プライベート CROSS HEROES reUNION 第2部 Episode:12「昏き炎、この胸を永遠に」

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1人目

「Prologue」

【悪霊事変後始末編】原文:AMIDANTさん

 悪霊との戦いを終えた、CHの一行。
しかしその勝利は辛勝であり、負った傷も決して浅い物では無かった。
DDが、超人が、各々が幻想郷にてこれからの道を選択し、準備に入る中。
幻想郷に、二つの悪意が現れる。
ひとつは魔界、旅の目的地である暗黒魔界から漏れ出した、RUSという広大な世界への欲望。
もうひとつは突如として現れた、歪で形の定まらない、されど膨大な悪意の結晶体。
月美とペルは後者の目的も分からぬ歪な悪意を取り除かんと、迷いの竹林に向かう。
やがて悪意の元に辿り着いた時、見つけたのはなんとアビィと妹紅の姿だった。
困惑の中、いつの間にか消えている歪な悪意。
露わになるアビィの年齢、3歳。
流れる様にアビィの話題になった時、あの歪な悪意が、彼から噴き出し。
同時に、不穏な一言が発された。

「_僕は、同族殺しさ。」

【アマルガム決戦編】原文:ノヴァ野郎さん

 島の各地で激闘が繰り広げられる中、
ついに姿を現したレナード・テスタロッサ。
彼の乗るASベリアルを相手に押されていく宗介だったが
そこにゼンカイジャーが駆けつける。

 レナードの相手を一時期的にゼンカイジャーに任せてかなめを
助けに向かった宗介はソフィアに人格を乗っ取られたかなめに対して
罵倒同然の説得の言葉を送る。
これによりソフィアに乗っ取られたかなめの人格が目を覚ましたのであった。
ソフィアの話を聞いてもなお今の世界で生きることを選んだかなめを見て、
ソフィアはかなめに全てを託して自ら消滅した。

 ソフィアの人格が消えて身体を取り戻したかなめは脱出をしようとするがそんな彼女の前にカリーニンが現れる。
絶体絶命の状況であったがそこに宗介が駆けつけカリーニンと交戦。
妻と腹の子を生き返らせるため、そして宗介に戦いとは
縁のない人生を送ってもらうためにレナードに協力していた
カリーニンであったが、宗介との戦いに敗北し、彼からの言葉を聞いて、
アマルガムを裏切り残りの命を宗介達のために使ってからあの世で妻と再開する決意を決める。

 宗介はかなめをカリーニンに任せて、
トジテンドの技術を悪用しようとしている奴らがいると聞いて
調査しに来たステイシーと共にゼンカイジャーと合流、レナードとの最後の戦いに挑む。
苦戦を強いられる中、介人の機転により形勢逆転し、
ステイシーとゼンカイジャーの協力により宗介はレナードの乗るベリアルを
ついに撃破することに成功する。
ベリアルを破壊されてもなお世界の改変を諦めようとしないレナードだったが、
介人の言葉を聞いて諦めがつき降参、そしてこのことを知った
アマルガムの兵士達が全員降参したことにより
長きに渡るアマルガムとの戦いがついに終わりを告げたのであった。

【ジャバウォック島突入編】原文:霧雨さん

 十神白夜からの指令を受け、いち早く幻想郷を出たCROSS HEROES。
彼らが向かった先は、絶海の孤島にして過去の因縁が渦巻く地、ジャバウォック島。
浮かない帰省、というのもあってか江ノ島盾子の顔は浮かない。
だが、それでも彼らは知らない。
CROSS HEROESとSPM。
奇しくも同じ目的を持った勢力が、この地でまた邂逅を果たすことを―――。

 島に上陸したシャルル遊撃隊の4人と燕青、フィオレは、
先に侵入していたメサイア教団の兵士軍に追われ、島の中心部にある「地下への入り口」に避難する。その先にあるエレベーターからジャバウォック島の地下、
地上よりも繫栄した島に到着する。繁栄していて、何処か無機質で不気味で不穏な
この島の在り様に圧倒される4人。

 調査を開始した4人は第Ⅰ実験棟の建物に到着するが、
そこでCROSS HEROESとSPM、2つの勢力が遂に邂逅してしまった。
それはつまり―――因縁の相手でもある霧切響子と江ノ島盾子が邂逅してしまう事を
示唆する。

 希望ヶ峰学園爆破事件によって死んでしまった、数多ものクラスメイトたち。
胸を焦がす復讐の炎に飲まれ、暴走の片鱗を見せ始める霧切。
憎悪にとらわれた霧切は、その銃口を江ノ島に向ける。

 視えざる謎の怪物が牙を剥いているとも知らず―――。

 風雲急を告げるジャバウォック島の冒険。
果たして、彼らの運命はいかに。

【混沌極まるアマルガム決戦編】

 天津飯は最強の技「気功砲」を放つも、アスラ・ザ・デッドエンドに通用せず、
絶体絶命の窮地に立たされる。そこへ孫悟飯が駆けつけ、天津飯を救出しながら
アスラに挑むが、彼が繰り出す「殺人拳」と「衝撃操作」に苦戦する。
クリリンの推察を元に反撃の隙を狙うも、アスラは「星辰光」を発動し、
悟飯に致命的な一撃を加える。しかし、悟飯は生死の狭間で、
ロンドンで戦い散って行ったクローン悟飯の魂を引き継ぎ、アルティメット化を
果たして再び立ち上がる。新たな力を得た悟飯はアスラとの最終決戦に挑み、
互いに限界を超えた激闘が繰り広げられる。悟飯は複数方向からの攻撃で
アスラにダメージを与えることに成功するが、アスラも最後の一撃必殺を狙い、
戦況はさらなる激しい展開へと突入しちえく。

 同時に、無人島の別エリアでは魔法少女たちがウラヌスNo.ζと激闘を繰り広げていた。
やちよとみふゆの「コネクト」による連携攻撃や、十七夜のマギア「断罪の光芒」で
追い詰めるも、ウラヌスは反撃を開始。その時、環いろはが傷つけられたことで
黒江の負の感情が爆発し、「逃避のドッペル」が暴走を始める。黒江の力は
制御不能となり、敵味方の区別なく攻撃を繰り出し、戦場はさらなる混乱に陥る。
アスラやウラヌスもこの暴走に巻き込まれ、悟飯やクリリン、魔法少女たちは
黒江を止めようと奮闘するが、その圧倒的な力に苦戦を強いられる。

 敵味方入り乱れるその混乱の中、ルフィ、ゾロ、承太郎、ゲイル、
そして新たにCROSS HEROESに加入したヒートが登場し、黒江を止めるために動き出す。
ヒートはかつて協力関係にあったウラヌスとアスラを見限り、
ゲイルは自分たちが宿す悪魔化ウィルスと黒江の暴走に共通する危険性を感じつつも、
今もその苦しみに抗っている彼女を見捨てないと誓う。
激闘の最中、黒江のドッペルがさらに暴走し、彼女の周囲に闇が広がり、
仲間たちにまで危害が及びかねない状況に陥る。CROSS HEROESは
必死に黒江を止めようとするが、その負の力は圧倒的で手に負えない。

 そんな時、CROSS HEROESの前に褐色の肌を持つ女性、リヴィア・メディロスが現れ、黒江を救うために「ピュエラ・ケア」としての行動を開始する。
彼女は助手のヨヅル、月出里と共にCROSS HEROESのサポートを受けながら黒江に接近。リヴィアは穏やかに黒江に語りかけ、彼女の心の中に仲間たちの声が届き始める。
仲間たちは再び黒江を取り戻すための戦いに挑み、絶望の淵に立たされながらも、
一筋の希望を見出していく。戦場は混迷を極め、アスラ、ウラヌス、黒江、
そしてCROSS HEROESたちの運命が交錯する中、最終決戦の行方は誰にも予測できない。

2人目

「終演の幕引き」

 リヴィア・メディロス率いる国境なき調整屋、ピュエラ・ケア。
ドッペルを暴走させ破壊の限りを尽くす黒江と、それを食い止めんとする
CROSS HEROESの前に現れる。

「黒江さん! 戻ってきて!」

 いろはの声が、徐々に黒江の耳に届き始めた。
しかし、彼女の内なる闇は依然として強力だった。

「……わ、タシ、は……」

 黒江は目を細め、かすかに意識を取り戻す様子を見せるが、
再びドッペルの力が彼女を支配しようとする。

「動きは鈍くなったようだが、まだ足りないか……!!」

 アマルガムやカルマ教団、そしてジェナ・エンジェル一味との連戦も相まって、
承太郎たちにも流石に疲弊の色が見え始めている。

「黒江さん……! もう少しだよ! 頑張って!」

 いろはの必死な呼びかけに応えるかのように、黒江の手が震え、
彼女の顔には一瞬の苦悩が走る。

「うあああ……ううううう……!!」

「仕上げやな。行くで、ヨヅル! 月出里!」
「はい」
「ふんむむ!」

 リヴィアは合図を送り、ヨヅルと月出里は同時に動き出す。
ヨヅルは黒江の前に立ち、力強い声で言う。

「あなたにはまだ、やり残したことがあるだろう? 仲間たちと一緒に……」

 その言葉に黒江の目が揺れ動く。
しかし、ドッペルの力が再び彼女を襲い、狂気が戻ってくる。

「ふむんむ……」

 月出里が手を広げ、淡い光が黒江を包み込む。その光は徐々に黒江の体を浄化し始めた。

「アアアアアアア……!!」

 黒江の叫び声が響くが、その中には苦痛と共に希望の光が混じっていた。
泥の翼が徐々に崩れ始め、黒江がドッペルの呪縛から解放されていく。

「黒江が落ちてくる!」
「行けぇッ! いろは!! お前が受け止めてやるんだ!!」

「う、うん!!」

 落下してくる黒江に、いろはは全力で駆けていく。ウラヌスNo.ζとの戦いで
魔力の殆どを消耗し、足取りもおぼつかない。それでも、懸命に足を前に出す。

「黒江さんっ……絶対に、助ける!」
「おのれ、あの小娘!」

 その時、ウラヌスが自由落下している最中の黒江に攻撃を仕掛けようとする。

「させないわッ!!」
「――!!」

 みふゆのチャクラムがウラヌス目掛けて飛来する。
それはウラヌスの指先で生成されていた氷柱を砕き、咄嗟に回避行動を取るべく
身を捩らせたところに、やちよのトライデントが投擲された。

「ぐぁうっ……!!」

 みふゆとやちよの連携プレー……トライデントはウラヌスの仮面を掠める。

「き、貴様ァ……!!」
「これで、いつぞやの借りは、返せたかしら……?」

「私の、私の顔に、よくもぉぉぉ……!! 劣等種ごときがァァ……!!!」
「カカカッ、ざまぁねえなぁ、ウラヌス! してやられるとはよ!」

 狼狽するウラヌスの様子に、嘲笑を浴びせるアスラ・ザ・デッドエンド。
やはり彼らの間には信頼関係や仲間意識と言うものは無いようだ。

「さぁて……」
「……」

 そんなアスラは、じっと睨みつけ、隙のない構えで対峙する悟飯に向き直る。

「どうする、アスラ・ザ・デッドエンド。まだやるつもりか?」
「俺としてはまだまだお祭りを楽しみたい所なんだが、状況が状況だな」

「――黒江さん!!」
「飛べ、いろはァ!!」

 ルフィの一声で、いろはは黒江をダイビングキャッチする。

「ゴムゴムのォォォッ!! 風船ッ!!」

 いろはと黒江が落ちてくるポイントに滑り込んだルフィは、
息を大量に吸い込んで体を膨張、2人を無事に保護した。

「ふいいい……」

「環、さん、みんな、ありがとう……私……とんでもない事を……」
「いいんだよ、黒江さん。黒江さんがこうして戻ってきてくれただけで……」

 黒江はついにドッペルの支配から解放され、元の姿に戻った。
涙を流しながらいろはを見つめる。

「本当に……よかった……」

 いろはも涙を浮かべながら、二人は抱き合い、再会の喜びを分かち合った。

「お疲れさんやな。アンタは本当に強い子や。ドッペルの力をあれだけ撒き散らせば、
普通はもう戻れん。呪いと絶望に埋め尽くされて、魔女そのものになってまう。
けど、それを引きずり戻せるだけの希望も同時に併せ持ってたっちゅうわけや」

 リヴィアは優しく微笑みながら、2人を見つめている。

「ありがとう、リヴィアさん……」
「なに、例には及ばん。ウチらピュエラ・ケアは世界中津々浦々を巡って、
通りすがった先の魔法少女の調整をする。善悪問わずな。それだけの事や。にしても、
随分と物騒な事に顔を突っ込んどるみたいやな、アンタら」

 この島を巡る戦いが只事でない事は、事情を介せぬリヴィアにも如実に伝わる。

「ま、ウチらは中立や。どちらに加担する事も無い。仕事分は働いた。引き上げるで」

 リヴィアが取り出したるシルクハットの中から、大量のハトや紙吹雪、トランプカードと言ったマジックの道具類が視界を遮ったかと思うと、
ピュエラ・ケアの面々の姿は忽然と消え去ってしまった。

「皆さん、ご迷惑をおかけしました……」

 黒江はいろはの腕の中で体を横たえながら感謝の言葉を述べる。
CROSS HEROESの仲間たちも、それぞれ微笑みながら黒江の無事を喜んだ。

「大人しい顔してるかと思えば、結構やるときゃやるじゃねェか、お前」
「おいゾロ、そう言ってやるなよ。黒江ちゃんだって気にしてるだろうに」

「黒江が戻ってきたのは何よりだが……まだ終わったわけではない」

 和気藹々としたムードを、ゲイルの一声が引き締める。

「……」
「……」

 CROSS HEROESの眼前に立つ、アスラとウラヌス。
図らずも、黒江の暴走によって各地に分散していた別働隊が一同に集結する格好になった。
加えて、アルティメット状態へと覚醒した悟飯、CHへの加入を果たしたヒートと言った
戦力アップも兼ねている。戦況は大いに傾いていると言えよう。

「……いや、宴は幕引きだ」
「!?」

 いつの間にか、崖の上に二人の人物が立っていた。

「ジェ、ジェナ・エンジェル……!!」
「ふふふ……」

 そして、もうひとりは……

『レナード・テスタロッサ……彼も或いは我がリドゥにて
後悔の無い人生を歩む道を選んでくれると思っていましたが……残念ですね』

 仮想世界、リドゥの管理者たるバーチャドール、リグレット。その立体映像だ。

「見たことが無い奴がいるな……ヒート、知っているか?」
「あいつはジェナの協力者……って所だ。今回はリモートでご出勤らしいぜ」

「魔法少女……そのさらなる可能性、見せてもらった。やはりその存在は興味深い」

 ジェナは、黒江の発現したドッペルの力を高く評価しているようだった。
いつぞやも十咎ももこをさらい、魔法少女のメカニズムを研究しようとしていた程だ。
彼女の目的は人類を進化させ、高次存在への到達による「解脱」。

「ここに来て、新手とはな。流石に結構しんどいぜ……」
「心配するな。我々は戦いに来たのではない。引き上げだ、アスラ、ウラヌス」

「何!?」

「レナードは、降伏した。現時点で、奴らとの同盟も打ち切りだ」

3人目

「Unpleasant Companions」

 アスラとウラヌスの顔に驚きと苛立ちが浮かんだが、
ジェナ・エンジェルの決定は揺るがない。

「ちっ……仕方ねぇな」

 アスラは舌打ちをしながら、戦いの意志を収めた。
しかし、ウラヌスはそう簡単には納得しない。

「待て、ジェナ。私はまだ納得していない。この状況で引き下がるなど……!」

 ウラヌスが抗議の声を上げると、ジェナ・エンジェルは冷ややかな視線を彼に向けた。

「ウラヌス、あなたがここで戦い続けることが得策だと本当に思うの?」

 ジェナの声には微かな威圧感が込められていた。
その一瞬、彼女の背後にクリストファー・ヴァルゼライドの影がちらつく。

「クリストファー・ヴァルゼライドの意志は、あなたも理解しているはずよ。
無駄な戦いで彼の計画を狂わせるつもり?」
「……!!」

 その名前を聞いた瞬間、ウラヌスの表情が凍りついた。

(あの女があそこまで動揺するとは……)

 十七夜は、ウラヌスの反応を見逃さなかった。
いろは、黒江、やちよ、みふゆ、そして十七夜。神浜の精鋭魔法少女5人を
一度に相手にしていた時ですら、終始余裕の姿勢を崩していなかったあの女が、だ。
彼女はしばらくジェナを睨みつけていたが、やがて深いため息をついた。

「……分かった。今回は従ってやる。だが」

 そして、砕けた仮面越しに、やちよに射殺す程の眼力を叩きつける。

「下賤の輩が、穢れた血筋が、この高貴なる私に醜い傷を付けた……
貴様だけは許さん……! 必ず報いを与えてやる……!!」
「それは結構。私もこれで終わらせるつもりは無いわ……」

 やちよとウラヌス。どちらも一歩も退かない睨み合いを繰り広げた後、
ウラヌスは鋼鉄の踵を鳴らしながら、自らが発生させた氷雪に
包まれて消えていった。

「アンタらとはまた近い内にやり合えそうだ。その時はとことんやろうぜ。
なァ、孫悟飯」
「いつでも、かかって来い。受けて立つ……!!」

 アスラもまた、悟飯と言葉を交わした後、猫背の姿勢でポケットに手を突っ込み、
ガニ股歩きで去っていく。

「ヒート、それがあなたの答えなのね。あなたの実力には期待していたのに」
「で、セラを餌に俺を飼い殺し、ってワケか」
「ふふふ……人聞きの悪い。餞別よ、受け取りなさい」

 ジェナ・エンジェルは、ヒートにメディア媒体を投げ渡した。

「これは……!?」
「セラの行方について調査したデータが入っているわ。彼女は間違いなくこの世界にいる」
「どう言う風の吹き回しだ?」
「言ったでしょう、餞別よ。けれど、この世界にも危険が多いようだから、
早くしないと、取り返しのつかない事になるかも知れないわね……それと、
そこの剣士さん……ロロノア・ゾロ、だったかしら」

「何だよ、俺の名も、もう知られちまってるのか」
「ええ。ヴァルゼライドから聞かされていたのよ。腕の立つ異邦の剣士の事をね」

「まさか……あの男か。あいつもお前らの取り巻きだったって事かい」

 そう、以前、大海賊世界から特異点に転移して来たゾロが刃を交えた相手……
クリストファー・ヴァルゼライドの事だ。

「あいつに会う事が会ったら伝えとけ。あの時は水入りになっちまったが、
今度こそは俺が勝つ、ってな」
「覚えておこう」

「ジェナ・エンジェル、貴様は……!!」
「では、また会いましょう、ゲイル。ヒートと仲良くね」

 最後にジェナが撤退を決めると、リグレットの立体映像も消え去り、
周囲の緊張感が少しずつ解けていった。

「ジェナ・エンジェル……いつか必ず、お前たちの野望を打ち砕いてやる」

 悟飯は心の中で誓いを立てながら、ジェナ・エンジェルの姿を見送った。
その直後、CROSS HEROES旗艦、トゥアハー・デ・ダナンから
島の各地に散ったCROSS HEROESの面々に向かい、全域放送が届けられた。

『CROSS HEROES各位へ。相良さんたちの活躍で、
アマルガム幹部であるレナード・テスタロッサの全面降伏が確認されました。
皆さん、本当にお疲れ様でした。現時刻を以て、作戦終了となります』

「降伏……」
「とうとう終わったのか、アマルガムとの戦いが……」

 CROSS HEROES結成当初から幾度となく戦いを繰り返していたアマルガムとの戦いも、
ついに終わりを迎える。それと時を同じくして、
幻想郷での焔坂百姫、そして焔坂が生み出した廃棄孔の怪物との戦いにも決着が着いた。
ふたつの世界を舞台とした大きな戦いに終止符が打たれたのだ。

「CROSS HEROES……あなたたちには感謝しているわ。
アマルガムを倒してくれたことにね。おかげで、レナード・テスタロッサに
これ以上の戦力を増強される事は無くなった。
彼の目的が達成される事は、私達には都合が悪かったのでね。これからもせいぜい、
私達の障害となる存在を掃除してもらおう」

 だが、ジェナ・エンジェル一味の暗躍は続いている。
特異点、地底勢力、暗黒魔界、レッドリボン軍、メサイア教団、そしてグランドクロス……
各陣営を巡る勢力図は、今も目まぐるしく変化を繰り返している……

「遅かったじゃあないか、ご両人」
「吉良……てめえ、ひとりだけさっさと引き上げてんじゃあねえよ!」

 アスラとウラヌスがジェナの拠点に戻ってくると、そこには吉良吉影が
悠々自適に爪を切っていた。早い段階でジェナと接触し、戻ってきていたらしい。

「定時上がり……と言うヤツさ。私は君のように争いが好きじゃあないんだ……
争いはストレスの元だからね……言うなれば、会社で片付けきれなかった残業を
自宅に持ち帰るようなものだ……それは良くない」

 切った爪を、ビンの中に入れてコレクションする、と言う奇妙な習慣を持つ吉良吉影。
爪の伸びによって、自分の健康状態を占う。

「此度も空条承太郎を仕留めきれなかったのは、まさにそれだ……
この生活を送るようになってからと言うもの、爪の伸びが悪い。
健康を害していると言う証拠だ。いい加減、ストレスの元を根絶しなければならない……」

 ブツブツと言いながら爪切りをする吉良を見限り、アルターエゴ・リンボの姿を探す
アスラであったが、こちらも見当たらない。

「あの陰陽師野郎も生きてんのか死んでんのか……」
「馬鹿馬鹿しくて付き合っていられん……」

 ウラヌスも自身の部屋へと戻っていく。

「まったく、改めて協調性のねえ集まりだ事で。俺が言えた義理でもねえか。カカッ」

 このように、誰もがまったく違う方向を向いて行動しているジェナ・エンジェル一味。
次に彼らが動き出すのは、いつの日か……

4人目

「昏炎魄喰:第Ⅰ実験棟『不可視念魔獣-シュレディンガー・ビースト』 その1」

 第Ⅰ実験棟『塔』内部

 ―――無地のキャンバスに穿たれたシミのようだ。
「……なるほど、あなた方が例のCROSS HEROES。」
 白く無機質な部屋で、8人の男女が出会う。
 CROSS HEROESの内部組織―――シャルル遊撃隊と流星旅団の同志が2人。
 対するは、独自に教団を追うSPMの使者。
「で、そちらの目的は何だ?」
「何って……あなた方と同じく島の調査ですよ。」
 ファルデウスらも同様、この島の調査に来た。
 ここには、何かがあると信じて。
 であれば。
「協力、しないか?」
 リクが、2人への協力を取り付ける。
「そうしたいのは山々ですが……。」
 と、ファルデウスは不安げに霧切の顔を見る。
「……誰が協力なんかするものかッ!!それどころかお前ら全員……ッッ!!」
 再び銃口を向ける霧切。
 その眼からは、涙がこぼれていた。
 公正かつ遠い眼で見れば、彼女の憎悪は正しい。
 眼前にいるのはコロシアイの黒幕。学園爆破という行為を行っても不思議ではない存在。

