだいる」
冷静に分析する承太郎は、そう言って気を引き締めた。
「そうだな。俺たちは各地に飛んで、奴らの動きを探る事にする。
ドラゴンボールが俺たちの預かり知らない何者かに集められてしまったらしいと
聞いたしな」
「悟飯は、CROSS HEROESと行動を共にしてくれ」
「分かりました。お願いします」
「じゃあな! 悟空達が戻ってきたら連絡くれよな」
天津飯、餃子、ヤムチャ、クリリンらZ戦士は舞空術でダナンを発ち、
各地に散らばった。
「ああ、それと。ダナンで神浜に立ち寄るって話だが、
テスタロッサ艦長からの許可が下りてる」
「そうですか……!」
「常磐のおじさまにも、久々に会えるんじゃない?」
「そうだった……! 随分留守にしちゃったしなぁ……おじさん、心配してるかも」
「特異点でクォーツァーに捕まってました……なんて言っても信じちゃ
もらえないだろうがな。何ならここにその一員もいる」
「やれやれ手厳しいね、ゲイツくん。まあ……甘んじて受け入れるとも」
ソウゴの保護者である常磐順一郎が営む古時計店、クジゴジ堂。
ソウゴ一行がCROSS HEROESに加入して以来、久しぶりの帰還となる。
「いい機会だ。束の間の里帰りってのも悪かねえだろう」
「俺たちもソウゴん家、行ってみたい!」
ジュランや介人らゼンカイメンバーも興味津々である。
ソウゴが通う光ヶ森高校校区と神浜市とは比較的近い位置関係にあるため、
立ち寄るのに苦労はしない。
「しかし、偶然ってのは恐ろしいもんだな。ソウゴに、神浜の魔法少女に、
ソースケが高校生になりすまして通ってた陣代高校も割かし近い……
それが今じゃCROSS HEROESとして同じ敵と戦うようになってんだからな」
感慨深げに言うクルツ。それぞれ繋がりの無かったはずの者たちが運命の悪戯か、
一つに集結している。これは奇跡とも呼べる現象なのかもしれない。
「CROSS HEROES……その呼び名もまた、大佐殿がウィスパードとしての力によって
知り得た並行世界の情報だったな」
宗介が言った。並行世界とは、今いる宇宙とは異なる次元の別の宇宙の事。
例えば宗介が過ごしているこの世界とは別の世界にもCROSS HEROESと存在があり、
自分たちと同じように世界を脅かす悪と戦っているのかもしれない。
(並行世界の俺も、こうやって仲間と共に戦い続けているのだろうか……)
ふとそんな事を思ったが、宗介はすぐにその考えを振り払う。
自分がいるべき場所はここであると自覚しているからだった。
(並行世界のCROSS HEROES……そんなものがいるとしたら、
そいつらの戦いは如何なる結果を迎えたのか。いや……考えても詮無き事だ)
宗介はそう思い、それ以上考える事をやめた。今は己自身の戦いに集中するべきだ。
「カミハマ……俺がジョーカーやCROSS HEROESと出会った街か」
感慨深げに呟くゲイルもまた、リ・ユニオン・スクエアの住人ではない。
元の世界から転移した後、ジョーカーや悪魔超人軍団と共に特異点を渡り歩き、
巡り巡って再びあの街に戻って来た事になる。
この奇妙な縁が糸のように絡まり……奇妙な形で結実した。
何が切っ掛けになるか分からないものだなとゲイルは思った。
――みかづき荘。
「おーっ! いろはちゃん! やちよししょー!
さなちゃんも黒江ちゃんも、おかえりーっ!!」
帰還したいろは達を、鶴乃が満面の笑顔で出迎えた。
そしてドタドタと足音を立てながら走ってくる者が1人……フェリシアが
やちよに抱きつき、喜びを爆発させた。
「どーーーーーーーーーん!! やちよーーーっ!!」
「きゃっ」
まるで子犬のようにやちよにじゃれつくフェリシア。
そんな様子をさなは微笑ましげに、 そして黒江は少し恥ずかしそうに眺めていた。
フェリシアは元々孤児であり、みかづき荘の一員となるまでは傭兵家業でその日暮らしを
していた過去がある。そんな生い立ちもあってか、やちよを実の姉のように慕っており……たまに鶴乃の前でも甘えん坊になる事がしばしばあったりするのだ。
「お土産は!?」
「あるわけ無いでしょ……遊びに行っていたわけじゃないんだから」
呆れ顔でフェリシアを諭すやちよ。
「悟空のおっちゃん達は!?」
「それがね……また新しい戦いに行っちゃったの」
「えー!? そうなのかー! 色々話聞きたかったぞ!! じゃあ、さなでもいい!
いっぱいお話してくれ!」
「う、うん……」
「あの中華料理店の娘か……ももこは元気か?」
「ももこちゃんと一緒に万々歳に来たお客さんですよね? うん、元気ですよ!」
いろは達に同行してきた承太郎やゲイルも、中華飯店・万々歳に足を運んだ事がある。
果てなしのミラーズを潜ってこの神浜市へとやって来た承太郎……
思えば、すべてはここから始まったのだ。
「街もあの頃から随分と建て直されたな……」
辺りの街並みをぐるりと見据えるゲイル。
安倍晴明、ドンキホーテ・ドフラミンゴ、アルターエゴ・リンボ、スウォルツ、
そしてジェナ・エンジェル一味との戦いによって半ば壊滅状態にまで追い込まれた
神浜市の街も、若手正義超人達の尽力によって見違えるほどに復旧されていた。
「始祖の葛藤」
それは、悟空達が紫のスキマを潜って幻想郷へ旅立ち、同時にアビダインの出航準備をしている時の事。
出航を間近に迫ったアビダインのトレーニングルーム。今回の改修作業で新たに加えられた施設だ。
そこは人一人おらず、がらんどうのリングがあるのみ。
当然だ、誰もが出発の時を待ちわび準備する中で、わざわざトレーニングに励む者は居ない。
使われるとしても、出発してから到着までの僅かな間のみだろう。
「ゴバッゴバッ。手頃な場所が見つかったな。」
「うむ、申し分無いわい。」
_この例外を除いては。
皆が準備に追われている時を見計らい、これ幸いにとトレーニングルームを利用する、二人の影。
両方ともに大柄の男だ。
「この様な機会が訪れようとは、長生きはしてみるものだな。ゴバッゴバッ。」
怪しげな鈍い輝きを放つ深紫色の身体が、薄い蛍光灯の灯りに照らされ光沢をみせる。
一人は見間違いようもない、ミラージュマンだ。
「キン肉マンについて調べて知った時から、貴様とは手合わせしたいと心の片隅で願っていたぞ。」
「ほう、それは光栄なことじゃな。そうか、キン肉マンがお主の様な者の心を動かしたのか…」
その横、腕組みをしたまま彼を眺めるのは、もう一人の男。
日焼けし切った様に黒い肌と豊かな髭を蓄えた、此方もまた大男だ。
お互いに遠慮する性格でもないのだろう、率直な感想をぶつけ合っている。
そのまま、二人ともリングに入り込んだ。
「あぁ、あの男はネメシスが執着していたからな。だがV2チャンプになった頃からだな、興味を持ったのは。」
腕を組みながら、リング全体を見渡すミラージュマン。
