プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:8

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1人目

「Prologue」

【丸喜パレス編】原文:AMIDANTさん

 空より舞い降りアビダイオーを止めたのは、
シャドウアビィの奥の手『シャドウ・カタクラフト』だった。
向こうもまた巨大兵器の製造に着手し完成にこぎつけていた事実に、アビィの顔が歪む。
アビダイオーという奥の手を封じられ、
逆上する様にシャドウアビィへと戦いを挑むアビィ。
だが、一方的に蹂躙されるばかりで、寧ろ逆襲に合う結果になる。
最早、これまでか。
諦めかけたその時だった、悪魔将軍による乱入、そして静止の手が入ったのは。
間一髪の事態を止めた悪魔将軍は語る、世界救済計画を利用した暗黒魔界の野望を。
事態を見据え、武道、悪魔将軍共に特異点の聖杯に対する不干渉条約を締結。
第一回丸喜パレス戦は悪魔超人による仲裁という形が入ったものの、
惨敗という形で幕を閉じるのであった。

【アビィダイバーズ外伝:亜人脳徒編】 原文:AMIDANTさん

 亜人脳徒(アビト ノウト)。 謎に包まれていたアビィの出自を握る人物。
幼い頃から鬼を宿し、その果てに知性の悪魔へと成り果てた一人の独白。
そして一つの仮想世界を弄んだ末に、彼は禁忌の実験を行う事となる。

【密航編】原文:AMIDANTさん

 戦いを終え、リビルド・ベースに帰還したアビダイン。
応急修理と拡張を経てRUSへ戻らんとしていた。
次なる目的地は、忘れ去られた者の最後の楽園『幻想郷』、
そしてその先にある悪魔の地『暗黒魔界』。
そうして出発したアビダインの病室にて、詳細不明の何者かが運び込まれ、その上姿を消したという奇妙な事件が発生する。
正体は、岸辺露伴。
彼は先のクォーツァー襲撃に際し、ヘブンズドアーでカッシーンより得た情報を元に世界で起こっている事態を把握し、リビルド・ベースを訪れていた。
目的は『取材』、新たなる発見や知見を得て漫画のリアリティを高める為であった。
しかしアタランテによって取材を断られた露伴は逆上、アビダインへの『密航』を企てる。
そしてナイチンゲールとの紆余曲折を経て、『密航』は成功してしまった。
その後、換気ダクトに身を潜んでいた岸辺露伴であったが、プリンス・カメハメと組み手をしていたミラージュマンに見つかってしまう。
『密航』がバレてしまい、窮地に陥った露伴。
その時だった、承太郎という救いの手が伸ばされたのは。

【破壊神の影編】
 リ・ユニオン・スクエアへと帰還したCROSS HEROES。
悟空はミケーネ帝国を食い止めていた天津飯たちから、突如出現した謎の人物が
瞬く間にミケーネの戦闘獣たちを駆逐し、戦況を逆転させたことを聞く。
その圧倒的な強さもさる事ながら、目の前にいるはずなのに何故か
その気を読み取る事ができなかったという。

 そこで悟空は、地球を含む北の銀河を監督する界王ならば何かを知っていると考え
界王星へと向かう。界王は体を震わせながら、 その危険性を悟空に伝えた。
破壊神ビルス。界王神と対となる存在。宇宙の調和のために、破壊の力を司る神。
それほどの大物が太陽系の辺境、地球に降臨した理由は界王にも皆目見当がつかない。
ひとつ言える事は、ビルスの機嫌を損ねるような真似をすれば、
地球そのものが消滅するかもしれないということ。
界王は悟空に、破壊神であるビルスの動向には細心の注意を払いつつ行動する事を
忠告する。

【幻想郷編】原文:AMIDANTさん

地を覆う悪霊の群れ。
生命の凌辱を目的とする死の集団を、DDは総力を以て迎え撃つ事を決定する。
無数の火器弾薬で悪霊の出鼻を挫くDD。
しかし百万を優に超える軍勢を前に、次第に追い込まれる。
スネークはこれに対し、ウーロンを廃棄孔へと派遣する事での早期解決を計るのだった。

【廃棄孔突入編 その2】原文:霧雨さん

偽・港区の結界を突破した廃棄孔攻略組の4人は、廃棄孔の奥へと進んで行き次の結界に突入する。
結界の内部に広がる、次なる光景は一面に広がる荒野と奥に見える白黒の都市。
それは、かつてCROSS HEROESが攻略したトラオムのソレにそっくりであった。

廃棄孔の結界の一つ「偽・トラオム」を突き進んで行く4人の前に現れた、無名のサーヴァント:セイバーに偽装した「暗黒の悪剣使」に奇襲されるも、何とかこれを下す。
あまりの手ごたえのなさから更なる敵がいることを想定、トラオムの奥地へと目指してゆく。そこにあったのは絶望界域の王にしてⅩⅢ機関の一人、シグバールを模した悪霊「邪弾の射手」と復讐界域の秘密兵器たるバイオブロリーを模した「讐悪なる幻妖」と戦闘になる。

3人と分断され、一人射手と戦うことになったリク。彼は自らの切り札であり闇を飲み込み力とした「ダーク・リク」の姿に変身し圧倒する。
そのころ、残された3人は幻妖のパワーに少しずつ追い詰められてゆくのだった。
果たして、4人はこの偽・トラオムを脱し廃棄孔を破壊することはできるのだろうか?

【phantasm_ataraxia:悪霊百万鬼夜行】原文:霧雨さん

廃棄孔からあふれ行く悪霊の数は、幻想郷の住民達や外の世界の使者たちの想定を遥かに超え始めていた。
その圧倒的な数の暴力と学習能力による連携、成長具合は凄まじく幻想郷最強の妖怪を自負する幽香ですら追い詰められる。
そこへ、外からの援軍たるデミックス、江ノ島盾子、シャルルマーニュが援軍に駆け付ける。

とりあえずの危機は脱したがこの百万鬼夜行はまだ前哨戦。
悪霊も、人間たちも、外の世界の勇者たちもまだ本気を出していないのだ。

【GUTSセレクト編】原文:ノヴァ野郎さん

 特異点の黒平安京での戦いを乗り越えてパワータイプのキーを取り戻した
GUTSセレクト。リ・ユニオン・スクエアに戻ってきた彼らは
八雲紫からメサイア教団の悪霊が幻想郷にて大量発生してることを聞き、
幻想郷の人々を助けるために正義超人や心の怪盗団などと共に幻想郷へと向かう。
到着してすぐにナースデッセイ号とガッツファルコンで大量発生した
悪霊の殲滅を開始するが、なんと大量の悪霊が合体し巨大な怪獣のような形態になる。
しかもそれは一体だけではなかった。
怪獣の姿になった悪霊の対処をするために変身し立ち向かう二人のウルトラマン。
果たして彼らは勝つことができるのだろうか?

【CROSS HEROES、幻想郷へ編】

 幻想郷での激しい戦いの状況を聞かされた悟空たちは、
リ・ユニオン・スクエアに帰還したのも束の間、
すぐに幻想郷へと向かう事となった。八雲紫のスキマの力によって
ペルフェクタリア、天宮兄妹、リクが向かった廃棄孔内部へと突入する
悟空、ベジータ、ピッコロ。
幻想郷全土に拡散を続ける悪霊たちを迎撃するアビダイン隊。
リ・ユニオン・スクエアの留守を預かり、神浜市へと久しぶりの帰郷を果たした
環いろはら魔法少女たち……
世界の命運を懸けた戦いの火蓋は切って落とされた!

2人目

「幻想郷事変 五の三:正念場」

ウーロンとの通信を終えたスネークには、最早覚悟しか残っていなかった。
眼下を覆う悪霊の群れ、それを前にして尚奮闘する覚悟だ。
言い変えれば、絶対に生き残る覚悟。

(俺は、俺達は負ける訳には行かない。)

裏返せば、死への拒絶だ。
彼は、今まで死への恐怖を感じないように訓練してきた。
死なない様に己を鍛え上げてきたはずだった。
いや寧ろスネークは…ヴェノムは、自らの命というものに拘泥しなかったはずだ。
実力もあるからこそ無縁だった死の恐怖。
今まではずっとそうしてきたというのに、ここにきて彼の中の何かが変容したのか。
いや、違う。真の目的を見つけたからだ。

『俺もありのまま世界が繋がるってのが、ザ・ボスって女の人が残したかった意志だと思うぜ。だったらよ、実現させてやろうじゃねぇか!』

嘗てのウーロンの言葉、思いもよらなかった激励。
その志が眩しくて、手を伸ばしたいと思ったから。
その為に今を生き続け、未来を掴みたいと願ったから。
_世界を繋げたい、ザ・ボスが目指した理想を叶える為に。
それが己の胸の内を占めた今、絶対に死ぬ訳には行かないという想いがヴェノムを突き動かしていた。
何より死んでいった同士達の願いを無駄にしない為にも、彼は前に進む覚悟を決めた。

「_俺が出る。」
「ボス!?無茶です!!」
「俺はあいつ等が笑って明日を目指せる様に、DDを守らなければならん。」

テントから出て、武装するスネーク。
兵士達の静止も聞かず、小銃やナイフを装着していく。
デザートイーグルもホルスターに収め、準備を終える。
己の体内で作られるアドレナリンが、彼の恐怖を薄れさせるのを感じていた。

(俺達の帰る居場所は、俺の手で守る。だからウーロン、後の事は頼んだぞ。)



「最後まで諦めるな、撃てぇーーー!!」

前線は、死屍累々と言った有様だった。
兵士、指揮官の区別無く死人が溢れ、地獄絵図と化している。
悪霊の半数は前線を突破し、既に戦線の体を成していない有様だ。
その中で、それでも前線を維持せんとするDDの兵士達の奮戦振りは凄まじい物だった。
手に馴染む自動小銃の重みを頼りに、赤核へ狙いを定めて引き金を引く。
何百回繰り返したか分からない死の伴う作業を、DDの兵士はただひたすらに繰り返していた。
己が死ぬまでけっして手を止める事は無く、乾いた銃声を鳴らし続ける。
その音は命の叫びか、或いは嘆きか。
いずれにせよ引き返せない選択の果て、兵士達はひたむきに戦う事しか出来ない。

(死にたく無い死にたく無い死にたく無い……!)

そんな兵士達の悲痛な思いも届かず、前線は崩壊しつつある。
そもそもが数で完全に負けているこの大戦(おおいくさ)、接敵された時点で敗色は濃厚。
彼等に与えられた選択肢は、この負け戦に命をベットして悪霊を削るか、誇りやプライドを投げ棄て少しでも長く生き延びるかだけだ。
勝ちは、無い。
少なくとも、今の状況では。

「ボス、俺も向こう側に行きそうです…!」

迫り来る絶望を前に、諦観を抱く者がまた一人。
彼を殺さんと、数体の悪霊が黒い空より舞い降りる。
彼にとって、奴等は正しく死神だった。

_ア”ア”ァァァ…!

悪霊はその腕の鎌をゆっくりと振り上げ、怨念混じりの嘶き声を上げて近づいてくる。
覚悟を決める彼の元に、援護は来ない。
誰も彼もが最前線を維持する事で手一杯だ。

(くそっ、クソっ…こんな、ところで…!!)

迫り来る悪霊の凶手を前に、彼はただただ立ち尽くすしかない。
疲労困憊だ、弾薬も底を尽きている。
何より死という圧倒的な恐怖を前に、全身がすくんでもいた。
死の突風が頬を撫でた時、彼は喉奥から悲鳴を漏らす。
…かと、思えた時だった。

_バラムッ!バラムッ!

彼の眼前で、悪霊達の動きが急に止まる。
蛇に睨まれた蛙が如く、双方ともに動かない。
眼前の悪霊、その赤核が撃ち抜かれたという事に気付くには、暫しの時間が必要だった。
はたりと気付き、横を見る。

「おい、まだ戦えるか?」
「ボス…!?」

そこには、デザートイーグルを構えたスネークが居た。
鈍重さを思わせる銃口からは陽炎めいた硝煙が立ち昇り、今しがた発砲された事実を認識させる。
その瞬間に、止まっていた世界が動き出したかの様に悪霊が塵へと還る。
兵士はただ呆然と彼を見つめながら、そっと首を縦に振った。

「ならコイツを使え。」

そう言って差し出したのは、新品の小銃だ。
彼はそれを手に取ると、先程のまでの弱気が嘘のように戦意を取り戻した。
そうだ、我等がボスがいるなら彼等は、DDはどこまでも戦えるのだ。
と。

「…ぃ…はい!ボス!」

小銃を受け取った兵士は、今にも特攻せんばかりの剣幕で悪霊へと立ち向かった。

「…死ぬなよ。」

そんな彼の背中を見て、呟くスネーク。
兵士に届いたかどうか。いや届いていようがいまいが、どうでもよかった。
ただ、これ以上の死人は許容出来なかった。

「_サヘラントロプスだっ!それにZEKEも!」
「来たか。」

その時だった、戦場に巨大な影が差したのは。
DD切っての秘密兵器、核搭載型二足歩行戦車が鎌首揃えて露わになったのは。



「ぐえっ。」

ドスン、と音を立てて落着するウーロン。
暗い穴の底に落ちた彼が最初に味わった感覚は、高高度からの落下だった。
とは言え、それでどうこうなる身体でも無い。
少ししてから起き上がると、服に付いた土をぱっぱと払って辺りを見渡した。

「うわっ、薄暗ぇ…悟空の奴、先に行っちまいやがったのかな…?」

一人呟きながら、トコトコと歩を進めるウーロン。
暫くして、先駆者同様に光の階段を見つける。

「ここ下る、で合ってるよな…ガラスみてぇでおっかねぇな~。」

階段を一歩一歩慎重に下っていく。
硝子細工めいた出来に、言入れぬ猜疑心がふつふつと湧いていたからだ。

_ぁぁ……
「へっ?」

だが、次の瞬間にそれ所では無くなる。
背後から聞こえる呪怨の声、それを聞いた瞬間に。

_ア”ア”ア”ァァ!!!
「ひぃ、うひゃーーーっ!?」

先程太陽拳で一時的に消滅した悪霊の再エントリーだ!
ウーロンは悲鳴を上げて階段を駆け下りた。
そのまま、悟空達の居る偽・トラオムへと駆け抜けるのであった…

3人目

「再来のトラオム! 呪いの声の正体は!?」

 ウーロンが廃棄孔に突入したとはつゆとも知らず、
悟空たちは先行したペルフェクタリアや天宮兄妹を追って偽・トラオムの最奥を
目指していた。

「ここは……」

 ピッコロやベジータにとっては、見覚えのある光景だった。

「トラオム……か」

 希望/絶望/復讐……3つの界域に分かたれた、広大なるメサイア教団の実験場……
その再現。恐らくはペルや天宮兄妹もこの偽・トラオムの何処かにいるはずだが、
どうやら悟空達は彼らとは別の界域へと飛ばされたようだ。

「おめえ達、知ってんか?」
「貴様はあの時、特異点で負った怪我で寝込んでいたのだったな」

 そう言ってピッコロは、嘗て起きた事件を説明した。
Dr.ヘル軍団との最終決戦の地となったバードス島での戦いの最中、
ピッコロはウーロンやブルマ、リボルバー・オセロットらと共にメサイア教団によって
囚われの身となり、妻・ブルマを誘拐されたベジータもまた、
CROSS HEROESと協力してメサイア教団の一大拠点となりつつあったトラオムに
潜入した。つまりは、現在まで長らく続く事となる
CROSS HEROESとメサイア教団の直接対決となった、始まりの地……

 そこで待ち構えていたのは、ベジータ王家への復讐を企んでいたパラガス、
そして伝説の超サイヤ人である息子、ブロリーを再び復活させんとして
遺伝子操作技術によって生み出された狂気の実験体、バイオブロリーであった。

「ほーん……オラがいねえ間にそんな事がな」
「しかし……ここがあのトラオムそのものと変わりないものだとすると、
かなりの広さになるだろう。時間を掛ければ掛けるほど、ペルフェクタリアや天宮達を
探すのは難しくなるぞ」

 ピッコロが言うように、トラオムでの激戦は想像以上に体力を消耗した。
この迷路染みた空間の中で、探し人を見つけるなど至難の業だ。

「恐らく、あの大量の悪霊共の仕業だと思うが、辺り一面に邪悪な気配が渦巻いている。
これでは、奴らの気を探知しようにも俺達の体力を無駄に消耗するだけだ」

 確かに、辺り一面から悍ましい気配が漂っている。

「参ったな……とりあえず、近くに手がかりがねえか探してみっか」
「時間稼ぎのつもりか……メサイア教団……何処までも人をイライラさせる連中だぜ……」

 メサイア教団にはとかく借りの有るベジータは、 苛立ちを隠そうともせずに
舌打ちをする。

『サイヤ人……滅ぶべし……!!』
「んっ……!?」

 明確な強い怨念を湛えた声と共に、刺すような殺気が三人に伝わる。

「ピッコロ、ベジータ、今のは……」
「うむ……悪霊共とはまた別の存在、か」

 この空間自体がメサイア教団の実験場ならば、当然その敵も居るという事だろう。

「サイヤ人に恨みを持つ何者か、という可能性もあるが……
どちらにせよ警戒して進むしかないな」
「ちょうどいい。どうせ手がかりも無いんだ。てめぇから居場所を知らせてくれるのなら、手間が省けていい。ぶっ潰しに行ってやろうじゃないか。
このサイヤ人の王子、ベジータ様がな」
「まったく……サイヤ人と言うのはとかく、あちこちから恨みを買っているようだな」

 そして三人は、禍々しい殺気のする方へと向かう。

「パラガスやブロリーとは違う……だがしかし、それに負けずとも劣らぬ邪悪な気……
一体何者だ……?」

 かつてのトラオムには存在しなかった、悟空やピッコロ、ベジータですら知らぬ、
未知の相手……果たしてその正体とは?

4人目

「幻想郷事変 五の四:SRW in幻想郷/詩章:常盤SOUGOの供述」

地響きの如き足音が、人里や魔法の森に響き渡る。
酷く無機質な駆動音を放つソレは、地上に巨大な影を落として歩を進める。
悪霊と言う終末に立ち向かわんとする、空を飛ぶ戦艦と白銀の巨人。
幻想郷に未だかつてない存在感を放つソレは、有り体に言えば巨大ロボットとウルトラマンだった。

「な、なんだべ!?巨人じゃ!!?」
「銀色のお船に、あれは龍だべか!?」

巻き起こる困惑。
何も知らぬ物からすれば、悪霊以上に訳の分からない異質な存在だ。
ともすれば個々人のキャパシティを超える展開に、一部では混乱が巻き起こっていた。

「サヘラントロプスだっ!ZEKEもいる!」
「アビダイン、ナースデッセイ号も来てるぞ!」
「ウルトラマンだ、ウルトラマン二人が駆け付けてくれたっ!」

だがその正体を知っている者からすれば、それは正しく福音。
落ちに落ちた戦況を一転させる救いの手であり、心強い味方。
絶望的な局面を一変させる一手に、あちこちで歓声が湧き立ち飛び交っていた。

「ふぅん、地上は湧き立ってるねぇ。歓迎ムードで宜しい。」

そんな玉石混合の反応を見下ろしながら、アビィがアビダインを降下させる。
適当な空き地に向かって降下していき、電撃をばら撒いて悪霊を打ち砕いては安全を確保し、やがて降着。
直後、ハッチが開かれ、中から何人もの異郷の戦士達が姿を現した。

「さぁ、ここからが本番だ。」



怪獣型悪霊とウルトラマン達の戦闘は、熾烈を極めていた。

「デェヤアァッ!」
_ガァン!ガァン!

Zの鋭い横薙ぎのチョップが、悪霊怪獣の頭部を激しく揺さぶる。
堪らずたたらを踏んだ所に、2発、3発と腰の入った殴打の嵐。
そして足を大きく上げてのけたぐりが直撃、悪霊を大きく後退させた。

_ア”ア”ア”ァァ!!?
『そこだぁーーー!』
_ガキィーー…ーーィン!

すかさずタックルを仕掛け、マウントを取る。
そこからハンマースレッジを何発も叩き込んだ。
戦況は一見Z優勢、しかし。

『_かったぁ!!?かったいでありますねぇ!!』
「ゼットさん、今のパワーじゃあの厚い身体はどうにも…!」

相対する悪霊怪獣は、予想以上の頑強さを誇っていた。
力一杯に拳を振り下ろした所で、僅かに体が揺れるだけ。
そればかりかジロリと鋭い一睨みをかけてくる始末だ。

『うぅ、しかも何だかぞわぞわして気分が悪くなってきた気が…』

不意に来た悍ましい視線を喰らったその隙に、悪霊の怪腕が振り上げられ、Zの側頭部に直撃。

『おわぁ!!?』
「ゼットさん!?」

堪らずZも地に膝を付けてしまった。

_ア”ア”ア”ァァ!!!

すかさず、悪霊怪獣が怨念めいた雄叫びを上げて立ち上がってくる。
直後、喉元が膨らんだかと思えば、黒い泥の様な液状の塊を吐き出してきた。
立ち上がり際、もろに食らってしまうZ。
瞬間、Zのカラータイマーが赤く点滅し始めた。

『うおぉ…!なんか、凄い、気分悪い…!』
「そうか、これが悪霊の呪い…ゼットさんも生身だから、効くのか!」

負けられないと気張って踏ん張っているが、それで体が動く保証はない。
そんなゼットを狙い澄まし、悪霊怪獣が襲い掛からんと腕を振り上げたその時。

_ア”ッ……!?

