しんの冒険
新は街中を歩いていた。いきなり駆け出した。こけた。そして死んでしまった。しかし、奇跡的に命を取り戻した。まるでイエスのごとく。それを見たある女性が彼を神だと思いストーキングし始めた。新は走り始めた。どこまでも走り抜けた。だがその女は、最後の最後まで追いかけてきた。新の目の前にそびえたつのは巨大な崖。絶体絶命!真の姿を現した。それはロッククライマーだった。真は山をどこまでもどこまでも登って行った。気が付くと夜が明けていた。いやそこはむしろ夜という概念が存在しない世界だった。つまり一日中日が暮れない世界だった。退屈になった新はシコり始めた。真はうかつだった、彼女の存在を忘れるまでに。その姿を見た女性は走り出した。新は女性の髪の毛を捕まえた。と思ったらつかんだものはウィッグで、そいつはよく見慣れた禿げ頭だった。新はいったこれは幻だと。
年の瀬。新年を迎えるべく自室の大掃除をしていると、特急呪物とも言える代物を掘り出してしまった。
若い。なんという若さだろう。このスピードで書き殴った感じ。起承転結もへったくれもない物語。全てが青青しく、瑞々しい。
「ははっ……ひでーなこれ」
B罫のノートをパラパラと捲っていく。いくつもの物語が、このノートには綴られていた。
急に場面は切り替わるわ、突然知らない人が出てくるわで我ながら意味がわからない。
「しかし、なんだろうな……」
今の私に足りないものを見た気がする。
思えば、いつからか私にとって「書くこと」は「仕事」になっていた。読者に、仲間に、編集者に。そんな外野を気にするばかりで、私は自分のために書くということができなくなっていた。
「……まさかこれに感謝するとはな」
私は散らかった部屋をそのままに、椅子へと腰掛ける。
さぁ、今なら書ける気がするぞ。あの頃のような、純粋な物語を。