祓魔モノ的な

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1人目

「ひいいいいいっ!!助けてくれぇ!!」
ある夜の小道にて…僕は異形の化け物に 追われていた。
「うは……美味そうな人間だ……」
化け物が僕を見てニヤリと笑う。
「た、助けてぇえええ!誰かぁあああああ!!」
(嫌だ!こんなとこで死にたくない…!)

「そこまでよ」
突然、後ろから声が聞こえた。
「これ以上、危害を加えるのは許さないわ」
そこには___綺麗な銀髪の少女が立っていた。

2人目

そして、それは一瞬だった。
銀髪の少女が手をかざした瞬間、まばゆい光の束が化け物を貫き。
化け物は、耳をふさぎたくなるような断末魔の叫び声と共に、夜の闇へと消えていった。

た……助かった……。
ありがとうと感謝の言葉を告げるが、彼女は聞こえてないようなそぶりで横を向く。
そんな彼女は銀色の髪を揺らしながら、信じられない事を口にするのだった。

「あなたに危害を加えていいのは、私だけなんだから」

3人目

「え?」
彼女がそう言った瞬間、どこかから剣のようなモノを取り出し、僕の方に向けた。

「…ふぁい?」
僕は思わず変な声を上げてしまった。

「変なマネはしないほうがいいわよ。少しでもそのようなそぶりをしたら、斬るから」
「な……!?」
訳が分からない。だが彼女の言ってることは本気のようだ。

なぜ、彼女はそんなことを言うんだ。
僕は何もしてないのに……!

「さあ、洗いざらい白状しなさい。あなたが、あの化け物の宿主だってことはもう分かってるわ」
……宿主?何の事を言ってるんだろう……?

「あなたでしょ!さっきの怪物の飼い主は!」
「な、なんのことだかさっぱり……」

「とぼけないで!」

4人目

人形職人が丁寧に彫り上げたような美しい目をつり上げ、少女は続ける。

「あなたの企みは筒抜けよ。いい加減観念することね」
「いやいやいや僕は何も企んでない!!」

声が裏返りながらも必死に口を動かす。舌がうまく回らない。

「本当に何も知らないんだ!人違いだよ!」

少女は飽きれた様に嫌悪感で満ちたため息をつく。

「そんな猿芝居、私に通用すると思わないでよ?あなたが封印を解き化け物を飼いならそうとしているって聞いたんだから」
「し、してない……!誰から聞いたんだよ!」
「師匠が話してるの盗み聞いてきたわ」

どこか得意げに話す彼女に僕はししょー?と首を傾ける。少女は不満げに眉をひそめる。

「何?馬鹿にしてるの?」
「し、してない……!というか、君は誰なんだよ!」

冷たくも緩やかに夜風が小道を通る。月の明かりを浴び銀の髪が揺れる。

「私は……」

5人目

「私は、死神で元女神のメイ今は訳あってアンタみたいな害をなすものを滅するのが私の仕事。早くこんな仕事辞めて女神に返り咲くの!!」 
ドヤ顔で僕を見下す顔で死神の鎌を握って僕に襲い掛かってきた!!
ぎぃやぁああ!!僕は涙と鼻水を垂らしながら全力で逃げだした。

6人目

「待ちなさい!」

少女-死神?で元女神?の"メイ"と名乗った彼女-が声を張り上げ、僕を追いかけてきた。

「(待って待って無理無理無理無理!!!!)」

異形の怪物に追われている最中、助けに来た銀髪の美少女。
このあらすじから、この少女に訳のわからないイチャモンをつけられて追いかけ回されるなど、誰が想像できようか。
何故だ。あの流れだったら僕はどう考えても少年漫画の主人公の立ち位置に君臨するものなのではないのか。
二度連続で主人公が命を狙われる展開なんて、読者もつまらないだけなんじゃないですかねぇ、はい。

「(って、こんなこと考えてる場合じゃないんですけどねぇぇぇぇ!?)」

ひとまず、人が多い場所に逃げなければ。
だが、そこに至るまでの判断はあまりにも、遅すぎた。
背中が突然重くなり、その原因を知る前に僕は地面に倒れ伏すこととなった。