心なしか声色が楽しげに聞こえる。
「火事場のクソ力…いや、友情パワーという奴だったか。初めは眉唾物と捨てていたが…」
「然り、儂も顔を出したあの戦いで、知性の神が憑依した事実上の超神、スーパーフェニックスすら打ち破った。」
まるで何の事を語るかが分かっている様に、次いで口を開いた。
ミラージュマンも同意見の様で、うむと肯定した。
「目から鱗が落ちた気分だった。普通なら力に溺れる所を、如何なる悪にも立ち向かう勇気に変えてしまうのだ。」
感極まったのか、愉快毛な口調を止めないミラージュマン。
普段は威厳に満ち溢れる風貌も、今だけは無垢な子どもの様だった。
「あの男には驚かされてばかりだ、これ程興味をそそられる存在になるとは。」
「ふふっ、儂は組み合って漸く分かったというのに、見ただけで分かるとは。流石は始祖よのぉ。」
「止せ、私はその座を手放した。」
誉め言葉を制する声には、決意が滲み出していた。
「私は始祖の座を降りる決断をする程の勇気も無く、ただ惰性で始祖を遣っていたに過ぎん。それだけが嘗ての『あやつ』との唯一の繋がりだと信じてな。」
そう語るミラージュマンの腕がギシリとなる。
仮面の如き表情から読み取れるのは、後悔か。
「だが、ゴールドマン達は違った。正義超人や悪魔超人といった種を生み、キン肉マンという男を生み出した。結果としてあの日、我等の掲げた秩序に変わる、新たな秩序を打ち立てたのだ。」
「正義・悪魔・完璧不可侵条約か。」
思い浮かべるは、三勢力条約締結の瞬間。
誰もが微笑みを浮かべ、署名に名を綴っていた。
あの瞬間だけは、嘗ての『あやつ』が浮かべた理想の時だったのだろう。
遠くを見る様なミラージュマンの瞳には、平和の二文字が映っていた。
「だが『あやつ』は、あろうことかその秩序を受け入れず、あくまでも自らのエゴを突き通そうとした。『武道』として。」
次いで浮かべるは『ストロング・ザ・武道』襲来の日。
彼等を押し留めるという使命を成し遂げられなかった、ミラージュマンにとっての屈辱の日。
蹂躙された不可侵条約。
閉じた瞼の裏には、自らの情けなさが映っていた。
深く、深く溜息を付くミラージュマン。
それは後悔から来る行為なのか。それとも自嘲なのか。
思い出すだけで身震いする瞬間であろうに、彼は一つ一つ噛み締める様に語る。
「その時に悟ったのだ、私はこの地位を投げ打ってでも『あやつ』の理想が今やただのエゴになった事に気付かせなければならなかったと。」
「それが、自らの使命という拘りを捨てた理由かの?」
仮面の如く、表情も変えないミラージュマン。
だが、一瞬だけ確かに心が揺れるのが分かった。
リングが、只ならぬ緊張感に包まれた。
ミラージュマンは、仮面を被ったかのように言葉を続ける。
「_ゴバッゴバッ、少し語り過ぎたな。」
次の瞬間にはもう、その表情は平静を取り戻していた様に見えた。
「私が成すべき事、それにキン肉マンが付いてこれるか、貴公との戦いで今一度見定めさせてもらう!」
「うむ、それがキン肉マンの師匠としての務めならば喜んで受けよう!」
そう言うと同時に、ミラージュマンは腕を広げ高らかに吼える。
対する男も、自らの頬をバシンと叩き、乾いた音を響かせてから構えを取る。
両者の間に、先程までの和気あいあいといった空気は一辺たりとも存在せず、あるのは肌を刺す様な緊迫感と闘志のみだ。
極限にまで高まりゆく緊張感。
男二人が放つ空気に、トレーニングルームは忽ち支配されていった。
熱気に満ちて空気が揺れる錯覚すら覚える程だ。
(ゴバッゴバッ、よい眼だ。)
(さてと、見せようかのぉ…)
戦の始まりを今か今かと待ちわびる静寂。
それを先に打ち破ったのは、ミラージュマンの方だった。
「ゴバァーッ!」
掛け声と共に風切り音を立てて突き出される右ジャブ。
狙いは当然と言わんばかりに頭部であり、彼の本気が伺える。
が、それを見抜いていたかの様に、男は僅かに顔を横に反らして躱す。
腹の探り合いとも取れるこのやり取りだが、始祖にとってこれはほんの挨拶に過ぎないのだろう。
直ぐに引かれた右腕が、今度は連続して放たれる。連続のジャブだ。
一呼吸も間を置かず、敵に反撃を許さぬ拳がリングを駆け抜ける。
矢継ぎ早に繰り出される拳の弾幕を前に、しかし男は全く動じる様子を見せない。
前後左右、如何なる方向からの攻撃にも反応し、必要最小限の動きだけで紙一重で躱してみせる。
いや…よく見れば違う。
「ゴバァ、当たってはいる。だが、それだけか。」
放たれたジャブと男の間には、紙一枚入り込む隙間もない。
表皮だ、表皮だけがミラージュマンの拳に捉えられていた。
さながら幻想郷における弾幕のグレイズだ。
恐るべきはその空間把握能力か。コンマ1㎜でもズレればダメージを貰うだろうに、恐ろしい芸当を男は見せつける。
「本気と言えど牽制レベルの力ならば、無用ぞ。」
「…成程、キン肉マンの師匠と言うだけはあるな。」
改めて向き直り、慎重に構えを取るミラージュマン。
戦いはまだ、始まったばかりだ。
「phantasm ataraxia Ⅲ 絶望の蹂躙」
遥か上空から見るとそれは、幻想郷という存在が墨で覆われたような光景だった。
「――――!!」「――――!!」「――!!」
黒、黒、黒。
闇、闇、闇。
悪、悪、悪。
大地を塗りたくる悪霊の墨。
さっきまで5万しかいなかったはずの悪霊が、今となっては100万を突破しつつある。
「何なのよこの群れ。控えめに言って地獄?」
妖怪の山をゆっくりと下りながら、まるで雪崩のような悪霊の行軍を迎撃し続ける幽香。
しかしどれだけ強烈な攻撃を打ち続けても、一向に打開される様子が見えない。
まるで、巨大な川の流れをせき止めているような。とてもじゃないが2人じゃ手が足りなさすぎる。
「ほんと、嫌になるわ。」
「援軍を寄越すって、紫さん言ってましたがいつ来るんでしょうか……?」
◇
魔法の森
「はぁ……はぁ……!!」
荒い息を上げながら、崩れゆく悪剣使を見届けた魔理沙は膝をつく。
周囲の悪霊と同時に悪剣使をたった一人で倒したのだ。相当の疲弊も無理はない。
「私のスペルカードに耐えつつあるだなんて……はは、気がどうにかなっちまいそうだぜ……!」
悪霊は長い長い戦いの中、抵抗する幻想郷の住民たちの動きや攻撃、防御や戦術を覚え始めていた。
幻想郷随一の超力攻撃者(パワーアタッカー)である魔理沙の攻撃も楽々と覚え始めているほどに。
複雑なように見えて、単純。故に一部を覚えられてしまった。
そんな魔理沙に畳みかけるように、悪霊が迫る。
「嘘だろ……ははは、こりゃあ……。」
百戦錬磨の魔理沙ですら絶望は避けられなかった。
倒したはずの悪剣使。その2体目が出現したのだ。
あまりの絶望的状況につい、乾いた笑いが出る。
(終わった―――――?)
