お前はまだまだ修行が足りん

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1人目

「お前はまだまだ修行が足りん」
 師匠であるジイサンはそう吐き捨てた。
 俺は舌打ちし、ジイサンを睨む。
「なんでだよ。これまでジイサンの言う通りに修行してきただろ。それなのに認めねぇってのか」
「認めてないわけではないぞ。ただお前にあの儀式はまだ早いというだけじゃ」
 俺は納得出来なかった。
「早いってなんだよ。結局、まだ子供だから認めないだけなんじゃねぇのか?」
 ジイサンの眉がぴくっと動く。
 俺は畳みかけた。
「選ばれたアイツは俺と比べて全然修行してねぇし、ジイサンの話も真剣に聞いてなかっただろ! 俺の方がアイツよりずっと儀式にふさわしいはずだ! それなのに、俺より年上っていうだけでアイツにすんのか?」
 ジイサンは溜め息を吐き、口を開いた。

2人目

「やかましい、お前の感情は知らん」
便所コオロギは、便所に集る子虫を食うのだ。
「納得できない!貴様あのスカ野郎に、いくら貰ったんだ!」
「納得は大事だ、しかし理解して欲しい」
だったら俺は、便所の糞に集る小蝿か。
もう怒りのままに、足音を鳴らして、家を出るしかなかったんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜
俺が家を出た後、ジイさんは野党に襲われらしい。
人伝に聞いた訃報を、俺は信じなかった。
「あのドサンピン、家に向かいました。」
先ほど俺に話しかけた男は、目の色を変えながら誰かに連絡していた。
なるほど、あの家で何人か待ち伏せしているな。
正義を為せとジイさんは言っていたが、今がその時なんだ。儀式の後継者と今回の件は、どうもきな臭くて鼻が曲がりそうだ、便所の糞だな。
「今こそ正義を為す時だ」

3人目

俺は決意を胸に、ジイさんの家へと引き返した。途中、先ほどの男が言っていた「ドサンピン(田舎者)」という言葉が頭にこびりつく。俺の修行を認めず、訳の分からん奴を選んだジイさんも、俺も、所詮は彼らから見れば田舎者、邪魔な存在だったのか。

家に着くと、予感通り人気がない。しかし、庭の隅にある古びた納屋から、微かに、そして奇妙な呻き声のようなものが聞こえた。まるで石の下で何かが蠢いているような、重苦しい音だ。
「野盗に襲われただと? 妙な話だ」
俺は納屋の扉を蹴破った。中は埃まみれで、隅に巨大な岩が置かれていた。明らかに不自然だ。岩の表面には、複雑な模様が刻まれ、微かに冷たい光を放っている。その岩の真下から、さっきの呻き声が聞こえる。
恐る恐る懐中電灯を差し込むと、そこには全裸で、手足を複雑な縄のようなもので縛られ、さらにその縄が岩の底に繋がっているジイさんの姿があった。ジイさんは全身に朱色の文字が書かれ、口には札が貼られていた。
「ジ、ジイさん!生きてたのか!しかも、なんだその格好は」
ジイさんは俺の方を見た。
その目には驚きや安堵ではなく、深い諦めとわずかな後悔のような色があった。

4人目

この納屋の地下にこんな空間が広がっていたのに驚いていると、何やら外が騒がしくなってきた。俺は納屋の扉を蹴破った事を後悔した。
これでは隠れようがないじゃないか…。

5人目

外の喧騒が納屋に近づく中、俺は一瞬で思考を巡らせた。確かに隠れ場所はない。
しかし、この巨大な岩の下に地下空間があるのなら、そこに別の逃走経路がある可能性は高い。
それに縛られたジイさんをこのままにして逃げるわけにもいかない。とにかく降りてジイさんを縛る縄を外してやらねば。

6人目

「年寄りを全裸にするなんてな、悪戯でもされたか?」
「丁重にもてなされたわ、さしずめ尻穴天安門事件じゃ」
「…なるほど」
乱暴に縛られていた為か、ジイさんは亀みたいな速度で歩き始めた。
成り行きで助けてみたものの、扱いに困ってしまうな、いっそのこと元の場所に縛るか?
「うおっ、ワシの尻穴が反応した!反応!」
その場で飛び跳ねたジイさんは、太極拳の構えにも似た何かのポーズをした。
仲違いしたとはいえ、かつて師と仰いだ人物の痴態は見るに堪えない。
「やめろ老いぼれ!!あんたの尻穴に興味はな
い!そして尻穴は清潔にしろ、穢らわしい」
地下空間に反響した俺の声に、流石のジイさんもビビって黙った。
「で、何に反応したんだよ」
全裸の老いぼれの肉体を、まるで使い古した手ぬぐいだと感じた。
骨と皮ばかりで、艶もなく泥のように染み付いたシミ。
指で雑にくり抜いたみたいな眼窩、そこに据えられた瞳は、酷く濁って汚れている。
ジイさんは少し間を置いて、ぽつりと呟いた。
「ワシらは生贄じゃ、彼の方をお呼びする為の、生きた供物なんじゃ」
この瞬間、俺は生きてきて初めて、肝が冷えるという感覚を知った。