お前はまだまだ修行が足りん
「お前はまだまだ修行が足りん」
師匠であるジイサンはそう吐き捨てた。
俺は舌打ちし、ジイサンを睨む。
「なんでだよ。これまでジイサンの言う通りに修行してきただろ。それなのに認めねぇってのか」
「認めてないわけではないぞ。ただお前にあの儀式はまだ早いというだけじゃ」
俺は納得出来なかった。
「早いってなんだよ。結局、まだ子供だから認めないだけなんじゃねぇのか?」
ジイサンの眉がぴくっと動く。
俺は畳みかけた。
「選ばれたアイツは俺と比べて全然修行してねぇし、ジイサンの話も真剣に聞いてなかっただろ! 俺の方がアイツよりずっと儀式にふさわしいはずだ! それなのに、俺より年上っていうだけでアイツにすんのか?」
ジイサンは溜め息を吐き、口を開いた。
「やかましい、お前の感情は知らん」
便所コオロギは、便所に集る子虫を食うのだ。
「納得できない!貴様あのスカ野郎に、いくら貰ったんだ!」
「納得は大事だ、しかし理解して欲しい」
だったら俺は、便所の糞に集る小蝿か。
もう怒りのままに、足音を鳴らして、家を出るしかなかったんだ。
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俺が家を出た後、ジイさんは野党に襲われらしい。
人伝に聞いた訃報を、俺は信じなかった。
「あのドサンピン、家に向かいました。」
先ほど俺に話しかけた男は、目の色を変えながら誰かに連絡していた。
なるほど、あの家で何人か待ち伏せしているな。
正義を為せとジイさんは言っていたが、今がその時なんだ。儀式の後継者と今回の件は、どうもきな臭くて鼻が曲がりそうだ、便所の糞だな。
「今こそ正義を為す時だ」
俺は決意を胸に、ジイさんの家へと引き返した。途中、先ほどの男が言っていた「ドサンピン(田舎者)」という言葉が頭にこびりつく。俺の修行を認めず、訳の分からん奴を選んだジイさんも、俺も、所詮は彼らから見れば田舎者、邪魔な存在だったのか。
家に着くと、予感通り人気がない。しかし、庭の隅にある古びた納屋から、微かに、そして奇妙な呻き声のようなものが聞こえた。まるで石の下で何かが蠢いているような、重苦しい音だ。
「野盗に襲われただと? 妙な話だ」
俺は納屋の扉を蹴破った。中は埃まみれで、隅に巨大な岩が置かれていた。明らかに不自然だ。岩の表面には、複雑な模様が刻まれ、微かに冷たい光を放っている。その岩の真下から、さっきの呻き声が聞こえる。
恐る恐る懐中電灯を差し込むと、そこには全裸で、手足を複雑な縄のようなもので縛られ、さらにその縄が岩の底に繋がっているジイさんの姿があった。ジイさんは全身に朱色の文字が書かれ、口には札が貼られていた。
「ジ、ジイさん!生きてたのか!しかも、なんだその格好は」
ジイさんは俺の方を見た。
その目には驚きや安堵ではなく、深い諦めとわずかな後悔のような色があった。