 しかし悲しいかな。希望ヶ峰学園爆破事件の犯人は、不倶戴天の敵である江ノ島盾子ではない。
 そして、その事実を霧切響子は知らないのだ。
「あの学園のみんなのために……ここであんたを!!」
「霧切さん。仇を討ちたい気持ちは分かりますが、今ここで殺しても誰の得にもなりません。」
 暴れそうになる霧切を抑えるファルデウス。
 泣きながら、なおも振りほどこうとする霧切。
「でも……!」
「今はこらえてください。無念を晴らすのと、怒りに任せて全てを破壊する事は正反対の事です!仇を討つのは、彼らが本当に敵だと分かったらでも遅くはない。」
 ファルデウスの言っていることは正しい。
 いかなる形であれ、散っていった者たちの無念を晴らす事。
 復讐の昏き炎に飲まれ、遍く全てを壊し殺す事。
 それは「復讐」という点においては共通するが、行きつく答えは正反対。
 血と愉悦に満ちた一切殲滅の道は、決して真なる復讐、敵討ちではない。

「CROSS HEROESの皆さん。今の彼女の精神状態ではそちらに危害を加えるかもしれない。それに我々SPMにも別個で動く目的がある。仲間として協力関係を結ぶのは後でもできる。」
「そうだな。」
「ですが、島の調査には手が足りない。そこでですが、この島の調査を終えるまでは手を組みませんか?協力はあなたたちに敵意がないと判断したら、という形で。」
「ああ、それで構わない。」
 お互いに妥協点は見つけた。
 あとは……次はどうするか、だ。
「この塔内部の調査を終えた後、別行動を取りましょう。周りにはこの『第Ⅰ実験棟』の他にも島がいくつかある。我々はこの隣にある『第Ⅱ実験棟』に移動します。そちらは『第Ⅲ実験棟』に移動して欲しい。」
 先に入ったSPM、ファルデウスが曰く。
 この島は中心部の小島を除くと5つの島で構成されている。
 現在みんながいる、巨大なサイロ上の建物がある『第Ⅰ実験棟(アインス)』
 その左隣、遊園地とドーム状の建物がある『第Ⅱ実験棟(ツヴァイ)』
 巨大かつ豪勢なホテルのような建物がある『第Ⅲ実験棟(ドライ)』
 第Ⅰ実験棟の右にある、博物館型の建物がある『第Ⅳ実験棟(フィーア)』
 最奥、これ見よがしの豪邸がある『第Ⅴ実験棟(フュンフ)』
 そして、全ての島は中心の『第Ⅵ管理島(ゼクス)』を経由して行くことができる。

「ああ、分かった。第Ⅲ実験棟だな?」
 何はともあれ、シャルル達は次の行き先を定義した。
 そしてもう、この塔にめぼしいものはない。
 先の遺体について気がかりなことはあるが、現状何かが起きた形跡はない。
 その時だった。

「地震!?」
 何か、重いものが落ちてきたような。
 振動が地を揺らす。
 近い、とても近い位置に隕石が落ちてきたようにも思える。
「いや、違う……何かが落ちてきたようだ。」
「まさか、さっきの兵士を殺したバケモノか!?」
 バケモノ、という言葉に8人が身構える。
 続けて、島全体に謎のアナウンスが響いた。
 ・侵入者を検知
 ・緊急事態:異才強化被検体『シュレディンガー・ビースト』の覚醒および暴走を検知
 ・MONOKUMA.exe 裁量開始/結論:施設防衛および治安維持のため、防衛機構クリアランス レベル4を執行
 ・15分後に第Ⅰ実験棟の一時的沈没による浄化を開始する/この執行は停止不可也
 →第Ⅰ実験棟にいる者たちは 至急退避されたし

 無機質な音声で伝えられる警告。

「今、ものすごく身勝手な警告が聞こえた気がするんだが。」
「一時的沈没、つまりここが沈むってことか!?」
「それよりも、被検体って……。」
 8人が8人、周囲一帯を見渡す。
 しかし、被検体なる存在はどこにもいない。
「気のせいか……?」
 完全に油断し、警戒を解いた江ノ島の背後に迫る、鋭い爪。
「あぶねぇ!」
 それを燕青の一撃が弾き、事なきを得た。
 その刹那、燕青が見た怪物の姿は―――有機無機を入り交ぜた異形の獣だった。

 四肢はまるでチーターやライオン、カモシカのように太くたくましい。
 牙はハイエナの如く鋭く、爪は研ぎ澄まされたナイフのようだ。
 その尻尾は編みこまれた鋼の鞭のように硬く柔らかい。
 眼は赤黒く血走り、その全身は無機質な鋼の鎧で覆われているように見える。
 まるで全身が無機質な武器でできた、有機物の獣。

 個体名:獣型異才強化被検体『不可視念魔獣-シュレディンガー・ビースト』

 誰も彼を見てはならぬ、誰も彼を認識してはならぬ。
 さもなくばその四肢、たちまちに裂かれるだろう―――。

「何なんだこいつは!?」

5人目

「暗黒魔界へ向けて:アビィその3」

一山離れた距離からでさえ肌を震わせた、歪で膨大な悪意。
それを間近で受け、悍ましさが湧き悪寒が走る中。
紡がれた言葉は、同族殺しという心底穏やかでは無い物だった。

「この、悪意……アビィ君から!!?」
「どういう、事だ。まさか、お前が悪霊なのか?」

三度走った緊迫感と共に投げかけられる、ペルの問い。
これだけの醜悪な悪意のみを出せる存在は、悪霊に他ならないだろう。
だが。

「残念だけど、少し違うかな。」
「あぁ、それに関しちゃ私が保証するぜ。コイツは悪霊じゃねぇ。」

アビィの答えは、その考えを真っ向から否定した。
妹紅からのフォローも相まって、いよいよ情報が繋がらなくなり、思考の行き場を失う二人。
そんな困惑を見透かすかの様に、アビィは語り始める。

「簡単に言うとね、悪霊を取り込んで力を得てたんだ。これはその後始末。」

彼の語る事実に、月美達はいよいよ困惑を極める。
悪霊とは、触れるだけでも肉体から呪われる存在の筈だ。

「…呪いを浴びて、平気な筈が無い。」

廃棄孔の偽トラオムで、直接忌油を浴びたペルは特によく分かっている。
故に、ペルは疑惑の眼差しを向ける。

「仮にお前が特別でも、何か絡繰りがある筈だ。例えば…」

そう言うと、両の脚を踏みしめて腰を落とす。

「_お前が悪霊を超えた何かに成りかけている、とかな。」
「ペルちゃん!?」
「…そうだね、普通はそう考えるか。」

ペルが敵意を持って、戦いの構えに入る。
仮に身体はアビィのままでも、魂は悪霊に乗っ取られている、そう判断する方が現実的。
今しがた放出されている悪意も相まって、そう結論付けた。
だがそれでもアビィは、何処か飄々としている佇まいだ。

「…何故だ、何故構えない?」
「僕はレディの敵じゃない、戦う必要が無いだけさ。」
「…嘘ではない、か?」

真偽を判別できるペルだが、それでもこの対応には何処か違和感を覚える。
何か根本的な誤解があって、故に見当外れな見解をした様な。
そんな気さえしてきた所で、アビィはいつも通りに口を開いた。

「言われなくても話すさ。さっき言っただろう、丁度良いって。」
「…なら、早く。」
「せっかちだなぁ、まぁゆっくり聞いてくれ。」

またもやいつも通りに…
いや、どこか諦観を抱えた口ぶりでペルを静止しながら、アビィは語る。
_衝撃の事実を伴って。

「まず僕はね、月美嬢、ペル嬢。仮初の世界に住んでいた、『仮想生命体』なんだ。」
「仮想、生命体……?」

その口から出てきたのは、突拍子もない単語。
仮想生命体という、全くの未知。
混乱が、3人の脳裏を占める。
あまりにも突飛で予想だにしなかった正体に、さしものペルもオウム返しをする他無かった。
そのままアビィは、自分の正体を告げる。

「そう。作り物の世界に無数といる賑やかし、言わば"背景モブ"だったんだ。」
「背景、モブ…?」
「そうさ。その世界に活気がある様に見せかける為の、思考も無い動く人形だよ。」

一同を困惑させるには、十分過ぎる衝撃があった。

「この姿は世界に合わせただけ、偽りの身体だ。」

偽りの身体、その言葉にピクリと反応するペル。
月美が上手く飲み込めない中で、合点が行ったペルは答えを導き出した。

「つまり、魂と身体が一致してない。だから悪霊を取り込んでも…」
「そう、肉体は只の型。身体と繋がってないから、呪われても魂は無事って訳だ。」

そう結論付けたペルの言葉を肯定するアビィ
言及しづらい雰囲気になった所で、アビィが続けるね、と言って言葉を紡いだ。

「そして肉体に付いた呪いさえろ過すれば、悪意を純粋な力に変えられる。」
「呪いを、ろ過だと?」
「そう。全身を隈なく代謝させて、炎で焼いて洗い流すのさ。」

結構痛いんだよこれが、と言いながら不敵に笑う。

「薬を使おうとは思わなかったのか?」
「僕は積極的に悪霊を取り込んでたからね、幾らあっても足りない状態だったのさ。」

それに、薬を総取りする訳にもいかないだろう?と言うアビィに、月美は納得する。
彼なりの最善策を選んでたという事だったと。

「ただ完全に浄化できる訳じゃない、だから悪意って形で外に放たれる。その内消えるけどね。」
「それが、この歪さの正体という訳か。悪意の形が定まってないのも納得だ。」

真意が読み取れなかった理由に合点がいったペル。
悪意の真意なぞ、初めから存在しなかったのだ。

「そっか。お前等、こいつのろ過?して出てきた悪意って奴に釣られて来たって訳か。」
「そういう事になるな。」
「だからここみたいな一目の付かない所を妹紅嬢に案内して貰って、呪いを焼き洗いしてたんだけどね…月美嬢もペル嬢も、勘が鋭いよ。」

そう言って肩をすぼめるアビィ。
だが、ペルはまだ疑惑の眼差しを向けていた。

「ふたつ解せない。あれだけの呪いを祓えるその力と、さっき言った『同族殺し』の意味。それらは一体何だ?」

そう、アビィは最初に言った『同族殺し』の意味がまだ明らかになっていない。
それに気付いた月美が、ハッとなってアビィに目を向ける。
再び疑惑の視線を受けるアビィ。
針の筵とはこういう事かと彼は一息付くと、こう切り出した。

「力については、実は由来が未だに分からないんだ。だから経緯を話すよ。」

先程とは一変した声色。
その剣幕さと未だ放たれ続けている悪意に、思わず息を飲む。

「さっき言ったよね、僕は思考も持たないただのモブだったって。」
「そうだったな。」
「うん。でもどういう訳か、ある日モブとして度を超えた思考と力が、僕の中に芽生えたんだ。」

頭を人差し指でトントンと叩くアビィ。
自我が芽生えた、力を得た。
普通ならば良い事だ。
なのに、それを語る彼の表情にはどこか悲観が纏わりついている。
言葉と顔のチグハグさに、ペルの中で疑問が満ちる。

「それは、良い事だ。なのに何故、そんな顔をする。」

自分は自我を持てたからこそ、たりあの為にあの組織に立ち向かい、今の自分を得た。
だから、問う。

「そうだね。普通なら本当に生きている状態と言えるだろうね。」
「なら…」
「でもね、良い事ばかりじゃなかった。寧ろ…」

その先を、アビィは語らない。
だが、ペルには何が言いたかったかは想像出来た。
出来た上で、尚更訳が分からなかった。

「…分からない、何が言いたい?扱い次第だが、無い事よりも、有る方が良い筈だ_」

自我も力も、担い手次第。
どんな物でも、良い様に持っていく事は可能だと。
だからこそ、ペルは追求し。

「_それが、争いも憎しみも無い世界にとって、余りにも過ぎた力だとしたら?」

そうして出てきたアビィの言葉から抑揚が、顔から余裕の色が、放たれる覇気から感情が抜け落ちる。
今までの雰囲気から一変した様相に、ペルと月美、妹紅までもが思わず息を詰まらせる。
結果出来上がった静寂の中で、彼は告白する。

「僕の力はね、奪った命を代償に破壊をばら撒く『命を弄ぶ力』なんだよ…!」

『同族殺し』の、真意を。

6人目

「昏炎魄喰:第Ⅰ実験棟『不可視念魔獣-シュレディンガー・ビースト』 その2」

 ―――シュレディンガーの猫、という実験がある。
 放射線をランダムなタイミングで放出する装置と放射線検知器が取り付けられた毒ガス噴出装置に中身が観測できない箱の中に入れる。
 そこへ猫1匹を入れてしばらく待つ。
 放射線はランダムに放たれるが、一度放たれれば検知器は反応し毒ガスが噴射され猫は死んでしまう。
 こうなると、「箱の中を誰かが観測しない限り、猫は『生きてもいるし死んでもいる』状態となる」という結果となるのだ。

 今となっては「なんて非道なことするんだ」と批判続出な実験だが、問題はそこではなく「生きてもいるし死んでもいる」状態になる、ということ。
 その獣(もの)は「そこにいる」し「そこにいない」。
 どこにでもいるし、どこにもいない。
 生きているし、死んでいる。
 存在しているし、存在していない。

 それは―――存在と不存在の境界、生死の壁の上を歩む獣だ。



「――――――――――――!!」
 咆哮を上げる怪物、シュレディンガー・ビースト。
 その声はまるで黒板に鉄の爪を立て、力強くひっかいたようだ。
 全身の毛が逆立ち、鼓膜を震わせる不快感が神経を苛立たせる。
「ぐぐっ……!」
 全員、咆哮のあまりの不快感に身が軋みそうになる。
 観測者―――燕青が気がつくと、怪物はその場からいなくなっていた。
 その速度たるや、伝説の侠客にすらとらえきれないほど。
 だが、扉や壁が壊されていない様子を見ると、まだ近くにいるはず。
「どこだ、どこにいるんだ……!」
 どこか変だった。
 音という音が一切しない。
 不意打ちを狙うのなら『狙うのに丁度いい位置』を取るのは必然。
 その過程で絶対物音はする。
 床や天井を蹴る音、跳躍の際の衝撃音。何かしらの音が鳴ってもいいはずだ。
 というか、動かなくともここまで静かにしていては獣特有の呼吸音くらいはするはず。

「消えた、のか?」
「全員、ばらけましょう。視線は多い方がいい。」
 ファルデウスの一声と共に、それぞれが塔内部の別の位置へと移動する。

 ―――この時、燕青は別の可能性を考えていた。

「kuAAA――!」
 迫る獣の腕。
 背後を取られた。
 防御は間に合うが、ダメージは避けられない。
「ぐぅ!」
 強烈な一撃を喰らう。
 燕青はその過程で確信した。
 これは―――気配を遮断しきっている。
 己の姿を、自己ごと透明にしている。

「がはぁっ!」
「燕青!」
 衝撃で壁に叩きつけられる燕青。
 防御した右腕を切られ、傷口から血が滴る。
「ああくそ……!!」
「燕青!」
 負傷した燕青にフィオレが駆けつける。
「気を付けろよ、あいつは自分の気配を消す天才だ。まるで透明マントを着た敵と戦っている気分だ、しかも……。」
「透明の間は、攻撃が効かないし呼吸音もしない。厄介な相手だな本当に。」
「ちょっ……シャルル!?」
 シャルルマーニュもあの後、例のシュレディンガー・ビーストによるダメージを喰らっていたようで鎧や肌に傷がついている。
 超高度な気配遮断能力。
 自己すらを透明にし、姿かたちを完全に消す力。
 それでいて、スピードも相当のものかつ攻撃の際の威力は英霊にダメージを食らわせるほど。

 この能力は、あまりにも厄介だ。
 だが、諦めるわけにも逃げるわけにもいかない。

「そう、ですか。なら……!」
 フィオレは、何かを決心した。
 まず、自身の武装―――ブロンズリンク・マニピュレーターを起動させる。
 そして―――壁に背を向け、何かを感じ始めた。

 サイロは高さもさることながら広さも相当のもの。
 ちょっと大きい学校の体育館程はある。
 誰が、どこにいるかは壁に寄りかかり、そこから周囲を見ればある程度はわかる。
 だが、現在フィオレがやっているのはそれとは正反対。
 壁の方をみて、ただひたすらに待っている。

 ―――にたり、にたり。
 あいつ、俺の餌になりたいのか。
 さっきの男じゃ足りないと思っていた。
 ちょうど、腹が減っていたところだ。食ってやろうか。

 愉悦と空腹、獣の本質と共にシュレディンガー・ビーストは構える。
 何、大したことはない。
 ちょっと油断したあいつの背中を切り裂くだけだ。

「やっぱり、そうですか―――!」
 その刹那、フィオレの武装の腕が―――迫る獣の腕を掴む!
 このシュレディンガー・ビーストには『視覚に入れていない相手を背中から攻撃する』という攻撃上の癖があった。
 これこそ獣の悪癖。即ち弱点。

「掴んだ!」
 マニピュレーターの腕の一つが、迫りくる獣の腕をがっしりと掴んだ。
 剛力を持つ獣とて、手首をつかまれては振りほどくのに必死だ。
「私だって、足手まといになるためについてきたわけじゃないんですから!」

7人目

「Dr.ゲロの孫とスーパーヒーロー」

 ――レッドリボン軍。かつて、世界征服を企んだ史上最悪の軍隊である。
その総帥・レッドはドラゴンボールによって身勝手な野望を叶えるために悪逆の限りを
尽くしていた。
しかし、それにたったひとりで敢然と立ち向かった、勇敢なる者がいた。その名は……

「たああああああああああああああああ……りゃああああああああああああああッ!!」

 伸縮自在の如意棒を携え、空を縦横無尽に飛び回る筋斗雲に跨り、
常人を凌ぐ戦闘力と体術で以って、レッドリボン軍の並み居る強敵たちをぶちのめす、
尻尾の生えた不思議な少年、孫悟空。
彼の活躍によって、レッドリボン軍は壊滅。その名は歴史の闇に消えたかと思われた。

 だが、悪の根はまだ潰えてはいなかった。レッドリボン壊滅から落ち延びた
狂気の天才科学者、Dr.ゲロは組織の復讐と孫悟空抹殺の一念のみに心血を注ぎ、
永きに渡る潜伏生活の傍ら、研究に没頭し続けた。

 ピッコロ大魔王の復活。世界の強者たちが集結する天下一武道会。
戦闘民族サイヤ人の強襲。宇宙の帝王フリーザとその父・コルド大王の到来……
地球を震撼させる数々の死闘を勝ち抜いた悟空たちの戦闘データを採取、集約し
究極の戦士を生み出す計画……それこそが、Dr.ゲロの最高傑作「人造人間計画」だった。

 未来からやって来た戦士、トランクスの出現によって生じたタイムパラドックスによって
現代へと出現した人造人間セルは、人造人間17号、18号を吸収する事で
強力無比な完全体となってしまう。だが、悟空たちは多くの犠牲を払いながらも、
これを撃退。今度こそレッドリボン軍は完全にその活動を停止したかに思われた。

 しかし、レッド総帥の遺子、マゼンタはレッドリボン軍を製薬会社に偽装し、
秘密裏に組織の復興と再編を進めていた。セルの撃破の後、さらなる強敵、魔人ブウ。
そして現在ではCROSS HEROESのメンバーとして着々と強さを極め続けていく孫悟空を
倒すには、かつてのセルを超える存在を生み出すしか無い。
Dr.ゲロも死に、通常兵器で武装した程度のレッドリボン兵では悟空たちを倒す事は
不可能である事は明らかであった。そんなマゼンタには、さらなる悩みのタネがあった。

「に、21号の奴……好き勝手にやりおって……」

 マゼンタとその秘書、カーマインがモニターを通じてその光景を見守っていた。
スパイロボットが撮影した映像。それは、かのバードス島で勃発した
Dr.ヘル軍団とCROSS HEROESの最終決戦の一幕。アナザーワールドから出現したセルを、
人造人間21号が捕食する光景だ。

「消滅したはずのセルが姿を現したと思えば、事もあろうにそれを食ってしまうとは……
化け物め……!!」

 Dr.ゲロの妻・ボミは自らの身体を改造し、最新最強の人造人間・21号となって
ある日突然姿を現した。しかし、マゼンタやDr.ゲロのような旧体制の考えには
一切の興味を示さず、Dr.ゲロが生前に使用していた研究施設を占拠し、
さらにはメサイア教団らとのコネクションを独自に提携。
実質、21号が掌握する派閥と、マゼンタが掌握する派閥は真っ二つに分断していた。

 マゼンタ派は、伝統的なレッドリボン軍の理念を継承しつつ、
孫悟空への復讐を至上主義とする集団だ。リーダーのマゼンタは
冷静かつ計算高い戦略家であり、組織の効率化と戦力強化に重点を置いている。
彼の支持者たちは、軍の規律と戦闘力を重視し、21号の存在とその不安定な要素を
警戒していた。

 一方、21号派は彼女を中心とした新興勢力だ。
21号は高度な知能と強力な戦闘能力を持ち、その独自の哲学と目標を掲げている。
彼女は、自身の存在意義と野望の追求を目的とし、
その過程でレッドリボン軍の資源と技術を利用しようとしている。
21号のカリスマ性と革新的なビジョンに引き寄せられた支持者たちは、
彼女の計画に賛同し、旧体制に挑戦する姿勢を見せていた。

「そうですね、マゼンタ様。彼女の行動にはまだ未知数の部分が多いです。
更なる監視と制御が必要です」

 カーマインの言葉にマゼンタは静かに頷き、モニターに映る21号の姿に視線を戻した。

「だが、21号は強い……現状の我々では手も足も出ないだろう……」
「それについては、考えがあります。『彼』の所在が判明しました」

「何!? 本当か!?」
「はい、Dr.ゲロの孫……かの天才科学者の血を受け継ぎし若き才能……
それを我々の傘下に加えれば、セル、そして21号をも上回る戦力を生み出してくれるに
違いありません」

「ふ、ふふふふ……ようし、いいぞぉ……早速奴をスカウトに向かう。
それで、今何処に!?」
「ニューヨーク、だそうです……」


 ――ニューヨーク。

 夜、ネオンが輝く街並みを歩く青年。Dr.ヘド、
かつては科学界の天才と称されながらも、誤解と陰謀に巻き込まれて犯罪者とされた男。
突然、静寂を破るように、蜘蛛の糸にぶら下がって、彼の前に降りてきた逆さまの人影。

「ハイ、元気?」

 スパイダーマンが現れ、軽快な声で問いかけた。

「ほ、本物だ。TVで観たそのまんまだ。ハイ、スパイディ。君に会いたくって、
ドラゴンワールドからニューヨークまで来たんだ。サ、サインをいただきたくて!」
「ドラゴンワールド? あぁ、結構ここから遠いって聞くよね。
それなのにわざわざ来てくれたんだ。だったらサインくらいお安い御用さ」

