プライベート 私が無敵になる瞬間

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1人目

 鞄の底に眠っていた飴を、ガリ、と噛み砕いた。飴の破片が奥歯に張り付くし、欠片が舌先を切るし、この食べ方はあまり好きではないのだけど。それでもどうしても、噛まずにはいられなかったのだ。
「いいよね、女は」
そうのたまった、あの男。私はお淑やかで品行方正な女性ですので、何も言い返しませんでしたけれど。
 ああ、明日は、お気に入りの靴を履こう。先のとんがった、エナメルの、真っ黒なブーツ。太いヒールをカツカツと鳴らして歩く時、威風堂々、という言葉が頭をよぎる。それほどまでに、あの靴は私に自信を持たせてくれるのだ。

2人目

「なにが、いいよね、女は。だよ。女の事を全部知っているみたいに言いやがって」
 淡い色のパンプスの爪先がアスファルトの上で止まる。黒のエナメルのブーツとは似ても似つかない爪先。もうだいぶ履き続けて草臥れてしまったパンプスは、まるで私を見ているようだ。やる気や失意を勝手に乗せられて、限界まで踏み締められた靴。
 ああもう、早くこれを脱ぎたい。本当は淡い色のパンプスなんて履きたくない。何時だって真っ黒や真っ赤なヒールを履いていたい。どうしてそれが良しとされないんだ。靴くらい好きな物を好きなように履かせろ。
 そういえばあの男、こういう淡い色を纏った女が好みだったっけ。柔らかなピンクやベージュを纏った私しかアイツは知らないんだ。何だかいい気味。

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