友達が宝くじで10億当てたので、高校3年間で一緒に使い切りたいと思います。

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1人目

 私と聡美(さとみ)は、放課後にファミレスで勉強会と称してダラダラしていた。テスト二週間前だから遊ぶのは気が引けるけど、勉強へのやる気が出るわけでも無い。だからこうして、聡美とファミレスで駄弁るだけなのだ。高校一年生なんてそんなもんだろう。
 喋ってた話題が終わると、聡美が神妙な顔をして話始めた。
「あのさ」
「何?」
「美沙(みさ)だけに言いたい秘密なんだけどさ」
 私は目をしばたたいた。
「急だねぇ。二人だけの秘密?」
「そう、誰にも行ったらダメだよ」
「誰にも?」
「誰にも」
「好きな人でも出来た?」
「そんなレベルじゃないから」
「じゃあどんなレベルの秘密よ」
 私がそう笑い飛ばすと、聡美がふぅっと息を吐いた。
 そんな流れで聡美が言った。
「宝くじで十億当たった」
 時が止まった感覚がした。
「……マジ?」
「マジ」
「十億? 百円とかじゃなくて?」
「どうやってそれを十億と見間違えるのよ」
「聡美だったらあり得るかなって」
「美沙には言われたくなかった」
「どういう意味よ」
 だって聡美、よく勘違いするもん。という言葉は飲み込んだ。その代わりに聡美に訊いた。
「本当に十億円当たったの? ちゃんと受け取ったの?」
「受け取ったよ。ほら、これ私の銀行口座。十億円入ってるでしょ」
 聡美が取り出した通帳には、確かにゼロが沢山並んだ額が記されていた。数えてみると、ちゃんと十億ある。
 その前にあるバイトの振り込み額が、とても少なく見えるレベルだ。
「……ヤバいね」
「ヤバいでしょ?」
「この事さ、他に知っている人いる?」
「いないよ。親にも兄貴にも言ってない。これ自分の口座だから、絶対バレてないよ」
「じゃあマジで私達しか知らないんだ。こんな大金、見た事もないよ」
「私もだよ。今日だって節約のためにファミレス選んだんだから」
「いやいや、聡美は節約しなくて良いじゃん。十億円もあるんだから、高級レストランでもいけるじゃん」
 そう言うと、聡美は「……確かに」と呟いた。
 私たちは同時に噴き出し、ケラケラ笑い出した。
「まだ貧乏性抜けてないじゃん」
「仕方ないでしょ~、まだもらったばっかなんだから」
 私は笑い涙を拭う。
「それで、どうするの? 十億もあったらもうずっと遊んで暮らせるんじゃない?」
「いやいや、それよりもデッカい事したいんだよね」
「デッカい事?」
 聡美はフフンと笑った。

「私ね、この三年間で十億を使い切りたいんだ」

「……へ?」
 私は間抜けな声を出していた。

2人目

「あのね、美沙。こんなものあぶく銭よ、あぶく銭。人生設計に組み込むような使い方したら人間がダメになる」
「でもそのあぶく銭のために宝くじ買ったんでしょ!」
「そう、そこがポイント。宝くじ買ったときはさ、いくら当たったとしても、パーっと使っちゃおうと思ってたんだ。まさにあぶく銭」
聡美は「パーッと」と言いながら両手を広げる。そして「こんな金額になるとは思ってなかったけどね」と付け足した。
私は関心するやらあきれるやらで、ハーっと息を吐きながら、テーブルに突っ伏した。
「で?実際何に使うつもり?」
「それなー……遊びに使うのももちろんだけど、十億って、ゲーセンで遊んで遊びきれる金額じゃないじゃん?」
「ないね」
「そこで美沙、わが親友よ!なんか案出してよ、案。今ならなんだってできますぜ親分?」
「何にも考えてないのー!?」
あんなに自信満々に三年で使い切る宣言したのに!?
「ないのー!」
私たちは笑いながらソファにグデっと体を預けて、めいめいに使い道を考える。
「夏休みとかさ、旅行とか行きたいよね、それも海外とか」と聡美
「どう考えてもその金はどこから来たのかって疑われるじゃん」
「何言ってんの。十億を極秘裏に浪費しきれるわけないじゃん」
私はそれもそうか、と納得する。
「じゃあ例えばアメリカに行くとするじゃん。ウチら英語できないから通訳とか雇うじゃん?三ツ星ホテルも泊まって、ドレスコードが必要なくらい凄いレストランで三食食べたとして、それでどんくらいするんだろ?」
「一億はしないでしょ。いって数百万、千いくかな?」
「無理だってー!十億を三年って相当厳しくない?それこそ事業起こすとかしないと」
「なんか実利的なのってパーッと感無いからヤなんだよねー」

3人目

「でさ、ドイツにこんな話があるんだ」
聡美はドアノブのような、その硬く鍛え抜かれた拳を私に見せつけた。
「ある農夫が金塊を見つけた。正直者な彼は家族や友人に、平等に分け与えることにしたの」
店内に流れるBGMは、森の静けさを感じさせる爽やかな物だ。しかし私の心拍が8ビートを刻々、刻み続けているのだ。
「で、結局殺し合いになった。家族と友人、そのまた家族。最終的には関係者全員が死んじまったの」
「なに、誰にも言うなってこと!」
感情に任せて私は席を立つ、ここで初めて気づいたが、どうも店内の様子が変だ。
平日の昼間からファミレスにいるような奴はクズだ。だがクズにも種類はある、学生、労働者、無職。
つい10分前とは比較にならない静けさは、異常へのモールス信号なのだ。
「落ち着きなよ、周りのやつは全員素人。二人で組めば余裕っしょ」
かつて聡美と名乗った女は静かに、グラスの中を飲み干し、私の顔を覗き込んだ。
「分け前は8億、これを呑まなきゃ、あんたは棺桶送りになる」
「8億と。確認するけど、連中は仲間?」
「いいや、全く知らん」
まず箸で聡美の喉仏を刺す、懐の武器を拾いあげ応戦か。このまま盾にするのもよし、私の脳内伝達物質がようやく熱を帯び始める。
「いっとくけど、外にもいる。9mmでも死ぬほど痛いよねー」
「なるほど、よし組みましょう。ここを出られたら分け前あげる!」
こいつは殺す、花は最期に刈り取るものだ。
〜とある酩酊した警察官の証言〜
この街で殺し合いは珍しくない、特に金が関わればなおさらな!でもよ、マフィアの抗争は、意外に現場が綺麗だったりするんだよ。
何故かって、そりゃ素人同士だからさ。でもなたまにあるんだよ、極上の狩りが行われた現場がな!!
ありゃ普通のファミレスだった。4人掛けのテーブル席が30組ほどで、特段特筆すべき箇所もない、いわゆる普通のファミレスさ。
氏名もわからん男女の死体が8体、損壊が激しくて個人が特定できねぇんだ。
しかも床には臓物と薬莢が転がって、スキップも出来ねぇはずなのによ、足跡がねぇんだよ。
こいつらぶち殺した奴は、テーブルや椅子の上をよ。中国雑技団がやる橋渡しのように、地面に触れることなくやっちまいやがった。
さらに相手は銃を持ってる、並大抵のスピードじゃ撃ち抜かれちまうはずだろ?きっとやった奴ぁ本物だ、俺なんかじゃ消されちまうバケモンさ。