 ヘドの頼みを快諾したスパイダーマンは、蜘蛛の糸でぶら下がったまま
手渡された色紙に器用にサインを書く。

「あ、あと、へ、ヘド君へ、って書いてもらえます?」
「OK!」

「いやあ、感激だなぁ。僕、スーパーヒーローに憧れてて! 
君の事を初めてTVで見た時、ビビって来たんだよね。最高にクールでイカしてる
スーパーヒーローだって!」
「凄い褒めるじゃん……もしかして君にも、スパイダーセンスがあったりとか?
なんてね、ハハハ……さあ、書けたよ」

 スパイダーマンのサイン色紙を見つめるヘドの瞳は、キラキラと輝く少年のようだった。
あのDr.ゲロの孫であるとは、どうにも思えない。
彼がスーパーヒーローへ注ぐ情熱は、本物であるようだ。

「夜のニューヨークはあまり治安が良いとは言えない。宿を取ってるなら、
早めにチェックインした方がいいよ。それじゃあね!」

 そう言うと、スパイダーマンは振り子のように蜘蛛の糸を揺らした反動で
ビルの屋上へと達し、連続で発射した蜘蛛の糸伝いにビルの谷間の暗闇へと消えていった。

「スパイダーマン……やっぱりカッコいいや……ニューヨークならテリーマンにも
会いたかったな……今は何とかって組織に協力してんだっけ……」

 スパイダーマンの姿が見えなくなるまで、ヘドはその場に佇んでいた。
その脇の路肩に、高級車が停車する。運転手はカーマイン、
そして後部座席の窓が開く……

「Mr.ヘド?」
「……そうだけど。アンタ、何?」

「私はマゼンタ。君の類まれなる才能を必要とする者だよ。
悪の魔の手から正義と平和を守るヒーローを探しているのだ」
「……へえ?」

8人目

「昏炎魄喰:第Ⅰ実験棟『不可視念魔獣-シュレディンガー・ビースト』 その3」

 魔獣の爪をすんでのところで止める、魔術機械の腕。
 その身体は強引に宙に浮かぶ。
「今です!」
 フィオレの号令と共に、周りの戦士たちが一斉に攻撃を開始する。
 シャルルマーニュの剣戟が、リクの魔術が、ファルデウスと霧切の銃撃が、魔獣の身体を傷つける。
「Grraaa―――――――!!」
 再び、高音の悲鳴を上げる。
 しかしてフィオレは、その鉄の腕を決して離さない。
「まだああああああ!!」
「Giiiii―――――!」
 拮抗する筋力と機構。
 決して離すまじ、とその機械の腕に魔力と出力を籠める。
 だが、いつまでも拘束できるほど、この魔獣は甘くない。
 やがて魔獣は身体をゆらして地面に強引に近づき、脚が届く距離で地面を蹴り己を吹き飛ばすことで強引に拘束を解いた。
 拘束解除と吹き飛んだ反動でフィオレも倒れる。
「痛っ!でも、これで……。」
 彼女は予想していた。
 あれだけのダメージを受けたのだ、出血は確実。
 であるのならば、例え透明化していようとも位置は分かるはずだと踏んでいた。

「また消えた!」
 己が異能で三度姿を隠した魔獣、シュレディンガー・ビースト。
 あれほどの攻撃を受けてもなお斃れないタフネス。
「血は……あるけど……。」
「放っておくと透明になるか……!」
 零れ落ちる血液すら時間経過で透明になるという異常。
 これでは、もたもたしているとどこにいるかがわからなくなってしまう。

『第Ⅰ実験棟沈没浄化まで、残り10分、当該職員は―――』
「これは、急がないとな……。」
 だが、魔獣以上に憂慮すべきは非情な『沈没宣言』。
 この言葉が事実なら、10分後には全員お陀仏。
 そう思った8人は、ドアに背を向けながらゆっくりと後ろに下がり、ドアの方向へと移動する。
 ―――外に出れば、あの獣はどうなるか。
 普通に考えれば、追ってくるのが妥当。
 幸い、魔獣の大きさとドアまでの距離を計算すると塔からの脱出までは何とか間に合う。
 まだ消えていない血痕の位置も、対岸からはまだ動いていない。
 急ぎつつ、されど確実にドアまで移動しようとする。
「!?」
 突如、バンと爆発音がした。
 血痕の落下速度を振り切る速度での移動か?
 一同は戦慄した。
 まだドアまでの距離はある。

「………………。」
 ――――8人の中では、ファルデウスが一番ドアに近い。
 しかし彼は人間。人並みの対恐怖心しかない。
「急ぎましょう。今、ドアを開けます。」
 恐怖と緊迫心、そしてドアノブに触れ後は開けるだけ、という安心感のあまり――――背を、向けた。
 だが、その一瞬を、魔獣は見逃すはずもなく。
「ここまでくれば―――。」
「あッ、駄目だッ!」
 燕青の制止、だがもう遅い。
「Gaaaaa――――!!」
 してやったり、と唸る魔獣。
 鋭い牙をむき、その剛腕を振り下ろさんと迫る。
「何ィィィイイイイ――――ッ!!」
 先ほどの爆発はブラフ。
 移動したと思い込ませて恐怖心をあおり、背を向かせるためにわざと起こした壁面への一撃。
 唐突の出現、急激に迫る死の一撃。
 戦慄する。
 恐怖で、身体が硬直しそうだ。
「ファルデウス!」
「しまった!!フェイントかッ!」
 咄嗟の判断で拳銃を向けるファルデウス。
 しかし、構えたはいいが攻撃まで間に合わない。
 どう足掻いても先手は魔獣がとってしまう。
 このままでは、確実に胴を裂かれる。

「――――しゃがめ!」
 咆哮交じりの絶叫。
「なっ!」
 そして、放たれる銃撃。
 攻撃に専念するあまり、防御をおろそかにした魔獣は、この威力に耐えられずに吹き飛んだ。
「だ、誰が……。」
 ぱらぱら、と硝煙に包まれるファルデウスは、誰が撃ったのかと周囲を見渡す。
 撃ったのは、超高校級の絶望――――江ノ島盾子だった。
「はぁ……はぁ……ふぅ……危なかった……。」
「あ、ありがとうございます……でも、なぜ?」
 ファルデウスの問いに、江ノ島は当然のように答えた。
「……あたしら、協力するんだろ?これくらいはしないとな。それに、さ。無実と正義を証明するならこうするしかない。行動で、示すしかない。」
「そうですか。浄罪の意思を行動で示すという行為は納得です。」
 納得するファルデウス。
「………。」
 対する霧切の顔は……怒っているのか悲しんでいるのか、まだわからない。
 その胸中は混沌としていて、彼女にすら理解できていないのだろう。

「……で、奴は。」
「Shhhhhaaaaa――――――Shhhhuuuuuaaaa―――――」
 壊れかけの蒸気機関のような、或いは沸騰した湯の入ったやかんのような音を立てる魔獣。
 その左目はつぶれ、あのダメージでは透明化はできてもしばらくは動けない。
 隙をつき、8人はそそくさと塔を出た。

9人目

「暗黒魔界へ向けて:アビィその4」

僕の存在意義の、証明。
そんな大それた命題に対して、僕は何処へ行けばいいのだろう?
自分探しなんてなにをすれば良いのか分からないし、なんなら僕という存在自体はどこにもいるのだから、全くもって当てが無い。
僕だけが行える特別な何か、なんて物もある訳では無い。
ただ思考がちょっと違うだけなのだ。
目に見えた違いなんて無いのだから、証明なんて出来る訳がない、と思考を放棄しそうになる。
これではいけないな、と今一度考え直してみる。
他と同じでも良い、まずは自分が何を出来るのか、把握する事に努めよう。
幸い、自分には無限の時間がある。

同胞が行える事について考えてみよう。
僕等はアニメじみた木のハンマーをシンボルとして、様々な発明を創り出せる。
家や武器を初め、様々な科学の髄を凝らした力を振るう事が出来るのだ。
果てはバズーカやらミニガン、ロボットに至るまで。
それは世界のルールに則った上での力だが、改めて考えると出鱈目だ。
自分の好きな様に生み出せ、尚且つ思い通りの出力を体現する。
所謂チート能力というもので、実に便利な代物だ。
大抵の事にはこれで対応可能だ。
そもそもこの世界では何でもやりたい放題なので、それに合わせて出来る様になったと解釈すべきか。

困った、既に万能じゃないか。
早速出てきた自分個人の存在意義を曖昧にする命題に、頭痛が痛い。
まぁ、それは一先ず置いておこう。
逆に考えよう、僕等にはこれだけの事が出来るのだ、ならば僕にしか出来ない「後一歩(プラスウルトラ)」がある筈だと。
例えば、僕の権能が世界を救うとか、世界の謎を解明する鍵となるとか、そんな大それた事じゃなくてもいい、身近な何かが。
そんな訳で、自他を観察して些細な事からこつこつと検証していく事にした。

そうして、僕なりに考えた結果、一つ思い当たった事がある。
僕が興味を持って調べたものの中には、まるでファンタジーの物語めいた状況を作り出す事象が数多くあったのだ。
普通では叶えられない空想上の望みを描くを現出させる力、と何となく思っていたが、幾ら何でも出来過ぎではないか?
或いは、限界が無いのか?
そんな考えに行きついた時、気付けば己の権能に興味が移っていた。
或いは、その権能の有用さに気付いた自分に酔っていたのかもしれない。
_よせば良かったのに。



「な……!?」

走る衝撃。
漏れる驚愕。
喉の奥底から絞り出された、苦渋の籠った言葉。
そこから出された、予想だにしなかった真実を前に。
慟哭が、場を支配する。
それも当然だった。

「命を奪って、使う…ッ!?」

露わになった真実は、命ある者にとっては到底受け入れがたい代物だった。
命を弄ぶ。たったそれだけの短い言葉が持つ悍ましさを、人は誰もが知っている。
故に受け入れがたく、呆然と聞き届ける他無かった。
そのまま、アビィは続ける。

「言い訳する訳じゃないけど、最初は力の事なんて知らなかった。変わったと気付いたのは、思考の方。」

再び、側頭を指先でトントンと叩く。

「初めは喜んだよ、他とは違うんだって。哲学や存在意義を考える事なんて、周りは理解も示さなかったからさ。」
「本当に、仮想の命だったって訳か。」
「まぁ、何も無ければ似た事を繰り返す存在だからね。」

何とか声を絞り出した妹紅に、アビィは沈静した様子で答える。
顔にも、段々と焦燥の色が浮かんでいく。

「だからだろうね。」

そうして遂に、声色が変わる。

「その内、僕は僕を特別だと思い込んだんだ。」
「っ…」

語る口ぶりは、懺悔の如く。
急落したトーンに、負の気迫に、月美が思わず息を飲んだ。

「すっかり気取っちゃった僕は、旅に出たりなんかしてさ。」
「旅って、自分探しとかか?」

妹紅が尋ねると、アビィは目線だけ向けて答える。

「そうさ。僕だけの使命とか義務がある筈だって。」
「そっか、私も同じ_」
「_けど、そんな馬鹿な考えで…!」

ギリッ。
不意に鳴ったのは、腕を深く握り締めた、軋む音。
ポタリと音がして気付けば、アビィの掌から一筋の血が流れてた。

「あっ…」

アビィの顔に影が差し、歯をくいしばる音が鳴る。
その音が誰の物かなどは、語るまでも無く明白だろう。
同じ境遇と早とちりした妹紅は、己を恥じて口を噤む。
そうして少しの沈黙の後、前を向いたアビィの顔には諦観が浮かんでいた。

「_自分の身体が狂ったのは、すぐだったよ。」
「狂った?」
「うん、日を段々と凍える様な飢えが湧き出てさ。しかも、何を食べても満たされないんだ。」
「満たされない…?」

「けど、それ位なら…」
「本来なら、別に何も食べなくても良いんだ。食事は、あそこでは娯楽だから。」
「えっ…?」

食事は娯楽。
その台詞を聞いて、月美達はこのアビィという存在に一層の異物感を覚える。
実際、本来なら現実と交わりはしない異物なのだ。
その認識は正しい。

「こんな諺があったな、『現実は_」
「「『小説より奇なり。』」」
「ハハッ、考えてる事は同じみたいだね?ま、仮想世界の話だけどさ。」
「お前…」

台詞を被せてきたアビィに、ペルは何か言い返そうと口を開き。

「…ハァ。まぁ、良い。」
「そっか。」

焦燥し切ったその顔を見て、やめた。

「そのまま餓死するんじゃないかって、倒れた時だったんだ。同族に見つかったのは。」
「同族、ですか?」
「あぁ、あの世界じゃ何処にでもいるよ。氷山だろうが火山だろうが、砂漠の真ん中でもね。」

相も変わらず嘘の匂いがしない、とペルは確信する。
改めて、彼の語る仮想世界の突飛さ加減が逆に分からなくなるという物だ。
御伽噺でも、ここまでは行かないだろう。

「まぁ、とにかく心配してくれたんだろうね。手を差し伸べてくれたよ。」

そうして助かった、普通ならそう終わるだろう。
だが、アビィが浮かべる表情からはとても「めでたし」なんて締めくくりが出るとは思えなかった。
深く沈んだ目付きからは、寧ろここからが本番だと言わんばかりに。
重い剣幕に息を飲むしかない月美達に向け、アビィは続ける

「_それを見て、僕はどうなったと思う?」
「どう…?」

いまいち要領の得ない質問に、オウム返しをする月美。
そんな反応さえ分かってた口ぶりで、アビィが答える。

「飢えがさ、一層湧き立ったんだよ。なのに、身体は自然と軽く感じてさ。」
「え?」
「まるで、断食した後に御馳走を見せつけられた気分だったよ。そうさ、食欲が止まらなくなったんだ。」

アビィの語った言葉に、思わず言葉を失う月美。
思い返すは、先程告げられた『命を奪う』と『同族殺し』の言葉。
そこから導き出される結論が脳裏に浮かんだ時。
不意に、一筋の汗が頬を伝う。
暑さのせいでは無い、ここは日も碌に差さない竹林だ。
それが一滴、足に滴り落ちた時。
ピクリと動いた月美の口から、言葉が漏れる。

「…もしか、して。」
「_喰ったよ、同族を。」
「_。」

今度こそ、失語症めいて言葉を失う月美達。
悪い予感は往々にして的中する物だと、思い知った。

10人目

「刀匠・千子村正」

――回想――

『死中に活を見出だす……! 
ぜやああああああああああああああああああああああッ!!』

 神霊・アマツミカボシにその身を乗っ取られ、暴虐の限りを尽くす天宮彩香を止めるべく
この世に断てぬものなしとされる秘剣・斬鉄剣による全身全霊の居合を放った石川五ェ門。
激しい戦いの末、アマツミカボシを退け、彩香を解放する事に成功したものの、
斬鉄剣は粉々に砕き折れてしまった。

 CROSS HEROESに別れを告げた五ェ門は、己の未熟さと向き合うため、
斬鉄剣を修復するべく再び放浪の旅に出る……

『斬鉄剣よ。この手で再び蘇らせるため、どこまでも行こう……』

――現在――

 五ェ門は、斬鉄剣を修復できる唯一の人物とされる鍛冶の名匠を探す旅に出る。
彼は各地を巡り、古い伝説や噂を頼りに名匠の居場所を探し続ける。
古い神社や修験者の元を訪れ、斬鉄剣修復の手がかりを集めていた。

「刀匠の居場所は伝説だ。険しい山奥に隠れ住んでおると聞くが、
簡単には見つけられぬだろう」
「長老、ありがとうございます。必ずや見つけ出し、斬鉄剣を修復してみせます」

 伝説の刀匠の鍛冶場が険しい山奥にあることが判明する。
しかし、その道中には様々な試練が待ち受けていた。

「この試練を越えなければ、斬鉄剣は蘇らぬ。覚悟を決めるしかあるまい……」
「お前のような侍がここを通れると思うなよ! 喰らってやる!」
「グケケーッ」

 五ェ門の前に立ち塞がるのは、この世のものとは思えない悪鬼羅刹、
魑魅魍魎の類であった。

「斬鉄剣が折れたとしても、拙者の魂は折れぬ。ここを通させてもらう! 退けいッ!!」

 五ェ門は鬼や魔獣と戦いながら、少しずつ刀匠の鍛冶場に近づいていく。
そしてついに、刀匠の鍛冶場に辿り着いた五ェ門。

「ほう、こんな山奥まで足を運ぶ物好きがいるとはな。
儂(おれ)ァ、俗世から離れて暮らしたいってんで、ここに庵を構えてたんだがな。
ここに来る道中には何処からとも知れねえ化け物が湧いていたと思うが、
その様子だと返り討ちにしてきたようだな。それも五体満足で」

 五ェ門の前に現れた刀匠は容姿こそ年若い、筋骨逞しき赤毛の青年であったが、
その口調や佇まいの節々からは老獪さを醸し出していた。

「刀匠……千子村正殿とお見受けする。貴殿にこの……斬鉄剣の修復をお頼みしたい」

 差し出された斬鉄剣の残骸を目の当たりにし、村正の表情が変わる。

「こいつぁ……大した刀じゃねえか……それでいて、
よくもこれほどまでにズタボロにしたもんだ……一体、何を斬ればこうなる?」
「拙者にも定かではないが……少女の身体を傀儡とする、神……そう聞いた」

「神、と来たか。くっ、ははははは!! 気に入った! 素っ頓狂な話だが、 
この刀がすべてを物語っているさ。神さえ、宿業さえ断つ一刀……アンタのような侍、
いつぞやにも見た気がするぜ。任せな、この儂が精魂込めてこいつを叩き上げてやる。
鍛造無限の如く、千の刀を超えた先の、究極の一刀をな!」
「宜しく、お頼み申す……!!」

11人目

「昏炎魄喰:第Ⅰ実験棟『不可視念魔獣-シュレディンガー・ビースト』 その4」

 走る、走る、走る。
 塔の外へと向かって、走る。
 敵は不可視の魔獣。傷は負わせたが、異形で未知故いつ復活するかもわからない。
 その上、不運が畳みかけるようにこの島を一時的に沈没させると来た。
 ならば、とっとと脱出するしかあるまい。

「あと少し……!」
 塔の入り口は目の前。
 怪物が追ってくる様子はない。
 8人は塔を飛び出し、外の広場へと飛び出したのだった。



 塔の外は、依然何の変化もない。
 あと数分で今立っている場所が沈むというのに、何も変わってない光景に違和感と謎のモヤモヤすら覚える。

『第Ⅰ実験棟沈没浄化まで、残り7分、当該職員は至急避難してください。』
 だけど、非常に告げられるアナウンスが現実だと引き戻して来る。
「ああ、エレベーターが……。」
 さっきまで自分たちが乗ってきたエレベーターが、一時的に避難する。
 これでもう、少なくともこの島が再び浮き上がるまで自分たちは戻れない。
「あの先に門と橋が見えました。きっとその先に。」
 フィオレが指さした先にあったのは、鉄の門とコンクリート製の橋。
 崩れる様子はなさそうだが、門がある以上閉じられたら出れないしジエンド。
「あの先が中央の島か。」
「急ぎましょう。」
 8人は
 そんな最中、ただ一人、歩みを止める者が。
「……。」
「どうしました?霧切。」
 霧切響子。
 さっきから様子がおかしい。
 死んだ目で、何かを呪いのようにつぶやいている。
「……た。」
 ファルデウスは、そんな霧切を心配する。
「……え?」
 よく聞くと、それは。
「江ノ島盾子。なぜ助けた。」
 彼女の、江ノ島盾子への問いだった。

 それは先の塔での一件。
 油断した仲間ファルデウスに迫る魔獣の一撃を、江ノ島はすんでのところで助けた。
 そこまではまだいい。
 だが、問題は「なぜ助けた」ということ。
 自分の知る限り、この江ノ島盾子という女は―――悪だ。
 それも、度し難い絶対悪のはずだ。
「それは……。」
 霧切から視線を逸らし、曇った顔で答えようとする。
「答えろ江ノ島!!なぜ!なぜファルデウスを助けた!!それで反省のつもりか!!」
 慟哭が如く吠える。
 絶望を吠え、復讐を謳う。
「そんなの……仲間だからだよ。仲間を殺す馬鹿がどこにいる。」
「黙れ、あんたなら平気でやるだろうが!何せあんたは……!!」
 眼の中に燃える、昏き炎。
 憎悪の火、絶望の焔。即ち―――讐理の炎。
 その炎の前には、一般常識は焼き尽くされよう。
 超高校級の絶望が、仲間を助けるわけがない。
 希望ヶ峰学園爆破事件の容疑者が自分たちに恩を売る理由なぞ、後で自分が罪に問われないようにするためのアリバイ作りか、単なるつまらない命乞いだ。
「霧切、聞いてほしい。あたしは学園を爆破なんかしていない。もし爆破をしているというなら、そいつは別人だ。」
「じゃあ何が、誰がそれを証明する!?」
「……それは。」
 一方的な、口論。
 江ノ島はただ、何と答えればいいのかが分からず。
「ちょっと待って霧切ちゃん、よく聞いてほしいんだ。江ノ島ちゃんの言っていることは……。」
 学園爆破事件の真相を知るデミックスが2人を止めようとするも、2人は言い争いをやめない。

「―――――!!」
 もう、時間切れだった。
 この高音の唸り声を、8人が忘れた訳じゃなく。
「どうやら、喧嘩している暇はなさそうだぞ!」
 シャルルマーニュの一声で、2人は言い争うのをやめる。
「まさか……もうかよ。」
「……くそ。」

「Gaaa―――――!!」
 塔の玄関を飛び出て、魔獣シュレディンガー・ビーストは出現する。
 江ノ島が撃ち、大いに傷つけたはずのケガも動けるくらいまでには治っていた。
 先の兵士の遺体を喰らいながら、再びその姿を消さんとしていた。

「もう治ってやがる……。」
「今度は間違いなく倒す。」
 シャルル遊撃隊の4人が、魔獣に向けて武器を向ける。
「燕青。」
「おう、こっちも腕は大丈夫だ。」
 燕青とフィオレも準備が出来たようで、各々武装と拳を構える。
「霧切さん、行けますか?」
「ああ、全て殺す。」
 SPMのファルデウスも銃とナイフを構える。
 そして―――同じように銃を構える霧切の目には、依然黒い焔が揺らめいていた。

『第Ⅰ実験棟沈没浄化まで 残り5分30秒』

12人目

「暗黒魔界へ向けて:アビィその5」

自分の能力なのに、分からない事が多過ぎる。
この現状を打破するには、法則を明確に理解するべきだろう。
何事も、法則があって事象が成立する物なのだから、と。
僕なら何が出来るか。どんな法則を扱う事が出来るのか?
一先ず、自分が何をどこまで出来るのか、その限界を知る為にひたすら自分を試し続けた。
自らが起こす事象を検証し、法則性を見出す。
地道な検証を繰り返す事こそ、一番の近道なのだから。
_進む先が、地獄の一丁目とは知らずに。

