灰を海に沈めて生きる
私に力があったなら、友だちになったのが私じゃなければ彼女は死ななかったのだろうか。
今となってはもう遅い、そんな後悔が駆け巡る。
今日も生きる。生きる希望がない夜を。
あなたが教えてくれた、あの夜を知るために、
「いつ掘り出すって?」
「俺たちがめちゃめちゃ売れてから!FIRE WORKS 最初期の音源だって言って、めっちゃレアアイテムになってるから!」
あの夜の他愛ない会話。
クッキー缶の中には、今思えば子供のお遊びのような”オリジナル・ソング”でいっぱいのテープが入っていた。
彼女の声も、ギターの響きも、思い出も、全部閉じ込めて、未だそこにある。
「でも、今掘り出すのは違うな。」
一人残された私がまだ何物にもなっていないのに、約束を違えてそれを掘り出すのは、何か違うような気がするのだ。
しかし私の悲しみにとっては、彼女を偲ぶささやかな時間、喪失を忘れ思い出に浸る時間が必要だった。
「約束やぶること、許してくれ」
掘り出したクッキー缶の中から、目についた古いテープを取り出す。プレイヤーにテープをセットして、イヤホンを耳にはめた。キラキラした音が体を走り回った。目を閉じればすぐ側に、彼女がいた。
「その声とこの耳だけ たった今世界に二人だけ まぶたの向こう側なんか 置いてけぼりにして」
私は歌声の中に、君の感情を、君の息吹きを、君のまなざしをむなしく探し求めた……。
どのくらいの時間が経っただろうか。彼女の美しいハミングとともに最後の曲が終わった。脳裏に浮かんでいた彼女の姿がだんだんと霞んでいく。テープを聞いている間だけ、瞼の裏には確かに彼女がいて、柔らかな微笑みを浮かべたまま愛の歌を紡いでいる。テープを巻き直せばまた彼女に会えるのだろう。でも思い出だって擦り切れていく。聞けば聞くほど、輪郭は朧げになる。鼻筋や瞳の色や唇のかたちを忘れていく。