贋人
「なあ、最近多くなったよな、機械人間」
昼休みの教室。圭介が肘をつきながら、ぼそりとつぶやいた。
窓の外ではドローンが芝を静かに刈っている。
「最近よくCM見るよな。死んだ体を送ると、新しい機械の体で“再生”してくれるって」
圭介は、机の上のパンフレットを指で弾く。
『ロボティクスキュアライフ――あなたの“永遠”と家族の“幸福”をサポートします』
「便利なんだろうな。しかも死なない体に生まれ変われるってことだろ?」
「でもさ、なんか怖くね?死んだあと、目が覚めたら自分の体が全部機械になってるんだぜ」
圭介は苦笑いを浮かべる。
そのとき、教室のドアが静かに開いた。
一瞬、昼休みのざわめきが止まる。
「あ、玲奈だ」
おれは思わず声を漏らす。
玲奈はしばらく学校を休んでいた幼馴染。
久しぶりの登校に、クラスの何人かが小声でざわついた。
彼女はおれの机の前まで歩いてきて、にっこりと笑った。
「久しぶり2人とも、元気だった?」
圭介が目を丸くする。
「玲奈、それ……まさか」
玲奈は自慢げに両手を広げて体をみせてくる。
「そう!最新型の義体だよ。感覚もちゃんとあるし、毎日“幸福度”を管理してくれるんだ」
彼女は指先でペンをつまみ、軽やかに回してみせる。
「ほら、力加減も自由自在。前よりも便利になったかも」
おれは玲奈の手にそっと触れる。
金属なのに、ほんのり人肌のような温もりがあった。
「すごいな……」
玲奈は得意げに笑う。
「うん、もう“死ぬ”ってことが怖くなくなったよ。だって、みんなと永遠になれるんだもん」
圭介は少しだけ複雑そうな顔で玲奈を見る。
「……死んだときのこととか、覚えてる?」
玲奈は一瞬だけ目を伏せて、
「うん……最後の瞬間は、ちょっと怖かった。でも、突然声が聞こえて、気づいたらこの体だった」
おれは玲奈の話を聞きながら、胸の奥に妙なざわめきを感じていた。
家に帰ると、リビングには父さんと母さん、妹の美咲がいた。
母が少し緊張した面持ちで口を開く。
「今日、ロボティクスキュアライフから連絡があったの。……私たち、申し込みをしたのよ。
」
父は静かにうなずき、
「これからの時代、“死”は終わりじゃない。
家族の形も、AIと一緒に守っていくんだ」
美咲は、少し不安そうにおれを見上げていた。
数週間後、街の景色は一変していた。 「ロボティクス・シェアリング」という新しいサービスが始まったのだ。
「お兄ちゃん、私の左手、どうかな?今日は玲奈さんとお揃いなの」
美咲が差し出した手は、確かに玲奈が学校で見せていたものと全く同じ、繊細な装飾が施された銀色の義手だった。
「お揃い…って、自分の腕はどうしたんだ?」
「保管所に預けてあるわ。でも、向こうの方が効率がいいって。今はみんなで『一番使いやすいパーツ』の情報をやりとりして一番いいものを共有する時代なんですって」
父さんと母さんも、日に日に似たような顔立ちになっていった。
「個人の特徴は、メンテナンスのコストを上げるだけだからね」
父さんは、表情筋が動かない顔で淡々と言った。