そうして改めて己の能力を見た時。
本当に何が出るか分からないという感想しか浮かばなかった。
気が付けば、まるで息をするかのように摩訶不思議な能力を行使しているのだ。
米を使わず餅ができ、木槌を振るえば科学が進む。
もう自分自体が何なのかを考える事すらままならない、無心の境地だった。
そんな中でも能力を使う内に、いくつか法則性を発見しながら検証する事も一応は出来た。
それでも事象の出鱈目さが上回っているので、これといった完全な方程式を見出す事は出来なかったが。
_この時からそういう物だと割り切っていれば、或いは。

気が付けば、幾月もの月日が経っていた。
周りには相変わらず変わり映えのない日常が訪れ、特段何かの変化があった訳でもない。
でも、僕の中に漠然とした不安は残っていた。
いや、焦燥感や恐怖といった感情が徐々に心の中を占めていったと言っても良いだろう。
別に成せなければ死ぬ訳でもないのに、何を恐れているのか、と。
明確な兆しも見えぬ自分の存在への空虚感が、果てしない威圧となって圧し掛かっていたのだと思う。
_それ自体が兆しだと、何故気付かなかったのだろう。

先が見えない。
ただそれだけの事が不安で仕方が無く、いつしかそんな事ばかり考える様になっていた。
そんな僕は気晴らしに、なんて事を考え、思い立ったら即行動だとばかりに自分探しの旅を始めた事を覚えている。
と言っても、宛ても目的もないけれど。
何処かで事件が起こってる訳でも、何かが危機に晒されている訳でも無い。
ベタ塗りの緑と青に染まった世界。
出来過ぎた平和だと、今でもそう思っている。
そんな世界で何かを探そうと彷徨う自分は、さながら世界から浮いているようだ。
実際こんな異質な行為に走ってるのは、世界広しと言えど自分のみなのだから。
_どうしてここで、自分の奇行を止めようと思わなかったのだろう。

無論、同族からは奇妙な物を見る目を向けられた。
誰一人、事情を知った者は例外無くだ。
別に悲しくはなかった。でも段々と不安は募っていく。
僕という自我は何の為に生まれたんだろうという、そんな疑念。
いよいよ以て頭を抱えた僕は、いっそ初心に帰ってと、彼等の真似事を始めた。
難しい事は何も考えず、身の回りの事象に疑問を抱かず、のほほんと過ごす。
だが上手く誤魔化せたのは最初だけ。
後はもう、一度点いた周囲の何某に対する好奇心を抑えるだけの息苦しい日々に早変わりした。
考えるな、疑問を抱くな。そう言い聞かせても止まりやしない。
一度生まれた物は、そう簡単に消えないのだろう。
やがて自我を見失いかけて、遂には同族からの奇怪な眼差しを振り切って、世界中を駆け廻った。
何処かで必ず、自分の存在意義が見つかると信じて。
_見出さなければ、防げたのかもしれないのに。



「……」

呆然。
ただ、沈黙するのみ。
そうまでさせる程の衝撃が、アビィの言葉に秘められていた証左である。

「手を引っ張って、漫画みたいに口をかっぴらいてさ。無心で貪ったよ。でも、一瞬だったと思う。」

予想を遥かに超えた惨状を、月美達は想像する事が出来ない。
いや、したくないというのが正しいだろうか。

「漸く腹が満たされた感覚を覚えてさ、でもさっきまで口の中に広がった味が忘れられなくて、欲求は膨れ上がるばかりで。」

だが、アビィは尚も明瞭に委細を伝え。
それが想像を後押しし、軽い吐き気をも齎す。

「『ソレ』を満たす為の手段は、周りにいて。」
「お前、まさか。」
「当たり前だけど、仲間が喰われたのを皮切りにあちこち逃げたよ。けどそんな時に僕は、碌でもない事を思ったんだ。」

すっかり落ち切ったトーンで語られる惨劇を、ただただ傾聴するばかり。
そんな、鉛の様な重い空気の中で、アビィは告げる。

「『逃げるな、喰わせろ。』って。」

_その眼は、ただひたすらに黒く。
紡ぐ言葉は、正気の沙汰とは思えなかった。

「そしたら、手に足に蒼い炎が点いてさ。驚く間も無く、身体が動いて。」

不意に、胸の前に浮かべた両の手を見降ろすアビィ。
普段から焦げた様な色味のグローブに覆われている両手。
ソレが一瞬、月美達の眼には、血濡れた手に映り。

「っ!?」
「気付いたら、次の同類に手が届いてたよ。1秒と掛からずね。」

_グシャリ、と。
掌が握り締められた瞬間、手の内から赤い何かが飛び散った様な。
そんな嫌に鮮明な幻覚を、月美達は見た。

「そこからは、あんまり覚えてない。けどあれだけの飢えがすっかり消えていたから、分かったよ。」
「…他の、仲間も?」
「_うん、誰も居なくなっていた。無事に逃げてくれた、なんて思ってはない。」
「っ…!」

青ざめていく月美。
薄々そうだろうとは感付いていた。
だが実際に語られる事から来る慟哭は、やはり受け止め難い物がある。

「_寧ろ、全員…」

やはりと言うべきか、返ってくるのは想像通りの解答。
今一度、悪い予感という物は当たる物だと思い知った。

「_。」

少しばかりの沈黙が訪れ。
やがて諦めた様に、アビィが重々しく口を開く。

「皮肉だよね。平穏の中で手に入った『特別』は…『ただ殺し続ける力』だったんだよ。」

ソレは、誇示するには余りにも悍ましい代物。

「命を奪って糧にして、その力で、次の命を奪う。」

語る口調はさながら罪の自白、或いは協会での懺悔が如く。
鉛の如き背徳感を孕んで、吐き出される。

「全ての命が尽きるまで終わらない、殺戮機構。」

_まさしく、終わりなき地獄の体現。
生き続ける限り、命を踏み躙る存在。

「ソレが、僕の正体だ。」



_殺した。
ただひたすらに飢えを満たした感覚。
覚えているのはそれだけだった。
辺りには無数に散らばって途切れた足跡と、端々に刻まれた一際深い痕が幾つか。
後は何も無い。
だが、証拠としては十分過ぎた。
あぁ、解っている。
これが惨事で、悲劇で、虐殺で。
どうしようもない、自分への報い。
_愚かしい罪を犯したが故に背負うべき、業だと。

13人目

「昏炎魄喰:第Ⅰ実験棟『不可視念魔獣-シュレディンガー・ビースト』 その5」

 数分後の沈没が決定された島にて、魔獣シュレディンガー・ビーストの咆哮が轟く。
「―――――――!」
「ぐぅっ……!!」
 頭が割れそうな咆哮。
 8人がひるんだ隙を、魔獣は見逃すはずもなく。
「Gaaa―――――!」
 跳躍し、攻撃しやすい背後へと凶爪が迫る。
「消えたか!」
「後ろです。シャルルさん。」
 フィオレは、冷静に魔獣の特性を話す。
「恐らくあの魔獣は視線の外からしか攻撃できないんです。見られていると透明化するしかない。後ろからの不意打ちしかできない。」
 事実その通りだ。
 かの魔獣は視線の外にいる敵を攻撃する性質を持っている故、この行動はかの魔獣にとっては日常にして普遍的な行為だ。
「すごくかっこ悪い特性だな!?」
「卑怯も戦法の内、と言いますからね。戦術的に見れば有効だったりするんですよね不意打ち。」
「とにかく後ろを向いて門の前まで移動しましょう。魔獣の牽制は私がします。」
「わかった。もし魔獣を掴んだら教えてくれ。」
 8人は8人、それぞれ別々の方向を見ていた。

 ―――実はこの時、8人は戦術的ミスを二つ犯していた。
 一つ、沈没する島から避難する事に気を取られ、広い外に出てしまったということ。
 魔獣を倒す事を優先するなら、能力的に考えて狭い塔内部で戦った方が「」という点において有利だった。
 そしてもう一つは。
「Ghiiaaaaa――――」
 この魔獣の潜在能力を侮っていたことだ。
 ―――魔獣は反省し、考えていた。
 あの女の機械腕、どういう仕掛けかはわからない。というか興味はない。
 だが、近づいて食ってやろうと思ったら掴まれ、仲間に袋たたきにされてしまった。
 ならば、もうあいつには近づかない。
「Guuu……」
 あの中で最も不安定なもの。
 攻撃しやすそうな者から順番に狙い、傷を治して体力を回復してから他の連中を屠ってやろう。
 ――――で、あれば。

「Kaaaa――――!!」
 8人の中で最も精神が不安定な者―――霧切響子への攻撃は、必然の考え。
 どういう訳か魔獣は知らずとも、今の彼女は精神が不安定で攻撃しやすい。
 反撃も単調だろう。なら殺りやすい。
 そう考えた魔獣は霧切へとその爪と牙を向け、迫る!
「霧切ッ!!」
「―――――殺してやる!!」
 霧切は振り向いて拳銃を構え、数発魔獣の眉間目がけて銃弾を放った。
 恩讐の昏き炎に飲まれてもなお、霧切は気づいていた。
 振り向きその姿をとらえ、魔獣が姿を消すまでには若干のタイムラグがある。
 その隙を狙って攻撃をすれば、ダメージを与えられるはず。そう思って攻撃した。
「これで――――!!」
 だが、それは当たればの話。
「Giiiii―――――!!」
 その堅牢な爪で、迫る弾丸計6発を全て弾いてしまった。
 そして魔獣は姿を消し、再び背後に回り込む。 
「嘘!」
 背後に回って姿を現した魔獣。
 その爪を振り下ろし、背中を内蔵ごと撫で斬りにしようとする。
 もはや霧切に反撃の余裕はない。
「しまった!」
 周囲のみんなも、駆けつけても間に合わない距離。
 もはやこれまでか。
 誰もがそう思った。
「危ない!」
 ただ、一人を除いて。
「え……?」
 それは、仲間の一撃だった。
 悪意がないことは分かる。
 だが、事実として彼女はまた助けられた。
 霧切が魔獣の一撃を受けてしまう前に、仲間。ファルデウス・ディオランドが霧切を蹴り飛ばしその伸びきった脚に魔獣の爪を喰らわせた。
 要は、身代わりになったのだ。
「ぐあああ!!」
 痛みに悶えるファルデウスに、魔獣が畳みかける。
「リフレク!」
 それをリクが魔法で防御し、魔獣を再び後方に下がらせる。
 悔しいのか、魔獣は唸り声をあげた。
「Gaaaaaa――――!!」

「う……うぅ……、なぜ……?」
 その様子を、吹っ飛ばされた霧切は見ていた。
「大丈夫か?今治す。」
「何とかですが……、ありがとう。」
 リクの回復魔法で、ファルデウスの足のけがが治る。
 脚が何とか治った彼は吹っ飛ばした霧切に檄を飛ばす。
「霧切さん、再三言いますがまずは落ち着いてください!」
「でも……!!」
「……霧切さん、普段の貴方はクールな方だ。今ここで復讐心をあらぬ方向に飛ばしても、死んでしまった貴方のクラスメイト達は哀しむだけだ!誰も望みやしない!ここで怒りを燃やすことが、憎悪の炎で自分ごと燃え尽きることが、貴方の目的か!」
 叱責する。
 復讐の炎に飲まれつつある彼女に、己が言える限りの言葉をぶつける。
「!」
「呼吸を整えて、まずは冷静になってください。」
 そう言われた霧切は、まず荒ぶっていた呼吸を整えるように務める。
「うおおおお!!」
「喰らえ!」
「そこです!」
 その間も、魔獣と周囲の戦士たちが戦っていた。
 性質が分かったから、ある程度戦いやすくなったものの、一押しが足りないうえに島の沈没までもう時間がない。
 島の沈没まであと3分と10秒ほど、というところか。

「どうです、落ち着きましたか?」
「…………ありがとうファルデウス。少し、落ち着いた気がする。」
 ファルデウスの檄が届いたのか、黒く燃えていた霧切の目には若干の陽光が戻っていた。
 ゆっくりと立ち上がり、土を払いのける。
 深呼吸をし、己の荒ぶる精神を落ち着かせる。
 決意を新たに、姿を消しつつある魔獣を見据えて拳銃を構える。
「そして、怪物は今ここで倒す。」

『第Ⅰ実験棟 沈没まで残り3分』

14人目

「暗黒魔界へ向けて:アビィその6」

息を切らして走り続けた。
あの場から、同族から、自分の犯した罪から。
それ等を生み出した、己という存在意義そのものに対して、逃げる様に。
ただひたすらに認めたくなかったのだ、自分の力が齎す業を。
最早取り返しは付かない、そんな事はとっくに分かっているのに。
_心だけが、理解を拒んだ。

自分はいわば、この世界のガン細胞だ。
変異した結果、同胞を食らってでしか生きていけず。
それも尽きれば、死ぬだけの破滅的存在。
駄目だ、存在してはならない。
ならば、終わらせるしかない。
_決断は、一瞬だった。

僕は、飢え死にを選んだ。
ただひたすら堪えて、誰も居ない山奥で即身仏にでもなろうとしたのだ。
最初は飢餓感に苦しかったが、遺憾ながら一度体験した感覚だ。
一度峠を超えれば、後は感覚が麻痺して楽になる。
そうして意識が薄れゆき、死が近づく感覚に震えながらも同時に僅かながら歓喜を覚え_

_気付けば、誰一人居ない村の真ん中で意識を取り戻した。
周囲一帯に撒き散らされた、数々の傷跡。
転がる木槌の欠片、飛び散った食べ物。
ソレが意味する事を理解してしまった時、堪えようのない慟哭が胸を貫いて。
_みっともなく、泣き続けた。

つまり、なんだ?向き合い続けろというのか。
あんな悍ましい力と、ソレが齎す罪と?
そんなのは、御免だ。
僕は只、ちょっと自分を知れればそれだけで良かったんだ。
業を受け止める事も、背負う覚悟も持ち合わせちゃいない。
やめてくれ。もう、終わらせてくれ。
_こんな事なら、自分らしさなんて一生要らなかった。



アビィの口から告げられた、彼自身の本質と、罪。
彼女等の前へ露わになったソレは、醜悪としか言い難く。
上っ面の見た目や口調ではまるで誤魔化せない悍ましさを醸し出している。

「…ハハッ、酷いジョークだろ?これが『同族殺し』の意味さ。」

愕然とする一同を前に、アビィは乾いた笑いを零す。
それは自嘲の色を孕んだ苦笑。
諦観と憂鬱の入り混じったソレは、普段のイメージとのギャップを際立たせ、月美達に二の次の言葉を紡ぐ事を許さず。
ただ虚しい声だけが、竹林に木霊した。

「_あぁ、思い出したら…やっぱり笑えないや。」

やがてそれさえも止まり、感情の抜け落ちた顔で口を噤むアビィ。
完全な静寂が訪れる。
風音すらも何一つ無い世界。
その無音さが、否応無しに思考を集中させ、アビィの口から告げられた業について考えさせられる。

(同族、殺し…!)

正しく、邪悪。
彼の業を言い表すのならば、ソレこそが最も適当。
故に、取るべき態度は_

「アビィ、君…」
「お前…」

自然と拳を握り、僅かに片足を後ろへ。
そうして攻撃の構えを取る月美や妹紅。
紛れもない、敵意の顕れ。
意識して向けた訳ではない。
だが世界を脅かすであろう力を前には、寧ろ当然の反応だった。
嘗ての『超高校級の絶望』に向けられた嫌悪や憎悪の如く。
命ある者としての防衛本能が、無意識が、倫理が。
彼を敵として認めた証拠である。

「…そうだ、それが正しい反応さ。」
「_あっ。」

そして『そうなる』と、アビィもまた初めから分かっていた。
彼の一言で、漸く月美達は己の取った体勢に気付く。
同時に、とても仲間に向ける物では無い代物だという事にも。
途端に込み上げる後悔と共に、罪悪感が込み上がってくる。
彼の境遇を知った上で行ったという事実も合わさり。

「ご、ごめんなさいっ!」
「…すまん。」
「良いんだ。言っただろう、それが正しいって。」

とうとう耐えきれず、謝罪を述べた月美達。
そんな彼女等を、アビィは敢えて肯定する。
その顔にはいつもの様な不敵な笑みが浮かんでおり、一見気にしていない様相だ。
だが。

「…嘘、いや誤魔化しの匂い。だな」
「_へぇ、誤魔化しかい?」

ペルは見抜く、その嘘を。
彼女は本音を隠さない気質だ。
故に、堂々と突きつける。

「本当は今も迷ってるんだろう、自分の存在価値に。」
「…鋭いねぇ、嘘の匂いって奴かい?」
「違う…いや、それもあるが…」

嘘が見抜けるから、では無い。

「否応無しに同類を殺さざるを得ないなど、気に病むのが道理だ。それに…」
「それに?」
「顔にデカデカと書いてる様な物だぞ、その苦虫を噛んだ様な顔は。」
「_っ。」

アビィが抱える苦悩の片鱗。
それが彼の顔色から滲み出ている事に気付ければ。
何よりペルは、一時期とは言え自らの意志で組織の暗殺命令を担っていた身。
そういう生き方しかない者に対しての「理解」がある。

「そうする事でしか生きられないというのなら、気負う必要は無い。ただ、見える限りの最善を選べ。」
「…そっか。最善、ね。」

故に、ペルは態度で以てアビィの在り方を肯定した。
ただし、忠告を兼ねて。

「…限りある命の苦悩が、こんなにも切実だったんだな。」

そんな話を聞いて、妹紅は悟る。
先程の嗤いさえ、彼の精一杯の強がりなのだと。
そういった孤独には、妹紅も覚えがあった。

「そういえば、不死だって言ってたね。」

竹取物語、その終わり。
そこで不死の薬を奪って永遠を得たという物。
それが、独りぼっちの始まりだった。

「あぁ、だから周りはどいつもこいつも先立って逝っちまう。私は幾年幾月経っても変わらないのに。孤独だったよ。」

時代に取り残される。
周りが変わって、自分は変わらない。
それがどんな孤独かは分からないが、きっと後悔の連続だっただろう。

「でもな、そんな孤独にだって終わりは来たんだよ。」
「終わり、かい?」
「あぁ。今の私の始まりと言える奴で、今じゃ殺し合う腐れ縁だけどな。」

そう語る妹紅の顔は晴れやかだ。
澄み切った空の如き表情で、告げる。

「云千年生きた奴からの助言だ。どんな異端にも、生きてりゃ良い出会いは訪れる。絶対。」
「_。」
「ハン。その顔付き、もう見つけたって感じだな?」
「…そうだね、僕には出来過ぎた出会いだよ。」

頭に過ぎるのは、孤独の中で孤高に抗ったトリックスター。
大衆という、膨大で強大な意思に叛逆を示した男。

(…アビィ君、一体どんな気持ちで今までを生きてきたの?)

一方で月美は、アビィの境遇に悩み迷う。
命を奪って生きる。それ自体は食物連鎖という自然の摂理だ。
だがアビィのソレは、異質で異端だ。

(きっとあの力は、人の命だって奪う…)

動植物は愚か、同族さえ殺し、糧にした。
ひいては人間の命すらも食らえる。
そして力に変えて、やっと生きていける。

(それだけは、駄目…!だけど…)

その生き方は間違っていると月美には、どうしても言い切れなかった。
やり様が無いが故に責められない、だが見過ごせもしない。
相反する意思に心が迷い、無性に胸の奥が締め付けられる。

(_どうすれば良いの?)

アビィの心は救いたい、でも今の生き方を肯定出来ない。
ジレンマに悩み、苦しむのみ。

(こんなのって…幾ら何でも、酷すぎるよ…!)

運命の悪戯にしては、度が過ぎる。
世界から嫌われたが如き境遇に、心を痛めざるを得ない。
まるで生前から呪われているが如き醜悪さだった。

15人目

「昏炎魄喰:第Ⅰ実験棟『不可視念魔獣-シュレディンガー・ビースト』 その6」

『第Ⅰ実験棟 沈没まで残り3分』

 決意を新たに、霧切が拳銃を構える。
 それをあざ笑うかのように唸る魔獣。
 しかし、今の彼女は迷うことも怒ることもない。
 まるで、かつての彼女が戻ってきたようだ。
「……。」
 魔獣の姿がまた消える。
 狙いは背後。その性質は依然変わらない。
「………。」

(私の裡にある昏き炎。それはいまも燃えている。)
 考える。恩讐の炎を抑えんと、思考を張り巡らせる。
(この弾丸を、今すぐにでもあの女の頭に打ち込んでやりたい。その気持ちは変わらない。)
 燻る憎悪を、強固な理性で押さえつける。
 今、感情に任せてこの場で江ノ島盾子を殺すことは可能だ。
 距離にして4~5メートル。弾丸には余裕がある。納得できる殺害理由もある。

 そんなこととは露知らず、かの魔獣の爪が迫る。
 唸り声と牙が、すぐそこまで来ている。
 透明化を解除し、霧切の肉を喰らわんと迫りくる。

 距離にして1メートルほど、それで私の人生はジエンド。ならば。
(ああ、だけど今は。)
 この魔獣を斃すことの方が、前者よりも簡単だ。
「霧切さん!」
 ファルデウスの叫びを吹き飛ばす、快音。
 発砲音が、地底の偽空に響く。
「AAAAAA!?」
 その数刹那、魔獣が哭ぶ。
 霧切は、冷静さを取り戻しつつある顔を曇らせることも崩すこともなく。
 そのくせ背後をまともに見ないで、魔獣の脚目がけて撃った。
 射撃の際の体勢移動の際、一瞬映った魔獣の姿と気配から距離と狙撃する位置を計算し、正確に弾丸を放つという神技を、成し遂げてしまった。

「WRYYYYAAAAAA――――!!」
 魔獣の怒髪天。
 臨界を超えた咆哮を上げ、透明化をすることもなく霧切に迫った。
「!」
 すかさずの2撃目を狙わんと、魔獣の持つ異形の脳天を狙う。
 だが、哀しいかな。魔獣の攻撃までには1秒もかからない。
 此方の次弾発射にはその1秒がどうしてもかかる。
 もはや避けようのない死の定め。

 しかして、それを超えてこそ、超高校級―――!!