次に体感するは、2体目の悪剣使に撫で斬りにされる光景。
気が付くと距離を詰められ、体力的にも回避や防御は不可能。
「まだ、終わらせないわ。」
そこへ、救いの手のように冷静に放たれる弾幕。
戦意を失いかけていた魔理沙を助けるような。
「アリス!?」
「何泣きそうになってんのよ、早く立ちなさいよ。」
まるで女神が如く手を差し伸べられ、泣きそうになる魔理沙に対し。助けに来た魔法使い「アリス・マーガトロイド」は冷静に周囲を見る。
「さっきの戦いから察するに、悪霊にはもう力技は通用しないわ。小手先を「違うぜアリス。2つだ!」……2つ?」
「恐らくはもう小手先もねじ伏せる領域に入っちまった。だから力も技もこいつを上回ってないとダメだ。つまり―――。」
「2人で潜り抜けるってことね、いいわ!」
◇
廃棄孔 偽・トラオム 城内
「くっ……!」
「Grrr……!」
リクvs邪弾の射手の戦いは依然続いていた。
次々と繰り出される攻撃を避けて距離を取りながら、リクの身体に風穴を開けるタイミングをうかがう射手。
「GAAAAaaaaaaAAAA!!」
(このままじゃいずれやられる……攻撃に対応しつつある以上、持久戦はできない。)
悪霊には学習能力がある。
いずれは切り札すらも学習され、躱され、使われて殺されるだろう。
であれば、速攻を狙うしかない。
(なら――――。)
「そんなに悪、いや、闇が好きなら見せてやる。」
射手の悪霊は何かを察したのか、身構えた。
しかし時すでに遅く。
「――――闇よ!」
その瞬間、リクは変身する。
己が闇を受け入れた姿に。
―――かつて、忘却の城の戦いでその姿を見せたことがある。
ある男の幻術に囚われ、追い詰められたリク。
彼はその中で「己の闇をも味方につけ、力にする」事によって成長したという。
その時に変身したのがこの姿、後に「ダーク・リク」と呼ばれる姿だという。
「みんなには見せていない奥の手だ。闇の力だから滅多には使わないが……お前にはいい皮肉だろ。正しき闇の力、見せてやる。」
◇
「……あの姿は……バカな!」
廃棄孔の最奥にて、ゼクシオンの顔は大いに曇っていた。
理由は単純。この姿をしたリクに……正確には同じ姿をしたゼアノートの器の一つに消されたのだから。
「偉大なるハワイの王」
じりっと焦げ付く様な熱気が、リング内を支配する。
中央で対面する肌黒の男とミラージュマンの間に飛び交う視線から漏れ出たそれは、見る者が見れば二人を剛力な巨人に見せかける錯覚さえ起こすだろう。
それ程の熱意、それ程の闘志が、ここに今集約されている。
「ゴバァ…」
これを只の睨み合いと侮る者は居ない。そう断言できるほどに今、二人は熱く燃え盛っていた。
「ふふふ…久しぶりの戦い、その相手としては申し分ないわい。」
肌黒の男は、そんな熱気の濁流を受けながら喜びを覚えていた。
昂っているとも言って良いだろう。
彼自身、超人墓場を抜けて以来、初の戦いなのだ。そうなるのも致し方ないだろう。
無論、彼の構えに欠片も隙は生まれていない。その事実が彼の熟練した戦闘センスの一角を見せつけていた。
対するミラージュマンも、感心した様に口を開く。
「私もだよ、これ程隙が無いとはな…」
純粋な称賛、混じり気の無い正の感情から来る言葉。
「ふふっ、貴公が生きている内に聖なる完璧の山(モン=サン=パルフェ)に挑戦に来れば、或いは完璧超人に成れたかもしれんな。それこそ、完璧・無量大数軍にさえ。」
「はっはっは!貴方に認めてもらえるとは光栄だ!そうか、成れたかもしれぬ、か…!」
構えこそ崩さないものの、そう言われた事を噛み締める様に目を閉じる男。
永遠にも感じる程の数瞬の間を置き、彼が目を開いた時、その眼は本気の闘志を灯していた。純粋な闘争心が燃えたぎる炎が灯っていた。
ゆっくりと腕を上げるミラージュマン。攻防一体の姿勢から、攻めの構えへと変えていく。
対する男もそれにピクリと反応を示し、静かに言い放った。
「来るか。」
「あぁ。」
最早、それ以上に言葉は要らなかった。
一瞬の静寂の後、極限まで高められた闘志が堰を切ったように溢れだす。
リングを蹴り出し、男がミラージュマン目掛けて突進する。
応じる様にミラージュマンも組み付きに掛かる。
ロックアップの体勢だ。互いに力比べの様相を呈してきた。
だが徐々に力の均衡が崩れ始め…男が圧され始める。
(ぬぅっ!やはり一筋縄ではいかんか…!)
看板を下ろしても、やはりミラージュマンは完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)。
伊達に数億年もの鍛錬をしてきた訳では無い事を思い知らされる。
この力量、純粋な力だけでバッファローマンにすら及ぶか。
「ならば…!」
しかし男にも、戦士として研鑽してきた今までがあって、今がある。
即座に組み直し、バックフィリップの体勢に持っていく。
「ぬぅ!?」
「嘗てキン肉マンを破った技!まずはこれからよ!」
ミラージュマンの巨体をも軽々と持ち上げ、そのまま後ろへ抱えて倒れ込む_
「ふんっ!」
だが、即座にブリッジを取り床に叩き付けられるのを防ぐミラージュマン。
音を立てて床に叩き付けられる両手両足、だがそれ以外は健在。
バックフィリップは防がれてしまった。
更にミラージュマンは左手のカレイドスコープドリルを回転。
片手倒立の体勢へと切り返し、そのまま回し蹴りを放った!
「ぐおぉ…!?」
肉を打ち付ける鈍い音。
即席とは思えない程の華麗な蹴りに、男の身体がロープ端へと吹き飛ばされる。
大きく撓むロープの反動で帰ってくる男の身体。そこに、倒立から立ち直ったミラージュマンの回る左腕が放たれる!
「此方もお返しと行こう、『カレイドスコープドリラー』---!!!」
今度は最高潮の速度を叩き出したカレイドスコープドリルの回転だ。
それをもって繰り出される必殺の一撃が、男の腹部へと襲い掛る!
「このままで終わってくれるなよ…!」
言葉とは裏腹に、一切の加減は無い。
男は蹴りを受けた直後で意識も曖昧、そこを完璧に打ち抜くつもりの一撃。
その筈だった。
「カ、カメハメ師匠ッ!?」
突如として横合いから飛んだ、聞き覚えのある声。
トレーニングルームでの戦いの音色を聞いた、キン肉マンの声だ。
その声に、男は。
「_弟子の前でっ!」
プリンス・カメハメは、我に返った様に宙で身を翻す。
あと数センチで貫かれるかという所で着地し急停止。
そして片足を軸に体を捻り、勢いを活かした延髄蹴りを放った!
「グアァ!!?」
「情けない所は見せられんわいっ!」
カメハメの特技、ダンシングコンボだ!
鋭く突き刺さった脚に、頭部を揺らされたミラージュマンの意識が明滅。
すかさずその巨体の下に潜り込んだカメハメが、ミラージュマンを逆さまに背負い込む。
「そこで見ているが良い、スグルよ!これが48の殺人技の一つ_」
そのまま大きく跳躍、空中で体勢を立て直し、ミラージュマンの両足を掴んで開かせる。
誰もが一度は見た事のある、あの体制へと持っていく!
落下しながら相手をホールドするその名は。
「『五所蹂躙絡み』ーーーっ!!!」
またの名を、キン肉バスター。
「ぐ、おぉぉぉぉ……!?」
重力と合わせられ一気に腰を落とされたミラージュマンの体を、キン肉バスターが真下から撃ち抜く。
鈍い音が響き渡ると同時に、強烈なインパクトの反動で軋みを上げるリング! 超人の身体が耐えられる限界を遥かに超えた一撃を叩き込まれ、声を上げる事しかできないミラージュマン。
更にはその衝撃で、頭、背中、腰、更には両足の大臀部まで持っていかれる。
股を裂く一撃だった。
その威力は、ミラージュマンと言えども耐えられるものでは無い。
「みご、と…!」
途切れる意識の末梢で、賞賛の言葉を残してミラージュマンが倒れ伏す。
あでやかな技の華が咲き誇った瞬間だった。
_嘗て、偉大なるハワイの王がいた。
その名は、カメハメハ!