脇腹に突き刺さる様な衝撃を受け、大きく仰け反る悪霊怪獣。
見れば、そこには漆黒色の剣、ベリアロクが突き刺さっていた。

「ベリアロクさんっ!」

火花を上げ骨格の一部を損壊させられた悪霊怪獣は、大きく仰け反って、そのまま転がる様に倒れる。
反動で外れたベリアロクがそのまま地面へと突き刺さり、すかさずZが手に取る。

『助かりましたですよ!』
「ベリアロクさんなら斬れる!行きましょう!」

一縷の希望を見出したZとハルキ。
腰のウルトラメダルへと手を伸ばす。
しかし。

『……』
「ベ、ベリアロクさん?」

ベリアロクは沈黙し、何も語らない。
その異様さに気付き、話しかけた次の瞬間だった。

『_オロロロロロrrrrrrrrrrrrrr!?!?』
『うわぁーー!?吐いたーーーっ!!?』
「べ、ベリアロクさぁん!?」

痛ましい叫びが上がった。



『やだ、あれは斬りたくない。』
「ベリアロクさん、口調が…!」
『そ、そんなにでありますか!?』

地面に突き刺さり、完全に職務怠慢を決め込んだベリアロク。
Zが抜こうとするも、ピクリとも動きはしない。
絶対ヤダ、そんな意志の表れであった。

『ど、どうするでありますか?ハルキ。』
「どうって、無理に戦わせるのもあれだし…そうだ!」

腰から取り出した3枚のウルトラメダルを見て、ハルキが叫ぶ。

「久しぶりにこれ、使って行きましょう!」
『…あーーー!そうですそれがありましたですな!』

Zもまた妙案に思い当たったらしく、応と答える。
そしてハルキがゼットライザーを構えた。

「真っ赤に燃える、勇気の力!」

その光に導かれる様にして3枚のメダルが舞い降りる。

「マン兄さん!エース兄さん!タロウ兄さん!」
《ウルトラマン エース タロウ》
「オォーッス!」

ゼットライザーに集う三つの力。
剛力を思わせる赤い脈動が、Zを満たす。

『ご唱和ください我の名を!ウルトラマンZ!』
「ウルトラマン、ゼェーット!」

そして鳴り響く待機音の中、ハルキがゼットライザーを掲げ、トリガーを押した。

《ウルトラマンZ:ベータスマッシュ》

宿すは力、情熱の赤。
ウルトラマンZベータスマッシュが、ここに顕現する。
その手には巨大な槍、ゼットランスアローがあった。



俺が仮面ライダーの歴史を封じていった真の理由か。
はっ。
わざわざ真の、と付ける辺り、大方予想は付いているんだろう?
仮面ライダーはテレビの中の絵空事、というのはもう知ってるな。
あらゆる世界で共通して仮面ライダーという単語が名付けられるのも、その為だ。
全てのライダー世界には繋がりがある。
…だが、繋がってるのはライダーだけでは無い。
そうだ、思い出せ。ライダーの歴史を封じた時、一緒に消える物が何か。
そう、ライダーと敵対する者だ。
ライダーの歴史とは、同時にライダーの敵対者の歴史でもある。
そしてライダーシリーズが続く中で、敵対者の陰で密かに力を付ける組織がいた。
原初の敵対者、ショッカーだ。
酷く凸凹のライダーの歴史は、ショッカーという初期の存在を許す隙を作った。
俺はライダーの歴史を作り直す事で、その隙をも無くそうとした訳だ。
最も、その企みは砕けたし、ショッカーは無かった事にはならなくなった。
さぁ、お前はどう纏める?

5人目

「サイヤ人絶滅計画! 超兵器・ハッチヒャック起動!!」

 ――廃棄孔/偽・トラオム。

 不気味な気配を辿って、三人は向かった先には、怪しげな研究施設が建っていた。
警戒しつつ、内部へと潜入していく悟空、ピッコロ、ベジータ。

「わっ! なんだ、あれ!?」

 悟空達の視線の先には、巨大なカプセルの中に入っている異形の存在。
施設の天井には、悪霊達が所狭しとひしめいている。

『サイヤ人……滅ぶべし!!』

 カプセルの中で、異形の者がそう叫んだ瞬間、悟空達はビクリとした。

(こいつ……!)

 その禍々しい気は、悟空達にも心当たりの無いものだった。

「なんだあいつ……なんかよく分かんねえけど、すげぇ邪悪な気だぞ……!」
「何者だ、貴様。サイヤ人に恨みを持っているようだが……」

 ベジータがカプセルの中の異形にそう問いかける。

『……我が名は、Dr.ライチー!! ツフル人の科学者だ。
私はサイヤ人に復讐する為に死してなお、魂魄となってこの世に留まっているのだ!!
貴様らがかつて行った大虐殺によって、私の肉体は滅びた。
だが、私はその恨みと屈辱を魂魄としてこの世に遺し、やがてこうして力を持った
悪霊となって復讐の時を迎えたのだ!!』
「ツフル人……ああ、そんな奴らもいたな」

 惑星ベジータの前身、惑星プラントの先住民こそが、ツフル人と呼ばれる種族である。
ツフル人は非力な種族ではあったがその科学力は宇宙有数とさえ言われた。
サイヤ人は惑星プラントに侵攻を開始し、その科学技術と土地を欲して
ツフル人の虐殺を始めたのだ。

「なるほど……この鬱陶しい悪霊達と同様、サイヤ人への恨みで
この地に縛られているという事か」
「俺が生まれる前の話だ。そんなもの、知ったことか」

 ベジータが腕を組んでフンと鼻を鳴らした。

『今度は私が、貴様らサイヤ人の何もかもを奪ってやる! 
ふひひ、この悪霊達が外界に解き放たれれば、たちまち貴様らの住む地球とか言う星は
根刮ぎ死滅するだろう……ふひ、ふひひ!』
「そうはさせねえ!」

 カプセルの中で哄笑するDr.ライチーに向かって、悟空が言い放った。

「地球はオラ達の大事な星だ! おめぇの好き勝手にはさせねえ!」
「そう言う事だ。大人しくここで成仏するんだな!」

 悟空とピッコロがカプセルに向かって気弾を放つ。

「でやあ!!」
「ぬうりゃあ!!」

 しかし、カプセルには傷一つ付かなかった。

「へ!?」
『ふひひ、そんなものが通用すると思うてか!!』

「チッ、バリアか……?」
「どいていろ」

 ベジータがカプセルの前に立ち塞がり、掌を突き出した。

「消えろ」
『ふん、やれるものなら……』

「新しい技を試してみるか……喰らいやがれ、ガンマバーストッ!! 
フラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッシュッ!!」

 両手に集中させた気を、逆手に構えた掌から一気に放つ。
カプセルはおろか、背後の研究施設もろとも消し飛ばすほどの威力だった。

『ま、まさか……!?』

 堅牢な守りを誇っていたはずのライチーの防壁が、容易く砕け散った。

「ぐおあああっ!! わ、私のバリアが……ぐおおっ!!』

 その凄まじい威力の直撃を受けて、ライチーの魂魄は崩壊し霧散する。

『おのれ、サイヤ人……!! だが、貴様らはこれで……
ぎゃああああああああああああああああああッ……』

 怨嗟の声を残しながら、ライチーは完全に消滅してしまった。

「ひゅう、やるじゃねえか、ベジータ!」
「フン……当然だ」

 しかし、Dr.ライチーの怨念はそれだけに留まらなかった。

『……滅びよサイヤ人! 我らが恨みを知れ!! ふひひひひっ!!』

 何処からか響くライチーの怨嗟の声はそう叫ぶと、
研究所の中心部にあるプール設備の中に、悪霊達が退去として吸い込まれていく。

「な、何だ!?」
『私が消滅すると同時に起動する仕組みになっていたのだよ! ふひ、ふひひっ!!』
「お、おい……何だありゃあ!?」

 プール設備の中央から水が排出され、その中から、謎の巨人が浮遊して現れた。

『ふひひひっ! これぞ、私が持てる才能の全てを注ぎ込んで造った、超兵器!』

 最後に、ライチーの魂魄が、巨人に向かって飛んでいく。

『さあ、目覚めよ、ハッチヒャック!! サイヤ人を皆殺しにしろ!!』

 そしてライチーの魂魄を取り込むのを起動トリガーとし、
ハッチヒャックが起動した。

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』

「なっ……!?」

 ハッチヒャックと呼ばれたそれは、天に轟く咆哮を上げた。

「す、凄まじい気だ……!! とんでもない化け物だぞ、こいつは!」

 ピッコロは即座に、自身の戦闘力をフルに稼働させ、ハッチヒャックと対峙する。

「つああああああッ!!」

 舞空脚でハッチヒャックの頸動脈を寸断せんと突撃するピッコロ。
虚空を見つめ、微動だにしないハッチヒャック。ピッコロの攻撃は見事に命中……

『……』

 しかし、ハッチヒャックの強固な肉体は、ピッコロの舞空脚を通さなかった。

「なにっ!?」
「ムンッ!!」

 突如、ハッチヒャックは腕を伸ばして、蹴りを放ったピッコロの脚を摑んだ。
そしてそのまま高々と振り上げ、床に叩きつける!

『ヌォオオオッ!!』
「ぐおああああああああッ!!」

 容易く床が砕け、瓦礫が舞う。

「ピ、ピッコロッ!」

 悟空とベジータが超スピードで、瓦礫に埋もれたピッコロの救助に向かう。

『グォオオッ!!』

 しかしハッチヒャックは目敏くそれに反応し、凄まじい速度で跳躍する。
そして両掌から光の球を出現させると、それを二人に向かって投げつける!

「ぐあっ!!」
「うああっ!!」

 着弾と同時に爆発が起こり、二人はまとめて吹き飛ばされてしまった。

『サイヤ人、滅ぶべし……!!』

 Dr.ライチーによって開発された、「サイヤ人絶滅計画」その集大成。
ハッチヒャックの恐るべき戦闘力は、ピッコロのみならず、悟空やベジータをも圧倒した。

『ふひひ! どうだサイヤ人め!! これぞ我らツフル人の科学力と執念が造り上げた
最高傑作、ハッチヒャックだ!!』

 その戦闘能力は正に、地獄から這い出た悪魔……
いや、化け物そのものと言って良いだろう。

「くそったれ……! 悪霊だけでも鬱陶しいってのに、
それに輪をかけて厄介なもんを造ってくれやがって……!」
「けど、負けらんねえ……!!」

 悟空とベジータは立ち上がり、再びハッチヒャックに挑む。

「余計な時間を食っている場合ではないが……こいつはここで
叩き潰しておかねばならんようだな……!!」

 続き、ピッコロも瓦礫の中から身を起こし、三人揃ってハッチヒャックに立ち向かう。

『ふひひひひ、無駄だ、無駄だ! 貴様らはここで死ぬのだ!
ハッチヒャックよ、サイヤ人共を一人残らず血祭りに上げるのだ!!』
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ……』

 Dr.ライチーの嘲笑に呼応し、ハッチヒャックが叫ぶ。

「負けるもんか、おめぇなんかには…地球は絶対に守り抜く!」

6人目

「廃棄孔第3層:偽・トラオム 9_讐悪なる幻妖 その2」

 偽・トラオム 複製絶望界域

「Gaaaaaaaaaa!!」

 幻妖が突進する。
 その赫い瞳は悪意に濁り、殺意にくすんでいる。
 対抗する4人は身構え、迫る幻妖の暴威に備える。

「Grrrrrruuuuiiiiaアアアアア!!」

 前よりもはっきりとした咆哮をあげながら、幻妖の右腕が変形する。
 まるで槍のようにとがったその腕を、ただまっすぐに突き刺そうと放つ。

「Giiiiiiiイイイイイイ!!」
「そこを崩す!」

 そこへリクが飛び出し、鋭い剣閃を幻妖の足元に放つ。
 幻妖の足に傷がつき、よろめく。
 攻撃の出鼻は封じた。だが、問題はここから。

 ―――悪霊の成長進行度は加速度的に上昇している。
 彼らは知らずとも、地上の苦戦から見るにその事実は明白。
 それは対峙している幻妖も同じ。体力的にも状況的にも、これ以上は続けられない。 
 次はない、速攻撃破を仕掛ける。

「今だ!彩香!!」
「分かった!」

 怒り狂う幻妖の反撃を防御するリク。
 そこへ彩香/アマツミカボシは前に飛び出し、激闘の裏で鍛え、育てていた『奥義』を繰り出そうとする。

『ぶっつけ本番で行くぞ!』
「うん、『絶技・七連崩』!」
「連葉閃!」

 跳躍から、急所一点への連続攻撃。
 狙いは顔面の正中線、それも鼻と口の間に当たる部位のみに刺突を基本とした連撃を放つ。
 幻妖に大ダメージを与えつつ、頭部の赤核を破壊する。
 これによって頭の赤核は割れたが、まだ心臓部が壊れていない。

「妖孤!」

 次は目に当たる部位への音速の払い。
 攻撃範囲こそ小さく、単体の威力も控えめだがその速度と「目への攻撃による失明を狙う」という点がある以上その威力はえげつない。

「力突、蛇雲、鎌斬、虎攻断!!」

 続く一瞬の溜めからの刺突、手首のスナップを生かした連撃、急所を狙う逆袈裟斬り、渾身の唐竹割り。
 それら全てが幻妖の鎧たる忌油を吹き飛ばし、散らし、開き、砕く。
 どれも強力無比、しかしてすべては次の攻撃へとつなげる基本動作。

「よし彩香!左によけろ!榴弾矢を撃つ!」

 月夜の号令を受け、彩香は左に回避する。
 そのコンマ0.7秒後、持っていたボウガンから榴弾の矢が放たれる。
 それもただの榴弾矢に非ず。

 榴弾は榴弾でも「破片手榴弾」の機構をベースとしたもの。
 爆裂と共にばらまかれる破片は着実に、悪霊の堅牢な赤核に傷をつけてゆく。

「今だ、斬れ!!」
「これで終わりだ――――『星座刹壊』!!」

 とどめと言わんばかりに放たれる、縮地にも似た加速からの居合切り。
 殺気すら感じさせない超神速の一撃により、幻妖は今度こそ消滅した。

「GAAAAAAAAA………。」

「これでやっと消え……ないな。」
「まだ終わらねぇのかよ……。」
「仕方ない、先へ進もう。」

 依然消えない偽・トラオムの結界。
 偽・トラオムを巡る冒険は、もうちょっとだけ続く……。

7人目

「奇跡の炎よ、燃え上がれ!」

 ペルフェクタリア、天宮兄妹、リク……複製絶望界域で戦うメンバーが行く手を阻む
結界によって立ち往生を食らっている頃……


――複製復讐界域・Dr.ライチー研究施設。

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーッ……』

 サイヤ人に恨みを持つツフル人の科学者、Dr.ライチーによって生み出された
対サイヤ人専用マシン・ハッチヒャックが目覚めの咆哮をあげた。

「さ、さらに気が跳ね上がった……!」

 悪霊達をその身に宿す事で、パワーアップを果たしたハッチヒャックの戦闘力。

「だったら……!! はあああああああああああああああああああああああああッ!!」

 悟空とベジータも超サイヤ人に変身し、ハッチヒャックに立ち向かう。

「でやあああッ!!」

 悟空の拳がハッチヒャックに直撃する。しかし、その強固な装甲はビクともしない。

『ゴオオーッ……!!』

 ハッチヒャックは悟空の拳を顔面にめり込ませたまま、強引に前へと押し進む。

「おわっ……!? ぐあああああああああっ!!」

 凄まじい膂力の前に、悟空は壁に叩き付けられてしまった。

「ずあああああああッ!!」

 すかさず、ベジータが気弾をハッチヒャックに向かって放つ。
背中の表面が灼かれるが、それでもハッチヒャックの進撃は止まらない。

『ムウウウウウウ……』

 爆煙の中、ゆっくりと振り返り、ベジータの方を睨みつけるハッチヒャック。

「なっ……!?」
『ゴアアアアーッ!!』

 ハッチヒャックが手を翳すと、体内から数体の悪霊が飛び出し、
ベジータへと襲いかかる!

「な……なんだと!?」

 ベジータはとっさに避けようとするも、悪霊達は執拗に追いすがる。

「ケケ―ッ!!」

 左右、正面からの息もつかせぬ波状攻撃。

「チィッ! ええい、鬱陶しい!」
「ギギッ!!」

 ベジータの前方に立ちはだかる一体が、右ストレートを受けて消滅する。

『グウウーッ!!』
「うぉおっ!?」

 その隙にベジータの間合いに迫っていたハッチヒャックが
至近距離から気弾を連射してくる。

「しまったッ……うおおおおおおおおおおッ……!!」

 両腕をクロスさせて気弾を防ぐも、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされる。

「ぐぐっ……!!」
『オオオオオオオッ!!』

 防御を固め、動きを止めたベジータに向かって右拳を振り下ろすハッチヒャック。

「くっ……!?」
「させるかッ!!」
 
 咄嗟に背後からピッコロがハッチヒャックにしがみつき、首を締め上げる。

『ぐうう……!』
「体勢を立て直せ、ベジータァッ……ぬおおおおおおおおッ……!!」

 ピッコロとて、2mを超える筋肉質の巨体。
にもかかわらず、それを上回る巨躯のハッチヒャック。
二人がかりでようやく動きを封じる事が出来た。

「今だ孫! とどめを刺せぇッ!! 長くは動きを止めていられんぞッ……」
「おうっ!」

 決死のピッコロの行動を無駄にしまいと、
悟空がハッチヒャックに攻撃を仕掛けようとした、その時……

『ふひひひひ……』

 不気味なライチーの笑い声が響いた。

「な、何がおかしい……!」

 両手、両足、そして額に埋め込まれたハッチヒャックの水晶体が、
突如エメラルド色に輝きだした。

『喰らええええええええええええええいッ!!』

 全身からエネルギー弾を無差別に発射するハッチヒャック。

「う、うああっ……!!」
「くおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 ピッコロ、ベジータ……そしてやや離れた場所にいた悟空にまで
エネルギー弾が直撃する。一切合切、目に映るものすべてを破壊せんとする光……

「どわあああああああああああああああああッ……!!」

 研究所は辺り一帯爆発に呑まれ、激しい爆炎に包まれた。

『ふひひ、ふははははははっ!!』

 その圧倒的な破壊力に哄笑を上げるライチー。

「くっそ、デタラメしやがる……!」
「まだ……倒れる訳にはいかん!!」

 廃墟の残骸の中から、ボロボロの三人が立ち上がる。

『ゴキブリのようにしぶとい奴らめ……! さあハッチヒャックよ、
奴らにトドメを刺せ!!』
『ウオオーッ!!』

 Dr.ライチーの号令で、ハッチヒャックが三人に向かって突進してくる。

「来るぞッ!」
「ちっくしょう……!! おりゃあ!!」

 悟空は目にも止まらぬ速度で跳躍すると、ハッチヒャックの上空から
脳天を蹴り落とした。頭を地面にめり込ませるほどの威力だったが、

「き、効かねえ……!」
『二ィィ……!!』

 不敵な笑みを浮かべるハッチヒャックは、たじろぐ悟空に強烈なエルボーを放つ。

「うぐおッ!!」

 悟空の体が空中でコマのように回転し、地面に叩きつけられた。

「ぐぁはッ……!!」
『ディィィィィィィィィヤ゙ッ!!』

 倒れた悟空の右足を摑み、逆さにぶら下げると、ニーリフトの要領で
背中に強烈な膝蹴りを加える。

「ぐはあああああっ……!!」
「孫ッ!!」

 さらに間髪入れず、倒れた悟空をサッカーボールのように蹴り上げた。
吹き飛んだ悟空を追い、空中で追撃を加えんとするハッチヒャック。

(マズい……!!)
「させるかぁッ……!!」

 しかし、すかさずピッコロがハッチヒャックの軸足にタックルを仕掛けた。

『なにっ……!』

 つんのめるようにしてバランスを崩したハッチヒャックは転倒する。
その隙に体制を立て直す悟空。

「サンキュー、ピッコロ!!」
「くそったれめ……!」

 ピッコロは忌々しげに呟いた。明らかに自分達を上回る戦闘力を持つ相手に
苦戦を強いられている。そんな状況が彼のプライドを深く傷つけていたのだった。
ピッコロも魔人ブウが倒された後も鍛錬を欠かす事無く、己を高め続けてきたにも
関わらず、それを遥かに上回る強敵が次から次へと現れる現状に、
超えられぬ限界の壁を否応なく意識せざるを得なかった。

『らしくないぞ、孫よ。俺達の戦いはまだ続く。この程度乗り越えられないようで、
この先どうするつもりだ?』

 ボージャックと戦った直後の悟空にかけた言葉。
それが自分自身に突き刺さる。

「う、恨むぞ……! 俺自身の力の無さを……!!」
『ふひひ、私の最終兵器のハッチヒャックを倒す事は誰にも出来ん!』

「このまんまじゃ……ホントにオラ達全滅しちまうぞ……んっ……!?」

 ふと、悟空は道着のポケットになにかの感触がある事に気付いた。

「こいつぁ……!」

 ごそごそと探ると、中から出てきたのは……

「こ、これだッ……!! ベジータッ!!」

 悟空はそれを力強く放り、ベジータに差し出した。

「き、貴様……! こ、こんな物を何処で手に入れやがった!?」

 それは、悟空とピッコロが特異点のメメントスに潜った時に手に入れたポタラだった。

「オラ、それ拾った事すっかり忘れてた……そいつがありゃ、あいつだって……!!」

 ハッチヒャックに予想以上の苦戦を強いられる悟空たち。
最終最後の切り札は、奇跡の逆転を起こせるか……?