「姿、隠さないなんて嘗められたものね!」
 ためらいも油断も迷いも、あまつさえ恐怖すらなく。
 魔獣の眉間目がけて弾丸を放つ!
「はぁ……はぁ……!!」
「―――――WOOAAAAAA!!」
 黒板をハチャメチャにひっかいたような悲鳴を上げ、魔獣は血を吹きだしながら暴れ狂う。しかし、まだ斃れない。
 その耐久力と生への執着は、まさに魔獣というにふさわしい。

「OAAAAAEAAAAA――――BBB殺S1YAAAAAA―――――!!」
(今、何か……?)
 攻撃の反動で尻もちをつく霧切。狂乱状態で迫る魔獣。
 と、そこへ。
「GIII――――AAANsEaaaaa――――!!」
 救援に駆け付けた、フィオレの持つ機械双腕が魔獣を掴んだ。
「掴みました!」
「……今!」
 霧切が叫ぶ。
 尚も抵抗しようともがく魔獣に、総攻撃を仕掛けんとする。

『島沈没まで、残り1分30秒』
「1分30秒あればこいつは倒せる!」
 最後のとどめを刺さんと、シャルルマーニュが勇んで魔獣に迫る!
 聖剣の一撃を喰らえば、魔獣とて死は免れない。
 それだけは嫌だ、とフィオレの鉄腕から離れんと暴れる。
「今度は、放しません!」
「GAAAAAAAAAA―――――!!」
 しかし、どれだけ暴れても力強く握りしめられた鉄の腕には勝てず。
「これで、とどめだッ!!」
 シャルルマーニュの聖剣が、魔獣の胴体を切り裂いた。
 腕を掴まれ、脚を穿たれ、額を撃たれて血が止まらぬ魔獣に、もう抵抗の余地はない。
「AAaaa――――。」
 断末魔を上げ、魔獣は遂に斃れた。
 死と共に能力も消失したため、真の姿を表す。
 その姿を、眼に焼き付けた霧切はどこか―――に言った。

「恩讐の炎、先に飲まれたのはそっちの方ね。魔獣さん。」



 ジャバウォック島地下 第Ⅵ管理棟

 さっきまでいた第Ⅰ実験棟が沈む。
 まるで巨大な船が沈没するように、ゆっくりと沈んでいく。
 その様子を、中央の第Ⅵ管理棟から、8人は黙って見届けていた。

「さて、ここから先は別行動をとりましょう。私たちは第Ⅱ実験棟へ向かいます。」
「じゃあ俺たちは第Ⅲ実験棟へ行くぜ。何か分かったら、第Ⅵ管理棟で合流しよう。」
「一応、これを渡しておきます。」
 ファルデウスはシャルルマーニュに通信用のトランシーバーを渡す。
「この中なら、どこであろうと繋がるかと。」
「ああ、感謝するぜ。」
「さぁ、行きましょう霧切さん。」
 かくしてシャルル遊撃隊は第Ⅲ実験棟へ、SPMの2名は第Ⅱ実験棟へと移動を開始した。
 どこか後ろめたさを感じていた江ノ島は、第Ⅱ実験棟へ向かおうとする霧切に話しかけようとする。
「霧切。私は。」
「いいから行って。私があなたへの殺意を抑えられているうちに。」
「………分かった。」

 恩讐の炎はある程度落ち着いてきたものの、完全に消えたわけじゃない。

「……おうおうおうおう。あの女、利用できそうだぜぇ……。」
 その様子を、卑劣にも遠くから、兇悪な顔で見ていた男がいることを、この時の8人は知らない。

16人目

「暗黒魔界へ向けて:アビィその7/大罪、故に死罪」

逃げる事を、決めた。
もう自分はここには居られないから。
自分がもっと正しく有れる世界を、別の宇宙を目指す。
その第一歩の脚、たった一人の方舟を建造する。
世界を渡る為の技術的知識は何故か持ち合わせていたし、己が望む物を作り上げる力もあった。
知識がある事への疑問はあった、しかしそれ以上に焦燥感がソレを掻き消した。
一分一秒が惜しかったのだ。
もし、次に同類を食う時が来れば、耐え切れなくなる。
だから、そうなる前に…

幸い、建造自体は順調過ぎる程に進んでいった。
最低限のデザイン、少しばかりの拡張性。
自分が持てる物を可能な限り総動員して組み上げる。
そうして完成した方舟。
一体何日掛けたのだろうか?
膨大な労力を費やした賜物である事は確かだ。
同時に、コレは自分に課せられた罰の執行台でもある。
自分の…いや、同族の命を使って作り出した方舟だ。
だからこそ、次の新しい世界において、自分は別の存在意義を見つけるのだ。
_そして殺めた同族を取り戻す事で、初めて贖罪は成る。

テストは良好だった。
膨大な時空の捻じれ、異界へと向かうには十分なエネルギー。
後は、装甲を組めば完成するだろう。
そうして今まさに最後の仕上げに入ろうとした段階で、僕を嘲笑うかのように非常事態が起こった。
_仲間を喰われた同族からの、報復だ。



命を奪って糧にして、その力でまた命を奪う殺戮機構。
アビィは確かに、自身をそう表現した。
その言葉通り、彼の本質は殺戮を前提として生きられる、正しく生命の敵。
余りにも受け入れ難い現実に、月美は戸惑っていた。

(…月美は、人殺しに抵抗があるのだな。)

そんな月美を見かねてか、不意にペルが口を開く。

「そういえば、命を奪い続けなければ生きられないと言ったが…力を使わずにいれば、十分生きられるのでは無いか?」

ペルの疑問は最もだった。
力を使う度に次の命が必要になる、というのならば、そも力を使わなければ良い。

「_なら、私達が頑張れば、アビィ君は力を使わなくて済むの…?」

己の努力で救えるかもしれないという、そんな希望。
そこに一縷の望みを見出した月美は一瞬、暗い情緒から抜け出す。
しかし。

「_そう上手い話は無いんだ。」

現実は冷酷。
かつ狡猾に、月美の心を喰らわんと口をかっぴらいた。

「僕の力の代償かな。寿命と言うべき魂の力が常に抜けているのさ。穴の開いた風船みたく。」
「それってつまり…」
「うん、人よりずっと寿命の減りが速いんだ。」

ここに来て明かされる、アビィの抱えるもう一つの闇。

「人より速いって、どれ位…」
「…少なくとも、365倍。」
「_え?」
「つまり、君達で言う『一年』が、僕の『一日分の寿命』だ。」

寿命という題目。

「動植物の寿命は精々十数年。生命力の質も、人には及ばない。」
「アビィ君の命の、十数日分…」
「更に言えば、寿命を全部吸い取れる訳じゃない。ロスが生まれて、結局賄えるのは精々数日生きられるか位の量。」

ソレはまさに底無しの深淵の如く。
月美の中に生まれた希望を、深い深い絶望に叩き込む。

「じゃあ、それを補うために…」
「…あぁ、人の命も奪ったさ。MSF…DDの前の組織と共同で紛争なんかを解決していた頃に、兵士の命を。」

トドメと言わんばかりに、一番危惧していた事態が露わになる。
人殺しという最悪のシナリオ。
その言葉に、月美の心は慟哭を上げる。

(もう、殺しを…っ!)

思考が空回り、声無き悲鳴が上げる。
確かに生命は綺麗なままの生など殆ど無く、多少なり手を汚して生きていく。
寧ろ、初めから泥に塗れた道を行く人生だってある。
だからといって、こうも否応無しに真っ当な道から踏み外し切ってしまうのは、心を痛めるばかりだ。

(でも、人の命まで奪うのは…)

だが今のままでは、とても肯定する事は叶わない。
人の命を糧にするという事実を、容認する事は出来ない。
スネーク達の様な「目的の為には命を奪う手段も辞さない」という、後ろめたい現実(リアル)。
その事への「理解と経験」が乏しいが故に。

(どうしようも、無いの…?)

それでも、アビィそのものを否定したい訳では無い。
叶う事ならば、アビィを力の呪縛から、殺戮の連鎖から救いたいのだ。
それだけは、月美の中で決まっていた。
だからこそ殊更に、アビィへ突き付けられた非情な事実の理不尽さを痛感する。

「_そんな顔をしないでおくれ、月美嬢。」
「_あっ。」

遂に苦心を隠し切れなくなったのか、顔に出ていたらしい。
月美の顔色の悪さに気付いたアビィから、声が掛かる。

「君達と腹を割って話せて、気付けたよ。僕は今の生き方で良いって。」

そうして出てきた言葉が、逆に月美の胸中を貫く。
違う、そうじゃない。
そんな生き方を変えたくて、でも叶わないから心を痛めているのだと。

「だから月美嬢が気に病む事は無いんだ。」
「_っ。」

だが、月美の願いは届く事は無い。
人の命の生殺与奪という倫理の壁を、アビィは既に乗り越えた。
そうしなければ、死ぬのは自分であったが故に。
月美は、無力感に打ちひしがれるしかなかった。

「…さて、そろそろ悪意が抜けてきた頃合いだね。」
「む、そういえばあの悪意が感じられんな。」

気付けば、あの歪で膨大な悪意が欠片も感じなくなっていた。
代わりに感じるのは、空の彼方…暗黒魔界からの悪辣な渇望。
本来の目的へと、漸く進む事が出来る。
彼等は立ち上がり、妹紅の案内の元で帰路に付く。
月美が絶望に囚われている内にも、事態は刻一刻と進行していた。



方舟は、旅立てた。

突然の報復攻撃は青天の霹靂だった。
彼等は木槌を扱い、バズーカやガトリングガンといった対物兵器を生み出せる。
即ち、方舟が壊される。
最初は対話を試みたが、同胞を殺した者の言葉が聞き届けられる筈も無く。
とうに斬られた戦いの口火に、僕は焦った。
人手が、せめて足止めが欲しい。
そう願った時、全身に届く力の感覚と共に、あの飢餓感が湧いてくる。
やめろ、ここが正念場なんだ、出ていけ。
その時だった、己の内から4つの光が飛び出して、4体の同族を乗っ取り足止めをしだした。
訳も分からぬまま、何とか思考を回して方舟を動かす。
逃げる僕に同族も気付いたが、その頃にはとっくに方舟は空の彼方。
そうして時空に穴を開け、

そうして漸く落ち着いた方舟の中枢にて、自分の存在価値を、改めて思い知らされる。
あの世界に、僕の居場所はもう無い。
生きる意味が一つ、消え去った。
だが、ここで止まる訳には行かない。僕は同族の死を補って余りある「特別」に成らなければ。
そう覚悟して辿り着いたのは、よりにもよって現実世界。
そこでは特別に至れない事を知っていて、その無力感に打ちひしがれた時。_僕はあの星(トリックスター)と出会った。



彼は二つ、勘違いをしているね。
一つ。寿命の問題は、厳密には力の「とある行使方法」で起きた代償だ。
もう一つ。今の状況での悪意の放出は「彼等」への道標になる事。
さぁ、出番だよ「四罪」の皆。

17人目

「孤独を重ねて、心を燃やして」

 炎。
 ドス黒い、炎。
 私の心の中を燃やす、昏き炎。
 ある程度落ち着いたが故、それを抑えることはできている。と思う。
 だけども、依然消えることなく燃えている。

 ああ、麗しきみんな。
 あなたたちの無念を晴らすためにも、私は―――。



 第Ⅱ実験棟

 シャルル遊撃隊と離れてから、数十分後。
 SPMの2人は、『沈没』した第Ⅰ実験棟の隣、第Ⅱ実験棟にいた。
 当然、その光景もそれとは異なる。
「ここが、第Ⅱ実験棟……?」
「まるで……遊園地、ね。」
 そんな第Ⅱ実験棟の光景は、別の意味で驚きのものだった。
 周りには小高い丘が一つと、その頂上にある巨大なドーム状の建物。
 そして、その横には霧切の言う通り『遊園地』としか形容できない施設があった。
 第Ⅰ実験棟よりも広い敷地を持った、広大な遊楽エリア。

『第Ⅱ実験棟(ツヴァイ)へようこそ ゲストの皆さまを歓迎します』
 無機質な、されどどこか明るいアナウンスが響く。
 その在り様も含めて、まさに遊園地。
「どこから行きます?」
「情報があるとしたら、あそこね。」
 霧切が指さした先にある、丘の上の

「しかしよかった。貴方が落ち着いてくれて。」
 ファルデウスは、安堵したように話す。
 対する霧切は、冷淡に残酷なことを言った。
「落ち着いてなんかいないわよ。今冷静を装っているのも、さっきのバケモノを倒してできた冷静さを使ってやってる。」
 ハッとする。
「……。」
「そして今も、江ノ島盾子が憎い。殺したいほど。」
「そう、ですか。」
 分かっていた。
 相手は彼女にとって不倶戴天の敵。憎まないわけがない。
 それでも、落ち着いてくれたらと思っていた。
(復讐心はそう簡単には消えてくれないか。)
 そう思いながら、2人は丘の上の建物へと向かっていった。



 第Ⅲ実験棟

「……やっぱ怒ってる、か。」
 江ノ島は悩んでいた。
 どうすれば誤解を解けるか、と。
 己が身は超高校級の絶望故、そう簡単自分の罪が許されるものではない事は理解している。
「気にするな、相手側が落ち着けば、ちゃんと和解できるさ。」
 うつむく江ノ島を、リクが慰める。
「」

「ところでさ、江ノ島ちゃん。」
「何?」
「君って確か……完璧であることを強要されたって話してくれてたよね。それについてはどう考えているの?」
 そう、デミックスに言われた江ノ島の顔がまた曇る。
 どうも思い出したくない、嫌な思い出で構成された記憶なようだ。
「ああ、その話か。詳しいことはよく覚えてない。ただよくSFで見るデザイナーベイビーよろしく完璧であることを強要されたってだけでさ。あたしの両親が何を考えていたかまではわからねぇ。」
「完全であることを強要された、か。」
「まるで………みたいだ。」
 シャルルマーニュは、あることを思い出していた。
 ■■の使徒であり、寒空の中人斬り包丁を持たされ、全てを■■■■■の化身であることを強要された、ある英霊のこと。
 その存在を自らの「姉」と慕い、己の在り方とを重ね合わせた。
「これも因果、か。」
 江ノ島も、「姉」も、己と同じだ。
 実の両親に、生みの親に、そして神にそうあれかしと定められた孤独な存在。
「なんか言った?」
「いや、昔を思い出してな。気にしないでくれ。」
「あー、そんで……こんなこと考える両親なんか、どうせロクなもんじゃないって話でさ。その真実が今日、ここで分かるはず。」
「怖くはないの?」
「怖いよ、とても。でも……。」
 その先の言葉を絞り出そうとする。
 しかしあと少しが出てこない。

「へへへ……見つけたぜぇ……江ノ島ちゃんよぉ……!!」
「て、てめぇ誰だ!!」
 その時、奥からのそっと男が出てきた。
 金髪のリーゼント頭。6連装のリボルバー。
 そしてニタニタと笑う、厭な顔。
 シャルル遊撃隊が知らずとも、CROSS HEROESの数名は彼の姿を見た。
 兇悪卑劣にして、権謀術数の中己の力のみで歩んだ成り上がり。
 メサイア教団第3位、銃の化身―――!
「俺は、教団大司教3位。カルネウス。――――お前らの敵だ。そして、江ノ島ちゃんよ。」
 カルネウスは江ノ島を指さして言い放つ。
「俺たちと共に来いよぉ。一緒に世界を救おうじゃあないか。なぁ?」

18人目

「黄金色の伝説①仮面ライダーレジェンドVS世界海賊ゴールドツイカー一家」

『カグヤ、心で、負けちゃいかん……!
約束しろ、お前の輝きでこの世界を……豊かにするんだ……!』

 その声は、今も鮮明に聞こえてくる。忘れるものか。忘れられるものか……

『大丈夫か?』

 忘れるものか。忘れられるものか。街を焼かれ、祖父を奪われ、泣いているしかなかった
幼き自分を守ってくれた、あの背中を……

 鳳桜・カグヤ・クォーツ。
彼の住む鳳桜タワーは天空へと至る城のように綺羅びやかに輝いている。
翻れば、それはまるで誘虫灯のようだった。

『真っ直ぐにここへ来い、お前たちの相手はここにいるぞ』と宣言せんばかりに。

 その昔、平和だったこの世界に襲来した闇の組織「ハンドレッド」。
彼らの正体、目的、規模、そのすべてが謎に包まれていた。
CROSS HEROESによって壊滅した歴史の管理者「クォーツァー」が有していた
カッシーンやダイマジーンなどをも戦力として保持していた。

 戦うための力を持たぬ人々は一方的に蹂躙され、虐殺されていく。
幼少期のカグヤも例外ではなかった。何故? 自分たちが何をしたと言うのか。
こんなことをされる謂れなど無いはずだ。だが物言わぬ冷たい機械の兵士たちには
その問いかけは届くはずもなく、ただ機械的に、
ただ与えられた作業のルーチンを黙々とこなしていくだけに過ぎない。

 誰か、誰か助けて……少年は願った。

「はああああああああああああああッ!!」

 そして、それは聞き届けられた。ある人が云った。


『時代が望む時――は現れる』、と。


『大丈夫か?』

 斬撃一閃。カッシーンを瞬時に一刀両断した、「通りすがりの男」。

「ああ……!!」

 少年の瞳に、生涯焼き付いて離れないであろう光景だった。
あれだけ猛威を奮ったカッシーンをすべて一撃のもとに叩き伏せる嵐の如きその強さに。
比肩する者のいないであろうマゼンタ色のアーマー、白と黒のラインを走らせた
左右非対称なその奇抜な意匠に。あまねく不安や恐怖を払拭してくれる、光に。
少年は憧れたのだ。


 そして思った。彼のようになりたい――と。

 
 こうして、「通りすがりの男」の活躍によってハンドレッドの第一次侵攻は退けられた。亡き祖父の言葉を胸に刻み、カグヤは日々厳しい訓練に励んだ。
彼の使命は、世界を守ることだった。
誰よりも強く、如何なる闇を照らす黄金の輝きを放つ、ゴージャスな男に……

 それからどれだけの時間が流れただろう。
ある日、ハンドレッドの尖兵カッシーンが彼の世界を襲撃する。
ハンドレッドは執拗に侵略行為を繰り返していた。街は炎に包まれ、人々は恐怖に怯える。

「懲りない奴らだ……」


【CHEMYRIDE】


「変身」


 カグヤはレジェンドケミーカードをレジェンドライバーにセットし、
掛け声と共にベルトを操作した。


【LE-LE-LE-LEGEND】


 眩いばかりの輝きに包まれ、現れたるは全身眩い黄金色に包まれた戦士……

「ご覧ください、その名も『仮面ライダーレジェンド』!
広くあまねく世界を照らす、まさに生ける伝説……!」

 カグヤに仕える忠実なる執事、バトラー。避難誘導する市民たちに、
主の降臨を告げる。彼もまた、ハンドレッドの襲撃からカグヤに救われたひとりであり、
以後、カグヤを救世主として崇拝しているのだ。

「おお……!」
「仮面ライダー! 来てくれたのか!」

 人々は口々にその名を呼ぶ。人間の自由と平和のために戦う者に贈られる、その名を。

「伝説の輝きを見せてやる! さあ、ゴージャスタイムだ!!」

 カグヤはカッシーンに立ち向かい、その圧倒的な戦闘能力で敵を次々と撃破していった。彼の姿はまるで輝く星のようであり、街の人々に希望を与えた。

「カグヤ様。ご無事で何よりです」
「バトラー、ありがとう。お前の支えがあってこそ、俺は戦える。
市民の避難誘導、ご苦労だった」

 あの日、自分を救ってくれた仮面の戦士のようになりたい……その一心で
カグヤが開発した力こそが、レジェンドだ。ハンドレッドの侵略からたったひとりで
世界を守る……そのために、敵の目を自分自身に向けさせる必要があった。
それが故に、誰よりも強く、誰よりも注目を浴びなければならない。
一度の敗北も許されない。彼が倒れれば、この世界は瞬く間にハンドレッドに制圧されて
しまうのだから。

「ハンドレッドの侵攻は、日に日に激しさを増していますね」
「よほどこのカグヤ様が目障りになってきたのだろう。だが、それでいい。
それこそが本懐だ。しかし、奴らを完全に叩き潰すにはまだ足りない。
もっと力が必要だ。戦うための力が……」

 並行世界を渡ることの出来る力、「オーロラカーテンシステム」の運営・管理を
担っているのが、この鳳桜タワーなのだ。

 その時、カグヤとバトラーの元へ、警報アラームがけたたましく鳴り響く。

「何だ、ハンドレッドの再侵攻か? それにしては……」
「正体不明の未確認飛行物体……これは……海賊船!?」

「もしや、ハンドレッドとは別の勢力か……バトラー、すぐに出るぞ」
「畏まりました、カグヤ様!」

 レジェンドの世界に突如出現した空飛ぶ海賊船、否、それは……

「ヨホホイ、ヨホホイ、ヨホホイ、ホイ……」
「ふーん、結構栄えたトピアだね、アニキ! ここは何トピアって言うんだろうね!」
「さーてな。とりあえず船を降ろすか……」

 海賊、もとい、世界海賊……略して「界賊」。ゴールドツイカ―一家の旗艦
「クロコダイオー」である。かつてのトジテンド王朝の技術を強奪、解析し、
並行世界をも自由気ままに跨いで通る者たちだ。

「到着、と……」
「そこまでだ」

「ん……」

 ゴールドツイカー一家の船長にして、長男、ゾックス・ゴールドツイカ―と
天才的な頭脳を持つその妹、フリント・ゴールドツイカ―が降り立つと、
そこにはカグヤが待ち受けていた。

「貴様ら、何者だ」
「うひょ、全身宝石だらけじゃん、あいつ。きっと金持ちだよ、アニキ」

 高級服の全身に宝石を散りばめたカグヤの姿に、フリントの目は輝く。

「泣く子も黙る世界海賊、ゴールドツイカ―一家とは俺達の事さ」
「海賊……? ならば貴様らも、この世界に仇なす者だと言う事だな?」

 威嚇のために、レジェンドマグナムをゾックスたちの足元に発砲する。

「わ、あっぶな! いきなりご挨拶じゃないか!」
「この世界から出て行け。次は当てるぞ」

「ふーん……喧嘩を売られたとあっちゃ、「ハイそうですか」と尻尾を巻いて
帰るなんてのは、世界海賊の名折れだ」
「やっちゃいなよ、アニキ! あいつぶっ倒してさ、身包み剥いじゃおう!」

「やれるものならやってみるがいい……」
「言われなくとも」

【回せー!】

「チェンジ痛快!」

【ツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥカイザァァァァァァァァァァァァァァァァ!!】

(Hey)(HeyHey!)

(Hey)(HeyHey!!)

 軽妙な電子音とリズムに合わせて、ゾックスが華麗なステップを踏む。

(何故踊る……!?)