「GUTSセレクト、幻想郷に行く」
ブリーフィングを終えた後、トキオカ隊長代理からGUTSセレクトのメンバーにあることが伝えられた。
それは……
「テッサ大佐達の話し合いの結果、メサイア教団による幻想郷での悪霊騒動の対処のために、我々GTUSセレクトも幻想郷に向かうことが決定した」
「幻想郷にですか?」
「あぁ」
「けど、急にどうして……」
「ミケーネ帝国がいない今、この世界で残っている勢力はどれも人間の組織だ。我々だけならまだしもケンゴ君やハルキさんが持つウルトラマンの力を人間に対して使うわけにはいかない。
だからこの世界での各勢力との戦いを他の皆さんに任せて、我々は人外の存在である悪霊の駆除と幻想郷の人々の護衛を行うことになった」
「なるほど」
「けど、まだライラーは捕まってないんでしょ?また怪獣が出てくる可能性があるんじゃない?」
「あぁ、確かにその可能性もある……が、この世界に残るメンバーの中にはマジンガーやゲッターロボといったスーパーロボやミスリルのASといった巨大戦力のパイロット達もいる。他の皆さんも巨大化や巨大兵器を使わずとも自身よりも大きな敵とも戦える強さを持っている人が多いから例え我々がいない間に怪獣が出現しても対処はできるはずだ」
「確かにそうですね」
「ところで、その幻想郷にはどうやって行くんですか?」
「そりゃあ、特異点からこっちに戻ってきた時みたいにアビダインに接触してワープするんだろ?」
「いや、今回は違う方法で幻想郷に行く」
「えっ!?」
「今回は幻想郷の八雲紫さんが幻想郷に繋がるスキマを開いてくれる。我々はアビダインがそのスキマを通って幻想郷に突入した後にそれに続く形でスキマを通り幻想郷に突入する。皆はそれまでに準備をしておいてくれ」
「「「ラジャー!」」」
「廃棄孔第3層:偽・トラオム 8_讐悪なる幻妖 その1」
「WOOOAAAAAAAAアアアアア!!」
まるで、地の底を震えあがらせるような咆哮だった。
醜く、悍ましく、故に怖ろしい叫び。
その慟哭にも似た悪霊の咆哮から感じられるのは、ただひたすらなる―――殺意。
「なんて殺意だ……自分の身すらどうでもいいと言わんばかりだな!!」
幻妖はひとしきり叫んだ後、こちら側へ向かって走る。
黒い呪いの塊はおよそその巨体には似つかわしくない速度で怨敵を飲みこまんとする。
そんな敵に対して最初に行動したのは彩香。
「――――ッ!」
そのまま弾き飛ばされる。
攻撃は「重い」。ひたすらに「重すぎる」。
まるで重機にはね飛ばされるかのような衝撃と威力だ。
「彩香!」
「大丈夫……。」
忌油を弾き、構えなおす。
神體の刀を正眼に構え、連続攻撃を空に向かって放った。
「斬空・肆式!!」
斬撃を超高速で飛ばす。
神霊アマツミカボシの力によって本来は何の威力も意味もない攻撃に意味と威力が加わる。
「GrrrrrAAAAAA―――――!!」
突進しながら、斬撃の弾丸を受ける。
その肉体に滴る油を悪霊たる己の能力によって硬質化、斬撃波を防御し続ける。
しかし、その一撃一撃は硬質化させた油を切り裂き、その鎧に少しずつ罅を生やし始めた。
「陽風落!!」
摩擦熱によって熱くなった神體の刀に全体重をかけて、悪霊を撫で斬りにする。
真下への袈裟斬りは、先の斬撃波によってついた罅を完全に「硬質化した忌油の鎧の破砕」へと至らせた。
鎧を砕かれ、ふらつく幻妖にペルフェクタリアは追い討ちをかける。
「爆針薙(ばくしんち)ッ!!」
魔力を込めた手刀による打突。
その衝撃は悪霊の鎧を完全に破砕し、赤核を露出させるに至った。
完全に吹き飛ばされた幻妖は、口に当たる部位から吐血するかのように忌油を吐き出しながら立ち上がる。
「――――あ――――!!」
急ごしらえで赤核を油で覆いつつ、誰に放ったのかも分からぬ言葉を言いながら空中に跳躍する。
直後、幻妖の右腕が風船のように肥大化した。
ぐんぐんと大きく成長してゆくその腕は、気が付くと己が体躯の4倍の大きさになって地上に色濃い影を落とす。
この能力は本来、大本たる■■■■■■■には存在しない能力。
理由を強いて言うなら、トラオムというメサイア教団の前線基地。そこで戦ったデータをゼクシオンと焔坂は利用したのだろう。
これも、悪霊とその胎たる”廃棄孔”があってこそなせる業。
「WRRRRRAAAAAAAA――――!!」
右腕を発射する。
悪霊の能力を最大限に活用した、超巨大ロケットパンチ。
「あの能力……!!」
「バケモンかよ……!」
「いや、あれはもう化け物というより……悪魔だ!!」
「言ってる場合か!来る!!」
巨大化した、悪魔の右腕型隕石が迫る。
ドス黒い隕石のような拳が3人を叩き潰さんとする。
大きさ、衝撃、忌油の濃度と影響。触れれば即死。重力と加速度故に防御するには力が足りない。
「くっ……こうなったら撃ちおt……え?」
彩香たちを下がらせ、自身の持つ榴弾矢の爆風で隕石をずらそうとした、その瞬間だった。
天宮月夜の両眼に映った「未来の光景」。
現実時間にして0.01秒にも満たず、体感にしては十分すぎるほどの余裕。
「いや、右だ!!右に跳べ!!」
気が付くと、月夜は叫んでいた。
そこにどういう意図があるかはわからないが、とにかく叫んだ。
自分も右方向に跳び、少しでも拳を逸らそうと榴弾矢を放つ。
「――――――!!」
方向を逸らし、土煙と共に激突する拳を何とか回避することには成功した。
そんなことよりも。
(いや、何だったんだ……?俺の目の前に映った「あの光景」は?)
月夜は、ただ考えていた。
刹那よりも短い時間に映った「生存する方法を映した未来」。
剣のように突き刺さった右腕を忌油によって繋げて復元した幻妖。
身構える3人に向かって忌油でできた何かを投げつけようとした、その時。
「ダーク、ストローム!!」
刹那、城の壁が突貫される。
その衝撃波凄まじく、破城鎚で攻撃されたかのように綺麗な穴が開き、吹き飛ばされた悪霊「邪弾の射手」をそのまま塵と化させた。
さらにその衝撃は幻妖を叩きつける。
消滅した射手を見届けた後、城から脱出したリクも3人に合流する。
「リク……って、その姿は?」
黒を基調とした外套に身を包んだ、禍々しくも頼もしい姿。
ダーク・リクと呼ばれている姿をしたリクは、彼らに向き直る。
「俺の奥の手ってところかな。闇の力ゆえにあまり使いたくはないがこの先は厳しい。解放したってわけだ。」
「奥の手か。よかった。てっきり悪霊にやられたのかと。」
忌油の塊を投げつけようとして、その出鼻をくじかれた幻妖は立ち上がり、再び咆哮した。
その心境はもう、「こいつらだけは、このトラオムごと破壊し尽くす」という硬い意志でまみれていた。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「岸辺露伴、バレる」
(凄い、凄まじい戦いじゃあないか!)
プリンス・カメハメの華麗なる逆転勝利の瞬間。
それを見届けた者は、キン肉マン達の他にもいた。
(ぶつかり合う肉体、技巧と技巧の比べ合い、迸る血汗!そして逆転勝利!これだ!この『リアル』が見たかったッ!!)
トレーニングルームの換気ダクトから眼を覗かせるのは、誰あろう岸辺露伴だ。
まるで誕生日プレゼントを貰った子どもの様に眼を輝かせ、事の成り行きを見届けていたのだ。
(時間にして僅か数十秒か、その戦いの間に詰め込まれた『ドラマ』は一体どれだけの物なんだッ!?)
彼にとって、リアリティ溢れる戦いは御馳走も同然。故に彼のメモを描く手が止まる事もない。
(『弟子の前で情けない所は見せられない』と言ったか!そのプライド一つで逆転して見せた訳か!これが人間賛歌!本当の闘いッ!!)