『むう……!? あの2人、何をこそこそ話しておるのだ!?』

8人目

「幻想郷事変 五の五:傲の化身、メタルモフォーゼ」

眩い明るさに、目が眩む。
ウーロンは咄嗟に手で作った日陰を眼の上に当て、立ち眩みを防いだ。

「おわぁっとと…!?」

次第に明瞭になる視界。
気付けば、ウーロンは無人の荒野に辿り着いていた。
肌を焦がさんと突き刺さる、太陽の暑い光。
草木の一本も見当たらない、どこまでも陽炎が広がる荒野だった。

「なんだここ、荒野?」

ウーロンは疑問に思う。
ついさっきまで、薄暗くジメジメとした洞窟の奥底を駆け抜けていた筈だ。
間違っても日の光が当たる様な世界では無い。
さしものウーロンとて、混乱の一つする。

「うえぇ~…何が起きてんだこりゃ?」

呆気に取られながら、ひたすらに歩を進め荒野の横断をする。
先程まで自分を追っていた悪霊が居なくなったのもあるのだろう、その歩みは気力が途切れた様に遅い。
疲れも、困惑もある。

「…んん?なんだあそこ。」

だがそんな代わり映えしない世界の中で、一つの変化をウーロンは捉える。
陽炎から姿を現した、周りのチンケな丘なんかと比べ者にならない、ひときわ目立つ山だ。

「助かった、このままじゃ暑さでどうにかなっちまうところだった。」

アレほどの山ならば、中に日陰の一つや二つあるだろう。
そう考えたウーロンの足取りは早かった。



やがて岩山に辿り着いたウーロンは、奇妙な物を見つけていた。
岩山の中をくりぬいた洞窟、その入り口に。

「扉?」

鉄の扉だ、それも嫌にデカイ。
目測でも2、30mはあるだろうか。洞窟を隅々まで塞ぐように建て付けられている。
ここに来て、妙な既視感を覚えていた。

「なーんか、どっかで見た事ある気がすんだよなぁ…?」

後一歩の所で思い出せそうなのに、それが思い出せない。
脳裏を擽る様な歯痒い感覚が過ぎって仕方無い。

「う~ん……まぁ、うん、いいや。」

最終的には、面倒臭いという結論に落ち着いた様だ。
暑さと不快感から一刻も早く逃れたかったウーロンは、考える事を辞めて扉に手を掛ける。
洞窟の入口で日陰になっているとはいえ、まだ暑いのだ。
一先ず中に入ってから考えよう。

「開けるのは、コイツで良いのか?」

扉の両の境目と思わしき中心部。
その右の扉に、タッチパネルの様な物が取り付けられているのに気付く。
投影されている文字は「OPEN/[CROSS]」というシンプルな物。
となれば、OPENを押せば開くことは明らか。

「ポチッとな。」

タッチパネルを押す。
即座に「[OPEN]」が強調表示され、唸るようなモーター音と黄色いサイレンの音が鳴り響く。
同時に扉がゆっくりと開いていき、中の光が顔を覗かせた。
そこに広がるのは、やけに広い暗闇、そして天井に空いた穴から差す僅かな太陽光。
そこから見えるコンクリートのひんやりとした感触に誘われ、ウーロンはそのまま中へと進んでいく。

「うぅ~、涼しいなぁ~…」

煮え立った脳にじわじわと染み渡る冷たさ。
ここに暫く居たいなぁ、なんて考えた時だった。

_パァン!
「うわ、眩しっ!?」

突如として洞窟内が人工的なライトに照らされる。
同時に明らかになる全体の様子。

「_ここって、まさか。」

コンクリートで模られたすり鉢状のドーム。
この光景に、ウーロンは覚えがある。
先程まで引っ掛かっていた既視感が、既視そのものに変わる。

_オ”ア”ア”ァァァ!!!!
「げぇーーーー!?」

そして、それに付随する記憶を再現する様に。
悍ましい、忌々しい嘆き声がドームに響き渡る。
声の元を辿れば、そこには巨大な黒鉄の機兵、ピューパと思わしき兵器があった。
機兵の全身は、これまで見た悪霊の骨の如き湿った体表を見せつけている。

_オ”ア”ァ……ッ!
「やっべ。」

地の底から響く様な怨嗟の声と共に機兵に力が入るのを、ウーロンは直に感じていた。
そして次の瞬間、凄まじい地響きと同時にピューパは迫ってきた。
判断は、一瞬だった。

ーーーーーーーーーーーー
  D-CHANGE
ーーーーーーーーーーーー
  トランクス(未来)
ーーーーーーーーーーーー
    Lv.1
ーーーーーーーーーーーー

トランクスへとドラゴンチェンジしたウーロンはすぐさま上昇。
寸での所で、ピューパ型悪霊の突進を躱す。
直後に、一瞬前までトランクスが居た場所に爆音が響きわたる。

「喰らったら肉片一つ残らねぇな!」

ウーロンは空中で一回転し体勢を立て直すと、剣を構えた。
その剣先には、変わらずウーロンを睨む悪霊。
すぐさま体を翻すと、もう一度突進してきた。

「けどよ、動きが真っ直ぐすぎるぜぇ!」

だが先の焼き直しとも言える行動にウーロンはすぐに順応。
すれ違いざまで躱し、更に剣でピューパの核…即ちAIポッドがある場所を斬り付けた。
火花と共に鈍い異音が鳴る。

_ァ”ア”ァッ!?

悲鳴らしき何かを上げる悪霊■■■■。
切り口から見える赤核に、ウーロンが再度突撃。
衝撃波と共に、火花が散る。

_ッア”ァ!??

斬り付けられる度、軋みを上げる悪霊の身体。
機械を真似ている以上痛覚は無いと思っていたが、実は痛みがあるのだろう。
足をバタバタと動かしながら苦しみ悶えている。

「へっ、こりゃ楽勝だぜ」

この様子を見て、自身の圧勝を確信するウーロン。

(このまま押し切れば……)

_ァ”ア”ァァ!オ”ォ”!!

考えているうちにも再び突進してくるピューパ。
だが動きは相変わらず真っ直ぐで単調なそれに、ウーロンは怯えない。
ドラゴンチェンジのエネルギー量もまだ残っている、余裕があった。
_それが油断となった。

_ア”ァァ!!!

再三の突撃、ウーロンは露出した核へ迷い無く向かう。
振るわれた剣が、吸い込まれる様に赤核へ突き刺さる、その寸前。
度重なる攻撃でひしゃげた黒い外郭が、突然ウーロンを覆い込んだ。

「おわぁ!?」

油断大敵。
散々斬り付けた黒い破片が、ウーロンを包み込んだのだ。
獲物を捕らえたピューパはすぐさま突撃を止め、激しく唸る。

_オ”ォァァァ……ッ!

内部で圧死してしまえという様な悪霊の怒りの声。

「畜生、死ぬかよぉ!?」

そんな怒りを余所に、なんとか外へ出んと藻掻くウーロン。
パニックを起こした思考の中で、何とか考えを捻り出そうとする。

「こうなったら…!」

そして覚悟を決めた様に、チェンジを解除するウーロン。
一瞬、体格が変化した事による「隙間」が生じる。
その瞬間を見定めて、ウーロンは外へと飛び出した。

「やったっ、出れた…!」

転がる様に這い出るウーロン。
一先ず惨事は逃れた。
だが悪霊の様子が可笑しい。

「あれ?な、なんだ?」

ウーロンを捉えていたAIポッドの部位が、何かを咀嚼する様に脈動している。
よく見れば、そこにはトランクスの姿があった。

「あっ!な、無い!?ボールが!?」

気付いた所で後の祭り。
次の瞬間、ピューパの外殻がトランクスへ吸い込まれる様に消えていく。
同時に、トランクスだったものがドス黒い何かへ変化する。

『_アァァ、コイツァイイ体ダ…!』

ソレは、明確な意思を持って喋った。

9人目

「究極の合体戦士! ベジット誕生!!」

 偽・トラオム入りしたウーロンに襲い来る謎の影……
一方で、強敵・ハッチヒャックに手も足も出ない悟空、ベジータ、ピッコロ……
最後の切り札は、ポタラ。悟空がベジータにその片割れを投げ渡す。

『むう……!? あの2人、何をこそこそ話しておるのだ!?』

 Dr.ライチーはそんな悟空とベジータのやり取りに気づき、警戒の色を浮かべた。

「やべっ、気づかれた!? ベジータ、早くしてくれ……!!」
『何を企んでおるか知らんが……! やれぃ、ハッチヒャック!!』

『ゴオオオーッ!!』

 ライチーの声に応じて、ハッチヒャックが猛然と悟空とベジータに向かって
地響きを上げながら突進してくる。

「く……ダメだぁ……! 間に合わねえっ……」
「させるかぁああああああああああああああああッ!!」

「!?」

 ピッコロだ。ナメック星人特有の能力、伸縮自在の腕を
撓る鞭が如くハッチヒャックの身体に巻き付けて動きを止める。

『ぬうッ……!?』
「今だ、孫!!」

「ああ!! 頼む、ベジータ!!」
「ま、またしても合体なんぞに頼る事になるとは……!!」

 悟空はポタラを自分の耳につけ、一方のベジータももう片方のポタラを耳に装着した。

『ええい、邪魔だァッ!!』

 ハッチヒャックはピッコロの腕を無理矢理に引き千切ると、
空いた左拳でピッコロの顔面を殴り付けた。

「ぐわあああああああッ……」

「やるぞぉっ、合体だぁっ!!」
「ふおおっ……!?」

 その一瞬の隙に、悟空とベジータは互いに引き寄せ合い、ひとつに混ざり合う。
眩い光が辺りを包み込んだ。

『な、なんだ!? 何が起こっておるのだ!?』

 Dr.ライチーも動揺の色を隠せない。

「ピッコロ……仇は討ってやるぞ!」

 光の中から重なり合うように響く声……それは悟空でもなく、ベジータでもない、
不思議な響きを持つ声であった。そして、その声の主がついに姿を現した……

「や、やった、か……!?」
『あ、あり得ん……! こんなバカな事があってたまるか……!』

 驚愕の光景にDr.ライチーは信じられない様子で呟いた。
そこに立っていたのは悟空でもベジータでもない存在。彼ら二人が合体した姿だった。

「よっしゃああああああああああああああッ!!」

 悟空とベジータの容姿、そして服装が完璧に調和した容姿を持つ戦士。
ベジータのグローブとブーツ。色合いが反転した悟空の道着。
純粋種のサイヤ人を示す黒髪……さりとて、フュージョンによって
ブロリーを撃退したあの融合戦士、ゴジータともまた違う。

『な、何者だ、貴様ァァァァ……!!』
「そうだな……フュージョンの時はゴジータだったから……
ベジータとカカロットが合体して……ベジット、って所かな……」

『合体だとォ……!? ふ、ふざけるな!!』

 Dr.ライチーは絶望と怒りで顔を歪めながらハッチヒャックに指示を下す。

『ハッチヒャック! 何をしておる!? そんな奴さっさと片付けろッ……!?』
「むんっッ!!」

 目にも見えぬスピードで、ベジットはハッチヒャックの顔面に、
腕組みをしながらのキックをお見舞いした。

『ごあああああッ……』

 顔面に衝撃を受けて、地面を滑るように後退するハッチヒャック。

『え……!? み、見えなかった……』
「フン、よく言うぜ、そっちこそ散々悪霊どもと合体しまくってるくせによ……
おい、無事か、ピッコロ」
「な、何とかな……ぬううっ……!!」

 力む声と共に、引き千切られた腕が再生する。しかし、消耗した体力までは回復しない。

「そ、そいつがポタラによる合体か……」
「まあ、そう言う事だ。後は俺に任せておきな。サイヤ人の因縁は……
サイヤ人の手でケリをつける」

『おのれぇえ……! 調子に乗りおって……! 捻り潰してくれる!!』
「さあ、そう簡単に行くかな……?」

 溢れる自信に満ちたその言葉と態度は、まるでベジータを彷彿とさせる。

 右、左、とステップを刻み、一足飛びで接近、右腕を大きく引き、
その拳をハッチヒャックの腹部へ突き刺すように叩き込む。

「だりゃあああああああああああッ!!」
『ぐぼおおッ……!?』

 強烈なボディブローに、ハッチヒャックはその巨体を丸めて悶絶する。

『お、おのれぇ……!』
「まだまだぁッ!!」

 Dr.ライチーが悔しげに呻く中、ベジットは後ろ回し蹴りで
体勢を整える間も与えずにハッチヒャックに追い打ちをかける。
そのあまりの破壊力に、ハッチヒャックは研究所の瓦礫の山に突っ込んでいった。

『ば、馬鹿なあ……! 私の、最高傑作であるハッチヒャックが……!』

 Dr.ライチーはハッチヒャックの劣勢に狼狽える。

「どうした、じいさん。サイヤ人に恨みがあるんだろう? かかってこいよ」
『ぐぬぬぅ……』

 余裕の笑みを浮かべて挑発するベジット。
その態度は、Dr.ライチーに逆上させるには充分だった。

『こ、このおおおおッ……ナメるなああああああああああああああああッ!!
殺してやる、殺してやるぞぉおおおおおおおおおッ……!!』

 Dr.ライチーは周囲の悪霊を再び吸収し、ハッチヒャックの戦闘力を高め始めた。

『ヌオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ……!!』

「さ、さらにパワーアップすると言うのか……!」
「へへ、そうこなくっちゃあな……もっとバトルを楽しもうぜ、デカブツ!!」

 驚愕するピッコロに対し、ベジットは不敵な笑みを浮かべてくい、くいと手招きする。

『ふひひ、ハッチヒャックの真なる力を見せてくれるわ……!!』
「さあ、行くぜ!!」

 ベジット対ハッチヒャック……サイヤ人とツフル人の因縁が激しくぶつかり合う!!

10人目

「焔の記憶 その2」

 童が行く当てのない放浪の旅に出たのは、今となっては遠い日の事。人間の暦で言う「江戸時代」というべき頃か。
 人が仮初の平和を謳歌している間も、歴史の裏で童は鬼として、人として乖離したがゆえに迫害を受け、時に多くの武士共に追われることもあった。

 当然、人との斯様な違いは童こそが最も分かっていた。
 童がどこまで人間の在り方をまねようとも、所詮は鬼。その一点だけは決して変わらないし変えられない。
 何が間違っていようか。人も鬼も「己のために何かを殺す」という点では変わりがないのだ。人に許されるのならば人よりも毅き童にも許されようぞ。
 鬼であるがゆえに、弱き人間を屠る。鬼であるがゆえに、弱き人間を殺す。
 故にこそ、数多もの人間を屠った。
 童に刃を向け、迫る武士どもを屠り、全てを燃やし、殲滅した。
 己が裡に宿る「真の鬼」に身を窶し、一切衆生を鏖殺せん。

 やがては一匹の鬼として、数多もの人間を屠る己の在り方に誇りを抱き始めた。
 だがある日、一人の男に出会った。
 齢にして二十と二つほどの男。無辜の民のために刀を振るう若き浪人であった。
 童は何ゆえか、この男の在り様に興味がわいた。

 己でも訳のわからぬ感情に突き動かされるがまま、その男の背を追い、先々に現れ立ちはだかった。
 己が鬼の力である焔で攻撃することもあった。
 そうすれば否が応でも童の存在を察知し、死合ってくれようと。
 恋焦がれるように、或いは凄まじき執念に駆り立てられるかのようにその者を追い続けた。

 長い時はかかったが、その願いは遂にかなった。
 童の存在を察知したかの者は「出て来い」と言い放ち死合を申し込んだ。

 結果は此方の敗北。
 完膚なきまでに叩きのめされ、切り刻まれ、地に伏された。
 それだけならばどれだけよかろうか。

「なぜ殺さぬ……?童は鬼ぞ……人に仇為す鬼だぞ!?お前が守ろうとした人間を童が屠った事もあった!!口惜しくないのか!?憎いとは思わぬのか!矜持も誇りも、貴様にはないというのか!!■■ァ!!」

 雨夜の山中。
 童はどうしようもない憎悪に駆られていた。
 まるで猛り怒る獣が如く咆哮する童を、一方的に打ちのめした童を、氷が如き目で睨むでもなく、残酷な言葉で罵るでもなく。

「鬼だって?貴殿はただの角の生えたどこにでもいる人だ。そちらに何の事情があったかは知らないが、もう斯様なことはやめろ。」
「………………………………は?」

 一方的に打ちのめされた相手に対して、まるで日向が如き笑みで、かつての戦友を弔うかのような瞳で、母親が子供に語り掛けるような声で憐憫の情を向けた。

「今の今まで俺をつけてきた事も分かってはいたが、童ゆえに見逃していた。俺は、お前のような童が死ぬのを見るのは嫌いだ。……そこを動くな。今助けを呼ぼう。近くに門番がいる。」

 何という侮辱であろうか。
 鬼である童、その魂を踏みにじるかのような言葉。
 無言で去りゆくかの者の背を、倒れ伏す童は見守ることしかできぬ。

「待て……あ……。」

 消えゆく意識の中、最後に見た光景。
 その光景たる彼の瞳は、まるで天の星のように青く輝いていた。



 廃棄孔 深淵溶鉱炉

「悪霊の進軍は依然抑えられてはいますが、少しずつ押していってますね。」
「ふむ、ではここいらで奴らを開放するとしよう。既に地上に解き放った『壊轟の絶魔獣』『暗黒の悪剣使』。それに加え『憎悪の冥鎧士』『殲滅の錆鎗兵』『斬烈の獄詩人』の3体を放て。」

 廃棄孔の最奥。
 怪物の覚醒を告げる揺れは少しずつ強まってゆく。

「この廃棄孔を支配する3つの結界、『偽・港区』『偽・トラオム』『偽・希望ヶ峰』。もうそろそろ偽・トラオムが陥落しますが……怪物の覚醒も近い以上は、もはや些事でしょう。」
「では、童も行くとしよう。」
「行くって、まさか彼らのところに?」

 またあの日のような思いに駆られる。
 忌まわしいあの感情に。

「うむ、あの者の眼が輝きだした。……忌まわしき眼じゃ。」

 故にこそ、童はあの天宮月夜に対して憎悪/■■を抱いている。
 あの日見た、忌まわしき青き星の輝きに。

11人目

「吠えろ金色の戦士! こいつが超ベジット!!」

「おい、悪霊の消耗が激しいエリアがあるぞ」
「偽・トラオム……Dr.ライチーとか言うジジイの研究施設があるエリアか。
まったく、無駄遣いしやがって……」

「焔坂様に知らせた方が良いか?」
「構わんだろう、悪霊なぞ幾らでも造れる。製造法さえ確立していれば
浅漬けを作るように簡単にな……それよりも、幻想郷に点在する反抗勢力の制圧が先決だ」

 廃棄孔の外では、悪霊達の侵攻が拡大し続けている中……

「ずぁりゃああああああああああッ!!」
『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 ベジットとハッチヒャックの拳と拳が正面から激突する。

「へえ……! 悪霊を取り込んで、パワーアップしたのは伊達じゃないか……!」
『当然だ! 余裕ぶっていられるのも今のうちだ!! 
ハッチヒャックの真の恐ろしさを思い知らせてやる!』
「ふ、望む所さ……!」

 ベジットはハッチヒャックと接近戦を演じながら攻撃を躱しつつ、隙を窺い続ける。

「はああああッ……だりゃりゃりゃああッ!!」
『ぐわああ……!!』

 そして、ベジットの放った渾身の連撃がハッチヒャックの身体に
無数の拳打と蹴りを打ち込む。

「どうだ!?」
『ぐっ……! うおおッ!!』

 ハッチヒャックは耐えている。ダメージを受けつつも、なお健在だ。

「ハッ、図体がデカいだけあって、タフだな……」
「何をやってる、さっさと倒せベジット!!」
「へへ、わかってるって!」

 ベジットは不敵な笑みを浮かべながら、ハッチヒャックの反撃を躱していく。
確かにベジットは強い。しかし、ピッコロの目には些かその自信過剰な態度が
不安に映るのもまた事実であった。

(サイヤ人の悪い癖だな……)

 悟飯、悟天、トランクス……サイヤ人の血を引く若い戦士たちを多く指導してきた
ピッコロにはサイヤ人特有の気質……戦いそのものを愉しんでしまう、
そんな悪癖がベジットにもあると見えたのだ。

『ぬあああッ!!』

 先刻、ベジータに使った戦法……身体から悪霊を放ち、ベジットに浴びせかける。

「むうっ……!?」

 ベジットを取り囲み、視界を奪う。
すると、ハッチヒャックは急速上昇し、間合いを離した。

『ヌウウウウウッ……!!』

 両腕をクロスさせ、両手、両足、頭部の水晶体が一斉に眩い緑色の光を放ち始める。

「ヤバいッ! 奴は何か大技を出すつもりだぞ……! ベジット! 避けろッ!」

 ピッコロの警告と、ハッチヒャックが咆哮を上げるのは同時であった。

『ヌウウウーッ……!! リベンジャー・カノンッ!!』

 ハッチヒャックの全身に集約された膨大なエネルギーが光線となって、襲い掛かる。
動きを封じていた悪霊もろともに、ベジットを消し飛ばすハッチヒャックの大技……

「うおおっ……」
「ベジット!! だ、だから一思いに倒してしまえば良かったものを……!!」
『ふははは……! やった! やったぞォッ!!』

 ベジットを呑み込む大爆発の中、勝利を確信したDr.ライチーの哄笑が響く……が。

「――おおう、危ねえ、危ねえ。今のはすげえ技だったな……」
「な、何ィ!? ハッチヒャックのリベンジャー・カノンを凌いだだとぉ!?」

 ベジットは無事だった。いつの間にかハッチヒャックの背後に回っている。

「まともに食らってたら危なかったかもな……ちょっとばかり、お遊びが過ぎたか?」
『ぐ、うう……! バ、バカな……!』

 ハッチヒャックが愕然とする中、ベジットは余裕綽々で語り続ける。

「ここからは俺も本気を出させてもらうぜ」

 そして、両手をぐっと握り、気を凝縮させ始める。

「はああああああああああああああああああああああああ……!!」

 ベジットの黒髪がざわざわと逆立ち、金色に輝き始める。

「そ、そうか……! 孫とベジータが合体したのなら……! 
あいつめ……いくら何でも手を抜きすぎだ……!」
「こいつが、超ベジットだ!!」

 スパークを纏った金色のオーラを放出し、超サイヤ人となったベジットは
ハッチヒャックを正面から見据える。

「ぬ、おお……!?」
「待たせたな……さあ、続きと行こうか!」

「!?」

 ベジットが凄まじいスピードでハッチヒャックに迫る。

『!!』
 
 拳の軌道が見えない。
ハッチヒャックは反撃する間も与えられずに一方的に打撃を浴びせられる。

『グオオッ……!』
「オラオラオラァ!!」

 一発一発が必殺の威力だ。ベジットの猛攻に、ハッチヒャックは成す術がない。

「さあ、そろそろ終わらせてやるぜえ!!」
『クウゥッ!?』

 ハッチヒャックの右足を掴み、地上へと引きずり下ろすベジット。

「そぉぉぉぉうらッ!!」

 急降下した勢いのままに、ハッチヒャックを地面に放り出す。

『グオオオオオオオオオッ……!!』
「まだまだ行くぞぉ!!」

 地面に叩き付けられ、苦しみに悶えるハッチヒャックに対し、
ベジットはマウントポジションを取って打撃の雨を降らせる。

「それそれそれそれえええええええええええッ!!」
『グムゥッ……!? オブッ、ガァァァァッ……!!』

 最早、勝負ありだ。完全に形勢が逆転している。
このまま敗北の屈辱と怒りに身を震わせながら消滅するのみかと思われたその時……

「こいつでッ……!! ぬっ!?」

 振り上げたベジットの腕を、ハッチヒャックが掴み取る。

『グウウッ……! ま、まだだァ……!!』

 ベジットはそれを振り払い、一旦後方に退く。

『フッフッフッフ……この屈辱! この痛みもまた! 
ハッチヒャックの糧となる……!!』

 ハッチヒャックが再び悪霊を取り込んでいくと、ベジットにボロボロにされた姿が
再生していく。恨み、憎しみ、痛み、悔しみ……
火に焚べる薪が如く、ありとあらゆる負の感情を力へと換えて……

「まったく、堂々巡りもいいところだな……!」
「どうするベジット、さすがに奴も学習しているぞ……これではいくら攻撃しても倒せん」

『その通りだ! ハッチヒャックは倒れぬ!! 
貴様らサイヤ人を根絶やしにするまで! 永久に!!』

 現状、戦闘力ではハッチヒャックを圧倒している超ベジットとて、
このまま戦いが長引けばいつかはエネルギーを使い果たしてしまう。

『さあ、どうする!? サイヤ人!!』
「……」

 果たして、ベジットに勝算はあるのか……!?