19人目

「懺悔と過去と第二の魔獣」

 私の両親は、優しかった。
 というか普通だった。
 それこそ、つまらなさに絶望するくらいに。
 どこにでもある一般家庭。

 最初のうちはそれでもなお我慢できていた。
 自分の歪みともちゃんと向き合えていた、と思う。

 そういう薄氷程度の防壁なんて、簡単に崩れてしまうものでさ。
 ある日、気づいてしまったんだよ。現実に。
 両親の部屋の日記帳を、気まぐれに見たことだ。
 何のこともない、子供が親が呼んでいた本が気になって読む程度の気軽さだ。

 暫く、動けなかった。
 泣いていたか笑っていたかも分からない。
 描かれていた文章を簡潔に書くと、私がこの家の人間の血を継いでいない『養子』であったということ。
 本当の親は、とっくの昔に病死していたということ。
 そして私は、本当の親に『ある目的』から完璧であれと、望まれた子供であったということ。

 普通の子供なら、発狂してもおかしくはない。
 何しろ自分には本当の親がいて、その親は実の子供を自分の目的のための「操り人形」としてしか見ていなくて、その親を殴ろうにもとっくに荼毘に伏しているからできない。
 毒親なんてもんじゃない。
 自由意思も与えられず、

「…………どうして?」

 この事実に私はどうしようもない絶望/愉悦を、感じていた。
 多分この時からだ、私が壊れてしまったのは。
 でもさ、それでも気になってしまったんだよ。

「目的はなんだよ。くそったれ。」



「あ?なんで?」
 驚くのも無理はない。
 何しろ眼前の男カルネウスはCROSS HEROESの敵、メサイア教団の大司教。互いに相容れぬ立場にある。
「そも俺たちは敵同士だ、江ノ島が仲間になる理由なんてないはずだぜ?」
「おう、代弁ありがとよリク。」
 いつもの調子を取り戻しつつある江ノ島。
 対するカルネウスも、その悪辣なひょうきんさを保ったまま言葉を紡ぐ。
「それもそうだな、俺たちは敵同士。そもそも、てめぇらの脳天をぶち抜いた方が明らかに効率的ってハナシだ。」
「やはりか!」
「っ!」
 片やジュワユーズを抜くシャルルマーニュ。
 片やキーブレードを構えるリク。
 両者、江ノ島を守る形でカルネウスと対峙せんとする。

「おいおい、俺はあんたらと交渉に来たんだよ!話くらい聞いてくれよ!!」
 しかし、カルネウスとしてはどうやら本気で戦うつもりはないようで、多少怯えてすらある。
「騙されないぞ、メサイア教団!」

「あーそうか、確かにこれでは『交渉』にならねぇか。言い方を変えよう。」
 そうして、カルネウスは腰の拳銃をしまったホルスターを地面に置き、両手を上に上げて話し始めた。
「江ノ島盾子。俺と一緒に第Ⅴ実験棟へ来い。そこで真実を見せてやる。」
「真実?」
「あんたも知りたいはずだろ?喉から手が出るほど欲しいんだろ?あんたの実の両親が何をやったのかを。」
「てめぇどこまで知ってやがる!」
 怒りに駆られ、ショットガンを向ける江ノ島。
 その手は震えていて、本気で撃つ気概はなさそうだった。
 カルネウスはそれを鼻で笑い、言葉を続けた。

「ま、今ここで結論を下せとは言わねえ。ただ、お前はあの巨大機構を見れば、真実を知れば俺たちにつく!その確証があって言ったんだ。で、どうする?考える時間、もうちょっと欲しいか?」
 悪辣に嗤う眼前の男、カルネウス。
 彼は第Ⅴ実験棟に先んじて入り、あるものを見てきたのだろう。
 恐らくは、江ノ島盾子の出生、家族、それらにかかわる真相を。
 それを踏まえた上でどうするかと聞いてきた。
 ならば、どうするか。

「江ノ島、俺たちのことは心配しなくてもいい。他の島の調査は任せてくれ。」
「何かあったら連絡するので。」
 仲間たちは、そう言っている。
 彼らは信じるに値する仲間たちだ。
 何もかもに絶望した私が、信じるという希望的行為をするのもおこがましいけど。
 であれば。自分は自分のしたい行動を、信じてみよう。
 ―――己の意志が導く、心のままに。

「分かった。第Ⅴ実験棟に行けばいいんだろ?」
「よし、じゃあ……。」
「ただし、デミックスも一緒に連れてってもいいか?正直一人じゃあそこは怖いし、あんたを信用したわけでもない。そうやって無抵抗アピールされても信用に値しないしな。」
「江ノ島ちゃん。でもさ。」
「頼む、一緒に来てほしい。あんたとはこの中だと一番長い付き合いだし。」
 彼女の言ったことは正しい。
 これからついていこうとする男は自分たちの敵だ。こちらが殺されては世話がない。
 彼がメサイア教団側を裏切る可能性がないでもないが、その可能性は広大な砂漠の中から1円玉を見つける可能性にも等しい。

「ま、妥当だな。最も俺としては殺す気は一切ないが。護衛役をつけるという案は悪かねぇか。」
「それともうひt……『緊急事態発生 緊急事態発生』って、タイミング悪いな!!」
 何かを言おうとしたその時に、地響きと共にサイレンが鳴った。
 まるで、黙示録の喇叭が鳴るかのように。
『第Ⅱ実験棟及び第Ⅲ実験棟に入棟許可がされていない侵入者を検知 先刻の『シュレディンガー・ビースト』討伐による危険性を加味・検証 結論:抹殺を前提とした鎮圧のため第Ⅱ・第Ⅲ実験棟に『マクスウェル・メイガス』を即時解放する 近隣の研究員は即刻避難を……』
「ちっ、めんどくせぇな……あと少しだったのによ。」

 第二の試練が、迫る。

20人目

「記憶の扉に鍵をかけて ~ たりあの歌 ~」

 暁美ほむらとたりあが、グランドクロスとの戦いを終え、
ほむらの創造した世界へと戻ってきた。夕日が沈みかけた空の下、
たりあは精神体のみの存在であるが故に、ほむらの横を浮遊しながら口を開いた。
その姿は、ほむらにしか認識できない。

「ほむらちゃん、大丈夫?」

 ほむらは、たりあの言葉にも至って無表情で、長い黒髪を掻き上げながら答えた。
黒曜石のような光沢を湛えた髪が、夕陽に乱反射してプリズムを生み出す。

「あの程度の相手、私には造作も無い事よ。
でも、それは束の間の勝利に過ぎないわ。これからも、新たな戦いが待っているかも
知れない。奴らは私の、そしてあなたの力を狙っているのだから」

 ほむらの声は穏やかでありながらも、次なる挑戦に対する覚悟が滲んでいた。
彼女にとって、この戦いは単なる前哨戦でしかない。
目の前を飛ぶ羽虫を追い払う程度の。時が経てばまた何処ぞから湧いてくる。
そして、その先に何が待ち受けているのかを考えずにはいられなかった。

 たりあは、ほむらの言葉に頷きつつ、ふと立ち止まって空を見上げた。

「でも、今は少し休んだほうがいいよ。
ほむらちゃんはずっと戦い続けてきたんだから」

 彼女はまだ子どもであり、戦いの中で感じた恐怖や不安も多かったことだろう。
それでも、ほむらがこれまで心休まる事無くひとりで色々なものを抱え続けている事に
気づいていた。

 その在り方は、『彼女』に似ている。掛け替えのない、たりあの半身……
守るべきもののためならば、己のすべてを投げ出す事も厭わない、そんな危うい生き方。

 夕暮れの赤い空が広がり、偽りの見滝原の町並みは静かに佇んでいた。
昼間の活気ある町並みは、今では夜の静寂が包み込む無音の世界へと移りつつある。
風に揺れる草木、皆、家への帰路につき誰もいなくなった通り、
本来、何が書かれていたのかも定かではない錆びついた看板――
しかし、この静寂の裏側に隠された真実を知る者は誰もいなかった。

 暁美ほむらは、公園の一角でその景色をじっと見つめていた。
彼女の目に映る先には、まだ幼いたりあが、ブランコに乗っている。
だが、常人には無人のブランコが「きい、きい」とひとりでに動いてるようにしか
見えないだろう。たりあは、見滝原の町並みに違和感を覚えつつも、
どこか不思議な懐かしさを感じていた。だが、それが何であるかは理解できずにいた。

「ほむらちゃん、この町って変な感じがするね。まるで夢の中にいるみたい」

 たりあの問いかけに、ほむらは静かに息を吐き出しながら答えた。

「そう……ここは、ある意味で夢のような場所なのかもしれないわ」

 この世界は、彼女が作り出した偽りの見滝原。過去の記憶と願いが交錯して生まれた、
現実とは異なる場所だった。

「でも、みんなは普通に生活しているよね?
どうしてほむらちゃんはここを『偽り』って言うの?」

 たりあの無邪気な問いかけに、ほむらは少し微笑んで答えた。

「そうね…みんなは何も知らずに、ただ日常を過ごしている。
この世界が本物でないことに気づく者は殆どいないわ。ここで過ごす日々は穏やかで、
何も変わらない。だけど……」

 ほむらは一瞬、言葉を止め、遠くを見るように目を細めた。

「だけど、それは全て私が作り出した幻想に過ぎないの。真実の見滝原とは異なる、
私の願望が形になった場所。みんなが何も知らずに日常を送るのは、
その方が幸せだと思ったから」

 たりあはその言葉を聞き、少し黙り込んだ。
彼女は何かを感じ取り、ほむらに再び問いかけた。

「それって、ほむらちゃんの優しさから生まれた世界なんだね。
でも、どうしてそんな世界を作らなきゃいけなかったの?」

 たりあの純粋な疑問に、ほむらは苦笑いを浮かべながら答えた。

「私は何度も繰り返してきたの。大切な人を守りたいという一心で、
この世界を作り上げた。でも、その結果、私はあの子を閉じ込める檻を
作ってしまったのかもしれない」

 ほむらの目は、どこか遠くを見つめるように虚ろだった。
彼女は幾度も過去を繰り返し、最終的にこの偽りの世界を作り出した。
しかし、その選択が正しかったのか、彼女自身も分からなくなっていた。

「ほむらちゃんがそんなに頑張ってきたなんて……
でも、わたしはそんなほむらちゃんを助けたいよ。
だって、ほむらちゃんが一人でこんなに苦しんでるのは悲しいから」

 たりあの言葉に、ほむらは一瞬驚きの表情を見せたが、
すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。

「ありがとう、たりあ。でも、この世界ではみんなが幸せでいられるの。
だから、たとえ私が苦しんでいても、他のみんなが幸せなら、それでいいと思っている」

 たりあはその言葉に納得しようとしたが、やはり何かが心に引っかかっていた。

「でも……そんなの、ほむらちゃんがかわいそうだよ。みんなが何も知らないまま
偽りの世界で生きるなんて、本当にそれが幸せなのかな……?」
「良いのよ……知らなくて良い事だって、世の中にはたくさんある……
悲しいこと、辛い事、それを知らなくて済むのなら、ずっとそのままで……」

 公園を出た二人は偽りの町並みをゆっくりと歩き始めた。
月が昇り、偽りの見滝原の町は静かな夜に包まれていた。
空気は冷たく澄んでおり、遠くで風がかすかに木々を揺らす音が聞こえるだけだった。
ほむらとたりあは一日を終え、今はそれぞれの思いにふける時間を過ごしていた。

 たりあは、ほむらと一緒に小さな部屋で横になりながら、
じっと天井を見つめていた。暗闇の中で、彼女の心には一つの記憶がよみがえっていた。
それは、ペルと共に過ごした日々のこと。

「ペル……どうしてるのかな……あの時、わたしは結局何もできなかった……」

 たりあは目を閉じ、過去の光景を思い出した。
ペルは、彼女にとって姉妹のような存在だった。
優しく、そして強い心を持ったペルは、たりあにとってのもうひとりの自分であり、
家族のような存在だった。
しかし、彼女たちは戦いの中で離れ離れになり、ペルの行方は分からなくなってしまった。

「ペルは今、どこにいるんだろう……あの時、わたしにもっと勇気があったら、
ペルを守れたのかもしれない……」

 たりあの心には、後悔と寂しさが混じり合っていた。
彼女はペルのことを思い出すたびに、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
それでも、彼女は泣くことはなかった。ペルが強い心を持っていたように
たりあもまた強くあろうとしていた。

「きっと、ペルはどこかで無事でいるはず……わたしはそう信じてる。
でも、もう一度会いたいな……もう一度、あの優しい笑顔を見たい……」

 たりあは静かに目を開け、横に寝ているほむらの寝顔を見つめた。
ほむらもまた、たくさんの苦しみと戦っている。
それでも、たりあのために全力で戦い続けてくれた。たりあはそのことに感謝しつつ、
心の奥底でペルに会いたいという思いを抱いていた。

「ペル、もし私の声が届くなら……また一緒に暮らしたい。
おじいちゃんとおばあちゃんと一緒に暮らしていた、あの頃みたいに……」

21人目

「戦いを終えて」

アマルガムとの最後の戦いを終えたあと、ゼンカイジャーは共に戦ってくれたステイシーをCROSSHEROESに誘おうとするが……

「すまないが介人、今回は断らせてくれ」

「えぇ!?なんで!?」

「……どうやらトジテンドの技術を自分達のものにしようとしているやつらはまだまだ他にもいるみたいなんだ」

「えぇ!?」

「クォーツァーとアマルガム以外にもいるのかよ!?」

「あぁ、だから僕はそいつらを探すためにもこの世界に長居していられないんだ」

「そっか……わかった、ステイシーも頑張ってね!」

「フッ、介人達もな」

こうしてステイシーに別れを告げたゼンカイジャーとCROSSHEROESは投降したアマルガムの兵士達をトゥアハー・デ・ダナンに収容し、島を離れたのであった。





その後トゥアハー・デ・ダナン内にて

「ごめんねテッサ、あの時は…」

「気にしないでください、全てサガラさんから聞きましたから。
それよりもかなめさんが無事で何よりです」

「テッサ…ありがとう」

「……しかし、まさかウィスパードに情報を送り込んでたのが別の世界のかなめだったなんてね」

「あぁ、しかも俺たちとは別のCROSSHEROESがいる世界出身のなんてな」

「ですがこれで納得がいきました。何故あの時私の頭の中にCROSSHEROESの名前が浮かんだのか……それは別の世界のかなめさんが他の世界に自分達と同じような辛い思いをしてほしくないという願いを込めて元の世界の技術と共にオムニスフィアに流したものだったんですね」

「うん、多分別の世界の私はまたラグナロクが起きた時にそれを止めれる存在が……新たなCROSSHEROESが誕生してほしいって思ってその名前を流したんだと思う」

「しかしラグナロクか……そんなことがあったなんてな」

「あぁ、だがこれではっきりしたぜ。ミケーネがまるで俺たち以外のCROSSHEROESと戦ったことがあるようなことを言ったりトリガーのことを知ってたのは、そのラグナロクとやらで闇の巨人や俺たち以外のCROSSHEROESと戦ってたんだな」

「うん」

(闇の巨人やミケーネが別の世界のCROSSHEROESと戦ってたとなると、恐らくは超古代文明やエジプトの古代文明も……)

「しかし一つ気になるんだが……そのソフィアとやらが言ってたグランドクロスってのはいったいなんなんだ?」

「確かに……バールクスもその名前を言ってたけど……」

「……ウォズ、お前はそのグランドクロスとやらのことはなにか知ってないか?」

「そうだな……全て知ってるというわけではないが、わかってる範囲でなら話すことはできる」

「なら話してくれ」

「いいだろう。と言ってもわかってることはたった二つ、一つは奴らが滅びの現象を起こし数多の世界を滅ぼしてる元凶であること、そしてもう一つは君たちが過去に戦った禍津星穢という男やブーゲンビリアという少女は奴らの刺客ってことだ」

「なっ!?」

「それって…!」

「そうだ。かつてのCROSSHEROESや別の世界の千鳥かなめが居た世界を滅ぼした犯人であると同時に、君たちの仲間である月見やペルフェクタリアが元いた世界を滅ぼした犯人……それがやつらだ」

「あいつらが……グランドクロス…!」

「……私もといクォーツァーが知ってる奴らの情報以上だ。これ以上の情報はどれだけ調べても見つからなかった」

「となると奴らから直接聞くか、関わりが深いやつから聞くしかないってことか」

「……いずれにしてもグランドクロスへの警戒は強める必要がありますね」

「あぁ……」

「っで、これからどうするの?」

「そうですね……恐らくそろそろ幻想郷の方に行った皆さんが戻って来るでしょうし、合流し次第お互いに情報交換を行い今後どうするかを決めましょう」

「そうだな」

「……それともう一つ、決めないといけないことがあります」

「決めないといけないこと?」

「はい……それはレナードとカリーニン含めた投降したアマルガムの者たちをこれからどうするかです」

22人目

「炉心狂蝕:無尽恒炉魔人-マクスウェル・メイガス その1」

 時を同じくして、ジャバウォック島。

『マクスウェル・メイガス 射出』
 かの地底、偽空より「星」が降る。
 2つの恒星。世界の終焉を告げるが如き、熱と焔。
 次なる試練を告げる凶つ星。
「隕石!?」
「いや違う!あれは……!!」

 それは、宙に浮く異形の天球儀。
 輪にあたる部位から無数の眼と金属光沢を持った軟質の触手が生え、中心核は冷酷に燃えている。
 異形なる殻に囲われた、永劫に燃える無尽の炉心。

「ファルデウス!聞こえているか!」
『ええ聞こえてますよ。そっちにもバケモノがいるんでしょう!?』
「ああ、こっちの神経が削られそうなすげぇ見た目だ……なんだあの球体!!」
『もしやそっちも、あのクトゥルフ神話の怪物みたいな天球儀擬きですか!』

 どうやら、第Ⅱ実験棟にいるファルデウス達にも全く同じ姿の怪物が現れているようだ。
 全く同じの異形天球儀が、同時に別々の場所に出現しているようで、困惑している。

『e38193e381a1e38289efbc91e58fb7e6a99fe38080e695b5e68d95e68d89』
『e695b5e799bae8a68be38080e68ab9e6aebae9968be5a78b』

「あのボール野郎、ワケわからないこと言ってやがる……。」
「来るぞ!」
 異形天球儀-マクスウェル・メイガスの全身から生えた触手がミサイルの如く大地に突き刺さる。
 突き刺さった金属が如き触手の針は、強い衝撃と共に実験棟の大地に穴を穿ち続けた。

「おりゃあ!!」
「クソッタレが!喰らえ!」
「サンダガ!」
 デミックス、燕青、リクの3人が攻撃を放つ。
 しかし、どういう訳かびくともしない。
 全く攻撃が効いているように見えないのだ。
「嘘だろ!?」
「いくらなんでもおかしい!あの手ごたえ、確実にダメージは入っているはずなのに!」
 体力が膨大なのか、或いは別の仕掛けがあるのか。
 天球儀の躰には傷一つ入ってない。
「くそ。こいつの魔力は無限か!?」
「そんなわけあるか!いつかは限界が来る!攻撃し続ければ……!」
(こいつの絶望的膨大魔力もそうだが……カルネウスの奴どこ行きやがった……?)
 などと江ノ島が先ほどまで話していたカルネウスの所在を考察している暇もなく。
『efbc92e58fb7e6a99fe38080e382b3e3839ae383abe3838be382afe382b9e88db7e99bbbe7b292e5ad90e7a0b2e38080e799bae5b084』
 謎の暗号が如き咆哮と共に。
「って、この魔力量……来るぞ!躱せ!!」
 異形の天球儀が、無数の目からビームを放った。
 周囲の建物を破砕しながら、天球儀は迫る。
「うわああああああああああぁあぁあああ!?」
 降り注ぐ無尽の破壊光線。
 大地を斬り、岩盤を砕き、周囲一帯の建物を粉砕する威力の光線。
 あまりの破壊力と範囲と量にただ逃げ惑うしかない6人だった。

 光の雨は1分30秒に続いて降り注いだ。
 にもかかわらず、天球儀は何食わぬ姿でそこに鎮座している。
「あの天球儀野郎、さっきからなんなんだ?まるで魔力に底がない!」
「あれほどの魔力量を撃ったのに、限界知らずかよ!?」
 無限にも等しい魔力に冷や汗をかき始める。
 
「っ……、すまねぇ!俺とフィオレは第Ⅱ実験棟へ加勢に行く!そっちは任せた!」
「ファルデウス達に加勢か!分かった!そっちは任せたぜ!!」
 第Ⅱ実験棟にいるファルデウス達も対峙している。
 たった2名では、こんな無尽の体力と魔力を持った怪物相手にまともに戦えるわけがない。
 であれば、と燕青とフィオレは第Ⅱ実験棟への加勢に出向いた。
『e381abe3818ce38199e38282e381aee3818b』
 マクスウェル・メイガスは燕青達目がけて触手を放つ。
 この島から逃がさないつもりだ。
「させるか!」



「くっそ……こんなところで死んでたまっかよ!」
 崩れた建物のがれきに潜んで、カルネウスは様子を見ていた。
 その行動は、メサイア教団の人間として、CROSS HEROESの敵として動くなら賢明だった。
 だが、その顔は愉悦に満ちているわけでもなくむしろ憔悴していた。
 憔悴というより、一種の憤りすら感じる。

「あークソ!あのいけすかねぇエイダムの奴に吠え面かかせてもねぇのに!あいつ、俺たちに命令ばっかり下して自分じゃ指一つ動こうともしない!何なんだ、ちったぁ動けって話だ!」
 リボルバー銃に弾を籠め、悪態をつきながら彼は心の中の炎を燃やす。
(そうだ、俺も死んじまった芥も焔坂も、生けすかねぇキング・Qもクレイヴの野郎もみんなそう思ってた!何なら普段はあんま話しねぇけどゼクシオンやビショップの研究勢、カール大帝や魅上だってそう思っているはず!だのにあいつときたら『そんな些事知ったことか』と無視しやがる!俺たちは世界救済のために動いている!だのに奴ときたら、グランドクロスの使者だからって調子に乗りやがって!あのC級ニート野郎!許せねぇ!!)
 銃弾を籠めたカルネウス。
 外の巨大炉心を見つつ、覚悟を決める。

「そうだ、だからこそ……俺は俺のすべきことをしねーとな!!」

23人目

「カルデア・ランチタイム ~ Journey through the Decade ~」

 ――特異点・リビルドベース/食堂。

 リビルドベースの食堂は、いつもと変わらず穏やかな空気が流れていた。
食堂の片隅で、門矢士が彼は手に持ったフォークにパスタの麺を絡めつつ、
ひとり静かに食事をしている。

 その時、藤丸立香とマシュ・キリエライトが食堂に入ってきた。
二人の表情はどこか不安げで、視線を交わしながら士の元に向かう。

「士さん、ちょっといいですか?」

 士はフォークを止め、二人に視線を向けた。彼の鋭い目が二人をじっと見つめるが、
すぐに食事を再開する。

「何かあったのか?」

 立香とマシュは士の向かい席に座り、顔を見合わせる。立香が口を開いた。

「実は、ちょっと変な夢を見たんです。それで、士さんに相談したくて……」

 士は興味を引かれたように眉を上げ、フォークをテーブルに置く。

「夢か……どんな夢だったんだ?」

 立香は少し言葉を選びながら、夢の内容を話し始めた。
クォーツァーとの決戦の直前、杜王町で昏倒した際に見た夢の中で、
立香は岩窟王、エドモン・ダンテスと共にグランドクロスの尖兵である亡霊と戦っていた。

 そこには、暁美ほむらと名乗る少女がいて、悪魔の如き禍々しき力を行使し、
平坂たりあと言う少女を守りながら戦っていた……と言う内容だ。
士はその言葉に表情を硬くし、一瞬の間を置いてから質問の答えを返す。