己の信じる正義の為に、自らの人生を懸けて闘う男達。
そんな彼らにこそ敬意を表したいと、露伴は思う。
詰まる所、カメハメの闘いに感動を覚えていた。
(あぁ―…『密航』した甲斐があったという物だ…!)
ここに来て、岸辺露伴のテンションは最高潮を記録した。
感動したと言っても過言では無い。
感極まって涙を浮かべ、ギリリと両の拳を鳴らす程に。
_それが不味かったのだろう。
◇
「カメハメ師匠…!」
「久しいな、スグルよ。」
驚愕。その一言に尽きる。
プリンス・カメハメの存在、それはキン肉マン…キン肉スグルにとって、正に寝耳に水と言った所だった。
まさか嘗ての夢の超人タッグトーナメントで死んだ筈の師匠、プリンス・カメハメが現世にやって来るなど、一体誰が想像するだろうか?
だが実際、目の前にいるのが現実だ。カメハメは確かにその両の脚で地を踏みしめ、生きている。
その事実を前に、困惑と感嘆がスグルの脳裏を占める。
「まさか、まさかもう一度お会いできるとは…!」
「ふはは、私もあの戦いが最後だと思っていたわ!運命とは数奇な物よのぉ?」
「その口ぶり、間違いない…カメハメ師匠っ!」
くしゃり、とスグルの顔が歪む。わなわなと腕が、全身が小刻みに震える。
やがて涙を浮かべて、スグルはカメハメに跪いた。
彼への尊敬の念は、永遠のものだ。だからこそ、そんなカメハメが生きていた事が嬉しくて仕方がない。
故にこの行いはスグルにとって当然のものであった。
「スグル、いやキン肉マンよ。」
「へっ?」
だが、カメハメは目尻を吊り上げて睨み付ける。
突然の態度の豹変にスグルが間抜けな声を出すと、今度はカメハメの方が腰を下げて目線を合わせ、叱る様に言った。
「王たる者が、そうやすやすと頭を下げるでない。」
「し、しかし師匠…!」
「例え師匠であってもだ!お前はキン肉星の現国王なのだぞ!」
雷に打たれた様な衝撃が静かに走り、スグルは両の眼を大きく見開く。
そうだ、ベジータに諭されたばかりでは無いか。自分はキン肉星を背負った王なのだと。
そんな様子を見かねて、今度は逆にカメハメが腰を屈めると、そっとスグルの肩に手を置いた。
そして今度は穏やかな声で言った。
「キン肉マンよ、お主の敬意は十分分かっている。今すべきことはソレでは無いだろう?」
その言葉を聞いて、スグルはハッとする。
自分が今やるべき事は、師匠の叱咤に萎縮する事ではない。
今この瞬間にも悪に脅かされている人々を、正義超人として救いに行かねばならないのだ。
スグルは涙を拭うと、力強い眼差しでカメハメに向き直る。
「はい、師匠!」
そして凛々しい声で返す。
もうそこに赤子の様な涙を浮かべた男はいない。
一人の王が、漢がいた。
「_ゴバァ、良い師匠を持ったなキン肉マン。」
「ミラージュマン!」
そこに、何時の間に意識を取り戻したのかミラージュマンが姿を現す。
流石は元始祖と言うだけはあり、復帰も早い。
先程までのダメージを物ともしない平静さを醸し出して、口を開いた。
「この私から一本取るとは、やはり下界の超人も捨てたものでは無いと改めて実感させられたぞ。」
「あったぼうよ、カメハメ師匠を舐めるんでない!」
「甘く見たつもりは無かったが…いや、実際やられたのは私の方か。」
ミラージュマンが、今一度二人に向きなおって言う。
「認めよう。お前達正義超人ならば、『あやつ』を止められると。」
「…!」
そして課せられる、全超人達の命題。
武道を、『あやつ』の暴虐を止めるという命題を。
「そして…」
徐に踵を返すと、ミラージュマンはその左腕のドリルを回転させ始める。
「な、なんじゃ!?」
「ミラージュマン、何をするつもりじゃ?」
「コソコソと嗅ぎまわっている者がいるのでな。」
困惑の表情を浮かべる二人に、ミラージュマンはニヤリと笑みを浮かべて言う。
まるでこれまでの鬱憤を晴らすかのように、上機嫌な声で。
同時に左腕から螺旋風が飛び出し、二人の間を通るように撃ち抜かれた。
「ぐげぇえぇぇああぁぁーーーっ!!?」
直後、射線上にあったダクトが弾け、同時に悲鳴が上がった!
ゴトリ、と音を立てて何かが、何者かが落ちてくる!
そこから、息も絶え絶えな掠れ声が聞こえてきた!
「な…何で、バレ、て…!?」
「戦いの前から視線は感じていたぞ。」
突き付ける様に、落ちてきた者…岸辺露伴に言い放つ。
露伴は、破裂したダクトの破片が刺さり血だらけになっていた!
「私はミラージュマン、鏡だ。鏡を見る時、鏡もまたお前を見ている。」
「そ、そんな理屈で…!?」
「これでも私は元門番だ、甘く見るな。」
その指摘に、ぐぅの音も出ない。
しかし岸辺露伴にはそれを気にする余裕が無いのか、その手を震わせながら蹲るとブツブツと独り言を繰り返すだけだった。
「お、おーい?大丈夫かー?」
そんな弱った彼を見かねて、キン肉マンが困った顔を浮かべながら手を差し伸べて言った。
そんな二人を忌々しげに見つめながら、露伴は内心毒づいていた。
(くそっ!くそぅ!どうして僕がこんな目に遭わなくっちゃあならないんだッ!?)
それが彼の素直な気持ちだった。因果応報なので割と救いようが無い。
そこに、数人の大男が駆け付けてきた。
「何だ、今の音は!?」
「おぉ、テリーマン!」
誰あろう、テリーマン達だ。
彼等は、噂の密航者を探して船内を周っていたのだ。
そして今、ボロボロの男を見て悟った。
「ま、まさか密航者!?」
「見ろ、病室から消えたネームプレートを持ってる!」
(し、しまったぁーーーッ!?メモの下敷き代わりに使ってたのが災いしたッ!)
慌てて隠そうとするが、時すでに遅し。完全にバレた。
(あ、脚が言う事を聞かんッ!?)
