最後の夏休み。大人になる前の僕ら
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2か月前
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「やまぐちー。はい、これ」
あげるー、と俺の背後から女子の声と冷たいペットボトルが触れた。
さんきゅー、と俺は礼の後それを受け取った。きんきんに冷えたスポーツドリンクだ。冷たさが喉を刺激する。
「調子どお?」
「まあー…ぼちぼちってところかなー」
「そっかー。でも大丈夫っ!山口ならあたしの分も絶対跳べるって」
俺と隣の女子ーーー沢木りまは学校選抜の棒高跳びのメンバーだ。記録の上では沢木の方が常に俺よりも高い。
しかし神ってやつは意地が悪いらしい。
先日彼女は不慮の事故で自動車と接触。
幸い大事には至らなかったが、選手の命でもある足を駄目にしていた。事故の後学校に登校する度に松葉杖をついて歩く彼女の姿が、当初俺は受け入れられなかった。
「…なんで俺じゃなかったのかなぁ」手がふやける程冷たいペットボトルを両手で握りしめたまま俺は唇を噛みしめる。「神は不公平だよ。俺ら高校最後の大会だぞ!それに沢木の方が記録高いじゃんか」
「でもあたし本番に弱いし…。ーーーそれにさ、確かに大会出られないのは辛いけど、」
そこまで言って沢木は一度言葉を止めた。
不安に思って覗き込んだ俺と目があってふんわりと柔らかく笑った。
「ねぇ、山口。
来週の日曜暇ある?花火行きたい」
あたしこんなんだけどさ、と沢木は照れくさそうに下を向いた。
首元で切り揃えられた艷やかな黒髪。伏せられた長い睫毛の下には少し潤んだ栗色の瞳。日に焼けた褐色の肌をした健康的で発育の良い四肢。
俺は突然の誘いに、彼女の頭から足先までしっかり凝視したまま固まっていた。
喉が渇く。
ーーー行く、絶対っ!
俺は条件反射で気がついた時には返事を返していた。