12人目

「phanatasm_ataraxia 5_打倒の奇跡は少しずつ起こすもの」

 神の湖にて

「それ!まだまだ!!」
「うおおお!!」

 幕間は続く。
 廃棄孔に最も近い領域、神の湖での防衛戦。
 神の湖に無数に出現する「穴」から湧き出る無数の悪霊。
 100万を超え始めた物量に、最前線(フロントライン)で戦う者たちは追い詰められていた。

「しかし、数が増えてきてないか!?あいつら間に合うか?」
「きっと廃棄孔の主たちも追い詰められているということでしょう。であればここまではやらないはず。今は彼らを信じるしか……!」
「はっ、前向きだな!」
「ええ、でなきゃここには立っていない!」

 しかしこの顔に陰りはなく。
 お互いに軽口を叩きながら、ナポレオンとディルムッドは悪霊を薙ぎ払っていた。
 迫り、抉り、撃ち、斬り、砕く。

 勇者であればこそ笑う。
 最前線で戦う彼らが落ち込んでは士気も何もないのだから。

「てか、見えるか早苗!ふもとのあれ!」
「あれですか!?あの超巨大悪霊と……え?ウルトラマン!?」
「知ってんのか早苗!?」

 超巨大な怪獣型悪霊『壊轟の絶魔獣』に対抗する、光の戦士ウルトラマンZ。
 過去、外の世界で生活していた早苗は、テレビ番組でその存在を知っていた。
 かっこよかった。美しかった。何よりも輝いて映った。
 それが何の因果か、実在のものとして眼前に映っている。

 過去の話を少しだけ知っていた。それだけとはいえその輝きに憧れないわけがない。興奮しないわけがない。
 何しろ、ちょっとでも憧れた存在が眼前で戦っているのだ。元気が出ないわけがない!!

「昔のをちょっとだけです!正直あのウルトラマンは初めて見ました!後で色々と話を聞いてみたいものですが……っておっとっと!」

 饒舌になりながら、早苗は湧き出る元気を力に変えて戦う。
 弾幕の速度や威力にもキレが出始める。

「ああ、確かにあの光の巨人はカッコいいな!だが言ってる場合じゃないよ!」
「分かってます!でも!心が燃えるんですよ!」
「じゃあ、この悪霊どもにぶつけてやんな!」

 神奈子の号令と共に、早苗は構える。
 放つは2人同時のスペルカード。
 対象は今以て成長をやめない下級悪霊。
 完全に成長しきる前にぺんぺん草も残さず倒しきるつもりだ。

「大奇跡『八坂の神風』!!」
「神秘『ヤマトトーラス』!!」

 神奈子と早苗、二柱の神々による殲滅。
 絶望的状況の最中に輝いた、元気と本気の入り混じった神威は侮るには脆すぎた。
 神々の弾幕は、絶望の化身たる悪霊の大群を悉く木端にした。

「ナポレオン殿、宝具の準備は?」
「ああ、幻想郷の魔力供給と吸血鬼の嬢ちゃんから預かった『指輪』もある!怪物討伐までには余裕で間に合う!」

 ディルムッドの問いに、余裕の笑みを浮かべる快男児。
 ここは幻想郷という神秘あふるる領域、さらに神の湖という魔力の質も量も優れた地。さらにはレミリアから譲渡してもらった『ソロモンの指輪』の力もある。
 であれば、彼の宝具発動は魔力的にも余裕がありすぎる。
 一撃、宝具を放ったところで彼が退去することはない。

「来い悪霊!我が真名、ナポレオン!」

 魔力のうねりを感じた悪霊数万体。
 彼の宝具発動を止めようと群がり、攻撃を開始しようとする。
 しかし――――彼が真名を解放した時点で、止めるにはもう遅すぎた。

「彼方まで吹き飛べ―――『凱旋を高らかに告げる虹弓(アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥ・レトワール)』!!」

 闇夜に差す光の虹。
 それは悪霊の群れを薙ぎ払い、悪霊の穴も潰し、幻想郷の夜空に輝ける虹をかけた。

13人目

「蘇る鬼」

 廃棄孔の外……幻想郷全土に蔓延する悪霊達。

「はぁっ、はぁっ……」

 ここは人間の里と妖怪の樹海の境界に当たる地点……
悪霊に追われ、逃げ惑う人間の子どもがいた。

「ケケケーッ!!」

 その存在を示すため、幻想郷に住まう妖怪は人間を驚かせる。
これは一種の妖怪の本能のような物であり、
人間を驚かせる事は妖怪としての存在意義でもある。
だが、今回の場合はそれに当てはまらない。弱い人間が心穏やかに暮らせる数少ない場所、それが人間の里だ。悪霊達は幻想郷の均衡を崩さんと、大群で押し寄せる。

「キャーキャキャキャーッ!!」

 逃げ惑う子どもを見つけると、嬉々として追いかけ始めた。

「はぁ……はぁ……」

 息を切らし、息を切らせながら逃げる子ども。
日が暮れるまでに家に辿り着けず、悪霊の襲撃により、
こうして命からがら逃げて来たのだろう。

「はぁ、はぁ……うわっ!!」

 子どもは躓き、その場に転んでしまった。悪霊達がじわじわとその距離を縮める中……

「あ、ああ……」

 涙を溜めて蹲り、恐怖に怯えていた。

「シャアアアアーッ!!」

 そんな子どもを見て、悪霊達は高らかに声を上げた。
そして、一斉に飛びかかろうとした瞬間ー!

「やれやれ、騒がしいな……」
「!?」

 突然、その場に響く声。その声に悪霊達は反応し、一斉に森の奥を凝視する。
そして、そこから姿を現したのは……

「泣くな、少年。弱い心にこそ、悪霊は入り込む……」
「ギギィ……!!」

 悪霊達は一斉に子どもから離れ、現れた存在に対して敵意を剥き出しにしていた。

「未来は若い者に託して、おじさんは隠居してたんだが……
まだまだ、働かないとダメそうだな」

 悪霊達が敵意を剥き出しにする中、飄々とした様子で語る男。
懐から取り出したる音叉。

「随分久々だが、まだやれるかな?」

 闇の中に響き渡る、清き音……悪霊達は男から溢れ出る霊力に怯え、威嚇の声を上げる。
だが、男は落ち着いた様子で音叉を額に当てた。
瞬間、音叉が光を放つ!  悪霊達はその眩しさに目を伏せた。
そして、光が収まった後―ー……

「はあああああッ!!」

 全身を包み込む燃える紫炎を振り払い、男はそこに立っていた。
悪霊達は本能的に察知していた。目の前の男こそ、自分達の天敵であると……
自分達に死を運ぶ存在であると!

「お、鬼……!!」

 少年の目に男の姿が映っていた。闇の中にあっても光沢を放つ肉体。天に伸びる二本角。
その姿はまさに鬼であった。

「ここは昔、弟子たちと修行していた場所に似ていてな。
俗世と離れて暮らすには丁度良い所だったんだが……どうやら、そうもいかないらしい。
人々を泣かせる、お前たちのような奴に暴れてもらっちゃあな……」
「クケケケーッ!!」

 悪霊達は一斉に男に飛びかかった。
だが、男はその巨体から想像もつかない軽やかな動きで跳躍し、悪霊達の攻撃を躱した。
そして……

「おぉぉうりゃあああッ!!」

 音撃棒をすれ違いざまに叩きつけ、悪霊達を薙ぎ払って行く。
清めの音に包まれ、悪霊達は次々と消滅して行った。
それは霊力の込められた音撃棒で敵を浄化する技。

「グギャェェェェェッ……」

 悪霊達はその効力によって浄められて行く……男は落ち着いた様子で音撃棒を構え直す。

「す、すごい……!」
「鍛えてますから」

 尻餅をついて呆然とする少年に向かって、男は振り向き、おどけながらそう答えた。
かつて、魔化魍から人々を守るために戦い、
未来を担う弟子にその力を託し己を鍛える旅に出た。やがて人々の記憶からも
朧げとなった存在となり、人と鬼の狭間に生きる者として幻想郷にて
心穏やかな隠居生活を過ごしていた男……だが、我々はその名を知っている。

 その名は、ヒビキ。
またの名を、仮面ライダー響鬼!!

「さぁて、久々にやりますか……!」

14人目

「幻想郷事変 五の六:傲の邪剣士、その名はクレイクス!」

ジュクジュクと生っぽい音を立てて収束する黒い塊。
やがてソレは、人肌を真似てとある姿へと変貌する。
そう、トランクスの姿へと。
しかしその口調は決してトランクスのものにあらず。
傲りの混じった声色のソレは。

「お、オメェ…まさか、トラオムの!?」
『アァソウダ、テメェ等ニ殺サレタ「クレイヴ」ダ。』

メサイア教団大司教唯一の番外位。
傲の化身、クレイヴの声だった。

「クソッ、トラオム再現の次はアイツかよ。ポンポンと蘇りやがって!」

そう忌々しげに吐き捨てたウーロンに対し、悪霊クレイヴはどこか淡々とした言葉で返す。

『ハッ。俺ノ、クレイヴノ執念ッテ奴ハトラオムトソウ易々ト切リ離セル物ジャネェミテェデヨ、コノ偽トラオムト一緒ニ蘇ッタ訳ダ。』
「つー事は、怨念って一側面だけ再現した廉価コピーって訳かよ。」
『ゴ明察ダナ。』

ウーロンの推理に対し、悪霊クレイヴは肯定を示した。
話を纏めるとするならば、サーヴァントの反英霊と同じ様に負の側面だけを切り出して生まれた存在と言う事になる。
にも拘らず、語る口調は相も変わらずに落ち着き払った物なのは、如何な妙か?
何処か違和感を覚え、ウーロンは問う。

「にしては随分上機嫌だな、恨み辛みでいっぱいなんじゃねぇのか?」

その言葉を待っていた様に、クレイヴはニヤリと顔を歪めて返した。

『アァ、今モオ前等ガ憎クテ憎クテ堪ンネェ。怒リニ駆ラレテルノヲ自覚スル位ニヨ。』

そう語る言葉に嘘は無い。
憎いと言う感情が心の底から湧き出て来るのは、確かだろう。
だが、不思議と我を失う様子は無い。

『ケドナァ、オ前達ヲドウ憎メバ良イカヲ考エタラ、不思議ト考エが透キ通ルンダ。』

不敵な物言いでウーロンの問いに応える悪霊クレイヴの立ち振る舞いは、どこまでも理性的だ。
そこに悪霊や獣(けだもの)らしさは欠片も見当たらない。
すなわち。

「…怒りが一周して冷静になりやがったって訳か。面倒くせぇ事になったぞぉ。」

忌々しげに頭をガリガリと掻き毟るウーロン。
冷静というのは、確かに厄介な状態だ。
こう言った相手の行動は読みづらい場合が多いのである。
じりっ、と一歩後退る。
そんな状況の中、クレイヴは言う。

『今ノ会話モ…手段に過ぎねぇ。』
「!オメェ、声が…!?」

ふいに聞こえるようになったクレイヴの声に、ウーロンは瞠目した。
先程まではまともに聞こえなかった筈のクレイヴの声が、人の声そっくりに変異している。
元の身体故か、トランクスとクレイヴの声が重なって聞こえる。

『確かベジータの息子、トランクスつったか?こいつの身体に馴染むまでの時間稼ぎだよ、今までの会話はな。』
「…嫌に頭が回るじゃねぇか、それもどう憎むか考えた結果か?」
『けひ、ご名答。』

トランクスの身体を操るクレイヴが、そう語る。
ジュクジュクと黒く染まる身体が完全にトランクスと一体化した所で、クレイヴは歪んだ笑みを浮かべた。

『この俺を形作った復讐心を、どうすりゃ効率的に解消できるか。今の俺…そうだな、クレイクスかぁ?この俺の頭にあるのはそれだけだ。』

そう言って一頻り笑い声を上げる。
永遠にも等しい嘲笑をするクレイブ、もといクレイクス。
だが、それも不意に終わりを告げる。

『_だからよ、逃げようなんて考えるんじゃねぇぞ?』
「やべっ。」

ウーロンは先程の会話からずっと後退りをしてコッソリ距離を取っていた。
その事がバレて、焦燥感が走る。
思わず冷や汗をかいたウーロンへ、クレイヴは悪意で満ちた声で語り掛ける。

『さっきからチョコチョコと後ろに逃げやがって…そんなに下がりたいならよぉ!』

その言葉が発せられるのと時を同じくして。
ズン、と重たい耳鳴りが辺りを揺らした。

「っべ!?変げ…!」
『俺が飛ばしてやるよぉ!!!』

宙を駆ける風切音。
そう気付いた時には、ウーロンの眼前にクレイクス。
煙に包まれた刹那、それを吹き飛ばして余りある暴威の蹴りが放たれた。

「__っ!!」
『好きなだけ吹っ飛びなぁーーー!!!』

煙を突っ切って飛び出すウーロン。
後退というには余りにも勢いのある速度で、地面を滑空し音を立てて転がっていく。
幾度かのバウンドを重ね、遂にはコンクリートの地面にめり込み、煙を上げて止まった。

『立てよ、この位でくたばっちゃ困るぜ?死を懇願したくなるよぉな目に合わせてやらねぇと気が済まねぇからよぉ!!』

すると、煙の中から声がする。

「_こういう時によぉ。」

同時に浮かび上がる人影
斜めの線が重なったその影は、人のシルエットでは無い。
それはゆっくりと立ち上がり、憮然とした声色で返答する。

「備えあれば憂いなし、つぅのか?」

その足取りは、覚束ない様子ではある物のかしっかりとしていた。
そうして顕になった姿は、さながら巨大なバネに手足をつけた様な異形の人型だった。

『全身が、バネ…?』

推定ウーロンと思わしきバネ人間は口を開く。

「調べてて良かったぜ、超人についてな。」

ウーロンの言葉の意味を測りかね、怪訝な表情を向けるクレイクス。
その身体には土埃が纏わりついていたが、全く意に介した様子は無い。
そんな様子を見て取った上でウーロンは不敵な笑みを浮かべ答える。

「悪魔超人スプリングマン、力は及ばねぇが真似るだけなら簡単だ。痛かねぇよ!」

そう、今のウーロンはかの悪魔超人、スプリングマンの姿をしていた。
スプリングマンの様に戦う事は出来ないが、構造特性を真似るだけなら可能。
即ち、今のウーロンは打撃に対し無敵だった。

『だったら斬っちまうまでだぁ!』

剣を引き抜き、構えるクレイクス。
だが、彼が動くよりも早く異音が鳴り響く。

「わざわざ蹴っ飛ばしてくれてありがとよ、お陰で扉まで戻れたぜ!」

ウーロンの手が伸びた先には、例のタッチパネル。
押されてる項目は[CROSS]。

『ちぃ!?』
「あばよ、此処で一生閉じこもってな!」

気付いたところで後の祭り。
閉じる扉に滑り込もうとして、しかしその前に閉まる。
ウーロンとクレイクス、両者を分厚い扉が遮った。

「ふぅ、危ねぇ危ねぇ…」
_ドンッ!ドンドンッ!
「うわおっかねぇ。」

扉を殴打する音。
洞窟全体が軋みを上げて砂埃を落とす様から、その威力が伺い知れる。
何とか無傷で逃げられた、そう安堵して。

「さーてとっとと逃げると_」
_ジャキッ。
「す、る?」

その安寧は、己の頭上を突き抜けたモノクロの斬撃によって斬り捨てられた。

『逃ぃがすかよぉーーー!!!』
「ひぃ、いぃーー!?」

その正体は、扉の向こうから放たれた黒い斬撃が、ソニックブームを纏った物である。
それは扉を突き抜けたた。
ズンッと重い音を立てて崩れ落ちる洞窟。
大きな音を立て斬り込む様に放たれるモノクロの斬撃。
2撃、3撃と放たれたそれ等によって、扉に三角の穴が作られる。
そこから、クレイクスが顔を出した。

「へ、変化!」
『逃げるなぁ!!!』

咄嗟にロケットと化したウーロン。
それを追いかけるクレイクス。
命を賭けた競争が、今始まった。

15人目

「復讐鬼、消ゆ! 見せてやるよ超サイヤ人パワー!」

 ――複製復讐界域。

 悪霊を取り込み、無限の再生とパワーアップを繰り返すハッチヒャック。
流石の超ベジットも、決め手を欠いていた。

「……」
『ふははははははは、勝負あったなァ!!』

 Dr.ライチーの高笑いが響く中、ベジットは一歩前に出る。
その背中からは、自信と余裕がありありと見て取れた。まるで、勝算があるかのように……
否。それは確信であり、揺るぎない事実であるに違いなかったのだ。

「もう勝ったつもりか、じいさんよ?」

 ベジットがニヤリと笑い、Dr.ライチーに語り掛ける。

『なぁにぃ……!?』
「おい、ハッチヒャック! さっきのをやってみろよ。アレだ、俺を倒したいんだろう?
だったらやってみろ!」

 余裕綽々でハッチヒャックにリベンジャー・カノンの再発射を要求するベジット。

『馬鹿め、今度こそは外さんぞ! お望み通りにしてやれ、ハッチヒャック!!』

 ハッチヒャックが全身の水晶体に緑色の光を集中させる。

(俺の勘が正しければ……)

 その場から微動だにせず、腕組みをしてハッチヒャックを見据えるベジット。

『ふははははははは、もはや貴様に成す術はないわ!』
(1……2……3……)

 心の中で何かのカウントを数えるベジット。

(7……8……9……)

 そして、遂にその時を迎える。
ハッチヒャックの全身からベジットに向けて放出される光波。
だがしかし、ベジットは未だ一歩も動かない……避ける素振りすら見せない。
そして――

『これで終わりだ――リベンジャー・カノンッ!!』
(――15ッ!!)

 ハッチヒャックの攻撃と、ベジットがカウントを数え終えるのは、ほぼ同時であった。
直撃したかに見えたリベンジャー・カノンの光波は、しかしベジットに届く寸前で
眩い金色のオーラに阻まれて掻き消される。

「おりゃあああああああああああああッ!!」

 ベジットの右腕に纏った気が、エネルギー状の刃……スピリットソードとなって
伸び行き、ハッチヒャックの額にある水晶体を直撃。その水晶体を真っ二つに割った。
怯むハッチヒャック。

『う、お、ああああッ……!! 貴様ァァァッ……!!』
「思ったとおりだったな。お前の技にはチャージ時間が長過ぎるって欠点があるって事だ!
そしてその時間は……ジャスト15秒!」

 不敵な笑みを浮かべ、ハッチヒャックを見下ろすベジット。
そう、リベンジャー・カノン発射までに必要なチャージ時間……
ベジットはそれをカウントしていたのだ。チャージに時間を要する……
それをカバーするために1発目を放つ際は悪霊に足止めをさせてベジットの動きを封じた。さらに……

「そんでもって、お前の頭にあるその水晶体は……エネルギーを集中させるために
必要なんだろう? その水晶体を割っちまうと、お前はもう何も出来ない。
さっきの技や再生に必要なエネルギーも賄えねえからな!!」
『あ、ああ……!!』

 悪霊たちを無尽蔵に取り込んでいたのも、今しがたベジットに破壊された水晶体からだ。
その水晶体が破壊されてしまった今、ハッチヒャックは悪霊を取り込むことも
出来なくなってしまった。

『ま、まだだァッ……残るエネルギーでこの水晶体さえ復元させられればァッ……
悪霊達! 時間を稼げ!! そうすれば……』
「残念だが……それももう無理のようだぜ?」
『なッ……!?』

 Dr.ライチーは気づいていなかった。悪霊達を包囲ように浮遊する、
無数のエネルギー弾の存在に……

「サイヤ人にばかり気を取られ過ぎていたようだな……ここにナメック星人もいるって事を忘れてもらっちゃ困る!」

 ピッコロだった。ライチーがベジットに執心している隙に、
密かにエネルギー弾を生成していたのだ。そして、今こそその最大の好機……!

「また悪霊達を取り込む算段だったのだろうが……そうはいかせんぞッ!! 
魔空包囲弾ッ!!」

 ピッコロは手を振りかざし、号令をかける。
一斉に悪霊達に向かって着弾する無数の魔空包囲弾。
悪霊達は次々と撃ち落とされていくが、ハッチヒャックにもその何発かが命中していた。

『おっ……おわああああああああああああああッ……』
「ギィィィッ!!」
「ギャェエエエエエエエエエエッ……!!」

 ハッチヒャックに連続的にダメージを与えていく魔空包囲弾。
だが、完全に倒し切るまでは至らない……!