ズボンに空いた穴から血がぼたぼたと零れており、ダクト片の傷の深さを物語る。
もう助からないぞ。
そんな言葉が思い浮かんだ時だった。
「_待って…くれ、通してく…」
「…?この、声は?」
「_まさか、岸辺露伴?」「空条承太郎?」
救いの手が、差し伸ばされた。
「妖怪変化もぶっ飛ばし! DBヒーローズ、廃棄孔突入!!」
――幻想郷・廃棄孔。
八雲紫のスキマを抜けた先。
CROSS HEROES本体に先駆けて幻想郷へと先行した悟空、ベジータ、ピッコロの前に
神の湖の中心部にぽっかりと開いた空洞が待ち受ける。
「あれか……」
「申し訳ないけど、案内できるのはここまでよ」
八雲紫が言う。
「ここから先は、瘴気が濃くてね。スキマであの中との空間を繋ぐのも難しいの」
「いや、でぇじょうぶだ。こっから先はオラ達で行く」
「確かに……嫌な気があの中から溢れ出てきやがる……直に浴び続けていれば
身体に差し障るかも知れん。ペルフェクタリアや日向月美達の身も心配だな」
ピッコロが呟き、前を見据えた。
光などどこにもない、先も見通せない深い闇……
「ぐだぐだ言っているヒマはない。さっさと行くぞ」
ベジータが腕組みをしながら言い放つ。
「そうだな。よっしゃ、行くぞぉ!」
だっ、と悟空が一気に光の届かない暗闇へと跳躍し、
その後にピッコロとベジータも続いた。
「私は他のみんなを幻想郷に順番に転送してくるわ。必ず助けてきて!」
「ああ! 頼んだ!!」
八雲紫がスキマの中へ消えて行くのを見届け、悟空達は穴の中へ飛び込んだ……
「ホントに真っ暗だな……うおっ?」
直後、がくん、と三人の体が落下する感覚を覚えた。
奈落の底へ吸い込まれるように三人は落下を続けていくが、舞空術を駆使して
落下スピードを巧みに調整する。
視界の端には水晶で出来た螺旋階段が光の反射によって僅かながらの照明の役割を
果たしている。だが、それ以上に周囲を包む闇の深さがそれを呑み込む程に深く、暗い。
視覚にはほぼ頼れないが、周囲の気を探る技能に長けた3人にとっては
さして問題は無いようだ。
「ん……? 気をつけろ、あちこちから邪悪な気配を感じるぞ」
周囲に気を高めつつ、ピッコロが警戒を促す。
刹那、びゅっ!! と風を切りながら四方八方から何かが飛来してくるのを
悟空は感じ取った。
「……っと!」
悪霊だ。悟空がその気を感じ、その正体を看破した直後。
ベジータの目の前を何かか通り抜けた。それは……黒く尖った爪のような何かだった。
「こいつらか……悪霊っちゅうんは……!」
「クケケーッ!!」
闇の中から、悪霊達が次々に襲いかかってくる。
この先に進ませまいと、この大空洞にたまった悪霊達が、侵入者である悟空達に
襲いかかって来たのだ。しかし……
「ふっ、はっ!」
ひょい、ひょい、と悟空は攻撃をかわしながら、戦闘の拍子に砕けた螺旋階段の
支柱の欠片を掴み、まるで如意棒代わりにして、悪霊達を軽々とはね除けていく。
「へへっ、何だか懐かしいや。よっ! ほっ! だあああありゃっ!!」
「ギャアアアーッ……」
「グギェェェェッ……」
ひょいひょいと避けながら、悟空は水晶の棒を振り回し、
次々と悪霊達を薙ぎ払っていく。
しかし、それで倒せたわけではない。数が多すぎて全てを倒しきる事が出来ないのだ。
するとそこにピッコロが割って入り、気を高めた掌から光弾を放つ!
「激烈魔光砲おおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!
ずああああああああああああッ!!」
眩い光が周囲を包み、悪霊達が次々と蒸発していく。
だが、それでもまだ多い。
「ピッコロ! こっちに撃ってこい!」
「なっ……? 何を考えているのか知らんが……そうらっ!!」
「特大ホームランだあーッ!!」
そこに間髪入れずに悟空が棒を回転させる。
ピッコロの放った魔光砲の光を反射させつつ周囲に飛び散らせて、
まるでショットガンのように悪霊達を撃退した!
「グゲッ」
「ギャオッ」
「まったく、相変わらず訳の分からん発想をする奴だ……!
だが、あの柔軟な機転と応用力こそが奴の最大の強みか……」
「はっはぁ、上手く行ったぞ……むっ……!?」
「鬱陶しいッ……奴らだッ!! かああああああああああああああああッ!!」
「ギィィィィィイイィィィッ……」
ベジータが体内から発散する気を爆発波として放ち、周囲に群がる悪霊達を
一気に吹き飛ばしていく。しかし、それでも……闇の奥から次々と湧き出してくる
悪霊達をひとつひとつ相手にしていてはキリがない。
数が圧倒的に違いすぎる……そして何よりも厄介な事がある。
「こいつらは戦う度に相手の行動パターンを学習し、強くなっていくと聞いた。
まともに相手にしてる暇はないぞ!」
悟空の脇に並んだピッコロが言う。それを裏付けるように、
吹き飛ばされたはずの悪霊達を上回る数の増援が、悟空達の周りを取り囲み始めた。
その数は……数える気にもならないだろう。
それもそうだ、彼らはこの大空洞の至る所にうじゃうじゃと蠢いているのだから……
今、こうしている間にも悪霊の数は増殖を続けている。
「ようし、そんなら……! ベジータ! ピッコロ! 一瞬だけ目ェ閉じてろ!!」
「!! なるほど、あれか……!」
悟空の掛け声にベジータとピッコロは何をするつもりなのかを予測し、目を閉じた。
「――太陽拳んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんッ!!」
「ギャオオオオオオオッ……」
相手の目を眩ませる激しい光を悟空が放つ!
その閃光は一瞬にして闇の空間を呑み込み、周囲に群がる悪霊達を怯ませた。
「ギャギャアアアアアアアアアアアアアアッ……!!」
本来であれば太陽拳自体にはダメージはない。
しかし、強烈な光を直視してしまった悪霊達は霧散し、一時的に姿を消した。
「暗闇ン中が好きなだけあって、太陽の眩しい光は苦手みてえだな。モグラとおんなじだ」
「思った以上に効果があったようだな……今の内だ、一気に奥へ行くぞ!!」
悟空達は周囲を確認しながら、廃棄孔の奥へと再び潜行を始めた。
「phantasm ataraxia_4 十二の星剣、絶望の少女、躍動の水士」
黒い濁流が迫る。
人間の里によって駆逐されていった悪霊の数を遥かに上回る悪霊の個体数。
多勢に無勢とはよく言ったもの。
人間と妖精たちが作った氷の城塞は悪霊の数の暴力に圧倒され、成長を繰り返し始めた悪霊は遂に城壁を乗り越え始めた。
人間を蹂躙する為に、幻想郷を蹂躙する為に、果てに全てを蹂躙する為に。
「わああああああ!!」
「来やがったああああ!!」
「諦めるな!撃て!撃て!!」
悪霊は嘲笑うかのように、死にゆく同胞すらも踏み越えて進んで行く。
人間の里を侵す濁流。
未曽有の災厄に勇猛に立ち向かう者たちを、神は―――見捨てることをしなかった。
「うっげぇ!絶望的に苦戦してんじゃんか!!」
「追い詰められてるね、出るよ!」
闇を貫く魔弾と清流。
その大本は外より来たる助っ人の持つ異能。
「水」のノーバディ、デミックスの生み出す無数の水柱が悪霊をかち上げ、弾き飛ばし、破裂させる。
そして残った悪霊の赤核を、江ノ島盾子の持つショットガンの弾丸が破壊する。
「何だ兄ちゃん!?手伝ってくれるのか!?」
「はは、その通り!泥船に乗ったつもりで一つ、頼ってくれよ!!」
「泥船て……てか、あの弾丸はどこから?」
夜想のしらべが、幻想郷に鳴り響く。
乾いた熱に差す水の弾幕、そして全てを貫徹する黒い弾丸。
頼もしいことこの上ないが、その異常さに耐え切れぬ者もいるようで。
「もう……俺には無理だッ!逃げる!!」
「あっ、おい!どこに行くんだ!?」
里の住民のうちの一人が、あまりの恐怖から逃げてしまった。
およそ100万越えの災厄の群れを見てしまえば、逃げ出したくもなるというもの。当然の反応ではある。
しかし、逃げ出そうとする男の前に一人の少女が立った。
「助けてくれ!あんたも……助けてくれるんだろ!?」
「はッ!だったらお前らも立て!甘ったれるな!」
「うっ、分かっちゃいるが……もう……!」
弱気になる。
戦えぬ己が、絶望的に悔しい。
絶望的、故に彼女は吠える。