「がっ……!?」
「逃げられると思ったの?飼い慣らした化け物でも使って逃げれば良かったのに」

嘲笑が上から降ってくる。どうやら、メイに踏みつけられているらしい。
彼女の靴の先が背中を押す。
痛い、このまま僕は、何も為せずに死ぬ、のだろうか……。

7人目

「……まあまあ、少しは落ち着きなさいな」

頭上、正確にはそこそこ横の方から男性の声が響く。

「この手の奴を操れるならそもそも襲われるヘマはしないだろうし、制御できないようなやつがアレを呼ぶことを手ぶらでできるとも思えない。だから僕は、彼をシロだと思うんだけど……君は違うのかい?」

顔を横に向けると、そこには茶髪で……このあたりでは珍しい、白い着流しを纏った青年が立っていた。

「信仰する神も違うし、このまま名乗らせてもらうよ。『宮部壱与(みやべいよ)』、神職の者だ」

女みたいとよくイジられるけどね、そう呟きながらその青年は僕の体に触れ、傾けることでメイの足を外して僕を立ち上がらせた。

「いや〜、君もつくづく災難だね?化け物の次は美少女に命を狙われ、おまけに僕なんかに助けられる。こりゃ、そういう体質かな……そこの美少女ちゃん、さっきの発言は訂正するよ。彼はシロだけど、多分元凶だね」

フォローとしてはあまりに穴の多すぎる発言を考えていないかのように放って、彼はさらに言う。

「たぶん彼、こういうのを引き寄せる体質だね……アレらと誤認されやすいんだと思うよ?」

8人目

「はぁ?それってどういう意味…」
「ま、とりあえずは……そこの人、ちょっといいかな?」
壱与さんが僕の方を向いた。

「……はい」 「君、名前は?」
「『飯田正人』、ですけど…」

「そう、じゃあ正人くん。ちょっと……いや、かなり荒いやり方になるけど我慢してね」
「え?」
次の瞬間、僕の視界は真っ白に染まった。
…………

「…それで、彼の事はどうするんですか?」
「メイくーん。よく聞いてくれたね。彼にはね……『祓魔』を任せようと思うんだ」

「な……!?この一般人にですか!?」

驚いた顔でメイは壱与に詰め寄る。対して壱与は、その顔に呑気な笑みを浮かべて言う。

「まぁまぁ、そう怒らないでくれたまえよ。それに彼、君と一緒なんだと思うよ?」

「……一緒?」

メイが首を傾げながら問うと、壱与はああと頷く。

「彼が持ってたあの気配……おそらく、君のような“適性”を持っている人間だ。」

9人目

 適正。その言葉を聞いた時、メイは勘づいた。
初対面である筈なのに妙に馴れ馴れしく話しかけてくる男が、先の自分の宣言を全て聞いていたことを。

「そう……機会を窺っていたんですね、初めから。それも私が彼を襲うよりも、ずっと前から」
「ああ。悪く思わないでくれよ? 僕はそういうやり方なんだ」
 貼り付けたような笑みを浮かべる宮部。
 その悪びれない物言いや態度を見て顔を顰めるメイは、鎌へと手を掛けた。
 いずれにせよ、女神から死神へと転じた自分を知っていること。そして奴の言を信じるならばそこで倒れている少年も、自身と同様に種族を変更できる”適正”を持っている。

