夢か現実か
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。
枕元で目覚ましのアラーム音が鳴り、目が覚めた。
「もう7時か。」俺は横になったまま最小限の動きでそれを止める。
眠い。昨日も夜遅くまで起きていたということもあり、まだ寝足りない感じがする。いや、だめだ。今日はちゃんと起きるんだ!
そう自分に言い聞かせて布団から出ようとするが、結局睡魔には勝てず「やっぱ…あと5分だけ…」そう言って再び眠りについた。
高校卒業後の春休み、俺は入学する大学の近くのアパートで一人暮らしを始めた。最近は受験の時に見られなかったアニメを毎晩夜中まで一気見している。そのせいで二度寝が習慣になりつつある。
「ほわぁ〜〜」あれから少しして、俺は大きな欠伸をして目を覚ました。その目に映っていたのは部屋の天井ではなく、綺麗な青空だった。
「………………ッ!?」
驚き、混乱して上半身をガバッと起こした俺は、視界に広がる、見渡す限りの草っぱらにさらに混乱させられる。混乱の極致にあっても日常の習慣は抜けないもので、枕の横に置いてあるはずのスマホを左手が探すが、左手に帰ってくるのは湿った土と草の感触だけだ。自分の寝ていた”ベッド”を見れば、折れた草の跡しかない。あの買ったばかりの折り畳みベッドは何処にも見当たらない。さっきまで感じていた布団の感触は嘘のように消え去って、身ひとつになってしまった。
「夢、夢か。夢だな。」
つまり、夢だ。
俺は立ち上がって現状を確認する。ぽかぽかと暖かい陽気の元、360度木一本すらない見渡す限りの草原、どこまでも続くような遮るもののない青空に、綿みたいな雲がぽっかりと浮かんでいる。昼寝をすればさぞ気持ちが良いだろう。どこかから拉致されて来たんじゃないかという不安さえなければぐっすりと寝られるだろう。
そして俺はと言えばスマホも何も持っておらず、凡そ最も文明的なものと言えば、素肌の上に着せられた、病院を思い起こさせる薄青い貫頭衣一枚きりだった。
「……いや、待て待て待て」
俺は頭を抱えながら、ぐるぐるとその場を歩き回る。これは夢だ。そう思いたい。だけど、草の感触、風の匂い、太陽の暖かさ、どれを取っても妙にリアルすぎる。
――これは夢じゃないのか?
ふと、足元の草を一枚つまんで引きちぎり、指で揉んでみる。青臭い匂いが広がる。葉の繊維の感触も、しっとりとした湿り気も、どう考えても本物の草だ。
俺は自分の腕をつねった。……痛い。
「……はぁぁ……どういうことだよ」
どう考えても、これは現実っぽい。だとしたら、俺はどうやってこんな場所に来たんだ? さっきまでアパートのベッドで寝ていたはずなのに、一体何が起こった? 誰かに連れてこられたのか? でも、そんな記憶はまるでない。
「落ち着け……まずは状況整理だ」
まず、ここはどこなのか。それすら分からない。地平線まで続く草原、見渡す限り建物も道もない。まるでRPGのオープニングみたいな風景。……まさか、本当に異世界転生とか? いや、そんなわけ――
「……ん?」
遠く、風に乗ってかすかに何かの音が聞こえた。耳をすませば、それは小さく、かすれたような悲鳴にも聞こえる。
人がいるのか? それとも動物か?
俺は一瞬迷った。下手に動けば危険かもしれない。でも、何もしなければここで一人ぼっちのままだ。
「……行くしかないか」
腹をくくり、俺は音のする方向へと駆け出した。
青々とした草が
裸の足裏に歩く度にチクチクと刺さる。
伝わる肉体の感覚から、
強化等の恩恵は貰ってはいないんだな…。
と。
内心落ち込みながら感じていた。
掠れた叫び声が聞こえた方角に向かっていたが、
草むらから身を晒す危機感を感じ、
気休め程度の草原の高さに身体は自然と屈む。
混乱混じりの男に微弱な安心感を得らせる精一杯の行動だった。
歩いていれば
動くなにか。草原の中で見つける。
「…なるほど。あれか。」
霞むほどの距離でも通りで悲鳴が耳に届くわけだ。
正体が判明した所で安堵に下ろしていく。
それは多少色濃くほぐれた地面に埋まり嫌に蠢いていた。
ある種覚悟を決めて一気に引き抜いた。
「はぁ……あぁ…。…あぁぁぁ…。」
「お前…マンドラゴラ…か?……。声かっすかすじゃね?」
「み…水を…。……声が…喉枯れちゃって…。」
聞けば絶命する悲鳴を持つ人面植物の声色は掠れてしゃがれていた。
緊張の糸が一瞬ほぐれ、どっと疲れが身体を1層重たく感じさせる。
「…そんなん俺もねーよ。むしろ欲しいわ。」
力無くくたばる人面草は、ゲームの世界では高級品で取引されていた。
金勘定を浮かべながら怠い身体に鞭を打つ。
肩に担ぎ上げて
ダラりとよし掛かるそいつの弱音を聞き捨てながら宛もなく足を進めていき。
「さーて。…水場と行商人どっちが先に見つかるかねー。…」
肩上のそれは、言葉に反応したようにビクリと
身体を震わせるが
逃れる力はなく、諦めたように身体をずっしりと預けていた。
「あ、あの・・・僕・・・売るん・・・ですか・・・」
「ああ、行商人が先に見つかった場合はな。」
「そんな・・・」
俺はもうそんなこと言わないで欲しいと思いながらも歩いていく。
まだこの世界が夢か現実かはわからないが、多分現実であろう。
この世界に水はあるのだろうか。
「なあ、マンドラゴラさん、この世界に水って見たことあるのか?」
「ああ・・・一回・・・だけ・・・」
「一回!?あんた何年ここにいる」
「50・・・年・・・いる・・・お前は・・・」
「俺は今ここに来たばかりだ。しかし50年いて一回しか水を見たことがないとなると・・・」
「僕は・・・全然・・・動け・・・ないから・・・」
「そういうことか。だから一回しか水を見たことがないのか」
「そう・・・」
「ん?あれは?水だ。おい、マンドラゴラ、水だぞ」
「水・・・早く・・・」
「はぁ、しょうがない奴め」
俺はマンドラゴラのために走った。
水は近くにあるのかと思ったが案外遠くだった。
水べにつくと、急いでマンドラゴラを水辺に降ろした。
「ああ、ありがと・・・久しぶりの水だ・・・」
「早く飲めよ」
「そうだな・・・ごくごく・・・美味しい!こんなに水は美味しかったのか!」
「そんな元気になります?」
「ああ、もう元気いっぱいだ!何かお礼させてくれないか!」
俺は、いつもゲームとかであるくだりだ、と思った。
「そうですね。じゃあ、あら一緒についてきてくれませんか。」