「幻想郷だがなんだが知らねぇが、そんなところで泣いていいのか!!動けるならオマエらもまだ戦えんだろうが!!悔しかったら斬って撃って倒しまくれ!!あいつらオマエらを嘲笑ってんぞ!!」
超高校級の絶望、江ノ島盾子が叫ぶ。
本来ならばありえない、誰かのための彼女の在り様。
自分以外の誰かが絶望させるのは、己のプライドが許さない。
まだまだ謎も悩みも、思う想いあるけれど、今宵この時は――――ありのままでいると決めたのだから。
故に、叫んだ。
その声は、弱気な男だけでなく人間の里にいる全ての者たちに響いた。
「そ、そうだ!悪かった、甘えてしまった……!」
「まだ戦える…!」
「ここが正念場だ、戦うぞ!」
「弾がなくなったら剣でも鍬でもいい!動けるなら立ち上がれ!!」
江ノ島の号令が、弱り始めた里の住民たちを奮い立たせる。
ここで逃げたらきっと幻想郷は崩壊する。そしてみんな死ぬ。
『それだけは嫌だ』、ゆえに彼らの戦争は続く。
「あんたら、本当に百人力だ。」
「だがキリがねぇな……!!」
「いや、まだだ!!まだ俺達はこうして戦えるんだからよ!!」
デミックスと江ノ島の援護は頼もしい。
しかし悪霊は倍々ゲームで数を増やし始めてゆく。とてもじゃないが人手が足りなさすぎる。
その弱気は、妖怪の山をじりじりと降り始めた者たちも同じようで。
「ああもう、キリがない!!」
幕間は続く。
妖怪の山の濁流はどれだけ頑張っても勢いを下げることもなく、そればかりか強くなる一方。
だがここで逃げるわけにはいかないのは同じ。
「文!?」
超高速で空を駆けていた文を、忌油の弾丸が命中させた。
最速が物量に撃ち落とされる。
「幽香さん!一時離脱します!」
「くっ……!」
その行為は敵討ちか、それともただの八つ当たりか。
およそ出しえる最大威力のマスタースパークをお見舞いせんと、傘を構える。
その手は、震えている。
息が上がる。
振り切れぬ恐怖心が芽生え始める。
そう、己が脳裏によぎったが。
「いや!そんなもの――――!!」
全力全開のマスタースパーク。
その力の奔流は、悪霊の全てを薙ぎ払わんと迫る。
バカメ オロカナ ムダナアガキダ
しかし、それすらも彼らが学習済み。
悪霊のうち、防御に学習が特化した者たちが肉盾、否、霊盾となり防御してしまう。
「――――は?」
あまりの衝撃に、立ち尽くす。
幽香は、某然とすることしかできなかった。
「最強の妖怪を自負する幽香(じぶん)ですら、数の暴力と言う名の絶望には勝てないのか?」
かくなる上は、とやけくそ気味に弾幕を放ちまくる。
「ば、バカにしやがって!目の前でみすみす仲間やられてんのに!笑ってんじゃないわよ!!!」
「いや、無理無茶無謀は、俺達の宮廷と十二勇士の専売特許だ。あんたがそうする必要はない!」
その刹那。常闇に侵食され始めた妖怪の山に、流星群が降り注いだ。
光は闇を文字通り切り裂き、浄滅させてゆく。
「おい!なんだあの光!爆発か!?また守矢がなんかやったのか!?」
「妖怪の山が……光った!?いや、隕石!?」
「隕石にしては随分と……!」
数瞬、時が止まったかのようだと誰かが言った。
夜なのに昼になったかのようだと誰かが言った。
里の人間も妖怪も妖精も悪霊も、誰も彼もが戦いを忘れて見とれていた。
絶望の戦場に流れる、言葉通りの希望の光。
誰かが願ったのか、或いは神が起こした奇跡か。
ただ、近くにいた幽香は降り注ぐ星屑の正体を見切っていた。
「今のは、剣……!?」
「間に合った!!」
十二本の光が、悪霊を砕いてゆく。
絶え間なく現れる黒い影。
カレらを消した、巡遊の勇者がここに立つ。
「あんた、一体!?」
「勇猛なる戦士よ、シャルルマーニュの名において助太刀に参った!」
十二勇士の一人、シャルルマーニュ。
外の世界より来た、幻想の聖騎士。
剣を構えて、悪霊の群れに立つ。
「つーわけで、この戦い、任せてくれ!」
「バカ言ってんじゃないわよ。私もやるわ!」
「幻想郷事変 五の二:何もかも呆気無かった」
デミックス達の英雄的活躍の下地、影の譜面となる一面。
つい先程まで人里へ向かう悪霊を食い止めていた筈の最前線だった場所は、比喩でも無く地獄となっていた。
『此方エコー!戦列を維持できない…うわっ、うわぁーーー!!?ガガーッ…』
『メーデーメーデー!退路を断たれた、至急救援を求むッ!』
引っ切り無しに飛び交う悲鳴とノイズの無線。
悲観と悲鳴の色を綯い交ぜにした音声信号の嵐。
人里に悪霊がなだれ込んだ事実は即ち、前線の崩壊を意味していた。
反撃という希望の兆しは、他愛なく踏み殺されたのだ。
「_クソッ!」
想定していた中でも最悪の展開に、指揮を執っていたスネークが悪態を付く。
握り締めた拳を震わせる様から読み取れる絶望具合は、一目では計り知れない。
ドスン、と臨時HQのテントに響く鈍音。
それは理不尽な現実に対する怒りか、己への戒めか。
「少し、天狗になっていたか…!」
単調な物量攻めを前にして楽観視をしたツケとでも言うのだろうか。
じりじりとすり潰される前線を、スネークはただ見守る事しか出来なかった。
撤退は無い、それは人里が前線になる事を意味していたからだ。
故に絶対死守を命じ、その結果がこの戦線崩壊だ。
己の裁量に、落胆すら覚えた。
『畜生!撃っても撃ってもキリがない!』
戦力の逐次投入は、基本は愚策だ。
ただし今回の悪霊の様に、文字通り一秒の隙も無く投入できるのであれば、話は一気に変わる。
愚策が、立派な戦術へと早変わりする。英雄をも屠る殲滅戦を可能とする。
『ボス!貴方と戦えて光栄でし_ブツッ。』
破砕される無線の音から伝わる、死の気配。
それが引っ切り無しに飛んできた。
誰も彼も、良い奴だった。
戦士としてしか生きられない不器用な奴で、しかし不器用なりに仲間を気遣い、励まし、誰かの為にに寄与できる者ばかりだった。
それでいて実力もあり、悪人から非戦闘員を守るのは当たり前だと胸を張って言える奴だっていた。
英雄と崇められても可笑しくない人柄の人物だっていた。
…それが今や、全滅だ。
全て蹴散らされるのを待つばかりになってしまった。
スネークを襲う諦観の重さは、計り知れない程膨れ上がってしまった。
そしてそれを引き起こした悪霊に対する猛烈な怒りもまた、留まる事を知らない。
ぎりっ、と軋む音がスネークの歯から漏れる。
『ボス、流星旅団が人里に合流した!多少は立て直せそうだ!』
「…そう、か。」
無線から聞こえてくる応援の報告にも、覇気の無い返答しか出来ない。
責められる訳が無い、そもそもスネークを責めるような奴は一人もいないだろうが。
故に、其処にあるのは怒りだった。
負の感情を全てぶちまけるが如く、激しく燃え上がっていた。
即ちそれは、己への怒りであった。
己への叱責であり戒めであり、同時に仲間を失った喪失感を埋める感情でもある。
しかし、どうする?どうするべきか?
二律背反する思いは混乱を生み、スネークの思考を絡め取り。
(_切り替えろ。)
自身の内に宿る、冷徹な自分が非情にも叱咤する。
何時までも辛気臭い空気を垂れ流して、仲間の死に敬意を表するのは今でなくてもいい。
取りこぼしたモノばかり数えるな。まずは、この戦況を好転させるのが先決だ。
状況を整理しよう。
前線は崩壊、残った兵士は半分居れば良い方だ。
そして人里に流れ込んだ。
そして何より、先の戦いで人里は弾も士気も消耗している。
改めて、状況は最悪だ。
学習を積んでリクすら相手取れる様になった悪霊だ。
銃の弾が切れた人間がいくら総結集した所で、例えどんな奇跡を繋いだとてただの1体倒せるかどうかと言った所か。
流星旅団が合流しても、100人力程度では全く及ばない。一騎当千でもまだまだ足りない。
ましてや悪霊は自身の死すら顧みない程に生命の凌辱を好む。
死兵ほど、この世で最も恐ろしい者は居ないのだ。
結論は、出た。
進むも地獄、引くも地獄。されど足搔かぬならば更なる絶望が待っているのは確実だ。
人里への被害を防ぎつつ悪霊を討ち取る唯一の方法。それは_
(_ウーロン、お前に全てが掛かっている。)
大元を叩く事での早期決戦。
スネークは、戸惑い無く無線機に手を掛けた。
◇
(怖えぇ~~~なぁ~~~~~~~!!!)
