YAH YAH YAH

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2000文字以下 5人リレー
1か月前 60回閲覧
  • 現代ドラマ
  • 自由に続きを書いて
  • 暴力描写有り
1人目

タダノリは、少し浮足立った心持で、指定の居酒屋の暖簾をくぐった。ノリコが、話をしたいと言ってきていたのだ。彼らが中学生の時に同窓生になってから、学生時代の多くの時間を同じ友人グループで過ごした思い出がよみがえる。
店員に案内された個室では、既にノリコが空のジョッキをひとつふたつ脇に寄せて、新たなジョッキに口を付けていた。
「おいおい、勝手に始めちゃってるよ。皆は?」
「悪いね。今日は飲みたい気分だったからさ」
そう言ってノリコはジョッキを傾け、「座んなよ」と言った。
タダノリ掘りごたつに脚を突っ込むと、串を適当に見繕って注文して、ノリコの言葉を待った。
「なんかさ、最近いろいろあって、こう、溜まったものを吐き出したくなったのよ。そしたらさ、アンタ、この辺に住んでるって言ってたの思い出してさ。」
「そうかい?俺との友情をまだ胸の内に感じていてくれていたなんて、嬉しいぜ」
ノリコは吹き出し、「アンタのそういう、思ったことは何でも口に出すところは美徳だと思ってる。でも、これからする話はあんまり人に知られたくない話だからさ、秘密で頼むよ」
「任せろ。俺は地元じゃ『秘密を秘密をマモルくん』の二ツ名で通ってんだ」
「なんでそんなご飯がご飯がススム君みたいな二ツ名背負ってんの」
ノリコが口を隠して笑ったところで、店員がタダノリの生、ノリコの追加ジョッキと串を持ってきた。二人はジョッキをかち合わせた後、串に手を伸ばす。
「アンタと出会ったのって中学の頃だったよね。これは小学生の頃の話なんだけどさ…」
ノリコは小学生の頃、他の同世代の女の子たちと比べて男子っぽい趣味の子供で、プリンセスよりも戦隊ヒーローに憧れるタイプだったのだと言う。
「それで、何がきっかけだったかな。……そう、冬休みの宿題。絵日記。アレに、サンタさんから変身ベルトを貰ったって書いたんだけどさ。嬉しかったって。」
ノリコはまたジョッキをぐいと傾けて飲み干すと個室の入り口のほうへ視線を向けながら、記憶の糸をたどり始める。
「そしたらさ、担任が……やたら気合の入った人権に目覚めた系の野郎でサ。職員室に呼び出して、私がトランスだって言い始めてんのよ。私は、私の好きなものが好きなだけの女の子なのにさ。トランスの意味も分からない私が混乱しているうちに、そいつ、『大丈夫だよ。何も心配いらないからね』っつってさ。私もワケわかんないながらも、先生が大丈夫っつってるからよく分からないけど大丈夫なんだろうって帰ったわけ」
「そしたら次の日からさ、なんか違うわけよ。女の子たちは私を見てヒソヒソいうし、男子は……なんか、わかるでしょ。あの年頃の男子なんて、人に貼ることのできるレッテルを手にしたらなんだって楽しむおもちゃにする、そういう生き物だからさ。「トランス」「トランス」その日から私のあだ名。あの担任の野郎、それで万事うまくいくと思っていたのが腹が立つ。今あん顔見かけたら、誰が止めようが思いっきりぶん殴ってやるのに」
「いいじゃん」
「は?」
「殴りに行こうぜ」
「え?は?ちょ、アンタ、そういう冗談言うタイプだったっけ」