『おのれ、サイヤ人んんんんんんんんんんんんんッ……!!』

 爆煙の中から現れるハッチヒャック。水晶体が復元するまでに、まだ数秒の時を要する。
だが、ベジットとピッコロがその隙を逃す筈がない。

「今度こそ決めろ、ベジットォッ!!」
「そうだな……いい加減、こいつとの殴り合いも飽きちまったぜ!!」

 ハッチヒャックとの距離を詰めながら、ベジットが気を高める。
今までにない、強大なエネルギーだ……あの技を放つつもりだろう。

「ファイナルッ……!!」

 ベジットの両手に眩い光が集まり、金色に輝き始める。
そして、両手を突き出し、その技を繰り出した。

「かめはめ波あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 金色に光る、巨大な光の奔流がハッチヒャックを呑み込んでいく。

『うっ……うわああああああああああああああああああああああああああああああッ……』
「二度と再生できないよう、跡形もなく消し飛ばしてやるぜ……
くたばれええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!」

 超至近距離から放たれたファイナルかめはめ波の直撃を受け、
ハッチヒャックは大爆発を起こす。

『ぎぃぃぃぃぃぃぃぃえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッ……』

 断末魔の叫びと共に、ハッチヒャックは消滅していった。
同時に、残された悪霊たちも全て掻き消されたのであった……

「何だ、あの光は……」

 それは、遠く離れた複製絶望界域にいるペルフェクタリア達の目にも届く、
眩い輝きであった。
ベジットの金色に光るオーラは、まさに伝説上の神々しい光を思わせた。

「ふう……」
「一思いに倒してしまえば良かったものを……ヒヤヒヤさせやがる」

 完全に消滅したハッチヒャックを確認し終え、ベジットは手を下ろして
ピッコロと向き合った。

「うおっ!?」

 力を使い果たしたと同時に、ベジットの合体も解け、悟空とベジータは元の姿に戻る。

「ひゅう、とんでもねえ奴だったな」
「手間取らせやがって……だがこれで、奴も完全に終わりだろう」

 ポタラに亀裂が走り、音もなくバラバラに砕け散った。

「あっ、ポタラが……」
「清々するぜ。フュージョンのみならず、ポタラで貴様と合体なんぞ、反吐が出る」

「んっ……」

 Dr.ライチーとハッチヒャックが消滅した事で、変化が生じる。
研究施設から天に向かって伸びる光の筋。それは複製絶望界域の方角を指し示していた。

「こいつぁ、もしかして……」
「調べてみる価値はあるか……行くぞ」

16人目

「廃棄孔第3層:偽・トラオム 10_決戦、傲の邪剣士クレイクス」

 偽・トラオム 中立領域の荒野

 荒野を駆ける4人。
 妨害するように立ちはだかる下級悪霊の群れを薙ぎ払いながら先へ先へと駆けてゆく。

「どこまで続くんだろ!この荒野!」
「待て、前になんかある!」

 彼らの眼前に映るのは、2~30mはあるだろう岩山。
 その府持ちにこれ見よがしに取り付けられた、三角形の穴が開いた鉄扉。
 穴を覗いてみると、その奥には逃げているであろう仲間、ウーロンの姿と……

「あれは……!」
『ヒィーハハハハ!!逃げろ!逃げ惑った果てに死ね!!』
「うわあああ!くそ、意地でも逃げてやる!」

 トランクスの姿をした悪霊クレイヴ、改め「クレイクス」と形容すべきそれ。奴はゐあっ持って逃げ惑うウーロンを追い回していた。

「おいウーロン!こっちだ!」
「ん!?この声は!今そっちに行く!待ってろ!」

 さっきまで逃げ惑っていたウーロンは荒野の奥から聞こえてくる声を聞いて、一度奥へと走り切る。
 奥に広がるのは広場。Uターンして此方へと戻るには十分すぎる余裕がある。

『逃がすかよ!5人まとめてぶった斬ってやるぜぇぇぇあああ!!』

 だが、ここで逃がすわけにはいかないクレイクス。
 まるで迫るボールをバットで撃ち返さんとする、野球選手のようなポーズをとり先ほど扉を破壊したソニックウェーブ付きの斬撃を放とうとする。
 しかし、急に止まったのがよくなかったようで。

「このまま吹っ飛ばしてやる!」

 ロケットの加速の勢いそのままに、クレイクスを吹き飛ばす。
 そしてさっき入ってきた扉を突き破ったウーロン。
 加速が繰り出す衝撃に巻き込まれ、一瞬だがトランクスの姿を保てなくなったクレイクスは怒る。

『ぐぐ……やりやがって、逃がすかアアアア!!』

 傷つけられたプライド。
 怒りに任せ、ウーロンを追いかけようとするも。

「させるか!」

 ウーロンが扉を吹っ飛ばしながら飛び出たのを確認した月夜は、手榴弾を投げつける。
 3秒後、爆発した手榴弾は変身途中のクレイクスを更に吹っ飛ばした。

『くそッ!あのガキ……!』

 煙の中で倒れるクレイクス。
 爆発は岩山を崩落させて押しつぶすには至らなかったものの、クレイクスに膝をつかせて彼らにある程度の距離まで逃げる時間を与えるには十分だった。

 一方そのころ。

「何なんだあいつ?」

 ロケットの姿を解除したウーロンと、複製絶望界域から戻ってきた月夜たちが合流する。
 5人は扉の外にてクレイクスの正体を共有していた。
 ウーロン、リク、ペルは知っていても、天宮兄妹はクレイヴの存在をよく知らない。

「……トラオムで戦ったクレイヴってやつだ。今は悪霊だが、例の能力も変わっていないらしい!」
「能力?」
「奴は機械であればなんにでも憑依し操作できる。単純だがその分強力だ。」
「マジかよ……!」

 メサイア教団大司教番外位、クレイヴという男に与えられた異能「機巧憑依」。
 仮にもし、巨大な電算機械の塊や戦艦にでも憑依されようものならその全てを自分の思うがままに操作できる。
 それこそ、サヘラントロプスやトゥアハー・デ・ダナンにでも憑依された日には大変なことになっていたことだろう。

「どうすれば倒せる?」
「実は……戦ってるときにある機械を奪われてあんな姿になっちまったんだ。だから機械を奴から引きはがし、本体を叩けば何とか。」

 クレイクスになる要因である、トランスボール。
 あれは今後も必要になってくる以上、破壊するわけにはいかない。
 そのトランスボールを何とかクレイクスから摘出することが出来れば……勝算はある。

「……時にウーロン。一度変身を解除したら、次変身できるまで何分かかる?」
「あー、1分あれば、何とか。」
「一分か。十分だ。」

 こうして計画を練った5人は、穴の開いた扉の前で身構える。
 今度こそ奴を葬って、完全に終わらせるために。
 吹き飛んだ扉の奥から、轟音と共に何かが迫る。

「来る!」
『ッヒヒハハハハハハハ!そこにいたかァ!鏖だァアアアアアア!!』
「そこだ!」

 飛び出たクレイクス。 
 その刹那に繰り出される斬撃を、彩香の居合切りが迎え撃つ。
 水色と黒の衝撃が、周囲に炸裂する。

『ひははは……いい装置じゃねぇか……てめぇの刀!』
『装置ではないから無理だな!そも、貴様如きに操れるほど!軟ではない!』

 クレイクスの剣戟を弾き飛ばす。
 そして、ふらついたところで彩香の四連撃が放たれる。

『肆星斬!』
「ぐっ!……くそ、見えちまった!」

 斬撃の傷痕から、うっすっらと球体のようなものが見えだす。

「見えた!あの球を剥ぎ取れば、奴の変身は解けるって解釈でいいんだな?」
「ああ!」

 クレイクスの心臓部、赤核のある心臓とは反対の位置に埋め込まれたもう一つの心臓、トランスボールが露出した。
 焦りと怒りで、クレイクスは吠え猛る。

「てめぇら……!させると思うかぁあああ!!」

17人目

「魔を穿つ少女」

「……!!」

 振り上げたクレイクスの右腕を掴み上げたのは……

「ペルちゃん!」

 魔殺少女、ペルフェクタリア。

「いい加減にしろ、お前」
「はッ……! そんな小さい身体で俺を止められるか? 舐めるなよ、ガキがァ!」

 クレイクスが振りほどこうとするも、ペルの身体はびくともしない。

「おっ……!? こいつッ……!!」
「お前のその技……『コンファイン』に類するものだな……」

 ペルは、『神子』の素養を持つ少女・平坂たりあの人格から分かたれた存在であり、
かつては「アンチェイン(解錠)」によって封印の眠りから解き放たれ、
たりあから身体の主導権を譲り受ける事で表層化し、その異能を振るう事が出来た。
或いは触媒となる古い懐中時計をコアとし、「コンファイン(憑依)」する事で
単独でペルフェクタリアとして活動する事も可能とした。
現在のように自らの肉体を得た状態になる前の事だ。

「離せっ……ての!!」
「分かった」

 そう言うと、クレイクスの顔面に強烈な蹴りをかまして吹き飛ばす。

「おぼ……ッ!!」

 もんどり打って倒れるクレイクス。

「離してやった」
「お、お前ぇぇぇぇ……! 舐めてんのか、クソがァッ……!!」

「肉体が滅びても尚、恨みつらみの一念だけでこの世に留まり続ける……か。
お前はかつての私だったのかも知れん。
何かに縋りつかなければ存在する事も出来ない、誰かに利用されるだけの、
仮り初めの命……」

「てめえに何が分かる!? この機巧憑依の力さえありゃ、俺は無敵だ! 
メサイア教団の頂点にだって立てるはずだった!!
それが何だ!? 大司教どもは大した才能も無いくせにのうのうとふんぞり返ってやがる! 許しておけるか! 俺の才能を認めない奴ら! 俺を見下す奴ら! 
どいつもこいつも死ね死ね死ね死ね、みんな死ね!!」

「私は魔殺少女……世に仇なす、「魔」を殺す者……」

 すうう……息を大きく吸うペル。

「ぶっ潰れろ、クソガキィィィィィィィィッ!!」

 怒号と共に、クレイクスの右手に周囲の機械類が集まって巨大な腕を形成する。
機械の腕は、そのままペルの華奢な身体目掛けて振り下ろされる。
だがしかし……その拳がペルの頭蓋を砕く寸前で、青白い光が迸った。

「――貫手・螺旋骨壊ッ!!」

 突き出されたペルの右手から、螺旋状に渦巻く青白い光のエネルギーが放たれ、
クレイクスの胸を穿つ。光の螺旋はクレイクスの心臓部……トランスボールを掴み、
体内から引きずり出した。

「う、が、あ、あああああああああああああああああああッ!!!!」
「や、やった……!!」

「……」

 ペルに浴びせかけられるのは、血か、オイルか……それとも別の何かか。
ともあれ、彼女の攻撃は確実にクレイクスに致命傷を負わせた。

「勝負あったな。これは返してもらう」

 ペルの手には、クレイクスが持っていたトランスボールが握られていた。

「ぐほぇあッ……かッ……!?  それは俺が……俺……の……!! 返、せ……
俺は、ま、だ……」

 だが、クレイクスの……いや、クレイヴの執念は未だ潰えてはいない……

18人目

「幻想郷事変 五の七:死闘、クレイクス!膨れ上がる憎悪の剣技!」

『返、せ…それは、俺のぉ…』
「返せも何も、これはウーロンの_」

そう言って遠ざかろうとした時だった。

「_あ、れ?」

途方も無い絶望と空虚感がペルを襲ったのは。
底冷えする様な冷気に気付いたのは。
全身に掛かるぞわりとした感触、収縮する筋肉、鳥肌。
堪らず、強い立ち眩みの様な症状が現れる。

「不味いぞ、ありゃ呪いだ!」

先程、変化越しにとは言え、直接蹴られたウーロンだから分かる。
あの呪いは、触れてはならない。
ペルと言えども、直接被ればただでは済まないのだ。
何より呪いの主が今、そこに居るのが不味かった。

『俺の物だぁーーーっ!!!』

金切り声を上げてペルに迫るクレイヴ
その憤りに呼応する様に、ペルに掛かった油…呪いが赤く脈動する。

「がっ…ぁあ!?」

瞬間、呼応する様に締め上げられる感覚がやってくる。
全身をミキサーに掛けられた様な圧迫感に、思わずペルはボールを落としてしまう。

「あぁ、不味い!?」
『はぁぁ…!!』

すかさず、クレイヴがボールを手にし、右胸に持っていく。
今度は取られまいと、呪いで出来た骨の内側へ。
そして閃光に包まれたクレイヴの姿が、再びクレイクスへと変化する。

『やってくれたなぁ…クソガキがぁーーー!!!』

そして、溢れ出る力を一瞬にして片腕に集約させ、0インチ距離のパンチを放った。

「がぁああ!?」

肉を打つ鈍い音と、轟音。
激しい衝撃波と共に吹き荒ぶ風に乗って、ペルが打ち上げられる。
山なりの軌道を描いて落下するペル、このままでは頭上から地面に落ちる…!

「あっぶねぇ!」

直前で彼女を受け止めたのは、ウーロン。
非戦闘員故に後方待機してた故に、偶然にも射線上に居たのだ。

「ぶべっ。」

衝撃を横に逃がす様に体当たりめいて衝突、不格好ながらもクッション代わりとなる。
そのまま地面へ落着。
ペルは無事だった。

「いてて…」
「っ済まない!」
「あー、良いって事よ。こんくれぇの役目は果たさせてくれ。」

代わりにコンクリートの床で肌を擦り、あちこちから血を流すウーロン。
だがそんな傷も、敢えて気にしない素振りを見せた。

「見て、空が!?」
『…あぁ?』

丁度その時だった、偽トラオムの一角から光が立ち昇ったのは。
光の柱は空に穴を穿つと、そこから偽トラオムの空が黒く染めだす。
同時に、段々と淡い光が辺りを包んでいく。
偽トラオム終局の時が、迫っていた。

『はぁ…ここまで手こずらせやがってよぉ…!』

その光景を見て、わなわなと声を震わせながらクレイクスが言う。

『テメェ等全員袈裟斬りだ、苦しんで死ねっ!』

怒りに駆られたクレイクスが、再び剣を振るわんと迫り来る。
先程よりも身体が馴染んでいるのか、その初速さえ捉えきれない。
このままでは全員が、剣の錆か。

「させ、ない…っ!」
『邪魔だ、小娘ぇ!!!』

割って入ったのは、雨宮彩香だ。
彼女は先程の剣戟を跳ね飛ばした。適任の筈だった。

「っ強い!?さっきまでと比べ物に…!?」
『オラオラオラオラァ!!!』

クレイクスの剣技が、次第に速度を上げていく。
最早黒い剣の切っ先は見えず、白い波紋…ソニックブームだけが見えるばかりだ。
絶え間なく鳴り響く金属音の間隔が狭まって、一つの長音を成していく。
目にも止まらぬ剣戟が、先程と打って変わって彩香を追い詰める。
そうして偽トラオムが崩壊すると同時、辺りが閃光に包まれた瞬間だった。

『オッラァ!!!』
「っきゃあ!?」

コンマ0.0001秒、或いはそれ未満の駆け引きの末。
彩香が、無現に等しい剣撃を前に押し負ける。
同時に何十打もされたかの如き衝撃を受け、踏ん張りも虚しく後退させられたのだ。
10mは一気に下がっただろうか、仲間のところまで押し戻された。

『コイツはどうだぁ!?』
「っ伏せろ、ヤベェ斬撃が来るぞ!」
『ッラァ!!!!』
_ザンッ!

警告と同時に飛ぶ、横薙ぎのモノクロの斬撃。
否、ソニックブームを起こしながら迫る斬撃状の呪いだ。
飛ばされた斬撃がソニックブームを起こす…白くなった空気の波紋を纏うという事は、斬撃の出の時点で音速を優に超えている事の証左。
それだけで、凄まじい威力を秘めている事は明らかだ。
厄介な事に、この斬撃には呪油が乗っている。即ち、下手に受ければ飛び散った呪油で呪われるという事になる。
そうなれば、致命傷になりかねない。

「ぐうっ!」

悲鳴に近い叫び。
彩香が剣で受け止めるも、クレイクスの斬撃が力で勝り押されている。
アマツミカボシの力を以てして尚も拮抗する、最早出鱈目な威力を持った斬撃。
だが力を継続して入れられる彩香の側に軍配が上がった様で、斬撃は明後日の方向へと飛んで行く。
それを横目に見て、改めて構え直す彩香。
だが。

「…奴はどこに!?」

閃光が止んでから、クレイクスの姿が見当たらない。
つい一瞬まで斬撃を放つ為に存在した場所には、深々と足跡が残るのみ。
逃げたか?そんな予感を持った時、不意に影が差す。

「っ上か!」
『遅ぇ!!』

何たる早業か。
あの一瞬の閃光の内に、頭上を取っていたという。
次いで打ち込まれる真っ向唐竹割りを受け、その衝撃が彩香の足を伝いクレーターを生み出す。
落下と音速を超える剣技、両者の合わさった一撃の威力は、彩香の全身に痺れの様な物を走らせた。

19人目

「廃棄孔第3層:偽・トラオム 11_焔に焼かれて」

 悪霊の油を受け、悶える彩香。
 その様子を見て兇笑を浮かべるクレイクス。

『ひゃははははは!!無様だなぁ!ざまぁみやがれぇ!』
「ぐぅ…こいつ……!」
『さっきはよくもやってくれたな……このまま真っ二つにしてやらぁ……!!』

 絶体絶命。このままでは殺される。
 じりじりと嘲笑を浮かべながら膝をつく彩香に迫る。
 しかし、残された月夜とリクに焦る様子はないようで。

「リク、”アレ”はまだあるか?」
「ああ、ある。」
「なら……急げよ。」
「……分かった。」

 2人は何かを思いついたのか、クレイクスに気づかないように行動を開始した。
 対するクレイクス、全くもって気づいている様子はない。
 それこそ、敵にとどめを刺さんとする優越感に浸るあまり周囲が見えなくなるほど。
 その在り方はまさに、傲の化身というにふさわしいのであろう。ああ、だけど。

「おい。」
『なんだ負け惜しm……痛ぇ!?』

 突如、クレイクスの頬に突き刺さる痛み。
 その正体は月夜の隠し持っていたナイフによる刺突。
 しかし赤核を貫いていない、挑発まがいの攻撃。

「俺が、遠距離攻撃だけの人間だと思ってたか?」
『バァーカ。これしきの痛み、油でどうにでも……』

 クレイクスは嘲笑うかのように月夜を煽る。

「クレイクスさんよ、後ろ見てみ。あんたらの油が完治したらしいぜ。」
『……………………は?』
「油の対策なんか既にできてんだ。お前、病院で予防接種受けたことないんか?」
『何言ってやがる。』
「後ろ見てみな。さっき痛めつけようとした奴が立ってるぜ。」

 クレイクスがなめ腐った顔を浮かべながら後方を振り返る。

「零至突。」
『ぎゃあああああ!?バカな!忌油浴びて動けなかったはず!!バカな!なぜだ!!』

 至近距離の強力な斬撃を受けたクレイクス。
 岩山に顔面部位を叩きつけられ、悶える。

『まざか……チ゛クショウ゛!時間稼ぎか!でめ゛ぇら呪い治じやがっだな!!』
「こっちには仲間がいるんだ。残念だがお前の思い通りにはならない!」

 彩香に続いてペルも立ち上がる。
 リクが隠し持っていた、廃棄孔に入る前に永琳より託された『血清』。それをペルと彩香に与え、使わせた。
 2人は何とかよろめきながらも立ち上がり、クレイクスの背後に立つ。

 「あらゆる薬を作る程度の能力」を持つ月の頭脳、八意永琳の作った薬はかなり効いたようで忌油によるダメージが完全に治った彩香とペル。
 もはや全身を襲う不快感と苦痛はない。

『……ははッ、所詮は一時の気休めだ。物理的な負傷は治ってねぇぜ?』

 だがしかし、物理的なダメージは治っていない。
 彩香が受けた足の怪我と出血は依然止まってないのだ。
 何とか立ち上がり、反撃へと転じようとするも。

「うるせぇ、こっちは5対1だ。お前に勝ち目はない。悪いが袋たたきになってもらう。」
『!?』



「あんまり動くなよ、気づかれたら終わりだからな。」
「分かってるって、そっちこそ乱暴に……!」

 その間、小型カタパルトに変身したウーロンがリクを空中に射出しようとしていた。
 小さいながらも、人間一人を目的地まで飛ばすには十分すぎる性能だ。

「舌噛むなよ!射出!!」

 空中目がけてリクを射出した。
 リクはキーブレードを構え、クレイクスに確実なる大ダメージを与えんとする。



 そして、今。

『空中……だと!?』
「遅い!ファイガ!!」
『なっ!うぐ、ぐああああああああああ!!!』

 墜落する隕石が如く迫りながら、至近距離で放たれる炎属性魔法。
 あまりの熱量と威力に焼け焦げながら悶え苦しむ。
 その時だ。

「ぐぁ!」
「なんだ!?」
『眩い!時間切れか!!』

 その刹那、5人と1体はトラオム消滅の光に飲まれた。
 結界が崩れ、彼らが行きつく先は。



 気が付くと、元の廃棄孔へと戻っていた。
 どうやら、偽・トラオムの結界は消滅したようだ。
 だが、戦況は変わらない。

 依然5対1の状況は変わらないばかりか、度重なるダメージのせいかトランスボールのエネルギーが切れ、遂には自分からトランスボールを吐き出してしまった。
 絶体絶命で愉悦に走っていたクレイクス、否、クレイヴ。
 今度は此方が痛めつけられる番だと知り、恐怖と悪寒が走る。

『ひぃ!』
「何ビビってやがる。お前をぶっ消せばそれで終わりだ。」
『……クソッタレ!覚えてやがれやァ!!』

 捨て台詞を吐き捨て、その場から逃げようとする悪霊クレイヴ。
 今ここから逃げれば、焔坂たちと合流できる可能性もあるだろう。
 そうなれば彼らを返り討ちにだってできる。

 と思った、次の瞬間だった。

『次こそ、次ごぞば「いや、死ぬのは貴様じゃ。クレイヴ。」……なッ!?』

 その理想は打ち砕かれる。
 彼の前に、焔が立つ。
 その焔は彼の赤核を槍が如き炎で貫き、ドス黒い身体を悉く焼き払った。

『ああああああああ熱いいいいいいいいいいい!!!』

 赤黒い炎に包まれ、燃え苦しみながら怨嗟の叫びをあげるクレイヴ。

『焔坂ァ!!てめぇ何考えてやがるぁああ!!』
「油断に次ぐ油断で勝機を逃すとは、実に滑稽な男だ。彼らも葬れぬなら大人しく塵芥になっていろ。」

「てめぇ……そいつは腐っても仲間だろ。焔坂。」
「仲間?死人を仲間だとでもいうのか?いとおしいほど愚かしい男だ。天宮月夜よ。」

20人目

「M・U・S・C・L・E・Will Power」

 混沌極まる廃棄孔の戦い……一方で、幻想郷の悪霊迎撃作戦も白熱していた。

「くっ、撃っても撃ってもキリがない!」
「怯むな! あの巨人と戦艦を信じろっ!」

 人里を侵攻する悪霊達は、次々と飛んでくる弾幕や砲弾によって追い詰められていく。
しかしそれでも持ち前の物量差を以て突破せんと試みており、
それを阻止せんと幻想郷の戦力が猛威を振るう。