 逃がすわけにはいかない。
 故に、まずは足を奪う。そのまま臨戦態勢を取ろうとした瞬間、

 ――悪く思わないでくれ

 脳内に宮部が発した言葉が反響した。ピタリと身体が静止する。
 そうだ、彼は悪くない。例え何を知っていようと、彼がそう言っているのだからそうなのだろう。

「大丈夫かい? 随分顔が怖くなっているが」
「え、ええ」

 困惑するメイを眺め、宮部は思考する。 ”適正”と口にするのはやめた方がよさそうだ。

10人目

(うーん、美少女ちゃんが分かりやすかったからよかったけど、下手したら『コレ』を早くも失うとこだったな。気をつけないとね)
術者の見た目を模し、情報を『伝える』ことを目的とした式神越しに神社から一連の流れを観測して、メイに告げる次なる言葉を伝達する。
「まあ神様ならまだしも、人間が耐えられる保証もないんだけどね……こんだけ引きつけやすいくらいにはエネルギーに満ち溢れてるんだし、問題ないでしょ。とりあえず、『僕』のいるお社に場所を移さないかい?ここに居座るわけにもいかないし、なによりこの式神、吐き出す情報の取捨選択にかなりコツがいるようだから」
少なくともこの数奇な状況に居合わせた(その場にいないのだが)以上、放置するのもアレだと思った彼は少年を担ぎ上げ、メイに向かってそう問いかけた。

11人目

これまでのあらすじ
宮部家の歴史は古く、その由来はインド叙事詩マハーバーラタにある。かつて神と人、そして魔の物が暮らす混沌の時代。光を倣い闇を滅す英雄ヒロブミ=イトウは仲間たちと共に、邪神ヒカワキヨシを封印、安寧の世を取り戻した。
ヒロブミ=イトウの直系の子孫である宮部家は、イギリス王家との密約により、その祓魔の力を奪わられてしまい、今や存続の危機に陥っていたのだ。
bluetoothイヤホンをよく紛失する飯田正人は、日夜落とし物を探し、夜の街を駆け抜ける!!

次回
私は置き引き犯ではありまセーン!!

12人目

”とりあえず、君の処置については保留になった。しばらくメイを監視係としてつけておくよ”
”えっ、なにを言ってるんですか!? 無理ですよ!”

そんな言葉が脳裏に流れ込んだ後、意識は眠りから覚めていく。
ジリジリ、と無機質な目覚まし音。起床だ。

昨夜の怪奇な出来事、あれは夢だったのだ。
そりゃそうだ。
高校二年の平凡な男子生徒が、異形に襲われたり、大鎌をかかげた美少女に殺されそうになったりするわけがない。

あの後意識を失った僕が運ばれたのは、大きな社だった。
僕には危険な力がある、といった奇妙奇天烈な会話が繰り出される。
少しも理解できなかったが、まあいい、どうせ夢だったのだ。

安堵が胸を満たし、二度寝に洒落込もうと布団をかぶる。
ジリジリ、自室を満たすとけたたましい電子音。

「うるさいわねっ!」

謎の声がしたと思いきや、ガシャンと固いものが壁にぶつかる音と同時に、目覚まし音が途絶える。

僕は布団を剥ぎとって勢いよく身を起こした。

学習机、ラノベが詰まった本棚が置かれた八畳ほどの空間。
そんな見慣れたはずの自室に、銀髪を揺らすゴシックドレス姿の美少女がたたずんでいた。

13人目

「……おはよう、飯田正人。昨夜の件、忘れたとは言わせないわよ?」

僕は夢ではなかった現実を目の当たりにし、茫然としたまま口を開けるしかなかった。

「な、なんで君が僕の部屋に……?」

「どうやらまだわかってないみたいね。あなたには“適性”がある。だから私の監視下に置かれるのよ。私がずっとあなたを見張って、妙な事が起きないようにね」

「か、監視って…そのために、僕の部屋で一緒に生活するってこと?」

「当たり前じゃない。放っておいたらまた怪物を呼び寄せたりするかもしれないでしょう?私が四六時中見張っておくわ」

「え、四六時中って……学校にも来るの?」「そうよ。もちろん」

「いや、待ってくれよ!僕は普通の高校生だし、学校で美少女と一緒にいたら、いろいろと面倒なことになるっていうか……」

「面倒なのは私も一緒よ。私はあなたの監視者として行動しているだけ。余計なことを考えないで」

僕は唖然としたまま、どう返せばいいかわからなかった。美少女に監視される生活なんて、普通はラブコメの主人公にでもなった気分になるはずだが、彼女の険しい表情と冷たい態度がそんな気分を完全に吹き飛ばしていた。