「暁美ほむら……か。それはただの夢とは思えないな。
それは夢ではなく、お前の意識だけがある種の並行世界に飛ばされた、って所だろう」
「門矢さん、流石です……
もしかして、その夢には何か現実的な意味があるんでしょうか?」

 マシュの問いに、士は少し考え込みながら答えた。

「可能性はある。暁美ほむらは俺と同じく、並行世界を渡り歩いてきた者だ。
俺もあの女に会った事がある。時には敵として、時には味方として……
不干渉を貫くと言っていたあいつが何かを守ろうとしているなら、
それは無視できないことだ。それに、ほむらが言っていたと言う
グランドクロスと言う名……」

「確か、クォーツァーの首魁・常磐SOUGOもその名を口にしていました……」

 マシュは回顧する。クォーツァー・パレスを舞台とした決戦の最終局面……


『平成という醜い歴史が! メサイア教団を生み出し、ミケーネ神を復活させ、
そしてグランドクロスをリ・ユニオン・スクエアに引き寄せたのだぞ!?
こうなってしまった以上、歴史を……世界を作り変えない限り、
リ・ユニオン・スクエアの……いや、全ての世界の滅びは止められん!!』


「暁美ほむらが言っていた名と同じ……士さん、グランドクロスって……?」
「昔、大ショッカーと言う組織があった。
すべての世界の悪の組織が大同団結した、大いなる大組織……」

 悪の秘密結社・ショッカーを基点とし、あらゆる並行世界で仮面ライダーと戦ってきた
悪の怪人たちが一同に寄り集まり、仮面ライダーディケイド/門矢士の
「渡り歩いた並行世界を繋げる力」を利用し、すべての世界を征服しようと
企んでいた者たち……それが大ショッカーだ。

 その野望は世界と時間を超越して集結した全仮面ライダーの活躍によって
潰えたと思われていたが……ショッカー大首領は生きていた。
しかも、自らが仮面ライダーと化し、オーマジオウさえも降す程の力を手に入れて
現在ではグランドクロスに助力している。

「グランドクロスってのは、そう言う馬鹿げた考えを持って
あらゆる並行世界から寄り集まった老人会みたいなもんだ。
自分たちは影に潜み、世界を混乱に陥れるのを眺めては悦に入る……そう言う奴らさ。
恐らくは俺がこれまでに巡ってきた世界にも大なり小なり関わっていたのかも知れんが、
年寄りの道楽には興味がない」

 立香の見た夢。丸喜パレスに向かったジオウとゲイツが遭遇したと言う、
ショッカー大首領が変身するショッカーライダー。そしてグランドクロスの暗躍……
すべての点と点が、線で結ばれていく。

「だが、その話を聞いて合点がいった。グランドクロスは現実に動いている。
それも、俺達のすぐ近くでな……」
「士さん、暁美ほむらが守ろうとしていた、平坂たりあって子は……」

 平坂たりあ。それは士にとっても、ほむらにとっても、避けては通れない名だ。
ディケイドとほむら。2人が共闘するきっかけとなった存在であるが故に……

「掻い摘んで有り体に言えば、その娘が持っている力を狙う輩どもがいた。
俺とほむら、そして物好きな連中が集まってそれを叩き潰した事がある。
だが、平坂たりあを守る役は、もうひとりいたはずだ……」



『たりあと、この世界は私が守る。お前はこれからも旅を続けろ』



 そう言って、戦いを終えた士が旅に出るのを見送った少女がいた。
たりあの記憶の番人にして、守護者。
その誓いを容易く破るような生半な心の持ち主ではない。それは士もよく理解している。

「まあ……結論から言えば、お前の夢は現実と繋がっていると見て間違いない。
それに、ほむらには俺も借りがある。このまま行けば、いずれグランドクロスと
直接ぶつかり合う時が来るだろう」
「先輩、門矢さんがこう言ってくださっているなら、きっと私たちにも
何かできるはずです。こうして私達が出会ったことにも、重要な意味があるのだと」

 立香は士とマシュの言葉に力を得て、決意を新たにした。

「ありがとう、士さん。私もできることを全部やってみるよ」

 士は微笑みを浮かべ、再びフォークを手に取った。

「並行世界で何が起こっているかは分からんが、
俺たちがその当事者としての領域に足を踏み入れるのも時間の問題かもしれない。
もう奴らとの戦いは始まっているんだ……」

 立香とマシュは士の言葉に頷き、未来に向けた新たな決意を胸に抱く。
士は静かに食事を再開し、二人の決意が強固なものとなるように見守っていた。

「そうだね。まずは準備をしっかりして、いつでも行動できるようにしておくよ」
「はい、先輩。私も一緒に頑張ります!」

「だったら、お前たちもメシを食え。腹が減っては……と言うだろ」

 その言葉に、士は満足げに頷きながら、食堂に広がる静かな空気を楽しんでいた。
そして、これから始まる新たな冒険の予感が、彼らの心に響く……

24人目

「炉心狂蝕:無尽恒炉魔人-マクスウェル・メイガス その2」

 第Ⅱ実験棟では
「ぐぐぅ……!!」
 対峙するは巨大炉心を持った異形の天球儀。
 もう一機のマクスウェル・メイガス。
 第Ⅲ実験棟のそれと全く同じ、まるで姿かたちのよく似た兄弟のようだ。
「大丈夫?」
「ええ、こちらは無事ですが……この化け物、今までのとは違う。」
「明らかに強い。」
 それもそのはず。
 ただ封印されただけのシュレディンガー・ビーストとは異なり、こちらは「敵を殲滅する」という明らかな意図をもって作られた。
 それにしてはいささか攻撃力が高すぎるが、これはもう今更というべきか。

「お二方、加勢するぜ。」
「あなたは……あの時の、ですか!」
 苦戦するファルデウス達の元に第Ⅲ実験棟から、燕青達が駆け付けた。
「自己紹介は後だ、それよりも今は。」
「あの怪物を、倒す!」

 4人は、傲岸に流転する天球儀の環を睨んだ。
 無数の眼が、矮小な人間如きが勝てるものかと嘲笑う。
 触手はうねりながら、こちらを薙ぎ払わんと腕を振りかぶった。
 その一撃を、援軍として来たフィオレの鉄の腕が受け止める。
「今です!」
 触手の動きが止まった。
 抵抗させまいと、フィオレ目がけて無数の眼から光線が放たれようとする。
「させるか!」「死ね!!」
 その眼目がけて、ファルデウスと霧切が発砲する。
 迫りくる計16発の弾丸。
 それをもろに喰らったマクスウェル・メイガスの眼球器官、計36門の砲塔のうち2門が破壊される。
 そして―――!
「油断したな――――!」
 攻撃に専念するあまり防御をおろそかにした怪物への制裁。
 燕青の宝具にして絶技が、残る砲門目がけて放たれる!!
「『十面埋伏・無影の如く』!!」
 影も残さぬ超神速の連撃。
 残る34門の眼球砲塔と36本の触手部位のうち、4門の砲塔が潰れ6本の触手が抉れた。
『e88ba6e7979be6a49ce79fa5e38080e58db1e999bae383ace38399e383abe4b88ae69887!!』
「やっと痛がったかよ、この野郎!」



 場面は変わって第Ⅲ実験棟。
 飛び交う魔術と剣戟。
 鉄の触手と死の光線。
「うぉおあああ!!」
 こちらは苦戦を強いられていた。
「ここじゃ分が悪い!みんな、建物の中へ逃げるぞ!」
「「「応!」」」
 ここでは場所が悪いと、
『e98083e38192e38289e3828ce3828be381a8e6809de38186e381aa』
 マクスウェル・メイガスは無数の荷電粒子レーザーを眼球型の砲塔から放つ。
 放たれたレーザーの数々が、建物の外壁を破砕してゆく。
 光線を回避しながら、4人は第Ⅲ実験棟の建物内に入ってゆく。
「急げ!」

「あと一人忘れていねぇかってんだ!!」
 その刹那。
 6発の呪いが。
 否、6発の魔弾が正確に、触手を抉った。
 抉られた触手はその呪いにより、攻撃力を失い腐敗してゆく。

『e98083e38192e3819fe3818be38080e381a9e38193e381abe8a18ce381a3e3819fefbc9f』

 第Ⅲ実験棟の建物内。
 まるで巨大なホテルのような建物の中はとても広い。
 だが、その内装は実にシンプルで無機質。
 まるで近未来SFに出てくる病院のようだ。

 そんな建物の周囲を惑星のように回りながら、マクスウェル・メイガスは中に入っていった5人を探し始める。
 全長40メートルの体躯故に眼の視座が広く、人間サイズの5人が豆粒程度にしか見えていない。
 外という広大なフィールドで戦っていたときはその暴威を振るえていたが、建物に入っていかれると弱ってしまう。

「そこにいたのかよ、カルネウス!」
「ずっとあの辺の瓦礫に隠れて奴をブッ倒す隙伺ってたんだよ。」
 ありえないことだ。
 敵であるはずのカルネウス。そんな彼が、彼にとっての敵―――CROSS HEROESを助けたというのだ。
「ブッ倒すだと!?お前の事だ、どうせ『俺たちを』ブッ倒すの間違いじゃないのか!?」
 信じがたい現実。
 彼を疑い、敵視していたリクは憤る。
「リク、落ち着け。まずはこいつの話を聞こう。」
「でも……!」
 彼の怒りを諫めた江ノ島は続ける。
「あたし思ったんだけどさ、さっきの話といい、あたしらを助けたといい、こいつマジでこっちを攻撃するつもりがないんじゃないか?」

25人目

「未開の地と旧き知己を訪ねて」

――幻想郷。

「ひゃっほーっ! やっと身体動くようになったぞ。サンキューな!」

 八意永琳の治療により、悪霊の忌油による毒から立ち直った孫悟空。

「ふん、ようやくか……」

 診療所の屋根の上で寝転んでいたベジータが、悟空の復帰を察知し、身を起こした。

「気になるんですね、彼が。ライバル関係と言う奴でしょうか」
「余計な世話だ。たかが悪霊ごときで奴がくたばるわけはないだろうが……
カカロットを倒すのはこの俺以外には有り得ん」

 明智を置きざりにして、ベジータは地上に飛び降りて行った。

「ふふ……分かりますよ、その気持ち。まるで自分のことのようにね」

 彼にもまた、何を置いても決着を着けるべき好敵手がいる。雨宮蓮……ジョーカー。
すべてが終わった後は、あの男と……
 
「はは、悪かったな。みんな。おかげでたっぷり休ませてもらったぞ」
「悟空さん、元気になられて良かったです」

 幻想郷の草原に、戦士たちが集結していた。
悟空、ベジータ、ピッコロ、ペルフェクタリア、月美。
彼らは、これからの行動を話し合うため、輪になって座っていた。

「貴様が寝ている間に幻想郷の復興も随分と進んだ。
それに、ぼちぼち次なる場所に移動する者たちも出てきている」

 ピッコロの言う、シャルル遊撃隊がそれだ。
リ・ユニオン・スクエアはジャバウォック島に向かった流星旅団と合流を図るのだという。

「そうみてえだな。それと……」

 悟空が幻想郷の空を見上げた。新たなる敵、暗黒魔界……

「やっぱ、まずは異変の中心地を探るべきだよな。何か嫌な感じの……
でっけぇ力を感じんだ」
「暗黒魔界……確か、魔道士バビディに操られていたダーブラとか言う奴が
その世界の魔王を名乗っていたような気がするが。未だに謎多き場所だ」

 魔人ブウを復活させるために暗躍していたバビディの魔術、悪の心を持つ者を
自分の意のままに操る……暗黒魔界の王、ダーブラもそのひとりであったが、
魔人ブウの前には成す術もなく殺されてしまった。
それ以来、悟空たちが暗黒魔界と接触する事は無いままであった。それが今になって……

「ダーブラとか言う奴なら、あの時の俺達でも余裕で倒せる程度の小物だった。
残ってる連中も所詮は雑兵の集まりに過ぎんだろう」
「そうとも限らんぞ、ベジータ。バビディやダーブラとて、ツバで人を石に変えたり、
人の心を操ったりと不可思議な術を使っていた。
実力では勝っていても、搦め手を弄してこちらの実力を封じてくる輩がいないとも限らん」

「わかった、ピッコロ。オラ達も暗黒魔界に向かう連中のところに行こうぜ」
「その事だが……頼みがある」

 小さな声で、ペルが呟いた。

「ん? どうしたんだ、ペル?」
「私は……特異点とか言う場所に行ってみたい」

「理由は?」
「特異点には……藤丸立香と言う女と……ディケイドがいると聞いた」

 ペルは、先駆けて特異点に向かったCROSS HEROESのメンバーから、
端的に話を聞いていた。

「ディケイドと言う男は、かつて私のいた世界で共に戦った仮面ライダーで……
藤丸立香は、たりあの手がかりを握っているかも知れない」

 ペルが見た夢……暁美ほむら、巌窟王、そして藤丸立香に守られる平坂たりあの姿……

「だから……」
「おめぇがオラ達に頼むなんて、珍しい事もあるもんだな」

「ふふ。ペルちゃんは日々変わってきているんです。良い方向に」

 月美はペルの傍らで微笑む。

「……駄目か?」
「駄目なもんか。おめぇが決めた事だ。おめぇの好きにすりゃいいさ」
「……ありがとう」

「ありがとう、だってよ。ベジータより素直じゃねえか?」
「ほざいてろ……」

「私もペルちゃんと一緒に特異点と言う場所に行ってみたいと思います」
「ああ、向こうにいるカルデアって連中は頼りになる。そいつらの所に行けば大丈夫さ」

「お、次の行き先が決まったのか?」
「奇遇ね。私達も特異点に向かう事になったの」

 話しかけてきたのは、竜司だ。杏、モナ、芳澤、真もいる。

「皆さん……」
「ワガハイたちもジョーカーたちと作戦会議してな。
心の怪盗団は二手に分かれる事にしたんだ」

 モナの話によれば、蓮、祐介、双葉、春、明智は悟空たちと同じく
暗黒魔界への同行を決めたのだと言う。

「特異点の地下にはメメントスが広がってるらしいからな。もしかしたら、
また内部に変化が起きているかも知れない」
「メメントスに行くには心の怪盗団のイセカイナビが必要ですからね」

「メメントスか。何だかなっつかしいな。あの時はガーリックJrの奴が化けて出てきて
オラ驚れぇたもんだ」
 
 前回のメメントス探索では、悟空とピッコロの潜在的な記憶から
ガーリックJrが復活し、思わぬ苦戦を強いられた。ガーリックJrだけではなく
その時に同行したメンバーたちの記憶からも次々に強敵が出現したのだ。
さらに、メメントスを抜け出したシャドウたちが杜王町に出現し、人々を襲うと言う事件も
起きている。特異点とメメントス。いずれも人々の常識から逸脱した世界……
いつまたメメントスが活性化し、新たな事件を引き起こさないとも限らない。

「確かに、あの場所は厄介だ……カルデアやCROSS HEROESの別働隊がいるとは言え、
定期的に監視しておく必要があるだろう」
「そうだな。そんじゃ、オラ達も暗黒魔界に行く準備すっか」

 悟空やピッコロ、ベジータは暗黒魔界行きを決めた蓮たちの元へと移動する。

「では、一度トゥアハー・デ・ダナンと合流して、幻想郷の状況を
テッサ艦長たちに報告した後、特異点に向かう事にしましょう」
「そうだな」

 こうして、悟空、ベジータ、ピッコロ、
心の怪盗団Aチーム(蓮、祐介、双葉、春、明智)は暗黒魔界へ、
ペルフェクタリアと日向月美は仮面ライダーディケイドと藤丸立香を訪ねて、
心の怪盗団Bチーム(竜司、杏、モナ、芳澤、真)はメメントスの状況を確認するため、
特異点へと向かう……それぞれの目的地に向かう旅が始まるのであった。

「そんじゃあな。悟飯やクリリンたちによろしく言っといてくれ」
「はい。悟空さんやピッコロさん、ベジータさんたちも気をつけて」

「ペルフェクタリア」
「何だ?」

 ピッコロが、人知れずペルを呼び止める。

「日向月美……何かあったのか? 様子がいつもと違うと思ってな」
「流石だな……」

 アビィ・ダイブの素性と過去を聞かされた月美は、今も尚、心の葛藤に揺らいでいた。
その機微を、ピッコロは見抜いていたのだ。

「日向月美は、命を守るために戦っている。だが、救う命と救わない命……
どちらかを選び取らなければならない状況が差し迫った時、彼女は……」
「フン、まるでカカロットのような甘い事を言いやがって」

 端で話を聞いていたベジータが割って入ってくる。

「戦いに身を置く以上、生きる者と死ぬ者に分かれるのは当たり前だ。
それも自分で決められないようなら、今の内に去るんだな。
生温い優しさだけで、これからの戦いを生き抜くことは出来んぞ」
「……」

 新たな試練が、立ちはだかる。

26人目

「疑心の大帝/炉心狂蝕:無尽恒炉魔人-マクスウェル・メイガス その3」

 存在しなかった世界。
 かつてリクの友、ソラと彼の仲間たちがⅩⅢ機関と熾烈な戦いを繰り広げた場所。
 その地にてⅩⅢ機関の首魁ゼムナスは斃れた。

 そして訪れた、全ての元凶たるマスター・ゼアノートとの戦い。
 その果てにゼアノートは消滅。存在しなかった世界も虚数空間の深淵まで封印された。
 未来編纂の代償としてソラは人理を追放され、ついにその先の未来を開拓する者はいなくなってしまった。

 ―――だが、世界は消えてはいなかった。
 幾星霜の果てに、かの地は悪徳と狂信、救済と破滅を謳う悪しきメサイア教団の支配下に置かれていたのだ。
「キラ様、どうか世界をお救いください!」
「我らに無限の幸福を!」
「俺たちも立ち上がろう!悪しきモノたちを殺しつくそう!」

「……。」
 その様子を、教団首魁のカール大帝はただ訝しげに見ていた。
 というのも、彼は内心違和感を抱いていたのだ。
「確かに、この身は救世を諦めきれぬ。かのSE.RA.PH.にて、我が影たるシャルルマーニュに敗北した事実は認める。だが、それでもなおこの胸には無念が渦巻いている故。」
 彼はかつて「人間が、自分らしく生きる世界」を救済の最終目標として定め、己に与えられし異能(スキル)「天声同化」によって月の世界SE.RA.PH.から救済を行おうとした。
 たとえシャルルマーニュに敗北してもなお、その想いは変わらない。
 願わくば、今一度。今度は正しい方法で、成し遂げて見せようと願った。
 そして、その想い/無念を胸に彼はこのメサイア教団の首魁になったのだ。

「だが、この現状は何だ?」
 確かに、彼らは世界救済に積極的に動いている。
 大帝の思っていた手段とは違えど、彼らの救済渇望に偽りはなかった。
 しかして彼らのやろうとしているそれは。一歩間違えれば、或いは使い方を間違えれば自分たちどころか世界を終わらせてしまう破滅の茨道でもあった。

「……そこな兵士よ。外のCROSS HEROESはどうしている。」
 呼びかけた彼の元に、守衛をしていたクラス・セイバーの無名英霊が駆け付ける。
「報告します。」
 無名のセイバーは大帝に跪き、外の様子と港区の後のCROSS HEROESの様子を子細に伝えた。
 あの後、彼らは特異点に移動し、クォーツァーと激戦を繰り広げ勝利した事。
 その後どういう訳か、第4位の芥志木が斃された事。
 続けて彼らの存在が消失したと思えば、大司教第2位の焔坂を倒してしまった事。
 かと思えば、彼らの一部がジャバウォック島に移動している事。
 かの島に影たるシャルルマーニュとその仲間たち、そして大司教第3位のカルネウスがいる事
 そして、現在もなお諦めずにソロモンの指輪を集めている事を知った。

「まさか彼らがここまでとは。」
 大帝は、ある程度情報は知っていた。
 それこそ大司教が斃されたことくらいはある程度把握していた。
 だが、その子細詳細までは彼の知るところではなかったのだ。

「後、これはクォーツァー決戦の折、特異点に送り込ませた雀蜂から得た情報ですが……どうも、丸喜拓人なる者も徒党を組み、我らとは全く違う方法で同じ救済を目指しているとの事です。」
 大帝は悩む。
「なるほど。……特異点とのパスはつながっているな?」
「はい。いかほどなされますか?」

「……彼の下に特使を送れ。通信用の礼装を持たせてな。」
「はっ。直ちに。」



 その頃、ジャバウォック島では

「分かってくれよぉ。俺はメサイア教団大司教3位ではあるんだぜ?そりゃあロンドンでは大立ち回りはしたさ。でもな?俺は鼻つまみ者だったんだぜ?嫌われてたのよホントに。あーあー、これならクレイヴの奴と立場入れ替えた方がよかったぜ。」
 シャルル遊撃隊に囲まれ、カルネウスは尋問されていた。
 その間、彼は教団で自分がどれだけぞんざいに扱われていたのかと力説していた。
 相手は敵の大司教、大ボスもいいところ。そう簡単に信じていいものかと。
「……。」
「なぁ、信じてくれよ。俺、今の今までお前らに攻撃してないだろ?」
「…………。」
 熟考の末、4人はお互いに顔を見合わせた。
 そして全員頷いたのち、シャルルマーニュが話しかける。
「おい、カルネウス。」
「あん、何だシャルルの大将。」

「外の化け物を倒したら、江ノ島を連れて第Ⅴ実験棟へ連れてってやってくれ。」
「「え?」」
 リクと、カルネウス当人が驚く。
「い、いいのかシャルルマーニュ!?」
「ああ、今のこいつは……信用できる。」
「もうちょっと疑うかと思ったが……。」
「ただしカルネウス。これから行く第Ⅴ実験棟へついていくのは『俺たち全員』だ。まだ完全に信用したわけじゃないからな。」
「そうか。まぁ妥当だな。信じてくれてありがとよ。みじけぇ間だがよろしく頼むぜ。」
 カルネウスは安堵のため息をつき、外を見る。
 外にはいまだ流転する怪物、マクスウェル・メイガスが触手を蠢かせていながらぐるぐると動いていた。

「……で、あのクソデカ地球儀はどうする?」
「手伝ってくれるか?」
「もちろんだ。俺は一度した約束は守るぜ。」
「外に出たら、あの目ん玉をできるだけ潰してくれ。俺は周囲の触手を斬る。」
「了解だ。」

27人目

「暗黒魔界に向けて:ウーロンその1/救世問答0:邂逅」

時は、アビィが悪意をろ過する少し前に遡る。



「お願いだ悟空、お前さんの力を貸してくれ!」

診療所にて、それはもう見事な…いや、短手短足故に割と中途半端な土下座をかましたウーロンの姿があった。
本来であれば、その格好に笑い転げるべきであったかもしれない。
実際、事情を知らない某悪戯兎が笑いを必死に堪えているのが現状だ。
が。

「…何か今までにねぇくれぇの気迫だな?」

逆に悟空は、思わず息を吞んだ。
それ所か、僅かながら驚愕の表情を覗かせる程には真剣にはなれた。
明らかにふざけている場合ではないと悟るには十分な、『圧』がそこにはあったからだ。