神の湖の畔にて、右往左往する影が一人。
顔を青く染め上げ、恐怖に身を震わせるその影は。
『_聞こえるか、ウーロン。』
「おわぁっ!?スネークかよ、ビビらせんな!」
誰あろう、ウーロンだ。
唐突に無線機から聞こえてきた声に、ウーロンは上ずった声を上げる。
そっと後ろ振り向くと、安堵する様に息を整える。
周囲には何もいない、孤独だ。
「悪霊が来たらやべぇってのに…どうしたよ、血相変えて?」
『通信が繋がってるという事は、まだ神の湖の前だな?』
「お、おう。でもさっき悟空達が入っていったぜ?誘導しようと思ったのに先に行っちまいやがってな~。」
呑気な声で状況を伝えるウーロン。
対し、ギリリという何かが軋む音が聞こえてくる。
妙に思いながらも、戦況を尋ねる。
「そっちもぼちぼち後退して楽勝とか、だろ?」
『_済まないが、こっちは壊滅と言っても良い。』
「…へ?」
向こうの惨状を知らなかった、ウーロンの間抜けな声が木霊する。
想像しうる地獄より酷い現状を聞いて呆然とするウーロンに構う事無く、スネークは淡々と告げていく。
『戦線は崩壊した。半数以上がやられて、人里も戦場になった。』
「んなっ…」
一つ一つ噛み締める様に、しかし事実のみを無情にも言葉にしていく。
迫りくる死の気配がひしひしと伝わるのか、今の彼の表情はこれまでで最も青ざめていた。
有無を言わせない、その威圧感が伝わったのだろうか。
ウーロンも無意味に騒ぐ事無く、真剣に聞き入っていた。
ソレを待ちわびていた様に、スネークから懇願の声が届く。
『頼む、お前の手で廃棄孔の攻略を急いでくれ。それしか望みは残っていない。』
その言葉を皮切りに、通信は途絶えた。
ウーロンは呆然と其処に立ち尽くして。
やがて、彼の心が落ち着いた時。
(くそっ、俺は戦いたくねぇってのに…)
本来なら聞く必要も無い話だったし、通信を切ってしまえばウーロンに出来る事は何一つ無い。
それでも、聞いてしまった。
故に。
(行くしかねぇよなぁ!)
その表情は覚悟に満ちていた。
彼は躊躇い無く、神の湖の穴へと向かって行った。
◇
紅魔館。
無数の悪霊が、ここも例に漏れず押し寄せていた。
そう、押し寄せてはいたのだが…
「随分と悪趣味だね、大して強くも無いし。」
あるラインを皮切りに、ただの一体も近づけず終いにいた。
「丸喜、こんなのとっとと終わらせて魔界の方行こうよ~?」
「…そうだね、こんな物は終わらせるに限る。」
紅魔館上空に滞在する、黒鉄の機兵。
シャドウ・カタクラフトの周囲5㎞圏内は、例外無く悪霊が消滅する地帯と化していた。
此方は此方で、余りにも呆気なかった。
Epilogue「希望の到来!光の巨人、幻想郷に立つ!」
既に幻想郷全体を埋め尽くすほどの数にまで増大し、ついにはDDによる防衛すらも突破して人里になだれ込んだ悪霊。
圧倒的な物量に押され、幻想郷の人々や妖怪達も、スネーク達DDも、そして月美も、もはや限界寸前。シャルルマーニュ達が増援としてやって来たもののもはや彼らが加わった程度では止められないほどに絶望的な状況であった。
……だがしかし、幻想郷の危機に駆けつけたのは、彼らだけではなかった。
「っ!?」
突如として上空から幻想郷全体的に大量のレーザー等が降り注ぎ、一瞬にして数千、数万もの悪霊が殲滅されたのである。
魔法の森にて、
「な、なんだ!?空から急に大量の弾幕が降ってきたぞ…!?」
「ま、魔理沙!」
「どうしたんだアリス!?…って、なんだありゃ!?」
妖怪の山にて
「あやや…!?あれはいったい何でしょうか…」
「どう見ても幻想郷のものじゃないわね……もしかしてアンタの?」
「あぁ!僕たちの、頼れる仲間達のものだ!」
人里にて
「おい!あれはいったいなんだ!?」
「でっけえドラゴンと船が飛んでるぞ!?」
「ドラゴンと船…?…っ!スネークさん!あれって…!」
「あぁ…!やっと来たか…!」
幻想郷各地にいる者たちの目に写ったもの、それは幻想郷のどこに居ても見えるぐらい大きな巨大な船と鉄の龍、CROSS HEROESが所有する3つの戦艦のうちの2つ、アビィ・ダイブのアビダインとGUTSセレクトのナースデッセイである!
『トキオカ隊長、僕は先にアビダインに乗せている皆を地上に降ろしてくるから、その間援護を頼むよ』
「わかりました」
通信を終えるとアビダインは地上へと降下していく。
「よし、GUTSファルコン発進!」
ナースデッセイ号の船体下部にドッキングされているGUTSファルコンが分離
「いっけえ!ファルコンちゃん!」
ブリッジにいるナナセ・ヒマリ隊員による遠隔操縦のもと地上にいる悪霊軍団へと攻撃を開始する。
「ナースデッセイ号!バトルモード!」
「バトルモード!」
ナースデッセイ号が変形し全長200mもの長さを誇る戦闘形態バトルモードに変形、
「一斉放射!」
胴体に当たる部分から無数のレーザーを斉射するレーザーレインや頭部の目から放つ赤い光線などで地上にいる悪霊軍団を攻撃していく。
博麗神社にて
「な、なんなのよあれ…!?」
「どうやら間に合ったみたいね……」
「紫!まさかあれがアンタの連れたきた援軍…!?」
「えぇ、そうよ。頼りになりそうでしょ?」
ナースデッセイ号とGUTSファルコンにより次々と撃破されていく悪霊軍団
「いいぞ!このままいけば…!」
しかし、そう簡単にいくはずもなく……
「・・・」
学習能力により一瞬にしてナースデッセイ号とGUTSファルコンを自分達にとって脅威として捉えた悪霊軍団。
すると数十万もの悪霊が融合していき、なんと50mもの大きさの怪獣のような姿になったのだ!
「えぇ!?」
「嘘だろ!?」
「怪獣になりやがった…!?」
GUTSセレクトの面々が驚いているとまた一体、更にもう一体と怪獣型の悪霊集合体が出てくる
「ギャオオオオオオオオオン!!」
そしてそれらの怪獣型の悪霊集合体は、炎やビームなどを放ってナースデッセイ号やGUTSファルコンを攻撃してくる。
「うわぁ!?」
「これは少しまずいかもな……」
「あの怪獣は僕とハルキさんが相手をします!皆は他の悪霊の対処を!」
「わかった!頼むぞケンゴ!」
「はい!いきましょうハルキさん!」
「押忍!」
ケンゴとハルキはナースデッセイ号を飛び降りるとそれぞれの変身アイテムを取り出した。
「未来を築く、希望の光!!」
『ご唱和ください我の名を!ウルトラマンZ!』
「「ウルトラマン…!」」
「トリガーッ!!!」
「ゼーット!!!」
《Ultraman Trigger Multi Type!》
《Ultraman Z Alpha Edge.》
ケンゴはウルトラマントリガーマルチタイプに、ハルキはウルトラマンZアルファエッジに変身し地面に着地する。
「デェヤッ!」
「デュワッ!」
そして二人のウルトラマンはファイティングポーズを取ると怪獣型の悪霊集合体と戦闘を開始した。