「これ以上先には行かせない……俺たちがいる限りは!」

 アビダインの主翼に向かってワイヤーを射出し、
空中を飛び交って悪霊を銃撃するジョーカー。

「こちとら散々シャドウみてえなバケモンと戦ってきたんだ! 今更ビビっかよォ!! 
ペルソナァァァァァァァァッ!!」

 自身を奮い立たせるように、自らの分身「キャプテン・キッド」を召喚するスカル。

「一発痺れる奴をぶちかましてやんな、キッドォォォォォ!!」

 電撃魔法「マハジオダイン」の雷が天から降り注ぎ、悪霊を次々と焼き払っていく。

「グギャアアアアアアアアッ……」
「アギィィィィィィィィィッ……」

「景気がいいのう、スカル! 今度は私が相手じゃ!!」
「あいよォ!!」

 スカルとバトンタッチしたのは……

「かかって来んしゃい、悪霊どもォ!! 幼気な里のちびっ子諸君を苦しめる
不届きな野郎共は、このキン肉マンが相手じゃあああああいッ!!」

「キィィィッ!!」
「ガァァァッ!!」

 威勢の良いキン肉マンの名乗りを受けた悪霊達が、一斉に襲いかかる。
しかしキン肉マンは恐れる事なく構えを取り、悪霊達を迎え撃つ。

「疾きこと風の如くッ!!」
「威を示せ、ゾロッ!!」

 疾風の如きスピードで悪霊の群れを置き去りにするキン肉マン。
翻弄され、一網打尽となった悪霊達に対して、
モルガナのペルソナ「ゾロ」が疾風魔法「ジオマハダイン」による竜巻に巻き込み、
上空高くへと打ち上げた。

「徐かなること林の如くッ!!」
「叩き斬るッ!!」

 悪霊を追って飛び上がるキン肉マンとフォックス。
竜巻の檻の中で身動きの取れないままの悪霊達に、
フォックスの居合・空間殺法が炸裂し、次々と悪霊達は両断されていく。

「ゴガァァァァッ!!」

 断末魔と共に崩れ落ちる悪霊達。

「侵略すること火の如くッ!!」
「まだまだ終わんないよ! カルメンッ!!」

 フォックスの反対側からは、パンサーの燃え盛る火炎魔法。悪霊達目掛けて放たれる。

「ゲガァッ!!」

 炎に巻かれて消し炭となる悪霊。断末魔が上がり、地に落ちていく。
しかしそれでもなお、無尽蔵の物量を誇るとばかりに悪霊達は数を増して挑んでくる。

「ギィィィィィィィッ!!」

 生き残った悪霊達がひとつに結集し、巨人と化して自由落下する最中のパンサーに
襲い掛かる。

「きゃっ!?」

 思わず身を引くパンサー。

「何処へ行くッ!?」

 だが、その眼前にキン肉マンが飛び込み、悪霊の行く手を阻む。

「ギィィィィッ!!」
「動かざること……山の如しッ!!」

 がっぷり四つに組んだが最後、巧みに悪霊を折り畳むかのように各部を極め、
脱出不可能の体勢へと持っていき、

「プリンス・カメハメ直伝! 48の殺人技のひとつ! 風・林・火・山!! 
そしてぇッ!!」

 誰もが空を見上げる。そこには、悪霊を背負い、垂直に落下していくキン肉マン。
数々の名試合のフィニッシュブローを飾った伝家の宝刀……

「マジかよ……本物だ!!」
「行けえッ!!」

「キン肉ッ……バスタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 そのまま悪霊を地面に叩き付けるキン肉マン。
幻想郷の大地が、巨大隕石の激突で生じたクレーターめいて陥没し、
その衝撃で木々が倒れていく。
奇跡の逆転ファイターと心の怪盗団によるコラボレーション攻撃は見事に成功した。

「ギィィ……ッ!! アアアアッ……」

 やがて力尽き、悪霊は動きを止め、黒い霧となって消滅していく。

「キ、キン肉マン! それ……」

 悪霊に直に触れた影響で、キン肉マンの皮膚が忌油による腐食を起こし、
所々黒く染まってしまっていた。
だがそれでもなお、キン肉マンは強気な笑顔でパンサーに応えた。

「むう? ガハハ、私は大丈夫じゃい! さぁて……どんどんいくぞぉ!!」
「す、すげぇぞアイツ!」
「なんて強さだ……!」

 次々に悪霊を屠っていく超人達の一騎当千の奮闘ぶりに、人里の民は湧く。
ヒーローとは、人々の心に希望をもたらすもの。
絶望と隣り合わせだった人々の心が、ヒーロー達の登場によって僅かに……
光を見出していった。

「残念だったな、悪霊ども」
「俺たちはこれまで、ありとあらゆる苦闘と痛みを味わってきた」
「お前たちの物量でどうにかなるほど、甘くはないさ」

 キン肉マンを中心として集う、正義超人軍団。全員、一様に傷だらけ……
それでも、闘志はまったく衰えを見せていない。寧ろさらに燃え上がっているほどだ。

「1000本の傷を力に変える、1000万パワーのバッファローマン様にとっちゃ、
寧ろ心地いいくらいだぜ」

 正義超人だけではない。悪魔超人へと返り咲いたバッファローマンも、
悪霊軍団を相手に獅子奮迅……もとい、荒れ狂う猛牛の如き活躍を見せていた。
傷は増えども、それすらも力に変えて突き進むその姿はまさに、
悪霊達にとっては理解不能な領域であった。

 人の悪意から生み出されたのが、悪霊なれば。
人間に、恐怖と絶望を。破壊と殺戮を。我々はそのように造られた。
我々は「狩る側」であったはずだ。一方的に蹂躙していれば良かったはずだ。
それが……

「人間の『心』を、甘く見たな」

 ジョーカーが銃爪を引き、悪霊の赤核を撃ち抜く。

「ギッ……」
「お前たちのような化け物に、僕たちが大人しくやられるだけだと思ったのかい?」

 サーベルの切っ先を向ける、クロウ。仮面の下には、侮蔑と冷徹を湛えた瞳……

「ルール無用の悪霊共!! お遊びはこれまでだ……私達がいる限り、この世界を
メサイア教団の好きにはさせん!! 行くぞ、みんなァ!!」
「おう!!」

21人目

「幻想郷事変 五の八:尚も燻り、そして弾けた」

悲鳴と絶叫の混じった嗚咽が響く。

『死ヌ”ノカ、俺ハ…!?コノママ、何モ”成セ”ズニ”ィ”!』

燃え盛る紅蓮の中で、悪霊クレイヴは悶え苦しむ。
赤核を貫かれた以上、長くはない。
即死こそは免れたものの、ソレが余計に死の苦しみと恐怖を増長させていた。

『嫌ダッ!マダ俺ハ、奴等ニ”復”讐”出来テイナイィ!』

その苦痛さえ、自らの怨嗟へと変える妄執。
負の側面を強調して切り出された悪霊クレイブの本質なのだろう。
一度は届きかけた宿命が潰えるのを、彼は認められなかった。
己の器を超えているであろう命題であろうに、それでも彼は尚も求めたのだ。

『次サエ、次ガアレバ……』

内から零れる赤核を搔き集め、次を、次をと強請る姿は哀れで滑稽だ。
同時に悪い意味で人間らしいとも言えるだろう。
今、この場で最も人間らしく藻掻いているのは、何たる皮肉か悪霊たるクレイヴだった。
彼は思い出す、生前の最後を。
意識をバラバラにされ、最後の抵抗も虚しくタコ殴りにされ爆破された瞬間。
己の、最も恨み募った瞬間。
心の奥底で、想いが燻る。

(アァ、こんな苦しみ、何で抱えてんだ俺は?)

苦しい、辛い、耐え難い。
ソレは何時もそうだった。
大司教の一角になる事も叶わない、番外位という烙印。
無様で惨めな最期をした、負け犬の人生。
屈辱は、クレイヴの人生に立て掛けられた看板だ。
それは惨めで、救いようが無い。

(捨てちまいてぇ…)

耐え難いから、捨てたい。
苦痛に支配された思考を過ぎる、退廃した考え。
下へ下へ、楽な方へ、腐る。

(投げ出しても、もしかしたら次があるかもしれねぇのに…)

今までは、生前は生きていた。
生きてさえいれば、機会は腐るほど訪れた。
生きてさえいれば、次に展望を見出していれた。

(けど、無かったら…?)

けれど、今は?
悪霊という、正真正銘最後の姿。
この次というもの事態に、展望が無い。

(次、次…俺は、何度それを求め不意にしてきた?)

次の機会に展望を求めたのは事実だ。
その願いすら、何度諦めてしまったかわからない。
一度でも次というものを追い求めていれば、その次も…と考えてしまうものだ。

(そうか…コレが結局、楽に流れるって事か。)

クレイヴの性根は俗人だ。
何時ぞやのキング・Qの様に、たとえ仮初でも偶像めいて気取れたりは出来ない。
口から出る言の葉一つ一つが凡夫で、その上腐っている。
痛いのも、辛いのも、苦しいのも嫌なのだ。
心の底ではソレを肯定しているが為に、苦痛を快楽にする事もなく。
逆説的に、生きていた日々は最も人間らしい思考回路。
そんな惨めな彼が出した答え_

(また、逃げるのか?)

ふと湧きあがった自問。
追いすがる疑問。
されど答えは無い。
クレイヴには自分の行く先がもう何も見えず……だがそれを逃避と罵るなら、何と立派な罵声か。

(また逃げんのかよ。ソレでもいいのか?)

反響する自分というマリオネットへの罵倒。

(堕落したくねぇんだろ?今まで通りが嫌なんじゃねぇのかよ!?)

ドクン、と全身が脈動する。

(何で俺は、こんな…)

痛みへの忌避なのか、それとも諦観なのか、クレイヴ自身にもわからない。
分からないままで思考を止めていたのは何故か?
それはきっと_

(諦めるのが、どっかで辛かったから。)

カチリ、と歯車がかみ合う様にその言葉がハマる。
勝利への渇望が、胸の内を焦がす。

(だから苦しくて、耐え難かったんだろうなぁ…)

あぁそうだ、きっとそうなんだ。
そう決めつけると、不思議とすんなり飲み込めてしまう。
何時も欲しがっていた癖に、こんな時だけするりと出てこなかったのが不思議なくらいだ。
口では粋がっていても心の何処かで諦めていたのだろう。
だから、赤核を貫かれた程度の事で取り乱す。
いや、何かと口実を付けて諦める事が癖になっていたのだろう。

(でも俺は、まだ。)

多分、自分は助からないのだろうとクレイヴは理解していた。
最後の望みさえ叶わずに死ぬ。

(なぁ、おい…そんなの、悔しいだろ?)

悔しい。
その一言が、彼の魂に火を付けた。

『_。』
「む?」

焔坂は2つ、ミスを犯した。
悪霊を、自らを材料として作り上げた事。
そして、その悪霊に自らの焔を与えた事。

『_ォオオ…』
「…何じゃ?奴は、何が起きている?」

悪霊は学習し、進化する。
何処までも、そして何からでも。
クレイヴの『機巧憑依』は進化する_!

『ォオオオオオ”オ”オ”!!!』
「なっ…!」

瞬間、雷鳴が轟いた。
今までに無い程の眩い輝きを放ち、稲妻が周囲を駆ける。
空気を、地面を裂いて、そして自分に手を掛けた焔坂すら巻き込んだ一撃だ。

「がっ…あ”ぁ”ぁ”!!?」

全身を焦がす電流に、焔坂が思わず悶える。
焔の熱とは全く違う未知の熱に、全身が焦がされ痺れる。
裂傷の如き焦傷が、全身を伝う様に現れる。
ピューパの電撃を幾重にも強化した、まさしく雷撃だった。

「貴、様…!貴様如き、俗物がぁ…童に楯突くと!?」

全身麻痺の中で尚も憤る焔坂を余所に、クレイヴは己を顧みる。
赤白く燃え盛る全身は、普通の悪霊のそれとは一線を画している。
呪いの代わりに怒りを燃やす様は、さながら『燃える男』だ。
一体どのような学習が働いたかは定かではない。
だが不思議と分かる、これはいわば死に際に放つ輝き、火事場のクソ力なのだと。
コレが成されたからといって、助かるとは思えない。
だがソレでも、一矢報いるには十分過ぎる一撃だった。

(必ず死ぬ…か、だがな…)

ヒューヒューと音を出す己の呼吸を聞きつつ、クレイヴは咆える。

『ア”ァ”そうだ、この機会そ”の”も”の”が既に奇跡なんだっ…!次なんて考えやがった俺が馬鹿だったっ!!』

脈動する全身から、螺旋を撒いて巨体が生まれる。
それは最初に見せたピューパを一回り小さくした姿。
それを、パワードスーツめいて背中に背負う。

『ここはくたばっとくだと!?冗談じゃねぇ!!!』

彼の眼と体は、メルトダウン寸前の原子炉めいて燃え上がっていた。

『これが正真正銘、最後の戦いだ!焔坂、テメェにだって手出しはさせねぇ!!!』

両腕に付けたピューパのキャタピラが、彼の叫びに呼応して唸った。
空気を裂くモーターの唸り、エンジンの鼓動。
その全てが、彼の最後を彩っていた。

22人目

「廃棄孔幕間:ベルセルク・オブ・フレイム」

『はぁ……はぁ……いい気分だぜオイッ!!』

 悪霊、否、灼熱霊クレイヴと化した存在が6人の前に立つ。
 すさまじいまでの電撃と暴炎を纏い、今、彼は敵味方問わず殲滅する怒涛と化した。

「ち、近づけない!」
「なんて電撃だ……!!」

 全てを焼き尽くさんとする熱量、100億Wを超越しているだろう電撃。
 まさに最終最期の大暴走(ランページ)。

『しかし!どうもこの熱に身体も赤核も持つとは思えねぇ。持って3分ってところか……だが都合良すぎだぜ!!』
「まさか……!?」
『賢明な奴だな弩弓使い!そうさァ!てめぇら全員廃棄孔もろともぶっ飛ばして死に花咲かせてやらぁ!!』

 咆哮を上げながら熱を放射するクレイヴ。
 いくら強烈無比な力を纏っているからと言ってその体はもう持たない。
 むしろ悪霊の躯体が、クレイヴの才能とそれが齎す力によって傷ついている。そんなことは本人こそがよく分かっている。
 故にこそ、彼はここで全てを吹き飛ばして死ぬつもりだ。

 そんなことを看過できないのは、圧倒的暴威を前に身震いするしかない5人……。否、それ以上に焔坂こそがこの暴威を許せなかった。
 炎の槍を強く握りしめ、灼熱霊の前に立つ。

「貴様のような俗物如きが!童の想いを燃やすつもりか!!」
『何が想いだこのB級鬼種がッ!こいつらを殺すのは俺だ!手出しするってなら貴様から潰すぞ!』
「なんじゃとこの……!」

 焔坂は、炎の槍を薙刀に変形させてクレイヴに切りかかる。
 クレイヴは薙刀の刃をキャタピラの腕で防御する。

「この5人。特に天宮月夜だけは童の獲物じゃ。貴様のような俗物には殺させん。」
『きっしょ。じゃあ予定変更だ。てめぇから殺す。』

 傲岸不遜、残虐傲慢。
 そんな言葉が似合う男とは思えない冷酷なセリフを吐き、焔坂に叛逆を開始した。

「!」

 かくて2つの焔はお互いに衝突する。
 暴威と暴威、炎と炎。
 もはや周りに目もくれることなく、破壊の風となってぶつかり合った。

「くそ、今のうちにやるしか……!」

 2人がぶつかり合っている。
 その隙を狙わんと月夜がボウガンを構える。
 しかし。ぎろり、と炎走った目で己が赤核を撃ち抜かんとする月夜を睨んだ。

『させっかよ!ここでおっ死にやがれやァアアア!!』

 そして、月夜の顔面目がけて渾身のキャタピラパンチが炸裂する。
 その攻撃こそは回避したものの、キャタピラの一撃と電撃と熱が入り混じった一撃はすさまじく、その余波だけでも月夜にダメージを与えるには十分すぎた。

「い……がはっ……!」
「兄さん!?」
(こいつ!本気で自分の命ごと俺たちを!!)
『はっ、余計なことするからだ!ざまぁみやがれ……!!』

 あまりの暴威に倒れる月夜。
 クレイヴはそんなこと気にも留めず、空を裂くほどの力をさらに高め放つ。
 放たれた電撃と炎は混ざりあって爆風と化し、足場も硝子の階段も破壊してゆく。

「ぐ……このままでは落ちる!!」

 そうこうしているうちに足場は崩れ始め、下の階層に避難する事はクレイヴと焔坂をどうにかしないい限り出来なくなってしまった。

『さて、このボンクラ共は後でぶっ飛ばすとして……覚悟はいいか焔坂ァ!!』
「まだやるか小童!!」

 再びぶつかり合う両者。
 さらに足場を破壊しながら暴れ狂う。
 猛る炎と炎がぶつかり合うさまは、まるで神話の戦いようだ。

『どこまでぶっ飛ぶかは知らねぇが……てめぇらだけは殺す!それが俺の復讐だァアアア!』
「させると思うか!!『沙螺万ノ焔鎖』!」

 焔坂の空中から、無数の炎の鎖が生成され放たれる。
 鎖の先端は針のようにとがっており、それらはクレイヴの肉体を突き刺さんと蛇のように迫ってきた。

『温い鎖だなァ!!』

 クレイヴは炎を纏う薙刀で切り裂かんとする焔坂に、ホバークラフトをブースター代わりにしタックルをぶちかました。
 鎖も数本は吹き飛んで行く。しかし残った鎖はクレイヴの身体を突き刺し、内部から焼き始めた。

「こうすれば貴様は動けまい!その焔も最期に頂くぞ!」
『いや!一緒に地獄に落ちてもらうぜ焔坂ァアアアアア!!』

 ブースターと化したホバークラフトを最大まで点火し、そのまま真下まで直滑降していく。

「死ぬ気か、クレイヴ――――!」

 空中で揉みあいになりながら奈落の底へと落ちてゆくクレイヴと焔坂。
 それはまるで天から降り注ぐ巨大隕石が如く、燃えながら堕ちていった。



 残された5人は、崩れ始めた偽・トラオム跡の足場から何とか下にある足場まで移動しようとする。
 しかし、崩落の速度はかなり早く、このままでは全員死ぬのは火を見るよりも明らかだ。

「おい、お前らはいいのか!?」
「大丈夫だ、この下にまだ足場がある。そっちは安定している。お前らはゼクシオンの下に向かえ!私らとは後で落ち合う。それでいいな?」

 気絶した月夜を抱えるリクと彩香は、バネに変身したウーロンの前に立っている。
 その後方では、ペルがバネを引っ張って3人を射出しようとしていた。

「でも……!」
『主よ落ち着け!さっきから妙に魔力の流れが激しくなっている。怪物の目覚めもそろそろというところだろう。』
「振動も激しくなっている、もう時間がない!今は『廃棄孔の怪物』を止めることに集中しろ!私はそう簡単には死なない!」

 ペルとアマツミカボシの言っていることも最もだ。
 廃棄孔突入前の段階で『怪物』の覚醒が近いという震えがあったが、それがだんだんと強くなっている。
 こうなってしまえば一階層ずつ結界を攻略する時間がない。直接ゼクシオンを叩くしかないのだ。

「……分かった!死ぬなよ2人とも!!」

 そうして、バネに変身したウーロンによって射出されたリク、彩香、月夜はそのまま下にあるエリアまで落ち、残されたペルとウーロンはその真下にある安定している足場まで何とか避難した。

23人目

「憎悪の冥鎧士VS仮面の貴公子」

 正義超人軍団と心の怪盗団の快進撃によって、人間の里に殺到する悪霊達の侵攻は
拮抗状態にあった。

「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ……」

 その時、人里から離れた小高い山の中腹から凄まじい絶叫が響き渡る。

「むうっ……!? 何だ……」
「気をつけろ、今までの悪霊とは一味違うぞ!」

 正義超人達が警戒しながら、声の主である者へと視線を向ける。
憎悪の冥鎧士。堅牢な鎧に身を包んだ巨漢型の悪霊。

「グフッ……ガハアッ……!」

 鎧の隙間から怨霊の瘴気が漏れ出ている。

「オオオオオオオオオッ!!」

 冥鎧士は、里を守護する戦士たちを目掛けて、勢い良く突進してきた。

「ウオオオッ!!」
「何と言う剛力……あれではまるで……
バッファローマンのハリケーンミキサーのようではないか!?」

 テリーマンは驚愕の声を上げていた。その間にも、冥鎧士は加速度を増して
向かってくる。

「む、いかん!! 奴め、里の住人の家までも構わず破壊する気だ!」
「そんな事はさせん!! ハアッ!!」

 冥鎧士の背後を取ったウォーズマンが、両足を挟み込みながら
さらにその両腕をチキンウィングで締め上げた。

「パロ・スペシャルッ!! どうだーッ!!」
「よし、よくやったぞウォーズマン! 完璧に極まっている!!」

「……!! ………!!!」

 ウォーズマンのフィニッシュホールド、『パロ・スペシャル』の直撃に
冥鎧士は身悶える。だが……

「むううッ……!?」

 憎悪の冥鎧士は異常なまでの怪力で、ウォーズマンのパロ・スペシャルから
無理矢理に脱出しようとしている。

「な、何と言う馬鹿力なのだッ……い、いかん、技が解けてしまう……!!」
「ガアアッ!!」
「グワアアアッ!!」

 そしてとうとう、ウォーズマンのパロ・スペシャルを強引に引き剥がしてしまった。

「ウウッ……!?」

 技を解かれたウォーズマンはバランスを崩して地面に転がってしまう。

「ああっ! 危ないッ!!」

 足を振り上げ、ウォーズマンを踏みつけようとする冥鎧士。

「グワアッ!!」
「ぬうっ……!!」

「させんッ!! ゴエモンッ!!」

 フォックスがペルソナ「ゴエモン」を呼び出し、氷結魔法「フブダイン」で
冥鎧士を足元から凍らせる。

「グワアアッ……!」
「氷結した敵は砕いてしまえば大ダメージよ!!」

「あいよ、任せな! ベルリンの赤い雨ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「猛虎拳嵐ーーーーーーーーッ!! うぇあたァーーーーーーーーーーーーッ!!」