「ウーロン、オメェ、一体何があったんだ?」

悟空が問う。
一応とはいえ療養の身だ、おおっぴらに動くことは出来ない。
にもかかわらず、何故ウーロンが自分に拘るのか。
気になるのも当然だ。
するとウーロンは、小さい声で語りだした。

「…俺よ。悪霊が溢れだした時に、皆と比べて大したこと出来なかったんだ。」

瞼を震わせながら、ウーロンは続ける。

「それどころか、排気孔の時は寧ろ皆の足を引っ張ちまって…!」

その眼には、後悔が浮かんでいた。
…いや、そんな言葉では生温いかもしれない。
もっと暗く、もっと深く、そしてもっと…重い何かだ。

「余裕も無い癖に油断なんかしてたから、力を奪われちまって…」

思い返すは、クレイヴにトランスボールを奪われたあの瞬間。
自らの切り札が、逆に自分の首を絞める凶手となる感覚。
それは、ウーロンの心に後悔の種を植え付けた。

「オメェ……」

それを感じ取った悟空は、思わず息を詰まらせる程だった。
だがウーロンの口は止まらない。
まるで自分の罪を懺悔する罪人のように、語り続ける。

「…人里の空でよ、俺は見たんだ。」

その眼に差した影を深くして、彼は告げる。

「あっちこっちでよ、人の命が簡単に無くなっちまう所を。」

_それはまるで、地獄を見てきたかのようだった。
人里は今、大々的な復興を経て元に戻ろうとしている。
だが裏を返せば、それだけの被害が齎された事の証左でもある。
当然ながら、物的被害だけという訳には行かない。
それは殺傷で有ったり、呪いが周り切り薬が間に合わなかったり、様々な…
いや、この際はっきり言おう。
_大勢『死人』が出たと。
復興を喜ぶ人々の裏に、大量に作られた粗末な墓標の前で悲しむ人もいるのだと。

「俺は、俺が情けなくてたまらねぇ…!」

それは、ウーロンの心に『自らへの憤り』を芽生えさせるには十分であった。
使命感を背負いながらも、何処か腑抜けていた己に対する怒りである。
その怒りが彼の心を燃やし、このような焦燥に駆り立てたのだと。
普段は余り人の気を知らない悟空でさえ、そう推し量る事が出来る程の気迫がそこにはあった。

「だから、頼む悟空…!お前の力を、貸してくれっ!」

_これ程までにウーロンが力に拘るのには、訳がある。
嘗て港区でオセロットから明かされた『彼女』の話。
見聞きどころか存在すら知らなかった、しかし偉大さだけはしかと分かる一人の『英雄』が残した意思。
それを聞き届けた時、ウーロンは『彼女』に憧れた。
『彼女』の残した『想い』にも。
同時に今までの卑屈な自分を恥じ、改めたいと思ったのだ。
そこに、先の惨劇と失態である。
力を求めるには、十分過ぎる理由だった。

「…よし、分かった。オラに任せとけ!」

そこまで聞き遂げた悟空が、力強く頷く。
それはウーロンの純真さに対する敬意であり、同時に友が求めている事に対する嬉しさだった。

「とりあえず、そのトランスボール?ちゅうのに気を込めれば良いんだな?」
「あぁ、クレイヴの野郎に取り込まれた時、空になっちまったみてぇでな。頼むぜ!」

そう言われた悟空は、何の躊躇いも無くベッドから抜け出す。
悟空の療養は一応の経過観察でしかない。
故に、寧ろ良い機会だと言わんばかりの勢いがあった。

「うぉすっげぇ跳躍…!」

天井に軽く手が付くレベルのハンドスプリングに、ウーロンが思わず声を漏らす。
当の悟空はこんな物いつも通りと言わんばかりに、くるりと着地を決めた。

「ちょっと待ってろよ。おっいっちにーさん、しー…」

そうして鈍った身体を軽く伸ばしてほぐし、コキコキと心地良い骨のリズムを刻んでいく。
大きく背伸びをし、ピンと腕を突っ張らせた所でウーロンに向き直る。
そして悟空は、準備は終えたと言いたげなキリッとした表情でトランスボールを手に取る。

「よし、今から気ぃ込めっから少し離れてろ。」
「あいよ!」

いよいよ待ちに待った瞬間に、ウーロンは浮足立った様子で数歩下がる。
それを確認した悟空は、ゆっくりと、慎重に気をトランスボールに込めていく。
やがて、トランスボールが光を帯び始めた。
それはまるで小さな太陽のように辺りを明るく照らす、正しく悟空の気そのものと言えた。
そして…

「よっし、これで完成だな?」

光が収まる頃、その見た目には変化が生じていた。
表面には悟空と思わしき影が浮かび上がり、揺らめいている。
『孫悟空のトランスボール』の完成である。

「うしっ!出来たぞ!」
「ぃやったーーー!!!悟空!これで、俺も…!」

思わずガッツポーズを取るウーロン。
その目に涙を滲ませて。
こみ上げるものがあるのだろう、天を仰ぐように上を向いていた。

「これで、オラの力が使ぇる様になったっちゅー訳だな?」

ウーロンが涙を拭うのを見届けて、悟空はトランスボールを手渡す。

「あぁ!悟空の力があれば百人力だぜ!」

受け取ったウーロンは、太陽のような輝きを宿すトランスボールを握り締める。
その眼には、もう迷いは無かった。

「でもよ、オラの力って事は、オラの戦い方出来ねぇと力引き出せねぇんじゃねぇか?」
「あぁ、だから俺に悟空の戦い方を教えて欲しい!」

その気迫のまま、流れる様にウーロンは頼み込む。

「おっ!よし来た、寝てばっかだと身体が鈍っちまうからな!」

悟空の返答は快諾だった。
実際、療養してばかりでは身体が疼いて仕方が無かったというのもある。

「そうと決まれば、早速始めるか!」
「おう!よろしく頼むぜ、悟空_」

_ガラッ、ストン。
そうして始めようとした時、窓が開き何者かが入ってきた。



_コツッ、コツッ、ガチャ。
静かな足音と軽い鎧の音を鳴らして、騎士が跪く。
彼の眼先に居るのは、マゼンタ色の武道服を身にまとった3mはあろうかという大男。
即ち、ストロング・ザ・武道であった。

「して、貴様がメサイア教団…いやカール大帝からの特使という者か。」
「はっ、これはメサイア教団全体では無く、カール大帝様個人の御意にございまする。」

ここは特異点の中枢、丸喜パレスにある応接間。
漂白されたが如き現代技術の白い空間で、西洋二種の鎧姿が佇んでいた。

「此方が、通信用礼装です。」
「うむ、ならば繋ぐと良い。」

今、ここに救世問答が始まる_

28人目

「救世問答<裏>/神秘と神隠しと外世界旅行/救世問答1:決意」

「ほう、大帝が特使を?」

 存在しなかった世界 円卓の間
「はい。なんでも……丸喜なる人物の元へと。」
 エイダムと魅上が、円卓の間で会合をしていた。
 議題はカール大帝が先ほど送り込んだ特使と、その送り先の人物―――丸喜拓人。

「丸喜……誰だそいつは。」
「なんでも、我々とは異なる方法で世界を救済せんとする者のようです。仲間も―――完璧超人の多数を含めておりその誰もが一騎当千。迂闊に攻め込むのは厄介かと。」
「完璧超人……これはまた厄介な。私も彼らの戦いをいくつか見ていた故な。話すか?1日中講義できるぞ。」
「いや、またの機会に。」
 閑話休題。

 2人の密会は続く。
「しかし、ここに来て大帝自らが特使を派遣するとは。これは、我々の目的に勘づき、裏切るつもりではあるまいか?」
「裏切り……となると、今ここを抜け出されるのは拙い。本格的に裏切る気があるのならば、こちら側も早々に動く必要がありますね。」
「かといって今こちらも動いたら感づかれる。」
「というと?」
「大帝にはカリスマのスキルがある。無名英霊や信仰者の一部も親衛隊として彼に仕え、彼に忠誠を誓っている以上今無理に動けば、"大帝親衛隊"を中心に内部から崩壊する。むやみに闇討ち・暗殺の類はできないということだ。」
 天声同化のための傀儡にしたはいいものの、大帝の言葉を心底信じ、彼に仕える者たちが存在するのも事実。
 もし無理に大帝の暗殺などを今行えば、親衛隊は必ずキレる。
 そこからクーデターなんぞ起こされたら大打撃だ。
「もう少し泳がせろ。天声同化の摘出および修復が不可能なら、時を見計らい暗殺部隊を送るとしよう。」
「了解しました。……ああ、それと裏切りで一つ思い出したことが。」
「何か?」
「ジャバウォック島にいるカルネウスはどうするおつもりで?」
 カルネウス。
 現在シャルル遊撃隊とともに動いている、大司教第3位の男。
「聞くところによると、あの男CROSS HEROESとともに行動しているようで。」
「ふん、奴ももう少し泳がせておけ。始末はその後でいい。実力を買って大司教の座に押し上げたはいいものの、実力主義もいいところだらけではないな……。」
「粛清は、もう確定していると。」
「ああ、どのみちな。」



 幻想郷 人間の里のある場所で

「んで、どうしてここにあんたがいるんだ?サイクス、ザルディン、そしてモリアーティ。」
「私が連れてきたのよ。」
 幻想郷の管理者、八雲紫。
 彼女が連れてきたのは均衡の守護者サイクスとザルディン、そして彼らの先導者にして若き悪の皇帝モリアーティ。

「天宮兄妹の2名は、彼らと交代だ。」
「交代って、どうして?」
「紫から事情は聞いてある。お前たちがこれから向かう予定の暗黒魔界は、いうなれば闇のエリアだろう?リクもこの場にはいないなら……。」
「生身の人間より闇に精通しているあんたたちが適任ということか。」
「そうだ。何、外の世界では少々厄介なことが起きていてな。そっちのほうは君たちのほうが適任だよ。」

 適任を入れ替える、という意味での選手交代。
 外の世界の問題は、外世界に精通している天宮兄妹に、暗黒魔界へは闇の力への耐性があるノーバディ2人組に出張ってもらうとのことだ。

「何が起きているんだ?」
 モリアーティは、ある資料を月夜たちに手渡す。
「神隠し、だ。世界規模でのな。」
「神隠し?」
 それは、新たなる嵐か。



 丸喜パレス 応接間

 特使が通信礼装を起動する。
 すると、空中にカール大帝の姿が映し出された。
 無機質な特異点の中枢。
 救済を謳う者たちの邂逅と会合が、今始まった。

「余はカール大帝。現在は……メサイア教団の首魁となっている。そちらは?」
「私はストロング・ザ・武道。今丸喜は席を外していてな。それでカール大帝よ。我らに何用か?特使まで遣わしたのだ。相当の理由があろう。」
「単刀直入に言う、お前たちの言う『救済』とはどのようなものだ?」

29人目

「暗黒魔界に向けて:ウーロンその2/救世問答2:疑心」

_診療所の窓から音を立てて入り込んだのは。

「お、ピッコロじゃねぇか?」
「_あー、窓から来るもんだからビビったぜ…」

誰あろう、ピッコロであった。
急な来訪に一瞬ビクリとしたウーロンであったが、ピッコロと分かるや否やあからさまに安堵する。

「あぁ悟空、少し厄介なことになってな。」

が、当のピッコロ本人の顔色は良くなかった。
緑色の事では無い。

「感じるか、この可笑しな悪意を…?」
「お?…そういえば、さっきから何か変な気が遠くから来てるな。」

月美達の肌を震わせた、歪で膨大なあの悪意である。
言われて、悟空もその悪意に気が付いたようだ。

「…なんっか、すっげぇ怖ぇ気がしてきたんだが。」
「ウーロン、お前も感じたか…いや、ここまで膨大なら誰でも気付くな。」

今まで悟空達と共に居たからこそ多少気が分かる程度のウーロンでさえ、身震いするレベルの悪意。
その一件がピッコロを険しい顔色にさせたという事は、容易に想像できた。
悟空もまた、顔色を一変させ険しくさせる。

「…よし、ならオラ達の出番っちゅー事だな?」
「いや、アレには月美達が向かった。そして問題はアレだけじゃない…」

だが、彼が感じた物はそれだけではなかった様だ。

「何、そりゃどういう事だ?」
「この悪意が来てからだが、妙な音が人里の近く…そうだな、即席の墓地辺りでしてな。」

ピッコロの耳は、地獄耳めいて音を拾う。
数十m程度の距離なら、会話をハッキリと聞き取れる程だ。
故に、彼の耳にはあの悪意とは別に人里の方で何やら騒がしい音を感じ取れた。

「妙な音だった、鳥が飛び立つ音や人の声とは全く違う…悪霊の鳴らす声に近かった。」

その事を悟空とウーロンに話すと、2人は顔を見合わせる。
直後、ウーロンの顔色も険しくなった。

「それってよ…悪霊がまた出てきたっつー事か?」
「分からん。上からは森が茂ってて姿を見れなかった。だが、その可能性も考えておくべきだろう。」

悟空は一層、顔を引き締める。
相手があの悪霊とすれば、幾ら用心してもし過ぎるという事は無い。
先の戦いで、何十、何百と人々を惨殺したか分からぬ程の脅威なのだから。

「…とんでもねぇ事になってきたみてぇだな。オラも療養してる場合じゃ無さそうだ。」
「ああ、病人に鞭打つ様で悪いが_」

お前も戦ってくれ、そう言いかけた時。

「_いや、ここは俺に任せてくれ。」

横槍を入れたのは、意外にもウーロンだった。
想像だにしなかった言葉に、悟空は虚を突かれた様に目を丸くする。
それを見返すウーロンは、頼もしい表情で言葉を続ける。

「せっかく悟空の力を得たんだ。俺がやらなきゃな!」

普段より頼もしく見えるのは気のせいだろうか。
そう感じさせる気迫が滲み出ていた。

「おう…でも、大丈夫か?」
「ああ、任せてくれ!悪霊には借りがあるからな。」
「そうか…じゃあウーロン、オメェに任せるぞ!」
「おう!」

悟空はそんなウーロンに後を託すと、窓から外へと降り立つ。
それを見送ると、ピッコロが悟空へと向き直った。

「悟空の力、と言ってたな。あのトランスボールとやらか?」
「あぁ、あれで悪霊をぶっ飛ばしてくれるらしぃ。」
「成程な。トランクスの力でも相当に活躍したそうだ、一先ずは問題無いか…?」

そんな軽い談話をしている時だった。

「でも、あれはちょっと不味いんじゃないかな?」

凛とした男の声が、静かに響く。
振り向けば、療養室の入口で腕を組む男が居た。

「やぁ。」
「お、ヒビキじゃねぇか!」

そう、ヒビキである。
その顔付きは、何処か険し気だった。

「そんで、不味いって何がだ?」
「前に彩香って子が覚醒した話の時に言った事、覚えているかな?」

言われて脳裏を過ぎる、あの言葉。
_強い力を手に入れた時、心も鍛えおかなくっちゃあ、それに引きずられちまう。
ヒビキはあの時、そう忠告していた。

「…心か。」
「そう、今ある力じゃ足りないからって、即物的な力一つに頼る…典型的な不味いパターンだよ?」

そして今、彼はその懸念をしているのだ。

「足を引っ張って悔やんでる、それで力を身に付けたい…それは結構。自分を顧みて、強くなろうって思えるのは偉いもんさ。」

でも、と頭に置いて彼は続ける。

「明らかに身の丈に合わない強さだ。借り物と割り切ってるなら兎も角、頼りにして振り回されるなら論外だよ。」

ヒビキは、確信めいて言い放つ。
未来を見てきたかの様な断定口調だった。
彼の言葉を、ピッコロは疑う様子を欠片も見せない。
それ程までに、ヒビキの忠告は現実味を帯びていた。

「悟空、やはりお前の出番になるかもしれん。一緒に墓地まで来てくれるか?」

そしてピッコロは、この案件の適任として再度悟空を呼ばんとする。
が。

「…いや、オラは万一ん時に人里守る方に回る。元凶っちゅー奴は、ピッコロとウーロンに任せる。」

意外な返答に、ピッコロは目を見開く。
悟空の眼差しは真剣そのものだ。

「悟空…本気か!?」
「あぁ、マジのマジだ。」
「…何故だ?今ヒビキに忠告されたばかりだろう?」

ピッコロは悟空の決意と、それを感じさせる真剣な眼差しに戸惑う。
悟空の本意が、まるで汲み取れなかったからだ。

「確かに、オラが出るのが正解かもしんねぇ。」
「なら猶更_」
「_でもな、それでもオラはウーロンの決意っちゅー奴を信じてみてぇんだ。」

そう言い切る悟空の双眸には一切の迷い無く、確固たる決意があった。

「オラ達だって、最初は自分の力に振り回されてた。でもそれを乗り越えて今があるんだろ?」
「……!」

ピッコロは、己の認識の甘さを痛感する。
強くならんとする者が誰しも最初にぶつかる壁…それが今のウーロンなのだと。

「いざとなったらオラが出る、ソレで良いだろ?」
「…そこまで言うなら、分かった。」
「言うねぇ…確かに、一理ある。それじゃあ今回は見守る方に回りますか。」

そう言い終えると、3人は部屋から足早に立ち去って行った。



「_。」

無数の、数える気すら起きぬ程の、黒い濁流が如き数の悪霊。
それが無辜の人々に手を掛けんとする映像を前に、カール大帝は絶句する他無い。

『我等の救済が何かを聞く前に、己らメサイア教団の掲げる救済が如何な物か、それまでの所業が分かっているのか問わせて貰おうか?』
『…それは。』
『もし、知らぬ存ぜぬというのならば、まずはそこを認知する必要がある。此方にはその用意がある。』
『分かった、首魁を名乗る以上は知らなければならぬ事だ。出来る事なら、頼む。』

そう言って出されたこれまでの所業の数々を、カール大帝は今全て思い知らされたのであった。

「やはりな。」

そんな彼の反応を、分かり切っていた様に武道が呟いた。

「お主はメサイア教団のやり様を知らず、今になって疑心を抱きこうして我々と接触した。違うか?」

カール大帝の行動を、全て見通したが如き断言だった。
幾億年という歳月が齎した賢眼に、狂いは無かった。

30人目

「Epilogue:炉心狂蝕:無尽恒炉魔人-マクスウェル・メイガス その4」

 第Ⅲ実験棟 大型建物玄関前

「はぁっ!」
「食らいなっ!!」
 シャルルマーニュの剣戟が、カルネウスの呪弾が、マクスウェル・メイガスの触手と目の砲台を抉る。
 無数に潰れゆく目の砲台、切り裂かれる触手の剣。

『e6908de582b7e4b8ade7b49ae38080e8a8b1e38199e381bee38198』
 意味不明のうなりを上げる魔獣。
 中央の太陽を模した魔力炉心も次第に小さくなってゆく。
 じりじりとだが、シャルル遊撃隊とカルネウスは魔獣を追い詰めつつあった。
「よし、このまま押してゆけば!」
「行くぜ天球儀ヤロー!」
 一気呵成に畳みかける5人。
 砲台もほとんどつぶし、触手もどんどんと切り裂かれてゆく。
 このままいけば討伐は近い。
『e38193e3828ce381a7e7b582e3828fe381a3e3819fe381a8e6809de38186e381aae38080e585b1e69c89e59b9ee5bea9e6a99fe6a78be8b5b7e58b95』

 ―――だがしかし、魔獣マクスウェル・メイガスはこれだけでは終わらなかった。
 様子を見つつ攻撃をしていると、江ノ島があるものを目撃した。
「なぁ、回復してないか?」
 それは、小さくなりつつあった太陽型の炉心が、再び大きくなりつつあるという光景だった。
 これじゃあまるで自己回復だ。
 攻撃しても攻撃してもきりがなさすぎる。
「まじかよ、ただでさえしぶといのに自己回復持ち……!」

 彼らはまだ知らない。
 この能力が魔力炉による自己回復だけではなく、魔力供給/共有による超回復によるものだということを。

「――――本当に無限って言いたいのか?そんな馬鹿な。」
「無限、ね。」
 曇りつつあるリクの顔。
 対してカルネウスは、何かおかしいと睨んでいた。
(普通自己回復能力を持っていたとしても、あそこまで早く大きくできるもんかね?普通限界ってもんがある!こんなのよそから魔力を送ってもらっているとしか……よそから?)
 天啓が下ったかのように、納得するカルネウス。
 つい、手をたたいてしまう。
「どうした、何か思いついたのか?」
「ああ、あのバケモンの正体が分かった。」



 第Ⅱ実験棟 遊園地エリア

「掃射!」
「薙ぎ払う!」

 遊園地を踊るように闊歩する魔獣マクスウェル・メイガス。
 相対するは流星旅団とSPMの共同戦線。
 いくらこちらのほうが多勢とはいえ、相手は巨大な魔力炉型魔獣。
 魔力の差にはあちらの方に圧倒的優位がある。

「だが、眼球はつぶしつつある!」
 そういいながら、ファルデウスが魔獣の目玉型砲台めがけて発砲する。
 目玉はどうも有機物、生物の内臓に近い部位のようであり、いともたやすくつぶれる。

「でもおかしい……。魔力が回復しつつあるのは分かるけど、こんなに早く回復する事ってある?」
(あっちにも同じ個体がいる、魔力は無限に等しい。)
(あの太陽は一種の魔力炉。なら……考えられるのは一つ。)
 魔術師フィオレとファルデウスには、無限回復のからくりがわかった。
「あ、そうか。」
「あっちに魔力、流してますね。というよりも魔力を共有しあっている?」

 絶望的回復能力。
 思い返せば、敵は2つとも同一個体。
 魔力炉により自分の体力もちょっとずつ回復し、対岸の方も同じ能力を持っている。
 さらに、一方が苦戦すれば余裕のあるもう一方が魔力を補給してやればいい。

 同一だからこそできる超回復と疑似無限魔力という芸当。
 均整を取り、均衡を保ち、お互いに魔力を共有しあう。
 魔力の天秤にして蛇環。
 それがマクスウェル・メイガスの正体だった。

「共有、なるほど。あっち側の魔力がなくなりそうなら、こちらの魔力を与えればいいってことか。それなら無限に回復しているようにも見える。」
「というよりあの太陽みたいなのも魔力炉なら、事実上魔力は無限ってことね。」

 この場合、魔力供給のためのパスをどうにか切断すればよさそうだが、残念なことにそのような礼装や準備はない。
 無理やり切断する事もできそうだが、そんなのメルトダウン寸前の原子炉の機構を強引に取り外すような行為に近い。
 何かの不具合で爆発なんかされたらそれこそおしまいだ。

「どう倒せってんだよ……!!」
 歯ぎしりしながら、燕青は嘲笑うように流転する魔力炉天球儀を睨んだ。

 無限の魔力炉心、ウロボロスの炉こと、マクスウェル・メイガス。
 果たしてCROSS HEROESとSPM、そしてカルネウスはこの魔獣に勝利できるか――?