ドローンの恋
それは、ドローンの墜落事故だ。
配達用のドローンが、空中を飛ぶ途中で突然コントロールを失い、地面に向かって真っ逆さまに落下するというものだ。
もちろん、原因は不明だ。
空から落ちたドローンにぶつかってけがをする人もいるし、重症を負う人もいる。
「また怪我人か?」「はい」
俺の上司は、面倒くさそうに首を左右に振った。
「ドローンの墜落事故が続いています」
「そうだな、でもそれは管理会社の責任だ」
「違いますよ。今は、ドローンの運送を規制する法案を審議しているところですよ」
俺は読んでいた新聞を持ち上げる。今朝の新聞だ。一面にその記事が載っているはずだ。
恐怖!殺人ドローンの悪夢!国会に骨灰が舞う!
「恐怖を煽るだけ煽って過去の事件を書き連ねるだけの記事だ、どうやら国会の審議はそこまで進まなかったらしいな」
「その審議が進まなかったことが大事なんですよ」
「どうでもいい、仕事に集中しろ、まだ人は地面を歩いてんだからな」
「はいはい」
道路を舗装しながらふと思う、ドローンは何に引かれて地面に落ちるのだろうと、こんな舗装の下には土しかない地面に、惹かれるのだろうか。
あるいは墜落するドローンは、かの英雄イカロスのように遥か天空の、自分たちよりも高みにある太陽に惹かれていたのかもしれない。ドローンのあのカーボンとアルミでできた貧弱な翼に太陽の大きな愛は身に余ることだったのだ。墜落は憧れの挫折の表現ではないだろうか。しかしその貧弱なドローンは大きな憧れを蔵していた。ドローンに心が、そんなことがあり得るのだろうか?
そんな他愛もない勤務中の妄想は、意外な形で再び俺の脳を侵食することとなった。
ある日、帰宅した俺はいつものように床に寝転がり、寛いでいた。右手をポテチの袋に突っ込み、左手でコンビニで買ったオカルト雑誌を広げる。
「ストーカー!? 尾行するドローンたち」
なんの気なしにめくったページは、証言というよりは怪談に近い「被害者の声」に埋め尽くされていた。