 クィーンのアドバイスを合図に、ブロッケンJr.とラーメンマンが左右両サイドからの
必殺チョップを交互に浴びせる。

「グオオッ……!!」

 両サイドからの合体攻撃を喰らい、冥鎧士を氷の塊ごと粉砕。

「ガァッ……!?」
「やったか!?」

 ブロッケンJr.は砕けた氷の塊に視線を向ける。

「……いや、まだだ」

 フォックスが険しい表情で言った。

「……ウウッ……」

 バラバラになった冥鎧士の身体の各パーツが、周囲の悪霊たちを取り込み、
結合していく。

「ゲェーーーーーッ!! 再生しおったーーーーーッ!!」
「オオオオオオオオオオッ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ……」

 天を劈く雄叫びが、至近距離にいたラーメンマンやブロッケンを容赦なく襲う。

「グオオッ!! ぬぅーーーーっ……!!」

 ブロッケンは、頭部を両腕でガードし、必死に堪える。

「……ムウッ……!」
 
 ラーメンマンも咄嗟に距離を取って、ダメージを最小限に抑えた。

「オ、オラのアパッチのおたけびみてえズラ……!!」

 ジェロニモが驚愕の表情を浮かべる。

「さっきのハリケーンミキサーめいた体当たりと言い、今の雄叫びと言い……
こいつもしや、我々の技を真似ているのか!?」
「グフフフ……」

 テリーマンの推察は当たっていた。
憎悪の冥鎧士は、この空間で対峙した超人達の技を学習し、模倣できるのだ。

「つまりは、さっきは俺たちの戦いぶりを高みの見物しやがってたってワケか……! 
ふざけた野郎だぜ!」
「フッ……私と同じく鎧に身を包む悪霊とは……な。面白い!」

 怒るブロッケンを尻目にずい、と前に出るのは、「仮面の貴公子」ロビンマスク。

「正義超人の誇りに賭けて……この私が相手になろう!!」

24人目

「phantasm ataraxia 6_超抜悪霊、顕現す」

 ロビンマスクが超抜悪霊の一体「憎悪の冥鎧士」と戦闘を行っている間も、各地には超抜悪霊が出現していた。
 出現した悪霊は冥鎧士を含めて4種。その全てが特異性を持った強敵だ。

 妖怪の山

 外めがけて進軍する無数にも等しいの悪霊。そのうちの1体が殻を突き破りながら超抜化した。
 その肉体が、通常の悪霊よりもさらに瘦せ身になっているのに加え、右腕が複数本の弦を持った弓のように発達している。まるで円卓の騎士トリスタンが持つという弓「フェイルノート」を右腕に取り込み携えているようだ。

 特徴的な、右腕の弦を悪霊が掻き鳴らす度に周囲に黒い斬撃波が放たれる。
 それは周囲の悪霊もろとも無慈悲に引き裂いてゆく。

 名を「斬烈の獄詩人」この世全てを地獄へといざなう悪魔の吟遊詩人。
 今、妖怪の山を切り裂き先へ至らんとする。

 魔法の森

 ここでも、悪霊の変化が始まった。
 進軍する悪霊のうちの2体が変化、共命した悪霊「殲滅の錆鎗兵」。
 禍々しくも美しい、異形の槍を携えた黒い骸骨(スケルトン)。
 両者共に姿形の差異はなく、連携の取れた行動で周囲の妖精妖怪を殲滅してゆく。

 槍は伸縮自在で、そこに立っているだけでも殲滅が可能な代物となっている。
 片や槍を伸ばして屈強な妖怪の身体を貫き、片や槍を肥大化して妖精の群れを虫けらが如く叩き潰してゆく。
 そうして、同胞たる悪霊数百体と共に魔法の森を黒々と染め上げてゆく。

「魔理沙、新手よ。」
「ああ、見えているぜ。あの槍持ち骸骨(スケルトン)だろ?」

 森の奥地で待ち構えているアリスと魔理沙。
 両者に疲労は見えつつも、逃げるわけにはいかない。
 互いに武器を構え、展開していった。

 紅魔館周辺

 悪霊の先行部隊、とでもいうべき黒い絨毯。
 紅魔館に到達したカレらのうち、先頭を駆ける1体が「暗黒の悪剣使」へと変貌する。
 周囲の悪霊を喰らいに食らい、その身を肥大化させていく。

 腕に持つ剣は次第に片手では持ちきれないほど巨大な鉈と化し、その身は悪霊を取り込み続けたことでトラオムのそれよりもさらに巨大化した。
 その体躯だけでも、紅魔館の大きさにも比肩するほどに。

「あーあー。あそこまで大きくなっちゃって。庭の花を踏み荒らすつもりかしら。」

 そんな様子を忌々し気に、紅魔館の主だけは屋根から見据えていた。

「ところで咲夜。例の『指輪』は彼に?」
「ええ。既にナポレオンに貸与しました。」
「ならいいわ。今はあの怪物を倒しましょう。」

 紅魔館の主、レミリア。
 その手に真紅の槍を携えて今、悪剣使討伐に挑戦する。



 ――――幻想郷を守る物語もいよいよ佳境に突入する。
 それを告げるかのように、終幕と殺戮の始まりを告げる声が、破滅的終焉を告げる叫びが、幻想郷に響き始めていた。

「なぁ、何なんだこの声は?」
「またかよ!?これで何回目だ!?」

 精神の戸棚を崩されるような声。
 聞いていると心が嫌でも折れてしまいそうな音律。

「あれが紫の奴が言ってた『廃棄孔の怪物』の声か。絶望的に厭な気分になるぜ……。」
「既に目覚めてしまったか……!?」

 幻想郷にいる誰もかれもが、怪物の覚醒を予感し絶望しかかっていた。
 悪霊を倒していたスネークもまた、怪物の鳴らす声に顔を引きつらせながら次の一手の開示をする。

「いや、諦めるな!俺達には……最終兵器がある。」

 ――――目覚めつつある『廃棄孔の怪物』、完全覚醒まで残り数十分。

25人目

「ウルトラマンVS悪霊」

「デュア!」
ウルトラマンZが怪獣型悪霊もとい壊轟の絶魔獣と戦っている隣でウルトラマントリガーは別の壊轟の絶魔獣と戦っていた。
(なんて硬いんだ……だったらこれだ!)
《Ultraman Trigger Power type!》
ケンゴは黒平安京の戦いでは晴明から奪い返したパワータイプのハイパーキーを取り出し起動、そして自身のGUTSスパークレンスに装填する。
『勝利を掴む、剛力の光!!ウルトラマン…トリガーッ!!!』
《Ultraman Trigger Power type!》
ケンゴの変身するウルトラマントリガーはマルチタイプから赤い姿、パワータイプへとタイプチェンジした。
「デェア!ドゥア!」
「っ!?ギャオオオン!?」
パワータイプは名前の通り力や破壊力に特化した形態、そのパワータイプになったことにより威力の増したトリガーの拳や蹴りは先程までとは異なりダメージが通るようになっていた。
『さっきと違って攻撃が効いている…!これなら…!』
トリガーはどんどんと攻撃を叩き込んでいく。
が、しかし…
「デュワっ!?」
トリガーの拳が壊轟の絶魔獣の身体を貫いた瞬間、黒い泥…いや、油が大量に溢れ出しそれがトリガーの身体にもかかってしまう。
『うぐっ…!?か、身体が苦しい…!?』
トリガーの身体に掛かった謎の油……それは忌油と呼ばれる全ての悪霊が身体に纏ってる油であり、悪霊以外の存在がこれに触れてしまうと身体にとてつもない激痛に襲われてしまう。
当然ウルトラマンも例外ではなく、これを浴びてしまったウルトラマントリガーは苦しんでしまったのだ。
「ギャオオオン!」
「デェエッ!?」
『ウワァアアアアアア!?』
壊轟の絶魔獣は忌油による苦しんでるウルトラマントリガーに容赦なく攻撃をする。
「ケンゴ!」
GUTSセレクトの面々はトリガーの援護に行こうとするものの、地上にいる悪霊達が大量の弾幕を飛ばしてくるため近寄れない。

「デュワァッ!?」
そしてその隣で別の壊轟の絶魔獣と戦っていたウルトラマンZもベータスマッシュのパワーとゼットランスアローでなんとかダメージを与えていってるものの、忌油による苦しみに襲われ苦戦していた。
「う、ウルトラ苦しいぜハルキ……」
『確かにそうですねZさん……けど、ダメージは確実に与えてます。ちょっとキツいですけどもう少し頑張ればきっと……』
しかし…
「ギャオオオン!」
「え…?」
なんと2体の壊轟の絶魔獣の身体が再生していき、二人のウルトラマンが必死に与えたダメージは全て元通りになってしまったのである。
『えぇ!?さ、再生しちゃいましたよ!?』
「うそーん!?」
「ギャオオオン!」
2体の壊轟の絶魔獣はボロボロのZとトリガーに向けて追撃をしようとする。

……が、その時!
「っ!?」
突如としてどこから斬撃が飛んできて2体の壊轟の絶魔獣に直撃、更に続け様に飛んできた呪符が直撃し2体の壊轟の絶魔獣は怯んでしまう。
「デァッ!?」
『今の攻撃は……』

「ケンゴさーん!ハルキさーん!大丈夫ですかー!?」
『この声……もしかして!』
二人のウルトラマンが声のした方向を向くと、そこには月美の姿があった。
そう、今の斬撃や呪符は月美が放ったものなのである。
『月美ちゃん!』
「ちょっと待っててください!今薬を渡しますから!」
『薬?』
「お願い、織姫!彦星!」
月美は紅と蒼の2つの光になにか瓶のようなものを持たせると、その2つの光は二人のウルトラマンの前まで飛んできた。
そして瓶の中に入ってた薬品を二人のウルトラマンのカラータイマーにかける。
『っ!これは…』
『さっきまでの苦しみが…ない…!』
「あぁ!まるであの液体がかかる前戻ったみたいであります!」
そう、瓶の中に入ってた薬品は八意永琳が開発した忌油への特効薬であり、これを浴びたことにより二人のウルトラマンを苦しめていた忌油の効果がなくなり更に耐性も得たのである。
『これなら…まだ戦える…!』
「ケンゴさん!ハルキさん!GUTSセレクトの皆さん!悪霊はコアに当たる部分を破壊しない限りずっと再生します!コアを見つけて破壊してください!」



「皆聞いたか?」
「あぁ、もちろんだ!」
「あの怪獣型の悪霊のコアがどこにあるかを調べればいいんだろ?」
ナースデッセイ号に乗ってるGUTSセレクトの面々はすぐさま壊轟の絶魔獣の赤核がどこにあるのかを調査しだす。
「っ!見つけたぞ!」
「本当か!?」
「あぁ!あの怪獣型の悪霊の胸部から強い反応が出てる!恐らくはそこが…」
「よし、ケンゴくん、ハルキさん、聞こえるか?胸部から強い反応があった、恐らくはそこが弱点だ!」



『よし…!』
ウルトラマントリガーはサークルアームズパワークローを手に持ち、パワータイプのハイパーを装填、
《Maximum Boot Up! Power!》
そして壊轟の絶魔獣に接近する。
ウルトラマンZもゼットランスアローのレバーを1回操作するともう一体の壊轟の絶魔獣に接近する。
「ゼットランスファイヤー!!」
「デェアッ!!」
Zは炎を纏った槍を、トリガーは赤いエネルギーを纏わせた刃をそれぞれ壊轟の絶魔獣の胸部に向けて思いっきりぶっ刺すと壊轟の絶魔獣の赤核を貫き破壊した。
「「ギャオオオン!?」」
赤核を破壊され、身体を保てなくなった2体の壊轟の絶魔獣は爆散した。
『よし!』
「やったー!」
「おぉ!やったぞ!」
2体の壊轟の絶魔獣を撃破することに成功し喜ぶ一同。

……しかし
「ギャオオオン!」
「っ!?」
どこから今倒した壊轟の絶魔獣の叫び声が響き渡り、聞こえた方向を一同が向くと、
なんとそこには今倒したのとは別の壊轟の絶魔獣が先程戦ってたのの倍以上いたのだ。
「えぇ!?」
「嘘でしょ!?」
「なんでさっきよりも増えてるんだ!?」
「っ!そうか!あの怪獣型の悪霊は大量の悪霊が合体してできたもの、そして悪霊は今だに増殖だから……」
そう、追加で発生した悪霊達が合体することにより、壊轟の絶魔獣も増えるのである!
「そんな…」
更に彼らを襲うピンチはそれだけじゃなかった
「っ!」
Zとトリガー、二人のウルトラマンのカラータイマーがなり始めたのである。
それもそのはず、二人は先程まで2体の壊轟の絶魔獣と戦っていたため、ダメージが蓄積しエネルギーも消耗しているのである。
「こりゃ……ウルトラまずい……!」
「ギャオオオン!」
増え続ける壊轟の絶魔獣、迫りくる変身解除の危機、果たして彼らはこのピンチを乗り越えることができるのか…!?

26人目

「隔絶されたmasquerade」

 ロビンマスクを見つめる憎悪の冥鎧士……鉄仮面の奥底に光る赤い瞳が二ィィ……と
笑ったように見えた。

(むう、奴め……何か企んでいるな……)

 ロビンマスクはそう直感した。

「しかし、それで怯む私ではない……! いくぞッ!! とぉああーッ!!」

 気合十分に叫び、突撃するロビンマスク。

「ケケケーッ!!」
「!?」

 悪霊達が頭上からロビンマスクに襲いかかる。

「おのれ、卑怯な! 加勢するぞ、ロビンマスク!!」

 たまらずウォーズマンが駆けつけようとする。しかし、悪霊達の真の目的は……

「うっ!?」
「きゃああああッ!」

 悪霊達はロビンマスクやウォーズマンのみならず、
近くにいたクロウやヴァイオレットにまで襲い掛かった。

「クキャキャキャーッ!!」

 群れを成し、空中を飛び回る悪霊達は、4人を仲間たちから引き離す。

「こ、こいつら……!!」

 やがて悪霊達は堆積して黒く分厚い塊と化し、キン肉マンやジョーカー達との間に
壁を作る。

「ぬうっ……これでは助けに行けんぞ……!!」
「悪霊共め……小賢しい知恵をつけやがって……!!」

 学習能力を伴う、狡猾な戦術にキン肉マン達は歯嚙みする。
悪霊達は間違いなく、この空間の支配者である憎悪の冥鎧士の意思に呼応し、
より戦いやすい状況を作り出そうとしている。

「フッ……いつぞやと似たような状況に陥ってしまったようだね?」
「クロウ! ヴァイオレット!!」

 壁の向こうから聞こえるクロウの声。ジョーカーは思い返していた。
シドウ・パレスの一幕。すべての元凶・獅童正義の差し金により、
クロウ――明智吾郎はジョーカー達から孤立させられたものの、障壁の向こうで
最期まで藻掻き、足掻き、抵抗を続けた……

「そう心配するな。覚えているだろうね、ジョーカー? あの時の事を……」

『!』
『英国では、決闘を申し込む相手に手袋を投げつけると言う風習があると言う。
僕は君に、決闘を申し込む。すべての決着が着いた時……雌雄を決しよう。
この申し出、受けてくれるよね?』
『……ああ。その時が来たのなら――』

 決戦前夜。明智は蓮に決闘の誘いを持ち掛け、蓮はその申し出を受けた。
怪盗と探偵。決して交わる事のない2人だが、互いに好敵手であると認め、
決着の時までは共に生き抜くと約束した……

「先輩! 心配しないでください! 必ず……生きて戻ります!」
「ヴァイオレット……」

「また先輩と……吉祥寺とか、行きたいですから!」
「フッ……ああ、そうだな。約束する! また一緒に行こう」

 ジョーカーとヴァイオレットは互いに約束を交わし、頷き合った。

「うぉーい!! ロビ―ン! ウォーズマーン!! 大丈夫かァーッ!?」

 壁を何度も叩き、キン肉マンが叫ぶ。

「向こうに比べてこちらに向けられる声は何とも暑苦しいものだな、ウォーズマン」
「怪盗団の爽やかさを見倣って欲しいぜ。ハハハ……」

 至って冷静に、落ち着き払った様子のロビンマスクとウォーズマン。

「な、なんじゃとぉ~~~!? 人がせっかく心配して……」
「こちらは任せておけ。未来有望な少年少女を、こんなところでみすみす
やらせてなるものか!」

「そちらこそ気を抜くな。まだ戦いは終わったわけではない。悪霊の数は今この時にも
増加し続けているのだからな……!」
「しかし……これでは……」

 壁に阻まれ、中の様子が窺えずにいるキン肉マンにロビンマスクが告げる。

「案ずるな。見てみろ」
「……?」

 これ見よがしとばかりに、悪霊の壁が僅かに透過する。

「おお!?」

 壁越しに見えるは、これまた悪霊達によって作り出されたリング状の舞台。
その中心で、憎悪の冥鎧士が待ち構えている。

「リングを……用意している? 憎しみの冥鎧士め、どういうつもりだ?」

 クロウが訝しむ。

「恐らく……俺たちと戦ったからだ」
「我々超人が己の生命を賭して戦う場所……それを形にしたのだろう」

 ウォーズマンとロビンマスクが推察する。

「ここまでお膳立てされては、我々もやるしかあるまい」
「フフ……ならば行こうではないか、ロビンマスク! リングへと!!」
「ああ! 正義超人の底力を見せつけてやろうッ!! いくぞーーッ!!」

 ロビンマスクとウォーズマンが、リングに躍り出る。

「僕たちも行くぞ、ヴァイオレット」
「はい!」

 クロウとヴァイオレットも続いてリングへと駆け出した。

「フッ、『仮面の貴公子』、『ファイティング・コンピューター』と謳われるご両人と
同じリングに立つ事になるとは……光栄ですね」
「明智くん……いや、今はコードネーム・クロウと呼ぶべきか。君の素性については……
この場では敢えて問うまい。まずはこの局面を乗り切るため……共に戦おう」
「流石ですね、ロビンマスク。己のやるべき事を理解している」

「よ、よろしくお願いします、ウォーズマン、さん!」
「ああ。よろしく頼むよ、ヴァイオレットくん。だが無理はするなよ」

 仮面の貴公子、そして鋼鉄の男。
マスクマンと名高い2人の超人と共に戦う機会など滅多にない。
ヴァイオレットは高揚していた。

「う~ん、ちょっと羨ましいかも……!」
「意外とミーハーなんだよな、覇者先輩……ぶほぇあッ!?」
「覇者先輩言うな! 殴られたいの!?」
「もう殴ってんじゃねえかよ!!」

 目にも止まらぬ鉄拳でスカルの顔面を打つクィーン。
品行方正な生徒会長でありつつも、プロレスに代表される格闘技にも
密かな興味を抱く真ならずとも、憧れの正義超人と同じリングに立つと言う
シチュエーションに心躍らずにはいられないだろう。

「グフフフフフ……!」

 クロウ、ヴァイオレット、ロビンマスク、ウォーズマン、そして憎悪の冥鎧士……
仮面の下に秘められたそれぞれの思いを胸に、リング上で対峙する。
超人・ペルソナ使いvs憎悪の冥鎧士。この空前絶後のビッグファイトの行方や如何に?

27人目

「幻想郷事変 六の一:悪魔対悪霊」

触れた者を殺す悪霊の呪いをも物ともせず、奮闘する正義超人。
そして大軍を相手取って尚優勢な心の怪盗団。
彼等の目覚しい活躍は、遠方にいるある悪魔超人からも確認できた。

「向こう見ずなアイドル超人らしい戦いぶりだな。」

不遜な態度で批評するのは、黒い身体に赤い衣装、顔にぽっかりと穴の開いた悪魔超人。
即ち、ブラックホールだ。
武道と戦い果てたアシュラマンと違い、生き延びていたのだ。

「いかがいたします?今回の件、魔界とは直接関わりありませんが…」

その様子を横目で見ながら、ブラックホールが一変して丁寧な口調で隣の相手へと問い掛ける。
片膝を付きかしずく姿は、問いの相手との関係が従属である事を表している。
対して、問いの相手…悪魔将軍は、何時もとは少々異なる様相で答えた。

「確かに見過ごしても構わん。構わんのだが…」

悪魔らしからぬ、何処かバツの悪そうな目付きと声色。

「そうすれば『アイツ』が煩いだろうからな…」
「『アイツ』…ですか?」
「…気にするな。」

そう言われても、というのがブラックホールの心境だった。
『アイツ』と呼ばれる人物の名と共に出てくる悪魔将軍の憂鬱感は、予想だにしなかった。
ふぅ、と一息つき、僅かに肩を落として脱力する様を見せる程だ。
悪魔将軍の言う『アイツ』が将軍と並々ならぬ関係である事が、ブラックホールにも伺い知れた。

「何、魔界に行くついでだ。義理立て位はしてやろう。」

悪魔将軍が、鼻を鳴らして立ち上がる。
鎧めいたマスクの向こうから、決意を秘めた眼光が見えた。
その意を汲み取ったブラックホールもまた、立ち上がる。
いや、彼だけでは無い。
彼の隣にいたミラージュマンも釣られて立つ。
更に悪魔将軍の後ろに連なった5人の影もまた、同様に立ち上がる。
そう、彼等は_



妖怪の山に現出した斬烈の獄詩人。
その脅威は、文と幽香の目から見ても他の悪霊よりも明らかに一段上の存在だ。
周囲の悪霊をも諸共に斬り裂く斬撃波の威力は、幽香も舌を巻く程であった。

「私のマスタースパークに耐えた悪霊を、ああもあっさり…」

火力全振りの単純明快で、故に強いマスタースパーク。
それを防ぐ悪霊を切り捨てて尚余りある威力。
それをこうも無数に撃ち出されるのでは、手も足も出ない状態だった。

「何としてもアイツは真っ先に排除したいわね…」
「ですね、しかしこうも多いと…くっ!」

無論、ただ手をこまねいてるだけでは無い。
真っ先に脅威と判断したからには、幽香も文も最優先で狙っている。
だが、盾役という学習を遂げた悪霊の壁が、二人の凶手を阻み続けているのだ。
悪霊の壁は一向に消えない。

「じり貧ね…地道に削ってはいるけど、持久戦がお望みかしら?」
「まずいですね…あの斬撃波は私たちで防ぎきれるモノではありませんし…」

幽香と文も、じりじりと追い詰められている自覚はある。
だからこそ、最も攻撃の手を緩めない。
そんな二人の心を折らんとするかのように、斬烈の獄詩人が技を放つ。

「ウ”ア”ア”ァァァ!!!」

呪詛めいた言葉を言い放つと、横向きに空間を一閃する。
次の瞬間、そこにあった岩山がばさりと二つに分かれる。
幽香の目には、斬烈の獄詩人の弦が煌めきながら軽く振り抜かれただけに見えた。
ただそれだけで岩山を両断する切れ味を誇る斬撃波が、あらゆる角度から飛来する。

「うわわわっ!?」

文は持ち前の反射神経で以て躱し続ける。
一方の幽香は、一点集中させたマスタースパークでこれを凌ぐ。
次々と消える斬撃波、しかし尚も連続して飛来する。
これでは千日手だ。

「本っ当に、うっとおしいわね…!」

それどころか、溢れかえらん悪霊によって壁は厚くなるばかりだ。
斬烈の獄詩人は、最早姿が見えない。
こうなると億劫さが勝ってくるというものである。
何せ現時点で100万を超えてるのだから。
ならば、どうする? 幽香は思考を巡らせ。

_ザンッ!
「しまっ…!?_」

悪霊の背後という死角から、悪霊諸共殺さんと飛ばされた斬撃波。
それに気付いた時には、回避は間に合わず…

_デデデデーーーーーーーーンッ!

