儲け話

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1人目

ヘリを手に入れたので
砂漠に水を売りに行った。

2人目

これが俺の考えた、世紀の大儲け話だ。
ヘリコプターは俺がこの日のために仕込んだ、とっておきの秘密兵器。しかも、ただのヘリじゃない。機体の大部分を改造して、大量の水を運べるようにカスタムした。

だが、砂漠に到着して、俺は思わぬ現実に直面することになる。
砂漠の真ん中には、ポツンと小さな集落があった。日差しは容赦なく照りつけ、乾ききった大地に人々が暮らしている。だが、彼らは俺が想像していたような「喉が渇いて今にも死にそうな人々」ではなかった。

3人目

なんと彼らは、独自に品種改良したナマコのような生物「マグ」を飼育し、そこから水分を得ていたのだ。
ナマコというと少し語弊があるかもしれない。マグは硬い皮膚も持ち合わせていないし、まるでゴム風船のようにまん丸で、触るとぷにょぷにょしている。
ちょうどファンタジー世界のスライムの見た目に似ていて、お腹の部分に一つだけ突起がある。それを吸うと中の液体を飲むことが出来、体液はトロピカルな味がするらしい。
繁殖力はあまり無いらしく、人間同様に一年に一匹の子供を産むので、皆、自分のマグを大事にしていた。

4人目

俺は、水では集落の住人から儲けることはできないと判断し、別の集落を探そうと移動を開始するが、マグのことが気になり、それを何かと交換できないか、最悪、繁殖方法を増やすことを条件に、譲ってもらえないか、交渉しようと考えていた。

5人目

荒々しい顔の作りの砂漠の民が、俺の提案を笑い飛ばす。

「は!お兄ちゃん、自分のマグも持っていないのに、繁殖方法を増やす方法を教えるだって?コイツらは俺たち砂漠の民が何世代もかけてその飼育方法を洗練してきたものだ。そこらの犬猫とはわけが違うんだよ!」

「極限状態で僅かにしか子孫を残さない動物というのは得てして、栄養や水が豊富な環境に置くと爆発的に増える遺伝子が眠っていたりするものだ。俺に一つがい預けてくれれば、きっと何十匹にも殖やして返して見せよう!」

6人目

「うまいこと言って、つがいを渡した途端逃げる気だろ。その手には引っかからないぜ」
自信満々に言った言葉を、男は全く信じてくれない。砂漠の民はかなり疑り深い種族らしい。
ならばと思い俺は、ヘリに乗り込んだ。
ヘリを珍しそうに囲んでいた民たちは、俺が尻尾を撒いて帰って行くとでも思ったのか、一斉に笑い出した。
笑い声に合わせて、色とりどりのマグも嬉しそうに飛び跳ねる。
「くそっ、今に見てろ」
俺はヘリを上昇させてから、計器類の横の緑のボタンを押した。
途端にヘリの前方へ向けて、水しぶきが噴出する。

7人目

ヘリから勢いよく噴出した水は、地上にいた男たちめがけて降り注いだ。彼らは濡れた服を払いながら、怒った顔で俺を睨みつけている。
「ふざけるな!」
男の一人が叫んだ。

8人目

しかし次の瞬間、男の表情は驚きのそれに変わっていた。
キュウーとモグ達が鳴いたかと思うと、色とりどりの身体が水を含んでぷくぷくと膨れ出した。そしてちょうど元の倍の大きさに膨れ上がると、なんと二つに分裂したのだ。
「ウ、ウソだろ……」
男は信じられないという顔で膝をつき、自分のモグと分裂したモグを交互に見つめる。分裂しただけあって、瓜二つだ。
交配でしか増えないと思いこんでいた砂漠の民たちも、いきなり倍に増えたモグを見て、言葉を無くしてしまっていた。
「ハハッ、思った通りだ!」