目を。
私は今、正に幼い頃から夢に見てきた光景を目の当たりにしている。
常に私は目の敵にされていた。私には目が無かった。そのことから所謂障害のある人として扱われてきた。光の見えない毎日だった。
中学生になった春、ずっと目を背け続けていたが自らこの状況を良くしようとした。人目につくことが嫌だったが、長い目で見るときっといつか笑い話になる、なんて妄想をして目が無いことをいじられてもむしろそれをネタにした。明らかに友達は増えて、自分を哀れんでくれる人だってたくさん出来た。無論虐めてくる人はいたが大目に見てやった。
そんな楽しい学校生活が続いたある日、
何故だろう。何か真っ暗なぼやけた物が見える。
目が散るような思いだった。
(もしかしたら目が見えるようになったのかもしれない…!)
そんな気持ちで病院へ行って検査をした。
医者と思われる人物が言う。
「どういう訳か分かりませんが…明らかに目が皮膚の上の方へと上がっていっています」
私はそれを聞いた瞬間、目が黒いうちにこの世界を見られるだなんて…!と感動した。
しかし、事件が起こる。
鬼の目にも涙。天は私に目もくれないものだと思っていたが、やっと神様の目を引くことが出来た。そう思って居たのだが…
やっと目が見え始めた頃。私を見の仇にしていたヤツらに、目に物見せてやろうと意気込んでいた。が、それが裏目に出てしまった。
私は人目につかない場所でヤツらへの復讐━━といっても、少しの間私と同じ目に遭わせて、今までにしてきたことから目をそらさせないようにさせてやる程度に過ぎないが━━を企んでいた。
だが、ヤツらは気づいていたようで、先回りされ、私が酷い目にあった。
ヤツらは、私と目が合うやいなや、目を血走らせて殴りかかってきた。目が眩ってしまって、目の前が真っ暗になりそこからはよく覚えていない。起きた時には、文字通りめの上にたんこぶが出来ていた。おそらく目も当てられないほどやられたのであろう。
そういう事があってから、私はその年の秋に故郷の目黒から宮城の大目のほうまで引越した。この時、私は中学3年生であったため、最初はバタバタとしていたが、高校に上がってからは平穏で素晴らしい日々を過ごしていた。そう、その時までは━━。
高校二年に上がる頃には、私の視界は随分はっきりしていた。もっとも細部を認識することはまだ困難だったため、美術の成績は目も当てられなかった。
それよりも両親が気にしたのは、人の顔を見分けられないことだ。
新しい主治医からは長い目で見てください、と言われていた。その言い回しに目くじらを立てた母が病院にクレームを入れ、医者が大目玉を食らったのは言うまでもない。母は目に入れても痛くないほど私を可愛がっていた。
私はと言えば、目を輝かせて日々を満喫していた。人生の大半の時間を暗闇の中で過ごしたことを思えば、少しの不自由なんて目じゃない。
それを口にすると、両親は目を潤ませた(と後から聞いた)。
夏休みを目前にした七月半ば、運命の女神の振ったサイコロは私に悪い目を出した。かつて私を目の敵にしていた連中の一人が転校してきたのだ。
折目正しく挨拶した彼は苗字も声も変わっていた。声変わりが遅かったのだ。下の名前だけは聞き覚えがあったが、目の利かない私は偶然で片付けた。
「よかったら昼休み、案内してくんね?」
隣の席に座った彼が囁いた。