西宮トパーズ
「行ってきます」と元気な声を出すと食パンを
咥えた少年は急いで曲がり角まで駆けた。
車がドリフトをするようにコンクリートを足で擦らしながら曲がる。
バスがいつも通りの場所についてプシュっと
停車音を鳴らしてドアが開くと、その中に少年が飛び込んでいった。
授業が終わり昼休みでみんながそれぞれ自分の話題を仲間たちに報告していた。
少年は4人のグループ中でいつも通りに塩レモンソーダとハムカツサンドを食べながらスマホをいじっていると、普段は気にしないネットニュースが目に留まった。 「謎の騎士、街中を駆け回り戦車1台破壊」 という文字とともに黒い馬に乗った見たことのない鎧を付けた人間が戦車に槍のような物を突き刺して火を噴かせている写真だ。
こんなものアニメや漫画でしか見た事ない。
しかも戦車を突き刺しているのを見るに、きっとこの槍はコスプレのグッズ...などではないのだろう。
ともなればあとはCGの可能性か...。
だがCGの写真をネットニュースがこんな風に取り上げるだろうか?
少年は写真から顔を上げると、弁当に入った焼きそばをたった今食べている友人の肩をちょいちょいと突いた。
「ん?どした?」
「あのさ、これ...どう思う?」
そしてそのネットニュースの表示された画面をその友人に見せれば、友人はよく目を凝らし怪訝そうな顔でその画面を注視する。しかし口の中でもぐもぐと咀嚼していた焼きそばをごくんと飲み込んでは、ひらひらと手を振って弁当の方へ視線を戻してしまった。
「ばっか。そんなのCGに決まってんじゃん。ほら...あれだって!フェイクニュース...?ってやつ」
「フェイクニュース、か。でも、俺はこの騎士が本当にいるならどんなにいいかと思うよ。こんな……騎士ばかり注目されて、戦車が話題にもならないような社会はおかしいよ……。こんなに戦車が街中にあふれているのに、誰もそれがどんなに異常なことか気づいていない。こんな世界……」
30年前。激化する暴力団・暴走族との抗争の中で、警察はすでに有効な打撃力を失いつつあった。時の総理は、際限なく肥大化しつつある治安維持費を”外注”するかのように、一般市民に武器兵器の使用を解禁した。最初は拳銃程度だったのが、すでに大規模火力化した犯罪者に対抗すべく、市民たちはさらなる力を求めた。その圧力によって戦車が解禁されるまで時間はかからなかったのだ。現在、一定以上の階級に属する市民はマイタンクで通勤通学するのが一般的で、それらを襲おうとする犯罪者たちもまた、戦車で武装しているのだ。
そんな狂気の焚火にくべられるのは、持たざる弱者たちだ。どこの誰が放った砲弾か、少年の家族は一瞬で火の海に消えてしまった。戦車を憎悪する彼にとって、この騎士は何か、新しい力の象徴のように思えるのだった。