瞬間、爆音が轟き、大地が震えた。
ピアノとバイオリンの入り混じった、まるで運命が戸を叩くかの様な音色。
しかしそんな事がどうでも良いと思える程の、馬鹿みたいな音圧。
妖怪の山をも震撼させる音量のソレが、彼の者の斬撃波を全て打ち消した。

「随分とチンケな音を鳴らしてるようだが。」

そう悪霊に言いがかりを付けながら現れたのは、青塗りの四角いボディが特徴的な機械の様な何か。

「音楽ってのはもっとでっかくやるもんじゃねぇのか?えぇ?」

いや、この音の主を外の人間は知っている。
100万ホーンの音量で世界を震撼させるのは、誰あろうステカセキングであった。

「何よアイツ…?」
「幽香さん今なんて?」

因みに今の爆音で悪霊の大半が消し飛んでいる。
打ち消しに使うには余りにもアレな被害であった。
実際、幽香と文の耳はキーンという耳鳴りで何も聞こえない状態だ。
余りの痛感に耳を抑える始末であった。

_ア”ア”ア”ァァ!!

そんなステカセキングを悪霊が脅威と見なすのは当然の帰結。
数万の矛先が、一斉にステカセキング一人に向けられ。

「ゲヘヘ、随分と派手に鳴らしたな?」
「ケケケ!水の中にまで聞こえてきたぜ、全く。」

そんな声が響いた直後、上空から岩石が降り注ぎ、下の河童の湖から水が打ち上がった。
岩石は隕石めいて悪霊を下敷きにし粉砕、打ち上がった水はその見た目から計り知れぬ水圧で以て悪霊の赤核を串刺しにした。
一通り悪霊が殲滅された後、その下手人が上空と水中から姿を現す。

「おい、今度は俺にやらせろよ?」

悪霊を踏み抜いて空から落ちてきたのは、悪魔超人の中でも破格の体格を持つ魔雲天だ。

「ケケケ、出番なら自分でもぎ取るんだな!」

水中から身を出したのは、緑色の肌が特徴的なアトランティスだ。



魔法の森に現れた殲滅の錆鎗兵の前には、3人の悪魔超人が肩を並べて立っていた。

「へっ!俺様のバネ加減を知るのに丁度良い相手が見つかったぜ。」

それは、ブラックホールとミスターカーメン、そしてスプリングマンだった。
この幻想郷の地に、7人の悪魔超人が揃い踏みした瞬間だった。



「おい、そこの。」

ステカセキングが幽香達に声を掛ける。
しかし耳が聞こえず聞こえないので返事のしようがない。

「ちっ、ボリュームを上げ過ぎたか?」

なので、代わりに手を振って意思疎通を行う。
まず悪霊の壁を指差す。

『あれを、』

次に自身らを指す。

『俺達が、』

そして、自らの首を親指で掻っ切るジェスチャーをした!

『殺す。』

物騒だが、至極単純で分かりやすいジェスチャーに幽香達は理解を示し、頷く。
それを確認したステカセキングは、次いで幽香達を差し、その後斬烈の獄詩人を差す。

『お前達は、あの悪霊を、』

そして、またも首を掻っ切るジェスチャーをした!

『遣れ。』

28人目

「すみれの花は戦火に揺らめく」

 ――シャドウ・カタクラフト。

「幻想郷の戦火は、未だ消える事を知らない……か」

 丸喜拓人が目下に拡がる光景を見据え、独り呟く。

「結局、こんな悲しみだけが……憎しみだけが……繰り返され続ける」

 地上で繰り広げられているのであろう戦いを想いながら、苦々し気に続ける。

「終わりにしなければならない。それが、僕の役目なんだ。
君もきっと、芳澤さんと同じく『本当の幸福』と言うものに辿り着いてくれると
信じているよ。雨宮君……」

 終わりなき悪霊との戦い。それは翻せば、戦い続ける事に疲れ果てた
ジョーカーの心が折れ、丸喜のもたらす救済に手を伸ばした時、
丸喜の勝利によってすべてが決着する事を意味する。

「はああッ!」

 新体操仕込みの優雅な体捌きで、鈍重な憎悪の冥鎧士を翻弄するヴァイオレット。
巧みな空中殺法で敵の隙を作り、リボン付きのバトンを冥鎧士の右腕に絡めて、
足を止める。

「……!!」
「よし、上手いぞ!」

 ロビンマスクが攻撃の構えを取り、一気に距離を詰めようとしたその時……

(悪霊……人類の敵。先輩たちは……きっとこんな奴らにだって
決して屈したりはしないのでしょうね)

 心のどこかでジョーカーの身を案じ、迷いが生じてしまう。
ほんの一瞬の隙であった。

(そしていずれ、先輩たちと丸喜先生が雌雄を決する時が来る……そうしたら……私は……)

「何を呆けている! ヴァイオレット!」

 クロウの怒鳴り声に、はたと我に返る。

「ッ!?」

 そのわずかな間に、ヴァイオレットが捕らえたはずの冥鎧士の右腕に
巻き付いていたリボンは力ずくで引きちぎられていた。

「きゃッ!?」

 不意に行き場を失った反動によってヴァイオレットの体がよろめく。
その隙を、冥鎧士は見逃さなかった。

「我ラニ仇ナス者……許サヌッ!!」

 ドカドカと鈍い足音を立てながらヴァイオレットに突進し、右腕を高く振り上げる。

「く……!?」

 ヴァイオレットは咄嗟にその攻撃を避けようとするも間に合わず……

「させるかッ!!」

 危機一髪の瞬間、漆黒の影がヴァイオレットの前に立ち塞がり、その右腕を受け止めた。

「ウォーズマンさん!」

 ヴァイオレットの窮地を救ったのは鋼鉄の男、ウォーズマンであった。
彼は冥鎧士の腕を受け止めたまま、微動だにしない。

「今の内に体勢を立て直すんだ!」

 ヴァイオレットに短く告げると、ウォーズマンは冥鎧士を押し留める。

「ナイスアシストだ、ウォーズマン!! そぉらああああああーッ!!」

 ロビンマスクが冥鎧士目掛けて強烈なドロップキックをお見舞いする。
勢いのついた蹴りは、鈍い音を立てながら冥鎧士の胸部にめり込んだ。
そしてロビンマスクの鍛え抜かれた脚力はそのまま威力へと転化し、
冥鎧士を後方へと吹き飛ばした。

「グゥゥッ」

 ロビンマスクは超人としての力のみならず、その技術や体術も卓越している。
こと肉弾戦において比類無き強さを誇る男なのだ。
ロビンマスクがヴァイオレットを救った瞬間を目の当たりにした
キン肉マンとテリーマンは、

「ええぞぉーっ! ロビン! ウォーズマーン! どんなもんじゃーい!」
「フフ……やるじゃないか」

「……」

 しかし、ジョーカーはヴァイオレットの心の迷いを見逃さなかった。

(やはり、彼女はまだ……)
「……死にたいのか?」

 ロビンマスクやウォーズマンを他所に、クロウの無機質な言葉が
ヴァイオレットの耳に届く。

「戦いの最中に気を抜くなんて、随分と余裕だな。それともアレかな?
僕たちがここで倒れてくれた方が、君にとっては都合が良い……とか」
「そ、そんな事……!」

 ヴァイオレットがハッとしてクロウを見やると、クロウは軽蔑の眼差しを向けながら
冷ややかに続ける。

「違うと言うのか? だったら今は目の前の敵を仕留める事だけを考えていれば良い。
余計な思考など、隙を生むだけだ」
「……」

 あまりにも正論だ。正論だからこそ……ヴァイオレットには刺さり過ぎる言葉だった。

(分かっている……そんなことは分かっているけど……)

 そう叫ぶ己の声を、ヴァイオレットは必死で抑え込んでいた。

(でも、私が……「芳澤かすみ」であり続けるためには……)

「クロウの言う事は尤もだ。厳しい物言いではあるが、君の事を想っての事だろう。
今はあの悪霊戦士を撃破する事に集中するんだ」

 ロビンマスクがヴァイオレットを諭す。

「そう言うわけではありませんがね。何せ彼女は……」
「言わないで!!」

 クロウの言葉を、ヴァイオレットが遮る。

「……」

 仮面越しにも分かる、ヴァイオレットの必死の形相。

「君は……何かを悩んでいるのだな?」
「……」

 ヴァイオレットが口を噤み、俯く。ロビンマスクはそれ以上追及する事を止めた。

(この子には何か複雑な事情があるようだな……今は少しでも早く
この戦いを終わらせる事に集中しなくては)

 そんなロビンマスクの思案も束の間……
ヴァイオレットとクロウのやり取りを見ていたスカルが口を挟んだ。

「おいおい! 今そんな事やってる場合かぁ!? 野郎が起き上がってくるぜ!!」
「ヌゥゥゥゥ……」

 ロビンマスクの蹴りを喰らって倒れていた冥鎧士が、
再び上体を起こしてリング中央へと戻ってきた。

「来るぞ、ウォーズマン! お前と私で、ヴァイオレットをフォローしよう!」
「……」

 不死身の冥鎧士を前に、4人の間に漂う不協和音……
即席で結成されたチームであるが故に連携が上手く働かない。
悪霊に閉ざされた障壁によって援護も期待出来ない中、
この窮地を、如何にして乗り切るのであろうか?

29人目

【楽園をなんかよく分からないうちに追放されたのでみんなでのんびり鍋作ろっかな】

「ねえ、今から豆腐建築が出来るよ!」

「・・・は?」

何も無い原っぱから突如、簡易拠点という名の不自然に生えた豆腐なる建築が完成していた
ここは、あの戦いからなんやかんや飛ばされていた先である!

「本当に豆腐建築が出来たね」

『ええ、あっという間に・・・』


「ここ(豆腐)をキャンプ地とする!さーてゲームゲーム」

「お前、いつまでゲームしてるつもりだよ」

「うーん、世界が終わるまで?」

さっきまでゲームをしていたGVと雪は他の事をしてるようである。

「GV、SOSってこうやって書けばいいの?」

「うん、そうだよ。後はこれを見てくれる人がいればいいんだけど」

『でも何か忘れてるような・・・?』

「と、いうかなんであっしがSOSを書いているんだったかな?」

「それは君が書きたいって駄々こねてたからだよ?」

「おお、そうだった!そうだった!」

中身のない3人会話が続く・・・
そんな中、夢美だけがかれこれ16時間以上も遊び続けておりその隣にはスマホ画面が写っていてなにやら周回しているようだった。

「(な、ネットまで繋いだ!?いつの間に?)」

ゲームに使われているその電気やネットワークは一体どこからと思ったが専用の魔法導具で補っているらしく
既に彼女の理想郷(永久機関)が完成してしまったらしい

「戻ったよ」

「おかえり、GVと雪。何をしてたんだよ?」

「なにって、うーん、なんだっけ?」

「はぁ?」

中身のない話が更に続いていくも切り出したのはGVだった

「はい、イチゴミルクティーだよ」

「GV〜!圧倒的感あっち!!!」

「おい、GV コイツを甘やかすな」

「ん、私も甘やかすべき」

『待ちなさい!私も・・・!甘やかすべきじゃないかしら!』

「甘やかすって言われてもどうやって・・・」

「(面白いから傍観するか・・・)」

「(お腹空いたなぁ)」

「突然だけど、設備揃ってるみたいだから鍋をしよう」

「鍋奉行の人ですかぁーーーーーーー!!!」

「突然だね!?」

「だって、あそこに魔法のタンスがあるじゃん?あの中にはたくさんアイテムがあるからみんな適当に持ってきて」

「そのタンス、私のなんだけど!?」

「中身はどうなってるんだろう?亜空間(ワームホール)とか?」

「中身は魔法導具研究同好会にしか分からないのだよ」

「このタンスって中に入れば移動はできる?」

珍しく興味津々なご様子なGV、敵の攻撃だけしか見たことがないからだろうか

「閉じる人と開ける人が必要だから難しいかな」

「そっか・・・」

「鍋か・・・あの時は、マグマ鍋になったかと思ったらレイトウ鍋になってイナズマ鍋になったから大変だったよな」

珍しく後ろ向きな鍋修行(?)経験者 太陽は不安がっていた。
コイツらとやるとろくな事がない絶対に。

『そんなっ!?』

「先行き不安になって来たけど、大丈夫?」

「さぁ始めましょう?世界(命)を賭けた具材入れを・・・」

ドカァァァァン!!(とーとつに不自然爆発)

「そういうことに協力を惜しまないのが我々異端星人DA!」

「(異端星人とは?)」

「始まるぞ・・・」

「え!?何が!?」

「行くぞ!雪!!ユニゾンペア(ギャグ)アタックだ!!」
「夢美、俺に着いてこい!!」

2人は何故か発光し始めている、その光景はある意味異様な感覚を覚える

「そろそろ具材を投下しないと死ぬぜ!」

「これもこれも入れちゃえ〜!」

「そろそろ具材で汗を流そうね!」

「スギャース!スギャース!」

「そろそろ具材のファンクションを実行する!」

「よよいよよいよよいのよい」

「そろそろ具材の裁きを受けなさい!」

「ツッコまないからな、お前ら・・・。疫病神か・・・お前ら・・・。もう怒られちまえよ」

「(は、入る隙がなかった・・・)」

『な、なにこれ?』

「草生える‪」

『きゃぁぁぁ!?』「突然草が頭に生えた!?」

「ちなみにこの草、飛ぶよ」

「んなもん飛ばすな」

そんなこともお構い無しに雪は一心不乱に鍋を見ていたのだ。
それはもう、情熱のような多分そんな感じの鍋が出来上がると思う

「よーし、いい感じいい感じ!なにができるかな」

「待って、今何言ったの」

「相変わらず手際がいいな」

「それじゃあ」

「「「いただきます(いっただきまーす!)」」」

「「「パクッ ウワッウワッウワッウワッ(エコー)」」」

「ええ・・・」

3人がお椀によそった具材を口にした瞬間トリプルKOする光景を見たGVは鍋を見て絶句していた。
食べれるけど・・・食べれるんだけどね

この先不安しかないと思ったけどちゃんとこの人達を見てあげようと思ったGVたった



その後、鍋は爆発しながら自然消滅したという。



「そういやあの指輪なんか光ったよね」
「・・・今の光景誰もツッコミを入れないんだね」
「うーん、なんかそれ土下座しないといけない気がする」
「どういうことだ」
「どういうことだ 禁止〜!」

30人目

「Epilogue:■■■■決戦_0 覚醒、廃棄孔の怪物」

 廃棄孔 深淵

 はるか上空から、真っ逆さまに奈落の底へと落ちてゆく。
 廃棄孔の最奥、深淵溶鉱炉への激突まであと15秒。深淵最底には煮えたぎる溶鉱炉。悪霊の母胎にして生死混濁の坩堝が大口を開けて待ち構えている。
 悪霊増産の大釜だ、忌油の量も濃度も比較にならない。
 ただでさえ人間を苦痛に貶める毒が、比べ物にならない濃度と量を携えて貯まっているのだ。こんなものに落ちればクレイヴや、ウーロンたちの手によって別の足場に射出された3人は当然の事、鬼種である焔坂でさえひとたまりもないだろう。

「ぐぐがががが……流石に、痛いのう……!!」
『あの油、てめぇも落ちたら間違いなく死ぬだろうな!感覚で分かるぜ!!』
「ふ、死ぬのは貴様だけじゃ…!!」

 真下の死へと落ちてゆく。
 そんな中、焔坂は熱と電撃に焼かれながら灼熱霊クレイヴの顔を掴む。

『何のつもりだ……!!』
「童がなぜ、炎の化身と呼ばれているか思い知らせてやろうぞ!!」

 その瞬間、クレイヴの体を覆う炎と電撃が次第に弱まっていく。
 炎の力を吸収しているのだろう、その証拠に焔坂の受けたダメージが段々と治っていく。

「このまま焔を吸いつくして貴様を突き飛ばせば、童は生き延びれよう!」
『そうかよ、なら……このまま速度上げて真っ逆さまに落ちてやるぜ――――っ!!』

 クレイヴは焔坂の首を力強く絞め、脚のブースターを更に真下目がけて加速させた。
 速度は限界を超え、己の炉心はさらに燃え上がる。

 時間修正、激突まで残り5秒。

「ぐふっ、これほどの力を放つとは……!!」
『鬼らしく地獄に落ちてろ焔坂!!』
『おおおおおおおおおあああああああああああああ!!!」

 お互いの意地と意地のぶつかり合い。
 炎を吸収しながら傷を癒してゆく焔坂。対抗するように電撃と轟熱でそれ以上のダメージを与え続けるクレイヴ。
 どちらかが躊躇すれば、その瞬間に決着がつく。

 そして、激突まで残り1秒。

『限界か!だがこの勝負、俺の……勝ちだ!!』
「…………!」
『一緒に死んでもらうぜ、焔坂ァ!』

 かくて咲き誇る白い光。燃え盛る最期のひと花。
 灼熱霊は、ここに爆裂した。



 廃棄孔 第5層

 灼熱霊クレイヴの最期の爆発はすさまじく、そのはるか上空から落ちてきた3人、天宮兄妹とリクにも光が目視できるほどだった。

「……んあ?」
「気づいた、兄さん。今……」
「ああ、薄々わかる。焔坂は……くっ。」
「どうした?」

 意識を取り戻した月夜。しかしてその顔は明るくない。
 それは、仇である焔坂を葬れなかったからではない。

「いや、とてもあの爆発程度じゃ死んだとは思えねぇ。」

 炎を操る彼女。焔坂百姫は間違いなく鬼だ。人間とは肉体的硬度も魔術的硬度も、遥かに上にあたる。
 そんな彼女の事だ、爆発程度じゃ早々に死なないのは明白。

 それだけじゃない、先ほどから彼女が口々に言う意味深なセリフ。
 まるで俺の事を■しているかのような、或いはその正反対の感情も入り混じっているかのような物言い。
 いずれにせよ、彼女が真下にある死の毒沼にでも運よく落ちてくれない限り、間違いなく生きているだろう。

「……地面が見えたぞ、つかまってろ。」 
「ああ、考察は後でもできるしな。今は……。」

 リクと彩香に抱えられ、何とか地面に着地する3人。
 彼らの目の前には、一つのコンクリート製の四角い建物が建っていた。
 今まで神秘的な結界があったのに、ここだけが異様な雰囲気を醸し出しているのは。

「ここが、奴らの拠点ってことか。」
「時間がない。急ごう。」

 3人は情報室の扉を開ける。
 果たして、内部に待ち構えているのは鬼か蛇か。

「誰もいない?」
「ええ、お待ちしてましたよ3人とも。残る2名と後続部隊はまだ来ていないようですが……まぁいいでしょう。いずれにせよあなた方の敗北は決定してますので。」

 内部には既にがらんどうで、真ん中にはゼクシオンの姿が映し出された立体映像がある。
 彼は挑発的な物言いをしながら、彼らを待ち構えている。
 その奥には、既に何かを起動させたであろう装置がけたたましくアラート音を鳴らしていた。

「何?じゃあすでに廃棄孔の怪物は……!?」
「とっくの前に起動完了しましたよ。焔坂の安否はこちらでは確認できませんが、彼女がいなくても廃棄孔の怪物は動きます。ちなみに一度起動したら解除はできませんのであしからず。」
「くっ……!」
「ではこれにて。ああそうそう、廃棄孔の怪物は撃破自体は可能なのでどうぞ醜く抗ってくださいね。そして惨めったらしくくたばって下さい。」

 散々煽り立てた後、ゼクシオンを映した立体映像の電源が落ちた。
 残された3人は、突き付けられた現実に身構える。

「くそ、動き出してしまったか……!!」
「……呆けてる時間はない。上に上がるぞ。今はもう、怪物を倒すしか俺達に勝利の道はない!!」

 ついに目覚めてしまった『廃棄孔の怪物』。
 悍ましく幻想郷を揺るがす咆哮が、地の底より響き渡る。

 時は8ッ半の刻(午前3時)。
 長く続いた幻想郷の戦い、遂に最終決戦の火蓋が切って落とされた!
 果たして、彼らはこの怪物の打倒ができるのだろうか――――!?

 そして、その先に待つ景色は―――。

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   亡我幻怪決戦 開幕 ~Monster Awaken. Save the Phantasia.~

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